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特許7385057メタン富化ガスを生成するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】メタン富化ガスを生成するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C12P 5/02 20060101AFI20231114BHJP
   C12M 1/107 20060101ALI20231114BHJP
   C10L 3/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12P5/02
C12M1/107
C10L3/00 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022562460
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2021060641
(87)【国際公開番号】W WO2022053184
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】20195201.7
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522399851
【氏名又は名称】ヒタチ ゾーセン イノヴァ シュマック ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】Hitachi Zosen Inova Schmack GmbH
【住所又は居所原語表記】Bayernwerk 8, 92421 Schwandorf, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ショルツ
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2982740(EP,A1)
【文献】国際公開第2014/094734(WO,A2)
【文献】国際公開第2020/152017(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/000731(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12M 1/00- 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン富化ガスの生成プロセスであって、以下のステップ:
a)バイオリアクターであって、
- ガスを供給するための少なくとも1つの装置と、
- 前記バイオリアクター内で生成されたメタン富化ガスを取り出すための少なくとも1つの出口と
を備えるバイオリアクターを用意するステップと、
b)前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合を決定するための装置を用意するステップと、
c)前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sを指定するステップと、
d)二酸化炭素含有ガスを前記バイオリアクターに供給するステップと、
e)水素含有ガスを前記バイオリアクターに供給するステップと、
f)前記バイオリアクター内でメタン富化ガスを形成するステップと、
g)前記バイオリアクター内で形成されたメタン富化ガスを前記バイオリアクターから取り出すステップと、
h)前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の実際値を決定するステップと、
i)ステップc)で指定された前記目標値Sとステップh)で決定された前記実際値とを比較するステップと、
j)ステップh)で決定された前記実際値がステップc)で指定された前記目標値Sに対応するように、ステップd)で供給された二酸化炭素含有ガスの量を調整し、かつ/またはステップe)で供給された水素含有ガスの量を調整するステップと
を含む、プロセスにおいて、
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0体積%<S≦5体積%の条件を満たす
ことを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0体積%<S≦4体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0体積%<S≦2体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項4】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0体積%<S≦1.5体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項5】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.1体積%≦S≦5体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項6】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.1体積%≦S≦4体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項7】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.1体積%≦S≦2体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項8】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.1体積%≦S≦1.5体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項9】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.5体積%≦S≦5体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項10】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.5体積%≦S≦4体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項11】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.5体積%≦S≦2体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項12】
前記バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された前記目標値Sが0.5体積%≦S≦1.5体積%の条件を満たすことを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項13】
ガスを供給するための少なくとも2つの装置を用意することを特徴とし、ここで、二酸化炭素含有ガスを供給するための少なくとも1つの装置と、水素含有ガスを供給するための少なくとも1つの装置とを用意する、請求項1から12までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項14】
前記二酸化炭素含有ガスを供給するための装置および/または前記水素含有ガスを供給するための装置が流量調整装置であることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項15】
ステップj)における前記調整を、もっぱら、ステップi)において行われた前記比較に基づいて行うことを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載のプロセス。
【請求項16】
ステップi)の前記比較とステップj)の前記調整とを、プロセッサユニットによって行うことを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン富化ガスの生成プロセスに関するものである。
【0002】
先行技術
エネルギ政策の転換に伴い、再生可能資源が占めるエネルギ生産の割合はますます高まっている。風力または太陽光などの再生可能エネルギは、時間的または量的な観点のいずれかから均一に利用可能ではなく、消費者の需要も時間とともに変動するため、再生可能エネルギの貯蔵可能性がますます重要になってきている。この点で、メタンは、熱生産、燃料または発電の分野で多くの用途が見込まれる化学エネルギキャリアとして基本的に重要である。
【0003】
特に、「パワーツーガス(power to gas)」の基本方式に従って余剰電力をガス状の化学エネルギキャリアに変換するエネルギ変換システムにおいては、水素とは対照的に、メタンは、既存の天然ガス充填所ネットワークと同様に天然ガス網も利用した既存のインフラで容易に貯蔵されるエネルギ形態となるため、エネルギキャリアとして適していると思われる。これに関して、メタンは、二酸化炭素と水素とを出発物質として生成される。原則として、これらのシステムでは、水素は、余剰電力または他の安価な電力を使用する電解槽の助けをかりて、水の電気分解で供給される。メタン生成に必要な二酸化炭素は、産業廃棄物または燃焼ガスなどさまざまな発生源に由来し得るが、好ましくは、バイオマスなどの再生可能資源からの気候にやさしいCO、例えば、バイオガスプラントから発生するもの、または下水処理プラントの消化ガスとしても使用される。
【0004】
化学触媒を用いたメタネーション、例えば、サバティエプロセスを用いたものと比較して、バイオメタンがメタン生成微生物によって形成される生物学的メタネーションのプロセスは、高価で繊細な触媒を用いずに行われ、温度および圧力などの反応条件ならびに出発ガスであるCOおよびHの純度に関する要求を少なくする。
【0005】
一例として、国際公開第2008/094282号には、培養基中での微生物培養を用いて水素と二酸化炭素とからメタンを生成するための生物学的システムが記載されている。これに関して、二酸化炭素は工業プロセスに由来し、一方で、水素は、特に、安価な余剰電力を用いた電気分解で得られる。
【0006】
再生可能および非再生可能エネルギ源からの電力を水素生成に使用し、電気エネルギをメタンの形態で貯蔵するシステムが国際公開第2012/110257号から知られている。水素は、二酸化炭素とともに、培養基中のメタン生成微生物の培養物を含有する反応器に導入され、次いでこの反応器がメタンを生成する。これに関して、細胞生長段階の間の反応容器内のガス状水素と二酸化炭素との分圧の比率は、4:1以下の値に設定され、メタン形成段階においては5:1以上の値に設定される。
【0007】
独国特許出願公開第102012112889号明細書には、水から水素と酸素とを電気化学的に生成するための電解ユニットと、嫌気性バイオリアクターとを備えたエネルギ変換システムが開示されている。このエネルギ変換システムは、バイオリアクターへの水素の供給とバイオリアクターからのメタン含有生成ガスの取り出しとの両方を制御および調節するための制御および調節ユニットを備える。制御および調節ユニットは、メタン含有バイオガスのCO含有量を主要な制御変数として使用し、この変数を値0に調節する必要がある。メタン含有バイオガス中に二酸化炭素が存在する限り、嫌気性バイオリアクターへの水素の流入に正のフィードバックがかかる。バイオガス中にCOがもはや存在しなくなると、嫌気性バイオリアクターへの水素供給が制限され、電解槽で生成された水素が一時的に貯蔵される。
【0008】
欧州特許出願公開第2982740号明細書には、バイオリアクターにおいて二酸化炭素含有バイオガスと水素とからメタンを生成するためのプロセスが開示されている。制御および調節するための装置は、メタネーション培地の流入および流出ならびにバイオリアクターへのガスの流入および流出の両方を制御および調節し、特に、添加された水素と添加されたCO含有ガスとのガス流の比率も制御および調節する。原則として、HはCOに対して4:1の比率で使用されるが、バイオリアクターからの出発ガスの組成に応じて微調整が行われる。バイオメタン含有量をできるだけ高くするためには、バイオリアクターからの生成ガス中に測定可能な水素もCOも多く含まれないようにする必要がある。微調整は適切に行われ、この間、添加されるH対COの比率は、4:1の比率から多少上方または下方にずれてもよい。
【0009】
先行技術に記載のプロセスの大部分において、生物学的メタネーションは4:1の出発ガス(educt gases)であるH対COの比率で行われ、そうすることでメタネーション反応の反応式:
4H+CO→CH+2H
に従って過剰な出発ガスが発生しなくなる。
【0010】
メタン富化ガス生成のためのあらゆる技術的プロセスの目的は、生成ガス中のメタン含有量をできるだけ高くし、未反応の出発ガスである水素と二酸化炭素との割合を最小限に抑えることである。特に、メタン富化ガスを公共のガス配給システムに供給する場合、原則として、メタンと比較して数%の小さな割合でしか存在し得ないガス成分、例えば水素および二酸化炭素について最大の供給制限が指定されている(例えば、ドイツでは、これは、DVGW[German Technical and Scientific Association for Gas and Water]ガイドライン、技術規則G260およびG262で指定されている)。これに関して、水素の供給制限は、二酸化炭素の供給制限よりも低い。
【0011】
水素が原則として電気分解で生成される一方で、二酸化炭素は消化ガスまたは粗バイオガスなどの他の供給源から残留ガスとして得られることが多いため、水素のほうがより高価な出発ガスである。
【0012】
したがって、メタン富化ガスの公共ガス配給システムへの供給能力に関しても、プロセスの経済的最適化に関しても、生成ガスの水素含有量が重要な値となっている。これらの理由から、生成ガス組成に基づいてメタネーションプロセスを制御する場合、最重要視されるのは生成ガスの水素含有量であり、その二酸化炭素含有量ではない。
【0013】
上記の戦略にもかかわらず、水素およびCOを使用することによって、より効率的かつより経済的に良好な生成ガス品質でメタン含有ガスを生成することができる手段である生物学的メタネーションのためのプロセスが依然として求められている。
【0014】
発明の開示
本発明の根底にある課題は、COおよび水素を安定したプロセスで使用して、良好な生成ガス品質を有するメタン含有ガスを生成するのに適した、効率的かつ経済的な生物学的メタネーションのためのプロセスを提供することである。
【0015】
本発明によれば、この課題は、請求項1記載のメタン富化ガスの生成プロセスによって解決される。本発明のさらに有利な詳細、態様および実施形態は、従属請求項、明細書および図に定義されている。
【0016】
本発明は、メタン富化ガスの生成プロセスであって、以下のステップ:
a)バイオリアクターであって、
- ガスを供給するための少なくとも1つの装置と、
- バイオリアクター内で生成されたメタン富化ガスを取り出すための少なくとも1つの出口と
を備えるバイオリアクターを用意するステップと、
b)バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合を決定するための装置を用意するステップと、
c)バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sを指定するステップと、
d)二酸化炭素含有ガスをバイオリアクターに供給するステップと、
e)水素含有ガスをバイオリアクターに供給するステップと、
f)バイオリアクター内でメタン富化ガスを形成するステップと、
g)バイオリアクター内で形成されたメタン富化ガスをバイオリアクターから取り出すステップと、
h)バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の実際値を決定するステップと、
i)ステップc)で指定された目標値Sとステップh)で決定された実際値とを比較するステップと、
j)ステップh)で決定された実際値がステップc)で指定された目標値Sに対応するように、ステップd)で供給された二酸化炭素含有ガスの量を調整し、かつ/またはステップe)で供給された水素含有ガスの量を調整するステップと
を含み、
ここで、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、ステップc)で指定された目標値Sが0体積%<S≦5体積%の条件を満たす、
プロセスを提供する。
【0017】
本発明に係るプロセスは、生物学的メタネーションによってメタン富化ガスを生成するためのバイオリアクターの助けをかりて行われる。バイオリアクターとしては、例えば、連続撹拌槽反応器、カラム反応器、チューブ反応器、バブルカラム、トリクルベッド反応器または反応器カスケードなど、さまざまな種類の反応器を使用することができる。バイオリアクターは、圧力および熱に耐えることのできる材料、例えばステンレス鋼から製造されることが望ましい。バイオガスプラントの嫌気性発酵槽または下水処理プラントの消化塔と比較して、生物学的メタネーションのためのバイオリアクターの反応器体積は有意に小さく、例えば、バイオガスプラントの発酵槽または下水処理プラントの消化塔の体積の1/10~1/1000の範囲である。
【0018】
バイオリアクターには、外部で生成された水素含有ガスと同様に二酸化炭素含有ガスも供給される。生物学的メタネーションに必要な水素は、好ましくは、電解槽で生成される。好ましくは、水素は、水の電気分解による電力網からの余剰電力を使用して電解槽で生成される。余剰電力の供給は、生物学的メタネーションのためのプラントが、対応する電解槽としての電力レベルで電力調整市場に参入できるように、通常、エネルギ調整ボックス(Regelenergiebox)によって管理される。電解槽が電力調整市場に参入していなくても、他の供給源からの安価な電力(例えば、特別な電力料金体系による)を使用することができる。代替的に、例えば、加水分解ガス、合成ガス、化学反応からの生成ガスなどの他の供給源からの水素、藻類によって生成されたHまたは光触媒からのHなどの生物学的起源からの水素を生物学的メタネーションに使用することもできる。
【0019】
バイオリアクターは、メタン生成微生物の基質または栄養培地として機能し、したがってメタネーション培地として作用する水性反応培地を含有する。先行技術(例えば、国際公開第2008/094282号、欧州特許出願公開第2982740号明細書)に記載されているようなメタン生成微生物の合成培養基、または実質的に発酵残渣を基質とし、任意に栄養素および/または微量元素を補充することができるバイオマスに基づく複合栄養培地(例えば、欧州特許出願公開第2982740号明細書)のいずれかが、メタネーション反応が行われるメタネーション培地として使用される。バイオガスプラントからの発酵残渣、特に後続発酵段階または二次発酵槽からの発酵残渣を基質として使用することができ、ここで、発酵残渣は貯蔵所に由来してもよい。さらに、原則として、下水処理プラントからの任意の種類の生汚泥および/または消化汚泥が、生物学的メタネーションのためのバイオリアクターの基質として適している場合がある。
【0020】
メタン生成微生物、特に水素資化性メタン生成微生物は、純粋培養または適切な微生物の混合培養の形態で合成培養基に添加される。発酵残渣が基質として使用される場合、原則としてメタン生成微生物が既に存在するが、任意に水素資化性メタン生成微生物を添加してもよい。メタノサーモバクター(Methanothermobacter)属の好熱性メタン菌が特に適している。
【0021】
生物学的メタネーションのためのバイオリアクターは、有利には、水素含有ガスと同様にCO含有ガスについても、液体反応培地にガスを導入するための適切なシステムを有する。水素含有ガスと同様にCO含有ガスも、好ましくは、供給ラインを介してバイオリアクターに導入される。
【0022】
好ましくは、2つのガスは、反応器への導入前にガス混合チャンバーで既に混合されており、次いで共通の出発ガスラインを介して反応器に供給される。HおよびCOを含有する出発ガスの供給は、少なくとも1つの供給ラインを介して直接にバイオリアクターに、好ましくはバイオリアクターの下部領域に、またはバイオリアクターのための基質供給ラインへのガス入口を介して行われる。
【0023】
撹拌機、特にガス化撹拌機およびカスケード撹拌機(例えば、Ekato社)、動的ミキサー、多相ポンプ(例えば、Edurポンプ)もカラム反応器も、ガスの導入に特に適したシステムであることが示されている。これらのガス導入システムは、多孔板、ディフューザ、焼結材料、または膜など、微細なガス分配のために反応器に組み込まれたシステムと組み合わせることができる。技術的には、ガスの導入と分配とが適切に機能するためには、発酵槽の内容物の粘度が高すぎてはならない。
【0024】
形成されたメタン富化ガスは、好ましくはバイオリアクターの上端に配置された生成ガスラインを介してバイオリアクターから排出される。原則として、生成ガスの更なる改良の前に、ガス乾燥およびガス冷却、ならびに任意の脱硫、例えば、アンモニアなどの更なる成分を分離するためのガススクラビング、および/またはH分離のステップを有するガス処理が行われる。このようにして、生成ガスとしてバイオリアクターを出るメタン富化ガスから、公共ガス配給システムに供給可能な調製済みSNG(代替天然ガス)またはバイオ天然ガスまたはバイオメタンを調製することができる。SNGを天然ガス配給システムに供給することに加えて、例えば、バイオ天然ガス充填所の形態で燃料として利用したり、原料として使用したりすることも可能である。更なる利用として、電力供給が非常に少ない時間帯に、例えばコージェネレーションプラントを介して、同時に熱を産生することでバイオメタンから電力を発生させることが可能である。この場合、生成されたバイオメタンを一時的に貯蔵する必要がある。これとさらにコージェネレーションプラントとは、多くの場合、対応するプラントに既に組み込まれており、したがって有利には本発明に係るプロセスに使用することができる。
【0025】
さらに、バイオリアクターには、有利には、大気圧よりも高い反応圧力、特に最大30バールの過圧、好ましくは最大16バールの過圧を設定することができるように、圧力保持弁および対応する圧力安定要素が備え付けられている。バイオリアクターには、任意に、温度、圧力およびpHを測定するためのセンサが備え付けられている。さらに、pHを調節するためのシステム、または塩基もしくは酸を添加するためのシステムが設けられてもよい。
【0026】
本発明に従って、出発ガスH(または水素含有ガス)およびCO(または粗バイオガスもしくは下水ガスなどのCO含有ガス)の制御された添加は、生成ガス中のCO含有量に基づいて調整することができる。これに関して、まず、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sが指定される。本発明に従って、添加された二酸化炭素含有ガスの量の調整および/または添加された水素含有ガスの量の調整は、生成ガス中のCOの割合の測定された実際値が指定された目標値Sにできるだけ近くなるかまたはこれに対応するように行われる。好ましくは、バイオリアクターからのガス流およびバイオリアクターへのガス流のすべてにおいて、ガス組成とガス流(単位時間当たりのガス量)との両方が測定される。
【0027】
このようにして、生成ガス中のCO含有量は、特定の値に調整される。より詳細に後述するように、生成ガス中のCO含有量のこの値は、好ましくは1体積%であり、特に好ましくは、この値は0.1体積%~1.5体積%の範囲である。したがって、先行技術から知られているプロセスとは対照的に、ここでの目的は、生成ガス中でCO含有量0を得ることではない。調節時、出発ガス流中のH量および/またはCO量は変化され、したがって、出発ガス流中のH対COの比率は、それぞれの場合において、指定された目標値Sが得られるように変化される。出発ガス流について、原則として、水素含有ガスの体積流量は指定され、CO含有ガスの体積流量は変化されるか、または出発ガス流にCO含有ガスの指定された体積流量が供給され、これに応じて水素含有ガスの体積流量が変化させられる。
【0028】
生成ガス中のCO含有量を調整することで、生成ガス中に数%までの安定した低いCO含有量が存在することが保証され、これは良好なガス品質のために重要である。
【0029】
また、生成ガス中のCO濃度がバイオリアクター内のpHに実質的な影響を与えることが立証されている。既知の方法では、生物学的メタネーションは、約6.5~約9.0のpH範囲で動作し、好ましいpH範囲は7.0~8.0、特に好ましくは7.0~7.5のpHである。このために、先行技術から知られているプロセスでは、pH調節は、反応器内で直接にpHプローブを用いてpHを測定し、測定されたpHに応じて酸または塩基を対応的に後続添加する手段で行われることが多い。このようにして、pHは、酸または塩基の直接添加によって所望の範囲内に調節される。
【0030】
本発明のプロセスによれば、バイオリアクター内のpHは、生成ガス中のCO濃度に影響される。これに関して、生成ガス中のCOの割合が少なすぎると、バイオリアクター内のpHの上昇を招き、一方で、生成ガス中のCOの割合が多すぎると、反応器内容物の酸性化を招く。この基礎となる物理化学的プロセスは、ヘンリーの法則とヘンダーソン-ハッセルバルヒの式で説明される。生成ガス中のCO含有量を調整することによって、外部から酸または塩基の添加を行わなくても反応培地のpHを安定化させる。これにもかかわらず、バイオリアクターには、塩基または酸を添加するための計量ポンプが接続されていることが望ましい。しかしながら、この種類の計量ポンプは、連続的なpH調節を主目的として作用するのではなく、インシデント時の対策、緩衝能の低いメタネーション培地を安定化させるなどの目的で作用する。
【0031】
前述の効果は互いに増大し合うが、なぜなら、生成ガス中のCO含有量を介したメタネーションプロセスの調節によるバイオリアクター内の反応培地のpHの安定化は、生成ガス中のCO含有量が低い値に制限されるため、安定したプロセスをもたらし、このことはさらに良好なガス品質を伴うからである。すなわち、驚くべきことに、バイオリアクター内のpHプローブによるpH調節と、これに関連した酸または塩基の制御された添加とを省略することができ、それゆえに、より単純で安価なプロセスが提供される。メタネーションプラントには、生成ガスのCO含有量を測定するための装置ならびに出発ガスHおよびCOの制御された添加のための対応するフローレギュレータが通常存在し、したがって、有利には採用することができる。
【0032】
対COの比率が4:1の値(または異なる指定された値)に調節される公知の先行技術プロセスでは、生物学的メタネーションプロセスに悪影響を及ぼす外乱(例えば、栄養分の不足、酸素投入、不純物、pHの変動)がメタネーションガスの品質の悪化を招く可能性があり、この結果、出発ガスとして添加された水素がもはや完全に反応しないため、生成ガス中の水素含有量が増加するという問題がしばしば発生する。比率コントローラの場合、未反応の水素の割合が増えると、未反応の二酸化炭素の割合も増えるため、生成ガス中のH含有量の増加に伴い、生成ガス中のCO含有量も増加することになる。この結果、バイオリアクター内のpHが低下し、したがってガス品質がさらに悪化することになる。生成ガス中の二酸化炭素含有量を用いる本発明に従った調整の場合、生成ガス中のH対COの実際の比は考慮されず、それゆえに、既に述べたように、生成ガス中のCO含有量がH含有量とは独立して調節されるため、より安定したpHが得られる。
【0033】
したがって、生成ガスのCO含有量は、本発明に係るプロセスにおいて調節変数として作用する。これは好ましくは連続的に測定され、実際値として体積%でコントローラへのフィードバックとして使用される。バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の特定の値Sが、基準変数または目標値として指定される(体積%)。本発明に従って、Sは、0体積%<S≦5体積%という条件を満たさなければならない。
【0034】
二酸化炭素の体積割合に代えて、モル割合も調節変数として作用することができる。二酸化炭素の重量割合が測定される場合、これは生成ガスの他の成分に関するモル割合に変換される必要があるだろう。
【0035】
好ましくは、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sは、0体積%<S≦4体積%の条件、特に好ましくは0体積%<S≦3体積%の条件、特に好ましくは0体積%<S≦2体積%の条件、より特に好ましくは0体積%<S≦1.5体積%の条件を満たす。
【0036】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sは、0.1体積%≦S≦5体積%の条件、好ましくは0.1体積%≦S≦4体積%の条件、特に好ましくは0.1体積%≦S≦3体積%の条件、特に好ましくは0.1体積%≦S≦2体積%の条件、さらにより特に好ましくは0.1体積%≦S≦1.5体積%の条件を満たす。
【0037】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sは、0.2体積%≦S≦5体積%の条件、好ましくは条件0.2体積%≦S≦4体積%の条件、特に好ましくは0.2体積%≦S≦3体積%の条件、特に好ましくは0.2体積%≦S≦2体積%の条件、さらにより特に好ましくは0.2体積%≦S≦1.5体積%の条件を満たす。
【0038】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sは、0.5体積%≦S≦5体積%の条件、好ましくは0.5体積%≦S≦4体積%の条件、特に好ましくは0.5体積%≦S≦3体積%の条件、特に好ましくは0.5体積%≦S≦2体積%の条件、さらにより特に好ましくは0.5体積%≦S≦1.5体積%の条件を満たす。
【0039】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の目標値Sは、約1体積%である。
【0040】
この調整を技術的に行うために、メタネーション反応器を出た後の生成ガスの品質が決定される。生成ガスのCO含有量(調整変数)ならびに生成ガスのCH含有量およびH含有量を測定するための装置は、通常、メタネーションシステムに既に存在し、したがって有利には採用することができる。好ましくは、生成ガス分析のための装置は、メタネーション反応器に直接に隣接して、またはガス処理領域に配置される。このようにして、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の実際値が連続的に測定される。次に、目標値と実際値との差をとることによって、目標値と実際値との制御偏差が計算される。
【0041】
特に好ましくは、添加された二酸化炭素含有ガスの量の調整および/または添加された水素含有ガスの量の調整は、もっぱら、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の指定された目標値Sと測定された実際値との比較に基づいて行われる。したがって、この場合、生成ガスのガス組成、またはバイオリアクター内の圧力、温度、酸化還元電位もしくはpHなどの更なるパラメータは考慮されない。
【0042】
バイオリアクター内の特定の一般的な反応条件(例えば圧力、温度)の下では、pHは、目標値Sのそれぞれの値を決定するための、および/またはメタネーション中にこれを調整するための適切なパラメータとなる。原則として、生成ガス中のCO含有量はできるだけ低い(例えば、2体積%未満)ことが好ましく、なぜなら、このようにすると、生成ガス中に最大のメタン含有量を得ることができるからである。他方で、例えば0.5体積%未満という非常に低いCO含有量は、計測および制御工学的な観点から計測および制御が比較的困難である。目標値Sの仕様の違いが、バイオリアクター内のメタネーション培地のpHにどの程度影響するかは、採用された基質の性質にも依存する。他方で、メタネーション培地の緩衝能が目標値の選択に影響を及ぼす。緩衝能の低い合成培養基は、複雑な組成を有する発酵残渣に基づくメタネーション培地よりも、高い目標値Sに対して異なる反応を示す。発酵残渣または消化汚泥から適合されるメタネーション培地は、例えば、出発組成のpHが7.5以上の場合がある。この場合、CO含有量の指定された目標値Sは、高い値、例えば1.5体積%以上であり、高いCO含有量が高すぎるpHの上昇を打ち消すようにすることができる。
【0043】
いずれの場合も、コントローラは、指定された制御パラメータに従って、調節変数として、制御システムを介して制御変数に作用する出発ガス中のH対COの特定の比率、すなわちメタネーション反応器における生物学的メタネーションを決定する。メタネーションの間、H(もしくはH含有ガス)またはCO(もしくはCO含有ガス)のための出発ガス体積流量を一定に保つ必要があるかどうかに応じて、調節変数を調節するために、H(もしくはH含有ガス)またはCO(もしくはCO含有ガス)の体積流量は変化される。しかしながら、両方の出発ガス流を同時に、または交互に変化させることも可能である。
【0044】
特に好ましくは、二酸化炭素含有ガスを供給するための装置および/または水素含有ガスを供給するための装置は、流量調整装置である。制御変数に対するコントローラのそれぞれの現在の仕様を実行できるようにするために、メタネーション反応器への出発ガスHおよびCOの体積流量の可変送出を保証するフローレギュレータが好ましくは採用される。
【0045】
好ましい実施形態によれば、指定された目標値Sと測定された実際値との比較ならびに供給された二酸化炭素含有ガスの量の調整および/または供給された水素含有ガスの量の調整は、プロセッサユニットによって行われる。したがって、「コントローラ」は、好ましくは、適切な環境(例えば、SPS、ibaLogic)においてソフトウェアソリューションの形態であるアルゴリズムである。しかしながら、このプログラムは、メタネーションプラントと通信している適切なハードウェア上で実行されなければならない。これは、例えば、プラントの制御および調整に使用される適切なコンピュータであってよい。これは必ずしもメタネーション反応器上にある必要はなく、これと回線経由で接続されていてもよいし、リモートで制御されていてもよい。
【0046】
メタネーション反応器自体が制御システムとなる。メタネーションの生成ガスの組成を変化させるいかなるパラメータも、制御システムに作用する外乱として作用する可能性があり、すなわち、例えば、バイオリアクター内のpHまたは温度の変化、さらには微生物の生長および代謝による反応培地の組成の変化も挙げられる。
【0047】
先行技術の他の既知のプロセスと比較した本発明に係るプロセスの明確な利点は、経済性が向上することであり、なぜなら、既に存在する多くのインフラストラクチャおよび技術を、生物学的メタネーションのためのバイオリアクターによってメタン収量を増加させるために使用できるからである。更なる利点は、本発明に係るプロセスを用いて、良好な生成ガス品質への調節が、相当量の塩基または酸を添加することなく安定したpHを生成することでもある。このようにして、生成ガス中の二酸化炭素含有量の調整は、実質的に反応器内容物のpHの調整も行う。
【0048】
定義
バイオガス:「バイオガス」なる用語は、バイオガス生成のためのプラントにおいて、さまざまな微生物の作用の下に嫌気性発酵で形成されたガスを意味すると理解されるべきである。これは主成分としてメタンと二酸化炭素とを含有する。さらに、水蒸気と、場合によっては少量の水素、窒素、酸素、硫化水素およびアンモニアとを含有する。この種類のバイオガスは粗バイオガスとも呼ばれ、例えば、熱電併給プラントに供給されて電力と熱とを発生させることができる。粗バイオガスがさらに処理されて、例えば、天然ガス配給システムに供給される場合、特に二酸化炭素が分離される。バイオガスプロセスから分離された二酸化炭素に富むガスは、好ましくは、生物学的メタネーションのための二酸化炭素含有出発ガスとして使用することができる。しかしながら、粗バイオガスも、生物学的メタネーションのための二酸化炭素含有出発ガスとして適している。バイオガス生成のためのプラントは、例えば、バイオガスがバイオマスから生成されるバイオガスプラントとすることができる。
【0049】
さらに、バイオガス生成のためのプラントは、消化塔を有する下水処理プラントであってもよい。下水処理プラントにおいて生成されるバイオガスは、消化ガスまたは下水道ガスとしても知られる。
【0050】
出発ガス:メタネーションのための出発ガスは、水素含有ガスと二酸化炭素含有ガス、または水素と二酸化炭素とである。
【0051】
メタン富化ガス=生成ガス=バイオメタン:「メタン富化ガス」とは、水素含有ガスおよび二酸化炭素含有ガスの供給により、嫌気性バイオリアクター内の水素資化性メタン生成微生物の作用によって形成されたガスを意味すると理解されるべきである。また、メタン富化ガスは、生物学的メタネーションプロセスにおいてバイオリアクター内の出発ガスから形成され、生成ガスラインでバイオリアクターを出る生成ガスである。CHに加えて、メタン富化ガスは、メタネーションのためにバイオリアクターに導入された出発ガスの割合、例えば、未反応の水素および二酸化炭素、または例えば粗バイオガス中に発生するように窒素、硫化水素またはアンモニアなどの少量で存在する他のガスも含有する可能性があり、そのためメタン富化ガスは100%のメタンからなっている必要はない。しかしながら、メタン富化ガスの主成分はメタンである。また、本願の文脈において生成されるメタン富化ガスはバイオメタンであり、二酸化炭素含有ガスとして粗バイオガスが使用される場合、メタン富化バイオガスであるとみなすこともできる。「バイオメタン」なる用語は、化学触媒によるメタネーションで形成された合成メタンとは区別して理解されるべきである。
【0052】
バイオ天然ガスおよびSNG(代替天然ガス):「バイオ天然ガス」とは、現行のガイドライン(ドイツでは、例えば、DVGWガイドラインG260、G262)に従って、天然ガス配給システムに供給可能なメタンガスであって、生物由来のCOを用いて生物学的メタネーションで生成されたものを意味すると理解すべきである。「SNG」なる用語は、「合成天然ガス」の略語であり、これとほぼ同義であり、すなわち、技術的に生成された天然ガスの代替品であり、これは同じように使用でき、天然ガス配給システムに交換ガスとして供給可能なものである。
【0053】
バイオマス:本発明の文脈で使用される「バイオマス」なる用語は、トウモロコシ、穀物、草、シルフィウム(silphium)、テンサイなどのあらゆる種類の発酵可能な持続可能な粗原料、さらには牛もしくは豚の糞尿、馬糞または乾燥鶏糞などの動物排泄物ならびに食品生産または加工からの生物廃棄物または有機廃棄物を伴う都市または産業排水ならびにこれらの発酵基質のあらゆる混合物を意味すると理解されるべきである。
【0054】
発酵残渣:「発酵残渣」または「消化物」なる用語は、バイオガス生成のためのプラントでバイオマスを発酵させた後に残る発酵基質の残渣を表す。「発酵残渣」なる用語は、例えば、バイオガスプラントにおける最終的な温度制御された発酵段階(例えば、二次発酵槽)の後の残渣を意味すると理解されるべきである。同様に、「発酵残渣」なる用語は、下水処理プラントの消化塔からの消化された汚泥を含むと理解されるべきである。
【0055】
バイオリアクター=メタネーション反応器:メタン生成微生物を含むメタネーション培地を有し、二酸化炭素と水素とから生成ガスであるメタンを形成する反応器。
【0056】
メタネーション:「メタネーション」なる用語は、出発ガスとしてガス状物質である水素と二酸化炭素とから開始するメタン形成を意味すると理解されるべきである。「生物学的メタネーション」は、水性培地中で水素資化性メタン生成微生物の助けをかりてバイオメタンを形成することを意味する。これは基本的に化学式に従って行われる:
4H+CO→CH+2HO。一酸化炭素が出発ガスの1つに含有されている場合、メタンはさらに以下の式に従って形成することができる:
3H+CO→CH+HO。メタンの他の形成方法、例えば、アセテートまたはメチル化合物からの生成も、採用されるメタネーション培地および使用される反応条件によっては排除されないが、二酸化炭素含有ガスおよび水素含有ガスが圧倒的な量で添加されるため、これらは従属的な役割を果たすことになる。
【0057】
メタネーション培地:これは、生物学的メタネーションを行うのに適したバイオリアクターの内容物を表す。メタネーション培地は、水性反応培地であり、メタン生成微生物のための栄養培地となる。これは、対応する水素資化性メタン生成微生物の生長に必要な栄養素および微量元素などの成分をすべて含有している。メタン生成微生物用の合成培養基が使用されるか、または基本的に発酵残渣を基質とし、場合によっては栄養素および/または微量元素が補充されたバイオマスに基づく複合栄養培地が使用されるかのいずれかである。
【0058】
次に、本発明を、例示的な実施形態の助けをかりて、図面に関連してより詳細に説明する。明らかに、例示的な実施形態に関してなされた記述は、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明に係るプロセスをブロック図の形態で示す図である。
図2】本発明に係るプロセスの実施形態を実行する際の生成ガス組成および手順パラメータの測定値をグラフ表示の形態で示す図である。
図3】本発明に係るプロセスの更なる実施形態を実行する実行する際の生成ガス組成の測定値とともに手順パラメータをグラフ表示の形態で示す図である。
図4A】本発明に係るプロセスの更なる実施形態を実行する際の生成ガス組成の測定値とともに手順パラメータをグラフ表示の形態で示す図である。
図4B】本発明に係るプロセスの更なる実施形態を実行する際の生成ガス組成の測定値とともに手順パラメータをグラフ表示の形態で示す図である。
図4C】本発明に係るプロセスの更なる実施形態を実行する際の生成ガス組成の測定値とともに手順パラメータをグラフ表示の形態で示す図である。
図5】本発明に係るプロセスの更なる実施形態を実行する際の生成ガス組成の測定値とともに手順パラメータをグラフ表示の形態で示す図である。
【0060】
発明を実施するための形態
例示的な実施形態1を、図1と関連付けてより詳細に説明することができる。図1は、本発明に係るプロセスをブロック図の形態で示したものである。
【0061】
まず、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合について、目標値Sが指定される。供給された二酸化炭素含有ガスの量の調整および/または供給された水素含有ガスの量の調整は、生成ガス中のCOの割合の測定された実際値7が指定された目標値Sにできるだけ近くなるかまたはこれに対応するように、本発明に従って行われる。
【0062】
供給された二酸化炭素含有ガスの量の調整および/または供給された水素含有ガスの量の調整は、もっぱら、バイオリアクターから取り出されたメタン富化ガス中の二酸化炭素の割合の指定された目標値Sと測定された実際値7との比較に基づいて行われる。制御偏差2は、目標値Sから実際値7を引いた差を形成することによって計算される。
【0063】
プロセッサユニットに通常設置される適切にプログラムされた制御モジュールがコントローラ3として機能し、これは、制御ループの開始点への測定された実際値7のフィードバック8を生成し、次いで指定された目標値Sと測定された実際値7との比較を行う。コントローラのこの動作モードの目的は、制御偏差2を0に減らすことである。供給された二酸化炭素含有ガスの量の調整および/または供給された水素含有ガスの量の調整は、制御モジュールにより出発ガスH(または水素含有ガス)およびCO(またはCO含有ガス)の修正比率が計算されるように行われる。これは制御変数4として機能する。出発ガスの比率は、実際値7、すなわち生成ガス中のCO含有量に対する反応として出発ガスを計量することによって調節される。
【0064】
メタネーション反応器自体が、本システムの制御システム5となる。メタネーションからの生成ガスの組成を変化させるいかなるパラメータも、制御システム5に作用する外乱6として作用する可能性があり、例えば、バイオリアクター内のpHまたは温度の変化、さらには微生物の生長および代謝による反応培地の組成の変化も挙げられる。
【0065】
図2は、本発明に係る生物学的メタネーションのためのプロセスの実施形態を実行した際の生成ガス組成の測定値および更なる手順パラメータをグラフ表示として示したものである。試験結果は、生成ガス中のCO含有量の目標値が1体積%~5体積%(1体積%と5体積%とを含む)の範囲で本発明に係るプロセスを使用した場合、反応器内のpHを測定して塩基または酸を適切に添加することによりpH調節を行わなくても、バイオリアクターを安定した方法で運転できることを実証するものである。また、更なるガス処理を行わなくても、水素濃度が2.5体積%未満でメタン含有量が少なくとも93体積%と非常に高いメタン富化ガスが生成ガスとして得られることがデータで示されている。
【0066】
都市下水処理プラントからの消化汚泥をメタネーション培地として含有し、個別の微量元素および栄養素を添加したバイオリアクターで生物学的メタネーションを行った。生物学的メタネーションは、メタノサーモバクター(Methanothermobacter)属からのメタン生成微生物を添加して行った。メタン富化ガスの生成は、温度65℃および圧力7バールで、反応器内容量75リットルの連続撹拌槽反応器で行った。全期間にわたって、メタン富化ガスを1日当たり反応器内容物1立方メートル当たり60標準立方メートルのメタン形成速度(MFR)[Nm/md]で生成した。図2に示す期間にわたって、生成ガス中の二酸化炭素の目標値を1体積%、2体積%、3体積%、4体積%および5体積%の順に高くしたCO調整を行った。時間軸の情報は、時間単位に対応する。
【0067】
図2のグラフAは、出発ガスHとCOとの供給を示している。これは、加圧ガスボンベに入った純粋なHとCOとのガスバンドルから行った。それぞれのガス体積流量(標準リットル/時間[Nl/h])は、Bronkhorst社製のマスフローレギュレータを用いて調節した。水素の体積流量(V_H2;破線)は、試験の全期間にわたって一定に保ち、750Nl/hに予め設定した。供給された二酸化炭素の体積流量(V_CO2;黒線)の値は、実際値を測定し、指定された水素体積流量に関連してCOコントローラが出力する制御変数からの制御偏差を計算した後に得た。示された試験期間にわたって、COの目標値を1体積%から5体積%に上げると、二酸化炭素体積流量は166Nl/hから187Nl/hの範囲の値になった。50時間から56時間までの期間では、水素供給を中断したため、出発ガスを供給できず、メタン富化ガスを生成できなかった。
【0068】
図2のグラフBは、生成ガス中のCOの測定濃度(c_CO2;黒線)を体積%で示している。これは、制御変数の実際値に相当する。本発明に係るプロセスにおいて、生成ガス中の二酸化炭素(S_CO2)のそれぞれの期間に指定された目標値(体積%)が破線で示されている。
【0069】
図2のグラフCは、生成ガス中のメタン濃度(c_CH4;黒線)の測定値を体積%で示すとともに、生成ガス中の水素濃度(c_H2;破線)を体積%で示している。生成ガスのガス成分はすべてEmerson社製のインラインガス分析デバイスで測定した。
【0070】
図2のグラフDは、左側に示したスケールで、反応器内容物の質量(m;黒線)の測定値をキログラム[kg]で示すとともに(黒色の値)、右側のハンドスケールでpHの測定値(pH;破線)を示している。反応器内容物の平均は75キログラムであった。反応器内容物の一部を一定時間ごとに取り出し、その後、新鮮な基質またはメタネーション培地を補充し、そうすることで新鮮な物質との一定量の交換を行った。これは、図4のグラフDに,小さな下方偏向と、これに続く質量の増加として見ることができる。メタネーション培地のpHは、バイオリアクター内で直接にpHプローブを用いて測定したのではなく、交換される反応器内容物を取り出した後にそのつど直接に、反応器からの流出物において測定した。反応器内容物の関連するpHは、それぞれの場合において、交換サイクルにおける最も低い測定値に対応した(矢印は例を示す)。
【0071】
それぞれ約12時間の期間にわたって、生成ガス中の二酸化炭素を1体積%、2体積%、3体積%、4体積%および5体積%と増加系列で指定した目標値でCOを調整しながら本発明のプロセスに係る生物学的メタネーションを行った。各目標値では、塩基または酸を添加することなく、生成ガス中のガス品質が良好で安定したメタネーションが可能であった。1日当たり反応器内容物1立方メートル当たり60標準立方メートルのメタン形成速度が得られた。毎回、生成ガス中のCO濃度の所定の目標値は、値を入力した後にすぐには得られず、一定の初期期間を経過してからのみ得られた。生物学的システムでは反応条件の非常に急激な変化はプロセスの安定性を損なう可能性があるため、一般的に有利ではないので、こうした挙動もある程度は望ましい。
【0072】
さらに、所定の目標値を上回る値と下回る値とを有する一定の過渡応答が観察された。しかしながら、これは典型的な制御挙動であり、設定された調整パラメータにある程度依存する。しかしながら、いずれの場合も、数時間後には、指定された目標値が安定したレベルに達し、保持された。生成ガス中の水素濃度は終始2.5体積%未満であった。設定したCO濃度3体積%までは、CH濃度は95体積%以上であった。CO設定濃度を4体積%または5体積%に指定すると、CH濃度は93体積%以上となったが、この場合、コントローラによる仕様により、相応して高いCO含有量が生成ガス中に存在したからである。時間50から時間56の期間に水素の供給が中断されたためにメタネーションを中断した後でも、メタン形成を同じレベルで、生成ガス品質も同様に良好なまま、メタネーションを遅滞なく継続することができた。反応器から排出される反応器内容物中でそのつど一定間隔で直接に測定されたpHは、試験の全期間にわたって約8.1~7.5の範囲であった。
【0073】
CO目標値を5体積%に調整した後、調節を1回のステップで1体積%のCO目標値まで落とした。過渡応答はわずか1体積%の各ステップでの変化よりも振幅が大きく、制御変数による調整でも、出発ガスCOの体積流量は一時的に147Nl/hまで減少したが、この場合も数時間後には指定された目標値である1体積%のCOが得られた。バイオリアクターをその内容物も含めてCO含有量の少ない出発状態に戻しても問題はなかった。生成ガスにおいて、COの目標値を1体積%に指定し、メタン濃度97体積%、残留水素濃度2体積%を得た。これは原則として、送電網に供給可能なバイオメタンとして指定された制限を満たしている。
【0074】
図3は、本発明に係る生物学的メタネーションのためのプロセスの実施形態を実行する際の生成ガス組成の測定値とともに更なる手順パラメータをグラフの形態で示している。試験結果は、生成ガス中のCO含有量の目標値が1体積%~0.1体積%の範囲で本発明に係るプロセスを適用した場合、反応器内のpHを測定して塩基または酸を適切に添加することによりpH調節を行わなくても、バイオリアクターを安定した方法で運転できることを示す。また、更なるガス処理を行わなくても、水素濃度が2体積%未満でメタン含有量が少なくとも97体積%と非常に高いメタン富化ガスが生成ガスとして得られることがデータで示されている。
【0075】
図3に示す例示的な実施形態は、図2で説明した生物学的メタネーションの継続である。試験条件とともに、グラフA~Dの表示は、例示的な実施形態2のものに対応するが、ただし、本例では、1体積%、0.5体積%、0.2体積%、0.1体積%および0体積%のステップで1体積%から0体積%までのCO目標値が指定されたことを例外とする。
【0076】
本実施例では、生成ガス中で測定された1体積%COの目標値で開始した。この指定された目標値は、例示的な実施形態2の開始値および終了値に対応していた。目標値0.1体積%COまで、生物学的メタネーションが可能であった。出発ガスの二酸化炭素の体積流量の値は、178Nl/hから167Nl/hまでの範囲であり、一方で、水素の体積流量は750Nl/hで一定に保持した。生成ガス中のメタン濃度は97体積%~98.5体積%の範囲であり、水素濃度は約1.5体積%~1.75体積%であった。反応器から流出したメタネーション培地のpH測定値はpH8.1~pH8.8であった。生成ガス中の0.1体積%COの目標値Sへの調節を20時間維持した。
【0077】
次に、COの目標値を0に設定することによって、生成ガス中のCOが測定できなくなるように調整を行った。このCO調整の仕様を8時間維持した。図3のグラフAからわかるように、出発ガス二酸化炭素の体積流量は171Nl/hから157Nl/hの濃度にまで減少した。pHはほぼ9の値まで上昇した。
【0078】
生成ガス中のCOを目標値0体積%に指定してから約2時間半後、生成ガス中のCOが測定できなくなった。さらに2時間後、生成ガスの品質が大幅に悪化した。次の4時間後にはメタン含有量は98体積%から81体積%にまで減少した。同時に、生成ガス中の水素の割合は約1.5体積%からほぼ17体積%まで上昇した。
【0079】
また、63時間後の生成ガス中の硫化水素濃度は、水素濃度の上昇とメタン濃度の低下とともに、50ppmの値から120ppmを超える値まで上昇することが観察された。同様に、アンモニア濃度の上昇も生成ガス中で観察された。試験期間の間、生成ガス中の二酸化炭素濃度の目標値を0に設定した場合、同じ観察を2回以上繰り返した。このようにして、二酸化炭素が完全に消費されるという意味での調節は生物学的メタネーションでは機能しないが、本発明に係るプロセスを用いて0.1体積%~5体積%の範囲の生成ガス中のCOの目標値に調節すると機能し、良質~非常に良質なメタン富化ガスが提供されることが示された。
【0080】
本発明に係るプロセスの更なる利点は、驚くべきことに、バイオリアクターでの同時連続pH測定を伴う酸または塩基の添加によるpH調節が不要になり得ることが判明した。
【0081】
バイオリアクターでの生物学的メタネーションの完全な「クラッシュ」を防ぐために、66時間のテスト時間後では、生成ガス中のCOの目標値を0体積%から1体積%に再び引き上げた。調節直後、出発ガス中の二酸化炭素流量は上昇したが、ガス品質も再び急速に改善された。pHが低下し、生成ガス中のCO含有量が1体積%に落ち着くまで数時間を要したが、その後、再び生物学的メタネーションを行い、その内容物を含むバイオリアクターを運転可能な状態に戻すことができた。
【0082】
図4A図4B図4Cおよび図4Dは、本発明に係る生物学的メタネーションのためのプロセスを実行するための更なる例示的な実施形態を示す。生成ガス組成の測定値とともに更なる手順パラメータのグラフ表示は、図2および図3に関連して説明したものと類似の方法で作成され、唯一の違いは、図の最下段において、pHの代わりにメタン形成速度(MFR)が提供されることである。目標メタン形成速度における規則的に繰り返される上方および下方への偏向は、それぞれの場合において、基質がバイオリアクター内で交換されたとき、反応器内容物の量の変動が特定の期間に生じるとともに、圧力変動が生じ、この結果、生成ガスの体積流量が一時的に変動して、MFRの変動をもたらす。リアクター内でpHは測定されないが、サンプルを繰り返し採取してpHを測定した。
【0083】
生物学的メタネーションは、都市下水処理プラントからの消化汚泥を含有したバイオリアクター内で行われた。しかしながら、この例では、微量元素および栄養素は添加せず、還元剤のみをメタネーション培地に添加した。メタン生成微生物を添加することなく生物学的メタネーションを行った。メタン富化ガスの生成は、反応器内容量60リットルの連続撹拌槽反応器内で温度65℃および圧力7バールにて行った。
【0084】
図4Aに示す期間では、生成ガス中のCO濃度の目標値を1体積%に設定して調整を行った。メタネーション開始時に、出発ガス水素のガス体積流量を段階的に上昇させ、3時間後には既に85Nm/(md)のメタン形成速度でメタン富化ガスを生成できるようにした。この時点で、生成ガス中のCOの割合は、目標値である1体積%に既に落ち着いていた。試験時間30時間から150時間までの全期間にわたって、メタネーションは同じメタン形成速度で安定していた。メタン分率が約94体積%~95体積%、水素分率が約3.5体積%、二酸化炭素分率が1体積%のメタン富化ガスが生成された。ガス分析値において不規則な縦線の繰り返しとして見ることができる干渉信号は、サンプリングに起因するものである。152時間の試験ポイントを経過した時点で、出発ガスの供給量を増加させ、さらに2~3時間後に153Nm/(md)のメタン形成速度が得られるようにした。この場合、CO調節の目標値は変更されない。メタン形成速度153Nm/(md)で、メタン約89体積%および水素約8体積%のガス品質が得られた。
【0085】
出発ガス供給を停止した後、同じメタン形成速度でメタネーションを継続したが、CO目標値は3体積%に指定した。これを図4Bに示す。HとCOとの体積流量は、最初から153Nm/(md)のメタン形成速度が得られるように指定した。3体積%における生成ガス中のCO値の変動は約4時間続いた。
【0086】
メタン富化ガスは、約87体積%のメタンおよび約8体積%の水素とともに、3体積%の二酸化炭素を含有していた。その直後に、COの目標値はそのままに、メタン形成速度を200Nm/(md)まで上昇させた。これは問題なく可能であった。高いメタン形成速度では、ガス品質はやや悪化し、メタン約84体積%および水素約11体積%となった。
【0087】
長いメタネーション停止の後、メタン形成速度200Nm/(md)でメタネーションを継続し、ここで、CO目標値は2%に設定した。このことは、図4Cで見ることができる。メタネーション開始時、18試験時間では、安定したCO値2体積%の確立に8時間かかっていた。生成ガスのガス品質は、約87.5体積%のメタンと8.5体積%の水素とに改善された。出発ガス供給の6時間の中断後、同じ条件下で非常に迅速な再起動を行い、ここで、CO目標値である2体積%を最初から確立することもできた。
【0088】
図4A図4Dに記載の例示的な実施形態は、更なるメタネーション培地において、最大200Nm/(md)の高いメタン形成速度でさえ、メタン富化ガスがバイオリアクターを出た直後に依然として送出品質に達していない場合でも、生成ガス中の二酸化炭素の異なる指定された目標値で本発明のプロセスに従って生物学的メタネーションが可能であったことを示している。このようにして生成されたメタン富化ガスは、その後のガス処理で残留水素を分離することによって、バイオ天然ガスまたはSNGに変換することができる。この例でも、酸または塩基の添加によるpH調節は行っていない。バイオリアクターからのサンプルで測定されたpHは、試験期間全体を通して、pH7.6~8.4の値であり、これはメタン形成に良好に適した状態であった。さらに、生成ガス中の硫化水素含有量またはアンモニア含有量の測定値は、取るに足らないものであった。
【0089】
図5は、本発明に係る生物学的メタネーションのためのプロセスを行うための更なる例示的な実施形態を示している。生成ガス組成の測定値とともに更なる手順パラメータのグラフ表示は、図4A図4Dに関連して示されるものと類似している。
【0090】
生物学的メタネーションは、水素資化性メタン生成古細菌に先行技術で使用されているように、メタネーション培地として合成培養基を含有するバイオリアクターで行った(例えば、国際公開第2008/094282号または国際公開第2012/110257号を参照されたい)。この培地に、メタノバクテリウム(Methanobacteriales)目からのメタン生成株を接種した。メタン富化ガスの生成は、反応器内容量60リットルの連続撹拌槽反応器内で温度65℃および圧力7バールにて行った。
【0091】
図5に示す期間において、生成ガス中のCO濃度の目標値を1体積%に設定して調整を行った。時点0にて、生物学的メタネーションを開始した。これに関して、出発ガス水素のガス体積流量を段階的に上昇させ、4時間後には既に150Nm/(md)のメタン形成速度でメタン富化ガスを生成できるようにした。さらに5時間後には、生成ガス中のCO分率は目標値である1体積%に落ち着いていた。37時間の試験までは、メタン含有量90体積%~92体積%のメタン富化ガスが生成され、水素含有量は7体積%~8.5体積%であった。37時間の試験ポイントを経過した時点で、出発ガスの供給量を増加させ、しばらくして200Nm/(md)のメタン形成速度が得られるようにした。CO調節の目標値は変更されない。
【0092】
残りの全試験期間にわたって、メタネーションは非常に安定しており、ここで、試験期間にわたってガス品質はわずかに改善された。約85体積%のメタン分率が89体積%にわずかに増加し、一方で、水素分率が約13.5体積%から約10体積%まで低下し、二酸化炭素分率が1体積%の目標値付近で変動するメタン富化ガスが生成された。反応器内容物として定義されたメタン菌を含む合成培養基を使用したシステムによるこの例示的な実施形態における生成ガス中の目標とされるガス品質は、基質として消化汚泥を使用し、メタン形成速度が同等で、定義されたメタン生成微生物を添加しない例示的な実施形態4で得られた値と非常によく一致した。
【0093】
メタネーション開始後、まず合成培養基のpHをある程度安定させる必要があったが、約30時間からは、pHを6.6~7.2の値に保つために少量の苛性ソーダも一定間隔で添加し、この間、生成ガス中のCO分率を本発明に記載されているように調整した後に限ってのことではあるが、生物学的メタネーションがスムーズに機能するようにした。
【符号の説明】
【0094】
S 目標値(基準変数)
2 制御偏差(目標値-実際値)
3 コントローラ
4 制御変数
5 制御システム
6 外乱
7 実際値(制御変数)
8 フィードバック
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5