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特許7385058表面層、光学部材、眼鏡、及び表面層形成用材料
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  • 特許-表面層、光学部材、眼鏡、及び表面層形成用材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】表面層、光学部材、眼鏡、及び表面層形成用材料
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/18 20150101AFI20231114BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20231114BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20231114BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20231114BHJP
   C03C 17/42 20060101ALI20231114BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
G02B1/18
G02C7/02
G02C7/10
G02C13/00
C03C17/42
C09K3/18 104
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022563447
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2021047347
(87)【国際公開番号】W WO2022264458
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2021101429
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591111112
【氏名又は名称】キヤノンオプトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 廣斗
(72)【発明者】
【氏名】河目 直之
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-085591(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071330(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0324314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/18
G02C 7/02
G02C 7/10
G02C 13/00
C03C 17/42
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層であって、
該表面層を顕微ラマン分光装置で測定したときの成分Aに由来するピーク強度をP 、成分Bに由来するピーク強度をP としたときのP /P が、0.15~0.80であり、
該成分Aはフッ素を含有する有機部位を有し、
該フッ素を含有する有機部位が、フルオロアルキル部位、フルオロアルキルエーテル部位、フルオロポリエーテル部位、フッ化ビニリデン部位およびパーフルオロポリエーテル部位からなる群から選択される少なくとも一の部位であり、
該成分Bは、不飽和炭化水素結合を有する有機部位を有し、
該成分Bが、下記一般式
―Y―R (2)
で示される構造を有するアルキル化合物であり、
該Yで示される部位は、[C2i-2j1、[C2ij3、[C3ij4および[Cj5からなる群から選択される少なくとも一の結合を含む部位を一以上含み、
該i、j、j3、及びjは、32≦i×(j+j+j+j)≦180を満たし、
該j、j3、及びjは、それぞれ独立して0以上の整数であり、
該iは、該部位ごとにそれぞれ独立して1以上の整数であり、
該R及び該Rは、それぞれ独立に、加水分解性シリル基、ヒドロキシル基または水素原子であり、
該不飽和炭化水素結合を有する有機部位が、1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリイソプレン、1,4-ポリイソプレン、1,2-ポリクロロプレンおよび1,4-ポリクロロプレンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に由来することを特徴とする、表面層。
【請求項2】
少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層であって、
該表面層を顕微ラマン分光装置で測定したときの成分Aに由来するピーク強度をP 、成分Bに由来するピーク強度をP としたときのP /P が、0.15~0.80であり、
該成分Aはフッ素を含有する有機部位を有し、
該フッ素を含有する有機部位が、フルオロアルキル部位、フルオロアルキルエーテル部位、フルオロポリエーテル部位、フッ化ビニリデン部位およびパーフルオロポリエーテル部位からなる群から選択される少なくとも一の部位であり、
該成分Bが、下記一般式
―Y―R (2)
で示される構造を有するアルキル化合物であり、
該Yで示される部位は、[C2i-2j1、[C2ij3、[C3ij4および[Cj5からなる群から選択される少なくとも一の結合を含む部位を一以上含み、
該i、j、j3、及びjは、32≦i×(j+j+j+j)≦180を満たし、
該j、j3、及びjは、それぞれ独立して0以上の整数であり、
該iは、該部位ごとにそれぞれ独立して1以上の整数であり、
該R及び該Rは、それぞれ独立に、加水分解性シリル基、ヒドロキシル基または水素原子であり、
該成分Bは、不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を側鎖に有するポリオレフィンを有することを特徴とする、表面層。
【請求項3】
前記成分Aは、下記一般式
―X―R (1)
で示される構造を有する化合物であり、
該Xで示される部位は、[C2nm1、[C2nm2、[Cm3、[C2nm4O、[C2nm5O、[Cm6O、[C2nO]m7、[C2nO]m8、[CO]m9、[C2nm10、[C2nm11、[Cm12O、[Cm13、[CHm14、O[CHm15、[CFm16およびO[CFm17から選択される少なくとも一の部位の任意の組み合わせからなり、
該n、m、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17は、15≦n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)≦200を満たし、
該m、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17は、それぞれ独立して0以上の整数であり、
該nは、該部位ごとにそれぞれ独立して、1~6の整数であり、
該Rは、加水分解性基、シラノール基、または加水分解性基含有シリル基を含む有機基であり、
該Rは、水素またはフッ素で終端されるアルキル部位またはアルキルエーテル部位である、請求項1または2に記載の表面層。
【請求項4】
前記成分Aが、パーフルオロポリエーテル部位を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面層。
【請求項5】
前記成分Bが、不飽和炭化水素結合を有する有機部位を有し、
該不飽和炭化水素結合が、1,2-ポリブタジエンおよび1,2―ポリイソプレンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面層。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の表面層を有する、光学部材。
【請求項7】
請求項6に記載の光学部材を有する、眼鏡。
【請求項8】
少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層形成用材料であって、
該表面層形成用材料における成分Aに対する成分Bの質量比が、0.15~0.80であり、
該成分Aは少なくともフッ素を含有する有機部位を有し、
該フッ素を含有する有機部位が、フルオロアルキル部位、フルオロアルキルエーテル部位、フルオロポリエーテル部位、フッ化ビニリデン部位およびパーフルオロポリエーテル部位からなる群から選択される少なくとも一の部位であり、
該成分Bは、不飽和炭化水素結合を有する有機部位を有し、
該成分Bが、下記一般式
―Y―R (2)
で示される構造を有するアルキル化合物であり、
該Yで示される部位は、[C2i-2j1、[C2ij3、[C3ij4および[Cj5からなる群から選択される少なくとも一の結合を含む部位を一以上含み、
該i、j、j3、及びjは、32≦i×(j+j+j+j)≦180を満たし、
該j、j3、及びjは、それぞれ独立して0以上の整数であり、
該iは、該部位ごとにそれぞれ独立して1以上の整数であり、
該R及び該Rは、それぞれ独立に、加水分解性シリル基、ヒドロキシル基または水素原子であり、
該不飽和炭化水素結合を有する有機部位が、1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリイソプレン、1,4-ポリイソプレン、1, 2-ポリクロロプ
レンおよび1,4-ポリクロロプレンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に由来することを特徴とする、表面層形成用材料。
【請求項9】
少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層形成用材料であって、
該表面層形成用材料における成分Aに対する成分Bの質量比が、0.15~0.80であり、
該成分Aは少なくともフッ素を含有する有機部位を有し、
該フッ素を含有する有機部位が、フルオロアルキル部位、フルオロアルキルエーテル部位、フルオロポリエーテル部位、フッ化ビニリデン部位およびパーフルオロポリエーテル部位からなる群から選択される少なくとも一の部位であり、
該成分Bが、下記一般式
―Y―R (2)
で示される構造を有するアルキル化合物であり、
該Yで示される部位は、[C2i-2j1、[C2ij3、[C3ij4および[Cj5からなる群から選択される少なくとも一の結合を含む部位を一以上含み、
該i、j、j3、及びjは、32≦i×(j+j+j+j)≦180を満たし、
該j、j3、及びjは、それぞれ独立して0以上の整数であり、
該iは、該部位ごとにそれぞれ独立して1以上の整数であり、
該R及び該Rは、それぞれ独立に、加水分解性シリル基、ヒドロキシル基または水素原子であり、
該成分Bは、不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を側鎖に有するポリオレ
フィンを有することを特徴とする、表面層形成用材料。
【請求項10】
前記成分Aは、下記一般式
―X―R (1)
で示される構造を有する化合物であり、
該Xで示される部位は、[C2nm1、[C2nm2、[Cm3、[C2nm4O、[C2nm5O、[Cm6O、[C2nO]m7、[C2nO]m8、[CO]m9、[C2nm10、[C2nm11、[Cm12O、[Cm13、[CHm14、O[CHm15、[CFm16およびO[CFm17から選択される少なくとも一の部位の任意の組み合わせからなり、
該n、m、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17は、15≦n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)≦200を満たし、
該m、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17は、それぞれ独立して0以上の整数であり、
該nは、該部位ごとにそれぞれ独立して、1~6の整数であり、
該Rは、加水分解性基、シラノール基、または加水分解性基含有シリル基を含む有機基であり、
該Rは、水素またはフッ素で終端されるアルキル部位またはアルキルエーテル部位である、請求項8または9に記載の表面層形成用材料。
【請求項11】
前記成分Aが、パーフルオロポリエーテル部位を有する、請求項8~10のいずれか1項に記載の表面層形成用材料。
【請求項12】
前記成分Bが、不飽和炭化水素結合を有する有機部位を有し、
該不飽和炭化水素結合が、1,2-ポリブタジエンおよび1,2―ポリイソプレンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に由来する、請求項8~11のいずれか1項に記載の表面層形成用材料。
【請求項13】
請求項8~12のいずれか1項に記載の表面層形成用材料により形成された、表面層。
【請求項14】
請求項13に記載の表面層を有する、光学部材。
【請求項15】
請求項14に記載の光学部材を有する、眼鏡。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工性および防汚性に優れた表面層、該表面層を有する光学部材および該光学部材を有する眼鏡に関する。
また、本開示は、加工性および防汚性に優れた表面層を形成する表面層形成用材料、該表面層形成用材料を用いて形成された表面層、該表面層を有する光学部材および該光学部材を有する眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜、光学フィルター、光学レンズ、眼鏡レンズなどの光学部材は、一般的に光の反射を抑制するために無機材料により反射防止膜が形成されている。無機材料により形成された反射防止膜は表面自由エネルギーが高い。表面自由エネルギーが高いことに起因して、人が使用することにより、指紋、皮脂、汗、化粧品などの汚れが付着する場合が多い。また、付着した汚れは、除去しにくいという問題がある。汚れの付着と除去の問題を解決する手段として、特許文献1及び2では汚れが付着しにくく、付着しても除去しやすい性能を光学部材の表面に付与する技術が提案されている。
【0003】
しかし、汚れが付着しにくく、付着しても除去しやすい性能(以下、このような性能を「防汚性」、「防汚特性」ともいう)を付与された表面を有する光学部材は、摩擦力が小さく表面が滑りやすいため、光学部材の形状を加工する場合に、安定的に固定することが難しく、加工しにくいという課題があった。
【0004】
上記の課題に対して、特許文献3では、撥油性コート膜の上に、有機化合物からなる樹脂、無機酸化物微粒子、及び、所定の一般式で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を有効成分として含有するコーティング液によって形成されてなる保護膜を形成し、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子の組成比および所定の一般式で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物の含有量を所定の範囲内とすることで、撥油性コート膜が設けられていても従来の眼鏡用レンズと同様の保持方法により玉摺り加工を可能とする眼鏡用レンズが開示されている。
また、特許文献4では、表面に、少なくとも1種以上が含フッ素シラン化合物である、2種以上のシラン化合物により防汚層を形成する眼鏡レンズにおいて、2種以上のシラン化合物のそれぞれを単独成分として形成されるレンズ表面の動摩擦係数が、最も高い動摩擦係数値が、最も低い動摩擦係数値の1.4倍以上とすることで、防汚層の優れた防汚効果を低下させることなく、玉型加工できる程度にレンズ表面の滑性を低下させることができる眼鏡レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-144097号公報
【文献】特開2003-238577号公報
【文献】特開2013-050652号公報
【文献】特開2005-003817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3及び4に記載された解決手段では、まだ加工時の固定という面で十分とは言えず、より加工の安定性と防汚特性とを両立した防汚性表面が望まれている。
【0007】
本開示は、加工時の固定の安定性と、防汚特性とを両立した表面層、該表面層を有する光学部材および眼鏡を提供するものである。また、本開示は、加工時の固定の安定性と、防汚特性とを両立した表面層を形成する表面層形成用材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の表面層は、少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層であって、
該成分Aは少なくともフッ素を含有する有機部位を有し、
該成分Bは、不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を有し、
該表面層における成分Aに対する成分Bの構成比が、0.15~0.80である。
また、本開示の光学部材は、上記の表面層を有する光学部材である。
さらに、本開示の眼鏡は、上記の光学部材を有する眼鏡である。
【0009】
さらにまた、本開示の表面層形成用材料は、少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層形成用材料であって、
該成分Aは少なくともフッ素を含有する有機部位を有し、
該成分Bは、不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を有し、
該表面層形成用材料における成分Aに対する成分Bの質量比が、0.15~0.80である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、加工時の固定の安定性と、防汚特性とを両立した表面層、該表面層を有する光学部材および眼鏡を提供することができる。また、本開示は、加工時の固定の安定性と、防汚特性とを両立した表面層を形成する表面層形成用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】表面層の第1の実施形態における構成を示す概略図
図2】表面層の第2の実施形態における構成を示す概略図
図3】光学部材の第1の実施形態における構成を示す概略図
図4】光学部材の第2の実施形態における構成を示す概略図
図5】光学部材を使用した眼鏡の一実施形態における構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本開示にかかる表面層、該表面層を有する光学部材、該光学部材を有する眼鏡、及び本開示にかかる表面層形成用材料の実施形態を説明する。また、本開示は下記実施形態に限定されるわけではない。
また、本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。さらに、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0013】
本開示によれば、母材または光学部材の表面層に高荷重がかかった際の摩擦力を高く保つことで滑り性を抑制し、母材または光学部材の加工時に安定して固定させることができる。また、使用者が日常で母材または光学部材を使用する際に母材または光学部の表面層にかかる荷重の範囲では摩擦力が低くなり、かつ防汚特性を発現することができる。これらの結果、加工性と防汚特性を両立した表面層、該表面層を有する光学部材、該光学部材を有する眼鏡を提供することができる。また、上記特性を表面層に付与する表面層形成用材料を提供することができる。
【0014】
本開示に係る表面層、及び該表面層を有する光学部材が加工時の安定性と防汚特性とを両立しているメカニズムについて、発明者らは以下のように考察している。
表面層に含まれる成分Aとして、フッ素を含有する有機部位を有する化合物を選択する。また、成分Bとして、不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を有する化合物を選択する。
成分Aはフッ素を含有する有機部位を有しているため、防汚特性が発現するが、荷重がかかった際に摩擦力が低い傾向にある。また、成分Bは不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を有していることから、成分Aに比べて荷重がかかっても変形しにくく、摩擦力が高い傾向にある。
そのため、少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層が物体と接触する際に、高荷重がかかったときには成分Aに比べて成分Bは変形しにくく、表面層と接触する物体に対して成分Bが接触する割合が高くなることで、高い摩擦力が得られる。
そのうえで、表面層における成分Aに対する成分Bの構成比を所定の範囲内に調整することで、低荷重で表面層と物体が接触する際は高い防汚特性が得られる。
【0015】
「表面層」とは、母材に接し、固体、液体または気体と接触する界面のことを指す。すなわち、本明細書において「表面層」とは母材の表面であり、本明細書は該表面を有する母材をも開示するものである。
母材としては固形物であり、かつ後述する下地層12、表面層13、中間層14またはハードコート層15を形成可能なものであればどのような材質でも適用できるが、ガラス、セラミック、樹脂または金属もしくはガラスや樹脂等から作られたフィルムであることが好ましい。
【0016】
光学部材は、上記表面層を有する母材を備える光学部材である。該光学部材としては、光学フィルター、光学レンズ、眼鏡レンズ、写真用レンズ、ディスプレイ用カバーガラス、ディスプレイ用タッチパネルおよび各種フィルムなどが挙げられる。
【0017】
眼鏡は、上記光学部材を有する眼鏡である。該眼鏡としては目の周辺に装着する器具全般が包含されるものであり、通常の視力矯正用眼鏡に限定されず、伊達眼鏡、保護ゴーグル、ヘッドマウントディスプレイ、サングラスおよびスマートグラスなどを含む。
【0018】
本開示に係る成分Aを説明する。
成分Aは、フッ素を含有する有機部位を有する。該フッ素を含有する有機部位は、フルオロアルキル部位、フルオロアルキルエーテル部位、フルオロポリエーテル部位、フッ化ビニリデン部位およびパーフルオロポリエーテル部位からなる群から選択される少なくとも一の部位であることが好ましく、成分Aがパーフルオロポリエーテル部位を有することがより好ましい。
【0019】
成分Aは、具体的には例えば、下記一般式
―X―R (1)
で示される構造を有する化合物であり、好ましくはパーフルオロアルキル化合物である。ここで、「フッ素を含有する有機部位」とは、成分Aが上記一般式(1)で示される構造を有する化合物である場合には、上記一般式(1)中、Xで示される部位とRで示される部位である。
【0020】
式(1)中のXで示される部位は、下記表1に示す部位から選択される少なくとも一の部位の任意の組み合わせからなることが好ましい態様である。また、Rで示される部位がフッ素を含まない場合はXで示される部位がフッ素を含む。
【0021】
【表1】
【0022】
表1中のn、m、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17は、15≦n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)≦200を満たすことが好ましい。n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)のより好ましい範囲としては、16≦n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)≦200、更に好ましい範囲としては、30≦n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)≦150、特に好ましい範囲としては、40≦n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)≦120である。
【0023】
表1中のm、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17はそれぞれ独立して0以上の整数である。すなわち、表1中のm、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17は、部位ごとにそれぞれ異なる値としてもよい。
ここで、m、m、m、m、m、m、m、m、m、m10、m11、m12、m13、m14、m15、m16、及びm17が0であるとは、表1に記載のそれぞれの部位が式(1)中のXで示される部位に含まれないことを示す。また、表1中のOは、エーテル結合を構成する酸素を示す。
【0024】
表1中のnは、それぞれ独立して1以上の整数であり、好ましくは2以上である。また、nは、好ましくは6以下、より好ましくは3以下である。例えば、nは部位ごとにそれぞれ独立して1~6であることができる。すなわち、表1中のnは、部位ごとにそれぞれ異なる値としてもよい。
Xで示される部位は、n×(m+m+m+m+m+m+m+m+m+m10+m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17)の取りうる範囲内であれば、分子鎖の途中で分岐し、表1で示される部位を含む側鎖が存在していてもよい。
【0025】
一般式(1)中のRは、加水分解性基、シラノール基、または加水分解性基含有シリル基を含む有機基であることが好ましい。加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2~10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基等の炭素数1~10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基やアミノ基などが挙げられる。中でも、メトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。加水分解性基含有シリル基を含む有機基における加水分解性基の数は、好ましくは1個~3個、より好ましくは2個~3個、さらに好ましくは3個である。
【0026】
一般式(1)中のRは特に制限されないが、Xで示される部位がフッ素を含まない場合はRで示される部位がフッ素を含む。Rは、水素またはフッ素で終端されるアルキル部位またはアルキルエーテル部位であることが好ましい。より好ましくはフルオロアルキル基またはフルオロアルキルエーテル基であり、さらに好ましくはパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキルエーテル基であることが望ましい。該アルキル部位、該アルキルエーテル部位、該フルオロアルキル基、該フルオロアルキルエーテル基、該パーフルオロアルキル基および該パーフルオロアルキルエーテル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。
【0027】
成分Aの具体例としては、表2に示す化合物を挙げることができるが、これらの化合物に限定されない。
また、成分Aとしては、フッ素を含有する有機部位を有する化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
【表2】

表中、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示す。
【0029】
本開示に係る成分Bを説明する。
成分Bは、不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を有する。好ましくは、成分Bは不飽和炭化水素結合を有する有機部位を有し、該不飽和炭化水素結合が、1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリイソプレン、1,4-ポリイソプレン、1,2-ポリクロロプレンおよび1,4-ポリクロロプレンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に由来する。より好ましくは、該不飽和炭化水素結合は、1,2-ポリブタジエンおよび1,2―ポリイソプレンからなる群から選択される少なくとも一の化合物に由来する。
また、成分Bが、不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を側鎖に有するポリオレフィンを有することも好ましい態様である。
【0030】
具体的には、成分Bは、例えば、下記一般式
―Y―R (2)
で示される構造を有するアルキル化合物である。
ここで、「不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位」とは、成分Bが上記一般式(2)で示される構造を有す化合物である場合には、上記一般式(2)中、Yで示される部位である。
【0031】
上記一般式(2)中のYで示される部位は、表3に示す不飽和炭化水素結合、炭素―酸素の2重結合および炭素―窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を含む部位を一以上含む。また、不飽和炭化水素結合、炭素―酸素の2重結合、および炭素―窒素の2重結合としては、いずれか1種の結合のみを一または二以上有してもよいし、2種以上の結合を組み合わせて有してもよい。また、表3に示す部位のうち、不飽和炭化水素結合を有しない部位をさらに組み合わせて有してもよい。
【0032】
【表3】
【0033】
表3のi及びj、j、j3、及びjは、32≦i×(j+j+j+j+j)≦180を満たすことが好ましく、40≦i×(j+j+j+j+j)≦150を満たすことがより好ましく、更には、50≦i×(j+j+j+j+j)≦120を満たすことがさらに好ましい。
表3中のiは、それぞれ独立して1以上の整数であり、部位ごとにそれぞれ異なる値としてもよい。
表3中のj、j、j3、及びjは、それぞれ独立して0以上の整数である。すなわち、表3中のj、j、j3、及びjは、部位ごとにそれぞれ異なる値としてもよい。
ここで、j、j、j3、及びjが0であるとは、表3に記載のそれぞれの部位が式(2)中のYで示される部位に含まれないことを示す。
上記i×(j+j+j+j+j)の取りうる範囲内であれば、分子鎖の途中で分岐し、不飽和炭化水素結合、炭素―酸素の2重結合および炭素―窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する部位からなる側鎖が、Yで示される部位内に存在していてもよい。
【0034】
成分Bの好ましい構造としては、不飽和炭化水素結合、炭素―酸素の2重結合および炭素―窒素の2重結合、のいずれか、もしくはそれらが任意の組み合わせで側鎖側に存在していることが好ましい。より好ましくは、不飽和炭化水素結合、炭素―酸素の2重結合のいずれか、もしくはそれらが任意の組み合わせで側鎖側に存在していることが望ましい。
【0035】
一般式(2)中のR及びRは、それぞれ独立に、反応基であっても、水素原子であってもよい。反応基としては、加水分解性シリル基、ヒドロキシル基であることが好ましく、ヒドロキシル基であることがより好ましい。
【0036】
成分Bの具体例として、表4に示す化合物を挙げることができるが、これらの化合物に限定されない。また、成分Bとしては、不飽和炭化水素結合、炭素―酸素の2重結合および炭素―窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を含む部位を一以上含む化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
【表4】
【0038】
また、成分Bの具体例として表5に示す化合物を挙げることができるが、これらの化合物に限定されない。
【0039】
【表5】
【0040】
表5で示される化合物は、不飽和炭化水素結合、炭素―酸素の2重結合、炭素―窒素の2重結合、のいずれかを有するアルキル部位で、側鎖の一部を置き換えた変性ポリオレフィンである。置き換える部位の例としては、イミノ部位、ビニル部位、カルボン酸部位、ケテン部位、イソシアネート部位、などを挙げることができる。
【0041】
本開示の表面層における成分Aに対する成分Bの構成比は、該表面層を顕微ラマン分光装置で測定したときの成分Aに由来するピーク強度をP、成分Bに由来するピーク強度をPとしたときのP/Pで表わされ、0.15~0.80の範囲で示すことができる。また、本開示の表面層における成分Aに対する成分Bの構成比は、本開示の表面層形成材料における成分Aに対する成分Bの質量比によって調整することができる。該構成比は、好ましくは0.20~0.60であり、より好ましくは0.20~0.50である。
成分Aに対する成分Bの構成比が0.15より小さい場合、防汚特性が発現したとしても、加工時に高荷重をかけた際の摩擦力が上がらず滑り性が抑制されないため、母材の加工が難しくなる。また、成分Aに対する成分Bの構成比が0.80より大きい場合、使用者が日常で使用する荷重の範囲でも摩擦力が高い状態となり、防汚特性が低下するだけでなく、汚れを拭き取る際にクロスが引っかかるなど使い心地に難点が生じる。
【0042】
成分Aに対する成分Bの構成比は、以下の方法により求めることができる。
まず、表面層のうち、顕微ラマン分光装置で測定する対象となる領域を決定する。当該領域は、装置に付属の対物レンズの倍率と励起レーザーの波長、アパーチャ径により決定する。以下、決定された当該領域を「測定領域」ともいう。
次に、測定領域について、励起レーザー光を照射し発生した散乱光を測定し、ラマンスペクトルを得る。測定条件は以下の通りである。
・測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製顕微ラマン分光装置
・対物レンズ倍率:10倍
・励起レーザー波長:532nm
・アパーチャ径:25μm
・測定領域:2μm
得られたラマンスペクトル中のピークのうち、C-F結合に由来するピークを、成分Aに由来するピークとし、当該ピークのピーク強度をPとする。また、得られたラマンスペクトル中のピークのうち、C=C結合、C=O結合またはC=N結合に由来するピークを、成分Bに由来するピークとし、当該ピークのピーク強度をPとする。
【0043】
該表面層にかかる荷重が14kgf、摩擦速度が2.5mm/秒で測定した摩擦力をXとし、
該表面層にかかる荷重が70kgf、摩擦速度が2.5mm/秒で測定した摩擦力をYとしたとき、
(Y-X)/X×100で表わされる摩擦力の変化割合は、50%~700%であることが好ましく、95%~680%であることがより好ましい。
該変化割合は、成分Aの種類、成分Bの種類、成分Aに対する成分Bの構成比によって制御することができる。
【0044】
本開示の表面層は、本開示の効果を損なわない範囲で、成分Aおよび成分B以外の任意の化合物を含有してもよい。
【0045】
≪第1の実施形態≫
図1は、表面層の第1の実施形態における構成を示す概略図であって、母材の上に下地層が形成され、該下地層の上に表面層を有する構成例を示す。
図1においては、母材11上に下地層12が存在し、下地層12の上に表面層13が形成された構成となっている。
なお、図1は表面層を有する構成を模擬的に表したものであり、母材11、下地層12および表面層13の実際の厚みを正確な比率で表したものではない。
【0046】
(母材11)
母材11は、固形物であり、かつ下地層12、表面層13または後述する中間層14もしくはハードコート層15を形成可能なものであればよく、例えば、ガラス、セラミック、樹脂または金属もしくはガラスや樹脂等から作られたフィルムなどが挙げられる。本開示の表面層を有する光学部材の母材として上記の材質のものを使用する場合、該母材は可視光あるいは特定の波長の光を透過し得るものであることが好ましい。
母材の厚みは特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。
【0047】
(下地層12)
必要に応じて、下地層を形成してもよい。下地層12は、表面層13を形成する下地となる層であり、母材11と表面層13との密着性を良好ならしめるものである。
本実施形態では、母材11と表面層13の密着性をより向上させるために、母材11の上に下地層12を形成し、当該下地層12の上に表面層13を形成している。なお、下地層の形成方法としては特に制限されないが、蒸着法、ディッピング法、塗布法、スプレー法、スピンコート法などが挙げられる。
下地層12の厚みについては特に制限はないが、2nm~150nm、好ましくは5nm~125nmである。
下地層12を形成する材料は、表面にヒドロキシ基が存在する物質であることが好ましい。例えば、表面にヒドロキシ基を有するSiOやAlなどの金属酸化物や、ヒドロキシ基を有するアルキル化合物などが挙げられる。
【0048】
(表面層13)
表面層13は、上記本開示の表面層である。
表面層13の厚みについては特に制限はないが、4nm~20nmであることが好ましい。厚みが4nm以上であると充分な防汚性が得られ、厚み20nm以下であると透明性が良好である。
【0049】
≪第2の実施形態≫
図2は、表面層の第2の実施形態における構成を示す概略図であって、母材の上に中間層が形成され、該中間層の上に下地層が形成され、該下地層の上に表面層を有する構成例を示す。
図2においては、母材11上に、低屈折率材料を有する中間層14a,14cと高屈折率材料を有する中間層14b,14dとが交互に積層された中間層14が形成されている。中間層14上に設けられた下地層12の上に、表面層13が形成されている。
なお、図2は表面層の構成を模擬的に表したものであり、母材11、中間層14、下地層12および表面層13の実際の厚みを正確な比率で表したものではない。
【0050】
(中間層14)
図2に示すように、中間層14は、母材11側から数えて奇数番目に積層された中間層14a,14cが低屈折率材料からなり、偶数番目に積層された中間層14b,14dが高屈折率材料からなる。
なお、本実施形態では下地層12も低屈折率材料からなり、中間層14上に積層され、中間層14と共に反射防止機能を発揮する。本実施形態では一例として中間層14を4層としており、高屈折率材料を有する中間層14dの上に下地層12が形成されているので、該下地層12は低屈折率材料とすることが好ましい。なお、例えば中間層14が3層であり、高屈折率材料を有する中間層14bの上に下地層12を形成する場合は、該下地層12は低屈折率材料とすることが好ましい。
また中間層14は、本実施形態に限定されるものではなく、中屈折率材料からなる層が適宜積層されてもよい。
【0051】
低屈折率材料としては、SiO(二酸化ケイ素)、Al添加SiO(アルミナ添加二酸化ケイ素)等が挙げられる。ただし、低屈折率材料はこれらに限定されるものではない。
高屈折率材料としては、アルミナ含有酸化チタン-酸化ランタン系混合材料、酸化チタン、酸化チタンを主成分とする他の混合酸化物、酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムを主成分とする混合材料、酸化ニオブ、酸化ニオブを主成分とする混合材料、酸化タンタル、酸化タンタルを主成分とする混合材料、酸化タングステン、酸化タングステンを主成分とする混合材料等が挙げられる。ただし、高屈折率材料はこれに限定されるものではない。
中屈折材料としては、酸化アルミニウム、酸化アルミニウムを主成分とする他の混合化合物、酸化マグネシウム、酸化マグネシウムを主成分とする他の混合化合物、フッ化イットリウム、フッ化セリウムなどが挙げられる。ただし、中屈折率材料はこれに限定されるものではない。
【0052】
中間層14および中間層14を構成する各層(図2では14a,14b,14c,14d)の厚みについては特に制限はないが、例えば、中間層14を構成する各層の厚みを10nm~200nmとし、必要な数を積層して中間層14を構成することができる。
なお、本実施形態における中間層14は4層構成であるが、本開示はこれに何ら限定されるものではなく、層数は何層であってもよい。
【0053】
また、本実施形態では上述のように低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して形成された反射防止膜の一部としての中間層14を備えてなるが、本開示はこれに何ら限定されるものではない。例えば、他のフィルターやミラー、帯電防止、キズ防止用ハードコート等から選ばれる機能を有する少なくとも1つの層を母材11と中間層14との間に形成してもよい。
【0054】
なお、表面層の第2の実施形態における母材、下地層および表面層としては、表面層の第1の実施形態と同様のものとすることができる。
【0055】
≪光学部材≫
図3は光学部材の第1の実施形態における構成を示す概略図である。
本実施形態は、眼鏡レンズに用いることができる光学部材である。
図3の光学部材は、樹脂からなる母材11と、キズ防止のためのハードコート層15と、表面層の第2の実施形態で述べた反射防止機能を有する中間層14と、下地層12と、表面層13と、が設けられている。図3では中間層14として、母材11側から数えて奇数番目に積層された中間層14aが低屈折率材料からなり、偶数番目に積層された中間層14bが高屈折率材料からなる2層構成としているが、これに限定されず、層数は何層であってもよい。また、中屈折率材料からなる層が適宜積層されてもよい。
また、ハードコート層15としては、例えばメラミン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、または上記樹脂の混合物、シラン化合物等を用いることができる。ただし、ハードコート層に使用する材料はこれに限定されるものではない。
なお、第1の実施形態における構成で示される光学部材は、眼鏡レンズに限られず、その他の公知の用途に用いることができる。
【0056】
図4は光学部材の第2の実施形態における構成を示す概略図である。
本実施形態は、カメラなどに用いられる光学レンズに用いることができる光学部材である。
図4の光学部材は、ガラスからなる母材11と、表面層の第2の実施形態で述べた反射防止機能を有する中間層14と、下地層12と、表面層13と、が設けられている。図4では中間層14として、母材11側から数えて奇数番目に積層された中間層14aが低屈折率材料からなり、偶数番目に積層された中間層14bが高屈折率材料からなる2層構成としているが、これに限定されず、層数は何層であってもよい。また、中屈折率材料からなる層が適宜積層されてもよい。
なお、第2の実施形態における構成で示される光学部材は、カメラ用光学レンズに用いられるものに限らず、光学フィルター、ディスプレイ用タッチパネル、各種フィルムなどにも用いることができる。
【0057】
≪眼鏡≫
図5は本開示の光学部材を使用した眼鏡の一実施形態における構成を示す概略図である。
本実施形態は、上述した本開示の光学部材である眼鏡レンズ31と、眼鏡フレーム32から構成されている。
【0058】
本開示の表面層形成用材料は、少なくとも成分Aと成分Bとを含む表面層形成用材料であって、
成分Aは少なくともフッ素を含有する有機部位を有し、
成分Bは不飽和炭化水素結合、炭素と酸素の2重結合および炭素と窒素の2重結合からなる群から選択される少なくとも一の結合を有する有機部位を有し、
表面層形成用材料における成分Aに対する成分Bの質量比が、0.15以上0.80以下である。
【0059】
本開示に係る表面層形成用材料を説明する。
本開示の表面層形成用材料を構成する成分A及び成分Bに関しては、本開示の表面層を構成する成分A及び成分Bと同様である。
本開示の表面層形成用材料における成分Aと成分Bの質量比は、成分Aの質量を1としたとき、成分Bの質量が0.15~0.80の範囲である。すなわち、表面層形成用材料における成分Aに対する成分Bの質量比は、0.15~0.80である。該質量比は、好ましくは0.20~0.60であり、より好ましくは0.20~0.50である。
成分Aに対する成分Bの質量比が0.15より小さい場合、表面層形成用材料を用いて形成された表面層が防汚特性を発現したとしても、該表面層を有する母材または光学部材の加工時に高荷重をかけた際の摩擦力が上がらず滑り性が抑制されないため、母材または光学部材の加工が難しくなる。また、成分Aに対する成分Bの質量比が0.80より大きい場合、使用者が日常で使用する荷重の範囲でも摩擦力が高い状態となり、表面層形成用材料を用いて形成された表面層の防汚特性が低下するだけでなく、汚れを拭き取る際にクロスが引っかかるなど使い心地に難点が生じる。
表面層形成用材料における成分Aに対する成分Bの質量比は、液体クロマトグラフィー質量分析法を用いて求めることができる。または、表面層形成用材料を作製する際の天秤で秤量した成分Aの質量及び成分Bの質量の値を用いて求めることも可能である。
【実施例
【0060】
以下に実施例を挙げて本開示をより具体的に説明するが、本開示は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
(表面層形成材料の作製)
成分Aとして表2に記載された(B-19)の化合物と、成分Bとして表4に記載された(a―4)の化合物を、成分Aに対する成分Bの質量比が0.20になるように金属製容器の中で調合し、表面層形成材料1を得た。
【0062】
(下地層の作製)
母材11である厚さ3mmのホウケイ酸ガラス上に、SiOからなる厚さ10nmの下地層12を真空蒸着装置(ドーム径Φ900mm、蒸着距離890mm)を用いて、蒸着法によって形成した。下地層12の厚みは分光エリプソメトリー(JA WOOLLAM社製-ESM300)を用いて測定した。
【0063】
(表面層の作製)
下地層12の上に、前記表面層形成材料1からなる本開示の表面層13を真空蒸着装置(ドーム径Φ900mm、蒸着距離890mm)を用いて、蒸着法によって形成し、実施例1の光学部材を作製した。表面層13の厚さを分光エリプソメトリー(JA WOOLLAM社製-ESM300)を用いて測定したところ、10nmであった。また、得られた表面層における成分Aに対する成分Bの構成比を顕微ラマン分光装置にて測定したところ、表面層形成材料における成分Aに対する成分Bの質量比と同じく0.20であった。
得られた光学部材の構成は、図1に示す本開示の表面層を有する光学部材の構成と同様である。
【0064】
(摩擦力の評価)
作製した光学部材の表面層について、下記の方法に従い表面層の摩擦力を測定した。
摩擦力の測定装置として、協和界面科学株式会社製自動摩擦摩耗解析装置Tribоster500を使用した。摩擦力を測定するための接触子として2mmにカットしたゴムパッド(3M社製レンズブロッキングパッド)を使用し、該ゴムパッドを光学部材の表面層に接触させて摩擦力の測定を行った。このとき、表面層にかかる荷重が14kgfと70kgfになるように装置の印加荷重を調整して試験を行った。摩擦速度は2.5mm/秒の条件で実施した。結果を表6に示す。
【0065】
(防汚特性の評価)
作製した光学部材の表面層について、下記の方法に従い表面層の防汚特性を評価した。
防汚特性を示す指標として、蛍光ペンのインクの弾き具合と拭き取りやすさを評価指標とし、下記基準に基づいて評価を行った。結果を表6に示す。
(評価基準)
A:ペン先を表面層に付着させると、2秒未満でインクが球状になって弾かれ、クリント紙で容易に拭き取ることができる。
B:ペン先を表面層に付着させた後、2秒~5秒かけてインクが球状になって弾かれ、クリント紙で拭き取ることができる。
C:ペン先を表面層に付着させた後、5秒を超えてもインクが弾かれず、クリント紙で強くこすらないと拭き取ることができない。
【0066】
[実施例2~198]
成分Aとして用いる表2に記載された化合物、成分Bとして用いる表4に記載された化合物、及び、表面層形成後の成分Aに対する成分Bの構成比を、それぞれ表6及び表7に記載の通りになるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、金属製容器の中で調合し、表面層形成材料を作製した後、下地層と表面層を形成し、本開示の表面層を有する光学部材を作製した。また、実施例1と同様に摩擦力の評価と防汚性能の評価を行った。結果を表6及び表7に示す。
なお、実施例2~198においても、実施例1と同様に、得られた表面層における成分Aに対する成分Bの構成比と、表面層形成材料における成分Aに対する成分Bの質量比は一致していた。
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
[比較例1]
表2に記載された(B-19)の化合物のみを金属製容器の中に注入し、表面層形成材料を作製した後、実施例1と同様に下地層と表面層を形成し、光学部材を作製した。また、実施例1と同様に摩擦力の評価と防汚性能の評価を行った。結果を表8に示す。
【0070】
[比較例2]
表2に記載された(B-15)の化合物のみを金属製容器の中に注入し、表面層形成材料を作製した後、実施例1と同様に下地層と表面層を形成し、光学部材を作製した。また、実施例1と同様に摩擦力の評価と防汚性能の評価を行った。結果を表8に示す。
【0071】
[比較例3]
表2に記載された(B-16)の化合物のみを金属製容器の中に注入し、表面層形成材料を作製した後、実施例1と同様に下地層と表面層を形成し、光学部材を作製した。また、実施例1と同様に摩擦力の評価と防汚性能の評価を行った。結果を表8に示す。
【0072】
[比較例4]
表4に記載された(a―4)の化合物のみを金属製容器の中に注入し、表面層形成材料を得た後、実施例1と同様に下地層と表面層を形成し、光学部材を作製した。また、実施例1と同様に摩擦力の評価と防汚性能の評価を行った。結果を表8に示す。
【0073】
[比較例5~16]
成分Aとして用いる表2に記載された各化合物、成分Bとして用いる表4または表9に記載された各化合物、及び、表面層形成後の成分Aと成分Bの構成比を、それぞれ表8に記載の通りになるように変更したこと以外は実施例1と同様に、下地層と表面層を形成し、光学部材を作製した。表8中の(d-5)、(d-6)、(d-7)、及び(d-8)は、表9で示される構造を有する化合物を示す。また、実施例1と同様に摩擦力の評価と防汚性能の評価を行った。結果を表8に示す。なお、比較例5~16においても、実施例1と同様に、得られた表面層における成分Aに対する成分Bの構成比と、表面層形成材料における成分Aに対する成分Bの質量比は一致していた。
【0074】
【表8】

表8中、O.L.とは、過負荷によって摩擦力の測定が行えなかったことを示す。
【0075】
【表9】
【0076】
[実施例199]
実施例2で得られた光学部材(ガラスレンズ)を加工し、市販のフレームに装着して眼鏡を作製した。作製した眼鏡のガラスレンズについて、実施例1と同様に防汚性能の評価を行ったところ、評価結果は「A」であった。
【符号の説明】
【0077】
11 母材
12 下地層
13 表面層
14 中間層
14a,14c 低屈折率材料を有する中間層
14b,14d 高屈折率材料を有する中間層
15 ハードコート層
31 眼鏡レンズ
32 眼鏡フレーム
図1
図2
図3
図4
図5