(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】マグネットセパレータ
(51)【国際特許分類】
B03C 1/247 20060101AFI20231114BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20231114BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20231114BHJP
B24B 55/03 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
B03C1/247
B03C1/00 A
B03C1/00 F
B23Q11/00 U
B24B55/03
(21)【出願番号】P 2023033222
(22)【出願日】2023-03-03
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2022038468
(32)【優先日】2022-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 仁史
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073662(WO,A1)
【文献】特開2018-089560(JP,A)
【文献】特開2009-172590(JP,A)
【文献】特開2016-032777(JP,A)
【文献】特開2001-062336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 1/00-1/32
B23Q 11/00-13/00
B24B 53/00-57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理の研削液を貯留するダーティ槽と、処理後の研削液を貯留するクリーン槽と、磁気ドラムと、前記磁気ドラムの円筒状外周面に磁力を発生させる複数の永久磁石とを備え、前記磁気ドラムの円筒状外周面に対向するように湾曲して、研削液を前記ダーティ槽から前記磁気ドラムの円筒状外周面の表面に沿って前記クリーン槽へ案内する研削液案内板とが、固設されているマグネットセパレータであって、
前記磁気ドラムは、前記円筒状外周面を有し回転不能に設けられる外筒部と、前記外筒部の径方向内側において、水平な回転中心線まわりに回転可能に支持軸により支持された内筒部とを有し、
前記内筒部の回転方向は、前記円筒状外周面におけるスラッジの搬送方向とは周方向に逆向きであ
り、
前記複数の永久磁石は、周方向に連続するように位置固定に配設され、周方向に隣接する磁極の対向する磁極が同一の磁極となるように前記内筒に配置されていること
を特徴とするマグネットセパレータ。
【請求項2】
絞りパッドが前記円筒状外周面に押し付けられた状態と前記円筒状外周面から離間させられた状態とに切り換えられる絞り装置を有すること、
を特徴とする請求項1に記載のマグネットセパレータ。
【請求項3】
前記内筒部を回転させる駆動装置としてサーボモータもしくはステッピングモータを有すること
を特徴とする請求項
1に記載のマグネットセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削液中からそれに含まれる磁性粉体を除去するためのマグネットセパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば自動車部品、ベアリングなどの製造に際して用いられる研削装置では、研削液(クーラント)中からそれに含まれる磁性粉体を除去するために、研削液の循環経路中にマグネットセパレータが設けられている。たとえば、特許文献1に記載されたマグネットセパレータがそれである。
【0003】
この特許文献1に示されるマグネットセパレータは、研削液を貯留する貯留槽と、貯留槽内の研削液に一部が浸漬する状態で回転可能に貯留槽の側壁により水平に支持された円筒状外周面を有する磁気ドラムと、磁気ドラムの円筒状外周面に磁力を発生させるように磁気ドラム内に位置固定に配置された永久磁石と、磁気ドラムの円筒状外周面に吸着された磁性粉体を掻き取るように貯留槽に固定された掻取板とを備えている。そして、このように構成されたマグネットセパレータの貯留槽内では、未処理の研削液を貯留するダーティ槽と処理後の研削液を貯留するクリーン槽とに貯留槽内を仕切る堰板と、磁気ドラムの円筒状外周面のうちの下側の表面に所定の間隔を隔てて対向するように湾曲して堰板に連結され、堰板を超えた研削液を磁気ドラムの円筒状外周面のうちの下側の表面に沿って案内する研削液案内板とが、固設されている。これにより、研削液が堰板を乗り越えた後にドラムの円筒状外周面のうちの下側の表面と研削液案内板との間の吸着用流路を通過する過程で、研削液中の磁性粉体がドラムの外周面に吸着され、除去されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような従来のマグネットセパレータでは、回転する磁気ドラムにおける内筒に磁石が設けられ、内筒が固定される一方で外筒が回転させられる。これにより磁石の磁力により研削液中の磁性粉末が磁気ドラムに引きつけられ、外筒表面に磁性粉体が吸着される。そして、外筒が回転させられることで、外筒表面の磁性粉体はスクレイパーの位置まで運搬され、スクレイパーにより外筒表面から掻き取られる。かかる構成において、磁性粉体の除去率を上げる、あるいは、より大きい磁性粉体を除去する場合や、粘度が高く液中の磁性粉体の移動速度が遅くなる傾向にある油性の研削液を用いる場合などには、強力な磁石を用いて磁束密度を高める必要がある。かかる課題に対して特許文献1においては、磁石の配置を、回転ドラムの周方向において同じ極どうしが互いに向かい合うように配置することが開示されている。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の構成において、磁石による磁束密度を高めると、より大きな力で研削液中の磁性粉末が外筒表面に吸引されるため、外筒が回転した場合に摩擦力を上回る吸引力が生じ、外筒が回転するにもかかわらず磁性粉末を運搬できず、磁性粉末が外筒表面上の、内筒の磁束密度が高い位置に対応する位置に留まる問題がある。
【0007】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、高い磁性粉体除去率が安定的に得られるマグネットセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨とするところは、(a)未処理の研削液を貯留するダーティ槽と、処理後の研削液を貯留するクリーン槽と、磁気ドラムと、前記磁気ドラムの円筒状外周面に磁力を発生させる複数の永久磁石とを備え、(b)前記磁気ドラムの円筒状外周面に対向するように湾曲して、研削液を前記ダーティ槽から前記磁気ドラムの円筒状外周面の表面に沿って前記クリーン槽へ案内する研削液案内板とが固設されている、マグネットセパレータであって、(c)前記磁気ドラムは、前記円筒状外周面を有し回転不能に設けられる外筒部と、前記外筒部の径方向内側において、水平な回転中心線まわりに回転可能に支持軸により支持された内筒部とを有し、(d)前記内筒部の回転方向は、前記円筒状外周面におけるスラッジの搬送方向とは周方向に逆向きであり、(e)前記複数の永久磁石は、周方向に連続するように位置固定に配設され、周方向に隣接する磁極の対向する磁極が同一の磁極となるように前記内筒に配置されること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマグネットセパレータによれば、前記磁気ドラムの円筒状外周面は固定される一方、その径方向内周側に回転可能に設けられた内筒部に、永久磁石が設けられて、円筒状外周面に磁界が生じさせられる。このとき内筒部の回転方向は前記円筒状外周面におけるスラッジの搬送方向とは周方向に逆向きとされ、複数の永久磁石によりいわゆる反発磁気回路が構成されることにより、円筒状外周面において磁束密度の高い領域を生ずることができるので、例えば5μm以下のような細かいスラッジを研削液から分離し除去することが可能となる高い磁性粉体除去率が安定的に得られる。
【0011】
ここで、好適には、前記マグネットセパレータは、絞りパッドが前記円筒状外周面に押し付けられた状態と前記円筒状外周面から離間させられた状態とに切り換えられる絞り装置を有するものである。このようにすれば、簡易な構造により円筒状外周面上にある磁性粉体から研削液を絞り取ることができる。
【0012】
また好適には、前記マグネットセパレータは、前記内筒部を回転させる駆動装置としてサーボモータもしくはステッピングモータを有するものである。このようにすれば、サーボモータもしくはステッピングモータにより内筒部の回転角度を制御することができるので、所定の角度だけ回転し、静止させることと前記絞りパッドの円筒状外周面への押し付けとを連携して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例のマグネットセパレータの要部を示す正面図である。
【
図2】
図1のマグネットセパレータの要部を示す平面図である。
【
図3】
図2のマグネットセパレータの貯留槽内に設けられた堰板、及びその堰板に連結された研削液案内板を示すIII-III視断面図である。
【
図4】
図1の磁気ドラムの構成を説明する図である。
【
図5】
図1の磁気ドラムにおける永久磁石の配置を説明する図である。
【
図6】本発明の別の実施例における内筒の回転と磁性粉体の移動との関係を説明する図である。
【
図7】本発明の他の実施例のマグネットセパレータの要部を説明する図であって、
図1に相当する図である。
【
図8】本発明の別の実施例におけるマグネットセパレータの構成を説明する図であって、(a)は上面図、(b)は左側面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0015】
図1は、マグネットセパレータ10の要部を示す正面図である。
図2は、マグネットセパレータ10の要部を示す平面図である。マグネットセパレータ10は、たとえば、自動車部品、ベアリングなどの製造に際して用いられる研削装置に設けられた研削液循環装置を循環する研削液(クーラント)F中からそれに含まれる磁性粉体を除去して浄化するために、その研削液循環装置内の循環経路内に配置して用いられる。マグネットセパレータ10は、箱状の貯留槽18と、支持軸22と、貯留槽18内の研削液に一部が浸漬する状態とされた磁気ドラム26とを備えている。
【0016】
貯留槽18は、一対の側壁12a及び12bとそれら一対の側壁12a及び12bの左右端をそれぞれ連結する前壁14a及び後壁14bと一対の側壁12a及び12bの下端を連結する底壁16とを有する。また、一対の側壁12a及び12bの間に、それら一対の側壁12a及び12bと並行に、一対の内壁13a及び13bを有している。内壁13a及び13bは、前壁14a、後壁14b、底壁16、および後述する外筒44にそれぞれ液密となるように例えば溶接により接続されている。このようにして、一対の内壁13a及び13b、前壁14a、後壁14b、および底壁16によって構成される部分に、研削液Fが貯留される。
【0017】
磁気ドラム26は、前記一対の側壁12aおよび12bに対して固定された外筒44と、側壁12a及び12bにそれぞれ固設された支持ブロック20に軸端が固定されることによりそれら支持ブロック20間に水平に架け渡された支持軸22により、回転中心線Cまわりに回転可能に支持された内筒48とを有する。外筒44および内筒48はいずれも円筒形状を有しており、それらの軸心はいずれも前記内筒48の回転中心線Cとされている。
【0018】
外筒44は、その軸方向の両端が、前記一対の側壁12aおよび12bにそれぞれたとえば溶接などにより固定されている。言い換えれば、一対の側壁12aおよび12bが外筒44の端部となっている。側壁12a、12bと外筒44との固定は、必ずしも液密となるように行われる必要はなく、外筒44を固定するために行われればよい。
【0019】
図3は、マグネットセパレータ10の貯留槽18内に設けられた堰板32及び堰板32に連結された研削液案内板34を示すIII-III視断面図である。
図3に示すように、貯留槽18内には、未処理の研削液Fを貯留するダーティ槽28と処理後の研削液Fを貯留するクリーン槽30とに貯留槽18内を仕切る堰板32が、底壁16及び内壁13a及び13bに溶接等により固設されている。
【0020】
貯留槽18内には、磁気ドラム26の円筒状外周面24のうちの下側の表面にたとえば30mm程度の所定の間隔(吸着用流路の深さ)D1を隔てて対向するように湾曲して、堰板32を超えた研削液Fを磁気ドラム26の円筒状外周面24のうちの下側の表面に沿って案内して吸着用流路33を形成する研削液案内板34が、溶接等により、堰板32の上端部に接続された状態で固設されている。
【0021】
研削液案内板34は、内壁13aと内壁13bとの間にわたって設けられ、ダーティ槽28側の端部34a(上流側の端)が堰板32の上端縁32uに連結され、湾曲した最下部が支持板36を介して底壁16に連結されている。これら貯留槽18、堰板32、研削液案内板34は、たとえばステンレススチール板等の非磁性金属製である。
【0022】
図1に戻り、底壁16のうちのクリーン槽30に対応する部分には、クリーン槽30からの処理後の研削液Fを流出させる流出口38が設けられている。底壁16には、ダーティ槽28に未処理の研削液Fを流入させる図示しない流入口が設けられている。
【0023】
図2に示すように、磁気ドラム26は外筒44と内筒48と複数個の永久磁石50とを備えている。内筒48は、外筒44よりも回転中心線C方向において所定の寸法だけ両端から短く形成されている。内筒48は、支持軸22により軸受40を介して側壁12aおよび12bに対して回転可能に支持されている。すなわち、支持軸22には、一対の円形支持板46aおよび46bの中心部が固定されるとともに、外筒44の内側において外筒44と同心となるように一対の円形支持板46aおよび46bがそれらの円周部において内筒48を挟み込むように固定されている。これにより、支持軸22とともに内筒48が回転中心線Cまわりに回転可能とされている。外筒44および内筒48は、それぞれ非磁性金属製および磁性金属製であり、外筒44は、磁性粉体を吸着させる吸着面として機能する上述の円筒状外周面24を有している。
【0024】
図4は、磁気ドラム26の構成を説明する図であり、軸C方向に見た図である。本図においては、円形支持板46aが磁気ドラム26から外された状態を示している。複数個の永久磁石50は、内筒48の外周面のうち、幅(左右)方向においては
図2に示すように内筒48の幅と略同様の領域で、周方向においては
図4に示すように内筒48の周方向全体において内筒48の外周面に連続して貼り着けられている。吸着用流路33の幅方向の端部まで磁石を配設できない構造とすると端部において磁束の弱い部分が発生してスラッジがすり抜けてしまい、回収できないおそれがある一方で、本実施例の態様によれば、複数個の永久磁石50が幅方向において内筒48の幅と略同様とされるので、吸着用流路33の幅方向全体において磁束が発生させられ、スラッジを良好に吸着・除去しうる。複数個の永久磁石50は例えば、それぞれ11000G(ガウス)程度の磁束密度を生じさせる磁石とされている。また、内筒48に取り付けられた永久磁石50と外筒44の内周側表面とは、内筒48が回転する場合においても両者が干渉しない程度の狭い間隔が設けられている。
【0025】
図5は、磁気ドラム26における永久磁石50の配置を説明する図であって、磁気ドラム26の内筒48における周方向を平面に展開した図である。永久磁石50は、
図5に示すように、内筒48の回転中心線C方向(幅方向)において幅寸法を有し、周方向に長さ寸法を有している。この永久磁石50の幅寸法は内筒48の軸C方向長さと略等しく、また、長さ寸法は周方向に所定の間隔W1となるように選択される。この所定の間隔W1は、後述するスラッジの搬送において適した値とされる。また、長さ方向(内筒48の周方向)の端にN極およびS極が形成されるように磁化されている。複数の永久磁石50は、回転中心線Cまわりの周方向においては鉄板等の磁性金属製のスペーサ52を介して一定の空隙を相互間に形成した状態で、内筒48の外周面に貼り着けられている。ここで、複数の永久磁石50は、内筒48に配設された状態で、対向する磁極が相互に同じものとなっている。永久磁石50が周方向においてスペーサ52を介して配設され、かつ、対向する磁極が同じものとされることで、反発磁気回路が構成される。これにより、磁極間の漏れ磁束が多くなるとともに磁束密度が高くなり、外筒44の円筒状外周面24上に形成される磁力が高められている。具体的には、外筒44の円筒状外周面24において、例えば10000G、8000G、5000Gなどの大きさで定義される所望の磁束密度が生ずるようにされている。この所望の磁束密度は、研削液から分離しようとするスラッジの大きさなどによって設定され得る。また、円型支持板46a、46bは、内筒44と固定されると共に、複数の永久磁石50の幅方向へのズレ防止の効果を生ずることができる。
【0026】
図2に戻り、側壁12aの外側には、駆動モータ54が設けられている。駆動モータ54は例えば減速機付の駆動モータ54である。駆動モータ54は図示しないブラケットなどにより固定されている。駆動モータ54の出力軸は、側壁12aに設けられた貫通孔を通して支持軸22と相対回転不能に連結されており、磁気ドラム26の内筒48が駆動モータ54によって回転駆動されるようになっている。
【0027】
このように構成されるマグネットセパレータ10においては、ダーティ槽28に貯留された磁性粉体を含む研削液Fは、その貯留量が増加し、液面が堰板32の上端32uを超えると吸着用流路33に流れ込む。この際、内筒48に設けられた複数の永久磁石50が生じさせる磁界により、研削液Fに含まれる磁性粉体はそれら複数の永久磁石50の磁力により吸引され、外筒44上に張りついた状態となるが、駆動モータ54により磁気ドラム26の内筒48が
図1における矢印で示す方向に回転させられるので、内筒48の回転、すなわち永久磁石50の回転に伴って、外筒44上に張りついた磁性粉体は、外筒44上を滑るように周方向に移動する。
【0028】
外筒44には、外筒44の円筒状外周面24を移動してきた磁性粉体を引き剥がすために、掻取板96が固定されている。掻取板96は、磁気ドラム26の幅方向において内筒48において複数の永久磁石50が設けられている幅Wb(
図2参照)と同等以上の所定の掻取幅とされている。掻取板96の表面は、円筒状外周面24となめらか、かつ、隙間がなく連続するように、言い換えれば段差が少なくなるように固定されている。この固定は溶接であってもよいし、ネジ止めであってもよい。あるいは掻取板96は磁気ドラム26の外筒44に固定されるのではなく、外筒44の外周面24に押しつけられるように側壁12a、12b、あるいは内壁13a、13bに固定されてもよい。外筒44の円筒状外周面24を移動してきた磁性粉体は、回転する永久磁石50の磁力によって円筒状外周面24から掻取板96に移動して掻取板96上を移動することとなるが、掻取板96上を移動するのに伴って、永久磁石50からの距離が大きくなるため、磁力の影響が徐々に少なくなり、最終的には重力によって掻取板96上を滑り落ち、例えば図示しない容器内に落下する。
【0029】
図6は、本実施例における内筒48の回転と磁性粉体の移動との関係を説明する図である。
図6は、
図1のマグネットセパレータ10における外筒44と内筒48とのそれぞれの一部を拡大して示す図である。
図6(a)において、磁性粉体Sが位置P1にあることを示している。ここで、磁性粉体Sは、2つの永久磁石50の間に設けられたスペーサ52に対応した外筒44上にあり、これら2つの永久磁石50は、同一の磁極が対向して設けられている。そのため位置P1は磁束線が密な位置である。なお、この磁性粉体Sは塊状の複数の磁性粉体であってもよいし、単独の磁性粉体であってもよい。
【0030】
図6(b)は、
図6(a)の状態から微小時間が経過し、内筒48が時計回りに、すなわち、磁性粉体Sが移動すべき方向とは逆の方向に、図中A1で示すように回転駆動させられた状態を示している。なお、
図6(a)において磁性粉体Sがあった位置を示す補助線として、
図6(a)乃至(c)に共通する一点鎖線が設けられている。この一点鎖線と外筒44との交点が
図6(a)において磁性粉体Sがあった位置に対応する。
【0031】
図6(b)においては内筒48の回転にともない、磁束線が密である位置P1は矢印A1だけ回転した位置に移動する。一方、磁性粉体Sは、外筒44との摩擦などの影響により、
図6(a)における位置にとどまる、もしくは、内筒48の回転に遅れて移動を開始する。
【0032】
図6(c)は、
図6(b)の状態からさらに時間が経過し、
図6(a)の状態から内筒48が時計回りに図中A2で示すように回転駆動させられた状態を示している。
図6(c)においては、内筒48の回転にともない、
図6(a)において磁性粉体Sを吸引していた磁束線が密である位置P1は、
図6(b)よりもさらに時計回りに回転しており、
図6(a)において磁性粉体Sがあった位置から距離D1だけ離れる。一方、内筒48においてP1に隣接する磁束線が密である位置P2は、
図6(a)において磁性粉体Sがあった位置から距離D2だけ離れた位置となる。このとき、D1>D2となるように内筒48の回転速度が設定されることにより、磁性粉末Sは、それまで吸引されていたP1ではなく、P1に隣接す磁束線が密の位置であるP2に吸引されて移動することとなる。その結果、内筒48が
図6において時計回りに移動するにもかかわらず、磁性粉体Sは反時計回りに移動する。
【0033】
上述のように、本実施例のマグネットセパレータ10によれば、未処理の研削液Fを貯留するダーティ槽28と、処理後の研削液Fを貯留するクリーン槽30と、磁気ドラム26と、前記磁気ドラム26の円筒状外周面24に磁力を発生させる複数の永久磁石50とを備え、前記磁気ドラム26の円筒状外周面24に対向するように湾曲して、研削液Fを前記ダーティ槽28から前記磁気ドラム26の円筒状外周面24の表面に沿って前記クリーン槽30へ案内する研削液案内板34とが固設されており、前記磁気ドラム26は、前記円筒状外周面24を有し回転不能に設けられる外筒44と、前記外筒44の径方向内側において、水平な回転中心線Cまわりに回転可能に支持軸22により支持された内筒部48とを有し、内筒48は、円筒状外周面24におけるスラッジの搬送方向とは周方向に逆向きとされている。このようにすれば、前記磁気ドラム26の円筒状外周面24は固定される一方、その径方向内周側に回転可能に設けられた内筒48に、永久磁石50が設けられて、円筒状外周面24に磁界が生じさせられる。このとき内筒48の回転方向は円筒状外周面24における磁性粉体Sの搬送方向とは周方向に逆向きとされるので、例えば5μm以下のような細かい磁性粉体Sを研削液から分離し除去することが可能となる高い磁性粉体除去率が安定的に得られる。
【0034】
また、本実施例のマグネットセパレータ10によれば、複数の永久磁石50は、周方向に連続するように位置固定に配設され、周方向に隣接する磁極の対向する磁極が同一の磁極となるように内筒48に配置される。このようにすれば、複数の永久磁石50によりいわゆる反発磁気回路が構成されることにより、円筒状外周面24において磁束密度の高い領域を生ずることができる。
【実施例2】
【0035】
次に、本発明の他の実施例を説明する。以下の説明において、前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0036】
図7は、本発明の他の実施例のマグネットセパレータ110の要部を説明する図であって、
図1に相当する図である。マグネットセパレータ110は、前述の実施例におけるマグネットセパレータ10において、さらに絞り装置80が設けられている点において異なる。
【0037】
絞り装置80は、絞りパッド82とその絞りパッド82を外筒44の円筒外周面24方向に往復させる駆動装置84とを含んで構成されている。絞りパッド82は例えばゴム、スポンジなどの軟質弾性体から構成されている。絞りパッド82は、内筒48あるいは内筒48に設けられた永久磁石50の回転中心軸C方向の幅もしくはそれ以上の長さを有しており、回転中心軸Cと平行となるように配設される。絞りパッド82は、剛性のあるベース83の表面上に設けられ、その裏面には、駆動装置84の出力部材としてのロッド86が接続される。
【0038】
駆動機構84は、例えば公知のエアシリンダやクランク機構から構成され、その出力部材としてのロッド86を往復運動させることで、絞りパッド82を円筒外周面24に押し付けた状態と円筒外周面24から離間させられた状態とのいずれかとすることができる。絞りパッド82が円筒外周面24に押し付けられた状態と円筒外周面24から離間させられた状態との間を往復するためにロッド86もしくはベース83を案内するガイドが設けられてもよい。ここで、絞りパッド82は、外筒44の円周外筒面24上であって、磁性粉体が搬送される領域、すなわち、研削液Fの液面と、円筒外周面24の最高位置との間の位置において円筒外周面24に押し付けられるようにされている。これにより、研削液Fから出て永久磁石50の磁力により円筒外周面24の表面に張りつき、円筒外周面24に沿って移動する磁性粉体が、掻取板96により回収される前に絞られるとともに、搾り取られた液体は外筒円周面24に沿って吸着用流路33に戻る。
【0039】
また、本実施例においては、内筒48を回転させるための駆動モータ54として、回転角度を制御可能なサーボモータもしくはステッピングモータ(パルスモータ)54が好適に用いられる。サーボモータもしくはステッピングモータ54により、例えば(1)周方向に隣接する永久磁石50の一つ分の間隔(
図5のW1)に相当する角度ずつ内筒48を回転させ、(2)いったん回転を停止し、(3)回転を停止している間に絞りパッド82を外周円筒面24に押し付けた状態として磁性粉体を絞り、絞りパッド82を外周円筒面24から離間させる。この(1)~(3)の作動を繰り返すことにより、連続して磁性粉体における液分の絞りを行いつつ磁性粉体の回収を行うことができる。すなわち、かかる構成によれば、磁性材料から液体分を絞る作業において絞りローラを用いる必要がなく、構成を簡略化しうる。
【0040】
本実施例のマグネットセパレータ110は、本実施例のマグネットセパレータ110においても、
図1のマグネットセパレータ10と同様の作用効果が得られる。さらに、本実施例のマグネットセパレータ110は、絞りパッド82が前記円筒状外周面24に押し付けられた状態と前記円筒状外周面24から離間させられた状態とに切り換えられる絞り装置80を有するので、簡易な構造により円筒外周面24上にある磁性粉体から研削液を絞り取ることができる。
【0041】
また、本実施例のマグネットセパレータ110は、前記内筒48を回転させる駆動装置54としてサーボモータもしくはステッピングモータを有するので、サーボモータもしくはステッピングモータ54により内筒48の回転角度を制御することができ、所定の角度だけ回転し、静止させることと前記絞りパッド82の円筒状外周面24への押し付けとを連携して行うことができる。
【0042】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0043】
たとえば、前述の実施例のマグネットセパレータ10、110において、内筒48の回転速度は特に限定されていない。内筒48の回転速度、言い換えれば複数の永久磁石50の作り出す磁界の速度を異ならせることで、吸着用流路33を通過する研削液Fと永久磁石50との相対速度が異なるので、濾過精度あるいは吸着して搬送させる磁性粉体Sの粒径などを異ならせることができる。従って、所望の濾過精度となるように内筒48の回転速度を駆動モータ54によって制御することができる。
【0044】
また、外筒44の材料の選定においては、上述のように、永久磁石50からの磁力を受けた磁性粉体Sと外筒44との間に発生する摩擦力が磁性粉体Sの移動に適したものとなるように選択され得る。また、移動する磁性粉体Sによる傷がつきにくいように選択され得る。
【0045】
また、前述の実施例のマグネットセパレータ10、110における吸着用流路33を流れる研削液Fの向きは、実施例における態様に限定されない。すなわち、
図1においてダーティ槽28とクリーン槽30との位置が入れ代わり、研削液Fが吸着用流路33を前述の実施例と逆方向に流れるようにすることも可能である。吸着用流路33を流れる研削液Fの向きは、永久磁石50の強度や、収集しようとする磁性粉体の粒径などに応じて設定しうる。
【0046】
また、前述の実施例のマグネットセパレータ10、110においては、内筒48に設けられる複数の永久磁石50のそれぞれは、内筒の軸方向と略等しい幅を持つものが用いられたが、そのような態様に限定されない。周方向に
図5に示すような極配置を実現するものであれば、内筒の軸方向にも複数の永久磁石50が並べられることもできる。また、複数の永久磁石50の数も実施例のものに限定されない。
【0047】
また、前述の実施例のマグネットセパレータ10、110において、内筒48は駆動モータ54の出力軸に直接接続される態様を示したが、このような態様に限定されない。例えば、内筒48および駆動モータ54の出力軸にそれぞれ設けられたスプロケットやプーリなどにチェーンやベルトが巻き掛けられて駆動されてもよいし、複数の歯車を介して駆動されてもよい。
【0048】
また、前述の実施例においては、たとえば
図8に示すような構成を有することも可能である。以下、
図8を用いて本発明のマグネットセパレータの別の実施態様における構成を説明する。
図8は、本実施例のマグネットセパレータ110の構成を説明する図であり、
図8(a)は上面図、
図8(b)は左側面図を示している。
【0049】
図8(a)は、マグネットセパレータ110の上面図であり、前述の実施例の
図2などに対応している。本実施例のマグネットセパレータ110は、前述の実施例のマグネットセパレータ10と比べて、内壁13a、13bを有しないように構成されている点で異なる。また、前述の実施例においては、内筒48と一体的に回転する支持軸22は、外壁12aおよび12bに設けられた一対の支持ブロック20に取り付けられた軸受40により支持されていたが、本実施例においては、軸受40は、貯留槽18とは別に設けられた支持台120に設けられている。かかる構成により、貯留層18の構成をより簡素とすることができる。
【0050】
また、
図8(a)のマグネットセパレータ110においては、内筒48が外筒44から突き出すように設けられるとともに、内筒48においてその軸C方向において一対の側壁12aおよび12bの間の全体において、永久磁石50を設けられている。これにより一対の側壁12aおよび12bと研削液案内板34、および、外筒44の円筒状外周面24によって構成される吸着用流路33において、軸C方向のいずれの部分においても永久磁石50による磁力により磁性粉体Sを吸着することが可能となり、磁性粉体Sを含む研削液Fが磁気が及ばない個所を通り抜けることを防ぐことにより、濾過精度が向上する。
【0051】
図8(b)は、マグネットセパレータ110の左側面図であり、前述の実施例の
図1などに対応する図である。なお、本図においては、モータ54や減速機は除かれている。本図においては、前述の実施例における支持板36(
図1参照)に代えて、堰板35が設けられている点においてクリーン槽30などの構成が異なるが、吸着用流路33の構成においては実質的に前述の実施例と同様である。
【0052】
図8(b)に示すように、外筒44は、一対の側板12aから12bまで貯留槽18を横切るように設けられている。言い換えれば、外筒44は、一方の側板12aから他方の側板12bまで貯留槽18を突き抜ける円筒状の部材として設けられており、外筒44の両端はそれぞれの側板12aおよび12bと当接する位置において円環状に溶接などにより液密に接続されている。そして、外筒44により設けられた貯留槽18を突き抜ける空間に内筒48が配設される。
【0053】
貯留槽18が
図8あるいは
図1に示す構成を有することにより、貯留層をより簡素な構成とすることができるとともに、外筒44と側板12aおよび側板12bとが液密に接続されることから、内筒48を駆動する機構と、研削液Fとを完全に分離することができ、吸着用流路33などを含む貯留槽18から研削液Fが槽外に漏れ出ることを防ぐことができる。特に、磁性粉体Sを含む研削液Fが槽外に飛び散るなどして軸受け40や減速機などの内筒48を駆動する機構に入り込むことを原因とする不具合を防止することができる。
【0054】
また、前述の実施例においては、永久磁石50は、周方向に隣接する磁極が同一の磁極となるように内筒44に位置固定に配設されて円筒状外周面24に磁力を発生するものとされた。このようにすれば、永久磁石50から発生する磁界をより密なものとすることができる。一方で、本発明はかかる態様に限定されず、永久磁石50は、周方向に隣接する磁極が相異なる磁極となるように、すなわち、一の永久磁石50のN極が隣接する永久磁石50のS極と対向するように内筒44に位置固定に配設されても差し支えない。かかる態様においても、例えば永久磁石50の磁力が十分強いものである場合などは、円筒状外周面24に必要とされる磁力を発生させることができる。
【0055】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
10、110:マグネットセパレータ
12a、12b:側壁
13a、13b:内壁
18:貯留槽
22:支持軸
24:円筒状外周面
26:磁気ドラム
28:ダーティ槽
30:クリーン槽
32:堰板
34:研削液案内板
44:外筒
48:内筒
50:永久磁石