(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-13
(45)【発行日】2023-11-21
(54)【発明の名称】籾殻を用いた植生基盤構造体
(51)【国際特許分類】
A01G 20/20 20180101AFI20231114BHJP
A01G 24/25 20180101ALI20231114BHJP
【FI】
A01G20/20
A01G24/25
(21)【出願番号】P 2023033707
(22)【出願日】2023-03-06
【審査請求日】2023-03-07
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 透太
(72)【発明者】
【氏名】服部 浩崇
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-011838(JP,A)
【文献】特開平11-089421(JP,A)
【文献】特開平05-284849(JP,A)
【文献】特開2004-187587(JP,A)
【文献】特開2008-133311(JP,A)
【文献】特開昭63-148924(JP,A)
【文献】特開昭51-045006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 20/20
A01G 24/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部を具備したマット本体と、マット本体の収容部内に収容した軽量基盤材とを具備する法面緑化用の植生基盤構造体であって、
前記軽量基盤材は柱状の仮袋に軽量培地体を封入してなり、
前記軽量培地体は籾殻を粉砕した少なくともシリカ成分を含む籾殻粉製の植物質培地と、
粒状または粉状の汚泥肥料またはコンポスト肥料からなり、前記籾殻粉製の植物質培地を微生物群で分解
して遅効性肥料として機能させるための有機質肥料と、
植生用の種子とを少なくとも含み、
前記植生用の種子はイネ科植物の種子を主体とすることを特徴とする、
籾殻を用いた植生基盤構造体。
【請求項2】
前記軽量培地体の肥料に即効性肥料として機能する化学肥料を追加して含
むことを特徴とする、請求項1に記載の籾殻を用いた植生基盤構造体。
【請求項3】
前記植生用の種子が一年草の種子と多年草の種子とを組み合わせたことを特徴とする、請求項1または2に記載の籾殻を用いた植生基盤構造体。
【請求項4】
前記マット本体が並列に配置した複数の収容部を具備することを特徴とする、請求項1または2に記載の籾殻を用いた植生基盤構造体。
【請求項5】
前記マット本体が二枚の透孔シートからなり、前記透孔シートが有孔構造を呈することを特徴とする、請求項1または2に記載の籾殻を用いた植生基盤構造体。
【請求項6】
前記仮袋が溶解性、分解性又は腐食性の素材で形成してあることを特徴とする、請求項1または2に記載の籾殻を用いた植生基盤構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面緑化に適用可能な植生基盤構造体に関し、特に植物質廃材である籾殻を用いた植生基盤構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
稲作で発生する大量の籾殻の処分法に関し、農業分野では籾殻をマルチング資材や堆肥、暗渠資材等に活用し、畜産分野では籾殻を畜舎敷料として活用しているものの、その多くの籾殻が植物質廃棄物として廃棄処分されている。
このような現状において、籾殻の廃棄量の削減につながる籾殻の新たな活用技術が求められている。
【0003】
一方、緑化用の植生基盤材には、天然土、種子、肥料、有機系土壌改良材(ピートモス、バーク堆肥)等の混合物が使用され、袋詰めやマット状物等の形態で使用されている。
天然土を主体とした従来の植生基盤材は、重量が重たいために運搬や取扱いの不便さが指摘されている。
【0004】
籾殻の軽量性等に着目して、籾殻を植生基盤材に活用することが提案されている。
特許文献1には、地中に埋設した籾殻を保水層として活用することが開示され、特許文献2には、樹脂系接着剤を介して籾殻と軟質樹脂粉砕物を混練して製作した含水性と緩衝性に優れた緑化用培地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-325037号公報
【文献】特開2013-192495号公報
【0006】
籾殻そのものを植生基盤材として用いるには、以降に説明するような幾つかの課題がある。
<1>植生培地に籾殻を混合すると、植生基盤材の水はけがよくなり過ぎて植物が枯死するため、籾殻の混合量の調整が非常に難しい。
<2>籾殻そのものを地中に埋設しても、籾殻は自然腐食がし難い。
そのため、籾殻の組織内に含まれる栄養成分が放出されず肥料効果をまったく期待できない。
<3>籾殻は単独で分解し難いため、籾殻そのものに米ぬかや鶏糞等を加え、さらに加水すれば、籾殻を発酵させて堆肥化することが知られている。
しかしながら、籾殻そのものを堆肥化するには、数カ月以上の長期間を要する。
<4>籾殻を焼却灰にすれば肥料化し易くなるが、環境への影響が大きいことから籾殻の焼却処理が難しい。
<5>現在は良質な天然土の入手が困難になりつつあり、さらにピートモスやバーク堆肥は有限資源であることから、良質な天然土だけでなくピートモスやバーク堆肥の代替資材の提案が求められている。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、既述した課題を解決できる、以下の籾殻を用いた植生基盤構造体を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、収容部を具備したマット本体と、マット本体の収容部内に収容した軽量基盤材とを具備する法面緑化用の植生基盤構造体であって、前記軽量基盤材は柱状の仮袋に軽量培地体を封入してなり、前記軽量培地体は籾殻を粉砕した少なくともシリカ成分を含む籾殻粉製の植物質培地と、粒状または粉状の汚泥肥料またはコンポスト肥料からなり、前記籾殻粉製の植物質培地を微生物群で分解するための有機質肥料と、植生用の種子とを少なくとも含み、前記植生用の種子はイネ科植物の種子を主体とする。
本発明の他の形態において、前記軽量培地体の肥料に即効性肥料として機能する化学肥料を追加して含み、前記軽量培地体の肥料に即効性肥料として機能する化学肥料を追加して含み、前記有機質肥料に含まれる微生物群が籾殻粉製の植物質培地を分解して遅効性肥料として機能させる。
本発明の他の形態において、前記植生用の種子が一年草の種子と多年草の種子とを組み合わせるとよい。
本発明の他の形態において、前記マット本体が並列に配置した複数の収容部を具備する。
本発明の他の形態において、前記マット本体が二枚の透孔シートからなり、前記透孔シートが有孔構造を呈する。
本発明の他の形態において、前記仮袋が溶解性、分解性又は腐食性の素材で形成してある。
【発明の効果】
【0009】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>植物質培地を構成する籾殻粉を培地として有効活用できるので、入手が困難になりつつある天然土やピートモス等の使用を大幅に削減できる。
<2>籾殻粉で構成する植物質培地は良好な吸水性、保水性および透水性を有しているので、従来の植生基盤材と比べて良好な植生環境を長期間に亘って持続することができる。
<3>籾殻そのものを用いるのではなく、籾殻を微小な粉体に粉砕して用いるので、籾殻粉の混合量に多少の誤差が生じても、軽量培地体の水はけがよくなり過ぎる、といった問題を回避できる。
<4>植物質廃棄物である籾殻を粉砕して植生用の軽量培地体に活用できるので、籾殻の有効活用量を増やすことができる。
<5>籾殻粉製の植物質培地を用いることで、植生基盤構造体の大幅な軽量化が図れるので、植生基盤構造体の運搬性と取扱性を改善できるうえに、植生基盤構造体の外形寸法を拡張化できるので、植生基盤構造体の敷設工事の施工性も改善できる。
<6>有機質肥料と組み合わせることで、植物質培地を構成する籾殻粉の分解性がよくなって肥料化を促進することができる。
<7>籾殻を粉砕して使用することで、籾殻の組織内に含まれていた非結晶質シリカやミネラル等の養分の放出量が増えて、植物の生育性が高まる。
<8>種子に一年草の種子と多年草の種子を組み合わせ使用すると、早期緑化と複数年に亘り実効性の高い長期緑化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】植生試験の試験結果の説明図で、(A)は軽量培地体で生育した植物の写真、(B)は従来の植生基盤材で生育した植物の写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1>籾殻を用いた植生基盤構造体
図1を参照して説明すると、本発明に係る植生基盤構造体10は、複数の筒状の収容部21を具備したマット本体20と、マット本体20の収容部21内に収容した軽量基盤材30とを具備する。
【0012】
<2>マット本体
マット本体20は二枚の透孔シート22,23を積層したネット状のマット状物である。
マット本体20は、下位の透孔シート22の上面に上位の透孔シート23を筒状に弛みを持たせて被せ、両透孔シート22,23の間に複数の収容部21を形成する。
【0013】
<2.1>透孔シート
二枚の透孔シート22,23は、麻等の天然糸を交差して形成したネット構造、または同一方向に並べた複数の藁等の植物素材の間を編糸で縫い繋いで形成したすだれ構造を呈している。
植物の根系および植物の地上部の生育を阻害しないように、マット本体20の上下面は、ネット構造またはすだれ構造等の有孔構造になっていれればよい。
【0014】
<2.2>収容部
筒状の収容部21は、マット本体20の表面側に軽量基盤材30を収容するための空間であり、各収容部21に軽量基盤材30を収容して封入可能である。
収容部21の径や全長は適宜選択が可能である。
本例では、シート状のマット本体20に対して複数の筒状の収容部21を縦2列に設けた形態について示すが、各筒状の収容部21の縦列数や縦列間隔も適宜選択が可能である。
【0015】
<3>軽量基盤材
軽量基盤材30は植物が生育するための植生基盤材であり、柱状の軽量培地体31と、軽量培地体31を封入可能な仮袋35とを具備する。
【0016】
<3.1>軽量培地体
軽量培地体31は、天然土の代替材である乾燥した粉状の植物質培地32、種子33、および肥料成分の放出期間が異なる二種類の肥料34(化学肥料34aと有機質肥料34b)とにより構成する。
【0017】
<3.1.1>植物質培地(天然土の代替培地)
植物質培地32として、植物質廃棄物である籾殻を粉砕した籾殻粉を使用する。
籾殻とは、玄米を覆う硬質外皮であり、本発明ではこれらの籾殻を衝撃力や摩擦力を用いて適宜の粒径範囲に粉砕したものを籾殻粉と定義する。
籾殻の粉砕手段としては、表面粉砕または体積粉砕の何れでもよい。
例えば、石臼のような摩擦機構で以て籾殻を表面粉砕した場合、籾殻を中砕程度に粉砕することで植生に適した吸水性に改善することができる。
籾殻粉の粒径範囲は適宜選択が可能であるが、実用上は2.5mm以下が好ましい。
【0018】
天然土の代替培地として、籾殻を用いるのはつぎの理由からである。
ア)植物質廃棄物である籾殻の有効活用量を増やすため。
イ)軽量培地体31を大幅に軽量化(天然土培地の約1/3の重量)して、植生基盤構造体10の運搬性と取扱性をよくするため。
ウ)軽量培地体31を軽量化することに伴い、植生基盤構造体10の全体寸法を拡張化して、植生基盤構造体10の敷設工事の施工性を改善するため。
【0019】
<3.1.2>籾殻を粉砕した理由
籾殻を粉砕した籾殻粉を用いるのはつぎの理由からである。
ア)籾殻粉製の植物質培地32による吸水性、保水性および透水性を向上させるため。
イ)籾殻粉製の植物質培地32を培地としてだけでなく、有機質肥料34bとの組み合わせにより籾殻粉の分解を促進し、籾殻粉製の植物質培地32そのものを遅効性肥料として活用するため。
ウ)籾殻組織を破壊して組織内に含まれていた非結晶質シリカやミネラル等の養分を放出し易くするため。
【0020】
一般的に粉砕前の籾殻は、80%弱のセルロースと20%強の非結晶質シリカやミネラルを含んで構成されている。さらに粉砕前の籾殻は、撥水性が高いために微生物群による分解速度が非常に遅いために、肥料効果が殆ど期待できない取り回しの悪い資材であった。
【0021】
本発明では、籾殻を植生用培地に適合させるため、籾殻を粉砕して粉体の形態で使用する。
すなわち、粉砕に伴い籾殻組織が破壊されて多孔質構造となるので、籾殻粉製の植物質培地32そのものが良好な吸水性、保水性および透水性を発揮するだけでなく、親水性が高くなり、さらに籾殻組織が破壊されることでシリカやミネラル等の養分が放出し易くなる。
【0022】
植物質培地32は籾殻粉100%で構成してもよいが、必要に応じて10~30%程度の赤玉土(細粒)やピートモス等を混入してもよい。
【0023】
<3.1.3>種子
種子33は日本国内で採集した種子、或いは国内で生産した種子だけでなく、外来植物の種子も使用可能である。また種子33には木本類の幼木も含む。
種子33としては、例えばトールフェスク、メヒシバ、カゼクサ、チカラシバ等の一種または複数種を使用できる。
【0024】
種子33は単一種のみでもよいが、複数種類の種子33を混在するとよい。
種子33は一年草の種子と多年草の種子を組み合わせ使用すると、早期緑化と長期緑化の実現を可能とする。
【0025】
種子33は草花の種子に限定されず、木本類の幼木を用いてもよい。
木本類の幼木を用いる場合は、植生基盤構造体10の敷設後に軽量培地体31に木本類の幼木を植え込むことになる。
【0026】
<3.1.4>肥料(化学肥料と有機質肥料)
本例では、早期緑化と長期緑化を実現するため、肥料34には化学肥料34aと有機質肥料34bの二種類を使用する形態について説明する。
【0027】
化学肥料34aは乾燥した粒状の即効性肥料であり、植生直後の早期に肥料成分を放出する。
【0028】
本発明では、有機質肥料34bと籾殻粉製の植物質培地32とを組み合わせて用いる。
有機質肥料34bとしては、例えば含水率を低く設定した粒状または粉状の汚泥肥料やコンポスト肥料等を使用できる。
有機質肥料34bと籾殻粉を組み合わせて用いるのは、有機質肥料34bに含まれる微生物群による籾殻粉の分解を促進することで、籾殻粉を肥料化するためであり、籾殻粉は肥料成分を長期間に亘って放出する遅効性肥料として機能する。
このように有機質肥料34bと籾殻粉を組み合わせることで、有機質肥料34b単独の場合と比べて、肥料成分の放出期間が数倍以上に長くなる。
【0029】
大量の籾殻粉を遅効性肥料として有効活用できるので、有機質肥料34bの混合量が少なくて済む。
さらに、ピートモスの使用量を大幅に抑制できるか、またはピートモスをまったく使用せずに済む。
【0030】
なお、他の形態において、早期の植生を期待しない場合には、肥料34として有機質肥料34bのみを使用し、化学肥料34aを省略することも可能である。
軽量培地体31は少なくとも有機質肥料34bを含んでいればよい。
【0031】
<3.2>仮袋
植物質培地32は粉体状であるため、植物質培地32を仮袋35に詰め込んだ状態でマット本体20の筒状の収容部21に収容して封入する。
仮袋35は分解可能な素材で製作した底構造の細長の袋体である。
仮袋35には、溶解性、分解性又は腐食性の素材を用いることが望ましい。
仮袋35の素材としては、例えば、水溶性の紙素材や水溶性ポリビニルアルコールからなる溶解性シート等を使用できる。
【0032】
<4>植生基盤構造体の外形寸法
植生基盤構造体10の植生基盤材として軽量培地体31を使用するため、植生基盤構造体10の大幅な軽量化を図ることができる。
そのため、植生基盤材として天然土を用いた従来品と比べて、植生基盤構造体10の外形寸法を拡張できるので、植生基盤構造体10を法面Gへ敷設する際の作業効率がよくなる。
【0033】
[植生基盤構造体の特性]
植生基盤構造体10の特性について説明する。
【0034】
<1>植生基盤構造体の敷設例
図2は植生基盤構造体10の敷設例を示している。
植生基盤構造体10はマット本体20の裏面側を法面Gに向けて敷設し、アンカー等を打ち込んで固定する。
植生基盤構造体10の主材である軽量基盤材30が乾燥した軽量培地体31で構成されているため、現場における植生基盤構造体10の搬送作業と敷設作業を省労力で行うことができる。
【0035】
<2>植物質培地(籾殻粉)の性質
植生基盤構造体10が具備する軽量基盤材30は軽量培地体31を有し、軽量培地体31は籾殻粉を主体とする植物質培地32を有する。
籾殻そのものは高い撥水性を有しているが、籾殻を粉砕することで表皮組織が破壊される。そのため、籾殻粉そのものが高い吸水性と保水性を発揮する。
したがって、籾殻粉で構成する植物質培地32は、降雨や散水等により供給された水分を保持し易く、軽量基盤材30の吸水性および保水性が向上するだけでなく、根腐れを起こし難い透水性も有している。
さらに、本発明では籾殻そのものを用いるのではなく、籾殻を微小な粉体に粉砕して用いるので、籾殻粉の混合量に多少の誤差が生じても、軽量培地体31の水はけがよくなり過ぎる、といった問題は生じない。
【0036】
<3>植物の生長
種子33は植物質培地32を植生基盤材として生育する。
藩種して生育した植物の根系は、仮袋35と、有孔構造のマット本体20の下面の透孔シート22を突き破って法面Gに達した後、土中へ延伸する。
種子33から生育した植物は、仮袋35と有孔構造のマット本体20の上面の透孔シート23を突き破って生長する。
【0037】
<4>肥料効果
本発明では、肥料34として化学肥料34aと有機質肥料34bの二種類を含むことで、以下に詳述する早期緑化と長期緑化に適した肥料効果を発揮する。
【0038】
<4.1>短期緑化
化学肥料34aは即効性肥料として機能する。化学肥料34aは植生直後から肥料成分を放出することで、早期緑化の実現に役立つ。
【0039】
<4.2>長期緑化
有機質肥料34bは微生物群を含む。この微生物群は植物質培地32を構成する籾殻粉を分解して籾殻粉を肥料化する。
微生物群により肥料化された籾殻粉製の植物質培地32は、遅効性肥料として機能する。
有機質肥料34bと肥料化された籾殻粉製の植物質培地32は、長期間に亘って肥料成分を放出し続けることで、長期緑化の実現に役立つ。
【0040】
例えば、肥料成分の長期放出を目的として、天然土製の植生基盤材に多量の有機質肥料を混合すると、有機肥料の過剰放出を招いて植物の枯死を引き起こす。
【0041】
これに対して本発明では、少量の有機質肥料34bと多量の籾殻粉製の植物質培地32を組み合わせた。この組み合わせによって、植物質培地32の分解に伴う肥料化の速度を抑制できるので、有機肥料の過剰放出を回避できると共に、籾殻粉が有する良好な保水性、透水性等により植物の良好な植生環境を長期間に亘って維持することができる。
そのため、複数年に亘る長期緑化を実現することができる。
【0042】
種子33に一年草の種子と多年草の種子を混在しておくと、早期緑化と長期緑化の実現性が高くなる。
【0043】
<4.3>植物質培地(籾殻粉)の養分
一般的に籾殻は、非結晶質シリカやミネラル等を含んでいる。
非破壊状態の籾殻に有機質肥料34bを加えても微生物群による籾殻組織の分解が進まないため、籾殻の組織内に含まれた非結晶質シリカやミネラル等の養分が外部へ放出することは期待できない。
籾殻粉の分解性を促進するために粉砕した籾殻粉と有機質肥料34bと組み合わせると、籾殻の組織内に含まれていた非結晶質シリカやミネラル等の養分の放出量を増やすことが可能となり、非結晶質シリカやミネラル等の多量の養分を植物に提供することができる。
【0044】
<4.4>植物の植生試験
本発明の植生基盤構造体10の特性を確認するため、軽量培地体31と、育苗用土を主体とした従来の一般的な植生基盤材を用いて植生試験を行った。
【0045】
<4.4.1>共通事項
植生試験の共通事項はつぎのとおりである。
【0046】
<4.4.2>植生基盤材
軽量培地体31と従来の一般的な植生基盤材の配合はつぎのとおりである。
【0047】
<4.4.3>試験結果
試験結果を
図3に示す。
図3(A)は軽量培地体31で生育した播種後51日の植物を示し、
図3(B)は従来の植生基盤材で生育した播種後51日の植物を示している。
軽量培地体31で生育した播種後51日の植物(A)は、植物(B)と比べて草丈は低いが根系がしっかりと生長していることが確認できた。
植物(A)における根系の生長がよいのは、籾殻粉に含まれる非結晶質シリカやミネラル成分が寄与したものと推測できる。
【0048】
軽量培地体31における籾殻粉の配合量は、最低限の肥料分を除いて100%の配合でも問題はないが、植物の生育に必要な保水性と通水性を考慮すると、籾殻粉を80%以上含むことが望ましい。
【符号の説明】
【0049】
10・・・・植生基盤構造体
20・・・・マット本体
21・・・・収容部
30・・・・軽量基盤材
31・・・・軽量培地体
32・・・・植物質培地
33・・・・種子
34・・・・肥料
34a・・・化学肥料
34b・・・有機質肥料
35・・・・仮袋
【要約】
【課題】籾殻の有効活用を図り、良好な植生環境を長期間に亘って持続できる、籾殻を用いた植生基盤を提供すること。
【解決手段】収容部21を具備したマット本体20と収容部21内に収容した軽量基盤材30とを具備し、軽量基盤材30は柱状の仮袋35に軽量培地体31を封入してなり、軽量培地体31は籾殻を粉砕した籾殻粉製の植物質培地32と、植物質培地32を微生物群で分解するための有機質肥料34bと、植生用の種子33とを少なくとも含む。
【選択図】
図2