(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】鉄損の良好な方向性電磁鋼板とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20231115BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231115BHJP
C22C 38/02 20060101ALI20231115BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20231115BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20231115BHJP
【FI】
C21D8/12 D
C22C38/00 303U
C22C38/02
H01F1/147 175
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2019039058
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-11-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史明
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】新井 聡
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-183251(JP,A)
【文献】特開2002-220642(JP,A)
【文献】特開2000-173814(JP,A)
【文献】特開2000-144251(JP,A)
【文献】特開昭63-125621(JP,A)
【文献】特開平04-088121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、仕上焼鈍工程を有する、質量%で、Si:2.00~7.00%を含有し、残部がFe及び不純物である化学組成を有する方向性電磁鋼板の製造方法であって、冷間圧延工程以降に圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝を一定間隔で形成する溝形成工程を含み、
前記溝形成工程が、張力被膜形成工程後であり、
前記鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度をB8(T)と定義し、
溝形成材の目標B8(T)をB8m(T)と定義し、溝未形成材のB8(T)をB8n(T)と定義し、該溝の間隔をp(mm)、該溝が圧延直角方向となす角度をθ(°)と定義した場合に、前記溝形成工程で形成される溝深さd(μm)が以下の式(2)に従って算出されたことを特徴とし、溝の幅Wが20~100μmである、方向性電磁鋼板の製造方法。
【数1】
ここで
B8n≧1.90(T)、B8m≧1.87(T)
0≦θ≦30°
2≦p≦30
q=0.075である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝による磁区細分化処理を施す方向性電磁鋼板に関するものであり、特に溝深さを規定することにより、溝形成後の磁束密度が十分高く、かつ低鉄損の方向性電磁鋼板、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一方向性電磁鋼板はエネルギー節約の観点から鉄損を低減することが要望されている。特に巻き鉄心トランス用としては、人為的に溝を導入することにより歪取り焼鈍後にも磁区細分化効果を維持する手段が特許文献1に開示されている。この方法は、歯形ロール等の機械的手段により鋼板に溝を導入し磁区細分化を図るものである。
【0003】
また、上記の機械的手段以外にも、エッチングによる手段として、特許文献2、特許文献3に開示された技術が存在するが、いずれも溝を導入し、歪取り焼鈍後にも磁区細分化効果を発揮するという点で機械的手段と同様の技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-252726号公報
【文献】特開昭62-179105号公報
【文献】特開平4-88121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
方向性電磁鋼板では、圧延方向と交差する方向に溝を形成して磁区制御を行うことにより、鉄損を低減することが知られている。
【0006】
溝形成による磁区制御では、溝を形成することによる鉄損改善(鉄損低下)というメリットはあるが、一方で、溝の存在により磁束密度が低下するという問題がある。実用的には磁束密度の低下を許容できる範囲で調整されるが、明確な設計指針は確立されておらず、最適な形成条件が選定されているとは言えない。
【0007】
本発明者は各種材料の溝の深さと磁気特性の関連を調査するうち、溝の深さと鉄損改善効果の関係には、励磁される磁束密度に応じて変化する溝の深さの最適値が存在することを知見した。例えば特定の試験材において、1.7T励磁での溝深さの最適値は30μm程度であるのに対して、1.5T励磁での溝深さの最適値は35μmを超えていた。
【0008】
これらの知見から、本発明者は、磁区制御のために形成する溝の深さの最適値を、鋼板の磁気特性、特に磁束密度との関係で決定することに想い至った。そして、溝の深さだけでなく、溝の配置(溝の間隔、溝と鋼板圧延方向とのなす角度)を、鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度B8(T)との関連で最適化することに成功した。
【0009】
本発明は、上記の知見をもととして達成されたものであり、磁区制御を目的として鋼板表面に溝が形成された方向性電磁鋼板において、溝形成後の磁束密度が十分高く、かつ低鉄損の方向性電磁鋼板を得ることを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により、以下の態様が提供される。
[1]
質量%で、Si:2.00~7.00%を含有し、残部がFe及び不純物である化学組成を有し、圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝を一定間隔で有する鋼板であって、
鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度をB8(T)と定義し、前記溝を除去した鋼板のB8(T)をB8n(T)と定義し、該溝の深さをd(μm)と定義し、該溝の間隔をp(mm)、該溝が圧延直角方向となす角度をθ(°)と定義したときに、以下の式(1)を満足し、溝の幅Wが20~100μmである、方向性電磁鋼板
B8n+{0.1428+0.0032*d-(0.0722+0.0024*d)*B8n}*(3/p)*e^(-qθ)≧1.87 … (1)
ただし、B8n≧1.90(T)
0≦θ≦30°
2≦p≦30
q=0.075
である。
[2]
鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、仕上焼鈍工程を有する方向性電磁鋼板の製造方法であって、冷間圧延工程以降に、圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝を一定間隔で形成する溝形成工程を含み、
前記鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度をB8(T)と定義し、該溝の深さd(μm)を溝形成材の目標B8(T)と溝未形成材のB8(T)から決めることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
[3]
溝形成材の目標B8(T)をB8m(T)と定義し、溝未形成材のB8(T)をB8n(T)と定義し、該溝の間隔をp(mm)、該溝が圧延直角方向となす角度をθ(°)と定義した場合に、前記溝形成工程で形成される溝深さd(μm)が以下の式(2)に従って算出されたことを特徴とし、溝の幅Wが20~100μmである、項目[2]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法
【数1】
ただし、
0≦θ≦30°
2≦p≦30
q=0.075
である。
[4]
前記溝形成工程が、前記冷間圧延工程後かつ前記脱炭焼鈍工程前であることを特徴とする項目[2]または[3]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
[5]
前記溝形成工程が、張力被膜形成工程後であることを特徴とする項目[2]または[3]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、方向性電磁鋼板の製品板(張力被膜を形成された方向性電磁鋼板)に溝を形成して磁区制御する場合において、溝形成後の磁束密度が十分高く、かつ低鉄損の方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、溝深さdに対する磁束密度の低下量の実験値を整理したチャートである。
【
図2】
図2は、溝形成前の磁束密度B8と、溝形成による磁束密度低下量ΔB8を整理したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様による方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:2.00~7.00%を含有し、残部がFe及び不純物である化学組成を有し、鋼板表面に鋼板圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝を一定間隔で有することによって磁区制御を施したものである。
本発明の一態様による溝の深さd(μm)は、以下の式(1)を満足する。
B8n+{0.1428+0.0032*d-(0.0722+0.0024*d)*B8n}*(3/p)*e^(-qθ)≧1.87 … (1)
ここで、B8n(T)とは、溝を除去した鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度である。また、θは、溝が圧延直角方向と交差する角度(°)であり、溝が圧延方向と直交する(鋼板の幅方向である)場合、θ=0(°)である。pは溝の間隔(mm)であり、qは係数であり、以下を満足する。
2≦p≦30
q=0.075
溝により、溝方向に延伸する還流磁区が形成されて、溝の形成前に存在した180°磁区が細分化され、鉄損を下げる効果を持つ。この点で、溝の方向は、鋼板圧延方向に対して直交する方向であることが好ましいが、溝の方向はある程度圧延方向に傾いてもよく、θは0~30°の間で選択することができる。
ここで、qは以下のようにして定めた。まず溝形成前のB8が1.90Tから1.96Tの間にある試料を大量に準備し、これにd=15μmの溝を形成した。ただしθは0から30°とした。これら溝形成後の試料を歪取り焼鈍した後再度B8を測定し、これをB8m(θ)とした。さらにこれら試料の溝を除去、歪取り焼鈍した後再度B8を測定してB8n(θ)とした。
ΔB8(θ)=B8n(θ)-B8m(θ)とした。なお、それぞれに(θ)をつけているのはθの関数であることを示す。
次に、ΔB8(0)で規格化したΔB8(θ)をθに対してプロットし、このプロットをθ=0で1となるようe^(-qθ)でフィッティングしてqを定めた。ここでqは0.075であった。
溝の深さdは(1)式を満足するべきであるが、溝の幅Wは20μmから100μmの間で選択することができる。ここで溝の幅Wは溝形成方向と90°を成す角で観察した断面の平均の幅であり、平均の幅の定義については溝の断面形状が占める面積を溝の最大深さで除した値であり、たとえば溝断面の形状が矩形であれば鋼板表面における溝の幅がそのままWとなり、溝断面の形状が三角形であれば、鋼板表面における溝の幅の1/2がWとなる。
ここで、Wが小さすぎると磁区制御による鉄損低減効果を得ることができなくなり、Wが大きすぎると本発明により溝の深さを制御したとしてもB8の低下を回避することが困難となるため、Wを20μmから100μmの間にする。
【0014】
式(1)によって規定される溝深さdを有する電磁鋼板について説明する。
前述のとおり、溝形成による磁区制御法では、溝の存在により磁束密度が低下するという問題があり、加えて、溝形成による磁束密度低下量はばらつくことがある。そのため、実際的な運用では、出荷規格値までの十分なマージンを取って溝の深さを決めている。
【0015】
一般に、磁束密度の出荷規格は、製品グレードに応じて、定められている。ここでは、以下の磁束密度の出荷規格を用いて説明をする。
B8≧1.87(T) … <1>
B8とは、鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度である。なお、本明細書では、溝を除去した鋼板のB8(T)をB8n(T)と称することがある。溝を除去する手段として、研削または酸洗で鋼板表面を板厚方向に溝底まで全面的に除去する。さらに、研削による歪が残存する場合は、歪取り焼鈍を実施する。歪取り焼鈍の熱処理条件は、通常実施される条件で十分であり、たとえば800℃まで加熱した後2時間保定後、300℃以下まで15時間以上の時間で冷却するとよい。加熱速度はオーバーシュートが数十℃以内に収まるようにすれば、特に制限はない。雰囲気は非酸化雰囲気とすることが必要であり、たとえば水素75体積%、残部窒素としてもよい。
溝を除去する場合は鋼板の厚みを著しく減じることの無いよう、除去する鋼板の厚さは数十μm程度にとどめるようにする。これは、鋼板の板厚を大きく減じると磁気特性が変化する可能性があるためである。このような点に気を付ければ、鉄損や磁束密度等の特性は、溝の存在によって変化するとみなせるので、溝を除去した鋼板は、溝を形成する前の鋼板と、実質的に同等の特性(鉄損や磁束密度等)を有するものと扱うことができる。
また、本明細書では、溝未形成材(形成された溝を除去した電磁鋼板、または溝を形成する前の電磁鋼板)のB8をB8nと称し、溝形成材(溝を形成した後の電磁鋼板)の目標のB8をB8mと称することがある。
【0016】
従来の実際的な運用の一例として、溝の深さd(μm)は以下のように決められる。
図1は、θが0°、p=3mmの場合の溝深さdに対する磁束密度の低下量の実験値を整理したチャートである。このような経験データに基づいて、溝深さdを決定することができる。
溝形成前の平均的な磁束密度B8nが1.905T程度である場合、<1>式の条件を満たすためにはΔB8(磁束密度B8の低下量)は0.035T(1.905-1.87=0.035)まで許容できるはずである。
図1のチャートに基づくと、ΔB8が0.035Tとなる溝の深さは、おおよそ25μm超になる。
【0017】
しかし、実際には、溝形成による磁束密度の低下量はばらつきが大きく、同一溝深さの加工を行っても、B8の低下量(ΔB8)は一定ではない。このことから、ΔB8の上限値として、0.035Tは採用せずに、<1>式に対して0.01T程度のマージンを取って溝深さを定めている。その結果、ΔB8として0.025Tを採用し、
図1に基づいて、溝の深さを20μm程度としている。
【0018】
上記のようなマージンを考慮して決定された溝深さは、鉄損改善の観点からは好ましくない。前述のとおり、溝形成による磁区制御では、磁気特性のみを考慮した最適な溝深さがあるからである。つまり、溝深さを最適化することにより、より良好な鉄損が得られるはずである。
【0019】
また、前述のとおり、最適な溝深さは励磁する磁束密度との関係があり、概して、最適な溝深さは励磁する磁束密度が高いほど小さい。言い換えると、励磁する磁束密度が高いほど、溝形成による単位深さあたりの鉄損改善効果は、大きくなる傾向がある。この結果、<1>の条件よりも高いB8を示す素材では、より深い溝を形成することにより、より良好な鉄損が得られる効果が、より顕著に得られる。
【0020】
本発明者らは、溝深さを最適化して、良好な鉄損を得るためには、溝による磁束密度の低下量のばらつきの原因または実態を明らかにする必要があると考え、鋭意検討の結果、溝による磁束密度低下量はB8n(溝未形成材(溝を形成する前の鋼板)または溝を除去した鋼板のB8)への依存性があることを見出した。
図2は、その一例証である。
【0021】
図2は、溝未形成材(溝を形成する前の鋼板)または溝を除去した鋼板の磁束密度B8nと、θ=0°、p=3mm、W=50μmの溝による磁束密度低下量ΔB8を表したチャート例であり、溝の深さdでグループ分けされている。
図2の例や、各種材料での試験を繰り返して、同一の溝深さでは、磁束密度B8nが高いほど溝による磁束密度低下ΔB8が大きいことが確認された。
【0022】
また、
図2の例や、各種材料での試験を繰り返して、溝未形成材(溝を形成する前の鋼板)または溝を除去した鋼板の磁束密度B8 nに対するΔB8 は溝深さdによって異なることが確認された。概して、溝深さdが大きいほど、ΔB8が大きいことが確認された。
【0023】
上記の知見に基づいて、本発明者らは、溝による磁束密度低下量ΔB8と、溝未形成材(溝を形成する前の鋼板)または溝を除去した鋼板の磁束密度B8nとの関係式を以下のように立式することを着想した。
ΔB8=a×B8n+b … <2>
a=h×d+i … <3>
b=j×d+k … <4>
【0024】
上記の式<2>~<4>において、h、i、j、kは、
図2の例や、各種材料での試験を繰り返して得られたデータに基づいて、溝深さdの直線回帰から決定することができる。その場合、<3>、<4>は以下の<5>、<6>に書き換えられる。
a=0.0024*d+0.0722 … <5>
b=-0.0032*d-0.1428 … <6>
【0025】
溝形成材(本発明の対象である、溝を形成した後の電磁鋼板)の磁束密度をB8
mとすると、ΔB8は下記<7>式となる。
ΔB8=B8n-B8
m …<7>
<2>式に<5>~<7>を代入することにより、本発明が規定するB8
mを得るためのdを求める下記<8>式を得ることができる。
【数2】
【0026】
<8>の式により、溝未形成材(溝を形成する前の電磁鋼板)または溝を除去した電磁鋼板の磁束密度B8nと溝形成材(溝を形成した後の電磁鋼板)の磁束密度B8mと最適な溝深さdの関係を決めることができる。すなわち、溝形成後の高磁束密度、かつ低鉄損の観点で最適な深さの溝が形成された磁区制御方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0027】
より具体的には、磁束密度がB8nである溝未形成材(溝を形成する前の電磁鋼板)に、最適な溝深さdの溝を形成した場合には、溝形成材(発明鋼板、溝を形成した後の電磁鋼板)の磁束密度B8mは<8>式を満たすものとなり、その鋼板は、磁束密度と低鉄損の観点で最適な深さの溝が形成された磁区制御方向性電磁鋼板となる。
【0028】
また、<8>式を変形することにより、dを変数として溝形成材の磁束密度B8mを求める式<9>を導くこともできる。
B8m=(0.9278-0.0024*d)*B8n+0.0032*d+0.1428 … <9>
本発明は、磁束密度が十分に高い電磁鋼板を対象とし、本発明による電磁鋼板(溝を有する電磁鋼板)の磁束密度B8mを、B8m≧1.87と規定する。なお、B8mの上限は特に限定するものではなく、B8mの上限値が1.93(T)であってもよい。したがって、本願発明による電磁鋼板は下記式<10>を満たす。
(0.9278-0.0024*d)*B8n+0.0032*d+0.1428 ≧1.87 … <10>
なお、上記の式を適用できるB8nの範囲は特に限定するものではないが、B8nが極端に低い材料や極端に高い材料では上記式による溝深さの最適化にずれが生じることが考えられる。これを考慮すると、適用可能なB8nの範囲の目途として、B8nの下限値は、1.90(T)以下を採用してもよいが、1.91(T)としてもよい。また、B8nの上限値は、1.95(T)以上を採用してもよいが、1.94(T)としてもよい。
【0029】
さらに、溝角度θ(°)と溝ピッチp(mm)の影響を検討した結果、0°≦θ≦30°の範囲で<11>式とするとよいことが明らかになった。
B8n+{0.1428+0.0032*d-(0.0722+0.0024*d)*B8n}*(3/p)*e^(-qθ)≧1.87 …<11>
ただし、
B8n≧1.90(T)
2≦p≦30
q=0.075
である。
ここでpを2mmから30mmの間に限ったのは、2mmに満たないと溝形成によって鉄損がかえって悪化し、また30mmを超えると溝形成による鉄損改善効果が十分に得られなくなるためである。
【0030】
本願明細書において、鉄損はW17/50(W/kg)によって評価される。鉄損は小さいほど好ましく、本願発明による電磁鋼板の鉄損は、たとえば板厚が0.23mmの場合は0.84以下であってもよく、より好ましくは0.78以下であってもよく、さらに好ましくは0.75以下であってもよい。
【0031】
本発明の一態様である電磁鋼板の化学組成について説明する。
本発明に係る方向性電磁鋼板は、化学組成として、質量分率で、Si:2.00%~7.00%を含有し、残部がFeおよび不純物である。
【0032】
上記の化学組成は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させるよう制御するために好ましい化学組成である。
【0033】
また、本発明に係る方向性電磁鋼板は、磁気特性の改善を目的として、Feの一部に代えて、公知の任意元素を含有してもよい。Feの一部に代えて含有される任意元素として、例えば、次の元素が挙げられる。各数値は、それらの元素が任意元素として含有された場合の、上限値を意味する。
質量%で、
C:0.005%以下
Mn:1.00%以下、
S及びSe:合計で0.015以下、
Al:0.065以下、
N:0.005%以下
Cu:0.40%以下、
Bi:0.010%以下、
B:0.080%以下、
P:0.50%以下、
Ti:0.015%以下、
Sn:0.10%以下、
Sb:0.10%以下、
Cr:0.30%以下、
Ni:1.00%以下、
Nb、V、Mo、Ta、及びWのうちの一種または二種以上:合計で0.030%以下。
これら任意元素は、公知の目的に応じて含有させればよいため、任意元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。
【0034】
なお、不純物とは、上記に例示した任意元素に限らず、含有されても本発明の効果を損わない元素を意味する。意図的に添加する場合に限らず、鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から不可避的に混入する元素も含む。不純物の合計含有量の上限の目途としては、5%程度が挙げられる。
【0035】
注意を要するのは、方向性電磁鋼板では、脱炭焼鈍および二次再結晶時の純化焼鈍を経ることが一般的であり、比較的大きな化学組成の変化(含有量の低下)が起きることである。元素によっては、50ppm以下に低減され、純化焼鈍を十分に行えば、一般的な分析では検出できない程度(1ppm以下)にまで達することもある。
本発明に係る方向性電磁鋼板の上記化学成分は、最終製品における化学組成であり、出発素材でもある後述するスラブの組成とは異なることを申し添えておく。
【0036】
本発明に係る方向性電磁鋼板の化学成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、方向性電磁鋼板の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、方向性電磁鋼板から採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
【0037】
本発明に係る方向性電磁鋼板の表面に、一般的に方向性電磁鋼板に設けられる被膜を、形成してもよい。これらは、例えば、グラス被膜、絶縁被膜、張力被膜などと呼ばれる。
【0038】
ただし、これらの被膜は、本発明に係る方向性電磁鋼板の必須の要素ではない。本発明に係る方向性電磁鋼板の上記の化学組成は、被膜を有する方向性電磁鋼板においては、その基材となる鋼成分の組成であり、表面の絶縁被膜を研削等により除去した後に測定するものとする。
【0039】
次に、本発明に係る方向性電磁鋼板の製造方法の一態様について説明する。本発明に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、仕上焼鈍工程を有し、冷間圧延工程以降に圧延方向と交差する方向かつ溝深さ方向が板厚方向となる溝を一定間隔で形成する工程を含み、
溝の深さd(μm)が溝形成材のB8(T)と溝未形成材のB8(T)から決定される。なお、ここで、B8(T)とは、鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度である。
【0040】
以下に示す工程及び各工程での定量的な条件は、本発明の実施可能性を示すために採用した一例であり、本発明は、これら工程及び定量値に限定されるものではない。本発明に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0041】
(鋳造工程)
鋳造工程では、スラブを準備する。スラブの製造方法の一例は次のとおりである。溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いてスラブを製造する。連続鋳造法によりスラブを製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されない。スラブの厚さは、例えば、150mm~350mmである。スラブの厚さは、好ましくは、220mm~280mmである。スラブとして、厚さが10mm~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。薄スラブを用いる場合、熱間工程において、仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
【0042】
スラブの化学組成は、一般的な方向性電磁鋼板の製造に用いられるスラブの化学組成を用いることができる。スラブの化学組成は、例えば、次の元素を含有する。
【0043】
C:0.085%以下、
Cは、製造工程においては一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、最終製品への含有量が過剰であると磁気特性に悪影響を及ぼす。したがって、C含有量は0.085%以下である。C含有量の好ましい上限は0.075%である。Cは主に後述の脱炭焼鈍工程で除去され、仕上げ焼鈍工程後には0.005%以下となる。Cを含む場合、工業生産における生産性を考慮すると、C含有量の下限は0%超であってもよく、0.001%であってもよい。
【0044】
Si:2.00%~7.00%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が2.00%未満であると、仕上げ焼鈍時にγ変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。一方、Si含有量が7.00%を超えると、冷間加工性が低下して、冷間圧延時に割れが発生しやすくなる。Si含有量の好ましい下限は2.50%であり、さらに好ましくは3.00%である。Si含有量の好ましい上限は4.50%であり、さらに好ましくは4.00%である。
【0045】
Mn:0.05%~1.00%
マンガン(Mn)はS又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mnを含有させる場合、Mn含有量が0.05%~1.00%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。インヒビターの機能の一部を窒化物によって担う場合は、インヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、Mn含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.20%である。
【0046】
S及びSe:合計で0.003%~0.035%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、Mnと結合して、MnS又はMnSeを生成し、インヒビターとして機能する。S及びSeの少なくとも一方を含有させる場合、S及びSeの含有量が合計で0.003%~0.035%であると、二次再結晶が安定する。インヒビターの機能の一部を窒化物によって担う場合は、インヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、S及びSe含有量の合計の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.010%である。S及びSeは仕上げ焼鈍後に残留すると化合物を形成し、鉄損を劣化させる。そのため、仕上げ焼鈍中の純化により、S及びSeをできるだけ少なくすることが好ましい。
【0047】
ここで、「S及びSeの含有量が合計で0.003%~0.035%」であるとは、スラブの化学組成がS又はSeのいずれか一方のみを含有し、S又はSeのいずれか一方の含有量が合計で0.003%~0.035%であってもよいし、スラブがS及びSeの両方を含有し、S及びSeの含有量が合計で0.003%~0.035%であってもよい。
【0048】
Al:0.010%~0.065%
アルミニウム(Al)は、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。Alを含有させる場合、Alの含有量が0.010%~0.065%の範囲内にある場合に、後述の窒化により形成されるインヒビターとしてのAlNは二次再結晶温度域を拡大し、特に高温域での二次再結晶が安定する。したがって、Alの含有量は0.010%~0.065%である。Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.025%である。二次再結晶の安定性の観点から、Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
【0049】
N:0.012%以下
窒素(N)は、Alと結合してインヒビターとして機能する。Nは製造工程の途中で窒化により含有させることが可能であるため下限は規定しない。一方、Nを含有させる場合、N含有量が0.012%を超えると、鋼板中に欠陥の一種であるブリスタが発生しやすくなる。N含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.009%である。Nは仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.005%以下であってもよい。
【0050】
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。なお、ここでいう「不純物」は、スラブを工業的に製造する際に、原材料に含まれる成分、又は製造の過程で混入する成分から不可避的に混入し、本発明の効果に実質的に影響を与えない元素を意味する。
【0051】
スラブの化学組成は、製造上の課題解決のほか、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、Feの一部に代えて、公知の任意元素を含有してもよい。Feの一部に代えて含有される任意元素として、例えば、次の元素が挙げられる。各数値は、それらの元素が任意元素として含有された場合の、上限値を意味する。
質量%で、
Cu:0.40%以下、
Bi:0.010%以下、
B:0.080%以下、
P:0.50%以下、
Ti:0.015%以下、
Sn:0.10%以下、
Sb:0.10%以下、
Cr:0.30%以下、
Ni:1.00%以下、
Nb、V、Mo、Ta、及びWのうちの一種または二種以上:合計で0.030%以下。
これら任意元素は、公知の目的に応じて含有させればよいため、任意元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。
【0052】
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程は、所定の温度(例えば1100℃~1400℃)に加熱されたスラブの熱間圧延を行い、熱間圧延鋼板を得る工程である。熱間圧延工程では、例えば、加熱工程で加熱された珪素鋼素材(スラブ)の粗圧延を行った後、仕上げ圧延を行って所定厚さ、例えば、1.8mm~3.5mmの熱間圧延鋼板とする。仕上げ圧延終了後、熱間圧延鋼板を所定の温度で巻き取ってもよい。
【0053】
インヒビターとしてのMnS強度がそれほど必要でない場合は、生産性を考慮すれば、スラブ加熱温度は1100℃~1280℃とすることが好ましい。
【0054】
(熱延板焼鈍工程)
本発明の一態様による製造方法は、熱延板焼鈍工程を含んでもよい。熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程で得た熱間圧延鋼板を所定の温度条件(例えば750℃~1200℃で、30秒間~10分間)で焼鈍して、焼鈍鋼板を得る工程である。
熱延板焼鈍工程は、高温スラブ加熱プロセスにおいてはAlNなどの析出物の形態を最終的に制御する工程であり、均一かつ微細に析出するように条件調整することができる。
【0055】
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程は、熱間圧延工程で得た熱間圧延鋼板、または熱延板焼鈍工程で得た焼鈍鋼板を、1回の冷間圧延、又は焼鈍(中間焼鈍)を介して複数回(2回以上)の冷間圧延(例えば総冷延率で80%~95%)により、例えば、0.10mm~0.50mmの厚さを有する冷間圧延鋼板を得る工程である。
【0056】
(脱炭焼鈍工程)
脱炭焼鈍工程は、冷間圧延工程で得た冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍(例えば700℃~900℃で1分間~3分間)を行い、一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程である。冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍を行うことで、冷間圧延鋼板中に含まれるCが除去される。脱炭焼鈍は、冷間圧延鋼板中に含まれる「C」を除去するために、湿潤雰囲気中で行うことが好ましい。
【0057】
(窒化処理)
本発明の一態様による製造方法は、窒化処理工程を含んでもよい。窒化処理は、二次再結晶におけるインヒビターの強度を調整するため、必要に応じて実施する工程である。窒化処理は、脱炭処理の開始から、仕上げ焼鈍における二次再結晶の開始までの間に、鋼板の窒素量を40ppm~200ppm程度増加させる。窒化処理としては、例えば、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で焼鈍する処理、MnN等の窒化能を有する粉末を含む焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板を仕上げ焼鈍する処理等が例示される。
【0058】
(焼鈍分離剤塗布工程)
焼鈍分離剤塗布工程は、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する工程であり、必要に応じて実施する工程である。焼鈍分離剤としては、例えば、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いることができる。焼鈍分離剤を塗布後の脱炭焼鈍鋼板は、コイル状に巻取った状態で、次の仕上げ焼鈍工程で仕上げ焼鈍される。
【0059】
(仕上げ焼鈍工程)
仕上げ焼鈍工程は、脱炭焼鈍鋼板、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を施し、二次再結晶を生じさせる工程である。この工程は、一次再結晶粒の成長をインヒビターにより抑制した状態で二次再結晶を進行させることによって、{100}<001>方位粒を優先成長させ、磁束密度を飛躍的に向上させる。
【0060】
(張力被膜形成工程)
鋼板に、コーティング溶液(例えば、りん酸又はりん酸塩、無水クロム酸又はクロム酸塩、及びコロイド状シリカを含むコーティング溶液)を塗布して焼き付けて(例えば、350℃~1150℃で、5秒間~300秒間)、張力被膜を形成してもよい。
【0061】
(溝形成工程)
方向性電磁鋼板には、磁区制御(磁区細分化)を目的として、冷間圧延後の工程で、レーザー、電子ビーム、プラズマ、機械的方法、エッチングなど、公知の手法により、局所的な溝が形成される。一般的には、深さがおよそ数μmから数十μmの溝が、圧延直角方向と0~50°の角度をなす方向に延伸して、およそ数mmから数十mmの間の一定の間隔で形成される。本発明の一態様での溝の深さd(mm)については後述する。また、本発明の一態様では、溝は圧延直角方向と0~30°の角度をなす方向に延伸して、およそ2mmから30mmの間の一定の間隔で形成されるとよい。ここで一定とは、上記で規定した間隔に対し、実際の各溝の間の間隔が規定した値に対し±10%以内の変動の中に納まることを意味する。また、溝幅は、20μmから100μmであるとよい。なお溝幅は溝形成方向と垂直な断面における平均寸法を指す。
溝を形成するタイミングは冷間圧延直後かつ脱炭焼鈍前、脱炭焼鈍後、仕上焼鈍後、張力被膜形成後などが挙げられ、任意のタイミングで溝を形成すれば良い。
本発明は形成される溝の深さを溝を形成した状態および溝を形成しない状態の電磁鋼板の磁束密度との関係で規定するものである。
【0062】
本発明の一態様によれば、溝の深さd(μm)が下記式(2)を満たすものであってもよい。
【数3】
ここで、B8(T)は鋼板を800(A/m)で励磁した場合の磁束密度であり、B8nは溝未形成材または溝を除去した鋼板の磁束密度B8であり、B8mは溝形成材の磁束密度B8である。
この式(2)によれば、溝未形成材(溝を形成する前の電磁鋼板)または溝を除去した電磁鋼板(素材)の磁束密度B8n、および溝形成材(溝を形成した後の電磁鋼板)の磁束密度B8
mから、本発明が規定するB8
mを得るための溝の深さdを求めることができる。言い換えると、式(2)を満たす溝の深さdの溝を形成することにより、溝形成材(溝を形成した後の電磁鋼板)のB8
mを得ることができる。また、(2)式を満たす溝の深さdを有する鋼板であれば、鉄損を小さくすることができる。溝形成材のB8
mは、1.93≧B8
m≧1.87であってもよい。また、溝未形成材のB8nの下限値は、1.90(T)以下を採用してもよいが、1.91(T)としてもよい。また、B8nの上限値は、1.95(T)以上を採用してもよいが、1.94(T)としてもよい。
【実施例】
【0063】
本発明について、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0064】
通常の方法で製造された、張力被膜を形成された板厚0.23mmの方向性電磁鋼板(Si含有率2.00~7.00%、残部がFeおよび不純物である化学組成を有する)を数種類用意した。電磁鋼板は溝形成前のB8nが1.90~1.96(T)であった。各電磁鋼板に、板幅方向にほぼ平行に、間隔5mmにて歯車ロールにより幅50μmの溝を導入した。このとき、歯車ロールに付与する圧力を変化させ、溝深さdを表1に記載の様々な深さになるように制御した。溝形成後の試料について、溝形成後のB8k(T)および鉄損W17/50(W/kg)を測定した。測定結果を表1に示す。
なお、表1の評価<1>は、溝形成後のB8k(T)が下記式を満たすものを『〇』とし、満たさないものは『-』とした。『〇』は、溝形成による磁束密度の低下が小さいことを意味する。
B8k(T)≧1.87(T)
また、表1の評価<2>は、鉄損W17/50(W/kg)が、0.84超のものを『-』、0.84以下のものを『〇』、0.78以下のものを『◎』、0.72以下のものを『☆』とした。
本発明によれば、溝形成による磁束密度の低下が小さく、低鉄損である、電磁鋼板が得られる。
【0065】
【0066】
通常の方法で製造された、張力被膜を形成された板厚0.23mmの方向性電磁鋼板(Si含有率2.00~7.00%、残部がFeおよび不純物である化学組成を有する)を数種類用意した。電磁鋼板は溝形成前のB8naが1.90~1.91(T)であった。各電磁鋼板に、板幅方向にほぼ平行に、間隔5mmにて歯車ロールにより幅50μmの溝を導入した。本発明例で導入する溝の深さdは、溝形成後のB8ma(T)を設定し、上記の溝形成前のB8naと合わせて、下記式に代入することにより、決定した。
【数4】
ただし、θ=0°、p=5mmである。
溝を導入する際に、決定した溝深さdとなるように、歯車ロールに付与する圧力を変化させた。同一の条件で100回の再現試験を繰り返した。溝形成後の試料について、溝形成後のB8ka(T)および鉄損W17/50(W/kg)を測定した。B8ka(T)の平均値および、鉄損W17/50が0.8(W/kg)以下の収率の結果を表2に示す。ここで、収率が95%以上であった場合に○、95%未満であった場合に-とした。なお、比較例は
図1を用いて従来通りの方法で溝を形成した結果である。
本発明によれば、溝形成による磁束密度の低下が小さく、低鉄損の電磁鋼板が、高収率で得られる。
【0067】
【0068】
通常の方法で製造された、張力被膜を形成された板厚0.23mmの方向性電磁鋼板(Si含有率3.20%、残部がFeおよび不純物である化学組成を有する)を用意した。電磁鋼板は溝形成前のB8nが1.90(T)であった。各電磁鋼板に、板幅方向にほぼ平行に、間隔5mmにて歯車ロールにより溝を導入した。このとき、歯車ロールに付与する圧力を変化させ、溝深さdをほぼ20μmに調整した。
表3に記載の様々な溝幅Wになるように制御した。溝形成後の試料について、溝形成後のB8k(T)および鉄損W17/50(W/kg)を測定した。測定結果を表3に示す。
なお、表3の評価<1>は、溝形成後のB8k(T)が下記式を満たすものを『〇』とし、満たさないものは『-』とした。『〇』は、溝形成による磁束密度の低下が小さいことを意味する。
B8k(T)≧1.87(T)
また、表3の評価<2>は、鉄損W17/50(W/kg)が、0.84超のものを『-』、0.84以下のものを『〇』、0.78以下のものを『◎』、0.72以下のものを『☆』とした。
本発明によれば、溝形成による磁束密度の低下が小さく、低鉄損である、電磁鋼板が得られる。
【0069】
【0070】
通常の方法で製造された、張力被膜を形成された板厚0.23mmの方向性電磁鋼板(Si含有率3.20%、残部がFeおよび不純物である化学組成を有する)を用意した。電磁鋼板は溝形成前のB8nが1.90(T)であった。各電磁鋼板に、板幅方向にほぼ平行に、間隔1.5~40mmにて歯車ロールにより溝を導入した。このとき、歯車ロールに付与する圧力を制御し、溝深さdをほぼ20μmに調整した。
表4に記載の様々な溝間隔pになるように制御した。溝形成後の試料について、溝形成後のB8k(T)および鉄損W17/50(W/kg)を測定した。測定結果を表4に示す。
なお、表4の評価<1>は、溝形成後のB8k(T)が下記式を満たすものを『〇』とし、満たさないものは『-』とした。『〇』は、溝形成による磁束密度の低下が小さいことを意味する。
B8k(T)≧1.87(T)
また、表4の評価<2>は、鉄損W17/50(W/kg)が、0.84超のものを『-』、0.84以下のものを『〇』、0.78以下のものを『◎』、0.72以下のものを『☆』とした。
本発明によれば、溝形成による磁束密度の低下が小さく、低鉄損である、電磁鋼板が得られる。
【0071】