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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】車体構造部材の設計方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/06 20060101AFI20231115BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20231115BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20231115BHJP
   B60J 5/00 20060101ALN20231115BHJP
   B60R 19/04 20060101ALN20231115BHJP
【FI】
B62D25/06 A
B62D25/04 Z
B62D25/20 Z
B60J5/00 Q
B60R19/04 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020034891
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021138167
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅彦
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-75715(JP,A)
【文献】特開平6-40255(JP,A)
【文献】特開2005-186777(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142205(WO,A1)
【文献】特開2001-312525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00- 25/08
B62D 25/14- 29/04
B60J 5/00
B60R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延在する車体構造部材の設計方法であって、
前記長手方向に垂直な断面における、
断面係数Z、
最大曲げモーメントMmaxと降伏モーメントMとの比率であるモーメント効率Mmax/M
衝突時の加工硬化による前記最大曲げモーメントMmaxへの影響度を示す第一影響度α、及び、
前記長手方向に垂直に延在する曲げ基準線に交差する方向への塑性変形域の進展による前記最大曲げモーメントMmaxへの影響度を示す第二影響度β、
が下記の(1)式と(2)式を満たすように、前記車体構造部材の断面形状及び/又は材質を設計することを特徴とする車体構造部材の設計方法。
【数1】

【数2】
【請求項2】
前記第一影響度αを、前記車体構造部材の降伏応力σyから引張応力σTSまでの加工硬化度合いを示すパラメータcの関数g(c)で算出し、
前記第二影響度βを、前記車体構造部材の弾性座屈応力σcr(R)と降伏応力σとの比率の関数f(σcr(R)/σ)で算出し、
前記モーメント効率Mmax/Mを下記の(3)式により算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の車体構造部材の設計方法。
【数3】
【請求項3】
前記関数g(c)がVoceの式に基づき導出される
ことを特徴とする請求項2に記載の車体構造部材の設計方法。
【請求項4】
前記断面のうち前記(1)式と(2)式を満たす断面が、前記長手方向の全長の50%以上に存在するように前記車体構造部材を設計する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の車体構造部材の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造部材の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体構造部材として、鋼板を材料として形成され所定の断面形状を有する中空部材が用いられている。これらの車体構造部材は、軽量化を実現するとともに、衝突等による衝撃が加えられた際に十分な曲げ耐力を有することが求められる。このため、近年、高い強度を有する高張力鋼板が材料として使用されることがある。
【0003】
下記の特許文献1には、軸方向圧縮曲げ変形を被る車体構造用部材において、より軽量で、軸方向圧縮曲げ強度が高い部材を実現するため、圧縮変形を受ける面を外側に凸に湾曲させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-186777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術は、部材の断面形状のうち、圧縮変形を受ける面の形状を外側に凸に湾曲させるのみであり、湾曲面に連続する平面も含めた断面形状が部材全体の曲げ耐力に与える影響を考慮していない。また、車体構造用部材に使用する材料の薄肉化・高強度化は、当該部材の弾性座屈応力を低下させうる。このため、曲げ荷重を受ける部位、特に平面部において、材料の降伏応力に到達する前に弾性座屈が生じるおそれがあり、これにより曲げ耐力が低下するおそれがある。
しかし、上記特許文献1に記載の技術を含め、従来の技術は、高い曲げ耐力を得るために最適な部材の断面形状を設定するものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、高い曲げ耐力を発現することが可能な、新規かつ改良された車体構造部材の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
(1)本発明の第一の態様は、長手方向に延在する車体構造部材の設計方法であって、前記長手方向に垂直な断面における、断面係数Z、最大曲げモーメントMmaxと降伏モーメントMとの比率であるモーメント効率Mmax/M、衝突時の加工硬化による前記最大曲げモーメントMmaxへの影響度を示す第一影響度α、及び、前記長手方向に垂直に延在する曲げ基準線に交差する方向への塑性変形域の進展による前記最大曲げモーメントMmaxへの影響度を示す第二影響度β、が下記の(1)式と(2)式を満たすように、前記車体構造部材の断面形状及び/又は材質を設計する車体構造部材の設計方法である。
【数1】

【数2】

(2)上記(1)に記載の車体構造部材の設計方法では、前記第一影響度αを、前記車体構造部材の降伏応力σから引張応力σTSまでの加工硬化度合いを示すパラメータcの関数g(c)で算出し、前記第二影響度βを、前記車体構造部材の弾性座屈応力σcr(R)と降伏応力σとの比率の関数f(σcr(R)/σ)で算出し、前記モーメント効率Mmax/Mを下記の(3)式により算出してもよい。
【数3】

(3)上記(2)に記載の車体構造部材の設計方法では、前記関数g(c)がVoceの式に基づき導出されてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の車体構造部材の設計方法では、前記断面のうち前記(1)式と(2)式を満たす断面が、前記長手方向の全長の50%以上に存在するように前記車体構造部材を設計してもよい。
【発明の効果】
【0008】
上記の本発明の態様によれば、弾性座屈を確実に回避しつつ、衝突時の加工硬化による最大曲げモーメントMmaxへの影響度と曲げ基準線に交差する方向への塑性変形域の進展による最大曲げモーメントMmaxへの影響度を考慮して高い曲げ耐力を発現できるように車体構造部材を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】構造部材の一例を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA-A’断面図である。
図2】湾曲部の曲率半径Rの設計変更による、断面係数Zの変化とモーメント効率Mmax/Mの変化を合わせて示すグラフである。
図3】曲率半径Rの増大に伴う最大曲げモーメントMmaxの変化を示すグラフである。
図4】降伏応力σから引張応力σTSまでの加工硬化度合いを示すパラメータcと関数g(c)の関係を示すグラフである。
図5】降伏応力σに対する弾性座屈応力σcrの比とモーメント効率Mmax/Mの関係をプロットしたグラフである。
図6】構造部材が適用される一例としての自動車骨格を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明において、車体構造部材の材軸方向、すなわち、軸線が延びる方向を長手方向と呼称する。
「断面長さ」とは、車体構造部材の長手方向に垂直な断面における周方向に沿った長さを意味する。
「平面部」とは、車体構造部材の長手方向に垂直な断面において直線状の部位、具体的には、断面の最大外形寸法よりも曲率半径が大きい部位を意味する。最大外形寸法とは、当該断面における任意の二点の端部間距離が最大となる直線の長さを意味する。
「湾曲部」とは、車体構造部材の長手方向に垂直な断面のうち、平面部を除く部位、すなわち、曲率半径が断面の最大外形寸法以下の部位であり、車体構造部材の外側方向又は内側方向に凸の円弧状の部位を意味する。従って、湾曲部のR止まりとは、平面部と湾曲部との境界を意味する。
「モーメント効率」とは、降伏モーメントMに対する最大曲げモーメントMmaxの割合を意味する。すなわち、モーメント効率はMmax/Mで計算される指標であり、モーメント効率が1を超えると塑性座屈が発生し、1未満であると弾性座屈が発生するとみなせる。
【0011】
湾曲部の曲率半径は、以下のようにして得られる。すなわち、車体構造部材の長手方向に垂直な断面において、湾曲部の両端の2つのR止まりと、表面のうち湾曲部において上記2つのR止まりの点から上記表面に沿って等距離に位置する曲げ中央点と、の3点を求める。これら3点から公知の数学的手法により曲率を求めることで、当該湾曲部の曲率半径が得られる。なお、上記表面は、板材の曲げ外側の表面である。
【0012】
以下、本実施形態に係る車体構造部材1の設計方法について、図1に示す車体構造部材(以下、構造部材1と呼称する)を例にとって説明する。
図1の(a)は、構造部材1の斜視図である。構造部材1は、車体の構造部材、言い換えると骨格部材である。車体は、例えば自動車の車体である。
構造部材1は、図1の(a)に示すように、長手方向に延在する中空筒状の角管部材である。図1の(b)は、構造部材1の長手方向中央部における、長手方向に垂直な断面(図1の(a)のA-A’断面)を示す。
【0013】
構造部材1は、鋼板などの板材に対し公知の種々の加工技術を適用することにより、形成され得る。一例として、ブランク材を、冷間又は熱間でのプレス加工により所定の形状に成形して端部を接合することで、構造部材1が形成されてもよい。
構造部材1は、後述する平面部における引張強度が1180MPa以上であることが好ましく、1500MPa以上であることがより好ましい。
なお、板材としては、構造部材1に求められる衝撃吸収特性や軽量化の観点から、例えば0.4mm以上1.6mm以下の鋼板であってよい。
板材の素材としては、鋼の他、アルミなどの金属であってもよい。
【0014】
構造部材1は、衝突時の荷重を受けて曲げが発生するように車体に設けられる。曲げは、長手方向に垂直な方向に延在する曲げ基準線Lを中心に、一方側が曲げ圧縮側、他方側が曲げ引張側となるように与えられる。図1の(b)に示す例では、曲げ基準線Lの上側が曲げ圧縮側であり、曲げ基準線Lの下側が曲げ引張側である。
【0015】
図1の(b)に示すように、構造部材1の断面は、長手方向に垂直な断面が、曲げ基準線Lに平行な一対の第一平面部11a,11aと、曲げ基準線Lに垂直な一対の第二平面部11b,11bとを有する。一対の第一平面部11a,11aと一対の第二平面部11b,11bは、四つの湾曲部12を介して連なることで、閉断面を構成している。
【0016】
一対の第一平面部11a,11aは、図1の(b)に示すように、曲げ基準線Lを挟んで平行に延在する。一対の第一平面部11a,11aは互いに距離hだけ離間している。
第一平面部11aは、第二平面部11bと比べ、曲げ基準線Lから遠くに配置されていることから、曲げ荷重による弾性座屈が発生しやすい部位である。従って、第一平面部11aの断面長さbが小さいほど、弾性座屈を抑制することができる。一方、第一平面部11aの断面長さbが小さすぎる場合には断面係数が低下し部材全体としての曲げ耐力が低下する。
尚、本実施形態では、曲げ基準線Lを中心に線対称の断面形状を例としているため、一対の第一平面部11a,11aが同一の断面長さを有するが、線対称ではない断面形状である場合、当該断面において最も弾性座屈しやすい平面部の断面長さを断面長さbとする。
【0017】
第二平面部11bは、曲げ基準線Lに垂直な方向に延在する部位である。第二平面部11bでは、曲げ基準線Lから離間する位置であるほど、高い圧縮応力又は引張応力が発生する。第二平面部11bの断面長さhが小さいほど、弾性座屈が発生しにくくなるが、断面長さhが小さすぎる場合には断面係数が低下し部材全体としての曲げ耐力が低下する。
尚、本実施形態では、曲げ基準線Lに垂直な方向を中心に線対称の断面形状を例としているため、一対の第二平面部11b,11bが同一の断面長さを有するが、線対称ではない断面形状である場合、曲げ基準線Lからの最大離間距離が最も長い平面部の断面長さを断面長さhとする。
また、本実施形態では、曲げ基準線Lに垂直な方向に沿って第二平面部11bが存在するが、第二平面部11bは曲げ基準線Lに交差していればよい。
【0018】
湾曲部12は、第一平面部11a及び第二平面部11bに比べ、曲げ荷重に対して高い剛性を有していることにより、弾性座屈しにくい部位である。
図1の(b)に示す断面においては、四つの湾曲部12がいずれも同一の曲率半径Rを有するが、曲率半径が異なる断面である場合には、曲率半径が最大である湾曲部の曲率半径を曲率半径Rとする。
【0019】
本発明者は、構造部材1における湾曲部12の曲率半径Rの設計変更は、断面係数Zと、モーメント効率Mmax/Mに影響を及ぼすことに着目した。
図2は、最大外形寸法を固定して湾曲部12の曲率半径Rの設計を変更した場合の、断面係数Zの変化とモーメント効率Mmax/Mの変化を合わせて示すグラフである。
このグラフに示すように、断面係数Zは、曲率半径Rの増大に伴い減少し、一方、モーメント効率Mmax/Mは、曲率半径Rの増大に伴い増大する。
そして、湾曲部12の曲率半径Rの増大に伴う最大曲げモーメントMmaxの変化は、図3のグラフに示すように波状(減少→増大→減少)の曲線として表される。
【0020】
ここで、湾曲部12の曲率半径Rの変化に伴う最大曲げモーメントMmaxの変化(傾き)は、以下のように求められる。
まず、最大曲げモーメントMmaxは、モーメント効率Mmax/Mに断面係数と降伏応力を掛けた値であるため、最大曲げモーメントMmaxは下記(101)式で表すことができる。
【数4】
【0021】
このうち、モーメント効率Mmax/Mと断面係数Zは、湾曲部12の曲率半径Rに依存する数値であり、降伏応力σは、湾曲部12の曲率半径Rに依存しない数値である。従って、(101)式を湾曲部12の曲率半径Rで微分すると、下記(102)式が得られる。
【数5】
【0022】
降伏応力σは正の値であることから、上記(102)式の右辺の括弧内の数式の値が0超である場合には、湾曲部12の曲率半径Rの増大に伴い最大曲げモーメントMmaxが常に増大することになる(すなわち、図3のグラフの右肩上がりの領域)。従って、下記(1)式を満たすように断面係数Zとモーメント効率Mmax/Mを設計すれば、高い曲げ耐力を確保可能な車体構造部材とすることができる。
【数6】
【0023】
ここで、塑性座屈が発生する条件におけるモーメント効率Mmax/Mの値は、衝突時の加工硬化による最大曲げモーメントMmaxへの影響度である第一影響度αと、第二平面の断面長さ方向(すなわち、曲げ基準線Lに交差する方向)への塑性変形域の進展による最大曲げモーメントMmaxへの影響度である第二影響度βとを加味して算出される。
具体的には、下記(2)式により表すことができる。
【数7】
【0024】
塑性座屈が発生する条件は、最大曲げモーメントMmax>降伏モーメントMであるため、モーメント効率Mmax/Mは1.0超である。そこで上記(2)式の右辺の第一項は1.0としている。
そして、1.0を超える範囲のモーメント効率Mmax/Mについては、第一影響度αと、第二影響度βとの乗算により決定されるため、上記(2)式の右辺の第二項はα・βとしている。
【0025】
従って、上記(1)式と上記(2)式を満たすように、すなわち、弾性座屈を回避しつつ、衝突時の加工硬化による最大曲げモーメントMmaxへの影響度(第一影響度α)と曲げ基準線Lに交差する方向への塑性変形域の進展による最大曲げモーメントMmaxへの影響度(第二影響度β)を考慮して最適な曲げ耐力を発現できるように車体構造部材を設計することで、高い曲げ耐力を有する構造部材を設計することができる。
【0026】
以下、第一影響度α及び第二影響度βについてより具体的に説明する。
【0027】
(第一影響度α)
第一影響度αは、構造部材1の材料の降伏応力σから引張応力σTSまでの加工硬化度合いを示すパラメータをcとし、材料の真応力σと塑性ひずみεとの特性を表す加工硬化則に基づきFEM結果から導出される。
加工硬化則としては、Voceの式、Swiftの式、n乗硬化則の式などの公知の式を採用することができる。
一例として、Voceの式を採用する場合、降伏応力σから引張応力σTSまでの真応力σは下記(103)式により表すことができる。
【数8】
【0028】
ここで、第一影響度αは、降伏応力σから引張応力σTSまでの加工硬化度合いを示すパラメータcの関数として関数g(c)と表現することができる。
図4は、上記(103)式に基づくFEM結果に基づきパラメータcと関数g(c)の関係をプロットしたグラフである。このグラフから、下記(104)式が導出される。
【数9】
【0029】
尚、上記(104)式は、Voceの式に基づきFEM結果から導出されたが、swiftの式やn乗硬化則の式に基づきFEM結果から導出されてもよい。
【0030】
(第二影響度β)
弾性座屈応力σcrが降伏応力σより大きくなるほど、材料の加工硬化および曲げ基準線Lに交差する方向への塑性変形域の進展により、モーメント効率Mmax/Mが大きくなる。図5は上記(104)式におけるパラメータc=0とし、g(c)=0すなわちα=0.15とし、第一影響度αを固定した上で実施したFEM結果に基づき、降伏応力σに対する弾性座屈応力σcrの比とモーメント効率Mmax/Mの関係をプロットしたグラフである。
曲げモーメントが大きくなって構造部材1の変形が更に進むと、曲げ基準線Lから遠い部分だけでなく曲げ基準線Lに近い部分も塑性変形域となる。そして最終的には部材の断面全てが塑性変形域となる。
従って、第二影響度βは、関数f(σcr(R)/σ)として下記(105)式で表現することができる。
【数10】
【0031】
尚、上記(105)式は曲率半径Rを変数としたFEM結果から導出されたが、板厚や断面サイズを変数としたFEM結果から導出されてもよい。
【0032】
上述のように、第一影響度αは関数g(c)、第二影響度βは関数f(σcr(R)/σ)により表現できる。従って、上記(1)式におけるモーメント効率Mmax/Mは下記(3)式により算出することができる。
【数11】
【0033】
このように、第一影響度αを、降伏応力σから引張応力σTSまでの加工硬化度合いを示すパラメータcの関数g(c)により算出し、第二影響度βを、弾性座屈応力σcr(R)と降伏応力σとの比率の関数f(σcr(R)/σ)により算出し、モーメント効率Mmax/Mを上記(3)式により算出することにより、最適な曲げ耐力を発現できる車体構造部材の断面形状及び/又は材質の設計をより的確に行うことができる。
特に、関数g(c)をVoceの式に基づき導出することが、より的確に第一影響度αを算出することができるため好ましい。
【0034】
以下、構造部材1について、上記(1)式における、d(Mmax/M)/dR、Z、及び、dZ/dRの具体的な求め方を説明する。
【0035】
d(Mmax/M)/dRは下記のように求められる。
まず、上記(3)式の関数f(σcr(R)/σ)を上記(105)式で置換すると、下記(106)式が得られる。
【数12】
【0036】
関数g(c)と降伏応力σは曲率半径Rに依存しないことから、上記(106)式を曲率半径Rで微分すると、下記(107)式が得られる。
【数13】
【0037】
ここで、σ′cr(R)(すなわち、σcr(R)の導関数であるdσcr(R)/dR)は、下記のように導出される。
まず、構造部材1の弾性座屈応力σcr(R)は、第一平面部11aの弾性座屈応力σcrが、(a)第一平面部11aのヤング率E、板厚t、及び、ポアソン比νが大きいほど大きくなり、(b)第一平面部11aの断面長さbが小さいほど大きくなる、との関係性に基づき、下記(108)式により導出することができる。
尚、bは断面の外形(mm)である。また、kは稜線の曲率半径の影響を受ける係数であり、平板の座屈の微分方程式と、それを満たす撓み形により求まる固有値から定まる値である。第一平面部11aの両端の稜線の曲率半径が0mmである場合にはk=4.0である。kは、、例えば、断面内の曲げ基準線の長さをbとしてk=4.0exp(-28R×t/b×b)の式により求めることができる。
【数14】
【0038】
構造部材1のような角管形状の場合、断面係数Zは、断面二次モーメントI、第二平面部11bの長さh+2Rである長さhとして下記(109)式及び下記(110)式により得ることができる。尚、θは第一平面部11aと第二平面部11bがなす角度(すなわち、本実施形態の例では90°)である。
【数15】
【数16】
【0039】
従って、(1)式におけるdZ/dR、すなわち、断面係数Zを湾曲部12の曲率半径Rで微分したものは下記(111)式により算出できる。
【数17】
【0040】
更に、上記(111)式におけるdI/dRは下記(112)式により算出できる。
【数18】
【0041】
以上、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明した。ここから、図6を参照して本発明の構造部材の適用例について説明する。図6は、構造部材が適用される一例としての自動車骨格2を示す図である。構造部材は、キャビン骨格または衝撃吸収骨格として自動車骨格2を構成し得る。
【0042】
構造部材の適用例は、ルーフセンタリンフォース201、ルーフサイドレール203、Bピラー207、サイドシル209、トンネル211、Aピラーロア213、Aピラーアッパー215、キックリーンフォース227、フロアクロスメンバ229、アンダーリーンフォース231、フロントヘッダ233等が挙げられる。また、衝撃吸収骨格としての構造部材の適用例は、リアサイドメンバー205、エプロンアッパメンバ217、バンパリーンフォース219、クラッシュボックス221、フロントサイドメンバー223等が挙げられる。上記の他、自動車のドアの内部に設けられた補強材としてのドアインパクトビーム等に構造部材を適用してもよい。要は、曲げ荷重が作用しうる部位であれば、本願の構造部材を適用可能である。
【0043】
本実施形態に係る構造部材の設計方法によれば、弾性座屈を回避しつつ、衝突時の加工硬化による最大曲げモーメントMmaxへの影響度と曲げ基準線に交差する方向への塑性変形域の進展による最大曲げモーメントMmaxへの影響度を考慮して最適な曲げ耐力を発現できるように車体構造部材を設計することで、高い曲げ耐力を有する構造部材を設計することができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態に係る構造部材1について説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
また、上記実施形態に係る構造部材1は、全長に亘り一様の断面形状を有するが、全長に亘り一様の断面形状を有さなくてもよい。この場合、上記(1)式と上記(2)式を満たす断面が、長手方向の全長の50%以上に存在することが好ましく、80%以上であることが更に好ましい。すなわち、上記(1)式と上記(2)式を満たす断面が、長手方向の全長の50%以上に存在するように車体構造部材を設計することが好ましく、80%以上に存在するように車体構造部材を設計することが更に好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、高い曲げ耐力を確保可能な車体構造部材の設計方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 構造部材
11a 第一平面部
11b 第二平面部
12 湾曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6