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特許7385127圧延スケジュール作成装置、圧延スケジュール作成方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】圧延スケジュール作成装置、圧延スケジュール作成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/28 20060101AFI20231115BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B21B37/28 110A
B21B37/00 221Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020061968
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159927
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】森田 彰
(72)【発明者】
【氏名】太田 武
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-063811(JP,A)
【文献】特開2002-263716(JP,A)
【文献】特開2004-283909(JP,A)
【文献】特開2021-023981(JP,A)
【文献】特開2000-167612(JP,A)
【文献】特開2012-143782(JP,A)
【文献】特開2002-113511(JP,A)
【文献】特開平03-032412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンデム圧延機を構成する複数の圧延スタンドにおける板クラウン・形状制御端の操作によって変更される前記圧延スタンドの出側における板クラウンの量である板クラウン制御量と、前記圧延スタンドにおける出側板厚とを少なくとも決めるための圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成装置であって、
前記圧延スタンドの出側における板クラウンと、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の形状との少なくとも一方に関する許容範囲を規定する不等式である板クラウン・形状制約式と、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの少なくとも1組について、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率の許容範囲を規定する不等式である圧下率制約式とを含む制約式を設定する制約式設定手段と、
最終段の前記圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の、理想板厚からの修正量を小さくすることを目的とする評価関数を設定する評価関数設定手段と、
前記制約式設定手段により設定された前記板クラウン・形状制約式および前記圧下率制約式を含む制約式を満足する範囲で、前記評価関数の値が最小または最大になるときの、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量を数理計画法による最適化計算を行うことにより導出する最適計算手段と、
前記最適計算手段により導出された、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量とに基づいて、圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成手段と、を有することを特徴とする圧延スケジュール作成装置。
【請求項2】
相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率の実績値の統計量に基づいて、前記相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率に対する上限値および下限値を計算する範囲計算手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項3】
前記圧延スタンドの出側板厚に基づいて、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率の実績値を計算する圧下率計算手段を更に有し、
前記圧延スタンドの出側板厚は、前記最適計算手段により導出された、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と前記理想板厚とに基づいて導出されることを特徴とする請求項2に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項4】
前記圧下率制約式は、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの組のうち、最上流の前記圧延スタンドと当該最上流の圧延スタンドに隣接する前記圧延スタンドとの組を含む上流側の少なくとも一部の組について、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率が上下限値内であることを示す制約式を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項5】
前記板クラウン・形状制約式は、最終段の前記圧延スタンドの出側における板クラウンの許容範囲または目標値を規定する第1の制約式と、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の形状の許容範囲を前記複数の圧延スタンドのそれぞれについて規定する第2の制約式と、前記板クラウン制御量の許容範囲を前記複数の圧延スタンドのそれぞれについて規定する第3の制約式とのうち、少なくとも、前記第2の制約式と前記第3の制約式とを含むことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項6】
前記板クラウン・形状制約式および前記圧下率制約式に含まれる少なくとも1つの制約式には、当該制約式に対して規定される前記許容範囲に対する緩和量が更に規定され、
前記評価関数は、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記緩和量と、それらのバランスをとるための重み係数とを含む関数であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項7】
前記評価関数は、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記緩和量の二乗の項と、それらのバランスをとるための重み係数とを含む関数であることを特徴とする請求項6に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項8】
前記評価関数は、前記圧延スタンドの出側板厚の理想板厚からの修正量を、当該圧延スタンドの出側の理想板厚で割る除算を行った値の絶対値または二乗の、前記最終段の圧延スタンドを除く前記複数の圧延スタンドについての総和を求める項を含むことを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項9】
前記形状は、伸差率または急峻度であることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の圧延スケジュール作成装置。
【請求項10】
タンデム圧延機を構成する複数の圧延スタンドにおける板クラウン・形状制御端の操作によって変更される前記圧延スタンドの出側における板クラウンの量である板クラウン制御量と、前記圧延スタンドにおける出側板厚とを少なくとも決めるための圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成方法であって、
前記圧延スタンドの出側における板クラウンと、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の形状との少なくとも一方に関する許容範囲を規定する不等式である板クラウン・形状制約式と、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの少なくとも1組について、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率の許容範囲を規定する不等式である圧下率制約式とを含む制約式を設定する制約式設定工程と、
最終段の前記圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の、理想板厚からの修正量を小さくすることを目的とする評価関数を設定する評価関数設定工程と、
前記制約式設定工程により設定された前記板クラウン・形状制約式および前記圧下率制約式を含む制約式を満足する範囲で、前記評価関数の値が最小または最大になるときの、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量を数理計画法による最適化計算を行うことにより導出する最適計算工程と、
前記最適計算工程により導出された、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量とに基づいて、圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成工程と、を有することを特徴とする圧延スケジュール作成方法。
【請求項11】
請求項1~9の何れか1項に記載の圧延スケジュール作成装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延スケジュール作成装置、圧延スケジュール作成方法、およびプログラムに関し、特に、タンデム圧延機で圧延される被圧延材の圧延スケジュールを作成するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
タンデム圧延機で板材を圧延する際には、各圧延スタンドの出側の板形状を一定の範囲に収めつつ、最終段の圧延スタンド(最下流の圧延スタンド)の出側の板クラウンを製品の許容範囲に収めることが求められる。各圧延スタンドの入側および出側の板クラウン比率が大きく異なると、板材の板幅方向の各位置における伸び率の差によって、板形状が悪くなり、安定通板に支障をきたすこととなる。
【0003】
このため、各圧延スタンドのクラウン・形状制御端を適切に設定することが必要となる。各圧延スタンドのクラウン・形状制御端として、例えば、ロールベンダが用いられる。ロールベンダでは、ワークロールのドライブサイドとワークサイドのそれぞれにロールベンディング力を付与する。これにより、板クラウンおよび形状(伸差率等)を制御することができる。
【0004】
しかしながら、望ましい板クラウン・形状を実現する際に、各圧延スタンドのクラウン・形状制御端の制御能力が不足する場合がある。このような場合には、板厚スケジュール(各圧延スタンドの出側板厚のスケジュール)を変更することにより、各圧延スタンドの圧延荷重を変更して、望ましい板クラウン・形状に近づけることが可能である。このような技術として、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1では、各圧延スタンドFiの出側における板クラウン制御量yiおよび伸差率εiに関する制約式と、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに関する制約式を満足する範囲で、最終段の圧延スタンドFnを除く圧延スタンドFkの出側板厚の理想板厚スケジュールh0kからのずれ量を小さくすることを目的とする評価関数Jの値を最小化するときの、各圧延スタンドFiにおける板クラウン制御量yiと、最終段を除く各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを導出する。これにより、ほぼ同一の圧延条件から得られる板厚スケジュールや、過去の経験に基づく理想板厚スケジュールからかけ離れないような板厚スケジュールを基に適切な板クラウンおよび形状の制御を行うことができる。
【0005】
また、前記理想板厚スケジュールを定める方法として、特許文献2には、各圧延スタンドの圧延荷重の比率が所定の比率になるように最下流の圧延スタンド以外の圧延スタンドの出側板厚を決定する方法が開示されている。圧延荷重の比率を板厚スケジュールの決定のための指標とする理由として、圧延ロールのたわみや偏平などの弾性変形を通じて圧延材の形状が圧延荷重の影響を強く受けることと、圧延荷重は圧延スタンドの負荷を表す1つの指標であることと、圧延スタンドの負荷を表す他の指標である圧延トルクやモータ電流なども圧延荷重と密接な関係があることとが挙げられる。
【0006】
この理想板厚スケジュールの決定は、板材がタンデム圧延機で圧延される前に行われるため、各圧延スタンドの圧延荷重の予測値を用いて行う必要がある。この圧延荷重の予測値は、各圧延スタンドの入側板厚および出側板厚、各圧延スタンドにおける板材の温度予測値および速度設定値などを入力として、板材の変形抵抗モデルを用いて求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-63811号公報
【文献】特開平11-267723号公報
【文献】特開昭59-76605号公報
【文献】特開2001-47116号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本鉄鋼協会共同研究会 圧延理論部会編、「板圧延の理論と実際」、社団法人日本鉄鋼協会、平成22年9月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般に、圧延荷重の予測には誤差比率(=予測値/真値-1)で0.1~0.2程度の予測誤差がある。従って、圧延荷重の予測誤差のある各圧延スタンドで理想板厚スケジュールに近くなるように特許文献1に記載の手法で決定した板厚スケジュール(各圧延スタンドの出側板厚のスケジュール)は、圧延荷重の予測誤差がない場合の板厚スケジュールとは異なることになる。よって、圧延荷重の誤差がどの圧延スタンドにどのように生じているかによって得られる板厚スケジュールが変化する。特に、圧延荷重の予測誤差が大きい場合、圧延荷重の予測誤差がない場合の本来得るべき板厚スケジュールとは大きく異なる板厚スケジュールしか得られないという課題がある。
【0010】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、圧延荷重の予測誤差が大きい場合でも、圧延荷重の予測誤差がない条件で決定される各圧延スタンドの出側板厚のスケジュールと大きく異ならないように各圧延スタンドの出側板厚のスケジュールを決定することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の圧延スケジュール作成装置は、タンデム圧延機を構成する複数の圧延スタンドにおける板クラウン・形状制御端の操作によって変更される前記圧延スタンドの出側における板クラウンの量である板クラウン制御量と、前記圧延スタンドにおける出側板厚とを少なくとも決めるための圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成装置であって、前記圧延スタンドの出側における板クラウンと、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の形状との少なくとも一方に関する許容範囲を規定する不等式である板クラウン・形状制約式と、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの少なくとも1組について、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率の許容範囲を規定する不等式である圧下率制約式とを含む制約式を設定する制約式設定手段と、最終段の前記圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の、理想板厚からの修正量を小さくすることを目的とする評価関数を設定する評価関数設定手段と、前記制約式設定手段により設定された前記板クラウン・形状制約式および前記圧下率制約式を含む制約式を満足する範囲で、前記評価関数の値が最小または最大になるときの、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量を数理計画法による最適化計算を行うことにより導出する最適計算手段と、前記最適計算手段により導出された、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量とに基づいて、圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の圧延スケジュール作成方法は、タンデム圧延機を構成する複数の圧延スタンドにおける板クラウン・形状制御端の操作によって変更される前記圧延スタンドの出側における板クラウンの量である板クラウン制御量と、前記圧延スタンドにおける出側板厚とを少なくとも決めるための圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成方法であって、前記圧延スタンドの出側における板クラウンと、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の形状との少なくとも一方に関する許容範囲を規定する不等式である板クラウン・形状制約式と、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの少なくとも1組について、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率の許容範囲を規定する不等式である圧下率制約式とを含む制約式を設定する制約式設定工程と、最終段の前記圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の、理想板厚からの修正量を小さくすることを目的とする評価関数を設定する評価関数設定工程と、前記制約式設定工程により設定された前記板クラウン・形状制約式および前記圧下率制約式を含む制約式を満足する範囲で、前記評価関数の値が最小または最大になるときの、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量を数理計画法による最適化計算を行うことにより導出する最適計算工程と、前記最適計算工程により導出された、前記最終段の圧延スタンドを除く前記圧延スタンドの出側板厚の修正量と、前記複数の圧延スタンドにおける前記板クラウン制御量とに基づいて、圧延スケジュールを作成する圧延スケジュール作成工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明のプログラムは、前記圧延スケジュール作成装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧延荷重の予測誤差が大きい場合でも、圧延荷重の予測誤差がない条件で決定される各圧延スタンドの出側板厚のスケジュールと大きく異ならないように各圧延スタンドの出側板厚のスケジュールを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】熱間圧延設備の概略構成の一例を示した図である。
図2】圧延スタンドに作用する圧延荷重と、ワークロールに付与するロールベンディング力の方向の一例を概念的に示す図である。
図3】圧延スケジュール作成装置の機能的な構成の第1の例を示す図である。
図4】圧延スケジュール作成装置の処理の第1の例を説明するフローチャートである。
図5】板クラウンと伸差率の一例を説明する図である。
図6】圧延スケジュール作成装置の機能的な構成の第2の例を示す図である。
図7】各圧延スタンドにおける圧延荷重の一例を示す図である。
図8】各圧延スタンドにおける圧下率の一例を示す図である。
図9】圧下率の比率の一例を示す図である。
図10】各圧延スタンドにおける板クラウンと急峻度の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。尚、各図では、表記の都合上、構成の一部を省略化及び簡略化している。また、各図に示すxyz座標は、方向を示すものであり、各図におけるxyz座標の原点は同じである(各図に示した位置にxyz座標の原点があるわけではない)。
【0017】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態を説明する。
<熱間圧延設備の概略構成>
図1は、熱間圧延設備の概略構成の一例を示した図である。
図1において、熱間圧延設備は、粗圧延機10と、仕上圧延機20と、ランアウトテーブル30と、と、コイル巻き取り装置40と、を有する。
【0018】
粗圧延機10は、図示しない加熱炉により加熱され、熱間圧延ラインに供給されたスラブAを粗圧延し、被圧延材であるシートバーBを形成するためのものである。
仕上圧延機20は、複数の圧延スタンド(図1に示す例では7台の圧延スタンドF1~F7)によりシートバーBを連続的に仕上げ圧延し、ストリップCを形成するためのものである。
タンデム圧延機を構成する各圧延スタンドF1~F7には、ロードセル21a~21gと、油圧圧下機構22a~22gと、ロールベンダ23a~23gとが設けられている。
ロードセル21a~21gは、シートバーBが圧延スタンドF1~F7の上下のワークロールの間を通過して圧延されるときに生じる圧延荷重を測定する。
油圧圧下機構22a~22gは、圧延スタンドF1~F7により圧延される際のシートバーBの圧下位置を調整する。
【0019】
尚、図1では、圧延スタンドF1~F7の上側にロードセル21a~21gが配置され、圧延スタンドF1~F7の下側に油圧圧下機構22a~22gが配置されている場合を例に挙げて示す。しかしながら、ロードセル21a~21gと油圧圧下機構22a~22gの配置は図1に示すものに限定されない。例えば、圧延スタンドF1~F7の下側にロードセル21a~21gが配置され、圧延スタンドF1~F7の上側に油圧圧下機構22a~22gが配置されてもよい。また、圧延スタンドF1~F7の上側と下側の双方にロードセル21a~21gが配置されていてもよい。
【0020】
ロールベンダ23a~23gは、ワークロールの端部の軸受(チョック)に対して、油圧シリンダによってロールベンディング力(ベンダ力、ベンダ圧ともいう)を付与し、ワークロールに生じているたわみを矯正する。本実施形態では、ロールベンダ23a~23gがクラウン・形状制御端の一例である。
図2は、圧延スタンドF1~F7に作用する圧延荷重と、ワークロールに付与するロールベンディング力の方向の一例を概念的に示す図である。
【0021】
図2に示す白抜きの矢印線で示す方向が、圧延スタンドF1~F7に作用する圧延荷重の方向である。また、黒両矢印線で示す方向が、ワークロールに付与するロールベンディング力の方向である。図2に示すように、ロールベンディング力は、ワークロールの両端のそれぞれにおいて付与される。このように、ワークロールの両端部にロールベンダが設けられている。
【0022】
ロールベンダ23a~23gは、例えば、インクリーズベンダとディグリーズベンダとを有する。インクリーズベンダは、上下のワークロールの軸受間の距離を広げる方向にロールベンディング力(曲げ力)を付与する。ディクリーズベンダは、上下のワークロールの軸受間を狭める方向にロールベンディング力(曲げ力)を付与する。
【0023】
この他、各圧延スタンドF1~F7には、ロードリレーがそれぞれ設けられている。圧延スタンドF1~F7に備わっているロードリレーは、シートバーBの先端が圧延スタンドF1~F7に噛み込むとオンし、シートバーBの尾端が圧延スタンドF1~F7から抜けるとオフする。
また、仕上圧延機20の各圧延スタンドF1~F7のワークロールに近接する位置には、ワークロールを冷却する不図示の冷却スプレーが設けられている。
【0024】
ランアウトテーブル30は、仕上圧延機20により仕上げ圧延されたストリップCを冷却するためのものである。
コイル巻き取り装置40は、一般にコイラーと称されるものであり、ランアウトテーブル30により冷却されたストリップCを巻き取るためのものである。
【0025】
<圧延スケジュール作成装置300>
本実施形態の圧延スケジュール作成装置300は、このような熱間圧延設備で熱間圧延される被圧延材(シートバーB)の各圧延スタンドF1~F6の出側板厚と、ロールベンダ23a~23gで付与するロールベンディング力を、当該被圧延材の圧延前に導出する。
【0026】
図3は、圧延スケジュール作成装置300の機能的な構成の一例を示す図である。圧延スケジュール作成装置300のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備える情報処理装置や、専用のハードウェアを用いることにより実現される。また、図4は、圧延スケジュール作成装置300の処理の一例を説明するフローチャートである。
【0027】
[データ格納部301]
データ格納部301は、熱間圧延設備における操業実績データと設備データを記憶する。
【0028】
操業実績データは、例えば、各圧延スタンドF1~F7のそれぞれについての、入側板厚、出側板厚、圧延荷重、板温度、および板速度(ワークロールの回転速度)、ロールベンディング力を含む。これらのデータが材料区分(被圧延材の材質)毎に操業実績データとしてデータ格納部301により記憶される。また、設備データは、各圧延スタンドF1~F7のそれぞれについての、ワークロールのロール径、ワークロールおよびバックアップロールに生じているクラウンを含む。
【0029】
[操業基準取得部302、ステップS401]
操業基準取得部302は、クラウン・形状制御端における制御量の基準値を取得する。前述したように本実施形態では、クラウン・形状制御端はロールベンダ23a~23gである。したがって、操業基準取得部302は、各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値を取得する。各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値は、材料区分(被圧延材の材質)毎の値である。
【0030】
操業基準取得部302は、例えば、過去の操業実績(前述の操業実績データ)から得られる各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の代表値(例えば平均値)を、各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値として取得することができる。この場合、各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値は、固定値になる。
【0031】
また、操業基準取得部302は、ロジックを用いて、各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値を計算してもよい。例えば、特許文献3に記載のように、被圧延材の板形状の通板限界値を考慮して、各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力(クラウン・形状制御端における制御量)を計算し、計算した値を、各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値とすることができる。
尚、以下の説明では、各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値を必要に応じて、ロールベンディング力の基準値または単に基準値と略称する。
【0032】
[理想板厚スケジュール取得部303、ステップS402]
理想板厚スケジュール取得部303は、データ格納部301に記憶されている操業実績データおよび設備データと、操業基準取得部302により得られた各圧延スタンドFiにおけるロールベンディング力の基準値とを用いて、各圧延スタンドFiの望ましい出側板厚を示す理想板厚スケジュールh0iを導出する。理想板厚スケジュールh0iは、材料区分(被圧延材の材質)毎に導出される。ここで、添字iは、圧延スタンドを識別するための変数であり、圧延スタンドの総数をnとすると、1~nの整数となり、上流側の圧延スタンドであるほど、小さな値が与えられる。図1に示す例では、7基の圧延スタンドF1~F7があるので、圧延スタンドの総数nは7であり、圧延スタンドF1、F2、・・・、F7に対し、1、2、・・・、7が変数iの値としてそれぞれ与えられる。
【0033】
理想板厚スケジュール取得部303は、例えば、データ格納部301に記憶されている操業実績データおよび設備データと、操業基準取得部302により得られた各圧延スタンドFiにおけるロールベンディング力の基準値とを用いて、各圧延スタンドFiにおける望ましい圧延荷重のバランス(例えば、最も大きな圧延荷重の値を「1」としたときの各圧延スタンドFiにおける望ましい圧延荷重の値)を求め、求めた圧延荷重のバランスに近い(望ましくは一致する)圧延荷重のバランスとなるときの、各圧延スタンドF1~F7の出側板厚を、理想板厚スケジュールh0iとして材料区分毎に導出する。
尚、理想板厚スケジュール取得部303は、理想板厚スケジュールh0iを導出せずに、外部装置で導出された理想板厚スケジュールh0iを取得してもよい。また、理想板厚スケジュールh0iが過去の知見等が得られている場合には、その理想板厚スケジュールh0iを用いてもよい。
【0034】
[モデルパラメータ導出部304、ステップS403]
モデルパラメータ導出部304は、理想板厚スケジュール取得部303で得られた理想板厚スケジュールh0iを各圧延スタンドFiの出側板厚hiとして、板圧延に関する二次元圧延モデル(板圧延モデル)を用いて、基準圧延荷重P0iと、出側板厚hから圧延荷重Pへの影響係数(∂P/∂h)iと、入側板厚Hから圧延荷重Pへの影響係数(∂P/∂H)iとを導出する。
【0035】
基準圧延荷重P0iは、熱間圧延設備に対して現在適用されている板厚スケジュール(板厚スケジュールを変更しない)で圧延する場合の各圧延スタンドFiの圧延荷重である。尚、ここで用いる板圧延モデルは、例えば、非特許文献1に記載の技術を用いることにより構築することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0036】
また、モデルパラメータ導出部304は、板クラウンおよび平坦度に関する圧延モデル(板クラウン形状モデル)と、操業基準取得部302により得られた各圧延スタンドF1~F7におけるロールベンディング力の基準値とを用いて、基準板クラウンC0i、基準伸差率ε0iを導出する。基準板クラウンC0iは、圧延スタンドFiにおけるロールベンディング力が基準値である場合の板クラウンCiである。また、基準伸差率ε0iは、圧延スタンドFiにおけるロールベンディング力が基準値である場合の伸差率εiである。
尚、ここで用いる板クラウン形状モデルも、例えば、非特許文献1に記載の技術を用いることにより構築することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0037】
図5は、板クラウンCi図5(a))と伸差率εi図5(b))の一例を説明する図である。
図5(a)は、被圧延材(シートバーB)を、その板厚方向に沿って切った断面を示す。
図5(a)において、板クラウンCiは板幅方向の中央における板厚hiから、板幅方向の端部(板端部)における板厚diを減算した値(=hi-di)で求められる。さらに、板クラウンCiを板幅方向の中央における板厚hiで割った値(=Ci/hi)が板クラウン比率になる。ここで、板端部における板厚diを測定する位置をクラウン定義点501と呼び、板幅方向(x軸方向)の端部からの距離(Xmm、Xは0以上の値)で定義される。
【0038】
図5(b)は、被圧延材(シートバーB)を仮想的に板の長手方向(y軸方向)に基準長さLだけ切り出したものを、y軸に沿って細く裁断し(図5(b)の点線)、z軸方向に表れる板波をx-y平面上に伸ばしたイメージを描いたものである。被圧延材(シートバーB)の板形状は板長さが板幅方向で異なることに起因するので、図5(b)では板形状が長手方向(y軸方向)の伸び差Δlとして表現され、伸差率εiは、伸び差Δlを基準長さLで割った値(=Δl/L)である。図5(b)に示すように被圧延材(シートバーB)が耳波である場合、クラウン定義点501における板長さは、被圧延材(シートバーB)の板幅方向の中央の位置における板長さより長く、伸び差Δlはその差である。一方、被圧延材(シートバーB)が中伸びである場合、クラウン定義点501における板長さは、被圧延材(シートバーB)の板幅方向の中央の位置における板長さより短く、伸び差Δlはその差である。尚、図5(b)に示すように被圧延材(シートバーB)が耳波である場合、伸び差Δlは正の値を示す。一方、被圧延材(シートバーB)が中伸びである場合、伸び差Δlは負の値を示す。基準長さLを計測する板幅方向(x軸方向)の位置は、被圧延材(シートバーB)の板長さが最も短くなる位置であるが、実際の伸び差Δlは基準長さLに比べて十分小さいので、伸差率εiには基準長さLを計測する幅方向の位置はほとんど影響しない。
【0039】
図3の説明に戻り、モデルパラメータ導出部304は、板クラウン形状モデルを用いて、クラウン比率遺伝係数ηi、形状変化係数ξi、および圧延荷重Pから板クラウンCへの影響係数(∂Ci/∂Pi)を導出する。
尚、ここで用いる板クラウン形状モデルも、例えば、非特許文献1に記載の技術を用いることにより構築することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
以下の説明では、モデルパラメータ導出部304で導出されるパラメータを総称する場合、必要に応じて、モデルパラメータと称する。
【0040】
[制約式・評価関数設定部305、ステップS404]
制約式・評価関数設定部305は、モデルパラメータ導出部304で導出されたモデルパラメータ等を用いて制約式および評価関数を設定する。以下に、本実施形態で使用する制約式および評価関数について説明する。
【0041】
[[モデル式]]
まず、モデル式について説明する。
本実施形態では、特許文献1と同様に、以下の(1)式~(8)式により板クラウンCi・伸差率εiが表現される場合を例に挙げて説明する。このように、モデル式自体は、特許文献1に記載されているもので実現することができるので、ここでは、式のみを列挙する。
【0042】
【数1】
【0043】
(1)式~(8)式の変数を説明する。尚、必要に応じて、既出の変数の説明についての説明を省略する。
(1)式の変数を説明する。
iは、圧延スタンドFiの出側における板クラウンである。C0iは、圧延スタンドFiの出側における基準板クラウンC0iである。
kは、基準板クラウンC0kに対しクラウン・形状制御端(ロールベンダ23a~23g)の操作によって変更させる板クラウン量である。以下の説明では、この板クラウン量を必要に応じて板クラウン制御量と称する。
αi,j(αi,k)は、圧延スタンドFj(Fk)における板クラウン制御量yj(yk)の、圧延スタンドFiの出側における板クラウンに対する影響係数である。すなわち、αi,j(αi,k)は、圧延スタンドFj(Fk)の板クラウン・形状制御端(ロールベンダ)に対する操作が、圧延スタンドFiの出側における板クラウンにどの程度影響を与えるかを示す係数であり、(5)式により表される。
【0044】
φi,k(φi,j)は、圧延スタンドFk(Fj)の出側板厚の変更による、圧延スタンドFiの出側における板クラウンへの影響の程度を示す影響係数であり、(7)式により表される。
Δhkは、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量である。
【0045】
次に、(2)式の変数を説明する。
εiは、圧延スタンドFiの出側における伸差率である。ε0iは、圧延スタンドFiの出側における基準伸差率である。
【0046】
βi,j(βi,k)は、圧延スタンドFj(Fk)における板クラウン制御量yj(yk)の、圧延スタンドFiの出側における伸差率に対する影響係数である。すなわち、βi,j(βi,k)は、圧延スタンドFj(Fk)の板クラウン・形状制御端(ロールベンダ)に対する操作が、圧延スタンドFiの出側における伸差率にどの程度影響を与えるかを示す係数であり、(6)式により表される。
μi,k(μi,j)は、圧延スタンドFk(fj)の出側板厚の変更による、圧延スタンドFiの伸差率への影響の程度を示す影響係数であり、(8)式により表される。
【0047】
次に、(3)式および(4)式の変数を説明する。
(3)式において、Piは、圧延スタンドFiの圧延荷重であり、P0iは、圧延スタンドFiの基準圧延荷重である([モデルパラメータ導出部304、ステップS403]の項の説明を参照)。
γi,k(γi,j)は、圧延スタンドFk(Fj)の出側板厚の変更による、圧延スタンドFiの圧延荷重Piへの影響の程度を示す影響係数であり、(4)式で表されるものである。
(4)式において、(∂P/∂h)iは、圧延スタンドFiにおける、出側板厚hから圧延荷重Pへの影響係数である。(∂P/∂H)iは、圧延スタンドFiにおける、入側板厚Hから圧延荷重Pへの影響係数である。
【0048】
次に、(5)式および(6)式の変数を説明する。
(5)式において、ηiは、圧延スタンドFiにおけるクラウン比率遺伝係数である。hi、hi-1は、それぞれ圧延スタンドFi、Fi-1における板幅方向の中央における出側板厚である。
(6)式において、ξiは、圧延スタンドFiにおける形状変化係数である。
(7)式、(8)式において、(∂Ci/∂Pi)は、圧延スタンドFiにおける、圧延荷重Pから板クラウンCへの影響係数である。
【0049】
(1)式の右辺第3項、(2)式の右辺第3項、および(3)式の右辺第2項において、積算する範囲がk=1~n-1となっているのは、最終段の圧延スタンドFnの出側板厚hnは、製品の板厚であるため変更できないので、修正可能なのは、それ以外の圧延スタンドF1~Fn-1の出側板厚h1~hn-1だからである。
【0050】
[[制約式]]
次に、制約式について説明する。圧延スタンドのハードウェアによる制約や、操業上の制約から求められる制約条件は、制約条件式(制約式)として表現される。本実施形態では、以下の制約式を用いる。
まず、圧延スタンドFiのクラウン・形状制御端(ロールベンダ)の制御能力に関する制約式は、板クラウン制御量yiの値の範囲として、以下の(9)式のように表現される。
【0051】
【数2】
【0052】
圧延スタンドFiにおける板クラウン制御量yiの上限値ymax,iおよび下限値ymin,iは、圧延スタンドFiのクラウン・形状制御端(ロールベンダ)の制御能力に基づいて板クラウン形状モデルによって得ることができる。ここで用いる板クラウン形状モデルも、例えば、非特許文献1に記載の技術を用いることにより構築することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。圧延スタンドFiにおける板クラウン制御量yiの上限値ymax,iおよび下限値ymin,iについて過去の知見等が得られている場合には、その値を用いてもよい。
【0053】
また、操業上求められる形状(伸差率)に関する制約は、以下の(10)式のように表現される。
【0054】
【数3】
【0055】
圧延スタンドFiの出側における伸差率εiの上限値εmax,iおよび下限値εmin,iは、被圧延材の材質やサイズ毎の伸差率の調査等による過去の知見等に基づいて得ることができる。
圧延スタンドFiの出側における伸差率εiは、(2)式により得られるものである。
【0056】
また、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに関する制約は、以下の(11)式または(12)式のように表現される。
【0057】
【数4】
【0058】
(11)式は、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その目標値Caim,nが与えられている場合の等式制約式である。(12)式は、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その許容範囲(上限値Cmax,nおよび下限値Cmin,n)が与えられている場合の不等式制約式である。
最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnは、(1)式により得られるものである。なお、後述するが、板クラウンCnに関する制約としては、(11)式、(12)式のいずれかが用いられる。
(9)式~(12)式の制約式は、特許文献1に記載された制約式である。
【0059】
発明が解決しようとする課題の欄で説明したように、圧延荷重の予測誤差が大きい場合に、圧延スケジュール作成装置300で決定される板厚スケジュールが、圧延荷重の予測誤差がない場合の板厚スケジュールと大きく異ならないようにする必要がある。そこで、圧延スケジュール作成装置300は、相互に隣接する圧延スタンドFi(i≦n-1)と圧延スタンドFi+1の圧下率の比率ri+1/riが上下限値内であることを示す不等式制約式である以下の(13)式を設定する(尚、図1に示す例では、nは7である)。以下の説明では、相互に隣接する圧延スタンドFi、Fi+1の圧下率の比率ri+1/riを、必要に応じて、圧下率の比率ri+1/riと略称する。
【0060】
【数5】
【0061】
ここで、圧下率は、以下の(14)式で求められる値である。また、(13)式において、diは、圧下率の比率ri+1/riの望ましい下限値であり、uiは、望ましい上限値である。例えば、圧下率の比率ri+1/riの下限値di、上限値uiは、操業オペレータにより設定される。
【0062】
【数6】
【0063】
(13)式の不等式制約式は、相互に隣接する圧延スタンドFi、Fi+1の全ての組(=n-1組(i=1,2,・・・,n-1))について設定してもよいし、当該n-1組のうちの一部の組のみについて設定してもよい。
【0064】
ただし、圧延荷重は通常、上流側の圧延スタンドが大きくなるような板厚スケジュールとすることが多い。その場合、圧延荷重の予測の誤差比率が同じであっても上流側の圧延スタンドほど大きな圧延荷重の予測誤差となる。従って、(13)式の不等式制約式は、上流側の隣接する圧延スタンドの組について設定することが望ましい。例えば、相互に隣接する圧延スタンドFi、Fi+1の全ての組(=n-1組)のうち、最上流の圧延スタンドF1と圧延スタンドF2の組を含む上流側の少なくとも一部の組について、(13)式の不等式制約式(上限値uiおよび下限値di)を(個別に)設定することが望ましい。図1に示す例では、圧延スタンドF1、F2の組、圧延スタンドF2、F3の組、および圧延スタンドF3、F4の組について、(13)式の不等式制約式(上限値uiおよび下限値di)を(個別に)設定することが望ましい。このようにすれば、計算結果の精度に大きく影響する圧下率の比率ri+1/riについてのみ制約を課すことにより、計算負荷を軽減することができると共に、全ての制約条件を満足する領域(解)が存在しなくなる状態(いわゆる実行可能解がない状態)になることを抑制することができる。
【0065】
また、圧下量(=hi-1-hi)の理想板厚スケジュールh0kからのずれが大きくなれば、圧延荷重の予測誤差は大きくなる傾向があるので、圧延荷重の予測誤差が板厚スケジュールに与える影響を軽減するためには、各圧延スタンドの圧下率や、圧下量(=hi-1-hi)の上下限制約式を設定することも考えられるが、ここでは、相互に隣接する2台の圧延スタンドの圧下率の比率ri+1/riについて上下限制約式を設定する。その理由は次の通りである。
【0066】
まず、最終的に得られた板厚スケジュールの各圧延スタンドの圧下率、圧下量(理想板厚スケジュールh0kからの圧下量や圧下率の変更量)は、全圧下率(=1-hn/h0)、全圧下量(=h0-hn)が大きい場合は大きく、小さい場合は小さくなるのが自然である。ここで、被圧延材の圧延前の板厚h0および圧延後の目標板厚hnは、顧客の注文に応じて決められるため、取り得る範囲が広く、全圧下率および全圧下量の取り得る範囲も広くなる。従って、圧延荷重の予測誤差の影響を軽減するために各圧延スタンドF1~Fnの圧下率や圧下量の上下限値を決めるには、被圧延材の圧延前の板厚h0および圧延後の目標板厚hnの値に応じて細かく上下限値を変更しなければならず、実用的ではない。
【0067】
また、後述する第2の実施形態のように、統計量に基づいて上下限値を決定する際には、被圧延材の圧延前の板厚h0および圧延後の目標板厚hnが板厚スケジュールを決めようとする圧延材と近い過去の圧延材の板厚スケジュールのみを参考にするのが望ましい。このようにする場合、各圧延スタンドF1~Fnの圧下率や圧下量についての上下限制約式を設定すると、上下限値を決定するための板厚スケジュールのサンプル数が少なくなり、各圧延スタンドF1~Fnの圧下率や圧下量の統計量を、上下限値を決定するための指標として採用するだけの信頼性が乏しくなる。
【0068】
これに対して、相互に隣接する圧延スタンドの圧下率の比率ri+1/riは、被圧延材の圧延前の板厚h0および圧延後の目標板厚hnの値への依存度が低く、また、特定の圧延スタンドの圧下率が他の圧延スタンドに比べて過大あるいは過小になっているような好ましくない板厚スケジュールを見分けるのに好適な指標になる。そこで、(13)式のように、圧下率の比率ri+1/riが上下限値の範囲内であることを示す不等式制約式を用いる。
【0069】
制約式・評価関数設定部305は、圧延スタンドFiにおける板クラウン制御量yiの上限値ymax,iおよび下限値ymin,iを(9)式に対して設定する。
また、制約式・評価関数設定部305は、圧延スタンドFiの出側における伸差率εiの上限値εmax,iおよび下限値εmin,iを(10)式に対して設定する。
【0070】
最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その目標値Caim,nが与えられている場合、制約式・評価関数設定部305は、目標値Caim,nを(11)式に設定する。一方、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その許容範囲(上限値Cmax,nおよび下限値Cmin,n)が与えられている場合、制約式・評価関数設定部305は、上限値Cmax,nおよび下限値Cmin,nを(12)式に設定する。
【0071】
また、制約式・評価関数設定部305は、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diを(13)式に対して設定する。尚、(13)式の不等式制約式の数は、上下限値により制約を課す圧下率の比率ri+1/riの数と等しくなる。例えば、図1に示す例において、(13)式の不等式制約式の数を、相互に隣接する圧延スタンドFi、Fi+1の全ての組(=6組)について設定する場合、(13)式の不等式制約式の数は6個になる。
【0072】
その他、制約式・評価関数設定部305は、モデルパラメータ導出部304により導出されたモデルパラメータ、および圧延スタンドFkの総数(図1に示す例では7)を(4)式、(5)式~(8)式に設定する。また、制約式・評価関数設定部305は、板厚スケジュールにおける各圧延スタンドFkの出側板厚hkとして理想板厚スケジュールh0kを、(5)式、(6)式に設定する。
【0073】
[[評価関数]]
次に、評価関数について説明する。操業上望ましい板厚スケジュールを表現するための評価関数を定義する。本実施形態では、以下の(15)式の評価関数を用いる。
【0074】
【数7】
【0075】
(15)式の評価関数Jは、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを小さくすることを目的とする評価関数である。ここでは、その一例として、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを直接評価する。
ここで、上流側であるほど被圧延材の板厚は厚いので、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkは、上流側の圧延スタンドFkであるほど大きくなる場合が多い。そこで、それぞれの圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを同じように評価するため、(15)式では、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkの、理想板厚スケジュールh0kに対する比の絶対値を用いる。尚、前述したように、最終段の圧延スタンドFnの出側板厚は変更できないので、積算する範囲はk=1~n-1になる。
【0076】
制約式・評価関数設定部305は、モデルパラメータ導出部304により導出されたモデルパラメータ、圧延スタンドFkの総数n(図1に示す例では7)、理想板厚スケジュールh0kを(15)式に設定する。
【0077】
[最適計算部306、ステップS405]
最適計算部306は、制約式・評価関数設定部305で設定された(9)式と、(10)式と、(11)式または(12)式と、(13)式とを満足する範囲で、制約式・評価関数設定部305で設定された(15)式の評価関数Jの値が最小になるときの、圧延スタンドFkにおける板クラウン制御量ykと、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを数理計画法による最適化計算を行うことにより導出する。制約式は、線形の等式または不等式で表現され、評価関数は、線形式で表現される。したがって、板クラウン制御量ykと出側板厚の修正量Δhkとを決定変数とした線形計画法により、最適化計算を行うことができる。線形計画法による最適化計算は、公知のソルバーを用いることにより実現することができる。
【0078】
[圧延スケジュール作成部307、ステップS406]
圧延スケジュール作成部307は、最適計算部306で導出された各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを、各圧延スタンドFk(k=1~n-1)の出側板厚hkとして理想板厚スケジュールh0kに加算したものを板厚スケジュールとする。また、圧延スケジュール作成部307は、最終段の圧延スタンドFnの出側板厚hnとして、製品の板厚を板厚スケジュールに含める。そして、圧延スケジュール作成部307は、板厚スケジュールと、最適計算部306で導出された各圧延スタンドFi(i=1~n)における板クラウン制御量yiとを含む圧延スケジュールを作成する。また、圧延スケジュール作成部307は、最適計算部306で導出された各圧延スタンドFi(i=1~n)における板クラウン制御量yiと、ロールベンディング力の変更による板クラウンへの影響の程度を示す影響係数とに基づいて、各圧延スタンドF1~Fnにおけるロールベンディング力を導出し、各圧延スタンドF1~Fnにおけるロールベンディング力を圧延スケジュールに含めてもよい。また、圧延スケジュール作成部307は、最適計算部306で導出された各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkと理想板厚スケジュールh0kとを加算せずに各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkにより板厚スケジュールを構成してもよい。
【0079】
[出力部308、ステップS407]
出力部308は、圧延スケジュール作成部307で作成された圧延スケジュールを出力する。
圧延スケジュールの出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示を行い、それを参照したオペレータが各圧延スタンドの圧下装置およびロールベンディング力を調整してもよいし、圧延スケジュール作成装置300から直接、各圧延スタンドの圧下装置およびロールベンディング力の制御装置の設定値として、圧延スケジュール(例えば、板厚スケジュールおよびロールベンディング力)を出力してもよい。
【0080】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、圧延スタンドFiの出側における板クラウンと、圧延スタンドFiの出側における被圧延材の形状との少なくとも一方に関する許容範囲(板クラウン制御量yi、伸差率εi、板クラウンCn)を規定する不等式である制約式と、相互に隣接する2台の圧延スタンドうち少なくとも1組について、相互に隣接する2台の圧延スタンドの圧下率の比率ri+1/riの許容範囲を規定する不等式である制約式とを含む制約式を満足する範囲で、圧延スタンドFkの出側板厚の理想板厚スケジュールh0kからのずれ量を小さくすることを目的とする評価関数Jの値を最小化するときの、各圧延スタンドFiにおける板クラウン制御量yiと、最終段を除く各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを導出する。したがって、圧延荷重の予測誤差が大きい場合に決定される板厚スケジュールが、圧延荷重の予測誤差がない場合の理想板厚スケジュールh0kと大きく異ならないようにすることができる。また、予測誤差のある圧延スタンドFiでは圧延荷重の誤差により板クラウンおよび板形状も影響を受けるため、実際に得られる板クラウンおよび板形状も目標値(または目標範囲)とは大きく異なり安定通板に支障をきたす虞がある。これに対し、本実施形態では、圧延荷重の予測誤差の影響を低減できるので、各圧延スタンドF1~Fnのクラウン・形状制御端(ロールベンダ)の制御能力が不足する場合に、安定通販に支障をきたすことなく、実用的な手法で、圧延荷重の予測誤差が小さくなるような板厚スケジュールを決定することができる。
【0081】
<変形例>
[[変形例1]]
本実施形態で説明した最適化計算による解を得られやすくするために、以下のようにしてもよい。
すなわち、制約式としては、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その目標値Caim,nが与えられている場合には(11)式に代えて以下の(16)式を、また、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その許容範囲(上限値Cmax,nおよび下限値Cmin,n)が与えられている場合には、(12)式に代えて(17)式を採用し、評価関数としては、(15)式に代えて、以下の(18)式を採用してもよい。
【0082】
【数8】
【0083】
(16)式~(18)式にあるδcは、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対する制約式の制約条件緩和量である。制約条件緩和量δcは0または正の値を持つ変数であり、δc>0の場合には(11)式および(12)式の制約式の上下限の範囲を広げ、(9)式および(10)式と、(11)式または(12)式と、(13)式とを満足する解の範囲を広げ、解を得られやすくする効果がある。
【0084】
本変形例では、(18)式に示すように、制約条件緩和量δcを評価関数Jに含めることにより、制約条件緩和量δcが必要以上に大きな値にならないようにする。各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhk(圧延スタンドFkの出側板厚の理想板厚スケジュールh0kからのずれ量)を小さくする場合には、制約条件緩和量δcを大きくする必要があるので、これらはトレードオフの関係にある。(18)式の評価関数Jの第2項のwδcは、このトレードオフを調整する重み係数であり、制約条件緩和量δcの、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhk(圧延スタンドFkの出側板厚の、理想板厚スケジュールh0kからのずれ量)に対するバランスを表す。すなわち、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhk(圧延スタンドFkの出側板厚の理想板厚スケジュールh0kからのずれ量)を小さくすることよりも、制約条件を満足させることを優先させる場合には、重み係数wδcの値を大きくする。
本変形例では、制約式・評価関数設定部305は、モデルパラメータ導出部304により導出されたモデルパラメータ、圧延スタンドFkの総数n(図1に示す例では7)に加えて、重み係数wδcを設定する。
【0085】
[[変形例2]]
また、変形例1で説明した最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンに対する制約条件緩和量δcに代えて、各圧延スタンドF1~Fnの出側における伸差率(形状)に対する制約条件緩和量δεを用いてもよい。このようにする場合、制約式としては、(10)式に代えて、以下の(19)式を採用し、(11)式または(12)式と(13)式はそのまま用いる。評価関数としては、(15)式に代えて以下の(20)式を採用する。尚、(20)式の評価関数Jの重み係数wδcは、評価関数Jの各項のバランスを表すものである。
【0086】
【数9】
【0087】
[[変形例3]]
また、変形例1で説明した最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンに対する制約条件緩和量δcと、変形例2で説明した各圧延スタンドF1~Fnの出側における伸差率(形状)に対する制約条件緩和量δεに代えて、圧下率の比率ri+1/riに対する制約条件緩和量δrを用いてもよい。一般に板クラウン・形状制御端の制御能力は大きいものではない。したがって、(13)式のように、圧下率の比率ri+1/riを上下限値の範囲内に制約した場合、板クラウンを製品の許容範囲に収め、板形状を安定通板が可能な範囲に収めることが難しい場合がある。また、圧下率と板クラウン、板形状の関係は複雑で非線形な関係であり、板クラウン、板形状の制約条件を満たす実行可能解が存在するように、圧下率の比率の上下限範囲を予め設定しておくことが容易でないことがある。このような実行可能解が存在しない場合を回避するため、(13)式の不等式制約式の上限値uiおよび下限値diを緩和することを許容する。このようにする場合、制約式としては、(13)式に代えて、以下の(21)式を採用し、(10)式と、(11)式または(12)式はそのまま用いる。評価関数としては、(15)式に代えて以下の(22)式を採用する。尚、上限値uiおよび下限値diの一方に対してのみ制約条件緩和量δrを設定してもよい。また、尚、(22)式の評価関数Jの重み係数wδrは、評価関数Jの各項のバランスを表すものである。
【0088】
【数10】
【0089】
[[変形例4]]
また、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンに対する制約条件緩和量δcと、各圧延スタンドF1~Fnの出側における伸差率(形状)に対する制約条件緩和量δεと、圧下率の比率ri+1/riに対する制約条件緩和量δrとのうちの2つまたは3つ(全て)を用いてもよい。ここでは、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンに対する制約条件緩和量δcと、各圧延スタンドF1~Fnの出側における伸差率(形状)に対する制約条件緩和量δεと、圧下率の比率ri+1/riに対する制約条件緩和量δrとを用いる場合について例示する。
【0090】
この場合、制約式としては、(10)式に代えて(19)式を採用すると共に(13)式に代えて(21)式を採用し、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その目標値Caim,nが与えられている場合には(11)式に代えて(16)式を採用する。また、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに対して、その許容範囲(上限値Cmax,nおよび下限値Cmin,n)が与えられている場合には、(12)式に代えて(17)式を採用する。評価関数としては、(15)式に代えて、以下の(23)式を採用する。尚、(23)式の評価関数Jの重み係数wδc、wδε、wδrは、評価関数Jの各項のバランスを表すものである。
【0091】
【数11】
【0092】
[[変形例5]]
また、板クラウンと伸差率(形状)以外の制約条件として、板クラウン制御量yiと出側板厚の修正量Δhkとの少なくとも何れか一方を用いた線形式で表される物理量gに関する制約式として、例えば、以下の(24)式または(25)式の制約式を追加すると共に、(25)式の制約式を追加する場合には、(15)式に代えて、例えば、(26)式を採用してもよい。(24)式、(25)式において、bは、物理量gに対する制約値である。(25)式、(26)式において、δgは、物理量gに対する制約条件緩和量である。物理量gとしては、例えば、(3)式に示す圧延荷重Piが挙げられる。尚、(26)式の評価関数Jの重み係数wδc、wδε、wδr、wδgは、評価関数Jの各項のバランスを表すものである。
【0093】
【数12】
【0094】
[[変形例6]]
変形例1~5に示した(18)式、(20)式、(22)式、(23)式、(26)式の評価関数Jでは、評価関数Jの値が、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgに対し線形で変化する。線形計画法の一般的な性質として、最適解はすべての制約条件を満足する実行可能領域の境界上に存在するため、変形例1~5に示した評価関数Jでは、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgが0(ゼロ)である解が存在すれば、その解が得られやすくなる。
【0095】
しかしながら、圧延スタンドFiのクラウン・形状制御端(ロールベンダ)の制御能力(すなわち、圧延スタンドFiにおける板クラウン制御量yi)が、その上下限値のぎりぎりである場合には、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgが0(ゼロ)となる解が存在していても、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgを0(ゼロ)よりも僅かに大きい値にした方が、クラウン・形状制御端の制御能力に余裕のある望ましい解が得られる場合がある。
【0096】
さらに、板クラウンCi、伸差率εiの計算値には、モデル式(例えば(1)式~(4)式、(7)式~(8)式)の予測誤差が含まれる。したがって、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgを0(ゼロ)にすることと、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgを0(ゼロ)よりも僅かに大きくして本来の制約範囲から僅かに外れるようにすることとには、板クラウンCi、伸差率εiを望ましい値にするという点では実質的な違いがない場合が多い。
【0097】
以上のような観点から、本変形例では、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgの二乗の項を評価関数Jに含めることにより、制約条件緩和量δc、δε、δr、δgが、0(ゼロ)よりも僅かに大きい値(前述したモデル式の予測誤差に満たない程度(例えば1[μm]未満)の値))をとりやすくする。すなわち、本変形例では、(18)式に代えて、以下の(27)式を、(20)式に代えて、以下の(28)式を、(22)式に代えて、以下の(29)式を、(23)式に代えて、以下の(30)式を、(26)式に代えて、以下の(31)式をそれぞれ採用する。尚、このようにする場合には、線形計画法ではなく、例えば、二次計画法により最適化計算を行う。
【0098】
【数13】
【0099】
このようにすることによって、例えば、板クラウンCnに対する制約((16)式または(17)式)において制約条件緩和量δcを0(ゼロ)にする解を選択することにより、(19)式において伸差率εiが上下限値ぎりぎりになったり、相互に隣接する圧延スタンド間における板クラウン制御量yiの差が大きくなったり、(21)式において圧下率の比率ri+1/riが上下限値ぎりぎりになったりすることを抑制することができる。したがって、板クラウンCn、伸差率εi、圧下率の比率ri+1/ri、およびロールベンダに対する設定値のバランスを改善させることができる。尚、(27)式~(31)式の評価関数Jの重み係数wδc、wδε、wδr、wδgは、それぞれの評価関数Jの各項のバランスを表すものである。
【0100】
[[変形例7]]
本実施形態では、評価関数Jの値を最小化する最適化問題とする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、例えば、評価関数Jの右辺の各項に(-1)を乗算することにより、評価関数Jの値を最大化する最適化問題としてもよい。
【0101】
[[変形例8]]
本実施形態では、評価関数Jにおいて、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkの絶対値を求める場合を例に挙げて説明した。しかしながら、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを小さくすることを目的とする評価関数Jを構築していれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、(15)式の評価関数Jの第1項の絶対値を二乗に置き換えてもよい(すなわち、|Δhk/h0k|を[Δhk/h0k]2にしてもよい)。この場合には、線形計画法ではなく、例えば、二次計画法により最適化計算を行う。
【0102】
[[変形例9]]
本実施形態では、被圧延材の形状として伸差率を用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、被圧延材の形状は伸差率に限定されない。例えば、以下の(32)式で表される急峻度を用いてもよい。(32)式において、λiは、圧延スタンドFiの出側における急峻度である。急峻度は、伸び差によって被圧延材に発生する波の高さをその波のピッチで割った値である。
【0103】
【数14】
【0104】
[[変形例10]]
本実施形態では、クラウン・形状制御端における制御量がロールベンディング力である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、クラウン・形状制御端における制御量はロールベンディング力に限定されない。例えば、圧延スタンドがペアクロスミルである場合、上下のワークロールとバックアップロールをペアでクロスさせる角度を、クラウン・形状制御端における制御量としてもよい。また、圧延スタンドがワークロールシフト機構を有するミルである場合、上下のワークロールのシフト量を、クラウン・形状制御端における制御量としてもよい。
【0105】
[[変形例11]]
本実施形態では、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに関する制約式((11)式または(12)式)を制約式として含める場合を例に挙げて説明した。しかしながら、被圧延材によっては、形状(伸差率)が上下限値内であれば、板クラウンが上下限値内であるか否かが問題にならない場合がある。したがって、最終段の圧延スタンドFnの出側における板クラウンCnに関する制約式((11)式または(12)式)を制約式に含めなくてもよい。
【0106】
[[変形例12]]
(4)式に示すように、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正の影響は線形ではない。そこで、圧延スケジュール作成部307で作成された板厚スケジュールを構成する各圧延スタンドFkの出側板厚を、各圧延スタンドFkの新たな出側板厚hkとして、モデルパラメータの導出と最適化計算の実行と板厚スケジュールの作成と板クラウン制御量yiの導出とを所定の収束条件が満足するまで繰り返し行うことにより、圧延スケジュールの精度をより向上させるようにしてもよい。
【0107】
このようにする場合、例えば、繰り返し処理におけるモデルパラメータ導出部304の最初の処理は、本実施形態で説明したステップS403の処理と同じである。モデルパラメータ導出部304の2回目以降の処理では、理想板厚スケジュールh0iではなく、繰り返し処理で圧延スケジュール作成部307により作成された最新の板厚スケジュール(を構成する各圧延スタンドFkの出側板厚hk)を各圧延スタンドFiの出側板厚hiとして、板圧延モデルを用いて、基準圧延荷重P0iと、出側板厚hから圧延荷重Pへの影響係数(∂P/∂h)iと、入側板厚Hから圧延荷重Pへの影響係数(∂P/∂H)iとを導出する。
【0108】
また、評価関数Jとして、(15)式の評価関数Jを用い、(9)式と、(10)式と、(11)式または(12)式と、(13)式の制約式を用いる場合を例示すると、繰り返し処理における制約式・評価関数設定部305の最初の処理では、板厚スケジュールにおける各圧延スタンドFkの出側板厚hkとして理想板厚スケジュールh0kを(5)式、(6)式、(15)式に設定する。制約式・評価関数設定部305の2回目以降の処理では、理想板厚スケジュールh0kではなく、繰り返し処理で圧延スケジュール作成部307により作成された最新の板厚スケジュール(を構成する各圧延スタンドF1~Fnの出側板厚hk)を(5)式、(6)式、(15)式に設定する。
【0109】
また、繰り返し処理における圧延スケジュール作成部307の最初の処理は、本実施形態で説明したステップS406と同じであり、各圧延スタンドF1~Fn-1の出側板厚の修正量Δhkを理想板厚スケジュールh0kに加算したものを板厚スケジュールとする。圧延スケジュール作成部307の2回目以降の処理では、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを、理想板厚スケジュールh0kではなく、繰り返し処理で圧延スケジュール作成部307により作成された最新の板厚スケジュール(を構成する各圧延スタンドFkの出側板厚hk)に加算したものを板厚スケジュールとする。
【0110】
また、収束条件としては、最適化計算に対する収束条件として用いられる公知の条件を採用することができる。例えば、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkの今回の値と前回の値との差の絶対値が閾値以下である場合に収束条件を満たすと判定する。また、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkの今回の値と前回の値との差の絶対値が閾値以下でなくても、収束条件の判定回数が所定値になった場合には収束条件を満たすと判定することができる。
【0111】
収束条件を満たす場合には、出力部308は、収束条件を満たしたときに圧延スケジュール作成部307により作成された板厚スケジュールと、収束条件を満足したときの板クラウン制御量yiとを含む圧延スケジュールを作成して出力する。
【0112】
一方、収束条件を満たさない場合には、モデルパラメータ導出部304、制約式・評価関数設定部305、および圧延スケジュール作成部307で使用する板厚スケジュールを、圧延スケジュール作成部307で作成された最新の板厚スケジュールに変更する。
【0113】
以上のようにすれば、圧延スケジュール(板厚スケジュールおよび板クラウン制御量yi)を、より正確に導出することができる。尚、本変形例は、特許文献1の第2の実施形態に対応するものであるので、ここでは、その概要のみを説明した。
【0114】
[[変形例13]]
被圧延材を安定して通板させるためには、各圧延スタンドFkの出側板厚を理想板厚スケジュールh0kになるべく近づけるのが好ましい。そこで、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを小さくすることを目的とする評価関数Jとして、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkそのものではなく、圧延スタンドFkの出側板厚(=hk+Δhk)の、理想板厚スケジュールh0k(圧延スタンドFkの望ましい出側板厚)からのずれ量を小さくすることを目的とする評価関数を用いてもよい。
【0115】
本変形例では、評価関数Jとして、(15)式ではなく、以下の(33)式の評価関数を設定する。
【0116】
【数15】
【0117】
(33)式の評価関数Jは、(15)式と同様、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを小さくすることを目的とする評価関数である。ただし、(33)式は、その一例として、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkそのものではなく、各圧延スタンドFkの出側板厚(=hk+Δhk)の、理想板厚スケジュールh0k(圧延スタンドFkの望ましい出側板厚)からのずれ量を小さくすることを目的とする評価関数である。
【0118】
また、それぞれの圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを同じように評価するため、(33)式でも、(15)式と同様に、圧延スタンドFkの出側板厚の理想板厚スケジュールh0kからのずれ量の、理想板厚スケジュールh0kに対する比の絶対値を用いる。
【0119】
変形例12と同じく、繰り返し処理における制約式・評価関数設定部305の最初の処理では、板厚スケジュールにおける各圧延スタンドFkの出側板厚hkとして、(34)式(の分子のhk)に、理想板厚スケジュールh0kを設定する。制約式・評価関数設定部305の2回目以降の処理では、板厚スケジュールにおける各圧延スタンドFkの出側板厚hkとして、理想板厚スケジュールh0kではなく、繰り返し処理で圧延スケジュール作成部307により作成された最新の板厚スケジュール(を構成する各圧延スタンドF1~Fnの出側板厚hk)を(33)式(の分子のhk)に設定する。
【0120】
また、繰り返し処理における圧延スケジュール作成部307の最初の処理では、各圧延スタンドF1~Fn-1の出側板厚の修正量Δhkを理想板厚スケジュールh0kに加算したものを板厚スケジュールとする。一方、圧延スケジュール作成部307の2回目以降の処理では、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを、理想板厚スケジュールh0kではなく、繰り返し処理で圧延スケジュール作成部307により作成された最新の板厚スケジュール(を構成する各圧延スタンドFkの出側板厚hk)に加算したものを板厚スケジュールとする。
【0121】
以上のようにすれば、被圧延材をより安定して通板できるように、圧延スケジュール(板厚スケジュールおよび板クラウン制御量yi)を導出することができる。尚、本変形例は、特許文献1の第3の実施形態に対応するものであるので、ここでは、その概要のみを説明した。
【0122】
[[変形例14]]
変形例12では、それぞれの圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを同じように評価するため、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkの、理想板厚スケジュールh0kに対する比の絶対値を用いて評価関数Jを表現する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、理想板厚スケジュールh0kを評価関数Jに含めずに、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkの、圧延スタンドFkの出側板厚hkに対する比の絶対値を用いて評価関数Jを表現してもよい。
具体的に本変形例では、変形例12で設定する(15)式に代えて、以下の(34)式の評価関数を設定する。
【0123】
【数16】
【0124】
(34)式の評価関数Jは、(15)式と同様、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを小さくすることを目的とする評価関数である。ただし、(34)式では、それぞれの圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを同じように評価するため、板厚スケジュールにおける各圧延スタンドFkの出側板厚hkで、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを除算する。
【0125】
変形例12と同じく、繰り返し処理における制約式・評価関数設定部305の最初の処理では、板厚スケジュールにおける各圧延スタンドFkの出側板厚hkとして、(34)式(の分母のhk)に、理想板厚スケジュールh0kを設定する。制約式・評価関数設定部305の2回目以降の処理では、板厚スケジュールにおける各圧延スタンドFkの出側板厚hkとして、理想板厚スケジュールh0kではなく、繰り返し処理で圧延スケジュール作成部307により作成された最新の板厚スケジュール(を構成する各圧延スタンドF1~Fnの出側板厚hk)を設定する。
【0126】
また、繰り返し処理における圧延スケジュール作成部307の最初の処理では、各圧延スタンドF1~Fn-1の出側板厚の修正量Δhkを理想板厚スケジュールh0kに加算したものを板厚スケジュールとする。一方、圧延スケジュール作成部307の2回目以降の処理では、各圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを、理想板厚スケジュールh0kではなく、繰り返し処理で圧延スケジュール作成部307により作成された最新の板厚スケジュール(を構成する各圧延スタンドFkの出側板厚hk)に加算したものを板厚スケジュールとする。
以上のようにしても変形例12と同様の効果が得られる。尚、本変形例は、特許文献1の第4の実施形態に対応するものであるので、ここでは、その概要のみを説明した。
【0127】
[[変形例15]]
また、本実施形態では、制約条件が、圧延スタンドFiの出側における板クラウンと、圧延スタンドFiの出側における被圧延材の形状との少なくとも一方に関する許容範囲(板クラウン制御量yi、伸差率εi、板クラウンCn)を規定する不等式である制約式と、相互に隣接する2台の圧延スタンドうち少なくとも1組について、相互に隣接する2台の圧延スタンドの圧下率の比率ri+1/riの許容範囲を規定する不等式である制約式である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、その他の制約条件を加えてもよい。例えば、特許文献4に開示されているように、圧延荷重の予測誤差が大きいこととは別の要因で不適切な板厚スケジュールが作成されることを防止するために、任意の圧延スタンドの圧延トルク、圧延荷重、圧延線圧(単位幅当たりの圧延荷重)、および噛み込み角度の少なくとも1つが上限値以下であることを示す不等式を制約条件に加えてもよい。
【0128】
[[その他変形例]]
以上の変形例の2つ以上を組み合わせることができる。例えば、(34)式の評価関数Jを変形例1~10で説明したように変形することができる。
また、変形例12~14で説明したように収束計算を行えば、圧延スケジュール(板厚スケジュールおよび板クラウン制御量yi)の精度をより向上させることができるので好ましい。ただし、変形例13で説明した(33)式の評価関数J、または、変形例14で説明した(34)式の評価関数Jを、第1の実施形態で説明した(15)式の評価関数Jに代えて用い、本実施形態で説明したように、収束計算を行わずに、圧延スケジュール(板厚スケジュールおよび板クラウン制御量yi)を導出してもよい。
【0129】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、(13)式(あるいは(22)式)の不等式制約式の上限値uiおよび下限値diが一定値である場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、過去の圧下率riの実績に応じて、(13)式(あるいは(22)式)の不等式制約式の上限値uiおよび下限値diを変更する。このように本実施形態と第1の実施形態とは、(13)式(あるいは(22)式)の不等式制約式の上限値uiおよび下限値diを決定するための構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1図5に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0130】
第1の実施形態で説明したように、板厚スケジュール(圧延スタンドFn1~Fnの出側板厚h1~h7)が決定されると、当該圧延スタンドFn1~Fnの出側板厚h1~hnを用いて、圧下率riは(14)式により計算される。このようにして計算される圧下率riから、相互に隣接する2台の圧延スタンドの圧下率の比率ri+1/riを計算することができる。従って、圧下率の比率ri+1/riの実績値の統計量に基づいて、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diを計算することにより、例えば、発生頻度の高い圧下率の比率ri+1/riを基準として上限値uiおよび下限値diを求めることができ、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diとしてより適切な値を設定することができる。
【0131】
圧下率の比率ri+1/riは、圧延荷重の予測誤差が小さいほど望ましい値となっており、圧延荷重の予測誤差が大きいほど望ましい値から離れた値となっていると考えられる。圧延荷重の予測誤差の頻度分布は、正規分布に似た分布を示す。そこで、本実施形態では、圧下率の比率ri+1/riの頻度分布を正規分布と仮定して、以下のようにして、過去の圧下率の比率ri+1/riの平均値および標準偏差を用いて、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diを計算して更新する。
【0132】
図6は、圧延スケジュール作成装置600の機能的な構成の一例を示す図である。本実施形態の圧延スケジュール作成装置600の機能は、図3に示した第1の実施形態の圧延スケジュール作成装置300に対して、圧下率計算部601および範囲計算部602が追加されたものである。
圧下率計算部601は、圧延スケジュール作成部307により作成された板厚スケジュールを用いて、(14)式により、各圧延スタンドの圧下率riを計算して記憶する。圧下率計算部601は、圧延スケジュール作成部307により板厚スケジュールが決定される度に各圧延スタンドの圧下率riを計算しても、オペレータにより指定された場合に各圧延スタンドの圧下率riを計算しても、予め定められたスケジュールに従うタイミングに各圧延スタンドの圧下率riを計算してもよい。
【0133】
範囲計算部602は、圧下率計算部601により記憶された各圧延スタンドの圧下率riの統計量を圧延スタンド毎に計算し、当該統計量に基づいて、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diを計算して更新する。本実施形態では、範囲計算部602は、次に板厚スケジュールを決定する対象の被圧延材の1,2,・・・,M回前に圧延された圧下率ri <1>、ri <2>、・・・、ri <M>を圧延スタンド毎に読み出し、以下の(35)式、(36)式により、圧下率の比率ri+1/riの上限値ui、下限値diを計算する。
【0134】
【数17】
【0135】
ここで、Xiは、1~M回前に作成された板厚スケジュールを用いて計算された圧下率の比率ri+1/riの平均値であり、以下の(37)式で計算される。σiは、1~M回前に作成された板厚スケジュールを用いて計算された圧下率の比率ri+1/riの標準偏差であり、以下の(38)式で計算される。M、cは、予め定められる定数である。
【0136】
【数18】
【0137】
第1の実施形態では、制約式・評価関数設定部305は、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diとして予め定められた定数を用いる。これに対し、本実施形態では、制約式・評価関数設定部305は、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diとして、範囲計算部602により計算された(最新の)値を用いる。
【0138】
また、図4のフローチャートにおいて、例えば、ステップS406で作成された最新の板厚スケジュールを用いて、圧下率計算部601および範囲計算部602による処理を行うことができる。このようにする場合、圧延スケジュール作成部307により板厚スケジュールが決定される度に各圧延スタンドの圧下率riが計算される。そして、ステップS303において、制約式・評価関数設定部305は、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diとして最新の値を、(13)式(あるいは(22)式)に与える。尚、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diの初期値には、予め定められている値が用いられる。
【0139】
以上のように本実施形態では、圧下率の比率ri+1/riの実績値に関する統計量に基づいて、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diを計算する。従って、圧下率の比率ri+1/riの上限値uiおよび下限値diとしてより適切な値を設定することができる。よって、板厚スケジュールの精度をより高めることができる。
尚、本実施形態においても第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0140】
(実施例)
次に、実施例を説明する。
特許文献1に記載のように、(9)式と、(10)式と、(11)式とを満足する範囲で、制約式・評価関数設定部305で設定された(15)式の評価関数Jの値が最小になるときの、圧延スタンドFkにおける板クラウン制御量ykと、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを導出することにより作成された板厚スケジュールを比較例とする。
【0141】
一方、第1の実施形態で説明したように、(9)式と、(10)式と、(11)式と、(13)式とを満足する範囲で、制約式・評価関数設定部305で設定された(15)式の評価関数Jの値が最小になるときの、圧延スタンドFkにおける板クラウン制御量ykと、圧延スタンドFkの出側板厚の修正量Δhkを導出することにより作成された板厚スケジュールを発明例とする。
【0142】
図7は、各圧延スタンドFiにおける圧延荷重の一例を示す図である。図8は、各圧延スタンドFiにおける圧下率の一例を示す図である。図9は、圧下率の比率ri/ri+1の一例を示す図である。尚、図9に示す圧下率の比率ri/ri+1は、(13)式に示す圧下率の比率ri+1/riの分子と分母とを入れ替えたものである。
【0143】
図7図9において、「理想」は、理想板厚スケジュールh0kから定まる値を示す。「比較例」は、比較例における値を示す。「発明例」は、発明例における値を示す。尚、比較例および発明例における圧延荷重、圧下率は、(15)式の評価関数Jの値が最小になるときの、圧延スタンドFiの圧延荷重Pi、圧延スタンドFiの圧下率riである。
【0144】
図7図8に示すように、比較例では、特に圧延スタンドF4以降の圧延荷重、圧下率が、理想板厚スケジュールh0kから定まる値から大きく外れる。これに対し、発明例では、圧下率の比率ri+1/riに関する制約を入れることにより、比較例に比べ、理想板厚スケジュールh0kから定まる値からのずれが小さくなる。また、図9に示すように、圧下率の比率について、発明例では比較例に比べ、概ね理想板厚スケジュールh0kから定まる値からのずれが小さいことが確認できる。r5/r6は発明例の方が理想板厚スケジュールh0kから定まる値からのずれがやや大きいが、他の圧延スタンドの圧下率の比率に比べるとずれは小さく、大きな問題は生じない。
【0145】
図10は、各圧延スタンドFiにおける板クラウン(図10(a))と急峻度(図10(b))の一例を示す図である。
図10(a)および図10(b)において、aimは、目標値を示す。図10(a)および図10(b)に示すように、圧下率の比率ri+1/riに関する不等式制約式((13)式)を追加しても、板クラウンおよび急峻度を目標値に近づけることができる。
【0146】
(その他の変形例)
以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0147】
(請求項との関係)
以下に、請求項と実施形態との関係を示す。尚、本発明は、変形例において説明したように、以下の関係に限定されるものではない。
制約式設定手段は、例えば、制約式・評価関数設定部305を用いることにより実現される。
前記圧延スタンドの出側における板クラウンと、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の形状との少なくとも一方に関する許容範囲を規定する不等式である板クラウン・形状制約式は、例えば、(9)式、(10)式、(11)式、または(12)式により実現される。これらの制約式に限定されないことは、例えば、第1の実施形態の変形例9~11等に記載した通りである。
相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの少なくとも1組について、相互に隣接する2台の前記圧延スタンドの圧下率の比率の許容範囲を規定する不等式である圧下率制約式は、例えば(13)式により実現される。
評価関数設定手段は、例えば、制約式・評価関数設定部305を用いることにより実現される。
最適計算手段は、例えば、最適計算部306を用いることにより実現される。
圧延スケジュール作成手段は、例えば、圧延スケジュール作成部307を用いることにより実現される。
請求項2において、範囲計算手段は、例えば、範囲計算部602を用いることにより実現される。
請求項3において、圧下率計算手段は、例えば、圧下率計算部601を用いることにより実現される。
請求項5において、第1の制約式は、例えば、(11)式、または(12)式により実現される。第2の制約式は、例えば、(10)式により実現される。第3の制約式は、例えば、(9)式により実現される。
請求項6は、第1の実施形態の変形例1~6に対応し、請求項7は、第1の実施形態の変形例6に対応する。
請求項8は、第1の実施形態に対応し、請求項8に記載の評価関数は、例えば、第1の実施形態の評価関数J((15)式)に対応する(変形例8も参照)。
【符号の説明】
【0148】
300・600:圧延スケジュール作成装置、301:データ格納部、302:操業基準取得部、303:理想板厚スケジュール取得部、304:モデルパラメータ導出部、305:制約式・評価関数設定部、306:最適計算部、307:圧延スケジュール作成部、308:出力部、601:圧下率計算部、602:範囲計算部
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