IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7385128変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム
<>
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図1
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図2
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図3
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図4
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図5
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図6
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図7
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図8
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図9
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図10
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図11
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図12
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図13
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図14
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図15
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図16
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図17
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図18
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図19
  • 特許-変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21C 51/00 20060101AFI20231115BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B21C51/00 Z
G01N3/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020064990
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159961
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】加田 修
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-217799(JP,A)
【文献】特開平11-090531(JP,A)
【文献】特開平11-258135(JP,A)
【文献】特開2015-078834(JP,A)
【文献】特開昭54-018793(JP,A)
【文献】特開2002-333393(JP,A)
【文献】特開2011-137667(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00984273(EP,A2)
【文献】中国特許出願公開第112834330(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 51/00
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円状の突条が形成された治具がそれぞれ取付けられる一対の加圧部材を備える端面拘束圧縮試験機を用い、軸線方向の両端面が前記突条にそれぞれ係合する円柱状の試験片を前記一対の治具の間に取付け、前記試験片を前記軸線方向に圧縮して変形抵抗を算出する変形抵抗の算出方法であって、
前記一対の加圧部材により前記試験片を圧縮したときに生じる、前記一対の加圧部材のストローク量と前記試験片の圧縮量との差異を補正量としたときに、
前記補正量の推定式は前記試験片に作用させる荷重の一次関数で表されるとして、前記推定式を求める推定式算出工程と、
前記ストローク量及び前記荷重から前記推定式に基づいて補正圧縮率を算出する補正圧縮率算出工程と、
前記補正圧縮率及び前記荷重に基づいて相当ひずみ及び前記変形抵抗を算出する変形抵抗算出工程と、
を行う変形抵抗の算出方法。
【請求項2】
前記推定式算出工程では、
2つの前記試験片をそれぞれ圧縮したときの、前記一対の加圧部材の最大ストローク量、前記試験片に作用させた最大荷重、及び前記試験片に前記最大荷重を作用させたときの最大圧縮量を、前記2つの試験片のうち、一方の前記最大荷重と他方の前記最大荷重とが互いに異なるように取得し、
前記2つの試験片それぞれに対する、前記最大ストローク量と前記最大圧縮量との差異による前記補正量と、前記最大荷重と、に基づいて前記一次関数を算出する請求項1に記載の変形抵抗の算出方法。
【請求項3】
前記推定式算出工程において圧縮される前記2つの試験片に対しては、前記ストローク量及び前記荷重からなる測定組を複数測定しない請求項2に記載の変形抵抗の算出方法。
【請求項4】
前記推定式算出工程において、
前記2つの試験片のうち、1つの前記試験片に対しては、前記ストローク量及び前記荷重からなる測定組を複数測定せず、
別の1つの前記試験片に対しては、前記測定組を複数測定し、
前記推定式算出工程の後で、それぞれの前記測定組に対して前記補正圧縮率算出工程及び前記変形抵抗算出工程をそれぞれ行い、前記複数の測定組を、前記変形抵抗及び相当ひずみからなる複数の算出組に変換する請求項2に記載の変形抵抗の算出方法。
【請求項5】
前記推定式算出工程では、
前記補正量をδ、前記荷重をPとしたときに、
前記推定式を(1)式で表す請求項1から4のいずれか一項に記載の変形抵抗の算出方法。
δ=C×P+δ’ ・・(1)
ただし、Cは前記端面拘束圧縮試験機、前記一対の治具、及び前記試験片のコンプライアンスに基づいて算出される補正係数であり、δ’は前記端面拘束圧縮試験機、前記一対の治具、及び前記試験片間のガタつきに基づいて算出される補正係数である。
【請求項6】
前記推定式算出工程を行った後で、
1つの前記試験片を圧縮して取得した前記ストローク量及び前記荷重からなる測定組複数に対して、前記補正圧縮率算出工程及び前記変形抵抗算出工程をそれぞれ行い、前記複数の測定組を、前記変形抵抗及び相当ひずみからなる複数の算出組に変換する請求項1から5のいずれか一項に記載の変形抵抗の算出方法。
【請求項7】
同心円状の突条が形成された治具がそれぞれ取付けられる一対の加圧部材を備える端面拘束圧縮試験機を用い、軸線方向の両端面が前記突条にそれぞれ係合する円柱状の試験片を前記一対の治具の間に取付け、前記試験片を前記軸線方向に圧縮して変形抵抗を算出する変形抵抗の算出装置であって、
前記一対の加圧部材により前記試験片を圧縮したときに生じる、前記一対の加圧部材のストローク量と前記試験片の圧縮量との差異を補正量としたときに、
前記補正量の推定式は前記試験片に作用させる荷重の一次関数で表されるとして、前記推定式を求める推定式算出部と、
前記ストローク量及び前記荷重から前記推定式に基づいて補正圧縮率を算出する補正圧縮率算出部と、
前記補正圧縮率及び前記荷重に基づいて相当ひずみ及び前記変形抵抗を算出する変形抵抗算出部と、
を備える変形抵抗の算出装置。
【請求項8】
同心円状の突条が形成された治具がそれぞれ取付けられる一対の加圧部材を備える端面拘束圧縮試験機を用い、軸線方向の両端面が前記突条にそれぞれ係合する円柱状の試験片を前記一対の治具の間に取付け、前記試験片を前記軸線方向に圧縮して変形抵抗を算出する算出装置用の変形抵抗の算出プログラムであって、
前記一対の加圧部材により前記試験片を圧縮したときに生じる、前記一対の加圧部材のストローク量と前記試験片の圧縮量との差異を補正量としたときに、
前記算出装置を、
前記補正量の推定式は前記試験片に作用させる荷重の一次関数で表されるとして、前記推定式を求める推定式算出部と、
前記ストローク量及び前記荷重から前記推定式に基づいて補正圧縮率を算出する補正圧縮率算出部と、
前記補正圧縮率及び前記荷重に基づいて相当ひずみ及び前記変形抵抗を算出する変形抵抗算出部と、
して機能させる変形抵抗の算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等で形成された試験片の変形抵抗を算出するための試験機には、引張試験、圧縮試験、ねじり試験等を行う装置が用いられる。引張試験及びねじり試験を行うには、試験機で試験片を掴むための掴み部が試験片に必要である。このため、試験片の寸法が大きくなったり、掴み部に起因する複雑な加工が必要になったりする。一方、圧縮試験を行う試験機は、試験片を掴まずに所定の方向に挟むだけであるため、試験片に掴み部が不要である。このため、圧縮試験では、引張試験及びねじり試験用の試験片に比べて構成が単純な、円柱状の試験片を用いる。
また引張試験において、応力ひずみ関係が得られるひずみは相当ひずみで0.2~0.3であるのに対し、圧縮試験は1.0以上の高ひずみ領域の変形抵抗を取得できる。
限られた材料から高ひずみ領域の変形抵抗を取得する場合には、圧縮試験は望ましい測定方法である。
【0003】
従来、圧縮試験に用いられる試験機として、試験片の温度制御及び加工速度制御ができることを特徴とする圧縮試験機(富士電波工機(株)製、登録商標:サーメックマスターZ)が開発されている。この試験機は、事実上の標準試験機として素材メーカーや各種研究機関で用いられている。
【0004】
図9はこの従来の試験機100の概略構成を示す説明図である。この試験機100は、一対の加圧部材(アクチュエータ)11と、位置センサー(位置検出部)12と、荷重センサー(荷重検出部)13と、加工制御部14と、加熱コイル15と、加熱部16と、熱電対17と、主制御部18と、を備えている。
一対の加圧部材11は、上下方向Zに互いに間隔を空けて配置されている。以下では、一対の加圧部材11のうち、上方に配置された加圧部材を加圧部材11Aとも言い、下方に配置された加圧部材を加圧部材11Bとも言う。一対の加圧部材11は、相対的に上下方向Zに移動できる。
【0005】
各加圧部材11には、治具21がそれぞれ着脱可能に取付けられている。以下では、加圧部材11Aに取付けられる治具を治具21Aとも言い、加圧部材11Bに取付けられる治具を治具21Bとも言う。例えば、治具21Aは加圧部材11Aにボルト等の固定部材19により固定されている。
円柱状の試験片110は、治具21B上に配置される。試験片110は、試験片110の軸線O方向が上下方向Zに沿うように配置される。
加熱コイル15、加熱部16、及び熱電対17は、試験片110を予め設定された目標温度に保つ機構である。加熱コイル15は、例えば高周波磁誘誘導式の加熱コイルである。加熱コイル15は、試験片110の径方向外側に試験片110と同軸に配置されている。
加熱部16は、例えば高周波電磁誘導式の加熱部である。加熱部16は、加熱コイル15に接続されている。熱電対17の第1端部は試験片110の外面に取付けられ、熱電対17の第2端部は加工制御部14及び加熱部16にそれぞれ接続されている。熱電対17は、試験片110の外面の温度を測定する。熱電対17は、測定した温度を信号に変換して主制御部18に送る。主制御部18は、目標温度に対して試験片110の温度差を修正するために、加熱部16に制御信号を送る。加熱部16は、加熱コイル15に適当な高周波電流を印加することにより、試験片110の内部に誘導電流を発生させる。試験片110は、その誘導電流のジュール熱により加熱される。
【0006】
一対の加圧部材11は、試験片110を一対の治具21を介して圧縮加工する機構である。すなわち、所定のタイミングで加工制御部14から制御信号を一対の加圧部材11に伝送し(送り)、加圧部材11Aに固定された治具21Aを所定の速度で下方に移動(ストローク)させて、治具21Aと治具21Bとの間で試験片110を挟圧して圧縮する。
位置センサー12は、治具21Aの上下方向Zの位置を測定する。例えば、位置センサー12は、治具21Bに対して治具21Aが下方に移動したストローク量S(一対の加圧部材11のストローク量)を測定する。位置センサー12が測定したストローク量Sは、信号に変換されて、主制御部18を介して算出装置26に伝送される。
荷重センサー13は、一対の加圧部材11により試験片110に負荷される荷重Pを測定する。荷重センサー13が測定した荷重Pは、信号に変換されて、主制御部18を介して算出装置26に伝送される。算出装置26に組み込まれた手段により変形抵抗が自動的に演算され、記録部27に記録される。
【0007】
算出装置26で行われる演算の理論は、文献「富士電波工機(株):サーメックマスターZの取扱説明書、1987」によると、以下のようである。
試験片110の初期高さをh、初期直径をd、加工中の試験片の高さをh、最大直径をdとする。このとき、加工ひずみεを、(1)式に示す高さひずみで定義する。
ε=-ln(h/h) ・・(1)
なお、lnは、自然対数である。
【0008】
最大直径dは、加工ひずみεの関数で次の(2)式で表される。
d=d(ε) ・・(2)
故に、試験片110の最大断面積A(ε)は、次の(3)式により得られる。
A(ε)=0.25×π×d(ε)×d(ε) ・・(3)
ここに、πは円周率を表す。そして、変形抵抗σ(ε)は、荷重Pを最大断面積A(ε)で除した(4)式で得られる。
σ(ε)=P/A(ε) ・・(4)
【0009】
図10に、この理論に基づく算出装置26の構成を示す。
算出装置26は、位置センサー12が測定したストローク量S及び荷重センサー13が測定した荷重Pを取り込んで、ひずみ及び変形抵抗を出力する。すなわち、算出装置26は、ストローク量Sから前記(1)式の関係より試験片110の加工ひずみεを推定するひずみ推定手段29を備えている。ひずみ推定手段29は、加工ひずみεを出力する。
さらに、算出装置26は、加工ひずみεから(2)式及び(3)式の関係より、試験片110の最大断面積A(ε)を推定する断面積推定手段30を備えている。さらに、算出装置26は、断面積推定手段30により推定された最大断面積A(ε)、及び荷重Pから(4)式の関係を用いて変形抵抗を推定する変形抵抗推定手段31を備えている。変形抵抗推定手段31は、変形抵抗を出力する。
【0010】
しかし特許文献1では、上記の測定方法では変形様式の影響が全く考慮されていないために、大きなひずみにおける変形抵抗を精度良く評価できないことが示されている。さらに特許文献1では、その課題に対して、試験片が樽状に変形するために試験片の最大断面に生じる不均一ひずみ分布の影響を補正する不均一ひずみ分布補正手段を適用することで、大きなひずみにおける変形抵抗を精度良く評価できることが示されている。
しかし、特許文献1に開示されているように試験片を圧縮する場合、試験片と治具との間の摩擦係数は毎回異なり、その都度得られる荷重-ストローク線図も変わる。すなわち、さらに精度の高い変形抵抗の取得には、試験片と治具との間の摩擦係数を都度取得する、もしくは一定の条件に設定することが必要である。
【0011】
ところで、鋼材等の変形抵抗を圧縮試験により高ひずみ域まで測定する方法として、小坂田らが公知文献1(Osakada, K. et al.: Ann. CIRP, 30-1(1981), 135.)で提案する端面拘束圧縮法がある。この端面拘束圧縮法には、図11及び図12に示す試験片40が用いられる。試験片40は、円柱状に形成されている。試験片40における、試験片40の軸線O方向の両端面40aには、試験片溝41がそれぞれ形成されている。なお、試験片溝41は、試験片40に対する寸法を誇張して示している。試験片溝41は、円錐状に形成され、軸線O上に配置されている。試験片40に対しても、初期高さh、初期直径dとする。
例えば、初期高さhは、初期直径dの1.5倍の長さである。試験片溝41の径は2.0mmである。図11における断面において、試験片溝41の底部のなす角度は120度である。
【0012】
図13及び図14に、端面拘束圧縮法で用いられる治具45を示す。治具45は、円柱状に形成されている。治具45の外面には、同心円状の突条46が形成されている。この例では、治具45の外面に複数の突条46が形成されている。なお図13及び図14では、突条46の数を少なく示している。複数の突条46の中心には、外面から突出した突起47が形成されている。突起47は、円錐状に形成されている。突起47の高さは、各突条46の高さよりも高い。
例えば、治具45の径は60mmであり、治具45の高さは40mmである。突条46の幅は0.4mmであり、突条46の先端のなす角度は120度である。突起47の径は2.4mmであり、突起47の先端のなす角度は120度である。
【0013】
突起47が試験片40の試験片溝41に係合し、複数の突条46が試験片40の端面40aに係合する。これにより、試験片40の端面40aが治具45の外面に対して、試験片40の径方向に拘束される。すなわち、治具45の外面に対する試験片40の端面40aの径方向の滑りを拘束する。端面拘束圧縮法は、無潤滑で行われる。
端面拘束圧縮法では、試験片を無潤滑で圧縮する上、治具45に設けた同心円状の突条46により、試験片40と治具45の間は、固着状態であるとみなすことができる。
【0014】
図15に、従来の端面拘束圧縮法により変形抵抗を算出する工程の説明図を示す。
ステップS11において、試験片40の初期高さh、初期断面積Aを測定する。ステップS11が終了すると、ステップS12に移行する。
次に、ステップS12において、前記試験機100の一対の加圧部材11に一対の治具45を取付ける。一対の治具45で試験片40を上下方向Zに挟んで、圧縮試験を行う。圧縮試験を行うと、図16に示すように、位置センサー12によりストローク量Sが、荷重センサー13により荷重Pがそれぞれ測定される。
この圧縮試験は、例えば試験機100に最大ストローク量Smaxを入力して行われる。試験機100は、位置センサー12が測定したストローク量Sが最大ストローク量Smaxに達するまで加圧部材11Aを下方に移動させる。ストローク量Sが最大ストローク量Smaxに達したときに、圧縮試験が終了する。ストローク量Sが最大ストローク量Smaxのときに、荷重センサー13が測定した荷重Pが最大荷重Pmaxである。
圧縮試験で測定したデータは、主制御部18を介して記録部27に記録される。
【0015】
図17に示すように、圧縮試験が終了した試験機100から取り出された、圧縮後の試験片40’は、いわゆる中高形状になっている。すなわち、試験片40’の径方向の中心での中心高さ(軸線O方向の長さ)hが、試験片40’の径方向外側の端での端部高さhよりも長い。この理由の1つは、図9中に二点鎖線で示すように、治具45における試験片40’に接触する外面が湾曲するように変形するためである。
試験片40’の両端面40aには、治具45における複数の突条46の形状が転写される。
ステップS12が終了すると、ステップS13に移行する。
【0016】
次に、ステップS13において、圧縮試験で測定したデータから最大荷重Pmaxを求める。試験片40 ’の中心高さhを測定する。ステップS13が終了すると、ステップS16及びステップS19にそれぞれ移行する。
【0017】
次に、ステップS16において、(7)式を用いて試験片40’(試験片40)の圧縮率eを算出する。ステップS16が終了すると、ステップS17及びステップS18にそれぞれ移行する。
【0018】
【数1】
【0019】
次に、ステップS17において、図18に示す圧縮率eと拘束係数f(f値)との関係式を用いる。圧縮率eと拘束係数fとの関係式は、例えば公知文献1等から求めることができる。ステップS16において得られた圧縮率eを用いて、圧縮率eと拘束係数fとの関係式から、拘束係数fを算出する。
ステップS17が終了すると、ステップS19に移行する。
【0020】
次に、ステップS18において、図19に示す圧縮率eと相当ひずみεとの関係式を用いる。圧縮率eと相当ひずみεとの関係式は、例えば、公知文献1等から求めることができる。ステップS16において得られた圧縮率eを用いて、圧縮率eと相当ひずみεとの関係式から、相当ひずみεを算出する。
ステップS18が終了すると、ステップS20に移行する。
【0021】
次に、ステップS19において、ステップS11において得られた初期断面積A、ステップS13において得られた最大荷重Pmax、ステップS17において得られた拘束係数f、及び(8)式を用いて、試験片40の変形抵抗σを算出する。
ステップS19が終了すると、ステップS20に移行する。
【0022】
【数2】
【0023】
次に、ステップS20において、ステップS18において得られた相当ひずみε、及びステップS19において得られた変形抵抗σを用いて、相当ひずみε及び変形抵抗σの組を算出する。
図20に、相当ひずみεと変形抵抗σとの関係を示す。図20において、横軸は相当ひずみεを表し、縦軸は変形抵抗σを表す。
ステップS20が終了すると、全ての工程が終了し、端面拘束圧縮法により変形抵抗が算出される。
ただし、従来の端面拘束圧縮法を1回行うと、曲線L1全体でなく、相当ひずみε及び変形抵抗σの組が1組(図20中の1つの算出組Q)得られる。
【0024】
ここで、公知文献2(戸田正弘、「鍛造加工条件における鋼材の変形抵抗に関する研究」、大阪大学博士論文、1999年1月)では、初期高さh、初期直径dの試験片として鋼材のように硬い材料を用いた場合、この試験片を端面拘束圧縮すると以下のような問題が生じると指摘している。すなわち、試験片の圧縮荷重が高くなるために、治具が弾性変形し、圧縮後の試験片の中心高さhと端部高さhの差が大きくなり、適切な圧縮率が取得できない。
公知文献2によると、この場合において、(9)式により平均高さhaveを求める。そして、(7)式の右辺における中心高さhに代えて平均高さhaveを用いて圧縮率eを求めることで、正確な圧縮量の評価が可能であることが示されている。
【0025】
【数3】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】特開平11-090531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかしながら、従来の端面拘束圧縮法では、試験片は圧縮後だけでなく圧縮中にも中高形状になるため、1回の圧縮試験において、一対の加圧部材の任意のストローク量及び荷重における圧縮率を算出できないという問題がある。圧縮率を算出できない理由には、試験機内のガタつきに加え、治具や試験片の弾性変形、試験機の撓み等がある。
ストローク量及び荷重から試験片の圧縮率が算出できれば、1回の圧縮試験において、任意のストローク及び荷重における圧縮率が算出できる。圧縮率が算出できれば、ひずみと拘束係数が算出できる。拘束係数が算出できれば、拘束係数と荷重から変形抵抗が算出できる。
【0028】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、圧縮後の試験片が中高形状になる場合であっても、1回の圧縮試験における任意のストローク量及び荷重から試験片の相当ひずみ及び変形抵抗を算出することができる変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の変形抵抗の算出方法は、同心円状の突条が形成された治具がそれぞれ取付けられる一対の加圧部材を備える端面拘束圧縮試験機を用い、軸線方向の両端面が前記突条にそれぞれ係合する円柱状の試験片を前記一対の治具の間に取付け、前記試験片を前記軸線方向に圧縮して変形抵抗を算出する変形抵抗の算出方法であって、前記一対の加圧部材により前記試験片を圧縮したときに生じる、前記一対の加圧部材のストローク量と前記試験片の圧縮量との差異を補正量としたときに、前記補正量の推定式は前記試験片に作用させる荷重の一次関数で表されるとして、前記推定式を求める推定式算出工程と、前記ストローク量及び前記荷重から前記推定式に基づいて補正圧縮率を算出する補正圧縮率算出工程と、前記補正圧縮率及び前記荷重に基づいて相当ひずみ及び前記変形抵抗を算出する変形抵抗算出工程と、を行うことを特徴としている。
【0030】
また、本発明の変形抵抗の算出装置は、同心円状の突条が形成された治具がそれぞれ取付けられる一対の加圧部材を備える端面拘束圧縮試験機を用い、軸線方向の両端面が前記突条にそれぞれ係合する円柱状の試験片を前記一対の治具の間に取付け、前記試験片を前記軸線方向に圧縮して変形抵抗を算出する変形抵抗の算出装置であって、前記一対の加圧部材により前記試験片を圧縮したときに生じる、前記一対の加圧部材のストローク量と前記試験片の圧縮量との差異を補正量としたときに、前記補正量の推定式は前記試験片に作用させる荷重の一次関数で表されるとして、前記推定式を求める推定式算出部と、前記ストローク量及び前記荷重から前記推定式に基づいて補正圧縮率を算出する補正圧縮率算出部と、前記補正圧縮率及び前記荷重に基づいて相当ひずみ及び前記変形抵抗を算出する変形抵抗算出部と、を備えることを特徴としている。
【0031】
また、本発明の変形抵抗の算出プログラムは、同心円状の突条が形成された治具がそれぞれ取付けられる一対の加圧部材を備える端面拘束圧縮試験機を用い、軸線方向の両端面が前記突条にそれぞれ係合する円柱状の試験片を前記一対の治具の間に取付け、前記試験片を前記軸線方向に圧縮して変形抵抗を算出する算出装置用の変形抵抗の算出プログラムであって、前記一対の加圧部材により前記試験片を圧縮したときに生じる、前記一対の加圧部材のストローク量と前記試験片の圧縮量との差異を補正量としたときに、前記算出装置を、前記補正量の推定式は前記試験片に作用させる荷重の一次関数で表されるとして、前記推定式を求める推定式算出部と、前記ストローク量及び前記荷重から前記推定式に基づいて補正圧縮率を算出する補正圧縮率算出部と、前記補正圧縮率及び前記荷重に基づいて相当ひずみ及び前記変形抵抗を算出する変形抵抗算出部と、して機能させることを特徴としている。
【0032】
これらの発明によれば、各治具の突条が試験片の軸線方向の両端面にそれぞれ係合する。このため、一対の加圧部材が一対の治具を介して試験片を軸線方向に圧縮する際に、一対の治具に対して試験片が試験片の径方向に滑らず、圧縮試験の再現性を高めることができる。試験片は、圧縮後に中高形状になる。
端面拘束圧縮試験機等のコンプライアンス及びガタつきにより、一対の加圧部材のストローク量と試験片の圧縮量との間に誤差が生じる場合がある。ここで言うコンプライアンスとは、端面拘束圧縮試験機の各構成部品、一対の加圧部材、及び試験片における弾性変形及び撓みのことを意味する。ガタつきとは、端面拘束圧縮試験機の複数の構成部品、一対の加圧部材、及び試験片の一方に対して他方が移動することを意味する。
【0033】
このような場合であっても、ストローク量と圧縮量との差異を補正量とし、補正量の推定式を、荷重の一次関数で表されるとして求める。
発明者等は、数多くの試験を行った結果、補正量の推定式が、荷重の一次関数で表されることを見出した。この一次関数の比例定数は、端面拘束圧縮試験機、一対の治具、及び試験片のコンプライアンスに基づく値である。一方、一次関数の定数(切片)は、端面拘束圧縮試験機、一対の治具、及び試験片間のガタつきに基づく値と考えられる。
【0034】
1回の圧縮試験において、一対の加圧部材の任意のストローク量及び荷重から推定式に基づいて補正圧縮率を算出する。そして、補正圧縮率及び荷重に基づいて相当ひずみ及び変形抵抗を算出する。
従って、圧縮後の試験片が中高形状になる場合であっても、1回の圧縮試験における任意のストローク量及び荷重から試験片の相当ひずみ及び変形抵抗を算出することができる。
【0035】
また、前記変形抵抗の算出方法において、前記推定式算出工程では、2つの前記試験片をそれぞれ圧縮したときの、前記一対の加圧部材の最大ストローク量、前記試験片に作用させた最大荷重、及び前記試験片に前記最大荷重を作用させたときの最大圧縮量を、前記2つの試験片のうち、一方の前記最大荷重と他方の前記最大荷重とが互いに異なるように取得し、前記2つの試験片それぞれに対する、前記最大ストローク量と前記最大圧縮量と差異による前記補正量と、前記最大荷重と、に基づいて前記一次関数を算出してもよい。
この発明によれば、推定式算出工程では、2つの試験片をそれぞれ圧縮して、最大ストローク量、最大荷重、及び最大圧縮量を取得する。その際に、2つの試験片のうち、一方の最大荷重と他方の最大荷重とが互いに異なるように取得する。2つの試験片に対してこのように圧縮試験を行うことで、補正量の推定式である一次関数の比例定数及び定数を求めることができる。
【0036】
また、前記変形抵抗の算出方法において、前記推定式算出工程において圧縮される前記2つの試験片に対しては、前記ストローク量及び前記荷重からなる測定組を複数測定しなくてもよい。
この発明によれば、推定式算出工程において補正量の推定式を迅速に得ることができる。
【0037】
また、前記変形抵抗の算出方法において、前記推定式算出工程において、前記2つの試験片のうち、1つの前記試験片に対しては、前記ストローク量及び前記荷重からなる測定組を複数測定せず、別の1つの前記試験片に対しては、前記測定組を複数測定し、前記推定式算出工程の後で、それぞれの前記測定組に対して前記補正圧縮率算出工程及び前記変形抵抗算出工程をそれぞれ行い、前記複数の測定組を、前記変形抵抗及び相当ひずみからなる複数の算出組に変換してもよい。
この発明によれば、補正量の推定式を求める際に、最大ストローク量、最大荷重、及び最大圧縮量しか測定しない試験片を減らし、試験片を効果的に用いることができる。
【0038】
また、前記変形抵抗の算出方法において、前記推定式算出工程では、前記補正量をδ、前記荷重をPとしたときに、前記推定式を(12)式で表してもよい。
δ=C×P+δ’ ・・(12)
ただし、Cは前記端面拘束圧縮試験機、前記一対の治具、及び前記試験片のコンプライアンスに基づいて算出される補正係数であり、δ’は前記端面拘束圧縮試験機、前記一対の治具、及び前記試験片間のガタつきに基づいて算出される補正係数である。
この発明によれば、補正量δの推定式を荷重Pの一次関数で表す。その際に、一次関数の比例定数であるCが端面拘束圧縮試験機、一対の治具、及び試験片のコンプライアンスに基づいて算出される補正係数であり、一次関数の定数であるδ’が端面拘束圧縮試験機、一対の治具、及び試験片間のガタつきに基づいて算出される補正係数である。このように、比例定数及び定数の物理的な意味を踏まえて、補正量δの推定式を算出することができる。
【0039】
また、前記推定式算出工程を行った後で、1つの前記試験片を圧縮して取得した前記ストローク量及び前記荷重からなる組である測定組複数に対して、前記補正圧縮率算出工程及び前記変形抵抗算出工程をそれぞれ行い、前記複数の測定組を、前記変形抵抗及び相当ひずみからなる複数の算出組に変換してもよい。
この発明によれば、変形抵抗に対応する第1軸、及び相当ひずみに対応する第2軸が表す座標平面上で、複数の算出組が表す座標を互いに結ぶことで、相当ひずみに対するいわゆる変形抵抗曲線を得ることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の変形抵抗の算出方法、変形抵抗の算出装置、及び変形抵抗の算出プログラムによれば、圧縮後の試験片が中高形状になる場合であっても、1回の圧縮試験における任意のストローク量及び荷重から試験片の相当ひずみ及び変形抵抗を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施形態の変形抵抗の算出装置が用いる端面拘束圧縮試験機の概略構成を示す説明図である。
図2】同変形抵抗の算出装置の概要を示す図である。
図3】本発明の変形抵抗の算出方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
図4】最大荷重Pmaxと補正量δとの関係を示す図である。
図5】本発明の一実施形態における変形抵抗の算出方法の他の例を示すフローチャートである。
図6】最大荷重Pmaxと補正量δとの関係を確認した結果を示す図である。
図7】JIS S10Cを用いて、相当ひずみεに対する変形抵抗σ等の変化を確認した結果を示す図である。
図8】JIS SUJ2を用いて、相当ひずみεに対する変形抵抗σ等の変化を確認した結果を示す図である。
図9】従来の試験機の概略構成を示す説明図である。
図10】同試験機を用いて変形抵抗を算出する算出装置の機能ブロック図である。
図11】従来の端面拘束圧縮法で用いられる試験片の一部を破断した側面図である。
図12】同試験片の平面図である。
図13】従来の端面拘束圧縮法で用いられる治具の斜視図である。
図14】同治具の縦断面図である。
図15】同端面拘束圧縮法により変形抵抗を算出する工程の説明図である。
図16】同端面拘束圧縮法において圧縮試験を行うことで得られる、ストローク量と荷重との関係の一例を示す図である。
図17】同圧縮試験で圧縮された後の試験片の一部縦断面図である。
図18】圧縮率eと拘束係数fとの関係の一例を表す図である。
図19】圧縮率eと相当ひずみεとの関係の一例を表す図である。
図20】相当ひずみεと変形抵抗σとの関係の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係る変形抵抗の算出装置(以下、単に算出装置とも言う)の一実施形態を、図1から図8を参照しながら説明する。
図1に示すように、この算出装置50は、端面拘束圧縮試験機1を用いて変形抵抗を算出する装置である。以下では、まず端面拘束圧縮試験機1について説明する。
端面拘束圧縮試験機1は、前記試験機100と同一の構成である。端面拘束圧縮試験機1の一対の加圧部材11には、前記一対の治具45がそれぞれ取付けられる。前記試験片40は、一対の治具45の間に取付けて用いられる。一対の加圧部材11は、一対の治具45を介して試験片40を軸線O方向に圧縮する。
端面拘束圧縮試験機1において、位置センサー12が測定したストローク量S、及び荷重センサー13が測定した荷重Pは、主制御部18を介して算出装置50にそれぞれ伝送される。
【0043】
ここで、一対の加圧部材11により試験片40を圧縮したときに生じる、ストローク量Sと試験片40の圧縮量△hとの差異を補正量δとする。ストローク量Sは、一対の加圧部材11が試験片40を圧縮し始めたときの位置を0とする。ストローク量S及び圧縮量△hは、1回の圧縮試験において時々刻々変化する変数である。
このとき、補正量δは、(15)式により得られる。なお、|x|はxの絶対値を意味する。
δ=|S-△h| ・・(15)
一般的に、圧縮時に一対の治具45等が変形するため、ストローク量Sは圧縮量△h以上である。このため、補正量δは(16)式により得られる。
δ=S-△h ・・(16)
【0044】
図2に示すように、算出装置50はコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)51と、主記憶装置52と、補助記憶装置53と、入出力インタフェース(IO・I/F)54と、記録・再生装置55と、を備えている。CPU51、主記憶装置52、補助記憶装置53、入出力インタフェース54、及び記録・再生装置55は、バス56により互いに接続されている。
主記憶装置52は、CPU51のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。
入出力インタフェース54は、キーボードやマウス等の入力装置54a、及び表示装置54bに接続される。入出力インタフェース54は、さらに位置センサー12及び荷重センサー13に接続されている。
記録・再生装置55は、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体55aに対するデータの記録や再生を行う。
【0045】
補助記憶装置53は、各種データやプログラム等が記憶されるハードディスクドライブ装置等である。補助記憶装置53には、前記コンピュータを算出装置50として機能させるための変形抵抗の算出プログラム(以下、単に算出プログラムと言う)53aや、OSプログラム等の各種プログラム等が格納されている。制御プログラム53aを含む各種プログラムは、記録・再生装置55を介して記録媒体55aから補助記憶装置53に取り込まれる。算出プログラム53a等は、記録媒体55aに格納される。
なお、これらのプログラムは、CDやDVD等のディスク型の記録媒体や、図示されていない通信装置を介して外部装置から補助記憶装置53に取り込まれてもよい。
【0046】
CPU51は、各種演算処理を実行する。CPU51は、機能的に、補正量の推定式を求める推定式算出部51aと、ストローク量S及び荷重Pから推定式に基づいて補正圧縮率を算出する補正圧縮率算出部51bと、補正圧縮率及び荷重に基づいて相当ひずみ及び変形抵抗を算出する変形抵抗算出部51cと、を備えている。CPU51の機能構成要素である推定式算出部51a、補正圧縮率算出部51b、及び変形抵抗算出部51cは、補助記憶装置53に格納されている算出プログラム53a等をCPU51が実行することで機能する。算出プログラム53a等は、算出装置50用のプログラムである。算出プログラム53aは、算出装置50を推定式算出部51a、補正圧縮率算出部51b、及び変形抵抗算出部51cとして機能させる。
【0047】
推定式算出部51aは、補正量の推定式は試験片40に作用させる荷重Pの一次関数で表されるとして、推定式を求める。
推定式算出部51a、補正圧縮率算出部51b、及び変形抵抗算出部51cが行う工程の詳細は、以下で説明する本実施形態の変形抵抗の算出方法(以下では、単に算出方法とも言う)で詳しく説明する。
【0048】
次に本実施形態の算出方法の実施形態の一例について説明する。図3は、本発明の一実施形態における算出方法S30を示すフローチャートである。算出方法S30では、推定式算出工程S31と、本試験工程S36と、を行う。ここで言う本試験は、この試験内で用いられる試験片からストローク量及び荷重からなる組である測定組を複数測定して補正圧縮率等を算出する試験のことを意味する。一方、後述する予備試験は、この試験内で用いられる試験片から最大ストローク量、最大荷重、及び最大圧縮量を取得するが、測定組を複数測定しない試験のことを意味する。
推定式算出工程S31では、補正量の推定式は試験片40に作用させる荷重Pの一次関数で表されるとして、推定式を求める。まず、推定式算出工程S31において、予備試験工程S32を行う。
予備試験工程S32では、2つの試験片40をそれぞれ圧縮する。以下では、予備試験工程S32で圧縮される2つの試験片40のうち、最初に圧縮される試験片40(一方)を試験片40Aと言い、2番目に圧縮される試験片40(他方)を試験片40Bと言う。
【0049】
予備試験工程S32では、試験片40Aを圧縮したときの、一対の加圧部材11の最大ストローク量Smax、試験片40Aに作用させた最大荷重Pmax、及び試験片40Aに最大荷重Pmaxを作用させたときの最大圧縮量△hmaxを取得する。
同様に、試験片40Bを圧縮したときの、一対の加圧部材11の最大ストローク量Smax、試験片40Bに作用させた最大荷重Pmax、及び試験片40Bに最大荷重Pmaxを作用させたときの最大圧縮量△hmaxを取得する。
以下では、試験片40Aについての最大ストローク量Smax、最大荷重Pmax、最大圧縮量△hmaxを、最大ストローク量SmaxA、最大荷重PmaxA、最大圧縮量△hmaxAとも言う。試験片40Bについても同様である。
【0050】
なお、最大圧縮量△hmaxは、試験片40の初期高さh及び平均高さhaveを用いて、(17)式により得られる。
△hmax=h-have ・・(17)
なお、平均高さhaveは(9)式以外の式で定義されてもよい。
このとき、補正量δは、(16)式を参考にして(19)式により得られる。
δ=Smax-△hmax
=Smax-h+have ・・(19)
【0051】
ここで、図4に、最大荷重Pmaxと補正量δとの関係を示す。図4において、横軸は最大荷重Pmaxを表し、縦軸は補正量δを表す。
予備試験工程S32で2つの試験片40を圧縮する際には、図4に示すよう最大荷重PmaxAと最大荷重PmaxBとが互いに異なるようにする。具体的には、例えば試験片40A及び試験片40Bの硬さ(ヤング率)が互いに同一の場合には、最大ストローク量SmaxAと最大ストローク量SmaxBとが互いに異なるようにする。例えば試験片40A及び試験片40Bの硬さが互いに異なる場合には、最大ストローク量SmaxAと最大ストローク量SmaxBとが互いに等しくなるようにする。
なお、予備試験工程S32において圧縮される試験片40A,40Bに対しては、測定組を複数測定しない。
予備試験工程S32が終了すると、ステップS33に移行する。
【0052】
次に、式算出工程S33(ステップS33)において、試験片40A,40Bそれぞれに対する、最大ストローク量Smaxと最大圧縮量△hmaxと差異による補正量δと、最大荷重Pmaxと、に基づいて一次関数を算出する。
具体的には、まず荷重Pの一次関数である補正量δの推定式を(22)式で表す。
δ=C×P+δ’ ・・(22)
ただし、Cは端面拘束圧縮試験機1、一対の治具45、及び試験片40のコンプライアンスに基づいて算出される補正係数である。δ’は端面拘束圧縮試験機1、一対の治具45、及び試験片40間のガタつきに基づいて算出される補正係数である。例えば、ガタつきには、固定部材19により加圧部材11Aに治具45を取付けるときのガタつきも含まれる。
補正係数C,δ’は、端面拘束圧縮試験機1及び一対の治具45の組に対して定まる値である。補正係数C,δ’は、圧縮試験を行う端面拘束圧縮試験機1及び一対の治具45の組ごとに算出することが好ましい。補正係数C,δ’を算出した後では、端面拘束圧縮試験機1に取付けられる一対の治具45を交換しないことが好ましい。端面拘束圧縮試験機1に取付ける一対の治具45を交換した場合には、補正係数C,δ’を算出し直すことが好ましい。
【0053】
試験片40Aに対して、最大ストローク量SmaxA及び最大圧縮量△hmaxAを用いて、(19)式により補正量δを得る。同様に、試験片40Bに対して、最大ストローク量SmaxB及び最大圧縮量△hmaxBを用いて、(19)式により補正量δを得る。
そして、試験片40Aに対する最大荷重PmaxA及び補正量δ、試験片40Bに対する最大荷重PmaxB及び補正量δから補正係数C,δ’を算出する。
式算出工程S33が終了すると、推定式算出工程S31の全ての工程を終了し、本試験工程S36に移行する。
【0054】
本試験工程S36は、予備試験工程S32で用いた端面拘束圧縮試験機1及び一対の治具45を用いて行う。なお、本算出方法S30では、推定式算出工程S31において補正量δの推定式の算出が既に行われているため、本試験工程S36において補正量δの推定式を算出しない。
まず、本試験工程S36において、試験片圧縮工程S37を行う。
試験片圧縮工程S37では、試験片40A,40Bとは異なる1つの試験片40を用いて端面拘束圧縮試験機1及び一対の治具45によりこの試験片40を圧縮する圧縮試験を行う。この圧縮試験により、複数の測定組を取得する。測定組とは、ある時刻において、位置センサー12が測定したストローク量S、及び荷重センサー13が測定した荷重Pの組のことを意味する。位置センサー12及び荷重センサー13が測定した時刻がほぼ同一であるため、このほぼ同一時刻に測定されたストローク量S及び荷重Pが組にして扱われる。
試験片圧縮工程S37では、例えば所定の時間間隔ごとに測定組が取得される。これにより、複数の測定組が取得される。以下では、Nを2以上の整数として、N組の測定組が取得されたとして説明する。
試験片圧縮工程S37が終了すると、ステップS38に移行する。
【0055】
次に、補正圧縮率算出工程S38(ステップS38)において、ストローク量Sから推定式に基づいて補正圧縮率e’を算出する。補正圧縮率e’は、(24)式により算出される。(24)式の右辺に(22)式を代入すると、(25)式が得られる。本試験工程S36において1回目に行われる補正圧縮率算出工程S38では、1組目の測定組におけるストローク量S及び荷重Pから推定式に基づいて補正圧縮率e’を算出する。
補正圧縮率算出工程S38が終了すると、ステップS39に移行する。
【0056】
【数4】
【0057】
次に、変形抵抗算出工程S39(ステップS39)において、補正圧縮率e’及び荷重Pに基づいて相当ひずみε及び変形抵抗σを算出する。具体的には、図15において、圧縮率eに代えて補正圧縮率e’を用い、最大荷重Pmaxに代えて1組目の測定組における荷重Pを用いてステップS17からS20を行う。変形抵抗算出工程S39を行うと、荷重P及び補正圧縮率e’の組から、相当ひずみε及び変形抵抗σからなる組である算出組が算出される。
変形抵抗算出工程S39が終了すると、ステップS40に移行する。
【0058】
ステップS40では、1つの試験片40内での変形抵抗σの算出が終了したか否かを判断する。ステップS40でYesと判断された場合にはステップS41に移行し、ステップS40でNoと判断された場合には補正圧縮率算出工程S38に移行する。
現在、1組目の測定組が処理され、N組目の測定組はまだ処理されていない。このため、ステップS40ではNoと判断され、補正圧縮率算出工程S38に移行する。
【0059】
ステップS40に続いて行われる補正圧縮率算出工程S38では、2組目の測定組が処理される。こうして補正圧縮率算出工程S38及び変形抵抗算出工程S39を組にしてN回繰り返すと、N組目の測定組が処理される。
すなわち、1つの試験片を圧縮して取得した複数の測定組に対して補正圧縮率算出工程S38及び変形抵抗算出工程S39をそれぞれ行い、複数の測定組を、変形抵抗σ及び相当ひずみεからなる複数の算出組に変換する。
図20に示すように、変形抵抗σに対応する縦軸、及び相当ひずみεに対応する横軸が表す座標平面上で、複数の算出組Qが表す座標を互いに結ぶと、相当ひずみεに対する変形抵抗曲線L1が得られる。
この後でステップS40に移行すると、ステップS40ではYesと判断され、ステップS41に移行する。
【0060】
ステップS41では、別の試験片40の圧縮試験を行うか否かを判断する。ステップS41でYesと判断された場合には試験片圧縮工程S37に移行し、ステップS40でNoと判断された場合には、本試験工程S36の全ての工程を終了するとともに、算出方法S30の全ての工程を終了する。
なお、算出された変形抵抗曲線L1は、FEM(Finite Element Method:有限要素法)解析等に用いられる。
【0061】
次に本実施形態の算出方法の他の例について説明する。図5は、本発明の一実施形態における算出方法S50を示すフローチャートである。算出方法S50は、端面拘束圧縮試験機1及び一対の治具45を用いて行われる。算出方法S50では、推定式算出工程S51と、第2本試験工程S56と、を行う。
推定式算出工程S51では、まず予備試験工程S52において、前記予備試験工程S32における、1つの試験片40Aのみを対象とした圧縮試験を行う。試験片40Aに対しては、測定組を複数測定しない。
予備試験工程S52が終了すると、ステップS53に移行する。
【0062】
次に、第1本試験工程S53(ステップS53)において、前記予備試験工程S32における、1つの試験片40Bを用いた圧縮試験を行う。この際に、試験片40Aの最大荷重PmaxAと試験片40Bの最大荷重PmaxBとが互いに異なるようにする。試験片40Bを用いた圧縮試験では、試験片40Bに対して複数の測定組を測定する。
第1本試験工程S53が終了すると、前記式算出工程S33を行う。
式算出工程S33が終了すると、推定式算出工程S51の全ての工程を終了し、第2本試験工程S56に移行する。
【0063】
なお、本算出方法S50では、推定式算出工程S51において補正量δの推定式の算出が既に行われているため、第2本試験工程S56において補正量δの推定式を算出しない。第1本試験工程S53及び第2本試験工程S56で、本試験工程S55を構成する。
次に、第2本試験工程S56において、補正圧縮率算出工程S38A、変形抵抗算出工程S39A、及びステップS57を行う。第2本試験工程S56は、推定式算出工程S51の後で行う。
これら補正圧縮率算出工程S38A、変形抵抗算出工程S39A、及びステップS57は、算出方法S30における補正圧縮率算出工程S38、変形抵抗算出工程S39、及びステップS40に対応して試験片40Bに対して行われる工程である。すなわち補正圧縮率算出工程S38A、変形抵抗算出工程S39A、及びステップS57が行われることで、各測定組に対して補正圧縮率算出工程S38A及び変形抵抗算出工程S39Aをそれぞれ行い、複数の測定組を、変形抵抗及び相当ひずみからなる複数の算出組に変換する。これにより、試験片40Bの変形抵抗曲線L1が得られる。
ステップS57でYesと判断されると、ステップS58に移行する。
【0064】
ステップS58では、試験片40に対して新たに圧縮試験を行うか否かを判断する。ステップS58でYesと判断された場合には試験片圧縮工程S37に移行し、ステップS58でNoと判断された場合には、第2本試験工程S56の全ての工程を終了するとともに、算出方法S50の全ての工程を終了する。
試験片圧縮工程S37からステップS41は、本試験工程S36で行われる試験片圧縮工程S37からステップS41と同一の工程である。
【0065】
なお、推定式算出工程において、予備試験工程を行わず、試験片40A,40Bを用いて第1本試験工程を行い、試験片40A,40Bに対する最大ストローク量Smax、最大荷重Pmax、及び最大圧縮量△hmaxを取得してもよい。
そして、第2本試験工程において、試験片40A,40Bに対して補正圧縮率算出工程及び変形抵抗算出工程を行い、複数の算出組を算出してもよい。
【0066】
以上説明したように、本実施形態の算出方法S30、算出装置50、及び制御プログラム53aによれば、各治具45の突条46が試験片40の軸線O方向の両端面にそれぞれ係合する。このため、一対の加圧部材11が一対の治具45を介して試験片40を軸線O方向に圧縮する際に、一対の治具45に対して試験片40が試験片40の径方向に滑らず、圧縮試験の再現性を高めることができる。試験片40は、圧縮後に中高形状になる。
【0067】
端面拘束圧縮試験機1等のコンプライアンス及びガタつきにより、一対の加圧部材11のストローク量Sと試験片40の圧縮量△hとの間に誤差が生じる場合がある。このような場合であっても、ストローク量Sと圧縮量△hとの差異を補正量δとし、補正量δの推定式を、荷重Pの一次関数で表されるとして求める。
発明者等は、数多くの試験を行った結果、補正量δの推定式が、荷重Pの一次関数で表されることを見出した。この一次関数の比例定数は、試験片40に作用させる荷重Pに対する試験片40の変形率を表す値と考えられる。比例定数は、端面拘束圧縮試験機1、一対の治具45、及び試験片40のコンプライアンスに基づく値である。一方、一次関数の定数は、端面拘束圧縮試験機1、一対の治具45、及び試験片40間のガタつきに基づく値と考えられる。
【0068】
1回の圧縮試験において、一対の加圧部材11の任意のストローク量S及び荷重Pから推定式に基づいて補正圧縮率e’を算出する。そして、補正圧縮率e’及び前記荷重Pに基づいて相当ひずみε及び拘束係数fを算出する。そして、拘束係数f及び前記荷重Pに基づいて変形抵抗σを算出する。
従って、圧縮後の試験片40が中高形状になる場合であっても、1回の圧縮試験における任意のストローク量S及び荷重Pから試験片40の相当ひずみε及び変形抵抗σを算出することができる。
【0069】
推定式算出工程S31では、試験片40Aの最大荷重PmaxAと試験片40Bの最大荷重PmaxBとが互いに異なるように取得する。試験片40A,40Bに対してこのように圧縮試験を行うことで、補正量δの推定式である一次関数の比例定数及び定数を求めることができる。
算出方法S30において、推定式算出工程S31において圧縮される試験片40A,40Bに対して複数の測定組を測定しない。これにより、推定式算出工程S31において補正量δの推定式を迅速に得ることができる。
【0070】
算出方法S50において、試験片40Aに対しては複数の測定組を測定しない一方で、試験片40Bに対しては複数の測定組を測定する。そして、第2本試験工程S56において、試験片40Bに対して測定した複数の測定組を変形抵抗及び相当ひずみからなる複数の算出組に変換する。このため、補正量δの推定式を求める際に、最大ストローク量Smax、最大荷重Pmax、及び最大圧縮量△hmaxしか測定しない試験片40を減らし、試験片40を効果的に用いることができる。
推定式算出工程S31では、補正量δの推定式を(22)式で表す。従って、荷重Pの一次関数の比例定数及び定数の物理的な意味を踏まえて、補正量δの推定式を算出することができる。
【0071】
1つの試験片40を圧縮して取得した複数の測定組に対して、補正圧縮率算出工程S38及び変形抵抗算出工程S39をそれぞれ行う。そして、複数の測定組を、変形抵抗σ及び相当ひずみεの複数の算出組に変換する。変形抵抗σに対応するy軸、及び相当ひずみに対応するx軸が表す座標平面上で、複数の算出組Qが表す座標を互いに結ぶことで、相当ひずみεに対するいわゆる変形抵抗曲線L1を得ることができる。
【0072】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態の算出方法S30では、補正圧縮率算出工程S38及び変形抵抗算出工程S39をそれぞれ1回ずつしか行わなくてもよい。他の例として、前記実施形態の算出方法では、予備試験工程を3回以上行ってもよい。
試験片40を形成する材料は鋼材(鉄鋼)に限定されず、アルミニウム等でもよい。
試験機100は、加熱コイル15、加熱部16、熱電対17、及び主制御部18を備えなくてもよい。
【0073】
(確認試験)
(1.最大荷重Pmaxと補正量δとの関係の確認試験)
以下に説明するように、ストローク量Sを補正する補正量δを算出した。すなわち、表1の試験条件で、端面拘束圧縮試験機1を用いた圧縮試験を複数回行った。
【0074】
【表1】
【0075】
試験片の素材としては、機械構造用炭素鋼であるJIS S10C、及び機械構造用炭素鋼軸受鋼であるJIS SUJ2を用いた。試験片を、球状化焼鈍処理したφ60mm×L1000mmの丸鋼から切り出した。試験片は、φ8mm×L12mmの端面拘束溝付き円柱状の試験片である。使用した治具は、JIS SKH51製で、φ40mm×L50mmの端面拘束溝付き治具である。端面拘束圧縮試験機には、富士電波工機(株)製、サーメックマスターZ(登録商標)を用いた。
試験片を圧縮させるときのひずみ速度は、10s-1とした。試験片の圧縮率は、試験片に割れが発生しない範囲とした。変形抵抗の算出方法には、本実施形態の算出方法を用いた。
図6に、圧縮試験で得られた補正量δと最大荷重Pmaxとの関係を示す。図6において、横軸は最大荷重Pmax(kN(キロニュートン))を表し、縦軸は補正量δ(mm)を表す。○印はJIS S10Cの結果を表し、△印はJIS SUJ2の結果を表す。
【0076】
図6の結果から、最大荷重Pmaxと補正量δとの間には線形関係があることがわかる。この関係は、(22)式のように表すことができる。すなわち、補正量δの推定式が、荷重Pの一次関数で表される。
【0077】
(2.変形抵抗σの精度の確認試験)
補正圧縮率e’と荷重Pを用いて相当ひずみε及び変形抵抗σを算出した結果を、図7及び図8に示す。図7は、JIS S10Cを用いた場合の結果であり、図8はJIS SUJ2を用いた場合の結果である。
図7及び図8において、横軸は相当ひずみε(-)を表す。左側の縦軸は変形抵抗σ(MPa)を表し、右側の縦軸は誤差(%)を表す。
図7及び図8において、◇印は従来の端面拘束圧縮法による圧縮試験を複数回(◇印の数)行って求めた変形抵抗σを表す。太線の実線による線L6は、本実施形態の算出方法で算出した変形抵抗σである。本実施形態では、補正量δの推定式が分かっていれば、1回の圧縮試験を行うことで、線L6を得ることができる。点線による線L7は、本実施形態の変形抵抗σと従来の変形抵抗σとの誤差(%)である。細線の実線による線L8は、補正量δを考慮せずに、補正圧縮率e’を(27)式で求めた場合の、比較例の変形抵抗σである。
【0078】
【数5】
【0079】
線L6,L8は左側の縦軸に対応し、線L7は右側の縦軸に対応する。
図7及び図8のいずれにおいても、誤差はほぼ±5%の範囲に収まっていて、本実施形態では変形抵抗σが高い精度で算出されていることが確認できた。
(27)式ではコンプライアンス及びガタつきを考慮していないため、荷重Pが大きくなる相当ひずみεが大きくなる領域において、従来の圧縮試験を複数回行って得られた◇印で示された変形抵抗σに比べて誤差が大きくなっていることが分かった。
【符号の説明】
【0080】
1 端面拘束圧縮試験機
11 加圧部材(アクチュエータ)
40 試験片
40a 端面
45 治具
46 突条
50 算出装置(変形抵抗の算出装置)
51a 推定式算出部
51b 補正圧縮率算出部
51c 変形抵抗算出部
53a 算出プログラム(変形抵抗の算出プログラム)
O 軸線
Q 算出組
S30,S50 算出方法(変形抵抗の算出方法)
S31,S51 推定式算出工程
S38,S38A 補正圧縮率算出工程
S39,S39A 変形抵抗算出工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20