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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】コークス炉操業データの監視方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 21/10 20060101AFI20231115BHJP
   C10B 41/02 20060101ALI20231115BHJP
   C10B 57/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C10B21/10
C10B41/02
C10B57/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020069130
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021165346
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘孝
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大▲高▼ 典明
(72)【発明者】
【氏名】浦川 涼太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 順一
(72)【発明者】
【氏名】野口 浩
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062363(JP,A)
【文献】特開2018-168292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 21/10
C10B 41/02
C10B 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉幅方向に複数配列された炭化室と、該炭化室を挟むように配列された燃焼室とを備えるコークス炉の操業データの監視方法であって、
前記燃焼室温度を時系列で示したグラフを前記燃焼室毎に作成し、
前記グラフを前記コークス炉の前記燃焼室と対応する順に並び替え、
隣接する前記燃焼室の間に配置されている前記炭化室の操業情報を、前記隣接する燃焼室に対応する前記グラフの間に表示することを特徴とする、
コークス炉操業データの監視方法。
【請求項2】
前記炭化室の操業情報は、前記炭化室の稼働状態または非稼働状態に関する情報を含み、
前記炭化室が稼働状態である場合は、前記炭化室からコークスを押し出したときの押し出し力に関する情報を含むことを特徴とする、請求項1に記載のコークス炉操業データの監視方法。
【請求項3】
前記グラフにおいて、前記燃焼室の管理目標温度範囲から外れている又は外れかけている前記燃焼室温度を強調して表示することを特徴とする、請求項1又は2に記載のコークス炉操業データの監視方法。
【請求項4】
前記炭化室の操業情報は、前記押し出し力の変化から押し詰まり危険度を数値化したものを含むことを特徴とする、請求項に記載のコークス炉操業データの監視方法。
【請求項5】
前記押し詰まり危険度の数値が所定の基準から外れているか否かを判定し、
前記押し詰まり危険度の数値が所定の基準から外れていると判定された前記炭化室及び該炭化室に隣接する前記燃焼室について、前記炭化室の炉壁温度及び該炉壁温度の変化から炉壁温度状態度を数値化し、前記燃焼室温度及び該燃焼室温度の変化から燃焼室温度状態度を数値化し、
前記炉壁温度状態度の数値及び前記燃焼室温度状態度の数値に基づいて、前記押し詰まり危険度の数値が前記所定の基準から外れた原因が炉壁温度の問題であるか、燃焼室温度の問題であるか、または、これらいずれでもないか、を確認することを特徴とする、
請求項4に記載のコークス炉操業データの監視方法。
【請求項6】
4時間以上12時間以下の頻度で得られた前記燃焼室温度を用いて前記グラフを作成することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のコークス炉操業データの監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はコークス炉操業データの監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉は、炉幅方向に複数配列された炭化室と、この炭化室を挟むように交互に配列された燃焼室を複数備え、炭化室への石炭の装入と窯出し(コークスの押出)を繰り返し行っている。炭化室は、幅400~500mm、長さ15~20m、高さ4~7mのレンガに囲まれた室であり、上面の装入口から石炭が装入される。燃焼室は、炉壁(レンガ壁)を介して炭化室と隣接し、炉長方向に20~30室のフリューに仕切られている。各フリューの底部は蓄熱室に通じているが、燃料ガスコックと燃焼用空気コックまたは燃焼用空気オリフィスとで流量調整された燃料ガスと燃焼用空気とが、それぞれの蓄熱室にて予熱されてからフリューへと供給され、そこで燃料ガスが燃焼し、両側の炭化室が加熱され、石炭の乾留が進行する。生成したコークスは、炉の後方(押出機側)から押出し機で押出され、炉の前方(コークス側)から取出される。
【0003】
一般的には、石炭の乾留が完了する時点を「火落ち」、石炭装入からこの時点までの時間は「火落ち時間」と言われている。乾留が完了した後もコークスは数時間、炭化室でそのまま保熱される。この時間は「置き時間」と言われ、コークスの均熱と収縮を図り、押出し易い状態としている。また、火落ち時間と置き時間の和は、乾留時間と言われている。
【0004】
コークスを押し出す時点で、乾留状況を適正化する必要がある。コークス炉は、数百室という膨大な数の炭化室を有しているが、全ての炭化室において、所定の時間内に石炭の乾留を一定の状態に到達させ、その状態を維持することが求められている。
【0005】
温度が低く、所定の時間内に一定の状態に到達しない炭化室、逆に温度が高すぎて乾留が早く終了してしまい、その後の置き時間が極端に長くなってしまった炭化室においては、コークスを押し出す際、コークスが炭化室内に詰まって全く動かなくなることがある。この現象は押し詰まりと呼ばれており、コークス炉操業中に発生する重大なトラブルの1つである。押し詰まりが発生すると、コークス炉の炉壁に多大な負荷を与え、コークス炉寿命の低下を招くとともに、操業の中断や操業スケジュールの変更によるコークスの生産低下にもつながる。温度が高すぎて乾留が早く終了してしまい、その後の置き時間が極端に長くなることが予想される場合、押し出しを当初計画していた時間よりも早めて行うことは可能ではある。逆に、温度が低すぎて乾留が遅れてしまい、その後の置き時間が不十分となることが予想される場合は、押し出しを当初計画していた時間よりも遅く行うことも可能ではある。しかし、操業スケジュールの変更が必要となる等、操業を複雑化する原因となる。押し出す炭化室を間違えてしまう等のヒューマンエラーも発生しやすい。このような炭化室が1~2室程度であれば対応することも可能であるが、多数存在した場合は対応しきれない。
【0006】
そのため、押し詰まりを発生させないためには、膨大な数の炭化室全ての温度を個々に適正範囲に調整する必要がある。これにより、全ての炭化室の石炭を所定の時間内に一定の乾留状態に到達させ、さらには維持して押し詰まりを抑制できる。しかし、膨大な数の炭化室全ての温度を個々に適正範囲に調整することは極めて困難である。また、膨大な炭化室全ての温度を個々に把握することも容易でない。
【0007】
膨大な数の炭化室を有するコークス炉は、5~10程度の炉団に区分けされ、1つの炉団は30~70室程度の炭化室からなる。通常は炉団の大元にある調整コックの開度を調整することで、燃料ガス供給量を調整している。この調整コックの開度を大きくすれば、燃料ガスの供給量が増え、炉団全体、すなわち炉団全ての炭化室の温度が上昇傾向となる。そのため、炭化室毎のバラツキが大きいと、温度が高すぎたり、低すぎたりする炭化室が発生し、押し詰まりとなることが懸念される。例えば、炉団全体としては温度が高いため、大元にある燃料ガスを調整する調整コックの開度を小さくして、燃料ガス供給量を減らすことがある。しかし、燃料ガス供給量を減らす前の時点で、温度が低めの炭化室が、その炉団に1室でも含まれていた場合、炉団全体の燃料ガス供給量を減らすことで、その炭化室は極端に低い温度となり、押し詰まりとなることが懸念される。
【0008】
そこで、各炉団に含まれる一部の炭化室の温度が高くなり過ぎたり、低くなり過ぎたりしないように、燃焼室毎またはフリュー毎に燃料ガス供給量を調整して、炭化室毎の乾留状況のバラツキを小さくすることが行われている。例えば、特許文献1は、各炭化室における火落ち時間および炉壁温度を求め、炉団全体におけるこれらの平均値からの偏差を小さくすることを提案している。そして、求められた結果を基に、燃焼室毎に燃料ガス供給量を調整し、炭化室毎の火落ち時間と炉壁温度のバラツキを抑制して、使用燃料の節減やコークスの品質等の向上を図っている。
【0009】
特許文献2は、コークス炉における乾留不良炭化室を診断して、その乾留不良原因に対する適切なアクションを燃焼制御機器に与えることに関する発明である。これにより、コークス炉の乾留不良を無くし、コークス品質のバラツキを低減させ、一定品質のコークスを得るとともに、コークス燃焼熱効率の向上を得ることを提案している。複数の操業データ、該操業データの平均値等の加工データ、および前記データの時系列データを採取し、これらのデータに基づき、コークス炉の乾留不良原因を推論している。この推論結果に基づき、燃焼制御機器のアクション量を決定する乾留不良診断制御システムに関する発明である。
【0010】
特許文献3は、プロセスコンピュータを用いて、炉団全体に供給するガス量を制御するとともに、燃焼室に与える燃料ガスの燃焼室毎の流量バランスを、機側に設置したガスコック(個別燃料ガス調整弁)の開度で調整するコークス炉燃焼室のガス量調整方法である。過去の燃焼室毎の開度調整実績および開度調整後の火落ち時間平均に基づき、次回の開度調整最適値を与えることを特徴としている。
【0011】
特許文献4は、操業者が、火落ち時間、炭化室温度、燃焼室温度、ガスコック開度、フリュー温度といった実績データの経時的な変化を確認し、ガスコック開度調整の妥当性を判断するために、実績火落ち時間、実績炭化室温度、実績燃焼室温度、実績ガスコック開度、実績フリュー温度の時系列グラフを炭化室毎、燃焼室毎、あるいはフリュー毎に画面表示することを記載している。これにより、操業者は、これらの実績データの時系列グラフから実績データの経時変化やその相互関係を把握し、開度調整の妥当性を判断しながら、各ガスコックの調整作業を行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-316674号公報
【文献】特公平7-56024号公報
【文献】特許第5176422号公報
【文献】特許第5892131号公報
【文献】特開2018-080238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1のように火落ち時間や炉壁温度を把握し、燃料ガス量を調整する方法においては、以下の問題がある。
【0014】
まず、火落ち時間は、各炭化室にて乾留時の発生ガス温度を計測し、その温度が最高値(ピーク)に達する時刻から求められる。そのため、発生ガス温度が最高値となるタイミングを検知することが必要となる。しかし、老朽化したコークス炉では、発生ガス温度の最高温度を検知すること自体が難しくなっている。即ち、火落ちが完了したかどうかの判定が出来ないことが多くなっている(例えば、特許文献5)。
【0015】
一方、炉壁温度は、コークスを押し出す際に計測されるもので、押出し機に設けた温度計(放射温度計等)で炉高方向や炉長方向の炭化室内炉壁の温度を計測している。しかし、石炭の乾留途中は計測できず、乾留中に温度が異常な方向に変化したとしても、それを検知することはできない。特に、老朽化したコークス炉においては、計画保全やトラブルによる乾留時間の変化は頻繁である。乾留時間の変化に対応して、炭化室内温度を適正範囲に調整することが求められるが、乾留途中の温度を計測できない炉壁温度からは、乾留時間の変化に対応した温度の調整を十分に行うことはできない。
【0016】
また、老朽化したコークス炉においては、非稼働状態の炭化室が多く混在していることがある。それらが多く混在すると、どれが稼働状態の炭化室で、どれが非稼働状態の炭化室であるのかの区別を瞬時に行うことが難しく、操業アクションを早急に出来ないことがある。場合によっては、操作者が、稼働状態の炭化室と非稼働状態の炭化室を誤って認識し、稼働状態の炭化室に悪影響を及ぼす操業アクションを行うことも懸念される。
【0017】
特許文献2では、乾留不良を問題としているが、老朽化が進行している近年においては、押し詰まりという乾留不良と同程度に深刻なトラブルが多発している。また、特許文献2では、乾留不良が発生してから、その原因を推論し、アクションを行うことを提案しているが、本来は、乾留不良が発生する前にアクションを行うべきで、これにより、押し詰まりを抑制できると考えられる。乾留不良や押し詰まりが発生する主な原因として、炭化室内の温度調整が不十分なことが挙げられる。従って、温度調整が重要であるが、特に温度調整の起点であり、個別調整弁の開度調整結果が短時間で反映される燃焼室の内部温度は、重要と考えられる。炭化室内の壁温度を計測する炉壁温度(加熱壁温度)は、炭化室内の温度を正確に把握したり、押し出し方向の温度分布を把握したりする観点からは極めて重要である。しかし、計測は押し出し時のみで、乾留中の温度変化の把握は難しい。乾留中でも温度計測ができる燃焼室の内部温度は、乾留中の温度変化を把握するという観点から有効である。また、炉壁温度は燃焼室の内部温度の変化に追従して変化する温度で、応答性の速い燃焼室の内部温度およびその変化を把握できれば、より早くトラブル予兆を予測でき、適切なアクションに繋げることができる。設定された乾留時間に対応するように、燃焼室の内部温度を適正化することができれば、押し詰まりや乾留不良の抑制に繋がる。但し、コークス炉の燃焼室の数は膨大で、燃焼室個々に適切な温度に調整することは容易でなく、これを可能にするためには、まずは、炉団に属する全ての燃焼室や炭化室の温度変化や操業状況が分かりやすく表示することが重要と考えられる。
また、特許文献2にある図9は炉団全体の乾留バラツキ推移を、図10は炉壁温度(加熱壁温度)と火落ち不良をマップ化した図である。炉団全体の状況は分かりやく表示されている。但し、これらの図からは、燃焼室の内部温度との相互関係は把握しにくい。また、変化が分かりにくいという問題もある。例えば、同じ1000℃でも、上昇傾向か、下降傾向か、あるいは安定状態かで対応は異なる。即ち、炉団に属する全ての燃焼室や炭化室の温度、あるいは温度変化、および操業状況を、時系列的に分かりやすく表示することが求められる。
【0018】
特許文献3では、老朽化したコークス炉においては、非稼働状態の炭化室が混在したり、あるいは非稼働状態の炭化室が新たに発生したりすることがある。また、計画保全やトラブル等による乾留時間の変動もあり、過去の開度調整実績が必ずしも適正でないことが懸念される。最終的には操業者の判断が必要である。適切な判断をするためには、燃焼室毎および炭化室毎の状況を、操業者が短時間で正確に把握することが求められる。
【0019】
特許文献4では、操業者が、火落ち時間、炭化室温度、燃焼室温度、ガスコック開度、フリュー温度といった実績データの経時的な変化を確認し、ガスコック開度調整の妥当性を判断するために、実績火落ち時間、実績炭化室温度、実績燃焼室温度、実績ガスコック開度、実績フリュー温度の時系列グラフを炭化室毎、燃焼室毎、あるいはフリュー毎に画面表示することを記載している。しかし,コークス炉の構造は極めて複雑であり、実績炭化室温度や実績燃焼室温度の時系列グラフを炭化室毎、燃焼室毎に表示しても、炭化室の状況と、燃焼室温度の相互関係を把握することは容易でない。さらに、炭化室や燃焼室の数は膨大で、これらの相互関係を全て把握するには時間を要し、操業者が短時間で状況を判断することは難しい。しかも、コークス炉の構造は複雑である。1つの個別燃料ガス調整弁の開度操作により、燃焼室であれば2室、炭化室であれば3室に影響を及ぼす。正確に言えば、その炉団にある全ての燃焼室や炭化室に影響する。炉団全体の燃料ガス量は、一定となるように調整されているので、1箇所の個別燃料ガス調整弁の開度を変更して、そこに供給される燃料ガス量を増減したら、その炉団に属する全ての個別燃料ガス調整弁からの供給量が変化するためである。また、炉団大元にある燃料ガス調整弁を操作した場合は、その炉団にある全ての燃焼室や炭化室に影響を及ぼすことになる。その場合、各炭化室や各燃焼室での温度変化量が均一であれば問題ないが、非稼働炭化室が混在したり、ガス配管内の汚れ等により、変化量は不均一になったりすることが懸念される。このことからも、炉団に属する全ての燃焼室や炭化室の温度変化や操業状況を個々に分かりやすく表示することが必要となる。また、特許文献4では、目標とする火落ち時間に基づき、目標炭化室温度や目標燃焼室温度を算出し、それに基づき、各燃焼室の合計ガスコック開度を算出し、押し出し方向の温度分布を適正化するように押し出し機側とガイド車側からの燃料ガス量を振り分けることを提案している。しかし、特許文献4には、操業者が、火落ち時間、炭化室温度、燃焼室温度、ガスコック開度、フリュー温度といった実績データの経時的な変化を確認し、ガスコック開度調整の妥当性を判断するために、実績火落ち時間、実績炭化室温度、実績燃焼室温度、実績ガスコック開度、実績フリュー温度の時系列グラフを炭化室毎、燃焼室毎、あるいはフリュー毎に画面表示することも記載されており、このことからも、現状では最終的には操業者(人間)が操業データを見て判断する必要があり、燃焼室や炭化室の温度変化や操業状況を個々に分かりやすく表示することが重要と考えられる。
【0020】
このように膨大な数の炭化室を有するコークス炉においては、炭化室毎に温度の傾向を把握することが極めて難しい。特に、老朽化したコークス炉では、非稼働の炭化室が多く混在するので複雑である。そのため、温度を十分に把握できず、炭化室の押し詰まりや非稼働炭化室の発生等のトラブルを多発させてしまうことも少なくない。
【0021】
さらに、押し出し力が高い炭化室に対しては、確実に検知してアクションを行う必要がある。単に押し出し力が高いというだけでなく、その時点では押し出し力が低くても燃焼室温度が管理目標温度範囲から外れかけている等の理由で、この後、押し出し力が高くなると考えられる炭化室を検知して、事前にアクションを行うことが好ましい。しかし、炭化室の数は膨大であるため、このような押し出し力や温度に関する異常を検知することは熟練作業者であっても見落としやすい。
【0022】
コークス炉は、炭化室および炭化室の温度を調整する燃焼室、さらにはフリューの数が膨大で、これらの温度を個々に把握し、適正範囲に調整することは容易でない。近年、様々な分野で、人工知能等で膨大なデータを処理することが検討されているが、コークス炉、特に老朽化したコークス炉は、突発でのトラブル発生等、外乱要因が多く、現時点では人口知能等での対処は難しい。操業者の判断が重要となっている。これまでに起きなかったトラブル等も発生することも考えられる。東日本大震災のような大災害により、これまで積み上げてきた技術が根底から覆されることも考えられ、このようなことに人工知能がどこまで対応できるかは不透明である。そのため、当面は操業データを基に、人間が適切に判断していくことが重要と考えられる。
【0023】
以上のことから、本発明は上記実情を鑑み、コークス炉の押し詰まり発生及び非稼働炭化室発生を抑制可能なコークス炉操業データの監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、コークス炉の燃焼室温度を時系列で示したグラフに、所定の炭化室の操業情報を、実プロセスをイメージしやすいレイアウトで表示することにより、当該グラフから各炭化室および燃焼室の状況を適切に判断し易くなることを知見した。また、これにより炭化室の押し詰まり等が発生する前に、適切なアクションを取ることができるため、押し詰まり発生及び非稼働炭化室発生を抑制可能であることを知見した。本発明は、当該知見に基づいて完成された。
【0025】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の1つの態様は、炉幅方向に複数配列された炭化室と、該炭化室を挟むように配列された燃焼室とを備えるコークス炉の操業データの監視方法であって、燃焼室温度を時系列で示したグラフを燃焼室毎に作成し、該グラフをコークス炉の燃焼室と対応する順に並び替え、隣接する前記燃焼室の間に配置されている炭化室の操業情報を、隣接する燃焼室に対応するグラフの間に表示することを特徴とする、コークス炉操業データの監視方法である。
【0026】
上記炭化室の操業情報は、炭化室の稼働状態または非稼働状態に関する情報を含み、炭化室が稼働状態である場合は、炭化室からコークスを押し出したときの押し出し力に関する情報を含むことが好ましい。また、炭化室からコークスを押し出したときの押し出し力及び該押し出し力の変化から押し詰まり危険度を数値化したものを含むことが好ましい。さらに、押し詰まり危険度の数値が所定の基準から外れているか否かを判定し、押し詰まり危険度の数値が所定の基準から外れていると判定された炭化室及び該炭化室に隣接する燃焼室について、炭化室の炉壁温度及び該炉壁温度の変化から炉壁温度状態度を数値化し、燃焼室温度及び該燃焼室温度の変化から燃焼室温度状態度を数値化し、炉壁温度状態度の数値及び燃焼室温度状態度の数値に基づいて、押し詰まり危険度が所定の基準から外れた原因が炉壁温度の問題であるか、燃焼室温度の問題であるか、または、これらいずれでもないか、を確認することが好ましい。
【0027】
上記グラフにおいて、燃焼室の管理目標温度範囲から外れている又は外れかけている燃焼室温度を強調して表示することが好ましい。また、上記グラフは4時間以上12時間以下の頻度で得られた燃焼室温度を用いて作成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コークス炉の押し詰まり発生及び非稼働炭化室発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】マッピンググラフを用いたコークス炉操業監視データの一例である。
図2】トレンドグラフを用いたコークス炉操業監視データの一例である。
図3】実施例、比較例で用いたコークス炉の炭化室、燃焼室の配置を表した概略図である。
図4】実施例、比較例で用いたコークス炉の燃料ガス、支燃性ガス(空気)、燃料排ガスの流れの模式図である。
図5】実施例、比較例で用いたコークス炉の乾留時間と燃焼室の管理目標温度との関係である。
図6】炉壁温度ポイントおよび燃焼室温度ポイントの表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について説明する。なお、本明細書において、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0031】
[コークス炉操業データの監視方法]
本発明は、炉幅方向に複数配列された炭化室と、該炭化室を挟むように配列された燃焼室とを備えるコークス炉の操業データの監視方法であって、燃焼室温度を時系列で示したグラフを燃焼室毎に作成し、該グラフをコークス炉の燃焼室と対応する順に並び替え、隣接する燃焼室の間に配置されている炭化室の操業情報を、隣接する燃焼室に対応するグラフの間に表示することを特徴とする、コークス炉操業データの監視方法である。
【0032】
「燃焼室温度を時系列で示したグラフ」としては、例えば、燃焼室温度を時系列に沿って所定の色や模様でマッピングしたマッピンググラフや、燃焼室温度と時間との関係を二次元グラフで表したトレンドグラフ等を挙げることができる。以下、マッピンググラフを用いた形態、及びトレンドグラフを用いた形態を例に用いて、本発明について説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
図1にマッピンググラフを用いたコークス炉操業監視データを、図2にトレンドグラフを用いたコークス炉操業監視データを示した。
【0034】
図1図2の監視データの作成方法の概要は次のとおりである。まず、所定の時間毎に燃焼室温度を得る。得られた燃焼室温度について、温度に応じて所定の色や模様を付し、時系列に沿って表示したマッピンググラフ(燃焼室温度と時間との関係を二次元グラフで表したトレンドグラフ)を作成する。これを燃焼室毎に行う。次に、作成されたグラフをコークス炉の燃焼室の番号と同じ順序に並び替える。さらに、隣接する燃焼室の間に配置されている炭化室の操業情報を、隣接する燃焼室に対応するグラフの間に表示する。
【0035】
このようにして得られたコークス炉操業監視データを用いて、作業者がコークス炉の監視を行うことにより、膨大な数を有する炭化室や燃焼室の情報を短時間で把握でき、コークス炉の押し詰まり発生及び非稼働炭化室発生を抑制することが可能となる。以下に詳しく説明する。
【0036】
なお、図1図2の監視データは1炉団分程度(30~60窯分)の情報をA3用紙1枚に集約することが好ましい。一覧性を高め、1炉団の操業情報を操業者が容易に把握できるようにするためである。特許文献4に関する部分で記載したように、1つの個別燃料ガス調整弁の開度操作により、燃焼室であれば2室、炭化室であれば3室に影響を及ぼす。正確に言えば、その炉団にある全ての燃焼室や炭化室に影響する。また、炉団大元にある燃料ガス調整弁を操作した場合は、その炉団にある全ての燃焼室や炭化室に影響を及ぼすことになる。このため、好ましくは、1枚の用紙に、その炉団に含まれる全ての燃焼室の温度を集約することで、オペレーターが操業状況を、早く正確に把握しやすくすべきである。特許文献4に記載されるように、実績炭化室温度や実績燃焼室温度の時系列グラフを炭化室毎、燃焼室毎に表示しても、炭化室の状況と、燃焼室温度の相互関係を把握することは容易でない。炉団全体の状況を1枚の用紙に集約することが好ましい。
【0037】
<燃焼室温度の取得>
まず、図1図2を作成するに当たり、操業者は燃焼室温度を得る。「燃焼室温度」とは、その燃焼室に属するフリューの温度を用いてもよく、その燃焼室に属するフリューの平均温度を用いてもよい。また、2つ以上のフリュー温度をそれぞれ用いてグラフを作成してもよい(例えば、図2)。
【0038】
燃焼室温度として読み替えるフリュー温度としては、その燃焼室に属する何れのフリューの温度を用いてもよいが、燃焼室の温度を代表するフリューを選択することが好ましい。燃焼室全体の温度を代表するフリューは、過去の操業データに基づいて適宜決定することができるが、例えば代表するフリューを2つ用いる場合は、燃焼室の押出機側から25%程度の位置のフリュー及び75%程度の位置のフリューが燃焼室の温度を代表するフリューといった決め方もある。燃焼室の押出機側から25%程度の位置のフリューの温度は、各炭化室の中央付近(押出機側から50%程度の位置)~押出機側(押出機側から0%程度の位置)の中間付近に位置する代表的なフリューの温度であり、燃焼室の押出機側から75%程度の位置のフリューの温度は、各炭化室の中央付近(押出機側から50%程度の位置)~反押出機側(押出機側から100%程度の位置)の中間付近に位置する代表的なフリューの温度であると考えることができるためである。
【0039】
フリューの平均温度は、2つ以上のフリュー温度の平均値を用いることができる。2つ以上のフリュー温度の選択は、上述の燃焼室温度を代表するフリュー温度であることが好ましい。また、燃焼室に備えられる全てのフリューの温度の平均値を用いてもよい。
【0040】
燃焼室温度は、設定された乾留時間によって、管理目標温度を変更する必要がある。例えば、乾留時間を24時間に設定する場合、燃焼室温度を1200℃とすることで炉壁温度が適正な値となり、押し出しも安定するような炭化室において、乾留時間を24時間よりも長く設定する場合は、燃焼室温度を1200℃よりも低くする必要がある。炉壁温度が高くなり過ぎることも押し詰まり原因となるためである。逆に、乾留時間を24時間よりも短く設定する場合は、1200℃よりも高い温度にしないと乾留が不十分となり、押し詰まることが懸念される。このため、異なる乾留時間毎に、適正な押し出し力となる管理目標温度を予め把握しておく必要はある。これを把握した上で、燃焼室温度を適正な範囲に調整していれば、乾留時間が変化した場合でも、押し詰まり等のトラブル発生頻度は減り、安定操業を継続できる。
【0041】
なお、燃焼室温度の調整は、炉団全体の温度が高い場合、または低い場合は、各炉団の大元にある調整コック(図4、24)の開度を調整するが、一部の炭化室やフリューの温度が高い場合や低い場合は、フリュー毎に燃料ガス量または空気を調整するための調整コック(図4、25-1~25-3)を操作する。
【0042】
フリュー温度を計測する方法は、一般的にはフリュー底部の温度を、放射温度計を用いて間欠的に計測している。フリュー内に熱電対を入れる等して、フリューの内部温度を連続的に計測することも可能であるが、グラフ作成のために温度を計測するフリューの数は極めて多く、各々に熱電対を挿入することは現実的でないためである。
【0043】
放射温度計を用いたフリュー温度の計測は、1時間に1回等と頻繁に行うことも可能ではある。フリュー温度の計測頻度を多くするほど、燃焼室およびその燃焼室に関わる炭化室の温度変化を詳細に知ることができる。しかし、頻度を多くすれば、当然、労力を要する。また、1時間の頻度で温度を計測しても、温度の変化は僅かで、1時間前からの温度の変化が、実際の変化によるものか、バラツキによるものかの判断は極めて難しく、この計測結果を基に、操業アクションの判断を行うことは難しい。フリュー温度の計測は、4時間に1回よりも頻度を多くしても必ずしも効果的な操業アクションに繋がらないと考えられる。
【0044】
一方で、乾留中に少なくとも1回は、温度が異常な方向に向かっていないかを確認する必要がある。そのタイミングとしては、乾留の中間期付近が好ましい。通常の乾留時間は、約24時間であることから、12時間に1回以上の頻度で計測を行えば、乾留の中間期付近での計測となる。燃焼室温度の調整において、押し出しを行う8~12時間前の温度は特に重要と考えられる。炭化室に装入された石炭は、両端(両壁との接触部)から中心に向かって加熱され、乾留されるが、その際に生成する軟化溶融層(約400℃で軟化開始)も両端から中心に向かって移動する。炭化室中心付近において、両側から移動してきた軟化溶融層が合体したタイミングで乾留が終了となる。前述したように乾留が不十分な状態で押し出すと押し詰まりとなることが懸念される。炭化室中心部に軟化溶融層が生成するのは乾留末期であるが、乾留後半、即ち、押し出しを行う8~12時間前の時点での炭化室内温度が低いと、中心部での軟化溶融が十分に進行せず、押し詰まってしまうことが懸念される。そのため、乾留の中間期付近にフリューの内部温度を確認し、乾留後半の温度が目標範囲となるように調整することが必要である。
【0045】
以上のことから、燃焼室温度は4時間以上12時間以下の頻度で得ることが好ましいため、上記のグラフは4時間以上12時間以下の頻度で得られた燃焼室温度を用いて作成されることが好ましい。これにより、燃焼室温度の状況を適切に把握することが可能となる。
【0046】
なお、上記グラフにおいて、燃焼室温度と炭化室の炉壁温度とを組み合わせることも有効である。炭化室の炉壁温度は乾留途中に計測できないが、当該炉壁温度はフリューの内部温度の調整によりコントロールされるものであるので、設定された乾留時間に対応する目標範囲を予め把握した上で、燃焼室温度をその温度範囲に調整すれば、炉壁温度が目標から大きく外れることはなく、押し詰まり等のトラブルが回避できる。炉壁温度は、炭化室内の温度を、直接、計測することによって得られる温度であるため、炭化室内の温度を正確に計測できるという観点からは、間接的に計測する燃焼室温度よりも優位といえる。
【0047】
炉壁温度計測においては、炉長方向の温度分布を計測できるので、各燃焼室において、代表的な2~5室のフリューについて温度計測すれば、炉長方向の温度変化も含め、傾向を把握できる。例えば、コークスを押し出した際の炉壁温度が適正範囲であり、その後に測定したフリューの内部温度の変化もバラツキの範囲内で、乾留時間の大きな変動がなければ、炉壁温度は適正範囲に維持できていると考えられる。あるいは炉壁温度が適正範囲であっても、燃焼室温度が低下傾向であれば、炉壁温度も低下していることが予想される。その場合は、その炭化室に関わるフリューの温度が下がり過ぎることを防止し、適正範囲内で安定化するようなアクションが必要である。また、炉壁温度は適正範囲であっても、その後の乾留時間が短くなる場合は、その炭化室に関わるフリューの内部温度を、設定された乾留時間に対応する適正範囲に調整する必要がある。炉壁温度計測においては、炉長方向の温度分布を計測できるので、炉壁温度を活用すれば、各燃焼室において、炉長方向全てのフリュー温度を計測する必要がなくなる。但し、炉壁温度は、乾留中は計測できないので、乾留中の温度変化は燃焼室温度の計測により把握する必要がある。特に、乾留時間が変化する場合は炉壁温度での判断は難しく、このような場合は各燃焼室の内部温度を乾留時間に適した温度に調整する必要がある。
【0048】
<グラフの作成>
上記により得られた燃焼室温度を用いて燃焼室毎にグラフを作成する。図1ではマッピンググラフを、図2ではトレンドグラフを用いてコークス炉操業監視データを作成している。このような監視データの作成はコンピュータを用いて行ってもよい。
【0049】
(マッピンググラフ)
マッピンググラフは、燃焼室温度に応じて温度を所定の色や模様で表したものを時系列に沿って表示したものである。図1では、縦方向を時間軸とし、3日間の燃焼室温度を時系列的に並べている。具体的には、1日を3つの時間帯である「甲:午前7時~15時」、「乙:15時~23時」、「丙:23時~翌日の7時」に分けて、それぞれの時間帯で得られた燃焼室温度を色や模様を用いて示している。
【0050】
燃焼室温度と色等との関係は次のとおりである。まず、燃焼室温度の管理目標温度を1200℃とし、その許容範囲を±50℃とした。この管理目標温度に許容範囲を加えた範囲を管理目標温度範囲とし、燃焼室温度が管理目標温度範囲1200±50℃に含まれる場合を黄色や薄い黄色、オレンジ等、黄色に近い色を付して示した。1150℃よりも低い温度は、水色、青色、濃い青色等の青系の色を使用した。逆に1250℃よりも高い場合は、赤色、茶色、黒色等を使用した。具体的には、図1の上部に示した。但し、表示方法によっては色の違いを表現することが困難な場合があるため、図1の監視データでは、色をドットや斜線、塗りつぶし色の濃淡等の模様に替えて、燃焼室温度を表示している。
【0051】
このように、燃焼室温度を時系列に沿って色等を用いてマッピングすることで、管理目標温度範囲から外れている又は外れかけている燃焼室温度を強調して表示することができる。これにより、押し詰まり等が発生する虞のある炭化室を特定することができるため、発生する前に適切な処置を行うことができる。例えば燃焼室温度が管理目標温度範囲から外れている燃焼室については、内部温度を調整し、管理温度範囲内に含まれるようにする。また、内部温度が管理温度範囲から外れかけている燃焼室については、当該燃焼室に着目して動向を注視しつつ、内部温度を調整する。
【0052】
ここで、「燃焼室温度の管理目標温度範囲から外れかけている燃焼室温度」とは、管理目標温度範囲の下限付近、上限付近であり、それぞれ管理目標温度範囲の下限から当該下限+30℃までの範囲(例えば、図1のオレンジ色)、管理目標温度範囲の上限から当該上限-30℃までの範囲(例えば、図1の薄い黄色)である。このような燃焼室は、現在は管理目標温度範囲の下限付近(上限付近)にあるが、時系列でみると下降傾向(上昇傾向)にある場合は、翌日には管理目標温度範囲未満になる(管理目標温度範囲を超える)蓋然性が高い。
【0053】
(トレンドグラフ)
トレンドグラフは燃焼室温度と時間との関係を二次元グラフで表したものである。図2では、横方向を時間軸とし、図1と同じように1日を3つの時間帯である甲、乙、丙に分けて、8時間毎に燃焼室温度を得ている。また、図2では1つの燃焼室につき2つの代表フリューの温度(7フリュー(7f)、24フリュー(24f))を用いている。加えて、図2では、管理温度範囲(1200±50℃の範囲)を網掛けで示して、燃焼室の管理目標温度範囲から外れている又は外れかけている内部温度を強調して表示している。なお、管理目標温度範囲は乾留時間やコークス炉によって異なるため、条件に応じて任意に設定できるものである。
【0054】
図1図2のようなマッピンググラフ又はトレンドグラフを用いることにより、膨大な数の燃焼室温度データから、各炭化室における温度状況を早急かつ正確に把握することができる。また、これにより適切ではない温度推移をしている燃焼室を特定することができ、炭化室の押し詰まり等が発生する前、好ましくは押し出し力が上がる前に適切な処置を行うことができる。
【0055】
<グラフの整列>
上記によって作成されたグラフをコークス炉の燃焼室と対応する順に並び替える。コークス炉の燃焼室と対応する順とは、燃焼室の配列に対応する順であればよく、例えば図1図2のように、燃焼室に番号を付している場合は、その番号順に並べることを言う。番号は数字でもよくアルファベット等の記号を用いてもよい。このように並べる理由は、後述するように、炭化室の操業情報を当該炭化室に隣接する燃焼室に対応するグラフの間に表示するためである。
【0056】
ここで、図2では燃焼室のトレンドグラフを5つごとに折り返して表示したが、これは炭化室においてコークスの押し出しを行う時間帯が同じタイミングのものを考慮した結果である。これについては後述する。
【0057】
<炭化室の操業情報の表示>
上記のようにグラフを整列した後、隣接する燃焼室の間に配置されている炭化室の操業情報を、隣接する燃焼室に対応するグラフの間に表示する。炭化室の操業情報には、炭化室の稼働状態または非稼働状態に関する情報を含み、炭化室が稼働状態である場合は、炭化室からコークスを押し出したときの押し出し力に関する情報を含むことが好ましい。また、図2のように、炭化室の操業情報に炭化室の押し出し開始日時や乾留時間を含めてもよい。
【0058】
炭化室の稼働状態または非稼働状態に関する情報を表示する理由は、老朽化したコークス炉においては、非稼働状態の炭化室も多数混在するためである。非稼働状態の炭化室に関わる燃焼室と、そうでない燃焼室では目標とすべき温度が異なるので、稼働状態と非稼働状態の炭化室を早急に区別することが重要であるためである。
【0059】
例えば図1においては、燃焼室間に稼働状態の炭化室が存在する場合は、当該燃焼室に対応するグラフの間にバーを表示することとしている。これにより、稼働状態の炭化室と非稼働状態の炭化室との区別を容易にしている。また、押し出し力に応じてバーの種類を変更している。押し出し力に応じてバーの種類、色または太さ等を変えることで、押し出し力の観点から、注意が必要な炭化室および燃焼室を把握できる。例えば、稼働状態の炭化室の押し出し力が、管理目標範囲と比べ極めて高い場合は、バーの種類を点線とし、やや高い場合は破線、管理目標範囲内の場合は実線とする等して、各炭化室の押し出し力の状況を把握できるようにする。これにより、押し出し力が高い炭化室を早期に検知し、その炭化室に関連する燃焼室温度が適正範囲から外れていないか、または外れる方向に変化していないかを、確実かつ早急に把握してアクションを行うことができる。
ここで、「押し出し力の管理目標範囲」とは、押し詰まりの懸念が小さい押し出し力の範囲であり、過去の操業データに基づいて適宜設定することができる。
【0060】
具体的には、図1において燃焼室8と燃焼室9との間に、炭化室8が存在しているが、押し出し力は目標範囲内にあるため、これらの燃焼室に対応するグラフの間に実線のバーaを表示している。あるいは、燃焼室4と燃焼室5に対応するグラフの間にあるバーbは、燃焼室4と燃焼室5との間に存在する炭化室4の押し出し力が管理範囲上限を超えているので点線で表示している。そして、炭化室4に関連する燃焼室4の色(4/3丙)が1300℃以上を示す黒となっていることから、燃焼室4の燃焼室温度が高いことが押し出し力上昇の原因と考えられる。また、11燃焼室~13燃焼室の間にある炭化室11、炭化室12、は非稼働状態のため、バーはなしとしている。4/3丙の燃焼室19は1250℃を超えている。これに関する炭化室18および炭化室19の押し出し力は4/3丙の時点では、管理範囲内で実線バーとなっているが、この後、押し出し力が上昇することが懸念される。このため、温度を下げるアクションを行うことが好ましい。但し、4/3丙の時点での押し出し力は低く維持されているので、一気に温度を下げるのでなく、押し出し力の変化に注意しながら、緩やかに温度を下げることが好ましい。
【0061】
一方、図2においては、各燃焼室のトレンドグラフの間に、そこに位置する炭化室の押し出し力等の操業状況を文字や数字で記載している。図2において、燃焼室2から燃焼室4の間にある炭化室2及び炭化室3は非稼働状態となっているが、それを分かりやすくするため、図2では非稼働状態の炭化室は白で塗りつぶし、稼働状態の炭化室は灰色で塗りつぶしている。当然、図2においても、図1で説明したように、炭化室が稼働状態か非稼働状態かをバーの有無等で表現してもよい。バーであれば、記載するためのスペースを小さくできる利点がある。また、直近の押し出し力や炉壁温度の値を記入してもよい。あるいは、直近、1~5回分の押し出し力を棒グラフや折れ線グラフ等のグラフにしてもよい。グラフとすることで、押し出し力の変化が視覚化されるため、押し出し力の異常により早く確実に気付くことが可能となる。折れ線グラフとする場合、燃焼室温度と押し出し力の変化を示すグラフが混同しないように、グラフの背景色を変えたり、グラフの幅を小さくしたりすることが考えられる。特に、押し出し力が目標範囲よりも大きい場合、または押し出し力が上昇傾向の炭化室は、次の押し出しで押し詰まる懸念もある。そのため、早急に炭化室内の温度を適正化する必要がある。押し詰まりの危険性がある場合は、それが瞬時に分かるように目立たせることも有効である。さらに、図2では炭化室の操業情報として、炭化室の押し出し開始日時や乾留時間を表示している。
【0062】
また、図2では、押し出し開始日時が、炭化室1と同様の時間帯で、乾留時間もほぼ同じである炭化室6を縦に並ぶように表示(1の通り)し、それらの押し出し開始日時及び乾留時間を1つにまとめて、炭化室1の上部に表示している。炭化室2、7のグループ(2の通り)、炭化室3、8のグループ(3の通り)等も同様である。このようにすることにより、条件が共通する炭化室の管理が容易になる。
【0063】
<押し詰まり危険度>
さらに、炭化室の操業情報に、炭化室からコークスを押し出したときの押し出し力及び該押し出し力の変化から押し詰まり危険度を数値化したものを含めても良い。例えば、図2のように、炭化室の操業情報に押し詰まり危険度の数値(危険ポイント)を表示する。図1には危険ポイントを表示していないが、例えば、バーの下に危険ポイントを表示することができる。
【0064】
炭化室の押し出し力が上昇した場合、適切なアクションを行う必要がある。そのためには、その炭化室に関連する燃焼室の内部温度及びその変化に注意する必要がある。前述したようにコークス炉は、膨大な数の炭化室や燃焼室を有しており、それらの温度データを整理することは容易でない。そこで、押し出し力の観点からの押し詰まり危険度を数値化し、異常となる兆候を早期検知することとした。また、押し出し力および押し詰まり危険度と燃焼室温度の相互関係が容易に把握できるようにした。
【0065】
押し詰まり危険度の数値(危険ポイント)は、コークス炉によって押し出し力の管理目標範囲が異なるため、それぞれの炭化室に応じて設定する。例えば次のように行う。表1に示すように、押し出し力が管理目標範囲よりもやや高い場合、例えば、押し出し力が「管理目標範囲の上限(管理上限)以上であり、かつ、当該上限の1.1倍未満」の範囲にある場合は危険ポイントを1とする(管理上限が40tの場合は40t以上44t未満のとき危険ポイントを1とする)。押し出し力が「管理上限の1.1倍以上であり、かつ、当該上限の1.2倍未満」の範囲にある場合は危険ポイントを2とする(管理上限が40tの場合は44t以上48t未満のとき危険ポイントを2とする)。更に高い押し出し力の場合、例えば、押し出し力が「管理上限の1.2倍超え」では危険ポイントを3とする(管理上限が40tの場合は48t以上のとき危険ポイントを3とする)。更に、前回の押し出し力と比べ、押し出し力が上昇している場合、例えば、押し出し力上昇幅が、「管理上限の押し出し力の0.02倍以上」で、これが2回続いた場合は危険ポイントを1とし(管理上限が40tの場合は、押し出し力の上昇幅が2回続けて0.8t以上となった場合を危険ポイントを1とする)、または押し出し力が大幅に上昇した場合、「例えば上昇幅が管理上限の押し出し力の0.1倍以上」では危険ポイントを2とする(管理上限の押し出し力が40tの場合は、押し出し力の上昇幅が4t以上のとき危険ポイントを2とする)。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に基づく危険ポイントの具体的な算出方法は次のとおりである。例えば、押し出し力が55tで、その1回前の押し出し力よりも5t以上高くなっているのであれば、危険ポイントは、48t以上の「3」に、前回より4t以上上昇していることによる「2」を加算して「5」となる。または、押し出し力が30tであっても、その1回前が29t、更にその1回前が27t等と、2回連続で0.8t以上の上昇がある場合は、危険ポイントは「1」となる。その時点での押し出し力が低いとしても、危険ポイントが高くなっている場合は、燃焼室の内部温度または炉壁温度が異常な方向に変化していることもあり、このように数値化することで、それを早く検知することができる。
【0068】
押し出し力が低下傾向の炭化室については危険ポイントを下げてもよい。押し出し力が管理目標範囲の上限を超える値であっても、低下傾向の場合はその危険度は下がるためである。例えば、前回の押し出しと比べ、押し出し力の低下幅が「管理上限の押し出し力の0.1倍以上」の場合は、危険ポイントをマイナス1とする(管理上限の押し出し力が40tの場合は、押し出し力の低下幅が4t以上のとき危険ポイントを-1とする)。押し出し力が管理上限を超える値であっても、低下傾向の場合はその危険度は下がるからである。例えば、押し出し力が55tであっても、その1回前の押し出し力よりも5t低くなっているのであれば、危険ポイントは48t以上の「3」に、前回より4t以上低下していることによる「-1」を加算して、危険ポイントは「2」となる。
【0069】
<原因の推定>
押し詰まり危険度の数値(危険ポイント)が所定の基準から外れることは、炭化室の押し詰まりが起こる蓋然性が高いことを示している。そのため、押し詰まり危険度が所定の基準から外れているか否かを判定する必要がある。所定の基準は、過去の操業情報に基づいて適宜設定することができる。例えば、当該基準を危険ポイントが4以上となる場合としてもよい。なお、危険ポイントの判定を容易にするために、所定の基準から外れた炭化室の操業情報を目立つようにして注意を促すことが好ましい。また、当然ではあるが、危険ポイントの高い炭化室に対し、優先的に対処していくことが基本である。さらに、押し詰まり危険度が所定の範囲から外れていない場合でも、燃焼室温度状態度や炉壁温度状態度が所定の範囲から外れている場合、または外れかけている場合は、それらを所定範囲内に調整し、押し詰まり危険度が所定の範囲から外れないように調整することも有効である。燃焼室温度状態度や炉壁温度状態度が所定の範囲から外れかけているかどうかの判断は、表2や表3に示す炉壁温度ポイントや燃焼室温度ポイントから判断することができる。
【0070】
危険ポイントが所定の基準から外れている(又は外れかけている)と判定された場合、当該判定に係る炭化室及び該炭化室に隣接する燃焼室について、炭化室の炉壁温度及び該炉壁温度の変化から炉壁温度状態度を数値化し、かつ、燃焼室温度及び該燃焼室温度の変化から燃焼室温度状態度を数値化し、炉壁温度状態度の数値(炉壁温度ポイント)及び燃焼室温度状態度の数値(燃焼室温度ポイント)に基づいて、押し詰まり危険度が所定の範囲から外れた原因を推定することができる。
【0071】
炉壁温度ポイントは、例えば表2のように設定する。まず、炭化室の炉壁温度が目標範囲内であればポイントはゼロとする。上記炭化室の炉壁温度が管理目標温度よりも低いまたは低下傾向にある場合は、表2の条件に従ってマイナスポイントとする。上記炭化室の炉壁温度が管理目標温度よりも高いまたは上昇傾向にある場合は、表2の条件に従ってプラスポイントとする。そして、当てはまる条件に従ってポイントを加算して、炉壁温度ポイントを算出する。算出された炉壁温度ポイントによって、上記燃焼室の内部温度が管理目標温度に対して高いのか低いのか、あるいはどちらの方向に変化しているかを判断することができる。
炉壁温度の目標範囲は、押し詰まりの懸念が小さい炉壁温度範囲であり、過去の操業データを基づいて適宜設定することができる。
【0072】
【表2】
【0073】
燃焼室温度ポイントは、例えば表3のように設定する。まず、燃焼室温度が目標範囲内であればポイントはゼロとする。上記燃焼室の内部温度が管理目標温度よりも低いまたは低下傾向にある場合は、表3の条件に従ってマイナスポイントとする。上記燃焼室の内部温度が管理目標温度よりも高いまたは上昇傾向にある場合は、表3の条件に従ってプラスポイントとする。そして、当てはまる条件に従ってポイントを加算して、燃焼室温度ポイントを算出する。算出された燃焼室温度ポイントによって、上記燃焼室の内部温度が管理目標温度に対して高いのか低いのか、あるいはどちらの方向に変化しているかを判断することができる。
【0074】
ここで、燃焼室温度ポイントについて、両隣の炭化室がともに稼働状態の場合と、片側の炭化室が非稼働状態の場合があるが、片側の炭化室が非稼働状態の燃焼室の管理目標温度と、両隣とも稼働状態の場合の燃焼室の管理目標温度は異なる事がある。その場合は、片側が非稼働状態の場合と、両隣とも稼働状態のケースを分けて、温度管理範囲やポイントを設定する。
【0075】
【表3】
【0076】
以上のように、炉壁温度ポイント及び燃焼室温度ポイントを算出し、それらに基づいて、押し詰まり危険度が所定の範囲から外れた原因を推定する。
【0077】
例として、押し詰まりの危険度が高くなっている状況で、炉壁温度に問題がなく、燃焼室の内部温度に問題がある場合を考える。燃焼室温度の目標範囲を1200±25℃とすると、目標下限は1175℃となる。このとき、計測した燃焼室の内部温度が1160℃であれば表3の“「目標下限-25℃」≦燃焼室温度<目標下限”に該当し、ポイントは「-1」となる。更に前日の計測より60℃低下していたとすれば、ポイント「-2」が加算され、トータルポイントは「-3」となる。一方で、炭化室の炉壁温度が目標範囲内にあり、炉壁温度ポイントがゼロであったとする場合、危険ポイントが所定の基準から外れている原因は、その燃焼室の温度が低くなっていることであると推定できる。炉壁温度は、燃焼室の内部温度に追従して変化するもので、変化が遅れて表れる場合もある。この時点では、炉壁温度に問題がなかったとしても、燃焼室温度が低い場合は、その後、炉壁温度も低くなる可能性があることを考慮する必要がある。そして、このような推定に基づいて、当該原因を解消するアクションを検討する。この場合は、燃焼室の温度を上昇させるように再設定する。
【0078】
<非稼働炭化室発生の抑制>
これまで炭化室の押し詰まりの抑制に着目し本発明について説明してきたが、本発明は非稼働炭化室の発生の抑制にも役立つ。非稼働炭化室の主な発生原因としては、押し詰まりの他に、炭化室と燃焼室を仕切る壁が損傷することによって発生する破孔も挙げられる。破孔の発生原因としては、経年劣化等もあるが、押し詰まりと同様に押し出し力の上昇も大きく影響している。押し出し力が上昇する場合、押し出されるコークスの前進に対する抵抗が大きくなる。そのため、押し出されるコークスは、横方向向に拡がり、壁に大きな負荷を与え、壁の損傷を進行させてしまう。従って、破孔を抑制する観点からも押し出し力を低くすることが重要で、そのためには燃焼室個々の温度管理は不可欠である。
非稼働炭化室が発生するとコークス生産量が低減することや、稼働炭化室、非稼働炭化室が混在することによりコークス炉操業の困難性が増すという問題がある。しかし、本発明によれば、図1図2のようなコークス炉操業監視データを用いることにより、炉団全体の燃焼室温度を容易に把握することができるため、これに基づいてそれぞれの燃焼室温度を管理目標温度範囲に含まれるように適切に調整することにより、押し詰まりや破孔を原因とする非稼働炭化室の発生を抑制することができる。このように、非稼働炭化室の発生は押出力と密接に関係しており、押出力が高まり、押し詰まりや破孔が発生したりすると、それに伴って炭化室が非稼働状態になる。よって、押し出し力に係る危険ポイントに基づいて、燃焼室温度等を調整することにより、非稼働炭化室の発生をより抑制できるようになる。
【0079】
コークス炉は連続操業であり、複数の人間が交替勤務することにより、コークスを製造している。また、昨今、コークス炉操業の熟練作業者が減少する一方で、老朽化により操作すべき対象が増加してくる状況がある。そのため、コークス炉の操業データを採取できたとしても、例えばデータが数値の羅列であれば、通常の作業者が限られた時間内で適切に判断することが困難になる。それが、経験の浅い操業者であればなおさらである。そこで、本発明は、そのような状況を鑑み、上記のように操業データを整理し、また、危険ポイントを用いることにより、操業の考え方を統一化して、コークス炉の押し詰まり発生及び非稼働炭化室発生を抑制することを達成している。
【実施例
【0080】
[押し詰まり発生率及び非稼働炭化室発生率の検討]
建設から40年以上経ったコッパース式のコークス炉を対象として、燃焼室温度の測定頻度を変化させ、かつ、図1又は図2のコークス炉操業監視データを導入することによる効果を確認した。
【0081】
<コークス炉>
実施例、比較例において用いたコークス炉について図3図4を用いて説明する。図3に示すように、コークス炉は炉幅方向に複数配列された炭化室10a、10b、10c・・・と、これら炭化室を挟むように、交互に複数配列された燃焼室11a、11b・・・を備えている。1つの燃焼室は炉長方向に30室のフリューで仕切られており、これらのフリューは押出機側からコークスが排出される側に向かって、1フリュー(1f)、2フリュー(2f)、3フリュー・・・、29フリュー(29f)、30フリュー(30f)のように番号が付されている。また、各燃焼室の7フリューおよび24フリューを代表フリューとして設定し、それらの底部温度のみを8時間に1回または24時間に1回の頻度で計測した。そして、目標とすべき温度範囲から外れているフリュー、または外れそうなフリューが存在する場合は、そのフリューが属する燃焼室の温度を、目標範囲内で安定化するように調整した。
【0082】
燃焼室温度の調整は、燃料ガスの供給量を調整することにより行った。図4は、対象としたコークス炉の燃料ガス21、支燃性ガス(空気)22および燃焼排ガス23の流れを模式化した図である。コークス炉は膨大な数の炭化室及び燃焼室を有しているが、図4ではその一部の炭化室28-1~28-5および燃焼室29-1~29-6に着目して表した。図4のように、コークス炉は、複数の炉団に区分けされ、通常は各炉団の大元にある燃料ガスの調整コック24の開度を調整することで、炉団全体への燃料ガス21の供給量を調整し、燃焼室29の温度を適正化している。しかし、炉団の中で、一部の燃焼室29のみが、温度が低い場合、または高い場合は、その燃焼室29に供給される燃料ガス21の量のみを調整する必要がある。今回使用したコッパース式コークス炉においては、燃料ガス21および支燃性ガス22の供給を、押出機側から行い、反対のコークス側(コークス受骸側)から燃焼排ガス23が排出される場合と、コークス側から燃料ガスや支燃性ガスを供給して、押出機側から燃焼排ガス23が排出される場合とがあり、これらを30分ごとに切り替えている。燃料ガス21と支燃性ガス22が供給される蓄熱室は炭化室28や燃焼室29の下に交互に配置され、各蓄熱室に供給された燃料ガス21または支燃性ガス22は、蓄熱室内で予熱されてから、燃焼室29を構成するフリューに供給され、そこで燃料ガス21と支燃性ガス22が合流して燃焼反応が起こり、各燃焼室29さらには炭化室28の温度が調整される。燃料ガス21が供給される各蓄熱室の手前には、燃料ガスの供給量を調整する調整コック25が設置されており、この調整コック25の開度を調整することで、各燃焼室29に供給される燃料ガス21の量を調整し、燃焼室29の温度を個別に調整することができる。また、燃料ガス量に適した支燃性ガス(空気)を供給することも重要で、支燃性ガスの調整は、蓄熱室手前に設置される空気供給ボックス内にある空気吸引量調整オリフィス26の開度を調整することにより行うことができる。
【0083】
燃焼反応によって発生した燃焼排ガス23は、燃料ガス21や支燃性ガス22が供給された側とは反対に位置する蓄熱室を経由して、燃焼排ガスが有する顕熱を蓄熱室に付与した後、各蓄熱室の後段にある燃焼排ガス排気弁27、さらには煙道を通り放散される。
燃料ガスは、1つの蓄熱室から2つの燃焼室29に分配される。これら2つの燃焼室29への燃料ガス21の供給量が異なる場合もある。例えば、一方の燃焼室29は両隣とも稼働状態の炭化室28に挟まれ、別の燃焼室29は片側が非稼働の状態の炭化室が隣接する場合がある。例えば、図4の中で、炭化室28-4が非稼働状態となっている場合、片側が非稼働の状態の炭化室28-4と接触する燃焼室29-4に供給する燃料ガス21の量は、両側とも稼働状態の燃焼室29-3への供給量と比べ、小さくする必要がある。その場合は、非稼働状態の炭化室28-4の下に位置する燃焼排ガス排気弁27-4の開度を小さくすることで、片側が非稼働の状態の炭化室28-4と接触する燃焼室29-4への燃料ガス供給を小さくした。
【0084】
また、いずれかの調整コック25の開度を大きくして、そこへの燃料ガス21の供給量を増やした場合は、他の調整コック25からの燃料ガス21の供給量は減少する。例えば、調整コック25-3の開度を大きくした場合、調整コック25-1や25-2から供給される燃料ガス21の量は、減少することとなる。これにより燃焼室29-1~29-4に供給される燃料ガス21の量が減り、これら燃焼室29-1~29-4の温度が下がらないよう注意する必要がある。このような場合、温度が高い燃焼室があれば、そこに供給される燃料ガスの量を減らす等して対応した。状況によっては、大元の調整弁24によって調整を行った。
【0085】
図5は、対象としたコークス炉において、押し出し力を低位安定化する観点から、適正と考えられる乾留時間とフリュー温度の関係を示したものである。図5より、乾留時間を24時間とする時の適正なフリュー温度は約1200℃、30時間では約1150℃、40時間では約1125℃となる。理想としては、乾留時間の変化に合わせて、フリュー温度が図5に示す温度となるように調整すべきであるが、フリュー内温度の調整は、精度よくできないので、プラスマイナス50℃は許容範囲とした。即ち、乾留時間を24時間とする時は1200±50℃、30時間では1150±50℃、40時間で1125±50℃を管理目標温度範囲とした。但し、1室の炭化室に対しては、関連する4室のフリュー温度データを計測しているが、これら4室のフリュー温度データの平均値は、乾留時間の変動に合わせ、図5に示すフリュー温度にできる限り近くなるようにした。
【0086】
炉壁温度計測は、比較例、実施例に関わらず、全炭化室について、押し出しを行うごとに行った。計測は、押出機のラムに放射温度計を設置して行った。燃焼室を炉長方向に30に仕切って形成された1~30フリューに対応する位置の炭化室内炉壁温度を計測した。押出機が所定量移動する毎に、押出機ラム移動量検出器によって、その移動量が信号として出力される。このラム移動検出器が出力信号に基づき温度計測位置を検出し、温度計測位置が炉長方向の各フリューに隣接する所定の炉壁位置になる毎に光ファイバーを用いた放射温度計で、炭化室内炉長方向の炉壁温度を計測した。炉壁温度は、3フリューから28フリューまでの平均値が1000℃付近となるように調整した。
【0087】
<評価>
上記のコークス炉を用いて、比較例、実施例の各ケースについて、1カ月以上の操業を行い、2000回以上の押し出しを行った結果を基に、押し詰まり発生率(=押し詰まり発生回数/押し出し実施回数×100)、および非稼働炭化室発生率(=非稼働炭化室発生数/押し出し実施回数×100)を算出し、評価を行った。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
<比較例>
表5に示す比較例においては、代表フリューの温度計測は24時間に1回の頻度で行い、図1又は図2に倣った監視ツールを導入せずに評価した。その結果、押し詰まり発生率は0.19%、非稼働炭化室発生率は0.61%であった。
【0091】
<実施例1>
実施例1では、代表フリューの温度計測を24時間に1回と比較例と同じとし、フリュー温度およびその変化を、マッピンググラフを用いたコークス炉操業監視ツールに表示して、フリュー温度の変化を把握できるようにした。また、燃焼室の間に稼働している炭化室が存在する場合は、バーを入れ、最新の押し出し力が40t未満の場合は実線、40t以上50t未満の場合は破線、50t以上は点線で示すようにした。更に、表4に基づき押し出し力危険ポイントを計算して表示した。その結果、押し詰まり発生率は0.11%で比較例と比べ大幅に減少した。非稼働炭化室発生率も0.50%と、比較例と比べ小さくなることも確認された。
【0092】
<実施例2>
実施例2では、代表フリューの温度計測を8時間に1回とした以外は実施例1と同様にして試験を行った。その結果、押し詰まり発生率は0.02%と、比較例のみならず、実施例1と比べても大幅に低くなることが確認された。非稼働炭化室発生率も0.41%と、比較例のみならず、実施例1と比べても低くなることが確認された。
この結果から、フリュー温度の計測頻度を8時間に1回と多くした上で、図1のマッピンググラフを用いて操業データを監視することは、押し詰まり発生抑制および非稼働炭化室発生抑制の観点から極めて有効であるといえる。また、最新の押し出し力の値をバーの種類で分けて表示することにより、押し出し力の高い炭化室を、見逃すことなく検知でき、適切なアクションを早期に行ったことも効果的であったといえる。
【0093】
<実施例3>
実施例3では、代表フリューの温度計測を8時間に1回とし、フリュー温度およびその変化を、トレンドグラフを用いたコークス炉操業監視ツールに表示して、フリュー温度の変化を把握できるようにした。即ち、実施例2における代表フリュー温度のグラフをマッピンググラフでなく、トレンドグラフで表現するケースである。また、燃焼室の間に稼働している炭化室が存在する場合は、該当する時系列グラフの間に、その炭化室の最新の押し出し力を表示した。また、押し出し力が50t以上の炭化室については、押し出し力の値を赤い太字で表し、注意喚起した。更に、表4に基づき押し出し力危険ポイントを計算して表示した。その結果、押し詰まり発生率は0.02%、非稼働炭化室発生率も0.39%であり、実施例2と同等の結果が得られた。
【0094】
[原因の推定]
表6は、ある炭化室Aでの操業データの一例である。炭化室Aに関連する燃焼室は若側と末側に分類しているが、若側の燃焼室は、対象とする炭化室に対して番号が若い側の燃焼室であり、末側は番号が大きい側の燃焼室である。
【0095】
炭化室Aの押し出し力は、1/28は41tであったが、1/29は43t、1/30は53tと徐々に上昇している。表4を基に、1/30時点での押し出し力危険ポイントを算出すると、表7に示すように6ポイントと極めて高い値であった。その内訳は、押し出し力が50t以上であることによる3ポイント、1/29から1/30にかけての押し出し力上昇幅が5t以上であることによる2ポイント、2回連続での1t以上の押し出し力上昇による1ポイントを加算した値である。
【0096】
炉壁温度(ここでは3フリュー~28フリューの炉壁温度を平均化した値を炉壁温度とした)を見ると、1/28は1010℃と目標範囲内であるが、その後、低下して1/30時点では953℃となっている。表9に示すように、1/30時点の炉壁温度ポイントを計算するとマイナス3ポイントで、炉壁温度が低くなっていると考えられる。その内訳は、目標下限(975℃)未満であることによるマイナス1ポイント、前回(1/29)と比べ20℃以上の温度低下によるマイナス1ポイント、さらには2回連続で10℃以上の温度低下によるマイナス1ポイントを加算した値である。
【0097】
さらに、表7に示す燃焼室温度のポイントからは、末側のフリュー温度が低くなっていることが考えられる。特に24フリューでポイントが低くなっているが、その内訳は、1125℃(=目標下限-50℃)よりも低いことによるマイナス3ポイント、前回(1/29)と比べ20℃以上の温度低下によるマイナス1ポイント、さらには2回連続で10℃以上の温度低下によるマイナス1ポイントを加算した値である。
【0098】
以上、表7より、押し出し力が高くなっている原因は炉壁温度低下によるものであり、炉壁温度低下の原因は末側の燃焼室温度が低下していることによるものであると推定することができる。そして、当該原因を解消するために、燃焼室の内部温度を上昇させるように再設定する。24フリューの温度が特に低いことから、24フリュー側の温度を上げるアクションが有効と考えられる。
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
次に炭化室Bにおける操業例を表8に示した。炭化室Bにおいては、11/18の押し出し力は34tと、管理目標の範囲内(40t未満)となっている。しかし、表4に基づく、押し出し力危険ポイントは表9に示すように「プラス4」と高い値となっている。この内訳は、前回(11/17)と比べ5t以上の押し出し力上昇があることによる2ポイントと、11/15から11/18にかけて、3回連続で1t以上の押し出し力上昇があることによる2ポイントを加算した値である。11/18時点では、押し出し力は管理目標よりも低く抑えられているが、いずれ、管理目標を超えてしまうことが懸念される。
【0102】
また、表9より、炉壁温度ポイントもマイナス5と低くなっている。この内訳は、925℃未満であることによるマイナス3ポイント、前回(11/17)と比べ20℃以上の温度低下によるマイナス1ポイント、さらには2回連続で10℃以上の温度低下によるマイナス1ポイントを加算した値である。関連する燃焼室のポイントは全てマイナスで、全体的に温度が低くなっていることが推定される。
【0103】
炭化室Bで示した例は、11/18時点での押し出し力は、その時点では問題ないレベルだが、この後、更に押し出し力が上昇して、管理目標を超えてしまう懸念があることを示している。その根本原因は、フリュー温度が全体的に下がっていることで、押し出し力が管理上限を超える前に温度を上げるアクションを検討すべきであることを示している。
【0104】
【表8】
【0105】
【表9】
【0106】
炉壁温度ポイントおよび燃焼室温度ポイントは図6のように表示すると分かりやすい。図6のように炭化室に炉壁温度ポイントを表示し、それに関連する燃焼室温度ポイントを各フリューに表示すると、原因の推定を容易に行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6