(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】光硬化性粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 153/00 20060101AFI20231115BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20231115BHJP
C09J 133/12 20060101ALI20231115BHJP
C09J 133/08 20060101ALI20231115BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C09J153/00
C09J4/02
C09J133/12
C09J133/08
C09J133/04
(21)【出願番号】P 2019047384
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151688
【氏名又は名称】今 智司
(72)【発明者】
【氏名】河村 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】角矢 敦史
(72)【発明者】
【氏名】加納 伸悟
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165807(JP,A)
【文献】特開2014-156585(JP,A)
【文献】特開2003-301147(JP,A)
【文献】特開2011-026551(JP,A)
【文献】特開2017-036368(JP,A)
【文献】特表2019-505617(JP,A)
【文献】特開平06-145607(JP,A)
【文献】国際公開第2009/107537(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間クリープ特性に優れた光硬化性粘着剤組成物であって、
(A)ガラス転移温度が50℃以上である(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(a)5~45質量%、及びガラス転移温度が20℃以下である(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(b)55~95質量%を含有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体と、
(B)前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体を溶解し、光重合可能である反応性の溶媒と、
(C)光重合開始剤と、
(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーと、
を含有し、
前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体が、式(a1)-(b)-(a2)で表されるトリブロック共重合体であり(重合体ブロック(a1)、重合体ブロック(a2)は前記重合体ブロック(a)と同一の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロックであり、重合体ブロック(a1)、重合体ブロック(a2)は同一であっても異なっていてもよい。)、
前記(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーの添加量が、0.01質量部以上30質量部以下であ
り、
前記熱間クリープ特性の試験が、イソプロピルアルコールで表面を脱脂した第1の被着体としてのPETフィルムと、アセトンで表面を脱脂した第2の被着体としての一端に穴を有するSUS板とを用意し、前記第1の被着体表面に厚さが100μm、塗布面積が25×25mm
2
になるように前記光硬化性粘着剤組成物を均一に塗布し、紫外線(UV)を前記光硬化性粘着剤組成物に照射し[照射条件:UV-LEDランプ(波長365nm、照度:1000mW/cm
2
)、積算光量:3000mJ/cm
2
]て硬化後速やかに、前記第2の被着体の前記穴を有する前記一端とは逆側の部分を前記硬化した前記光硬化性粘着剤組成物を挟むように前記第1の被着体に貼り合わせ、2kgローラ2往復にて圧締して作成した試験片を23℃50%RHの環境下で24時間養生した後、前記試験片の前記第2の被着体の前記穴にS字フックを取り付け、前記第2の被着体側が上になるように前記試験片を鉛直に吊り下げ、前記第1の被着体の端部に1kgの重りを取り付け、前記試験片のせん断方向に荷重をかけて80℃に設定した熱風乾燥器の天井に前記S字フックを介して前記試験片取り付けて24時間静置して実施された場合、前記第1の被着体と前記第2の被着体とのずれが1.5mm未満である光硬化性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体が、メチルメタクリレートをモノマー単位として含む重合体ブロック(a)、ブチルアクリレートをモノマー単位として含む重合体ブロック(b)を含有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体である、請求項1に記載の光硬化性粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(B)反応性の溶媒が、酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマーである、請求項1又は2に記載の光硬化性粘着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置又は入力装置を搭載した携帯電子機器(例えば、携帯電話、携帯情報端末等)や車載用電子機器においては、組み立てのために両面粘着テープやシートが用いられている。例えば、携帯電子機器の表面を保護するためのカバーパネルをタッチパネルモジュール又はディスプレイパネルモジュールに接着したり、タッチパネルモジュールとディスプレイパネルモジュールとを接着したりするために両面粘着テープやシートが用いられている。このような両面粘着テープやシートは、例えば、額縁状等の形状に打ち抜かれ、表示画面の周辺に配置されるようにして用いられる(例えば、特許文献1、2)。また、車両部品(例えば、車載用パネル)を車両本体に固定する用途にも両面粘着テープやシートが用いられている。
【0003】
近年の大型の携帯電子機器における部品の接着固定、車両部品の接着固定等の用途においては、重量の大きな部品又は部材を貼り合わせる必要があり、両面粘着テープやシートにかかる負荷が大きくなっている。また、近年の携帯電子機器では、表示画面の周辺を狭くしてより広い画面を確保する、いわゆる狭額縁化が進んでおり、狭額縁化した携帯電子機器では画面の周辺部の幅が極めて狭いため、接着面積が狭くとも確実に部材を固定できる高い粘着力が求められている。更に、車両部品の接着固定では、夏場の車内において高温にさらされた場合にも剥離しない高い高温保持力が求められている。
【0004】
このように、電子機器部品の固定や車両部品の固定に用いられる両面粘着テープやシートには、従来以上に高い粘着力、高温保持力が求められるようになってきている。
【0005】
このような粘着テープやシートの粘着層として、透明性や耐候性、耐久性に優れることから、アクリル系粘着剤が広く用いられている。またアクリル系粘着剤としては、塗工性や粘着物性の観点から、(メタ)アクリル系ブロック共重合体からなる粘着剤が提案され、(例えば、特許文献3、4)このような粘着剤は高温保持力に優れることが開示されている。
【0006】
一方、粘着剤として、環境問題の高まりから有機溶剤を使用しない組成物への移行が進んでおり、(メタ)アクリル酸エステルと光重合開始剤による活性エネルギー線硬化型粘着剤が提案されている。特許文献5や特許文献6には(メタ)アクリル系ブロック共重合体を使用する活性エネルギー線硬化型粘着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-242541号公報
【文献】特開2009-258274号公報
【文献】特開2016-183275号公報
【文献】特表2015-520774号公報
【文献】特表2016-529339号公報
【文献】特開2017-036368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は(メタ)アクリル系ブロック共重合体を使用する光硬化性粘着剤組成物であって、特許文献3や特許文献4とは別異の熱間クリープ性に優れる粘着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは特定の(メタ)アクリル系ブロック共重合体と、リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーを併用すると、熱間クリープ性に優れる粘着剤を製造できることを見出した。すなわち、本発明は次の粘着剤に関する。
【0010】
(1)(A)ガラス転移温度が50℃以上である(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(a)5~45質量%及びガラス転移温度が20℃以下である(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(b)55~95質量%を含有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体と、(B)前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体を溶解し、光重合可能である溶媒と、(C)光重合開始剤と、(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを含有する光硬化性粘着剤組成物。
(2)前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体が、式(a1)-(b)-(a2)で表されるトリブロック共重合体である、(1)に記載の光硬化性粘着剤組成物。(重合体ブロック(a1)、重合体ブロック(a2)は前記重合体ブロック(a)と同一の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロックであり、重合体ブロック(a1)、重合体ブロック(a2)は同一であっても異なっていてもよい。)
(3)前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体が、メチルメタクリレートをモノマー単位として含む重合体ブロック(a)、ブチルアクリレートをモノマー単位として含む重合体ブロック(b)を含有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体である、(1)または(2)に記載の光硬化性粘着剤組成物。
(4)前記(B)反応性の溶媒が、酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマーである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の光硬化性粘着剤組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光硬化性粘着剤組成物は、高温環境下でも優れた熱間クリープ性を有する粘着剤であり、幅広い温度域での使用に耐えうる。なお、本発明において「高温」とは、常温を超える温度であって、例えば80℃程度の温度を指す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明に使用される(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、粘着剤層に柔軟性とともに適度な硬度を付与するベース樹脂である。該樹脂を粘着剤に用いると、温度変化によって適切な凝集力と応力緩和性が得られ、耐久信頼性が優秀に維持される。
【0014】
前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、ガラス転移温度が50℃以上である(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(a)5~45質量%及びガラス転移温度が20℃以下である(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(b)55~95質量%を含有する。
【0015】
本発明における重合体ブロック(a)および重合体ブロック(b)のガラス転移温度は、(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体を示差走査熱量計(以後、DSCと略することがある)で測定して得られた曲線において認められる重合体ブロック(a)および重合体ブロック(b)の転移領域の外挿開始温度(Tgi;転移前の基線の直線部分と転移領域の変曲点の接線とを外挿して得られる交点の温度;例えば、齋藤安俊著「物質科学のための熱分析の基礎」(1990年12月15日共立出版株式会社発行)第126頁等参照)である。本発明における(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体のDSC測定による曲線に基づけば、重合体ブロック(a)のガラス転移温度、重合体ブロック(b)のガラス転移温度等の複数のガラス転移温度が求められるが、その中の重合体ブロック(a)に由来するガラス転移温度は、重合体ブロック(a)と同様の化学構造(モノマー組成、立体規則性等)を有する重合体のDSC測定による曲線のガラス転移温度と同一であるか、またはそれに近い温度であるので、容易に判定することができ、重合体ブロック(b)についても同様である。なお、重合体ブロック(a)と同様の化学構造を有する重合体は、重合体ブロック(a)を1H-NMR、13C-NMR等の手段で分析することにより重合体ブロック(a)のモノマー組成、立体規則性等の化学構造が判明するので、その化学構造が再現されるように適宜、重合を行うことにより容易に製造することができ、重合体ブロック(b)についても同様である。また、本発明の(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体を製造する際、最初の重合工程が重合体ブロック(a)の形成工程である場合には、その工程で形成された重合体ブロック(a)の一部をそのまま、重合体ブロック(a)と同様の化学構造を有する重合体のDSC測定用試料として利用するのが簡便であり、重合体ブロック(b)についても同様である。
【0016】
前記(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、重合体ブロック(a)及び重合体ブロック(b)を少なくとも1つずつ含み、好ましくは式(a1)-(b)-(a2)で表されるトリブロック共重合体である。重合体ブロック(a1)、重合体ブロック(a2)は重合体ブロック(a)と同一の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロックであり、重合体ブロック(a1)、重合体ブロック(a2)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーの種類や分子量等については、同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
重合体ブロック(a)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも接着層の成形性および粘接着性の点からメタクリル酸メチルが好ましい。
【0018】
重合体ブロック(b)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えばメタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2-メトキシエチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-メトキシエチル等のアクリル酸エステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、接着層の粘接着性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-メトキシエチルが好ましい。
【0019】
(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(a)および(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロック(b)の他に、他の重合体ブロックを有してもよい。他の重合体ブロックとしては、例えばメタクリル酸、アクリル酸、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、オクテン、酢酸ビニル、無水マレイン酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単量体単位から構成される(共)重合体ブロックおよび/またはこれらの水素添加物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサンからなる重合体ブロック等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、原料モノマーを重合することにより合成しても良いし、市販されているものを用いても良い。重合方法としては特に制限されるものではないが、例えば、アニオン重合法、原子移動ラジカル重合法(ATRP)等を用いることができる。各重合法の詳細な説明はここでは省略するが、アニオン重合法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩等の鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、有機希土類金属錯体を重合開始剤としてアニオン重合する方法等の公知の方法を用いることができ、ATRPとしては、例えば、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として、遷移金属化合物、含窒素化合物の存在下で重合する方法等の公知の方法を用いることができる。市販品としては、例えば、(株)クラレ製の「クラリティ(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0021】
本発明に使用される(B)光重合可能である反応性の溶媒は、(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体を溶解する反応性の溶媒であると同時に粘着剤の粘度を調整し、また粘着層に硬度を付与する役割を担う。そのため(B)光重合可能である反応性の溶媒は(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体の良溶媒であり、かつ低粘度であることが好ましく、ヒドロキシル基やアミド基、フェノキシ基等の極性基を含有するアクリレートモノマーが好適である。
【0022】
具体的にはヒドロキシル基を有するモノマーとして、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等があり、またアミド基を有するモノマーとしては、アクリルアミド、N,N‐ジメチルアクリルアミド、N,N‐ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリルロイルモルホリン等があり、更にフェノキシ基を有するモノマーとして、フェノキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート等がある。これらを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記(B)光重合可能である反応性の溶媒の添加量は、(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体を完全に溶解する量であり、かつ本光硬化性粘着剤組成物が粘着剤として機能する範囲であれば特に限定されないが、例えば(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体100質量部に対し、30質量部以上300質量部以下であることが好ましい。
【0024】
本発明に使用される(C)光重合開始剤は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、汎用の光重合開始剤で良い。具体的には、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル類;4,4’-ビスジメチルアミノベンゾフェノン及び4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル-]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、及びN,N-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類;2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン及び2-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール等のケタール類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド類;エチル-p-ジメチルアミノベンゾエート、(2-ジメチルアミノ)エチルベンゾエート、ビス-4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のアミン相乗剤等が挙げられる。
【0025】
前記(C)光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。光開始剤は、その添加量は特に制限はないが、添加量が少ないと硬化が深部まで進行せず、硬化不良が生じる場合があるので、(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体100重量部に対して、0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、1重量部以上が更に好ましい。また、開始剤が多いと開始剤が残存し、硬化物性に悪影響が生じる場合があるので、添加量は(A)(メタ)アクリル系ブロック共重合体100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下が更に好ましい。
【0026】
本発明に使用される(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリレート部位により光硬化の際架橋に取り込まれると共に、リン原子を含む置換基により光硬化後の粘着層形成後に貼り付ける部材に対しての密着性の向上が期待できる。
【0027】
前記(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、リン酸2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸ビス-(2-メタクリロイルオキシエチル)、リン酸2-アクリロイルオキシエチル、リン酸ビス-(2-アクリロイルオキシエチル)、リン酸メチル-(2-メタクリロイルオキシエチル)、リン酸エチルメタクリロイルオキシエチル、リン酸メチルアクリロイルオキシエチル、リン酸エチルアクリロイルオキシエチル、リン酸プロピルアクリロイルオキシエチル、リン酸イソブチルアクリロイルオキシエチル、リン酸エチルヘキシルアクリロイルオキシエチル、リン酸ハロプロピルアクリロイルオキシエチル、リン酸ハロイソブチルアクリロイルオキシエチル、又はリン酸ハロエチルヘキシルアクリロイルオキシエチル、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、アリルホスフィン酸、β-メタクリロイルオキシエチルホスフィン酸、ジアリルホスフィン酸、β-メタクリロイルオキシエチル)ホスフィン酸、及びアリルメタクリロイルオキシエチルホスフィン酸が挙げられ、特にリン酸2-メタクリロイルオキシエチルもしくはリン酸ビス-(2-メタクリロイルオキシエチル)が好ましい。
【0028】
前記(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーの添加量は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、本発明の組成物に熱間クリープ性を向上させる化合物であるため、添加量が少ないと該効果の発現が乏しくなる。したがって、(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーの添加量は0.01部質量部以上であることが好ましく、1部以上がさらに好ましい。また、添加量が多いと本発明の粘着剤としての性質に悪影響が出ることがあるので、(D)リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーの添加量は30質量部以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の粘着剤組成物には、性能を損なわない範囲で、必要により、(B)成分及び(D)成分以外の(メタ)アクリレートモノマー、粘着付与剤、可塑剤、酸化防止剤及び濡れ性調整剤等の各種添加剤が含まれていても良い。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0031】
(実施例1~7、比較例1)
表1記載の成分を均一に溶解するまで撹拌し、実施例1~7、比較例1の光硬化性粘着剤組成物を調整した。配合は下記表1に記載の通りである。
【0032】
【0033】
表1において、各配合物質の配合量はgで示され、各配合物質の詳細は下記の通りである。
※1 LK9243: (メタ)アクリル系トリブロック共重合体(製品名「クラリティ LK9243」、重合体ブロック(a)にメチルメタクリレートを用い、重合体ブロック(b)にブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートを用いた(メタ)アクリル系ブロック共重合体、(株)クラレ製)
※2 LA2140:(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(製品名「クラリティ LA2140」、重合体ブロック(a)にメチルメタクリレートを用い、重合体ブロック(b)にブチルアクリレートを用いた(メタ)アクリル系ブロック共重合体、(株)クラレ製)
※3 4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
※4 IrgTPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(製品名「IRGACURETPO」、BASF社製)
※5 P-2M:2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(製品名「ライトエステルP-2M」、共栄社化学(株)製)
※6 LA:ラウリルアクリレート
※7 K125:テルペンフェノール樹脂(製品名「YSポリスターK125」、ヤスハラケミカル(株)製)
【0034】
評価方法は以下の通りとした。
熱間クリープ試験:
第1の被着体としてPETフィルム1枚、第2の被着体として一端に穴の開いたSUS板1枚を用意し、第1の被着体についてはイソプロピルアルコールにより表面を脱脂し、第2の被着体についてはアセトンにより表面を脱脂した。脱脂した第1の被着体表面に、厚さが100μm、塗布面積が25×25mm2になるように実施例1に係る光硬化性粘着剤組成物を均一に塗布した。次に、第1の被着体に塗布された実施例1に係る光硬化性粘着剤組成物に紫外線(UV)を照射し[照射条件:UV-LEDランプ(波長365nm、照度:1000mW/cm2)、積算光量:3000mJ/cm2]、硬化させた。硬化後速やかに、脱脂済みの第2の被着体の穴の開いた一端とは逆側の部分を、UV光照射により硬化した光硬化性粘着剤組成物を挟むように第1の被着体に貼り合わせ、2kgローラ2往復にて圧締し、試験片を作成した。続いて、この試験片を23℃50%RHの環境下で24時間養生した。養生後、試験片のSUS板の穴にS字フックを取り付け、SUS板側が上になるよう試験片を鉛直に吊り下げた。続いて、PETフィルムの端部に1kgの重りを取り付け、試験片のせん断方向、すなわち鉛直方向に荷重を加えた。荷重をかけた試験片を、80℃に設定した熱風乾燥器(佐竹化学機械工業株式会社製熱風循環恒温乾燥器:41-S4)の天井に前記S字フックを介して取り付け、24時間静置し、熱間クリープ試験を実施した。ほぼずれが生じなかったもの(1.0mm未満)を◎、ずれが小さかったもの(1.0mm以上1.5mm未満)を○、ずれが大きかったもの(1.5mm以上25mm未満)を△、PETフィルムとSUS板が剥がれ重りが落下したものを×として評価した。
【0035】
表1からわかるように、リン原子を含む置換基を有する(メタ)アクリレートモノマーを含有する粘着剤組成物は熱間クリープ性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る光硬化性粘着剤組成物は、高温環境下でも優れた接着強さを有する粘着剤であり、幅広い温度域での使用に耐えうる。