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特許7385191EML4-ALK阻害ペプチドおよびこれを含む肺がん治療薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】EML4-ALK阻害ペプチドおよびこれを含む肺がん治療薬
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20231115BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20231115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K38/08
A61P35/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019157950
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021035925
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】西川 喜代孝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 美帆
(72)【発明者】
【氏名】原 大幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 識人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 幹彦
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-295444(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0156475(US,A1)
【文献】特表2010-501175(JP,A)
【文献】特表2011-511949(JP,A)
【文献】特表2017-511314(JP,A)
【文献】特表2005-501047(JP,A)
【文献】特開2015-228860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00-7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列のC末端側にリジン(Lys)を含む1~3つのアミノ酸残基が結合しているペプチドモチーフからなるモノマーペプチド、または、
配列番号1のアミノ酸配列のC末端側にリジン(Lys)を含む1~3つのアミノ酸残基が結合しているペプチドモチーフのN末端側に膜透過性のアミノ酸配列または官能基が連結したモノマーペプチド
であることを特徴とするEML4-ALK阻害ペプチド。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列のC末端側にリジン(Lys)を含む1~3つのアミノ酸残基が結合しているペプチドモチーフを4つ含む4価ペプチドであり、
3つのリジン(Lys)が結合して形成された以下の分子核構造:
【化1】

の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、前記ペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合していることを特徴とするEML4-ALK阻害ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドモチーフは、配列番号2のアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1または2のEML4-ALK阻害ペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドモチーフのN末端側に、膜透過性のアミノ酸配列または官能基を有していることを特徴とする請求項2のEML4-ALK阻害ペプチド。
【請求項5】
EML4-ALKが発現している肺がんの治療薬であって、
請求項1から4のいずれかのEML4-ALK阻害ペプチドを含むことを特徴とする肺がん治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EML4-ALK阻害ペプチドおよびこれを含む肺がん治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんは全世界のがんによる男性の死亡原因の第1位、女性で第2位であり、人類にとって大きな脅威となっている。特に、肺がんの約85%は非小細胞肺癌(NSCLC)であり、進行・転移例においては非常に治療が困難である。
【0003】
2007年、間野らにより、微小管会合タンパクechinoderm microtubule associated protein-like 4(EML4)と受容体型チロシンキナーゼanaplastic lymphoma kinase(ALK)が融合した新しい癌化キナーゼ、EML4-ALKがNSCLCの約5%に発現していることが発見された(非特許文献1)。通常ALKは、リガンド刺激によって2量体を形成し活性化する。これに対し、EML4-ALK融合タンパク質ではEML4のcoiled-coilドメインによって恒常的に2量体が形成され、リガンド非依存的にALKが活性化されることで恒常的に増殖シグナルが入ってしまう。
【0004】
そこで、EML4-ALKのチロシンキナーゼ活性を阻害するALK阻害剤の開発が進められ、遺伝子の発見から4年という異例の早さで第一世代の治療薬であるクリゾチニブが開発された。クリゾチニブは、日本でも2012年に治療薬として承認され大きな効果をあげている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5718574号
【文献】特許第5897178号
【文献】特許第6422046号
【文献】特許第4744443号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nature, 448, 561-566.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、その劇的な効果の一方で、急速にクリゾチニブ耐性の症例が広がってきており、早急に解決すべき問題となっていた。クリゾチニブの問題は、ALKの触媒部位であるATP結合部位を標的としているため耐性が生じやすい点にある。耐性克服のため、第二世代の治療薬アレクチニブ、セリチニブが開発されたが、現在ではこれらの薬剤に対しても耐性体の出現が報告されており、本質的な解決には至っていない状況にある。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、ALKのATP結合部位ではなく、基質認識部位を標的として、ALKキナーゼドメイン(ALK-KD)への結合活性ならびにキナーゼ活性阻害効果に優れたEML4-ALK阻害ペプチドおよびこれを含む肺がん治療薬を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列のC末端側にリジン(Lys)を含む1~3つのアミノ酸残基が結合しているペプチドモチーフを1以上含むことを特徴としている。
【0010】
本発明の肺がん治療薬は、前記EML4-ALK阻害ペプチドを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のEML4-ALK阻害ペプチドおよびこれを含む肺がん治療薬は、ALKキナーゼドメイン(ALK-KD)の基質認識部位を標的として、ALK-KDへの結合活性ならびにキナーゼ活性阻害効果に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ALKの自己リン酸化部位由来であるA-loopペプチド、ならびにsrctideのアミノ酸配列、Km値を示した図である。
図2】srctideをベースとして作成したLF-peptideならびにIF-peptideのALK-KDキナーゼ活性に対する阻害効果を比較検討した図である。
図3】IF-peptideのKKK配列中のLysを順次Alaに置換した一連のペプチドを4価体としてニトロセルロースシート上にスポット合成し、ALK-KDでブロットすることで、結合量を定量した結果を示した図である。
図4】IF-peptideのKKK配列の代わりに図に示すアミノ酸を1つだけ導入した一連のペプチドを、4価体としてニトロセルロースシート上にスポット合成し、各ペプチドへのALK-KDの結合活性を定量した結果を示した図である。
図5】IFK-monoならびにIFK-tetのALK-KDキナーゼ活性に対する阻害効果を比較検討した図である。各ペプチドの濃度は、ユニットとして使用する各モノマーペプチドのモル濃度に換算して表示している。
図6】Ba/F3-ALK細胞の増殖に対する各種ALK阻害ペプチドの効果を示す図である。Ba/F3-ALK細胞を0.1×106 cells/ml の濃度で96well plate にて、各種阻害薬存在下(0.03μM)で培養した。各日数培養後細胞を一部回収し、トリパンブルー染色後生細胞数を測定した。
図7】Ba/F3-ALK細胞の増殖に対する各種ALK阻害ペプチドの効果を示す図である。Ba/F3-ALK細胞を0.1×106 cells/ml の濃度で96well plate にて、図に示す濃度の各種阻害薬存在下で培養した。3日間培養後細胞を回収し、トリパンブルー染色後生細胞数を測定した。
図8】Ba/F3-ALK細胞の増殖に対する各種ALK阻害ペプチドの効果を示す図である。Ba/F3-ALK細胞を0.1×106 cells/ml の濃度で96well plate にて、各種阻害薬存在下(0.03μM)で培養した。各日数培養後細胞を一部回収し、トリパンブルー染色後生細胞数を測定した。
図9】Ba/F3-ALK細胞の増殖に対する各種ALK阻害ペプチドの効果を示す図である。Ba/F3-ALK細胞を0.1×106 cells/ml の濃度で96well plate にて、図に示す濃度の各種阻害薬存在下で培養した。3日間培養後細胞を回収し、トリパンブルー染色後生細胞数を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、既知のALK基質モチーフをベースとして、モチーフ中のアミノ酸を置換してゆくことで、ALK基質認識部位に強く結合し、かつALKのキナーゼ活性を効率よく阻害するモチーフを同定できるのはないかとの着想を得た。特に、アミノ酸置換によるALKキナーゼドメインとの結合活性への影響については、本発明者らがこれまでに報告している多価型ペプチドシートスクリーニングに関する技術を用いて検討することが有効であると考えられた(特許文献1~3)。
【0014】
以下、本発明のEML4-ALK阻害ペプチドおよび肺がん治療薬の一実施形態について説明する。
【0015】
本発明のEML4-ALK阻害ペプチドは、
配列番号1:Gly-Glu-Glu-Pro-Ile-Phe-Trp-Ser-Phe-Pro-Ala(GEEPIFWSFPA)
のアミノ酸配列のC末端側に、リジン(Lys)を含む1~3のアミノ酸残基が結合しているペプチドモチーフを1以上含んでいる。
【0016】
すなわち、リジン(Lys)を含む3つのアミノ酸残基は、リジン(Lys)以外の任意のアミノ酸を「Xaa」とすると、Lys-Lys-Lys、Xaa-Lys-Lys、Lys-Xaa-Lys、Lys-Lys-Xaa、Xaa-Xaa-Lys、Xaa-Lys-Xaa、Lys-Xaa-Xaaの形態である。また、リジン(Lys)を含む2つのアミノ酸残基は、Xaa-LysまたはLys-Xaaの形態である。
【0017】
なかでも、EML4-ALK阻害ペプチドを構成するペプチドモチーフは、配列番号1のアミノ酸配列のC末端に1つのリジン(Lys)が結合していることが好ましい。すなわち、ペプチドモチーフは、
配列番号2:Gly-Glu-Glu-Pro-Ile-Phe-Trp-Ser-Phe-Pro-Ala-Lys(GEEPIFWSFPAK)
であることが好ましい。
【0018】
本発明のEML4-ALK阻害ペプチドには、上述したペプチドモチーフを1つ含む1価体(モノマー)の形態や、ペプチドモチーフを2以上含む2価体、3価体、4価体などの形態が含まれる。
【0019】
本発明のEML4-ALK阻害ペプチドは、細胞膜透過性や電荷調節の観点から、例えば、配列番号1、2のアミノ酸配列のN末端側に、アミノ酸や官能基などの各種の修飾分子が結合していてもよい。
【0020】
具体的には、本発明のEML4-ALK阻害ペプチドがモノマーの場合は、N末端側に膜透過性配列または膜透過性の官能基を有することが好ましい。膜透過性配列を構成するアミノ酸や長さは特に限定されず、適宜設計することができるが、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)などのアミノ酸を含む塩基性に富む配列などを例示することができる。膜透過性の官能基は特に限定されないが、例えば、ミリストイル基、パルミトイル基、ラウリル基などを例示することができる。EML4-ALK阻害ペプチドがモノマーの場合、膜透過性配列または膜透過性の官能基を有することで、ALK-KDとの結合活性を高めることができる。
【0021】
また、例えば、本発明のEML4-ALK阻害ペプチドが4価体の場合は、本発明者らが既に報告している多価型ペプチドライブラリースクリーニング技術(特許文献4)で使用する核構造と同じものを用いることができる。
【0022】
具体的には、3つのリジン(Lys)が結合して形成された以下の分子核構造:
【0023】
【化1】
【0024】
の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、上述したペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドを例示することができる。
【0025】
より、具体的には、本発明のEML4-ALK阻害ペプチドの好ましい一実施形態としては、例えば、以下の化学式2において、3つのリジン(Lys)からなる分子核構造の端部に位置する4つのXXXX部のそれぞれに、上述したペプチドモチーフが組み込まれた4価ペプチドが例示される。
【0026】
【化2】
【0027】
なお、上記化学式2では、ペプチドモチーフが組み込まれる位置を便宜的に「XXXX」と記載している。
【0028】
また、上記化学式2では、分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、スペーサーが結合している形態を例示しているが、スペーサーを介さず、4つのアミノ基の各々に、直接、ペプチドモチーフを結合させることもできる。スペーサーを結合させる場合、ALK-KDへの結合性を損なわないものであればよく、具体的な分子、長さは限定されず、適宜設計することができる。スペーサーとしては、例えば、末端にアミノ酸を有する炭素数4~10程度の鎖長のものが好ましく、特に上記化学式2中で示されているamino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](アミノカプロン酸)を好ましく例示することができる。また、スペーサーに含まれるアミノ酸としては、例えば、アラニン(A)を例示することができる。
【0029】
本発明のEML4-ALK阻害ペプチドの作成方法は特に限定されず、例えば、ペプチド合成装置等を利用するなどの公知の方法によって作製することができる。例えば、本発明のEML4-ALK阻害ペプチドが4価体である場合、組み込まれるペプチドモチーフは、4価の核構造に順次アミノ酸を付加することにより合成でき、1価のペプチド合成と同様の手法にて簡便にバルク合成することができる。 次に、本発明の肺がん治療薬の一実施形態について説明する。
【0030】
本発明の肺がん治療薬は、上述したEML4-ALK阻害ペプチドを含む。
【0031】
本発明の肺がん治療薬の投与形態は特に限定されず、経口的投与でも非経口的投与でもよい。非経口投与としては、例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射等の注射投与、経皮投与、経粘膜投与(経鼻、経口腔、経肺)投与などを例示することができる。
【0032】
本発明の肺がん治療薬は、有効成分としてのEML4-ALK阻害ペプチドをそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等を例示することができる。
【0033】
製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。
【0034】
製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミンなどを例示することができる。
【0035】
本発明の肺がん治療薬をヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、100μg~1000 mgを1回または数回に分けて投与することができる。 本発明のEML4-ALK阻害ペプチドおよび肺がん治療薬は、以上の実施形態に限定されることはなく、ALK-KDへの結合活性ならびにキナーゼ活性阻害効果を害さない範囲で適宜設計することができる。
【実施例
【0036】
以下、本発明のEML4-ALK阻害ペプチドおよび肺がん治療薬について、実施例とともに説明するが、本発明のEML4-ALK阻害ペプチドおよび肺がん治療薬は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>ALK基質モチーフをベースとしたALK阻害ペプチドの同定
スクリーニングに使用するALKキナーゼドメイン(ALK-KD、EML4-ALKの配列中N末端から534-849)はC末端にHis-tagを導入したものを用い、Bac to Bacバキュロウイルス発現系を用いて大量調製を行った。
【0038】
これまでに、ALKのA-loop領域に存在する自己リン酸化部位由来のペプチド(A-loop)、ならびにチロシンキナーゼ基質として広く用いられているsrctideがALKの基質として知られている。
【0039】
図1に、A-loopとsrctideのアミノ酸配列とKm値を示す。図1に示したように、よりKm値の低いsrctideをベースとして用いることにした。
【0040】
まず、srctideの配列中リン酸化を受ける6番目のTyrを、リン酸化を受けず、かつ、構造がTyrと類似しているPheに置換した(図2において「LF-peptide」と表示)。さらにALKの基質として知られているタンパク質は、A-loopならびにsrctideに見られるように、リン酸化を受けるTyrのN末側にIleあるいはLeuなどの疎水性アミノ酸を有していることが多いことに着目し、LF-peptideの5番目のLeuをIleに置換したものを作成し(図2において「IF-peptide」と表示)、両者のALK-KDのキナーゼ活性に対する阻害効果を、比較検討した。
【0041】
具体的には、ALK-KDは8 μg/ml、基質であるsrctideは30 μg/mlで使用した。32P-ATP存在下で反応後、リン酸化srctideをP81 paperに結合させリン酸バッファーで洗浄後、P81 paperに残存した放射活性をBAS-2500(GE Healthcare)を用いて測定した。
【0042】
図2に、LF-peptideとIF-peptideのALK-KDのキナーゼ活性に対する阻害効果を示す。各種阻害ペプチド非存在下での放射活性を100%として表示している。
【0043】
図2に示したように、LF-peptideよりもIF-peptide(IC50=110 μM)がより強くキナーゼ活性を阻害することが確認された。
【0044】
次に、IF-peptideの構造をさらにコンパクトにする検討を行った。IF-peptideはsrctideの配列をベースにしているが、srctideのC末端に存在しているLys-Lys-Lys (KKK)配列は、そもそもP81 paperを用いたキナーゼ活性測定を可能にするために導入された配列であり、本来基質としての活性には影響を及ぼさないと考えられる。
【0045】
そこで、特許文献1~3に記載の多価型ペプチドシートスクリーニング技術に従って、IF-peptideのKKK配列中のLysを順次Alaに置換した一連のペプチドをシート上に作成し、ALK-KDでブロットすることにより、ALK-KDとの結合における各々のLysの関与を改めて評価した。
【0046】
具体的には、ペプチドは結合効率を上げるため、IF-peptideのKKK配列中のLysを順次Alaに置換した一連のペプチドを4価体としてニトロセルロースシート上にスポット合成した。また、この4価体では、スペーサーとしてアミノヘキサン酸(Ahx)を使用した。得られたシートを10 μg/mlのALK-KDでブロットした。各ペプチドに結合したALK-KDの検出には、1次抗体として抗His-tag抗体を、2次抗体としてHRP標識抗体を用い、各スポットの化学発光強度を測定することにより結合量を定量した。
【0047】
結果を図3に示す。図3に示したように、KKK配列中のいずれかのLysを1個あるいは2個Alaに置換してもALK-KDとの結合活性はほとんど影響を受けないことが確認された。その一方で、KKK配列の3個全てのLysをAlaに置換した場合には、ALK-KDとの結合活性が顕著に減弱することが確認された。この結果は、本来、KKK配列はALKへの結合には関与しないと思われていたが、実はそのうち少なくとも1つのLysの存在がALKへの結合に重要な役割を果たしていることを示している。
【0048】
この結果から、
配列番号1:Gly-Glu-Glu-Pro-Ile-Phe-Trp-Ser-Phe-Pro-Ala(GEEPIFWSFPA)
のアミノ酸配列のC末端側に、リジン(Lys)を含むアミノ酸残基(KKK、AKK、KAK、KKA、AAK、AKA、KAA)が結合しているペプチドは、ALK-KDとの結合活性に優れていることが確認された。
【0049】
この点をさらに検討するために、IF-peptideのKKK配列を取り除き、その代わりにCysを除く全てのアミノ酸を1つだけ導入した一連のペプチドをニトロセルロースシート上に作成し、同様にALK-KDでブロットすることによりその結合活性を検討した。なお、上述した実験と同様にシートのペプチドは4価体として合成した。各ペプチドへのALK-KDの結合活性も上述した方法と同様に定量した。
【0050】
結果を図4に示す。使用した全てのアミノ酸のうち、Lysを導入した場合にのみ非常に強い結合活性が観察されることが確認された。以上のことから、ALK-KD阻害ペプチドモチーフとして、
配列番号2:Gly-Glu-Glu-Pro-Ile-Phe-Trp-Ser-Phe-Pro-Ala-Lys(GEEPIFWSFPAK)
を新たに同定することができた。
【0051】
得られた配列番号2のペプチドモチーフをモノマーペプチドとしてそのまま使用した(IFK-mono)。また、上述した多価型ペプチドシートスクリーニング技術(特許文献1~3)、ならびに多価型ペプチドライブラリースクリーニング技術(特許文献4)で使用している核構造と同じものとして、上記化学式2において示した4つのXXXX部に、配列番号2のペプチドモチーフが結合した4価体としたもの(IFK-tet)をそれぞれ合成し、両者のALK-KDのキナーゼ活性に対する阻害効果を比較検討した。
【0052】
結果を図5に示す。図5に示す各ペプチドの濃度は、ユニットとして使用するモノマーペプチドのモル濃度に換算して表示している。
【0053】
図5に示したように、IFK-monoならびにIFK-tetともにIF-peptideよりも優れた阻害活性を示すこと(IC50=39μM, IC50=30μM)、両者の阻害活性にはほとんど差が認められないこと、が確認された。
【0054】
<実施例2>EML4-ALK安定発現Ba/F3細胞に対するIFK-monoならびにIFK-tetの増殖阻害効果
マウスpro-B細胞株であるBa/F3細胞はIL3依存的な増殖能を示し、IL3非存在下では増殖することができないが、Ba/F3細胞に全長のEML4-ALK遺伝子を導入して作成したEML4-ALK安定発現細胞株(Ba/F3-ALK)は、IL3非依存的な増殖活性を示すようになる。Ba/F3-ALK細胞を0.1×106 cells/ml の濃度で96well plate にて、各種ペプチド存在下(0.03μM)で培養した。各日数培養後細胞を一部回収し、トリパンブルー染色後生細胞数を測定することで、Ba/F3-ALKのIL3非依存的な増殖に対する各種ペプチドの効果を検討した。なお、これまでの結果から、C末端のLysの重要性が示されたことから、配列番号2のアミノ酸配列のC末端のLysをAlaに置換したモノマーペプチド(IFA-mono)の阻害効果も合わせて評価した。さらに、IFK-monoならびにIFA-monoには、細胞膜透過性を付与する目的でN末端にミリストイル基を導入した(myr-IFK-mono, myr-IFA-mono)。
【0055】
結果を図6に示す。myr-IFK-monoはクリゾチニブとほぼ同等の増殖阻害活性を示すことが確認された。一方、ALK-KDに対する結合活性の低いモチーフを有するmyr-IFA-monoでは顕著な増殖阻害活性は認められなかった。
【0056】
さらに、培養3日目での容量依存的増殖阻害効果を比較検討した結果を図7に示す。図7に示したように、クリゾチニブならびにmyr-IFK-monoでは容量依存的な顕著な阻害活性が認められたが、これらに比べmyr-IFA-monoの阻害活性は大きく減弱していた。
【0057】
上記と同様の検討をIFK-tetを用いて行った結果を図8図9に示す。なお、IFK-tetは膜透過性を有しているため、ミリストイル基の導入は行っていない。
【0058】
図8および図9に示したように、IFK-tetは、クリゾチニブならびにmyr-IFK-monoと同等の経時的ならびに容量依存的な増殖阻害活性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
ALK-KDの基質認識部位を標的として、ALK基質として知られているsrctideの配列をベースとし、モチーフ中のアミノ酸を置換していくことにより、ALK-KDのキナーゼ活性を効率よく阻害するモノマーペプチドIFK-mono、ならびにその4価体であるIFK-tetを同定した。この時、IFK-mono のモチーフ中、C末端のLysがALK-KDへの結合活性、ならびにキナーゼ活性阻害に重要な役割を果たしていることが見出された。N末端にミリストイル基を導入することにより膜透過性を付与したmyr-IFK-mono、ならびにIFK-tetは、EML4-ALK依存的な増殖活性を示すBa/F3-ALKの増殖を効率よく阻害することが見出された。したがって、myr-IFK-monoならびにIFK-tetは、クリゾチニブとは阻害様式が異なる新たなEML4-ALK阻害剤、新規肺がん治療薬として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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