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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】異種材接合方法および複合部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20231115BHJP
   B21D 28/24 20060101ALI20231115BHJP
   B21D 28/34 20060101ALI20231115BHJP
   B29C 65/06 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B23K20/12 330
B23K20/12 364
B23K20/12 310
B21D28/24 Z
B21D28/34 M
B21D28/34 C
B21D28/34 D
B29C65/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019200465
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021074721
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502245118
【氏名又は名称】学校法人国士舘
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆弘
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-005507(JP,A)
【文献】特開2018-051606(JP,A)
【文献】特開平08-057557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦撹拌工具を用いて、被接合材と接合用素材とを接合する異種材接合方法であって、
以下の工程:
(1)パンチとダイを用いた穴抜き加工によって、前記被接合材に貫通穴を形成する工程;
(2)前記貫通穴の一端側に位置する前記被接合材の第1面部に接合用素材を当接させ、他端側に位置する前記被接合材の第2面部に当て板を当接させる工程;
(3)前記接合用素材に対して、前記摩擦撹拌工具を回転させながら圧入して摩擦撹拌することで、流動化した前記接合用素材の一部を前記被接合材の前記貫通穴に充満させる工程;および
(4)前記被接合材から前記当て板を取り外す工程
を含み、
前記工程(1)において、前記被接合材の前記貫通穴の内面に、だれまたは傾斜する破断面が形成され、前記工程(3)において、前記だれまたは前記破断面を介して前記接合用素材が前記貫通穴に嵌合することを特徴とする異種材接合方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、パンチ外径とダイ内径の差(クリアランス)が、前記被接合材の厚さの8%以上であることを特徴とする請求項1の異種材接合方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、前記パンチの外縁および前記ダイの穴内縁のうちの少なくともいずれかに、段差または傾斜が設けられていることを特徴とする請求項1または2の異種材接合方法。
【請求項4】
摩擦攪拌成形によって、被接合材と接合用素材とが接合した複合部材であって、
前記被接合材には、内面にだれまたは傾斜する破断面が形成されている貫通穴が設けられており、
この貫通穴の一端側に位置する前記被接合材の第1面部に前記接合用素材が当接しているとともに、前記貫通穴に前記接合用素材の一部が充満し、前記だれまたは前記破断面を介して前記接合用素材が前記貫通穴に嵌合しており、かつ、前記貫通穴の他端側に位置する前記被接合材の第2面部と前記貫通穴に充満している前記接合用素材とが面一に形成されていることを特徴とする複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌成形を利用した異種材接合方法および複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車や航空機などの軽量化のため、今後10~20年で部品のマルチマテリアル化が急激に進行することが予想されており、接合強度・外観に優れ、重量増のない異種材(異種金属)接合技術の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
異種材接合については、従来より、被接合材を選ばない機械的な接合方法と、抵抗スポット溶接などのような冶金的な接合方法とが知られている。
【0004】
機械的接合法として、ねじ、慣用リベットによるもののほか、セルフピアシングリベットやブラインドリベットなどよる接合が従来から行われているが、ファスナー(リベット)が重量増の原因になるという問題がある。
【0005】
また、冶金的な接合方法として、近年、摩擦攪拌接合(FSW)・摩擦攪拌スポット溶接(FSSW)を異種材接合に用いる研究が行われているが、接合強度を低下させる被接合材間の界面の金属間化合物層の厚さを抑制するための熱的条件に制約があるという問題がある。
【0006】
一方、本発明者は、摩擦攪拌成形(FSF) を利用した異種材接合方法について提案している(特許文献1)。具体的には、特許文献1の接合方法は、円柱形状の先端平面部に突起部を有する摩擦攪拌工具を用いて、(a)下穴をあけた板状の被接合材の上面に板状の接合用素材を、また下面には成形金型を当接させ、(b)接合用素材に対して摩擦攪拌工具を回転させながら、下降させ、所定の水平方向へ送りつつ、圧入して摩擦攪拌する。これにより、流動させた接合用素材を成形金型のキャビティ部に変形充満させてリベット状の継手部の膨出を形成して、板状の被接合材に接合用素材を機械的に接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018‐51606号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Mechanical behavior and fracture of easily-decomposable dissimilar-materials-joint fabricated by friction stir forming (一社)日本機械学会 Mechanical Engineering Journal 5巻2号 23 March, 2018 Paper No.17-00496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の接合方法の場合、流動させた接合用素材によるリベット状の継手部が形成されるため、突出した継手部の頭部によって継手の平坦性が損なわれる点が改善すべき点として考えられた。また、特許文献1の接合方法の場合、リベット状の継手部の頭部を形成するために、金型のキャビティと被接合材の下穴の位置合わせを行う必要があることから、作業負担が大きいことが改善すべき点があると考えられた。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、比較的シンプルな作業工程で、継手の平坦性を確保しつつ、優れた接合強度で異種材同士を接合することができる異種材接合方法と、これによる複合部材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の異種材接合方法は、摩擦撹拌工具を用いて、被接合材と接合用素材とを接合する異種材接合方法であって、
以下の工程:
(1)パンチとダイを用いた穴抜き加工によって、前記被接合材に貫通穴を形成する工程;
(2)前記貫通穴の一端側に位置する前記被接合材の第1面部に接合用素材を当接させ、他端側に位置する前記被接合材の第2面部に当て板を当接させる工程;
(3)前記接合用素材に対して、前記摩擦撹拌工具を回転させながら圧入して摩擦撹拌することで、流動化した前記接合用素材の一部を前記被接合材の前記貫通穴に充満させる工程;および
(4)前記被接合材から前記当て板を取り外す工程
を含み、
前記工程(1)において、前記被接合材の前記貫通穴の内面に、だれまたは傾斜する破断面が形成され、前記工程(3)において、前記だれまたは前記破断面を介して前記接合用素材が前記貫通穴に嵌合することを特徴としている。
【0012】
本発明の複合部材は、摩擦攪拌成形によって、被接合材の一方の面に接合用素材が接合した複合部材であって、
前記被接合材には、内面にだれまたは傾斜する破断面が形成されている貫通穴が設けられており、
この貫通穴に前記接合用素材が充満し、前記だれまたは前記破断面を介して前記接合用素材が前記貫通穴に嵌合しており、かつ、前記被接合材の他方の面と、前記貫通穴に充満している前記接合用素材とが面一に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の異種材接合方法は、比較的シンプルな作業工程で、継手の平坦性を確保しつつ、優れた接合強度で異種材同士を接合することができる。また、本発明の複合部材は、継手部分が平坦であるとともに、優れた接合強度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の異種材接合方法の一実施形態を例示した断面図である。(A)は、摩擦撹拌工具を水平方向に送らず、スポット摩擦攪拌成形(FSF)を行う形態を示した図である。(B)は、摩擦撹拌工具を水平方向に送りつつ圧入して摩擦攪拌成形(FSF)を行う形態を示した図である。
図2】(A)は、パンチとダイを用いた穴抜き加工(プレスせん断加工)によって貫通穴が形成されるメカニズムを示した概要図である。(B)は、貫通穴の内面に形成されるだれと破断面を示した概要図である。
図3】パンチの外縁やダイの穴内縁に曲面(R)や段差、傾斜が設けられている形態を例示した概要図である。
図4】実施例1で使用した摩擦攪拌工具を示した正面図である。
図5】摩擦攪拌成形による穴中に充満した接合用素材の体積量を示した図である。
図6】摩擦攪拌成形(FSF)後の接合用素材と被接合部材の写真である。
図7】実施例2で使用した十字引張試験片を示した(A)正面図および(B)側面図である。
図8】工程(1)におけるパンチとダイの間のクリアランスと、接合用素材と被接合材との接合の十字引張強度の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の異種材接合方法の一実施形態について説明する。図1(A)(B)は、それぞれ本発明の異種材接合方法の一実施形態を例示した断面図である。図1(A)は、摩擦撹拌工具を水平方向に送らず、スポット摩擦攪拌成形(FSF)を行う形態を示した図である。図1(B)は、摩擦撹拌工具を水平方向に送りつつ圧入して摩擦攪拌成形(FSF)を行う形態を示した図である。
【0016】
本発明の異種材接合方法は、摩擦撹拌工具1を用いて、被接合材2と接合用素材3とを接合するものである。
【0017】
摩擦撹拌工具1は、摩擦攪拌成形(FSF)に利用されるものであればよく、具体的な形態は限定されないが、例えば、特許文献1に記載の摩擦撹拌工具1を例示することができる。具体的には、図1(A)(B)に例示したように、摩擦撹拌工具1は、略円柱形状の本体部と、本体部11の下端に位置する先端平面部12に設けられた突起部13とを備えていることが好ましい。また、摩擦撹拌工具1は、硬質で耐熱性の高い耐熱合金等によって形成することが好ましい。
【0018】
突起部13の形状は特に限定されず、円板状、円柱状、円錐状、半球状、ねじ状などの形状を例示することができる。また、突起部13が設けられる先端平面部12については必要に応じて全体として、あるいは部分的に、例えば5°以内程度に傾斜する傾斜角θを設けることができる。 この傾斜角θの大きさについては、摩擦撹拌工具1の水平方向の送り力、ばりの発生、摩擦撹拌工具11の移動跡(ツールマーク)31の美観の状況などを考慮して定めることが好ましい。なお、後述する被接合材2の貫通穴21の空隙の体積量が小さい場合は、突起部13は省略することができる。また、摩擦撹拌工具1の突起部13の体積量が大きくなるほど、より大きな体積量の貫通穴21に接合用素材3の一部を充満することが可能である。
【0019】
被接合材2の形状は特に限定されないが、例えば板状であることが好ましい。また、被接合材2の材料も特に限定されず、例えば、硬質の鋼板やチタン、ガラス、CFRPなどを例示することができる。被接合材2が板状である場合、被接合材2の厚さについては特に限定されず、後述する貫通穴21の断面面積、接合用素材3が流動化する条件、摩擦撹拌工具1の設計と操作条件などを考慮して設計することができる。具体的には、例えば、被接合材2の厚さは、接合用素材3の厚さの10倍までの範囲を目安として例示することができる。また、被接合材2の設計については、例えば非特許文献1の記載を考慮することができる。
【0020】
接合用素材3の形状は特に限定されないが、例えば板状であることが好ましい。また、接合用素材3の材料も特に限定されないが、例えば、アルミニウムおよびその合金、マグネシウム合金、銅およびその合金、チタンおよびその合金、鋼などを例示することができる。また、接合用素材3が板状である場合、その厚さは、加工装置動力の範囲と摩擦攪拌工具の全長と強度が許す範囲で摩擦攪拌工具を圧入できる深さに応じて厚くすることが可能である。したがって、接合用素材3の厚さは突起部13の高さより大きければ良く、特に限定されないが、例えば、加工装置動力の現実的な範囲と、摩擦攪拌工具の現実的な強度範囲から、接合用素材3の厚さは、30mm未満であることが好ましい。一応の目安としては、摩擦撹拌工具を水平方向に送りつつ圧入する摩擦攪拌成形(FSF)の形態の場合、厚さ3mm未満の薄板、厚さ3mm以上6mm未満の中板を好ましい接合用素材3として例示することができ、摩擦撹拌工具を水平方向に送ることなく圧入するのみのスポット摩擦攪拌成形(FSF)の形態の場合、前記例示に加え、厚さ6mm以上30mm未満の厚板を好ましい接合用素材3として例示することができる。
【0021】
そして、本発明の異種材接合方法は、以下の工程(1)~(4)、
(1)パンチとダイを用いた穴抜き加工によって、被接合材2に貫通穴21を形成する工程、
(2)貫通穴21の一端側に位置する被接合材2の第1面部2Aに接合用素材3を当接させ、他端側に位置する被接合材2の第2面部2Bに当て板6を当接させる工程;
(3)接合用素材3に対して、摩擦撹拌工具1を回転させながら圧入して摩擦撹拌することで、流動化させた接合用素材3の一部を被接合材2の貫通穴21に充満させる工程、
(4)被接合材2から当て板6を取り外す工程
を含む。
【0022】
以下、各工程について説明する。
【0023】
工程(1)では、パンチとダイを用いた穴抜き加工(プレスせん断加工)によって、被接合材2に貫通穴21を形成する。
【0024】
図2は、パンチとダイを用いた穴抜き加工(プレスせん断加工)によって貫通穴21が形成されるメカニズムを示した概要図である。
【0025】
図2に例示したように、穴抜き加工においては、ダイ4の肩部41とパンチ5の縁部51に接触する部分から材料内にせん断亀裂が生じ、それらが繋がることで貫通穴21が形成される。このため、貫通穴21の内面には、パンチ5の外径とダイ4の内径の差(クリアランス)に起因する傾斜する破断面21aがせん断方向に形成される。また、クリアランスの条件により、だれ21bも形成される。工程(1)においては、穴抜き加工によって、被接合材2の貫通穴21の内面に、だれ21bまたは傾斜する破断面21aを形成する。したがって、本発明の異種材接合方法の工程(1)では、だれ21bまたは破断面21aが形成されるように、被接合材2の材料、厚さ、クリアランスなどを設定することが好ましい。
【0026】
図3は、パンチとダイの別の形態を例示した概要図である。例えば、より大きなだれ21bを得るために、図3に示すようにパンチ5の外縁やダイ4の穴内縁に曲面(R)や段差、傾斜を備えたものを使用することもできる。
【0027】
そして、好ましい接合強度が発生するクリアランスは、例えば被接合材2の材質が軟鋼の場合は、被接合材2の厚さの10%以上であることが好ましく、より大きな接合強度を発生させるためには30%以上であることがより好ましい。同様に、好ましい接合強度が発生する目安として、クリアランスは、硬鋼の場合、被接合材2の厚さの15%以上、けい素鋼の場合、被接合材2の厚さの12%以上、ステンレス鋼の場合、被接合材2の厚さの12%以上、銅の場合、被接合材2の厚さの7%以上、黄銅の場合、被接合材2の厚さの10%以上、りん青銅の場合、被接合材2の厚さの10%以上、洋白の場合、被接合材2の厚さの10%以上、アルミニウムの場合、被接合材2の厚さの8%以上、バーマロイの場合、被接合材2の厚さの8%以上の範囲を例示することができる。
【0028】
また、被接合材2に形成する貫通穴21の数は1または2以上であってよく、2以上の場合、それぞれの貫通穴21の大きさは同じ径であっても異なる径であってもよい。また、貫通穴の断面形状は円形に限定されず、例えば、略長孔状、スリット状、曲線孔形状などであってもよい。
【0029】
工程(2)では、貫通穴21の一端側に位置する被接合材2の第1面部2Aに接合用素材3を当接させ、他端側に位置する被接合材2の第2面部2Bに当て板6を当接させる。
【0030】
図1(A)(B)に例示した実施形態では、被接合材2の上側の第1面部2Aに接合用素材3が当接し、被接合材2の下側の第2面部2Bに当て板6が当接しており、貫通穴21の上下が閉鎖された状態になっている。当て板6は、貫通穴21の下側を閉鎖できるものであればよく、材料、厚さなどは適宜設計することができる。
【0031】
工程(3)では、接合用素材3に対して、摩擦撹拌工具1を回転させながら圧入して摩擦撹拌することで、流動化させた接合用素材3の一部を被接合材2の貫通穴21に充満させる。
【0032】
図1(A)(B)に示したように、摩擦撹拌工具1は、回転させながら、下降させ、必要に応じて所定の水平方向へ送りつつ、圧入して摩擦攪拌することができる。
【0033】
摩擦撹拌工具1の設計、操作条件などは、例えば特許文献1の記載を考慮することができる。
【0034】
具体的には、例えば、回転する摩擦撹拌工具1の先端平面部の面積、突起部の体積、回転速度、水平方向への移動距離および移動速度、圧入する際の押圧力および圧入量などについては、
1)接合用素材3の種類(軟化温度)と厚さ、
2)被接合材2の厚さ、貫通穴21の径、
3)摩擦撹拌工具1の外縁と接合用素材3の接触部に生じるばりの生成状況
などを考慮して、接合用素材3が流動化する条件を定めることができる。
【0035】
摩擦攪拌成形(FSF)においては、流動化した接合用素材3は優れた金型内充満性を有するため、被接合材2の貫通穴21に充満させることができる。また、被接合材2の貫通穴21の一方側(下側)は、当て板6によって閉鎖されているため、流動化した接合用素材3が貫通穴21から漏れ出すことが抑制されている。そして、貫通穴21には、だれ21bまたは傾斜する破断面21aが形成されているため、このわずかな傾きを利用して、流動化した接合用素材3がだれ21bまたは破断面21aを介して貫通穴21に機械的にかみ合って嵌合し、インターロックを形成することができる。このため、被接合材2と接合用素材3とを優れた接合強度で接合、一体化させることができる。
【0036】
さらに、被接合材2の厚さと貫通穴21の断面面積により、貫通穴21の空隙の体積量が決定されるため、接合用素材3が流動化する条件、摩擦撹拌工具1の設計と操作条件を考慮して、例えば、工程(1)において、被接合材2の厚さが厚いほどの貫通穴の断面面積が小さくなるように調整することができる。
【0037】
工程(4)では、被接合材2から当て板6を取り外す。
【0038】
被接合材2から当て板6を取り外すことで、被接合材2の下面が露出する。工程(3)において、当て板6によって流動化した接合用素材3が貫通穴21から漏れ出すことが抑制されているため、被接合材2の下面2Bと貫通穴21に充満した接合用素材3とが面一に形成され、継手の平坦性が確保されている。
【0039】
以上の通り、本発明の異種材接合方法では、被接合材2の貫通穴21に、だれ21bまたは傾斜する破断面21aが形成され、この傾きを利用して、流動化した接合用素材3が貫通穴21に機械的に嵌合するため、接合強度に優れている。さらに、例えば特許文献1のように、金型のキャビティと被接合材の下穴の位置合わせを行う必要がなく、作業工程がシンプルである。また、突出した継手部などを形成する必要もなく、継手の平坦性が実現される。
【0040】
また、本発明の複合部材7は、上述した異種材接合方法によって得ることができる。すなわち、複合部材7は、摩擦攪拌成形によって、被接合材2と接合用素材3とが接合している。被接合材2には、内面にだれ21bまたは傾斜する破断面21aが形成されている貫通穴21が設けられている。この貫通穴21の一端側に位置する被接合材2の第1面部(図1における上面)2Aに接合用素材3が当接しているとともに、貫通穴21に接合用素材3の一部が充満し、だれ21bまたは破断面21aを介して接合用素材3が貫通穴21に嵌合している。貫通穴21の他端側に位置する被接合材2の第2面部(図1における下面)2Bと貫通穴21に充満している接合用素材3とが面一に形成されている。
【0041】
本発明の異種材接合方法および複合部材は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0042】
以下、実施例とともに、本発明の異種材接合方法および複合部材についてさらに詳しく説明するが、本発明の異種材接合方法および複合部材は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>被接合材の貫通穴径と被接合材の厚さの決定方法
3mm厚A5083P-Oアルミニウム合金板を摩擦攪拌の接合用素材とし、図4に示したような摩擦攪拌工具を用い、摩擦攪拌成形により、内径φ2~9mmの穴の中に、接合用素材を流動させて、充満した接合用素材の体積量を評価した。
【0044】
図5に穴径別の体積量を示す(非特許文献1)。これに対し、被接合材の貫通穴の空隙体積が前記体積量を超えない範囲において貫通穴径と被接合材の厚さを決定した。
【0045】
<実施例2>継手の成形方法
3mm厚A5083P-Oアルミニウム合金板を摩擦攪拌の接合用素材とし、1mm厚SPCE鋼板を被接合部材として、複合部材の実証試験を行った。
【0046】
外径φ4mmのパンチ、内径φ4.2~6mmの円孔金型(ダイ)を用いて、穴抜き加工によってSPCE鋼板(被接合部材)に貫通穴を開けた(工程(1))。この貫通穴には、だれおよび傾斜する破断面が形成されている。この被接合部材を、突板としたSUS304製ステンレス板(当て板)上に置き、図4に示したような摩擦攪拌工具を用い、摩擦攪拌成形を施した(工程(2)(3))。
【0047】
この実験では工具は水平に送らず、スポット摩擦攪拌成形(FSF)を行い(図1(A))、主軸回転数は1240rpm、工具の圧入深さは2.7mmとし,圧入の下死点で30秒間工具を回転状態のまま保持した。その後、当て板を取り除いた(工程(4))。
【0048】
図6に、摩擦攪拌成形(FSF)後の接合用素材と被接合部材の写真を示す。
【0049】
穴抜き加工(プレスせん断加工)によって開けられた貫通穴に、接合用素材が充満し、隙間は見られなかった。また、被接合部材には摩擦熱による焼けが見られたが、貫通穴付近には盛り上がりなどの変形は観察されず、平坦であることが確認された。
【0050】
<実施例3>十字引張試験
図7に示すような十字引張試験片を用いて、十字引張強さを測定した。試験機はSHIMADZU AUTOGRAPH AG-10TB/ AG-X/Rを用い、クロスヘッド速度は1mm/minとした。
【0051】
図8に十字引張試験の結果を示す。
【0052】
板厚の10%にあたる0.1mmまでのパンチ-ダイクリアランスで貫通穴を穿孔し、そこに形成した継手については接合強度が発現することを確認したが、十字引張強度(CTS)は,300N未満であった。一方、30%以上にあたる0.3mmより大きいパンチ‐ダイクリアランスで貫通穴を穿孔し、形成した継手については平均で300Nを超え、十分な接合強度を有していることが確認された。また、この継手の十字引張強度は、貫通穴の周長に比例すると考えられることから,周長がより長くなるような円形以外の下穴形状の工夫や、高密度に配置した多数の小円孔などの採用などの工夫をすることで、さらに強度を高めることができると考えられる。
【0053】
また、従来の高強度の異種材接合継手の形成方法の多くは、ファスナーの被接合板外への飛び出し、あるいは、被接合材(鋼板)の大変形、ツールの接触による被接合材(鋼板)接触面の変形や破壊を伴っている。これに対し、この実施例の方法は、ツールと被接合材(鋼板)側の接触がなく、かつ被接合材側の継手の面が平坦であり、機械的接合であることからくるリサイクル上の優位性に加え、工具寿命、あるいは継手の外観の点から、独自性および優位性を有している。
【符号の説明】
【0054】
1 摩擦撹拌工具
2 被接合材
2A 第1面部
2B 第2面部
21 貫通穴
3 接合用素材
4 ダイ
5 パンチ
6 当て板
7 複合部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8