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特許7385203ゴム電池及びそれを構成する電解質含有ゴム、並びに、タイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】ゴム電池及びそれを構成する電解質含有ゴム、並びに、タイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/06 20060101AFI20231115BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20231115BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20231115BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20231115BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20231115BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20231115BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231115BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231115BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
H01M6/06 Z
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/463 A
H01M50/429
H01M50/414
B60C1/00 Z
B60C19/00 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023008242
(22)【出願日】2023-01-23
【審査請求日】2023-06-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518266602
【氏名又は名称】株式会社アトムワーク
(73)【特許権者】
【識別番号】501016733
【氏名又は名称】中谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】下村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼村 修七
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06576364(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/06
H01M 50/40
B60C 1/00
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極が電解質溶液に接触して発電するゴム電池であって、
潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した前記電解質溶液を保持する電解質含有ゴムを備えることを特徴とするゴム電池。
【請求項2】
請求項1記載のゴム電池において、前記ゴム材に導電性のフィラーが混合されていることを特徴とするゴム電池。
【請求項3】
請求項2記載のゴム電池において、前記ゴム材100質量%に対する前記フィラーの割合は、0.5質量%以上であることを特徴とするゴム電池。
【請求項4】
正極及び負極と共に電池を構成する電解質含有ゴムであって、
潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持することを特徴とする電解質含有ゴム
【請求項5】
請求項4記載の電解質含有ゴムにおいて、前記ゴム材に導電性のフィラーが混合されていることを特徴とする電解質含有ゴム
【請求項6】
請求項5記載の電解質含有ゴムにおいて、前記ゴム材100質量%に対する前記フィラーの割合は、0.5質量%以上であることを特徴とする電解質含有ゴム
【請求項7】
正極及び負極が電解質溶液に接触して発電するゴム電池を有するタイヤであって、
前記ゴム電池は、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した前記電解質溶液を保持する電解質含有ゴムを備えることを特徴とするタイヤ。
【請求項8】
正極及び負極と共に電池を構成する電解質含有ゴムを有するタイヤであって、
前記電解質含有ゴムは、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持することを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極及び負極のイオン化傾向の差異を利用して発電するゴム電池及びそれを構成する電解質含有ゴム、並びに、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
正極及び負極が電解質溶液に接触して生じる化学反応で発電する電池(蓄電モジュール、蓄電装置)の具体例が、例えば、特許文献1、2に記載されている。これらの電池は相互に電気的に接続された複数のセルからなり、各セルは電解質溶液を保持しその電解質溶液に正極及び負極が接触している。セルの数、各セルの配置、電池全体の形状及び電池全体の大きさ等は、電池が使用される状況等に応じて決められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-128898号公報
【文献】特開2022-077634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池は製造された状態で使用することが前提であり、例えば、一つのセルを複数個に分割して使用することはできなかった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、電解質溶液を保持し、分割して使用可能な電解質含有ゴムを有するゴム電池及び電解質含有ゴム、並びに、タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係るゴム電池は、正極及び負極が電解質溶液に接触して発電するゴム電池であって、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した前記電解質溶液を保持する電解質含有ゴムを備える。
【0006】
前記目的に沿う第2の発明に係る電解質含有ゴムは、正極及び負極と共に電池を構成する電解質含有ゴムであって、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持する。
【0007】
前記目的に沿う第3の発明に係るタイヤは、正極及び負極が電解質溶液に接触して発電するゴム電池を有するタイヤであって、前記ゴム電池は、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した前記電解質溶液を保持する電解質含有ゴムを備える。
【0008】
前記目的に沿う第4の発明に係るタイヤは、正極及び負極と共に電池を構成する電解質含有ゴムを有するタイヤであって、前記電解質含有ゴムは、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、前記流路内に前記潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持する。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明に係るゴム電池は、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、流路内に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持する電解質含有ゴムを備えるので、電解質含有ゴムを複数に分割した片それぞれも電解質含有ゴムと同様に流路内に電解質溶液を保持することができ、電解質含有ゴムを分割して使用可能である。
【0010】
第2の発明に係る電解質含有ゴムは、正極及び負極と共に電池を構成するものであって、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、流路内に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持するので、分割して使用可能である。
【0011】
第3の発明に係るタイヤ及び第4の発明に係るタイヤは、第2の発明に係る電解質含有ゴムを有するので、電解質含有ゴムを分割してタイヤに使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るゴム電池の説明図である。
図2】(A)、(B)は本発明の第2の実施の形態に係るゴム電池の説明図である。
図3】本発明の第3の実施の形態に係るゴム電池の説明図である。
図4】実験1で使用した第1のサンプルの説明図である。
図5】実験1における第1のサンプル及び第2のサンプルの計測結果を示す説明図である。
図6】実験2で使用した第3の電解質含有ゴムの説明図である。
図7】実験3で使用した第4のサンプルの説明図である。
図8】実験3における第4のサンプルの正極と負極の電位差の計測結果を示す説明図である。
図9】実験3における第4のサンプルの異なる位置を押した際の正極と負極の電位差の計測結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るゴム電池10は、正極11及び負極12が電解質溶液に接触して発電する電池であって、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、流路内に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持する電解質含有ゴム13を備える。以下、詳細に説明する。
【0014】
ゴム材には特に限定がなく、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロブレンゴム、アクリロニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム又はエピクロルヒドリンゴムを選択できる。
【0015】
担体として、多孔質物質や中空物質を用いることができ、例えば、ゼオライト、珪藻土、シラスバルーン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、シリカゲル、モンモリロナイト、カオリナイト、軽石、頁岩、メソポーラスシリカ、多孔質ポリマービーズ、黒鉛、セルロースナノファイバー、コルク及びγアルミナの群から選択される1種類の物質又は複数種類の物質を採用可能である。
【0016】
ゴム材に分布している担体は、硬化してゴム材となる未硬化(未加硫)のエラストマー(以下、単に「エラストマー」と言う)に、潮解性物質を担持した状態で混合されたものである。担体は混合処理によって未硬化のエラストマー中に万遍なく分布できるものであればよく、担体の大きさや形状は限定されない。例えば、平均粒径(レーザー回析・散乱法による計測)が10nm以上100μm以下の粒子状の担体を用いることができる。
【0017】
また、本実施の形態では、潮解性物質として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ピロリン酸カリウム、過塩素酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、リン酸、酸化クロム、硝酸鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化銅、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化スズ、セレン酸、酢酸アンモニウム、ヨウ化リチウム、フッ化アンモニウム、ベンゼンスルホン酸、尿素及びチオシアン酸カリウムの群から選択される1種類の物質又は複数種類の物質を採用している。
【0018】
ゴム材には、表面及び内側に万遍なく流路が形成されている。本実施の形態では、ゴム材全体に流路が立体的に広がって形成されている。
流路は未硬化のエラストマーを硬化させてゴム材を得る過程でゴム材全体に網目状に形成される。また、潮解性物質に比べて蒸発温度が低い液体(ベンゼンやアセトン等の無極性溶媒が好ましい)を担体と共にエラストマーに混合し、エラストマーを硬化させる際に当該液体を蒸発させることによってゴム材への流路の形成を促進することができる。
【0019】
エラストマー及び担体を混合する際の混合条件の調整によってもゴム材への流路の形成を促進可能である。ここで、流路の形成を促進とは、エラストマーの硬化過程で形成される流路に対し、一の流路と他の流路を連通したり、流路を広げたり(直径を太くしたり、長さを長くしたり)することを意味する。
本実施の形態では、電解質含有ゴム13を一辺の長さ2mm(好ましくは1mm、更に好ましくは500μm)の立方体に分割した際、9割以上の立方体に流路が存在するように、流路が電解質含有ゴム13に均一に分布している。
【0020】
ゴム材の流路内に保持される電解質溶液は、潮解性物質が水分を含有する溶解液(水やエタノール水等)に溶解した溶液である。電解質溶液に含まれている水分は、潮解性物質を溶解液に溶解させた状態で担持した担体をエラストマーに混合することによってもたらされるのに加え、ゴム材に分布している潮解性物質が空気中の水分(水蒸気)をゴム材に形成された流路を介して取り込んで溶解することによってももたらされる。
【0021】
なお、潮解性物質を溶解していない状態で担体に担持させてエラストマーに混合してもよく、その場合、電解質溶液に含まれている水分は、ゴム材に分布している潮解性物質が空気中の水分をゴム材に形成された流路を介して取り込むことによりもたらされる。本実施の形態において、電解質含有ゴム13は、1cm電解質含有ゴム13に対し溶解していない潮解性物質及び電解質溶液の合計が嵩容積で平均して0.15ml以上0.50ml以下(好ましくは、0.25ml以上0.35ml以下)含まれている。また、本実施の形態では、電解質溶液の導電率が1×10-3S/cm以上である。
【0022】
電解質含有ゴム13は流路内に電解質溶液を保持している。従って、正極11及び負極12は、正極11及び負極12が電解質含有ゴム13に接触することによって、流路内の電解質溶液に接触することとなる。正極11は負極12と比較してイオン化傾向が低い(イオンにならない場合も含む)。正極11及び負極12の組み合わせとして、例えば、銅製の棒材とアルミ製の棒材の組み合わせや、炭素製の棒材と鉄線に亜鉛メッキをほどこした棒材の組み合わせが挙げられる。正極11及び負極12は棒状である必要はなく、例えば、フイルム状であってもよい。
【0023】
本実施の形態では、図1に示すように、正極11及び負極12を棒状に形成し、矩形の板状に形成された電解質含有ゴム13に正極11及び負極12を差し込むことによって、正極11の電解質溶液に対する接触面積及び負極12の電解質溶液に対する接触面積を大きくしている。
ここで、電圧計を用いた実験的検証によって、ゴム電池10の正極11と負極12の間に電位差(電圧)が生じていることを確認している。これは、負極12から正極11に向けて電子が移動していることを意味する。
【0024】
電解質含有ゴム13において、ゴム材の表面及び内側に分布している潮解性物質が空気中の水分を吸収可能な性質は、原則、永続することから、電解質含有ゴム13を通常の環境下(通常ではない環境、例えば、絶対湿度が1%以下の環境を除く)に晒している場合、流路内に電解質溶液を保持した状態は半永久的に継続される。そのため、ゴム電池10の発電作用は長期に渡って継続される。これに関し、実験的検証によって、製造から半年以上経過したゴム電池10において正極11と負極12に電位差が生じることを確認した。
【0025】
ゴム電池10の発電作用は電解質含有ゴム13を切り分けた各片でも出現する。これは、電解質含有ゴム13に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持する流路が万遍なく形成されているためであり、電解質含有ゴム13を複数個の片に切り分けても個々の片が電解質含有ゴムとして機能し、個々の片にイオン化傾向が異なる複数の電極を接触させることで、複数のゴム電池を作製可能である。
【0026】
また、ゴム電池10が外部に対して印加できる電圧を大きくするという観点では、ゴム材に導電性のフィラーが混合されていることが好ましく、実際にフィラーの混合により正極11と負極12の間の電位差が増大することを実験的検証によって確認した。これは、正極11(負極12についても同じ)と電解質含有ゴム13の電気的な接触面積がフィラーを介することによって拡大するために招来すると考えられる。
【0027】
フィラーとして、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラファイト、ケッチェンブラック及び鉄粉等を採用可能である。ここで、ゴム材100質量%に対するフィラーの割合が0.5質量%未満であるとゴム電池10が外部に対して印加できる電圧を安定して大きくすることができない。そのため、ゴム材100質量%に対するフィラーの割合は0.5質量%以上が好ましい。一方、ゴム材100質量%に対するフィラーの割合が大き過ぎる(カーボンナノチューブやケッチェンブラック等、導電性が高いフィラーの場合は、例えば10質量%を超える)と電解質含有ゴムが電気的に導電体の特性を有して、ゴム電池の発電作用が損なわれるおそれがある。
【0028】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電解質含有ゴム13は、正極11及び負極12と共に電池を構成する組成物であって、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、流路内に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持するものであり、以下の工程を経て製造できる。
【0029】
第1工程:潮解性物質と水を混合した混合物を担体と共に容器内に投入して担体に混合物を担持させる。
第2工程:硬化剤及び無極性溶媒を添加した未硬化のエラストマーに混合物を担持した担体を投入して混合する。
第3工程:無極性溶媒及び担体が均一に分布したエラストマーを乾燥させて硬化させる。
【0030】
無極性溶媒は第1工程で担体に担持された潮解性物質が第2工程での混合によって担体から離れてエラストマー中に流出するのを抑制する。更に、無極性溶媒は第3工程でのエラストマーの硬化の際に蒸発してエラストマーに流路を形成する。
また、第1工程及び第2工程までが完了したもの(第3工程を行っていないもの)を塗料として他の物体に塗布し、塗料を紫外線や熱によって硬化させて同物体に電解質含有ゴムの層を形成することもできる。
【0031】
次に、図2(A)、(B)を参照して、ゴム電池10に比べて、負極22が電解質含有ゴム23に接触する面積が大きい、本発明の第2の実施の形態に係るゴム電池20について説明する。
ゴム電池20は、図2(A)、(B)に示すように、負極22及び電解質含有ゴム23がそれぞれ帯状であり、負極22の一側の面と電解質含有ゴム23の一側の面とが面接触した状態で巻かれて、負極22及び電解質含有ゴム23が全体として円柱状に形成されている。
【0032】
負極22及び電解質含有ゴム23からなる円柱状物には、軸心を貫通した状態で棒状の正極21が取り付けられている。正極21は、電解質含有ゴム23に接触し、負極22に非接触である。正極21として、例えば、炭素製の棒材を採用でき、負極22として、例えば、アルミ箔を採用できる。ゴム電池20は、負極22及び電解質含有ゴム23からなる円柱状物を収容する図示しない絶縁性のケースを具備することで、当該円柱状物の形状を維持できる。その場合、ケースに、正極21が貫通する貫通孔と負極22の一部をケース外に露出させるための貫通孔とを形成すれば、ゴム電池20が外部に電圧を印加可能となる。また、アルミ製又は銅製等のケースを用いて、ケースに外部電極の機能を付加してもよい。
【0033】
また、ケースをメッシュ状にすることで、電解質含有ゴム23が備える潮解性物質が効率的に空気中の水分を取得可能となる。
負極22と電解質含有ゴム23が接触する面積を大きくすることによって、ゴム電池20の出力電流を大きくすることができる。ゴム電池の出力電流の増加に対しては、負極と電解質含有ゴムの接触面積の増大だけではなく、正極と電解質含有ゴムの接触面積の増大も寄与できることは言うまでもない。
【0034】
図3を参照して、正極31の電解質含有ゴム33、34に対する接触面積及び負極32の電解質含有ゴム33、34に対する接触面積の双方を大きくできる、本発明の第3の実施の形態に係るゴム電池30について説明する。
ゴム電池30は、図3に示すように、正極31、負極32及び電解質含有ゴム33、34がそれぞれ帯状である。電解質含有ゴム33、34は同じ材料によって形成してもよいし、異なる材料によって形成してもよい。なお、電解質含有ゴム33、34が流路内に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持していることを要するのは言うまでもない。
【0035】
正極31、負極32及び電解質含有ゴム33、34は、電解質含有ゴム33、負極32、電解質含有ゴム34及び正極31の順に重ねられ、正極31が最も外側に位置するように巻かれて、全体として円柱状になっている。正極31及び負極32は電解質含有ゴム33、34によって非接触状態が保たれている。例えば、正極31として銅箔を採用でき、負極32としてアルミ箔を採用できる。また、帯状の正極、帯状の電解質含有ゴム、帯状の負極及び帯状の電解質含有ゴムを順に面接触させたものを複数組、重ね合わせるようにしてもよく、その場合、正極及び負極はそれぞれ複数個存在することになる。
【0036】
正極31、負極32及び電解質含有ゴム33、34からなる円柱状物はケースに収容することができる。その場合、ケースに2つの貫通孔を形成し、正極31に接触させた導電体及び負極32に接触させた導電体をそれぞれ一部が貫通孔からケース外に突出させることによって、ゴム電池30が外部に電圧を印加可能となる。例えば、図3に示した2つの黒塗りの丸の位置に正極31に接触させた導電体(黒鉛の棒材等)及び負極32に接触させた導電体(黒鉛の棒材等)を設けることができる。
【0037】
また、ここまで説明したゴム電池を有するタイヤを設計することができる。当該タイヤはゴム電池を有することによって、例えば、タイヤに設けられたセンサで得た値を、電力消費を伴った通信により、外部に発信することが可能となる。電解質含有ゴムのみを有するタイヤを設計し、電極をタイヤ外に設けるようにすることもできる。なお、ゴム電池や電解質含有ゴムは、タイヤ以外のゴム製品、例えば、免震ゴム、ホース、ベルト、ゴムクローラ、ゴム支承の構成品とすることもできる。
【実施例
【0038】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
【0039】
<実験1>
電解質溶液としての塩化マグネシウム水溶液と担体としてのカーボンブラック(三菱ケミカル株式会社のMA100)を混合した添加剤を、シリコーン(信越化学工業株式会社のKE-26)に無極性溶媒(三協化学株式会社の塗料用シンナーA(s))を加えたものに添加して混合した後、乾燥させて、第1の電解質含有ゴム43(図4参照)を形成した。そして、第1の電解質含有ゴム43に、図4に示すように、炭素製の棒材からなる正極41及び鉄線に亜鉛メッキをほどこした負極42を差し込んで、ゴム電池の第1のサンプル40を作製した。
【0040】
第1の電解質含有ゴム43は、平面視して直方形状であり、縦が90mm、横が75mm、厚みが5mmの大きさであった。第1のサンプル40は、正極41が第1の電解質含有ゴム43の左側上部に5mm差し込まれ、負極42が第1の電解質含有ゴム43の右側上部に5mm差し込まれていた。
【0041】
また、第1の電解質含有ゴム43と同じ材料に対し、導電性フィラーとしてのカーボンナノチューブ(三菱商事株式会社のDurobeads、シリコーンの5質量%に相当する量)を加えて、第1の電解質含有ゴム43と同じ大きさ及び同じ形状の第2の電解質含有ゴムを作製した。そして、第1の電解質含有ゴム43に対するのと同じ位置に、第1のサンプル40に用いた正極41及び負極42とそれぞれ同じ正極及び負極を5mm差し込んで、ゴム電池の第2のサンプルを作製した。以下、第1のサンプル40及び第2のサンプルに用いた正極及び負極をそれぞれ単に「正極41」及び「負極42」とも言う。
【0042】
そして、第1のサンプル40の正極41と負極42の電位差(電圧)及び第2のサンプルの正極41と負極42の電位差をそれぞれ約60分間計測した。計測結果を図5に示す。
図5の計測結果より、導電性フィラーを含まない第1のサンプル40及び導電性フィラーを含む第2のサンプルのいずれにおいても正極41と負極42に電位差があったこと、並びに、第2のサンプルが第1のサンプル40よりも正極41と負極42の電位差が大きかったことが確認された。
【0043】
<実験2>
第1の電解質含有ゴム43と同じ材料で、図6に示すように、厚みが3mm、幅が10mm、長さが160mmの長尺の第3の電解質含有ゴム53を作製し、この第3の電解質含有ゴム53を長さが異なる5つの電解質含有ゴム54、55、56、57、58に切り分けた。電解質含有ゴム54、55、56、57、58の長さはそれぞれ50mm、40mm、30mm、20mm及び10mmであった。なお、第3の電解質含有ゴム53を切り分けて残った長さ10mm(160mm-50mm-40mm-30mm-20mm-10mm=10mm)の片については本実験で使用しなかった。
【0044】
次に、第3の電解質含有ゴム53の長手方向両側にアルミ製の棒材からなる正極及び銅製の棒材からなる負極をそれぞれ厚み方向に貫通するように取り付けて、正極と負極の電位差を計測した。なお、電解質含有ゴム53は切り分け前に計測した。電解質含有ゴム54、55、56、57、58についても第3の電解質含有ゴム53に対するのと同様に正極及び負極を取り付け、正極と負極の電位差を計測した。
【0045】
計測結果は以下に示すようになった。
第3の電解質含有ゴム53:500mV
電解質含有ゴム54:500mV
電解質含有ゴム55:500mV
電解質含有ゴム56:500mV
電解質含有ゴム57:500mV
電解質含有ゴム58:480mV
【0046】
計測結果より、第3の電解質含有ゴム53を切り分けた電解質含有ゴム54、55、56、57、58はいずれも正極及び負極と共にゴム電池を構成できたこと、及び、長さが異なる電解質含有ゴム54、55、56、57、58は正極と負極の電位差が略同一であったことが確認された。
【0047】
<実験3>
第1の電解質含有ゴム43と同じ材料で、図7に示すように、厚みが5mm、幅が10mm、長さが90mmの第4の電解質含有ゴム63を生成し、第4の電解質含有ゴム63の長手方向両側に正極41及び負極42をそれぞれ5mm差し込んでゴム電池の第4のサンプル60(導電性フィラーを含まない)を作製した。
第2の電解質含有ゴムと同じ材料で、第4の電解質含有ゴム63と大きさ及び形状が同じ第5の電解質含有ゴム(導電性フィラーとしてのカーボンナノチューブを含む)を生成し、第5の電解質含有ゴムの長手方向両側に正極41及び負極42をそれぞれ5mm差し込んでゴム電池の第5のサンプルを作製した。
【0048】
図8に、第4のサンプル60及び第5のサンプルそれぞれについて、正極41と負極42の電位差を雰囲気温度と共に約9日間計測した結果を示す。図8に示された計測結果から、導電性フィラーを含まない第4のサンプル60が導電性フィラーを含む第5のサンプルよりも正極と負極の電位差が小さかったことが確認された。また、第4のサンプル60及び第5のサンプルの双方について正極41と負極42の電位差の増減が雰囲気温度の増減に追従する傾向も確認された。
【0049】
次に、図7に示すように、第4のサンプル60の第4の電解質含有ゴム63上の丸で囲んだ1~3の数字が示す3箇所に対し、順次、直径5mmの円柱状の木製の棒材の長手方向一側を10N/mの力で押し付けて、正極41と負極42の電位差を計測した。また、同様の計測を第5のサンプルに対しても行った。第4のサンプル60及び第5のサンプルに対する計測結果を図9に示す。図9において、CNT00及びCNT05は第4のサンプル60及び第5のサンプルをそれぞれ意味し、丸で囲まれた1から3の数字は棒材を押し付けた箇所を意味する。
【0050】
図9には、棒材を押し付けなかった際の電位差を基準値(0V)とし、押し付けた際の電位差の基準値に対する変化量が記されている。
図9に示す計測結果から、棒材の押し付け、即ち、力の付与によって、正極41と負極42の電位差が変化したこと、並びに、第4のサンプル60及び第5のサンプルに共通して棒材の押し付け位置を負極42に近付けるほど電位差の変化量が大きくなる傾向があったことが確認された。
【0051】
<実験4>
第2の電解質含有ゴムと同じ材料で、厚みが2mm、縦及び横の長さが95mmのシート状の第6の電解質含有ゴムを2枚作製し、これを用いて以下の3つのパターンの電流値を計測した。
【0052】
パターン1:1枚の第6の電解質含有ゴムに対し、左側に銅製の棒状電極(正極)を5mm差し込み、右側にアルミ製の棒状電極(負極)を5mm差し込んで、正極と負極間の電流値を計測した。
【0053】
パターン2:一方の第6の電解質含有ゴム、90mm×90mmの銅箔(正極)、及び、他方の第6の電解質含有ゴムを順に重ねて巻いた円柱状物の軸心に直径5mmのアルミ棒(負極)を挿入して一方の第6の電解質含有ゴムに密着させ、正極と負極間の電流値を計測した。
【0054】
パターン3:一方の第6の電解質含有ゴム、90mm×90mmの銅箔(正極)、他方の第6の電解質含有ゴム、及び、90mm×90mmのアルミ箔(負極)を順に重ねて巻いて円柱状物を作製し、正極と負極間の電流値を計測した。
【0055】
計測結果は、以下のようになった。
パターン1:今回使用した電流計で計測できないレベルの小さい電流値
パターン2:320μA
パターン3:4,200μA
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、電解質含有ゴムに導電性のフィラーを混合しなくてもよい。電解質含有ゴムに導電性のフィラーを混合する場合、ゴム材に対するフィラーの割合が0.5質量%未満であってもよいし、フィラーの種類によっては同割合が10質量%を超えてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10:ゴム電池、11:正極、12:負極、13:電解質含有ゴム、20:ゴム電池、21:正極、22:負極、23:電解質含有ゴム、30:ゴム電池、31:正極、32:負極、33、34:電解質含有ゴム、40:第1のサンプル、41:正極、42:負極、43:第1の電解質含有ゴム、53:第3の電解質含有ゴム、54、55、56、57、58:電解質含有ゴム、60:第4のサンプル、63:第4の電解質含有ゴム
【要約】
【課題】電解質溶液を保持し、分割して使用可能な電解質溶液含有ゴム組成物を有するゴム電池及び電解質溶液含有ゴム組成物、並びに、タイヤを提供する。
【解決手段】正極11及び負極12が電解質溶液に接触して発電するゴム電池10であって、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、流路内に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持する電解質溶液含有ゴム組成物13を備える。また、正極11及び負極12と共に電池10を構成する電解質溶液含有ゴム組成物13であって、潮解性物質を担持可能な担体が分布し、流路が形成されたゴム材を有し、流路内に潮解性物質が溶解した電解質溶液を保持する。
【選択図】図1
図1
図2
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図5
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図7
図8
図9