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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】熱延鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/78 20060101AFI20231115BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231115BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20231115BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C23C22/78
C22C38/00 301W
C22C38/38
C21D9/46 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019206400
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2020084325
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018217183
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592159092
【氏名又は名称】東京製鐵株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】中西 栄三郎
(72)【発明者】
【氏名】中西 宣文
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】足立 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 正夫
(72)【発明者】
【氏名】長島 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】升田 博之
(72)【発明者】
【氏名】長井 寿
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-240505(JP,A)
【文献】特開昭60-121277(JP,A)
【文献】特開平10-245685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/78
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素(C)を0.005質量%~0.25質量%、
ケイ素(Si)を0.01質量%~1.60質量%、
マンガン(Mn)を0.01質量%~1.60質量%、
クロム(Cr)を0.01質量%~1.60質量%
および
銅(Cu)を0.10質量%~0.50質量%含有し、
鋼板表面の残留物である金属酸化物粒子及び銅化合物粒子が、地鉄より高い電位を有し、かつ粒径が2μm以下であるマイクロカソードを含み、
上記マイクロカソードの密度が、800~200,000個/mm であり、
上記マイクロカソードが、長径と短径の平均値が0.03μm以上である粒子及び短径が0.03μm以上であるマイクロカソードのうち、短径が0.1μm以下である線状のマイクロカソードを70個数%以上含有することを特徴とする鋼板。
【請求項2】
上記マイクロカソードが、銅化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
上記マイクロカソードが、鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、およびケイ素(Si)から成る群から選ばれた1つ以上の金属の金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項4】
上記請求項1~3のいずれか1つの項に記載の鋼板を製造する方法であって、
製鋼された鋼片を加熱する加熱工程と、
上記加熱された鋼片を大気に曝す酸化工程と、
上記鋼片表面に生成した酸化物層を除去するデスケーリング工程と、
上記鋼片を延ばす粗圧延工程と、を順に有し、
上記酸化工程が、地鉄と酸化物層との間に、地鉄よりも電位が高い金属を含む液相の層を生成させる処理を含み、
上記粗圧延工程が、鋼片の銅脆化現象を避けた温度で圧延することを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項5】
上記酸化工程が、大気に1~5分間曝す処理であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
上記デスケーリング工程と粗圧延工程とを、交互に複数回繰り返すことを特徴とする請求項4又は5に記載の鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板に係り、更に詳細には、化成処理性に優れた熱延鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を製造する方法としては、天然資源である鉄鉱石を主な原料として高炉で製造する方法と、リサイクル資源である鉄スクラップを主な原料として電炉で製造する方法の二つの方法がある。
【0003】
高炉で鋼板を製造する場合は、鉄鉱石を溶かすエネルギーに加えて、鉄鉱石中に含まれる酸素を除去するために多くのコークスを使用する必要があり、二酸化炭素の排出量が多い。
【0004】
これに対し、電炉で製造する場合は、鉄スクラップを溶かして鋼板にするため、酸素を除去する必要がなく、高炉での鋼板の製造に比して二酸化炭素の排出量を大幅に削減できる。
【0005】
上記電炉で製造した電炉材は、現在、主に建築土木用として利用されているが、自動車用鋼板にも用途を拡大することにより、国内における資源循環を可能とし、二酸化炭素の排出量をも削減できる。
【0006】
しかし、上記電炉材は、鉄スクラップ材をその原料として用いるため、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などのトランプエレメントやクロム(Cr)などのスクラップ由来の元素を多く含有し、自動車用鋼板としては利用し難いとされている。
【0007】
すなわち、上記トランプエレメントは、自動車用鋼板に要求される、強度や成形性などの機械的特性の他、耐食性などの化学的安定性を低下させ、さらに、鋼板の表面に残留するこれらの元素を含む酸化物や銅を含む化合物は化成処理性を低下させるものとして敬遠されている。
【0008】
鋼板の化成処理において、表面のアノード点では、地鉄の溶解反応が起こることで電子が発生し、カソード点では、上記アノード点で発生した電子により酸化剤の還元反応が起こる。そして、化成処理液が酸性溶液である場合は、水素イオンが還元されて鋼板表面近傍のpHが上昇し、これに伴って表面に化成結晶を形成する化合物が析出するものとされている。
【0009】
自動車用鋼板では、このような原理メカニズムを利用して防錆力を得るために、塗装の下地処理としてリン酸亜鉛皮膜処理などの化成処理がなされている。
【0010】
リン酸亜鉛皮膜には、微細であること及び緻密で地鉄を完全に覆い尽くしていることが求められ、一般に、鋼板表面に鉄や合金元素の酸化物などの残留物があると化成処理性を著しく阻害すると言われている。
【0011】
一方で、地鉄よりも電位が高い残留物が鋼板表面に存在すると、鋼板表面にカソード点を形成する。
【0012】
また、電炉鋼などの銅を含む鋼片では、鋼板製造時の加熱処理によって鉄が選択的に酸化されて鋼片表面に酸化鉄(スケール)を形成し、鋼片中の銅は上記酸化物に溶け込めずに鋼片内部から鋼片表面に排出される。
そして、酸化鉄の生成により鋼板表面に排出された銅が濃縮されて粗大化し、鋼板の表面が銅で覆われてしまうと、上記酸化物と同様に鋼板の化成処理性を著しく阻害すると言われている。
【0013】
しかし、銅を多く含む化合物は地鉄よりも電位が高いので鋼板表面に排出された銅化合物は、鋼板表面にカソード点を形成する。上記酸化物や銅化合物のカソード点を利用して鋼板の化成処理性を改善しようとした試みは今までに見当たらない。
【0014】
特許文献1の特開平8-225888号公報には、化成処理性を向上させる硫黄とリンの含有量と、耐食性を向上させる銅の含有量とを所望の関係にすることで耐食性と化成処理性とを両立できる旨が記載されている。
【0015】
また、特許文献2の特開2015-98620号公報には、銅の含有量を0.05%未満にすることで化成処理性を向上させた自動車用鋼板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平8-225888号公報
【文献】特開2015-98620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、硫黄の含有量が多い鋼板はスポット溶接性が劣化するため、特許文献1は良好なスポット溶接性が求められる自動車用鋼板には適さない。また、特許文献2は、銅の含有量を少なくすることを必須としているため、特許文献2に基づけば上記鉄スクラップ材を原料とする電炉材を自動車用鋼板に適用することはできないこととなる。
【0018】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リサイクル資源である鉄スクラップを主な原料として自動車用鋼板としても利用可能な化成処理性に優れる鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、既存の製造設備を変更することなく、何ら付加的な添加剤を用いることなしに、処理方法を工夫するだけで、地鉄よりも電位が高く、微細でかつ適切に分散した化合物(以下、「マイクロカソード」と言う)を鋼板表面に現出させることができ、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、上記課題は、本発明の下記(1)~()の鋼板により解決される。
(1)炭素(C)を0.005質量%~0.25質量%、
ケイ素(Si)を0.01質量%~1.60質量%、
マンガン(Mn)を0.01質量%~1.60質量%、
クロム(Cr)を0.01質量%~1.60質量%
および
銅(Cu)を0.10質量%~0.50質量%含有し、
鋼板表面の残留物である金属酸化物粒子及び銅化合物粒子が、地鉄より高い電位を有し、かつ粒径が2μm以下であるマイクロカソードを含み、
上記マイクロカソードの密度が、800~200,000個/mm であり、
上記マイクロカソードが、長径と短径の平均値が0.03μm以上である粒子及び短径が0.03μm以上であるマイクロカソードのうち、短径が0.1μm以下である線状のマイクロカソードを70個数%以上含有することを特徴とする鋼板。
(2)上記マイクロカソードが、銅化合物を含むことを特徴とする上記第(1)項に記載の鋼板。
(3)上記マイクロカソードが、鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、およびケイ素(Si)から成る群から選ばれた1つ以上の金属の金属酸化物を含むことを特徴とする上記第(1)項に記載の鋼板。
【0021】
また、上記課題は本発明の下記()~()により解決される。
(4)上記第(1)項~第(3)項のいずれか1つの項に記載の鋼板を製造する方法であって、
製鋼された鋼片を加熱する加熱工程と、
上記加熱された鋼片を大気に曝す酸化工程と、
上記鋼片表面に生成した酸化物層を除去するデスケーリング工程と、
上記鋼片を延ばす粗圧延工程と、を順に有し、
上記酸化工程が、地鉄と酸化物層との間に、地鉄よりも電位が高い金属を含む液相の層を生成させる処理を含み、
上記粗圧延工程が、鋼片の銅脆化現象を避けた温度で圧延することを特徴とする鋼板の製造方法。
(5)上記酸化工程が、大気に1~5分間曝す処理であることを特徴とする上記第(4)項に記載の製造方法。
(6)上記デスケーリング工程と粗圧延工程とを、交互に複数回繰り返すことを特徴とする上記第(4)項又は(5)項に記載の鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋼板表面の残留物を、化成処理性を阻害する粗大粒子に成長させずに、微細粒子にすることとしたため、微細粒子がカソード点として作用して化成処理性が促進され、化成処理性に優れた鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】化成処理の反応を説明する図である。
図2】表面研削材の表面SEM像である。
図3】表面研削材の化成処理後の表面SEM像である。
図4】左図は鉄素地に銅化合物が存在する領域の表面SEM像であり、右図は左図の○で囲んだ部分の分析結果である。
図5】鉄素地に銅化合物が存在する領域の化成処理後の表面SEM像である。
図6】鉄素地に塊状金属酸化物が存在する領域の表面SEM像である。
図7】鉄素地に塊状金属酸化物が存在する領域の化成処理後の表面SEM像(実線囲みは粗大な化成結晶、点線囲みは化成結晶が形成されていない領域)である。
図8】線状金属酸化物が存在する領域の表面SEM像である。
図9】線状金属酸化物が存在する領域の化成処理後の表面SEM像である。
図10】マイクロカソードが形成された鋼片の縦断面SEM像である
図11図10中、四角で囲んだ箇所の縦断面KFM像である。
図12】粗圧延工程での銅脆化温度による影響を説明する図である。
図13】(a)実施例1の鋼板の表面SEM像、(b)実施例1の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)実施例1の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図14】(a)実施例2の鋼板の表面SEM像、(b)実施例2の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)実施例2の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図15】(a)実施例3の鋼板の表面SEM像、(b)実施例3の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)実施例3の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図16】(a)実施例4の鋼板の表面SEM像、(b)実施例4の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)実施例4の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図17】(a)実施例5の鋼板の表面SEM像、(b)実施例5の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)実施例5の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図18】(a)実施例6の鋼板の表面SEM像、(b)実施例6の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)実施例6の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図19】(a)実施例7の鋼板の表面SEM像、(b)実施例7の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)実施例7の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図20】(a)比較例1の鋼板の表面SEM像、(b)比較例1の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)比較例1の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図21】(a)比較例2の鋼板の表面SEM像、(b)比較例2の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)比較例2の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図22】(a)比較例3の鋼板の表面SEM像、(b)比較例3の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)比較例3の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図23】(a)比較例4の鋼板の表面SEM像、(b)比較例4の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)比較例4の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
図24】(a)比較例5の鋼板の表面SEM像、(b)比較例5の鋼板の金属酸化物の分析チャート、(c)比較例5の鋼板を化成処理した後の表面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<鋼板>
本発明の鋼板について詳細に説明する。
上記鋼板は、鋼板の表面の残留物がマイクロカソードを含み、上記マイクロカソードのうち、線状のマイクロカソードが70個数%以上である。
上記マイクロカソードが線状であることで化成結晶の密着性が向上すると共に化成処理性も向上する。
【0025】
本発明において、残留物とは金属酸化物粒子及び銅化合物粒子をいい、マイクロカソードとは、地鉄よりも高い電位を有する金属酸化物又は銅化合物のうち、粒径が2μm以下の残留物をいう。
残留物の理想的な大きさは、化成結晶の1/2以下である。化成結晶の大きさが10μmの場合は5μm以下であり、8μmの場合は4μm以下、6μmの場合は3μm以下、2μmの場合は1μm以下、1μmの場合は0.5μm以下である。
【0026】
ここで、化成処理の反応について説明する。
化成処理反応は、鋼板の表面に形成される局部電池により駆動される。
すなわち、図1に示すように、鋼板の表面のアノード点では、地鉄の溶解反応が起こることで電子が発生し、カソード点では、上記アノード点で発生した電子により酸化剤の還元反応が起こる。そして、化成処理液が酸性溶液である場合は、水素イオンが還元されて鋼板表面近傍のpHが上昇し、これに伴って表面に化成結晶が析出する。
【0027】
図2に示すように、鋼板表面を研削して、カソード点が存在しない領域を現出させて化成処理を行い、化成処理性に対するカソード点の影響を調べた。板表面のカソード点が存在しない領域では、図3に示すように緻密で微細である良好な化成結晶が得られなかった。これはカソード点が存在しない領域においては、局部電池が構成されず化成結晶が形成され難いためである。
【0028】
上記残留物がカソード点を形成する粒子であっても、粒径が2μmを超える粗大なカソード点であり、鋼板の表面を広く覆うカソード点であると、アノード点で発生した電子が粗大なカソード点の中央部まで行きわたらない。
したがって、粗大なカソード点では、該カソード点とアノード点との境界近傍でしか上記還元反応が起こらず、化成結晶が粗大なカソード点の周縁しか覆うことができないため化成処理性が低下してしまう。
【0029】
鋼板表面にマイクロカソードが存在する領域では緻密で微細な化成結晶が得られる。
例えば、図4に示すようにマイクロカソードとなる銅化合物粒子が存在すると、図5のように緻密で微細な化成結晶が得られる。これは、銅化合物粒子が、化成結晶の大きさに比して十分小さく、かつ適切に微分散してカソード点となるマイクロカソードを当該領域で実現しているためである。
【0030】
このように、従来、化成処理性を低下させると考えられていた銅化合物粒子であっても、その粒径が2μm以下であることで、銅化合物粒子は地鉄よりも電位が高いため、隣接するアノード点とで微細な局部電池を形成して鋼板全体を覆う緻密な化成結晶の形成を促進させる。
【0031】
地鉄よりも高い電位を有する金属酸化物粒子としては、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、およびケイ素(Si)から成る群から選ばれた1つ以上の元素の金属酸化物粒子を挙げることができ、また、銅化合物としては、銅硫化物や銅ニッケル合金を挙げることができる。
【0032】
上記マイクロカソードの粒径は、鋼板表面のSEM像から、特性X線をエネルギーで分光して鋼板表面を構成する元素を同定し、上記SEM像を2値化して測定できる。
本発明においては、5μm×5μmの視野を50視野観察して各視野の粒径0.03μm以上の粒子及び幅(短径)が0.03μm以上のマイクロカソードの粒径を求めた。
【0033】
また、本発明においてマイクロカソードの粒径とは、マイクロカソードの長径と短径の平均値((長径+短径)/2)をいい、上記マイクロカソードは単一の粒子で形成されていてもよく、微細な粒子が凝集して一塊となった粒子群で形成されていてもよい。
【0034】
上記マイクロカソードの形状は線状であることが好ましい。
残留物がカソード点となる金属酸化物粒子や銅化合物粒子であっても、その形状が塊状である粒子が多く存在する領域では、緻密で微細な化成結晶は得られ難い。
本発明において、線状のマイクロカソードとは幅が0.1μm以下のマイクロカソードをいい、塊状のマイクロカソードとは幅が0.1μmを超えるマイクロカソードをいう。
【0035】
上記線状のマイクロカソードが70個数%以上であり、塊状のマイクロカソードが少ないことで、マイクロカソードが化成結晶で覆われ易くなり、均一かつ緻密な化成結晶を形成できる。
【0036】
図6に示すような塊状の金属酸化物粒子が多く存在する領域では、図7に示すように緻密で微細な化成結晶は得られ難い。これは、塊状の金属酸化物粒子が地鉄の表面を覆うと、そこにカソード点が分布したとしても、該カソード点の中央部と地鉄との間で局部電池が構成されず、化成結晶が形成され難いためである。
【0037】
これに対し、塊状のマイクロカソードが少なく、線状のマイクロカソードが多く存在する領域では、緻密かつ微細な化成結晶が得られる。図8に示すような線状の金属酸化物粒子が存在する領域では、図9に示すように緻密で微細な化成結晶が得られる。
これは、マイクロカソードの形状が線状であり、かつその幅が十分小さいことで、カソード点と地鉄との局部電池がカソード点の中央部まで形成されるためである。
【0038】
また、緻密かつ微細な化成結晶を生成させるためには、カソード点とアノード点とをバランスよく分布させる必要があり、最適なマイクロカソードの分布状態がある。
【0039】
マイクロカソードの密度が低すぎると、化成結晶の析出点が少なく、緻密で微細な化成処理皮膜を得難く、マイクロカソードの密度が高すぎるとアノード点が少なくなって化成処理反応が進みにくくなるからである。
【0040】
具体的には、マイクロカソードの密度が、800~200,000個/mmであることが好ましく、50,000個/mm以上100,000個/mm以下であることがより好ましい。マイクロカソードの数が上記範囲内であることで、化成処理性が向上する。
【0041】
上記化成処理としては、リン酸被膜処理や、メッキなど鋼板の耐食性を向上させる処理を挙げることができる。
【0042】
上記鋼板は、マイクロカソードとなる銅(Cu)や金属酸化物粒子を形成するクロム(Cr)、マンガン(Mn)、およびケイ素(Si)他、炭素(C)を含むことができる。
【0043】
これら元素の含有量は、それぞれ、炭素(C)が0.005質量%~0.25質量%、ケイ素(Si)が0.01質量%~1.60質量%、マンガン(Mn)が0.01質量%~1.60質量%、クロム(Cr)が0.01質量%~1.60質量%、銅(Cu)が0.10質量%~0.50質量%であることが好ましい。
【0044】
上記元素はスクラップ材から混入し易い元素であり、これまでは化成処理性を阻害する元素として、銅(Cu)などは含有量の制限を行うことで、また、クロム(Cr)やケイ素(Si)からなる金属酸化物は表面から可能な限り除去することで、阻害要因を排除してきたと言われている。本発明においては、上記元素が上記粒径のマイクロカソードを形成することで、化成処理性を向上させることが可能であることを示しており、このようなスクラップ固有元素の利用方法はこれまでにない。
【0045】
<鋼板の製造方法>
本発明の鋼板の製造方法は、上記鋼板を製造する方法であり、製鋼工程と熱間圧延工程と酸洗工程とを有する。製鋼工程はその溶解方法は電炉に限らない。熱間圧延工程は、製鋼された鋼片を加熱する加熱工程と、上記加熱された鋼片を大気に曝す酸化工程と、上記鋼片の表面酸化物層(スケール)を除去するデスケーリング工程と、上記鋼片を延ばす粗圧延工程と、を順に有する。酸洗工程は、熱間圧延された鋼板の表面酸化鉄皮膜を酸液にて除去する工程である。
【0046】
上記酸化工程は、加熱した鋼片を大気に曝し、地鉄と酸化物層との間に、鉄よりも貴な電位を有する金属を含む液相の層を生成させる処理を含む。
【0047】
鋼片の表面に酸化物層が生じると、鋼片中の銅は上記酸化物層中に溶け込めないため、酸化物層から排斥されて地鉄と酸化物層との間に銅を含む液相の層を形成する。そして、上記液相の層が生成することで、酸化物層と地鉄との密着性が低下し、後述するデスケーリング工程において酸化物層が剥がれ易くなる。
【0048】
また、上記酸化工程により、鋼片表面の金属成分が酸化されて、地鉄内部の表面近傍にマイクロカソードとなる金属酸化物粒子が生成する。
【0049】
マイクロカソードが形成された鋼片の断面SEM像を図10図10中、四角で囲んだ部分を電位差顕微鏡(KFM)で観察した画像を図11に示す。
図10中左端が鋼板表面側であり、右側が鋼板内部である。
【0050】
図11のKFM像では、周辺より電位が高い箇所が黒く写っており、CrO、MnSiOが、マイクロカソードとなることがわかる。
【0051】
上記金属酸化物粒子の分布、粒径、及び形状は、加熱温度や酸化時間などにより制御できる。
鋼片表面を酸化させることにより、鋼片中の元素に由来する様々な内部酸化物が生成するが、表面側に生成する内部酸化物と内側に生成する内部酸化物の分布は、鋼片の組成により決まる。
【0052】
具体的には、酸素分圧が低く酸化され易い金属の金属酸化物は鋼板内部に存在し、酸化され難い金属の金属酸化物は鋼板の表面側に存在する。そして、酸化時間が長くなると金属酸化物粒子の粒径が大きくなる。
【0053】
例えば、酸素分圧が低く生じ易い金属酸化物の順序は、SiO > MnSiO > MnO > MnCr > Cr > FeSiOであり、生じ難い金属酸化物ほど表面側に分布し、生じ易い金属酸化物は内部側に分布する。
【0054】
酸化工程における鋼片を大気に曝す時間は、1~5分であることが好ましい。
1分未満では、上記液相の層が充分形成されずデスケーリング性が低下し、表面酸化物層が残り易くなって残留物の形状が塊状になり易くなる。また鋼片内部に金属酸化物粒子が充分形成されない。5分を超えると鋼片が冷えて粗圧延が困難になることがある。
【0055】
粗圧延に使う圧延ロールの表面性状、特に凹凸については、常に平坦さを保つようにしなくてはならない。例えば、粗圧延ロールにオートグラインダーを整備するなどの多様な対策を講じうる。圧延ロールの表面凹凸が大きくなると、圧延ロールの凸部で表面の残留物が押し込まれて塊状になり易くなる。
【0056】
酸化工程後、粗圧延工程前にデスケーリング工程を備える。
粗圧延工程前にデスケーリングを行うことで、銅を含む液相を除去することができ、粗圧延工程において上記液相が地鉄表面に引き伸ばされて粗大化することが防止される。
【0057】
また、上記酸化工程において地鉄内部の表面近傍に形成された金属酸化物粒子が、表面酸化物層及び上記液相を除去することで地鉄表面に露出する。
【0058】
そして、鋼片の銅脆化現象を避けた温度、具体的には、粗圧延出側の温度が960℃以上1000℃以下で圧延する。
デスケーリング工程で残存した銅化合物が液相の状態で圧延を行うと、図12に示すように、液相の銅化合物が鋼片のオーステナイト粒界に押し込まれて粗大化するが、上記温度範囲で粗圧延を行うことで、地鉄表面に残存する銅化合物粒子が微細化されて、2μm以下のマイクロカソードを形成できる。
【0059】
上記デスケーリング工程と粗圧延工程とを交互に複数回行う。
粗圧延工程中に生じた表面酸化物層を逐次除去することで、上記酸化物層から排斥された銅化合物が地鉄のオーステナイト粒界に押し込まれて粗大化することを防止できる。
【0060】
上記粗圧延工程では、ロールでの粗圧延を複数回行って鋼片を所定の厚さにする際、鋼片が所定の厚さになるまで連続してロールに通す直前の鋼片に対して毎回デスケーリングを行う。
【0061】
以上の粗圧延工程によって、鋼板表面の化成処理性を阻害する粗大な酸化物が除去され、マイクロカソードとしての上記条件を満たすものが、何ら付加的な添加剤なしに、鋼板表面に形成される。
【実施例
【0062】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0063】
下記表1に示す鋼片を加熱し、表2に示す条件で、粗圧延までに至る過程で丹念にデスケーリング処置を施し、圧延して鋼板を作製した。
【0064】
作製した鋼板の表面SEM像を画像解析し、塊状金属酸化物と線状金属酸化物との割合を計測した。
実施例1~7、比較例1~5の鋼板の表面SEM像をそれぞれ図13図24の(a)に、また、上記SEM像中の金属酸化物の黒点で示す箇所の分析チャートを図13図24の(b)にそれぞれ示す。
【0065】
また、調整直後の化成処理液を用いて化成処理を行い、形成された被膜を観察した。
実施例1~7、比較例1~5の鋼板を化成処理した後の表面SEM像をそれぞれ図13図24の(c)に、また、評価結果を鋼板の製造条件と共に表2に示す。
【0066】
【表1】
【表2】
外観良 :鉄素地が観察されず、微細かつ緻密な化成結晶が得られたもの
外観不良:化成結晶が形成されていない領域が存在し、鉄素地が観察されたもの
【0067】
鋼板表面の線状のマイクロカソードの割合が70個数%以上である実施例1~7は、微細な化成結晶が形成されており、化成処理性が優れることが確認された。
図1
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