IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ 三和パッキング工業株式会社の特許一覧

特許7385215複合体、ガスケット、複合体の製造方法および塗装金属板
<>
  • 特許-複合体、ガスケット、複合体の製造方法および塗装金属板 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】複合体、ガスケット、複合体の製造方法および塗装金属板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/06 20060101AFI20231115BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20231115BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20231115BHJP
   F16J 15/14 20060101ALI20231115BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20231115BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B32B15/06 Z
B32B15/092
B32B15/082 B
F16J15/14 C
F16J15/14 Z
F16J15/12 F
C23C28/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020022685
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126821
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391061831
【氏名又は名称】三和パッキング工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩茂
(72)【発明者】
【氏名】中根 悠悟
(72)【発明者】
【氏名】田村 紀智
(72)【発明者】
【氏名】赤松 幹弘
(72)【発明者】
【氏名】国政 但
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-034226(JP,A)
【文献】特開平09-122580(JP,A)
【文献】特開2018-176435(JP,A)
【文献】特開2004-076911(JP,A)
【文献】特開平09-122579(JP,A)
【文献】特開2018-023963(JP,A)
【文献】特許第2979156(JP,B2)
【文献】特開2010-270790(JP,A)
【文献】特開平09-234820(JP,A)
【文献】特開2003-127271(JP,A)
【文献】特開2021-037647(JP,A)
【文献】特開2021-037644(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102756528(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16J 15/00-15/14
C23C 24/00-30/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板、化成処理皮膜およびプライマー層をこの順に有する塗装金属板と、前記塗装金属板の前記プライマー層と接合されたゴム層とを有する複合体であって、
前記ゴム層は、含フッ素重合体およびポリオール系架橋剤を含むゴム層用塗料組成物の架橋物からなり、
前記プライマー層は、エポキシ樹脂、硬化剤および平均粒子径2~10μmのシリカ粒子とを含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなり、
前記プライマー層は、前記ゴム層側の表層部に膨潤部を有し、かつ
前記プライマー層の前記ゴム層側の表面粗さRaは、0.1~10μmである、
複合体。
【請求項2】
前記プライマー層の厚みは、3~7μmである、
請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記シリカ粒子の含有量は、前記エポキシ樹脂に対して1~20質量%である、
請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂の数平均分子量は、2000~8000である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
前記硬化剤は、イソシアネート化合物であり、
前記エポキシ樹脂は、イソシアネート基と反応する官能基を有する変性エポキシ樹脂である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
前記硬化剤は、芳香族イソシアネート化合物である、
請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
前記ゴム層用塗料組成物は、PTFE粒子をさらに含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項8】
前記化成処理皮膜は、アミノ基を有するシランカップリング剤および有機樹脂を含むクロメートフリー系皮膜である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の複合体からなる、
ガスケット。
【請求項10】
金属板、化成処理皮膜およびプライマー層をこの順に有し、
前記プライマー層は、エポキシ樹脂、硬化剤および平均粒子径2~10μmのシリカ粒子を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなり、前記プライマー層の表面粗さRaが0.1~10μmである塗装金属板を準備する工程と、
前記塗装金属板の前記プライマー層上に、含フッ素系重合体およびポリオール系架橋剤を含むゴム層用塗料組成物を付与した後、架橋させて、前記プライマー層と接合されたゴム層を形成する工程と、
を有する、
複合体の製造方法。
【請求項11】
含フッ素重合体およびポリオール系架橋剤を含むゴム層用塗料組成物の架橋物からなるゴム層と接合されるための塗装金属板であって、
金属板、化成処理皮膜およびプライマー層をこの順に有し、
前記プライマー層は、前記塗装金属板の最表層に配置され、かつエポキシ樹脂、硬化剤および平均粒子径2~10μmのシリカ粒子を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなり、
前記プライマー層の表面粗さRaは、0.1~10μmである、
塗装金属板。
【請求項12】
前記プライマー層の厚みは、3~7μmである、
請求項11に記載の塗装金属板。
【請求項13】
前記硬化剤は、イソシアネート化合物であり、
前記エポキシ樹脂は、イソシアネート基と反応する官能基を有する変性エポキシ樹脂である、
請求項11または12に記載の塗装金属板。
【請求項14】
前記硬化剤は、芳香族イソシアネート化合物である、
請求項13に記載の塗装金属板。
【請求項15】
前記化成処理皮膜は、アミノ基を有するシランカップリング剤および有機樹脂を含むクロメートフリー系皮膜である、
請求項11~14のいずれか一項に記載の塗装金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、ガスケット、複合体の製造方法および塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンシリンダヘッドなどに装着されるガスケットとしては、一般的に、ステンレス鋼板と、その上に積層されたフッ素ゴム層とを有するガスケットが用いられている。そのようなガスケットにおけるステンレス鋼板とフッ素ゴム層との接着には、フッ素ゴム用加硫接着剤が用いられる。
【0003】
フッ素ゴム用加硫接着剤としては、例えばシランカップリング剤を含む樹脂組成物をアルコール系溶媒で希釈した加硫接着剤が知られている。その他にも、例えば、(a)フェノール樹脂またはエポキシ樹脂、(b)溶媒分散性シリカおよびハイドロタルサイト類縁化合物、ならびに(c)フッ素ゴムコンパウンド溶液またはフッ素ゴム溶液を含む加硫接着剤組成物(特許文献1を参照)や、特定のノボラック型エポキシ樹脂、硬化促進剤、およびシリカを含む熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤(特許文献2および3を参照)などが知られている。このようなシリカを含む加硫接着剤から得られる加硫接着層は、良好な耐不凍液性や耐水性を有するとされている。
【0004】
このような加硫接着剤を用いたガスケットは、以下の手順で製造される。まず、ステンレス鋼板もしくはその表面処理層上に、加硫接着剤を塗布した後、加硫接着剤の溶媒成分を揮発させて(乾膜させて)、加硫接着層を形成する。次いで、得られた加硫接着層に、含フッ素重合体および架橋剤を溶解させたゴム層用塗料組成物を塗布し、加熱して当該塗料組成物に含まれる溶媒を揮発させつつ、含フッ素重合体を架橋させることで、ステンレス鋼板上にフッ素ゴム層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-57986号公報
【文献】国際公開第2009/122618号
【文献】特開2006-218629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車のエンジンシリンダヘッドなどに装着される、ステンレス鋼板とフッ素ゴム層とを有するガスケットは、1)不凍液に浸漬させても、ステンレス鋼板とフッ素ゴムとの密着性を維持できること(以下、「耐不凍液性」という)、および2)高温高荷重下で摺動させても、ステンレス鋼板とフッ素ゴムとの密着性を維持できること(以下、「耐高温摺動性」という)が求められる。
【0007】
すなわち、不凍液は、フッ素ゴム層や加硫接着層、ステンレス鋼板の表面処理層などを劣化させやすいため、不凍液は、ステンレス鋼板または加硫接着層とフッ素ゴム層との密着性を低下させやすい。そのため、ステンレス鋼板とフッ素ゴム層とを有するガスケットは、不凍液に対する高い耐性(耐不凍液性)を有することが望まれる。また、高温下でエンジンの振動などが加わると、加硫接着層に応力が集中し、その部分で剥がれやすくなり、加硫接着層とフッ素ゴム層との密着性が低下しやすい。そのため、ステンレス鋼板とフッ素ゴム層とを有するガスケットは、耐高温摺動性を有することも望まれる。このように、エンジンシリンダヘッドなどに装着されるガスケットとして用いるためには、フッ素ゴム層と加硫接着層との密着性を十分に高めることが望まれる。
【0008】
また、特許文献1~3に示されるような従来のガスケットの製造方法では、ステンレス鋼板上に加硫接着剤を塗布する工程が必要となる。そのため、工程が煩雑になりやすいだけでなく、塗布条件によっては接着性にばらつきが生じることもある。したがって、加硫接着剤を塗布しなくても、(易接着処理が施された)ステンレス鋼板に、直接、ゴム層用塗料組成物を塗布し、架橋させるだけで、ステンレス鋼板とフッ素ゴム層とを接着できることも望まれる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡単な方法で得ることができ、かつ良好な耐不凍液性と耐高温摺動性とを有する複合体、ガスケット、複合体の製造方法および塗装金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の複合体、ガスケット、複合体の製造方法および塗装金属板に関する。
【0011】
本発明の複合体は、金属板、化成処理皮膜およびプライマー層をこの順に有する塗装金属板と、前記塗装金属板の前記プライマー層と接合されたゴム層とを有する複合体であって、前記ゴム層は、含フッ素重合体およびポリオール系架橋剤を含むゴム層用塗料組成物の架橋物からなり、前記プライマー層は、エポキシ樹脂、硬化剤および平均粒子径2~10μmのシリカ粒子とを含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなり、前記プライマー層は、前記ゴム層側の表層部に膨潤部を有し、かつ前記プライマー層の前記ゴム層側の表面粗さRaは、0.1~10μmである。
【0012】
本発明のガスケットは、本発明の複合体からなる。
【0013】
本発明の複合体の製造方法は、金属板、化成処理皮膜およびプライマー層をこの順に有し、前記プライマー層は、エポキシ樹脂、硬化剤および平均粒子径2~10μmのシリカ粒子を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなり、前記プライマー層の表面粗さRaが0.1~10μmである塗装金属板を準備する工程と、前記塗装金属板の前記プライマー層上に、含フッ素系重合体およびポリオール系架橋剤を含むゴム層用塗料組成物を付与した後、架橋させて、前記プライマー層と接合されたゴム層を形成する工程と、を有する。
【0014】
本発明の塗装金属板は、含フッ素重合体およびポリオール系架橋剤を含むゴム層用塗料組成物の架橋物からなるゴム層と接合されるための塗装金属板であって、金属板、化成処理皮膜およびプライマー層をこの順に有し、前記プライマー層は、前記塗装金属板の最表層に配置され、かつエポキシ樹脂、硬化剤および平均粒子径2~10μmのシリカ粒子を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなり、前記プライマー層の表面粗さRaは、0.1~10μmである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単な方法で得ることができ、かつ良好な耐不凍液性と耐高温摺動性とを有する複合体、ガスケット、複合体の製造方法および塗装金属板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1Aは、本発明の複合体の一例を示す断面模式図であり、図1Bは、図1Aの部分拡大断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、従来のように加硫接着剤を塗布しなくても、直接、ゴム層用塗料組成物を塗布し、架橋させるだけで、金属板とゴム層とが良好に接合された複合体を製造する方法について検討した。
【0018】
そして、本発明者らは、(ゴム層との接合面となる)塗装金属板のプライマー層の表面粗さRaが所定の範囲内となるように、プライマー層に大粒径のシリカ粒子を含有させることで、不凍液に浸漬させたり、高温下で接合面に荷重を付加しながら摺動させたりしても、プライマー層とゴム層との接着性を良好に維持できることを見出した。
【0019】
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、プライマー層にシリカ粒子を含有させることで、プライマー層の表面に凹凸を形成しうるため、ゴム層とのアンカー効果が得られやすい。それにより、不凍液に浸漬させても、プライマー層とゴム層との間で良好な接着性を維持できると考えられる。
【0020】
また、ゴム層は、含フッ素重合体とポリオール系架橋剤とを溶媒に分散または溶解させたゴム層用塗料組成物の塗膜から、溶媒を揮発させるとともに、含フッ素重合体を架橋させることによって形成される。ここで、ゴム層用塗料組成物が付与されたプライマー層の表層部は、当該塗料組成物に含まれる溶媒などの浸透によって膨潤している。そのようなプライマー層の膨潤部は、塗膜凝集力が比較的低いため、高温摺動下では塗膜凝集力を維持できず、高温下で振動が付与されると、プライマー層とゴム層との界面、もしくはプライマー層の凝集破壊で剥がれを生じやすい。これに対し、プライマー層に含有させるシリカ粒子の粒径を適度に大きくすることで、プライマー層(特に膨潤部)の塗膜凝集力を効果的に高めることができる。それにより、高温下で振動が加わっても、ゴム層との界面付近のプライマー層(特に膨潤部)の塗膜凝集力を維持することができるため、プライマー層とゴム層との間で良好な接着性を維持できると考えられる。
【0021】
また、ゴム層を構成するポリオール系架橋剤(例えば、ビスフェノールAF)は、プライマー層を構成するエポキシ樹脂(例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂)との親和性が高いため、プライマー層とゴム層との間で良好な接着性を維持できると考えられる。
【0022】
さらに、金属板とプライマー層との間に化成処理皮膜を配置することで、大粒径のシリカ粒子を含有させても、金属板とプライマー層との密着性も損なわれにくくすることができる。
【0023】
すなわち、本発明の複合体は、従来のように加硫接着剤を塗布しなくても、塗装金属板(のプライマー層)上に、直接、ゴム層用塗料組成物を塗布し、架橋させるだけで得ることができる。また、複合体の製造に用いられる塗装金属板は、プライマー層がゴム成分などを含まなくても、良好な接着性を発現しうる。そのため、塗装金属板をコイル状に巻取った場合でも、プライマー層同士が融着(以下、「ブロッキング」という)しないようにすることもできる。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0025】
1.複合体
本発明の複合体は、塗装金属板、および当該塗装金属板のプライマー層と接合されたゴム層を有する。
【0026】
1-1.塗装金属板
塗装金属板は、金属板、化成処理皮膜、およびプライマー層をこの順に有する。
【0027】
[金属板]
金属板の例には、鋼板(冷延鋼板、熱延鋼板、およびそれらの焼鈍板を含む)、ステンレス鋼板、またはこれらの鋼板をめっき処理しためっき鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、および銅板などの金属板が含まれる。中でも、良好な耐熱性および強度を有する観点では、冷延鋼板、ステンレス鋼板、めっき鋼板が好ましく、特に高い耐熱性を有する観点では、ステンレス鋼板およびめっき鋼板が好ましい。
【0028】
ステンレス鋼板は、特に制限されず、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系のいずれであってもよい。ステンレス鋼板の例には、SUS301H-CSP、SUS410などのバネ用ステンレス鋼板が含まれる。
【0029】
めっき鋼板は、鋼板の表面が、鉄以外の金属を含むめっき層で被覆されたものである。めっき層を構成する鉄以外の金属の例には、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、およびこれら金属の合金などが含まれる。めっき鋼板の例には、亜鉛めっき鋼板、Zn-Al合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板などが含まれる。
【0030】
金属板は、必要に応じて、脱脂処理やコロナ放電による表面の清浄化、もしくは、機械研磨、酸洗、ショットブラストなどによる粗面化などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。
【0031】
金属板の厚みは、用途に応じて適宜に設定されうるが、エンジンシリンダヘッド用ガスケットに用いる場合は、例えば0.1~0.4mmとしうる。
【0032】
[化成処理皮膜]
化成処理皮膜は、金属板とプライマー層との間に形成されており、金属板とプライマー層との間の密着性を向上させる。化成処理皮膜は、金属板の表面の少なくともゴム層と接合する領域(接合面)に形成されていればよいが、金属板の表面全体に形成されていてもよい。
【0033】
化成処理皮膜の種類は、特に限定されず、クロム酸塩系、リン酸クロム酸塩系などのクロメート皮膜であってもよいし、クロメートフリー皮膜であってもよい。例えば、環境負荷を低減する観点では、化成処理皮膜は、クロメートフリー皮膜であることが好ましい。
【0034】
クロメートフリー皮膜は、クロメートを含まない無機化合物と、有機樹脂とを含む。
【0035】
当該無機化合物は、チタン化合物(例えば、Ti-Mo複合材料)、フルオロアシッド化合物(例えばヘキサフルオロチタン酸)、ジルコニウム化合物(例えばヘキサフルオロジルコニウム酸)、およびシランカップリング剤からなる群より選ばれる。これらの無機化合物は、1種類で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、金属板とプライマー層との密着性を高めやすい観点から、無機化合物は、シランカップリング剤であることが好ましい。
【0036】
シランカップリング剤は、特に限定されないが、アミノ基、好ましくは第1級アミノ基を有することが好ましい。有機樹脂が、イソシアネート化合物またはポリカルボジイミド化合物をさらに含む場合、第1級アミノ基を有するシランカップリング剤は、イソシアネート化合物またはポリカルボジイミド化合物と架橋して、バリア性の高い緻密な化成処理皮膜を形成しうるからである。
【0037】
シランカップリング剤の例には、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどが含まれる。
【0038】
有機樹脂の種類は、特に限定されないが、ウレタン樹脂やフェノール樹脂などの樹脂でありうる。これらの樹脂は、極性基を有しているため、金属板との密着性を高めやすい。これらの有機樹脂は、1種類で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの有機樹脂は、イソシアネート化合物や、ポリカルボジイミド化合物などの硬化剤により硬化されていてもよい。
【0039】
化成処理皮膜の付着量は、金属板とプライマー層との間の密着性を向上させうる範囲であれば、特に限定されない。例えば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5~100mg/mであることが好ましい。また、クロメートフリー皮膜の場合、チタン化合物を含む皮膜では全Ti換算付着量が1~100mg/m、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3~100mg/m、シランカップリング剤を含む皮膜では、当該シランカップリング剤の付着量が、例えば3~200mg/mであることが好ましい。
【0040】
[プライマー層]
プライマー層は、化成処理皮膜上であって、塗装金属板の最表層に配置されており、金属板とゴム層とを接着(または接合)させる。プライマー層は、金属板とゴム層との間の接着性(または接合性)を高める観点から、硬化性樹脂、硬化剤、および無機骨材を含む樹脂組成物の硬化物からなることが好ましい。
【0041】
(硬化性樹脂)
硬化性樹脂は、化成処理皮膜と良好な密着性を有するものであればよく、特に制限されない。中でも、成形加工時に塗膜剥離が生じない良好な密着性が得られやすい観点、または化成処理皮膜がアミノ基を有するシランカップリング剤を含む場合に、化成処理皮膜との良好な密着性が得られやすい観点などから、硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0042】
すなわち、プライマー層は、エポキシ樹脂、硬化剤、および無機骨材を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなることが好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、塗膜の強度や加工性の観点では、数千程度であることが好ましい。具体的には、エポキシ樹脂の数平均分子量は、2000~8000であることが好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が2000以上であると、良好な強度の塗膜が得られやすく、耐食性なども高めやすい。エポキシ樹脂の数平均分子量が8000以下であると、塗布液の粘度が高くなりすぎないため、ロールコーターなどによる塗装作業性や加工性が損なわれにくい。また、塗料中に占める固形分の割合が減少しすぎないため、生産性も損なわれにくい。エポキシ樹脂の数平均分子量は、上記観点から、3000~7000であることがより好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によりポリスチレン換算にて測定することができる。具体的な測定条件は、後述する実施例と同様としうる。
【0044】
エポキシ樹脂は、特に制限されず、脂肪族エポキシ樹脂であってもよいし、脂環式エポキシ樹脂であってもよいし、芳香族エポキシ樹脂であってもよい。中でも、良好な耐熱性を有する観点では、脂環式エポキシ樹脂または芳香族エポキシ樹脂が好ましい。そのようなエポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂が含まれる。中でも、(化成処理皮膜を有する)金属板との密着性や、プライマー層の塗膜凝集力、耐熱性などを高めやすくする観点などから、芳香族エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がさらに好ましい。
【0045】
また、エポキシ樹脂は、アミノ基またはヒドロキシ基などのイソシアネート基と反応する官能基を有する変性エポキシ樹脂(例えばアルカノールアミンで変性されたエポキシ樹脂など)であってもよい。中でも、化成処理皮膜やゴム層に含まれる成分との親和性を高めて、良好な密着性を得やすくする観点では、エポキシ樹脂は、イソシアネート基と反応する官能基を有する変性エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0046】
エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂組成物の固形分に対して55~94質量%であることが好ましい。エポキシ樹脂の含有量が55質量%以上であると、得られるプライマー層が、十分な塗膜凝集力を有しうるだけでなく、良好な耐スクラッチ性、耐食性、耐水性または耐薬品性なども有しうる。エポキシ樹脂の含有量が94質量%以下であると、プライマー層を形成する際のエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎないため、塗装作業性や加工性が損なわれにくい。エポキシ樹脂の含有量は、上記観点から、エポキシ樹脂組成物の固形分に対して65~87質量%であることがより好ましい。
【0047】
(硬化剤)
硬化剤は、硬化性樹脂を硬化させうるものであればよく、特に制限されない。エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤の例には、アミン化合物、酸無水物およびイミダゾール化合物が含まれる。また、エポキシ樹脂が、前述のようなイソシアネート基と反応する官能基を有する変性エポキシ樹脂である場合、硬化剤としてイソシアネート化合物を用いることもできる。中でも、化成処理皮膜やゴム層に含まれる成分との親和性を高めて、加工部においても良好な密着性を得やすくする観点では、イソシアネート化合物が好ましい。
【0048】
イソシアネート化合物の例には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート化合物;メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフチレン1,5-ジイソシアネート(NDI)、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、フェニレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート化合物が含まれる。
【0049】
また、これらの硬化剤は、芳香環を有する硬化剤(芳香族系硬化剤)であってもよいし、芳香環を有しない硬化剤(脂肪族系硬化剤)であってもよい。中でも、プライマー層の耐熱性を高めやすい観点では、芳香族系硬化剤が好ましい。
【0050】
すなわち、良好な密着性と耐熱性を有するプライマー層を得る観点では、硬化剤は、芳香族イソシアネート化合物であることが好ましい。
【0051】
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂に対して5~50質量%であることが好ましい。硬化剤の含有量が5質量%以上であると、エポキシ樹脂を十分に硬化させうる。それにより、十分な塗膜凝集力のプライマー層が得られやすく、プライマー層とゴム層との間の接着性(または接合性)も得られやすい。硬化剤の含有量が50質量%以下であると、プライマー層が過剰に硬化することなく、プライマー層の加工性が得られやすい。硬化剤の含有量は、上記観点から、エポキシ樹脂に対して、10~30質量%であることがより好ましい。
【0052】
(無機骨材)
無機骨材は、プライマー層の膜硬度を高めて耐高温摺動性を高めたり、プライマー層の表面に凹凸を付与して、ゴム層との密着性を高めたりする。無機骨材は、粒状または塊状の無機骨材であればよく、特に制限されないが、その例には、チタニア粒子や、シリカ粒子が含まれる。中でも、プライマー層の強度を高めやすく、また低コストであるなどの観点から、シリカ粒子が好ましい。
【0053】
シリカ粒子の平均粒子径は、プライマー層の表面粗さRaが後述する範囲となるように設定されればよく、例えば2~10μmでありうる。例えば、プライマー層の厚みが7μm以下であるときに、シリカ粒子の平均粒子径が10μmを超えると、シリカ粒子の脱落が起こりやすいため、密着性が極端に低下しやすい。これに対し、シリカ粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、プライマー層の表面粗さRaを後述する範囲に調整しうるだけでなく、シリカ粒子の脱落を生じにくい。また、シリカ粒子の平均粒子径が2μm未満であると、プライマー層の塗膜凝集力が十分には得られにくいため、耐高温摺動性が低下しやすい。さらに、プライマー層の表面粗さRaが後述の範囲となりにくく、プライマー層とゴム層の密着性も得られにくい。これらの観点から、シリカ粒子の平均粒子径は、3~7μmであることがより好ましい。
【0054】
シリカ粒子の含有量は、プライマー層の表面粗さRaが後述する範囲となるように設定されればよく、エポキシ樹脂に対して1~20質量%であることが好ましい。シリカ粒子の含有量が1質量%以上であると、プライマー層の表面粗さRaを高めてゴム層との密着性を高めやすいだけでなく、塗膜凝集力も高めやすいため、耐高温摺動性も高めやすい。シリカ粒子の含有量が20質量%以下であると、例えば金属板を加工する際などにおいてプライマー層の凝集破壊を生じにくく、加工性や接着性が損なわれにくい。シリカ粒子の含有量は、上記観点から、エポキシ樹脂に対して5~20質量%であることがより好ましい。
【0055】
(層の状態)
プライマー層は、ゴム層側の表層部に膨潤部を有する。膨潤部は、後述する複合体の製造工程((2)の工程)において、塗装金属板のプライマー層上にゴム層用塗料組成物を付与する際に、当該塗料組成物に含まれる溶媒成分などがプライマー層中に浸透することによって形成される。
【0056】
膨潤部は、金属板(または化成処理皮膜)とプライマー層との密着性を損なわないようにする観点から、プライマー層の厚み方向のうちゴム層側の表層部のみに形成されていることが好ましい。膨潤部の厚みは、プライマー層の厚みの1~90%程度であることが好ましい。膨潤部があるかどうかは、例えばプライマー層断面の低真空SEM観察によって確認することができる。
【0057】
(物性)
プライマー層の表面粗さRa(ゴム層側の表面粗さRa)は、0.1~10μmであることが好ましい。プライマー層の表面粗さRaが0.1μm以上であると、アンカー効果が得られやすいだけでなく、耐高温摺動性も高まりやすいため、ゴム層との間で界面剥離を生じにくく、良好な密着性が得られやすい。プライマー層の表面粗さRaが10μm以下であると、プライマー層からのシリカ粒子の脱落を生じにくいだけでなく、樹脂成分の割合が少なくなりすぎないため、ゴム層との密着性が損なわれにくい。プライマー層の表面粗さRaは、0.5~3μmであることがより好ましい。
【0058】
プライマー層の表面粗さRaは、JIS B0601-2001に準拠する算術平均粗さとして測定することができる。具体的には、接触式粗さ計でプライマー層表面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を測定する。
【0059】
プライマー層の表面粗さRaは、例えばシリカ粒子の含有量や平均粒子径によって調整することができる。プライマー層の表面粗さRaを一定以上とするためには、例えばシリカ粒子の含有量および平均粒子径は、いずれも一定以上とすることが好ましい。
【0060】
プライマー層の厚みは、特に限定されないが、例えば3~7μmとしうる。プライマー層の厚みが3μm以上であると、ゴム層との良好な密着性が得られやすい。また、プライマー層の厚みが7μm以下であると、塗装金属板を薄膜化しやすい。プライマー層の厚みは、上記観点から、4~6μmであることがより好ましい。
【0061】
1-2.ゴム層
ゴム層は、塗装金属板のプライマー層と接合されている。ゴム層は、含フッ素重合体とポリオール系架橋剤とを含むゴム層用塗料組成物の架橋物からなる。ゴム層用塗料組成物は、含フッ素重合体とポリオール系架橋剤とを溶媒に分散または溶解させた塗料組成物である。
【0062】
(含フッ素重合体)
含フッ素重合体は、特に制限されず、その例には、フッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン以外の含フッ素オレフィンとの共重合体、含フッ素オレフィンとプロピレンとの共重合体が含まれる。含フッ素オレフィンの例には、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)が含まれる。
【0063】
含フッ素重合体の例には、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロペン2元共重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロペン・テトラフルオロエチレン3元共重合体などのフッ化ビニリデン共重合体が含まれる。
【0064】
(ポリオール系架橋剤)
ポリオール系架橋剤の例には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、ヒドロキノンなどのポリヒドロキシ芳香族化合物が含まれる。
【0065】
ポリオール系架橋剤の含有量は、含フッ素重合体に対して2.5~10質量%であることが好ましい。ポリオール系架橋剤の含有量が2.5質量%以上であると、含フッ素重合体を十分に架橋させやすく、架橋密度を適度に高めうるため、十分なゴム弾性が得られやすいだけでなく、ゴムフローを低減しやすい。また、プライマー層に含まれるエポキシ樹脂との反応点も増加するため、ゴム層とプライマー層との接着性もさらに高まりやすい。ポリオール系架橋剤の含有量が10質量%以下であると、架橋密度が高くなりすぎないため、ゴム弾性が損なわれにくい。ポリオール系架橋剤の含有量は、含フッ素重合体に対して3~6質量%であることがより好ましい。
【0066】
(PTFE粒子)
含フッ素重合体とポリオール系架橋剤とを含む組成物は、ゴム層の塗膜凝集力を調整する観点から、PTFE粒子をさらに含むことが好ましい。
【0067】
PTFE粒子は、平均粒子径が3~6μmであり、かつ含フッ素重合体に対する含有量が1~5質量%であることが好ましい。PTFE粒子の平均粒子径が3μm以上であり、かつ含フッ素重合体に対するPTFE粒子の含有量が1質量%以上であると、ゴム層の塗膜凝集力を適度に低下させやすくすることができる。PTFE粒子の平均粒子径が6μm以下であり、かつ含フッ素重合体に対するPTFE粒子の含有量が5質量%以下であると、ゴム層の塗膜凝集力が過度には低下しにくい。同様の観点から、PTFE粒子は、平均粒子径が4μmであり、かつ含フッ素重合体に対する含有量が1.5~2.5質量%であることがより好ましい。
【0068】
このように、PTFE粒子の平均粒子径を3~6μmとし、かつ含フッ素重合体に対する含有量を1~5質量%とすることで、ゴム層の塗膜凝集力を所定の範囲で適度に低下させることができる。それにより、不凍液に浸漬させても、プライマー層とゴム層との間で良好な接着性を一層維持することができる。
【0069】
(溶媒)
溶媒は、含フッ素重合体を溶解させるものであればよく、その例には、イソホロンやシクロヘキサノンが含まれる。
【0070】
(その他の成分)
ゴム層用塗料組成物は、必要に応じて含フッ素重合体以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、カーボンブラック、シリカなどの補強材、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイトなどの受酸剤、ステアリン酸などの滑剤、テトラメチルチラウラムジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドなどの架橋促進剤が含まれる。中でも、プライマー層との間の界面強度を高めて、耐高温摺動性をさらに高めやすくする観点では、ゴム層は、補強材をさらに含むことが好ましい。
【0071】
補強材の含有量は、含フッ素系重合体に対して、例えば50質量%以下であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。また、その他の成分の合計含有量は、ゴム層用塗料組成物の架橋物に対して15質量%以下であることが好ましい。
【0072】
ゴム層の厚みは、エンジンシリンダヘッド用ガスケットに求められる性能を満たす観点では、例えば5~40μmであることが好ましい。ゴム層の厚みが5μm以上であると、十分なシール性を発現しやすく、40μm以下であると、ガスケットが厚膜になりすぎない。ゴム層の厚みは、上記観点から、12~30μmであることがより好ましい。
【0073】
1-3.層構成
本発明の複合体は、必要に応じて他の層をさらに有してもよい。
【0074】
図1Aは、本発明の複合体の一例を示す断面模式図であり、図1Bは、図1Aの部分拡大断面模式図である。
【0075】
図1AおよびBに示されるように、複合体100は、塗装金属板110およびゴム層120を有する。塗装金属板110は、金属板111、化成処理皮膜112、およびプライマー層113を有する。プライマー層113は、ゴム層120が積層される側の表層部に、膨潤部113Aを有する(図1B参照)。
【0076】
このように、プライマー層113は、ゴム層120が積層される側の表層部に膨潤部113Aを有しつつも、平均粒子径がミクロンオーダーのシリカ粒子を含むことで、塗膜凝集力を維持することができる。それにより、高温下で振動が加わっても、ゴム層120との良好な接着性を維持することができる。
【0077】
2.複合体の製造方法
本発明の複合体の製造方法は、(1)塗装金属板を準備する工程、および(2)塗装金属板のプライマー層上にゴム層用塗料組成物を付与した後、架橋させて、ゴム層を形成する工程を有する。
【0078】
(1)の工程について
まず、金属板の表面に化成処理液を付与して、化成処理皮膜を形成する。
【0079】
金属板は、前述のものを用いることができる。金属板は、必要に応じて、脱脂、酸洗などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。
【0080】
化成処理液は、前述のシランカップリング剤、および有機樹脂を含む水溶液でありうる。化成処理液は、必要に応じて、水に加えて、少量のアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶媒などをさらに含んでいてもよい。
【0081】
化成処理液は、必要に応じて有機樹脂を硬化させるための硬化剤をさらに含んでもよい。硬化剤の例には、芳香環を有するジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物などのイソシアネート化合物や、ポリカルボジイミド化合物が含まれる。
【0082】
化成処理液の固形分濃度は、0.1~40質量%であることが好ましい。固形分濃度が、0.1質量%以上であると、十分な厚みの化成処理皮膜が得られやすい。一方、固形分濃度が40質量%以下であると、化成処理液の貯蔵安定性が損なわれにくい。化成処理液のpHは、3~12の範囲に調整されることが好ましい。
【0083】
そして、化成処理液を、ロールコート法、スプレー法、カーテンフロー法、スピンコート法、ディップコート法などにより、アルカリ脱脂を施した金属板の表面に塗布し、水洗することなく、常温で乾燥させる。常温で乾燥させることで、化成処理皮膜を形成することも可能であるが、連続操業を考慮すると、50℃以上の温度で乾燥時間を短縮することが好ましい。ただし、化成処理皮膜に含まれる有機成分の熱分解を確実に抑制する観点では、乾燥温度は200℃以下であることが好ましい。
【0084】
次いで、得られた鋼板の化成処理皮膜上に、前述のエポキシ樹脂と、硬化剤と、シリカ粒子とを含むエポキシ樹脂組成物(プライマー層用樹脂組成物)を塗布し、焼き付けて、プライマー層を形成する。
【0085】
なお、硬化剤がイソシアネート化合物である場合、貯蔵安定性を高める観点(プライマー層用組成物のポットライフを高める観点)から、プライマー層用樹脂組成物中のイソシアネート化合物は、アルコールなどでブロック化されていることが好ましい。
【0086】
プライマー層用樹脂組成物は、塗布作業性を高める観点などから、必要に応じて溶媒をさらに含んでもよい。溶媒は、特定に制限されないが、その例には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、キシレンなどのベンゼン系溶媒が含まれる。これらの溶媒は、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0087】
プライマー層用樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。
【0088】
プライマー層用樹脂組成物の焼付方法は、特に限定されず、溶媒を揮散させればよい。焼付温度は、塗膜中の硬化性樹脂が完全には硬化しない範囲で、溶媒を揮発させうる温度であればよく、特に限定されないが、例えば焼付時の到達板温が180~210℃であることが好ましい。
【0089】
(2)の工程について
得られた塗装金属板のプライマー層上に、前述の含フッ素重合体、ポリオール系架橋剤、および溶媒を含むゴム層用塗料組成物を付与する。
【0090】
ゴム層用塗料組成物の付与方法は、特に限定されないが、例えばスクリーン印刷法、ロールコート法、カーテンフロー法、ディップコート法などでありうる。
【0091】
次いで、塗装金属板のプライマー層上に付与したゴム層用塗料組成物を乾燥および架橋させて、ゴム層を形成する。
【0092】
ゴム層用塗料組成物の乾燥および架橋は、加熱により行うことが好ましい。加熱方法は、特に限定されないが、例えば熱風による加熱でありうる。
【0093】
また、ゴム層用塗料組成物の乾燥および架橋は、同時に行ってもよいし、逐次的に行ってもよい。ゴム層とプライマー層とを十分な接着性で接合させる観点では、例えばゴム層用塗料組成物を乾燥させた後(乾燥工程)、架橋させることが好ましい(架橋工程)。
【0094】
乾燥温度は、ゴム層用塗料組成物の溶媒が揮発する程度の温度であればよく、例えば150~200℃としうる。乾燥時間は、例えば5~30分程度としうる。
【0095】
架橋温度は、ゴム層用塗料組成物の含フッ素系重合体が架橋する温度であればよく、ゴム層用塗料組成物の組成にもよるが、例えば200~260℃としうる。架橋時間は、例えば5~60分程度としうる。
【0096】
3.複合体の用途
本発明の複合体は、耐熱性とシール性が求められる各種用途に用いることができる。中でも、本発明の複合体は、良好な耐熱性とシール性を有することから、エンジンシリンダヘッド用のガスケットとして好ましく用いることができる。
【実施例
【0097】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0098】
1.材料の準備
(1)金属板
<金属板M1>
SUS301-CSP-H(オーステナイト系ステンレス鋼板、厚み0.2mm)
【0099】
<金属板M2>
日新製鋼株式会社製NSS431-DP2(複相系ステンレス鋼、厚み0.2mm)
【0100】
<金属板M3>
厚み0.5mmの鋼板の両面を溶融亜鉛めっきした溶融めっき鋼板(めっき片面付着量90g/m
【0101】
<金属板M4>
厚み0.8mmの鋼板の両面を溶融アルミニウムめっきした溶融めっき鋼板(めっき片面付着量40g/m
【0102】
(2)化成処理液
<化成処理液C1の調製>
エタノールを10質量%含む水に、N-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシランおよびウレタン樹脂の混合物(質量比6:4)を添加して、固形分濃度が5質量%の化成処理液C1を得た。
【0103】
<化成処理液C2の調製>
純水(溶媒)に、20g/LのTi化合物および40g/Lのフェノール樹脂を添加して、クロメートフリーの化成処理液を得た。
【0104】
<化成処理液C3の調製>
塗布型クロメート処理剤(サーフコートNRC300、日本ペイント株式会社製)を使用した。
【0105】
(3)プライマー層用樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物)
<プライマー層用樹脂組成物PC1の調製>
エポキシ樹脂(水酸基とアミノ基を有する化合物で変性された変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂)に対して、20質量%の硬化剤(メチレンジフェニルジイソシアネート)、および10質量%の無機骨材(平均粒子径5μmのシリカ粒子)を、キシレン、シクロヘキサノンおよび1-ブタノールの混合溶媒に溶解させて、プライマー用樹脂組成物PC1を得た。
【0106】
<プライマー層用樹脂組成物PC2~12の調製>
エポキシ樹脂の数平均分子量および/または硬化剤の種類を表1に示されるように変更した以外は、プライマー層用樹脂組成物PC1と同様にしてプライマー層用樹脂組成物PC2~12を得た。
【0107】
<プライマー層用樹脂組成物PC13~47の調製>
シリカ粒子の平均粒子径および/または含有量を、表2または3に示されるように変更した以外は、プライマー層用組成物PC3と同様にしてプライマー層用樹脂組成物PC13~47を得た。
【0108】
<プライマー層用樹脂組成物PC48の調製>
樹脂の種類を表3に示されるように変更した以外は、プライマー層用樹脂組成物PC1と同様にしてプライマー層用樹脂組成物PC48を得た。
【0109】
得られたプライマー層用樹脂組成物PC1~12の組成を表1に、PC13~33の組成を表2に、PC34~48の組成を表3に示す。
【0110】
なお、表中の略称は、以下を示す。
MDI:メチレンジフェニルジイソシアネート(芳香族)
TDI:トリレンジイソシアネート(芳香族)
XDI:キシリレンジイソシアネート(芳香族)
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(脂肪族)
IPDI:イソホロンジイソシアネート(脂環式)
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール
ポリエステル樹脂:水酸基含有ポリエステル樹脂
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
なお、プライマー層用樹脂組成物に含まれる、エポキシ樹脂の数平均分子量およびシリカ粒子の平均粒子径は、以下の方法で測定した。
【0115】
(数平均分子量)
エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定した。具体的には、以下の測定条件で測定した。
GPC装置には東ソー株式会社製のGPC装置HLC-8010を使用し、カラムにはShodex社製のK-800DとK805Lの2本のカラムを使用し、溶離液にはクロロホルムを用いた。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の値は、標準ポリスチレンから換算した。
【0116】
(平均粒子径)
樹脂組成物中のシリカ粒子の平均粒子径は、レーザー粒度分布計(島津製作所社製、SALD7100)により測定した。
【0117】
(4)ゴム層用塗料組成物
<ゴム層用塗料組成物R1の調製>
3元系フッ素ゴムポリマーに対して、5質量%のポリオール系架橋剤、15質量%のカーボンブラックおよび10質量%のPTFE粒子(PTFEマイクロパウダー、分子量10万、平均粒子径4μm)をイソホロンに分散させて、ゴム層用塗料組成物R1を得た。
【0118】
<ゴム層用塗料組成物R2の調製>
PTFE粒子を添加しなかった以外はゴム層用塗料組成物R1と同様にしてゴム層用塗料組成物R2を得た。
【0119】
2.複合体の作製および評価
<複合体1の作製>
(1)塗装金属板PCM1の作製
まず、厚み0.2mmのSUS301-CSP-H(金属板M1)の表面をアルカリ脱脂した。この鋼板のアルカリ脱脂した面上に、上記調製した化成処理液C1をバーコート法で塗布した後、乾燥させて、皮膜付着量100mg/mの化成処理皮膜を形成した。次いで、化成処理皮膜上に、プライマー層用樹脂組成物PC1をバーコート法で塗布した後、板到達温度200℃で焼き付けて、厚み5μm、表面粗さRa0.8μmのプライマー層を形成し、塗装金属板PCM1を得た。
【0120】
塗装金属板PCM1のプライマー層の表面粗さRaは、以下の方法で測定した。
【0121】
(表面粗さRa)
塗装金属板PCM1のプライマー層の表面粗さRa(算術平均粗さ)を、JIS B0601-2001に準拠して、株式会社東京精密製SURFCOM130Aを用いて測定した。
【0122】
(2)複合体1の作製
次いで、得られた塗装金属板PCM1上に、上記調製したゴム層用塗料組成物R1をスクリーン印刷し、温度170℃で20分間仮乾燥させた後(乾燥工程)、さらに250℃で30分間本乾燥(架橋工程)させて、厚み20μmのゴム層を積層した。それにより、塗装金属板PCM1とゴム層の複合体1を得た。
【0123】
なお、得られた複合体1では、プライマー層のゴム層側の表層部には、ゴム層用塗料組成物R1の溶媒成分の浸透によって形成された膨潤部が形成されていることが、複合体断面の低真空SEM観察により確認された。
【0124】
<複合体2~55の作製>
塗装金属板の種類を表4~6に示されるように変更した以外は複合体1と同様にして、複合体2~55を得た。
【0125】
<複合体56および59の作製>
ゴム層用塗料組成物の種類を表7に示されるように変更した以外は複合体3および34とそれぞれ同様にして、複合体56および59を得た。
【0126】
<複合体57および58の作製>
ゴム層の厚みを表7に示されるように変更した以外は複合体3と同様にして、複合体57および58を得た。
【0127】
得られた複合体1~59の耐不凍液性および耐高温摺動性を、以下の方法で評価した。
【0128】
(耐不凍液性)
得られた複合体を、不凍液(トヨタ社製ロングライフクーラント)の50容積%水希釈液中に半分浸漬して、圧力容器中、150℃で24時間保持した。その後、不凍液から引き上げた複合体の表面に、JIS K6894に規定される描画試験に従って、半径4.5mmの螺旋を25回描き、未浸漬部(気相)と浸漬部(液相)の境界部(気液界面)のゴム層の剥離状態を、以下の基準で評価した。
○:描画線の太さが300μm未満で、ゴム層の剥離なし
△:描画線の太さが300μm以上で、ゴム層の剥離なし
×:描画線で囲まれた面積の最も小さい部分(重点調査部位)に1ヶ所以上の剥離が発生
△以上であれば良好と判断した。
【0129】
(耐高温摺動性)
得られた複合体の耐高温摺動性は、ラビングテスター(大平理化工業製)により行った。具体的には、150℃に加熱したステージ上に複合体を固定し、摩擦相手材として直径約5mmのSUS304鋼球を用いて、ステージ移動幅50mm、振動数50Hz、荷重は400gの条件で摺動試験(摩擦摩耗試験)を行った。
そして、耐高温摺動性の評価は、鋼球が接触する部分の80%において、ゴム層の磨耗、もしくは剥離により、プライマー層が視認されるようになるまでの往復回数によって行った。具体的には、以下の基準で評価した。
○:往復回数が20回以上
△:往復回数が10回以上20回未満
×:往復回数が10回未満
△以上であれば良好と判断した。
【0130】
複合体1~12の評価結果を表4に、複合体13~38の評価結果を表5に、および複合体39~55の評価結果を表6に、複合体56~59の評価結果を表7にそれぞれ示す。
【0131】
【表4】
【0132】
【表5】
【0133】
【表6】
【0134】
【表7】
【0135】
表4および5に示されるように、化成処理皮膜とプライマー層とを有し、かつプライマー層が、平均粒子径2~10μmのシリカ粒子とを含み、かつ表面粗さRaは、0.1~10μmである複合体1~38は、耐不凍液性および耐高温摺動性ともに良好であることがわかる。
【0136】
特に、硬化剤が、芳香環を含む硬化剤であると、耐高温摺動性がより高まることがわかる(複合体3、4、10および11の対比)。これは、プライマー層の耐熱性が高くなることで、プライマー層とゴム層との接着性を維持できたためと考えられる。
【0137】
また、エポキシ樹脂の数平均分子量が2000以上であると、耐不凍液性が高まり、8000以下であると、耐高温摺動性が高まることがわかる(複合体1~5、8および9の対比)。
【0138】
また、表7に示されるように、ゴム層がPTFE粒子を含むことで、複合体の耐不凍液性が向上することがわかる(複合体56と3との対比、複合体59と34との対比)。これは、PTFE粒子の添加により、含フッ素重合体の架橋物(フッ素ゴム)の凝集力が弱められ、プライマー層の密着力とゴム層の凝集力とのバランスがとれたためと考えられる。
【0139】
これに対し、表6に示されるように、プライマー層に含まれるシリカ粒子の平均粒子径が1μm未満である複合体39、41、45、49、51および54は、表面粗さRaが0.1μm未満と小さかった。そのため、耐高温摺動性が低いことがわかる。また、プライマー層に含まれるシリカ粒子の平均粒子径が10μmを超える複合体40、42、46、50および52は、耐不凍液性および耐高温摺動性ともに低いことがわかる。また、化成処理皮膜を有しない複合体53は、耐不凍液性および耐高温摺動性ともに低いことがわかる。また、プライマー層の厚さとシリカ粒子の平均粒子径がともに1μmの複合体54は、プライマー層の表面粗さRaが0.1μm未満と小さく、耐不凍液性および耐高温摺動性ともに低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によれば、簡単な方法で得ることができ、かつ良好な耐不凍液性と耐高温摺動性とを有する複合体、ガスケットおよび複合体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0141】
100 複合体
110 塗装金属板
120 ゴム層
111 金属板
112 化成処理皮膜
113 プライマー層
113A 膨潤部
図1