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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】湧水圧測定装置および湧水圧測定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
E02D1/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020044934
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021147751
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000168506
【氏名又は名称】鉱研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山本 肇
(72)【発明者】
【氏名】熊本 創
(72)【発明者】
【氏名】増岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】久我 俊充
(72)【発明者】
【氏名】奥津 健太郎
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044509(JP,A)
【文献】特開2018-021315(JP,A)
【文献】特開2007-070870(JP,A)
【文献】特開2001-207771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00- 3/115
E21B 1/00-49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔ロッドと、
前記削孔ロッドの先端に固定された環状のアウタービットと、
前記アウタービットの内空部に挿脱自在に配置されたインナービットと、
前記アウタービットの内空部に挿通可能なパッカー装置と、
前記パッカー装置の先端から取り込まれた湧水の圧力を測定する圧力計と、を備える湧水圧測定装置であって、
前記インナービットは、前記アウタービットに対して後方から挿脱可能であり、
前記パッカー装置は、取水管と、前記取水管の先端部外周に拡張可能に取り付けられたパッカー材と、を備えていることを特徴とする、湧水圧測定装置。
【請求項2】
前記アウタービットの内空は、非円形断面であり、
前記インナービットの外形は、前記アウタービットの内空に嵌合可能な非円形断面であることを特徴とする、請求項1に記載の湧水圧測定装置。
【請求項3】
トンネル切羽前方の地盤内の湧水圧を測定することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の湧水圧測定装置。
【請求項4】
アウタービットと前記アウタービットの内空部に挿脱自在のインナービットとを備えた二重ビットが先端に固定された削孔ロッドを使用して切羽前方に向けてボーリング孔を削孔する削孔工程と、
前記削孔ロッドの先端部において前記ボーリング孔と前記削孔ロッドとの隙間を遮蔽する止水工程と、
前記ボーリング孔内に流入する湧水の圧力を測定する測定工程と、を備える湧水圧測定方法であって、
前記削孔工程では、前記アウタービットの内空部に前記インナービットを取り付けた状態で削孔を行い、
前記止水工程では、前記インナービットを前記アウタービットから取り外して回収する作業と、パッカー装置を前記アウタービットの内空部に挿通させて前記パッカー装置の先端部を前記ボーリング孔内に露出させる作業と、前記パッカー装置の先端部に設けられたパッカー材を拡張させて当該パッカー材を前記ボーリング孔の孔壁に密着させる作業とを行い、
前記測定工程では、前記パッカー装置の先端から取水管を通して取り込まれた湧水の圧力を測定することを特徴とする、湧水圧測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧測定技術に関する。特に地盤内で発生する湧水の圧力測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事では、切羽前方の地質や湧水区間の状況を事前に把握することが、地山の安定性確保や工事の安全管理のうえで重要である。切羽前方の地質や地下水状況(水理特性等)の探査方法として、水平調査ボーリングを行う場合がある。
例えば、特許文献1には、切羽前方に向けて形成されたボーリング孔内にパッカー装置を挿入し、パッカー装置で区切られた測定区間毎に湧水量および地下水圧を測定し、この観測データに基づいて、切羽前方の地層の透水係数を推定する計測方法が開示されている。ところが、特許文献1の計測方法は、削孔用のボーリングロッドをボーリング孔から抜き出してから、計測用のパッカー装置を挿入する必要があるため、作業に手間がかかる。
そのため、特許文献2には、削孔ロッドを残置させた状態で湧水圧測定を行う方法が開示されている。特許文献2の湧水圧測定方法では、先端に掘削ビットが設けられた削孔ロッドを利用してボーリング孔を削孔した後、まず、先端にパッカーを有する管材を削孔ロッド内に挿入し、この管材を利用して掘削ビットを前方に押し込む。掘削ビットを押し込むことで管材の先端が削孔ロッドの先端よりも突出したら、パッカーを拡張させてボーリング孔の内壁面に密着させ、管材から地下水を取水し、湧水圧の測定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-52328号公報
【文献】特開2018-21315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、切羽前方の湧水圧を測定した後、速やかに削孔を再開できる湧水圧測定装置付削孔装置を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、次の手段を提案する。
1.削孔ロッドと、前記削孔ロッドの先端に固定された環状のアウタービットと、前記アウタービットの内空部に挿脱自在に配置されたインナービットと、前記アウタービットの内空部に挿通可能なパッカー装置と、前記パッカー装置の先端から取り込まれた湧水の圧力を測定する圧力計と、を備える湧水圧測定装置であって、前記インナービットは、前記アウタービットに対して後方から挿脱可能であり、前記パッカー装置は、取水管と、前記取水管の先端部外周に拡張可能に取り付けられたパッカー材と、を備えていることを特徴とする、湧水圧測定装置。
2.前記アウタービットの内空は、非円形断面であり、前記インナービットの外形は、前記アウタービットの内空に嵌合可能な非円形断面であることを特徴とする、1に記載の湧水圧測定装置。
3.トンネル切羽前方の地盤内の湧水圧を測定することを特徴とする、1または2に記載の湧水圧測定装置。
4.アウタービットと前記アウタービットの内空部に挿脱自在のインナービットとを備えた二重ビットが先端に固定された削孔ロッドを使用して切羽前方に向けてボーリング孔を削孔する削孔工程と、前記削孔ロッドの先端部において前記ボーリング孔と前記削孔ロッドとの隙間を遮蔽する止水工程と、前記ボーリング孔内に流入する湧水の圧力を測定する測定工程と、を備える湧水圧測定方法であって、前記削孔工程では、前記アウタービットの内空部にインナービットを取り付けた状態で削孔を行い、前記止水工程では、前記インナービットを前記アウタービットから取り外して回収する作業と、パッカー装置を前記アウタービットの内空部に挿通させて前記パッカー装置の先端部を前記ボーリング孔内に露出させる作業と、前記パッカー装置の先端部に設けられたパッカー材を拡張させて当該パッカー材を前記ボーリング孔の孔壁に密着させる作業とを行い、前記測定工程では、前記パッカー装置の先端から取水管を通して取り込まれた湧水の圧力を測定することを特徴とする、湧水圧測定方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、切羽前方の湧水圧を測定した後、速やかに削孔を再開できる湧水圧測定装置付削孔装置を実現できた。
本発明の湧水圧測定装置および湧水圧測定方法によれば、下記効果が得られる。
(1)アウタービットとインナービットとにより全断面掘削を行うことが可能である。
(2)湧水圧の測定は、インナービットを回収した状態で、アウタービットの内空部に挿通させたパッカー装置により行うため、削孔ロッドを回収する必要がなく、孔壁の安定性を確保した状態で比較的簡易に行うことができる。さらに、後方から挿脱可能なインナービットを備えているため、ビットを前方に押し込む方法よりも速やかに再削孔を再開することができる。
(3)アウタービットの内空が非円形断面であり、インナービットの外形が前記アウタービットの内空に嵌合可能な非円形断面であるため、削孔時の回転力がアウタービットからインナービットに伝達され、確実に全断面削孔ができる。
(4)アウタービットの前方に押し出したパッカー装置を利用してボーリング孔を封鎖するので、ボーリング孔先端の湧水箇所と、それ以外の部分とを分離して他の区間からの湧水(地下水)の流入や、他の区間への湧水(地下水)流出を防止することができ、したがって、所定箇所における湧水圧の測定をより高精度に行うことができる。
(5)トンネル切羽前方の水理地質状況を確認するための中距離(100m程度)の水平ボーリングに適用することで、1か所のボーリング孔を用いて削孔と湧水圧の測定を繰り返し行うことができ、切羽前方のボーリング軸方向の複数個所における湧水圧測定を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る削孔状況を示す断面図である。
図2】アウタービットおよびインナービットを示す斜視図である。
図3】(a)は湧水圧測定状況を示す側面図、(b)はパッカー装置の一部を示す断面図である。
図4】湧水圧測定方法の止水工程の概要を示す側面図であって、(a)は回収装置セット状況、(b)はオーバーショットセット状況、(c)はオーバーショットの送り込み状況、(d)はインナービットの引抜状況、(e)はインナービットの回収状況を示している。
図5】(a)は図4(e)に続く湧水圧測定方法の止水工程の側面図、(b)は湧水圧測定工程の側面図、(c)はパッカー回収工程の側面図である。
図6】第二実施形態に係る湧水圧測定方法の概要を示す側面図であって、(a)は止水工程、(b)は湧水圧測定工程、(c)はパッカー回収工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<第一実施形態>
第一実施形態では、湧水が予想されるトンネル工事において、事前に地山Gの湧水状況を把握することを目的として、湧水圧測定装置1を利用して切羽前方の湧水圧を測定する湧水圧測定方法について説明する。
図1は、本実施形態における削孔状況を示す断面図であり、地山Gには湧水が想定される湧水帯G0がある。本実施形態における削孔時の湧水圧測定装置1は、削孔ロッド2と削孔ロッド2先端に接続されたアウタービット3と、アウタービット3の内空部に嵌合したインナービット4とで構成され、図示していないボーリングマシンからの回転力を、削孔ロッド2を通じてアウタービット3とインナービット4に伝達してボーリング孔BHを形成する。インナービット4の基端側にはインナーヘッドアッセンブリー40が接続されている。インナーヘッドアッセンブリー40の外面には、削孔ロッド2に固定するためのラッチ41が設けられているため、ボーリングマシンからの打撃力を、削孔ロッド2を介してインナービット4まで伝えることができる。また、インナーヘッドアッセンブリー40の基端には回収用のワンタッチジョイント式の嵌合部材42が設けられている。
ボーリング孔BHの切羽部の坑口は口元保護管7を設置して充填材71で固定されている。削孔ロッド2は、中空の筒状部材からなり、複数のロッド構成材(管材)を軸方向に連結することにより構成されている。
【0009】
図2に示す二重ビットの外側のアウタービット3は、環状を呈している。アウタービット3の内空部は、非円形断面(八角形状断面)である。
インナービット4は、アウタービット3の内空部に配置される。インナービット4は、アウタービット3に対して孔軸方向に後方から挿脱可能である。また、インナービット4の外形は、アウタービット3の内空に嵌合可能な非円形断面とすることができ、図示の八角形状断面に限定されない。
【0010】
図3(a)は本実施形態における湧水圧測定状況を示す断面図である。パッカー装置5は、図3(a)に示すように、削孔ロッド2およびアウタービット3に挿通可能な外形を有している。すなわち、パッカー装置5の断面形状は、削孔ロッド2の内空断面およびアウタービット3の内空断面よりも小さい。パッカー装置5は、取水管51と先端部外周に取り付けられたパッカー材52とを備えている。また、パッカー装置5の孔口側端部には取水管51と連通した圧力計6が設けられている。
パッカー装置5は、湧水圧を測定する位置まで掘削した後に、削孔ロッド2と削孔ロッド2に取り付けられたアウタービット3およびインナービット4を後退させ、インナービット4を後方に回収後に、アウタービット3の前方にパッカー材52が到達するように挿入する。このためパッカー材52が拡張していない状態の外径はアウタービット3の内空部に挿通可能な大きさである。
パッカー装置5を所定の位置に挿入した後、パッカー材52を拡張してボーリング孔BHと削孔ロッド2との隙間からの漏水を防止することで、湧水帯G0からの湧水W0の圧力が取水管51を介して伝播し、圧力計6により湧水圧を測定することが可能になる。
【0011】
取水管51は、図3(b)に示すように、湧水W0を取り込む内管53と、内管53に沿わせた圧送管54とからなる構造である。圧送管54は、パッカー拡張用の流体W1(本実施形態では水を使用する)を圧送するためのチューブであり、パッカー材52内に流体W1を流入する構造となっている。
パッカー材52は、取水管51の外面に拡張可能に取り付けられていて、拡張した際の外形状が、ボーリング孔BHの径と同等以上である。パッカー材52は、ゴム製袋体または縁部が取水管51の外面に密着されたゴム板からなり、取水管51(圧送管54)を介して圧送された流体(水)W1により膨張する。パッカー材52を構成する材料は、遮水性を有し内部に圧入された流体W1の圧力および湧水圧に対して十分な強度を有した材料であれば限定されるものではない。また、パッカー材52は、ゴム以外の伸縮性材料により構成してもよいし、流体W1により拡張可能となるように取水管51の外面に折り畳まれた状態で設けられたシート状の材料により構成してもよい。
【0012】
本実施形態の湧水圧測定方法は、削孔工程と、止水工程と、湧水圧測定工程と、パッカー回収工程と、再削孔工程とを備えている。
削孔工程では、図1に示すように、アウタービット3が先端に固定された削孔ロッド2を使用して切羽前方に向けてボーリング孔BHを削孔する。削孔工程は、アウタービット3の内空部にインナービット4を取り付けた状態で行う。本実施形態のボーリング孔BHは、略水平(基端側よりも先端側が高い状態も含む)に形成する。尚、ボーリング孔BHの削孔方向は略水平に限定されるものではなく、例えば鉛直等の縦向きに削孔してもよい。ボーリング孔BHの削孔は、削孔ロッド2により行う。削孔ロッド2が図示しないボーリングマシンの動力により中心軸を中心に回転すると、アウタービット3およびインナービット4が地山Gを全断面切削する。
【0013】
止水工程では、図3(b)に示すように削孔ロッド2の先端部においてボーリング孔BHと削孔ロッド2との隙間を遮蔽する。止水工程では、まず、湧水帯G0を貫くように掘削を完了した削孔ロッド2を、所定の位置まで後退させる。削孔ロッド2は、削孔ロッド2の先端が、湧水帯G0よりも孔口側または、湧水帯G0に面する位置まで後退させる。
削孔ロッド2を後退させたら、インナービット4をアウタービット3から取り外して後方に回収する。
【0014】
ここで、止水工程のうちインナービット4の回収についての詳細について図4各図を用いて説明する。
図4(a)は回収装置8のセット状況を示す側面図であり、地山Gに固定した口元保護管7から突出した削孔ロッド2の坑口側端部に回収装置8が取り付けられる。回収装置8は、削孔ロッド2に連結されたピンチバルブ81と、ピンチバルブ81に連結された回収鋼管82と、回収鋼管82に連結されたウォータースイベル83と、ウォータースイベル83に連結されたプリペンダー84とを備えている。
図4(b)はオーバーショット86のセット状況を示す側面図である。オーバーショット86の先端部はインナーヘッドアッセンブリー40の基端に設けられたワンタッチジョイント式の嵌合部材42と篏合する形状であり、オーバーショット86の後端部にはワイヤー85が接続された状態で回収鋼管82内に配設する。
図4(c)はオーバーショット86の送り込み状況を示す側面図である。オーバーショット86を送り込む際にはピンチバルブ81を開き、ウォータースイベル83を介して圧入された水W2の圧力を利用する。この水圧により削孔ロッド2の先端側までオーバーショット86が送り込まれる。
図4(d)はインナービット4の引き抜き状況である。水W2の圧力により削孔ロッド2の先端側に送り込まれたオーバーショット86は、インナーヘッドアッセンブリー40の基端に設けられたワンタッチジョイント式の嵌合部材42(図1参照)と、オーバーショット86の先端部とが嵌合することで、インナーヘッドアッセンブリー40に接続される。オーバーショット86をインナーヘッドアッセンブリー40に接続したら、図示しないウィンチ等によりワイヤー85を巻き上げることで、オーバーショット86およびインナーヘッドアッセンブリー40に接続されたインナービット4を回収鋼管82内まで引き抜く。
図4(e)はインナービット4の回収状況である。インナービット4の回収鋼管82内への引き込み後、ピンチバルブ81を閉じた状態で、回収鋼管82からウォータースイベル83を取り外し、インナービット4を回収装置8から取り出す。
【0015】
次に、止水工程のうちパッカー装置5の設置方法の詳細について図5(a)および図5(b)を用いて説明する。インナービット4の回収後、ピンチバルブ81を閉じた状態で、パッカー装置5を回収鋼管82内に配設し、ウォータースイベル83と、ウォータースイベル83に連結されたプリペンダー84を回収鋼管82の基端に取り付ける。パッカー装置5を送り込む際には、ピンチバルブ81を開け、複数の取水管構成材を軸方向に連結しながら削孔ロッド2の先端側に送り込む。
パッカー装置5は、図5(b)に示すようにアウタービット3を通過し、パッカー装置5の先端部(パッカー材52)がボーリング孔BH内に露出するまで送り込む。
次に、ボーリング孔BH内においてパッカー装置5の先端部に設けられたパッカー材52を拡張させて当該パッカー材52をボーリング孔BHの孔壁に密着させる。こうすることで、パッカー材52よりも孔口側から孔壁と削孔ロッド2との隙間や削孔ロッド2とパッカー装置5との隙間に地下水(湧水W0)が流入することを防ぐことができ、パッカー材52より前方の湧水帯G0からの湧水W0のみを確実に捕捉することができる。地下水は、取水管51の先端から取水管51内に取り込まれて、取水管51を介して孔口側に輸送される。
【0016】
湧水圧測定工程では、パッカー装置5(取水管51)の先端から取水管51に取り込まれた湧水W0(ボーリング孔BH内に流入する湧水W0)の圧力を測定する。本実施形態では、削孔ロッド2の孔口側端部に固定された回収装置8に挿通させた取水管51の端部に圧力計6を設置する。
【0017】
パッカー回収工程は、湧水圧の測定後、パッカー装置5を回収する工程である。パッカー装置5の回収は、図5(c)に示すように、パッカー材52を収縮させた状態で、取水管51を引き抜くことにより行う。
【0018】
再削孔工程は、湧水圧の測定後に、再度削孔を行う工程である。再削孔工程では、パッカー装置5が回収された削孔ロッド2にインナービット4を後方から挿入し、アウタービット3にインナービット4を再度取り付ける。このとき、インナービット4は、ウォータースイベル83を介して圧入された水W2の圧力により、削孔ロッド2の先端側に送り込み、アウタービット3に嵌合させる。インナービット4をアウタービット3に取り付けたら、ボーリング孔BHの削孔を再開する。
【0019】
本実施形態の水圧測定方法によれば、削孔ロッド2を回収することなく湧水圧を測定するため、水圧測定時においてもボーリング孔BHの孔壁の安定性を確保できるとともに、後方から挿脱可能なインナービット4を備えているため、ボーリング掘削の再開が容易である。また、パッカー装置5を利用して、ボーリング孔BH先端の湧水箇所と、それ以外の部分とを分離するため、他の区間からの地下水の流入や、他の区間への地下水の流出を防止し、所定箇所における湧水圧の測定をより高精度に行うことができる。
さらに、アウタービット3の内空が非円形断面であり、インナービット4の外形がアウタービット3の内空に嵌合可能な非円形断面であるため、インナービット4の取り外しが容易である。また、湧水圧の測定後にボーリング掘削を再開する際にアウタービット3にインナービット4を取り付けることができる。また、アウタービット3と非円形のインナービット4とが嵌合しているため、削孔時の回転力がアウタービット3からインナービット4に伝達され、効率的な全断面削孔が可能となり、その結果、硬岩掘削も可能である。
【0020】
<第二実施形態>
第二実施形態では、湧水が予想されるトンネル工事において、事前に地山Gの湧水状況を把握することを目的として、湧水圧測定装置1を利用して切羽前方の湧水圧を測定する湧水圧測定方法について説明する。第二実施形態では、パッカー装置5を水圧により削孔ロッド2の先端に送り込むことで、取水管51の延長に要する手間や取水管構成材の本数の低減化を図る。
本実施形態の湧水圧測定装置1は、削孔ロッド2と、アウタービット3と、インナービット4と、パッカー装置5と、圧力計6とを備えている。削孔ロッド2、アウタービット3およびインナービット4の構成は、第一実施形態と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0021】
第二実施形態に係る湧水圧測定方法について図6を用いて説明する。
パッカー装置5は、図6(a)に示すように、削孔ロッド2およびアウタービット3に挿通可能な外形を有している。パッカー装置5は、取水管51と、取水管51の先端部外周に拡張可能に取り付けられた第一パッカー材(パッカー材)57と、取水管51の後部外周に拡張可能に取り付けられた第二パッカー材(パッカー材)58とを備えている。
取水管51は、管材からなり、取水管51の後端部には、削孔ロッド2に取水管51を固定するためのラッチ56が形成されている。
第一パッカー材57は、拡張した際の外形状が、ボーリング孔BHの径と同等以上である。第二パッカー材58は、拡張した際の外形状が、削孔ロッド2の内径と同等以上である。
【0022】
図6(b)に示すように圧力計6は、パッカー装置5(取水管51)の先端から取り込まれた湧水W0の圧力を測定する。本実施形態の圧力計6は、ボーリング孔BHの孔口のウォータースイベル83に取り付けられている。
【0023】
本実施形態の湧水圧測定方法は、削孔工程と、止水工程と、湧水圧測定工程と、パッカー回収工程と、再削孔工程とを備えている。なお、削孔工程の詳細は、第一実施形態と同様なため、詳細な説明は省略する。
止水工程では、削孔ロッド2の先端部においてボーリング孔BHと削孔ロッド2との隙間を遮蔽する。止水工程では、まず、削孔ロッド2を、所定の位置まで後退させる。削孔ロッド2は、削孔ロッド2の先端が、湧水帯G0よりも孔口側または、湧水帯G0に面する位置まで後退させる。
削孔ロッド2を後退させたら、インナービット4をアウタービット3から取り外して回収する。インナービット4の回収方法は、第一実施形態と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0024】
インナービット4を回収したら、図6(a)、(b)に示すように、パッカー装置5を削孔ロッド2とアウタービット3に挿通させて、削孔ロッド2のボーリング孔BHの先端に送り込む。
まず、図6(a)に示すようにパッカー装置5を回収鋼管82内に配置する。次に、ピンチバルブ81を開いた状態で、ウォータースイベル83を介して水W2を圧入し、水圧によりパッカー装置5をボーリング孔BHの先端に送り込む。パッカー装置5は、図6(b)に示すように、パッカー装置5の先端部(第一パッカー材57)がアウタービット3を通じてボーリング孔BH内に露出するまで送り込む。
次に、ボーリング孔BH内においてパッカー装置5の先端部に設けられた第一パッカー材57および第二パッカー材58を拡張させて第一パッカー材57をボーリング孔BHの孔壁に密着させるとともに第二パッカー材58を削孔ロッド2の内側に密着させる。こうすることで、第一パッカー材57よりも孔口側から孔壁と削孔ロッド2との隙間や削孔ロッド2とパッカー装置5との隙間に地下水(湧水W0)が流入することが防止される。さらに、第二パッカー材58によってパッカー装置5とボーリング孔BHとの隙間の地下水(湧水W0)が削孔ロッド2内に流入することが防止され、第一パッカー材57より前方の地山Gからの湧水W0のみを確実に捕捉することができる。地下水は、取水管51の先端から取り込まれて、取水管51および削孔ロッド2の内側を介して孔口側に輸送される。
【0025】
湧水圧測定工程では、図6(b)に示すようにパッカー装置5(取水管51)の先端から取り込まれた湧水W0(ボーリング孔BH内に流入する湧水W0)の圧力を測定する。湧水W0は、取水管51を介して削孔ロッド2内に取り込まれる。本実施形態では、回収装置8のウォータースイベル83に取り付けられた圧力計6により、削孔ロッド2内の湧水圧を測定する。
【0026】
図6(c)に示すパッカー回収工程は、湧水圧の測定後、パッカー装置5を回収する工程である。パッカー装置5の回収は、回収装置8により行う。まず、ワイヤー85が接続されたオーバーショット86を回収鋼管82内に配設する(図4(b)参照)。次に、ピンチバルブ81を開いて、オーバーショット86を削孔ロッド2内に挿入する(図4(c)参照)。オーバーショット86は、ウォータースイベル83を介して圧入された水の圧力により、削孔ロッド2の先端側に送り込む。オーバーショット86は、削孔ロッド2内において、パッカー装置5に接続される。パッカー装置5の基端には、オーバーショット86の先端部と嵌合可能な回収用の嵌合部材が設けられていて、オーバーショット86の先端部とパッカー装置5の基端(嵌合部材)とが嵌合することにより、オーバーショット86とパッカー装置5とが接続される(図6(c))。オーバーショット86をパッカー装置5に接続したら、図6(c)に示すように、図示しないウィンチ等によりワイヤー85を巻き上げることで、オーバーショット86およびパッカー装置5を引き抜く。パッカー装置5を回収鋼管82内に引き込んだら、ピンチバルブ81を閉じて、パッカー装置5を回収装置8から取り出す。
【0027】
再削孔工程は、湧水圧の測定後に、再度削孔を行う工程である。再削孔工程では、パッカー装置5が回収された後の削孔ロッド2にインナービット4を挿入し、アウタービット3にインナービット4を再度取り付けてボーリング孔BHの削孔を再開する。このとき、インナービット4は、ウォータースイベル83を介して圧入された水の圧力により、削孔ロッド2の先端側に送り込み、アウタービット3に嵌合させる。
第二実施形態の水圧測定方法によれば、第一実施形態の水圧測定方法と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記各実施形態では、アウタービット3にインナービット4を取り付けた状態で削孔する場合について説明したが、ボーリングコアを採取する場合には、インナービット4を取り外した状態で削孔を行ってもよい(コア採取工程)。このとき、アウタービット3には、インナービット4に代えてコアバレルを取り付けるのが望ましい。ボーリングコアの採取は、削孔工程において実施してもよいし、再削孔工程において実施してもよい。
【0029】
前記各実施形態では、アウタービット3の内空部の断面形状およびインナービット4の断面形状が八角形状である場合について説明したが、アウタービット3の内空部およびインナービット4の外形は、互いに嵌合可能な非円形であれば、八角形状に限定されるものではない。アウタービット3の内空部およびインナービット4の外形は、例えば、八角形以外の多角形状(三角形、四角形、…等)であってもよいし、楕円形等であってもよい。また、互いに嵌合可能な凹凸がアウタービット3とインナービット4に形成されていてもよい。さらに、アウタービット3の内空部とインナービット4の外形は、嵌合可能であれば必ずしも同形状である必要はない。なお、アウタービット3の内空部の断面形状は、パッカー装置5を挿通する断面形状をなるべく大きく確保できるとともに、アウタービット3とインナービット4との連結部の凹凸をなるべく多く確保できる形状として、円形に近い多角形状であるのが望ましい。
【0030】
前記各実施形態では、圧送管54(チューブ)を使用して、取水管51を介して圧送された流体W1によりパッカー材52を拡張させるものとしたが、パッカー材52の拡張方法は限定されるものではない。例えば、取水管51を二重管構造として流体W1を圧送することでパッカー材52を拡張させてもよい。
前記各実施形態では、湧水圧測定工程後に、再削孔工程を行う場合について説明したが、ボーリング孔BHの再削孔は必要に応じて行えばよい。
本発明の湧水圧測定方法および湧水圧測定装置1の使用目的は、切羽前方の湧水状況を確認する場合に限定されるものではなく、他の場所における地中の湧水状況を確認に使用可能である。このとき、ボーリング孔BHの削孔方向は、水平を含めた横向きであってもよいし、鉛直を含めた縦向きであってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 湧水圧測定装置
2 削孔ロッド
3 アウタービット
4 インナービット
5 パッカー装置
51 取水管
52 パッカー材
53 内管
54 圧送管
57 第一パッカー材(パッカー材)
58 第二パッカー材(パッカー材)
6 圧力計
BH ボーリング孔
G 地山
G0 湧水帯
W0 湧水
図1
図2
図3
図4
図5
図6