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特許7385221ADAMTS13を主成分とする診断薬および医薬品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】ADAMTS13を主成分とする診断薬および医薬品
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20231115BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20231115BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20231115BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20231115BHJP
【FI】
A61K38/48
A61P1/16
A61P9/10
C12N9/50
C12N15/57
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021076134
(22)【出願日】2021-04-28
(62)【分割の表示】P 2017560441の分割
【原出願日】2017-01-06
(65)【公開番号】P2021129565
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2016002685
(32)【優先日】2016-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】秦 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】上本 伸二
(72)【発明者】
【氏名】平尾 浩史
(72)【発明者】
【氏名】久保田 豊成
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/029242(WO,A1)
【文献】International Journal of Hepatology,2011年,Vol.2011,Article ID 759047,doi:10.4061/2011/759047
【文献】Blood,2003年,Vol.102,pp.3232-3237
【文献】平尾浩史他,肝虚血再灌流障害におけるADAMTS13の役割,日本消化器外科学会雑誌,2015年,Vol.48,Suppl.1,p.509, O-23-2
【文献】久保田豊成他,部分肝移植におけるADAMTS13の保護効果~ラット20%部分肝移植モデルを用いた検討~,Organ Biology,2015年,No.22, No.3,p.83, O5-4
【文献】Hepatology,2013年08月,Vol.58,pp.752-761
【文献】FEBS Letters,2007年03月20日,Vol.581,pp.1631-1634
【文献】World Jornal of Hepatology,2015年,Vol.7,pp.1772-1781
【文献】European journal of surgical oncology,2008年02月12日,Vol.34/No.11,pp.1231-1236
【文献】Journal of hepatobiliary pancreatic surgery,2008年12月18日,Vol.16/No.2,pp.137-144
【文献】石川昌利他,急性肝不全におけるADAMTS13活性の意義-ADAMTS13ノックアウトマウスを用いての検討,肝臓,2007年,Vol.48, Suppl.3,A531, O-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ADAMTS13またはADAMTS13の改変体を含む、急性肝不全/劇症肝炎の治療剤であって、ここでADAMTS13の改変体が、ADAMTS13の活性発現最小単位であるメタロプロテアーゼドメインからスペーサードメインまでを含む分子である、治療剤。
【請求項2】
ADAMTS13の改変体が、ADAMTS13の1427個のアミノ酸残基のうち689番目のアミノ酸からC末端側が欠失したC末欠失改変体W688X(「ADAMTS13W688X蛋白」)である、請求項1に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用医薬品の分野に係る蛋白質に関する。詳細には、血液凝固に関与するフォンビルブランド因子(von Willebrand Factor:以下、「vWF」と称することがある)の特異的切断酵素(以下、「ADAMTS13」と称する)の全長もしくは部分断片の臨床分野での新規な用途に関する。具体的には、本発明は、肝障害、肝虚血/再灌流障害および肝移植の分野でのADAMTS13の全長もしくは部分断片の新規な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、代謝、解毒(アルコールや有害物質の解毒)、生体防御(免疫)を司る重要な臓器である。急性肝炎とは、主に肝炎ウイルスの感染が原因でおきる急性の肝機能障害を呈する病気であり、症状としては、黄疸、食欲不振、嘔気嘔吐、全身倦怠感、発熱などがある。今までに肝炎ウイルスとしては、A、B、C、D、E型の5種類が確認されている。急性肝炎は一般的には経過が良好な疾患であるが、約1-2%の患者は劇症化し、一度劇症化すると高率に死に至る可能性が高くなり、肝臓移植治療が必要となる。
【0003】
急性肝炎の前駆症状は、いわゆる感冒様症状(発熱、咽頭痛、頭痛)であり、病初期はしばしば感冒と診断され感冒薬を処方されている例が少なくない。この時点での急性肝炎の診断は困難である。肝障害が生じていることを示す特異的症状は黄疸であり、通常は、眼球の色の黄染、皮膚の黄染が出現する数日前から褐色尿が観察される。褐色尿とは、ウーロン茶のような色をした尿であり、黄疸の進行とともにコカコーラのような色へと色が黒く変化する。黄疸出現とほぼ同じ時期に食欲不振、全身倦怠感、嘔気、嘔吐などの症状が出現する。
【0004】
急性肝炎の診断は、上記自覚症状に加えて、検査所見として、肝細胞内の酵素であるALT(GPT)、AST(GOT)の著明な上昇や、黄疸の指標となるビリルビン値の上昇によっている。これらの数値の上昇は、広範に肝細胞障害が生じていることを示している。起因ウイルスの診断は、各ウイルスに特異的な血液検査を行い、原因ウイルスを特定している。すなわち、A型はIgMHA抗体陽性;B型はIgMHBc抗体陽性、HBs抗原陽性;C型はHCV-RNA陽性、HCV抗体陽性;NonABC型はIgMHA抗体陰性、IgMHBc抗体陰性、HCV-RNA陰性、抗核抗体陰性(自己免疫性肝炎の否定)、既知のウイルス感染症の否定。
【0005】
重症度の診断としては、血液検査により、肝予備能を鋭敏に反映するプロトロンビン時間、へパプラスチン時間という血液凝固機能検査で肝障害の重症度を示している。また、通常の急性肝炎では意識障害を示すことはないが、急性肝炎が劇症化し広範な肝細胞障害が起きると、著しく肝予備能が低下する為に肝臓の解毒機能が低下する。各種中毒物質が肝臓で代謝排泄されず、体内に貯留するために脳機能障害を起こし、昼夜逆転、譫妄、傾眠傾向、昏睡などの症状を呈する。肝予備能の低下が原因で起きる意識障害を肝性昏睡という。プロトロンビン時間と意識障害の程度で、急性肝炎は通常型、重症肝炎、劇症肝炎の3つの重症度に分類される。一度劇症化すると高率に死に至る可能性が高くなり、肝臓移植治療が必要となる。
【0006】
急性肝炎は、その原因ウイルスにより経過と重症度が異なる。A型肝炎、E型肝炎は、一過性に経過し慢性化することはない。B型肝炎は新生児、小児期に感染すると高率に慢性化するが、成人例での感染は原則一過性感染で経過し慢性化することは稀である。C型肝炎は、感染時年齢に関係無く高率に慢性化する。急性肝炎が重症化、劇症化して死亡率する確率は、B型とNon-ABC型では1-2%、C型とA型では0.5%以下と考えられている。A型では死亡率そのものは低いが、経口感染で、家族内で2次感染を起こすなどして爆発的流行を呈する場合がある。また最近では50歳以上の高齢者での感染例での重症化例が増加しており、注意を要する。
【0007】
急性肝炎はC型肝炎を除き、一過性に経過し、本来自然治癒しやすい疾患である。急性肝炎の治療上最も大切な観察ポイントは、極期を過ぎたか否かの見極めである。重症化、劇症化への移行が疑われた場合には、速やかに専門医の治療を要する。急性肝炎の生命予後は、重症化、劇症化しなければ極めて良好であり、A型、B型肝炎は終生免疫が成立し再感染することはないが、C型肝炎では急性期を経過した後は、遷延化、慢性化に対してインターフェロン治療が必要となる。
【0008】
薬物治療としては、特に薬剤の投与が必要でない例がほとんどであるが、急性期では、食欲不振、全身倦怠感を訴えることが多いので輸液を行う。副腎皮質ステロイドは強力な抗炎症剤、免疫抑制剤の一種である。副腎皮質ステロイドは肝炎ウイルスの排除機構としての免疫応答を抑制し、肝炎の遷延化を来たす可能性があるため、通常の急性肝炎では投与しないが、重症肝炎、劇症肝炎への移行の可能性がある場合には、ごく早期に薬剤を投与して免疫応答抑制を行うことで治療効果が期待できる。また、高度の黄疸が持続する場合にも、副腎皮質ステロドが奏功する場合がある。しかし副作用の面からも安易に用いるべきではなく、投与開始後もできるだけ短期間の投与とする。
【0009】
B型急性肝炎の重症化例、遷延化例では、抗ウイルス剤であるラミブジンやエンテカビルが投与される。抗ウイルス剤の投与、中止の判断は、専門医が行う。C型急性肝炎の自然経過では約50-90%の症例が遷延化、慢性化する。C型急性肝炎の慢性化を防止するためには、インターフェロン(IFN)を2~6カ月間投与する。IFN投与時の注意事項は慢性肝炎の場合と同じであり、様々な副作用を呈することから、専門医の管理のもとに治療を行う。
【0010】
肝臓では、門脈と動脈を流れて来た血液が、網目状の類洞(sinusoid:体循環の毛細血管に相当する)で混合され、肝静脈に流れ出る。肝臓は、門脈の終末(終末門脈枝)と、肝動脈の終末が、類洞(sinusoid)を形成し、中心静脈(終末肝静脈)に流入する。体循環の毛細血管系のように、類洞は、肝臓の微小循環系として、肝細胞との種々の物質交換(栄養素、アンモニアなど)に関与している。
【0011】
血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy;TMA)は、生命を脅かす疾患の一つであり、全身での血小板の凝固、それゆえ多臓器不全を特徴とする。TMAの範疇に含まれる有名な症候群として、1924年にMoschcowitzによって最初に報告された5徴候(血小板減少、微小血管障害性溶血性貧血、発熱、腎機能障害、精神神経障害)を伴う血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)と、3徴候(血小板減少、微小血管障害性溶血性貧血、急性腎不全)を伴う溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)がある。これらの典型的な徴候が出現せず両者は区別することが困難な場合が多いため、TTP/HUSと記載されたり、この二つを包括した病態としてTMAと呼ばれたりすることも少なくない。
【0012】
TMAは、感染症として、O157やO111といった腸管出血性大腸菌による腸炎の後に発症するものが最多であるが、その他に薬剤や骨髄移植、肝移植によっても起こる。TMAの他の病因としては、ADAMTS13の異常が考えられている。ADAMTS13はメタロプロテアーゼという一群に属する蛋白切断酵素で、止血に関わるvWFのみを切断する。vWFは、もともと血管内皮細胞でUL-vWFM(unusually large-vWF multimer)という大きな塊で産生され、ADAMTS13により細かく切断されて適切な大きさのvWFとなることで、適切な止血作用を示す。しかしながら、ADAMTS13の機能が大きく低下してしまうと、不適切に大きいvWFが残ってしまい、余分な止血作用を発揮し血小板血栓を血管内に生じてしまう。vWFによる血栓は、血管が細ければ細いほどできやすいため、微小血管内で血小板血栓が生じ、TMAを発症すると考えられている。
【0013】
このADAMTS13の活性の低下によるTMAでは、(1)腎機能障害は比較的軽度で、(2)発熱や(3)精神障害が強く出る血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)となることが知られている。(4)血小板減少、(5)溶血性貧血と併せてTTPの五徴と呼ばれる。ただし、全ての症状が揃うことは30%程度と報告されている。
【0014】
ADAMTS13の活性が大きく低下する原因としては、先天的な遺伝子異常と、後天的な要因がある。ADAMTS13の先天的な遺伝子異常によりTMAを発症する疾患はUpshaw-Schulman症候群と呼ばれている。生まれたばかりの時から重症の黄疸と血小板減少を生じる稀な疾患である。ADAMTS13の後天的な活性低下の原因としては、ADAMTS13に対する自己抗体(IgG型)が最も重要である。原因が不明なものを特発性、他の疾患によって発症する場合には二次性や続発性などと呼ぶ。乳幼児から高齢者まで幅広く発症し、男女比は1:2とやや女性に多いと言われている。有病率は人口100万人に4人程度と報告されたが、近年の診断技術の向上のため、最近ではもっと多いものと推測されている。
【0015】
ADAMTS13活性の測定はTMAの病勢の評価に有用ではあるが、ADAMTS13活性の低下がないこともあり、この検査のみではTMAの除外はできないことに注意すべきである。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の名称で、国の難治性疾患克服研究事業臨床調査研究分野の対象に登録されている。
【0016】
典型的なTMAに対する標準療法は、初期血漿交換(PE)であり、日本での治癒率は現在では90%までになっている。しかしながら、肝移植後のTMAの致死率は依然として非常に高いのが現状である。
【0017】
TTPのメカニズムとして、内皮細胞から産生された超巨大分子量vWFマルチマー(UL-VWFM)が、ADAMTS13活性が低下していると切断されず、細小血管など高いずり応力が生じる部分で過剰な血小板凝集、血栓形成が起きるためと考えられている(Blood, 2008; 112: 11-18(非特許文献1))。
【0018】
TTP治療における問題点として、(1)臨床診断でTTP/HUSの診断は比較的容易であり、ADAMTS13の重度欠乏(<5%)があればHUSも除外できる(Specificity90%)が、検査感度が不明確である;(2)TTP/HUSの原因によって、血漿交換が効果的でないものもある(J Clin Apher 2012; 27: 112-116(非特許文献2));(3)Aquired TTPの再発率は20~50%と依然高いといった点が挙げられている。
【0019】
idiopathic TTPにおける血漿交換の有用性については確立されている。TTPはその再発率の高さがひとつの問題であるが、近年、Rituximabの使用により再発率が軽減する可能性が示唆されつつある(Br J Haematol 2012; 158: 323-335(非特許文献3))。一方、骨髄幹細胞移植後や悪性腫瘍にともなうTTPでは、血漿交換の有用性はないとされている(原疾患の治療)。
【0020】
虚血再灌流障害は、虚血状態にある臓器、組織に血液再灌流が起きた際に、その臓器・組織内の微小循環において種々の毒性物質の産生が惹起され引きおこされる障害である。McCordにより報告された虚血・再灌流理論が最初である(McCord、N Engl J Med 1985; 312: 159(非特許文献4))。虚血の時間と程度、臓器の種類などにより障害の程度は異なる。不完全虚血の方が障害が強い場合もある。再灌流により血管内皮細胞傷害、微小循環障害をきたし、臓器障害に進展すると考えられている。障害を引きおこす機序として、スーパーオキサイド(O2-)やハイドロキシルラジカル(HO・)などの活性酸素や一酸化窒素(NO)などのフリーラジカル産生による障害、各種サイトカイン、エンドセリン、アラキドン酸など各種ケミカルメディエーター産生による障害、活性化好中球と血管内皮細胞の相互作用に基づく障害などの機序が考えられている。局所だけでなく二次的に全身の主要臓器に障害をきたす(遠隔臓器障害)。とくに脳、肺、肝、腎などが標的臓器となり、多臓器不全をきたす。心筋梗塞、脳梗塞、腸間膜血管閉塞症などに対する再灌流療法後や臓器移植後にみられることが多い。
【0021】
肝不全は肝細胞の数の減少や機能の低下によって、黄疸、腹水、肝性脳症、出血傾向などの症状を呈する疾患群で、その経過から急性および慢性肝不全に分類される。急性肝不全(acute liver failure)は正常肝に壊死、炎症が生じ、肝不全症候が出現するまでの期間が6ヶ月以内の症例に限定するのが一般的である。劇症肝炎がその代表疾患であり、病理組織学的には広汎、亜広汎肝壊死が特徴で、全身性炎症反応症候群(SIRS: systemic inflammatory response syndrome)の病態を呈し、多臓器不全(MOF: multiple organ failure)を併発して予後不良の場合が多い。
【0022】
様々な病気が原因で、内科的治療によっても機能回復の見込みがなくなった肝不全状態の肝臓は、提供される健康な肝臓に入れ替えなければ身体の基本的な機能の維持ができないため、肝移植が行われる。肝臓移植の適応疾患としては、成人では、肝硬変症(B型肝硬変、C型肝硬変、アルコール性肝硬変、自己免疫性肝硬変、非B非C肝硬変)、胆汁うっ滞性疾患(原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、バイラー病、カロリー病、胆道閉鎖症(BA))、劇症肝炎、代謝性疾患(ヘモクロマトーシス等)、肝臓腫瘍(肝癌(原発性、転移性)、良性腫瘍)その他が挙げられる。
【0023】
一方、小児では、胆汁鬱滞性疾患(胆道閉鎖症、アラジール症候群、バイラー病、総胆管拡張症、カロリー病等)、肝硬変症(自己免疫性肝炎等)、代謝性疾患(a-1 アンチトリプシン欠乏症等)、新生児肝炎、劇症肝炎、肝臓腫瘍(肝芽腫、肝細胞癌等)その他が挙げられる。
【0024】
肝移植に際し、ドナーから摘出した移植予定の肝臓は、身体の外で移植しやすい様に形を整えた後、移植するまで、冷たい保存液の中に保存される。
【0025】
ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)は、止血因子von Willebrand因子(vWF)の特異的切断酵素で、2001年にADAMTS ファミリーに属する亜鉛型メタロプロテアーゼとして第13番目に発見された。
【0026】
vWFは、2050アミノ酸残基からなる単一サブユニットがN末端同士、またC末端同士の様式でジスルフィド結合し、特有な高分子量構造を持ち、超高分子量vWF多重体(unusually-large VWF multimer; UL-VWFM)として産生される。ADAMTS13は、vWFサブユニットのTy842-Met843(cDNA表記ではTyr1605-Met1606)結合を特異的に切断することにより、vWFの分子量サイズを減じ、これによりUL-VWFMによる過剰な血小板凝集を防止し、「止血血栓形成には適切であるが、病的血栓形成とはならないように」調節する作用を持つ。
【0027】
ADAMTS13は、本来、血液難病である血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura; TTP)の原因となる鍵酵素として同定されたが、この疾患の病態解明の経過で明らかにされたADAMTS13/vWF(酵素/基質)の均衡破綻による「血小板血栓による微小循環障害」は様々な疾患の基礎病態を形成していることが明らかになってきた。
【0028】
ADAMTS13遺伝子は染色体9q34にあり、cDNAは29exonからなり、開始コドンから停止コドンまで4281bpで、アミノ酸では1427残基という大きなタンパク質である。また分子内に10個のAsn結合型糖鎖があり、分子量の総計は約190kDとなる。一次構造は、N末端よりsignal peptide(S)、propeptide(P)、reprolysinタイプのmetalloproteaseドメイン(MP)、disintegrin-likeドメイン(D)、thrombospondin type-1(Tsp1)motif(T1~8)、cysteine-richドメイン(C)、spacerドメイン(Sp)、再度Tsp1 motifの繰り返し、そしてC末端の2つのCUBドメインに至る。同酵素のAsn結合型糖鎖は細胞からの分泌機能に重要と考えられている。ADAMTS13の産生臓器として最初に肝臓が同定され、産生細胞として肝星細胞(旧伊東細胞)が同定された。肝星細胞は線維芽細胞への形質転換を通じて肝硬変進展に密接に関連していることが示されている。これより、肝硬変進展に伴うADAMTS13活性低下が示された(Uemura M, Fujimura Y, Matsumoto M, et al: Comprehensive analysis of ADAMTS13 in patients with liver cirrhosis. Thromb Haemost 2008; 99: 1019-1029(非特許文献5))。本酵素はこのほか、血小板、血管内皮細胞、腎臓のpodocyteにその存在が報告されている。
【0029】
これら各臓器・細胞における同酵素産生の意義は明らかにされていないが、血中のADAMTS13濃度を維持するのに最も重要な臓器については肝臓であると考えられている(藤村吉博、The Journal of Japanese College of Angiology Vol. 51 No. 3, 2011(非特許文献6))。この根拠には以下の2つがあげられる。(1)先天性胆道閉鎖症で胆汁性肝硬変に陥った末期患者では血中ADAMTS13活性が20~30%に低下し、溶血性貧血、血小板減少、腎機能障害等、血栓性微小血管障害症(thrombotc microangiopathy; TMA)の病理所見である3徴候を示すが、患者に生体肝移植を行い生着すると、前記TMA所見が消失する(Matsumoto M, Chisuwa H, Nakazawa Y, et al: Liver transplantation rescues a deficient state of von Willebrand factorcleaving protease activity in patients with liver cirrhosis due to congenital biliary atresia. Blood 2000: 96: 636a (abstract))(非特許文献7);(2)主にC型肝炎による肝硬変成人患者の臨床症状の重篤度は血中ADAMTS13活性と平行し、また末期例ではその活性は20~30%に低下する(Uemura M, Tatsumi K, Matsumoto M, et al: Localization of ADAMTS13 to the stellate cells of human liver. Blood 2005; 106: 922-924(非特許文献8))。
【0030】
2008年にChauhanらはADAMTS13が血栓と炎症の双反応をdown-regulationしているとの成績を報告した(Chauhan AK, Kisucka J, Brill A, et al: ADAMTS13: a new link between thrombosis and inflammation. J Exp Med 2008; 205: 2065-2074(非特許文献9))。このように、ADAMTS13は抗血栓と抗炎症の双作用も有していることが示されたことから、脳梗塞の治療薬として有望視されるようになった。すなわち、Zhaoら(Zhao BQ, Chauhan AK, Canault M, et al: von Willebrand factor-cleaving protease ADAMTS13 reduces ischemic brain injury in experimental stroke. Blood 2009; 114: 3329-3334(非特許文献10))そしてFujiokaら(Fujioka M, Hayakawa K, Mishima K, et al: ADAMTS13 gene deletion aggravates ischemic brain damage: a possible neuroprotective role of ADAMTS13 by ameliorating postischemic hypoperfusion. Blood 2010; 115: 1650-1653(非特許文献11))は、マウス中大脳動脈閉塞モデルで脳虚血再灌流実験を行い、脳梗塞を人工的に作成し、脳梗塞体積を計算したところ、野生型マウスに比べてADAMTS13ノックアウトマウスは有意に脳梗塞体積が増加した(非特許文献10)。また、脳梗塞部分の組織所見では、ノックアウトマウス群では微小血栓が多く、炎症細胞の浸潤が多いことが確認された。これらの血栓はvWFを豊富に含む血栓であることが示され、ノックアウトマウスで脳梗塞の範囲が大きくなった原因として、vWFを多く含む血小板血栓と白血球の過剰浸潤であることが想定された。さらに、野生型マウスに対して、再灌流直前に遺伝子発現ヒトADAMTS13製剤を投与すると、脳梗塞範囲が有意に縮小することも報告された(非特許文献11)。以上のごとく、マウス実験の結果より、ADAMTS13製剤の脳梗塞治療および予防薬としての可能性が示された。
【0031】
ADAMTS13活性の喪失は、数多くの状態、例えばTTP(Moake JL, Semin Hematol.2004 Jan; 41(1): 4-14(非特許文献12))、急性および慢性炎症(Chauhanら、J Exp Med. 2008 Sep 1; 205(9): 2065-74(非特許文献9))、並びにごく最近では重症熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)マラリア(Larkinら、PLoS Pathog.2009 Mar; 5(3): e1000349(非特許文献13))と関連付けられている。
【0032】
ADAMTS13製剤は、これまで、1つ以上の血栓の形成および/または存在に関連した障害に対して用いられている。1つ以上の血栓の形成および/または存在に関連した障害の例は、遺伝性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、後天性TTP、動脈血栓症、急性心筋梗塞(AMI)、脳卒中、敗血症および播種性血管内凝固(DIC)である。
【0033】
ADAMTS13製剤はまた、梗塞の治療または予防に対しても用いられている。梗塞の例は、心筋梗塞(心臓発作)、肺塞栓症、脳卒中のような脳血管事象、末梢動脈閉塞性疾患(壊疽など)、抗リン脂質症候群、敗血症、巨細胞性動脈炎(GCA)、ヘルニアおよび腸捻転である。
【0034】
国際公開第2005/062054号パンフレット(特許文献1)には、ADAMTS13を定量することを特徴とする、血栓形成傾向の程度または血栓症の検出方法が開示されており、前記血栓症として、急性もしくは慢性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、全身性エリトマトーデス、肺塞栓、脳硬塞、肝中心静脈閉塞症、急性リンパ球性白血病、血栓性微小血管障害、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群および深部静脈血栓症が挙げられている。また、国際公開第2006/049300号パンフレット(特許文献2)には、ADAMTS13および/またはその分解因子(例えば、エラスターゼ、プラスミン、トロンビン)を分析する、DICまたは全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)患者における血小板血栓症または臓器障害の検出方法が開示されている。
【0035】
再表2007/088849(特許文献3)は、播種性血管内凝固症候群(DIC)患者において、ADAMTS13の量および/または酵素活性を分析する、DICの病態の把握方法を開示している。
【0036】
特表2009-539757(特許文献4)は、血栓溶解活性を有するADAMTS13の薬学的有効量を含む薬学的組成物を開示している。
【0037】
特開2010-280571(特許文献5)は、ADAMTS13ファミリータンパク質を移植細胞の生着率を高めるために細胞補助剤として使用する方法、当該タンパク質を有効成分として含有する細胞移植補助剤並びに当該タンパク質を添加する工程を含む移植細胞の製造法を開示している。
【0038】
特表2013-505270(特許文献6)は、医薬投与に適し、活性を失わずにまたは過度に凝集せずに長期間保管し得るADAMTS13製剤を開示している。
【0039】
これまで、ADAMTS13と急性・慢性肝障害、肝虚血再灌流障害、肝移植および急性肝不全/劇症肝炎との関係については殆ど解明されてきておらず、ADAMTS13をこれら疾患における治療薬として使用することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【文献】国際公開第2005/062054号パンフレット
【文献】国際公開第2006/049300号パンフレット
【文献】再表2007/088849
【文献】特表2009-539757
【文献】特開2010-280571
【文献】特表2013-505270
【非特許文献】
【0041】
【文献】Blood, 2008; 112: 11-18
【文献】J Clin Apher 2012; 27: 112-116
【文献】Br J Haematol 2012; 158: 323-335
【文献】McCord、N Engl J Med 1985; 312: 159
【文献】Uemura M, Fujimura Y, Matsumoto M, et al: Comprehensive analysis of ADAMTS13 in patients with liver cirrhosis. Thromb Haemost 2008; 99: 1019-1029
【文献】藤村吉博、The Journal of Japanese College of Angiology Vol. 51 No. 3, 2011
【文献】Matsumoto M, Chisuwa H, Nakazawa Y, et al: Liver transplantation rescues a deficient state of von Willebrand factorcleaving protease activity in patients with liver cirrhosis due to congenital biliary atresia. Blood 2000: 96: 636a (abstract))
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【文献】Larkinら、PLoS Pathog.2009 Mar; 5(3): e1000349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
肝臓は、人体の重要な機能を司る極めて重要な臓器であり、その障害である急性・慢性肝障害、肝虚血再灌流障害、肝移植の肝機能障害および急性肝不全/劇症肝炎の有効な治療薬や診断薬が依然として切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0043】
肝切除や肝移植を含めた肝臓外科において、その術式を規定する最大の因子は、腫瘍側因子を除けば(残)肝機能、肝予備能であるが、現代医療における肝機能とは、肝細胞機能に他ならない。肝臓は、実質細胞(肝細胞:約60%)と非実質細胞(肝臓の類洞壁を構成する肝類洞壁細胞;肝細胞以外の血管内皮細胞、Kupffer細胞、星細胞など:約40%)に分けられるが、これまで、これら肝非実質細胞機能が、肝臓外科のみならず幾多の急性・慢性肝疾患治療において評価され、その結果に基いて治療方針が決定されることはほとんどないのが現状である。
【0044】
本発明らは、これまで顧みられることのなかった肝非実質細胞に着目し、その機能を評価することで急性・慢性肝疾患を評価し、その治療方針を決定することが可能になることを見出した。とりわけ、肝非実質細胞の一つ、星細胞に注目し、その産生蛋白であるADAMTS13の機能・発現解析から、ADAMTS13の「肝非実質細胞機能」マーカーとしての診断的意義を見出し、また非臨床試験において、その遺伝子組み換え製剤の劇的な治療効果を見出した。
【0045】
本発明者らはまた、ADAMTS13が肝虚血/再灌流障害、肝移植後肝機能障害や急性肝不全・劇症肝炎など各種肝疾患において有意な治療効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0046】
すなわち、本発明は、以下を含む。
[1]以下の(1)から(3)をモニターするための、ADAMTS13のバイオマーカーとしての使用:
(1)肝障害、中でも肝非実質細胞障害の病態把握;
(2)肝虚血/再灌流障害;
(3)肝移植後の肝機能、特に肝非実質細胞機能の指標;または
(4)急性肝不全/劇症肝炎。
[2]肝障害が大腸がん化学療法後の肝障害である、上記[1]に記載の使用。
[3]哺乳動物から得られた試料中のADAMTS13活性を測定またはモニターすることを含む、以下の(1)から(3)に記載の方法:
(1)肝障害、中でも肝非実質細胞障害の検査方法;
(2)肝虚血/再灌流障害の検査方法;
(3)肝移植後の肝機能、特に肝非実質細胞機能の検査方法;または
(4)急性肝不全/劇症肝炎の検査方法。
[4]肝障害が大腸がん化学療法後の肝障害である、上記[3]に記載の方法。
[5]哺乳動物から得られた試料中のADAMTS13活性を測定する手段を含む、以下の(1)から(3)に記載のモニター用キット:
(1)肝障害発症モニター用キット;
(2)肝虚血/再灌流障害モニター用キット;
(3)肝移植後の肝機能モニター用キット;または
(4)急性肝不全/劇症肝炎モニター用キット。
[6]肝障害が大腸がん化学療法後の肝障害である、上記[5]に記載のモニター用キット。
[7]哺乳動物がヒトである上記[3]~[6]のいずれかに記載の使用、方法またはキット。
[8]ADAMTS13またはADAMTS13の改変体を有効成分として含有する医薬組成物。
[9]ADAMTS13またはADAMTS13の改変体を含む、肝障害、肝虚血/再灌流障害、肝移植後の肝機能障害および急性肝不全/劇症肝炎よりなる群から選ばれた疾患の治療剤。
[10]ADAMTS13の改変体が、ADAMTS13の活性発現最小単位であるメタロプロテアーゼドメインからスペーサードメインまでを含む分子である、上記[8]または[9]に記載の医薬組成物または治療剤。
[11]ADAMTS13の改変体が、ADAMTS13の1427個のアミノ酸残基のうち689番目のアミノ酸からC末端側が欠失したC末欠失改変体W688X(「ADAMTS13W688X蛋白」)である、上記[10]に記載の医薬組成物または治療剤。
[12]哺乳動物の肝非実質細胞中のADAMTS13活性の低減をスクリーニングすることを含む、哺乳動物における肝障害、肝虚血/再灌流障害、肝移植後の肝機能障害および急性肝不全/劇症肝炎よりなる群から選ばれた疾患の診断方法。
【発明の効果】
【0047】
本発明は、ADAMTS13の全長もしくは部分断片の臨床分野での新規な用途に関するものであり、本発明に従ってADAMTS13を使用することにより、急性・慢性肝障害を迅速かつ正確に診断することが可能となり、肝障害、肝虚血/再灌流障害、肝移植後の肝機能障害および急性肝不全/劇症肝炎の有効な治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】肝細胞機能から予備能は十分高いと予想されながら、非実質細胞機能の極度の低下から肝切術後に肝不全に陥る病態も存在する。一例として図1に肝移植における冷保存/温再灌流障害を示す。冷保存6, 24時間の2群間で、血流再開後の肝逸脱酵素(=肝細胞障害)に有意差はなかったが、ADAMTS13活性は非常に鋭敏にグラフト肝の冷保存時間に逆相関していた。これは、冷虚血再灌流は肝細胞より類洞壁細胞でより障害が強いことの査証である。
図2図2は、大腸がん化学療法後の肝障害の本態が肝非実質細胞障害であることを示す図である。肝細胞障害(AST/ALTなど)も軽微で、蛋白合成能、凝固能といった肝細胞機能は正常範囲内だったが、そのADAMTS13活性はなんと正常肝の12%まで低下していた。これが現代医療ではほとんど評価されることのない肝非実質細胞障害であり、大腸癌の転移性肝腫瘍に対する肝切除後に肝機能不全を来す主因の一つである。NC:正常肝;A24:モノクロタリン投与24時間後;A48:モノクロタリン投与48時間後;T24:モノクロタリン+治療薬投与24時間後;T48:モノクロタリン+治療薬投与48時間後
図3図3は、血中ADAMTS13活性が肝不全の程度(MELD: Model for End-stage Liver Disease, Child-Pugh: チャイルド分類)と逆相関する臨床データを示す図である。
図4図4は、生体肝移植後早期にADAMTS13活性が著減することを示す図である。
図5図5は、肝移植後のADAMTS13活性を小児と成人とで比較したデータを示す図である。
図6図6は、成人例の検討でも、相対的過小グラフトではADAMTS13活性の回復がさらに遅延することを示す図である。
図7図7は、肝移植後早期には、vWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存することを示す図である。
図8図8は、肝移植後にvWF/ADAMTS13不均衡が存在することを示す図である。
図9図9は、肝虚血/再灌流障害におけるADAMTS13の役割を調べるための実験手順を示す模式図である
図10】図10Aは、肝虚血再灌流により、vWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存することを示す定量的RT-PCRの結果を示す図である。図10Bは、70%部分肝虚血再灌流により、血中ADAMTS13活性値は30%前後まで低下し、24時間後においても回復してこないことを示す図である。
図11】図11は、実験4群における再灌流後の血漿ADAMTS13活性(A)およびIRI後の末梢血中の血小板数(B)を示す図である。末梢血血小板数は、血漿ADAMTS13活性値に比例する(血中ADAMTS13活性が高いほど、末梢血血小板数は維持される)ことが証明された。
図12】図12は、肝虚血再灌流後の肝組織に対するCD42B蛍光免疫染色を示す写真である(肝組織中の血小板が赤色に蛍光濃染されている)。ADAMTS13ノックアウトマウスでは、野生型に比して肝内に多量の血小板凝集を起こしているが、組換えADAMTS13を投与することによって、ノックアウトマウスでも野生型でも肝内の血小板凝集が顕著に改善することが示されている。
図13】図13左は、画像解析ソフト(Image-J, NIH, 米国)を用いて、図12の血小板蛍光免染を定量化したものであり、ノックアウトマウスおよび野生型マウスでの多量の血小板凝縮が組換えADAMTS13を投与することによって顕著に改善することを示す図である。図13右は、Laser Doppler Flowmeter (O2C, LEA社、ドイツ)にて計測した肝組織血流(微小循環)の計測結果を示す図である。肝組織への血小板血栓の形成に逆相関して、肝組織血流(微小循環)が改善している。
図14】図14は、IRI後のトランスアミナーゼ放出(AおよびB)およびLDH放出(C)を示す図である。ADAMTS13ノックアウトマウスでは、野生型に比して肝障害が増悪しているが、組換えADAMTS13を投与することによって、ノックアウトマウスでも野生型でも肝障害が有意に改善することが示された。
図15】図15は、肝虚血再灌流後の肝組織像を示す写真である。ノックアウトマウスおよび野生型マウスでの組織損傷が、共に組換えADAMTS13によって改善されている。
図16】図16は、ノックアウトマウスおよび野生型マウスでの組織損傷が組換えADAMTS13によって改善されることを示す図である。
図17】図17は、ADAMTS13がIRI後の炎症性サイトカイン発現(TNFα, IL-1β, IL-6, IL-10)、ケモカイン発現(CXCL-2, -10)を抑制することを示す図である。
図18】図18は、ノックアウトマウスおよび野生型マウスでのマクロファージ(単核球)の浸潤が組換えADAMTS13によって改善されることを免疫組織学的に示す写真および図である。
図19】図19は、ノックアウトマウスおよび野生型マウスでの好中球の浸潤が組換えADAMTS13によって改善されることを免疫組織学的に示す写真および図である。
図20】図20は、ノックアウトマウスおよび野生型マウスでのアポトーシスによる細胞死が組換えADAMTS13によって減少することを免疫組織学的に示す写真および図である。
図21】図21は、ラットにおける20%部分肝移植モデルの術中写真である。
図22】図22は、20%部分肝移植モデルに組換えADAMTS13(W688X)を投与後のADAMTS13活性を示す図である。
図23】図23は、20%部分肝移植後のLDH放出(A)および血小板減少症(B)を示す図である。ADAMTS13投与群で、両者共に改善されている。
図24】図24は、20%部分肝移植後のCD42B蛍光免疫染色を示す写真および図である(肝組織中の血小板が赤色に蛍光濃染されている)。20%部分肝移植モデルに組換えADAMTS13を投与することによって、移植肝内への血小板凝集が著減されている。
図25】図25は、20%部分肝移植後のトランスアミナーゼ放出を示す図である。組換えADAMTS13の投与により、肝障害が有意に抑制されている。
図26】図26は、20%部分肝移植モデルに組換えADAMTS13を投与することによって、病理学的にも移植肝の健常性が維持されたことを示す写真および図である。
図27】図27は、血小板凝集を引き起こすvWFの移植肝 免疫組織染色を示す写真および図である。移植後の肝組織では、(本来は発現のない)vWFが類洞に過剰発現していること、また、20%部分肝移植モデルに組換えADAMTS13を投与することによって、血小板凝集の核となるvWFの発現が著減されたことが示されている。
図28】図28は、20%部分肝移植モデルに組換えADAMTS13を投与することによって、サイトカイン(IL-1β, IL-6, TNFα)や血管収縮物質 (Endothelin-1) が著減されたことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
急性・慢性肝障害におけるADAMTS13の役割~各種肝疾患における肝非実質細胞機能マーカーとして、また遺伝子組み換えADAMTS13の治療応用の可能性~
上記のように、本発明者らは、これまで顧みられることのなかった肝非実質細胞に着目し、その機能を評価することを特徴とする。ADAMTS13は、肝非実質細胞である肝星細胞で産生/分泌されるため、肝障害が強ければその血中活性値は著減し、その結果、血小板血栓の核となるvWF-Multimersを切断することができなくなり、血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy;TMA)を引き起こすことになる。
【0050】
さらに、移植肝の冷保存によっても肝非実質細胞機能が著減することがわかった。本発明者らは、移植肝の冷保存6, 24時間の2群間で、肝逸脱酵素値に有意差は認めなかったが(すなわち、肝細胞障害指標に差はなかった)、肝組織中のADAMTS13活性は非常に鋭敏に移植肝の冷保存時間に逆相関することを見出した。このことから、ADAMTS13は肝類洞壁構成細胞のintegrityを示す指標となり得ることが示唆される。
【0051】
さらに、本発明者らは、大腸がん化学療法後の肝障害の本態が肝非実質細胞障害であることを見出した。すなわち、大腸癌化学療法後の肝障害(いわゆる「Blue Liver」)の本態は、類洞壁細胞破壊による鬱血肝であることがわかった。その動物モデルであるSOS(Sinusoidal Obstructive Syndrome)モデルにおいても、肝組織中および血中でのADAMTS13活性値は、非常に鋭敏に類洞壁構成細胞のintegrityを示す指標であることがわかった。なお、上記各群においてAST/ALTに差は認めなかった。
【0052】
さらに、本発明者らは、血中ADAMTS13活性が肝不全の程度と逆相関することを見出した(臨床データ)。このことから、ADAMTS13は慢性肝疾患においても肝非実質細胞/類洞機能の指標に成り得ることが示唆された。
【0053】
さらに、本発明者らは、生体肝移植後早期のADAMTS13活性を調べたところ、肝移植後早期には全例で活性が著減すること、肝移植後ADAMTS13活性の小児と成人との比較では、成人から小児への移植(体重比:1~5%のグラフト肝)の方が成人から成人(体重比:0.6~1.5%のグラフト肝)よりもADAMTS13活性の回復が速やかであること、成人例の検討でも、相対的過小グラフトではADAMTS13活性の回復がさらに遅延することを見出した。このことから、ADAMTS13は肝移植後の肝非実質細胞/類洞機能の指標に成り得ることが示唆された。また、肝移植後早期には、vWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存することから、vWF/ADAMTS13比の不均衡状態が存在し、重症肝障害では潜在的にpre-TMA状態にある。肝移植後には程度の差はあれ、ほぼ全例でTMA病態に陥っている。移植肝内での血小板血栓の形成/抹血中の血小板減少と共に、微小循環傷害から臓器移植後臓器機能障害(Delayed Graft Function;DGF)を引き起こす。肝予備能に乏しい部分肝移植では、これが致死的病態となる。
【0054】
以上から、肝硬変や肝移植周術期をはじめ、SOSや移植肝冷保存などあらゆる急性・慢性病態下でADAMTS13活性の低下が認められ、これらは肝類洞壁細胞機能と相関することがわかった。vWFの活性亢進が併存するような病態、例えば肝移植周術期や劇症肝炎をはじめとする急性肝不全などでは、vWF/ADAMTS13の不均衡から血管内血小板血栓の形成からTMAを発症し、これが致死的となる。それゆえ、ADAMTS13は、これまで評価されてこなかった「肝非実質細胞機能」のマーカーとして有用であるばかりでなく、重症肝疾患における治療薬として大変有望であることが示唆された。
【0055】
肝虚血/再灌流障害におけるADAMTS13の役割~ノックアウトマウス、野生型を用いた検討と遺伝子組み換えADAMTS13の保護効果~
本発明者らは、ADAMTS13ノックアウトマウスと野生型マウスを用い、肝虚血/再灌流障害モデルにおいてADAMTS13ノックアウトマウスで虚血/再灌流障害が増悪するか否かおよび組換えADAMTS13投与でその増悪が回復されるかを検討したところ、ADAMTS13ノックアウトマウスでは肝虚血/再灌流障害が著明に増悪すること、また、組換えADAMTS13投与により上記障害の増悪が完全に阻害されることを見出した。このことから、ADAMTS13は、肝虚血/再灌流障害に対して著明な保護効果を有することが示唆された。また、ADAMTS13はIRI後の炎症性サイトカイン発現を抑制することもわかった。
【0056】
本発明者らは次に、ADAMTS13欠失マウスではなく野生型マウスにおいても組換えADAMTS13が保護効果を発揮しうるかを検討した。その結果、野生型(=正常人)においても肝虚血/再灌流によりvWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存し、vWF/ADAMTS13の不均衡は著明であり、また、ADAMTS13投与により肝虚血/再灌流障害が有意に軽減されたことから、遺伝子変異のない正常人での各種肝疾患においても、 ADAMTS13はが治療薬として使用できることが示唆された。
【0057】
肝移植におけるADAMTS13の役割~ラット20%部分肝移植モデルを用いた検討と遺伝子組み換えADAMTS13の保護効果~
上記のように、肝移植に不可避である冷保存によって、肝星細胞により産生されるADAMTS13活性は著減すること、また移植肝が小さい程術後早期の活性値が低くなることから、肝移植後には程度の差はあれ全例でvWF/ADAMTS13不均衡が存在し、早期死亡例ではその不均衡が高度である。このことから、ラット部分肝移植モデルを用い、成人生体部分肝移植後に組換えADAMTS13を投与した場合の保護効果を検討した。20%部分肝移植後の生存率を調べたところ、4日目の生存率は100%であり、検体Samplingに優れ、同時に7日生存は60%であり、主要エンドポイントとして治療効果が生存に与える影響も評価可能であった。その結果、組換えADAMTS13の投与により、トランスアミナーゼ放出が抑制され、20%部分肝移植後の肝細胞障害が有意に軽減されることがわかった。また、組換えADAMTS13の投与により、LDH放出が抑制され、血栓性微小血管障害(TMA病態)が有意に軽減されることがわかった。病理学的にも移植肝の健常性が維持された。このことから、(成人)生体肝移植を模倣したラット20%部分肝移植モデルにおいても、組換えADAMTS13は移植肝の保護効果を有し、新規治療薬として有望であることが示唆された。
【0058】
急性肝不全/劇症肝炎におけるADAMTS13の保護効果~Thioacetamide(TAA)を用いたラット急性肝不全モデルでの検討
急性肝不全・劇症肝炎の死亡率は今日でも依然高く、その救命率は保存的(内科的)治療で4割、肝移植でも8割に留まる。本発明者らは、チオアセトアミド(TAA)を用いたラット急性肝不全モデルにおいて、組換えADAMTS13を投与すると生存率が急激に高まることを見出した。
【0059】
ADAMTS13および改変体
本発明に使用されるADAMTS13は、vWFを残基Tyr1605とMet1606の間で切断するADAMTS(トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ)ファミリーのメタロプロテアーゼを指す。本発明との関連においては、ADAMTS13は任意のADAMTS13、例えば、哺乳動物、例えば霊長類、ヒト(NP_620594)、サル、ウサギ、ブタ、ウシ(XP_610784)、げっ歯類、マウス(NP_001001322)、ラット(XP_342396)、ハムスター、スナネズミ、イヌ、ネコ、カエル(NP_001083331)、ニワトリ(XP_415435)などに由来するADAMTS13およびその生物学的に活性な誘導体を包含する。活性を有する変異体およびバリアントADAMTS13タンパク質も包含され、ADAMTS13タンパク質の機能的フラグメントおよび融合タンパク質も同様に包含される。さらに、本発明のADAMTS13タンパク質は、精製、検出またはその両方を容易にするタグをさらに含み得る。本明細書に記載のADAMTS13タンパク質は、治療部分またはインビトロもしくはインビボイメージングに適した部分によりさらに修飾されていてもよい。
【0060】
本発明で使用される「生物学的に活性な誘導体」という用語は、実質的にADAMTS13と同じ生物学的機能を有する任意のポリペプチドを指す。生物学的に活性な誘導体のポリペプチド配列は、その非存在、存在および/または置換がそれぞれ、ポリペプチドの生物学的活性に対して実質的な負の影響を全く有さない1つ以上のアミノ酸の欠失、付加および/または置換を含み得る。上記ポリペプチドの生物学的活性は、例えば、内皮への血小板粘着の減少もしくは遅延、血小板凝集の減少もしくは遅延、ひも状の血小板(platelet strings)形成の減少もしくは遅延、血栓形成の減少もしくは遅延、血栓成長の減少もしくは遅延、血管閉塞の減少もしくは遅延、vWFのタンパク質分解性切断、血栓の崩壊により、またはペプチド基質、例えばFRETS-VWF73ペプチド(Kokameら、Br J Haematol. 2005 Apr;129(1): 93-100)もしくはそのバリアントの切断により測定し得る。
【0061】
本発明に使用されるADAMTS13は、血液由来のADAMTS13(以下、「nADAMTS13」と称することもある)および遺伝子組換え技術により得られた組換えADAMTS13(以下、「rADAMTS13」と称することもある)のいずれも使用できる。また、vWF切断酵素活性を有するものであればADAMTS13のアミノ酸の一部に変異を入れた改変体あるいは当該切断活性を有する最小単位(以下、このように修飾されたADAMTS13をmADAMTS13と称することもある)であってもよい。したがって、本発明において単にADAMTS13と称して使用する場合は、nADAMTS13、rADAMTS13およびmADAMTS13を含むものとする。
【0062】
ヒトADAMTS13としては、GenBankアクセッション番号NP_620594のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはそのプロセシングされたポリペプチド、例えば、シグナルペプチド(アミノ酸1~29)および/またはプロペプチド(アミノ酸30~74)が除去されたポリペプチドが非限定的に挙げられる。ヒトADAMTS13の数多くの天然バリアントが当該技術分野で公知であり、かつ本発明の製剤に包含されるが、その一部のものは、R7W、V88M、H96D、R102C、R193W、T196I、H234Q、A250V、R268P、W390C、R398H、Q448E、Q456H、P457L、P475S、C508Y、R528G、P618A、R625H、I673F、R692C、A732V、E740K、A900V、S903L、C908Y、C951G、G982R、C1024G、A1033T、R1095W、R1095W、R1123C、C1213Y、T1226I、G1239VおよびR1336Wから選択される変異を含む。さらに、ADAMTS13は、例えば、非必須のアミノ酸における1つ以上の保存的変異により変異した天然および組換えタンパク質を含む。ADAMTS13の酵素活性に必須のアミノ酸は変異していないことが好ましい。これらは、例えば、金属結合に必須であることが既知であるかまたは推定されている残基、例えば残基83、173、224、228、234、281および284など、ならびに酵素の活性部位に見られる残基、例えば残基225を含む。同様に、本発明との関連において、ADAMTS13はアイソフォーム、例えば、完全長ヒトタンパク質のアミノ酸275~305および/または1135~1190を欠くアイソフォームを含む。
【0063】
これらの変異は自然発生的な突然変異によるものであってもよく、あるいは人為的な突然変異誘発によるものであってもよい。人為的な突然変異誘発法は当該分野においてよく知られており、例えば、組換え法を用いた部位特異的突然変異誘発法、化学的方法による変異ポリペプチドの合成、例えば固相合成および液相合成、またはアミノ酸残基の化学修飾等があり、それぞれの詳細は当業者のよく知るところである。また、かかる変異および/または修飾の位置はいずれの位置におけるものであってもよい。
【0064】
こうして得られたADAMTS13遺伝子に点変異を導入するときは、サイトダイレクティドミュータジェネシス法を使用することが一般的である。実際には、本技術を応用したTakara社のSite-Direction Mutagenesis System(Mutan-Super Express Km、Mutan-Express Km、Mutan-Kなど)、Strantagene社のQuickChange Multi Site-Direction Mutagenesis kitまたはQuickChange XL Multi Site-Direction Mutagenesis kit、およびInvitrogen社のGeneTailor Site-Directed Mutagenesis Systemなどの市販のキットを用い添付のプロトコールにしたがって行うことができる。
【0065】
特に、真核細胞発現系において本発明のADAMTS13を製造した場合には、ポリペプチド中のセリンまたはスレオニン残基において糖鎖付加される可能性が高く、このように真核細胞において発現されて糖鎖付加されたADAMTS13も本発明に含まれる。
【0066】
ADAMTS13遺伝子または点変異を導入したmADAMTS13遺伝子を適当な発現ベクターに組みこみ、当該発現ベクターで宿主を形質転換することによって、組換えADAMTS13(rADAMTS13タンパク質)およびその改変体(mADAMTS13タンパク質)の発現が行なわれる。宿主としては、外来タンパク質の発現に常用される細菌、酵母、動物細胞、植物細胞および昆虫細胞などを使用できるが、実質的にADAMTS13と同じ生物学的機能を保持するのであれば、いずれを使用しても良い。rADAMTS13タンパク質またはmADAMTS13タンパク質産生細胞から、これらのタンパク質を精製する際には、タンパク質化学において常用される精製法が用いられる。また、上記の改変体は、化学的手法により行なうこともできる。
【0067】
同様にADAMTS13は、例えば、翻訳後修飾(例えば、ヒト残渣142、146、552、579、614、667、707、828、1235、1354から選択される1つ以上のアミノ酸におけるグリコシル化、または天然もしくは人工修飾部位)により、またはグリコシル化、水溶性ポリマーによる修飾(例えば、PEG化、シアリル化、HES化など)、タグ化などを非限定的に含めたエキソビボでの化学的もしくは酵素的修飾によりさらに修飾されていてもよい。
【0068】
アミノ酸の修飾例としては、アセチル化、アシル化、アミド化、糖鎖付加、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の付加、脂質または脂質誘導体の付加、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、架橋形成、シスチン形成、ピログルタミン酸形成、ホルミル化、ヒドロキシル化、ハロゲン化、メチル化、側鎖の酸化、蛋白加水分解酵素による処理、リン酸化、硫酸化、ラセミ化等があり、当該分野においてよく知られている。
【0069】
本発明においてADAMTS13改変体として特に好ましいのは、ADAMTS13の活性発現最小単位であるメタロプロテアーゼドメインからスペーサードメインまでを含む分子、とりわけADAMTS13の1427個のアミノ酸残基のうち689番目のアミノ酸からC末端側が欠失したC末欠失改変体W688X(国際公開WO2004/029242パンフレット;Soejima, K.ら: ADAMTS-13 cysteine-rich/spacer domains are functionally essential for von Willebrand factor cleavage. Blood, 102: p.3232-3237, 2003参照;以下、「ADAMTS13W688X蛋白」と称することもある)である。ADAMTS13の活性発現最小単位をコードする遺伝子W688X(以下、「ADAMTS13W688X遺伝子」と称することもある)は、例えば、Soejimaら、Blood, 102: p.3232-3237, 2003や国際公開WO2004/029242パンフレットに報告されている配列を元にPCR用プライマーをデザインし、ADAMTS13を産生しているヒト臓器や細胞由来のcDNAを鋳型にしてPCRを行うことにより取得できる。より具体的には、以下のように調製される。まず、ヒト肝臓細胞から全RNAを抽出し、この中からmRNAを精製する。得られたmRNAをcDNAに変換した後、それぞれの遺伝子配列に合わせてデザインされたPCRプライマーを用い、PCR反応を行い、得られたPCR産物をプラスミドベクターに組込み大腸菌に導入する。大腸菌コロニーの中から目的の蛋白をコードするcDNAを有するクローンを選択する。上記の全RNAの抽出には、市販のTRIzol試薬(GIBCO BRL社)、ISOGEN(ニッポンジーン社)等の試薬、mRNAの精製には、mRNA Purification Kit(Amersham BioSciences社)などの市販キット、cDNAへの変換には、SuperScript plasmid system for cDNA synthesis and plasmid cloning(GIBCO BRL社)などの市販のcDNAライブラリー作製キットがそれぞれ使用される。実際にADAMTS13W688X遺伝子を取得する場合は、市販のcDNAライブラリー、例えば、Human Liver Marathon-Ready cDNA(BC Bioscience)が用いられる。PCR用プライマーは、DNA合成受託機関(例えば、QIAGEN社)などに依頼すれば容易に入手可能である。その際、5'側にKOZAK配列(Kozak M, J. Mol. Biol., 196, 947 (1987))および適切な制限酵素切断部位の配列を付加することが望ましい。PCR反応は、市販のAdvantage HF-2 PCR Kit(BC Bioscience)を用い、添付のプロトコールに従って行えばよい。PCRにより得られたDNA断片の塩基配列は、TAクローニングキット(インビトロジェン社)等を用いてクローニングした後、DNAシークエンサー、例えば、CEQ2000XL DNA Analysis System(ベックマン社)により決定される。
【0070】
本発明のADAMTS13または改変体産生細胞から当該蛋白を精製する際には、一般に、蛋白質化学において使用される精製方法、例えば、遠心分離、塩析、限外ろ過、等電点沈殿、電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、CSレジンクロマトグラフィーなどの方法を組み合わせた方法が用いられる。得られた蛋白質の量は、BCA Protein Assay Reagent Kit(Pierce Biotechnology, Inc)、Protein Assay Kit (BIO-RAD, Inc)などの蛋白測定試薬を用いて測定される。
【0071】
ADAMTS13タンパク質の検出は、SDS-PAGE、ゲルろ過などの分子サイズに基づく方法やELISA法、ウエスタンブロット法、ドットブロット法などの抗原抗体反応に基づく方法により行われる。いずれも外来タンパク質を検出する際の一般的な方法であり、目的に応じて適宜選択すればよい。また、得られたADAMTS13タンパク質量は、BCA Protein Assay Reagent Kit(Pierce Biotechnology社)、Protein Assay Kit(Bio-RAD社)などの蛋白測定試薬を用いて測定することができる。
【0072】
ADAMTS13の酵素活性は、例えば、SDSアガロース電気泳動法を用いた方法(M. Furlanら、Blood, US, 1997, Vol.89, p.3097-3103)、基質であるvWFのA2ドメインの組換え抗原を使用したELISA法(Whitelock JLら、Journal of thrombosis and hemostheres, UK, 2004, Vol. 2, 485-491]、あるいは、基質であるvWFのA2ドメインの中のAsp1596-Arg1668の73残基に相当する合成ペプチドに蛍光基[2-(N-methylamino)benzoyl,Nma]と消光基(2,4-dinitrophenyl, Dnp)を導入した消光性蛍光基質FRETS-VWF73を使用した方法(Kokame Kら、British Journal of Hematology, UK, 2005, Vol. 129, 93-100)により測定することができる。また、特願2005-148793号明細書に記載の方法、具体的には、(1)ADAMTS13を含有する可能性のある被検試料と、vWFまたはその断片を不溶性担体に結合させた固定化基質とを液中で接触させる工程、(2)前記液と不溶性担体とを分離する工程、並びに(3)不溶性担体に残存するvWFまたはその断片、および/または、不溶性担体から遊離した液中のvWF断片を分析する工程を含む分析方法により測定することができる。
【0073】
ADAMTS13タンパク質の活性は、ヒト血漿由来のvWFやvWFの部分合成ペプチドとの結合性や分解活性を、ADAMTS13に対する抗体やタグを付加している場合には、そのタグに対する抗体を用いたELISAなどの方法によって評価される。ELISAの構築は、常法に従って行われる。ELISAに用いるヒト血漿由来vWFおよびADAMTS13に対する抗体は、それぞれSoejima, K.ら(J. Biochem., 130: p.475-480, 2001)およびSoejima, K.ら(J. Biochem., 139: p.147-154, 2006)の方法により取得される。vWFの部分合成ペプチドは、市販の蛍光標識されたFRETS-VWF73(ペプチド研究所)を使用すればよい。
【0074】
ADAMTS13組成物および製剤
本発明のADAMTS13または改変体は、治療、診断または他の用途のために製薬学的調合剤に処方することができる。例えば、静脈内投与のための調合剤に対しては、組成物を、通常、生理学的に適合しうる物質、例えば塩化ナトリウム、グリシン等を含み、かつ生理学的条件に適合しうる緩衝されたpHを有する水溶液中に溶解する。また、長期安定性の確保の観点から、最終的剤型として凍結乾燥製剤の形態をとることも考慮されうる。なお、静脈内に投与される組成物のガイドラインは政府の規則、例えば「生物学的製剤基準」によって確立されている。本発明のADAMTS13または改変体を有効成分として含有する医薬品組成物の具体的な用途としては、肝障害、肝虚血/再灌流障害、肝移植後の肝機能および/または急性肝不全/劇症肝炎等のADAMTS13の低下した患者あるいは本酵素の基質であるvWFの血中濃度が上昇した患者ないし炎症等でULVWFの出現が予想される患者への補充療法が挙げられる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、上記のADAMTS13または改変体に加えて、通常医薬品に用いられる薬理的に許容される添加剤(例えば担体、賦形剤、希釈剤等)、安定化剤または製薬上必要な成分をさらに含み得る。安定化剤としては、グルコース等の単糖類、サッカロース、マルトース等の二糖類、マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール、塩化ナトリウム等の中性塩、グリシン等のアミノ酸、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(プルロニック)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(トゥイーン)等の非イオン系界面活性剤、ヒトアルブミン等が例示される。さらに本発明の医薬組成物は、その他の薬剤、補助剤、組織透過促進剤、可溶化剤などをさらに含み得る。そのような物質は、無毒であり、活性成分の効能に干渉しないものである。担体またはその他の物質の厳密な性質は、投与経路、例えば口、静脈、皮膚もしくは皮下、鼻、筋内、腹腔内経路に依存し、投与経路に応じて適切なものを選択することができる。医薬投与のための組成物および製剤の調製法は当業者に公知である。
【0076】
本発明のADAMTS13または改変体を含む医薬組成物は、既知の方法、例えば、静脈内投与(例えば、ボーラスとして、または長時間にわたる持続注入による)、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、髄腔内、経口、局所または吸入経路による方法を介した投与のために製剤化し得る。特定の実施形態では、本発明のADAMTS13製剤を全身的または局所的に投与し得る。全身投与としては、経口、真皮下、腹腔内、皮下、経鼻、舌下または直腸内経路の投与が非限定的に挙げられる。局所投与全身投与としては、局所、皮下、筋肉内および腹腔内経路の投与が非限定的に挙げられる。
【0077】
経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉末または液体形状であることができる。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固型担体を含むことができる。液体の薬学的組成物は、通常、液体の担体、例えば水、石油、動物性油、植物性油、鉱物性油、または合成油であることができる。生理食塩水、ブドウ糖もしくは他のサッカリド溶液またはグリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールが含まれる。
【0078】
静脈、皮膚もしくは皮下注射または苦痛部位への注射の場合は、活性成分が、発熱性因子を含まず、好適なpH、等張性および安定性を有する、腸管外で受容できる水溶液の形状とするであろう。当業者は、適切な溶液を、例えば等張性の媒体、例えば塩化ナトリウム液、リンゲル液、乳酸加リンゲル液などを用いて、調製することができる。防腐剤、安定剤、緩衝液、抗酸化剤、および/またはその他の添加剤を必要に応じて含むことができる。
【0079】
本発明の医薬組成物は、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射等により有効量で投与することができ、1回または数回に分けて投与される。その投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、1回あたり、100~700単位/kg体重であり、300~700単位/kgが好ましく、400~700単位/kgがさらに好ましい。その血中活性値の維持には複数回反復投与もしくは持続投与がさらに好ましい。
【0080】
バイオマーカーとしてのADAMTS13
本発明によれば、肝障害の発症、肝虚血/再灌流障害または肝移植後の肝機能をモニターするための、ADAMTS13のバイオマーカーとしての使用が提供される。さらに、本発明によれば、哺乳動物から得られた肝非実質細胞試料中のADAMTS13活性を測定またはモニターすることを含む、肝障害の検査方法、肝虚血/再灌流障害の検査方法または肝移植後の肝機能の検査方法が提供される。
【0081】
このような検査方法は、患者からの生物学的試料を用いて行なわれる。これらの試料は、前処置なしに直接的に用いられることもできるし、アッセイを行なう前に例えば遠心分離やろ過により干渉する可能性のある試料中の物質を除去する等の処置を行ってもよい。被検試料としては、例えば、血漿または血清形態の血液が好ましいが、それ以外にも、例えば、細胞組織液、リンパ液、胸腺水、腹水、羊水、胃液、尿、膵臓液、骨髄液または唾液等の各種体液を用いることもできる。また、前記血漿は、クエン酸血漿またはヘパリン血漿であることが好ましい。
【0082】
本発明の検査方法は、患者の生物学的試料中のADAMTS13活性を測定し、所定の活性を下回る場合に、肝障害、肝虚血/再灌流障害または肝移植後の肝機能障害と判定される。この場合、ADAMTS13の活性により、一般的に以下のように評価される。~10%:重篤な血液病・肝疾患の可能性あり、至急精密検査を要する;11~30%:血液病・肝疾患の可能性あり、精密検査を要する;31~80%:要精査;81%以上:正常。また、肝障害の場合は以下のように評価される。~10%:重篤な肝不全;11~30%:重篤な肝機能障害;31~50%:要精査;51~80%:精査が望ましい;81%以上:正常。さらに、肝移植後の場合は以下のように評価される。~10%:移植後肝機能不全、要治療介入;11~30%:移植後肝機能障害、要治療介入もしくは厳重な経過観察;31~50%:厳重な経過観察;51~80%(術後日数による):経過観察;81%以上(術後日数による):経過良好。
【0083】
本発明方法において、ADAMTS13活性を分析する方法としては、ADAMTS13活性を定量的または半定量的に決定することができる限り特に限定されるものではなく、例えば、抗ADAMTS13抗体またはその断片を用いる免疫学的手法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色、ウエスタンブロット等)、生化学的手法(例えば、酵素学的測定法)、またはmRNA量を測定する分子生物学的手法などを挙げることができる。ADAMTS13の分析方法として免疫学的手法を用いる場合には、抗ADAMTS13抗体は、公知の方法、例えば、国際公開第2004/029242号パンフレットに記載の方法に遵って調製することができ、前記免疫学的測定も、例えば、国際公開第2004/029242号パンフレットに記載の方法に従って実施することができる。
【0084】
ADAMTS13活性を測定する方法としては、感度および簡便性から免疫学的方法が好ましい。免疫学的方法としては、例えば、ADAMTS13を標識する競合法、抗体を標識するサンドイッチ法、抗体をコートしたビーズの凝集を観察するラテックスビーズ法、あるいは、金コロイドなどの着色粒子に結合した抗体を用いる方法等、様々な方法があるが、ADAMTS13に対する抗体を用いた方法であれば、本発明の好ましい態様に含まれる。抗体は、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でもよい。また、抗体断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)またはFvを用いることもできる。
【0085】
本発明方法においては、試料中のADAMTS13活性に加えて、vWF濃度も測定し、両者の比率から肝障害、肝虚血/再灌流障害または肝移植後の肝機能障害をモニターすることもできる。血栓性微小血管障害(TMA)では、vWF/ADAMTS13比の不均衡(vWF活性が著増し、ADAMTS13活性が著減する)を生じるので、vWFとADAMTS13の両者を測定し、測定値の比を調べることで上記疾患をモニターすることができる。ここで、各種判定用閾値、例えば、ADAMTS13濃度およびADAMTS13活性の判定用閾値、並びにADAMTS13濃度またはその活性とvWFの比の判定用閾値を予め決定しておくことが好ましい。
【0086】
vWF濃度の測定法としては、例えば、ヒト血小板とリストセチンコファクターの凝集活性による活性測定方法(Allain JPら、J Lab Clin Med. UAS, 1975, Vol.85, p.318-328)、あるいは抗vWF抗体を使用した免疫測定法(Brown JEら、Thromb Res. USA, 1986, Vol.43, p.303-311)などを挙げることができ、感度および簡便性から免疫学的方法が好ましい。
【0087】
キット
本発明はまた、哺乳動物から得られた試料中のADAMTS13活性を測定する手段を含む、肝障害発症モニター用キット、肝虚血/再灌流障害モニター用キット、および肝移植後の肝機能モニター用キットを提供する。
【0088】
本発明のキットにおいて、試料中のADAMTS13活性を測定する手段は、例えば、抗ADAMTS13抗体またはその断片であってよい。異なる2種類以上の抗ADAMTS13抗体を含むことが好ましい。前記抗ADAMTS13抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれであってもよい。また、異なる2種類以上の抗ADAMTS13抗体を含む場合には、いずれか一方(第2抗体)を標識抗体とすることもできるし、あるいは、標識化の代わりに、第2抗体に対する抗体に標識を結合させた標識抗体を更にキットに追加することもできる。
【0089】
本発明はまた、哺乳動物から採取した肝非実質細胞中のADAMTS13活性を測定し、ADAMTS13活性の低減をスクリーニングする方法をも提供する。ここで、哺乳動物の肝非実質細胞中のADAMTS13活性の低減は、哺乳動物における肝障害、肝虚血/再灌流障害および肝移植後の肝機能障害よりなる群から選ばれた疾患の罹患の指標となるものである。
【0090】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0091】
移植肝の冷保存により肝非実質細胞機能は著減する
ラット(Wistar Rat, 雄性、250-270g)より全肝を摘出後、HTK液に単純冷保存6時間、24時間後の肝組織中 ADAMTS13活性値を測定した。対象として、保存なしのラット正常肝4例の平均活性値100%に対する相対比でプロットした(図1)。ADAMTS13活性は、FRET法(FRETS-VWF73: ペプチド研究所)にて測定した。
【0092】
その結果、冷保存6, 24時間の2群間で肝逸脱酵素値に有意差は認めなかったが(肝細胞障害指標に差はなかった)、肝組織中ADAMTS13活性は、非常に鋭敏に移植肝の冷保存時間に逆相関した(図1)。
【実施例2】
【0093】
大腸がん化学療法後の肝障害の本態は、肝非実質細胞障害である
大腸癌化学療法の Key Drug の一つであるオキザリプラチンは高率に肝障害を来す。その病態の本質は、オキザリプラチンによる類洞壁細胞破壊からくる類洞閉塞症候群(Sinusoidal Obstructive Syndrome: SOS)とされている。このSOSの動物モデルとして最も汎用されているモノクロタリン投与モデルを用いて、投与24, 48時間後のADAMTS13活性値を、治療薬投与あり・投与なしで比較検討した(各群 n=5)。図1における方法と同様に、肝組織採取のうえ、FRET法にて定量した。
NC: 正常肝
A24: モノクロタリン投与24h後
A48: モノクロタリン投与48h後
T24: モノクロタリン+治療薬投与24h後
T48: モノクロタリン+治療薬投与48h後
【0094】
その結果、治療薬投与前では著減していたADAMTS13活性が、治療薬投与後に顕著に改善した(図2)。このことから、大腸癌化学療法後の肝障害の本態は、類洞壁細胞破壊による鬱血肝であり、肝組織中、血中ADAMTS13活性値は、非常に鋭敏に類洞壁構成細胞のintegrityを示す指標であることがわかった。なお、上記各群において、肝細胞障害の指標である AST/ALTに有意差は認めなかった。
【実施例3】
【0095】
血中ADAMTS13活性は 肝不全の程度と逆相関する
2012年11月から2013年3月までに京都大学医学部付属病院 肝胆膵・移植外科にて施行した成人生体部分肝移植21例のドナー、レシピエントにおいて、術前ADAMTS13活性値と、肝不全の指標として世界中で最汎用されている MELD (Model for End-stage Liver Disease)スコアおよびChild-Pughスコアをモニタリングした。その結果、術前ADAMTS13活性値とMELDスコアおよびChild-Pughスコアは、非常にきれいな逆相関を示した(図3)。即ち、血中ADAMTS13活性値は、肝不全の指標として有用であると考えられる。
【実施例4】
【0096】
生体肝移植後早期のADAMTS13活性
2010年10月から2012年3月までに京都大学医学部付属病院 肝胆膵・移植外科にて施行した生体部分肝移植95例において、レシピエントの術前~術後2週間までの連日、血中ADAMTS13活性値をモニタリングした。肝移植後早期には全例で血中ADAMTS13活性値が低下することが明らかである。
【0097】
その結果、肝移植後早期には全例でADAMTS13活性が著減することがわかった(図4)。以上の結果は、移植肝の冷保存がその非実質細胞、類洞壁構成細胞に与える影響を、非実質細胞の一つである星細胞からの産生蛋白の定量化を通して証明した査証である。
【実施例5】
【0098】
肝移植後ADAMTS13活性(小児vs成人)
2010年10月から2012年3月までに京都大学医学部付属病院 肝胆膵・移植外科にて施行した生体部分肝移植95例を、小児例(n=29)と成人例(n=66)に分けて、その肝移植後ADAMTS13活性値を比較・検討した。
【0099】
肝臓は体重の約2%(標準肝容積)に相当する最大の実質臓器である。成人から小児への移植では体重比1~5%、成人から成人への移植では体重比0.6~1.5%のグラフト肝が移植されることが多い。小児例では相対的移植肝容量が成人例に比して大きいこともあり、有意にその回復が良好であった(図5)。
【実施例6】
【0100】
成人例の検討でも、相対的過小グラフトではADAMTS13活性の回復がさらに遅延する
既出の成人例66例を移植肝重量/レシピエント体重比(GRWR)1.0%以上、1.0%未満の2群に分けて、その肝移植後ADAMTS13活性の推移を比較・検討した。GRWR<1.0%未満の27例では、>1.0%以上の39例に比して、その回復が遅延する傾向であった。
【0101】
以上より、肝移植後のレシピエント血中ADAMTS13活性値は、GRWR、移植肝予備能によく相関することが明らかとなった。以上から、ADAMTS13は肝移植後の肝非実質細胞/類洞機能の指標になり得ることが示唆された(図6)。
【実施例7】
【0102】
肝移植後早期には、vWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存する
2013年7月から2015年3月までに京都大学医学部付属病院 肝胆膵・移植外科にて施行した成人生体部分肝移植20例で、血中のフォンビルブランド因子(vWF; 血小板血栓の核となり、生理的には止血機構の起点を担うが、血管内皮障害などでは血小板の過剰凝集を引き起こす病態の起点ともなる)と、血小板血栓の細断化酵素であるADAMTS13の 両者の活性値を測定し、比較・検討した(図7)。また、vWF/ADAMTS13の相対比(共に、正常人血漿中の活性値を100%とすると、その正常比は1となる)は、肝移植後の全患者でも10倍以上に(図8左)、早期死亡例では30倍以上も(図8右)血小板血栓形成傾向が高いことが判明した。
【0103】
その結果、肝移植後早期には、vWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存することがわかった(図7)。また、肝移植後には、ほぼ全例でvWF/ADAMTS13不均衡が存在することが示された(図8)。このことから、重症肝障害では潜在的にpre-TMA状態にあることが示唆された。すなわち、移植肝内での血小板血栓の形成/抹血中の血小板減少とともに微小循環傷害から臓器移植後臓器機能障害(Delayed Graft Function:DGF)を引き起こしている可能性が示唆された。肝予備能に乏しい部分肝移植では、これが致死的病態となるのだと考えられる。
【実施例8】
【0104】
肝虚血/再灌流障害におけるADAMTS13の役割~ノックアウトマウス、野生型を用いた検討と遺伝子組換えADAMTS13の保護効果~
雄ADAMTS13KOマウス26(129/+Ter/SvJcl-TgH NCVC;8-12週, 25-30g)を国立循環器病研究センター研究所(大阪)から購入し、対応する野生型マウスを日本クレア(大阪)から入手した。部分温肝IRIのマウスモデルを用いた。全てのマウスをイソフルランで全身麻酔し、左葉・中葉への血流を遮断した。虚血90分後、虚血された肝葉に再潅流した。ADAMTS13の影響を調べるため、虚血侵襲(ischemia insult)に先だっておよび再潅流の前に組換えADAMTS13(化血研より提供;ADAMTS13W688X)を静注し(それぞれ20U/匹)、ついで再潅流の2, 6および24時間後に屠殺した。対照はPBSで処理した。Sham-operatedマウスも同様に処置したが、血管閉塞なしで行った。マウスは以下の3つの群に分けた(図9)。
1群:野生型マウス+PBS
2群:ノックアウトマウス+PBS
3群:ノックアウト+組換えADAMTS13
【0105】
ノックアウトマウスと野生型マウスとでは、ADAMTS13活性以外は末梢血および血清トランスアミナーゼに差異は認められなかった。
【表1】
【0106】
肝酵素および血小板数
血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(sAST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(sALT)および乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベルを、自動臨床アナライザー(JCA-BM9030, JEOL Ltd., Tokyo, Japan)を用いた標準分光光度法により測定した。血小板数は、Becton Dickinson QBC II Plus 4452 Automatic Blood Cell Counterにより定量した。
【0107】
組織学
肝臓パラフィン埋設切片(厚さ4-μm)をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。肝臓IRIの重篤度(壊死、類洞壁充血(sinusoidal congestion)および空胞化(vacuolization))を0-429のスケールでのSuzuki基準(Suzuki's criteria)でブラインドグレードした。
【0108】
肝臓の微小循環の定量分析
再潅流後の肝臓の微小循環をレーザードップラーフローメトリー(laser Doppler flowmetry;O2C: oxygen to see; LEA Medizintechnik GmbH, Giessen, Germany)により評価した。虚血前の値に対する血流の相対変化を計算した。
【0109】
血漿ADAMTS13の測定
FRETS VWF73法を用いた。簡単に説明すると、血漿試料を反応緩衝液(5mM bis-Tris, 25mM CaCl2, および0.05%Tween-20, pH6.0)に希釈し、ついで4μMのFRETS-VWF73(PEPTIDE INSTITUTE, INC., Osaka, Japan)基質溶液および10μlのプロテアーゼインヒビターカクテル(P8340, Sigma-Aldrich Inc., St Louis, USA)を加えた。インキュベート後、ナイーブ野生型マウス血漿を標準として用い、355nmで励起および460nmで放出する蛍光分光光度法(Fluoroskan Ascent FL, Thermo Labsystems, Helsinki, Finland)により測定した。
【0110】
CD42bの免疫蛍光
肝臓切片の脱パラフィン後、クエン酸緩衝液(10mM, pH6.0)により抗原を回収した。Protein Block Serum-Free(X0909, DAKO, Tokyo, Japan)で30分間ブロックした後、切片を一次ウサギ抗マウスCD42b(bs-2347R, Boston, Massachusetts)とともに1:200希釈にて4℃でインキュベートした。その後、切片をAlexa Fluor@ 594結合ヤギ抗ウサギIgG(H+L)二次抗体と反応させた。CD42b陽性領域を分析ソフトウエア(ImageJ, NIH, USA)により定量した。一次抗体の代わりに正常ウサギIgG(sc-2027, SantaCruz, CA)とともにインキュベートすることにより陰性対照スライドを調製した。
【0111】
SYBR Greenリアルタイム逆転写物PCR(SYBR Green Real-Time Reverse-Transcription Polymerase Chain Reaction)
RNeasy Kit(Qiagen, Venlo, Netherlands)を用いて全RNAを肝組織から抽出し、相補的DNAをOmniscript RT kit(Qiagen)により調製した。Fast SYBRR Green Master Mixを備えたStepOnePlusTM Real-Time PCR System(Applied BiosystemsR, Tokyo, Japan)を用いて定量的PCRを行った。増幅条件は以下のとおりであった:95℃(20秒)、95℃(3秒)、ついで95℃(15秒)、60℃(30秒)を45サイクル。標的遺伝子発現は、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに対する比率により計算した。
【0112】
統計分析
データはすべて平均±SEMで表してある。実験グループ間の差異は、分散の二方向分析の後、不対データについてBonferroniの事後調査(Bonferroni's post-test)またはStudentのt検定を行うことによって分析した。計算はすべてGraphPad Prism 5(GraphPad Software Inc., La Jolla, CA, USA)を用いて行った。すべての差異は<0.05のP値にて統計的に有意であると考えられた。
【0113】
結果
(1)ADAMTS13発現はIRIにより肝臓でダウンレギュレートされる
90分間温虚血に暴露された野生型マウスの肝臓において、血小板ADAMTS13活性およびADAMTS13のmRNAの定量を行った。血漿中のADAMTS13濃度は、生理状態と比べて再潅流の初期の段階で約36%に下がり、この低レベルは再潅流の24時間後まで維持された(図11)。RT-PCRで定量したADAMTS13の遺伝子発現は、虚血の時点から下がり、ついでIRIの間抑制された(図11)。これらの結果は、HSCsからのADAMTS13の産生が虚血の影響を受けること、およびHSCsが肝臓IRIにより障害を受けることを示していた。
【0114】
(2)ADAMTS13欠損は肝障害および血小板減少症を悪化させる
90分の部分肝温虚血とその後の再潅流のモデルで肝機能を分析した。IRによる障害は、野生型に比べてADAMTS13-/-マウスで極度に悪化した。図11に示すように、再潅流後、24時間でのsAST、6時間でのsALTおよび6および24時間でのLDHレベルは有意に低下した。肝障害と一致して、末梢血の血小板数もADAMTS13-/-マウスで再潅流後に低下した(図11)。
【0115】
(3)ADAMTS13の補充はIRにより誘発された組織障害および血小板数を改善させる
肝IRの間のADAMTS13の機能を解明するため、組換えADAMTS13をマウスIRIモデルに投与した。組換えADAMTS13を虚血侵襲の前および再潅流の直前にノックアウトマウスに静注した。図14に示すように、6および24時間後のsAST、sALTおよびLDHレベルは、組換えADAMTS13処理をしなかったノックアウトマウスに比べて組換えADAMTS13で処理したノックアウトマウスで著増した。それゆえ、ADAMTS13処置はノックアウトマウスにおいて劇症肝細胞障害を改善した。図15の組織学的所見において、PBS処理したノックアウトマウスは、重篤な肝葉浮腫、鬱血、膨れ(ballooning)および壊死を示した。対照的に、ノックアウトマウスの増悪した肝障害は、組換えADAMTS13の補充によって再潅流の6時間後および24時間後のいずれにおいても有意に改善した。肝酵素と一致して、末梢血の血小板数もまた、組換えADAMTS13処理しなかったマウスに比べて6時間後および24時間後のいずれにおいても組換えADAMTS13投与によって顕著に改善した。
【0116】
(4)類洞壁(sinusoidal space)内での血小板凝集
肝臓のCD42b染色は、ビヒクル処理したノックアウトマウスが野生型マウスと比較して類洞壁内に多量の血小板凝縮を示すことを明らかにした。図12および図13に示すように、CD42b陽性領域は、ノックアウトマウスに組換えADAMTS13を投与することによって有意に低下した。CD42b陽性領域は、末梢血の血小板数の低下とともにアップレギュレーションされ、IRIの間に血小板凝集が肝臓内で起きたことを示していた。
【0117】
(5)ADAMTS13は肝微小循環の制御を肝用量に依存した仕方で決定する
再潅流の24時間後、組換えADAMTS13処理しなかったノックアウトマウスの肝臓の肝血流は、野生型マウスに比べて約38%低下した。対照的に、組換えADAMTS13の投与はノックアウトマウスにおいて2時間後、肝臓内微小循環を有意に改善した。このことはADAMTS13の血漿活性と相関しており、ADAMTS13が微小循環の障害によって誘発されるIRIの重篤度を決定することを示唆している。
【0118】
(6)ADAMTS13の関与は炎症性サイトカインおよびケモカインプログラムを抑制する
再潅流後6および24時間において、肝組織でのサイトカインおよびケモカインの発現に及ぼすADAMTS13欠損および組換えADAMTS13処置の効果を調べた。サイトカイン(TNF-α, IL-1βおよびIL-6)およびケモカインリガンド(CXCL-2)を定量的RT-PCRにより測定した(図17)。再潅流の6時間後、ADAMTS13欠損は野生型マウスに比べてIL-1βおよびIL-6の発現が著増した。対照的に、ADAMTS13処理はノックアウトマウスにおいて6時間後、TNF-α、IL-1β、IL-6およびCXCL-2の放出を有意に低減した。これら結果は、ADAMTS13が肝臓IRIに対して強力な抗炎症作用を有することを示している。
【実施例9】
【0119】
肝虚血/再灌流障害におけるADAMTS13の役割~ADAMTS13欠失マウスではなく、野生型マウスにおいても遺伝子組み換えADAMTS13は保護効果を発揮しうるか
実施例8と同様の手順に従い、野生型マウスに組換えADAMTS13を投与することで肝虚血/再灌流障害に対する保護効果があるか否かを検討したマウスを以下の2つの群に分けた。
1群:野生型マウス+PBS
2群:野生型マウス+組換えADAMTS13
【0120】
肝虚血/再灌流により、vWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存する
上記の2群において、肝虚血再灌流前(pre)、虚血終了時(再灌流直前:0h)、再灌流2時間後(2h)、6時間後(6h)、24時間後(24h)に肝組織を採取し、定量的RT-PCR法にてvWFとADAMTS13の遺伝子発現を定量化した。House-keeping geneであるGAPDHとの相対比で示す。
【0121】
その結果、肝虚血/再灌流障害において、vWF活性の著増とADAMTS13活性の著減が併存することがわかった(図10)。このように、野生型(=正常人)でも、vWF/ADAMTS13比の不均衡は著明であり、このことからADAMTS13補填の治療的意義が大いに期待される。
(1)ADAMTS13発現はIRIにより肝臓でダウンレギュレートされる
90分間温虚血に暴露された野生型マウスの肝臓において、ADAMTS13のmRNAの定量を行った。その結果、ADAMTS13発現は、虚血終了時には虚血前値の1/4~1/5に下がり、この低レベルは再潅流の24時間後まで維持された(図10)。以上より、ADAMTS13産生細胞である肝・星細胞が肝虚血再灌流により障害され、全身のADAMTS13活性値が著減することが示された。
【0122】
(2)ADAMTS13欠損は肝障害および血小板減少症を悪化させる
血小板血栓の核となるvWFの過剰発現と、その細断化酵素であるADAMTS13の著減は、IRI後の末梢血血小板数を有意に低下させたが、rADAMTS13の投与により、この血小板減少は有意に改善した。このことは、肝微小血管障害によるLDHの上昇を有意に低下させた(図23)。結果的に、肝微小循環の改善から、AST, ALTなどの肝逸脱酵素値は、rADAMTS13投与群で有意に低値であった(図25)。
【0123】
(3)組織学的所見において、PBS処理した野生型マウスは、重篤な肝葉浮腫、鬱血、膨れ(ballooning)および壊死を示した。対照的に、野生型マウスの増悪した肝障害は、組換えADAMTS13の補充によって再潅流の6時間後および24時間後のいずれにおいても有意に改善した。肝酵素と一致して、末梢血の血小板数もまた、組換えADAMTS13処理しなかったマウスに比べて6時間後および24時間後のいずれにおいても組換えADAMTS13投与によって顕著に改善した。
【0124】
(4)類洞壁(sinusoidal space)内での血小板凝集
CD42b陽性領域は、野生型マウスに組換えADAMTS13を投与することによって有意に低下した。CD42b陽性領域は、IRIの間に血小板凝集が肝臓内で起きたことを示していた。
【0125】
(5)ADAMTS13は肝微小循環の制御を肝用量に依存した仕方で決定する
組換えADAMTS13の投与は野生型マウスにおいて2時間後、肝臓内微小循環を有意に改善した。このことはADAMTS13の血漿活性と相関しており、ADAMTS13が微小循環の障害によって誘発されるIRIの重篤度を決定することを示唆している。
【0126】
(6)ADAMTS13の関与は炎症性サイトカインおよびケモカインプログラムを抑制する
再潅流後6および24時間において、肝組織でのサイトカインおよびケモカインの発現に及ぼすADAMTS13欠損および組換えADAMTS13処置の効果を調べた。サイトカイン(TNF-α, IL-1βおよびIL-6)およびケモカインリガンド(CXCL-2)を定量的RT-PCRにより測定した。ADAMTS13処理は野生型マウスにおいて6時間後、TNF-α、IL-1β、IL-6およびCXCL-2の放出を有意に低減した。これら結果は、ADAMTS13が肝臓IRIに対して強力な抗炎症作用を有することを示している。
【実施例10】
【0127】
肝移植におけるADAMTS13の役割~ラット20%部分肝移植モデルを用いた検討と遺伝子組み換えADAMTS13の保護効果~
肝移植に不可避である冷保存によって、肝星細胞により産生されるADAMTS13活性は著減すること(図1)、また移植肝が小さい程術後早期の活性値が低くなること(図5および6)から、肝移植後には程度の差はあれ全例でvWF/ADAMTS13不均衡が存在し(図7)、早期死亡例ではその不均衡が高度である(図8)。このことから、成人生体部分肝移植後の組換えADAMTS13投与による保護効果について、ラット部分肝移植モデルを用いて検証した。成人生体部分肝移植をmimicする動物モデルとして、Lewisラット(雄性、250~300g)を用いて、その右葉+尾状葉のみを移植肝として用いる、ラット同所性20%部分肝移植モデルを作成した。
【0128】
肝移植後4日目の生存率は100%であり、検体Samplingに優れ、同時に7日生存は60%であり、主要エンドポイントとして治療効果が生存に与える影響も評価可能であった組換えADAMTS13投与は20%部分肝移植後の肝細胞障害を有意に軽減した(図25)。また、組換えADAMTS13投与は20%部分肝移植後の血栓性微小血管障害(TMA病態)を有意に軽減した(図23)。さらに、病理学的にも移植肝の健常性が維持された(図26)
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、ADAMTS13の全長もしくは部分断片の臨床分野での新規な用途に関するものであり、本発明に従ってADAMTS13を使用することにより、急性・慢性肝障害を迅速かつ正確に診断することが可能となり、肝障害、肝虚血/再灌流障害、肝移植後の肝機能障害および急性肝不全/劇症肝炎の有効な治療薬を提供することができる。
図1
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