(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】重ね耐火板構造物およびロケット発射施設
(51)【国際特許分類】
B64G 5/00 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
B64G5/00
(21)【出願番号】P 2022031953
(22)【出願日】2022-03-02
【審査請求日】2022-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐人
(72)【発明者】
【氏名】秋江 辰司
(72)【発明者】
【氏名】平岩 徹夫
(72)【発明者】
【氏名】野中 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直洋
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10150580(US,B1)
【文献】特開2018-048476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0263187(US,A1)
【文献】特開昭61-197998(JP,A)
【文献】特開平09-278000(JP,A)
【文献】特開2006-83598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部耐火板と、
前記上部耐火板の下方に位置する下部耐火板と、
前記上部耐火板と前記下部耐火板との間に所定距離のすき間を形成するすき間形成部材と、
前記上部耐火板および前記下部耐火板を水平面に対して所定の角度だけ傾ける傾斜手段と、
を有し、
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、下面に取り付けられた
、貫通孔を有する底板鋼板を含むことを特徴とする重ね耐火板構造物。
【請求項2】
前記底板鋼板は長方形状であり、前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、長方形状の該底板鋼板と、該底板鋼板の面内方向の端部4辺にそれぞれ立設する側板鋼板と、を含み、該側板鋼板は貫通孔を有することを特徴とする請求項1に記載の重ね耐火板構造物。
【請求項3】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、
前記底板鋼板および前記側板鋼板とで形成される型枠内に流し込んで打設することで平板状に形成可能な材料で構成されていることを特徴とする請求項
2に記載の重ね耐火板構造物。
【請求項4】
前記上部耐火板および前記下部耐火板は、どちらも、前記底板鋼板および前記側板鋼板を含むことを特徴とする請求項2に記載の重ね耐火板構造物。
【請求項5】
前記上部耐火板は、厚さが100mm以上200mm以下であり、前記すき間形成部材で形成される前記すき間の前記所定距離は50mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項6】
前記底板鋼板の上面には、ずれ止めが取り付けられていることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項7】
前記すき間形成部材は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向に相互に所定の間隔を空けて配置されている複数の形鋼であることを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項8】
前記すき間形成部材を構成する前記複数の形鋼のうち、一部の形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な一定の方向に相互に所定の間隔を空けて配置され、残りの形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向であって、かつ前記一定の方向とは異なる方向に相互に所定の間隔を空けて配置されていることを特徴とする請求項
7に記載の重ね耐火板構造物。
【請求項9】
前記一定の方向と、前記一定の方向とは異なる前記方向とは、略直交する方向であることを特徴とする請求項
8に記載の重ね耐火板構造物。
【請求項10】
前記上部耐火板は、複数の上部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士は密接して配置されていることを特徴とする請求項1~
9のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項11】
前記下部耐火板は、複数の下部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記下部耐火板ブロック同士は密接して配置されていることを特徴とする請求項1~
10のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項12】
前記下部耐火板の下方には、下部スペーサを備えていることを特徴とする請求項1~
11のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項13】
前記上部耐火板の位置を拘束する拘束部材を備えていることを特徴とする請求項1~
12のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項14】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方はキャスタブル耐火物で形成されていることを特徴とする請求項1~
13のいずれかに記載の重ね耐火板構造物。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれかに記載の重ね耐火板構造物を備えることを特徴とするロケット発射施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐火板構造物に関する。また、このような耐火板構造物を備えるロケット発射施設に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙ステーションを有効に運用していくためには、人員や物資を宇宙輸送するための補給船が必要である。
【0003】
補給船を宇宙空間に送り出すためにはロケットが必要となるが、ロケットを打ち上げるためには発射台が必要である。また、近年では、補給船を宇宙空間に送り出すために発射したロケットを地上や海上の着陸台に着陸させて再打ち上げすることも行われており、この場合にはロケットを着陸させるための着陸台が必要となる。
【0004】
発射台には、ロケット発射時の燃焼ガスを浴びる部位があり、また、着陸台には、ロケット着陸時の逆噴射の燃焼ガスを浴びる部位がある。これらの部位は極めて高い高温と高温ガス流体に耐えられることが必要であり、例えば、特許文献1には、ロケット発射台の偏向板構造として、コンクリート製基板上にグラウトにより多数のセラミック製ライニングブロックが相隣り合って被覆敷設されている偏向板構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年開発が進んでいる高性能ロケットエンジン(液体水素/液体酸素エンジン)は、従来のエンジンよりも燃焼ガスの温度が高く(3600℃程度に達すると言われている。)なっており、より高性能な耐火板が求められてきているが、本発明者は、従来のエンジンよりも高温の燃焼ガスを浴びる耐火板は、損傷を全く受けないようにすることは困難と考え、損傷を受けた部位のみを容易に補修または交換できるように耐火板構造を構成することが重要ではないかと考えた。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の偏向板構造では、セラミック製ライニングブロックがコンクリート製基板上にグラウトにより取り付けられており、部分的にセラミック製ライニングブロックを容易に補修または交換することは困難である。
【0008】
また、ロケットエンジンの燃焼ガスを浴びる際には耐火板には冷却水をかけるが、燃焼ガスを浴びた冷却水は急激に水蒸気になるため、その際の急激な圧力上昇により耐火板を損傷させる可能性があると本発明者は考えた。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、部分的に補修または交換をすることを容易に行うことができ、かつ、燃焼ガスを浴びて発生した水蒸気を逃がすことに配慮した耐火板構造物およびロケット発射施設を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下のような重ね耐火板構造物およびロケット発射施設である。
【0011】
即ち、本発明に係る重ね耐火板構造物の一態様は、上部耐火板と、前記上部耐火板の下方に位置する下部耐火板と、前記上部耐火板と前記下部耐火板との間に所定距離のすき間を形成するすき間形成部材と、前記上部耐火板および前記下部耐火板を水平面に対して所定の角度だけ傾ける傾斜手段と、を有することを特徴とする重ね耐火板構造物である。
【0012】
本願において、本発明および本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造物ならびにその構成部材に関し、上方や下方等の上下を観念する文言の解釈については、上部耐火板が上、下部耐火板が下となるように、本発明および本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造物の重ね耐火板構造を水平面上に載置した状態を基準として解釈するものとする。これらのことは、本願の他の箇所の記載においても同様とする。
【0013】
前記上部耐火板は各部位が同一の組成の材料で構成されており、また、前記下部耐火板も各部位が同一の組成の材料で構成されている、ように構成されていてもよい。
【0014】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、型枠内に流し込んで打設することで平板状に形成可能な材料で構成されていてもよい。
【0015】
前記上部耐火板は、厚さが100mm以上200mm以下であり、前記すき間形成部材で形成される前記すき間の前記所定距離は50mm以上100mm以下である、ように構成されていてもよい。
【0016】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方は、下面に取り付けられた底板鋼板を含んでいてもよい。
【0017】
前記底板鋼板の上面には、ずれ止めが取り付けられていてもよい。
【0018】
前記すき間形成部材は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向に相互に所定の間隔を空けて配置されている複数の形鋼であってもよい。
【0019】
ここで、「前記上部耐火板の下面に取り付けられ」とは、前記上部耐火板の下面に直接的に取り付けられている場合だけでなく、他の部材を介して前記上部耐火板の下面に間接的に取り付けられている場合も含む。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0020】
前記すき間形成部材を構成する前記複数の形鋼のうち、一部の形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な一定の方向に相互に所定の間隔を空けて配置され、残りの形鋼は、前記上部耐火板の下面に取り付けられていて前記上部耐火板の下面と平行な方向であって、かつ前記一定の方向とは異なる方向に相互に所定の間隔を空けて配置されている、ように構成してもよい。
【0021】
前記一定の方向と、前記一定の方向とは異なる前記方向とは、略直交する方向であってもよい。
【0022】
前記形鋼の上面には、前記上部耐火板の内部に埋め込まれているずれ止めが取り付けられていてもよい。
【0023】
前記上部耐火板は、複数の上部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士は密接して配置されている、ように構成してもよい。
【0024】
ここで、前記上部耐火板について「面内方向」とは、前記上部耐火板が板状体として面的に広がる方向のことであり、通常の場合、前記上部耐火板の上面および下面と平行な方向である。本願の他の箇所の同様の記載についても同様である。
【0025】
また、「面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士は密接して配置されている」とは、面内方向に隣り合う前記上部耐火板ブロック同士のすき間が実質的にない状態を意味しており、物理的なすき間が零であることを意味しているわけではない。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0026】
前記下部耐火板は、複数の下部耐火板ブロックに面内方向に分割されて構成されており、面内方向に隣り合う前記下部耐火板ブロック同士は密接して配置されている、ように構成してもよい。
【0027】
ここで、前記下部耐火板について「面内方向」とは、前記下部耐火板が板状体として面的に広がる方向のことであり、通常の場合、前記下部耐火板の上面および下面と平行な方向である。本願の他の箇所の同様の記載についても同様である。
【0028】
また、「面内方向に隣り合う前記下部耐火板ブロック同士は密接して配置されている」とは、面内方向に隣り合う前記下部耐火板ブロック同士のすき間が実質的にない状態を意味しており、物理的なすき間が零であることを意味しているわけではない。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0029】
前記下部耐火板の下方には、下部スペーサを備えていてもよい。
【0030】
前記上部耐火板の位置を拘束する拘束部材を備えていてもよい。
【0031】
前記上部耐火板および前記下部耐火板のうちの少なくとも一方はキャスタブル耐火物で形成されていてもよい。
【0032】
前記上部耐火板の面内方向の大きさは、前記下部耐火板の面内方向の大きさよりも小さくてもよい。
【0033】
本発明に係るロケット発射施設の一態様は、前記重ね耐火板構造物を備えることを特徴とするロケット発射施設である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、部分的に補修または交換をすることを容易に行うことができ、かつ、燃焼ガスを浴びて発生した水蒸気を逃がすことに配慮した耐火板構造物およびロケット発射施設を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施形態に係る重ね耐火
板構造物8の重ね耐火
板構造10の鉛直断面図(
図2のI-I線断面図)
【
図6】重ね耐火
板構造10をロケット発射施設100に煙道用偏向
板として設置した状況を模式的に示す鉛直断面図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。この説明では、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造物8を、ロケット発射施設100の煙道用偏向板およびその傾斜手段として用いる場合を念頭に置いて説明をするが、本発明に係る重ね耐火板構造物の適用対象が、ロケット発射施設に限定されるわけではない。
【0037】
(1)本発明の実施形態に係る重ね耐火
板構造物の構成および作用効果
図1は、本発明の実施形態に係る重ね耐火
板構造物8の重ね耐火
板構造10の鉛直断面図(
図2のI-I線断面図)であり、
図2は、重ね耐火
板構造10を上方から見た平面図であり、
図3は、
図1のIII部を拡大した拡大鉛直断面図であり、
図4は、缶体24を上方から見た平面図であり、
図5は、缶体24を側方から見た側面図であり、
図6は、重ね耐火
板構造10をロケット発射施設100に煙道用偏向
板として設置した状況を模式的に示す鉛直断面図である。なお、図示の都合上、
図2では、上部耐火
板構造部20のみを記載しており、下部耐火
板構造部40については反映させていない。
【0038】
本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造物8は、重ね耐火板構造10と、重ね耐火板構造10を水平面に対して所定の角度だけ傾ける傾斜手段とを有してなるが、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造物8の特徴的な構成部分は重ね耐火板構造10であるので、以下では、重ね耐火板構造10を中心に説明をする。
【0039】
重ね耐火
板構造10は、上部耐火
板構造部20と、
板間スペーサ30と、下部耐火
板構造部40と、下部スペーサ50とを有してなり、上部耐火
板構造部20を下部耐火
板構造部40が
板間スペーサ30を介して下方から支持する2段構成の耐火
板構造になっている。
図6に模式的に示すように、本実施形態に係る重ね耐火
板構造10をロケット発射施設100の煙道104に設置して煙道用偏向
板として用いる場合、ロケット発射施設100において、水平面に対して所定の角度を設けて据え付けられ、重ね耐火
板構造10はロケット102の発射時の燃焼ガス106を浴びることになる。重ね耐火
板構造10をロケット発射施設100の煙道用偏向
板に用いる場合に、重ね耐火
板構造10を据え付ける水平面に対する角度は、使用条件等に応じて適宜に定めればよいが、標準的には水平面に対して30°以上70°以下に据え付ける。
【0040】
ロケット発射施設100において、重ね耐火
板構造10を水平面に対して所定の角度を設けて据え付ける場合、具体的には例えば
図6に示すように、重ね耐火
板構造10を煙道104の床面と壁面に、水平面に対して所定の角度だけ傾斜するように立て掛け、必要に応じて固定治具(図示せず)でその位置を固定することになる。この場合、煙道104の床面と壁面は、重ね耐火
板構造10を水平面に対して所定の角度だけ傾ける傾斜手段となる。つまり、煙道104の床面と壁面は、上部耐火
板構造部20の耐火
板22および下部耐火
板構造部40の耐火
板42を水平面に対して所定の角度だけ傾ける傾斜手段となる。
【0041】
上部耐火板構造部20は、耐火板22と、缶体24とを有してなり、缶体24の内部に耐火板22が設けられていて、耐火板22は缶体24と一体化しており、下部耐火板構造部40は、耐火板42と、缶体44とを有してなり、缶体44の内部に耐火板42が設けられていて、耐火板42は缶体44と一体化している。本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10において、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40は、前者が上段に位置し、後者が下段に位置するという上下の配置関係が異なるだけで、それぞれの構成自体は同一である。具体的に言えば、上部耐火板構造部20の耐火板22と下部耐火板構造部40の耐火板42は同一であり、上部耐火板構造部20の缶体24(底板鋼板24A、側板鋼板24B、ずれ止め24C)と下部耐火板構造部40の缶体44(底板鋼板44A、側板鋼板44B、ずれ止め44C)は同一である。したがって、下部耐火板構造部40の各構成部材についての説明は、上部耐火板構造部20の対応する構成部材の説明をもって代えることとし、下部耐火板構造部40の各構成部材についての説明は原則として省略する。
【0042】
上部耐火板構造部20の耐火板22は、ロケット102発射時の燃焼ガス106を受け止めて、所定の方向に(煙道104の方向に)燃焼ガス106を流す役割を有する。したがって、耐火板22には、優れた耐火性能が要求されるとともに、ロケット102発射時の燃焼ガス106の圧力に耐える機械的な特性も要求される。
【0043】
耐火板22、42の材質は、必要な耐火性能および機械的性能等を発現できるものであれば特には限定されず、必要な耐火性能および機械的性能等に応じて、具体的には例えば、アルミナ、マグネシア、酸化クロム、ジルコニア等を耐火板22、42に用いることができる。ブロック体として耐火板22、42を作製する際の取り扱い性がよく、また、補修時の施工性がよく、さらにコスト的な面から、耐火板22、42の材質としてはキャスタブル耐火物(耐火性の大きな軽量骨材にアルミナセメントを配合したもの)を好適に用いることができる。
【0044】
耐火板22、42は、単一の材料で構成されている。ここで言う単一の材料とは、耐火板22、42の各部位が同一の組成の材料で構成されていることを意味し、複数種の耐火材料を混合してなる材料を除外する趣旨ではない。耐火板22、42は、単一の材料で構成されているため、損傷したときの補修も、当該単一の材料を用いて行うことができ、複数の材料や部材を用いる必要がなく、容易に行うことができる。例えば、耐火板22、42をキャスタブル耐火物で形成した場合、損傷個所(例えばロケット102発射時の燃焼ガス106により削り取られた箇所)をキャスタブル耐火物で補修すればよい。キャスタブル耐火物による補修では、損傷個所(削り取られた箇所等)にキャスタブル耐火物を詰め込んで削り取られた箇所等にキャスタブル耐火物を充填することで補修を行うことができる。なお、安全性が確認できれば、最初に耐火板22、42を形成する際に使用した耐火材料とは異なる耐火材料で補修することも可能である。
【0045】
耐火板22、42の厚さは、ロケット102発射時の燃焼ガス106を安全に受け止める観点から、標準的には100~200mm程度である。また、取り扱い性の観点や作製上の容易さの観点から、耐火板22、42の面内方向の大きさは標準的には800~3000mm程度である。
【0046】
本実施形態に係る重ね耐火板構造10においては、耐火板22は、缶体24の中にキャスタブル耐火物を打設して形成されており、耐火板42は、缶体44の中にキャスタブル耐火物を打設して形成されている。
【0047】
缶体24は、
図4、
図5に示すように、底板鋼板24Aと、側板鋼板24Bと、ずれ止め24Cとを有してなる。長方形状の底板鋼板24Aの面内方向の端部の4辺の位置に、側板鋼板24Bが立設して設けられており、側板鋼板24Bの高さは耐火
板22の厚さ程度の高さであり、缶体24の全体形状は、上部が開口した平べったい箱状体である。
【0048】
底板鋼板24Aは耐火板22の下面に接して連結する長方形状の鋼板であり、耐火板22を補強しており、耐火板22の一部を構成している。底板鋼板24Aの厚さは、3~12mm程度である。本実施形態に係る重ね耐火板構造10をロケット102の発射台の偏向板に用いる場合、発射時の燃焼ガス106に対応するために水を吹きかけるので、水および水蒸気の逃げ道とするために、底板鋼板24Aには所定の間隔で直径20mm程度の貫通孔24Xを設けている。貫通孔24Xは、100~200mm程度のピッチで設けるのが標準的である。底板鋼板24Aに貫通孔24Xを設ける場合、貫通孔24Xの大きさやピッチ、形状は、重ね耐火板構造10を使用する条件によって適宜に設定すればよい。
【0049】
側板鋼板24Bは、長方形状の底板鋼板24Aの面内方向の端部の4辺の位置に、立設して設けられた鋼板であり、耐火板22の面内方向の位置を拘束する。側板鋼板24Bの厚さは底板鋼板24Aと同様、3~12mm程度である。側板鋼板24Bの高さは耐火板22の厚さ程度の高さであり、100~200mm程度である。側板鋼板24Bの下部には、水および水蒸気の逃げ道とするために、100~200mm程度のピッチで貫通孔24Yを設けている。貫通孔24Yの大きさやピッチ、形状は、重ね耐火板構造10を使用する条件によって適宜に設定すればよい。
【0050】
なお、底板鋼板24Aに貫通孔24Xを設けること、および側板鋼板24Bに貫通孔24Yを設けることは必須ではなく、重ね耐火板構造10を使用する条件によっては設けなくてもよい。なお、耐火板22をキャスタブル耐火物で形成する場合、底板鋼板24Aおよび側板鋼板24Bを型枠として用いることもできる。
【0051】
また、底板鋼板24Aの上面にずれ止め24Cを取り付け、該ずれ止め24Cを耐火板22の内部に埋め込んで設置することにより、耐火板22と底板鋼板24Aとの一体化の程度を向上させて、耐火板22の耐荷力を向上させることができる。このようにした場合、耐火板22の厚さを一定の程度薄くしても必要な耐荷力を得ることが可能となる。
【0052】
ずれ止め24Cとしては、具体的には例えば、異形鉄筋や頭付きスタッド等を用いることができる。本実施形態に係る重ね耐火板構造10においては、ずれ止め24Cとして、直径16mmの異形鉄筋を折り曲げ角度45°で折り曲げたものを用いている。なお、ずれ止め24Cの種類、形状や配置ピッチ等は、重ね耐火板構造10を使用する条件によって適宜に設定すればよい。
【0053】
なお、前述したように、耐火板22の面内方向の大きさは標準的には800~3000mm程度であるので、ロケット発射施設100の煙道用偏向板として用いる場合、通常の場合、複数の耐火板22を面内方向にすき間なく密接して配置して用いることになる。また、前述したように、耐火板22は、単一の材料で構成されているので、損傷したときの補修も容易に行うことができるが、複数の耐火板22を面内方向にすき間なく密接して配置して用いる場合、損傷の程度が大きい耐火板22については、補修をするのではなく、交換することで損傷に対する対応を行うこともできる。
【0054】
板間スペーサ30は、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40との間に配置されており、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40との間に所定の距離のすき間を形成して、水や水蒸気の逃げ道をつくる役割を有する。したがって、板間スペーサ30はすき間形成部材であると言える。上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40との間を、十分な量の水や水蒸気が通過できるようにするために、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40との間のすき間の大きさは標準的には50~100mm程度にする。したがって、板間スペーサ30の上下方向の高さは、標準的には50~100mm程度である。また、板間スペーサ30により、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40との間に前記したようなすき間を設けることで、上部耐火板構造部20の耐火板22が損傷した場合の交換作業を容易に行いやすくなる。
【0055】
板間スペーサ30としては、高さ50~100mm程度の形鋼を通常用い、具体的には例えば高さ50~100mm程度のL形鋼や溝形鋼を用いる。本実施形態に係る重ね耐火
板構造10においては、
図1~
図5に示すように、
板間スペーサ30としてL形鋼を用いており、
板間スペーサ30(L形鋼)のフランジ30Bを底板鋼板24Aの下面に溶接で取り付けている。
【0056】
板間スペーサ30は、耐火
板22の一方の側の面(底板鋼板24Aの下面)に接して、耐火
板22の短辺方向の中央部に1本配置されており、また、耐火
板22の長辺方向に相互に所定の間隔を空けて3本配置されており、前述したように、上部耐火
板構造部20の耐火
板22の下方に冷却水および水蒸気の逃げ道をつくる役割を有している。
板間スペーサ30(L形鋼)のウェブ30Aには貫通孔30Xが設けられており、冷却水および水蒸気の逃げ道を確保している。また、
図2および
図4に示すように、前記した1本の
板間スペーサ30と3本の
板間スペーサ30とは略直交している。
【0057】
また、前述したように、板間スペーサ30(L形鋼)のフランジ30Bは、底板鋼板24Aの下面に溶接で取り付けられていて、板間スペーサ30は底板鋼板24Aを補強しており、底板鋼板24Aを補強することを通して耐火板22全体を補強している。本実施形態では、ずれ止め24Cを取り付けた底板鋼板24Aの部位の下方に板間スペーサ30を配置しており、耐火板22と板間スペーサ30との一体化の程度を向上させて、板間スペーサ30による補強効果をさらに向上させるようにしている。
【0058】
上部耐火板構造部20は、板間スペーサ30を介して下部耐火板構造部40の上に載置されているだけであるので、上部耐火板構造部20の位置がずれないようにするために、図示せぬ索(ワイヤーロープ)を板間スペーサ30のウェブ30Aの貫通孔30Xに取り付け、この索(ワイヤーロープ)を外部の固定物に固定するようにして、上部耐火板構造部20の全体の位置を拘束するようにしてもよい。
【0059】
下部耐火板構造部40は、上部耐火板構造部20を下方から支持する役割を有しており、上部耐火板構造部20を下方から支持するための剛性を備える。本実施形態では、前述したように、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10において、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40は、前者が上段に位置し、後者が下段に位置するという上下の配置関係が異なるだけで、それぞれの構成自体は同一である。
【0060】
本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10においては、上部耐火板構造部20の下方に下部耐火板構造部40を配置しており、耐火板22、42の2層構造になっているので、万一、ロケット102発射時の燃焼ガス106によって上部耐火板構造部20が損傷しても、下部耐火板構造部40により、ロケット102発射時の燃焼ガス106を受け止めることができ、安全性の高い構造になっている。
【0061】
下部スペーサ50は、下部耐火板構造部40の下方に配置されていて、下部耐火板構造部40の底板鋼板44Aに溶接で取り付けられている。下部スペーサ50には、板間スペーサ30と同じ形鋼(L形鋼)を用いており、底板鋼板44Aへの取り付け位置も同じであり、ウェブには貫通孔50Xが設けられている。ただし、下部スペーサ50は、板間スペーサ30とは異なり、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40との間にすき間を設けて、冷却水および水蒸気の逃げ道をつくるという役割を有していないので、重ね耐火板構造10を使用する条件によっては、省略することも可能である。
【0062】
(2)重ね耐火板構造10のロケット発射施設100への適用
本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10は、前述したように、下部耐火板構造部40の上に上部耐火板構造部20が載置された2段構成の耐火板構造になっており、耐火板22と耐火板42との間に、冷却水および水蒸気の逃げ道が設けられた耐火板構造であり、燃焼ガス106を浴びて発生した水蒸気を逃がすことに配慮した耐火板構造であり、耐火性能に優れる。また、重ね耐火板構造10は、耐火板22、42の2層構造になっているので、万一、ロケット102発射時の燃焼ガス106によって上部耐火板構造部20が損傷しても、下部耐火板構造部40により、ロケット102発射時の燃焼ガス106を受け止めることができ、安全性の高い構造になっている。
【0063】
このため、本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10は、ロケット発射施設100の煙道用偏向板として好適に使用可能である。
【0064】
なお、重ね耐火板構造10を、ロケット発射施設100の煙道用偏向板として用いる場合、燃焼ガス106を直接的に浴びる範囲はほぼ正確に予測できるので、燃焼ガス106を直接的に浴びる範囲のみに、2層構造の重ね耐火板構造10を用い、それ以外の領域においては、上部耐火板構造部20を用いずに、下部耐火板構造部40のみを用いるということも、使用条件によっては可能である。
【0065】
(3)補足
本発明の実施形態に係る重ね耐火板構造10において、上部耐火板構造部20と下部耐火板構造部40は、前者が上段に位置し、後者が下段に位置するという上下の配置関係が異なるだけで、それぞれの構成自体は同一であったが、使用条件等に応じて適宜に構成を違えてもよい。具体的には例えば、耐火板22、42の厚さや材質等を違えてもよいし、底板鋼板24A、44Aおよび側板鋼板24B、44Bの厚さ等を違えてもよいし、ずれ止め24C、44Cの形状等を違えてもよい。また、板間スペーサ30および下部スペーサ50に用いる形鋼の種類や寸法を違えてもよい。また、前述したように、下部スペーサ50は使用条件によっては省略することも可能である。
【0066】
また、重ね耐火板構造10の使用条件によっては、上部耐火板構造部20の缶体24および下部耐火板構造部40の缶体44は省略してもよく、重ね耐火板構造10の使用条件によっては、上部耐火板構造部20を耐火板22のみで構成し、下部耐火板構造部40を耐火板42のみで構成してもよい。また、重ね耐火板構造10の使用条件によっては、缶体24を構成する部材(底板鋼板24A、側板鋼板24B、ずれ止め24C)の一部の部材のみを省略してもよいし、缶体44を構成する部材(底板鋼板44A、側板鋼板44B、ずれ止め44C)の一部の部材のみを省略してもよい。
【符号の説明】
【0067】
8…重ね耐火板構造物
10…重ね耐火板構造
20…上部耐火板構造部
22、42…耐火板
24、44…缶体
24A、44A…底板鋼板
24B、44B…側板鋼板
24C、44C…ずれ止め
24X、24Y、30X、50X…貫通孔
30…板間スペーサ
30A…ウェブ
30B…フランジ
40…下部耐火板構造部
50…下部スペーサ
100…ロケット発射施設
102…ロケット
104…煙道
106…燃焼ガス