(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】制御性T細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20231115BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231115BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231115BHJP
A61K 35/17 20150101ALN20231115BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20231115BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20231115BHJP
A61P 37/02 20060101ALN20231115BHJP
A61P 37/08 20060101ALN20231115BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
C12N5/0783
C12N5/10
A61K35/17
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2022139498
(22)【出願日】2022-09-01
(62)【分割の表示】P 2018564698の分割
【原出願日】2018-01-30
【審査請求日】2022-09-01
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】坂口 志文
(72)【発明者】
【氏名】大倉 永也
(72)【発明者】
【氏名】三上 統久
(72)【発明者】
【氏名】成宮 周
(72)【発明者】
【氏名】赤松 政彦
(72)【発明者】
【氏名】グーリャン シャー
(72)【発明者】
【氏名】原田 博規
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚登
(72)【発明者】
【氏名】氏原 悟
(72)【発明者】
【氏名】濱口 壽雄
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506376(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0217014(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0183881(US,A1)
【文献】METENOU, S. et al.,Highly heterogeneous, activated, and short-lived regulatory T cells during chronic filarial infection,European journal of immunology,vol.44, no.7,2014年07月,pp.2036-2047
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/113
C12N 5/0783
C12N 5/10
A61K 35/17
A61P 29/00
A61P 35/00
A61P 37/02
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞から制御性T細胞を製造するための、CDK8のsiRNA及び/又はCDK19のsiRNAを有効成分とするFoxp3誘導剤。
【請求項2】
T細胞が、CD4
+Foxp3
-T細胞である、請求項1に記載のFoxp3誘導剤。
【請求項3】
T細胞が、CD4
+CD25
-Foxp3
-T細胞である、請求項1に記載のFoxp3誘導剤。
【請求項4】
T細胞が、CD8
+Foxp3
-T細胞である、請求項1に記載のFoxp3誘導剤。
【請求項5】
in vitroにおいてT細胞から制御性T細胞を製造する方法であって、in vitroにおいてT細胞を、CDK8のsiRNA及び/又はCDK19のsiRNAで処理することによる、制御性T細胞の製造方法。
【請求項6】
in vitroにおいてT細胞から制御性T細胞を製造する方法であって、in vitroにおいてCDK8のsiRNA及び/又はCDK19のsiRNAの存在下にT細胞受容体
を刺激することによる、制御性T細胞の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のT細胞受容体
の刺激を、TGF-β、ラパマイシン又はレチノイン酸の存在下に行う、制御性T細胞の製造方法。
【請求項8】
T細胞が、CD4
+Foxp3
-T細胞である、請求項5~7のいずれかに記載の制御性T細胞の製造方法。
【請求項9】
T細胞が、CD4
+CD25
-Foxp3
-T細胞である、請求項5~7のいずれかに記載の制御性T細胞の製造方法。
【請求項10】
T細胞が、CD8
+Foxp3
-T細胞である、請求項5~7のいずれかに記載の制御性T細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御性T細胞の製造方法に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの米国仮出願第62/451807号及び第62/491279号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
CDK8(cyclin-dependent kinase 8)とその関連アイソフォームであるCDK19は、転写を司るRNAポリメラーゼ2のリン酸化により転写活性を調節する。CDK8は、メラノーマ(Nature 468, 1105-1109, 2010)や大腸癌(Nature 455, 547-551, 2008)における癌遺伝子として同定されており、大腸癌ではCDK8の高発現と悪性の進行とが関連しているとの報告もある(Int. J. Cancer 126, 2863-2873, 2010)。また、CDK8は胚性幹細胞の多能性形質を維持することが知られており、癌幹細胞の形質との関係が示唆されている(Cancer Res. 72, 2129-2139, 2012)。そのため、各種の癌治療薬として、さらには自己免疫疾患や炎症性疾患の治療薬として、多くのCDK8阻害剤やCDK19阻害剤が提案されている。具体的には、例えば、米国特許第8598344、WO2013001310、WO2013040153、WO2013116786、WO2014029726、WO2014063778、WO2014072435、WO2014090692、WO2014106606、WO2014123900、WO2014154723、WO2014194245、WO2015049325、WO2015100420、WO2015144290、WO2015159937、WO2015159938、WO2016009076に記載される化合物などが挙げられる。
【0004】
免疫系には免疫応答を抑制する機能を有する制御性T細胞(Treg)とよばれるCD4+T細胞サブセットがあり、自己免疫、炎症、アレルギーといったさまざまな病的な免疫応答を制御することで免疫寛容及び免疫の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。Tregには胸腺で発生するnTreg(natural-occurring Treg)と末梢でTGF-βの作用で誘導されるiTreg(induced Treg)が存在する。これらTregの免疫応答抑制機能は、転写因子であるFoxp3の発現と維持によって規定されている(Science, 299, 1057-1061(2003)、Immunological Reviews 212, 8-27(2006)、Nat. Immunol., 8, 457-462(2007))。
【0005】
Tregを標的として免疫応答を亢進あるいは減弱させて免疫疾患を治療する方法やTregによる細胞治療法が提案されている。例えば、ゲラニルゲラニル化阻害剤を有効成分とする免疫抑制剤を自己免疫性疾患や炎症性疾患に使用すること(特許文献1:特開2009-215284号公報)、IL-33(Interleukin-33)存在下にCD4+ナイーブ細胞とマスト細胞をin vitroで共培養してTregを製造し、アレルギー性疾患やリウマチ等の疾患や臓器移植片拒絶反応の発症を抑制する免疫抑制剤として使用すること(特許文献2:特開2010-4853号公報)、T細胞をTGF-β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)及びレチノイン酸と接触させてTregへの分化を刺激又は増加させて、自己免疫疾患などに使用すること(特許文献3:米国公開特許US20090136470)、CD4+T細胞をIL-2(Interleukin-2)、TGF-β1及びatRA(オールトランスレチノイン酸又はトレチノイン)存在下にin vitroで培養してCD8+のTregを誘導し、自己免疫疾患、悪性腫瘍、ウイルス感染症などに使用すること(特許文献4:WO2013/161408)、メチルトランスフェラーゼ阻害剤を含む制御組成物で非制御性T細胞をex vivo処理してTregを製造し、自己免疫疾患や異常な免疫応答を処置するために使用すること(特許文献5:米国公開特許US20090257988)などが挙げられる。
【0006】
しかしながら、Treg誘導方法のさらなる開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-215284号公報
【文献】特開2010-4853号公報
【文献】米国公開特許US20090136470
【文献】WO2013/161408号公報
【文献】米国公開特許US20090257988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Tregの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、CDK8及び/又はCDK19阻害活性を有する新規な化合物の検討過程において、CDK8及び/又はCDK19阻害剤が、T細胞にFoxp3を誘導するという知見を初めて見出した。さらに、in vitroにおいて、CD4+CD25-Foxp3-T細胞をCDK8及び/又はCDK19阻害剤で処理することによってCD4+CD25+Foxp3+Tregに誘導できることを見出した。in vitroにおいて、CD8+Foxp3-T細胞をCDK8及び/又はCDK19阻害剤で処理することによってCD8+Foxp3+Tregに誘導できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下よりなる。
1.T細胞から制御性T細胞を製造するための、CDK8のsiRNA及び/又はCDK19のsiRNAを有効成分とするFoxp3誘導剤。
2.T細胞が、CD4
+
Foxp3
-
T細胞である、前項1に記載のFoxp3誘導剤。
3.T細胞が、CD4
+
CD25
-
Foxp3
-
T細胞である、前項1に記載のFoxp3誘導剤。
4.T細胞が、CD8
+
Foxp3
-
T細胞である、前項1に記載のFoxp3誘導剤。
5.T細胞を、CDK8のsiRNA及び/又はCDK19のsiRNAで処理することによる、制御性T細胞の製造方法。
6.T細胞を、CDK8のsiRNA及び/又はCDK19のsiRNAの存在下にT細胞受容体刺激することによる、制御性T細胞の製造方法。
7.前項6に記載のT細胞受容体刺激を、TGF-β、ラパマイシン又はレチノイン酸の存在下に行う、制御性T細胞の製造方法。
8.T細胞が、CD4
+
Foxp3
-
T細胞である、前項5~7のいずれかに記載の制御性T細胞の製造方法。
9.T細胞が、CD4
+
CD25
-
Foxp3
-
T細胞である、前項5~7のいずれかに記載の制御性T細胞の製造方法。
10.T細胞が、CD8
+
Foxp3
-
T細胞である、前項5~7のいずれかに記載の制御性T細胞の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のCDK8及び/又はCDK19阻害活性を有する新規化合物は、in vivoにおいてT細胞にFoxp3を誘導し、Tregを形成することができることから、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患を治療するための医薬組成物として使用することが可能である。また、in vitroにおいて、T細胞をCDK8及び/又はCDK19阻害活性を有する化合物で処理することによりFoxp3を誘導することができることから、Treg細胞療法などへの応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)は、CDK8siRNA及びCDK19siRNAによるCDK8及びCDK19タンパク質のノックダウンを示すウエスタンブロットである。
図1(b)は、CDK8siRNA及びCDK19siRNAにより、それぞれCDK8及びCDK19タンパク質をノックダウンしたときに誘導されたFoxp3 mRNAの量を表す図である。(実施例3)
【
図2】
図2(a)は、化合物1の二塩酸塩(図中、「化合物1塩」と記載、以下同様)によるナイーブT細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACS解析図である。左図は抗TGF-β抗体を添加した場合、右図はTGF-βを添加した場合の解析結果を表す。
図2(b)は、(a)のFACS解析により得られたFoxp3の量をグラフに表したものである。(実施例5)
【
図3】
図3(a)は、化合物1塩によるナイーブT細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACS解析図である。左図は抗原提示細胞(APC)のみを存在させた場合、中央図は抗原提示細胞と抗原(OVA)を存在させた場合、右図はT細胞受容体刺激剤(CD3/CD28)を存在させた場合を表す。図
3(b)は、(a)のFACS解析により得られたFoxp3の量をグラフに表したものである。(実施例6)
【
図4】化合物1塩によるエフェクターメモリーT細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACSである。(実施例7の(1))
【
図5】
図5(a)は、化合物1塩によるエフェクターメモリーT細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACS解析図である。
図5(b)は、内在性のTreg(nTreg)と化合物1塩で誘導した制御性T細胞(Tem-derived Treg)とのT細胞増殖抑制作用の比較を示す図である。左図はコントロール(Tconv)を使用した場合、中央図はTconvとnTregを併用した場合、右図はTconvとTem-derived Tregを併用した場合のT細胞増殖抑制作用を示す図である。図中、黒線は実測データを表し、赤線は非分裂細胞のピークを表し、青線は分裂細胞のピークを表す。また、Cell Trace Violetは分裂によって娘分配されることで細胞増殖の回数を表す。(実施例7の(2))
【
図6】
図6(a)は、化合物1塩を投与したマウスからのリンパ球細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACSである。左側の図はマウスに抗原を投与しなかった場合、右側の図はマウスに抗原(OVA)を投与した場合のFoxp3の誘導量を示す。
図6(b)は、(a)のFACSによるFoxp3の量をグラフに表したものである。(実施例8)
【
図7】
図7(a)は、化合物1塩によるDNFB誘発性CHSモデルの耳の肥厚に対する抑制作用を示す図である。図中、「Treg除去」とあるのはジフテリアトキシンの投与によりモデルマウスの体内のTregを除去した場合を表す。
図7(b)は、(a)のマウスの耳組織の染色写真である。(実施例9)
【
図8】化合物1塩によるEAEモデルに対する病態スコア(EAEscore)の経時的変化を示す図である。(実施例10)
【
図9】化合物2による能動感作抗体誘発鼻アレルギーモデルに対する鼻掻き抑制作用を示す図である。(実施例11)
【
図10A】化合物2によるOVA誘発喘息モデルに対する気道反応性亢進の抑制作用を示す図である。(実施例12の(1))
【
図10B】化合物2によるTh1型喘息モデルに対する気道反応性亢進の抑制作用を示す図である。(実施例12の(2))
【
図11】
図11(a)は、化合物1塩によるFoxp3陰性のCD8
+T細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACS解析図である。左図は抗TGF-β抗体を添加した場合、右図はTGF-βを添加した場合の解析結果を表す。
図11(b)は、(a)のFACS解析により得られたFoxp3の量をグラフに表したものである。(実施例15)
【
図12】
図12は、化合物1塩によるヒトナイーブT細胞に対するFoxp3
+CD25
+細胞(%)の誘導の結果をグラフに表したものである。(実施例16)
【
図13】
図13は、化合物1塩によるヒトナイーブT細胞に対するFoxp3誘導の結果をグラフに表したものである。(実施例17)
【
図14】
図14(a)は、化合物1塩によるヒトナイーブCD4
+T細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACS解析図である。左図は抗TGF-β抗体を添加した場合、右図はTGF-βを添加した場合の解析結果を表す。
図14(b)は、(a)のFACS解析により得られたFoxp3の量をグラフに表したものである。(実施例18の(1))
【
図15】
図15(a)は、化合物1塩によるヒトエフェクターメモリーCD4
+T細胞に対するFoxp3の誘導量を示すFACS解析図である。左図は抗TGF-β抗体を添加した場合、右図はTGF-βを添加した場合の解析結果を表す。
図15(b)は、(a)のFACS解析により得られたFoxp3の量をグラフに表したものである。(実施例18の(2))
【
図16】
図16は、化合物1塩によるヒトナイーブCD8
+T細胞に対するFoxp3の誘導の結果をグラフに表したものである。(実施例19の(1))
【
図17】
図17は、化合物1塩によるヒトエフェクターメモリーCD8
+T細胞に対するFoxp3の誘導の結果をグラフに表したものである。(実施例19の(2))
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、CDK8及び/又はCDK19阻害活性を有する新規な化合物は、
4-[1-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル]-1,2,5-オキサジアゾール-3-アミン(以下、「化合物1」という。)又は3-{1-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-4-メチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル}ピラジン-2-アミン(以下、「化合物2」という。)であり、例えば、後述の合成例に示すような方法により製造することができる。
【0014】
化合物1又は化合物2は、遊離化合物、その塩、水和物、溶媒和物、あるいは結晶多形の物質として単離され、精製される。化合物1又は化合物2の塩は、常法の造塩反応に付すことにより製造することもできる。
単離、精製は、抽出、分別結晶化、各種分画クロマトグラフィー等、通常の化学操作を適用して行なわれる。
各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより製造でき、あるいは異性体間の物理化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は、ラセミ体の一般的な光学分割法(例えば、光学活性な塩基又は酸とのジアステレオマー塩に導く分別結晶化や、キラルカラム等を用いたクロマトグラフィー等)により得られ、また、適当な光学活性な原料化合物から製造することもできる。
【0015】
化合物1又は化合物2は、製薬学的に許容されるプロドラッグも包含する。製薬学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等に変換されうる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、例えば、Prog. Med., 5, 2157-2161 (1985)や、「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0016】
化合物1又は化合物2の塩とは、当該化合物の製薬学的に許容される塩であり、置換基の種類によって、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩等が挙げられる。
さらに本発明は、化合物1、化合物2又はそれらの塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また、本発明は種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0017】
本発明の化合物は、in vivoにおいてT細胞にFoxp3を誘導し、Tregを形成することができることから、さまざまな病的な免疫応答、例えば、癌、自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、多発性硬化症、悪性貧血、天疱瘡、血管炎など)、炎症性疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)、アレルギー疾患などに適用し得る。
【0018】
本発明の化合物を有効成分として含有する自己免疫疾患などの治療に用いる医薬組成物は、通常、製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、或いは、静注、筋注等の注射剤、座剤、経皮剤、経鼻剤又は吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0019】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.001~100 mg/kg、好ましくは0.1~30 mg/kg、更に好ましくは0.1~10 mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2回~4回に分けて投与する。静脈内投与される場合は、1日の投与量は、体重当たり約0.0001~10 mg/kgが適当で、1日1回~複数回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001~100 mg/kgを1日1回~複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0020】
投与経路、剤形、投与部位、賦形剤や添加剤の種類によって異なるが、本発明の医薬組成物は、0.01~100重量%、ある態様としては0.01~50重量%の有効成分である1種又はそれ以上の本発明化合物又はその塩を含有する。
【0021】
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、一つ又はそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な賦形剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等の崩壊剤、溶解補助剤を含んでいてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性もしくは腸溶性コーティング剤で被覆してもよい。
【0022】
経口投与のための液体組成物は、乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な溶剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な溶剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤、防腐剤を含んでいてもよい。
【0023】
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤を含む。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤を含んでいてもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解、懸濁して使用することもできる。
【0024】
本発明においては、本発明の化合物及びその他のCDK8及び/又はCDK19阻害活性を有する化合物(以下、「CDK8/CDK19阻害剤」という。)によって、in vitroにおいてTregを誘導することができるので、例えば、細胞治療などによって、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患の治療に適用し得る。
【0025】
本発明で使用するCDK8/CDK19阻害剤としては、化合物1:4-[1-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)- 1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル]-1,2,5-オキサジアゾール-3-アミン、化合物2:3-{1-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-4-メチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル}ピラジン-2-アミン又はそれらの塩、水和物、溶媒和物等以外に、公知のCDK8及び/又はCDK19阻害剤が挙げられる。具体的には、例えば、米国特許第8598344、WO2013116786 、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.109 13799-13804(2012)、WO2013001310、WO2013040153、WO2014029726、WO2014063778、WO2014072435、WO2014090692、WO2014106606、WO2014123900、WO2014154723、WO2014194245、WO2015049325、WO2015100420、WO2015144290、WO2015159937、WO2015159938、WO2016009076に記載される化合物などが挙げられる。
【0026】
本発明において、CDK8/CDK19阻害剤で処理するT細胞は、末梢血、脾臓又はリンパ節などに存在するリンパ球の一種であるT細胞である。別の態様として前記T細胞は非制御性 T細胞である。当該非制御性T細胞とは、制御性T細胞に誘導可能なT細胞を含む。また別の態様として前記T細胞がFoxp3陰性のCD4+T細胞(CD4+Foxp3-T細胞)又はCD4+CD25-T細胞(CD4+CD25-Foxp3-T細胞)、或いは、CD8+T細胞(CD8+Foxp3-T細胞)である。例えば、未だ抗原刺激を受けていないCD45RA抗原を細胞表面に発現しているナイーブT細胞(CD4+CD25-CD45RA+Foxp3-T細胞)が挙げられる。ナイーブT細胞はさらにCD44、CCR7やCD62Lで分離したものを使用することもできる。具体的には、例えば、CD4+CD25-CD44-CD62L+Foxp3-T細胞が挙げられる。また、本発明において、CDK8及び/又はCDK19阻害活性を有する化合物で処理するT細胞としては、抗原刺激を受けてCD45RO抗原を細胞表面に発現しているメモリーT細胞(CD4+CD25-CD45RO+Foxp3-T細胞)が挙げられる。メモリーT細胞はさらにCD44やCD62Lで分離したものを使用することもできる。具体的には、例えば、CD4+CD25-CD44+CD62L-Foxp3-のエフェクターメモリーT細胞等が挙げられる。
【0027】
CD4+CD25-Foxp3-T細胞の処理は、例えば0.01 nM~10000 nM、好ましくは0.1 nM~1000 nMのCDK8/CDK19阻害剤及びT細胞受容体刺激剤(TCR刺激剤)存在下、1~10%又は5%CO2濃度の雰囲気で、30~42℃又は37℃、18~240時間又は40~120時間行えばよい。本発明において、TCR刺激剤としては、抗CD3抗体と1~100μg/mL、又は1~10μg/mLの抗CD28抗体を併用するのがよい。抗CD3抗体及び抗CD28抗体がコートされたビーズを使用することができる。また、抗原提示細胞(APC)と抗原を使用することもできる。さらにまた、TCR刺激の際、TGF-β、ラパマイシン又はレチノイン酸を併用してもよい。
【0028】
本発明に従い、CDK8/CDK19阻害剤によりin vitroにおいてT細胞を処理すると、従来一般的に使用されているTGF-βに比べてFoxp3の誘導効率が高く、in vitroで、より多くのTreg(CD4+CD25+Foxp3+T細胞)を調製することができる。具体的には、例えば患者からエフェクターメモリーT細胞を分離し、それをTCR刺激下にCDK8/CDK19阻害剤で処理することにより、当該エフェクターメモリーT細胞にFoxp3を誘導し、さらに必要に応じて適宜、公知のエピゲノム処理した後、当該患者に戻すことによって、当該疾患を抑制するような細胞療法に利用することが考えられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の理解を深めるために、参考例、実施例を具体的に示して説明するが、本発明がこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。まず、本発明の化合物1及び化合物2の製造方法を示しさらに各種薬理試験を詳細に説明する。
【0030】
(実施例1)化合物1の製造
本実施例では、化合物1及びその二塩酸塩(以下の実施例及び参考例において、化合物1の二塩酸塩を「化合物1塩」という。)の製法について説明する。まず初めに製造例1及び2において化合物1を合成するための原料化合物の製法を説明し、合成例1及び2で化合物1の合成方法及び化合物1塩の製法を説明する。原料化合物、化合物1及び化合物1塩の製法は以下に限定されるものではなく、当業者に自明である方法によっても製造されうる。
【0031】
また、合成例及び製造例において、以下の略号を用いることがある。
Dat:物理化学的データ。
MASS(ESI, m/z):ESI-MSにおけるm/z値。特に記載がない限り[M+H]+を表す。
1H NMR:室温下でのDMSO-d6中の1H NMRにおけるピークのδ(ppm)。
【0032】
1)製造例1
2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-アミン(8.31 g)のエタノール(310 mL)溶液に、4-クロロ-3-ニトロピリジン(8.95 g)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(9.67 mL)を加え、80℃で5時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷し、減圧下濃縮した。残渣に水(100 mL)を加え、室温で1時間撹拌した。不溶物をろ取し、水(50 mL)、ジエチルエーテル(50 mL)で洗浄した。減圧下加熱乾燥し、2-メチル-N-(3-ニトロピリジン-4-イル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-アミン(14.6 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
Dat:MASS(ESI, m/z) 270 [M+H]+
【0033】
2)製造例2
製造例1で製造した2-メチル-N-(3-ニトロピリジン-4-イル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-アミン(14.6 g)、エタノール(245 mL)、10%パラジウム/炭素(約50%含水物、1.46 g)の混合物を1気圧の水素雰囲気下、室温で21.5時間撹拌した。反応混合物をセライトろ過し、ろ液を減圧下濃縮し、N4
-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)ピリジン-3,4-ジアミン(14.6 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
Dat:MASS(ESI, m/z) 240 [M+H]+
【0034】
3)合成例1
本合成例では化合物1の製造方法を示す。
【化1】
【0035】
4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-カルボニトリル(9.03 g)のメタノール(98.2 mL)溶液に、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液、1.63 mL)を加え、室温で30分間間撹拌した。反応混合物、メタノール(19.6 mL)、酢酸(4.69 mL)を、製造例2で製造したN4-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)ピリジン-3,4-ジアミン(11.2 g)へ加え、70℃で18時間撹拌した。反応混合物に酢酸(4.69 mL)を加え、さらに70℃で22時間撹拌した。反応混合物をろ過し、ろ液を減圧下濃縮した。残渣をメタノール(100 mL)で洗浄し、減圧下加熱乾燥し、4-[1-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル]-1,2,5-オキサジアゾール-3-アミン(7.75 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
【0036】
Dat: 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ2.55 (3H, s), 6.89 (2H, s), 7.21-7.31 (2H, m), 7.56-7.78 (2H, m), 8.45 (1H, d, J = 5.6 Hz), 9.23 (1H, d, J = 0.9 Hz), 12.6 (1H, s).
MASS(ESI, m/z) 333 [M+H]+
【0037】
4)合成例2
本合成例では化合物1塩の製造方法を示す。
【化2】
【0038】
合成例1で製造した4-[1-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル]-1,2,5-オキサジアゾール-3-アミン(37.3 g)の1,4-ジオキサン(373 mL)懸濁液に4 M 塩化水素/1,4-ジオキサン溶液(224 mL)を加え、室温で17時間撹拌した。不溶物をろ取し、1,4-ジオキサン(149 mL)で洗浄し、減圧下加熱乾燥した。得られた固体にジエチルエーテル(270 mL)を加え、室温で2時間撹拌した。不溶物をろ取し、ジエチルエーテル(90 mL)で洗浄し、減圧下加熱乾燥した。得られた固体にエタノール(900 mL)を加え、90℃で1時間撹拌後室温まで放冷し、その温度で14時間撹拌した。不溶物をろ取し、エタノール(100 mL)で洗浄し、減圧下加熱乾燥した。得られた固体にエチルエーテル(435 mL)を加え、50℃で6時間撹拌した。その温度で不溶物をろ取し、ジエチルエーテル(44 mL)で洗浄した。減圧下加熱乾燥することにより、4-[1-(2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル)-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル]-1,2,5-オキサジアゾール-3-アミン2塩酸塩(42.0 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
【0039】
Dat: 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 2.86 (3H, s), 6.97 (2H, s), 7.74-7.83 (2H, m), 8.00-8.06 (1H, m), 8.22-8.26 (1H, m), 8.73 (1H, d, J = 6.5 Hz), 9.71 (1H, s).
MASS(ESI, m/z) 333 [M+H]+
【0040】
(実施例2)化合物2の製造
本実施例では、化合物2の製法について説明する。まず初めに製造例3~5において化合物2を合成するための原料化合物の製法を説明し、合成例3で化合物2の合成方法を説明する。原料化合物や化合物2の製法は以下に限定されるものではなく、当業者に自明である方法によっても製造されうる。
【0041】
1)製造例3
4-クロロ-2-メチル-3-ニトロピリジン(7 g)、1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-アミン(11 g)のN-メチル-2-ピロリドン(70 mL)溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(21 mL)を加え、140℃で2時間撹拌した。室温まで放冷し、反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、及び飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。残渣に酢酸エチル(50 mL)、ヘキサン(200 mL)を加え、不溶物をろ取した。減圧乾燥し、N-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-2-メチル-3-ニトロピリジン-4-アミン(11.4 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
Dat:MASS(ESI, m/z) 343 [M+H]+
【0042】
2)製造例4
製造例3で製造したN-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-2-メチル-3-ニトロピリジン-4-アミン(11.4 g)、酢酸エチル(150 mL)、メタノール(150 mL)、10%パラジウム/炭素(約50%含水物、3.54 g)の混合物を1気圧の水素雰囲気下、室温で16時間撹拌した。反応混合物をセライトろ過し、ろ液を減圧下濃縮した。残渣に酢酸エチルを加えて撹拌後、不溶物をろ取した。減圧乾燥し、N4-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-2-メチルピリジン-3,4-ジアミン(10.3 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
Dat:MASS(ESI, m/z) 313 [M+H]+
【0043】
3)製造例5
製造例4で製造したN4-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-2-メチルピリジン-3,4-ジアミン(5.17 g)、3-アミノピラジン-2-カルボン酸(2.42 g)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(8 mL)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(6.5 g)、ジクロロメタン(75 mL)の混合物を室温で終夜撹拌した。反応混合物に3-アミノピラジン-2-カルボン酸(350 mg)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(850 μL)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)- N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(950 mg)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧下溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-アミノ-N-(4-{[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]アミノ}-2-メチルピリジン-3-イル)ピラジン-2-カルボキサミド(7.45 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
Dat:MASS(ESI, m/z) 434 [M+H]+
【0044】
4)合成例3
本合成例では化合物2の製造方法を示す。
【化3】
【0045】
製造例5で製造した3-アミノ-N-(4-{[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]アミノ}-2-メチルピリジン-3-イル)ピラジン-2-カルボキサミド(7.45 g)、炭酸カリウム(7.07 g)、エタノール(75 mL)の混合物をマイクロウェーブ反応装置を用い、150℃で7時間撹拌した。反応は4回に分けて実施した。室温まで放冷し、反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧下溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-{1-[1-(4-メトキシフェニル)ピペリジン-4-イル]-4-メチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル}ピラジン-2-アミン(5.67 g)を得た。生成物の物理化学的データを以下に示す。
【0046】
Dat: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 1.98-2.06 (2H, m), 2.51-2.62 (2H, m), 2.70-2.78 (2H, m), 2.77 (3H, s), 3.68-3.73 (2H, m), 3.71 (3H, s), 5.49-5.58 (1H, m), 6.83-6.87 (2H, m), 6.96-7.00 (2H, m), 7.59 (1H, d, J = 5.7 Hz), 7.67 (2H, s), 7.97 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.16 (1H, d, J = 2.4 Hz), 8.21 (1H, d, J = 5.7 Hz).
MASS(ESI, m/z) 416 [M+H]+
【0047】
(実施例3)CDK8及びCDK19と
Foxp3 mRNA誘導の相関
本実施例では、マウス脾臓細胞におけるCDK8及びCDK19と
Foxp3 mRNA誘導の相関について確認した。9-11週齢のC57BL/6マウス(SLC社製)由来脾細胞をナイロンメッシュ上で破砕し、濾過して細胞懸濁液を調製した。さらに、細胞懸濁液からCD4 Micobeads, Mouse(Miltenyi Biotec社製)によりCD4
+T細胞を調製した。調製した細胞に対し、GenomONE-si(石原産業社製)を用いてNegative Control siRNA(Thermo Fisher Scientific社製)、CDK8siRNA(s113914; Thermo Fisher Scientific社製)又はCDK19siRNA(s95476; Thermo Fisher Scientific社製)を250 nM導入し、抗CD3抗体(145-2C11、ATCC CRL-1975; Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.84 (1987), p1374-1378)及び抗CD28抗体(37.51; BD社製)で刺激し、5%CO
2雰囲気下、37℃で培養した。2日後、CDK8siRNA又はCDK19siRNAを再導入し、5%CO
2雰囲気下、37℃で培養した。1日後、Gibco Dynabeads Mouse T-Activator CD3/28(Thermo Fisher Scientific社製)を3.3×10
6 beads/mL、mIL-2(R&D社製) 250 U/mL及びhTGF-β1(Peprotech社製)5 ng/mL存在下に、5%CO
2雰囲気下、37℃で培養してFoxp3誘導処理した。処理1日後、当該T細胞から全RNAを抽出して、cDNAを合成し、Foxp3 mRNAの発現量及び18s rRNA mRNAの発現量をTaqmanアッセイ(Foxp3: Mm00475162_m1, 18S: Mm03928990_g1; Thermo Fisher Scientific社製)により測定した。その後、Foxp3 mRNA発現値を18S rRNA発現値で補正した。さらに、Negative Control siRNA処理サンプルに対するパーセント値を求めた。3試行の結果を
図1(b)に示した。CDK8又はCDK19のノックダウンによりFoxp3 mRNAが誘導されることから、CDK8又はCDK19の機能を抑制すればT細胞にFoxp3が誘導されることが分かった。
【0048】
なお、上記の条件において、3日目のFoxp3誘導処理したT細胞を用いて、CDK8siRNA又はCDK19siRNAによるCDK8及びCDK19タンパク質のノックダウン条件の妥当性を抗CDK8抗体(Cell Signaling Technology社製)及び抗CDK19抗体(SIGMA社製)を用いたウエスタンブロットにより確認した。
図1(a)に示すとおり、上記条件は、CDK8siRNA又はCDK19siRNAによるCDK8及びCDK19タンパク質のノックダウンの条件として妥当であることが確認された。
【0049】
(実施例4)化合物1塩及び化合物2のCDK8/19の阻害活性
本実施例では実施例1で作製した化合物1塩及び実施例2で作製した化合物2について、CDK8及びCDK19の阻害活性を確認した。CDK8のキナーゼ活性測定には、QSS AssistTM CDK8/CycC_ELISA kit(Carna Biosciences社製)を用いた。Streptavidin(Thermofisher Scientific社製)をコートしたプレートにキット添付の酵素液(10μL)、ATP/基質/Metal溶液(5μL)、化合物溶液(キット添付のアッセイバッファーで反応時終濃度の4倍濃度に調製、5μL)を添加し、室温で90分間インキュベートした。ウォッシュバッファー(50 mM Tris-HCl(pH7.5)、150 mM NaCl, 0.02%Tween-20)で洗浄した後、0.1%BSA液を100μL添加し、室温で30分間インキュベートした。0.1%BSA液を除いた後、キット添付の一次抗体溶液を50μL添加し室温で30分間インキュベートした。ウォッシュバッファーで洗浄した後、キット添付の二次抗体溶液を50μL添加し、室温で30分間インキュベートした。ウォッシュバッファーで洗浄した後、TMB Chromogen Solution(Lifetechnologies社製)を50μL添加し、室温で5分間インキュベートした。0.1 M H2SO4を50μL添加し発色反応を停止した。OD450及びOD540の測定値を用い、化合物1塩は4試行から、化合物2は3試行から得られたデータからIC50値の幾何平均を算出した。また、CDK19のキナーゼ活性測定には、QSS AssistTM CDC2L6/CycC_ELISA kit(Carna Biosciences社製)を用いた。Streptavidin(Thermofisher Scientific社製)をコートしたプレートにキット添付の酵素液(10μL)、ATP/基質/Metal溶液(5μL)、化合物溶液(キット添付のアッセイバッファーで反応時終濃度の4倍濃度に調製、5μL)を添加し、室温で90分間インキュベートした。ウォッシュバッファーで洗浄した後、0.1%BSA液を100μL添加し、室温で30分間インキュベートした。0.1%BSA液を除いた後、キット添付の一次抗体溶液を50μL添加し室温で30分間インキュベートした。ウォッシュバッファーで洗浄した後、キット添付の二次抗体溶液を50μL添加し、室温で30分間インキュベートした。ウォッシュバッファーで洗浄した後、TMB Chromogen Solution(Lifetechnologies社製)を50μL添加し、室温で5分間インキュベートした。0.1 M H2SO4を50μL添加し発色反応を停止した。OD450及びOD540の測定値を用い、化合物1塩、化合物2ともに3試行から得られたデータからIC50値の幾何平均を算出した。その結果を表1に示した。表1から、化合物1塩及び化合物2はCDK8及びCDK19のdual inhibitorであることが分かった。
【0050】
【0051】
(実施例5)in vitroにおける化合物1塩によるFoxp3の誘導
本実施例では実施例1で作製した化合物1塩について、ナイーブ細胞におけるFoxp3の誘導能を確認した。
【0052】
6-8週齢のFoxp3-GFP融合タンパクKIマウス(eFoxマウス)のリンパ節を回収し、すりガラスを用いて組織を破砕し、ナイロンメッシュで濾過して全リンパ球細胞懸濁液を調製した。eFoxマウスは、Science. 2014 Oct 17;346(6207):363-8. doi: 10.1126/science.1259077に記載された方法に従って作製した。前記調製した全リンパ球細胞を、抗CD4抗体(RM-4.5; BD社製)、抗CD62L抗体(MEL-14; BD社製)、抗CD44抗体(IM7; BD社製)で染色し、FACSAriaTMII(BD社製)を用いて、CD4+CD25-Foxp3-CD62L+CD44-ナイーブT細胞を調製した。
【0053】
調製したナイーブT細胞(2×105個)を、以下の(i)~(iv)に示す如く、2 ng/mLのhTGF-β1(R&D社製)又は10μg/mLの抗TGF-β抗体(R&D社製)と1μMの化合物1塩の存在/非存在下で、5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて刺激し、5%CO2雰囲気下、37℃で72時間処理した。
(i) 抗TGF-β抗体(コントロール)
(ii) 抗TGF-β抗体+化合物1塩
(iii) hTGF-β1(コントロール)
(iv) hTGF-β1+化合物1塩
【0054】
前記処理後の細胞を抗CD4抗体(BD社製)で染色し、Foxp3-GFP陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。その結果を
図2(a)に示した。また、
図2(b)にそれらのFoxp3-GFP陽性細胞数(%)を示した。
【0055】
図2(a)及び(b)の結果から、抗TGF-β抗体添加によりTGF-βをブロックした条件下においても、化合物1塩のみでナイーブT細胞にFoxp3が優位に誘導されることが分かった(コントロール:2.51%、化合物1塩処理:25.9%)。また、化合物1塩とTGF-βの併用で、ナイーブT細胞に相乗的にFoxp3が誘導されることが分かった(TGF-β:44.3%、TGF-β+化合物1処理:81.1%)。
【0056】
(実施例6)化合物1塩の抗原特異的なFoxp3誘導
本実施例では実施例1で製造した化合物1塩について、ナイーブ細胞における抗原特異的なFoxp3の誘導能を確認した。
【0057】
6-10週齢のDO11.10/eFoxマウスから、実施例5と同様にしてCD4+CD25-Foxp3-CD62L+CD44-ナイーブT細胞を調製した。DO11.10/eFoxマウスは、DO11.10マウスとeFoxマウスを交配させることで作製した。また、6-10週齢のBALB/cマウス(SLC社製)から全リンパ節細胞を分離し、抗CD11c抗体(HL3; BD社製)で染色し、抗原提示細胞(CD11c陽性細胞)を調製した。
【0058】
調製したナイーブT細胞(1×105個)を、以下の(i)~(vi)に示す如く、2×104個のAPC(抗原提示細胞)、5μMのOVA(卵白アルブミンペプチド、OVA323-339; MLB社製)又は 5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)と1μMの化合物1塩の存在/非存在下で5%CO2雰囲気下、37℃で72時間処理した。
(i) APC(コントロール)
(ii) APC+化合物1塩
(iii) APC+OVA(コントロール)
(iv) APC+OVA+化合物1塩
(v) 抗CD3/CD28抗体(コントロール)
(vi) 抗CD3/CD28抗体+化合物1塩
【0059】
各処理後の細胞を抗DO11.10抗体(KJ1-26、BD社製)で染色し、Foxp3-GFP陽性細胞の割合及びDO11.10 TCRの発現をフローサイトメトリー法にて解析した。その結果を
図3(a)に示した。また、
図3(b)にそれらのFoxp3-KJ1-26陽性細胞数(%)を示した。
【0060】
図3(a)及び(b)の結果から、ナイーブT細胞をAPCとOVAで共刺激したときのみ、化合物1塩によりKJ1-26で認識されるDO11.10TCRを発現するFoxp3
+T細胞が増加した(APC+OVA+化合物1塩:13.3%)。一方、抗CD3抗体と抗CD28抗体で刺激したときは、DO11.10 TCRを発現していないFoxp3
+T細胞も増加した(CD3+CD28+化合物1塩:19.9%)。これらの結果から、化合物1塩は抗原(OVA)特異的にFoxp3
+T細胞を誘導することが分かった。
【0061】
(実施例7)化合物1塩のFoxp3誘導及び細胞増殖に及ぼす影響
本実施例では、実施例1で製造した化合物1塩について、エフェクターメモリーT細胞でのFoxp3誘導及びエフェクターメモリーT細胞から誘導したTregの細胞増殖抑制作用について確認した。
【0062】
(1)エフェクターメモリーT細胞に対するFoxp3誘導
実施例5と同様にしてeFoxマウスから全リンパ球細胞懸濁液を調製した。調製した全リンパ球細胞を、抗CD4抗体(RM-4.5; BD社製)、抗CD62L抗体(MEL-14; BD社製)、抗CD44抗体(IM7; BD社製)で染色し、FACSAria
TMII(BD社製)を用いてエフェクターメモリーT細胞(CD4
+Foxp3
-CD25
-CD44
hi CD62L
-)を調製した。得られたエフェクターメモリーT細胞(2×10
5個)をhTGF-β1(5 ng/mL)及び化合物1塩(1μM)の存在下で、5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて刺激し、5%CO
2雰囲気下、37℃で72時間処理した。処理後のFoxp3-GFP陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析し、
図4に示した。化合物1塩を含まない系をコントロールとした。
その結果、化合物1塩で処理したときは、コントロールに比べてFoxp3が優位に誘導されることが分かった(コントロール:1.86%、化合物1塩:17.0%)。
【0063】
(2)エフェクターメモリーT細胞から誘導したTregの細胞増殖抑制
上記(1)と同様にして調製したエフェクターメモリーT細胞(2×10
5個)を、5 ng/mLのhTGF-β1及び1μMの化合物1塩の存在下で処理し、
図5(a)に示した。化合物1塩を含まない系をコントロールとした。
その結果、コントロール(2.97%)に比べて、化合物1塩で処理したときは優位にCD4
+CD25
+Foxp3
+制御性T細胞(Tem-derived Treg)が誘導された(17.2%)ことが分かった。
【0064】
次に、当該Tem-derived Tregと内在性Treg(nTreg)のT細胞増殖抑制作用を比較した。nTregはeFoxマウスから実施例5と同手法で調製したものを用いた。また、T細胞としては、BALB/cマウスから実施例5と同様の方法で調製したナイーブT細胞(Tconv)を用いた。このTconvを分裂標識色素Cell Tracer Violet(Thermo Fisher Scientific社製)で標識した。TconvとnTregが2:1の割合の細胞(6×104個)又はTconvとTem-derived Tregが10:1の割合の細胞(4.4×104個)を、抗原提示細胞(4×104個)及び1μg/mLの抗CD3抗体の存在下で5%CO2雰囲気下、37℃で72時間培養した。その後、分裂標識色素をFACSAriaTMII(BD社製)で測定して、Tconv細胞の増殖状況を調べた。コントロールとしてはTconv(4×104個)のみを用いた。
【0065】
その結果を
図5(b)に示した。図中、黒線は実測データを表し、赤線(図に破線の矢印で示した)は非分裂細胞のピークを表し、青線(図に実線の矢印で示した)は分裂細胞のピークを表す。
図5(b)の結果から、TconvにnTregもTem-derived Tregも添加しない系(コントロール)ではTconvの分裂標識色素の減衰が見られ、5回の細胞分裂が観察された(青線:図中1
st~5
thの矢印で示した)ことから、Tconv細胞は増殖していることが分かった。これに対して、Tconv+nTreg(2:1)とTconv+Tem-derived Treg(10:1)では、Tconv細胞の増殖はほぼ同じように抑制されていることが分かった。このことから、Tem-derived TregはnTregの1/5の量でnTregと同程度のT細胞の増殖抑制効果があることが分かった。
【0066】
(実施例8)in vivoにおけるFoxp3誘導
6-10週齢のDO11.10/RAG2 KO/eFoxマウスに、OVA(OVA
323-339; MLB社製)と完全フロイントアジュバント(CFA; BD社製)の混合エマルジョン(100μg OVA/頭)を免疫投与し、化合物1塩(フリー体換算30 mg/kg)を免疫当日から1週間経口投与した。コントロールは、化合物1塩を投与していない系とした。また、免疫投与していない系(Non Immunization)についても同様に検討した。DO11.10/RAG2 KO/eFoxマウスは、実施例6のDO11.10/eFoxマウスにRAG2 KOマウスを交配して作製した。
1週間経口投与した後、実施例5と同手法にてマウスのリンパ球を採取し、細胞懸濁液を調製した。次いで、当該リンパ球細胞を抗CD4抗体(BD社製)、抗DO11.10抗体(BD社製)で染色し、Foxp3-GFP陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。その結果を
図6(a)に示した。また、また、
図6(b)にそれらのFoxp3-GFP陽性細胞数(%)を示した。
【0067】
図6(a)及び(b)の結果から、OVAを投与したマウスにのみ、化合物1塩によってFoxp3陽性T細胞が誘導されたことが分かった(3.79%)。
【0068】
(実施例9)接触過敏症(CHS)に対する化合物1塩の治療効果
本実施例では、ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)誘発性CHSモデルでの接触過敏症に対する化合物1塩の治療効果を確認した。DNFB誘発性CHSモデルは以下の方法で作製した。6-10週齢のFoxp3-DTR-GFP KIマウス(FDGマウス)(Nat.Immunol. 2007 Feb;8(2):191-7)に、DNFB((0.5%(w/v) DNFB in acetone/olive oil (4/1))を1週間おきに腹部に100μLずつ2回塗布して感作させ、さらに1週間後に耳に20μLを塗布してDNFB誘発性の接触過敏症(CHS)を誘導してCHSモデルマウス作製した。
【0069】
当該CHSモデルマウスに化合物1塩(フリー体換算30 mg/kg)を14日間経口投与した(通常時)。また、このCHSモデルマウスに予めジフテリアトキシン50 ngを腹腔投与したマウスにも同様に化合物1塩を経口投与した(Treg除去時)。これらのCHSモデルマウスをそれぞれ14日間飼育した後、耳の腫れをダイヤルシックネスゲージ(Dial thickness gauge, Peacock)で測定し、その結果を
図7(a)に示した。また、それぞれのマウスの耳組織をヘマトキシリンエオジン染色し結果を
図7(b)に示した。
【0070】
図7(a)及び(b)の結果から、化合物1塩を投与することによりCHSモデルマウスの耳の腫れが低減することが分かった。また、耳組織の染色の結果も同様の結果を示していた。一方、ジフテリアトキシンを投与してTreg除去処置をした場合は、マウスの耳の腫れは化合物1塩を投与しても低減されなかった。耳組織の染色の結果も同様の結果を示していた。これらの結果から、化合物1塩によるCHSに対する治療効果はTreg依存的であることが分かった。
【0071】
(実施例10)多発性硬化症に対する化合物1塩の治療効果
本実施例では、多発性硬化症(Multiple screlosis)モデルとして、EAE(Experimental autoimmune encephalomyelitis)モデルマウスでの化合物1塩の治療効果を確認した。EAEモデルは、以下の方法で作製した。6-8週齢のC57BL/6マウス(SLC社製)にミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)のペプチドMOG35-55と完全型フロイントアジュバント(CFA; BD社製)を等量混和したエマルジョンを作製し、背部に皮下注射した(MOG35-55 200μg/頭)。次いで、百日咳毒素(Pertussis Toxin:Ptx)を200 ng腹腔内投与した(0日目)。さらに2日目にPtxを200 ng腹腔内投与することでEAEを誘導した。
【0072】
当該EAEモデルマウスに化合物1塩(フリー体換算30 mg/kg)を1日目から14日目まで投与した。経時的にマウスの病態スコア(EAEscore)をInt. Immunol. 2012 Nov;24(11):681-91. doi: 10.1093/intimm/dxs075.に従って測定した。その結果を
図8に示した。
【0073】
図8の結果から、化合物1塩によって対照(Vehicle)に比べて優位にEAEscoreの改善が見られることが分かった。
【0074】
(実施例11)鼻アレルギーに対する化合物2の治療効果
本実施例では、鼻アレルギーモデルとして、マウス能動感作抗体誘発鼻アレルギーモデルでの化合物2の治療効果を確認した。マウス能動感作抗体誘発鼻アレルギーモデルは、以下の方法で作製した。7週齢のBALB/cマウス(SLC社製, 雄)にOVA(和光純薬社製)(0.5 mg/mL)(100μg/頭)と5 mg/mLの水酸化アルミニウム(ALUM; 和光純薬社製)及び1.5μg/mLの百日咳毒素(和光純薬社製)の混合液200μLを腹腔内投与して初回感作とした。次に、この初回感作の5日後に追加感作としてOVA(50μg/頭)を背部皮下投与することで全身感作を行った後、初回感作から18日目以降から8日間局所感作として一日一回の頻度でOVA(100 μg/頭)を点鼻投与し、能動感作による鼻アレルギー症状を惹起した。
【0075】
当該モデルに化合物2(0.3~3.0 mg/kg)を初回感作3日前より連日経口投与し、局所感作最終日に1時間 の鼻掻き行動回数を指標に被験物質の効果を評価した。なお、媒体対照群には媒体である0.5%(w/v)メチルセルロース溶液、陽性対照としてデキサメタゾン(東京化成社製)を用いた。結果を
図9に示した。
【0076】
図9の結果から、化合物2(1.0 mg/kg又は3.0 mg/kg)の投与によって、鼻掻き回数が有意に抑制されることが分かった。
【0077】
(実施例12)気道抵抗性亢進(喘息)に対する化合物2の治療効果
本実施例では、喘息モデルとして、OVA誘発喘息モデル及びTh1型喘息モデルでの化合物2の治療効果を確認した。
【0078】
(1)OVA誘発喘息について
OVA誘発喘息モデルは、以下の方法で作製した。8週齢のBalb/cマウス(チャールス・リバー社製)にOVA(SIGMA社製)(20μg/頭)及び水酸化アルミニウム(Alum; エル・エス・エム社製)(2.25 mg)を含む生理食塩溶液200μLを、初回感作日、初回感作より8日目及び15日目に腹腔内投与して感作した。その後、初回感作より29日目以降の連続した6日間、マウスに1%OVAを超音波ネブライザー(オムロン社製)を用いて1日1回吸入感作させ、炎症を誘発した。正常群には生理食塩液を同様に腹腔内投与及び吸入させた。
【0079】
当該作製したモデルには、化合物2を0.5 mg/kgの用量で感作初日から最終誘発日まで34日間、1日1回反復経口投与した。媒体対照群には媒体である0.5%(w/v)メチルセルロース溶液、陽性対照としてデキサメタゾン(SIGMA社製)1 mg/kgを同様に反復経口投与した。最終抗原誘発の翌日に、全例について覚醒下でメサコリン溶液吸入後の気道抵抗を指標に気道反応性を測定した。マウスをアクリル製吸入チャンバーに入れ、加圧ネブライザー(パリ社製)を用いて、生理食塩液及びメサコリンの1.56, 3.125, 6.25, 12.5及び25 mg/mL溶液を順次各1分間ずつ吸入させ、各溶液吸入後に気道抵抗(specific airway resistance:sRaw)を測定した。100呼吸分の平均値を各測定ポイントにおける個体のsRawとした。sRawは総合呼吸機能測定システム(Pulmos-1; M.I.P.S.社製)を用い、double flow plethysmograph法にて、覚醒下で測定した。25 mg/mL メサココリン溶液吸入時の気道抵抗測定結果を
図10Aに示した。
【0080】
図10Aの結果から、化合物2の投与により、気道反応性の亢進を抑制することが分かった。
【0081】
(2)Th1型喘息について
Th1型喘息モデルは、以下の方法で作製した。8週齢のBalb/cマウス(チャールス・リバー社製)に エンドトキシンフリーOVA(Hyglos社製)(50μg/頭)及び完全型フロイントアジュバント(FCA; 和光純薬社製)を含む生理食塩液200μLを単回腹腔内投与して初回感作した。その後、初回感作より15日目より連続した3日間、マウスにエンドトキシンフリーOVA(100μg/頭)及びLipopolysaccharide(LPS、SIGMA社製)(5μg/頭)を含むリン酸緩衝生理食塩液(PBS)50μLを鼻腔内投与して炎症を誘発した。正常群には生理食塩液を腹腔内投与、及びPBSを鼻腔内投与した。
【0082】
当該作製したモデルに、化合物2を0.5 mg/kgの用量で感作初日から最終誘発日まで17日間、1日1回反復経口投与した。対照群には媒体である0.5%(w/v)メチルセルロース溶液、陽性対照としてデキサメタゾン(SIGMA社製)1 mg/kgを同様に反復経口投与した。最終抗原誘発の翌日(18日目)に、上記(1)と同様にして気道反応性を測定した。25 mg/mL メサコリン溶液吸入時の気道抵抗測定結果を
図10Bに示した。
【0083】
図10Bの結果から、化合物2投与により、気道反応性の亢進を抑制することが分かった。
【0084】
(実施例13)ex vivoで誘導したTreg移入による接触過敏症に対する治療効果
本実施例では、ex vivoで誘導したTreg移入によるDNFB誘発性接触過敏性モデルに対する治療効果を確認した。
【0085】
Tregは、以下の方法で作製した。12週齢のeFoxマウス由来の脾細胞をナイロンメッシュ上で破砕、濾過して細胞懸濁液を調製した。さらに、細胞懸濁液からCD4 Micobeads, Mouse(Miltenyi Biotec社製)により調製したCD4+T細胞(1×105個)を、抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)(1×105ビーズ/mL)、hTGF-β1(Peprotech社製)(5 ng/mL)、mIL-2(R&D社製) (250 U/mL)及び化合物1塩(1μM)の存在下で、5%CO2雰囲気下、37℃で3日間培養した。その後、FACSAriaTMII(BD社製)により、TregとしてCD25及びFoxp3-GFP陽性T細胞を取得した。
【0086】
DNFB誘発性接触過敏性モデルは以下の方法で作製した。8週齢のBalb/cマウス(SLC社製、雌)の腹部を剃毛後、DNFB(0.5%(w/v) DNFB in acetone/olive oil (4/1)、ナカライ社製)を25μL塗布した。DNFB塗布後5日目に、上記で取得したTreg(2×104個又は2×105個)を尾部静脈より移入した。次いで、DNFB(0.3%(w/v) DNFB in acetone/olive oil (4/1))を耳介に20μL塗布し、接触過敏性反応を誘発した。接触性過敏性反応は定圧厚さ測定器(Teclock社製、PG-20)を用いた耳介厚の変化の測定により評価した。
【0087】
その結果、化合物1塩で誘導したTregを2×105個投与したとき、接触過敏性反応誘発から2日目のマウスの耳の腫れは220μmであった。これに対し、添加しなかったときは285μmであった。DNFB誘発性接触過敏性モデルに化合物1塩で誘導したTregを投与することによって統計学的に有意(P<0.05; Dunnett's Multiple Comparison Test)に、ex vivoで誘導したTregが、耳の腫れを指標とする接触過敏性応答を抑制する効果が見られた。
【0088】
(実施例14)各種CDK8/19阻害薬によるナイーブT細胞からTregへの誘導
本実施例では、各種CDK8/19阻害薬によるナイーブT細胞からTregへの誘導を確認し、CDK8及び/又はCDK19阻害活性を有する化合物のTregへの誘導作用を確認した。
【0089】
ナイーブT細胞は以下の方法で作製した。8-12週齢のC57BL6マウス(SLC社製)から脾臓を回収し、実施例13と同様に脾細胞をナイロンメッシュ上で破砕、濾過して細胞懸濁液を調製した。当該細胞懸濁液からNaive CD4+Tcell Isolation Kit, mouse(Miltenyi Biotec社製)を用いてナイーブTh細胞を調製した。Minimum Essential Medium Eagle(MEM, SIGMA社製)で懸濁した脾細胞にキット添付のBiotin-Antibody Cocktailを添加し、4℃で5分間インキュベートした。さらに、Anti-Biotin MicroBeadsとCD44 MicroBeadsを加え、4℃で10分間インキュベートした後、遠心分離操作(300xg, 10分間)を行った。上清を除いた後、MEMで再懸濁し、LSカラム(Miltenyi Biotech社製)に添加した。フロースルー液に含まれる細胞を以降の実験に用いた。調製したナイーブTh細胞(2×105個)を各種CDK8/19阻害薬(使用量1~10000nM)の存在下、5%CO2、37℃で抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)刺激を行った。44時間培養後の細胞を抗CD4抗体(RM4-5; eBioscience社製)、抗CD25抗体(7D4; BD社製)、抗Foxp3抗体(FJK-16s; eBioscience社製)及びflexible viability dye(eBioscience社製)を用いて染色した。染色した細胞をフローサイトメトリー法にてCantoII(BD社製)を用いた測定を行い、FlowJo(FlowJo社製)を用いてCD4+生細胞中のCD25+Foxp3+細胞の割合を解析した。さらに、溶媒(0.1%DMSO)添加サンプルでのCD25+Foxp3+細胞の割合を100%とした際に、150%のCD25+Foxp3+細胞が得られる化合物濃度をEC150と定義して、各化合物のEC150値を算出し、3試行より得られたデータから幾何平均を算出した。その結果を表2に示した。
表2から、各種CDK8/19阻害薬によりナイーブTh細胞にTregが誘導されることが分かった。
【0090】
【表2】
SenexinA:Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.109 13799-13804(2012)
(R)-2-[5-(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)-ピリジン-3-イルアミノ]-2-フェニルアセトアミド:WO2014/029726 Example 3
【0091】
(実施例15)in vitroにおける化合物1塩によるFoxp3の誘導
本実施例では実施例1で作製した化合物1塩について、CD8+T細胞におけるFoxp3の誘導能を確認した。
【0092】
6-8週齢のFoxp3-GFP融合タンパクKIマウス(eFoxマウス)のリンパ節を回収し、すりガラスを用いて組織を破砕し、ナイロンメッシュで濾過して全リンパ球細胞懸濁液を調製した。eFoxマウスは、Science. 2014 Oct 17;346(6207):363-8. doi: 10.1126/science.1259077に記載された方法に従って作製したものを用いた。前記調製した全リンパ球細胞を、抗CD8抗体(53-6.7; BD社製)で染色し、FACSAriaTMII(BD社製)を用いて、CD8+T細胞を調製した。
【0093】
調製したCD8
+T細胞(2×10
5個)を、以下の(i)~(iv)に示す如く、2 ng/mLのhTGF-β1(R&D社製)又は10μg/mLの抗TGF-β抗体(R&D社製)と1μMの化合物1塩の存在/非存在下で、5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて刺激し、5%CO
2雰囲気下、37℃で72時間処理した。
(i) 抗TGF-β抗体(コントロール)
(ii) 抗TGF-β抗体+化合物1塩
(iii) hTGF-β1(コントロール)
(iv) hTGF-β1+化合物1塩
前記処理後の細胞を抗CD8抗体(BD社製)で染色し、Foxp3-GFP陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。その結果を
図11(a)に示した。また、
図11(b)にそれらのFoxp3-GFP陽性細胞数(%)をグラフで表した結果を示した。
【0094】
図11(a)及び(b)の結果から、抗TGF-β抗体添加によりTGF-βをブロックした条件下においても、化合物1塩のみでCD8
+T細胞にFoxp3が優位に誘導されることが分かった。また、化合物1塩とTGF-βの併用で、CD8
+T細胞に相乗的にFoxp3が誘導されることが分かった。
【0095】
(実施例16)ヒトT細胞における化合物1塩によるFoxp3の誘導
本実施例では実施例1で作製した化合物1塩について、ヒトナイーブ細胞(CD4+CCR7+CD45RA+)におけるFoxp3の誘導能を確認した。
【0096】
ヒト末梢血細胞(Lifeline cell technology社製、Stemcell technologies社製)より、Human naive CD4
+ T Cell Isolation kit(Miltenyi Biotec社製)を用いて、ヒトナイーブCD4
+T細胞(CD4
+CCR7
+CD45RA
+)を調製した。調製したヒトナイーブT細胞(2×10
5個)に、抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)(2×10
5ビーズ)を用いて刺激し、化合物1塩(10, 100, 1000 nM)の存在/非存在下で、5%CO
2雰囲気下、37℃で4日間処理した。
処理後の細胞をFixable viability dye(eBioscience社製)、抗CD4抗体(RPA-T4: eBioscience社製)、抗CD25抗体(BC96: eBioscience社製)、抗Foxp3抗体(236A/E7: eBioscience社製)で染色し、CantoII(BD社製)を用いてフローサイトメトリー法にて測定した。さらに、FlowJo(FlowJo社製)を用いて、CD4
+生細胞中のFoxp3
+CD25
+細胞の割合を解析した。
図12にFoxp3
+CD25
+細胞の割合(%)を示した。
図12の結果から、化合物1塩によってヒトナイーブCD4
+T細胞にFoxp3が誘導されることが分かった。
【0097】
(実施例17)ヒトT細胞における化合物1塩によるFoxp3の誘導
本実施例では実施例1で作製した化合物1塩について、ヒトナイーブ細胞(CD4+ CD25- CD45RA+Foxp3-)におけるFoxp3の誘導能を確認した。
【0098】
ヒト末梢血単核球(和光純薬工業社製)を、抗CD4抗体(RPA-T4; BD社製)、抗CD25抗体(M-A251; BD社製)、抗CD45RA抗体(HI100; BD社製)で染色し、FACSAria
TMII(BD社製)を用いて、ヒトナイーブCD4
+T細胞(CD4
+CD25
- CD45RA
+Foxp3
-)を調製した。調製したヒトナイーブT細胞(1×10
5個)に、抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)(2×10
5ビーズ)を用いて刺激し、hIL-2(塩野義製薬社製)(50 U/ml)、化合物1塩(10, 100 nM)の存在/非存在下で、5%CO
2雰囲気下、37℃で4日間処理した。
処理後の細胞をFixable viability dye(eBioscience社製)、抗CD4抗体(BD社製)、抗Foxp3抗体(eBioscience社製)で染色し、CD4
+T細胞中のFoxp3陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。
図13にFoxp3陽性細胞の割合(%)を示した。
図13の結果から、化合物1塩によってヒトナイーブCD4
+T細胞にFoxp3が誘導されることが分かった。
【0099】
(実施例18)ヒトCD4T+細胞における化合物1塩によるFoxp3の誘導
本実施例では実施例1で作製した化合物1塩について、ヒトCD4+細胞におけるFoxp3の誘導能を確認した。
【0100】
(1)ナイーブT細胞に対するFoxp3の誘導
実施例17と同様にしてヒト末梢血単核球(和光純薬工業社製)から、ヒトナイーブCD4+T細胞(CD4+CD25-CD45RA+ Foxp3-)を調製した。調製したナイーブT細胞(2×105個)を、以下の(i)~(iv)に示す如く、2 ng/mLのhTGF-β1(R&D社製)又は10μg/mLの抗TGF-β抗体(R&D社製)とhIL-2(塩野義製薬社製)(50 U/ml)、100 nMの化合物1塩の存在/非存在下で、5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて刺激し、5%CO2雰囲気下、37℃で72時間処理した。
(i) 抗TGF-β抗体(コントロール)
(ii) 抗TGF-β抗体+化合物1塩
(iii) hTGF-β1(コントロール)
(iv) hTGF-β1+化合物1塩
【0101】
前記処理後の細胞を抗CD4抗体(BD社製)、抗Foxp3抗体(eBioscience社製)で染色し、陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。その結果を
図14(a)に示した。また、
図14(b)にそれらのFoxp3陽性細胞数(%)を示した。
【0102】
図14(a)及び(b)の結果から、抗TGF-β抗体添加によりTGF-βをブロックした条件下においても、化合物1塩のみでナイーブT細胞にFoxp3が優位に誘導されることが分かった(コントロール:10.8%、化合物1塩処理:30.7%)。また、化合物1塩とTGF-βの併用で、ナイーブT細胞に相乗的にFoxp3が誘導されることが分かった(TGF-β:26.9%、TGF-β+化合物1処理:44.6%)。
【0103】
(2)エフェクターメモリーT細胞に対するFoxp3の誘導
ヒト末梢血単核球(和光純薬工業社製)を、抗CD4抗体(RPA-T4; BD社製)、抗CD25抗体(M-A251; BD社製)、抗CD45RA抗体(HI100; BD社製)で染色し、FACSAriaTMII(BD社製)を用いて、ヒトエフェクターメモリーCD4+T細胞(CD4+CD25- CD45RA-Foxp3-)を調製した。調製したエフェクターメモリーT細胞(2×105個)を、以下の(i)~(iv)に示す如く、2ng/mLのhTGF-β1(R&D社製)又は10μg/mLの抗TGF-β抗体(R&D社製)とhIL-2(塩野義製薬社製)(50 U/ml)、100 nMの化合物1塩の存在/非存在下で、5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて刺激し、5%CO2雰囲気下、37℃で72時間処理した。
(i) 抗TGF-β抗体(コントロール)
(ii) 抗TGF-β抗体+化合物1塩
(iii) hTGF-β1(コントロール)
(iv) hTGF-β1+化合物1塩
【0104】
前記処理後の細胞を抗CD4抗体(BD社製)、抗Foxp3抗体(eBioscience社製)で染色し、Foxp3陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。その結果を
図15(a)に示した。また、
図15(b)にそれらのFoxp3陽性細胞数(%)を示した。
【0105】
図15(a)及び(b)の結果から、抗TGF-β抗体添加によりTGF-βをブロックした条件下においても、化合物1塩のみでエフェクターメモリーT細胞にFoxp3が優位に誘導されることが分かった(コントロール:21.1%、化合物1塩処理:34.5%)。また、化合物1塩とTGF-βの併用で、エフェクターメモリーT細胞に相乗的にFoxp3が誘導されることが分かった(TGF-β:28.5%、TGF-β+化合物1処理:45.2%)。
【0106】
(実施例19)ヒトCD8T+細胞における化合物1塩によるFoxp3の誘導
本実施例では実施例1で作製した化合物1塩について、ヒトCD8+T細胞におけるFoxp3の誘導能を確認した。
【0107】
(1)ナイーブT細胞に対するFoxp3の誘導
ヒト末梢血単核球(和光純薬工業社製)を、抗CD8抗体(53-6.7; BD社製)、抗CD25抗体(M-A251; BD社製)、抗CD45RA抗体(HI100; BD社製)で染色し、FACSAriaTMII(BD社製)を用いて、ヒトナイーブCD8+T細胞(CD8+CD25- CD45RA+Foxp3-)を調製した。調製したナイーブT細胞(1×105個)を、以下の(i)~(iv)に示す如く、2ng/mLのhTGF-β1(R&D社製)又は10μg/mLの抗TGF-β抗体(R&D社製)とhIL-2(塩野義製薬社製)(50 U/ml)、100 nMの化合物1塩の存在/非存在下で、5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて刺激し、5%CO2雰囲気下、37℃で72時間処理した。
(i) 抗TGF-β抗体(コントロール)
(ii) 抗TGF-β抗体+化合物1塩
(iii) hTGF-β1(コントロール)
(iv) hTGF-β1+化合物1塩
【0108】
前記処理後の細胞を抗CD8抗体(BD社製)、抗Foxp3抗体(eBioscience社製)で染色し、Foxp3陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。
図16にFoxp3陽性細胞の割合(%)を示した。
【0109】
図16の結果から、抗TGF-β抗体添加によりTGF-βをブロックした条件下においても、化合物1塩のみでナイーブT細胞にFoxp3が優位に誘導されることが分かった。また、化合物1塩とTGF-βの併用で、ナイーブT細胞に相乗的にFoxp3が誘導されることが分かった。
【0110】
(2)エフェクターメモリーT細胞に対するFoxp3の誘導
ヒト末梢血単核球(和光純薬工業社製)を、抗CD8抗体(53-6.7; BD社製)、抗CD25抗体(M-A251; BD社製)、抗CD45RA抗体(HI100;BD社製)で染色し、FACSAriaTMII(BD社製)を用いて、ヒトエフェクターメモリーCD8+T細胞(CD8+CD25- CD45RA-Foxp3-)を調製した。調製したエフェクターメモリーT細胞(1×105個)を、以下の(i)~(iv)に示す如く、2 ng/mLのhTGF-β1(R&D社製)又は10μg/mLの抗TGF-β抗体(R&D社製)とhIL-2(塩野義製薬社製)(50 U/ml)、100 nMの化合物1塩の存在/非存在下で、5μLの抗CD3/CD28抗体(Gibco Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて刺激し、5%CO2雰囲気下、37℃で72時間処理した。
(i) 抗TGF-β抗体(コントロール)
(ii) 抗TGF-β抗体+化合物1塩
(iii) hTGF-β1(コントロール)
(iv) hTGF-β1+化合物1塩
【0111】
前記処理後の細胞を抗CD8抗体(BD社製)、抗Foxp3抗体(eBioscience社製)で染色し、Foxp3陽性細胞の割合をフローサイトメトリー法にて解析した。
図17にそれらのFoxp3陽性細胞の割合(%)を示した。
【0112】
図17の結果から、抗TGF-β抗体添加によりTGF-βをブロックした条件下においても、化合物1塩のみでエフェクターメモリーT細胞にFoxp3が優位に誘導されることが分かった。また、化合物1塩とTGF-βの併用で、エフェクターメモリーT細胞に相乗的にFoxp3が誘導されることが分かった。