(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン及び人工酸素運搬体
(51)【国際特許分類】
C07K 14/805 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
C07K14/805
(21)【出願番号】P 2019045253
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】小松 晃之
(72)【発明者】
【氏名】森田 能次
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-134199(JP,A)
【文献】Artificial Cells, Blood Substitutes, and Biotechnology,1996年,Vol.24, No.6,pp.599-611
【文献】RSC Advances,2018年,Vol.8, Issue 17,pp.9471-9479.,ISSN:2046-2069
【文献】Bioconjugate Chem,2011年,Vol.22,pp.976-986
【文献】Macromol. Biosci. ,2016年,Vol.16,pp.1287-1300
【文献】Polym. Chem.,2016年,Vol.7,pp.4609-4617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとしてのヘモグロビンと、前記ヘモグロビンに架橋剤を介して共有結合されたシェルとしてのポリオキサゾリンと、を有
し、
前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(2)を含む、
【化1】
(式中、R
1
は、下記一般式(3)、(4)又は下記化学式(1)~(3)のいずれかを表す。)
【化2】
(一般式(3)中、nは1~10の整数を表す。)
【化3】
【化4】
【化5】
(一般式(4)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【化6】
ことを特徴とする、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【請求項2】
前記ヘモグロビンにおける前記架橋剤との結合部位が、リシン、タンパク質末端の1級アミン、又はシステインである、請求項1に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【請求項3】
前記架橋剤を介した共有結合が、マレイミド基導入剤に由来する構造を含
み、
前記マレイミド基導入剤が、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項
1又は2に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【化7】
【化8】
(一般式(1)中、R
2
は水素原子又はSO
3
-
Na
+
を表し、R
1
は下記一般式(3)、(4)又は下記化学式(1)~(3)のいずれかを表す。また、一般式(2)中、R
3
は下記一般式(3)を表し、R
4
はOH又はClを表す。)
【化9】
(一般式(3)中、nは1~10の整数を表す。)
【化10】
【化11】
【化12】
(一般式(4)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【化13】
【請求項4】
前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(3)又は構造(4)を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【化14】
【化15】
(構造(3)、(4)中、mは1~10の整数を表す。)
【請求項5】
前記架橋剤を介した共有結合が、チオール基導入剤に由来する構造をさらに含み、
前記チオール基導入剤が、下記化学式(4)、下記一般式(5)、及び下記一般式(6)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【化16】
【化17】
(一般式(5)中、nは1~10の整数を表す。)
【化18】
(一般式(6)中、R
1
はOH又はClを表し、n、mは、1~10の整数を表す。)
【請求項6】
前記構造(2)の左側にヘモグロビンを有し、前記構造(2)の右側にポリオキサゾリンを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【請求項7】
前記構造(2)の左側にポリオキサゾリンを有し、前記構造(2)の右側にヘモグロビンを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【請求項8】
前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(5)又は構造(6)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【化19】
【化20】
(式中、R
1
は、下記一般式(3)、(4)又は下記化学式(1)~(3)のいずれかを表し、mは1~10の整数を表す。)
【化21】
(一般式(3)中、nは1~10の整数を表す。)
【化22】
【化23】
【化24】
(一般式(4)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【化25】
【請求項9】
酸素親和性(Pa)が6~35Torrである、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンを含む、人工酸素運搬体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン、及び人工酸素運搬体に関する。
【背景技術】
【0002】
事故や災害、さらには外科的手術により大量の血液が血管外に流出してしまった場合、できるだけ早く輸血を行い、体内における酸素輸送機能を回復する必要がある。まずは、生理食塩水等を輸液することで、循環血液量を戻すことが最優先であるが、血液成分の中で酸素輸送の役割を担っているのは赤血球であることから、赤血球製剤の投与が不可欠となる。赤血球(長径:約8マイクロメートル)の中には約2億5000万分子のヘモグロビン(ヘムを活性中心とする分子量約64,500の酸素結合能を有するヘムタンパク質)が、約35%という高濃度でつまっている。肺で酸素を結合した赤血球内のヘモグロビンは、末梢組織で酸素を放出し、体組織細胞に酸素を供給する。多くの医療先進国においては、献血・輸血を安定的に実施できる体制が確立しているため、赤血球製剤が保管されている医療施設内や赤血球製剤を短時間で輸送可能な地域であれば、輸血治療を問題なく施すことができる。ウイルス検査も済んでいるため、輸血に伴う既知ウイルスの感染リスクはほとんどない。しかし、輸血治療(特に赤血球製剤の投与)がかかえる普遍的な課題も常に潜在する。具体的には、次のような懸念がある。(i)赤血球を投与する際には、事前に血液型の確認(クロスマッチ)を行う必要があるが、その作業に約40分を要するため、救急患者への治療に間に合わない場合がある。(ii)赤血球の保存期間は4℃で21日間と短いため、大規模災害や大震災が起こり、一度に大勢の患者が発生した場合、充分量の輸血液を確保することができない。(iii)未知ウイルスに対しては、感染リスクを排除することができない。さらに今後の社会情勢の変化に伴い、新たな問題が生じることも予想される。(iv)少子高齢化が進行し、輸血の必要な高齢者数が増え、血液提供者(ドナー)数(若年層)が減少すると、通常の医療治療においても輸血液の安定供給が困難になる。このような背景から、現在、あらためて人工血液、特に赤血球代替物となり得る人工酸素運搬体の開発に大きな期待が寄せられている。
【0003】
既に1980年代から、血液型が存在せず(全ての血液型の人間に対して投与可能)、ウイルス感染等のリスクがなく、長期保存が可能で、必要な時にいつでもどこでも使用できる人工酸素運搬体の開発が欧米及び日本を中心に展開されてきた。例えば、日本では、リン脂質分子が水中で自己組織化して形成する二分子膜小胞体(リポソーム)の内水相にヘモグロビンを封入した細胞型人工酸素運搬体が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この細胞型人工酸素運搬体には、問題となる副作用もなく、実用化が待望されているが、高度な調製技術、及び初期コストが高い心配もあり、臨床試験には至っていない。
【0004】
一方、米国でも、人工酸素運搬体として、ヘモグロビンを分子内架橋した分子内架橋ヘモグロビン(例えば、特許文献2参照)、ウシヘモグロビンを架橋剤で結合したヘモグロビン重合体(例えば、特許文献3参照)、ヒトヘモグロビンを架橋剤で結合したヘモグロビン重合体(例えば、特許文献4参照)、ヒトヘモグロビンの分子表面に水溶性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)を結合させたPEG結合ヘモグロビン(例えば、特許文献5参照)等が開発され、臨床試験に進んでいる。これらの人工酸素運搬体は、サブユニット間を分子内架橋したり、分子サイズ(分子量)を大きくしたりして、ヘモグロビンがサブユニットに解離して腎排泄されるのを回避する設計であるが、血管収縮による血圧亢進、心筋梗塞等の副作用が生じたり、人工酸素運搬体投与群と生理食塩水投与群との間に効果の差が少ない、等の理由から、米国食品医薬品局(FDA)に認可され、臨床使用されている製剤は未だない。
【0005】
PEGは生体適合性を有する生体不活性な水溶性高分子の標準的な材料と考えられている。しかし、PEG結合アスパラギナーゼ、PEG結合ウリカーゼによる治療を受けた患者からPEGに対する血清抗体が検出され、これら抗PEG抗体の存在により、投与されたPEG結合製剤が速やかに体外へ排出されることが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。さらに、PEG結合製剤による治療を受けたことがない患者でも、25%以上の患者に抗PEG抗体が見つかっている(例えば、非特許文献3、4、5)。これは、市場に出回っている食品、化粧品等のさまざまな製品にPEGが使用されていることが原因と考えられている。また、PEG結合ヘモグロビンを繰り返し投与すると、細胞の空胞化が観測されることも報告されている(例えば、非特許文献6)。斯かる状況の下、PEGに置き換わる生体適合性を有する新しい水溶性高分子の開発に注目が集まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-307404号公報
【文献】特開平10-306036号公報
【文献】特表平11-502821号公報
【文献】特表2006-516994号公報
【文献】特表2005-515225号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.K.Armstrongら,Cancer,2007,110、103-111.
【文献】M.R.Shermanら,Adv.Drug Delivery Rev.,2008,6,59-68.
【文献】R.M.Legerら,Transfusion,2001,41,29S.
【文献】J.K.Armstrongら,Blood,2003,102,556A.
【文献】C.Lubichら,Pharm.Res.,2016,33,2239-2249.
【文献】C.Conoverら,Artif.Cells,Blood Subs.,Immob.Biotechnol.,1996,24,599-611.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
人工酸素運搬体の開発においても、PEG以外で、生体適合性が高く(例えば、腎排泄がなく、血圧亢進や抗原抗体反応等の副作用がなく)、且つ調製(合成)が容易な水溶性高分子を結合したヘモグロビン製剤の開発が強く望まれている。
【0009】
本発明は、生体適合性が高く、且つ調製(合成)が容易である、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン及び人工酸素運搬体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸素結合能を有するヘモグロビンに、生体適合性を有するポリオキサゾリンを共有結合させることにより、その目的を達成し得ることを見出した。
【0011】
ポリオキサゾリンは、生体適合性が高く、且つ非免疫原性の疑似ポリペプチド構造からなる非イオン性の(電荷を持たない)水溶性高分子である。また、PEGの好ましい特性を多く示しながら、その欠点のいくつかを回避できる。ポリオキサゾリンの特筆すべき特徴を列挙すると次のとおりである(カッコ内はPEGの欠点)。(I)オキサゾリンの開環重合により容易に合成でき、様々な側鎖置換誘導体の調製も容易(PEGは重合が困難で、側鎖がない)、(II)過酸化物を生成しない(PEGは過酸化物を生成する)、(III)低粘度(PEGは高濃度で高粘度)、(IV)室温で安定(PEGは低温で安定であるが、室温では不安定)、(V)体内で分解し容易に除去される(PEGは蓄積する可能性あり)。本発明者らは、ヘモグロビンを修飾する化合物として、ポリオキサゾリンが、PEGの代替材料になり得ることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、コアとしてのヘモグロビンと、前記ヘモグロビンに架橋剤を介して共有結合されたシェルとしてのポリオキサゾリンとを有することを特徴とする。
【0013】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおいては、前記ヘモグロビンにおける前記架橋剤との結合部位が、リシン、タンパク質末端の1級アミン、又はシステインであることが望ましい。
【0014】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(1)を含むことが望ましい。
【化1】
【0015】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、マレイミド基導入剤に由来する構造を含むことが望ましい。
【0016】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおいては、前記マレイミド基導入剤が、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが望ましい。
【化2】
【化3】
(一般式(1)中、R
2は水素原子又はSO
3
-Na
+を表し、R
1は下記一般式(3)、(4)及び下記化学式(1)~(3)のいずれかを表す。また、一般式(2)中、R
3は下記一般式(3)を表し、R
4はOH又はClを表す。)
【化4】
(一般式(3)中、nは1~10の整数を表す。)
【化5】
【化6】
【化7】
(一般式(4)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【化8】
【0017】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(2)を含むことが望ましい。
【化9】
(式中、R
1は、下記一般式(3)、(4)又は下記化学式(1)~(3)のいずれかを表す。)
【化10】
(一般式(3)中、nは1~10の整数を表す。)
【化11】
【化12】
【化13】
(一般式(4)中、nは、2、4、6、8、10又は12の整数を表す。)
【化14】
【0018】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、チオール基導入剤に由来する構造をさらに含み、前記チオール基導入剤が、下記化学式(4)、下記一般式(5)、及び下記一般式(6)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物であることが望ましい。
【化15】
【化16】
(一般式(5)中、nは1~10の整数を表す)
【化17】
(一般式(6)中、R
1はOH又はClを表し、n、mは、1~10の整数を表す。)
【0019】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおいては、前記架橋剤を介した共有結合が、以下の構造(3)又は構造(4)を含むことが望ましい。
【化18】
【化19】
(構造(3)、(4)中、mは1~10の整数を表す。)
【0020】
本発明の人工酸素運搬体は、前記ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生体適合性が高く、且つ調製(合成)が容易である、新規なポリオキサゾリン結合ヘモグロビン及び人工酸素運搬体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について必要に応じて図面を参照して具体的に例示説明する。
<ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン>
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、少なくともコアとしてのヘモグロビンと、シェルとしてのポリオキサゾリンとを有し、さらに必要に応じて、その他の部位を有する。前記ヘモグロビンと前記ポリオキサゾリンとは、架橋剤を介して共有結合している。
【0024】
例えば、
図1に示すように、本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビン100は、コアとしてのヘモグロビン10と、シェルとしての6個のポリオキサゾリン20とを有していてよい。
図1において、ヘモグロビン10とポリオキサゾリン20とは、架橋剤を介して共有結合されている。
【0025】
[ヘモグロビン]
前記ヘモグロビンは、4つのヘモグロビンサブユニットから構成される場合、分子量が約64500ダルトンである。
前記ヘモグロビンは、4つのサブユニットから構成されることが好ましく、各サブユニットは、それぞれ1つのプロトヘムを有する。該プロトヘム内の鉄原子に酸素が結合する。即ち、4つのサブユニットから構成されるヘモグロビン1分子には、4つの酸素分子が結合することができる。前記ヘモグロビンとしては、4つのサブユニットからなる4量体であってもよいし、3、2、1量体であってもよい。
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、ヘモグロビンに含まれる少なくとも1つのヘモグロビンサブユニットに、架橋剤を介してポリオキサゾリンが結合していればよい。例えば、ヘモグロビンが複数のヘモグロビンサブユニットから構成される場合(例えば、2、3、4量体等)、全てのヘモグロビンサブユニットに架橋剤を介してポリオキサゾリンが結合していてもよいし、架橋剤を介してポリオキサゾリンが結合していないヘモグロビンサブユニットが含まれていてもよい。
【0026】
前記ヘモグロビンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヒトを含む脊椎動物由来の赤血球から精製したもの等を使用できる。前記ヘモグロビンとしては、ヒトヘモグロビン、ウシヘモグロビン、ブタヘモグロビン、ウマヘモグロビン、イヌヘモグロビン、ネコヘモグロビン、組換えヘモグロビン、分子内架橋ヘモグロビン、及びヘモグロビン重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヒトヘモグロビンが、生体適合性が高い点で好ましい。また、前記ヘモグロビンは、タンパク質合成(培養)により容易に製造することができる。
【0027】
-ヒトヘモグロビン-
前記ヒトヘモグロビンとしては、ヒト由来の赤血球から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
-ウシヘモグロビン-
前記ウシヘモグロビンとしては、ウシ由来の赤血球から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
-ブタヘモグロビン-
前記ブタヘモグロビンとしては、ブタ由来の赤血球から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
-ウマヘモグロビン-
前記ウマヘモグロビンとしては、ウマ由来の赤血球から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
-イヌヘモグロビン-
前記イヌヘモグロビンとしては、イヌ由来の赤血球から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
-ネコヘモグロビン-
前記ネコヘモグロビンとしては、ネコ由来の赤血球から精製したもの等が挙げられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる
【0033】
-組換えヘモグロビン-
前記組換えヘモグロビンとしては、通常の遺伝子組換え操作、培養操作等により産生したものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
-分子内架橋ヘモグロビン-
前記分子内架橋ヘモグロビンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘモグロビンにおけるサブユニットが架橋剤を介して互いに結合されたジアスピリン架橋ヘモグロビン、ビスマレイミド架橋ヘモグロビン等が挙げられる。
【0035】
-ヘモグロビン重合体-
前記ヘモグロビン重合体の具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、複数のヘモグロビンをグルタルアルデヒド架橋剤で結合したヘモグロビン重合体等が挙げられる。
【0036】
[架橋剤]
前記架橋剤としては、例えば、マレイミド基導入剤を含む架橋剤、チオール基導入剤を含む架橋剤等が挙げられ、具体的には、マレイミド基導入剤、チオール基導入剤等が挙げられる。前記架橋剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(マレイミド基導入剤)
前記マレイミド基導入剤としては、ヘモグロビン又はポリオキサゾリンにマレイミド基を導入可能な試薬である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、マレイミド基を有する化合物が好ましく、反応効率の観点から、下記一般式(1)等の、一方の末端がスクシンイミジル基であり他方の末端がマレイミド基である二官能性の化合物、及び下記一般式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物が好ましい。
R
4がOHである下記一般式(2)で表される化合物を用いてマレイミド基を導入する場合は、縮合剤と共に用いて、ヘモグロビン又はポリオキサゾリンのNH
2末端又はOH末端にマレイミド基を導入することが好ましい。縮合剤の例としては、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等が好ましい。また、R
4がOHである下記一般式(2)で表される化合物は、例えば、塩化チオニル、塩化オキサリル等の化合物と反応させて、R
4のOHをClに変換してから用いてもよい。
上記マレイミド基導入剤としては、ヘモグロビンのリシン残基のNH
2基、タンパク質末端の1級アミンのNH
2基、及びポリオキサゾリンの末端NH
2基へのマレイミド基の導入には、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物が好ましく、ポリオキサゾリンの末端OH基へのマレイミド基の導入には下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化20】
【化21】
一般式(1)中、R
2は水素原子又はSO
3
-Na
+のいずれかを表し、R
1は下記一般式(3)、(4)又は下記化学式(1)~(3)のいずれかを表す。また、一般式(2)中、R
3は下記一般式(3)を表し、R
4はOH又はClを表す。
【化22】
一般式(3)中、nは1~10の整数を表す。
【化23】
【化24】
【化25】
一般式(4)中、nは2、4、6、8、10又は12の整数を表す。
【化26】
【0038】
例えば、前記マレイミド基導入剤におけるスクシンイミジル基と、ヘモグロビンにおけるリシン残基のアミノ基(NH2基)やタンパク質末端のアミノ基(NH2基)とを反応させることで、リシン残基のアミノ基(-NH2)やタンパク質末端のアミノ基(NH2基)にマレイミド基を導入することができる。
前記マレイミド基を導入するための方法としては、例えば、ヘモグロビンとマレイミド基導入剤を5℃~30℃で1時間~40時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0039】
(チオール基導入剤)
前記チオール基導入剤としては、ヘモグロビン又はポリオキサゾリンにチオール基を導入可能な試薬である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。反応効率の観点から、下記化学式(4)(2-イミノチオラン塩酸塩)、下記一般式(5)及び下記一般式(6)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物が好ましい。
R
1がOHである下記一般式(6)で表される化合物を用いてチオール基を導入する場合は、縮合剤と共に用いて、ヘモグロビン又はポリオキサゾリンのNH
2末端又はOH末端にチオール基を導入することが好ましい。縮合剤の例としては、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等が好ましい。また、R
1がOHである下記一般式(2)で表される化合物は、例えば、塩化チオニル、塩化オキサリル等の化合物と反応させて、R
1のOHをClに変換してから用いてもよい。
上記チオール基導入剤としては、ヘモグロビンのリシン残基のNH
2基、タンパク質末端の1級アミンのNH
2基、及びポリオキサゾリンの末端NH
2基へのチオール基の導入には、化学式(4)、一般式(5)又は一般式(6)で表される化合物が好ましく、ポリオキサゾリンの末端OH基へのチオール基の導入には、一般式(6)で表される化合物が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化27】
【化28】
(一般式(5)中、nは1~10の整数を表し、架橋反応のしやすさの観点から好ましくは2~5、更に好ましくは2~3、特に好ましくはn=2である。)
【化29】
(一般式(6)中、R
1はOH又はClを表し、n、mは、1~10の整数を表す。それぞれのR
1は同じであってもよいし異なっていてもよい。R
1はOHであることが好ましく、2つのR
1が共にOHであることがより好ましい。n、mは同じであってもよいし異なっていてもよい。n、mは、架橋反応のしやすさの観点から好ましくは2~5、更に好ましくは2~3、特に好ましくはn=m=2である。)
【0040】
[ポリオキサゾリン]
前記ポリオキサゾリンは、生体適合性が高く、且つ非免疫原性の疑似ポリペプチド構造からなる非イオン性の水溶性高分子である。大量合成が可能で、様々な官能基を導入でき、動物に安全に用いることができる。PEGが持つ優れた性質を多く示しながら、その欠点のいくつかを回避できる。さらに、ポリオキサゾリンは体内の組織に蓄積することなく、腎臓から排出される。
上記ポリオキサゾリンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記ポリオキサゾリンとしては、下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【化30】
(一般式(7)中、R
1は炭素数1~8の炭化水素基を表し、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。R
2は、ヒドロキシル基、アミノ基、又は-NH-(CH
2)
2-OHを表す。nは反復単量体単位の数を表す。)
前記ポリオキサゾリンは、ホモ重合体であってもよいし、ヘテロ重合体であってもよい。
【0042】
前記ポリオキサゾリンの重量平均分子量としては、500~100,000ダルトンが好ましい。
【0043】
<ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの製造方法>
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの製造方法としては、前記ヘモグロビン由来のヘモグロビン誘導体、及び前記ポリオキサゾリン由来のポリオキサゾリン誘導体を少なくとも用いて反応させる方法等が挙げられる。
【0044】
(ヘモグロビン誘導体)
前記ヘモグロビン誘導体は、チオール基導入ヘモグロビン、マレイミド基導入ヘモグロビン、非修飾ヘモグロビンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0045】
中でも、ポリオキサゾリン誘導体として末端マレイミド基ポリオキサゾリンを用いる場合、ヘモグロビン誘導体はチオール基導入ヘモグロビン又は非修飾ヘモグロビンを用いることが望ましい。
前記チオール基導入ヘモグロビンは、ヘモグロビンのリシン残基のアミノ基(NH2基)やタンパク質末端のアミノ基(NH2基)に上記チオール基導入剤(例えば、2-イミノチオラン塩酸塩)が結合して得られたチオール基導入ヘモグロビンであることが望ましい。前記チオール基導入ヘモグロビンは、例えば、ヘモグロビン及び2-イミノチオラン等のチオール基導入剤を、5℃~30℃で0.2時間~3時間攪拌する方法等により得ることができる。
非修飾ヘモグロビンは、還元剤で処理したヘモグロビンを用いてもよい。
【0046】
また、ポリオキサゾリン誘導体として末端チオール基ポリオキサゾリンを用いる場合、ヘモグロビン誘導体はマレイミド基導入ヘモグロビンを用いることが望ましい。
前記マレイミド基導入ヘモグロビンは、ヘモグロビンのリシン残基(NH2基)やタンパク質末端のアミノ基(NH2基)に上記マレイミド基導入剤(例えば、前記一般式(1)で表される化合物)が結合して得られたマレイミド基導入ヘモグロビンであることが望ましい。前記マレイミド基導入ヘモグロビンは、例えば、ヘモグロビン及びマレイミド基導入剤を、0℃~30℃で0.1時間~3時間攪拌する方法等により得ることができる。
【0047】
(ポリオキサゾリン誘導体)
前記ポリオキサゾリン誘導体は、末端マレイミド基ポリオキサゾリン、末端チオール基ポリオキサゾリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、下記一般式(8)~(13)で表される化合物から選択される少なくとも1種であることがより望ましい。
中でも、ヘモグロビン誘導体がチオール基導入ヘモグロビン又は非修飾ヘモグロビンである場合、末端マレイミド基ポリオキサゾリンが望ましく、ヘモグロビン誘導体がマレイミド基導入ヘモグロビンである場合、末端チオール基ポリオキサゾリンが望ましい。
前記ポリオキサゾリン誘導体は、例えば、化合物(例えば、末端にチオール基を有する化合物、末端にマレイミド基を有する化合物等)に、ポリオキサゾリンを導入する際の架橋剤として用いることができる。
【0048】
-末端マレイミド基ポリオキサゾリン-
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(8)~(10)で表される化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンの重量平均分子量としては、500~100,000ダルトンが好ましい。
【化31】
一般式(8)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。R
1はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【化32】
一般式(9)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。R
2はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【化33】
一般式(10)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。R
3はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0049】
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリン中の繰り返し単位の各構造は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンは、末端にSH基を有する化合物(例えば、タンパク質中のシステイン残基、チオール基修飾をしたタンパク質等)にポリオキサゾリンを付加する架橋剤として用いることができる。
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンは、例えば、ポリオキサゾリンと、上記一般式(2)の化合物等のマレイミド基導入剤とを反応(例えば、R4がClの場合はそのまま、OHの場合は縮合剤を入れて25℃で10時間~20時間撹拌する反応等)させることにより得ることができる。混合比としては、ポリオキサゾリン1モルに対して、上記一般式(2)の化合物5~15モルの割合としてよい。反応後に、遠心分離、フィルターろ過、ゲルろ過等により精製してもよい。
得られる末端マレイミドポリオキサゾリンは、1H-NMR等により構造を解析することができる。
【0050】
-末端チオール基ポリオキサゾリン-
前記末端チオール基ポリオキサゾリンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(11)~(13)で表される化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記末端チオール基ポリオキサゾリンの重量平均分子量としては、500~100,000ダルトンが好ましい。
【化34】
一般式(11)中、nは反復単量体単位の数を表す。R
1はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【化35】
一般式(12)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。R
1はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【化36】
一般式(13)中、nは反復単量体単位の数を表し、mは1~10の整数を表す。R
1はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかを示す。
【0051】
前記末端チオール基ポリオキサゾリン中の繰り返し単位の各構造は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
前記末端チオール基ポリオキサゾリンは、末端にマレイミド基を有する化合物(例えば、マレイミド基修飾をしたタンパク質等)にポリオキサゾリンを付加する架橋剤として用いることができる。
前記末端チオール基ポリオキサゾリンは、例えば、ポリオキサゾリンと、上記一般式(5)の化合物等のチオール基導入剤とを反応(例えば、25℃で10時間~20時間撹拌する反応等)させることにより得ることができる。混合比としては、ポリオキサゾリン1モルに対して、上記一般式(5)の化合物10~20モルの割合としてよい。反応後に、還元剤で処理をしたり、遠心分離、フィルターろ過、ゲルろ過等による精製を行ったりしてもよい。
得られるチオール基ポリオキサゾリンは、1H-NMR等により構造を解析することができる。
【0052】
前記一般式(8)~(13)においては、いずれもR1、R2、R3がメチル基であるものは、PEGよりも高い水溶性を示す傾向にあり、R1、R2、R3がプロピル基であるものは、加熱により水への溶解度が下がる傾向にある。そのため、いずれも、R1、R2、R3がエチル基であるものが、親疎水性のバランスが取れているという点で好ましい。
【0053】
前記一般式(8)~(13)においては、いずれも、mが、化学的な安定性が高く、最小の2であるものが好ましい。
【0054】
前記ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの製造方法としては、より具体的には、例えば以下の(a)~(c)の方法等が挙げられる。
-ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの製造例(a)-
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンと、前記チオール基導入ヘモグロビンとを反応させることにより、前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンにおけるマレイミド基が、チオール基導入ヘモグロビンのチオール基と共有結合を形成する。
前記ポリオキサゾリンを導入するための方法としては、例えば、チオール基導入ヘモグロビンと末端マレイミド基ポリオキサゾリンを5℃~30℃で1時間~40時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0055】
-ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの製造例(b)-
前記末端チオール基ポリオキサゾリンと、前記マレイミド基導入ヘモグロビンとを反応させることにより、前記末端チオール基ポリオキサゾリンにおけるチオール基が、マレイミド基導入ヘモグロビンのマレイミド基と共有結合を形成する。
前記ポリオキサゾリンを導入するための方法としては、例えば、マレイミド基導入ヘモグロビンと末端チオール基ポリオキサゾリンを5℃~30℃で1時間~40時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0056】
-ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの製造例(c)-
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンと、前記非修飾ヘモグロビンとを反応させることにより、前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンにおけるマレイミド基が、非修飾ヘモグロビンのシステインと共有結合を形成する。
前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンを導入するための方法としては、例えば、非修飾ヘモグロビンと末端マレイミド基ポリオキサゾリンを5℃~30℃で1時間~40時間攪拌すること、等が挙げられる。
【0057】
<ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの特徴>
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、前記ヘモグロビンにおける前記架橋剤との結合部位がリシンやタンパク質末端の1級アミン、又はシステインであることが望ましい。
前記チオール基導入ヘモグロビンにおける前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンとの結合部位が、導入したチオール基であることが望ましい。前記マレイミド基導入ヘモグロビンにおける前記末端チオール基ポリオキサゾリンとの結合部位が、導入したマレイミド基であることが望ましい。前記非修飾ヘモグロビンにおける前記末端マレイミド基ポリオキサゾリンとの結合部位が、システイン残基であることが望ましい。
【0058】
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、前記架橋剤を介した結合が、マレイミド基導入剤及び/又はチオール基導入剤に由来する構造を含むことが好ましく、マレイミド基導入剤とチオール基導入剤とのみに由来する構造であることがより好ましい。
上記架橋剤を介した結合は、以下の構造(1)
【化37】
を含むことが好ましく、以下の構造(2)、(3)又は(4)
【化38】
(式中、R
1は、上述の一般式(3)、(4)又は上述の化学式(1)~(3)のいずれかを表す。)
【化39】
【化40】
(構造(3)、(4)中、mは1~10の整数を表す。)
の構造を有することがより好ましく、以下の構造(5)又は(6)
【化41】
【化42】
(構造(5)、(6)中、R
1は、上述の一般式(3)、(4)又は上述の化学式(1)~(3)のいずれかを表し、mは1~10の整数を表す。)
の構造を有することがさらに好ましい。
【0059】
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、調製が比較的容易であるにもかかわらず、三次元構造は明確である。ポリオキサゾリン結合ヘモグロビンの平均粒径は、8~30nmが好ましく、8~20nmがより好ましい。
【0060】
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、酸素結合部位がヘモグロビンであるため、安定な酸素化体(オキシ体)を形成することが可能であり、体組織に効率良く酸素を供給することができる。酸素親和性(P50)は、3~60Torrが好ましく、6~35Torrがより好ましい。
【0061】
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンのコアヘモグロビンに対するポリオキサゾリンの結合数としては、1~10本が好ましい。
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンにおける、コアヘモグロビンに対するポリオキサゾリンの結合数の測定方法としては、シアノメトヘモグロビン法(例えば、アルフレッサファーマ社、ネスコートヘモキットN、No.138016-14)を用いたヘムの定量により算出したヘモグロビンの濃度、及び4,4’-ジチオピリジンを用いたチオールの定量により算出したチオール濃度に基づいて算出する方法が挙げられる。
【0062】
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、コアヘモグロビンの周囲が、ポリオキサゾリンで覆われているため、免疫原性はなく、腎排泄、血管内皮細胞からの漏出もない。また、ポリオキサゾリンは水溶性が高く、代謝に優れる。
【0063】
本実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、血液と混合した場合でも沈殿及び凝集は惹起せず、血液適合性は高い。また、合成等が容易であり、調製が容易である。
【0064】
以上より、本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、例えば、生体適合性(安全性)と有効性を併せ持った類例のない人工酸素運搬体として機能し得る。
【0065】
<人工酸素運搬体>
本実施形態の人工酸素運搬体は、上記実施形態のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンを含む。なお、前記人工酸素運搬体とは、酸素分子を運搬可能な物質であり、生体に投与した場合には、赤血球の代替物として機能するものである。
上記人工酸素運搬体は、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ等の脊椎動物の赤血球の代替物として用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
-調製例1:チオール基導入ヘモグロビン(HbA-SH)の調製-
ヘモグロビン(Hb)にチオール基を導入するために、以下の操作を行った。
マイクロチューブ(1.5mL容量)に2-イミノチオラン塩酸塩(2-IT、富士フイルム和光純薬社)13.8mgを入れ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)1mLで希釈し、0.1Mの2-イミノチオラン溶液を調製した。次に、1口ナスフラスコ(10mL容量)にヒトヘモグロビン(1000μM)1mLを入れ、2-イミノチオラン溶液400μL(2-イミノチオラン/ヘモグロビン(2-IT/Hb)=40(mol/mol))を加え、25℃で3時間撹拌した。その溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)にかけ、過剰の2-イミノチオラン(2IT)を除去した。
得られた溶液20mLを遠心濃縮器(Merck社、アミコンウルトラ-15、限外分子量10kDa)に入れ、遠心分離機(BECKMAN COULTER社、Allegra X-15R Centrifuge、条件:3,000rpm、10分間、4℃)を用いて、2.5mLまで濃縮した(0.4mM)。
チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、チオール基導入ヘモグロビン(Hb-SH)のチオール基数を定量した。4,4’-ジチオピリジン(4,4’-Dithiopyridine)(4,4’-DTP)は、遊離チオール(SH)基と反応し、4-チオピリジノン(4-Thiopyridinone)(4-TP)を生じるので、チオール基導入ヘモグロビンに4,4’-ジチオピリジン(4,4’-DTP)を加え、生成した4-チオピリジノン(4-TP)の量を測ることにより、チオール基の量が定量できる。
エッペンドルフチューブ(2mL容量)に4,4’-ジチオピリジン(4,4’-DTP)2.2mgを入れ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)1mLを加えてよく振とうし、4,4’-ジチオピリジン(4,4’-DTP)溶液(10mM)1mLを調製した。
分光用石英セル(光路長:1cm)にリン酸緩衝水溶液(PB、pH7.4)2mLを加え、紫外可視吸収(UV-Vis.)スペクトル(190nm-700nm)を紫外可視分光光度計(Agilent社、8454)を用いて測定した(ブランク)。次に、分光用石英セルに、チオール基導入ヘモグロビン(5μM)1500μLを加え、紫外可視吸収スペクトル測定を行った。続いて、4,4’-ジチオピリジン(4,4’-DTP)溶液(10mM)15μLを添加し(4,4’-ジチオピリジン/チオール基導入ヘモグロビン(4,4’-DTP/Hb-SH)=20(mol/mol))、よく振とうした。
30分間静置した後、紫外可視吸収スペクトル測定を行った。324nmの吸光度と4-チオピリジノン(4-TP)のモル吸光係数(ε324=1.98×104M-1cm-1)から、4-チオピリジノンの濃度(=チオール濃度)を算出した。
一方、シアノメトヘモグロビン法(アルフレッサファーマ社、ネスコートヘモキットN、No.138016-14)により、チオール基導入ヘモグロビン溶液中のヘモグロビン濃度を定量した。前記チオール濃度を得られたヘモグロビン濃度で割ることにより、チオール基導入ヘモグロビン(HbA-SH)のチオール基数を算出した(約6個/Hb-SH)。
【0068】
-調製例2:末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)の調製-
末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)を合成するために、以下の操作を行った。
【化43】
化学反応式(1)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(50mL容量)に、末端がヒドロキシル基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(平均分子量5,000Da、POx(5k)-OH、Sigma-ALDRICH社)120mg、及び3-maleimidopropionic acidに塩化チオニルを反応させて調製した3-maleimidopropanoly chloride(MPC)45mgを入れ、窒素通気を行った(3-maleimidopropanoly chloride/ポリオキサゾリン(MPC/POx(5k)-OH)=10(mol/mol))。
そこに、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mL、及びトリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社)66μLを加え、25℃で18時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水3mLを加えよく撹拌し、遠心分離で沈殿を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)を用いて精製した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、
1H NMRによって構造を同定した。
【0069】
-調製例3:ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)の調製-
ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)を結合したポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(5mL容量)に調製例1で調製したチオール基導入ヘモグロビン溶液(HbA-SH、0.4mM)625μLを入れ、調製例2で調製した末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)12.5mgを加え、冷蔵遮光下で14時間撹拌した(末端マレイミド基ポリオキサゾリン/チオール基導入ヘモグロビン(POx(5k)-eM/HbA-SH)=10(mol/mol))。
反応液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Superdex 200 p.g.)にかけ、未反応のポリオキサゾリンを除去した。
チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)溶液中のチオール濃度を定量した。一方、シアノメトヘモグロビン法(アルフレッサファーマ社、ネスコートヘモキットN、No.138016-14)により、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)溶液中のヘモグロビン濃度を定量した。前記チオール濃度を得られたヘモグロビン濃度で割ることにより、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)における、コアヘモグロビンに残存するチオール基数を算出した(約1個/Hb)。調製例1で算出したチオール基導入ヘモグロビン(HbA-SH)のチオール基数から、前記ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)のチオール基数を差し引くことにより、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)における、コアヘモグロビンに対するポリオキサゾリン結合数を算出した(約5本/HbA)。
【0070】
(実施例2)
-調製例1:チオール基導入ヘモグロビン(HbBv-SH)の調製-
実施例1における調製例1で、ヒトヘモグロビンの代わりに、ウシヘモグロビンを用いた以外は、実施例1における調製例1と同様な方法に従って、チオール基導入ヘモグロビン(HbBv-SH)を調製した。
【0071】
-調製例2:ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbBv)の調製-
実施例1における調製例3で、チオール基導入ヘモグロビンの代わりに、実施例2における調製例1で得たチオール基導入ヘモグロビンを用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbBv)を調製し、ポリオキサゾリン結合数を算出したところ、約6本/HbBvであった。
【0072】
(実施例3)
-調製例1:末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-aM)の調製-
末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-aM)を合成するために、以下の操作を行った。
【化44】
化学反応式(2)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(50mL容量)に、末端がアミノ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(平均分子量5,000Da、POx(5k)-NH
2、Sigma-ALDRICH社)50mg、及びN-succinimidyl 3-maleimidopropionate(SMP、富士フイルム和光純薬社)26.5mgを入れ、窒素通気を行った(N-succinimidyl 3-maleimidopropionate/ポリオキサゾリン(SMP/POx(5k)-NH
2)=10(mol/mol))。
そこに、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mL、及びトリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社)15μLを加え、25℃で18時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水2mLを加えよく撹拌し、遠心分離で沈殿を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)にかけ、未反応のN-succinimidyl 3-maleimidopropionate(SMP)を除去した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、
1H NMRによって構造を同定した。
【0073】
-調製例2:ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)の調製-
実施例1における調製例3で、末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)の代わりに、実施例3における調製例1で得た末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-aM)を用い、さらに実施例2における調製例1で得たチオール基導入ヘモグロビン(HbBv-SH)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)を調製した。ポリオキサゾリン結合数を算出したところ、約5本/HbBvであった。
【0074】
(実施例4)
-調製例1:末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量2,000Da、POx(2k)-aeM))の調製-
末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量2,000Da、POx(2k)-aeM)を合成するために、以下の操作を行った。
【化45】
化学反応式(3)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(50mL容量)に、末端がヒドロキシル基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(平均分子量2,000Da、POx(2k)-NHOH、Sigma-ALDRICH社)48mg、及び3-maleimidopropionic acidに塩化チオニルを反応させて調製した3-maleimidopropanoly chloride(MPC)45mgを入れ、窒素通気を行った(3-maleimidopropanoly chloride/ポリオキサゾリン(MPC/POx(2k)-NHOH)=10(mol/mol))。
そこに、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mL、及びトリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社)66μLを加え、25℃で18時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水3mLを加えよく撹拌し、遠心分離で沈殿を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)を用いて精製した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、
1H NMRによって構造を同定した。
【0075】
-調製例2:ポリオキサゾリン(平均分子量2,000Da)結合ヘモグロビン(POx(2k)-aeMS-HbBv)の調製-
実施例1における調製例3で、末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)の代わりに、実施例4における調製例1で得た末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量2,000Da、POx(2k)-aeM))を用い、さらに実施例2における調製例1で得たチオール基導入ヘモグロビン(HbBv-SH)を用いた以外は、実施例1における調製例3と同様な方法に従って、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(2k)-aeMS-HbBv)を調製した。ポリオキサゾリン結合数を算出したところ、約7本/HbBvであった。
【0076】
(実施例5)
-調製例1:ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)結合ヘモグロビン(POx(5k)-eM-HbBv)の調製-
ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)を結合したポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eM-HbBv)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(5mL容量)にウシヘモグロビン溶液(HbBv、500μM)500μLを入れ、実施例1における調製例2で得た末端マレイミド基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eM)7.8mgを加え、冷蔵遮光下で18時間撹拌した(末端マレイミド基ポリオキサゾリン/ヘモグロビン(POx(5k)-eM/HbBv)=5(mol/mol))。
反応液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Superdex 200 p.g.)にかけ、未反応のポリオキサゾリンを除去した。
チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eM-HbBv)溶液中のチオール濃度を定量した。一方、シアノメトヘモグロビン法(アルフレッサファーマ社、ネスコートヘモキットN、No.138016-14)により、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eM-HbBv)溶液中のヘモグロビン濃度を定量した。前記チオール濃度を得られたヘモグロビン濃度で割ることにより、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eM-HbBv)のチオール基数を算出した(0個/HbBv)。HbBvのチオール基数(2個/HbBv)から、前記ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eM-HbBv)のチオール基数を差し引くことにより、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eM-HbBv)における、コアヘモグロビンに対するポリオキサゾリンの結合数を算出した(2本/HbBv)。
【0077】
(実施例6)
-調製例1:マレイミド基導入ヘモグロビン(HbBv-M)の調製-
ウシヘモグロビン(HbBv)にマレイミド基を導入するために、以下の操作を行った。
サンプル瓶(5mL容量)にN-succinimidyl 3-Maleimidopropionate(SMP、富士フイルム和光純薬社)39.9mgを入れ、ジメチルスルホキシド1mLで溶解し、0.15MのSMP溶液を調製した。次に、1口ナスフラスコ(5mL容量)にウシヘモグロビン(1mM)1mLを入れ、SMP溶液を0.1mL(N-succinimidyl 3-Maleimidopropionate/ヘモグロビン(SMP/HbBv)=15(mol/mol))を加え、冷蔵、遮光下で30分撹拌した。フィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過した後、その溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Sephadex G-25 Superfine)にかけ、過剰のN-succinimidyl 3-Maleimidopropionateを除去した。
得られた溶液20mLを遠心濃縮器(Merck社、アミコンウルトラ-15、限外分子量10kDa)に入れ、遠心分離機(BECKMAN COULTER社、Allegra X-15R Centrifuge、条件:3,000rpm、10分間、4℃)を用いて、2.5mLまで濃縮した(0.4mM)。
【0078】
-調製例2:末端チオール基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-aSH)の調製-
末端チオール基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-aSH)を合成するために、以下の操作を行った。
【化46】
化学反応式(4)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(50mL容量)に、末端がアミノ基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(平均分子量5,000Da、POx(5k)-NH
2、Sigma-ALDRICH社)50mg、及びN-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate(SPDP、東京化成工業社)31mgを入れ、窒素通気を行った(N-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate/ポリオキサゾリン(SPDP/POx(5k)-NH
2)=10(mol/mol))。
そこに、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mLを加え、室温で15時間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水3mL、ジチオトレイトール(DTT、富士フイルム和光純薬社)31mgを加え、25℃で2時間撹拌した(ジチオトレイトール/ポリオキサゾリン(DTT/POx(5k)-NH
2)=20(mol)/mol))。遠心分離で沈殿を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、PD-10)にかけ、未反応物を除去した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、
1H NMRによって構造を同定した。チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、得られたポリオキサゾリン溶液中のチオール濃度を定量し、末端チオール基ポリオキサゾリン(POx(5k)-aSH)のチオール基の導入率を算出した。
【0079】
-調製例3:ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)結合ヘモグロビン(POx(5k)-aSM-HbBv)の調製-
ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)を結合したポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aSM-HbBv)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(5mL容量)に実施例6における調製例1で得たマレイミド基導入ヘモグロビン溶液(HbBv-M、400μM)0.5mLを入れ、実施例6における調製例2で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-aSH)17.5mgを加え、冷蔵遮光下で18時間撹拌した(末端チオール基ポリオキサゾリン/マレイミド基導入ヘモグロビン(POx(5k)-aSH)/HbBv-M=10(mol/mol))。
反応液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Superdex 200 p.g.)にかけ、未反応のポリオキサゾリンを除去した。ポリオキサゾリン結合数を算出したところ、約6本/HbBvであった。
【0080】
(実施例7)
-調製例1:末端チオール基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)の調製-
末端チオール基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)を合成するために、以下の操作を行った。
【化47】
化学反応式(5)中、nは反復単量体単位の数を表す。
2口ナスフラスコ(50mL容量)に、3,3'-Dithiodipropionic Acid(DTDPA、東京化成工業社)5.1mg、N,N'―Dicyclohexylcarbodiimide(DCC、東京化成工業社)10mg及び4-Dimethylaminopyridine(DMAP、東京化成工業社)3mgを入れ、窒素通気を行った後、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mLを加え、室温で5分間撹拌した。そこに、末端がヒドロキシル基であるポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(平均分子量5,000Da、POx(5k)-OH、Sigma-ALDRICH社)60.6mg、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬社)5mLを加え、室温で24間撹拌した。反応液の溶媒をロータリーエバポレーター(EYELA社)で留去し、純水2mL、ジチオトレイトール(DTT、富士フイルム和光純薬社)7.5mgを加え、25℃で2時間撹拌した(ジチオトレイトール/ポリオキサゾリン(DTT/POx(5k)-NH
2)=4(mol)/mol))。遠心分離で沈殿を除去後、上清をフィルター(Merck Milipore社、Millex-GP、0.22μm、PES)でろ過し、純水で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、PD-10)にかけ、未反応物を除去した。
得られた水溶液を液体窒素で凍結した後、真空下で凍結乾燥し、
1H NMRによって構造を同定した。チオール基とジスルフィド結合の交換反応を利用して、得られたポリオキサゾリン溶液中のチオール濃度を定量し、末端チオール基ポリオキサゾリン(POx(5k)-eSH)のチオール基の導入率を算出した。
【0081】
-調製例2:ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)結合ヘモグロビン(POx(5k)-eSM-HbBv)の調製-
ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da)を結合したポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eSM-HbBv)を調製するために、以下の操作を行った。
1口フラスコ(5mL容量)に実施例6における調製例1で得たマレイミド基導入ヘモグロビン溶液(HbBv-M、400μM)0.5mLを入れ、実施例7における調製例1で得た末端チオール基ポリオキサゾリン(平均分子量5,000Da、POx(5k)-eSH)28mgを加え、冷蔵遮光下で20時間撹拌した(末端チオール基ポリオキサゾリン/マレイミド基導入ヘモグロビン(POx(5k)-eSH)/HbBv-M=10(mol/mol))。
反応液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化したゲルろ過カラム(GEヘルスケア・ジャパン社、Superdex 200 p.g.)にかけ、未反応のポリオキサゾリンを除去した。ポリオキサゾリン結合数を算出したところ、約6本/HbBvであった。
【0082】
(動的光散乱(DLS)測定)
実施例1における調製例3で得たポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-Hb)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4)の動的光散乱(DLS)測定をゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子社、ELSZ-2000)を用いて行った。未修飾ヒトヘモグロビン(Hb)の平均粒径は6.3nmであった。ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-eMS-HbA)の平均粒径は12.0nmであった。ポリオキサゾリンがヘモグロビンに結合することで、分子サイズが増大することがわかった。なお、未修飾ウシヘモグロビンの平均粒径は6.4nmであった。
【0083】
(酸素親和性(P50)測定)
実施例3における調製例2で得たポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4)の一酸化炭素雰囲気下における紫外可視吸収スペクトルは、λmax:420nm、538nm、569nmを示し、ウシヘモグロビンの一酸化炭素化体(カルボニル体)のスペクトルパターンと一致したことから、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)のへモグロビン部位が一酸化炭素を結合していることがわかった。
このポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4)を1口ナスフラスコに入れ、セプタムラバーで密栓後、光照射しながら酸素を通気すると、紫外可視吸収スペクトルは、λmax:414nm、541nm、577nmを示し、ウシヘモグロビンの酸素化体(オキシ体)のスペクトルパターンと一致したことから、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)のへモグロビン部位が酸素を結合していることがわかった。
続いて、このポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4)に窒素を通気すると、紫外可視吸収スペクトルは、λmax:430nm、555nmを示し、ウシヘモグロビンの脱酸素化体(デオキシ体)のスペクトルパターンと一致したことから、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)のへモグロビン部位が脱酸素化していることがわかった。
再度、酸素を通気すると、オキシ体のスペクトルパターンとなったことから、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)が酸素を可逆的に吸脱着していることがわかった。
酸素解離結合曲線記録装置(TSC社、ヘモックスアナライザー)を用いて、異なる酸素分圧に対する紫外可視吸収スペクトル変化から、酸素親和性(P50)(酸素解離曲線グラフにおいて酸素結合率が50%の時の酸素分圧)を算出したところ、ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン(POx(5k)-aMS-HbBv)のP50は10Torr(37℃)であった。未修飾ヒトヘモグロビンのP50は12Torr、未修飾ウシヘモグロビンのP50は23Torrであり、本願実施例のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンは、未修飾ヘモグロビンと同等またはそれ以上の酸素親和性を有していた。
【0084】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンを有効成分とする人工酸素運搬体は、生体内に投与する場合も安全性の高い赤血球代替物として利用できる。対象は人間に限ることはなく、動物(イヌやネコ等のペット、家畜等)にも投与可能な人工酸素運搬体となる。加えて、本発明のポリオキサゾリン結合ヘモグロビンを有効成分とする人工酸素運搬体は、移植臓器又は組織の保存液や灌流液、再生組織の培養液、腫瘍の抗癌治療増感剤、術前血液希釈液、人工心肺等の体外循環回路の補填液、虚血部位への酸素供給液(心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全等)慢性貧血治療剤、液体換気の灌流液としての利用も期待できる。
【符号の説明】
【0086】
100 ポリオキサゾリン結合ヘモグロビン
10 ヘモグロビン
20 ポリオキサゾリン