(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
F25B 41/335 20210101AFI20231115BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
F25B41/335 C
F16K31/68 S
(21)【出願番号】P 2021071509
(22)【出願日】2021-04-21
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】久保田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】山口 智也
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-141335(JP,A)
【文献】実開平06-032973(JP,U)
【文献】特開2003-065634(JP,A)
【文献】特開2001-241812(JP,A)
【文献】特開2019-039579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 41/335
F16K 31/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を導入する流入路および当該冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、
前記弁室の内部に配置され、弁座に着座した閉弁状態と前記弁座から離間した開弁状態との間で前記弁座に対して進退動することにより前記冷媒の流量を変更する弁体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢する付勢部材と、
前記弁体に接触して前記付勢部材による付勢力に抗し前記弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、
前記作動棒に係合する作動棒受け部材を有し、当該作動棒受け部材を介して前記作動棒に前記付勢力に抗した駆動力を伝達する駆動装置と
を備えた膨張弁であって、
前記作動棒と前記弁体との間は、前記付勢力による押圧を受ける凸面同士で当接或いは係合している
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記弁体は、凸曲面を含み、
前記作動棒の先端面を凸曲面とし、
当該作動棒の先端面を前記弁体の凸曲面に接触させた
請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記作動棒の凸曲面は、球面である
請求項2に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記弁体は、凸曲面を含み、
前記作動棒の先端面を円錐面とし、
当該作動棒の先端面を前記弁体の凸曲面に接触させた
請求項1に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記作動棒受け部材と前記作動棒との間は、前記付勢力による押圧を受ける凸面同士で当接或いは係合している
請求項1に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記作動棒受け部材に係合する前記作動棒の基端面を凸曲面とするとともに、
前記作動棒受け部材に、先端面が凸曲面となった突起部を備え、
前記作動棒と前記突起部とを偏心させつつ、前記凸曲面となった作動棒の基端面と、前記凸曲面となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた
請求項
5に記載の膨張弁。
【請求項7】
前記作動棒の基端面、および、前記突起部の先端面のいずれか一方または双方が、球面である
請求項
6に記載の膨張弁。
【請求項8】
前記作動棒受け部材に係合する前記作動棒の基端面を円錐面とするとともに、
前記作動棒受け部材に、先端面が凸曲面となった突起部を備え、
前記作動棒と前記突起部とを偏心させつつ、前記円錐面となった作動棒の基端面と、前記凸曲面となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた
請求項
5に記載の膨張弁。
【請求項9】
前記作動棒受け部材に係合する前記作動棒の基端面を凸曲面とするとともに、
前記作動棒受け部材に、先端面が円錐面となった突起部を備え、
前記作動棒と前記突起部とを偏心させつつ、前記凸曲面となった作動棒の基端面と、前記円錐面となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた
請求項
5に記載の膨張弁。
【請求項10】
前記作動棒受け部材に係合する前記作動棒の基端面を円錐面とするとともに、
前記作動棒受け部材に、先端面が円錐面となった突起部を備え、
前記作動棒と前記突起部とを偏心させつつ、前記円錐面となった作動棒の基端面と、前記円錐面となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた
請求項
5に記載の膨張弁。
【請求項11】
前記凸曲面は、球面である
請求項
8または9に記載の膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁に係り、特に空調機などの冷凍サイクル装置に備えられる膨張弁の弁振動を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンのような冷凍サイクル装置では、エバポレータ(蒸発器)の能力を十分に引き出すために膨張弁が備えられる。この膨張弁は、エバポレータの出口側配管の冷媒温度に感応してエバポレータに供給される冷媒の流れを絞り、最適流量に制御するものである。
【0003】
一方、かかる膨張弁では、弁内を流れる冷媒によって弁振動が生じ、異音が発生することがある。このため、弁振動を抑制する技術の提案が従来からなされている(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の膨張弁では、特に弁の微小開度時にボール弁(球状の弁体)が不安定となりやすく、弁振動音が生じやすい。その原因やメカニズムについて詳細に検討したところ次のようなものであることが分かった。
【0006】
まず、弁の微小開度時に弁体が偏心することにより、弁体と弁座との間の流路開口内で流体圧と流量に偏りが生じ、これが原因となって弁体が不安定な状態となり、弁体が振動することとなる。
【0007】
次に、作動棒の振動の問題がある。駆動装置の駆動力を弁体に伝える作動棒は、駆動装置が配置された弁本体上面部から弁体が備えられた弁本体下部の弁室まで弁本体を貫通して延び、先端が弁体に接触している。また、弁本体を貫通する部分(作動棒挿通孔)では、作動棒の摺動動作を可能とするために図9に示すように弁本体12との間に一定のクリアランス(隙間)Sが設けられている。このため作動棒21は、弁振動発生時には弁本体12との間のクリアランスS内で弁体と一緒に振動し、この振動が異音発生の原因となることがある。
【0008】
一方、このような作動棒の振動を抑えるため、前記特許文献1に記載の発明では、作動棒の中間部に防振ばねを設け、作動棒を弁本体の内壁(作動棒挿通孔の内壁面)に押し付けることにより作動棒の制振を行っている。
【0009】
ところが、当該発明では防振のために新たな部材(防振ばね)を備える必要があることから、部品点数が増えるとともに膨張弁の組立工程数が増加する難がある。
【0010】
他方、弁室内に防振ばねを備え、弁体支持部材を介して弁体の振動を抑える提案も従来からなされている。
【0011】
しかしながら、このような方法でも別部材として防振ばねを備える必要がある点では上記特許文献記載の発明と同様であるうえ、防振ばねを設置するため弁室内の構造が複雑となり、膨張弁の組立作業が煩雑化する問題がある。さらに、弁室に備えた防振ばねは冷媒の流動抵抗となるとともに、防振ばねの形状や配置位置によっては防振ばね自体が振動して異音発生の原因となるおそれもあることから、冷媒の流路となる弁室には出来るだけ余分な部材を設けないことが望まれる。
【0012】
したがって、本発明の目的は、防振ばねのような別部材によらずとも弁振動音の発生を抑制できる新たな弁構造を得る点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決し目的を達成するため、本願発明はいずれも膨張弁に係るものであるが、第1の発明は、作動棒と弁体の接触構造(作動棒の先端構造)を特徴とするものであり、第2の発明は、作動棒と駆動装置(作動棒の基端部と駆動装置の作動棒受け部材)との係合構造を特徴とするものである。以下、各発明について説明する。
【0014】
〔第1の発明〕
本願の第1の発明に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路および冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され、弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒を駆動する駆動装置とを備えた膨張弁であって、弁体が凸曲面を含み、作動棒の先端面を凸曲面(弁体に向け突出する曲面)とし、当該作動棒の先端面を弁体の凸曲面に接触させた。
【0015】
弁振動が生じる原因の一つとして前述したように弁体の横ずれ(弁の開閉方向に交差する方向へ変位)が挙げられる。そこで、本願の第1の発明では、作動棒の先端面を凸曲面として弁体の凸曲面に接触させる。つまり、作動棒と弁体とが曲面同士で接触するようにする。
【0016】
このような接触構造によれば、弁体が横ずれしたときに横方向(弁の開閉方向に交差する方向)への力(荷重)が作動棒にかかることとなるから(後述の
図3の符号F1参照)、弁本体(例えば駆動装置が固定される弁本体の駆動装置設置部と弁室との間に形成され作動棒を挿通させる作動棒挿通孔の内面)に作動棒が押し付けられ、これにより防振ばねを備えなくても作動棒の振動を抑制することが可能となる。
【0017】
なお、上記作動棒および弁体に関する「凸曲面」とは、典型的には球面であるが、必ずしも球面に限られない。例えば放物面など球面以外の凸状の曲面によっても本発明の目的を達成できることから、「凸曲面」とは当該凸状の曲面を広く含む概念である。また、弁体は、典型的には後述する実施形態のように球体である(球状の形状を有する)が、必ずしも球体に限られず、弁体の全体的な形状(作動棒との接触部分以外の部分の形状)は特に問わない。凸曲面を少なくとも一部に含んでいれば、つまり作動棒と接触する部分が凸曲面となっていれば、本発明の目的を達成することが出来るからである。
【0018】
また同様の作用効果を得ることが可能な一態様として、上記第1の発明の第1の態様に係る膨張弁は、作動棒の先端面を円錐面とするものである。
【0019】
具体的には、当該第1の態様に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路および冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒を駆動する駆動装置とを備えた膨張弁であって、弁体が凸曲面を含み、作動棒の先端面を円錐面(弁体に向け突出する円錐面)とし、当該先端面を弁体の凸曲面に接触させた。
【0020】
なお、上記「円錐形」とは、頂点が尖った厳密な円錐だけを意味するものではなく、例えば頂上(頂点)がドーム状に丸く湾曲した曲面であっても同様の目的を達成することが出来るから、上記「円錐形」はこのような形状(先端が丸くなった円錐形)をも含む概念である。
【0021】
〔第2の発明〕
本願の第2の発明は、作動棒の基端部と駆動装置(作動棒受け部材)の係合構造で、前記第1の発明と同様に曲面同士を接触させることにより作動棒に横方向荷重を生じさせるものであるが、弁体の横ずれの有無に拘らず当該荷重(後述の図5の符号F2参照)を生じさせることが出来る。
【0022】
具体的には、本願の第2の発明に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路および冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒に係合する作動棒受け部材を有し当該作動棒受け部材を介して作動棒に駆動力を伝達する駆動装置とを備えた膨張弁であって、作動棒受け部材に係合する作動棒の基端面を凸曲面とするとともに、作動棒受け部材に先端面が凸曲面となった突起部を備え、作動棒と突起部とを偏心させつつ、凸曲面(突起部に向け突出した曲面)となった作動棒の基端面と、凸曲面(作動棒に向け突出した曲面)となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた。
【0023】
この第2の発明では、駆動装置から作動棒への駆動力の伝達は作動棒受け部材を介して行われるが、この作動棒受け部材に先端面が凸曲面となった突起部を備えるとともに、作動棒の基端面(弁体に接触する先端面とは反対側の端面)を凸曲面とする。そして、両者(作動棒と突起部)を偏心させた状態で両凸曲面(突起部と作動棒基端面)を突き合わせるように接触させることで曲面同士の接触を形成する。
【0024】
なお、上記「偏心」とは、突起部先端部の凸曲面の頂点と、作動棒基端部の凸曲面の頂点とが水平方向(突起部の軸線および作動棒の軸線に直交する方向)にずれていることを言う。例えば、突起部の中心軸(軸線)と作動棒の中心軸(軸線)が一致することなく平行になるように突起部(作動棒受け部材)と作動棒とを配置すれば良い。また「凸曲面」の意味は、前記第1の発明と同様である(後述の第2の発明の各態様についても同様)。
【0025】
このような構造によれば、弁体の横ずれの有無に拘らず常に作動棒に横方向荷重がかかることとなり、制振を行うことが出来る。
【0026】
また、この第2の発明においても作動棒の基端部と作動棒受け部材の突起部について前記第1の発明と同様に、凸曲面に代えて円錐面とし、あるいは球状部材を固定することにより球面を備えるようにすることが可能である。以下、これらの態様である。なお、各態様における「偏心」の意味は第2の発明において説明したとおりであり、「円錐面」の意味は前記第1の発明において説明したとおりである。
【0027】
第2の発明の第1の態様に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路および冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒に係合する作動棒受け部材を有し当該作動棒受け部材を介して作動棒に駆動力を伝達する駆動装置とを備えた膨張弁であって、作動棒受け部材に係合する作動棒の基端面を円錐面とするとともに、作動棒受け部材に、先端面が凸曲面となった突起部を備え、作動棒と突起部とを偏心させつつ、円錐面となった作動棒の基端面と、凸曲面となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた。
【0028】
第2の発明の第2の態様に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路および冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒に係合する作動棒受け部材を有し当該作動棒受け部材を介して作動棒に駆動力を伝達する駆動装置とを備えた膨張弁であって、作動棒受け部材に係合する作動棒の基端面を凸曲面とするとともに、作動棒受け部材に、先端面が円錐面となった突起部を備え、作動棒と突起部とを偏心させつつ、凸曲面となった作動棒の基端面と、円錐面となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた。
【0029】
第2の発明の第3の態様に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路および冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒に係合する作動棒受け部材を有し当該作動棒受け部材を介して作動棒に駆動力を伝達する駆動装置とを備えた膨張弁であって、作動棒受け部材に係合する作動棒の基端面を円錐面とするとともに、作動棒受け部材に先端面が円錐面となった突起部を備え、作動棒と突起部とを偏心させつつ、円錐面となった作動棒の基端面と、円錐面となった突起部の先端面とを突き合わせるように接触させた。
【0030】
以上の第1の発明と第2の発明とを纏めると、本発明に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路および冷媒を排出する流出路に連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され、弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒に係合する作動棒受け部材を有し、当該作動棒受け部材を介して作動棒に付勢力に抗した駆動力を伝達する駆動装置と、を備えた膨張弁であって、作動棒と弁体との間は、前記付勢力による押圧を受ける凸面同士で当接或いは係合しているものである。そして、本発明の膨張弁としては、第1の発明のみを適用したもののほか、第1の発明と第2の発明の双方を適用したものが挙げられる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、防振ばねのような別部材によらずとも弁振動音の発生を抑制することが出来る。
【0032】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基いて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る膨張弁(開弁状態)を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、前記第1実施形態に係る膨張弁(閉弁状態)の弁体配置部(
図1の符号B部分)を拡大して示す図である。
【
図3】
図3は、前記第1実施形態に係る膨張弁(開弁状態)において弁体が横ずれした状態を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る膨張弁(閉弁状態)の弁体配置部を前記
図2と同様に示す図である。
【
図5】図
5は、本発明の第
3の実施形態に係る膨張弁の上部(駆動装置と作動棒の係合部)を拡大して示す縦断面図である。
【
図6】図
6は、本発明の第
4の実施形態に係る膨張弁の上部(駆動装置と作動棒の係合部)を前記図
5と同様に示す図である。
【
図7】図
7は、本発明の第
5の実施形態に係る膨張弁の上部(駆動装置と作動棒の係合部)を前記図
5と同様に示す図である。
【
図8】図
8は、本発明の第
6の実施形態に係る膨張弁の上部(駆動装置と作動棒の係合部)を前記図
5と同様に示す図である。
【
図9】図
9は、膨張弁おける作動棒と弁本体との関係(作動棒挿通孔部分)を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〔第1実施形態〕
図1から
図3を参照して本発明の第1の実施形態に係る膨張弁について説明する。なお、
図1には前後および左右方向を表す互いに直交する二次元座標を示してあるが、以下の説明はこれらの方向に基いて行う。
【0035】
図1および
図2に示すように本発明の第1の実施形態に係る膨張弁11は、冷媒を導入する流入路13と冷媒を排出する流出路14とに連通する弁室16を有する弁本体12と、弁室16内に備えられた弁座17に着座した閉弁状態と弁座17から離間した開弁状態との間で弁座17に対して進退動(上下動)することにより冷媒の流量を変更する球状の(球体である)弁体18と、弁体支持部材19を介して弁体18を弁座17に向け付勢し弁体18を作動棒21の下端面21aに押し付ける付勢部材(圧縮コイルばね)20と、付勢部材20による付勢力に抗して弁体18を開弁方向(下方)へ移動させる作動棒21と、弁本体上面部の駆動装置設置部12aに固定されて作動棒21を介して弁体18を駆動するダイアフラム装置24と、弁本体12の上部を貫通して冷媒の通過を許容する戻り流路15とを備えている。
【0036】
作動棒21は、弁本体12の内部に垂直方向(上下方向)に延びるように配置し、その上端部(基端部)を作動棒受け部材28を介してダイアフラム装置24内のダイアフラム27に接続する。一方、作動棒21の下端面(先端面)21aは、球面(弁体18に向け突出した球面状の曲面)とし、この球状の下端面21aを弁体18に当接させてある。なお、この作動棒21と弁体18との接触関係と機能については後に詳しく述べる。
【0037】
また、作動棒21の中間部は、弁本体12に形成した作動棒挿通孔22を通過するとともに、当該作動棒21の中間部と弁本体12(作動棒挿通孔22の内壁面)との間には、作動棒21の上下動を可能とするため、一定のクリアランスS(
図1では図示していない/図
9参照)を形成してある。さらに本実施形態では、防振機能をより一層高めるために作動棒21の中間部に当接する防振ばね41(前記特許文献1に開示したものである)を備えたが、当該防振ばね41は本発明にとっては必須のものではない。
【0038】
戻り流路15は、弁本体12の上部を水平に(左右方向に)貫通し、エバポレータ(図示せず)からコンプレッサ(図示せず)へ送られる冷媒が当該流路15を通過する。また、流入路13にはコンデンサ(図示せず)から送られる冷媒が流入し、この冷媒は弁室16およびのど部23を通って流出路14からエバポレータ(図示せず)へ送出される。
【0039】
ダイアフラム装置24は、当該装置24の筐体として皿状の下部筐体25と、下部筐体25の上面を覆う蓋状の上部筐体26とを有し、下部筐体25と上部筐体26との間にダイアフラム27を挟持させてある。そして、ダイアフラム27の上側(ダイアフラム27と上部筐体26との間)の内部空間を、作動流体(例えば作動ガス)を封入する作動流体封入室30とする。また、ダイアフラム27の下側(ダイアフラム27と下部筐体25との間)の内部空間を、冷媒を導入する冷媒導入室29とする。
【0040】
さらに、下部筐体25の底面中心部には冷媒導入室29と戻り流路15とを連通させる開口31を備える。したがって、戻り流路15を流れる冷媒が当該開口31を通して冷媒導入室29に流入し、この冷媒(エバポレータから流出する冷媒)の温度と圧力に従って作動流体封入室30内の作動流体の圧力と体積が変化する。
【0041】
そして、作動流体封入室30内の作動流体の圧力が減少すると、冷媒導入室29の圧力との差に応じてダイアフラム27が上方へ引き上げられ、作動棒21がダイアフラム27に従動して上方に移動することによって弁体18が弁座17に向け進行し冷媒流量が絞られる。逆に、作動流体の圧力が上昇すると、冷媒導入室29の圧力との差に応じてダイアフラム27が下方へ押し下げられ、作動棒21がダイアフラム27に従動して下方に移動することによって弁体18が弁座17から後退し冷媒流量が増加する。このようにして膨張弁11では、エバポレータから膨張弁11に戻る冷媒の温度と圧力に対応して、膨張弁11からエバポレータに供給される冷媒の量が調整される。
【0042】
ここで、特に弁の開度が小さいときに弁体18が横ずれして弁振動が生じ、弁体18と一緒に作動棒21も振動することは既に述べたとおりである。そこで、本実施形態では、作動棒21と弁体18とが球面同士で接触するように、すなわち作動棒21の下端面21aを球面として当該下端面21aを球状の弁体18に接触させるようにした。
【0043】
したがって本実施形態によれば、
図3に示すように弁体18の横ずれに伴い、作動棒21(球面状の下端面21a)の中心軸線A1(下端面21aの頂点)に対して弁体18の中心軸線A3が左右方向(
図3では左方)にずれると(比較のため
図2も参照)、弁体18は付勢部材20によって作動棒21の下端面21aに常に押し付けられているから、この押圧力が水平方向に変換されることとなり、
図3に符号F1で示すような横方向荷重が作動棒21に働く。これにより、作動棒21の中間部が作動棒挿通孔22(
図1参照)の内壁面に押し付けられ、作動棒21の振動が抑制される。また作動棒21の振動が抑制されることで、作動棒21の下端面21aに押し付けられている弁体18の振動も抑制される。
【0044】
従来の膨張弁では、作動棒21の下端面が平坦な面となっているため、弁体18が横ずれしても上記のような横方向荷重F1が生じることはなかった。これに対し、作動棒21と弁体18について球面同士の接触構造を備えた本実施形態の膨張弁11によれば、上記横方向荷重F1を生じさせることができ、防振ばねによらずに弁振動を抑制することが可能となる。
【0045】
またこのような制振機能は、下記第2~第3の実施形態によっても実現することが可能である。
【0046】
〔第2実施形態〕
図4は本発明の第2の実施形態に係る膨張弁の弁体18と作動棒21の接触構造を示すものであるが、同図に示すようにこの実施形態は、作動棒21の下端面21bを円錐面(弁体18に向け突出した円錐面)とし、当該下端面21bを球状の弁体18に接触させたものである。
【0047】
このような接触構造によっても、弁体18が横ずれすると、傾斜した円錐面21bが球面となった弁体18の表面に当接することとなるから、前記第1実施形態と同様に横方向荷重F1を生じさせることができ、作動棒21を弁本体12(作動棒挿通孔22の内壁面)に押し付けて振動を抑制することが出来る。
【0048】
以上の第1および第2の実施形態は、本発明の前記第1の発明を具体化したものであるが、本発明の前記第2の発明を具体化した以下に述べる第3から第6の実施形態によっても同様に作動棒21に横方向荷重を生じさせて制振を行うことが出来る。なお、以下の第3から第6の実施形態は、作動棒21とダイアフラム装置24との係合構造に係るものである。
【0049】
〔第3実施形態〕
図5は本発明の第3の実施形態に係る膨張弁の作動棒21とダイアフラム装置24との係合部を示すもので、同図に示すようにこの実施形態では、作動棒21の上端面(基端面)21dを球面(作動棒受け部材28に向け突出した球状の曲面)に加工するとともに、ダイアフラム装置24の作動棒受け部材28の下面に、下方へ突出し且つ下端が球面(作動棒21に向け突出した球状の曲面)となった突起部28aを備える。この突起部28aは、下端を球面とし、その中心軸線A2を作動棒21の中心軸線A1から水平方向(この例では左方)にずらしてある。つまり、突起部28aの中心軸線A2と作動棒21の中心軸線A1とが一致することなく互いに平行になるようにすることにより、作動棒21に対して突起部28aを偏心させてある。
【0050】
そして、この偏心させた突起部28aと、作動棒21の上端面21dとを突き合わせるように接触させることにより、作動棒受け部材28を介したダイアフラム装置24の下方への駆動力を、突起部28aから作動棒21へ伝達できるようにした。
【0051】
したがって本実施形態によれば、上記のような偏心した球面同士21d,28aの接触構造を有するとともに、付勢部材20(
図1参照)の上方への付勢力を弁体18を介して受けている作動棒21はその上端が作動棒受け部材28の突起部28aに常に押し付けられているから、この押圧力が水平方向に変換され、横方向荷重F2が作動棒21に働くこととなる。このため、作動棒21の中間部が作動棒挿通孔22(
図1参照)の内壁面に押し付けられ、作動棒21の振動が抑制される。また作動棒21の振動が抑制されることで、作動棒21の下端に押し付けられている弁体18の振動も抑制される。
【0052】
またこのような横方向荷重F2を作動棒21に生じさせることによる制振機能は、下記の第4および第5の実施形態によっても実現することが可能である。
【0053】
〔第4実施形態〕
図6は本発明の第4の実施形態に係る膨張弁の作動棒受け部材28と作動棒21との係合構造を示すものである。前記第3実施形態では作動棒21の上端面を球面21dとしたが、これに代え、本実施形態では円錐面21e(作動棒受け部材28に向け突出した円錐面)とした。なお、前記第3実施形態と同様に本実施形態においても、突起部28aは作動棒21に対して偏心するように備えてある。
【0054】
本実施形態では、傾斜した円錐面21eが作動棒受け部材28の突起部28aに当接することとなるから、付勢部材20による上方への押圧力が水平方向への力に変換され、作動棒21に同様の横方向荷重F2を生じさせることが出来る。
【0055】
〔第5実施形態〕
図7は本発明の第5の実施形態に係る膨張弁の作動棒受け部材28と作動棒21との係合構造を示すものである。前記第3実施形態では下端面が球面となった突起部28aを作動棒受け部材28に備えたが、これに代え、本実施形態では下端面が円錐面(作動棒21に向け突出する円錐面)となった突起部28cを備えた。なお、前記第3実施形態と同様に本実施形態においても、突起部28cは作動棒21に対して偏心するように備えてある。
【0056】
本実施形態では、突起部28cの傾斜した円錐面に作動棒21が当接することとなるから、付勢部材20による上方への押圧力が水平方向への力に変換され、作動棒21に横方向荷重F2を生じさせることが出来る。
【0057】
〔第6実施形態〕
図8は本発明の第6の実施形態に係る膨張弁の作動棒受け部材28と作動棒21との係合構造を示すもので、同図に示すように本実施形態では、作動棒21側(作動棒21の上端面21e)と作動棒受け部材28側(突起部28cの下端面)の双方に円錐面(作動棒21側は作動棒受け部材28に向け突出する円錐面であり、作動棒受け部材28側は作動棒21に向け突出する円錐面である)を形成し、これら円錐面となった作動棒上端面21eと突起部28cの下端面とを偏心させつつ当接させた。言い換えれば、突起部28cの頂点と作動棒上端面21eの頂点とが接触することなく水平方向にずれるように突起部28cと作動棒21とを接触させた。
【0058】
本実施形態は、円錐面同士を接触させた構造であるが、このような接触構造によっても傾斜した面同士を接触させることで横方向へ力F2を生じさせることが可能となるから、前記第3から第5実施形態と同様に作動棒21を作動棒挿通孔22の内壁面に押し付けて制振を行うことが出来る。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0060】
例えば、前記第1実施形態において作動棒21の中間部に備えた防振ばね41が本発明にとって必須ではないことは既に述べたとおりであるが、本発明では、例えば防振機能をより一層高めるために本発明に係る制振構造に加えて第1実施形態で備えた防振ばね41(前記特許文献1記載のもの)や他の防振ばね、あるいは弁室16の内部に備える防振ばねを使用することも可能であり、そのような防振ばねの併用を本発明は禁止するものではない。
【0061】
また、本発明に係る膨張弁は、カーエアコンに好ましく適用して車両室内の静粛性の向上に寄与することが出来るものであるが、用途や適用対象はカーエアコンに限られず、ルームエアコンや冷蔵庫・冷凍機など他の様々な冷凍サイクル装置に使用される膨張弁に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
A1 作動棒の中心軸線
A2 作動棒受け部材側(突起部、又は、作動棒受け部材に固定した球状部材)の中心軸線
A3 横ずれした弁体の中心軸線
F1,F2 横方向荷重
R1,R2 冷媒の流れ
S 作動棒と弁本体(作動棒挿通孔の内壁面)との間のクリアランス
11 膨張弁
12 弁本体
12a 駆動装置設置部
13 流入路
14 流出路
15 戻り流路
16 弁室
17 弁座
18 弁体
19 弁体支持部材
20 付勢部材(圧縮コイルばね)
21 作動棒
21a 作動棒の下端面(球面)
21b 作動棒の下端面(円錐面)
21c,21f,28b 凹部
21d 作動棒の上端面(球面)
21e 作動棒の上端面(円錐面)
22 作動棒挿通孔
23 のど部
24 ダイアフラム装置
25 下部筐体
26 上部筐体
27 ダイアフラム
28 作動棒受け部材
28a 球面状の下端面を備えた突起部
28c 円錐面状の下端面を備えた突起部
29 冷媒導入室
30 作動流体封入室
31 開口
41 防振ばね