(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】アボカドオイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 1/06 20060101AFI20231115BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C11B1/06
A23D9/00
(21)【出願番号】P 2022029821
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2023-05-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522078679
【氏名又は名称】トレ食株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】沖村 智
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-500340(JP,A)
【文献】特開2002-105017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
A23D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が1以下、且つ過酸化物価(meq/kg)が1以下であることを特徴とするアボカドオイル。
【請求項2】
ヨウ素価が85を超えることを特徴とする請求項1に記載のアボカドオイル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアボカドオイルの製造方法であって、
アボカド果実から皮および種を除去した果肉を、密閉可能な反応装置に投入する投入工程と、
前記反応装置内の前記果肉を減圧し、60℃以下の温度で前記果肉の水分を揮発させて脱水する脱水工程と、
前記脱水工程で脱水した前記果肉を圧搾してアボカドオイルを生成する搾油工程と、
を備えたことを特徴とするアボカドオイルの製造方法。
【請求項4】
前記脱水工程における前記反応装置内の圧力は、12kPa以下である
ことを特徴とする請求項3に記載のアボカドオイルの製造方法。
【請求項5】
前記脱水工程における前記反応装置の温度の調節は、温水を用いて当該反応装置の外表面の温度を調節することにより行われる
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のアボカドオイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アボカドオイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油脂製造方法が知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アボカドオイルは、その栄養価の高さなどから、食品用途を中心に需要が高まっている。なお、アボカドオイルは、酸化や加水分解が進むなど、劣化が進行すると風味などが損なわれてしまうので、劣化の度合いの低いオイルに対するニーズが高い。従って、製造時に油の劣化を抑制するための製造方法が重要となる。
【0005】
特許文献1には、反応容器内に投入したアボカド果肉に水蒸気を高圧・高温で注入してアボカド果肉を処理し、減圧後に無酸素状態でアボカドオイルの抽出が行われる旨が開示されている。しかし、特許文献1では生成したアボカドオイルの品質についての開示は見られず、特に、特許文献1の技術では、高温(90~200℃)で原料の処理が行われるため、温度の影響によりアボカドオイルの劣化が進んでしまうことが懸念される。
【0006】
そこで本発明では、上記の課題に鑑み、劣化の度合いが低いアボカドオイル、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のアボカドオイルは、酸価が1以下、且つ過酸化物価(meq/kg)が1以下であることを特徴とする。
【0008】
ここで、酸価及び過酸化物価は、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)に準じて測定されるものである。酸価の値はオイルの加水分解の進行度合いを、過酸化物価の値はオイルの酸化の度合いをそれぞれ表す、オイルの劣化状態の指標である。
【0009】
本発明のアボカドオイルは、酸価が1以下、且つ過酸化物価(meq/kg)が1以下であるので、オイルの劣化の度合いが低い。このように、本発明によれば、劣化の度合いが低いアボカドオイルを提供できる。
【0010】
そして、好ましくは、本発明のアボカドオイルは、ヨウ素価が85を超えることを特徴とする。
【0011】
ここで、ヨウ素価はJIS K 0070-1992に準じて測定されるものである。ヨウ素価の値は、不飽和脂肪酸の含量が多いことを示しており、不飽和脂肪酸の含量が多いと、LDLコレステロールの抑制や過酸化脂質の発生を予防する効果が期待できるという利点がある。
【0012】
また、本発明のアボカドオイルの製造方法は、
アボカド果実から皮および種を除去した果肉を、密閉可能な反応装置に投入する投入工程と、
前記反応装置内の前記果肉を減圧し、60℃以下の温度で前記果肉の水分を揮発させて脱水する脱水工程と、
前記脱水工程で脱水した前記果肉を圧搾してアボカドオイルを生成する搾油工程と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、密閉可能な反応装置内を減圧しつつ、原料の処理を行うため、アボカド果肉は酸素に触れる機会を低減することができるので、オイルが酸素に触れて酸化が進むことを抑制できる。
【0014】
また、反応装置内の温度を60℃以下とすることで、アボカドオイルを搾油する工程において、効率よくアボカドオイルを抽出することができるとともに、温度の影響によるオイルの劣化も抑制できる。なお、この温度は、反応装置内壁に設けた温度測定手段により測定されるものである。
【0015】
これにより、上述した本発明のアボカドオイルを効果的に製造することができる。
【0016】
このように、本発明によれば、劣化の度合いが低いアボカドオイルの製造方法を提供できる。
【0017】
そして、上記の脱水工程における反応装置内の圧力は、12kPa以下であることが好ましい。なお、この圧力は、反応装置に設けた圧力測定手段により測定されるものである。
【0018】
このような圧力下でアボカド果肉を脱水させることにより、アボカド果肉が酸素に触れる機会を効果的に低減することができる。
【0019】
また、上記の脱水工程における反応装置の温度の調節は、温水を用いて当該反応装置の外表面の温度を調節することにより行われることが好ましい。
【0020】
温水を用いて当該反応装置の外表面の温度を調節することにより反応装置の温度調節を行うことで、60℃以下の温度の所定の温度に精密に制御することができ、より好ましい脱水状態が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のアボカドオイルの製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明のアボカドオイルの酸化状態について説明する。
【0023】
本発明のアボカドオイルは酸価が1以下、且つ過酸化物価(meq/kg)が1以下であり、好ましくは、ヨウ素価が85を超える。
【0024】
米国油化学協会推奨のバージンアボカドオイルの諸特性としては、酸価は2.0以下、過酸化物価(meq/kg)は8.0以下が基準とされており、エクストラバージンアボカドオイルについては、酸価は1.0以下、過酸化物価(meq/kg)は4.0以下が基準とされている。
【0025】
本発明のアボカドオイルは酸価が1以下、且つ過酸化物価(meq/kg)が1以下であるから、上記のうちエクストラバージンアボカドオイルの基準を満たして、過酸化物価(meq/kg)は十分低い値を示し、良好な酸化の度合い、即ち、アボカドオイルの酸化があまり進んでいないことを示している。
【0026】
また、ヨウ素価は65~85の範囲が好ましいとされているが、本発明のアボカドオイルは好ましくはヨウ素価が85を超えている。ヨウ素価の高さは、不飽和脂肪酸の含量が多いことを示しており、不飽和脂肪酸の含量が多いと、栄養価が高く健康志向に合致しているという利点がある。
【0027】
次に、本発明のアボカドオイルの製造方法について説明する。
【0028】
図1は本発明のアボカドオイルの製造工程を示すフローチャートである。
【0029】
本発明のアボカドオイルの製造工程では、先ず、入荷したアボカド果実を水流中で洗浄する。この際、必要に応じ、洗浄したアボカド果実を冷凍保存する。
【0030】
次に、洗浄したアボカド果実から種子と外皮を外す。このアボカド果実から種子と外皮を外す際の工法、治具等については、公知の方法、治具を用いればよい。以上が前処理工程S11である。
【0031】
前処理工程S11により得られたアボカド果肉を密閉可能な反応装置に投入する:投入工程S13。
【0032】
この反応装置は、その内部を減圧可能に構成されており、更にアボカド果肉を処理する部分には、その外部から加熱装置により加熱して反応装置内の温度を調節できる構成となっている。その加熱方式としては、水蒸気を供給する水蒸気加熱も可能であるが、本発明のアボカドオイルの製造工程においては、温水(100℃未満)を流通させる温水加熱が好ましく用いられる。
【0033】
すなわち例えば、温水を用いて反応装置の外表面を温めつつ、反応装置の加熱装置により温度を調節することで、反応装置内の温度を後述する温度範囲に精密に制御できるため、より好ましい脱水状態が達成される。また、アボカド果肉を処理する部分には、必要に応じ、撹拌・裁断手段が設けられていてもよい。
【0034】
アボカド果肉が投入された反応装置に備えた真空装置を稼働させ、上記した温水加熱などにより加熱を行うことで、アボカド果肉の水分を揮発により除去する:脱水工程S15。この際、反応装置内の温度が60℃を上回らないように加熱装置を制御する。
【0035】
反応装置内の温度は60℃以下が好ましく、30~50℃がより好ましい。この温度範囲で脱水することにより、続く搾油工程S17で効率よくアボカドオイルを抽出することができる。
【0036】
脱水工程S15では、反応装置内の圧力は12kPa以下とすることが好ましい。圧力の下限は特に限定されないが5kPa程度にまで減圧すればよい。反応装置内の圧力は反応装置サイズ、真空装置性能、投入するアボカド果肉の量などに依存する。
【0037】
また、ここで用いる真空装置は、ロータリーポンプなどの機械式の装置や、アスピレータなどの水流を用いる装置など適宜選択すればよい。
【0038】
脱水工程S15では、水分を除去したアボカド果肉に残った水分量が1.5~10wt%となるように反応装置内の圧力、温度及び処理時間を選択する。
【0039】
また、このとき除去された水分は反応装置と真空装置との間に設けられた凝縮手段で回収することができ、この水分はアボカド臭を有することから、フレーバーウオーターとして用いることもできる。このフレーバーウオーターには数種のポリフェノールが含有されている。また、ここで用いる凝縮手段も公知の機器から適宜選択すればよい。
【0040】
脱水工程S15を経たアボカド果肉には、固形分と油分、少量の水分が含まれる。この脱水アボカド果肉を、反応装置内で、あるいは別の装置に移して圧搾することでアボカドオイルを生成する:搾油工程S17。ここでの圧搾方法も公知の方法から適宜選択することができる。
【0041】
上記の条件で製造した脱水アボカド果肉は、加熱することなく、容易に圧搾により搾油することができる。そして、搾油工程S17で得られるアボカドオイルの残留水分は0.1wt%以下とすることができる。
【0042】
なお、搾油工程についても、密閉可能な空間内で、減圧下などの低酸素状態にて行なわれることが好ましい。これにより、オイルが酸素に触れて酸化が進むことをより効果的に抑制できる。
【0043】
以下、本発明の一実施例について説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0044】
<実施例>
(実施例)
原料であるアボカド果実40kgを水流にて洗浄し、種子と外皮を外してアボカド果肉22.6kgを得た。この原料の水分量は70.8wt%であった。
【0045】
このアボカド果肉を反応装置である真空乾燥機に投入し、温水加熱により反応装置内の温度を40~50℃、また、真空装置により圧力を7~8kPaに維持しながら7時間乾燥させた。
【0046】
この際得られた水分は15.75Lであり、脱水工程を経たアボカド果肉の重量は6.85kg、その水分量は3.7wt%であった。このアボカド果肉を圧搾することで1.85kgのアボカドオイルを得た。
【0047】
このアボカドオイルについて、上記した方法を用いて酸価、過酸化物価、及びヨウ素価を測定したところ、酸価:0.79、過酸化物価:0.80、ヨウ素価:87.3が得られた。
【0048】
なおこのアボカドオイルについて含有する主な脂肪酸を分析したところ、オレイン酸:59%、パルチミン酸:17%、リノール酸:16%などを含有しており、これらは市販のアボカドオイルと同等の数値であった。
【0049】
(比較例)
市販のアボカドオイル(アボカドペーストを遠心分離し、その後圧搾したものと思われる)について実施例と同様に酸価、過酸化物価、及びヨウ素価を測定したところ、酸価:1.99、過酸化物価:3.00、ヨウ素価:80.6が得られた。
【0050】
これらは、上記したバージンアボカドオイルの基準には一応適合しているが、エクストラバージンアボカドオイルの基準からは酸価が外れている。
【0051】
以上のように、本発明のアボカドオイルは優れた酸化状態を示しており、劣化の度合いが低い。また、本発明のアボカドオイルの製造方法では、アボカド果実から、直接的、且つ簡易な工程で酸化状態に優れ、劣化の度合いが低いアボカドオイルを得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
S11・・・前処理工程、S13・・・投入工程、S15・・・脱水工程、S17・・・搾油工程