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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 307
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019196636
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021070177
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】細江 祐規
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124250(JP,A)
【文献】特開2016-168679(JP,A)
【文献】特開2016-150490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を搬送面に保持して搬送する搬送部と、
前記搬送面に保持された前記印刷媒体にインクを吐出して印字するインクジェットヘッドと、
前記搬送面に対向するヘッド保持板に前記インクジェットヘッドを保持するヘッドホルダと、
を備えたインクジェット印刷装置において、
前記ヘッド保持板を貫通し、前記インクジェットヘッドが挿入されて前記インクジェットヘッドとの間が封止されるヘッド保持開口と、
前記ヘッド保持開口から間隔を空けて前記ヘッド保持板に形成され、前記ヘッドホルダ内の第1の空間と前記搬送面の間の第2の空間とを連通させる連通部と、
前記ヘッドホルダ内で前記インクジェットヘッドに冷却風を送る冷却手段と、
前記第1の空間に設けられ、前記冷却風が通る通路と前記連通部との間の少なくとも一部を遮る遮蔽部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記搬送部により前記印刷媒体を搬送する副走査方向で前記インクジェットヘッド及び前記ヘッド保持開口の両側に前記連通部が設けられ、
前記遮蔽部は、前記副走査方向で両側の前記連通部と前記インクジェットヘッド及び前記ヘッド保持開口との間に位置する少なくとも一対の壁部を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記遮蔽部は、前記一対の壁部の上端を接続する上壁を有し、
前記冷却風が通る通路は、前記遮蔽部と前記ヘッド保持板とで囲まれる閉鎖断面であることを特徴とする請求項2記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記ヘッドホルダは、前記第1の空間の側部を構成する側板を備え、
前記側板に、前記冷却手段を構成する送風部及び吸引部に通じる通風孔が形成され、前記遮蔽部の端部と前記側板との間に隙間があり、
前記通風孔に接続し、前記隙間を横断して前記冷却風が通る通路に挿入されるダクトを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホルダに固定されたインクジェットヘッドからインクを吐出して印刷するライン型のインクジェット印刷装置が知られている。インクジェットヘッドからのインク吐出時には、画像形成に使用されるインクの主滴の他に霧状のインクミストが生じる。
【0003】
このとき、発生したインクミストを用紙などの印刷媒体に着弾させないように搬送面上の印刷媒体を吸着保持しながら搬送する吸引搬送機構が広く用いられている。インクミストの吸引と搬送面への印刷媒体の吸着を行うことで、インクミストによる汚れを低減しつつ、インクジェットヘッドと印刷媒体との距離が一定に保たれ、高品質な印刷を実現できる。
【0004】
吸引搬送機構は、多数の吸引孔を設けた搬送ベルトと、搬送ベルトの搬送面の下方に配した吸引用のファンとを備え、ファンの回転によって空気を吸引して搬送ベルトの吸引孔に負圧を生じさせ、搬送面上に印刷媒体を吸着保持する。この吸着保持状態で搬送ベルトを駆動させて印刷媒体を搬送する。
【0005】
搬送ベルトの搬送面のうち、印刷媒体が載っている部分では、印刷媒体によって吸引孔が覆われるため、吸引孔を通過する空気の流れが生じにくい。一方、搬送ベルトの搬送面のうち、印刷媒体が載っていない部分では、吸引用のファンを駆動させたときに、搬送面の上方の空気が吸引孔を通して搬送面の下方空間に流れる。
【0006】
インクジェットヘッドのインク吐出面付近での吸引風は、インクジェットヘッドから吐出されるインクの挙動に影響を及ぼす。吐出されたインクの他にインクミストも吸引風の影響を受けやすく、吸引風で飛散したインクミストが主滴とは異なる位置で印刷媒体に付着して、画像の乱れや印刷媒体の汚れの原因になる。
【0007】
インクジェット印刷装置で、インクジェットヘッドを保持するヘッド保持板と搬送面との間の空間を、大気圧の空間と連通させる連通経路を備える技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のインクジェット印刷装置では、連通経路によってヘッドホルダ下空間の正圧を維持し、搬送ベルトの上側と下側との間の圧力差を確保して、吸引孔での吸引力の低下と、それに伴う吸引搬送機構での搬送不良を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-168679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のような連通経路をヘッド保持板に設けると、吸引用のファンを駆動したときに、連通経路から搬送ベルトの吸引孔へ向かう流れの吸引風が生じやすくなり、インクジェットヘッドの直下では吸引風が生じにくくなる。そのため、インクミストへの吸引風の影響を低減させることができる。
【0010】
印刷時に発熱するインクジェットヘッドを冷却するために、インクジェットヘッドの周囲に冷却風を送る冷却手段を備える場合がある。冷却手段による冷却風は、ヘッド保持板の上方空間を通る。しかし、上述した連通経路を設けた場合に、連通経路を通して冷却風がヘッド保持板の下方空間に流れ込み、インクミストをいたずらに拡散させて印刷媒体や周辺部材を汚すおそれがある。
【0011】
このように、従来のインクジェット印刷装置では、吸引搬送機構による吸引風と、冷却手段による冷却風が、それぞれ異なる状況でインクミストに影響を及ぼす場合があった。そして特に、冷却風の影響を確実に低減させることが望まれていた。
【0012】
本発明の目的は、インクジェット印刷装置で、冷却風の影響による印刷品質の低下を防ぐことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、印刷媒体を搬送面に保持して搬送する搬送部と、前記搬送面に保持された前記印刷媒体にインクを吐出して印字するインクジェットヘッドと、前記搬送面に対向するヘッド保持板に前記インクジェットヘッドを保持するヘッドホルダと、を備えたインクジェット印刷装置において、前記ヘッド保持板を貫通し、前記インクジェットヘッドが挿入されて前記インクジェットヘッドとの間が封止されるヘッド保持開口と、前記ヘッド保持開口から間隔を空けて前記ヘッド保持板に形成され、前記ヘッドホルダ内の第1の空間と前記搬送面の間の第2の空間とを連通させる連通部と、前記ヘッドホルダ内で前記インクジェットヘッドに冷却風を送る冷却手段と、前記第1の空間に設けられ、前記冷却風が通る通路と前記連通部との間の少なくとも一部を遮る遮蔽部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインクジェット印刷装置によれば、インクジェットヘッドを冷却する冷却風がインクジェットヘッドのインク吐出部分付近に影響を及ぼしにくくなり、冷却風の影響による印刷品質の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】インクジェット印刷装置の印刷部を示す側面図である。
図2】印刷部を構成するヘッドユニットの上面図である。
図3】ヘッドユニットの内部を部分的に示す断面図である。
図4図3のIV-IVに沿う断面図である。
図5】遮蔽部の異なる形態を示す断面図である。
図6】ヘッド保持板に連通部を備えない比較例を示す断面図である。
図7】ヘッド保持板に連通部を備え、遮蔽部を備えない比較例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、インクジェット印刷装置の一部分である印刷部1を示している。印刷部1は、プラテンユニット2とヘッドユニット3とを有しており、印刷媒体である用紙Pを搬送部であるプラテンユニット2によって所定速度で搬送し、ヘッドユニット3から用紙Pにインクを吐出して印字する。インクジェット印刷装置は、図示を省略する給紙部と排紙部を備え、印刷前の用紙Pが給紙部から印刷部1に搬入され、印刷後の用紙Pが排紙部によって排出される。プラテンユニット2で搬送される用紙Pの搬送方向が副走査方向F2、副走査方向F2に対して直交する用紙Pの横幅方向が主走査方向F1である。
【0017】
図1に示すように、プラテンユニット2は、搬送ベルト10と、駆動ローラ11と、複数の従動ローラ12,13,14と、を有する。搬送ベルト10は、駆動ローラ11と複数の従動ローラ12,13,14に掛け渡される無端(ループ形状)の帯状体である。掛け渡された状態の搬送ベルト10は、駆動ローラ11と従動ローラ12の間で略水平な搬送面10aを形成し、搬送面10a上に用紙Pが載せられる。駆動ローラ11はベルトモータ(図示略)によって回転駆動される。駆動ローラ11が回転すると搬送ベルト10に駆動力が伝達されて、搬送ベルト10が従動ローラ12,13,14による案内を受けながら周回動作し、搬送面10a上に支持した用紙Pを副走査方向F2に移動させる。各図面における左側が用紙搬送の上流側であり、右側が用紙搬送の下流側である。従動ローラ12,13,14は、搬送ベルト10を介して駆動ローラ11に従動して回転する。
【0018】
搬送ベルト10には、表裏を貫通する複数の吸引孔10b(図3及び図4参照)が形成されている。プラテンユニット2は、駆動ローラ11と従動ローラ12の間の搬送面10aの下方に吸引ファン15を備えている。吸引ファン15はファン駆動モータ(図示略)によって回転駆動され、吸引ファン15の回転によって上方から下方へ向かう気流が生じる。従って、吸引ファン15を回転させると、複数の吸引孔10bを通して搬送面10aの上方から空気を吸引する力(負圧)が発生し、吸引孔10bに働く負圧によって用紙Pが搬送面10aに吸着保持される。吸引ファン15を駆動させながら駆動ローラ11を回転させ、用紙Pを搬送面10aに吸着保持しながら搬送する。これにより、用紙Pの平面度を確保して高品質な印刷を行うことができる。
【0019】
図1に示すように、ヘッドユニット3は、プラテンユニット2の上方に配置されている。ヘッドユニット3は、複数のインクジェットヘッド20と、複数のインクジェットヘッド20を保持するヘッドホルダ30とを備えている。本実施の形態の印刷部1はライン型のインクジェット印刷装置を構成しており、図2に示すように、主走査方向F1に所定の間隔で並べた複数(3つ)のインクジェットヘッド20からなるヘッド列L1,L2,L3,L4を、副走査方向F2に複数列(4列)並べている。副走査方向F2に隣り合う2つのヘッド列は、互いのインクジェットヘッド20を主走査方向F1で位置をずらして配置しており、全体として複数のインクジェットヘッド20が千鳥状に配置されている。
【0020】
図4に示すように、個々のインクジェットヘッド20は、下方の搬送面10aに対向するインク吐出面21と、インク吐出面21の上方に位置する上面22と、インク吐出面21及び上面22を接続する側面23とを有する直方体形状の筐体を有する。
【0021】
下方を向くインク吐出面21には、主走査方向F1に並ぶ複数のノズル(図示略)で構成されるノズル列が設けられている。用紙Pへの印字を行う際には、インク供給経路(図示略)から各インクジェットヘッド20に供給されたインクを、ノズル列の各ノズルから下方に向けて吐出する。
【0022】
ヘッドホルダ30は、内部を中空状とした直方体形状の筐体を備えており、この筐体のうち搬送面10aに対向する略水平な底板がヘッド保持板31(図4参照)を構成している。ヘッドホルダ30はさらに、ヘッド保持板31の上方に位置する天板32(図4参照)と、ヘッド保持板31及び天板32を接続する4つの側板33,34,35,36(図2参照)とを有している。なお、図2は、ヘッドホルダ30の天板32を透視してヘッドホルダ30の内部が見えるように示している。
【0023】
ヘッド保持板31よりも上方のヘッドホルダ30の内部空間を上方空間S1(第1の空間)とし、ヘッド保持板31と搬送面10aとの間の空間を中間空間S2(第2の空間)、搬送面10aよりも下方のプラテンユニット2の内部空間を下方空間S3とする。
【0024】
図4に示すように、ヘッド保持板31には上下方向に貫通するヘッド保持開口31aが形成されている。複数のインクジェットヘッド20と同数のヘッド保持開口31aが設けられている。各インクジェットヘッド20は、ヘッド保持開口31aに挿入されてヘッド保持板31に対して固定され、この固定状態で、インク吐出面21がヘッド保持板31よりも下方(搬送面10a側)に位置する。各インクジェットヘッド20は上方空間S1と中間空間S2にまたがって配置されており、インク吐出面21を含む下半部分が、ヘッド保持板31よりも下方に突出して中間空間S2内に位置し、上面22を含む上半部分が、ヘッド保持板31よりも上方の上方空間S1内に位置している。
【0025】
ヘッドホルダ30の側板のうち、主走査方向F1に向き合う側板33と側板34にはそれぞれ、複数の通風孔が形成されている。複数の通風孔は、インクジェットヘッド20のヘッド列L1,L2,L3,L4に対応する位置に形成されている。図2及び図3に示すように、側板33の各通風孔にはダクト37が接続し、側板34の各通風孔にはダクト38が接続している。ダクト37とダクト38は、ヘッドホルダ30の内方に向けて突出する通風路であり、先端に進むにつれて断面積(開口径)を大きくする円錐状の形状を備えている。各ヘッド列L1,L2,L3,L4の主走査方向F1の両側にダクト37とダクト38が対向して設けられている。つまり、ダクト37とダクト38は、各ヘッド列L1,L2,L3,L4に対応して4つずつ設けられている。
【0026】
ヘッドユニット3はさらに冷却手段を有する。冷却手段は、ヘッドホルダ30内の上方空間S1に冷却風を送って、印刷時に発熱する各インクジェットヘッド20を冷却するものであり、図2に示すように、主走査方向F1でヘッドホルダ30の両側に位置する送風部41と吸引部42とを備えている。
【0027】
送風部41は、ヘッドホルダ30の側板33に取り付けられるハウジング43内に送風ファン44を備えている。ファン駆動モータ(図示略)によって送風ファン44を回転駆動させると、側板33の各通風孔と各ダクト37を通じて、ハウジング43側からヘッドホルダ30内に向けて冷却風が送られる。
【0028】
吸引部42は、ヘッドホルダ30の側板34に取り付けられるハウジング45内に吸引ファン46を備えている。ファン駆動モータ(図示略)によって吸引ファン46を回転駆動させると、ヘッドホルダ30内を通った冷却風が、各ダクト38と側板34の各通風孔を通じてハウジング45側に吸引される。
【0029】
以上の冷却手段によって、送風部41からヘッドホルダ30内に送られた冷却風が、各インクジェットヘッド20の周囲から熱を奪って吸引部42側に排気されるという空冷式の冷却系が構成される。
【0030】
ところで、用紙Pを搬送ベルト10の搬送面10aに吸着保持して搬送しながら印刷を行う場合、吸着用の負圧により生じる気流が、印刷に及ぼす影響を考慮する必要がある。より詳しくは、吸引ファン15を回転駆動させて中間空間S2に対して下方空間S3が負圧の状態になると、搬送ベルト10に形成した複数の吸引孔10bのうち、用紙Pで覆われずに露出している吸引孔10bに向けて空気が流れて、中間空間S2から下方空間S3に向かう吸引風が発生する。この吸引風が、インクジェットヘッド20からのインクの吐出に影響せず、印刷品質の低下を生じさせないようにすることが求められる。
【0031】
本実施の形態とは異なる比較例を図6に示す。図6の比較例は、インクジェットヘッド20の周囲でヘッド保持板31が塞がれており、上方空間S1と中間空間S2の間で空気の流通が行われない構成である。この場合、下方空間S3側を負圧にすると、中間空間S2内におけるインク吐出面21付近の空気が、用紙Pで覆われていない吸引孔10b側に引き寄せられ、インクの吐出方向とは異なる方向へ流れる吸引風T1が生じる。すると、インクジェットヘッド20のインク吐出面21から吐出されたインクのうち、画像形成用の主滴IAよりも微細な霧状のインクミストIBが、吸引風T1によって飛散する。そして、用紙Pに対して主滴IAとは異なる位置でインクミストIBが付着して、印刷される画像を乱したり、インクミストIBがインク吐出面21に付着して汚したりするおそれがある。
【0032】
図6は、搬送される用紙Pの先端部付近が、インクジェットヘッド20の下方に位置する状態である。このように、用紙Pの端部に近い部分を印刷するときに、用紙Pで覆われていない吸引孔10bと、インクジェットヘッド20のインク吐出面21との距離が近くなり、インクジェットヘッド20の直下に吸引風が生じやすくなる。なお、図6の状態とは逆に、搬送される用紙Pの後端部付近がインクジェットヘッド20の下方に位置する場合も同様に、インクジェットヘッド20の直下に吸引風(図6に示す吸引風T1とは逆向きの吸引風)が生じやすくなる。
【0033】
本実施の形態では、ヘッド保持板31のうち、インクジェットヘッド20の近傍に。上方空間S1と中間空間S2を連通させる連通部39を形成している。図2及び図3に示すように、連通部39は、インクジェットヘッド20の各ヘッド列L1,L2,L3,L4に沿って主走査方向F1に延びる長孔であり、副走査方向F2に位置を異ならせて5つの連通部39が形成されている。より詳しくは、連通部39は、4つのヘッド列L1,L2,L3,L4のそれぞれの間に1つずつ、ヘッド列L1に対して用紙搬送の上流側(各図中の左側)に1つ、ヘッド列L4に対して用紙搬送の下流側(各図中の右側)に1つが設けられている。従って、各インクジェットヘッド20の副走査方向F2の両側に対をなす形で連通部39が配置されている。図4に示すように、ヘッド保持板31上で、ヘッド保持開口31a(インクジェットヘッド20の保持位置)と連通部39は、副走査方向F2に所定の間隔を空けて形成されており、ヘッド保持開口31aと連通部39の間には、ヘッド保持板31の一部である橋絡部31b(図3及び図4参照)が存在する
【0034】
ヘッド保持板31に連通部39を形成したことにより、吸引ファン15を回転駆動して下方空間S3を負圧にしたときに、吸引孔10bを介して下方空間S3と連通する中間空間S2だけでなく、連通部39を介して中間空間S2に連通する上方空間S1からも、空気の吸引が行われる。上方空間S1は大気圧に近い状態にあり、上方空間S1から連通部39を経て吸引孔10bに向かう吸引風の流れが支配的になる。その結果、中間空間S2内でインクジェットヘッド20の直下から吸引孔10bに向かう吸引風が低減され、周囲へのインクミストIBの飛散が生じにくくなる。
【0035】
図4に示すように、搬送される用紙Pの先端部付近がインクジェットヘッド20の下方に位置するときには、当該インクジェットヘッド20に対して用紙搬送の下流側(図4の右側)に位置する連通部39から、その直下に位置する吸引孔10bを通って下方空間S3に向かう吸引風が生じる。一方、搬送される用紙Pの後端部付近がインクジェットヘッド20の下方に位置するときには、当該インクジェットヘッド20に対して用紙搬送の上流側(図4の左側)に位置する連通部39から、その直下に位置する吸引孔10bを通って下方空間S3に向かう吸引風が生じる。このように、副走査方向F2で各インクジェットヘッド20の両側に対をなす配置で連通部39を設けることにより、用紙Pの先端部付近と後端部付近のいずれがインクジェットヘッド20の下方に位置する場合でも、インク吐出面21の付近に吸引風の影響を及びにくくできる。
【0036】
但し、連通部39によって上方空間S1と中間空間S2を連通させた場合には、上方空間S1内での気流の状態がインクミストIBに及ぼす影響も考慮する必要がある。上述のように、ヘッドホルダ30内の上方空間S1には、冷却手段による冷却風が流れている。この冷却風は、送風部41から吸引部42に向けて概ね主走査方向F1に進むものであり、インクジェットヘッド20のインク吐出面21から用紙Pへ向かうインク吐出方向とは異なる方向への気流である。また、ヘッドホルダ30の内部構造物やインクジェットヘッド20などに当たって冷却風の向きが変化し、上方空間S1内でより複雑な気流が発生する可能性もある。
【0037】
図7は、このような上方空間S1から中間空間S2への気流の影響について、対策を行っていない比較例を示したものである。上方空間S1内の冷却風(又は冷却風の影響で生じた乱流など)が連通部39を通って中間空間S2に入ると、その影響でインクミストIBが飛散し、用紙Pに対して主滴IAとは異なる位置でインクミストIBが付着して印刷品質を低下させたり、インクミストIBがインク吐出面21に付着して汚したりするおそれがある。つまり、プラテンユニット2への吸引風による印刷品質の低下を防ぐためにヘッド保持板31に連通部39を形成すると、冷却手段による冷却風が印刷品質に影響を及ぼす可能性があり、その対策が求められる。
【0038】
本実施の形態のインクジェット印刷装置では、ヘッドホルダ30内部の上方空間S1に遮蔽部材50を設けている。図4に示すように、遮蔽部材50は、ヘッド保持板31上に設けられてインクジェットヘッド20(インクジェットヘッド20のうち上方空間S1に位置する上半部分)を囲む箱状の部材であり、ヘッド保持板31から上方に向けて突出する一対の側壁51と、一対の側壁51の上端を接続する上壁52とを有している。遮蔽部材50の上壁52とヘッドホルダ30の天板32との間には隙間がある。図2に示すように、インクジェットヘッド20の各ヘッド列L1,L2,L3,L4に対応する4つの遮蔽部材50を備えており、各遮蔽部材50は、主走査方向F1に長く延びて個々のヘッド列に含まれる3つのインクジェットヘッド20を連続して囲んでいる。
【0039】
図3及び図4に示すように、遮蔽部材50の一対の側壁51は、副走査方向F2において、ヘッド保持開口31aとその両側に位置する連通部39との間に位置しており、各側壁51の下端がヘッド保持板31の橋絡部31bに接続している。別言すれば、各遮蔽部材50は、上面視(図2及び図3)で連通部39とは重ならない位置に設けられている。これにより、ヘッド保持開口31a内にインクジェットヘッド20を保持した状態で、上方空間S1内には、ヘッド保持板31と、遮蔽部材50の一対の側壁51及び上壁52とによって囲まれる閉鎖断面構造の筒状空間S4(図4参照)が形成される。そして、筒状空間S4内に各インクジェットヘッド20の上半部分が収容される。インクジェットヘッド20の側面23とヘッド保持開口31aの間は、筒状空間S4と中間空間S2の間で空気の流通が生じないように封止されている。各遮蔽部材50は、主走査方向F1の両端が開口しており、その一端にダクト37が挿入され、他端にダクト38が挿入されている(図2及び図3参照)。
【0040】
送風部41から吸引部42に向かう冷却風は、各遮蔽部材50とヘッド保持板31により形成される筒状空間S4を通って、各ヘッド列L1,L2,L3,L4のインクジェットヘッド20を冷却する。冷却風の通路となる筒状空間S4と、上方空間S1及び中間空間S2を連通する連通部39との間が、遮蔽部材50の側壁51及び上壁52によって遮られているので、冷却風が連通部39を通って中間空間S2に向かうことや、冷却風による気流の乱れが中間空間S2に影響することを防止できる。これにより、インクミストが発生した場合であっても、適度な気流で搬送方向下流にインクミストを流し、印刷媒体や周辺部材を汚すことを回避することができる。
【0041】
遮蔽部材50は、ヘッド保持板31の上方でインクジェットヘッド20の上面22と側面23を完全に覆って筒状空間S4を閉鎖断面構造にさせているので、冷却風が筒状空間S4の外側に流れることを防止する効果が高い。また、冷却風を外部に漏らさずにインクジェットヘッド20の近傍に集中して供給できるので、冷却効率の向上に寄与する。
【0042】
また、遮蔽部材50は、個々のヘッド列L1,L2,L3,L4に含まれる3つのインクジェットヘッド20を連続して囲んでおり、主走査方向F1の途中に開口部分を有さない。そのため、各ヘッド列L1,L2,L3,L4の全てのインクジェットヘッド20に冷却風を確実に供給できる。また、主走査方向F1に長いトンネル形状の筒状空間S4を形成するので、送風部41から吸引部42までスムーズに冷却風を導き、上方空間S1内での気流の乱れを抑制することができる。
【0043】
以上のように、上方空間S1と中間空間S2を連通する連通部39を設けて、下方空間S3に向かう吸引風が中間空間S2内のインクミストIBに影響しにくくした上で、さらに遮蔽部材50を設けて、上方空間S1の冷却風が中間空間S2内のインクミストIBに影響しにくくしている。これにより、吸引風や冷却風の影響を排除した印刷を実現し、印刷品質の低下を防ぐことができる。
【0044】
また、上方空間S1内で、遮蔽部材50によって遮蔽された筒状空間S4に冷却風を通すので、各インクジェットヘッド20に効率的に冷却風を送ることができ、冷却効率が向上する。冷却効率の向上により、冷却手段の小型化や消費電力の低減などの効果が得られる。
【0045】
図2及び図3に示すように、主走査方向F1における各遮蔽部材50の両端と、ヘッドホルダ30の側板33及び側板34との間には、隙間がある。送風部41に接続するダクト37は、側板33と各遮蔽部材50の一端との隙間を横断して各遮蔽部材50の内部に挿入されている。吸引部42に接続するダクト38は、側板34と各遮蔽部材50の他端との隙間を横断して各遮蔽部材50の内部に挿入されている。従って、各遮蔽部材50の両端部分での風漏れを低減して、送風部41から吸引部42まで確実に冷却風を通すことができる。
【0046】
冷却風が通る通路と連通部39とを隔てる遮蔽部の異なる形態を図5に示す。図5の構成では、各インクジェットヘッド20(ヘッド列)の上部ではなく、連通部39の上部に遮蔽部材60を設けている。遮蔽部材60は、上述した遮蔽部材50の一対の側壁51に相当する位置に隔壁61を備えている。また、遮蔽部材60は、連通部39を挟んで隔壁61に対向する位置に隔壁62を備えている。隔壁61の下端は、ヘッドホルダ30のヘッド保持板31の橋絡部31bに接続している。隔壁62の下端もヘッド保持板31に接続している。隔壁61と隔壁62のそれぞれの上端を上壁63が接続しており、上壁63がヘッドホルダ30の天板32に下方から接している。隔壁62には副走査方向F2に貫通する貫通孔64が形成されている。
【0047】
ヘッドホルダ30内には複数の遮蔽部材60が設けられ、これらの遮蔽部材60によって上方空間S1の内部が仕切られる。より詳しくは、各遮蔽部材60の隔壁61と隔壁62と上壁63によって囲まれる連通空間S5が形成される。また、隣り合う2つの遮蔽部材60の隔壁61と、ヘッドホルダ30のヘッド保持板31及び天板32とによって囲まれる閉鎖断面構造の筒状空間S6が形成される。各インクジェットヘッド20の上半部分は、筒状空間S6内に位置する。
【0048】
筒状空間S6は、上述した筒状空間S4と同様に、インクジェットヘッド20を冷却する冷却風の通路になる。各遮蔽部材60の隔壁61によって筒状空間S6が連通部39から隔てられているので、冷却風が中間空間S2内の気流に影響を及ぼすこと(インクミストIBが周囲に飛散すること)を防止できる。また、筒状空間S6内で効率の良いインクジェットヘッド20の冷却を実現できる。
【0049】
連通空間S5は、遮蔽部材60の隔壁62に形成した貫通孔64によって上方空間S1に通じている。従って、ヘッドホルダ30内で、上方空間S1から連通空間S5を経て連通部39に至る空気の通路が形成され、プラテンユニット2の搬送面10aにおける吸着力低下を防止できる。
【0050】
このように、インクジェットヘッド20を覆う位置に遮蔽部材50を設けた構成(図1から図4)だけでなく、連通部39の上部に遮蔽部材60を設けた構成(図5)でも、同様の効果を得ることが可能である。
【0051】
上述のように、インクジェットヘッド20の下方に用紙Pの先端部と後端部のいずれが位置する場合にも対応するように、副走査方向F2でインクジェットヘッド20の両側に連通部39を設けている。これに応じて、少なくとも遮蔽部は、両側の連通部39とインクジェットヘッド20(側面23)との間を遮る一対の壁部を備えることが望ましい。この一対の壁部に相当する部位として、遮蔽部材50は一対の側壁51を有し、副走査方向F2に隣り合う2つの遮蔽部材60が一対の隔壁61を有している。従って、インクジェットヘッド20の両側に連通部39を有する構成において、各連通部39に冷却風が流れることを確実に防止できる。
【0052】
遮蔽部の変形例として、遮蔽部材60のうち隔壁61に相当する部分のみを備える(隔壁62と上壁63を省略する)ように構成してもよい。この構成でも、図5に示す筒状空間S6を形成することが可能である。
【0053】
遮蔽部の変形例として、遮蔽部材50のうち一対の側壁51に相当する部分のみを備える(上壁52を省略する)ように構成してもよい。この構成では、各側壁51の上端がヘッドホルダ30の天板32まで達しない(隙間がある)ので、インクジェットヘッド20を囲む冷却風用の通路は、筒状空間S4や筒状空間S6のような閉鎖断面構造にはならない。しかし、このような構成でも、インクジェットヘッド20を冷却する冷却風を、直接的に連通部39に向けて進行させにくくするという点で、遮蔽部として所要の効果を得ることができる。
【0054】
以上の各変形例から分かるように、遮蔽部は、冷却風の通路から連通部39への冷却風の進行を遮って(冷却風の通路と連通部39との間の少なくとも一部を遮って)、中間空間S2でのインク吐出に冷却風の影響が及ばないようにさせる(印刷品質への影響を防ぐ)ものであればよく、特定の形態には限定されない。
【0055】
また、上述した遮蔽部材50や遮蔽部材60は、連通部39の側方に立設した平板状の側壁51や隔壁61によって冷却風を遮っているが、遮蔽部の形状は、このような平板形状に限定されるものではない。例えば、気流の速度を低下させる迷路構造を遮蔽部に適用して、仮に冷却風が連通部39に達しても、中間空間S2の気流を大きく乱さない程度に減速した状態にさせれば、印刷品質の低下を防ぐことができる。従って、このような迷路構造の遮蔽部を採用してもよい。
【0056】
また、ヘッドホルダ30内の上方空間S1で、冷却風の通路以外の部分についても、上述のような迷路構造などを設けて、上方空間S1から中間空間S2に進む気流の速度を調整することが可能である。例えば、図5の構成で、貫通孔64がシンプルに開口するだけでなく、貫通孔64から連通部39に至るまでの経路を複雑化させるようにしてもよい。
【0057】
上記実施の形態のプラテンユニット2は、負圧によって用紙Pを搬送面10aに吸着保持しながら搬送するタイプの搬送部であるが、本発明では、印刷媒体(用紙P)を搬送面に吸着する手段を備えない静電搬送方式の搬送部を適用することもできる。インクジェットヘッドのインク吐出面付近の気流の乱れによってインクミストが印刷媒体や周辺部材を汚す現象は、搬送部に吸引手段を備えない場合でも生じ得るため、静電搬送方式の搬送部を有した印刷装置にも本発明は有用である。
【0058】
以上、添付図面に基づく実施の形態及び変形例によって本発明を説明したが、本発明は上述の実施の形態や変形例には限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更や応用を行うことが可能である。上述の実施の形態において、添付図面に図示されている構成や制御等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
印刷媒体を搬送面に保持して搬送する搬送部と、
前記搬送面に保持された前記印刷媒体にインクを吐出して印字するインクジェットヘッドと、
前記搬送面に対向するヘッド保持板に前記インクジェットヘッドを保持するヘッドホルダと、
を備えたインクジェット印刷装置において、
前記インクジェットヘッドの保持位置から間隔を空けて前記ヘッド保持板に形成され、前記ヘッドホルダ内の第1の空間と前記搬送面の間の第2の空間とを連通させる連通部と、
前記ヘッドホルダ内で前記インクジェットヘッドに冷却風を送る冷却手段と、
前記第1の空間に設けられ、前記冷却風が通る通路と前記連通部との間の少なくとも一部を遮る遮蔽部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
[付記2]
前記搬送部により前記印刷媒体を搬送する副走査方向で前記インクジェットヘッドの両側に前記連通部が設けられ、
前記遮蔽部は、前記副走査方向で両側の前記連通部と前記インクジェットヘッドとの間に位置する少なくとも一対の壁部を有することを特徴とする付記1記載のインクジェット印刷装置。
[付記3]
前記遮蔽部は、前記一対の壁部の上端を接続する上壁を有し、
前記冷却風が通る通路は、前記遮蔽部と前記ヘッド保持板とで囲まれる閉鎖断面であることを特徴とする付記2記載のインクジェット印刷装置。
【符号の説明】
【0059】
1 :印刷部
2 :プラテンユニット(搬送部)
3 :ヘッドユニット
10 :搬送ベルト
10a :搬送面
10b :吸引孔
20 :インクジェットヘッド
21 :インク吐出面
30 :ヘッドホルダ
31 :ヘッド保持板
39 :連通部
41 :送風部(冷却手段)
42 :吸引部(冷却手段)
50 :遮蔽部材(遮蔽部)
51 :側壁(一対の壁部)
52 :上壁
60 :遮蔽部材(遮蔽部)
61 :隔壁(一対の壁部)
62 :隔壁
63 :上壁
P :用紙
S1 :上方空間(第1の空間)
S2 :中間空間(第2の空間)
S3 :下方空間
S4 :筒状空間(冷却風が通る通路)
S5 :連通空間
S6 :筒状空間(冷却風が通る通路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7