(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】自動車用遮音パネル
(51)【国際特許分類】
B60R 13/08 20060101AFI20231115BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20231115BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B60R13/08
G10K11/16 130
G10K11/172
(21)【出願番号】P 2020048615
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000124454
【氏名又は名称】河西工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【氏名又は名称】米山 尚志
(74)【代理人】
【識別番号】100069431
【氏名又は名称】和田 成則
(74)【代理人】
【識別番号】100102761
【氏名又は名称】須田 元也
(72)【発明者】
【氏名】福本 一朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 尚文
(72)【発明者】
【氏名】中野 光章
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-153598(JP,U)
【文献】特開2015-074358(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167572(WO,A1)
【文献】特開2017-151325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/08
G10K 11/16
G10K 11/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音層を形成する吸音パネル材と、
前記吸音層上に表面層を形成する表面パネル材と、
前記吸音層と前記表面層との間に弾性層を形成する複数の弾性体と、を備え、
前記吸音パネル材は、自動車の遮音を要する面の凹凸に沿って変形可能に設けられるとともに、前記表面パネル材に向って開口した複数の収容空間部を有し、
前記表面パネル材は、前記収容空間部の開口と対向する範囲が第1の振動膜として機能し、
前記各弾性体は、前記収容空間部内に配置される凹部を有し、該凹部の底が第2の振動膜として機能すること
を特徴とする自動車用遮音パネル。
【請求項2】
前記凹部の底を前記第2の振動膜として効果的に機能させるため、その凹部の底にリング状の縁部を形成し、この縁部の内側領域が前記第2の振動膜として機能するように構成したこと
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項3】
前記吸音パネル材は、第1の孔を備え、
前記収容空間部は、前記弾性体の前記第1の振動膜とその周辺部によって2室に仕切られており、
前記2室のうち前記吸音パネル材側に位置する第1の室に対して前記第1の孔が連通することで、その第1の室と前記第1の孔とによる第1のヘルムホルツ共鳴器が構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項4】
前記表面パネル材は、第2の孔を備え、
前記収容空間部は、前記弾性体の前記第1の振動膜とその周辺部によって2室に仕切られており、
前記2室のうち前記表面パネル材側に位置する第2の室に対して前記第2の孔が連通することで、その第2の室と前記第2の孔とによる第2のヘルムホルツ共鳴器が構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項5】
前記表面層と前記弾性層との間には、中間吸音層を形成する中間吸音パネル材が設けられていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項6】
前記中間吸音パネル材は、第3の孔を備え、
前記収容空間部は、前記弾性体の前記第1の振動膜とその周辺部によって2室に仕切られており、
前記2室のうち前記中間吸音パネル材側に位置する室に対して前記第3の孔が連通することで、その室と前記第3の孔とによる第3のヘルムホルツ共鳴器が構成されていること
を特徴とする請求項5に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項7】
前記中間吸音パネル材は、前記収容空間部の上面開口と対向する範囲が開口していること
を特徴とする請求項5に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項8】
前記収容空間部の底は開口していること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項9】
前記複数の弾性体は、それぞれの縁部が繋ぎ部によって互いに連結されることで、一体化した構造になっていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項10】
前記複数の弾性体は、それぞれが個別に独立して存在する単体構造になっていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項11】
前記吸音層は、その層全体のうち少なくとも前記表面層に隣接する面付近がそれ以外の部分とは性状の異なるスキン層になっていて、該スキン層により前記表面層から前記吸音層までの範囲全体の通気性が調整されていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項12】
前記スキン層は、前記吸音パネル材を金型で成形する際の当該金型との接触面付近に形成されたものあること
を特徴とする請求項11に記載の自動車用遮音パネル。
【請求項13】
前記スキン層は、前記吸音パネル材に対して別部材を後付け貼付することによって形成されたものあること
を特徴とする請求項11に記載の自動車用遮音パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフロア等、遮音を必要とする部位に設置される自動車用遮音パネルに関し、特に、遮音パネルの軽量化、遮音可能な周波数帯の拡張、遮音性能の向上を図るのに好適で、かつ、自動車の遮音を要する面に設置したときの該面の立体的な凹凸に柔軟に対応し得る変形性(立体的自由度)に優れたものである。
【背景技術】
【0002】
自動車において遮音を必要とする部位、例えば、フロアには遮音パネルが設置されている。この種の遮音パネルの具体的な構造は例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1で開示された遮音パネル(以下「従来の遮音パネル」という)は、中空板状の樹脂構造体(10)を備え、樹脂構造体(10)は、その内部にセル(S)を複数並設した構造、および、個々のセル(S)に対して個別に連通孔(15)が連通し、連通孔(15)とこれに対応するセル(S)とによってヘルムホルツ共鳴が得られる構造になっている。
【0004】
また、従来の遮音パネルは、樹脂構造体(10)上にシート体(50)を積層し、積層による遮音パネル全体の重量増加で遮音性能の向上を図っている。
【0005】
しかし、従来の遮音パネルは、前述のように、遮音性能の向上を図る手段として、シート体(50)の積層による遮音パネル全体の重量増加を利用するため、遮音パネル全体の軽量化を図ることは困難である。
【0006】
また、従来の遮音パネルでは、シート体(50)の積層によって連通孔(15)の開口が塞がれた状態になっているので、ヘルムホルツ共鳴の共鳴度が減少し、ヘルムホルツ共鳴による遮音効果を有効に発揮することができず、遮音性能の高い遮音パネルは得られない。
【0007】
さらに、従来の遮音パネルでは、連通孔(15)の開口付近でのシート体(50)の膜振動によって遮音効果が期待できるが、その膜振動の振動周波数を制御することは困難であり、幅広い周波数帯での遮音を可能とした遮音パネルは得られない。
【0008】
なお、前記カッコ内の符号は特許文献1で用いられている符号である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、遮音パネルの軽量化、遮音可能な周波数帯の拡張、遮音性能の向上を図るのに好適で、かつ、自動車の遮音を要する面に設置したときの該面の立体的な凹凸に柔軟に対応し得る変形性(立体的自由度)に優れた自動車用遮音パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、吸音層を形成する吸音パネル材と、前記吸音層上に表面層を形成する表面パネル材と、前記吸音層と前記表面層との間に弾性層を形成する複数の弾性体と、を備え、前記吸音パネル材は、自動車の遮音を要する面の凹凸に沿って変形可能に設けられるとともに、前記表面パネル材に向って開口した複数の収容空間部を有し、前記表面パネル材は、前記収容空間部の開口と対向する範囲が第1の振動膜として機能し、前記各弾性体は、前記収容空間部内に配置される凹部を有し、該凹部の底が第2の振動膜として機能することを特徴とする。
【0012】
前記本発明において、前記凹部の底を前記第2の振動膜として効果的に機能させるため、その凹部の底にリング状の縁部を形成し、この縁部の内側領域が前記第2の振動膜として機能するように構成したことを特徴としてもよい。
【0013】
前記本発明において、前記吸音パネル材は、第1の孔を備え、前記収容空間部は、前記弾性体の前記第1の振動膜とその周辺部によって2室に仕切られており、前記2室のうち前記吸音パネル材側に位置する第1の室に対して前記第1の孔が連通することで、その第1の室と前記第1の孔とによる第1のヘルムホルツ共鳴器が構成されていることを特徴としてもよい。
【0014】
前記本発明において、前記表面パネル材は、第2の孔を備え、前記収容空間部は、前記弾性体の前記第1の振動膜とその周辺部によって2室に仕切られており、前記2室のうち前記表面パネル材側に位置する第2の室に対して前記第2の孔が連通することで、その第2の室と前記第2の孔とによる第2のヘルムホルツ共鳴器が構成されていることを特徴としてもよい。
【0015】
前記本発明において、前記表面層と前記弾性層との間には、中間吸音層を形成する中間吸音パネル材が設けられていることを特徴としてもよい。
【0016】
前記本発明において、前記中間吸音パネル材は、第3の孔を備え、前記収容空間部は、前記弾性体の前記第1の振動膜とその周辺部によって2室に仕切られており、前記2室のうち前記中間吸音パネル材側に位置する室に対して前記第3の孔が連通することで、その室と前記第3の孔とによる第3のヘルムホルツ共鳴器が構成されていることを特徴としてもよい。
【0017】
前記本発明において、前記中間吸音パネル材は、前記収容空間部の上面開口と対向する範囲が開口していることを特徴としてもよい。
【0018】
前記本発明において、前記収容空間部の底は開口していることを特徴としてもよい。
【0019】
前記本発明において、前記複数の弾性体は、それぞれの縁部が繋ぎ部によって互いに連結されることで、一体化した構造になっていることを特徴としてもよい。
【0020】
前記本発明において、前記複数の弾性体は、それぞれが個別に独立して存在する単体構造になっていることを特徴としてもよい。
【0021】
前記本発明において、前記吸音層は、その層全体のうち少なくとも前記表面層に隣接する面付近がそれ以外の部分とは性状の異なるスキン層になっていて、該スキン層により前記表面層から前記吸音層までの範囲全体の通気性が調整されていることを特徴としてもよい。
【0022】
前記本発明において、前記スキン層は、前記吸音パネル材を金型で成形する際の当該金型との接触面付近に形成されたものあることを特徴としてもよい。
【0023】
前記本発明において、前記スキン層は、前記吸音パネル材に対して別部材を後付け貼付することによって形成されたものあることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、自動車用遮音パネルの具体的な構造として、前述の通り、吸音層のほか、第1の振動膜および第2の振動膜を備える構成を採用した。このため、例えば吸音層あるいは表面層若しくはその双方の重量を増やさなくても、第1の振動膜や第2の振動膜の振動によって重量則を超える吸音効果が得られること、および、第1および第2の振動膜によって低周波数帯の吸音に対応可能であること、これに加えて更に、吸音層での吸音効果が得られることから、自動車用遮音パネルの軽量化、および、遮音可能な周波数帯の拡張、遮音性能の向上を図るのに好適な自動車用遮音パネルを提供し得るという作用効果を奏する。
【0025】
さらに、本発明では、自動車用遮音パネルの具体的な構造として、前述の通り、吸音パネル材が自動車の遮音を要する面の凹凸に沿って変形可能に設けられる構成を採用したため、この種の自動車用遮音パネルを当該面に設置したときの該面の立体的な凹凸に柔軟に対応し得る変形性(立体的自由度)に優れた自動車用遮音パネルを提供し得る。
【0026】
特に、本発明において、ヘルムホルツ共鳴器を備える構造のものでは、その共鳴周波数と、第1の振動膜や第2の振動膜におけるn次共振との組合せによって更に幅広い周波数帯域での遮音が可能となるという作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(a)は本発明を適用した自動車用遮音パネルの平面図、(b)は(a)中のA矢視拡大断面図。
【
図3】
図1(a)の自動車用遮音パネルを構成する表面パネル材の平面図。
【
図4】
図1(a)の自動車用遮音パネルを構成する複数の弾性体の平面図。
【
図5】
図1(a)の自動車用遮音パネルを構成する吸音パネル材の平面図。
【
図8】(a)-(k)は弾性体が備える凹部の断面形状バリエーションの説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
である。
【0030】
《自動車用遮音パネルの基本構成》
図1(a)(b)と
図2を参照すると、本実施形態の自動車用遮音パネルS1は、吸音層1を形成する吸音パネル材P1と、この吸音層1上に表面層2を形成する表面パネル材P2と、吸音層1と表面層2との間に弾性層3を形成する複数の弾性体E、E…と、を備えている。
【0031】
吸音パネル材P1は、自動車の遮音を要する面(以下「遮音面」という)の凹凸に沿って変形可能に設けられるとともに、表面パネル材P2に向って上面が開口した複数の収容空間部4を有している。
【0032】
前記のように変形可能な吸音パネル材P1は、吸音パネル材P1を例えば、ウレタン素材、繊維素材、あるいは発泡素材で形成することによって得られるが、これらの素材に限定されることはない。
【0033】
前記のような遮音面としては、例えば、自動車の室内フロア面、ラッゲッジルーム内フロア面、あるいは、自動車用内装部品として周知のドアトリムの内面(車室内に臨む意匠面とは反対の面)、若しくは、車体パネルの内面などが考えられるが、これらに限定されることはない。
【0034】
表面パネル材P2は、収容空間部4の開口と対向する範囲RG(
図2参照)が第1の振動膜5として機能するように構成されている。この第1の振動膜5は、騒音等の音エネルギー、振動エネルギーによって自由に振動できる膜である。
【0035】
各弾性体E、E…は、収容空間部4内に配置される凹部6を有し、該凹部6の底が第2の振動膜7(
図2参照)として機能するように構成してある。この第2の振動膜7もまた第1の振動膜5と同様に、騒音等の音エネルギー、振動エネルギーによって自由に振動できる膜である。
【0036】
《吸音パネル材P1の詳細》
吸音パネル材P1の具体的な実施構造例として、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、かかる吸音パネル材P1は第1の孔H1を備える構成(
図2と
図5参照)を採用した。また、
図2を参照すると、この吸音パネル材P1の収容空間部4は、弾性体Eの第1の振動膜5とその周辺部によって2室41、42に仕切られており、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、そのような2室41、42のうち吸音パネル材P1側に位置する第1の室41に対して第1の孔H1が連通することで、その第1の室41と第1の孔H1とによる第1のヘルムホルツ共鳴器AG1が構成されている。
【0037】
前記のように構成された第1のヘルムホルツ共鳴器AG1の共鳴周波数は、第1の孔H1の寸法、配置間隔(ピッチ)および第1の室41の容積によって一義的に定まる。したがって、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、例えば、第1の室41の容積を変更する、または、第1の孔H1の寸法を変更する、あるいは、第1の孔H1の個数または配置間隔を変更すること等により、第1のヘルムホルム共鳴器AG1の共鳴周波数を調整(チューニング)することができる。
【0038】
第1の孔H1の断面形状は円形に限定されることはなく、例えば長穴形状、半円形状、三日月形状、星形形状等、様々な断面形状を採用することができる。また、第1の孔H1は、その一端から他端までの範囲が同一内径の孔として構成される他、内径の異なる多段の孔やテーパ形状の孔として構成してもよい。
【0039】
《表面パネル材P2の詳細》
表面パネル材P2の具体的な実施構成例として、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、表面パネル材P2は所定厚の樹脂板で構成してある。この表面パネル材P2もまたその一部範囲が前述の通り第1の振動膜5として機能することで遮音効果を発揮する。したがって、表面パネル材P2を構成する樹脂板の素材やその厚みは、遮音したい周波数帯を考慮し、必要に応じて適宜変更される。
【0040】
また、表面パネル材P2の具体的な実施構造例として、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、かかる表面パネル材P2は第2の孔H2を備える構成を採用した。
【0041】
吸音パネル材P1の収容空間部4は前述の通り2室41、42に仕切られており、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、そのような2室41、42のうち表面パネル材P2側に位置する第2の室42に対して第2の孔H2が連通することで、第2の室R2と第2の孔H2とによる第2のヘルムホルツ共鳴器AG2が構成されている。
【0042】
前記のように構成された第2のヘルムホルツ共鳴器AG2の共鳴周波数は、第2の孔H2の寸法、配置間隔(ピッチ)および第2の室42の容積によって一義的に定まる。したがって、この第1のヘルムホルム共鳴器AG2の共鳴周波数もまた、第2の室42の容積を変更する、または、第2の孔H2の寸法を変更する、あるいは、第2の孔H2の個数または配置間隔を変更すること等により調整(チューニング)可能である。
【0043】
第2の孔H2の断面形状もまた、円形に限定されることはなく、例えば長穴形状、半円形状、三日月形状、星形形状等、様々な断面形状を採用することができる。また、この第2の孔H2も、その一端から他端までの範囲が同一内径の孔として構成される他、内径の異なる多段の孔やテーパ形状の孔として構成してもよい。
【0044】
《弾性体Eの詳細》
弾性体Eは、例えばゴム材、エラストマー樹脂材などの弾性素材で形成される。この場合、弾性体E全体を弾性素材で形成してもよいし、弾性体E全体のうち第2の振動膜7の部分、すなわち凹部6の底やその周辺部だけを部分的に弾性素材で形成し、それ以外の部分は弾性素材以外の素材で形成してもよい。
【0045】
凹部6の底を第2の振動膜7として効果的に機能させるため、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、
図2に示したように、凹部6の底にリング状の凹部又は凸部ないしは突起からなるリング部6Aを形成し、このリング部6Aの内側が第2の振動膜7として機能する構造を採用している。
【0046】
リンク部6Aの内径は必要に応じて適宜変更することができる。かかるリング部6Aの内径を変更することで、振動膜としての共振周波数を調整してもよい。
【0047】
また、図示は省略するが、この種のリング部6Aは多重に設けることもでき、例えば内外2重のリング部を採用した場合は、内側のリング部で囲まれた範囲が一つの振動膜として機能するほか、これに加えて内外のリング部間に位置するドーナツ形状部も別の振動膜として機能する等、一つの凹部6において共振周波数の異なる複数の振動膜を設けることができる。
【0048】
第1の振動膜7を備えた凹部6の形状は、遮音したい周波数帯に応じて設定する等、必要に応じて適宜変更することができる。例えば
図8(a)から(k)に示すような形状の凹部6を採用してもよい。
【0049】
図4を参照すると、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、複数の弾性体E、E…は、それぞれの縁部(具体的には、振動膜7の外周縁部)がライン形状の繋ぎ部CNによって互いに連結されることで、一体化した構造になっている。
【0050】
複数の弾性体E、E…について一体化の構造を採用した場合は、自動車用遮音パネルS1の製造工程において複数の弾性体3を必要とする数だけ漏れなく纏めて取り扱うことができ、また、複数の弾性体3を必要とする数だけ纏めて管理するのに好適である等、自動車用遮音パネルS1を構成する部品の取扱い性や管理性の向上を図れる。
【0051】
図6と
図7は複数の弾性体の他の構造例の説明図である。
【0052】
複数の弾性体E、E…は、
図7のようにそれぞれが個別に独立して存在する単体構造になっていてもよい。また、先に説明した
図4のライン形状の繋ぎ部4Cを
図6のように平面的に広げてシート状に構成することで、一枚のシート体に複数の弾性体E、E…が設けられてもよい。
【0053】
図4、
図6、
図7を参照すると、本実施形態の自動車用遮音パネルS1では、複数の弾性体E、E…の具体的な構成例として、同じ大きさ、形状の弾性体E、E…が所定ピッチで連続して設けられる構造を採用したが、これに限定されることはない。弾性体Eの大きさ、形状、ピッチは異なってもよく、必要に応じて適宜変更することができる。
【0054】
《本発明の他の実施形態》
図9から
図11は本発明の他の実施形態の説明図である。これらの図に示した自動車用遮音パネルS2、S3、S4において
図1に示した自動車用遮音パネルS1の構成部材と同一の部材には同一の符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0055】
図9の自動車用遮音パネルS2では、表面層2と弾性層3との間に、中間吸音層9を形成する中間吸音パネル材P3を設けている。また、その中間吸音パネル材P3は第3の孔H3を備えている。そして、この自動車用遮音パネルS2でも収容空間部4は弾性体Eの第1の振動膜5とその周辺部によって2室41、42に仕切られており、2室41、42のうち中間吸音パネル材P3側に位置する室42に対して第3の孔H3が連通することにより、その室42と第3の孔H3とによる第3のヘルムホルツ共鳴器AG3が構成されている。
【0056】
図10の自動車用遮音パネルS3では、吸音層1は、その層全体のうち少なくとも表面層2に隣接する面付近がそれ以外の部分とは性状の異なるスキン層1Aになっていて、該スキン層1Aにより表面層2から吸音層1までの範囲全体の通気性が調整されている。
【0057】
前記のようなスキン層1Aは、吸音パネル材P1を金型で成形する際の当該金型との接触面付近に形成されたものでもよいし、また、吸音パネル材P1に対して別部材を後付け貼付することによって形成されたものあってもよい。
【0058】
スキン層1Aは、収容空間部4の底部となる範囲BT(
図10参照)が第3の振動膜8として機能するように構成されている。この第3の振動膜8は、騒音等の音エネルギー、振動エネルギーによって自由に振動できる膜であってもよい。
【0059】
図11に示した実施形態の自動車用遮音パネルS4では、中間吸音パネル材P2は、収容空間部4の上面開口4Aと対向する範囲が開口するように構成した。また、収容空間部4の底も開口するように構成した。
【0060】
《以上のまとめ》
以上説明した実施形態の自動車用遮音パネルS1からS4にあっては、その具体的な構造として、いずれも、吸音層1のほか、第1の振動膜5および第2の振動膜7を備える構成を採用した。このため、例えば吸音層1あるいは表面層2若しくはその双方の重量を増やさなくても、第1の振動膜5や第2の振動膜7の振動によって重量則を超える吸音効果が得られること、および、第1および第2の振動膜5、7によって低周波数帯の吸音に対応可能であること、これに加えて更に、吸音層1での吸音効果が得られることから、自動車用遮音パネルの軽量化、および、遮音可能な周波数帯の拡張、遮音性能の向上を図るのに好適である。
【0061】
さらに、前記自動車用遮音パネルS1からS4によると、その具体的な構造として、前述の通り、吸音パネル材P1が自動車の遮音を要する面の凹凸に沿って変形可能に設けられる構成を採用したため、この種の自動車用遮音パネルを当該面に設置したときの該面の立体的な凹凸に柔軟に対応し得る変形性(立体的自由度)に優れる。
【0062】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 吸音層
1A スキン層
2 表面層
3 弾性層
4 収容空間部
4A 収容空間部の上面開口
41 第1の室
42 第2の室
5 第1の振動膜
6 凹部
6A リング部
7 第2の振動膜
8 第3の振動膜
9 中間吸音層
AG1 第1のヘルムホルツ共鳴器
AG2 第2のヘルムホルツ共鳴器
CN 繋ぎ部
E 弾性体
H1 第1の孔
H2 第2の孔
H3 第3の孔
P1 吸音パネル材
P2 表面パネル材
P3 中間吸音パネル材
S1 自動車用遮音パネル