(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】快削性超硬合金
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20231115BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231115BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20231115BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2018164418
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-06-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390002521
【氏名又は名称】ダイジ▲ェ▼ット工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087572
【氏名又は名称】松川 克明
(72)【発明者】
【氏名】小坂田 宏造
(72)【発明者】
【氏名】森 章司
(72)【発明者】
【氏名】長田 昌文
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 知紘
(72)【発明者】
【氏名】手塚 一博
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】土屋 知久
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-342744(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106399792(CN,A)
【文献】特開2008-201080(JP,A)
【文献】特開2006-144089(JP,A)
【文献】特開2003-268480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-8/00
B22F10/00-12/90
C22C1/04-1/05
C22C29/08
C22C33/02
B23B27/00-29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする金属結合相とを有する超硬合金に、硼素又は硼化物の少なくとも1種以上が含有された快削性超硬合金において、平均粒径が2.2~5.0μmの炭化タングステンを原料に用い、前記の金属結合相の主成分がコバルトであり、超硬合金中におけるコバルトの含有量が5~35重量%の範囲内であり、前記の硼素又は硼化物の少なくとも1種以上が、硼素元素に換算して
0.02~0.1重量%の範囲で含有されていることを特徴とする快削性超硬合金。
【請求項2】
請求項1に記載の快削性超硬合金において、前記の超硬合金中におけるコバルトの含有量が15~35重量%の範囲内であることを特徴とする快削性超硬合金。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載の快削性超硬合金において、前記の硬質相に含まれる炭化タングステンの0~35重量%を、タングステンを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上で置き換えたことを特徴とする快削性超硬合金。
【請求項4】
請求項3に記載の快削性超硬合金において、前記の硬質相に含まれる炭化タングステンを、タングステンを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上で置き換える量を10重量%以下にしたことを特徴とする快削性超硬合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする金属結合相とを有する超硬合金において、超硬合金における被削性等の切削加工性を向上させた快削性超硬合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超硬合金を加工して各種の工具を製造することが行われており、このように超硬合金を加工する場合、超硬合金の硬度が高いため、一般に鋼や非鉄金属などのように切削加工を行うことが困難であった。
【0003】
このため、超硬合金を加工するにあたって、従来においては、研削加工や放電加工が主体であり、高能率で低コストな切削加工が行える鋼や非鉄金属などと比較すると、その加工時間およびコストが膨大になるという問題があった。
【0004】
また、焼入れ鋼と同程度の比較的硬度が低い超硬合金においては、以前から高価な単結晶ダイヤモンド工具を用いて旋削加工することも行われているが、その場合においても、切削速度が極めて遅く、加工能率は低いものであった。
【0005】
また、近年においては、工作機械の進歩により、単結晶ダイヤモンド工具よりは安価なダイヤモンド焼結体やCBN焼結体のエンドミルを用いて、超硬合金を高速で転削加工することが試みられているが、ダイヤモンド焼結体やCBN焼結体を用いた工具の摩耗が著しく、超硬合金を充分に転削加工することは依然として困難な状況にあった。
【0006】
さらに、超硬合金を切削加工する切削工具の材料に関しても、一層高硬度なダイヤモンド焼結体やダイヤモンドコ-ティングを施した工具などの開発が精力的に行われているが、トータルコストの点で、研削加工や放電加工を凌ぐまでの成果が得られる状況には至っていない。
【0007】
このように、超硬合金を切削等によって加工するために、工作機械や工具の開発および改善などの加工技術の研究は精力的に行われているが、超硬合金は、主に鉄鋼・非鉄金属を加工するための工具に使用される材料であり、一般に非常に硬く脆い材料であり、これまで、超硬合金自体を容易に加工できるようにするため、超硬合金自体の加工性を改善するという技術は提案されていない。
【0008】
一方、従来においては、特許文献1に示されるように、長時間使用しても焼き付きやクラック等が発生しない自己潤滑超硬合金として、HIP処理を施すことにより、開気孔部を有する超硬合金焼結体の表層部において、無機系潤滑性粉末として、黒鉛化炭素含有物、二硫化タングステン、二硫化モリブデンおよび窒化硼素よりなる群から選択される少なくとも一種を含有させるようにしたものが提案されている。しかし、この特許文献1のものにおいては、超硬合金自体を容易に加工できるように切削加工性等を改善するという技術は示されていない。
【0009】
また、特許文献2に示されるように、金属粉末の熱間静水圧プレスにより製造された実質上空孔のない成形体に対して、固体潤滑剤として、二硫化モリブデンまたは窒化ホウ素の粉末を均一に分散させて含有させ、自己潤滑性を確保させた自己潤滑性金属が提案されている。しかし、この特許文献2のものにおいても、前記の特許文献1のものと同様に、超硬合金自体を容易に加工できるように切削加工性等を改善するという技術は示されていない。
【0010】
また、特許文献3においては、WC基超硬合金の表面を硼化処理して、結合金属成分を減少、または硼化相とすることにより、被削材に対する耐溶着性を改良させるようにしたものが提案されている。しかし、この特許文献2のものにおいても、前記の特許文献1、2のものと同様に、超硬合金自体を容易に加工できるように切削加工性等を改善するという技術は示されていない。
【0011】
また、特許文献4においては、超硬合金やサーメット合金を粉末冶金法で製造する際の表面性状につき、焼結工程において、結合相が主成分で構成された表面層が形成されないようにするため、硬質相と、3~30重量%の鉄系金属の1種以上からなる結合相と、残部は不可避不純物からなる硬質材料において、前記硬質相は、炭化タングステンと、周期律表IVa,Va,VIa族遷移金属と炭素、窒素、酸素および硼素から選択される1種以上との化合物または固溶体相の1種以上を0.1~50重量%とを、焼結温度まで適切な雰囲気中で加熱する工程を行った後、これを冷却させる工程を、焼結温度から少なくとも1100℃までは0.01~45kPaの圧力の水素雰囲気中で行うようにしたものが提案されている。しかし、この特許文献4のものにおいても、前記の特許文献1~3のものと同様に、超硬合金自体を容易に加工できるように切削加工性等を改善するという技術は示されていない。
【0012】
また、特許文献5においては、高硬度で耐摩耗性に優れると共に耐食性にも優れ、切削工具,耐摩耗性工具,耐食性工具及び各種の部品に好適に使用できるWCを主成分とする超硬合金を提供するにあたり、WCを主成分とする超硬合金において、この超硬合金中に結合相を構成するNiを10~20重量%、金属の硼化物を0.2~5.0重量%の範囲で含有させると共に、Crの炭化物を、結合相を構成する上記のNiに対して50~150重量%の範囲で含有させるようにしたものが提案されている。しかし、この特許文献5のものにおいても、前記の特許文献1~4のものと同様に、超硬合金自体を容易に加工できるように切削加工性等を改善するという技術は示されていない。
【0013】
また、特許文献6においては、機械的な強度を維持しつつ、工具基体を構成する超硬合金の潤滑性を向上させるように、炭化タングステンの粒子間を結合金属により焼結結合した超硬合金において、上記炭化タングステンの粒子間を結合する結合金属中に、六方晶窒化ホウ素(h-BN)を分散形成して低摩擦化性能を向上させた超硬合金が提案されている。しかし、この特許文献6のものにおいても、前記の特許文献1~5のものと同様に、超硬合金自体を容易に加工できるように切削加工性等を改善するという技術は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平7-188708号公報
【文献】特開平11-241129号公報
【文献】特開平8-118110号公報
【文献】特開2003-14205号公報
【文献】特開2001-294969号公報
【文献】特開2014-37612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする金属結合相とを有する超硬合金において、超硬合金自体を容易に加工できるように切削加工性等を改善することを課題とするものである。
【0016】
すなわち、本発明は、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする金属結合相とを有する超硬合金において、超硬合金における被削性等の切削加工性を向上させた快削性超硬合金を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る快削性超硬合金においては、上記のような課題を解決するため、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする金属結合相とを有する超硬合金に、硼素又は硼化物の少なくとも1種以上が含有された快削性超硬合金において、平均粒径が2.2~5.0μmの炭化タングステンを原料に用い、前記の金属結合相の主成分がコバルトであり、超硬合金中におけるコバルトの含有量が5~35重量%の範囲内であり、前記の硼素又は硼化物の少なくとも1種以上が、硼素元素に換算して0.02~0.1重量%の範囲で含有されるようにした。
【0018】
ここで、本発明に係る快削性超硬合金において、前記のように超硬合金に、硼素又は硼化物の少なくとも1種以上が、硼素元素に換算して0.02~0.1重量%の範囲で含有されるようにしたのは、含有される硼素元素の量が少ないと、この超硬合金における切削加工性を十分に向上させることができず、この超硬合金を切削加工するのに使用する切削工具の摩耗量を充分低下させることができなくなる。一方、含有される硼素元素の量が多くなりすぎると、超硬合金の内部に空隙が発生し易くなり、超硬合金としての十分な硬度と強度が得られなくなるためである。
【0019】
そして、本発明に係る快削性超硬合金においては、さらに被削性等の切削加工性を向上させると共に、超硬合金としてさらに十分な硬度と強度が得られるようにするため、超硬合金中に含有させる前記の硼素又は硼化物の少なくとも1種以上を、硼素元素に換算して0.02~0.1重量%の範囲で含有させるようにした。
【0020】
ここで、本発明に係る快削性超硬合金において、前記の金属結合相の主成分としては一般にコバルトが用いられ、この超硬合金において、十分な硬度、強度及び靱性が得られるようにするためには、この超硬合金中における金属結合相に用いるコバルトの量を5~35重量%の範囲内にすることが好ましく、さらに、超硬合金中におけるコバルトの量を15~35重量%の範囲内にすることがより好ましい。
【0021】
また、本発明に係る快削性超硬合金においては、前記の硬質相に含まれる炭化タングステンの0~35重量%を、タングステンを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上で置き換えたものを用いることができる。そして、炭化タングステンを、例えば、CrやVの炭化物で置換させた場合には、炭化タングステンの粒子の成長を抑制して、微細な組織をもった超硬合金を得ることができ、またTaやNbやTiの炭化物、窒化物及び炭窒化物で置換させた場合には、従来の超硬合金の場合と同様に、高温領域での特性が向上させることができるようになる。但し、本発明に係る快削性超硬合金において、超硬合金における切削加工性を十分に向上させて快削性を高める点からは、炭化タングステンを、タングステンを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上で置き換える量を10重量%以下にすることが好ましい。
【0022】
そして、本発明に係る快削性超硬合金において、前記のように硼素又は硼化物の少なくとも1種以上を、硼素元素に換算して0.02~0.1重量%の範囲で含有させるようにした場合に、超硬合金の被削性が向上する機構は充分に解明されていないが、要因のひとつとして、この超硬合金を切削加工する場合等に、硬質相に含まれる主成分である炭化タングステンの破砕性が向上すると考えられる。
【0023】
ここで、後述する本発明の実施例26における超硬合金を用い、
図1においては、この実施例26の超硬合金の表面に鏡面加工を施した場合における表面の電子顕微鏡観察像を示し、
図2においては、前記の鏡面加工を施した超硬合金の表面を多結晶焼結ダイヤモンド製エンドミルで転削加工した後の表面の電子顕微鏡観察像を示し、
図3においては、前記のように転削加工した超硬合金の表面に鏡面加工を施した場合における表面の電子顕微鏡観察像を示した。
【0024】
この結果、転削加工を行う前の超硬合金の表面においては、
図1に示すように、硬質相における炭化タングステンは明瞭な角をもった形状を呈しているが、この超硬合金の表面を多結晶焼結ダイヤモンド製エンドミルで転削加工した後の表面及びこれを鏡面加工した超硬合金の表面においては、
図2及び
図3に示すように、炭化タングステンの大半は粉砕、破壊していることが分かる。そして、このように硬質相の主成分となる炭化タングステンの多くが粉砕、破壊しているため、炭化タングステンの破砕性が向上して、この超硬合金を切削加工する場合における被削性が向上すると考えられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明における快削性超硬合金においては、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする金属結合相とを有する超硬合金に、硼素又は硼化物の少なくとも1種以上が含有された快削性超硬合金において、平均粒径が2.2~5.0μmの炭化タングステンを原料に用い、前記の金属結合相の主成分がコバルトであり、超硬合金中におけるコバルトの含有量が5~35重量%の範囲であり、前記の硼素又は硼化物の少なくとも1種以上が、硼素元素に換算して0.02~0.1重量%の範囲で含有させるようにしたため、この超硬合金を切削加工した場合に、前記のように硬質相の主成分となる炭化タングステンの多くが粉砕、破壊した状態になる。
【0026】
この結果、本発明においては、炭化タングステンを主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする金属結合相とを有する超硬合金において、超硬合金における被削性等の切削加工性を向上させた快削性超硬合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施例26に示すようにして得た超硬合金の表面を鏡面加工した場合における表面の電子顕微鏡観察像を示した図である。
【
図2】前記の実施例26において、鏡面加工を施した超硬合金の表面を多結晶焼結ダイヤモンド製エンドミルで転削加工した後の表面の電子顕微鏡観察像を示した図である。
【
図3】前記の実施例26において、鏡面加工を施した超硬合金の表面を多結晶焼結ダイヤモンド製エンドミルで転削加工した後の表面を鏡面加工した場合における表面の電子顕微鏡観察像を示した図である。
【
図4】本発明の実施例、参考例及び比較例の超硬合金を用いて条件1、2における快削性を調べるにあたり、実施例及び比較例の超硬合金の焼結体を外径50mm、内径10mm、高さ100mmの円筒状に研削加工した被削材を示した概略斜視図である。
【
図5】本発明の実施例、参考例及び比較例の超硬合金を用いて条件3における快削性を調べるにあたり、実施例、参考例及び比較例の超硬合金の焼結体を縦50mm、横50mm、高さ50mmになった正方体状に研削加工した被削材を示した概略斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明の実施形態に係る快削性超硬合金を、具体的な実施例を挙げて説明する。なお、この発明における快削性超硬合金は、特に下記の実施形態に示した実施例のものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0029】
(参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7)
参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7においては、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.005~0.5重量%の範囲で含有させた実施例1~7のものと、硼素を含有させなかった比較例1のものと、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して前記の範囲外で含有させた比較例2~7のものとを用い、機械的特性および被削性を比較するようにした。
【0030】
ここで、参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7においては、超硬合金の原料粉末として、下記の表1に示すように、平均粒径が5.0μmのWC粉末と、平均粒径が4.5μmのWB粉末と、平均粒径が1.5μmのCo粉末とを用い、これらを同表に示す配合組成(重量%)になるように配合させた。なお、下記の表1において、WCの配合組成は、他の超硬合金の原料であるWBやCoを除いた残量であって「残」として示した。また、WBの配合組成については、超硬合金全体に対する硼素元素だけを換算した硼素含有量(重量%)も合わせて示した。
【0031】
そして、下記の表1に示す配合組成に配合させた前記の各超硬合金の原料粉末に対して、混合溶剤としてアセトンを使用し、超硬合金製ボールを用いたボールミルによってそれぞれ48時間混合させた後、各混合物に対してそれぞれ2重量%のパラフィンを添加した後、これらを乾燥させて、実施例1~7及び比較例1~7に用いる各超硬合金用の粉末を得た。
【0032】
次いで、前記の各超硬合金用の粉末を、それぞれ所定の形状に98MPaの圧力でプレス成形した後、アルゴンガス雰囲気中で100Paの減圧下において、下記の表1に示すように、1370℃の温度で60分間焼結させて、参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の各超硬合金の焼結体を得た。
【0033】
【0034】
そして、前記のようにして得た参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の各超硬合金における焼結体の密度(g/cm3)、ビッカース(Hv)硬さ(GPa)、抗折力(GPa)、破壊靱性値(MPam1/2)を測定し、その測定結果を下記の表2に示した。ここで、表2に示した密度は日本機械工具工業会規格TAS 0052に基づいて、Hv硬さはJIS Z 2244:2009に基づいて、抗折力は日本機械工具工業会規格TAS 0050に基づいて、破壊靱性値はJIS R 1607:2015に基づいて測定した値である。
【0035】
【0036】
この結果、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.005~0.5重量%の範囲で含有させた参考例1,2,6,7、実施例3~5の各超硬合金及び硼素元素の含有量が本発明の範囲の範囲より少ない比較例2~4の各超硬合金は、硼素を含有させていない比較例1の超硬合金と、密度、Hv硬さ、抗折力、破壊靱性値の機械的特性において大きな差は認められず、超硬合金に硼素元素を0.5重量%以下になるように含有させた場合には、超硬合金における機械的特性への影響はなく、硼素を含有させていない従来の超硬合金と同様に、工具素材などに適応できるものであった。一方、硼素元素の含有量が本発明の範囲より多い0.6重量%になった比較例5の超硬合金においては、特に、超硬合金における抗折力の低下が大きくなっており、さらに硼素元素の含有量が0.8重量%以上になった比較例6、7の超硬合金においては、超硬合金の内部における空隙が多くなって、Hv硬さ、抗折力、破壊靱性値を測定することができなかったため、表2においては計測不能として示した。
【0037】
次に、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の各超硬合金を使用し、下記の条件1~3に示すように、それぞれ被削材を所定の形状に成形すると共に、それぞれの切削条件で切削加工を行った結果を下記の表3に示した。
【0038】
ここで、条件1、2においては、
参考例1,2,6,7、実施例
3~5及び比較例1~7の各超硬合金の焼結体に対して、ダイヤモンド砥石を使用して研削加工を行い、
図4に示すように、それぞれ外径が50mm、内径が10mm、高さが100mmになった円筒状の被削材W1を作製した。
【0039】
次いで、条件1、2においては、前記のように作製した参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の各超硬合金を用いた円筒状の各被削材W1をNC旋盤にセットして回転させ、各被削材W1における外径が50mm、内径が10mmになった円筒状の端面側を、多結晶ダイヤモンド(PCD)(ダイヤモンド含有量90重量%、Hv硬さ60GPa)製のISO規格SNGN120408チップを装着させたバイトを使用し、条件1では、切削速度を30m/min、被削材W1の軸方向xの切込みを0.3mm、被削材W1の半径方向rの送りを0.1mm/revの条件で旋削加工を行い、また条件2では、切削能率を高めるように、切削速度を100m/min、切込みを0.3mm、送りを0.2mm/revの条件で旋削加工を行った。そして、条件1、2においては、それぞれ切削長さ10mごとに前記のPCDチップにおける逃げ面の摩耗量及びチップの欠けを調べ、チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)を求め、その結果を下記の表3に示した。なお、比較例5~7の各超硬合金を用いて作製した各被削材においては、前記の条件1、2に示すようにして旋削加工をした場合に、これらの被削材やチップに欠けが発生して、チップの摩耗量を測定することができなかったため、計測不能として示した。
【0040】
また、条件3では、
参考例1,2,6,7、実施例
3~5及び比較例1~7の各超硬合金の焼結体に対して、ダイヤモンド砥石を使用して研削加工を行い、
図5に示すように、それぞれ縦50mm、横50mm、高さ50mmになった正方体状の被削材W2を作製した。
【0041】
次いで、条件3においては、前記のように作製した参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の各超硬合金を用いた正方体状の各被削材W2を、多結晶ダイヤモンド(PCD)(ダイヤモンド含有量90重量%、Hv硬さ60GPa)製で半径1.0mmのボールエンドミルを使用し、回転数を20000min-1、送り速度vを75m/min、ボールエンドミルの軸方向yの切込み深さを0.2mm、ボールエンドミルの半径方向zの切込み深さを0.1mmの条件で転削加工を行った。そして、切削除去量10mm3ごとに前記のPCD製ボールエンドミルの摩耗量及びチップの欠けを調べ、摩耗量が0.2mmになるまでの切削除去量(mm3)を求め、その結果を表3に合わせて示した。なお、比較例5~7の各超硬合金を用いて作製した各被削材においては、前記の条件3に示すようにして転削加工をした場合に、これらの被削材やボールエンドミルに欠けが発生して、摩耗量が0.2mmとなるまでの切削除去量(mm3)を求めることができなかったため、計測不能とし
て示した。
【0042】
【0043】
この結果、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.005~0.5重量%の範囲で含有させた参考例1,2,6,7、実施例3~5の各超硬合金を用いたものは、超硬合金に硼素元素を含有させていない比較例1の超硬合金を用いたものに比べて、条件1に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)が約2~7倍になっており、条件2に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)が約2~7倍になっており、また条件3に示したPCD製ボールエンドミルの摩耗量が0.2mmとなるまでの切削除去量(mm3)も約2~7倍になっていた。特に、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.01~0.2重量%の範囲で含有させた参考例2,6、実施例3~5の各超硬合金において、前記の条件1~3に示した値がさらに改善されており、特に、硼素元素に換算して0.02~0.1重量%の範囲で含有させた実施例3~5の各超硬合金においては、前記の条件1~3に示した値がさらに大幅に改善されており、超硬合金における被削性等の切削加工性が大きく向上していた。
【0044】
一方、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.005重量%未満の0.0005~0.002重量%範囲で含有させた比較例2~4の各超硬合金においては、超硬合金に硼素元素を含有させていない比較例1の超硬合金を用いたものに対して、前記の条件1~3に示した値がほとんど改善されていなかった。なお、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.5重量%を超える0.6重量%以上含有させた比較例5~7の各超硬合金においては、被削材等に欠けが発生して、計測不能であった。
【0045】
(参考例8,9、実施例10~13及び比較例8~13)
参考例8,9、実施例10~13及び比較例8~13においては、超硬合金の原料粉末として、下記の表4に示すように、平均粒径が1.0~5.0μmのWC粉末と、平均粒径が4.5μmのWB粉末と、平均粒径が1.5μmのCo粉末と、平均粒径が1.8μmのCr3C2粉末とを用い、これらを表4に示す配合組成(重量%)になるように配合させた。なお、下記の表4においても、WCの配合組成は、他の超硬合金の原料を除いた残量であって「残」として示し、WBについては、超硬合金全体に対する硼素元素だけを換算した硼素含有量(重量%)も合わせて示した。
【0046】
また、比較例8~13においては、参考例8,9、実施例10~13に対してWB粉末を添加させないようにして硼素元素を加えないようにし、それ以外の超硬合金の原料粉末については、表4に示すように、それぞれ対応する参考例8,9、実施例10~13に一致させるようにした。
【0047】
そして、下記の表4に示す配合組成に配合させた前記の各超硬合金の原料粉末に対して、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の場合と同様に、混合溶剤としてアセトンを使用し、超硬合金製ボールを用いたボールミルによってそれぞれ48時間混合させた後、各混合物に対してそれぞれ2重量%のパラフィンを添加した後、これらを乾燥させて、参考例8,9、実施例10~13及び比較例8~13に用いる各超硬合金用の粉末を得た。
【0048】
次いで、前記の各超硬合金用の粉末を、それぞれ所定の形状に98MPaの圧力でプレス成形した後、アルゴンガス雰囲気中で100Paの減圧下において、下記の表4に示すように、1300℃~1600℃の所定の温度で60分間焼結させて、参考例8,9、実施例10~13及び比較例8~13の各超硬合金の焼結体を得た。また、金属結合相に用いるCo粉末の量が少ない参考例8、9及び比較例8、9の各超硬合金の焼結体については、さらにアルゴンガス雰囲気中において、温度1400℃、圧力100MPaの条件でHIP処理を行った。
【0049】
【0050】
そして、前記のようにして得た参考例8,9、実施例10~13及び比較例8~13の各超硬合金の焼結体に対して、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の場合と同様にして、焼結体の密度(g/cm3)、ビッカース(Hv)硬さ(GPa)、抗折力(GPa)、破壊靱性値(MPam1/2)を測定し、その測定結果を下記の表5に示した。
【0051】
【0052】
この結果、超硬合金中に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.04重量%の割合で含有させた参考例8,9、実施例10~13のものは、硼素を含有させなかった対応する比較例8~13のものと、密度、Hv硬さ、抗折力、破壊靱性値の機械的特性において殆ど差は認められず、機械的特性への影響はなかった。
【0053】
次に、前記の参考例8,9、実施例10~13及び比較例8~13の各超硬合金を使用し、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5、及び比較例1~7の場合と同様に、前記の条件1~3に示すように、それぞれ被削材を所定の形状に成形すると共に、それぞれの切削条件で切削加工を行った結果を下記の表6に示した。なお、比較例8、9の各超硬合金を用いて作製した各被削材においては、前記の条件1、2に示すようにして旋削加工をした場合に、これらの被削材やチップに欠けが発生して、条件1、2におけるチップの摩耗量を測定することができず、また、前記の条件3に示すようにして転削加工をした場合に、これらの被削材やボールエンドミルに欠けが発生して、摩耗量が0.2mmとなるまでの切削除去量(mm3)を求めることができなかったため、計測不能として示した。
【0054】
【0055】
そして、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.04重量%になるように含有させた参考例8,9、実施例10~13の各超硬合金を用いたものと、超硬合金に硼素元素を含有させていない点を除いて対応する比較例8~13の超硬合金を用いたものとを比較した結果、表6に示すように、参考例8,9、実施例10~13の各超硬合金を用いたものは、条件1に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)が、計測不能な比較例8、9を除いて、比較例10~13の超硬合金を用いたものの約6倍になっていた。また、条件2に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)は、計測不能な比較例8、9を除いて、比較例10~13の超硬合金を用いたものの約5~6倍になっていた。さらに、条件3に示したPCD製ボールエンドミルの摩耗量が0.2mmとなるまでの切削除去量(mm3)も、計測不能な比較例8、9を除いて、比較例10~13の超硬合金を用いたものの約6倍になっていた。
【0056】
このように、硼素元素が0.04重量%になるように含有させた参考例8,9、実施例10~13の各超硬合金は、それぞれ対応する比較例8~13の超硬合金に比べて、超硬合金における被削性等の切削加工性が大きく向上していた。
【0057】
(実施例14~22及び比較例14~22)
実施例14~22及び比較例14~22においては、超硬合金の硬質相におけるWC粉末の一部を、W(タングステン)を除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上の原料粉末で置き換え、また超硬合金の金属結合相におけるCo粉末の他にNi粉末を用いるようにし、前記のように超硬合金に所定量の硼素元素を含有させた実施例の超硬合金と、硼素元素を含有させなかった比較例の超硬合金とを比較するようにした。
【0058】
そして、実施例14~22及び比較例14~22においては、超硬合金の原料粉末として、下記の表7に示すように、平均粒径が2.2~5.0μmのWC粉末と、平均粒径が4.5μmのWB粉末と、平均粒径が1.5μmのCo粉末と、平均粒径が2.0μmのNi粉末と、平均粒径が1.8μmのCr3C2粉末と、平均粒径が2.2μmのVC粉末と、平均粒径が1.0μmのTaC粉末と、平均粒径が3.0μmのMo2C粉末と、平均粒径が1.2μmのTiN粉末と、平均粒径が1.2μmのTiCN(5:5)粉末とを用い、これらを表7に示す配合組成(重量%)になるように配合させた。なお、下記の表7においても、WCの配合組成は、他の超硬合金の原料を除いた残量であって「残」として示し、WBについては、超硬合金全体に対する硼素元素だけを換算した硼素含有量(重量%)も合わせて示した。
【0059】
また、比較例14~22においては、それぞれ対応する実施例14~22に対してWB粉末を添加させないで硼素元素を加えないようにし、それ以外の超硬合金の原料粉末については、表7に示すように、対応する実施例14~22に一致させるようにした。
【0060】
そして、下記の表7に示す配合組成に配合させた前記の各超硬合金の原料粉末に対して、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の場合と同様に、混合溶剤としてアセトンを使用し、超硬合金製ボールを用いたボールミルによってそれぞれ48時間混合させた後、各混合物に対してそれぞれ2重量%のパラフィンを添加した後、これらを乾燥させて、実施例14~22及び比較例14~22に用いる各超硬合金用の粉末を得た。
【0061】
次いで、前記の各超硬合金用の粉末を、それぞれ所定の形状に98MPaの圧力でプレス成形した後、アルゴンガス雰囲気中で100Paの減圧下において、下記の表7に示すように、1350℃~1400℃の所定の温度で60分間焼結させて、実施例14~22及び比較例14~22の各超硬合金の焼結体を得た。
【0062】
【0063】
そして、前記のようにして得た実施例14~22及び比較例14~22の各超硬合金の焼結体に対して、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の場合と同様にして、焼結体の密度(g/cm3)、ビッカース(Hv)硬さ(GPa)、抗折力(GPa)、破壊靱性値(MPam1/2)を測定し、その測定結果を下記の表8に示した。
【0064】
【0065】
この結果、超硬合金中に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.04重量%の割合で含有させた実施例14~22のものは、硼素を含有させなかった対応する比較例14~22のものと、密度、Hv硬さ、抗折力、破壊靱性値の機械的特性において殆ど差は認められず、機械的特性への影響はなかった。
【0066】
次に、前記の実施例14~22及び比較例14~22の各超硬合金を使用し、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の場合と同様に、前記の条件1~3に示すように、それぞれ被削材を所定の形状に成形すると共に、それぞれの切削条件で切削加工を行った結果を下記の表9に示した。なお、比較例20の超硬合金を用いて作製した被削材においては、前記の条件2に示すように旋削加工をした場合に、この被削材やチップに欠けが発生して、条件2におけるチップの摩耗量を測定することができなかったため、計測不能として示した。
【0067】
【0068】
そして、前記のように超硬合金の硬質相におけるWC粉末の一部を、Wを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上の原料粉末で置き換え、また金属結合相にCo粉末の他にNi粉末を用いた場合においても、超硬合金に硼化物のWBを硼素元素に換算して0.04重量%になるように含有させた実施例14~22の各超硬合金を用いたものと、超硬合金に硼素元素を含有させていない点を除いて対応する比較例14~22の超硬合金を用いたものとを比較すると、表9に示すように、実施例14~22の各超硬合金を用いたものは、条件1に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)が、比較例14~22の超硬合金を用いたものの4倍以上になっていた。また、条件2に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)は、計測不能な比較例20を除いて、比較例14~19、21、22の超硬合金を用いたものの4倍以上になっていた。さらに、条件3に示したPCD製ボールエンドミルの摩耗量が0.2mmとなるまでの切削除去量(mm3)も、比較例14~22の超硬合金を用いたものの4倍以上になっていた。
【0069】
このように、超硬合金の硬質相におけるWC粉末の一部を、Wを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上の原料粉末で置き換え、また金属結合相にCo粉末の他にNi粉末を用いた場合においても、硼素元素が0.04重量%になるように含有させた実施例14~22の各超硬合金は、それぞれ対応する比較例14~22の超硬合金に比べて、超硬合金における被削性等の切削加工性が大きく向上していた。
【0070】
また、超硬合金の硬質相におけるWC粉末の一部を、Wを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上の原料粉末で置き換え、また金属結合相にCo粉末の他にNi粉末を用いた実施例14~22の各超硬合金を使用した場合、一般に、WC粉末の一部を、Wを除く周期律表第IVa,Va,VIa族の遷移金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも1種以上の原料粉末で置き換える量が増加するにつれて、前記の条件1~3に示す値が低下しており、実施例14~19に示すように、WC粉末の一部を、Wを除く前記の原料粉末に置き換える量を10重量%以下にすることが好ましかった。
【0071】
(実施例23~29及び比較例23)
実施例23~29及び比較例23においては、超硬合金に硼素又は硼化物の少なくとも1種以上を硼素元素に換算して0.004重量%の割合で含有させた実施例23~29のものと、硼素を含有させていない比較例23のものとを用い、機械的特性および被削性を比較するようにした。
【0072】
ここで、実施例23~29及び比較例23においては、超硬合金の原料粉末として、下記の表10に示すように、平均粒径が5.0μmのWC粉末と、平均粒径が1.5μmのCo粉末とを用い、さらに実施例23~29においては、超硬合金に硼素元素を含有させるにあたり、硼素又は硼化物として、平均粒径が4.5μmのWB粉末と、平均粒径が25.0μmのB粉末と、平均粒径が4.0μmのTiB2粉末と、平均粒径が3.5μmのBN粉末と、平均粒径が7.0μmのB4C粉末とを用い、これらを同表に示す配合組成(重量%)になるように配合させた。なお、下記の表10においても、WCの配合組成は、他の超硬合金の原料であるCoや硼素又は硼化物を除いた残量であって「残」として示した。また、硼素又は硼化物を添加させた実施例23~29の超硬合金における硼素元素だけを換算した硼素含有量(重量%)については、B含有として示した。
【0073】
そして、下記の表10に示す配合組成に配合させた前記の各超硬合金の原料粉末に対して、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の場合と同様に、混合溶剤としてアセトンを使用し、超硬合金製ボールを用いたボールミルによってそれぞれ48時間混合させた後、各混合物に対してそれぞれ2重量%のパラフィンを添加した後、これらを乾燥させて、実施例23~29及び比較例23に用いる各超硬合金用の粉末を得た。
【0074】
次いで、前記の各超硬合金用の粉末を、それぞれ所定の形状に98MPaの圧力でプレス成形した後、アルゴンガス雰囲気中で100Paの減圧下において、下記の表10に示すように、1350℃の温度で60分間焼結させて、実施例23~29及び比較例23の各超硬合金の焼結体を得た。
【0075】
【0076】
そして、前記のようにして得た実施例23~29及び比較例23の各超硬合金の焼結体に対して、前記の参考例1,2,6,7、実施例3~5及び比較例1~7の場合と同様にして、焼結体の密度(g/cm3)、ビッカース(Hv)硬さ(GPa)、抗折力(GPa)、破壊靱性値(MPam1/2)を測定し、その測定結果を下記の表11に示した。
【0077】
【0078】
この結果、超硬合金中に硼素又は硼化物を硼素元素に換算して0.04重量%の割合で含有させた実施例23~29のものは、硼素を含有させなかった対応する比較例23のものと、密度、Hv硬さ、抗折力、破壊靱性値の機械的特性において殆ど差は認められず、機械的特性への影響はなかった。
【0079】
次に、前記の実施例23~29及び比較例23の各超硬合金を使用し、前記の参考例1、実施例2~7及び比較例1~7の場合と同様に、前記の条件1~3に示すように、それぞれ被削材を所定の形状に成形すると共に、それぞれの切削条件で切削加工を行った結果を下記の表12に示した。
【0080】
【0081】
この結果、実施例23~29に示す超硬合金のように、超硬合金中に硼素元素を0.04重量%含有させるにあたって、硼素又は硼化物として、前記のようにWB粉末、B粉末、TiB2粉末、BN粉末、B4C粉末の何れを用いた場合においても、超硬合金に硼素元素を含有させていない比較例23の超硬合金を用いたものとを比較すると、条件1に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)が6倍以上になっており、条件2に示した旋削加工におけるPCD製チップの摩耗量が0.3mmになるまでの切削長さ(m)が5倍以上になっており、さらに条件3に示したPCD製ボールエンドミルの摩耗量が0.2mmとなるまでの切削除去量(mm3)も5倍以上になっていた。
【0082】
このことから、超硬合金中に硼素元素を含有させるにあたり、硼素を添加させる形態は、硼素元素単体でも、硼素を含む化合物であってもよく、これらを組み合わせて添加させるようにしても、超硬合金中に所定量の硼素元素を含有させるようにすれば、前記のように同様の効果が得られることが分かった。
【0083】
なお、前記の実施例26に示すようにして得た超硬合金の表面に鏡面加工を施した場合における表面の電子顕微鏡観察像を
図1に、実施例26における鏡面加工を施した超硬合金の表面を多結晶焼結ダイヤモンド製エンドミルで転削加工した後の表面の電子顕微鏡観察像を
図2に、実施例26において多結晶焼結ダイヤモンド製エンドミルで転削加工した後の表面に鏡面加工を施した場合における表面の電子顕微鏡観察像を
図3に示した。
【0084】
この結果、前記のように転削加工を行う前の実施例26の超硬合金の表面は、
図1に示すように、硬質相における炭化タングステンは明瞭な角をもった形状を呈しているが、この超硬合金の表面を多結晶焼結ダイヤモンド製エンドミルで転削加工した後の表面及びこれを鏡面加工した超硬合金の表面においては、
図2及び
図3に示すように、炭化タングステンの大半は粉砕、破壊しており、このように硬質相の主成分となる炭化タングステンの多くが粉砕、破壊しているため、炭化タングステンの破砕性が向上して、この超硬合金における被削性が向上したと考えられる。
【符号の説明】
【0085】
W1 :被削材
r :被削材W1の半径方向
x :被削材W1の軸方向
W2 :被削材
v :被削材W2を転削加工するエンドミルの送り速度
y :被削材W2を転削加工するエンドミルの軸方向
z :被削材W2を転削加工するエンドミルの半径方向