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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】複合体の製造方法および複合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/40 20060101AFI20231115BHJP
   B29C 70/14 20060101ALI20231115BHJP
   B32B 37/24 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B29C65/40
B29C70/14
B32B37/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019137159
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021020345
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】595014516
【氏名又は名称】株式会社アーク
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 健史
(72)【発明者】
【氏名】板東 十三夫
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/009125(WO,A1)
【文献】特開2018-052037(JP,A)
【文献】特開2015-083365(JP,A)
【文献】特開平09-001682(JP,A)
【文献】特開平06-134876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
B32B
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に配列されている繊維間に熱可塑性樹脂Aが含浸された、ペレット状の成形材を用意する工程と、
前記成形材に接して、熱可塑性樹脂Bを含む樹脂フィルムを配置する工程と、
前記成形材および前記樹脂フィルムを加熱および加圧して、前記成形材と前記樹脂フィルムとを接合させる工程と、
を有し、
前記熱可塑性樹脂Bは、前記熱可塑性樹脂Aと同種の樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂Bの融点は、前記熱可塑性樹脂Aの融点よりも低く、かつ前記融点の差は10℃以下である
複合体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは、複数枚の樹脂フィルムであり、
前記複数枚の樹脂フィルムは、得られる複合体の外観に応じた層間に加飾材を挟持する、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記複数枚の樹脂フィルムは、互いに異なる複数の層間に前記加飾材を挟持する、請求項2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂Aの融点と、前記複数枚の樹脂フィルムのうち前記成形材に接して配置された樹脂フィルムが含む熱可塑性樹脂Bの融点と、の差は20℃以下である、請求項2または3に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記複数枚の樹脂フィルムは、光透過性を有する、請求項2~4のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
一方向に配列されている繊維間に熱可塑性樹脂Aが含浸された、ペレット状の成形材を用意する工程と、
前記成形材に接して、熱可塑性樹脂Bを含む複数枚の樹脂フィルムを配置する工程と、
前記成形材および前記樹脂フィルムを加熱および加圧して、前記成形材と前記樹脂フィルムとを接合させる工程と、
を有し、
前記複数枚の樹脂フィルムは、得られる複合体の外観に応じた層間に加飾材を挟持する、
複合体の製造方法。
【請求項7】
基材層および表面層を有する複合体であって、
前記基材層は、熱可塑性樹脂Aを含むマトリクス中に複数の繊維が配向されてなる、複数の集合体が分散してなり、
前記表面層は、熱可塑性樹脂Bを含み、
前記熱可塑性樹脂Bは、前記熱可塑性樹脂Aと同種の樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂Bの融点は、前記熱可塑性樹脂Aの融点よりも低く、かつ前記融点の差は10℃以下である
複合体。
【請求項8】
前記表面層は、熱可塑性樹脂B中に、加飾材が埋め込まれて保持されている、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
前記複数の集合体は、前記熱可塑性樹脂Aおよび前記熱可塑性樹脂Bを含むマトリクス中に前記複数の繊維が配向されてなる集合体を含む、
請求項7または8に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体の製造方法および複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ペレット状の樹脂組成物(成形材)を熱圧成形する際に、得られる複合体の外観を変化させるため、加飾用シートを上記樹脂組成物に同時に接合させて、加飾された成形体(複合体)を製造する方法が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、加飾シートとシート状強化材とを加熱・加圧下に積層一体化してなる加熱成形用プリフォームシートと、熱硬化性樹脂成形材料とを加熱・加圧下に積層成形する、繊維強化プラスチック(FRP)加飾成形品の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、塩化ビニル樹脂を主材とする模様顕出用ペレットを、塩化ビニル樹脂を主材とする透明または半透明のプラスチックシート上に配置し、加圧プレスする、模様部表面がエンボスされたプラスチック床材の製造方法が記載されている。
【0005】
これらの成形体の製造方法では、通常、加飾用シートの融点を、成形材の融点よりも十分に高くしている(たとえば、特許文献3参照)。これは、加飾用シートの融点をより高くして熱による加飾用シートの変形を防ぎ、一方で成形材の融点をより低くして成形時に成形材を十分に溶融させて互いに接合させるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-202764号公報
【文献】特開昭61-149328号公報
【文献】特開2015-160393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~特許文献3に記載の方法は、複合体の美観(意匠性)を高めることを目的として実施されている。
【0008】
しかし、複合体の意匠性をより高めたり、別の外観を付与したりしたいとの要望は依然として存在する。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明は、得られる複合体の意匠性を高めたり、従来とは異なる外観を付与したりすることができる複合体の製造方法、および当該製造方法により製造された複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の一態様に関する複合体の製造方法は、一方向に配列されている繊維間に熱可塑性樹脂Aが含浸された、ペレット状の成形材を用意する工程と、上記成形材に接して、熱可塑性樹脂Bを含む樹脂フィルムを配置する工程と、上記成形材および上記樹脂フィルムを加熱および加圧して、上記成形材と上記樹脂フィルムとを接合させる工程と、を有する。上記方法において、上記熱可塑性樹脂Bの融点は、上記熱可塑性樹脂Aの融点よりも低い。
【0011】
また、上記の課題を解決するための本発明の一態様に関する複合体の製造方法は、一方向に配列されている繊維間に熱可塑性樹脂Aが含浸された、ペレット状の成形材を用意する工程と、上記成形材に接して、熱可塑性樹脂Bを含む複数枚の樹脂フィルムを配置する工程と、上記成形材および上記樹脂フィルムを加熱および加圧して、上記成形材と上記樹脂フィルムとを接合させる工程と、を有する。上記方法において、上記複数枚の樹脂フィルムは、得られる複合体の外観に応じた異なる層間に加飾材を挟持する。
【0012】
また、上記の課題を解決するための本発明の一態様に関する複合体は、基材層および表面層を有する複合体である。上記基材層は、熱可塑性樹脂Aを含むマトリクス中に複数の繊維が配向されてなる、複数の集合体が分散してなり、上記表面層は、熱可塑性樹脂B中に、加飾材が埋め込まれて保持されており、上記基材層は、上記複数の集合体の間隙に配置された熱可塑性樹脂Bを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、得られる複合体の意匠性を高めたり、従来とは異なる外観を付与したりすることができる複合体の製造方法、および当該製造方法により製造された複合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1の実施形態に関する複合体の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2は、第1の実施形態に関する複合体の製造方法に用いることができる熱圧成形装置の構成を示す模式的な断面図である。
図3図3は、第1の実施形態において、熱圧成形装置に成形材を配置した状態を示す模式図である。
図4図4は、第1の実施形態において、熱圧成形装置に樹脂フィルムを配置した状態を示す模式図である。
図5図5Aは、第1の実施形態において、成形材に接して複数枚の樹脂フィルムが配置される様子を示す、図4に示す領域Aの部分拡大図であり、図5Bは、図5Aとは異なる位置に加飾材を配置した様子を示す、図4に示す領域Aの別の部分拡大図であり、図5Cは、図5Aとは異なる位置に加飾材を配置した様子を示す、図4に示す領域Aのさらに別の部分拡大図である。
図6図6は、第1の実施形態において、熱圧成形装置に配置された成形材および樹脂フィルムを加圧および加熱する状態を示す模式図である。
図7図7は、第1の実施形態において、加圧および加熱により接合した成形材および樹脂フィルムを冷却する状態を示す模式図である。
図8図8は、第1の実施形態において、冷却された複合体を取り出せる状態を示す模式図である。
図9図9は、第1の実施形態において、製造された複合体の模式的な断面図である。
図10図10は、図9に示す領域Xの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、複数の実施形態を用いて、本発明の一実施形態に関する複合体の製造方法、および当該製造方法に使用することができる熱圧成形装置について、より詳細に説明する。
【0016】
1.第1の実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態に関する複合体の製造方法を示すフローチャートである。図2は、本実施形態に関する複合体の製造方法に用いることができる熱圧成形装置の構成を示す模式的な断面図である。
【0017】
以下に、本実施形態に関する熱圧成形装置の構成を説明し、その後、当該熱圧成形装置を用いた複合体の製造方法を説明する。
【0018】
1-1.熱圧成形装置
図2に示すように、本実施形態で用いる熱圧成形装置100は、対向する一対の加熱用金型と、対向する一対の冷却用金型と、を有する。上記加熱用金型は、対向する加熱用下型(位置決めプレート)112および加熱用上型(ストリッパプレート)114を有し、上記冷却用金型は、対向する冷却用下型122および冷却用上型124を有する。加熱用下型112は、複数の弾性体(コイルスプリング)132によって冷却用下型122に支持され、加熱用上型114は、複数の弾性体134によって冷却用上型124に支持されている。また、加熱用下型112は、材料枠142を有する。
【0019】
加熱用下型112および冷却用下型122は、弾性体132によって互いに接続されている。加熱用上型114および冷却用上型124は、弾性体134によって互いに接続され、一体的に図中上下方向に移動可能である。加熱用上型114および冷却用上型124を図中下方向に移動させることにより、加熱用下型112と加熱用上型114とを互いに近づけて、加熱用下型112と加熱用上型114とに囲まれた空間に配置された成形材および樹脂フィルムを加圧することができる。さらに、加熱用下型112および加熱用上型114を加熱することで、上記成形材および樹脂フィルムを加熱することができる。上記加圧および加熱により、上記成形材および樹脂フィルムを溶融または軟化させ、これらを融着などにより接合させて、加熱用下型112および加熱用上型114に挟まれてなる空間(キャビティ)の形状を有する複合体に成形することができる。
【0020】
加熱用下型112および加熱用上型114は、一対のストリッパプレートおよび位置決めプレートである。
【0021】
加熱用下型112は、加熱用上型114と対向する表面が、成形される成形材および樹脂フィルムが配置される台座面112aとなっている。また、加熱用下型112は、内部に電熱ヒータ152が挿通され、電熱ヒータ152からの熱により台座面112aを加熱し、これによって台座面112aに配置された成形材および樹脂フィルムを加熱する。
【0022】
加熱用上型114は、加熱用下型112と対向する表面が、成形される成形材および樹脂フィルムを加工する加工面114aとなっている。また、加熱用上型114は、内部に複数の電熱ヒータ154が挿通され、電熱ヒータ154からの熱により加工面114aを加熱し、これによって、加工面114aに接触された成形材および樹脂フィルムを加熱する。
【0023】
なお、加熱用下型112の台座面112aおよび加熱用上型114の加工面114aは、本実施形態では互いに略平行な平面となっている。しかし、台座面112aおよび加工面114aの形状はこれに限定されることはなく、成形すべき複合体の形状に応じた形状とすることができる。たとえば、台座面112aおよび加工面114aのいずれかまたは両方を、凹凸が形成された面とすれば、成形される複合体の表面にエンボス加工などの凹凸加工をすることができる。また、台座面112aと加工面114aの間の距離を部分的に変化させることで、成形される複合体の厚みを部分的に変化させることもできる。
【0024】
材料枠142は、加熱用下型112の、加熱用上型114と対向する表面に形成された枠である。材料枠142は、その上端と対向する加工面114aとの間の距離が、台座面112aと対向する加工面114aとの間の距離の最小値よりも小さくなるように、台座面112aより上方(加工面114a側)に突出している。これにより、材料枠142は、加熱用上型114を加熱用下型112に近づく方向に移動させたときに、その上端が加工面114aと接触して、台座面112aと加工面114aとの間に、成形すべき複合体の厚みに応じた空間(キャビティ)を形成する。
【0025】
冷却用下型122は、弾性体132により加熱用下型112に接続され、かつ、弾性体132の形状変化により加熱用下型112に接触および離間可能に配置される。冷却用下型122は、内部に複数の冷却管162が挿通され、冷却管162を通過する冷却媒体により、接触した加熱用下型112を冷却する。これにより、冷却用下型122は、加圧および加熱により成形された複合体を、熱圧成形装置100から取り出しても変形しにくい温度にまで冷却する。
【0026】
冷却用上型124も同様に、弾性体134により加熱用上型114に接続され、かつ、弾性体134の形状変化により加熱用上型114に接触および離間可能に配置される。冷却用上型124は、内部に複数の冷却管164が挿通され、冷却管164を通過する冷却媒体により、接触した加熱用上型114を冷却する。これにより、冷却用上型124は、加圧および加熱により成形された複合体を、熱圧成形装置100から取り出しても変形しにくい温度にまで冷却する。
【0027】
熱圧成形装置100が有する各部材は、不図示の制御部によりその動作を制御される。制御部による制御の詳細は、以下の製造方法において説明する。
【0028】
1-2.複合体の製造方法
図1に示すように、本実施形態に関する複合体の製造方法は、成形材を用意する工程(工程S110)と、樹脂フィルムを配置する工程(工程S120)と、上記成形材と上記樹脂フィルムとを加圧および加熱する工程(工程S130)と、接合した上記成形材および上記樹脂フィルムを冷却する工程(工程S140)と、を有する。
【0029】
1-2-1.成形材を用意する工程(工程S110)
本工程では、成形材を用意する。
【0030】
成形材は、繊維間に熱可塑性樹脂Aが含浸されてなる組成物(繊維強化プラスチック)である。
【0031】
上記繊維は、繊維強化プラスチックに使用され得る繊維であればよい。上記繊維の例には、炭素繊維、ガラス繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維(ステンレス繊維など)、金属酸化物繊維(アルミナ繊維など)、モスハイジ(塩基性硫酸マグネシウム無機繊維)、および炭酸カルシウムウィスカーなどの無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、およびポリエステル繊維などの合成樹脂繊維、ならびにセルロース繊維などの天然繊維などが含まれる。これらのうち、無機繊維が好ましく、炭素繊維およびガラス繊維がより好ましく、炭素繊維がさらに好ましい。
【0032】
上記炭素繊維の種類は特に限定されず、ポリアクリルニトリル(PAN)系、レーヨン系、ポリビニルアルコール系、再生セルロース、メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系などの各種の炭素繊維を用いることができる。これらのうち、強度がより高く、かつより軽量であることから、PAN系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が好ましい。
【0033】
上記熱可塑性樹脂Aは、繊維強化プラスチックのマトリクス樹脂として使用され得る熱可塑性樹脂Aであればよい。
【0034】
上記熱可塑性樹脂Aの例には、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂およびフッ素樹脂などが含まれる。なお、上記樹脂は、エラストマーであってもよい。
【0035】
上記ポリオレフィン樹脂の例には、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、ブチレン系重合体および4-メチル-1-ペンテン系重合体などが含まれる。
【0036】
上記ポリアミド樹脂の例には、脂肪族ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610およびナイロン612など)、半芳香族ポリアミド樹脂(ナイロン6T、ナイロン6Iおよびナイロン9Tなど)および全芳香族ポリアミド樹脂が含まれる。
【0037】
上記ポリエステル樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートなどが含まれる。
【0038】
上記熱可塑性樹脂Aは、これらのうち、エチレン系重合体、プロピレン系重合体およびその他のα-オレフィン系重合体を含むオレフィン系樹脂を含むことが好ましく、プロピレン系重合体を含むことがより好ましい。
【0039】
上記エチレン系重合体には、エチレンの単独重合体、およびエチレンと炭素数3以上20以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。なお、これらのエチレン系重合体は、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0040】
上記プロピレン系重合体には、プロピレンの単独重合体、およびプロピレンとエチレンまたは炭素数4以上20以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。なお、これらのプロピレン系重合体は、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0041】
上記α-オレフィン系重合体には、炭素数4以上20以下のα-オレフィンの単独重合体、および炭素数2以上20以下のα-オレフィンの共重合体(ただし、上記エチレン系重合体およびプロピレン系重合体は除く。)が含まれる。
【0042】
なお、上記α-オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、および1-エイコセンなどが含まれる。上記α-オレフィン系重合体は、これらのうち、1-ブテン、エチレン、4-メチル-1-ペンテン、および1-ヘキセンを含む共重合体であることが好ましく、1-ブテンおよび4-メチル-1-ペンテンを含む共重合体であることがより好ましい。上記α-オレフィン系重合体は、ランダム共重合体であってもよいしブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0043】
上記繊維および熱可塑性樹脂Aは、成形すべき複合体に要求される物性および外観などに応じて、任意に選択すればよい。たとえば、成形材が上記繊維としてガラス繊維を含むと、成形される複合体の透明性をより高めることができる。一方で、成形材が上記繊維として炭素繊維を含むと、成形される複合体の強度をより高め、かつ複合体の外観を黒色化することができる。
【0044】
成形材は、充填剤、硬化剤、離型剤、顔料または染料、熱安定剤、UV安定剤、重合反応抑制剤、低収縮剤、および増粘剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0045】
本実施形態では、成形材は、一方向に配列されている繊維間に熱可塑性樹脂Aが含浸された、ペレット状の組成物である。上記成形材は、たとえば、一方向に集束されて配列された上記繊維間に上記熱可塑性樹脂Aが含浸された公知のUDテープを、ランダムに切断してなる、ペレット状の成形材とすることができる。このような成形材を用いることで、複合体の強度をより高めることができる。
【0046】
上記ペレット状の成形材の長さ(繊維が延伸する方向への長さ)は、5mm以上100mm以下であることが好ましく、15mm以上50mm以下であることがより好ましい。上記ペレット状の成形材の厚みは、0.05mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。また、上記ペレット状の成形材の幅は、0.5mm以上100mm以下であることが好ましく、2.0mm以上50mm以下であることがより好ましい。
【0047】
図3は、熱圧成形装置100に成形材210を配置した状態を示す模式図である。図3に示すように、成形材210は、加熱用下型112の台座面112aに配置される。複合体内の強度のばらつきを抑制する観点から、上記成形材は、ランダムに配置されることが好ましい。
【0048】
1-2-2.樹脂フィルムを配置する工程(工程S120)
樹脂フィルムは、上記成形材を加圧および加熱により成形してなる成形体を加飾するために用いられる、樹脂製のフィルムである。
【0049】
上記樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂Bを含む。熱可塑性樹脂Bの例には、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブチレンなどを含むポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリエチレンナフタレート(PEN)などを含む熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリカーボネート(PC)などが含まれる。
【0050】
上記樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂Bの他に、離型剤、顔料または染料、熱安定剤、UV安定剤、重合反応抑制剤、低収縮剤、および増粘剤などの添加剤を含んでいてもよい。なお、後述するように加飾材230を挟持させて成形するときは、複合体の表面層に埋め込まれた加飾材230を視認できるようにするため、樹脂フィルムは光透過性(特には可視光に対する透過性)を有することが好ましい。
【0051】
上記樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂Bは、その融点が、上記成形材に含まれる熱可塑性樹脂Aの融点よりも低い。熱可塑性樹脂Bの融点を熱可塑性樹脂Aの融点よりも低くすると、加圧および加熱による成形時に、成形材に含まれる熱可塑性樹脂Aが溶融するときには、樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂Bがすでに溶融している。そのため、熱可塑性樹脂Bは、熱可塑性樹脂Aにより配向が保持されている繊維の配向を大きく崩すことなく、後から溶融した熱可塑性樹脂Aと容易に混ざることができる。これにより、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとの隙間に気泡が生じにくくなるため、得られる複合体の外観が良好になりやすいと考えられる。また、気泡が生じなくなることにより、複合体の内部(特には成形材と樹脂フィルムとの境界近傍)がより密に充填されることになり、得られる複合体の強度も向上すると考えられる。さらには、気泡が生じにくくなることにより、樹脂フィルムと成形材とが十分に密着できるため、樹脂フィルム220が融着してなる表面層が複合体から剥がれにくくもなると考えられる。
【0052】
このとき、上記成形材に含まれる熱可塑性樹脂Aの融点と、上記成形材に接して配置された樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂Bの融点と、の差は20℃以下であることが好ましい。これにより、溶融した熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが入り混じりやすくなり(または相溶しやすくなり)、成形される複合体の強度をより高めることができる。本実施形態において、上記融点の差は、10℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることがさらに好ましい。
【0053】
なお、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bの融点は、示差走査熱量系(DSC)で測定して得られた値とすることができる。上記成形材が複数種の熱可塑性樹脂Aを含むときは、上記成形材に含まれる熱可塑性樹脂Aの融点は、これら複数種の熱可塑性樹脂Aのうち、最も含有量が多い熱可塑性樹脂Aの融点とすることができる。同様に、上記樹脂フィルムが複数種の熱可塑性樹脂Bを含むときは、当該樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂Bの融点は、これら複数種の熱可塑性樹脂Bのうち、最も含有量が多い熱可塑性樹脂Bの融点とすることができる。
【0054】
図4は、熱圧成形装置100に樹脂フィルム220を配置した状態を示す模式図である。図4に示すように、樹脂フィルム220は、加熱用下型112の台座面112aに、成形材210に接して配置される。たとえば、ランダムに配置された成形材210の表面に被せるように、樹脂フィルム220を配置すればよい。
【0055】
本実施形態において、図4に示すように、複数枚の樹脂フィルム220が成形材210に接して配置される。上記複数枚の樹脂フィルムは、いずれも同じ樹脂フィルムであってもよいし、異なる樹脂フィルムを含んでいてもよい。
【0056】
図5Aは、成形材210に接して複数枚の樹脂フィルムが配置される様子を示す、図4に示す領域Aの部分拡大図である。図5Aに示すように、本実施形態では、成形材210に接して5枚の樹脂フィルム220a、樹脂フィルム220b、樹脂フィルム220c、樹脂フィルム220d、および樹脂フィルム220eが積層されて配置されている。これらのうち、少なくとも成形材210に接する樹脂フィルム220aを構成する熱可塑性樹脂Bの融点が、成形材210に含まれる熱可塑性樹脂Aの融点よりも低ければよい。なお、複数枚の樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂Bの材質は互いに異なっていてもよいが、上記複数枚の樹脂フィルムのうち、複数枚(たとえば半数以上)の樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂Bの融点が、成形材210に含まれる熱可塑性樹脂Aの融点よりも低いことが好ましく、すべての樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂Bの融点が、成形材210に含まれる熱可塑性樹脂Aの融点よりも低いことがより好ましい。
【0057】
図5Aに示すように、本実施形態において、複数枚の樹脂フィルムは、当該樹脂フィルムが積層されてなる層間に、加飾材230を挟持する。この状態で成形材210および樹脂フィルム220を加圧および加熱することで、成形される複合体には、樹脂フィルム220が融着してなる表面層中に加飾材230が埋め込まれて、加飾材230によるパターンを複合体の表面に形成することができる。
【0058】
図5Bおよび図5Cは、図5Aとは異なる位置に加飾材230を配置した様子を示す、図4に示す領域Aの別の部分拡大図である。これらの図面に示すように、加飾材230を配置する層は特に限定されず、得られる複合体の外観に応じた層間(位置)に配置すればよい。たとえば、図5Aに示すように、加飾材230をより表面側(成形材210からより遠い側)に挟持させることで、上記表面層のうちより浅い位置(複合体の表面により近い側)に加飾材230を配置させることができる。また、図5Bに示すように、加飾材230をより奥面側(成形材210により近い側)に挟持させることで、上記表面層のうちより深い位置(複合体の表面からより遠い側)に加飾材230を配置させることができる。あるいは、図5Cに示すように、互いに異なる層間に複数の加飾材230aおよび加飾材230bを挟持させることで、奥行き感のあるパターンを複合体の表面に形成することができる。このとき、図5Cに示すように、異なる層間に挟持された複数の加飾材230aおよび加飾材230bを、樹脂フィルムの積層方向に互いに重なる位置に配置すると、奥行き感をより顕著に感じさせるパターンを形成することができる。
【0059】
上記いずれの態様においても、上記複数枚の樹脂フィルム220は、樹脂フィルムの層間に加飾材230を挟持することが好ましい。これにより、加飾材230よりも成形材210側に配置された樹脂フィルムは、成形材210に十分に接合して、表面層の剥がれを生じにくくすることができる。また、加飾材230に対して成形材210とは反対側に配置された樹脂フィルムは、複合層の最表面をコートして、複合体からの加飾材230の剥がれや、加飾材230の酸化などによる劣化を抑制することができるほか、複合体の最表面を滑らかにして、複合体の意匠性をより高めることができる。
【0060】
加飾材230の種類は特に限定されず、金属、金属酸化物、セラミック片、石、ガラス、カラーカーボン、および繊維などから、得られる複合体の外観に応じて適宜選択すればよい。加飾材230の形状も特に限定されず、塊状、シート状(箔状)、繊維状などのいかなる形状であってもよい。
【0061】
1-2-3.成形材と樹脂フィルムとを加圧および加熱する工程(工程S130)
図6は、熱圧成形装置100に配置された成形材および樹脂フィルムを加圧および加熱する状態を示す模式図である。
【0062】
熱圧成形装置100の台座面112aに成形材210および樹脂フィルム220を配置した状態(図4参照)で、加熱用下型112を加熱用上型114に近づく方向に移動させる。これにより、成形材210および樹脂フィルム220が、加熱用下型112の台座面112aにおよび加熱用上型114の加工面114aによって押圧される。さらにこのとき、電熱ヒータ152により加熱用下型112を加熱し、かつ電熱ヒータ154により加熱用上型114を加熱する。これにより、成形材210および樹脂フィルム220が加熱され、成形材210を構成する熱可塑性樹脂Aが溶融して成形材210同士が融着し、かつ、樹脂フィルム220を構成する熱可塑性樹脂Bも溶融して成形材210または他の樹脂フィルム220に融着する。
【0063】
このとき加熱用上型114および加熱用下型112の加熱温度は、成形材210を構成する熱可塑性樹脂Aおよび樹脂フィルム220を構成する熱可塑性樹脂Bが十分に溶融し、成形材210と樹脂フィルム220とが十分に融着できる温度であればよく、熱可塑性樹脂Aの融点および熱可塑性樹脂Bの融点のいずれよりも高い温度であればよい。
【0064】
1-2-4.接合した成形材および樹脂フィルムを冷却する工程(工程S140)
図7は、加圧および加熱により接合した成形材および樹脂フィルムを冷却する状態を示す模式図であり、図8は、冷却された複合体を取り出せる状態を示す模式図である。
【0065】
所定時間の加圧および加熱により成形材および樹脂フィルムを接合させた後、冷却用上型124を加熱用上型114に向けて押圧して、冷却用上型124を加熱用上型114に近接または接触させる。これにより、加熱用下型112からの熱を冷却用下型の冷却管162へと除去し、かつ、加熱用上型114からの熱を冷却用上型の冷却管164へと除去して、上記接合した成形材および樹脂フィルムを冷却することができる。その後、図8に示すように、加熱用下型112および加熱用上型114を離間させることで、複合体300を取り出すことができる。
【0066】
このとき、冷却管162および冷却管162に冷却媒体を通過させておき、所定の温度に調整した冷却用下型122および冷却用上型124を、上記押圧によりそれぞれ加熱用下型112および加熱用上型114に接触させることが好ましい。これにより、冷却時の圧力変化による複合体の変形を抑制することができる。
【0067】
1-3.複合体
図9は、上記方法で製造された複合体の模式的な断面図である。複合体300は、成形材が融着してなる基材層310と、樹脂フィルムが融着してなる表面層320と、を有する。
【0068】
基材層310は、成形材を構成していた熱可塑性樹脂A(基材層を構成する熱可塑性樹脂312)が溶融して一体化してなるマトリクス中に、繊維314が分散している。繊維314は、加圧および加熱される前の成形材ごとにまとまって配向された集合体となって分散しており、かつ異なる方向に配向された複数の集合体316a、集合体316b、集合体316c、および集合体316dが、積層されて配置されている。
【0069】
表面層320は、複数枚の樹脂フィルムが溶融して一体化してなる樹脂(表面層を構成する熱可塑性樹脂322:熱可塑性樹脂B)中に、加飾材230が埋め込まれて保持されている。加飾材230が埋め込まれている位置は、成形時に変化するものの、成形前に加飾材が配置(挟持)されていた樹脂フィルムの層に略対応する。そのため、たとえば複数の加飾材を複数枚の樹脂フィルムによる異なる層に配置して成形したときは、上記複数の加飾材は、表面層320のうち、異なる深さに埋め込まれて保持される。
【0070】
本実施形態では、樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂Bの融点が、成形材を構成する熱可塑性樹脂Aの融点よりも低いため、加圧および加熱時に先に溶融した熱可塑性樹脂B(表面層を構成する熱可塑性樹脂322)がペレット状の成形材の間に十分に進入している。そのため、基材層310のうち表面層320に近い領域では、熱可塑性樹脂A(基材層を構成する熱可塑性樹脂312)と表面層を構成する熱可塑性樹脂B(表面層を構成する熱可塑性樹脂322)とが入り混じっている。
【0071】
このとき、表面層を構成する熱可塑性樹脂322は、基材層310に含まれる複数の集合体のうち、最も表面層320に近い位置に積層されている複数の集合体316aの間隙に入り込んで配置されている。具体的には、図9に示すように、複数の集合体316aの間隙に、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Aが入り込んで配置されている。なお、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Aは、図9に示すように、基材層を構成する熱可塑性樹脂312とは分離して配置されていてもよいし、成形時に熱可塑性樹脂Aと相溶して、基材層を構成する熱可塑性樹脂312と一体化して配置されていてもよい。
【0072】
また、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Aと基材層を構成する熱可塑性樹脂312とが分離しているとき、複数の集合体316aの間隙におけるこれらの樹脂の境界は典型的には不定形である。このとき、一方の樹脂が他方の樹脂の中に分散した海島構造が部分的に形成されていてもよい。また、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Aが入り込む深さも一定ではない。このとき、部分的にはより深い層を構成する位置(表面層から離れた位置)に積層されている他の集合体(たとえば集合体316bや集合体316c)の間隙にまで入り込んでいてもよい。
【0073】
図10は、図9に示す領域Xの部分拡大図であり、基材層310に含まれる複数の集合体のうち、最も表面層320に近い位置に積層されている複数の集合体316aの構成を示す模式図である。本実施形態では、加圧および加熱時に先に溶融した樹脂フィルムの樹脂成分(表面層を構成する熱可塑性樹脂322)は、ペレット状の成形材が溶融したときに、上記成形材の内部にも入り込む。そのため、集合体316aは、基材層を構成する熱可塑性樹脂312Bと、上記成形材の内部に入り込んできた表面層を構成する熱可塑性樹脂322Bと、を含むマトリクス中に、繊維314が分散している。
【0074】
このときも、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Bは、図10に示すように、基材層を構成する熱可塑性樹脂312Bとは分離して入り込んでいてもよいし、成形時に上記熱可塑性樹脂と相溶して、基材層を構成する熱可塑性樹脂312Bと一体化して入り込んでいてもよい。
【0075】
また、このときも、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Bと基材層を構成する熱可塑性樹脂312Bとが分離しているとき、集合体316aの内部におけるこれらの樹脂の境界は典型的には不定形である。また、一方の樹脂が他方の樹脂の中に分散した海島構造が部分的に形成されていてもよい。表面層を構成する熱可塑性樹脂322Bが入り込む程度も一定ではなく、集合体ごとに、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Bと基材層を構成する熱可塑性樹脂312Bとの比率が異なっていてもよい。さらには、部分的には、より深い層を構成する位置(表面層から離れた位置)に積層されている他の集合体(たとえば集合体316bや集合体316c)の内部でも、表面層を構成する熱可塑性樹脂322Bが入り込んでいてもよい。
【0076】
なお、上記実施形態はあくまで本発明を実施するための例示的な実施形態であり、本発明が上記実施形態に限定されることはない。
【0077】
たとえば、上記実施形態では、熱圧成形装置に成形材を配置し、その上に樹脂フィルムを配置して複合体を成形しているが、逆に熱圧成形装置に樹脂フィルムを配置し、その上に成形材を配置して複合体を成形してもよい。
【0078】
あるいは、成形材の上下に樹脂フィルムを配置し、複合体の両面に表面層を形成してもよい。これにより、成形材の内部に混入した空気による気泡の発生をより効果的に抑制できるため、成形される複合体の外観および強度をより高めることができる。
【実施例
【0079】
以下、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
【0080】
1.試験1
試験1では、ペレット状の成形材と、加飾材を層間に挟持する複数枚の樹脂フィルムと、を同時に加熱および加圧して、複合体を作製した。
【0081】
1-1.材料
以下の材料を用いて、複合体を作製した。
成形材:長さが20~40mmとなるようにランダムに切断した炭素繊維含浸ポリプロピレンUDテープ(融点:162.9℃)
樹脂フィルム(高融点):ポリプロピレン製フィルム(融点:161℃)
樹脂フィルム(低融点):ポリプロピレン製フィルム(融点:138℃)
加飾材:銀箔
【0082】
1-2.成形
成形材と、積層された複数枚の樹脂フィルムとを、図2に示す熱圧成形装置が有する加熱用下型の、加熱用上型と対向する表面に配置した。上記成形材は、平面状に敷き詰めて配置し、上記複数枚の樹脂フィルムは、1枚の樹脂フィルムが上記敷き詰められた成形材の表面に接触するように、配置した。積層された複数枚の樹脂フィルムには、合計4枚の加飾材(銀箔)をいずれかの層間に挟持させた。
【0083】
この状態で、加熱用上型および冷却用上型を図2中下方向に一体的に移動させて、加熱用上型と加熱用下型とによって、成形材および樹脂フィルムを加熱および加圧した。このときの加熱用上型の温度は180℃に調整し、加熱用下型の温度は160℃に調整した。所定時間の加熱後に冷却用上型を加熱用上型に接触させて加熱用上型を冷却し、また冷却用下型を冷却用上型に接触させて加熱用下型を冷却した。
【0084】
加熱用上型および加熱用下型を70℃まで冷却した後、加熱用下型から加熱用上型を離間させて、成形された複合体を取り出した。
【0085】
樹脂フィルムの種類および枚数、ならびに、加飾材の有無および配置した位置を変更して、複数の複合体を作製した。それぞれの複合体の作製条件を、表1に示す。なお、加飾材を配置した位置は、成形材側に近い側から1枚目の樹脂フィルムと2枚目の樹脂フィルムとの間を第1層、2枚目の樹脂フィルムと3枚目の樹脂フィルムとの間を第2層などとしたときの第何層目に何枚の加飾材(銀箔)を配置したかを示す。
【0086】
なお、合計4枚の加飾材(銀箔)は、同一層にすべての加飾材を配置したときは一部の配置材同士が重なるように配置し、いずれかの加飾材を異なる層に分けて配置したときは異なる層に配置された加飾材同士の位置が樹脂フィルムの積層方向に重なるように配置した。
【0087】
【表1】
【0088】
1-3.評価
複合体1~複合体7について、以下の試験および評価を行った。
【0089】
1-3-1.表面の目視観察試験
得られた複合体の表面を目視で観察して、表面に気泡の発生が見られるか否かを判断した。
【0090】
いずれの複合体も、炭素繊維に由来する黒色の基材層と、樹脂フィルムに由来する透明の表面層と、を有していた。樹脂フィルムの層間に加飾材を挟んで成形した複合体1~複合体6は、表面層に加飾材が埋め込まれて保持されていることが確認できた。
【0091】
樹脂フィルムとして低融点フィルムを用いた複合体2、複合体4および複合体7では、表面に気泡の発生が見られたが、樹脂フィルムとして高融点フィルムを用いた複合体1、複合体3、複合体5および複合体6では、気泡の発生が少ないか、あるいは全く気泡が発生していなかった。
【0092】
また、4枚の加飾材をいずれも第4層に配置した複合体1および複合体2では、加飾材はより浅い位置(複合体の表面により近い側)に配置されていたのに対し、4枚の加飾材をいずれも第1層に配置した複合体1および複合体2では、加飾材はより深い位置(複合体の表面からより遠い側)に配置されていた。
【0093】
また、異なる層に配置された加飾材同士の位置が樹脂フィルムの積層方向に重なるように4枚の加飾材を配置した複合体5および複合体6は、複数の加飾材が異なる深さに配置されていることが確認できた。
【0094】
1-3-2.強度試験
得られた複合体から、長さ250mm×幅30mmの試験片を切り出した。上記試験片の、長さ方向の一方向端部から50mmの位置をクランプで固定し、他方向端部に300gの荷重をかけた。このとき、上記荷重により生じた試験片の反りによって、上記他方向端部が鉛直下方へ変位した長さを測定した。なお、それぞれの複合体から3つの上記試験片を切り出し、それぞれの試験片について測定された上記変位した長さの平均値を求めて、評価に用いた。
【0095】
複合体6、複合体2、複合体3および複合体7から切り出した試験片についての強度試験の結果を、表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、樹脂フィルムとして高融点フィルムを用いると、複合体が反りにくくなっており、複合体の強度がより高くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の複合体の製造によれば、意匠性が高い複合体を製造することができる。
【符号の説明】
【0099】
100 熱圧成形装置
112 加熱用下型
112a 台座面
114 加熱用上型
114a 加工面
122 冷却用下型
124 冷却用上型
132、134 弾性体
142 材料枠
152、154 電熱ヒータ
162、164 冷却管
210 成形材
220 樹脂フィルム
230、230a、230b 加飾材
300 複合体
310 基材層
312、312B 成形材を構成していた熱可塑性樹脂
314 繊維
320 表面層
322、322A、322B 表面層を構成する熱可塑性樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10