IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラシエホールディングス株式会社の特許一覧

特許7385404便通促進用非焼成食品組成物及び収縮期血圧降下用非焼成食品組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】便通促進用非焼成食品組成物及び収縮期血圧降下用非焼成食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/42 20060101AFI20231115BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20231115BHJP
【FI】
A23G3/42
A23L33/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019157560
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021035333
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】落合 優希
(72)【発明者】
【氏名】菊池 光倫
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 和広
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 真一
(72)【発明者】
【氏名】小林 正志
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-177123(JP,A)
【文献】特開2005-229832(JP,A)
【文献】特開2004-155727(JP,A)
【文献】特開2005-130751(JP,A)
【文献】特開2004-081197(JP,A)
【文献】特開2002-335869(JP,A)
【文献】Arpita,Atta Ladoo Recipe,Food Indian [online],2015年10月25日,URL:https://foofindian.org/atta-ladoo-recipe/ [検索日:2023.08.09]
【文献】JUGEN黒大豆ジュゲンプレミアムを1か月使った結果は~?, Ameba, [online],2017年03月04日,[検索日:2023.05.18], Retrieved from the Internet, URL;https://ameblo.jp/tomo3043/entry-12253077514.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00 - 9/52
A23L 2/00 - 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙焼小麦粉(ただし、黒大豆発芽時の表皮細胞から抽出した発芽エキスを焙煎小麦粉に吸着させたものを除く。)、甘味料、及び油脂を含有し、前記焙焼小麦粉を1日あたり6g以上摂取することを特徴とする便通促進のための非焼成食品組成物(ただし、熱加工工程を含む方法で調製される非焼成食品組成物を除く)
【請求項2】
前記非焼成食品組成物は菓子である請求項記載の非焼成食品組成物。
【請求項3】
焙焼小麦粉(ただし、黒大豆発芽時の表皮細胞から抽出した発芽エキスを焙煎小麦粉に吸着させたものを除く。)、甘味料、及び油脂を含有し、前記焙焼小麦粉を1日あたり6g以上摂取することを特徴とする収縮期血圧降下のための非焼成食品組成物(ただし、熱加工工程を含む方法で調製される非焼成食品組成物を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便通を促進し、収縮期血圧を降下させることのできる非焼成食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糖質の摂取量を抑え、継続して摂取することにより血糖値が降下し、便通が改善する食品として、焙煎ふすま、グルテン、及びおおばこ種皮粉末を主成分とする実質的に糖質を含有しない食品素材に、油脂、全卵、イーストを加え、牛乳で硬さを調整しながら形を整え、オーブンで焼き上げるクッキー様健康食品が知られている(例えば、特許文献1)。しかしながら、該食品は、焙煎することで実質的に糖質を排除し、便通改善に有効な公知の食物繊維である焙煎ふすまを配合した焼成食品を提案するものであり、具体的な便通改善効果については何も開示されておらず、どのような作用から便通改善されるかは不明であった。
【0003】
他には、大麦などの焙煎した穀類、水溶性食物繊維、オリゴ糖、茶ポリフェノール、及び乳酸菌類を一定の質量比で組み合わせることによって腸管などの血流の改善を促進させるとともに、排便欲求を司る自律神経に作用し、腸の蠕動運動を活発化させる便通改善組成物が知られている(例えば、特許文献2)。しかしながら、該組成物は主成分とする水溶性食物繊維の便通改善効果を効果的に発揮させるために焙煎した穀類などを添加するもので、水溶性食物繊維が配合されない場合や、焙煎した穀類そのものの効果は不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-245321号公報
【文献】特開2004-155727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、便通を促進し、収縮期血圧を降下させることのできる非焼成食品組成物を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、焙焼小麦粉、甘味料、及び油脂を含有することを特徴とする便通促進用非焼成食品組成物により上記目的を達成する。該組成物は、前記焙焼小麦粉を1日あたり6g以上摂取することが好適である。更に好適には、該組成物は菓子である。
【0007】
また、本発明は、焙焼小麦粉、甘味料、及び油脂を含有することを特徴とする収縮期血圧降下用非焼成食品組成物により上記目的を達成する。該組成物は、前記焙焼小麦粉を1日あたり6g以上摂取することが好適である。更に好適には、該組成物は菓子である。
【0008】
すなわち、本発明者らは、焙煎した穀類そのものの機能性を探索するために、焙焼小麦粉に注目し鋭意検討を行った。その結果、クラッカーなどのような小麦粉を主体とする生地を焼成して調製する焼菓子では、含有する澱粉のうち約40%が糊化澱粉であるところ、焙焼小麦粉を用いて非焼成の食品組成物とすることで焼菓子より更に低い糊化澱粉量に設定できることを見出した(表1参照)。そして驚くべきことに、その焙焼小麦粉を用いた
非焼成食品組成物を摂取すると便通が促進され、収縮期血圧が降下することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
【表1】
【発明の効果】
【0010】
本発明の非焼成食品組成物によれば、排便回数が有意に増加し便通促進に有効である。また、収縮期血圧が有意に降下する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を詳しく説明する。本発明の非焼成食品組成物は、焙焼小麦粉を含有することが、便通促進、収縮期血圧降下の点で重要である。
【0012】
上記焙焼小麦粉は、小麦粉単独又は小麦粉を主体とする穀粉類を焙焼したものである。本発明では、市販品、該小麦粉又は小麦粉を主体とする穀粉類を焙焼して調製したもののどちらを用いてもよく、これらは単独でも複数組み合わせて用いてもよい。市販品としては、例えば、日清製粉株式会社製の「ローストフラワーRG」、「ローストフラワーRM」、千葉製粉株式会社製の「ローストフラワーBFW」などが挙げられる。また、焙焼して調製する方法としては、小麦粉を鉄板に挟み約200℃に加熱する方法などが挙げられる。
【0013】
また、本発明の非焼成食品組成物は甘味料を含有する。該甘味料としては、例えば、単糖類(ブドウ糖、果糖、D-キシロースなど)、二糖類(砂糖、乳糖、麦芽糖、イソマルツロース、トレハロースなど)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖など)、糖アルコール(ソルビトール、キシリトール、マルチトール、還元水飴など)、澱粉糖(水飴、粉飴、異性化糖など)、蜂蜜、高甘味度甘味料(アスパルテーム、ステビア、スクラロース、アセスルファムカリウムなど)などが挙げられる。これらは単独でも複数組み合わせて用いてもよい。これらの中でも砂糖は、栄養価が高く上記甘味料の中でも最も風味が良好な点で好適に用いられる。また、甘味料を複数併用すると非焼成食品組成物そのものの風味が良好になる点で好適に用いられる。
【0014】
更に、本発明の非焼成食品組成物は油脂を含有する。該油脂としては、動植物性油脂、該動植物性油脂の硬化油脂などが挙げられる。例えば、大豆油、サラダ油、カカオ脂、オリーブ油、米油、ラード、乳脂及びこれらの加工油脂など、また、マーガリン、ショートニング、バターなども挙げられる。これらは、単独でも複数組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また、本発明の非焼成食品組成物には、上記原料の他に、副原料を適宜添加してもよい。例えば、副原料としては、風味原料(ココアパウダー、抹茶パウダー、種実類のナッツペーストやナッツ粉砕物など)、ドライフルーツ類、乳製品(脱脂粉乳、生クリーム、サワ
ークリーム、チーズなど)、香料、着色料、調味料(食塩など)、エキス類、粉末果汁、粉末野菜汁、食物繊維、乳化剤、増粘剤、安定剤、グリセリン、栄養成分(ビタミン類(A、B、B、ナイアシン、B、B12、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸など)、ミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガンなど)などが挙げられる。なお、本発明によれば、上記副原料がなくとも便通促進効果が得られるが、食物繊維のような公知の便通改善効果のある原料を併用してもよい。
【0016】
次に、本発明の非焼成食品組成物に係る「非焼成」とは、上述した原料から目的の食品組成物を調製する迄の間、焼成などの熱加工工程を全く含まないことを意味する。具体的には、焼菓子類、ケーキ類、及びパン類などを製造する際実施する焼成工程のような100℃以上の熱加工工程を含まないことを意味する。
【0017】
また、本発明において「便通促進」とは、本発明の非焼成食品組成物を摂取することで、摂取前より摂取後の1週間の排便回数が増加することを意味する。さらに、本発明において「収縮期血圧降下」とは、本発明の非焼成食品組成物を摂取することで、摂取前より収縮期血圧が低下することを意味する。
【0018】
次に、本発明の非焼成食品組成物の摂取は、摂取する者の症状、性別、年齢などに応じて適宜設定される。例えば、非焼成食品組成物に含まれる焙焼小麦粉を1日あたり、好ましくは少なくとも6g以上、より好ましくは少なくとも8g以上を摂取することが、便通促進、収縮期血圧降下の点で好適である。なお、焙焼小麦粉の1日あたりの摂取総量が上記量であればよく、摂取回数は1回もしくは複数回に分けてもよい。
【0019】
さらに好ましくは、上記組成物を4週間以上継続して摂取することが、便通促進、収縮期血圧降下の点で望ましい。
【0020】
上記原料を用いて、本発明の非焼成食品組成物は、例えば、次のように調製される。
【0021】
まず、焙焼小麦粉、甘味料、油脂、及び必要に応じて副原料を混合して生地を得る。混合方法は、例えばニーダー、リボンミキサーなどに上記原料を投入して撹拌するなどが挙げられる。
【0022】
次に、上記生地を成形し、本発明の非焼成食品組成物を得る。成形方法は、例えば、シート成形、ロープ成形、モールド成形、スタンピング成形、押出し成形、カット成形などの公知の成形方法が挙げられる。好ましくは、特開2013-074874号公報に記載の、押出し直後に切断する押出し成形方法が好適である。この方法は、切断直後に目的形状に成形できることから、シート成形後の型抜きで生じるような無駄な残生地が発生せず、効率良く製造できる点で好適である。また、押出す吐出口がそのまま目的の食品組成物の形状になることから、吐出口の形状を変更することで、自在に食品組成物のデザインを設計できる点でも好適である。更に、複数の異なる形状の吐出口を備えることで、同時に異なる形状を量産成形することもできる。
【0023】
上記のようにして得られた非焼成食品組成物は、該組成物に含まれる澱粉全体重量中の糊化澱粉量が、好ましくは40%未満であることが、より好ましくは10~30%であることが、便通促進、収縮期血圧降下の点で好適である。なお、糊化澱粉量は、グルコアミラーゼ第2法、グルコアミラーゼ法、ジアスターゼ法、β-アミラーゼ・プルラナーゼ法などの公知な方法で測定すればよい。
【0024】
次に、本発明の非焼成食品組成物を製品化する場合は、適宜包装体で充填包装すればよい。なお、包装体の材質は特に制限するものではなく、例えば、軟質プラスチック(ポリエ
チレン、ポリプロピレンなど)、紙、金属(アルミ、アルミ蒸着、ガラス蒸着など)など、適宜用いればよい。もしくはこれらの材質を組み合わせてラミネートしたものでもよい。また、包装体の形状も特に限定するものではなく、袋状、筒状、箱など適宜設定すればよい。
【実施例
【0025】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は以下実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
<非焼成食品組成物の調製>
表2に示す組成で、非焼成食品組成物を調製した。まず、焙焼小麦粉、甘味料、油脂、副原料をニーダーに投入し、混合して生地を得た。
次に、上記生地を押出し機に投入し、押出し直後に切断し、非焼成食品組成物(2.9~3.2g/個)を得た。
【0027】
【表2】
【0028】
20歳から60歳までの健康な男女12名の被験者に、実施例1の非焼成食品組成物10個(29~32g)を毎日摂取させ、これを4週間継続した。なお、摂取回数は限定せず、1日に1~3回程度の間食として摂取させた。
【0029】
<排便回数調査>
摂取前1週間と4週間摂取後の1週間の排便回数を被験者が記録した。その結果を表3に示す。
<収縮期血圧測定調査>
摂取前と4週間摂取後の収縮期血圧を測定した。その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
<結果>
以上の結果、本発明の非焼成食品組成物を摂取すると、摂取前に比べ排便回数が有意に増加したことから、便通が促進されたことが理解できる。なお、表2に示す組成のうち、ソルビトール及び植物性油脂は1日の摂取量を考慮するといずれも排便回数への影響はないと考えられる。
また、本発明の非焼成食品組成物を摂取すると、摂取前に比べ収縮期血圧が有意に降下した。