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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】赤外線測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/42 20060101AFI20231115BHJP
   G01J 1/46 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
G01J1/42 N
G01J1/42 B
G01J1/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019165066
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021043051
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 崇博
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-145133(JP,A)
【文献】特開2002-033664(JP,A)
【文献】特開平02-254823(JP,A)
【文献】特開2021-110659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/42- G01J 1/46
G01J 1/02
G01C 3/00- G01C 3/32
G01R 19/00- G01R 19/32
G01S 7/48- G01S 7/51
G01S 17/00- G01S 17/95
G01V 8/10- G01V 8/26
H01H 35/00
H01L 31/10
H03K 17/78
H03M 1/00- H03M 1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接物に赤外線を照射する赤外発光素子と、
前記赤外発光素子が発光している状態において前記近接物で反射した赤外反射光を測定した第1の測定値と、前記赤外発光素子が非発光の状態で前記第1の測定値の測定時刻の前後の時刻で測定された第2の測定値及び第3の測定値を出力する手段を有する近接測定部と、
前記近接測定部からの測定データを演算処理し、前記第1の測定値から前記第2の測定値及び前記第3の測定値の平均を引き算して赤外反射光照度を算出する手段を有する演算処理部とを備え、
前記近接測定部は、
測定する光を電流に変換する光電素子と、
前記光電素子で変換した電流に応じた電荷を蓄える充電用キャパシタを有する充電回路と、
前記充電用キャパシタに蓄えた電荷を放電させる放電回路とを含み、
前記放電回路は、
1つの測定値を得るための測定から次の測定値を得るための測定までの充電時間の間、前記充電用キャパシタを充電するとともに、前記充電用キャパシタが所定の充電量になる毎に放電を行う、第1放電回路と、
前記充電時間終了後、前記充電用キャパシタに残存する電荷を移す段階放電用キャパシタと、
前記段階放電用キャパシタの電荷の放電を行う第2放電回路とを有し、
前記第1放電回路の放電回数および前記第2放電回路の放電回数に基づいて、前記充電用キャパシタの充電量に応じた電圧のディジタル値を測定値として出力し、
前記近接測定部は、前記第2の測定値を出力するために前記第2放電回路で放電している期間に、前記第1の測定値を出力するために前記第1放電回路で放電を行い、前記第1の測定値を出力するために前記第2放電回路で放電している期間に、前記第3の測定値を出力するために前記第1放電回路で放電を行う、赤外線測定装置。
【請求項2】
前記第1放電回路は、前記充電用キャパシタに残存する電荷を前記段階放電用キャパシタに移した後、次の測定値を得るための測定に基づいて前記充電用キャパシタを充電するとともに、前記充電用キャパシタが前記所定の充電量になる毎に放電を行う、請求項1に記載の赤外線測定装置。
【請求項3】
前記第2放電回路は、前記段階放電用キャパシタに残存する電荷が所定値になるまで、これを所定量ずつ段階的に放電するものである、請求項1または請求項2に記載の赤外線測定装置。
【請求項4】
前記第2放電回路は、前記段階放電用キャパシタに残存する電荷が前記所定値を超えて1段階余分に放電する1次段階放電と、前記所定量よりも小さい量ずつ段階的に放電して所定電圧まで戻す2次段階放電とを行う、請求項3に記載の赤外線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接物に照射した赤外線を測定することができる赤外線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネル方式の表示装置を採用した機器が増加している。具体的に、携帯電話機、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistants)、ノートPC(Personal Computer)、タブレットPCなどのモバイル機器、カーナビ、一眼デジカメ等に、タッチパネル方式の表示装置が採用されている。
【0003】
タッチパネル方式を採用した表示装置では、人体の一部がタッチパネルに接触することで誤動作を生じることがある。特に、スマートフォンでは、電話による通話を行う際に耳や顔等をタッチパネルに接触させる必要があり、耳や顔等の接触によりタッチパネルによる誤動作を防止するために、表示装置での表示をオフにしてタッチパネルでの操作を無効にする必要がある。
【0004】
タッチパネルでの操作を無効にするために、タッチパネルに耳や顔等が近づいたことを検出するための測定装置として赤外線測定装置を採用している。当該赤外線測定装置は、近接物に照射した赤外線を測定することで対象物(たとえば、耳や顔等)が機器に接近したことを検出する光学式の近接センサ(以下、単に近接センサともいう)である。
【0005】
近接センサは、赤外線LEDをパルス発光させて、対象物からの反射光を赤外線領域に感度ピークを有するフォトダイオードを用いて測定することで近接物の検出を行っている。また、近接センサでは、赤外線領域の光のみを取り出すために、フォトダイオードに赤外線透過フィルタを設けて、紫外線や可視光をカットしているものもある。
【0006】
しかし、近接センサで近接物を測定する場合、太陽光、白熱灯、ハロゲン光等の赤外線成分を含む周囲光の影響を受けて測定に誤差が生じる場合がある。そのため、近接センサで近接物を測定する場合、周囲光の影響を抑えることが可能な近接センサが開発されている。
【0007】
例えば、特許文献1に示す近接センサでは、周囲光のような環境変動と、対象物からの測定値との分別を行うために、周囲光の変化時間を測定・演算して、あらかじめ定めておいた閾値と比較する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-185851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示す近接センサでは、フォトダイオードの変化時間を測定、演算して閾値と比較するものであるから、周囲光の測定データが必要である。しかし、白熱灯、ハロゲン光、蛍光灯やLED光源などを周囲光とする場合、商用電源の周波数50/60Hzで周囲光の明るさが変動(フリッカー)することになる。
【0010】
周囲光が変動した場合、近接センサでは、周囲光を測定するタイミングと対象物からの反射光を測定するタイミングとで周囲光の明るさが変わるので、周囲光の明るさが変化した分がノイズとして測定される。そのため、近接センサでは、周囲光の変化がノイズとして加算され、対象物からの反射光を精度良く測定することができない。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、近接測定により赤外反射光を測定する場合に、比較的簡単な測定により、周囲光がノイズとして含まれることを防止し、誤動作を抑制することができる赤外線測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ある実施形態に従うと、近接物に赤外線を照射する赤外発光素子と、赤外発光素子が発光している状態において近接物で反射した赤外反射光を測定した第1の測定値と、赤外発光素子が非発光の状態で第1の測定値の測定時刻の前後の時刻で測定された第2の測定値及び第3の測定値を出力する手段を有する近接測定部と、近接測定部からの測定データを演算処理し、第1の測定値から第2の測定値及び第3の測定値の平均を引き算して赤外反射光照度を算出する手段を有する演算処理部とを備え、近接測定部は、測定する光を電流に変換する光電素子と、光電素子で変換した電流に応じた電荷を蓄える充電用キャパシタを有する充電回路と、充電用キャパシタに蓄えた電荷を放電させる放電回路とを含み、放電回路は、1つの測定値を得るための測定から次の測定値を得るための測定までの充電時間の間、充電用キャパシタを充電するとともに、充電用キャパシタが所定の充電量になる毎に放電を行う、第1放電回路と、充電時間終了後、充電用キャパシタに残存する電荷を移す段階放電用キャパシタと、段階放電用キャパシタの電荷の放電を行う第2放電回路とを有し、第1放電回路の放電回数および第2放電回路の放電回数に基づいて、充電用キャパシタの充電量に応じた電圧のデジタル値を測定値として出力し、近接測定部は、第2の測定値を出力するために第2放電回路で放電している期間に、第1の測定値を出力するために第1放電回路で放電を行い、第1の測定値を出力するために第2放電回路で放電している期間に、第3の測定値を出力するために第1放電回路で放電を行う
【0013】
好ましくは、第1放電回路は、充電用キャパシタに残存する電荷を段階放電用キャパシタに移した後、次の測定値を得るための測定に基づいて充電用キャパシタを充電するとともに、充電用キャパシタが所定の充電量になる毎に放電を行う。
【0014】
好ましくは、第2放電回路は、段階放電用キャパシタに残存する電荷が所定値になるまで、これを所定量ずつ段階的に放電するものである。
【0015】
好ましくは、第2放電回路は、段階放電用キャパシタに残存する電荷が所定値を超えて1段階余分に放電する1次段階放電と、所定量よりも小さい量ずつ段階的に放電して所定電圧まで戻す2次段階放電とを行う。
【0016】
ある実施形態に従うと、近接物に赤外線を照射する赤外発光素子と、赤外発光素子が発光している状態において近接物で反射した赤外反射光を測定した第1の測定値と、赤外発光素子が非発光の状態で第1の測定値の測定時刻の前後の時刻で測定された第2の測定値及び第3の測定値を出力する手段を有する近接測定部と、近接測定部からの測定データを演算処理し、第1の測定値から第2の測定値及び第3の測定値の平均を引き算して赤外反射光照度を算出する手段を有する演算処理部とを備え、近接測定部は、測定する光を電流に変換する光電素子と、光電素子で変換した電流に応じた電荷を蓄える充電用キャパシタを有する充電回路と、充電用キャパシタに蓄えた電荷を放電させる放電回路とを含み、放電回路は、1つの測定値を得るための測定から次の測定値を得るための測定までの充電時間の間、充電用キャパシタを充電するとともに、充電用キャパシタが所定の充電量になる毎に放電を行う、第1放電回路と、充電時間終了後、充電用キャパシタに残存する電荷が所定値になるまで、これを所定量ずつ段階的に放電する第2放電回路とを有し、第2放電回路は、所定値を超えて1段階余分に放電する1次段階放電と、所定量よりも小さい量ずつ段階的に放電して所定電圧まで戻す2次段階放電とを行い、第1放電回路の放電回数および第2放電回路の放電回数に基づいて、充電用キャパシタの充電量に応じた電圧のデジタル値を測定値として出力する。
【発明の効果】
【0017】
ある実施形態に従う赤外線測定装置では、測定間隔を短くすることで周囲光がノイズとして含まれることを防止し、誤動作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態1に係る赤外線測定装置の全体構成を示す図である。
図2】本実施の形態1に係る赤外線測定装置の測定タイミングを説明するための図である。
図3】周囲光と反射光との測定タイミングを説明するための図である。
図4】本実施の形態1に係る赤外線測定装置の積分回路およびAD変換器の回路構成を示す回路図である。
図5】本実施の形態1に係る赤外線測定装置の積分回路の充放電動作の一例を示すタイミングチャートである。
図6】本実施の形態2に係る赤外線測定装置の積分回路およびAD変換器の回路構成を示す回路図である。
図7】本実施の形態2に係る赤外線測定装置の積分回路の充放電動作の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態に係る赤外線測定装置について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
【0020】
(実施の形態1)
本実施の形態1に係る赤外線測定装置は、近接物に照射した赤外線を測定することで対象物が機器に接近したことを検出する光学式の近接センサを一例として以下に説明する。しかし、これに限られず近接センサと同じような構成で赤外線を測定する赤外線測定装置であれば、いずれの赤外線測定装置であってもよい。
【0021】
図1は、実施の形態1に係る赤外線測定装置100の全体構成を示す図である。赤外線測定装置100は、近接測定部50、レジスタ回路14、PSインタフェース15、POR(パワーオンリセット)16、ICインタフェース17等を有している。ここで、POR16は、電源投入時にICを初期化する。
【0022】
また、赤外線測定装置100は、演算処理部であるMCU(マイクロコントロールユニット)44、赤外発光ダイオード(赤外発光素子)420等を備えている。MCU44は、外部の制御部であり、近接測定部50のオン-オフ切り替え等を行う。赤外線測定装置100には、LED用のGND端子や回路素子のGND端子等も設けられている。電源電圧VDDの端子には、キャパシタ430がGNDとの間に挿入されており、これにより高周波ノイズをカットする。
【0023】
近接測定部50は、LEDパルス発生器1、赤外線LEDドライバ2、受光素子3、積分回路4、AD変換器5、対数変換器6、PSコントロールロジック18で構成される。PSコントロールロジック18は、近接測定部50を制御するためのロジック回路である。また、PSコントロールロジック18は、AD変換器5やレジスタ回路14からのデジタルデータに基づき演算、判定等の処理を行う。ILEDの端子に、電源電圧VDDが供給された赤外発光ダイオード420のカソードが接続されている。赤外発光ダイオード420は、赤外線領域の光を発光させるダイオードである。受光素子3は、赤外線を感度良く検出するために、赤外線領域に感度ピークを有するフォトダイオードで構成される。また、可視光や紫外線をカットし、赤外線を透過させる赤外線透過フィルタを受光面に有するフォトダイオードであっても良い。
【0024】
近接測定による赤外反射光の測定については以下のように行われる。まず、LEDパルス発生器1で赤外発光ダイオード420を発光させるための基礎となるパルスを発生させ、これを赤外線LEDドライバ2に供給する。赤外線LEDドライバ2は、LEDパルス発生器1からのパルス信号に基づき、赤外発光ダイオード420を駆動させるためのパルス信号に変える。赤外発光ダイオード420が電流駆動であるため、赤外線LEDドライバ2から出力されるパルス信号は、電流パルス信号である。赤外線LEDドライバ2では、5mA~200mAまでの電流パルス信号を作成することができ、例えば5mA~10mAの範囲の電流パルス信号を使用する。また、電流パルス信号のデューティ比は、様々に変化させることができるが、発光期間は、例えば250μsecとすることができる。
【0025】
このように、赤外線LEDドライバ2から発光ダイオードの駆動用電流パルス信号が赤外発光ダイオード420に供給されると、赤外発光ダイオード420は、駆動用電流パルス信号のオン期間に発光動作を行い、これを繰り返す。なお、近接測定部50が周囲光を測定している時には、赤外発光ダイオード420を発光させない。赤外発光ダイオード420からの受光が周囲光の測定に対して誤差信号とならないようにするためである。
【0026】
赤外発光ダイオード420から放射された赤外線は、近接物(対象物)40に到達して反射する。近接物400から反射して戻ってきた赤外反射光は、受光素子3で受光される。また、赤外反射光の測定の前後で測定される周囲光も受光素子3で受光することにより、近接測定部50で測定される。赤外反射光は、受光素子3で光電流に変換されて積分回路4に出力される。積分回路4では、光電流を増幅器とキャパシタとによる積分回路で積分し、その値がAD変換器5に出力する。
【0027】
AD変換器5は、積分回路4で積分された値をAD変換してデジタル値として出力する。ここで、積分回路4およびAD変換器5とで積分型AD変換回路を構成している。積分型AD変換回路では、後述するように、光電流によるキャパシタへの電荷の充電と、キャパシタからの電荷の一括放電または段階放電とを繰り返すことで、光電流の値を積分して増幅し、増幅した値をデジタル値に変換している。
【0028】
AD変換器5の出力は、対数変換器6に入力され、対数に変換される。対数変換器6では、例えば21ビットの入力データを8ビットの対数データに変換して出力する。対数変換器6からの対数データはレジスタ回路14に入力され保持される。レジスタ回路14に保持されているデジタルデータは、ICインタフェース17を介してMCU44に出力される。一方、近接測定が行われ、近接検出されると、PSインタフェース15を介して割り込み信号がMCU44に伝達される。
【0029】
周囲光の照度測定についても、近接測定部50で行われる。周囲光の光源41からの光が受光素子3で受光されると、受光素子3では光電変換作用により光電流が発生する。この光電流を増幅器とキャパシタとによる積分回路4で積分し、その値がAD変換器5に入力される。AD変換器5によりAD変換されたデジタル値は、対数変換器6に送信される。対数変換器6では、デジタル値を対数データに変換してレジスタ回路14に送信し、送信された対数データはレジスタ回路14で保持される。レジスタ回路14に保持された周囲光測定データはICインタフェース17を介してMCU44に出力される。
【0030】
次に、赤外線測定装置100の近接測定における基本的な測定タイミングについて説明する。図2は、本実施の形態1に係る赤外線測定装置100の測定タイミングを説明するための図である。図2(a)および図2(b)では、縦軸が周囲光の放射照度を、横軸が時間をそれぞれ示している。周囲光には、商用電源周波数(50Hz、60Hz)に基づく所定の周期で発光強度が変動している白熱やハロゲン光等の光源から光が含まれているため、図2に示すように周囲光の放射照度も変動する。
【0031】
このため、赤外線測定装置100では、赤外発光ダイオード420を発光させて対象物からの反射光を測定する前後に、周囲光の赤外線成分を測定し、これらの値の平均を対象物からの赤外反射光測定値から引き算することにより周囲光の赤外線成分を除去することができる。
【0032】
図2(a)に示すように、赤外線測定装置100は、時刻t2で赤外発光ダイオード420を発光させて赤外反射光を測定する場合、時刻t2の前後で赤外発光ダイオード420を発光させない時刻t1、t3で周囲光を測定する。時刻t2での測定値をM2、時刻t1、時刻t3での周囲光の測定値をそれぞれAIR1、AIR3とする。測定値M2には、時刻t2での赤外反射光の成分LED1だけでなく、時刻t2での周囲光の成分AIR2も重畳している。そのため、赤外反射光の成分LED1を求めるには、測定値M2から周囲光の成分AIR2を減算する必要がある。周囲光の成分AIR2が、時刻t1での周囲光の測定値AIR1と、時刻t3での周囲光の測定値AIR3との平均値と等しいとすると、赤外反射光の成分LED1は、
LED1=M2-(AIR1+AIR3)/2 ・・・・ (1)
で算出できる。ここで、時刻t1、時刻t3における周囲光の測定値AIR1、AIR3、および時刻t2での赤外反射光の測定値M2は、近接測定部50において、受光素子3からの光電流に基づく放射照度として算出される。
【0033】
しかし、上記の式(1)により赤外反射光の成分LED1を算出する方法では、測定する時刻によって、図2(a)のように、赤外反射光の測定タイミングである時刻t2で周囲光の放射照度がピークとなる場合、時刻t2での周囲光の成分AIR2は、時刻t1、時刻t3での周囲光の測定値AIR1、AIR3よりも大きくなる。つまり、周囲光の成分AIR2と測定値AIR1、AIR3との関係は、AIR2>(AIR1+AIR3)/2となる。そのため、当該関係を上記の式(1)に代入すると、測定値M2から周囲光の成分AIR2を完全に減算することができないことが分かる。
【0034】
このように、上記の式(1)により赤外反射光の成分LED1の算出する方法では、周囲光の成分を除去することができず当該成分が残る場合があり、ノイズとして周囲光の成分が加算された赤外反射光の放射照度が算出される。算出した赤外反射光の放射照度にノイズとして周囲光の成分が加わると、近接物がなくても近接物が存在するという判定など、赤外線測定装置の誤動作の原因となる。
【0035】
上記のような問題を解消するには、図2(b)のように周囲光と反射光との測定タイミングを極力近づける必要がある。図2(b)に示すように、赤外線測定装置100は、時刻t2で赤外発光ダイオード420を発光させて赤外反射光を測定する場合、時刻t2の前後で赤外発光ダイオード420を発光させない時刻t1a、t3aで周囲光を測定する。時刻t2での測定値をM2、時刻t1a、時刻t3aでの周囲光の測定値をそれぞれAIR1a、AIR3aとする。
【0036】
時刻t1a、時刻t3aは、図2)で示す時刻t1、時刻t3よりも時刻t2にそれぞれに近付く、時刻t1a、時刻t3aでの周囲光の測定値AIR1a、AIR3aは、時刻t1、時刻t3での周囲光の測定値AIR1、AIR3より大きくなる。つまり、周囲光の成分AIR2と測定値AIR1、AIR3と測定値AIR1a、AIR3aとの関係は、AIR2>(AIR1a+AIR3a)/2>(AIR1+AIR3)/2となる。そのため、周囲光と反射光との測定タイミングを極力近づけることで、測定値M2から周囲光の成分AIR2により近い値を減算することができ、赤外線測定装置100の誤動作を低減できる。
【0037】
ただ、赤外線測定装置100において、周囲光と反射光との測定タイミングを近づけようとすると、測定結果の分解能とのトレードオフが発生することが考えられる。これは、赤外線測定装置100の積分型AD変換回路を構成に起因する。積分型AD変換回路では、入射した周囲光また反射光を受光素子3であるフォトダイオードで光電流に変換し、積分回路4で一定時間積分して光の強さに比例した電圧に変換して、さらにこの電圧の大きさを、放電回路を用いてカウントすることでしてデジタル値に変換している。
【0038】
例えば、放電回路を有する積分型AD変換回路では、積分中に行う一括放電の他に積分終了後(充電時間終了後)に段階放電を行うことで測定結果の分解能を高めている。具体的に、当該積分型AD変換回路では、積分中はコンパレータHで積分アンプの出力電圧を監視し、一定レベルになると一括放電を行って電圧を戻し、放電するたびにデータを1つ繰り上げる処理を行っている。さらに、当該積分型AD変換回路では、積分が終了すると、回路定数を切り替えて段階放電を行い、コンパレータLで積分アンプの出力電圧を監視し、一括放電より小さな放電電圧で放電を行った回数をカウントすることでデジタル値に変換している。
【0039】
上記の積分型AD変換回路を用いて赤外線測定装置で周囲光と反射光との測定を行った場合について説明する。図3は、周囲光と反射光との測定タイミングを説明するための図である。上記の積分型AD変換回路では、図3(a)に示すように、周囲光測定A1を行う期間(たとえば、200μsec)に積分中に一括放電を行い、当該期間が終了後に段階放電を行う期間(たとえば、200μsec)を設けている。そのため、反射光測定Bを行う期間は、周囲光測定A1の段階放電を行う期間後から開始する。同様に、周囲光測定A2を行う期間は、反射光測定Bの段階放電を行う期間後から開始する。
【0040】
そのため、周囲光と反射光との測定タイミングは、段階放電を行う期間より短い期間に近付けることができない問題がある。積分型AD変換回路では、段階放電を行うことでデジタル値の分解能を高めているため、周囲光と反射光との測定タイミングを近づけるために段階放電を行わなければデジタル値の分解能が犠牲となる。赤外線測定装置100では、デジタル値の分解能を向上させるために段階放電の放電電圧を小さくすると、段階放電の最大回数が増えるため、周囲光と反射光との測定タイミングがさらに遠くなる。つまり、赤外線測定装置100では、ノイズ低減とデジタル値の分解能との間にトレードオフの関係があり、両者の関係を最適化する必要がある。
【0041】
そこで、本実施の形態1に係る赤外線測定装置100では、段階放電を行う期間の終了を待たずに次の測定を行う期間を開始できる回路構成を採用している。当該回路構成を採用することで、図3(b)に示すように、周囲光測定A1を行う期間(たとえば、200μsec)に積分中に一括放電を行い、当該期間が終了後に段階放電を行う期間を待たずに反射光測定Bを行う期間を開始する。周囲光測定A1の段階放電を行う期間(たとえば、200μsec)は、反射光測定Bを行う期間と同じタイミングで行う。同様に、反射光測定Bの段階放電を行う期間を待たずに周囲光測定A2の段階放電を行う期間を開始する。反射光測定Bの段階放電を行う期間は、周囲光測定A2を行う期間と同じタイミングで行う。
【0042】
そのため、周囲光と反射光との測定タイミングは、段階放電を行う期間より短い期間に近付けることができる。当該回路構成を採用した積分型AD変換回路では、段階放電を行うことでデジタル値の分解能を高めつつ、周囲光と反射光との測定タイミングを近づけることが可能となる。
【0043】
以下、当該回路構成について詳しく説明する。図4は、本実施の形態1に係る赤外線測定装置の積分回路4およびAD変換器5の回路構成を示す回路図である。積分回路4は、図4に示すように受光素子3からの入力電流(光電流)に応じた電荷を蓄える充電回路を構成するオペアンプ40を有している。当該充電回路は、一端がオペアンプ40の入力端に接続され、他端がオペアンプ40の出力端に接続された充電用キャパシタCINT1と、オペアンプ40の他の入力端に基準電圧VREFを印加する定電圧源とを有する。さらに、当該充電回路は、充電用キャパシタCINT1の両端間を短絡する第1スイッチSW1と、受光素子3と充電用キャパシタCINT1の一端との間を開閉する第2スイッチSW2と、第2スイッチSW2の一端と0.5Vの定電圧源との間を開閉する第2スイッチSW2Bとを有する。
【0044】
積分回路4は、充電回路に蓄えた電荷を放電する一括放電回路(第1放電回路)42を備えている。一括放電回路42は、充電回路の充電量が所定の充電量に達する毎に、充電回路に蓄えられた電荷を一括で放電する回路である。一括放電回路42には、放電用キャパシタCDHG(例えば、充電用キャパシタCINT1と同じ容量)と、放電用キャパシタCDHGの一端と定電圧VDHGを印加する定電圧源(例えば、基準電圧VREFの約11/5倍の電圧)との間、並びに、放電用キャパシタCDHGの他端とオペアンプ40の入力端との間を各々開閉する第4スイッチSW4~SW4Bとを有している。
【0045】
オペアンプ40の出力端には、AD変換器5のコンパレータCMPHが接続されており、コンパレータCMPHで積分中のオペアンプ40の出力電圧を監視している。そして、オペアンプ40の出力電圧が一定レベル(コンパレータCMPHに印加されている電圧)になると、一括放電回路42で一括放電が行われ基準電圧VREFの電圧まで戻す。コンパレータCMPHでは、一括放電を行うたびにデータを+1インクリメントして光に比例した電圧をデジタルデータ化している。
【0046】
積分が終了すると回路定数を切り替えて段階放電を行い、AD変換での分解能を向上させている。そのため、積分回路4は、充電回路に蓄えた電荷を段階的に放電する段階放電回路(第2放電回路)43を備えている。しかし、本実施の形態1では、充電回路に蓄えられた電荷を単に段階的に放電する回路でなく、充電回路に蓄えられた電荷をコピーした上で段階的に放電する段階放電回路43を設けている。段階放電回路43では、充電回路に蓄えられた電荷をコピーする回路を構成するオペアンプ431を有している。当該回路は、一端がオペアンプ431の入力端に接続され、他端がオペアンプ431の出力端に接続された充電用キャパシタCINT1およびCINT2(例えば、充電用キャパシタCINT1の約31倍の容量)と、オペアンプ431の他の入力端に基準電圧VREFを印加する定電圧源とを有する。さらに、当該回路は、充電用キャパシタCINT1の両端間を短絡する第7スイッチSW7と、充電用キャパシタCINT2の一端に接続される第3スイッチSW3,SW3Bとを有する。段階放電回路43の充電用キャパシタCINT1およびCINT2は、段階放電用キャパシタともいう。
【0047】
段階放電回路43には、さらに放電用キャパシタCDHG(例えば、充電用キャパシタCINT1と同じ容量)と、放電用キャパシタCDHGの一端と定電圧VDHGを印加する定電圧源との間、並びに、放電用キャパシタCDHGの他端とオペアンプ431の入力端との間を各々開閉する第8スイッチSW8~SW8B,第9スイッチSW9~SW9Bとを有している。段階放電回路43では、1次段階放電だけでなく2次段階放電を行うため、放電用キャパシタCDHGに接続する定電圧源を切換えることができるように第5スイッチSW5と第6スイッチSW6とを設けている。第5スイッチSW5は、定電圧VDHG1を印加する定電圧源(例えば、基準電圧VREFの約11/5倍の電圧)と放電用キャパシタCDHGの一端との間に、第6スイッチSW6は、定電圧VDHG2を印加する定電圧源(例えば、基準電圧VREFの約7/10倍の電圧)と放電用キャパシタCDHGの一端との間にそれぞれ設けられている。なお、段階放電回路43とオペアンプ40との間には、スイッチSWCが設けられている。
【0048】
段階放電回路43による段階放電中は、コンパレータCMPLでオペアンプ431の出力電圧を監視している。そして、オペアンプ431の出力電圧が一定レベル(コンパレータCMPLに印加されている電圧(例えば、基準電圧VREFの約4/5倍の電圧))になると測定を終了する。コンパレータCMPLでは、積分終了の電圧を1次段階放電および2次段階放電の放電電圧で割った数値をデジタルデータ化している。
【0049】
図5は、本実施の形態1に係る赤外線測定装置の積分回路の充放電動作の一例を示すタイミングチャートである。図5に示すタイミングチャートでは、「測定前」、「積分+一括放電」、「電圧コピー時間」、「次の積分+一括放電」のそれぞれの期間に分けられる。なお、図3で説明した周囲光測定を「積分+一括放電」の期間で行い、反射光測定を「次の積分+一括放電」の期間で行い、周囲光測定の段階放電を「次の積分+一括放電」の期間で行っている。
【0050】
積分回路4は、図5のタイミング(1)で示すように一括放電中、スイッチSWCをOFF、第5スイッチSW5をONにすることで、オペアンプ40を含む充電回路と段階放電回路43とを電気的に切り離している。「積分+一括放電」の期間において、充電用キャパシタCINT1の充電モードでは、受光素子3からの電流入力経路が導通され、充電用キャパシタCINT1の充電が開始される。その結果、オペアンプ40の出力電圧Aは、充電用キャパシタCINT1の充電が進むにつれて、増加していくことになる。充電用キャパシタCINT1の充電が進み、オペアンプ40の出力電圧AがコンパレータCMPHに印加されている電圧(例えば、基準電圧VREFの約11/5倍の電圧)まで増加すると、一括放電回路42による放電が開始される。すなわち、充電用キャパシタCINT1から放電用キャパシタCDHGへの電荷転送経路が導通され、充電用キャパシタCINT1の蓄積電荷が放電用キャパシタCDHGに移される。
【0051】
段階放電回路43は、「積分+一括放電」の期間が終了すると、図5のタイミング(2)で示すように第7スイッチSW7をOFF、次いでスイッチSWCをONにする。さらに、段階放電回路43は、第8スイッチSW8および第9スイッチSW9を開閉することで、オペアンプ40の出力電圧Aをオペアンプ431の出力電圧Eにコピーする。
【0052】
段階放電回路43は、オペアンプ431の出力電圧Eに電圧をコピー後、図5のタイミング(3)で示すようにスイッチSWCをOFFにする。その後、積分回路4では、「次の積分+一括放電」の期間の充電と放電とが開始され、段階放電回路43では、第3スイッチSW3をON、第5スイッチSW5をONにして次の積分動作と並行して段階放電動作を行う。
【0053】
段階放電回路43では、オペアンプ431の出力電圧Eに電圧をコピー後、1次段階放電を開始する。このとき、オペアンプ431に接続される積分容量は、充電用キャパシタCINT1から充電用キャパシタCINT1+充電用キャパシタCINT2に切り替わる。段階放電回路43は、コンパレータCMPLがHレベルになるまで、放電用キャパシタCDHGを用いて1次段階放電を繰り返す。1次段階放電では、一括放電の1/32の放電電圧で放電を繰り返す。1/32の値は、充電用キャパシタCINT1と充電用キャパシタCINT1+充電用キャパシタCINT2との容量比で求まる。
【0054】
段階放電回路43は、コンパレータCMPLがHレベルになる余分にもう一回だけ1次段階放電を行う。当該放電は必須ではないが、余分に1次段階放電を1回行わない場合、2次段階が1回も発生しない可能性があるので、2次段階放電を少なくとも1回行われるように、余分に1次段階放電を1回行っている。
【0055】
ステート遷移ウェイトの期間を設けて1次段階放電から2次段階放電に移行する。この場合、段階放電回路43は、第5スイッチSW5をOFF、第6スイッチSW6をONにして放電用キャパシタCDHGに印加する電圧を定電圧VDHG2に切替える。これにより、2次段階放電の放電電圧は、1次段階放電の放電電圧の1/4となる。1/4の値は、基準電圧VREFと定電圧VDHG1との差と、基準電圧VREFと定電圧VDHG2との差との電圧比で求まる。
【0056】
なお、一括放電電圧、1次段階放電電圧、2次段階放電電圧はそれぞれ以下のように求めることができる。
一括放電電圧=CDHG/CINT1*(VDHG1-VREF+Vofs)
1次段階放電電圧=CDHG/(CINT1+CINT2)*(VDHG1-VREF+Vofs)
2次段階放電電圧=CDHG/(CINT1+CINT2)*(VDHG2-VREF+Vofs)
ここで、CDHGは放電用キャパシタCDHG、CINT1は充電用キャパシタCINT1、CINT2は充電用キャパシタCINT2のそれぞれの容量を表す。VDHG1は定電圧VDHG1の電圧、VDHG2は定電圧VDHG2の電圧、Vofsはオペアンプのオフセット値をそれぞれ表す。
【0057】
上記のような関係を有するため、一括放電電圧と1次段階放電電圧との放電比は、(VDHG1-VREF+Vofs)の電圧部分が同じとなるので容量比だけで決まることになる。一方、1次段階放電電圧と2次段階放電電圧との放電比は、(VDHG1-VREF+Vofs)と(VDHG2-VREF+Vofs)との電圧比で決まる。なお、1次段階放電電圧と2次段階放電電圧との比は、オペアンプのオフセット値Vofsの影響を受けるため、定電圧VDHG1と定電圧VDHG2との電圧比だけで決まらないため、一括放電電圧と1次段階放電電圧との比に比べて精度が低下する。
【0058】
段階放電回路43は、オペアンプ40の出力電圧Aをオペアンプ431の出力電圧Eにコピーしているため、コピー誤差として10mV程度の誤差が生じる可能性がある。しかし、本実施の形態1では、オペアンプ40の出力電圧Aをオペアンプ431の出力電圧Eにコピーすることで、周囲光測定の段階放電を行う期間を、反射光測定を行う期間に行え、周囲光測定と反射光測定との測定タイミングを近づけることができるので、ほぼ同じレベルの誤差が乗ることになり演算によってキャンセルできる。
【0059】
本実施の形態1では、図4に示したように積分回路4に段階放電回路43を設けている。当該積分回路4を含む近接測定部50(図1参照)の回路を同じ基板上に構成した場合、回路面積は、キャパシタに比べてオペアンプやスイッチの回路面積が小さいので、ほぼキャパシタの容量値で決まることになる。具体的に、オペアンプの代表的な回路面積は、キャパシタの回路面積の5分の1程度である。
【0060】
さらに、積分回路4のキャパシタにMIN構造のキャパシタを採用した場合、オペアンプやスイッチの回路をキャパシタの回路の下に配置することが可能になる。このようなMIN構造のキャパシタを採用することで、キャパシタの回路の下に、追加する段階放電回路43を含め大半の回路を配置することができるので、回路全体の面積がキャパシタの容量値で決まることになる。よって、本実施の形態1に係る積分回路4のように、オペアンプ40の出力電圧Aをオペアンプ431の出力電圧Eにコピーできるような回路を含む段階放電回路43を設けても、近接測定部50の回路面積の増加を抑えることができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態1に係る赤外線測定装置100は、赤外発光ダイオード420と、近接測定部50と、演算処理部であるMCU44とを備えている。赤外発光ダイオード420は、近接物に赤外線を照射する。近接測定部50は、赤外発光ダイオード420が発光している状態において近接物で反射した赤外反射光を測定した第1の測定値と、赤外発光ダイオード420が非発光の状態で第1の測定値の測定時刻の前後の時刻で測定された第2の測定値及び第3の測定値を出力する手段を有する。演算処理部は、近接測定部50からの測定データを演算処理し、第1の測定値から第2の測定値及び第3の測定値の平均を引き算して赤外反射光照度を算出する手段を有する。近接測定部50は、測定する光を電流に変換する受光素子3と、受光素子3で変換した電流に応じた電荷を蓄える充電用キャパシタを有する充電回路と、充電用キャパシタに蓄えた電荷を放電させる放電回路とを含む。放電回路は、一括放電回路42と段階放電回路43とを含む。一括放電回路42は、1つの測定値を得るための測定から次の測定値を得るための測定までの充電時間の間、充電用キャパシタを充電するとともに、充電用キャパシタが所定の充電量になる毎に放電を行う。段階放電回路43は、充電時間終了後、充電用キャパシタに残存する電荷を移す段階放電用キャパシタと、段階放電用キャパシタの電荷の放電を行う。一括放電回路42の放電回数および段階放電回路43の放電回数に基づいて、充電用キャパシタの充電量に応じた電圧のデジタル値を測定値として出力する。
【0062】
本実施の形態1に係る赤外線測定装置100は、充電用キャパシタに残存する電荷を段階放電用キャパシタに移すので、段階放電回路43の放電を待たずに次の一括放電回路42による測定を行うことができ、周囲光測定と反射光測定とより近接させて行うことができる。これにより、本実施の形態1に係る赤外線測定装置100は、測定間隔を短くすることでフリッカーなど周囲光がノイズとして含まれることを防止し、誤動作を抑制することができる。
【0063】
一括放電回路42は、充電用キャパシタに残存する電荷を段階放電用キャパシタに移した後、次の測定値を得るための測定に基づいて充電用キャパシタを充電するとともに、充電用キャパシタが所定の充電量になる毎に放電を行う。これにより、周囲光測定と反射光測定とより近接させて行うことができる。もちろん、一括放電回路42は、充電用キャパシタに残存する電荷を段階放電用キャパシタに移し電圧コピーした後、直ぐに次の測定のため充電を開始するだけでなく、ウェイト時間を設けて次の測定のため充電を開始してもよい。
【0064】
段階放電回路43は、段階放電用キャパシタに残存する電荷が所定値になるまで、これを所定量ずつ段階的に放電するものである。これにより、AD変換での分解能を向上させることができる。なお、段階放電回路43は、1次段階放電と2次段階放電とを行う構成について説明したが、1次段階放電のみを行う構成であってもよい。
【0065】
段階放電回路43は、段階放電用キャパシタに残存する電荷が所定値を超えて1段階余分に放電する1次段階放電と、所定量よりも小さい量ずつ段階的に放電して所定電圧まで戻す2次段階放電とを行ってもよい。これにより、AD変換での分解能をさらに向上させることができる。
【0066】
2次段階放電では、所定量ずつ段階的に放電してもよい。これにより、放電回数を最適化することができる。
【0067】
(実施の形態2)
実施の形態1では、オペアンプ40の出力電圧Aをオペアンプ431の出力電圧Eにコピーする段階放電回路43を設けることで、周囲光測定と反射光測定とより近接させて行うことができる構成を説明した。本実施の形態2では、電圧をコピーする段階放電回路を設けずに、1次段階放電と2次段階放電との放電回数を調整して、周囲光測定と反射光測定とより近接させる構成について説明する。
【0068】
本実施の形態2に係る赤外線測定装置の全体構成は、図1に示す実施の形態1に係る赤外線測定装置の全体構成と同じであるため、同じ構成に同じ符号を付して詳細な説明を繰返さない。本実施の形態2に係る赤外線測定装置は、積分回路の回路構成が実施の形態1と異なるため、当該回路構成について説明する。図6は、本実施の形態2に係る赤外線測定装置の積分回路およびAD変換器の回路構成を示す回路図である。積分回路は、図4に示すように受光素子3からの入力電流(光電流)に応じた電荷を蓄える充電回路を構成するオペアンプ40を有している。なお、図6に示す回路構成のうち、図4に示す回路構成については同じ符号を付して説明する。
【0069】
当該充電回路は、一端がオペアンプ40の入力端に接続され、他端がオペアンプ40の出力端に接続された充電用キャパシタCINT1およびCINT2(例えば、充電用キャパシタCINT1の約31倍の容量)と、オペアンプ40の他の入力端に基準電圧VREFを印加する定電圧源とを有する。さらに、当該充電回路は、充電用キャパシタCINT1の両端間を短絡する第1スイッチSW1と、充電用キャパシタCINT2の一端に接続される第3スイッチSW3,SW3Bと、受光素子3と充電用キャパシタCINT1の一端との間を開閉する第2スイッチSW2と、第2スイッチSW2の一端と0.5Vの定電圧源との間を開閉する第2スイッチSW2Bとを有する。
【0070】
本実施の形態2に係る積分回路は、充電回路に蓄えた電荷を放電する放電回路42aを備えている。放電回路42aは、充電回路の充電量が所定の充電量に達する毎に、充電回路に蓄えられた電荷を一括で放電する回路(第1放電回路)と、段階的に放電する回路(第2放電回路)とを含んでいる。放電回路42aには、放電用キャパシタCDHG(例えば、充電用キャパシタCINT1と同じ容量)と、放電用キャパシタCDHGの一端と定電圧VDHGを印加する定電圧源(例えば、基準電圧VREFの約11/5倍の電圧)との間、並びに、放電用キャパシタCDHGの他端とオペアンプ40の入力端との間を各々開閉する第4スイッチSW4~SW4Bとを有している。
【0071】
さらに、段階的な放電は、1次段階放電だけでなく2次段階放電を行うため、放電用キャパシタCDHGに接続する定電圧源を切換えることができるように第5スイッチSW5と第5スイッチSW5Bとを設けている。第5スイッチSW5は、定電圧VDHG1を印加する定電圧源(例えば、基準電圧VREFの約11/5倍の電圧)と第4スイッチSW4との間に、第5スイッチSW5Bは、定電圧VDHG2を印加する定電圧源(例えば、基準電圧VREFの約7/10倍の電圧)と第4スイッチSW4との間にそれぞれ設けられている。
【0072】
オペアンプ40の出力端には、AD変換器5のコンパレータCMPHおよびコンパレータCMPLが接続されており、コンパレータCMPHで積分中のオペアンプ40の出力電圧を監視している。そして、オペアンプ40の出力電圧が一定レベル(コンパレータCMPHに印加されている電圧(例えば、基準電圧VREFの約11/5倍の電圧))になると、放電回路42aで一括放電が行われ基準電圧VREFの電圧まで戻す。コンパレータCMPHでは、一括放電を行うたびにデータを+1インクリメントして光に比例した電圧をデジタルデータ化している。
【0073】
コンパレータCMPLは、段階的な放電のときにオペアンプ40の出力電圧を監視している。そして、オペアンプ40の出力電圧が一定レベル(コンパレータCMPLに印加されている電圧(例えば、基準電圧VREFの約4/5倍の電圧))になると測定を終了する。コンパレータCMPLでは、積分終了の電圧を1次段階放電および2次段階放電の放電電圧で割った数値をデジタルデータ化している。
【0074】
図7は、本実施の形態2に係る赤外線測定装置の積分回路の充放電動作の一例を示すタイミングチャートである。図7に示すタイミングチャートでは、「測定前」、「積分+一括放電」、「ステート遷移ウェイト」、「1次段階放電」、「ステート遷移ウェイト」、「2次段階放電」のそれぞれの期間に分けられる。なお、図3で説明した周囲光測定または反射光測定を「積分+一括放電」から「2次段階放電」までの期間で行っている。
【0075】
積分回路は、図7のタイミング(1)で示すように「測定前」の期間、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2をON状態で、オペアンプ40を全帰還状態で静止させておく。そして、積分回路は、第1スイッチSW1をOFFにすることで、積分(充電)が開始する。積分回路は、積分が開始されると、オペアンプ40の出力電圧AがコンパレータCMPHに印加されている電圧(例えば、基準電圧VREFの約11/5倍の電圧)まで増加すると、放電回路42aによる放電を開始する(図7のタイミング(2))。
【0076】
図7のタイミング(3)で示すように所定の積分期間が終了(充電時間終了)すると、第2スイッチSW2をOFFして受光素子3を積分回路から切り離す。そして、積分回路では、「積分+一括放電」の期間から段階的な放電の「1次段階放電」の期間にステートを遷移させるために「ステート遷移ウェイト」の期間を設けている。積分回路は、1次段階放電を開始する前に、オペアンプ431に接続される積分容量を、充電用キャパシタCINT1から充電用キャパシタCINT1+充電用キャパシタCINT2に切り替える。
【0077】
放電回路42aは、コンパレータCMPLがHレベルになるまで、放電用キャパシタCDHGを用いて1次段階放電を繰り返す。1次段階放電では、一括放電の例えば1/32の放電電圧で放電を繰り返す(図7のタイミング(4))。1/32の値は、充電用キャパシタCINT1と充電用キャパシタCINT1+充電用キャパシタCINT2との容量比で求まる。
【0078】
放電回路42aは、コンパレータCMPLがHレベルになる余分にもう一回だけ1次段階放電を行う(図7のタイミング(5))。当該放電は必須ではないが、余分に1次段階放電を1回行わない場合、2次段階が1回も発生しない可能性があるので、2次段階放電を少なくとも1回行われるように、余分に1次段階放電を1回行っている。
【0079】
1次段階放電から2次段階放電に移行する場合、放電回路42aは、第5スイッチSW5をOFF、第5スイッチSW5BをONにして放電用キャパシタCDHGに印加する電圧を定電圧VDHG2に切替える(図7のタイミング(6))。これにより、2次段階放電の放電電圧は、1次段階放電の放電電圧の例えば1/4となる。1/4の値は、基準電圧VREFと定電圧VDHG1との差と、基準電圧VREFと定電圧VDHG2との差との電圧比で求まる。なお、一括放電電圧、1次段階放電電圧、2次段階放電電圧の求め方は、実施の形態1で説明したので繰り返さない。
【0080】
放電回路42aは、1次段階放電と2次段階放電とを行うので、1次段階放電のみを行う放電回路に比べて分解能を増やしても、段階放電回数の増加を最小限に抑えられる。たとえば、1次段階放電のみで分解能を増やす場合、充電用キャパシタCINT1と充電用キャパシタCINT1+充電用キャパシタCINT2との容量比を1/64とした場合、放電回路での放電回数は32回から64回に増加する。放電回数が増えることで、例えば周囲光測定の段階放電を行う期間が長くなり、周囲光測定と反射光測定とを近接させて行うことができなくなる。
【0081】
一方、本実施の形態2に係る放電回路42aでは、1次段階放電と2次段階放電とを組み合わせることで段階放電回数をあまり増やさずに分解能を増やすことができる。図7に示した例では、放電回路42aは、1次段階放電の放電回数を32回のまま維持し、2次段階放電の放電回数を8回行うことで計40回の放電を行っている。放電回路42aでは、2次段階放電電圧を1次段階放電電圧よりも2の乗数分だけ小さくし、図7に示す例では2次段階放電電圧を1次段階放電電圧の1/4としている。また、2次段階放電では、放電の方向を1次段階放電の逆方向とし、データインクリメントも1次段階放電に対してマイナスとしている。
【0082】
放電回路42aでは、1次段階放電を行い、コンパレータCMPLがHレベルになった後、1回余分に1次段階放電を行って、2次段階放電で再度コンパレータCMPLがHレベルになるまで電圧を戻してデータを確定させている。そのため、放電回路42aの分解能は、2次段階放電電圧で決まり1次段階放電電圧の4倍の分解能を得ることができる。本実施の形態2では、分解能を増やした場合でも1次段階放電のみで分解能を増やす場合に比べて、放電回路42aの放電回数の増加を抑えることができ、段階放電を行う期間を短くすることができる。よって、本実施の形態2に係る赤外線測定装置では、例えば周囲光測定の段階放電を行う期間が短くなり、周囲光測定と反射光測定とを近接させて行うことができるので、測定間隔を短くすることでフリッカーなど周囲光がノイズとして含まれることを防止し、誤動作を抑制することができる。
【0083】
以上のように、本実施の形態2に係る赤外線測定装置では、赤外発光ダイオード420と、近接測定部50と、演算処理部であるMCU44とを備えている。赤外発光ダイオード420は、近接物に赤外線を照射する。近接測定部50は、赤外発光ダイオード420が発光している状態において近接物で反射した赤外反射光を測定した第1の測定値と、赤外発光ダイオード420が非発光の状態で第1の測定値の測定時刻の前後の時刻で測定された第2の測定値及び第3の測定値を出力する手段を有する。演算処理部は、近接測定部50からの測定データを演算処理し、第1の測定値から第2の測定値及び第3の測定値の平均を引き算して赤外反射光照度を算出する手段を有する。近接測定部50は、測定する光を電流に変換する受光素子3と、受光素子3で変換した電流に応じた電荷を蓄える充電用キャパシタを有する充電回路と、充電用キャパシタに蓄えた電荷を放電させる放電回路42aとを含む。放電回路42aは、一括放電回路と段階放電回路とを含む。一括放電回路は、1つの測定値を得るための測定から次の測定値を得るための測定までの充電時間の間、充電用キャパシタを充電するとともに、充電用キャパシタが所定の充電量になる毎に放電を行う。段階放電回路は、充電時間終了後、充電用キャパシタに残存する電荷が所定値になるまで、これを所定量ずつ段階的に放電する。段階放電回路は、所定値を超えて1段階余分に放電する1次段階放電と、所定量よりも小さい量ずつ段階的に放電して所定電圧まで戻す2次段階放電とを行う。放電回路42aは、第1放電回路の放電回数および第2放電回路の放電回数に基づいて、充電用キャパシタの充電量に応じた電圧のデジタル値を測定値として出力する。
【0084】
本実施の形態2に係る赤外線測定装置は、1次段階放電の所定量よりも小さい量ずつ段階的に放電して所定電圧まで戻す2次段階放電を有するので、放電回数をあまり増やすことなく分解能を増やすことができ、周囲光測定と反射光測定とより近接させて行うことができる。これにより、本実施の形態2に係る赤外線測定装置は、測定間隔を短くすることでフリッカーなど周囲光がノイズとして含まれることを防止し、誤動作を抑制することができる。
【0085】
2次段階放電では、所定量ずつ段階的に放電してもよい。これにより、放電回数を最適化することができる。
【0086】
(変形例)
前述の実施の形態では、1次段階放電と2次段階放電とを行う構成について説明したが、3次段階放電以上を行う構成であってもよい。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
1 LEDパルス発生器、2 赤外線LEDドライバ、3 受光素子、4 積分回路、5 AD変換器、6 対数変換器、14 レジスタ回路、15 PSインタフェース、18 PSコントロールロジック、40,431 オペアンプ、41 光源、42 一括放電回路、42a 放電回路、43 段階放電回路、50 近接測定部、100 赤外線測定装置、400 近接物、420 赤外発光ダイオード、430 キャパシタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7