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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】アーク溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20231115BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B23K9/095 501F
B23K9/095 515A
B23K9/10 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019170006
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021045773
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米本 臣吾
(72)【発明者】
【氏名】上月 崇功
(72)【発明者】
【氏名】荒尾 秋諭
(72)【発明者】
【氏名】赤松 政彦
(72)【発明者】
【氏名】新見 健一郎
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-192524(JP,A)
【文献】特開昭63-084777(JP,A)
【文献】特開2012-218058(JP,A)
【文献】特開2019-098341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを溶接方向に対して交差する方向に揺動させながら溶接方向へ移動させてウィービング溶接を実行可能な溶接装置と、
オペレータが前記溶接装置を操作するための操作器と、
所定の溶接用プログラムに基づいて前記溶接装置を制御して前記ウィービング溶接を実行させる制御器と、
前記ウィービング溶接中に溶融池を含む溶接部位を動画撮影するカメラと、
前記カメラで撮影した撮影画像をリアルタイムで表示する表示装置と、
憶器と、
所定の学習用プログラムに基づいて機械学習を行う機械学習器と、
報知器と、を備え、
第1動作モードおよび第2動作モードを有し、
前記制御器は、前記第1動作モードおよび第2動作モードのときに、前記ウィービング溶接中にオペレータの操作によって前記操作器から前記溶接トーチの揺動中心位置又は前記溶接トーチの揺動幅を変更する内容の指令からなる変更操作指令が入力されたときには前記変更操作指令に応じた変更内容を反映させるように前記溶接装置を制御して前記ウィービング溶接を継続させ、
前記記憶器は、前記第1動作モードのときに、前記カメラで撮影した撮影画像の時系列データと、前記制御器に入力される前記変更操作指令の入力時刻及びその指令に応じた変更内容とを記憶し、
前記機械学習器は、前記記憶器に記憶された前記撮影画像の時系列データと前記変更操作指令の入力時刻及びその指令に応じた変更内容とを用いて学習を行い、入力を前記撮影画像の時系列データとし、出力を予測される変更内容とする予測モデルを生成し、
前記第2動作モードのときに、前記機械学習器は、前記ウィービング溶接中に前記予測モデルを用いて前記カメラで撮影される撮影画像の時系列データから予測される変更内容を前記報知器へ出力し、
前記報知器は、前記機械学習器から出力される前記変更内容をオペレータへ報知する、
アーク溶接システム。
【請求項2】
記操作器から前記制御器へ入力される前記変更操作指令は、前記溶接トーチの揺動中心位置又は前記溶接トーチの揺動幅を変更する内容の指令以外に、溶接トーチの揺動周期、溶接トーチの揺動端での停止時間、溶接トーチと被溶接物との間隔、溶接電流、溶接速度のうちのいずれかを変更する内容の指令を含む
請求項1に記載のアーク溶接システム。
【請求項3】
第3動作モードである自動運転モードを有し、
前記機械学習器は、
前記自動運転モードのときに、前記ウィービング溶接中に前記予測モデルを用いて前記カメラで撮影される撮影画像の時系列データから予測される変更内容を前記制御器へ入力するよう構成され、
前記制御器は、
前記自動運転モードのときに、前記ウィービング溶接中に前記機械学習器から前記変更内容が入力されたときには前記変更内容を反映させるように前記溶接装置を制御して前記ウィービング溶接を継続させるよう構成された、
請求項1または2に記載のアーク溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TIG溶接等のアーク溶接を実施するためのアーク溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロボット等を用いて自動でアーク溶接を行うシステムがある(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-30014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、アーク溶接の品質を高めるためには、溶接条件の設定や調整を行う作業者の溶接技術に関する知識によるところが大きく、アーク溶接を行うシステムにおいても、アーク溶接に熟練したオペレータの育成が重要である。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、アーク溶接に熟練したオペレータの育成を図ることができるアーク溶接システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のある態様に係るアーク溶接システムは、溶接トーチを溶接方向に対して交差する方向に揺動させながら溶接方向へ移動させてウィービング溶接を実行可能な溶接装置と、オペレータが前記溶接装置を操作するための操作器と、所定の溶接用プログラムに基づいて前記溶接装置を制御して前記ウィービング溶接を実行させるとともに、このウィービング溶接中にオペレータの操作によって前記操作器から前記溶接トーチの揺動中心位置又は前記溶接トーチの揺動幅を変更する内容の指令からなる変更操作指令が入力されたときには前記変更操作指令に応じた変更内容を反映させるように前記溶接装置を制御して前記ウィービング溶接を継続させる制御器と、前記ウィービング溶接中に溶融池を含む溶接部位を動画撮影するカメラと、前記カメラで撮影した撮影画像をリアルタイムで表示する表示装置と、前記カメラで撮影した撮影画像の時系列データと、前記制御器に入力される前記変更操作指令の入力時刻及びその指令に応じた変更内容とを記憶する記憶器と、前記記憶器に記憶された前記撮影画像の時系列データと前記変更操作指令の入力時刻及びその指令に応じた変更内容とを用いて学習を行い、入力を前記撮影画像の時系列データとし、出力を予測される変更内容とする予測モデルを生成し、この後のウィービング溶接中に前記予測モデルを用いて前記カメラで撮影される撮影画像の時系列データから予測される変更内容を出力する機械学習器と、を備えている。
【0007】
この構成によれば、例えば熟練したオペレータが操作器を操作してウィービング溶接が行われたときに記憶器に記憶された、熟練したオペレータによる変更操作指令の入力時刻及びその指令に応じた変更内容とカメラで撮影した撮影画像の時系列データとを用いて学習を行い、予測モデルが生成される。この後のウィービング溶接中には予測モデルを用いて、予測される変更内容を出力することができる。よって、アーク溶接に熟練していないオペレータであっても、表示装置にリアルタイムで表示される溶接部位の撮影画像を見ながら、出力される変更内容に基づいて操作器を操作することによって、熟練したオペレータの操作を習うことができるので、熟練したオペレータの育成を図ることができる。
【0008】
また、前記制御器は、前記操作器から入力される前記変更操作指令は、前記溶接トーチの揺動中心位置又は前記溶接トーチの揺動幅を変更する内容の指令以外に、溶接トーチの揺動周期、溶接トーチの揺動端での停止時間、溶接トーチと被溶接物との間隔、溶接電流、溶接速度のうちのいずれかを変更する内容の指令を含むよう構成されていてもよい。
【0009】
また、レコメンド運転モードのときに、前記機械学習器から出力される変更内容を報知する報知器を備えていてもよい。
【0010】
また、前記機械学習器は、自動運転モードのときに、前記生成された予測モデルを用いて前記カメラで撮影される撮影画像の時系列データから予測される変更内容を前記制御器へ入力するよう構成され、前記制御器は、前記自動運転モードのときに、前記所定の溶接用プログラムに基づいて前記溶接装置を制御して前記ウィービング溶接を実行させるとともに、このウィービング溶接中に前記機械学習器から前記変更内容が入力されたときには前記変更内容を反映させるように前記溶接装置を制御して前記ウィービング溶接を継続させるよう構成されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、自動運転モードでは、予測モデルで予測される変更内容が制御器へ入力され、制御器ではその変更内容を反映させるように溶接装置を制御するようにしているので、オペレータが溶接トーチの揺動中心位置等の溶接条件の変更操作を行うことなく、溶接品質の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上に説明した構成を有し、アーク溶接に熟練したオペレータの育成を図ることができるアーク溶接システムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態の一例のアーク溶接システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、被溶接物の一例を示す斜視図である。
図3図3(A)~(C)は、それぞれ、第1動作モードにおいて被溶接物の開先部にウィービング溶接を行う際の溶接トーチの先端部分の軌跡の一例を示す概略図である。
図4図4(A)~(C)は、それぞれ、溶接部位撮影用カメラで撮影されて表示装置の画面に表示される溶融池の形状と、その場合に形成される溶接ビードの断面形状の一例とを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0015】
(実施形態)
図1は、本実施形態の一例のアーク溶接システムの概略構成を示すブロック図である。
図1に示すアーク溶接システムWSは、溶接装置Aと、溶接装置Aを制御する制御装置2と、オペレータが溶接装置Aの動作開始及び停止等の種々の操作を行うための操作器3などを備えている。
【0016】
溶接装置Aは、TIG溶接を行う溶接ロボット1を備えているとともに、溶接ロボット1を移動させて溶接ロボット1の三次元位置を変更することができる移動装置(図示せず)を備えている。溶接ロボット1は、多関節ロボットであり、アーム先端にヘッド支持部10を備えている。ヘッド支持部10にはオシレータ装置11が取り付けられ、オシレータ装置11には溶接トーチ12が装着されている。
【0017】
溶接トーチ12は、電極棒13の先端部を突出させた状態で、タングステンからなる電極棒13を着脱可能に装着する。溶接トーチ12は、電極棒13を溶接用電源装置6の負側電源端子と電気的に接続する。溶接用電源装置6は、その正側電源端子が被溶接物50と電気的に接続され、電極棒13と被溶接物50との間に電圧を印加して、電極棒13の先端部と被溶接物50との間にアークを発生させる。また、溶接トーチ12は、ガス供給源から供給されるシールドガスを案内して、アーク発生領域に吹き付けることで、大気中の酸素や窒素などの影響を防いで、溶融部分の酸化および窒化を防ぐように構成されている。
【0018】
オシレータ装置11は、溶接トーチ12を溶接方向xに対して交差する方向に揺動させるよう構成されている。このときの揺動幅(ウィービング幅)及び揺動周期(ウィービング周期)等の制御指令は、制御装置2(制御器21)の指令に基づいてオシレータ制御装置4からオシレータ装置11へ出力される。溶接方向xは、被溶接物50の開先の延伸方向であって、溶接を進める方向である。
【0019】
溶接ロボット1のアーム動作によってヘッド支持部10の溶接方向xへの移動動作が行われながら、オシレータ装置11によって溶接トーチ12の揺動動作が行われることによって、溶接トーチ12は溶接方向xに対して交差する方向に揺動しながら溶接方向xへ移動する(すなわち、ウィービング動作を行う)。このようなウィービング動作を行わせる構成は、他の周知の構成を用いてもよい。この溶接装置Aでは、溶接トーチ12をウィービング動作させながらアーク溶接(ウィービング溶接)を行うことができる。
【0020】
また、溶接ロボット1には、針金状の溶接ワイヤ(溶加材)15を送給するためのワイヤ送給装置14が取り付けられている。ワイヤ送給装置14は、制御器21から送給指令が与えられることによって、ワイヤリール(図示せず)から溶接ワイヤ15を繰り出し、コンタクトチップ16を介して溶融池へ送給する。
【0021】
ホットワイヤ加熱装置5は、コンタクトチップ16と被溶接物50との間に所定電圧を印加する電源である。これにより、溶接ワイヤ15に電流(ホットワイヤ電流)を流してジュール加熱し、ワイヤ送給速度を増大させることが可能になる。
【0022】
なお、本例では、溶接装置Aを制御する制御器21とは、別にオシレータ制御装置4を備えているが、オシレータ制御装置4と制御器21とで、溶接装置Aを制御する制御器が構成される。
【0023】
また、溶接装置Aには、AVC(アーク電圧制御)装置7が備えられている。AVC装置7は、アーク長を一定に保つために、アーク電圧を検出し、このアーク電圧がアーク基準電圧となるように、溶接トーチ12と被溶接物50との間隔を調整するよう構成されている。この間隔を調整するための構成としては、例えば、溶接トーチ12を上下(上記間隔を拡大縮小する方向)にスライドさせる電動スライド軸(図示せず)を溶接トーチ12に取り付けておいて、電動スライド軸を動作させる構成としてもよいし、溶接ロボット1のアームの動作によって上記間隔を調整する構成などとしてもよい。
【0024】
ここで、AVC装置7に設定されているアーク基準電圧に応じて、溶接トーチ12と被溶接物50との間隔が決められ、アーク基準電圧を変更することによって上記間隔を変更することができる。アーク基準電圧の変更は、制御器21が操作器3からのアーク基準電圧を変更するための変更操作指令に基づいて、その変更するための信号をAVC装置7へ出力することにより変更することができる。
【0025】
そして、アーク溶接システムWSには、溶接ロボット1のヘッド支持部10に取り付けられた、溶接部位撮影用カメラ17、ビード撮影用カメラ18及び3Dレーザセンサ19を備えている。溶接部位撮影用カメラ17は、溶接中に溶接トーチ12よりも溶接方向xの前方において斜め(図1では斜め上方)から溶融池を含む溶接部位を撮影する。ビード撮影用カメラ18は、溶接トーチ12よりも溶接方向xの後方において斜め(図1では斜め上方)から溶接後のビードを撮影する。また、3Dレーザセンサ19は、溶接トーチ12よりも溶接方向xの前方における被溶接物50の開先領域を撮像する。
【0026】
また、アーク溶接システムWSには、画像処理装置9と表示装置8とを備えている。画像処理装置9は、溶接部位撮影用カメラ17及びビード撮影用カメラ18の各々で撮影される画像(動画)データを入力して適切な処理を施し、リアルタイムで表示装置8に動画として表示させることが可能に構成されている。また、画像処理装置9は、3Dレーザセンサ19で撮像された開先領域を示す情報を画像処理することで、開先情報(開先の内壁面の位置、開先の幅方向中央位置、開先の深さ等)を求め、求めた開先情報に基づく開先の断面形状等を表示装置8に表示させることが可能に構成されている。また、開先情報は制御器21へ出力される。なお、表示装置8及び画像処理装置9は、溶接部位撮影用カメラ17、ビード撮影用カメラ18及び3Dレーザセンサ19の各々に対して設けられてあってもよい。
【0027】
制御装置2は、上述の溶接装置Aを制御する制御器21、機械学習器22及び記憶器23を備えている。制御器21、機械学習器22及び記憶器23は、互いに情報の送受信が可能なように構成されている。なお、機械学習器22及び記憶器23は、制御器21と分離して制御装置2の外部に設けられてもよい。
【0028】
制御器21は、例えば、マイクロコントローラ、MPU、PLC等で構成され、CPU等の演算処理部と、不揮発性および揮発性メモリを有する記憶部とを備える。この記憶部には、溶接装置Aを制御するための所定の溶接用プログラム(溶接ロボット1の被溶接物50に対する教示情報を含む)が記憶されており、CPUが溶接用プログラムを読みだして実行することにより、溶接装置Aによって被溶接物50に対してアーク溶接が実行される。
【0029】
機械学習器22は、CPU等の演算処理部と、不揮発性および揮発性メモリを有する記憶部とを備える。この記憶部には、機械学習を行うための所定の学習用プログラムが記憶されており、CPUが学習用プログラムを読みだして実行することにより、記憶器23に記憶された情報を用いて機械学習モデルとして後述の予測モデルが構築(生成)される。なお、記憶器23は、機械学習モデル(予測モデル)を構築するために用いる情報を記憶する記憶媒体を有している。
【0030】
操作器3は、オペレータからの操作指示を受け付ける装置であり、オペレータにより操作される操作部を有する。操作部は、タッチパネル、トグルスイッチ等を用いて構成することができ、特に限定されない。操作器3は、オペレータからの操作指示を受け付けると、それに応じた操作指令を制御装置2(制御器21)へ出力する。
【0031】
図2は、被溶接物50の一例を示す斜視図である。この被溶接物50は、2つの被溶接部材50a,50bによって構成される。この被溶接物50は、例えば液化天然ガス貯留用タンクの一部分となる。2つの被溶接部材50a,50bが突き合わされた状態で、その突き合わせ部分に開先(開先部51)が形成されている。この開先部51が形成される継手部分が溶接装置Aによってアーク溶接される。本例では、溶接トーチ12を溶接方向xに対して交差する方向yに揺動させながら溶接方向xへ移動させて(ウィービング動作させて)、ウィービング溶接を行う。
【0032】
次に、本実施形態のアーク溶接システムWSの動作について説明する。このアーク溶接システムWSは、アーク溶接を行う動作モードとして、第1~第3の3つの動作モードを有する。オペレータが操作器3を操作していずれかの動作モードを選択することができる。本実施形態において実施されるアーク溶接は、前述のようにウィービング溶接であって、多層盛りが行われる多層溶接である。また、溶接電流としてピーク電流とベース電流とが交互に繰り返されるパルス溶接であってもよい。
【0033】
まず、第1動作モードについて説明する。第1動作モードでは、制御器21が溶接用プログラムに基づいて溶接装置Aを制御し、被溶接物50の開先部51に対してウィービング溶接を行う。この溶接中において、例えば熟練のオペレータが、溶接部位撮影用カメラ17で撮影されて表示装置8に表示される溶接部位の画像(動画)を見て、品質のよい溶接が行われるように、操作器3を操作して、溶接用プログラムに基づいて設定される溶接条件(溶接パラメータ)を変更することができる。
【0034】
例えば、被溶接物50である被溶接部材50a、50bには、これらを製造時の加工誤差(製造誤差)やセッティングの誤差が存在したり、溶接中の熱変形による開先状態の変動が生じる。制御器21が溶接用プログラムに基づいて溶接装置Aを制御するだけでは、溶接品質の低下が避けられず、溶接不良となる場合もある。なお、制御器21は、溶接用プログラムを実行することにより、3Dレーザセンサ19の出力から得られる開先情報に基づいて、溶接トーチ12の移動経路等について、予定経路等からの調整(修正)を行うようにしているが、それでも、例えば溶接中の熱変形等による開先状態の変動に対応することが難しい場合がある。そこで、オペレータが溶接部位撮影用カメラ17の撮影画像(溶接部位の動画)を見て必要に応じて溶接条件を変更するようにしている。
【0035】
溶接部位撮影用カメラ17の撮影画像には、溶接トーチ12の先端部分、この先端部分から突出した電極棒13、発生するアーク、溶融池及び溶接ワイヤ15等の画像が含まれる。
【0036】
この第1動作モード及び後述の第2動作モードにおいて、溶接中にオペレータが操作器3を操作して変更可能な溶接条件としては、例えば、ウィービング中心位置(溶接トーチの揺動中心位置)、ウィービング幅(溶接トーチの揺動幅)、ウィービング周期(溶接トーチの揺動周期)、溶接トーチ12のウィービング左端及び右端での停止時間(溶接トーチの揺動左端及び右端での停止時間)、アーク基準電圧(溶接トーチと被溶接物との間隔)、溶接電流、溶接速度(溶接方向xへ進む速度)、ホットワイヤ電流、ワイヤ送給速度、ワイヤ上下位置、ワイヤ左右位置などがある。これらの溶接条件を変更するために操作器3には、例えば、溶接条件ごとに、1回の操作(例えば、タッチ操作またはボタン押し操作など)による変更量が予め決められた操作部を有する。
【0037】
第1動作モードにおいて、オペレータが操作器3を操作してウィービング中心位置、ウィービング幅等の溶接条件を変更する場合の一例について、図3図4を参照して説明する。
【0038】
図3(A)~(C)は、それぞれ、第1動作モードにおいて被溶接物50の開先部51にウィービング溶接を行う際の溶接トーチ12の先端(電極棒13の先端)部分の軌跡Sの一例を示す概略図である。この図3(A)~(C)は、それぞれ、開先部51の溶接幅の状態が異なる場合を示している。ここで、開先部51の溶接幅とは、図中では溶接左端ライン52aと溶接右端ライン52bとの間隔であり、多層溶接の1層目の場合、開先部51の底面または開口(ギャップ)の幅であり、2層目以降の場合は前層のビードの幅である。
【0039】
溶接中、オペレータは、表示装置8の画面に表示される溶接部位撮影用カメラ17の撮影画像を監視し、例えば、溶接トーチ12の先端軌跡Sで示されるウィービングの左端及び右端の位置と、溶接左端及び右端ライン52a,52bとが一致しているか否かを判断し、一致しなくなると、一致させるための操作を行う。なお、オペレータは、ウィービングの左端及び右端の位置は、ウィービング動作している溶接トーチ12の先端部分(電極棒13)を見て把握する。
【0040】
図3(A)は、開先部51の溶接幅が一定となっている理想的な場合である。この場合、ウィービングの左端及び右端の位置と、溶接左端及び右端ライン52a,52bとが一致する状態が続いているので、オペレータによる操作が行われず、一定のウィービング幅が維持されている。
【0041】
図3(B)は、溶接方向xに溶接が進んだときに開先部51の溶接幅が左右(y方向)に広がっている場合である。この場合、オペレータは、時刻t1~t6のときのウィービングの左端及び右端の位置と、溶接左端及び右端ライン52a,52bとを見て、ウィービング幅を増加させることを決定し、溶接トーチ12が例えば領域T1部分を通過する間に、ウィービング幅を増加させるための操作を行っている。ここで、オペレータは、例えば、時刻t1,t3,t5のときの状態から、ウィービングの右端位置を右に移動させたいと思慮するとともに、時刻t2,t4,t6のときの状態から、ウィービングの左端位置を左に移動させたいと思慮し、その結果、ウィービング幅を増加させることを決定している。
【0042】
ウィービング幅を変更するための操作部は、例えば、ウィービング幅増加スイッチとウィービング幅減少スイッチとで構成され、ウィービング幅増加スイッチを1回操作するとウィービング幅が所定量増加し、ウィービング幅減少スイッチを1回操作するとウィービング幅が所定量減少するように、溶接ロボット1に装着されたオシレータ装置11が制御される。
【0043】
なお、図3(B)では、ウィービング幅を増加させる場合を例示したが、ウィービング幅を減少させる場合は、図3(B)の場合とは逆の現象が生じる場合である。
【0044】
図3(C)は、溶接方向xに溶接が進んだときに溶接右端ライン52bが右側に寄っている場合である。この場合、オペレータは、時刻t11~t13のときのウィービングの右端の位置と、溶接右端ライン52bとを見て、ウィービングの右端位置を右に移動させたいと思慮するとともに、その間のウィービングの左端の位置と、溶接左端ライン52aとを見て、ウィービングの左端位置は現状を維持したいと思慮し、その結果、ウィービング中心位置を右に移動させ、ウィービング幅を増加させることを決定する。そして、溶接トーチ12が例えば領域T2部分を通過する間に、ウィービング中心位置を右に移動させるための操作と、ウィービング幅を増加させるための操作を行っている。
【0045】
ここで、ウィービング中心位置を左または右に移動させるための操作は、本例では、溶接ロボット1のアーム動作によって、溶接トーチ12が装着されたオシレータ装置11をヘッド支持部10ごと左または右に移動させる操作である。この操作部は、例えば、右移動スイッチと左移動スイッチとで構成され、右移動スイッチを1回操作すると、ヘッド支持部10が所定量(例えば、0.2mm)右へ移動し、左移動スイッチを1回操作すると、ヘッド支持部10が所定量(例えば、0.2mm)左へ移動するように、溶接ロボット1が制御される。
【0046】
なお、図3(C)では、ウィービング中心位置を右に移動させ、かつ、ウィービング幅を増加させる場合を例示したが、ウィービング中心位置を左に移動させ、かつ、ウィービング幅を増加させる場合は、図3(C)の場合とは左右逆の現象が生じる場合である。
【0047】
以上のように、オペレータは、ウィービングの左端及び右端の位置と、溶接左端ライン52a及び溶接右端ライン52bとを見て、ウィービング幅の変更や、ウィービング中心位置の変更を行うための操作を行うようにしている。
【0048】
また、オペレータは、表示装置8に表示される溶接部位撮影用カメラ17の撮影画像(動画)の溶融池の状態を見て、ウィービング中心位置やウィービング幅以外の溶接条件(溶接パラメータ)を変更することができる。
【0049】
図4(A)~(C)は、それぞれ、溶接部位撮影用カメラ17で撮影されて表示装置8の画面に表示される溶融池P1~P3の形状と、その場合に形成される溶接ビードB1~B3の断面形状の一例とを示す概略図である。
【0050】
図4(A)に示すように、溶融池P1がほぼ楕円形に見える場合には、良好な形状のビードB1が形成される。この場合、オペレータは、溶接条件の変更操作は行わない。
【0051】
また、図4(B)に示すように、溶融池P2がひょうたん形に見える場合には、中央が凹んだ断面形状のビードB2が形成される。よって、オペレータは、溶融池P2がひょうたん形あるいはそれに近づく形になりそうになると、溶接条件の変更操作を行う。この場合、例えば、ウィービング周期を長くするなどの操作を行う。
【0052】
また、図4(C)に示すように、溶融池P3がその中央部分が突出した形に見える場合には、中央が盛り上がった断面形状のビードB3が形成される。よって、オペレータは、溶融池P3がその中央部分が突出した形あるいはそれに近づく形になりそうになると、溶接条件の変更操作を行う。この場合、例えば、ウィービング左端及び右端での停止時間を長くするなどの操作を行う。
【0053】
なお、ウィービング周期、ウィービング左端での停止時間及びウィービング右端での停止時間のそれぞれを変更するための各操作部は、例えば、それぞれの増加スイッチと減少スイッチとで構成され、増加スイッチを1回操作すると所定時間増加し、減少スイッチを1回操作すると所定時間減少するように、オシレータ装置11が制御される。
【0054】
また、アーク基準電圧(溶接トーチと被溶接物との間隔)、溶接電流、溶接速度(溶接方向xへ進む速度)のそれぞれを変更するための各操作部も、例えば、1回操作すると所定量増加させる増加スイッチと所定量減少させる減少スイッチとで構成され、操作に応じて溶接装置Aが制御される。他の溶接条件(ホットワイヤ電流、ワイヤ送給速度、ワイヤ上下位置、ワイヤ左右位置など)を変更するための各操作部も同様にして構成することができる。
【0055】
第1動作モードでは、オペレータは熟練者が好ましく、熟練したオペレータによって溶接条件を変更するための操作が操作器3に行われたときに、操作器3から制御器21へ変更内容(変更される溶接条件およびその変更量)を示す変更操作指令が出力される。そして、記憶器23には、溶接中に溶接部位撮影用カメラ17で撮影される溶接部位の撮影画像の時系列データとともに、操作器3から制御器21へ入力される変更操作指令の入力時刻及びその変更操作指令に応じた変更内容とが記憶されるようになっている。
【0056】
また、アーク溶接システムWSは、機械学習器22によって予測モデル(機械学習モデル)を生成する学習モードを有する。なお、第2、第3動作モードは少なくとも1回の学習モードが実施され、予測モデルが生成された後で、実施することができる。学習モードは、オペレータが操作器3を操作して選択することができる。
【0057】
オペレータが操作器3を操作して第1~第3動作モード及び学習モードのうちのいずれかの1つのモードが選択された場合には、当該モードが選択されたことを示す信号が、操作器3から制御器21へ出力される。また、第2、第3動作モード及び学習モードのいずれかのモードが選択された場合には、当該モードが選択されたことを示す信号が制御器21からさらに機械学習器22へ出力される。
【0058】
学習モードでは、機械学習器22は、第1動作モードが行われた際に記憶器23に記憶されている溶接部位撮影用カメラ17の撮影画像の時系列データと、変更操作指令の入力時刻及びその指令に応じた変更内容とを用いて、機械学習、例えばディープラーニング(深層学習)を行い、入力を撮影画像の時系列データとし、出力を予測される変更内容とする予測モデルを生成する。なお、ディープラーニングは、周知のように特徴量を自動で抽出する機能を備えており、予め特徴量の設計をする必要はない。予測モデルには、時系列データを扱うことができるモデル、例えば、リカレントニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)の1種であるLSTM(Long short term memory)ネットワークを用いることができる。LSTMネットワークは、公知技術であるため、その詳細についての説明は省略する。
【0059】
例えば、図3(B),(C)を参照して説明したように、熟練したオペレータは、複数のウィービング周期の期間におけるウィービングの左端及び右端の位置と溶接左端及び右端ライン52a,52bとの位置関係を見て、ウィービング幅および/またはウィービング中心位置の変更が必要か否かを判断し、必要と判断すれば変更操作を行うようにしている。よって、予測モデルは、溶接条件の変更操作が行われる直前の複数のウィービング周期の期間における撮影画像の時系列データを、変更操作が行われる兆候の見え始めるデータと判定し、ラベル設定するように構築される。
【0060】
次に、第2動作モード(レコメンド運転モード)について説明する。この第2動作モードは、オペレータにレコメンドを行う運転モードである。第2動作モードでは、制御器21が溶接用プログラムに基づいて溶接装置Aを制御し、被溶接物50の開先部51に対してウィービング溶接を行う。この溶接中において、溶接部位撮影用カメラ17の撮影画像はリアルタイムで表示装置8に表示されるとともに、同撮影画像の時系列データはリアルタイムで機械学習器22に入力される。機械学習器22では、前述の予測モデルに上記撮影画像の時系列データをリアルタイムで入力し、予測モデルから出力として変更内容が得られたときにはその変更内容を表示装置8へ出力する。表示装置8では、入力した変更内容を画面に表示する。オペレータは、この変更内容を見て、変更内容に応じた操作器3の操作を行うことにより操作器3から制御器21へ変更操作指令が出力される。制御器21では、操作器3からの変更操作指令に応じた変更内容を反映させるように溶接装置Aを制御する。
【0061】
ここでは、変更内容をオペレータへ報知する報知器の例として、表示装置8を用いているが、スピーカを用いて変更内容を音声出力するようにしてもよい。この変更内容の報知は、例えば、オペレータによって変更内容に応じた操作器3の操作が実行されるまで継続して行うようにしてもよい。
【0062】
この第2動作モードでは、予測される変更内容が表示装置8等によって報知されるので、アーク溶接に熟練していないオペレータであっても、表示装置8に表示される溶接部位の撮影画像を見ながら、報知される変更内容に基づいて操作器3を操作することによって、熟練したオペレータの操作を習うことができるので、熟練したオペレータの育成を図ることができる。また、制御器21では、操作器3から入力される変更内容を反映させるように溶接装置Aを制御し、溶接品質の向上を図ることができる。
【0063】
なお、予測モデルを検証するために、予め溶接部位撮影用カメラ17によって撮影された撮影画像の時系列データを予測モデルに入力してテストしたところ、その出力(報知器である表示装置8に表示)である予測される変更内容及びその予測タイミングと、熟練したオペレータの操作による変更内容及び操作タイミングとが80%以上の高確率で一致した。ここでは、変更内容として、ウィービング中心位置の左移動及び右移動についての検証しかしていないが、より大量の学習データを記憶器23へ蓄積して学習させることにより、ウィービング幅などの他の変更内容についても、予測モデルの出力内容と熟練したオペレータの操作による変更内容及び操作タイミングとを高確率で一致させることが可能になると考えられる。
【0064】
また、第2動作モードにおいても、溶接中に溶接部位撮影用カメラ17で撮影される溶接部位の撮影画像の時系列データとともに、操作器3から制御器21へ入力される変更操作指令の入力時刻及びその変更操作指令に応じた変更内容とが、記憶器23に記憶されるようにしてもよい。そして、第2動作モードで記憶器23に記憶されたデータも含めて、その後で再び行われる学習モードで用いるようにしてもよい。
【0065】
次に、第3動作モード(自動運転モード)について説明する。第3動作モードでは、制御器21が溶接用プログラムに基づいて溶接装置Aを制御し、被溶接物50の開先部51に対してウィービング溶接を行う。この溶接中において、溶接部位撮影用カメラ17の撮影画像の時系列データはリアルタイムで機械学習器22に入力される。機械学習器22では、前述の予測モデルに上記撮影画像の時系列データをリアルタイムで入力し、予測モデルから出力として変更内容が得られたときにはその変更内容を制御器21へ出力する。制御器21では、変更内容を反映させるように溶接装置Aを制御する。これにより、オペレータが溶接条件の変更操作を行うことなく、溶接品質の向上を図ることができる。
【0066】
なお、本実施形態では、溶接装置Aとして、TIG溶接を行う装置を例示したが、溶接トーチから溶接ワイヤを送り出すMIG溶接等を行う装置であってもよい。
【0067】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、アーク溶接に熟練したオペレータの育成を図ることができるアーク溶接システム等として有用である。
【符号の説明】
【0069】
WS アーク溶接システム
A 溶接装置
21 制御器
22 機械学習器
23 記憶器
3 操作器
8 表示装置
12 溶接トーチ
17 溶接部位撮影用カメラ
図1
図2
図3
図4