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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】強化繊維束の解析方法および解析装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20231115BHJP
   D06M 23/08 20060101ALI20231115BHJP
   D06H 3/08 20060101ALI20231115BHJP
   G06T 7/12 20170101ALI20231115BHJP
【FI】
G06T7/00 610
D06M23/08
D06H3/08
G06T7/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019203371
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021077108
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】三田 一樹
【審査官】大塚 俊範
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-246583(JP,A)
【文献】特開2017-156271(JP,A)
【文献】特開2015-068755(JP,A)
【文献】特開2018-059735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 -7/90
D06M 23/08
D06H 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強化繊維と収束剤とを含む強化繊維束の解析方法であって、
前記強化繊維束の複数の断層画像を得る工程と、
前記複数の断層画像のそれぞれについて、位置に対する画素値の微分値を算出して、算出した微分値とそれに対応する位置から勾配画像を得る工程と、
前記勾配画像における微分値の絶対値の極大値に基づいて、前記強化繊維と前記収束剤の境界を特定する工程と、
前記境界に基づき、前記断層画像における前記強化繊維と前記収束剤の少なくとも一方の領域を特定する工程と、
前記複数の断層画像の前記特定した領域を合成して、前記特定した領域の3次元画像を得る工程と
を含む、
強化繊維束の解析方法。
【請求項2】
前記境界を特定する工程では、
前記勾配画像における微分値の絶対値の極大値に基づいて、空隙と前記強化繊維との境界、および、空隙と前記収束剤との境界をさらに特定する、
請求項1に記載の強化繊維束の解析方法。
【請求項3】
前記複数の断層画像を得る工程と前記勾配画像を得る工程との間に、
前記複数の断層画像のそれぞれにおいて、前記強化繊維または前記収束剤の領域の起点を指定する工程をさらに含み、
前記境界を特定する工程では、前記起点を指定した領域の境界を特定し、
前記領域を特定する工程では、前記境界に基づいて、前記起点を指定した領域を特定する、
請求項1または2に記載の強化繊維束の解析方法。
【請求項4】
前記断層画像は、X線CT撮像により得られる画像である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の強化繊維束の解析方法。
【請求項5】
前記3次元画像は、前記収束剤の3次元画像である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の強化繊維束の解析方法。
【請求項6】
前記収束剤は、粒子状であり、
前記強化繊維束の解析方法は、前記3次元画像から、前記強化繊維束に含まれる前記収束剤の粒子体積のヒストグラムを得る工程をさらに含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の強化繊維束の解析方法。
【請求項7】
前記強化繊維は、炭素繊維である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の強化繊維束の解析方法。
【請求項8】
前記強化繊維の領域を構成する画素の画素値の範囲と、前記収束剤の領域を構成する画素の画素値の範囲とは、部分的に重複している、
請求項1~7のいずれか一項に記載の強化繊維束の解析方法。
【請求項9】
複数の強化繊維と収束剤とを含む強化繊維束の解析装置であって、
前記強化繊維束の複数の断層画像を得る画像取得部と、
前記複数の断層画像のそれぞれについて、位置に対する画素値の微分値を算出して、算出した微分値とそれに対応する位置から勾配画像を得る微分処理部と、
前記勾配画像の微分値の絶対値の極大値に基づいて、前記強化繊維と前記収束剤の境界を特定する境界特定部と、
前記境界に基づいて、前記断層画像における前記強化繊維と前記収束剤の少なくとも一方の領域を特定する領域指定部と、
前記複数の断層画像の前記特定した領域を合成して、前記特定した領域の3次元画像を得る3次元画像作成部と
を含む、
強化繊維束の解析装置。
【請求項10】
前記境界特定部は、前記勾配画像における微分値の絶対値の極大値に基づいて、空隙と前記強化繊維との境界、および、空隙と前記収束剤との境界をさらに特定する、
請求項9に記載の強化繊維束の解析装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維束の解析方法および解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維などの強化繊維を含む強化樹脂組成物は、低比重であるにもかかわらず、強度および剛性などの機械特性に優れることから、工業的に重要な材料として注目されている。特に、自動車部品や航空機部品においては、強化樹脂組成物は、金属材料の代替材料として着目されつつある。
【0003】
そのような強化樹脂組成物に用いられる強化繊維は、成形加工時の破損を防止する目的、または、表面を改質して樹脂との相溶性を高める目的などから、複数の強化繊維の束(強化繊維束)に収束剤を含浸させたものが用いられている。
【0004】
ところで、強化繊維束の収束剤の含浸状態は、強化樹脂組成物の成形加工時の開繊性(分散性)に影響を与えるため、強化繊維束の収束剤の含浸状態を解析できる方法が求められている。例えば、強化繊維束の表面をSEMで観察することにより、強化繊維束の表面における収束剤の被覆状態を解析する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0005】
また、強化樹脂組成物の成形体の強度は、成形体における強化繊維の配向方向(蛇行状態)によって変動しやすい。そのため、成形体における強化繊維の蛇行状態を解析する方法も検討されている。例えば、1)炭素繊維とマトリクス樹脂とを含む強化樹脂組成物の成形体のX線CT画像を取得する工程と、2)得られた画像を二値化処理して、炭素繊維の領域とマトリクス樹脂の領域とを切り分ける(分離する)工程と、3)二値化処理して得られた繊維情報から、炭素繊維の蛇行状態を定量化する工程とを有する解析方法が知られている(例えば特許文献2)。そして、当該文献では、2)の二値化処理を行う際、炭素繊維とマトリクス樹脂の境界を鮮明にするために、メジアン処理などのフィルター処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-504734号公報
【文献】特開2018-159691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示される解析方法では、強化繊維束の表面における収束剤の付着状態しか観察することができず、強化繊維束の内部における収束剤の分布状態や分布量は観察することができなかった。
【0008】
また、特許文献2は、強化樹脂組成物の成形体を解析対象としている。強化樹脂組成物の成形体の断層画像では、強化繊維の領域とマトリクス樹脂の領域の境界が比較的明瞭であり、強化繊維の領域を構成する画素の画素値(例えばグレーバリューなど)と、マトリクス樹脂の領域を構成する画素の画素値とは、互いに重なりにくい(異なっている)。そのため、画素値が閾値以上であるかどうかによって、強化繊維の領域と収束剤の領域とを切り分けることができ、二値化処理による領域分けが可能である。しかしながら、強化繊維束の断層画像では、例えば、強化繊維と収束剤の密度が近い場合や、X線CT測定に使用するX線のエネルギーが低く、X線の屈折が生じやすい場合には、強化繊維の領域と収束剤の領域との境界が比較的不明瞭であり、強化繊維の領域を構成する画素の画素値と、収束剤の領域を構成する画素の画素値とが、部分的に互いに重なる(同じである)場合がある。そのような場合は、画素値が閾値以上であるかどうかによっては、強化繊維の領域と収束剤の領域とを切り分けることができないため、特許文献2のような二値化処理による領域分けは不可能である。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、断層画像において、強化繊維の領域と収束剤の領域の境界が不明瞭であっても、強化繊維の領域と収束剤の領域とを精度よく切り分けることができ、強化繊維束の内部における収束剤の分布状態などを精度よく解析できる強化繊維束の解析方法および解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の強化繊維束の解析方法および解析装置に関する。
【0011】
複数の強化繊維と収束剤とを含む強化繊維束の解析方法であって、前記強化繊維束の複数の断層画像を得る工程と、前記複数の断層画像のそれぞれについて、位置に対する画素値の微分値を算出して、算出した微分値とそれに対応する位置から勾配画像を得る工程と、前記勾配画像における微分値の絶対値の極大値に基づいて、前記強化繊維と前記収束剤の境界を特定する工程と、前記境界に基づき、前記断層画像における前記強化繊維と前記収束剤の少なくとも一方の領域を特定する工程と、前記複数の断層画像の前記特定した領域を合成して、前記強化繊維と前記収束剤の少なくとも一方の3次元画像を得る工程とを含む。
【0012】
複数の強化繊維と収束剤とを含む強化繊維束の解析装置であって、前記強化繊維束の複数の断層画像を得る画像取得部と、前記複数の断層画像のそれぞれについて、位置に対する画素値の微分値を算出して、算出した微分値とそれに対応する位置から勾配画像を得る微分処理部と、前記勾配画像の微分値の絶対値の極大値に基づいて、前記強化繊維と前記収束剤の境界を特定する境界特定部と、前記境界に基づいて、前記断層画像における前記強化繊維と前記収束剤の少なくとも一方の領域を特定する領域指定部と、前記複数の断層画像の前記特定した領域を合成して、前記強化繊維と前記収束剤の少なくとも一方の3次元画像を得る3次元画像作成部とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、断層画像において、強化繊維の領域と収束剤の領域との境界が不明瞭であっても、強化繊維の領域と収束剤の領域とを精度よく切り分けることができ、強化繊維束の内部における収束剤の分布状態などを精度よく解析できる強化繊維束の解析方法および解析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、強化繊維束の断層画像の一例を示す図である。
図2図2Aは、図1の断層画像の領域Aの部分拡大図であり、図2Bは、図2Aの断層画像のA-A線上の各画素のグレーバリューを示すグラフである。
図3図3Aは、図1の断層画像の領域Bの部分拡大図であり、図3Bは、図3Aの断層画像のB-B線上の各画素のグレーバリューを示すグラフである。
図4図4Aは、図1の断層画像の領域Bの部分拡大図であり、図4Bは、図4Aの断層画像において、収束剤の領域の起点を指定する様子を示す図であり、図4Cは、断層画像の勾配画像を示す図であり、図4Dは、勾配画像から特定した境界に基づいて、領域を特定する様子を示す図である。
図5図5Aは、図3Aの断層画像のB-B線上の各画素のグレーバリューを示すグラフであり、図5Bは、図5Aのグレーバリューの微分値を示すグラフである。
図6図6Aは、強化繊維のみを3次元表示した図であり、図6Bは、収束剤のみを3次元表示した図である。
図7図7は、強化繊維と収束剤を区別可能に3次元表示した図である。
図8図8は、強化繊維束における収束剤の粒子体積のヒストグラムを示すグラフである。
図9図9は、本実施の形態に係る強化繊維束の解析装置の制御系統のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、複数の強化繊維と収束剤とを含む強化繊維束における、収束剤の3次元の分布状態を解析する例で説明する。
【0016】
1.強化繊維束の解析方法
本実施の形態に係る強化繊維束の解析方法は、1)強化繊維束の複数の断層画像を得る工程を含む。
【0017】
1)の工程(断層画像を得る工程)について
図1は、強化繊維束の断層画像の一例を示す図である。
【0018】
図1に示されるように、強化繊維束の断層画像では、複数の強化繊維と、収束剤と、空隙とが確認される。複数の断層画像を組み合わせる(積み重ねる)ことで、3次元画像を構成可能である。
【0019】
断層画像は、任意の方法で得ることができ、例えば3D-TEM観察、FIB-SEM観察(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)、X線CT観察などにより得ることができる。本実施の形態では、比較的簡単に、強化繊維束の内部の状態を把握できる観点、特に3D-TEMなどと比べると、サンプルを非破壊で観察でき、広い視野(TEMなどのμmオーダーと比べてmmオーダー)で観察できる観点から、X線CT観察により得ることが好ましい。X線CT観察は、例えば3DマイクロX線CT撮像装置を用いて行うことができる。
【0020】
具体的には、X線CT観察は、以下の手順で行うことができる。まず、前処理として、以下の手順でサンプルを準備することができる。
1)強化繊維束を、約2cmの長さにカットする。
2)得られた試料を、両面テープで添木に固定する。
3)固定治具(切り欠き治具)に、上記2)をセットする。
【0021】
次いで、得られたサンプルについて、例えば3DマイクロX線CT撮像装置を用いて、最高分解能(270~325nm/ピクセル)でX線CT観察を行う。観察条件は、以下の通りとしうる。
<観察条件>
使用機器:株式会社リガク製、nano3DX
測定条件:ターゲット Cu 使用レンズ0270 ビニング1
走査角度:1000点
各角度での積算時間:45秒
FOV:0.9mmφ×0.6mm
画素サイズ:0.26μm/voxel
なお、試料のカット端部は、ダメージを受けているため、CT観察時の視野(FOV)からは外すものとし、端部から1cm付近の部分がCT観察時の視野(FOV)に入るようにする。
【0022】
断層画像は、X線CT観察などにより得られる画像である。断層画像は、観察によって得られる原画像であってもよいし、得られる原画像に基づいて3次元像を構築した後、任意の方向の断面を再構成(任意断面再構成)して得られる画像であってもよい。
【0023】
任意断面再構成を行う場合、3次元像のスライド(分割)は、3次元像を得る際に用いた観察装置の統合メッシュ機能を用いて行うことができる。それにより、複数の断層画像を得ることができる。分割数は、特に制限されないが、収束剤が観察可能な高分解能でのCT測定においては、解析の精度を高める観点では、分割数が少ないほうが好ましい。
【0024】
断層画像は、任意の方向の断層画像、すなわち、強化繊維束に長さ方向に沿った断面画像であってもよいし、長さ方向に対して交差する方向に沿った断面画像であってもよい。本実施の形態では、強化繊維束の長さ方向に沿った断面画像である(図1および2参照)。
【0025】
図2Aは、図1の断層画像の領域Aの部分拡大図であり、図2Bは、図2Aの断層画像のA-A線上の各画素のグレーバリューを示すグラフである。図3Aは、図1の断層画像の領域Bの部分拡大図であり、図3Bは、図3Aの断層画像のB-B線上の各画素のグレーバリューを示すグラフである。
【0026】
図2Bにおいて、横軸は、図2Aの断層画像におけるA-A線上の各画素の位置(μm)を示し、縦軸は、図2Aの断層画像におけるA-A線上の各画素のグレーバリュー(画素値)を示す。同様に、図3Bにおいて、横軸は、図3Aの断層画像におけるB-B線上の各画素の位置(μm)を示し、縦軸は、図3Aの断層画像におけるB-B線上の各画素のグレーバリュー(画素値)を示す。
【0027】
図2Bおよび3Bに示されるように、断層画像は、画素値(濃淡、明るさ)で表示される。断層画像は、通常、グレースケール画像であることから、真黒(0)から真白(256)の8ビット256階調のグレーバリュー(画素値)で表示される。
【0028】
そして、図2Bに示されるように、断層画像のA-A線上では、強化繊維の領域を構成する画素のグレーバリュー(約120以上)、収束剤の領域を構成する画素のグレーバリュー(約67以上120未満)、および空隙の領域を構成する画素のグレーバリュー(約67未満)は、互いに重なっていない。このような場合は、従来のように、グレ-バリューが閾値以上であるかどうかによって、強化繊維の領域、収束剤の領域、および空隙の領域を切り分ける(分離する)ことができる(図2B参照)。
【0029】
一方、図3Bに示されるように、断層画像のB-B線上では、収束剤の領域を構成する画素のグレーバリュー(約140未満)と、強化繊維の領域を構成する画素のグレーバリュー(約110以上)とは、互いに一部で重なっている。このような場合、グレ-バリューが閾値以上であるかどうかによっては、強化繊維の領域、収束剤の領域、および空隙の領域を切り分けることができない(図3B参照)。
【0030】
本発明では、図3Aの断層画像の勾配画像に基づいて、強化繊維の領域、収束剤の領域、および空隙の領域の間の境界を特定することで、高い精度で領域を切り分けることができる。すなわち、領域間の境界付近では、通常、グレーバリューの変化(勾配)は大きくなる。したがって、断層画像を、グレーバリューの勾配を示す勾配画像(勾配画像)に変換し、当該勾配画像(微分関数)における勾配値(微分値)の絶対値の極大値に基づいて、境界を特定する。
【0031】
図4は、本実施の形態に係る強化繊維束の解析方法の流れを示す図である。このうち、図4Aは、図3Aの断層画像(図1の断層画像の領域Bの部分拡大図)であり、図4Bは、図4Aの断層画像において、部材の領域の起点を指定する様子を示す図であり、図4Cは、断層画像の勾配画像を示す図であり、図4Dは、勾配画像から特定した境界に基づいて、領域を特定する様子を示す図である。
【0032】
すなわち、本実施の形態に係る強化繊維束の解析方法は、1)強化繊維束の複数の断層画像を得る工程(図4A参照)に加えて、2)複数の断層画像のそれぞれについて、断層画像の勾配画像を得る工程(図4C参照)、3)勾配画像における微分値の絶対値の極大値に基づいて、強化繊維、収束剤および空隙の境界を特定する工程、4)境界に基づき、断層画像における強化繊維の領域と、収束剤の領域と、空隙の領域とを特定する工程(図4D参照)、および5)特定した領域を、複数の断層画像について合成して、強化繊維の領域、収束剤の領域および空隙の領域の少なくとも一つの3次元画像を得る工程(後述の図6AおよびB、ならびに7参照)をさらに含む。
【0033】
また、3)の工程(境界を特定する工程)を行いやすくする観点から、5)の工程の前に、6)解析対象となる領域の起点を指定する工程をさらに行うことが好ましい。6)の工程は、1)の工程と2)の工程の間で行ってもよいし、2)の工程と3)の工程の間で行ってもよいし、3)の工程または4)の工程と同時に行ってもよい。後述するAvizoを用いた解析を可能とする観点では、1)の工程と2)の工程との間で行うことがより好ましい。
【0034】
これらの工程は、3次元画像の断層画像の解析ソフト(例えばサーモフィッシャーサイエンティフィック-日本エフイー・アイ社製、Avizo 9.7)を用いて行うことができる。
【0035】
以下、各工程について説明する。
【0036】
6)の工程(起点を指定する工程)について
まず、勾配画像を得る前に、必要に応じて、断層画像において、解析対象となる領域(例えば強化繊維または収束剤)の起点を指定しておいてもよい。本実施の形態では、収束剤の領域の起点を指定している(図4B参照)。
【0037】
すなわち、勾配画像では、グレーバリュー自体の情報は失われるため、勾配画像における各領域が、強化繊維、収束剤および空隙のいずれに対応するのかを指定しておくことが好ましい。したがって、勾配画像を得る前に、領域の起点をあらかじめ指定しておくことが好ましい。
【0038】
起点の指定は、例えばAvizo 9.7を用いる場合、Segmentationを選択し、Seclectionを選択し、Brush、Lasso、Magic Wand、およびBlowを実行して、断層画像(図3A参照)において、解析対象(収束剤または強化繊維)の領域に色付けすることによって行うことができる。なお、色付けは、解析対象の領域の全体に行う必要はなく、一部のみに行えばよい。
【0039】
2)の工程(勾配画像を得る工程)について
次いで、断層画像について微分処理を行い、勾配画像を得る(図4C参照)。
【0040】
微分処理は、注目画素近傍の画素値の勾配(傾き)を求める操作であり、位置に対する画素値(グレーバリュー)の微分値を算出して、算出した微分値とそれに対応する位置から、勾配画像を得る。
【0041】
微分処理は、公知の微分処理であってよく、特に制限されないが、例えばWatershed Algorithm(Watershed アルゴリズム)によって行うことが好ましい(S. Beucher and F. Meyer. The morphological approach to segmentation: the watershed transformation. In E. Dougherty, editor, Mathematical morphology in image processing, chapter 12, pages 433-481. Marcel Dekker, 1993.参照)。
【0042】
解析ソフトとしてAvizo 9.7を用いる場合、勾配画像は、例えばSegmentationを選択し、Selectionを選択し、watershedを選択し、Create a new gradient imageを実行することにより得ることができる。
【0043】
3)の工程(境界を特定する工程)について
図5Aは、図3Aの断層画像におけるB-B線上の各画素のグレーバリューを示すグラフであり、図5Bは、図3Aにおける位置に対するグレーバリューの微分値を示すグラフである。なお、図5Bは、図4Cの勾配画像に対応している。
【0044】
図5Bに示されるように、勾配画像におけるグレーバリューの微分値の絶対値の極大値に基づいて、強化繊維、収束剤および空隙の間の境界を特定する。本実施の形態では、グレーバリューの微分値の絶対値の極大値に対応する位置を境界とする(図5B参照)。
【0045】
極大値とは、図5Bに示されるようなグラフにおいて、曲線の傾きが正(プラス)から負(マイナス)に変わるときの微分値、または、曲線の傾きが負(マイナス)から正(プラス)に変わるときの微分値をいう。
【0046】
なお、微分値のグラフでは、通常、複数の極大値、すなわち、境界に対応する極大値だけでなく、境界に対応しない極大値も検出される。図5Bでは、4つの極大値(P1~P4)が検出される。これらの複数の極大値のうち、絶対値が閾値以上(例えば微分値が40以上)となる極大値(図5BではP1およびP4)を「境界に対応する極大値」とする。
【0047】
境界の特定は、Avizo 9.7を用いる場合、例えば指定した起点から領域へ拡張する過程で行うことができる。すなわち、Avizo 9.7において、Segmentationを選択し、Selectionを選択し、watershedを選択し、Apply and create a new label fieldを実行することにより行うことができる。
【0048】
具体的には、当該Apply and create a new labe fieldを実行することにより、断層画像において、色付けした起点(図4B)を領域へと拡張する過程で、微分値の絶対値の極大値に遭遇すると、拡張のスピードが遅くなり、さらに大きな極大値に遭遇するとスピードがさらに遅くなり、最終的には閾値以上の極大値に遭遇した時点で拡張が止まり、その位置が境界となり、領域の分離が可能となる。つまり、複数の微分値の絶対値の極大値のうち、閾値以上となる極大値を「境界となる極大値」として特定する。
【0049】
4)の工程(領域を特定する工程)について
次いで、上記特定した境界に基づき、断層画像において、強化繊維の領域と、収束剤の領域と、空隙の領域とを特定する(図4Dおよび図5B参照)。
【0050】
領域の特定は、前述の通り、Avizo 9.7においてSegmentationを選択し、Selectionを選択し、watershedを選択し、Apply and create a new label fieldを実行することにより行うことができる。
【0051】
5)の工程(3次元画像を得る工程)について
そして、上記4)の工程で特定した領域を、複数の断層画像について合成して、強化繊維の領域、収束剤の領域、および空隙の領域の少なくとも一つを、3次元化して表示する。それにより、強化繊維の領域、収束剤の領域、および空隙の領域の少なくとも一つの3次元画像を得ることができる(図6AおよびB、ならびに7参照)。
【0052】
複数の断層画像について合成するとは、具体的には、複数の断層画像のそれぞれについて、上記3)および4)の工程を行い、強化繊維、収束剤および空隙の領域をそれぞれ特定し、それらを足し合わせる(すなわち、スライス方向に積み重ねる)ことによって行うことができる。
【0053】
領域の3次元化(指定した起点から3次元の領域への拡張)は、前述と同様に、Avizo 9.7のSegmentationツール内のSelectionコマンド(Apply and create a new label fieldボタン)により行うことができる。
【0054】
なお、境界を閉じた線として特定できない場合は、強化繊維、収束剤、および空隙をそれぞれ起点から3次元の領域に拡張させる過程で、上記のうち三者または二者が接触した箇所を境界として近似することができる。
【0055】
図6Aは、強化繊維の3次元画像のみを表示した図であり、図6Bは、収束剤の3次元画像のみを表示した図である。図7は、強化繊維と収束剤を区別可能に3次元表示した図である。
【0056】
すなわち、強化繊維の3次元の分布状態のみを取り出して表示したり(図6A参照)、収束剤の3次元の分布状態のみを取り出して表示したり(図6B参照)することができる。また、図7に示されるように、強化繊維の3次元の分布状態と、収束剤の3次元の分布状態とを分離して表示することもできる。それにより、従来のSEM観察による解析方法では解析できなかった、強化繊維束の内部における収束剤の3次元での分布状態(空間分布状態)を確認することができる。
【0057】
また、本実施の形態に係る強化繊維束の解析方法は、上記以外の他の工程をさらに含んでもよい。例えば、1)と2)の工程の間に、7)断層画像からノイズを除去する工程をさらに行ってもよいし、5)の工程で得られた3次元画像などのデータに基づいて、8)収束剤の粒子体積の存在分布を得る工程をさらに行ってもよい。
【0058】
7)の工程(ノイズを除去する工程)について
ノイズの除去(デフォルト設定)は、具体的には、断層画像での強化繊維と収束剤との境界のグレーバリューのギャップを増幅させる処理をいう。ノイズの除去は、例えば非局所平均(Non-Local Means) フィルターにより行うことができる。
【0059】
8)の工程(ヒストグラムを得る工程)について
図8は、収束剤の粒子体積のヒストグラムを示すグラフである。
【0060】
すなわち、本発明では、上記1)~5)の工程のいずれか一以上で得られたデータから、従来のSEM観察では不可能だった、収束剤の粒子一つ一つの体積の解析が可能となる。それにより、図8に示されるように、どのくらいの容積の粒子が、どのくらいの割合で存在するかを示すヒストグラムを得ることができる。
【0061】
ヒストグラムの作成は、例えばAvizo 9.7を用いる場合、Labelingモジュールによって個々の粒子にラベリングを行った後、Label Analysisモジュールにより1つ1つの粒子の体積を解析し、その結果を表示することによって行うことができる。
【0062】
(効果)
以上説明したように、強化繊維束の断層画像では、強化繊維の領域を構成する画素のグレーバリューと、収束剤の領域を構成する画素のグレーバリューの画素値とが部分的に重なり合うことがあり、グレ-バリューの閾値によっては、強化繊維の領域と収束剤の領域とを切り分けることができなかった。
【0063】
これに対して本発明の強化繊維束の解析方法によれば、強化繊維の領域を構成する画素のグレーバリューと収束剤の領域を構成する画素のグレーバリューとが、部分的に重なり合う場合であっても、断層画像を、グレーバリューの勾配を示す勾配画像に変換し、得られた勾配画像における画素値の微分値の極大値または極小値に基づいて、境界を特定することができる。それにより、断層画像において、強化繊維の領域と収束剤の領域とを精度よく切り分けることができる。
【0064】
2.強化繊維束の解析装置
図9は、本実施の形態に係る強化繊維束の解析装置100の制御系統のブロック図である。
【0065】
図9に示されるように、解析装置100は、撮像部110と、処理部120と、表示部130とを有する。
【0066】
撮像部110は、特に制限されず、X線CT観察装置などの撮像部でありうる。
【0067】
処理部120は、撮像部110で撮像された画像情報(断層画像)を取得し、処理および解析する。具体的には、処理部120は、画像取得部121と、起点指定部122と、微分処理部123と、境界特定部124と、領域特定部125と、3次元画像作成部126とを有する。
【0068】
画像取得部121は、撮像部110によって撮像された画像情報(3次元画像を構成する複数の断層画像)を取得する。画像取得部121は、必要に応じて、得られた画像情報から3次元像を構築した後、任意の方向にスライド(分割)して、任意の方向の断面を再構成して断層画像を得てもよい。
【0069】
起点指定部122は、断層画像において、解析対象となる領域の起点を指定する。例えば、断層画像において、収束剤に対応する領域に色を付すなどして、起点を指定する。
【0070】
微分処理部123は、画像取得部121で得られた複数の断層画像のそれぞれについて、断層画像を微分処理して、勾配画像を得る。
【0071】
境界特定部124は、微分処理部123で得られた勾配画像に基づいて、勾配画像における画素値の微分値の絶対値の極大値に基づいて、強化繊維、収束剤および空隙の境界を特定する。
【0072】
領域特定部125は、境界特定部124で特定した境界に基づき、断層画像において、強化繊維の領域と、収束剤の領域と、空隙の領域とを特定する。
【0073】
3次元画像作成部126は、領域特定部125で得られた情報を、複数の断層画像について合成して(スライス方向に積み重ねて)、強化繊維の領域、収束剤の領域、および空隙の領域の少なくとも一つを3次化する。それにより、強化繊維の領域、収束剤の領域、および空隙の領域の少なくとも一つの3次元画像を得ることができる。
【0074】
また、処理部120は、必要に応じて、3次元画像作成部126で得られた3次元画像データに基づいて、収束剤の粒子一つ一つの体積を解析し、強化繊維束に含まれる収束剤の粒子体積のヒストグラムを作成するヒストグラム作成部(不図示)をさらに含んでもよい。
【0075】
なお、処理部120は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの処理装置を用いてソフトウェアにより実現してもよいし、IC(Integrated Circuit)などのハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。
【0076】
表示部130は、例えばパソコンなどの画像表示装置の表示画面であり、3次元画像作成部126などで得られた3次元画像(データ)を表示する。
【0077】
(変形例)
なお、上記実施の形態では、6)の工程(領域の起点を指定する工程)を、1)の工程と2)の工程との間(勾配画像を得る前)で行う例を示したが、これに限定されない。例えば、6)の工程(領域の起点を指定する工程)は、2)の工程と3)の工程の間(勾配画像を得た後)で、断層画像と勾配画像とを照合して、各領域が強化繊維、収束剤および空隙のいずれに対応するのかを指定することによって行ってもよい。また、6)の工程は、3)の工程(境界を特定する工程)または4)の工程(領域を特定する工程)と同時に行ってもよい。
【0078】
同様に、強化繊維束の解析装置100の処理部120も、図9に限定されず、微分処理部123と境界特定部124との間に起点指定部122を含んでもよい。あるいは、処理部120は、起点指定部122を含まなくてもよい。
【0079】
また、上記実施の形態では、強化繊維束が、(強化繊維および収束剤以外に)空隙をさらに含む例で説明したが、これに限定されない。例えば、強化繊維束が、(強化繊維および収束剤以外に)空隙を含まない場合は、3)の工程における、空隙との間の境界(空隙部と、強化繊維または収束剤との間の境界)を特定するステップや、4)の工程における、空隙の領域を特定するステップは不要である。また、強化繊維束が、(強化繊維および収束剤以外の)他の部材をさらに含む場合は、3)の工程において、勾配画像に基づいて、強化繊維と他の部材との間の境界、および、収束剤と他の部材との間の境界をさらに特定し、4)の工程において、他の部材の領域を特定する工程をさらに行ってもよい。
【0080】
また、本実施の形態では、3)の工程(境界を特定する工程)、4)の工程(領域を特定する工程)および5)の工程(3次元画像を得る工程)を逐次的に(別工程で)行う例を示したが、これに限定されず、3)の工程と4)の工程と5)の工程とを同時に行ってもよい。
【0081】
3.強化繊維束
本実施の形態に係る強化繊維束の解析方法は、例えば繊維成分と樹脂成分とを含み、かつ繊維成分に対して樹脂成分の含有割合が少ない対象物(例えば強化繊維束やプリプレグなど)、好ましくは任意の強化繊維束の解析に適用されうる。強化繊維束は、通常、複数の強化繊維と、収束剤とを含む。
【0082】
(強化繊維)
強化繊維の例には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維が含まれる。中でも、軽量で、耐久性の高い成形体が得られやすいことから、炭素繊維や黒鉛繊維が好ましい。
【0083】
炭素繊維は、耐衝撃性の観点では、引張弾性率が400GPa以上であることが好ましく、剛性および機械強度の観点では、引張強度が4.4~6.5GPaであることが好ましい。また、炭素繊維の引張伸度は、1.7~2.3%であることが好ましい。したがって、引張弾性率が少なくとも230GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり、引張伸度が少なくとも1.7%である炭素繊維が最も好ましい。
【0084】
炭素繊維の市販品の例には、トレカ(登録商標)T800G-24K、トレカ(登録商標)T800S-24K、トレカ(登録商標)T700G-24K、トレカ(登録商標)T300-3K、およびトレカ(登録商標)T700S-12K(以上東レ(株)製)などが挙げられる。
【0085】
強化繊維の平均繊維径(繊維断面の直径)は、成形性および機械的強度の観点から、例えば1~20μm、好ましくは4~15μmでありうる。
【0086】
強化繊維の平均繊維径および平均繊維長は、任意に選んだ10本の強化繊維の繊維径および繊維長を電子顕微鏡にて測定し、その平均値として求めることができる。なお、強化繊維の繊維径は、単繊維の断面の最大フェレ径とする。
【0087】
(収束剤)
収束剤の種類は、特に制限されず、例えば強化繊維が炭素繊維である場合、それとの親和性が良く、成形体の機械的強度を高めやすいなどの観点から、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂などの水分散性樹脂であることが好ましい。中でも、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂が好ましく、機械的強度をより向上させる観点から、エポキシ系樹脂であることがより好ましい。
【0088】
これらの樹脂の含有量は、収束剤全体に対して1~20質量%でありうる。
【0089】
収束剤は、必要に応じて上記以外の添加剤をさらに含みうる。添加剤の例には、界面活性剤、平滑剤、乳化剤などが含まれる。
【0090】
収束剤の付着量は、強化繊維100質量部に対して、例えば0.1~10質量部であり、好ましくは0.2~3質量部である。このように、収束剤の付着量は、強化繊維束を構成する強化繊維全体に対してごくわずかであり、強化繊維間に空隙が含まれやすい。そのような解析対象に対して、本発明が特に有効である。
【0091】
強化繊維束は、複数の強化繊維に、収束剤液を含浸させてものでありうる。収束剤液は、上記水分散性樹脂を含むエマルジョンでありうる。収束剤液は、主成分となる水分散性樹脂以外に、上記添加剤をさらに含みうる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、断層画像において、強化繊維の領域と収束剤の領域との境界が不明瞭であっても、強化繊維の領域と収束剤の領域とを精度よく切り分けることができ、強化繊維束における収束剤の分布状態などを精度よく解析できる強化繊維束の解析方法および解析装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
100 解析装置
110 撮像部
120 処理部
121 画像取得部
122 起点指定部
123 微分処理部
124 境界特定部
125 領域特定部
126 3次元画像作成部
130 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9