(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】列車運行保安装置
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20231115BHJP
B61L 27/20 20220101ALI20231115BHJP
B61L 29/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B61L23/00 E
B61L27/20
B61L29/00 Z
(21)【出願番号】P 2019209747
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 栄之
(72)【発明者】
【氏名】本間 慧
(72)【発明者】
【氏名】児玉 有司
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 雅信
(72)【発明者】
【氏名】中島 克宜
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016748(JP,A)
【文献】特開平07-047959(JP,A)
【文献】特開2008-137652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
B61L 27/20
B61L 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転台に通知装置が搭載された各列車の位置および進行方向を少なくとも含む在線情報を管理する列車運行保安装置であって、
所定の踏切に設置された所定の踏切保安設備から、当該踏切の異常を示す検出信号を受信する検出信号受信手段と、
前記所定の踏切の踏切位置を記憶する踏切位置記憶手段と、
前記在線情報と前記踏切位置とに基づいて、
前記所定の踏切までの接近の度合が第1度合にある第1度合列車と、前記第1度合よりも接近の度合が遠い第2度合にある第2度合列車とを抽出する接近列車抽出手段と、
前記検出信号受信手段により前記検出信号が受信された場合に、
前記第1度合列車に対して、停止を指示する停止指示警報を前記通知装置に通知させるための制御信号を送信し、前記第2度合列車に対して、前記停止指示警報の予告を示す予告警報を前記通知装置に通知させるための制御信号を送信する警報通知制御手段と、
前記在線情報と前記踏切位置とに基づいて、進行方向が前記第1度合列車と対向し、前記踏切位置と前記第1度合列車の位置との間に在線する対向列車を抽出する対向列車抽出手段と、
を備え
、
前記警報通知制御手段は、前記対向列車に対して、前記停止指示警報を前記通知装置に通知させるための制御信号を送信する、
列車運行保安装置。
【請求項2】
前記接近列車抽出手段は、前記第1度合および前記第2度合を、列車と前記踏切位置との間の距離に基づいて判定する、
請求項
1に記載の列車運行保安装置。
【請求項3】
前記在線情報には、各列車の速度が含まれ、
前記接近列車抽出手段は、前記第1度合および前記第2度合を、列車と前記踏切位置との間の距離および当該列車の速度に基づいて判定する、
請求項
1に記載の列車運行保安装置。
【請求項4】
前記第1度合列車を強制停止させる非常ブレーキ指示信号を前記第1度合列車に送信する強制停止制御手段、
を更に備えた請求項
1~
3の何れか一項に記載の列車運行保安装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切の異常を列車に通知する列車運行保安装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道と道路とが交差する踏切には、通行する歩行者や自動車を列車との衝突から防護し、列車の安全な運行を確保するための踏切保安設備が設けられている。踏切保安設備には、踏切遮断機や踏切警報機のほか、踏切内での支障の発生を検知して列車に報知する踏切支障報知装置がある。踏切支障報知装置による支障発生の検知は、例えば、踏切内に設置された踏切支障押しボタンの押下や踏切障害物検知装置による障害物の検知である。踏切支障報知装置による報知は、例えば、特殊信号発光機を点灯させることである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特殊信号発光機の点灯を視認した運転士は、自身の判断で踏切の手前で停止するようにブレーキ操作を行う必要がある。しかしながら、特殊信号発光機の点灯を視認しにくい場合が起こり得る。例えば、濃霧や大雨といった気象状況がそれである。特殊信号発光機の点灯の見逃しは、踏切事故につながるため非常に危険である。
【0005】
また、踏切障害物検知装置による支障発生の検知や、踏切支障押しボタンの押下操作の他にも、踏切保安設備自体が故障した場合も踏切の異常といえる。これら踏切の異常を運転士に確実に通知することは、踏切事故防止の観点から重要である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、踏切の異常を列車の運転士に確実に通知できるようにすること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
運転台に通知装置が搭載された各列車の位置および進行方向を少なくとも含む在線情報を管理する列車運行保安装置であって、
所定の踏切に設置された所定の踏切保安設備から、当該踏切の異常を示す検出信号を受信する検出信号受信手段(例えば、
図5の踏切異常検出部204)と、
前記所定の踏切の踏切位置を記憶する踏切位置記憶手段(例えば、
図6の踏切管理情報320)と、
前記在線情報と前記踏切位置とに基づいて、前記所定の踏切に接近する接近列車を抽出する接近列車抽出手段(例えば、
図5の接近列車抽出部206)と、
前記検出信号受信手段により前記検出信号が受信された場合に、前記接近列車の前記通知装置に前記所定の踏切に係る警報を通知させるための制御信号を前記接近列車に送信する警報通知制御手段(例えば、
図5の警報通知制御部210)と、
を備えた列車運行保安装置である。
【0008】
第1の発明によれば、踏切の異常を、踏切に接近する接近列車の運転士に確実に通知することができる。つまり、踏切保安設備から踏切の異常を示す検出信号を受信した列車運行保安装置から、踏切に接近する接近列車へ、当該接近列車の通知装置に警報を通知させるための制御信号が送信される。その制御信号を受信した接近列車では、運転台に搭載された通知装置に踏切に係る警報が通知される。これにより、接近列車の運転士は、車内の運転台の通知装置の通知によって、接近する踏切の異常を確実に知ることができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記接近列車抽出手段は、前記在線情報と前記踏切位置とに基づいて、前記所定の踏切までの接近の度合が第1度合にある第1度合列車と、前記第1度合よりも接近の度合が遠い第2度合にある第2度合列車とを前記接近列車として抽出し、
前記警報通知制御手段は、前記第1度合列車に対して、停止を指示する停止指示警報を前記通知装置に通知させるための制御信号を送信し、前記第2度合列車に対して、前記停止指示警報の予告を示す予告警報を前記通知装置に通知させるための制御信号を送信する、
列車運行保安装置である。
【0010】
第2の発明によれば、踏切までの接近の度合いに応じて異なる警報を通知することで、接近列車の運転士に対して緊急度の違いを認識させ、接近する踏切に対する段階的な注意を促すことができる。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、
前記接近列車抽出手段は、前記第1度合および前記第2度合を、列車と前記踏切位置との間の距離に基づいて判定する、
列車運行保安装置である。
【0012】
第3の発明によれば、踏切までの接近の度合を、列車と踏切位置との間の距離に基づいて判定することができる。従って、接近列車の運転士は、通知される警報によって、異常が生じた踏切までの距離感を即座に把握することができる。
【0013】
第4の発明は、第2の発明において、
前記在線情報には、各列車の速度が含まれ、
前記接近列車抽出手段は、前記第1度合および前記第2度合を、列車と前記踏切位置との間の距離および当該列車の速度に基づいて判定する、
列車運行保安装置である。
【0014】
第4の発明によれば、踏切までの接近の度合を、列車と踏切位置との間の距離および列車の速度に基づいて判定することができる。つまり、踏切位置との間の距離が同じであっても、列車の速度が異なると踏切位置までの到達時分も異なる。このため、例えば、列車と踏切位置との間の距離および列車の速度から、当該列車の予測される踏切の到達時間を算出し、その到達時間に基づいて踏切までの接近度合を判定することができる。そして、接近列車の運転士は、通知される警報によって、踏切到達までの時間的な切迫感を即座に把握することができる。
【0015】
第5の発明は、第2~第4の何れかの発明において、
前記在線情報と前記踏切位置とに基づいて、進行方向が前記第1度合列車と対向し、前記踏切位置と前記第1度合列車の位置との間に在線する対向列車を抽出する対向列車抽出手段(例えば、
図5の対向列車抽出部208)、
を更に備え、
前記警報通知制御手段は、前記対向列車に対して、前記停止指示警報を前記通知装置に通知させるための制御信号を送信する、
列車運行保安装置である。
【0016】
第5の発明によれば、進行方向が第1度合列車と対向し、踏切位置と第1度合列車の位置との間に在線する対向列車に対しても停止指示警報を通知させることで、踏切周辺の更なる安全性を確保することができる。第1度合列車には停止指示警報が通知されるために第1度合列車は停止する。踏切に支障が発生した場合には、その支障が解消されるまでに長い時間がかかる場合が多い。そのため、停止している間に第1度合列車の乗客が非常ドアコックを操作する等して線路に降りてしまう可能性が無いとは言い切れない。もしも、踏切位置と第1度合列車の位置との間に対向列車が在線する場合、その対向列車は踏切を通過した後であるので接近列車として抽出されず、そのまま走行すると第1度合列車に接近してすれ違うため非常に危険である。このため、停止指示警報を通知した第1度合列車に向かって走行してくる対向列車に対しても停止指示警報を通知することで、危険の可能性を確実に回避して乗客の安全を確保することができる。
【0017】
第6の発明は、第2~第5の何れかの発明において、
前記第1度合列車を強制停止させる非常ブレーキ指示信号を前記第1度合列車に送信する強制停止制御手段、
を更に備えた列車運行保安装置である。
【0018】
第6の発明によれば、運転士の操作を介さずに、第1度合列車を非常ブレーキによって強制停止させることができるため、可及的速やかに第1度合列車を停止させることが可能となる。運転士にとっては、警報の通知がなされるため、非常ブレーキの自動的な発動に対して慌てること無く、適切に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0021】
[システム構成]
図1は、本実施形態の列車運行保安装置10の適用例である。本実施形態の列車運行保安装置10は、例えば中央指令室に設置され、通信ネットワークNを介して、線路を走行する列車20に搭載された車上装置22との無線通信、および、踏切(Crossing)CRに設置された踏切保安設備30の踏切制御機40との無線通信が可能である。列車運行保安装置10は、各列車20の車上装置22や、踏切保安設備30の踏切制御機40と無線通信を行うことで、踏切CRにおける安全な列車運行を確保するための装置である。
【0022】
また、列車運行保安装置10は、各列車20の位置や速度、上り方向や下り方向といった進行方向を含む在線情報を管理している。列車の“位置”は、キロ程で表現される線路上の位置とするが、緯度経度などの地理的位置情報でもよい。在線情報は、列車運行保安装置10が、各列車20の車上装置22と無線通信を行うことで取得してもよいし、運行管理装置等の同じく中央指令室に設置された他の装置から取得してもよい。
【0023】
鉄道と道路とが交差する部分である踏切CRには、踏切警報機32や踏切遮断機34、踏切支障押しボタン36、踏切障害物検知装置38、踏切近傍の器具箱内に設置されてこれらの各機器を制御する踏切制御機40、といった踏切保安設備30が設けられている。踏切制御機40は、無線通信装置を有しており、通信ネットワークNを介して、列車運行保安装置10や運行管理装置といった中央指令室に設置された各装置との無線通信が可能である。そして、踏切制御機40は、列車運行保安装置10からの制御指示に従って、踏切警報機32の鳴動の開始や終了、踏切遮断機34の降下や上昇といった踏切の警報制御を行う。また、踏切支障押しボタン36の押しボタンの押下信号や、踏切障害物検知装置38による障害物の検知信号が入力されると、その信号を列車運行保安装置10へ送信する。
【0024】
図2は、列車運行保安装置10の動作の概要図である。
図2に示すように、列車運行保安装置10は、踏切CRに設置された踏切保安設備30の踏切制御機40から当該踏切CRの異常を示す検出信号を受信すると、当該踏切CRに接近する接近列車20を抽出し、抽出した接近列車20の通知装置24に当該踏切CRに係る警報を通知させるための制御信号を、当該接近列車20の車上装置22に送信する。
【0025】
ここで、“踏切の異常を示す検出信号”とは、例えば、踏切支障押しボタン36の押しボタンの押下信号、踏切障害物検知装置38による障害物の検知信号、踏切警報機32や踏切遮断機34の自己診断機能による故障の検出信号、踏切監視装置等による警報信号、等である。これらの信号は各機器から踏切制御機40に入力され、踏切制御機40から、踏切CRの異常を示す検出信号として踏切CRの識別情報等とともに列車運行保安装置10へ送信される。
【0026】
また、“踏切に係る警報”とは、列車20の運転士に対して前方の踏切CRに異常を検出したことを報知して注意を促すための警報であり、具体的には、列車20に停止を指示する停止指示警報と、停止指示警報の予告を示す予告警報との2種類の警報を含む。後述のように、この2種類の警報のうち、踏切CRまでの接近の度合に応じた警報が列車20に対して通知される。
【0027】
また、警報を通知する通知装置24は、列車20の運転台の運転士が視認可能な位置に搭載されている。そして、通知装置24における警報の通知としては、例えば、通知装置24が1又は複数の表示灯を有する構成とし、警報の種類に応じてこれらの表示灯を点灯或いは点滅させる、である。更に、通知装置24がディスプレイ等の画像表示装置を有する構成とし、異常を検出した踏切CRの名称や踏切CRまでの距離とともに、警報の種類に応じた内容の図柄やテキストメッセージを表示してもよいし、踏切CRに設置されたカメラ(撮影装置)による踏切CRの撮影画像を表示してもよい。更には、通知装置24がスピーカ等の音声出力装置を有する構成とし、警報の種類に応じた警報音を出力してもよいし、異常を検出した踏切CRの名称や踏切CRまでの距離とともに、警報の種類に応じた内容の音声メッセージを出力してもよい。これらを包括して“通知”と呼ぶ。
【0028】
列車運行保安装置10は、“接近列車”として抽出する列車20を、列車20と踏切位置との間の距離に基づいて判定する。
図3は、接近列車の抽出を説明する図である。
図3では、1本の線路と交差する踏切CR1を対象とした例を示している。また、説明を簡明化するために、列車の進行方向を一方向(図中の右方向)として示している。
図3に示すように、踏切CR1には、警報範囲として、踏切位置を含む範囲である停止指示警報範囲と、この停止指示警報範囲の両端側それぞれに隣接する予告警報範囲とが定められる。踏切CR1に接近しており、且つ、この警報範囲に位置する列車が接近列車として抽出される。
【0029】
停止指示警報範囲は、踏切CRまでの接近度合が近い第1度合であることを示す範囲である。停止指示警報範囲は、例えば、踏切CR1から踏切CR1の警報開始点までを少なくとも含む範囲とするとよい。列車運行保安装置10は、踏切CR1に接近しており、且つ、この停止指示警報範囲に位置する列車を第1度合列車の接近列車として抽出し、列車に停止を指示する停止指示警報を通知させるための制御信号を送信する。また、予告警報範囲は、踏切CRまでの接近の度合が第1度合よりも遠い第2度合であることを示す範囲である。列車運行保安装置10は、踏切CR1に接近しており、且つ、この予告警報範囲に位置する列車を第2度合列車の接近列車として抽出し、停止指示警報の予告を示す予告警報を通知させるための制御信号を送信する。
【0030】
図3の例では、停止指示警報範囲に位置する列車20Bと、予告警報範囲に位置する列車20Cとが、接近列車として抽出される。そして、列車20Bには停止指示警報が列車運行保安装置10から通知され、列車20Cには予告警報が列車運行保安装置10から通知される。列車20Aは、停止指示警報範囲に位置するが、踏切CR1を通過した後であるので、接近列車として抽出されない。
【0031】
図3では、1本の線路と交差する踏切CR1の例を示したが、複数本の線路と交差する踏切CRでは、更に、接近列車の対向列車にも警報を通知するようにする。
図4は、複数の線路と交差する踏切CRにおける接近列車の抽出を説明する図である。
図4では、上り線および下り線の2本の線路と交差する踏切CR2を対象とした例を示している。踏切CR2に交差する2本の線路に対して警報範囲(停止指示警報範囲および予告警報範囲)が共通に定められている。複数本の線路と交差する踏切CR2では、更に、進行方向が第1度合列車(停止指示警報範囲に位置する接近列車)と対向し、且つ、踏切位置と第1度合列車の位置との間に在線する対向列車を抽出し、抽出した対向列車に対して停止指示警報を通知する。
【0032】
図4の例では、先ず、上り線(進行方向が図中の右方向)を走行する列車20Eと、下り線(進行方向が図中の左方向)を走行する列車20Hとが、停止指示警報範囲に位置しており、第1度合列車である接近列車として抽出される。また、上り線を走行する列車20Fが、予告警報範囲に位置しており、第2度合列車である接近列車として抽出される。上り線を走行する列車20Dは、踏切CR2を通過した後であるが、下り線を走行する第1度合列車である列車20Hと対向し、且つ、踏切CR2と列車20Hとの間に位置している。従って、列車20Dは、対向列車として抽出され、停止指示警報が通知される。また、下り線を走行する列車20Gは、踏切CR2を通過した後であり、上り線を走行する第1度合列車である列車20Eと対向しているが、踏切CR2と列車20Eとの間に位置していないので、対向列車として抽出されない。
【0033】
これは、安全性の観点からである。つまり、停止指示警報範囲に位置する接近列車には停止を指示する停止指示警報を通知するので、停止指示警報が通知された接近列車の運転士は直ちに列車を停止させる。踏切に支障が発生した場合には、その支障が解消されるまでに長い時間がかかる場合が多い。そのため、停止している間に停止した列車の乗客が非常ドアコックを操作する等して線路に降りてしまう、といった事態が生じないとも限らない。踏切を通過した列車には警報が通知されないので、もしも逆方向の線路を対向列車が走行すると非常に危険である。このため、停止させた接近列車に向かって走行する対向列車が存在する場合には、その対向列車にも停止指示警報を通知して、乗客の安全を確保するのである。
【0034】
[機能構成]
図5は、列車運行保安装置10の機能構成を示すブロック図である。
図5によれば、列車運行保安装置10は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、無線通信部108と、有線通信部110と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータシステムとして構成することができる。
【0035】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音声出力装置で実現され、処理部200からの音声信号に応じた各種音出力を行う。無線通信部108は、無線通信装置で実現され、通信ネットワークNに接続して、各列車20の車上装置22や、踏切保安設備30の踏切制御機40といった各種の外部装置との無線通信を行う。有線通信部110は、有線通信装置で実現され、列車運行管理装置といった各種の外部装置との有線通信を行う。
【0036】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102からの入力データ等に基づいて、列車運行保安装置10の全体制御を行う。また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、在線管理部202と、踏切異常検出部204と、接近列車抽出部206と、対向列車抽出部208と、警報通知制御部210とを有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0037】
在線管理部202は、各列車20の位置や速度、進行方向を含む在線情報310を管理する。在線情報310は、各列車20の車上装置22と無線通信部108を介した無線通信を行うことで取得してもよいし、運行管理装置等の他の装置から有線通信部110を介した有線通信を行うことで取得してもよい。
【0038】
踏切異常検出部204は、所定の踏切CRに設置された所定の踏切保安設備30から、当該踏切CRの異常を示す検出信号を受信することで踏切CRの異常を検出する。踏切CRの異常を示す検出信号とは、例えば、踏切支障押しボタン36の押しボタンの押下信号、踏切障害物検知装置38による障害物の検知信号、踏切警報機32や踏切遮断機34の自己診断機能による故障の検出信号、等である。踏切CRの異常を示す検出信号は、当該踏切CRの踏切制御機40から無線通信部108を介した無線通信によって受信する。
【0039】
接近列車抽出部206は、在線情報310と踏切位置とに基づいて、所定の踏切CRに接近する接近列車を抽出する。つまり、在線情報310と踏切位置とに基づいて、所定の踏切CRまでの接近の度合が第1度合にある第1度合列車と、第1度合よりも接近の度合が遠い第2度合にある第2度合列車とを接近列車として抽出する。第1度合および第2度合とは、列車と踏切位置との間の距離に基づいて判定する。
【0040】
具体的には、踏切CRに接近しており、且つ、当該踏切CRに定められた警報範囲に位置する列車を、接近列車として抽出する。警報範囲は、踏切CRまでの接近度合が近い第1度合であることを示す停止指示警報範囲と、この停止指示警報範囲の両端側それぞれに隣接し、踏切CRまでの接近の度合が第1度合よりも遠い第2度合であることを示す予告警報範囲とを含む。接近列車抽出部206は、踏切CRに接近しており、且つ、停止指示警報範囲に位置する列車を第1度合列車の接近列車として抽出し、踏切CRに接近しており、且つ、予告警報範囲に位置する列車を第2度合列車の接近列車として抽出する(
図3,
図4参照)。踏切CRの警報範囲は、該当する踏切管理情報320における警報範囲設定情報(
図6参照)として予め定められている。
【0041】
対向列車抽出部208は、在線情報310と踏切位置とに基づいて、進行方向が第1度合列車である接近列車と対向し、踏切位置と第1度合列車である接近列車の位置との間に在線する対向列車を抽出する(
図4参照)。
【0042】
警報通知制御部210は、踏切異常検出部204により踏切CRの異常が検出された場合に、接近列車の通知装置24に所定の踏切CRに係る警報を通知させるための制御信号を接近列車に送信する。つまり、第1度合列車である接近列車に対して、停止を指示する停止指示警報を通知装置24に通知させるための制御信号を送信し、第2度合列車である接近列車に対して、停止指示警報の予告を示す予告警報を通知装置24に通知させるための制御信号を送信する。また、対向列車抽出部208によって抽出された対向列車に対して、停止指示警報を通知装置24に通知させるための制御信号を送信する。
【0043】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が列車運行保安装置10を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、列車運行保安プログラム302と、在線情報310と、踏切管理情報320とが記憶される。
【0044】
図6は、踏切管理情報320の一例を示す図である。
図6に示すように、踏切管理情報320は、踏切CR毎に、当該踏切CRの識別情報である踏切IDと、踏切位置と、警報範囲設定情報と、警報通知履歴情報とを対応付けて格納している。踏切位置は、キロ程で表現される線路に沿った位置である。警報範囲設定情報は、当該踏切CRに定められた警報範囲の情報であり、停止指示警報範囲と、予告警報範囲とを格納している。停止指示警報範囲および予告警報範囲は、範囲の両端位置によって示されている。この両端位置も、キロ程で表現される線路に沿った位置である。警報通知履歴情報は、当該踏切CRの異常の検出による列車に対する警報の通知に関する情報であり、踏切異常検出部204による踏切CRの異常の検出時刻と、検出された異常の内容と、異常の解消時刻と、接近列車抽出部206によって抽出された接近列車の列車番号と、対向列車抽出部208によって抽出された対向列車の列車番号と、を格納している。
【0045】
[処理の流れ]
図7は、列車運行保安装置10が行う列車運行保安処理を説明するフローチャートである。この処理は、列車運行保安装置10が管理する各踏切CRに対して並列的に行われる。
【0046】
先ず、踏切異常検出部204が、踏切CRの異常を検出すると(ステップS1:YES)、接近列車抽出部206が、踏切CRに接近する接近列車を抽出する(ステップS3)。次いで、対向列車抽出部208が、対向列車を抽出する(ステップS5)。そして、警報通知制御部210が、抽出された接近列車および対向列車に、位置に応じた警報を通知させるための制御信号を送信する(ステップS7)。その後、踏切CRの異常が解消されていないならば(ステップS9:NO)、ステップS3に戻り、同様の処理を繰り返す。そして、踏切CRの異常が解消されたならば(ステップS9:YES)、警報通知制御部210が、抽出された接近列車および対向列車に、警報を取り消すための制御信号を送信する(ステップS11)。その後、ステップS1に戻る。
【0047】
[作用効果]
このように、本実施形態の列車運行保安装置10によれば、踏切CRの異常を、踏切CRに接近する接近列車の運転士に確実に通知することができる。つまり、列車運行保安装置10は、踏切保安設備30の踏切制御機40から踏切CRの異常を示す検出信号を受信すると、踏切CRに接近する接近列車20へ、当該接近列車20の通知装置24に警報を通知させるための制御信号を送信する。その制御信号を受信した接近列車20では、運転台に搭載された通知装置24に踏切CRに係る警報が通知される。これにより、接近列車20の運転士は、車内の運転台の通知装置24の通知によって、接近する踏切CRの異常を確実に知ることができる。
【0048】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0049】
(A)警報範囲
上述の実施形態では、接近列車を抽出するための警報範囲(停止指示警報範囲および予告警報範囲)を距離で定める固定の範囲としたが、列車の走行状況等に応じて可変に定めるようにしても良い。具体的には、警報範囲を、列車が踏切CRに到達するまでの到達時分の範囲とする。例えば、停止指示警報範囲を、到達時分が所定時分T1未満の範囲とし、予告警報範囲を、到達時分が所定時分T1以上T2(>T1)以下の範囲とする。つまり、列車の踏切CRまでの接近度合である第1度合および第2度合を、列車と踏切位置との間の距離、および、当該列車の速度に基づいて判定する。列車の踏切CRまでの到達時分は、当該列車の位置と踏切位置との間の距離、および、当該列車の速度から求めることができる。列車の速度は、列車性能や列車種別(特急や各駅停車など)に応じて定まる最高速度としてもよいし、実際の走行速度としてもよい。
【0050】
(B)強制停止
また、接近列車に送信する信号として、第1度合列車である接近列車に対しては、更に、通知装置24に踏切CRに係る警報を通知させる制御信号とともに、列車を強制停止させる非常ブレーキ指示信号を送信する強制停止制御手段を設けてもよい。運転士の操作を介さずに、第1度合列車を非常ブレーキによって強制停止させることができるため、可及的速やかに第1度合列車を停止させることが可能となる。また、運転士にとっても、警報の通知がなされるため、非常ブレーキの自動的な発動に対して慌てること無く、適切に対処することができる。
【符号の説明】
【0051】
10…列車運行保安装置
200…処理部
202…在線管理部
204…踏切異常検出部
206…接近列車抽出部
208…対向列車抽出部
210…警報通知制御部
300…記憶部
302…列車運行保安プログラム
310…在線情報
320…踏切管理情報
30…踏切保安設備
32…踏切警報機
34…踏切遮断機
36…踏切支障押しボタン
38…踏切障害物検知装置
40…踏切制御機
20…列車
22…車上装置
24…通知装置