(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型、非酸化物系気相成長セラミック材料、及び、非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/87 20060101AFI20231115BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20231115BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20231115BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C04B41/87 S
C04B41/89 K
C23C14/08 A
C23C16/40
(21)【出願番号】P 2019229314
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】石橋 佑基
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-019238(JP,A)
【文献】特開平05-124863(JP,A)
【文献】特開2006-077302(JP,A)
【文献】特開2003-249426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/87
C04B 41/89
C23C 14/08
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛からなる基材と、前記基材の表面に形成されたアルミナ被膜とからな
り、
前記基材は、アルミニウムが含浸された含浸層を有する
ことを特徴とする非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型。
【請求項2】
前記含浸層は、前記基材に接合されて形成されている請求項
1に記載の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて形成され、SiCからなることを特徴とする非酸化物系気相成長セラミック材料。
【請求項4】
請求項
1に記載の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法であって、
黒鉛からなる基材の表面に気相成長法でアルミニウムが含浸された含浸層を形成したのち、アルミナ被膜を形成することを特徴とする非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法。
【請求項5】
請求項
2に記載の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法であって、
黒鉛からなる基材の表面に、黒鉛にアルミニウムが含浸された含浸層を接合して形成したのち、さらにアルミナ被膜を形成することを特徴とする非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法であって、
黒鉛からなる基材にアルミナ前駆体を含浸し、焼成することを特徴とする非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型、非酸化物系気相成長セラミック材料、及び、非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスに使用される炭化ケイ素質成形体、例えば炭化ケイ素質ダミーウエハは、通常、高純度等方性黒鉛材料を円板等に加工した黒鉛基体を用い、その上にCVD法(化学気相蒸着法)により炭化ケイ素層を形成した後、炭化ケイ素層の外周(側周部)を研削して黒鉛基体の側周部を露出させ、中央部の黒鉛基体を切削又は燃焼除去して黒鉛基体と炭化ケイ素層とを分離することにより、得られる。
【0003】
しかしながら、このようなプロセスでは、黒鉛基体を切削又は燃焼除去して黒鉛基体と炭化ケイ素層とを分離するので、黒鉛基体を再使用若しくは繰り返し使用することが困難であった。
【0004】
そこで特許文献1では、基体の表面にCVD法により炭化ケイ素層を形成した後、基体を分離する炭化ケイ素質成形体の製造方法において、基体が多孔質炭化ケイ素焼成体からなり、かつ当該基体とは異なる成分からなる表面層を有することを特徴とする炭化ケイ素質成形体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1に記載された炭化ケイ素質成形体の製造方法では、基体が多孔質炭化ケイ素焼成体からなるので繰り返し利用でき、平板等の単純形状には適用しやすいといったメリットはあるが、そもそも基体は硬い多孔質炭化ケイ素であり、基体の加工が困難であるため、複雑形状には対応が困難であるといった問題があった。
【0007】
本発明では、上記課題を鑑み、非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離できるため繰り返し使用することができ、容易に加工することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型、それを用いて製造された非酸化物系気相成長セラミック材料及び非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型は、黒鉛からなる基材と、上記基材の表面に形成されたアルミナ被膜とからなることを特徴とする。
上記基材は、黒鉛からなるので容易に加工することができ、上記基材の表面はイオン結合性が強く耐熱性に優れたアルミナ被膜が形成されているので、共有結合性の強い非酸化物系気相成長セラミック材料と強固な結合を形成することができず、上記基材を傷めることなく容易に剥離することができる。
【0009】
上記基材は、アルミニウムが含浸された含浸層を有することが望ましい。
上記基材にアルミニウムが含浸された含浸層を有すると、基材の開気孔は閉鎖され、表面が平坦なアルミニウムが含まれる含浸層が形成される。そして、上記含浸層の表面に形成されたアルミナ被膜と強固に結合することができ、アルミナ被膜から非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離することができる。
【0010】
上記含浸層は、上記基材に接合されて形成されていることが望ましい。
上記「基材に接合」とは、黒鉛からなる基材の表面に、黒鉛にアルミニウムが含浸された含浸層が接合されていることを示す。なお、接合には、後述する接着剤層を用いてもよい。
上記含浸層を有する黒鉛からなる基材が接合されていることにより含浸層を薄く形成することができ、上記基材はアルミニウムの含浸された領域が少なくなり、熱を加えても安定な基材を構成することができ、型の変形などを防止することができる。
【0011】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料は、上記非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて形成され、SiCからなることを特徴とする。
上記非酸化物系気相成長セラミック材料がSiCであるため、共有結合性が強く、イオン結合性の強いアルミナ被膜との離型性がよい。
また、SiCは、耐熱性と強度とを備えているが、上記非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いるため、上記非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型と上記非酸化物系気相成長セラミック材料の双方にダメージを与えることなく、容易に分離することができる。
上記非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型では、基材が黒鉛からなるため、種々の形状の型を容易に形成することができ、種々の形状の非酸化物系気相成長セラミック材料を製造することができる。
【0012】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法は、黒鉛からなる基材の表面に気相成長法でアルミナ被膜を形成することを特徴とする。
上記基材は、黒鉛からなるので容易に加工することができ、上記基材の表面はイオン結合性が強く耐熱性に優れたアルミナ被膜が形成されるので、共有結合性の強い非酸化物系気相成長セラミック材料と強固な結合を形成することができず、上記基材を傷めることなく容易に剥離することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
また、アルミナ被膜が気相成長法で形成されていることにより、アルミナの一部が上記基材の開気孔に浸透してアルミナ被膜が形成されるため、アルミナ被膜と基材との密着性にも優れ、アルミナ被膜から非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
【0013】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法の別の態様では、黒鉛からなる基材の表面に気相成長法でアルミニウムが含浸された含浸層を形成したのち、アルミナ被膜を形成することを特徴とする。
アルミニウムが含浸された含浸層を形成すると、黒鉛からなる基材の開気孔が閉鎖され表面が平坦化されるため、上記含浸層の表面に形成されたアルミナ被膜と強固に結合することができ、アルミナ被膜から非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
【0014】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法の別の態様では、黒鉛からなる基材の表面に、黒鉛にアルミニウムが含浸された含浸層を接合したのち、さらにアルミナ被膜を形成することを特徴とする。
上記含浸層が接合されていることにより、上記基材は、アルミニウムが含浸された領域が少なくなり、熱を加えても安定な基材を構成することができ、型の変形などを防止することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
【0015】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法の別の態様では、黒鉛からなる基材にアルミナ前駆体を含浸し、焼成することを特徴とする。
黒鉛からなる基材にアルミナ前駆体を含浸し、焼成することによって、黒鉛の気孔内部に、効率よくアルミナ前駆体が含浸されるので、強固なアルミナ被膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型によれば、非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離できるため繰り返し使用することができ、容易に加工することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を提供することができる。
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料によれば、耐熱性と強度とを備えており、上記非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型と容易に分離することができるため、分離の際のダメージが極めて少ない。
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法によれば、非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離できるため繰り返し使用することができ、容易に加工することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましい一例を模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましい別の一例を模式的に示す断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましいさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
【
図1D】
図1Dは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましいさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて非酸化物系気相成長セラミック材料を形成する工程の好ましい一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0019】
[非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型]
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型は、黒鉛からなる基材と、上記基材の表面に形成されたアルミナ被膜とからなることを特徴とする。
【0020】
図1Aは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましい一例を模式的に示す断面図である。
図1Aに示すように、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10は、黒鉛からなる基材1と、基材1の表面に形成されたアルミナ被膜2とからなる。
以下、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の各構成について説明する。
【0021】
(基材)
上記基材は黒鉛からなるため、容易に切削加工を行うことができるため、様々な形状に加工することができる。また、上記基材は黒鉛からなるため、高い耐熱性及び強度を有する。
【0022】
上記基材は、異方性の低い等方性黒鉛材であることが望ましい。
このように異方性の低い等方性黒鉛材を基材として使用すると、方向による機械的特性等の偏りが少ないので、破損等が発生しにくく、長期間安定して使用することができる。
【0023】
上記等方性黒鉛材とは、等方的な構造、特性を有する黒鉛材であり、例えば、CIP(静水圧成形法)により製造することができる。具体的には、例えば、圧力容器内で等方性黒鉛材の原料粉をゴムバッグに詰め、水等で加圧することにより成形したのち、焼成、黒鉛化することにより製造することができる。
なお、上記等方性黒鉛材においては、原料粉の平均粒子径は、例えば10~50μmであり、等方性黒鉛材が細かな組織を有していることが特徴である。
上記等方性黒鉛材を目的の形状に加工することによって、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の基材を得ることができる。
【0024】
上記基材は、開気孔を有する多孔質な材料であることが望ましい。
上記基材が開気孔を有することにより、後述する含浸層を開気孔深部までアルミニウムが充填することができ、開気孔に充填された部分がアンカーとなって密着し、強固に接合することができる。
上記基材の気孔率としては、5~25%が望ましく、10~20%がより望ましい。
【0025】
上記基材は、かさ密度が1.70~1.90g/cm3であることが望ましい。
上記基材のかさ密度が1.70g/cm3以上であると、気孔を有していても、基材の機械的特性に優れる。また、上記基材のかさ密度が1.90g/cm3以下であると、開気孔を適切な範囲で含んでおり、後述する含浸層が開気孔深部に充填され易く、上記基材と後述するアルミナ被膜との密着性が優れたものとなる。
【0026】
上記基材の大きさや厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
(アルミナ被膜)
上記基材は、表面にアルミナ被膜が形成されている。
上記基材の表面はイオン結合性が強く耐熱性に優れたアルミナ被膜が形成されているので、共有結合性の強い非酸化物系気相成長セラミック材料と強固な結合を形成することができず、上記基材を傷めることなく容易に剥離することができる。
【0028】
上記アルミナ被膜は、Al2O3のモル基準での割合が80~100%であることが望ましい。なお、残りの成分はSiO2であることが好ましい。
上記Al2O3の割合を上記範囲とすることにより、耐熱性を好適に付与することができ、また、上記Al2O3は、イオン結合性が強いので、共有結合性の非酸化物系気相成長セラミック材料をより容易に剥離することができる。
【0029】
上記アルミナ被膜の厚みとしては、0.5~50μmであることが望ましい。
上記厚みの範囲とすることにより、耐熱性を好適に付与することができ、非酸化物系気相成長セラミック材料をより容易に剥離することができる。
上記アルミナ被膜の厚みが0.5μm未満であると、アルミナ被膜の厚みが薄すぎるため、黒鉛からなる基材にむき出しの部分が生じ、離型性が悪くなる。一方、アルミナ被膜の厚みが50μmを超えると、黒鉛とアルミナの熱膨張率の差により、加熱、冷却により基材とアルミナとの間の接合が弱くなり、剥離し易くなる。
上記アルミナ被膜の厚みは、2~30μmであることがより望ましい。
【0030】
上記アルミナ被膜の形成方法は、特に限定されないが、例えば、基材表面にアルミナゾル、アルミニウム塩などを塗布した後、乾燥、焼成する方法や、気相成長法(PVD、CVD、スパッタリング、溶射)等により形成することができる。
上記アルミニウム塩としては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、高塩基性塩化アルミニウムなどが挙げられる。また、アルミナ粉末を用いたプラズマ溶射を基材表面に施すことによってもアルミナ被膜を形成することができる。
さらに、PVD法を用いる場合には、反応性スパッタリングにより700~750℃で基材の表面に数μmの膜厚を有するアルミナ被膜を形成することができる。
さらにまた、CVD法を用いることにより、1000℃前後の温度で基材の表面にアルミナの被膜を形成することができる。
【0031】
上記基材の表面には、開気孔が形成されているため、アルミナゾルを塗布する方法、PVD、CVD、スパッタリング法等を用いた場合、基材の表面にアルミナ被膜を形成することができ、さらにアルミナの一部が基材の開気孔に浸透し、アルミナ被膜が形成される。
【0032】
(含浸層)
上記基材は、アルミニウムが含浸された含浸層を有することが望ましい。
なお、本明細書において、アルミニウムとは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金やアルミニウム化合物を含むものとする。
アルミニウム合金としては、アルミニウムを主成分とする合金であり、具体的には、アルミニウムと、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、及び、ニッケル等から選択される少なくとも1種との合金が挙げられ、アルミニウム化合物としては、炭素、窒素、ホウ素などから選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0033】
図1Bは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましい別の一例を模式的に示す断面図であり、
図1Cは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましいさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
図1Bに示すように、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10は、基材1は、アルミニウムが含浸された含浸層3を有し、その表面にアルミナ被膜2が形成された構成であることが望ましい。
また、
図1Cに示すように、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10は、基材1の任意の範囲においてアルミニウムが含浸された含浸層3を形成し、その表面にアルミナ被膜2を形成してもよい。
アルミニウムは、表面に酸化膜を形成するのでアルミナ被膜2との接合性がよく、さらにカーボンと反応して一部がカーバイド化するので強く結合することができる。
【0034】
上記基材にアルミニウムが含浸された含浸層を形成し、その上にアルミナ被膜を形成する方法としては、アルミニウム含浸層を形成した後、その表面を酸化して含浸層の上にアルミナ被膜を形成する方法、アルミニウム含浸層を形成した後、その上にアルミナ被膜を積層する方法の二つの方法が挙げられる。
【0035】
いずれの方法においても、最初に基材表面にアルミニウムが含浸された含浸層を形成する。
基材表面に含浸層を形成する方法としては、PVD法、スパッタリング法、CVD法、溶射、基材表面にアルミニウム金属粉末を含む液を塗布した後、加熱する方法等が挙げられる。
【0036】
基材表面にアルミニウム金属粉末を含む液を塗布した後、加熱する方法を採用する場合には、加熱の際、溶融状態にまで加熱し、溶融したアルミニウム金属が開気孔に含浸され、含浸層が形成される。
なお、アルミニウム金属粉末は反応性が高いため、溶媒にバインダとともに溶かした溶液を用いるとよい。アルミニウム金属粉末の表面に樹脂の薄い皮膜が形成されるので、活性の高いアルミニウム金属粉末の表面が保護されるからである。
【0037】
アルミニウムの酸化に関し、アルミニウムは、空気に触れてすぐに表面に薄い不働態被膜を形成するため、その後、酸化が進行しにくいが、融点に近い金属が動き易い温度で酸化させることにより、厚いアルミナ被膜を形成することができる。従って、含浸層を形成した後、融点に近い酸化性雰囲気にすることにより、表面に不働態被膜よりも厚いアルミナ被膜を形成することができる。
【0038】
基材表面にアルミニウム金属粉末を含む液を塗布した後、加熱する方法を採用する場合には、加熱の際、溶融状態にまで加熱すれば、溶融したアルミニウム金属が開気孔に含浸し、含浸層が形成される。この後、融点に近い酸化性雰囲気にすることにより、表面に不働態被膜よりも厚いアルミナ被膜を形成することができる。
【0039】
PVD法(真空蒸着法)、スパッタリング法、CVD等の方法により、上記基材の表層付近の開気孔に薄く含浸したアルミニウム層を形成することもできる。
【0040】
上記アルミニウムを溶融する温度としては、例えば、660~1500℃であることが望ましい。アルミニウムの温度が高すぎると、蒸気となって揮散しやすくなる。
【0041】
アルミニウムの含浸層を形成した後、その上にアルミナ被膜を形成する方法としては、上記した基材表面にアルミナ被膜を形成する方法と同様の方法を採用すればよい。
【0042】
上記アルミニウムとしては、金属の状態に限定されず、アルミニウムカーバイドの形態であっても良い。この場合、基材の表面にアルミニウム含浸層を形成した後、還元性雰囲気で加熱することにより、アルミニウムカーバイドを形成することができる。
その後、酸化性雰囲気で放置することにより、アルミニウムカーバイド表面にアルミナ被膜を形成することができる。
【0043】
上記含浸層は、上記基材に接合されて形成されていることが望ましい。
上記条件で含浸層を形成することにより、上記基材の開気孔深部までアルミニウムを充填することができ、開気孔に充填された部分がアンカーとなって密着し、強固に接合することができる。
なお、含浸層を接合する場合には、黒鉛にアルミニウムが含浸された含浸層を、黒鉛からなる基材と接合することによって得ることができる。なお、接合には、後述する接着剤層を用いてもよい。また、アルミニウムが含浸された含浸層を形成する黒鉛は、上記基材と同様の材料を適宜選択して用いることができる。
【0044】
図1Cで示したように、上記基材の任意の範囲において含浸層を形成する場合には、任意の範囲において、上述した方法により含浸層を形成すればよい。
【0045】
上記含浸層の厚みとしては、基材の表面にアルミニウムを含浸して形成する場合には、1~200μmであることが望ましい。
上記厚みの範囲とすることにより、上記基材の開気孔深部までアルミニウムが充填することができ、開気孔に充填された部分がアンカーとなって強固に接合できるとともに、上記基材の開気孔を閉鎖し、表面が平坦なアルミニウム層が形成することができる。そのため、平坦な表面を有するアルミナ被膜を形成することができ、非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離することができる。
上記含浸層の厚みとしては、2~50μmであることがより望ましい。
【0046】
(接着剤層)
上記基材は、接着剤層を介して含浸層が形成されていてもよい。
上記接着剤層を有することにより、上記基材と上記含浸層との密着性をより一層向上することができる。
黒鉛からなる基材の表面に、アルミニウムが含浸された含浸層を貼り付けて形成する場合には、含浸層の厚さは、1~5mmであることが好ましい。
【0047】
図1Dは、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の好ましい別の一例を模式的に示す断面図である。
また、
図1Dに示すように、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10は、基材1は、接着剤層4を介して含浸層3が形成され、その表面にアルミナ被膜2が形成された構成であってもよい。
【0048】
上記接着剤層としては、上記基材及び上記含浸層の双方に対して接着力を有する材料であることが望ましく、例えば、コプナ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などが挙げられる。これらの接着剤を塗布して接着したのち、硬化、焼成して得ることができる。
なかでも、優れた耐熱性を有し、かつ、上記基材及び上記含浸層に対して接着力を有する観点から、コプナ樹脂が望ましい。
【0049】
上記接着剤層は、上記基材の開気孔に、上記接着剤層となる混合物を含浸させることにより得ることができる。
【0050】
上記接着剤層となる混合物を含浸させる方法としては、ディップ、吹き付け、塗布、コーター、真空加圧含浸等の方法が挙げられるが、いずれの方法であってもよい。
【0051】
上記接着剤層の厚みとしては、0.5~30μmであることが望ましい。
上記厚みの範囲とすることにより、上記基材と上記含浸層との密着性を好適に付与することができる。
上記接着剤層の厚みとしては、1~20μmであることがより望ましい。
【0052】
(非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型)
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の形状は、特に限定されるものではなく、製造する非酸化物系気相成長セラミック材料の形状に応じて任意の表面形状のものとすることができる。
非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の例としては、板状で第1主面から反対側の第2主面まで貫通するメッシュ状の貫通孔を有していてもよいが、貫通孔が設けられていなくてもよい。
【0053】
本明細書において、「メッシュ状」とは、規則的又は不規則な形状及び配置を有する複数個の貫通孔が形成されている状態を意味する。
【0054】
上記貫通孔の長手方向に垂直な断面形状は特に限定されず、例えば、円形、楕円形、多角形等が挙げられる。貫通孔の断面形状は1種でもよいし、2種以上でもよい
【0055】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型は、1対の本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の間に、非酸化物系気相成長セラミック材料の骨材となる部材を把持して用いてもよい。
メッシュ状の貫通孔を通して骨材の隙間にマトリックスとなる非酸化物系セラミック材料を形成することができる。
【0056】
上記骨材は、セラミック繊維からなることが望ましい。
上記セラミック繊維の種類は特に限定されず、例えば、SiC繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0057】
上記骨材の形態は特に限定されず、例えば、クロス、抄造体、フィラメントワインディング体、ブレーディング体等が挙げられる。
【0058】
(非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法)
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法は、黒鉛からなる基材の表面に気相成長法でアルミナ被膜を形成することを特徴とする。
上記基材は、黒鉛からなるので容易に加工することができ、上記基材の表面はイオン結合性が強く耐熱性に優れたアルミナ被膜が形成されるので、共有結合性の強い非酸化物系気相成長セラミック材料と強固な結合を形成することができず、上記基材を傷めることなく容易に剥離することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
【0059】
気相成長法としては、PVD、CVD、スパッタリング、溶射等を用いることができる。
PVD法を用いる場合には、例えば反応性スパッタリングにより700~750℃で基材の表面に数μmの膜厚を有するアルミナ被膜を形成することができる。
CVD法を用いることにより、1000℃前後の温度で基材の表面にアルミナの被膜を形成することができる。
アルミナ被膜が気相成長法で形成されていることにより、アルミナの一部が上記基材の開気孔に浸透してアルミナ被膜が形成されるため、アルミナ被膜と基材との密着性にも優れるため、アルミナ被膜から非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
【0060】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法の別の態様では、黒鉛からなる基材の表面に気相成長法でアルミニウムが含浸された含浸層を形成したのち、アルミナ被膜を形成する。
アルミニウムが含浸された含浸層を形成すると、黒鉛からなる基材の開気孔が閉鎖され表面が平坦化されるため、上記含浸層の表面に形成されたアルミナ被膜と強固に結合することができ、アルミナ被膜から非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
【0061】
アルミニウムが含浸された含浸層としては、上述した含浸層を形成する方法を適宜選択して用いることができる。
【0062】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法の別の態様では、黒鉛からなる基材の表面に、アルミニウムが含浸された含浸層を接合したのち、さらにアルミナ被膜を形成する。
上記含浸層が接合されていることにより、上記基材は、アルミニウムが含浸された領域が少なくなり、熱を加えても安定な基材を構成することができ、型の変形などを防止することができる非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を得ることができる。
【0063】
上述した方法により含浸層を形成することにより、上記基材の開気孔深部までアルミニウムを充填することができ、開気孔に充填された部分がアンカーとなって密着し、強固に接合することができる。
接合には、上述した接着剤層を用いてもよい。
【0064】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の製造方法の別の態様では、黒鉛からなる基材にアルミナ前駆体を含浸し、焼成することを特徴とする。
黒鉛からなる基材にアルミナ前駆体を含浸し、焼成することによって、黒鉛の気孔内部に、効率よくアルミナ前駆体が含浸されるので、強固なアルミナ被膜を形成することができる。
【0065】
アルミナ前駆体としては、アルミナゾル、アルミニウム塩、上記アルミニウム塩としては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、高塩基性塩化アルミニウムなどが挙げられる。
【0066】
アルミナ前駆体を含浸する方法としては、アルミナ前駆体の溶液を含浸、乾燥、焼成する方法を用いることができる。
なお、アルミナ前駆体を含浸させる濃度、量としては、形成しようとするアルミナ被膜の厚みに応じて適宜選択することができる。
【0067】
アルミナ前駆体を焼成する温度としては、アルミナ前駆体の種類によって適宜選択すればよいが、例えば、300~1400℃であることが望ましい。
【0068】
[非酸化物系気相成長セラミック材料]
非酸化物系気相成長セラミック材料は、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて形成することができる。
【0069】
図2(a)~(c)は、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて非酸化物系気相成長セラミック材料を形成する工程の好ましい一例を模式的に示す断面図である。
図2(a)に示すように、非酸化物系気相成長セラミック材料は、本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10を形成した後、
図2(b)に示すように、非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10の表面に気相成長法により非酸化物系気相成長セラミック材料20を形成し、
図2(c)に示すように、非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10を取り除くことにより形成することができる。非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型10を取り除く際、製造された非酸化物系気相成長セラミック材料20の離型性がよいので、比較的簡単に製造された非酸化物系気相成長セラミック材料20を型から剥離させることができる。
【0070】
上記非酸化物系気相成長セラミック材料の形状としては、特に限定されないが、平板状、有底円筒形状、坩堝形状等が挙げられる。
【0071】
上記非酸化物系気相成長セラミック材料としては、特に限定されず、コージェライト、アルミナ、シリカ、ムライト等の酸化物セラミック、炭化ケイ素(SiC)、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、及び、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、窒化チタン等の窒化物セラミック等からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
なかでも、耐熱性等の特性に優れることから、炭化ケイ素(SiC)であることが望ましい。
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて形成され、SiCからなることを特徴とする非酸化物系気相成長セラミック材料もまた本発明の一つである。
【0072】
上記非酸化物系気相成長セラミック材料の製造方法としては、特に限定されず、例えば、CVD、PVD、スパッタリング等が挙げられるが、CVD法により、非酸化物系気相成長セラミック材料を製造する方法が好ましい。
【0073】
CVD法により非酸化物系気相成長セラミック材料を製造する際には、CVD炉内に非酸化物系気相成長セラミック材料となる原料ガスを供給することにより、非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の表面に非酸化物系のセラミック材料の層を形成することができる。
【0074】
CVD法により非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型の表面にSiC層を形成する場合、原料ガスとしては、メチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)やメチルジクロロシラン(CH3SiHCl2)などのハロゲン化有機珪素化合物、あるいは、四塩化珪素(SiCl4)やシラン(SiH4)などのSi原子を含むガスと炭化水素ガス(CH4、C2H6等)などのC原子を含むガスとの混合ガスが用いられる。また、処理温度は、例えば、1000~1500℃である。
【0075】
上記非酸化物系気相成長セラミック材料の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、10~5000μmが望ましい。
【0076】
以上の方法により、炭化ケイ素質ダミーウエハ等の用途に用いられる非酸化物系気相成長セラミック材料を得ることができる。
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて得られる非酸化物系気相成長セラミック材料は、耐熱性と強度とを備えており、上記非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型と容易に分離することができるため、分離の際のダメージが極めて少ない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型は、非酸化物系気相成長セラミック材料を容易に剥離できるため繰り返し使用することができ、容易に加工することができる。
本発明の非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型を用いて得られる非酸化物系気相成長セラミック材料は、原子力分野、航空・宇宙分野、発電分野等の過酷な環境下や、ポンプメカニカルシール等の一般的な分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 基材
2 アルミナ被膜
3 含浸層
4 接着剤層
10 非酸化物系気相成長セラミック材料の形成用の型
20 非酸化物系気相成長セラミック材料