(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】ゴム組成物および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20231115BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20231115BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20231115BHJP
C08K 5/44 20060101ALI20231115BHJP
C08L 61/12 20060101ALI20231115BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/30
C08K5/17
C08K5/44
C08L61/12
B60C1/00 C
(21)【出願番号】P 2019234245
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真也
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、レゾルシン樹脂、および耐熱架橋剤を含有し、かつゴム成分全量を100質量部としたとき、コバルト塩の含有量が0.1質量部以下であ
り、
前記耐熱架橋剤が1,6-ヘキサメチレンジアミン-ジチオ硫酸ナトリウム二水和物であり、
前記レゾルシン樹脂が下記式(1)で表されるスチレン化レゾルシン由来の構成単位を有するレゾルシン樹脂であり、
【化1】
前記加硫促進剤がN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドであることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記コバルト塩を含有しない請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のゴム組成物を加硫してなるスチールコード用被覆用ゴムを有する空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、および該ゴム組成物を加硫してなり、耐久性に優れたスチールコード用被覆用ゴムを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ、特にラジアルタイヤでは、乗用車タイヤのベルト層、トラック・バス用など大型タイヤのベルト、カーカス、チェーハー層などの補強材としてスチールコードが多用されている。タイヤの使用期間が長期化する中、スチールコードによる補強効果を高め、耐久性を長期にわたり維持することが重要視されており、スチールコードを被覆するゴム組成物にはスチールコードとの優れた接着性が要求されている。
【0003】
下記特許文献1には、p-tert-ブチルフェノール由来の構成単位、o-フェニルフェノール由来の構成単位、およびレゾルシン由来の構成単位を含み軟化点が150℃以下である共縮合物を含有するゴム組成物が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、植物の多孔質性炭化物からなる平均粒径10~500μmの粉末、ならびにクレゾールホルムアルデヒド縮合樹脂、レゾルシン縮合物および変性レゾルシン縮合物からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含有するゴム組成物が記載されている。
【0005】
また、下記特許文献3には、特定温度で特定範囲のモジュラス値および引張強さとなる加硫ゴム特性を示すゴム組成物が記載されている。
【0006】
さらに、下記特許文献4には、ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5865544号公報
【文献】特開2011-162626号公報
【文献】特開2019-104849号公報
【文献】特開2004-83766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただし、本発明者が鋭意検討したところ、上記特許文献に記載のゴム組成物では、いずれもスチールコード用被覆用ゴムの原料としたとき、耐久性向上の観点から更なる改良の余地があることが判明した。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スチールコード用被覆用ゴムの原料としたとき、耐久性向上効果を有するゴム組成物、および耐久性に優れたスチールコード用被覆用ゴムを有する空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者が鋭意検討したところ、特定の組成を有し、コバルト塩の配合量を最適化する配合設計を行うことにより、上記課題を解決し得ることを見出した。具体的には、本発明は下記構成を備える。
【0011】
すなわち本発明は、ゴム成分、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、レゾルシン樹脂、および耐熱架橋剤を含有し、かつゴム成分全量を100質量部としたとき、コバルト塩の含有量が0.1質量部以下であることを特徴とするゴム組成物に関する。
【0012】
前記ゴム組成物において、前記コバルト塩を含有しないことが好ましい。
【0013】
前記ゴム組成物において、前記耐熱架橋剤が1,6-ヘキサメチレンジアミン-ジチオ硫酸ナトリウム二水和物であることが好ましい。
【0014】
前記ゴム組成物において、前記レゾルシン樹脂が下記式(1)で表されるスチレン化レゾルシン由来の構成単位を有するレゾルシン樹脂であることが好ましい。
【化1】
【0015】
前記ゴム組成物において、前記加硫促進剤がN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドであることが好ましい。
【0016】
また本発明は、前記いずれかに記載のゴム組成物を加硫してなるスチールコード用被覆用ゴムを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るゴム組成物は、スチールコード用被覆用ゴムの原料としたとき、耐久性向上効果に優れる。したがって、かかるゴム組成物を原料として加硫してなるスチールコード用被覆用ゴムを有する空気入りタイヤは、被覆用ゴムの補強性に優れ、かつ被覆用ゴムとスチールコードとの耐剥離性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、レゾルシン樹脂、および耐熱架橋剤を含有し、かつゴム成分全量を100質量部としたとき、コバルト塩の含有量が0.1質量部以下である。
【0019】
ゴム成分としては、例えばジエン系ゴムを好適に使用可能である。ジエン系ゴムとしては、特に限定されるものでなく、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。ジエン系ゴムとして、好ましくは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、またはこれらの2種以上のブレンドである。
【0020】
本発明に係るゴム組成物は、充填剤としてカーボンブラックを含有しても良い。カーボンブラックは、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分全量を100質量部としたとき、カーボンブラックを30~90質量部配合することが好ましく、50~65質量部であることがより好ましい。
【0021】
また、充填剤としてシリカを含有することも好ましい。シリカとしては、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル-ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。シリカの配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、0~15質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。
【0022】
加硫剤としては、好適には硫黄が使用可能である。硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。加硫後のゴム物性や耐久性などを考慮した場合、ゴム成分100質量部に対する硫黄の配合量は、1.0~10.0質量部であることが好ましく、4.0~7.0質量部であることがより好ましい。
【0023】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。ただし、本発明においては加硫ゴムの補強性に優れ、かつ被覆用ゴムとスチールコードとの耐剥離性に優れることから、スルフェンアミド系加硫促進剤を使用することが好ましく、特にはN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドを使用することが好ましい。ゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の配合量は、0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~1.5質量部であることがより好ましい。
【0024】
レゾルシン樹脂としては、レゾルシンおよびそのアルキル誘導体からなる群から選択された少なくとも1種を、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドで縮合してなるものが挙げられ、アルキルフェノールなどの他のモノマー成分を併用したものでもよい。具体的には、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシンとクレゾールなどのアルキルフェノールとホルムアルデヒドとを縮合してなるレゾルシン-アルキルフェノール共縮合ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0025】
特に本発明においては、レゾルシン樹脂として、下記式(1)で表されるスチレン化レゾルシン由来の構成単位を有するレゾルシン樹脂を使用した場合、加硫ゴムの補強性に優れ、かつ被覆用ゴムとスチールコードとの耐剥離性に優れるため好ましい。
【化2】
【0026】
加硫ゴムの補強性および被覆用ゴムとスチールコードとの耐剥離性向上の見地から、本発明で使用するレゾルシン樹脂中、上記式(1)で表されるスチレン化レゾルシン由来の構成単位の割合は、60.0~70.0mol%であることが好ましい。
【0027】
ゴム成分100質量部に対するレゾルシン樹脂の配合量は、0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.5~3.0質量部であることがより好ましい。
【0028】
なお、レゾルシン樹脂は一般的に臭気の強い配合剤であることが知られており、特にゴム組成物の製造工程ではレゾルシン樹脂の臭気低減が望まれる。本発明者がレゾルシン樹脂の臭気の原因について鋭意検討したところ、レゾルシン樹脂中のクレゾール残渣が臭気の原因であり、レゾルシン中のクレゾール残渣を0.2質量%以下とすることで、レゾルシン樹脂の臭気を大幅に低減できることを見出した。したがって、本発明で使用するレゾルシン樹脂は、クレゾール残渣が0.2質量%以下のものを使用することが好ましく、0.1質量%以下のものを使用することがより好ましく、0.05質量%以下のものを使用することが特に好ましい。また、臭気低減の観点からも、前記一般式(1)で表されるスチレン化レゾルシン由来の構成単位を有するレゾルシン樹脂を使用することが好ましい。
【0029】
耐熱架橋剤としては、チオ硫酸塩、ビスマレイミド化合物、チウラム化合物などが挙げられる。これらの中でもチオ硫酸塩が好ましく、特に1,6-ヘキサメチレンジアミン-ジチオ硫酸ナトリウム二水和物を使用することが好ましい。ゴム成分100質量部に対する耐熱架橋剤の配合量は、0.5~3.0質量部であることが好ましく、1.0~2.5質量部であることがより好ましい。
【0030】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、レゾルシン樹脂、および耐熱架橋剤を含有し、かつゴム成分全量を100質量部としたとき、コバルト塩の含有量が0.1質量部以下であることを特徴とする。特に、本発明に係るゴム組成物において、耐熱架橋剤として1,6-ヘキサメチレンジアミン-ジチオ硫酸ナトリウム二水和物を使用しつつ、コバルト塩の含有量を0.1質量部以下とすることにより、加硫ゴムの補強性に優れ、かつ被覆用ゴムとスチールコードとの耐剥離性に優れる。本発明に係るゴム組成物中、コバルト塩の含有量は少ないことが好ましく、具体的にはゴム成分全量を100質量部としたとき、コバルト塩の含有量が0.1質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以下であることがより好ましく、コバルト塩を含有しないことが特に好ましい。
【0031】
本発明に係るゴム組成物はゴム成分、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、レゾルシン樹脂、および耐熱架橋剤に加えて、老化防止剤、ステアリン酸、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などを配合することができる。
【0032】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.5~10質量部であることが好ましい。
【0033】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、レゾルシン樹脂、および耐熱架橋剤に加えて、老化防止剤、ステアリン酸、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0034】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、加硫剤および加硫促進剤などの加硫系配合剤以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。
【0036】
(ゴム組成物の調製)
表1の配合処方に従い、実施例1~5および比較例1~2のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す(表1において、各配合剤の配合量を、ゴム成分100質量部に対する質量部数で示す)。
a)天然ゴム(RSS#3)
b)カーボンブラック;商品名「シースト300」、東海カーボン社製
c)酸化亜鉛;商品名「酸化亜鉛3号」、三井金属鉱業社製
d)ステアリン酸;商品名「ビーズステアリン酸」、日油社製
e)老化防止剤;商品名「ノクラック6C」、大内新興化学社製
f)レゾルシン樹脂(1)(クレゾール残渣4.0質量%);商品名「スミカノール620」、住友化学工業社製
g)レゾルシン樹脂(2)(前記式(1)で表されるスチレン化レゾルシン由来の構成単位を有するレゾルシン樹脂、クレゾール残渣(0.03質量%));商品名「B20S」、Techno Waxchem Pvt. Ltd.社製
h)ヘキサメトキシメチルメラミン;商品名「サイレッツ963L」、オルネクスジャパン社製
i)ステアリン酸コバルト;商品名「Corebond CS-9.5」、泰光精密化学社製
j)耐熱架橋剤(1,6-ヘキサメチレンジアミン-ジチオ硫酸ナトリウム二水和物);商品名「Duralink HTS」、フレキシス社製
k)硫黄;商品名「ミュークロン OT-20」、四国化成社製
l)加硫促進剤DCBS(N,N-ジシクロヘキシル-2-べンゾチアゾリルスルフェンアミド);商品名「ノクセラーDZ-G」、大内新興化学工業社製
m)加硫促進剤TBBS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド);商品名「サンセラーNS-G」、三新化学工業社製
【0037】
前記配合剤のレゾルシン樹脂中のクレゾール残渣量は、レゾルシン樹脂サンプル10mgを量りとり、10mLの溶媒に溶かした後、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。下記に測定条件を示す。
(溶媒)DBP入りアセトン(DBP0.1mg/ml)
(カラム)HP-5
(GC機器)GC-2010、島津製作所社製
(検量線)m-クレゾール 3点(0.01,1,5mg)
検量線は、DBPとm-クレゾールとの面積比を基に作成した。
【0038】
前記で得られたゴム組成物を加硫し、下記条件に基づいて評価した。
【0039】
(1)加硫ゴム補強性
JIS K6251に準じて、引張試験(ダンベル状3号形)を実施して破断強度(TS)および破断伸び(EB)を測定し、その積(TSxEB)を抗張積とした。比較例1の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど、補強性が優れることを示す。
【0040】
(2)湿熱老化条件での耐剥離力
ゴム組成物をシーティングすることにより厚さ1.0mmのゴムシートを作製した。真鍮メッキが施されたスチールコード(構造:3×0.20mm+6×0.35mm)を12本/25mmの間隔で並べゴムシートで挟み込んだものを2枚重ね、スチールコードが2層存在する未加硫複合体を作製した。
【0041】
得られた未加硫複合体を150℃で30分間加硫することにより試験片を得た。試験片を105℃の飽和蒸気内で96時間放置した後、オートグラフ(島津製作所製DCS500)を用いて2層のスチールコード間の剥離試験を行い、耐剥離力を求めた。比較例1の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど、耐剥離力が優れることを示す。
【0042】