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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/54 20060101AFI20231115BHJP
   B60G 15/07 20060101ALI20231115BHJP
   F16B 11/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
F16F9/54
B60G15/07
F16B11/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020117046
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014622
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中 康弘
(72)【発明者】
【氏名】青山 博
(72)【発明者】
【氏名】田邊 有未
(72)【発明者】
【氏名】山香 浩一
(72)【発明者】
【氏名】栗原 雄輝
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-333051(JP,A)
【文献】特開2002-130360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/54
B60G 15/07
F16B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のシリンダと、ボルト締結用の穴が形成される2つの平面部と前記シリンダに溶接により接合され、部分的に円筒形状であり、前記シリンダの中心軸方向に隙間が形成される円筒部を有するナックルブラケットと、を有し、
前記ナックルブラケットの前記円筒部に形成される前記隙間は、前記ナックルブラケットの前記2つの平面部の上端位置と前記ナックルブラケットの前記円筒部の上端位置との間のみに形成され、前記シリンダの中心軸方向に上端側の隙間が下端側の隙間よりも大きく形成され、
前記ナックルブラケットの前記円筒部の周方向であって、上端側に形成される第1溶接部と、前記ナックルブラケットの前記円筒部の軸方向であって、前記隙間を挟んで互いに向き合うように、前記ナックルブラケットの前記円筒部の対向部に形成される第2溶接部と、を有し、
一方の前記第2溶接部の端面を始端とし、他方の前記第2溶接部の端面を終端とし、前記第1溶接部を含め、1回の溶接パスで溶接した、前記第1溶接部及び前記第2溶接部を有することを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
請求項1に記載するサスペンション装置であって、
前記第2溶接部は、一対、形成されることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項3】
請求項2に記載するサスペンション装置であって、
一対の前記第2溶接部は、一対の前記第2溶接部の互いの距離が、前記ナックルブラケットの前記円筒部の軸方向に対して、前記第1溶接部に近いほど大きくなるように、形成されることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項4】
請求項3に記載するサスペンション装置であって、
前記第2溶接部は、前記ナックルブラケットの前記円筒部の軸方向とのなす角が、0°よりも大きく、90°よりも小さい角度で形成されることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項5】
請求項2に記載するサスペンション装置であって、
前記ナックルブラケットの前記2つの平面部の上端位置と、前記ナックルブラケットの前記円筒部の上端位置と、の間の距離が、前記ナックルブラケットの板厚以上であることを特徴とするサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に使用されるサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、自動車に使用されるサスペンション装置、例えば、ストラット型ショックアブゾーバは、特開2002-295569号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
特許文献1には、アウターシェルにナックルブラケットが設置されるストラット式アウターシェルユニット(ストラット型ショックアブゾーバ)が記載され、アウターシェルの底部がクロージング加工により閉塞され、ナックルブラケットを対のフランジ部の間を結ぶ補強部材を持たない一枚板タイプのものとし、ナックルブラケットの上端がアウターシェルに固着される上端溶接部を有し、ナックルブラケットの下端がアウターシェルに固着される下端溶接部と、ナックルブラケットの下端がアウターシェルに溶接によって固着されない非溶接部と、がアウターシェルの周方向に並んで設置されることが記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-295569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、アウターシェル(外筒)にナックルブラケットが設置されるストラット型ショックアブゾーバが記載されている。
【0006】
ナックルブラケットは、ボルト締結用の穴が形成される2つの平面部と、部分的に円筒形状の円筒部と、を有する。そして、ナックルブラケットの円筒部に、外筒が差し込まれ、ナックルブラケットの円筒部の端部と外筒の側面部とが、溶接により、接合される。
【0007】
ストラット型ショックアブゾーバは、車体の自重と車体の慣性力とを支持し、特に、左右方向や前後方向に大きな負荷を繰り返し受ける。これらの負荷により、ストラット型ショックアブゾーバは、疲労損傷が発生する。この疲労損傷の損傷モードとしては、ナックルブラケットの円筒部の端部と外筒の側面部とを溶接する溶接部で、疲労破壊が最も多い。
【0008】
そして、この溶接部における疲労破壊モードには、溶接止端部からの破壊と、不溶着部(溶接ルート部)からの破壊と、の主に2つのケースが存在する。
【0009】
特に、不溶着部は、溶接止端部に比較して、応力集中係数が高いため、僅かな不溶着部の形状の違いに依存して、強度ばらつきが発生しやすい。このため、強度ばらつきが発生しにくく、信頼性が高く、品質管理を容易にするためには、不溶着部からの破壊を抑制する必要がある。
【0010】
しかし、特許文献1には、こうした不溶着部からの破壊を抑制し、強度ばらつきが少ない高信頼なストラット型ショックアブゾーバは、記載されていない。
【0011】
そこで、本発明は、不溶着部からの破壊を抑制し、強度ばらつきが少ない、高信頼なサスペンション装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するため、本発明のサスペンション装置は、円筒形状のシリンダと、ボルト締結用の穴が形成される2つの平面部とシリンダに溶接により接合され、部分的に円筒形状であり、シリンダの中心軸方向に隙間が形成される円筒部を有するナックルブラケットと、を有し、ナックルブラケットの円筒部に形成される隙間は、ナックルブラケットの2つの平面部の上端位置とナックルブラケットの円筒部の上端位置との間のみに形成され、シリンダの中心軸方向に、上端側の隙間が下端側の隙間よりも大きく形成され、ナックルブラケットの円筒部の周方向であって、上端側に形成される第1溶接部と、ナックルブラケットの円筒部の軸方向であって、隙間を挟んで互いに向き合うように、ナックルブラケットの円筒部の対向部に形成される第2溶接部と、を有し、一方の第2溶接部の端面を始端とし、他方の第2溶接部の端面を終端とし、第1溶接部を含め、1回の溶接パスで溶接した、第1溶接部及び第2溶接部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不溶着部からの破壊を抑制し、強度ばらつきが少ない、高信頼なサスペンション装置を提供することができる。
【0015】
なお、上記した以外の課題、構成及び効果については、下記する実施例の説明により、明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1に記載するサスペンション装置を模式的に説明する説明図である。
図2】従来例に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する説明図である。
図3A】外筒4とナックルブラケット12との周辺構造における前後方向の負荷に対する変形を解析的に説明する説明図である。
図3B】溶接部13の周辺構造における前後方向の負荷に対する応力分布を解析的に説明する説明図である。
図4】実施例1に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する説明図である。
図5A】実施例1に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力とを説明する説明図である。
図5B】実施例1に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力(応力低下率A)と関係を説明するグラフである。
図6】実施例2に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する説明図である。
図7A】実施例2に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力とを説明する説明図である。
図7B】実施例2に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力(応力低下率A)と関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を使用して説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には、同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0018】
先ず、実施例1に記載するサスペンション装置を模式的に説明する。
【0019】
図1は、実施例1に記載するサスペンション装置を模式的に説明する説明図である。
【0020】
実施例1では、自動車に使用されるサスペンション装置(シリンダー装置)として、ストラット型ショックアブゾーバ1を使用して説明する。なお、図1は、車両前方側から見た図であり、同視点における、左側の前輪用のストラット型ショックアブゾーバを示す。
【0021】
ストラット型ショックアブゾーバ1は、内筒3と外筒4とを有する複筒式であり、
(1)減衰弁(図示せず)を有するピストン2と、
(2)ピストン2を摺動可能に収容する円筒形状の内筒3と、
(3)内筒3の外周側に設置され、重力鋳造体で構成され、内部に内筒3を収容する円筒形状の外筒4と、
(4)ピストン2に接続されるピストンロッド6と、
(5)内筒3と外筒4との上側先端部に設置され、リザーバ室5及び内筒3に封入されるオイル(液体)や窒素ガスの漏洩を防止するオイルシール7と、
(6)ピストンロッド6をガイドするロッドガイド8と、
(7)外筒4の底端部に設置され、外筒4と一体化された外筒底板9と、
(8)外筒4の底端部の内部に設置される底部バルブ10と、
(9)外筒4の外周表面に設置され、コイルスプリングを支持するスプリングシート11と、
(10)外筒4の底端部側に設置されるナックルブラケット12と、
を有する。
【0022】
なお、リザーバ室5は、内筒3と外筒4との間(内筒3の外周側、外筒4の内周側)に、形成される。そして、内筒3やリザーバ室5には、オイルや窒素ガスが封入される。また、内筒3の上端部と外筒4の上端部とは、ロッドガイド8に結合し、内筒3の底端部と外筒4の底端部とは、底部バルブ10に結合する。
【0023】
また、ピストンロッド6は、オイルシール7とロッドガイド8とを貫通し、外筒4の上側先端部に延伸し、ピストンロッド6の上端部が車体に結合する。
【0024】
そして、ストラット型ショックアブゾーバ1は、ピストン2とピストンロッド6とが、軸方向に沿って内筒3の内部を摺動することにより、減衰器として機能する。
【0025】
また、ナックルブラケット12は、ボルト締結用の穴が形成される2つの平面部12bと、部分的に円筒形状の円筒部12aと、を有する。そして、ナックルブラケット12の円筒部12aに、外筒4が差し込まれ、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部(上端部)と外筒4の側面部(外周表面)とが、溶接により、接合される。
【0026】
また、ナックルブラケット12の2つの平面部12bは、車体の外方向に延伸され、ナックルブラケット12の2つの平面部12bに形成されるボルト締結用の穴に、ホイール支持部材が結合する。
【0027】
このように、ストラット型ショックアブゾーバ1は、円筒形状の外筒4と、外筒4に溶接により接合される円筒部12aを有するナックルブラケット12と、を有する。そして、ストラット型ショックアブゾーバ1は、車両に結合され、車柱として、車体の自重と車体の慣性力とを支持し、車両走行時の振動を減衰する。
【0028】
なお、特に、車体の慣性力には、主に、車両の操舵時に作用する、図1中にFLRとして示す左右方向の負荷と、主に、車両の加減速時に作用する、図1中にFFBとして示す前後方向の負荷がある。これら負荷は、車両の走行中に、繰り返し付与される。
【0029】
ストラット型ショックアブゾーバ1に損傷(疲労損傷)を与える負荷としては、この車両の慣性力の寄与が最も高いことが経験的に分かっている。このため、ストラット型ショックアブゾーバ1の耐久性試験も、これら負荷を想定して行われる。
【0030】
この損傷の損傷モードとしては、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部と外筒4の側面部とを溶接する溶接部13で、疲労破壊が最も多い。
【0031】
そして、この溶接部13における疲労破壊モードには、溶接止端部からの破壊と、不溶着部(溶接ルート部)からの破壊と、の主に2つのケースが存在する。
【0032】
特に、不溶着部は、溶接止端部に比較して、応力集中係数が高いため、僅かな不溶着部の形状の違いに依存して、強度ばらつきが発生しやすい。このため、強度ばらつきが発生しにくく、信頼性が高く、品質管理を容易にするためには、不溶着部からの破壊を抑制する必要がある。
【0033】
次に、従来例に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する。
【0034】
図2は、従来例に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する説明図である。
【0035】
なお、図2は、ナックルブラケット12の2つの平面部12b側から見た説明図である。
【0036】
そして、ナックルブラケット12は、プレス成形で加工されるため、図2に示すように、ナックルブラケット12の円筒部12aには、隙間δが形成される。
【0037】
また、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部と外筒4の側面部とを溶接する溶接部13は、通常、この隙間δの、一方の角部を始端とし、他方の角部を終端とし、形成される。つまり、この溶接は、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部に沿って、周方向に施される。
【0038】
次に、外筒4とナックルブラケット12との周辺構造における前後方向の負荷に対する変形を解析的に説明する。
【0039】
図3Aは、外筒4とナックルブラケット12との周辺構造における前後方向の負荷に対する変形を解析的に説明する説明図である。
【0040】
図3Aに示す解析モデルは、代表的な寸法として、外筒4の直径が略50mm、外筒4の板厚が略3mm、ナックルブラケット12の板厚が略4mm、ナックルブラケット12の2つの平面部12bに形成されるボルト締結用の穴の中心と外筒4の外周表面との距離が略40mm、ナックルブラケット12の2つの平面部12bに形成されるボルト締結用の穴の中心と外筒4の中心軸との距離が略60mm、外筒4の長さが略350mm、とした。
【0041】
そして、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部と外筒4の側面部とを溶接する溶接部13は、隙間δを形成する、一方の角部を始端とし、他方の角部を終端とし、形成される。なお、溶接部13の表面には、溶接止端部13aが形成される。
【0042】
また、外筒4の上側先端部に、前後方向の負荷として、FFBを印加した。
【0043】
次に、溶接部13の周辺構造における前後方向の負荷に対する応力分布を解析的に説明する。
【0044】
図3Bは、溶接部13の周辺構造における前後方向の負荷に対する応力分布を解析的に説明する説明図である。
【0045】
図3Bに示すように、溶接部13において、比較的高い応力が発生する。そして、特に、溶接止端部13aと、溶接の始端及び溶接の終端の不溶着部13bとに、顕著に高い応力が発生する。
【0046】
そして、耐久性試験においても、溶接部13における疲労破壊モードには、溶接止端部13aからの破壊と、不溶着部13bからの破壊と、の主に2つのケースが存在する。
【0047】
特に、不溶着部13bは、溶接止端部13aに比較して、応力集中係数が高いため、僅かな不溶着部13bの形状の違いに依存して、強度ばらつきが発生しやすい。このため、強度ばらつきが発生しにくく、信頼性が高く、品質管理を容易にするためには、不溶着部13bからの破壊を抑制する必要がある。
【0048】
次に、実施例1に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する。
【0049】
図4は、実施例1に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する説明図である。
【0050】
なお、図4は、ナックルブラケット12の2つの平面部12b側から見た説明図である。
【0051】
そして、ナックルブラケット12は、プレス成形で加工されるため、図4に示すように、ナックルブラケット12の円筒部12aには、外筒4の中心軸方向に、隙間δが形成される。
【0052】
つまり、隙間δは、ナックルブラケット12の円筒部12aの周方向であって、周方向の一端と周方向の他端との間に形成される。
【0053】
実施例1では、不溶着部13bからの破壊を抑制するため、図4に示すように、溶接の始端及び溶接の終端に、回し溶接部14(隙間δを挟んで対向するナックルブラケット12の円筒部12aの対向部に形成される溶接部)を形成する。つまり、ナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δに、回し溶接を施す。
【0054】
回し溶接を施すことにより、図3Bに示すように、ナックルブラケット12の円筒部12aが変形し、不溶着部13bが開くことを、抑制することができ、また、回し溶接を施すことにより、溶接の始端の端面の向き及び溶接の終端の端面の向きが、外筒4の中心軸方向側へ変化することによる不溶着部13bにおける応力集中を緩和することができる。
【0055】
つまり、実施例1では、隙間δに、図4に示すように、角度θのテーパー形状の回し溶接部14を形成する。なお、角度θは略45度である。実施例1では、隙間δに、角度θのテーパー形状の切り込みを形成する。
【0056】
そして、上端側(図4中右側)の隙間δ(略15mm)が、下端側(図4中左側)の隙間δ1(略3mm)よりも、大きい。
【0057】
このように、実施例1では、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部と外筒4の側面部とを溶接する場合、一方の回し溶接部14(第2溶接部)の端面(始端部)を始端とし、他方の回し溶接部14(第2溶接部)の端面(終端部)を終端とし、溶接部13(第1溶接部)も含め、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部に沿って、周方向(円周方向)に、溶接する。
【0058】
つまり、金属溶融部である溶接部13(第1溶接部)は、ナックルブラケット12の円筒部12aの周方向に形成され、金属溶融部である回し溶接部14(第2溶接部)は、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に形成される。
【0059】
なお、回し溶接部14(第2溶接部)は、隙間δを挟んで、互いに向き合うように、一対、形成される。
【0060】
また、一対の回し溶接部14(第2溶接部)は、一対の回し溶接部14の互いの距離が、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に対して、溶接部13に近いほど大きくなるように、形成される。
【0061】
つまり、一対の回し溶接部14(第2溶接部)は、それぞれ、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向とのなす角θが、0°よりも大きく、90°よりも小さい角度で形成される。
【0062】
また、実施例1に記載するサスペンション装置の製造方法は、つまり、ストラット型ショックアブゾーバ1の製造方法は、以下の構成を有する。
(1)円筒形状の外筒4に、円筒形状の周方向であって、周方向の一端と周方向の他端との間に隙間δが形成されるナックルブラケット12を挿入する第1工程、
(2)隙間δを形成し、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に沿って形成される回し溶接部14(第2溶接部)の一方側から開始し、ナックルブラケット12の円筒部12aの周方向に形成される溶接部13(第1溶接部)を通り、隙間δを形成し、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に沿って形成される回し溶接部14(第2溶接部)の他方側で終了するように、溶接する第2工程。
【0063】
このように、実施例1では、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部と外筒4の側面部とを溶接し、ストラット型ショックアブゾーバ1を製造する場合、先ず、円筒形状の外筒4に、ナックルブラケット12を挿入し、次に、一方の回し溶接部14の端面を始端とし、他方の回し溶接部14の端面を終端とし、溶接部13を介して、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部に沿って、周方向に、溶接する。
【0064】
実施例1によれば、一方の回し溶接部14の端面を始端とし、他方の回し溶接部14の端面を終端とし、1回の溶接パスで、溶接部13も含め、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部と外筒4の側面部とを溶接することができる。
【0065】
また、実施例1によれば、溶接コストを低減することができる。また、1回の溶接パスで溶接することにより、加熱回数が減少し、残留応力の増加や材質の変化による強度への悪影響も減少する。
【0066】
なお、回し溶接を施すため、また、プレス成形で加工するため(加工性を向上させるため)、ナックルブラケット12の2つの平面部12bの上端位置と、ナックルブラケット12の円筒部12aの上端位置と、の間の距離L’は、少なくとも、ナックルブラケット12の板厚以上とする。なお、実施例1では、ナックルブラケット12の板厚が略4mm、距離L’が略10mmである。
【0067】
次に、実施例1に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力とを説明する。
【0068】
図5Aは、実施例1に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力とを説明する説明図である。
【0069】
一方の回し溶接部14の端面を始端とし、他方の回し溶接部14の端面を終端とし、溶接部13も含め、ナックルブラケット12の円筒部12aと外筒4の側面部とを溶接する。
【0070】
この際、回し溶接部14の回し溶接長さLを変化させ、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力と関係を検討する。
【0071】
次に、実施例1に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力(応力低下率A)と関係を説明する。
【0072】
図5Bは、実施例1に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力(応力低下率A)と関係を説明するグラフである。
【0073】
回し溶接部14の回し溶接長さL(mm)を変化させ、不溶着部13bにおける応力低減効果を解析した。なお、図5Bの縦軸値は、回し溶接無し(L=0)の場合の応力を1とする場合の応力低下率Aを示す。
【0074】
図5Bに示すように、前後方向の負荷、及び、左右方向の負荷、いずれの負荷に対しても、回し溶接部14の回し溶接長さLを大きくするほど、不溶着部13bの応力が低減することがわかる。
【0075】
なお、角度θ、隙間δ、隙間δ1などの寸法を、多少、変化させても、前後方向の負荷、及び、左右方向の負荷、いずれの負荷に対しても、回し溶接部14の回し溶接長さLを大きくするほど、不溶着部13bの応力が低減する。
【0076】
このように、実施例1に記載するサスペンション装置、つまり、ストラット型ショックアブゾーバ1は、円筒形状の外筒4と、外筒4に溶接(金属溶融部)により接合される円筒部12aを有するナックルブラケット12と、を有し、ナックルブラケット12の円筒部12aには、外筒4の中心軸方向に、隙間δが形成され、金属溶融部は、ナックルブラケット12の円筒部12aの周方向に形成される溶接部13と、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に形成される回し溶接部14と、を有する。
【0077】
これにより、実施例1によれば、不溶着部13bからの破壊を抑制し、強度ばらつきが少ない、高信頼なサスペンション装置、つまり、ストラット型ショックアブゾーバ1を提供することができる。
【0078】
また、実施例1では、内筒3と外筒4とを有する複筒式のストラット型ショックアブゾーバ1を使用して、説明したが、実施例1は、ピストンが往復する円筒形状のシリンダを有する単筒式又は複筒式のサスペンション装置も、含む。
【0079】
つまり、実施例1に記載するサスペンション装置は、円筒形状のシリンダと、シリンダに溶接(金属溶融部)により接合される円筒部12aを有するナックルブラケット12と、を有し、ナックルブラケット12の円筒部12aには、シリンダの中心軸方向に、隙間δが形成され、金属溶融部は、ナックルブラケット12の円筒部12aの周方向に形成される溶接部13(第1溶接部)と、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に形成される回し溶接部14(第2溶接部)と、を有する。
【0080】
また、実施例1に記載するサスペンション装置の製造方法は、
(1)円筒形状のシリンダに、周方向の一端と周方向の他端との間に隙間δが形成される円筒形状のナックルブラケット12を挿入する第1工程と、
(2)隙間δを形成し、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に沿って形成される回し溶接部14(第2溶接部)の一方側から開始し、ナックルブラケット12の円筒部12aの周方向に形成される溶接部13(第1溶接部)を通り、隙間δを形成し、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に沿って形成される回し溶接部14(第2溶接部)の他方側で終了するように、溶接する第2工程と、
を有する。
【0081】
これにより、不溶着部13bからの破壊を抑制し、強度ばらつきが少ない、高信頼なサスペンション装置を提供することができる。
【実施例2】
【0082】
次に、実施例2に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する。
【0083】
図6は、実施例2に記載する外筒4とナックルブラケット12との周辺構造を模式的に説明する説明図である。
【0084】
なお、図6は、ナックルブラケット12の2つの平面部12b側から見た説明図である。
【0085】
そして、ナックルブラケット12は、プレス成形で加工されるため、図6に示すように、ナックルブラケット12の円筒部12aには、外筒4の中心軸方向に、隙間δが形成される。
【0086】
実施例1では、隙間δに、角度θのテーパー形状の切り込みを形成したが、実施例2では、隙間δに、角度θのテーパー形状の切り込みを形成せず、隙間δ(略15mm)をほぼ平行とする。なお、基本的な構成は、実施例1と同様である。
【0087】
つまり、一対の回し溶接部14は、一対の回し溶接部14の互いの距離が、ナックルブラケット12の円筒部12aの軸方向に対して、平行になるように、形成される。
【0088】
実施例2でも、実施例1と同様に、不溶着部13bからの破壊を抑制するため、図6に示すように、溶接の始端及び溶接の終端に、回し溶接部14を形成する。つまり、ナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δに、回し溶接を施す。
【0089】
また、実施例2でも、実施例1と同様に、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部と外筒4の側面部とを溶接する場合、一方の回し溶接部14の端面を始端とし、他方の回し溶接部14の端面を終端とし、溶接部13も含め、ナックルブラケット12の円筒部12aの端部に沿って、周方向に、溶接する。
【0090】
なお、実施例2でも、実施例1と同様に、回し溶接を施すため、また、プレス成形で加工するため(加工性を向上させるため)、ナックルブラケット12の2つの平面部12bの上端位置と、ナックルブラケット12の円筒部12aの上端位置と、の間の距離L’は、少なくとも、ナックルブラケット12の板厚以上とする。
【0091】
実施例2によれば、不溶着部13bからの破壊を抑制し、強度ばらつきが少ない、高信頼なサスペンション装置、つまり、ストラット型ショックアブゾーバ1を提供することができる。更に、実施例2によれば、隙間δに、角度θのテーパー形状の切り込みの加工が不要となるため、ナックルブラケット12の成型コストを低減することができる。
【0092】
次に、実施例2に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力とを説明する。
【0093】
図7Aは、実施例2に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力とを説明する説明図である。
【0094】
一方の回し溶接部14の端面を始端とし、他方の回し溶接部14の端面を終端とし、溶接部13も含め、ナックルブラケット12の円筒部12aと外筒4の側面部とを溶接する。
【0095】
この際、回し溶接部14の回し溶接長さLを変化させ、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力と関係を検討する。
【0096】
次に、実施例2に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力(応力低下率A)と関係を説明する。
【0097】
図7Bは、実施例2に記載するナックルブラケット12の円筒部12aに形成される隙間δの溶接の始端及び溶接の終端に施す、回し溶接部14の回し溶接長さLと不溶着部13bの応力(応力低下率A)と関係を説明するグラフである。
【0098】
回し溶接部14の回し溶接長さL(mm)を変化させ、不溶着部13bにおける応力低減効果を解析した。なお、図5Bの縦軸値は、回し溶接無し(L=0)の場合の応力を1とする場合の応力低下率Aを示す。
【0099】
図7Bに示すように、前後方向の負荷、及び、左右方向の負荷、いずれの負荷に対しても、回し溶接部14の回し溶接長さLを大きくするほど、概ね、不溶着部13bの応力が低減する(少なくとも1以下になる)ことがわかる。
【0100】
また、回し溶接部14の回し溶接長さLが6mmのときに、左右方向の負荷に対する応力低下率Aが1となった。通常、前後方向の負荷により不溶着部13bに発生する応力は、左右方向の負荷により不溶着部13bに発生する応力よりも、高いため、回し溶接を施すことにより、信頼性は十分に向上する。
【0101】
なお、角度θ、隙間δ、隙間δ1などの寸法を、多少、変化させても、前後方向の負荷、及び、左右方向の負荷、いずれの負荷に対しても、回し溶接部14の回し溶接長さLを大きくするほど、概ね、不溶着部13bの応力が低減する。
【0102】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。
【0103】
また、ある実施例の構成の一部を、他の実施例の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を追加することもできる。また、各実施例の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【符号の説明】
【0104】
1…ストラット型ショックアブゾーバ
2…ピストン
3…内筒
4…外筒
5…リザーバ室
6…ピストンロッド
7…オイルシール
8…ロッドガイド
9…外筒底板
10…底部バルブ
11…スプリングシート
12…ナックルブラケット
13…溶接部
14…回し溶接部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B