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特許7385538電力変換装置、温度推定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】電力変換装置、温度推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231115BHJP
   H02P 29/68 20160101ALI20231115BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P29/68
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020130938
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027126
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】猪又 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】バローチュ ノール アーメル
(72)【発明者】
【氏名】中道 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】ゼイ 恒彬
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-046647(JP,A)
【文献】国際公開第2007/034544(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0084830(US,A1)
【文献】特開2011-223678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 29/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1位置の温度を検出する温度センサと、
前記第1位置から離れた第2位置において一次側ラインと二次側ラインとの間のオン・オフを切り替えるスイッチと、を有する電力変換回路と、
前記スイッチの端子間に印加された電圧と、前記スイッチに流れた電流と、前記スイッチのオン・オフタイミングとに基づいて、前記スイッチにおける電力ロスを算出するロス算出部と、
前記第1位置の温度の検出結果に基づいて前記電力ロスの算出結果を補正するロス補正部と、
前記電力ロスの算出結果に基づいて前記温度の検出結果を補正する温度補正部と、
補正された前記電力ロスの算出結果と、補正された前記温度の検出結果とに基づいて、前記第2位置の温度を推定する温度推定部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記第2位置は、前記スイッチにおける発熱が前記温度センサの検出結果に影響を及ぼす距離で前記第1位置から離れている、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ロス算出部は、前記一次側ラインの電圧及び前記二次側ラインの電流を、前記スイッチの端子間電圧及び前記スイッチに流れる電流に換算する、請求項1又は2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電力ロスの算出結果に基づいて、所定の推定対象の第1推定値を算出する第1推定部と、
前記温度の検出結果に基づいて、前記推定対象の第2推定値を算出する第2推定部と、を更に備え、
前記ロス補正部は、前記第1推定値を前記第2推定値に近付けるように前記電力ロスの算出結果を補正し、
前記温度補正部は、前記第2推定値を前記第1推定値に近付けるように前記温度の検出結果を補正する、請求項1~3のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項5】
所定条件下における前記第1推定値のばらつきを表す第1ばらつき評価値と、所定条件下における前記第2推定値のばらつきを表す第2ばらつき評価値とを記憶するばらつき記憶部を更に備え、
前記ロス補正部は、前記第1推定値と前記第2推定値との差のうち前記第1ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように前記電力ロスの算出結果を補正し、
前記温度補正部は、前記第1推定値と前記第2推定値との差のうち前記第2ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように前記温度の検出結果を補正する、請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記推定対象は、前記第1位置の温度と周辺環境温度との温度差である、請求項4又は5記載の電力変換装置。
【請求項7】
第1推定値の変動成分を第2推定値の変動成分に近付けるように前記電力ロスの算出結果を補正するロス予備補正部と、
前記第2推定値の変動成分を前記第1推定値の変動成分に近付けるように前記温度の検出結果を補正する温度予備補正部と、を更に備え、
前記第1推定部は、前記ロス予備補正部により補正された前記電力ロスの算出結果に基づいて前記第1推定値を算出し、
前記第2推定部は、前記温度予備補正部により補正された前記温度の検出結果に基づいて前記第2推定値を算出する、請求項6記載の電力変換装置。
【請求項8】
所定条件下における前記第1推定値の振幅のばらつきを表す第1振幅ばらつき評価値と、所定条件下における前記第2推定値の振幅のばらつきを表す第2振幅ばらつき評価値とを記憶する振幅ばらつき記憶部を更に備え、
前記ロス予備補正部は、前記第1推定値の変動成分と前記第2推定値の変動成分との差のうち前記第1振幅ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように前記電力ロスの算出結果を補正し、
前記温度予備補正部は、前記第1推定値の変動成分と前記第2推定値の変動成分との差のうち前記第2振幅ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように前記温度の検出結果を補正する、請求項7記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記ロス予備補正部により補正された前記電力ロスの算出結果と、前記温度予備補正部により補正された前記温度の検出結果とに基づいて、前記周辺環境温度を推定する環境温度推定部を更に備え、
前記第2推定部は、前記温度予備補正部により補正された前記温度の検出結果と、前記環境温度推定部により推定された前記周辺環境温度とに基づいて前記第2推定値を算出する、請求項8記載の電力変換装置。
【請求項10】
第1位置の温度を検出する温度センサと、前記第1位置から離れた第2位置において一次側ラインと二次側ラインとの間のオン・オフを切り替えるスイッチと、を有する電力変換回路において、前記スイッチの端子間に印加された電圧と、前記スイッチに流れた電流と、前記スイッチのオン・オフタイミングとに基づいて、前記スイッチにおける電力ロスを算出することと、
前記第1位置の温度の検出結果に基づいて前記電力ロスの算出結果を補正することと、
前記電力ロスの算出結果に基づいて前記温度の検出結果を補正することと、
補正された前記電力ロスの算出結果と、補正された前記温度の検出結果とに基づいて、前記第2位置の温度を推定することと、を含む温度推定方法。
【請求項11】
第1位置の温度を検出する温度センサと、前記第1位置から離れた第2位置において一次側ラインと二次側ラインとの間のオン・オフを切り替えるスイッチと、を有する電力変換回路において、前記スイッチの端子間に印加された電圧と、前記スイッチに流れた電流と、前記スイッチのオン・オフタイミングとに基づいて、前記スイッチにおける電力ロスを算出することと、
前記第1位置の温度の検出結果に基づいて前記電力ロスの算出結果を補正することと、
前記電力ロスの算出結果に基づいて前記温度の検出結果を補正することと、
補正された前記電力ロスの算出結果と、補正された前記温度の検出結果とに基づいて、前記第2位置の温度を推定することと、を含む温度推定方法を装置に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、温度推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パワー半導体素子で発生する電力損失に基づいて基準点とパワー半導体素子との温度差を演算し、演算した温度差と基準点の温度とに基づいてパワー半導体素子の温度を算出する電力変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-36095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電力変換回路のスイッチの温度をより高い精度で推定するのに有効な電力変換装置、温度推定方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、第1位置の温度を検出する温度センサと、第1位置から離れた第2位置において一次側ラインと二次側ラインとの間のオン・オフを切り替えるスイッチと、を有する電力変換回路と、スイッチの端子間に印加された電圧と、スイッチに流れた電流と、スイッチのオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチにおける電力ロスを算出するロス算出部と、第1位置の温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果を補正するロス補正部と、電力ロスの算出結果に基づいて温度の検出結果を補正する温度補正部と、補正された電力ロスの算出結果と、補正された温度の検出結果とに基づいて、第2位置の温度を推定する温度推定部と、を備える。
【0006】
本開示の他の側面に係る温度推定方法は、第1位置の温度を検出する温度センサと、第1位置から離れた第2位置において一次側ラインと二次側ラインとの間のオン・オフを切り替えるスイッチと、を有する電力変換回路において、スイッチの端子間に印加された電圧と、スイッチに流れた電流と、スイッチのオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチにおける電力ロスを算出することと、第1位置の温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果を補正することと、電力ロスの算出結果に基づいて温度の検出結果を補正することと、補正された電力ロスの算出結果と、補正された温度の検出結果とに基づいて、第2位置の温度を推定することと、を含む。
【0007】
本開示の更に他の側面に係るプログラムは、第1位置の温度を検出する温度センサと、第1位置から離れた第2位置において一次側ラインと二次側ラインとの間のオン・オフを切り替えるスイッチと、を有する電力変換回路において、スイッチの端子間に印加された電圧と、スイッチに流れた電流と、スイッチのオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチにおける電力ロスを算出することと、第1位置の温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果を補正することと、電力ロスの算出結果に基づいて温度の検出結果を補正することと、補正された電力ロスの算出結果と、補正された温度の検出結果とに基づいて、第2位置の温度を推定することと、を含む温度推定方法を装置に実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電力変換回路のスイッチの温度をより高い精度で推定するのに有効な電力変換装置、温度推定方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電力変換装置の構成を例示する模式図である。
図2】スイッチングモジュールの概略構成を例示する模式図である。
図3】温度を推定するための構成を例示するブロック図である。
図4】ロス補正係数算出部及び温度補正係数算出部が実行する処理を例示するブロック線図である。
図5】温度を推定するための構成の変形例を示すブロック図である。
図6】変動成分算出部が実行する処理を例示するブロック線図である。
図7】制御回路のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図8】電力変換制御手順を例示するフローチャートである。
図9】温度推定手順を例示するフローチャートである。
図10】ロスの算出結果及び温度の検出結果の予備補正手順を例示するフローチャートである。
図11】ロスの算出結果及び温度の検出結果の補正手順を例示するフローチャートである。
図12】ロス補正係数の算出手順を例示するフローチャートである。
図13】温度補正係数の算出手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
〔電力変換装置〕
本実施形態に係る電力変換装置1は、モータ91(電動機)に駆動電力を供給する装置である。モータ91は、同期電動機であってもよいし、誘導電動機であってもよい。モータ91による駆動対象に特に制限は無いが、一例として電気自動車などの電動車両が挙げられる。
【0012】
図1に示すように、電力変換装置1は、電源92の電力(一次側電力)を駆動電力(二次側電力)に変換してモータ91に供給する。一次側電力は、交流電力であってもよく、直流電力であってもよい。二次側電力は交流電力である。一例として、一次側電力及び二次側電力は、いずれも三相交流電力である。
【0013】
例えば電力変換装置1は、電力変換回路10と、制御回路100とを有する。電力変換回路10は、一次側電力を二次側電力に変換してモータ91に供給する。電力変換回路10は、例えば電圧形インバータであり、電圧指令に従った駆動電圧をモータ91に印加する。例えば電力変換回路10は、コンバータ回路11と、平滑コンデンサ12と、スイッチングモジュール20と、電流センサ14と、電圧センサ15とを有する。
【0014】
コンバータ回路11は、例えばダイオードブリッジ回路又はPWMコンバータ回路であり、上記一次側電力を直流電力にして正極ライン16P及び負極ライン16Nに出力する。平滑コンデンサ12は、正極ライン16Pと負極ライン16Nとの間の電圧(以下「直流母線電圧」という。)を平滑化する。
【0015】
スイッチングモジュール20は、上記直流電力と上記駆動電力との電力変換を行い、駆動電力を出力ライン17U,17V,17Wに出力する。例えばスイッチングモジュール20は、複数のスイッチを有する。各スイッチは、正極ライン16P及び負極ライン16N(一次側ライン)と、出力ライン17U,17V,17W(二次側ライン)との間のオン・オフを切り替える。
【0016】
電流センサ14は、スイッチングモジュール20とモータ91との間に流れる電流を検出する。例えば電流センサ14は、駆動電力における各相の電流を検出する。例えば電流センサ14は、出力ライン17U,17V,17Wのそれぞれ電流を検出する。電流センサ14は、出力ライン17U,17V,17Wのいずれか2ラインの電流を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流の合計はゼロなので、2ラインの電流を検出する場合にも全ラインの電流の情報が得られる。電圧センサ15は、直流母線電圧を検出する。
【0017】
スイッチングモジュール20は、複数のスイッチを樹脂モールド等により1パッケージにまとめたモジュールである。図2に示すように、スイッチングモジュール20は、6セットのスイッチング部21,22,23,24,25,26と、温度センサ27とを有する。
【0018】
スイッチング部21,22,23,24,25,26のそれぞれは、2つのスイッチ31と、2つのダイオード33とを有する。従って、スイッチングモジュール20は、12のスイッチ31と、12のダイオード33とを有する。12のスイッチ31と、12のダイオード33とは、スイッチングモジュール20内において互いに異なる位置に配置されている。
【0019】
各スイッチ31は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等である。スイッチング部21の2つのスイッチ31は、ゲート駆動信号に応じて正極ライン16Pと出力ライン17Uとの間のオン・オフを切り替える。スイッチング部22の2つのスイッチ31は、ゲート駆動信号に応じて負極ライン16Nと出力ライン17Uとの間のオン・オフを切り替える。スイッチング部23の2つのスイッチ31は、ゲート駆動信号に応じて正極ライン16Pと出力ライン17Vとの間のオン・オフを切り替える。スイッチング部24の2つのスイッチ31は、ゲート駆動信号に応じて負極ライン16Nと出力ライン17Vとの間のオン・オフを切り替える。スイッチング部25の2つのスイッチ31は、ゲート駆動信号に応じて正極ライン16Pと出力ライン17Wとの間のオン・オフを切り替える。スイッチング部26の2つのスイッチ31は、ゲート駆動信号に応じて負極ライン16Nと出力ライン17Wとの間のオン・オフを切り替える。
【0020】
温度センサ27は、スイッチングモジュール20内の一箇所(以下、「センサ位置P27」という。)に設けられており、センサ位置の温度を検出する。温度センサ27は、例えばサーミスタである。12のスイッチ31のそれぞれは、センサ位置P27(第1位置)から離れた位置(以下、「スイッチ位置P31」という。)に設けられている。スイッチ位置P31(第2位置)は、スイッチ31の発熱が温度センサ27の検出結果に実質的に影響を及ぼす距離でセンサ位置P27から離れている。
【0021】
以上に示した電力変換回路10の構成はあくまで一例であり、モータ91に駆動電力を供給し得る限りにおいていかようにも変更可能である。例えば電力変換回路10は、電流形インバータであってもよい。電流形インバータは、電流指令に従った駆動電流をモータ91に出力する。電力変換回路10は、直流化を経ることなく電源電力と駆動電力との双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。電源電力が直流電力である場合に、電力変換回路10はコンバータ回路11を有していなくてもよい。スイッチング部21,22,23,24,25,26のそれぞれは、必ずしも2つのスイッチ31及び少なくとも2つのダイオード33を有していなくてもよく、少なくとも1つのスイッチ31及び少なくとも1つのダイオード33を有していればよい。また、スイッチングモジュール20は、2以上の温度センサ27を有してもよい。
【0022】
図1に戻り、制御回路100は、モータ91に駆動電力を供給するように電力変換回路10を制御する。例えば電力変換回路10が電圧形インバータである場合、制御回路100は、駆動力指令に基づき電流指令を生成し、電流指令に基づき電圧指令を生成し、電圧指令に従った駆動電圧をモータ91に印加するように電力変換回路10を制御する。電力変換回路10が電流形インバータである場合、制御回路100は、駆動力指令に基づき電流指令を生成し、電流指令に従った駆動電流をモータ91に供給するように電力変換回路10を制御する。
【0023】
ここで、上述のようにスイッチ31のオン・オフを切り替えることにより電力変換を行う電力変換回路10においては、スイッチ31の発熱によりスイッチングモジュール20の温度上昇が生じる。スイッチングモジュール20の温度が許容レベル近傍まで上昇する場合には、スイッチ31の温度が許容レベルを超えないように、スイッチングモジュール20の出力電流(出力ライン17U,17V,17Wへの出力電流)を抑制する必要がある。
【0024】
このような出力抑制には、温度センサ27による温度検出値を利用可能であるが、熱源となるスイッチ31の位置(上記スイッチ位置P31)は温度センサ27の位置(上記センサ位置P27)から離れているため、各スイッチ31における実際の温度は温度センサ27による検出結果よりも高温になる可能性がある。
【0025】
スイッチ31における温度と温度センサ27による温度検出値との差は、スイッチ31における電力ロスに基づき推定可能である。これにより、各スイッチ31の温度を推定することで、スイッチ31の温度をより確実に許容レベル以下に抑えることが可能となる。しかしながら、温度の検出結果と、電力ロスの算出結果とに基づくスイッチ31の温度推定においては、温度の検出誤差と、電力ロスの算出誤差との両方が生じ得る。
【0026】
これに対し、制御回路100は、スイッチ31の端子間に印加された電圧と、スイッチ31に流れる電流と、スイッチ31のオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチ31における電力ロスを算出することと、温度センサ27によるセンサ位置P27の温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果を補正することと、電力ロスの算出結果に基づいて温度センサ27による温度の検出結果を補正することと、補正された電力ロスの算出結果と、補正された温度の検出結果とに基づいて、スイッチ位置P31の温度を推定することと、を実行するように構成されている。
【0027】
センサ位置P27の温度と、スイッチ31における電力ロスとは相関するので、電力ロスの算出結果に基づくことでセンサ位置P27の温度の検出結果を適切に補正し、センサ位置P27の温度の検出結果に基づくことで電力ロスの算出結果を適切に補正することが可能である。従って、電力変換回路10のスイッチ31の温度をより高い精度で推定するのに有効である。以下、電力変換回路10が電圧型インバータである場合の制御回路100の構成をより具体的に例示する。
【0028】
(制御回路の全体構成)
図1に示すように、制御回路100は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、電流指令生成部111と、電圧指令生成部112と、座標変換部113と、PWM制御部114と、電流情報取得部115と、温度推定部116と、出力抑制部117とを有する。
【0029】
電流指令生成部111は、トルク指令T*に基づいて電流指令を生成する。トルク指令T*は、例えばモータ91の速度を目標速度に追従させるように制御回路100により生成される。電流指令生成部111は、電力変換装置1の上位コントローラからトルク指令T*を取得してもよい。例えば電流指令生成部111は、d軸電流指令Id*と、q軸電流指令Iq*とを生成する。
【0030】
d軸及びq軸は、dq座標系の座標軸である。dq座標系は、モータ91のロータと共に回転する座標系である。d軸は、モータ91のロータの磁極方向に沿った座標軸であり、q軸は、d軸に垂直な座標軸である。dq座標系の回転角度は、モータ91のステータに固定されたαβ座標系に対する電気角で表される。αβ座標系は、互いに垂直なα軸及びβ軸を有する。
【0031】
電圧指令生成部112は、電流指令に基づいて電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部112は、d軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*に基づいて、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を生成する。例えば電圧指令生成部112は、d軸電流指令Id*とd軸電流Idとの偏差を縮小し、q軸電流指令Iq*とq軸電流Iqとの偏差を縮小するように、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*、d軸電流Id、及びq軸電流Iqに基づいてd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を算出する。後述するように、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、電流センサ14の検出値に基づいて取得される。
【0032】
座標変換部113は、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*に対し、dq座標系からαβ座標系への座標変換と、2相から3相への変換とを施してU相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*及びW相電圧指令Vw*を算出する。PWM制御部114は、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、及びW相電圧指令Vw*に従った駆動電圧を出力ライン17U,17V,17Wに印加するように、スイッチングモジュール20の複数のスイッチ31のオン・オフを切り替える。
【0033】
電流情報取得部115は、電流センサ14による検出値を取得する。この検出値は、例えばU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを含む。電流情報取得部115は、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwに対し、3相から2相への変換と、αβ座標系からdq座標系への座標変換とを施して、上述のd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。
【0034】
温度推定部116は、温度センサ27によるセンサ位置P27の温度の検出結果と、上記電力ロスの算出結果とに基づいてスイッチ位置P31の温度を推定する。スイッチ位置P31の温度を推定するための制御回路100の構成については別途詳述する。出力抑制部117は、温度推定部116によるスイッチ位置P31の推定結果が所定レベルを超えている場合に、スイッチ位置P31の推定結果が所定レベルを下回るまで、PWM制御部114により駆動電力を抑制させる。
【0035】
(温度を推定するための構成)
以下、スイッチ位置P31の温度を推定するための構成を詳細に例示する。図3に示すように、制御回路100は、ロス算出部121と、温度取得部122と、第1推定部123と、第2推定部124と、ロス補正部133と、温度補正部134とを更に有する。
【0036】
ロス算出部121は、スイッチ31の端子間に印加された電圧と、スイッチ31に流れた電流と、スイッチ31のオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチ31における電力ロスを算出する。以下、ロス算出部121による電力ロスの算出結果を「ロス算出値Pj」という。
【0037】
ロス算出部121は、電圧センサ15により検出された直流母線電圧Vpn(一次側ラインの電圧)と、電流センサ14により検出されたU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iw(二次側ラインの電流)と、スイッチ31のオン・オフタイミングとに基づいて、ロスを算出してもよい。この場合、ロス算出部121は、電圧センサ15により検出された直流母線電圧Vpn及び電流センサ14により検出されたU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを、スイッチ31の端子間に印加された電圧及びスイッチ31に流れた電流に換算することとなる。
【0038】
ロス算出部121は、スイッチ31のオン・オフタイミングに関する情報をPWM制御部114から取得する。例えばロス算出部121は、スイッチ31のオン・オフタイミングに関する情報として、キャリア周期に対するスイッチ31のオン期間の比率をPWM制御部114から取得する。温度取得部122は、センサ位置P27の温度の検出結果として、温度センサ27による温度検出値Ttを取得する。
【0039】
第1推定部123は、ロス算出部121による電力ロスの算出結果(ロス算出値Pj)に基づいて、所定の推定対象の第1推定値を算出する。推定対象は、例えばセンサ位置P27の温度と周辺環境温度との温度差である。周辺環境温度は、スイッチングモジュール20が配置される環境の温度である。周辺環境温度の具体例としては、モータ91及び電力変換回路10を冷却するためのクーラントの温度が挙げられる。例えば第1推定部123は、各スイッチ位置P31とセンサ位置P27との間の熱抵抗と、各スイッチ31のロス算出値Pjとに基づいて、センサ位置P27の温度と周辺環境温度との温度差の第1推定値^Ttwを算出する。
【0040】
第2推定部124は、温度検出値Ttに基づいて、上記推定対象の第2推定値を算出する。例えば第2推定部124は、温度検出値Ttと周辺環境温度とに基づいて、センサ位置P27の温度と周辺環境温度との温度差の第2推定値Ttwを算出する。第2推定部124は、周辺環境温度の検出値を第2推定値Ttwの算出に用いてもよいし、周辺環境温度の推定値を第2推定値Ttwの算出に用いてもよい。例えば第2推定部124は、後述の環境温度推定部148が推定した周辺環境温度^Twを取得し、温度検出値Ttと周辺環境温度^Twとに基づいて第2推定値Ttwを算出する。
【0041】
ロス補正部133は、温度検出値Ttに基づいてロス算出値Pjを補正する。例えばロス補正部133は、第1推定部123による第1推定値^Ttwを、第2推定部124による第2推定値Ttwに近付けるようにロス算出値Pjを補正する。温度補正部134は、ロス算出値Pjに基づいて温度検出値Ttを補正する。例えば温度補正部134は、第2推定部124による第2推定値Ttwを、第1推定部123による第1推定値^Ttwに近付けるように温度検出値Ttを補正する。
【0042】
このように、ロス補正部133が第1推定値^Ttwを第2推定値Ttwに近付けるようにロス算出値Pjを補正し、温度補正部134が第2推定値Ttwを第1推定値^Ttwに近付けるように温度検出値Ttを補正することによって、第1推定値^Ttwと第2推定値Ttwとが同一の値に収束する。同一の推定対象に対する第1推定値^Ttwと第2推定値Ttwとが同一の値に収束することによって、ロス算出値Pjと温度検出値Ttとが適切に修正されることとなる。
【0043】
温度推定部116は、ロス補正部133により補正されたロス算出値Pjと、温度補正部134により補正された温度検出値Ttとに基づいて、スイッチ位置P31の温度を推定する。例えば温度推定部116は、スイッチ位置P31とセンサ位置P27との間の熱抵抗と、ロス補正部133により補正されたロス算出値Pjとに基づいて、各スイッチ位置P31の温度とセンサ位置P27の温度との温度差(以下、「モジュール内温度差」という。)を算出する。温度推定部116は、モジュール内温度差と、温度補正部134により補正された温度検出値Ttとに基づいて、各スイッチ位置P31の温度を推定する。
【0044】
制御回路100は、第1推定値^Ttwの補正量と、第2推定値Ttwの補正量との割合を、第1推定値^Ttwのばらつきの大きさと、第2推定値Ttwのばらつきの大きさとに基づいて調節するように構成されていてもよい。例えば制御回路100は、第1推定値^Ttwのばらつきの大きさに対する第2推定値Ttwのばらつきの大きさの比率が大きくなるのに応じて、第1推定値^Ttwの補正量を小さくし、第2推定値Ttwの補正量を大きくするように構成されていてもよい。第1推定値^Ttw及び第2推定値Ttwのうちばらつきの大きい方(信頼性の低い方)が大きく補正されることによって、ロス算出値Pjと温度検出値Ttとがより適切に補正される。
【0045】
例えば制御回路100は、ばらつき記憶部126を更に備える。ばらつき記憶部126は、所定条件下における第1推定値^Ttwのばらつきを表す第1ばらつき評価値と、所定条件下における第2推定値Ttwのばらつきを表す第2ばらつき評価値とを記憶する。所定条件の具体例としては、周辺環境温度が所定値に保たれ、直流母線電圧Vpnが所定値に保たれ、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwの振幅及び周波数が所定値に保たれていること等が挙げられる。第1ばらつき評価値の具体例としては、上記所定条件下における第1推定値^Ttwの標準偏差が挙げられる。第2ばらつき評価値の具体例としては、上記所定条件下における第2推定値Ttwの標準偏差が挙げられる。第1ばらつき評価値及び第2ばらつき評価値は、実機試験により取得されたデータに基づき予め算出されている。
【0046】
ロス補正部133は、第1推定値^Ttwと第2推定値Ttwとの差のうち第1ばらつき評価値に対応する成分を縮小するようにロス算出値Pjを補正する。温度補正部134は、第1推定値^Ttwと第2推定値Ttwとの差のうち第2ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように温度検出値Ttを補正する。例えば制御回路100は、目標値算出部125と、ロス補正係数算出部131と、温度補正係数算出部132とを更に備える。
【0047】
目標値算出部125は、第1推定値^Ttwと、第2推定値Ttwと、第1ばらつき評価値と、第2ばらつき評価値とに基づいて温度目標値Trefを算出する。温度目標値Trefは、第1推定値^Ttw及び第2推定値Ttwの共通の収束目標値である。例えば目標値算出部125は、次式により温度目標値Trefを算出する。
Tref=^Ttw・K2/(K1+K2)+Ttw・K1(K1+K2)・・・(1)
K1:第1ばらつき評価値
K2:第2ばらつき評価値
【0048】
ロス補正係数算出部131は、第1推定値^Ttwを温度目標値Trefに収束させるようにロス補正係数Kcpを算出する。ロス補正係数Kcpは、ロス算出値Pjに対する補正係数である。ロス補正部133は、ロス算出値Pjにロス補正係数Kcpを乗算することでロス算出値Pjを補正する。補正後のロス算出値Pjに基づく第1推定値^Ttwは、温度目標値Trefに収束する。
【0049】
温度補正係数算出部132は、第2推定値Ttwを温度目標値Trefに収束させるように温度補正係数Kctを算出する。温度補正係数Kctは、温度の検出結果に対する補正係数である。温度補正部134は、温度検出値Ttに温度補正係数Kctを乗算することで温度検出値Ttを補正する。補正後の温度検出値Ttに基づく第2推定値Ttwは、温度目標値Trefに収束する。
【0050】
図4は、ロス補正係数算出部131及び温度補正係数算出部132が実行する処理を例示するブロック線図である。ロス補正係数算出部131は、加え合わせ点151において、温度目標値Trefと第1推定値^Ttwとの偏差を算出し、当該偏差に比例・積分を表す伝達関数152を乗算して補正率を算出し、当該補正率と1とを加え合わせ点153において加算してロス補正係数Kcpを算出する。更に、ロス補正係数算出部131は、かけ合わせ点154においてロス補正係数Kcpを第1推定値^Ttwに乗算し、第1推定値^Ttwを補正する。ロス補正係数算出部131は、加え合わせ点151において算出される偏差が所定の閾値を下回るまで以上の処理を繰り返すことで、第1推定値^Ttwを温度目標値Trefに収束させるロス補正係数Kcpを算出する。
【0051】
温度補正係数算出部132は、加え合わせ点161において、温度目標値Trefと第2推定値Ttwとの偏差を算出し、当該偏差に比例・積分を表す伝達関数162を乗算して補正率を算出し、当該補正率と1とを加え合わせ点163において加算して温度補正係数Kctを算出する。更に、温度補正係数算出部132は、かけ合わせ点164において温度補正係数Kctを第2推定値Ttwに乗算し、第2推定値Ttwを補正する。温度補正係数算出部132は、加え合わせ点161において算出される偏差が所定の閾値を下回るまで以上の処理を繰り返すことで、第2推定値Ttwを温度目標値Trefに収束させる温度補正係数Kctを算出する。
【0052】
制御回路100は、ロス補正部133によるロス算出値Pjの補正と、温度補正部134による温度検出値Ttの補正とに先立って、第1推定値^Ttwの変動成分を第2推定値Ttwの変動成分に近付けるようにロス算出値Pjを補正することと、第2推定値Ttwの変動成分を第1推定値^Ttwの変動成分に近付けるように温度検出値Ttを補正することと、を更に実行するように構成されていてもよい。例えば制御回路100は、図5に示すように、ロス予備補正部146と、温度予備補正部147とを更に有する。
【0053】
ロス予備補正部146は、第1推定値^Ttwの変動成分を温度検出値Ttの変動成分に近付けるようにロス算出値Pjを補正する。温度予備補正部147は、温度検出値Ttの変動成分を第1推定値^Ttwの変動成分に近付けるように温度検出値Ttを補正する。
【0054】
このように、ロス予備補正部146が第1推定値^Ttwの変動成分を第2推定値Ttwの変動成分に近付けるようにロス算出値Pjを補正し、温度予備補正部147が第2推定値Ttwの変動成分を第1推定値^Ttwの変動成分に近付けるように温度検出値Ttを補正することによって、第1推定値^Ttwの変動成分と第2推定値Ttwの変動成分とが同一の値に収束する。同一の推定対象に対する第1推定値^Ttwの変動成分と第2推定値Ttwの変動成分とが同一の値に収束することによって、ロス算出値Pjと温度検出値Ttとが適切に修正されることとなる。
【0055】
第1推定部123は、ロス予備補正部146により補正されたロス算出値Pjに基づいて第1推定値^Ttwを算出する。以下、この第1推定値^Ttwを「ゲイン補正後の第1推定値^Ttw」という。第2推定部124は、温度予備補正部147により補正された温度検出値Ttに基づいて第2推定値Ttwを算出する。以下、この第2推定値Ttwを「ゲイン補正後の第2推定値Ttw」という。上記目標値算出部125は、ゲイン補正後の第1推定値^Ttwと、ゲイン補正後の第2推定値Ttwとに基づいて温度目標値Trefを算出する。
【0056】
制御回路100は、第1推定値^Ttwの変動成分の補正量と、第2推定値Ttwの変動成分の補正量との割合を、第1推定値^Ttwの変動成分のばらつきの大きさと、第2推定値Ttwの変動成分のばらつきの大きさとに基づいて調節するように構成されていてもよい。例えば制御回路100は、第1推定値^Ttwの変動成分のばらつきの大きさに対する第2推定値Ttwの変動成分のばらつきの大きさの比率が大きくなるのに応じて、第1推定値^Ttwの変動成分の補正量を小さくし、第2推定値Ttwの変動成分の補正量を大きくするように構成されていてもよい。第1推定値^Ttwの変動成分及び第2推定値Ttwの変動成分のうちばらつきの大きい方(信頼性の低い方)が大きく補正されることによって、ロス算出値Pjと温度検出値Ttとがより適切に補正される。
【0057】
例えば制御回路100は、変動成分算出部141と、振幅ばらつき記憶部143とを更に有する。変動成分算出部141は、第1推定値^Ttwの変動成分と第2推定値Ttwの変動成分との差を算出する。周辺環境温度が一定値である場合、第2推定値Ttwの変動成分は温度検出値Ttの変動成分と同等である。そこで変動成分算出部141は、第1推定値^Ttwの変動成分と第2推定値Ttwの変動成分との差として、第1推定値^Ttwの変動成分と温度検出値Ttの変動成分との差を算出してもよい。例えば、変動成分算出部141は、第1推定値^Ttwの変動成分と温度検出値Ttの変動成分との差として、第1推定値^Ttwと温度検出値Ttとの差の変動成分を算出する。変動成分算出部141による差の変動成分の算出処理については別途例示する。
【0058】
振幅ばらつき記憶部143は、所定条件下における第1推定値^Ttwの振幅のばらつきを表す第1振幅ばらつき評価値と、所定条件下における第2推定値Ttwの振幅のばらつきを表す第2振幅ばらつき評価値とを記憶する。所定条件の具体例としては、周辺環境温度が所定値に保たれ、直流母線電圧Vpnが所定値に保たれ、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwの振幅及び周波数が所定値に保たれていること等が挙げられる。第1振幅ばらつき評価値の具体例としては、上記所定条件下における第1推定値^Ttwの振幅の標準偏差が挙げられる。第2振幅ばらつき評価値の具体例としては、上記所定条件下における第2推定値Ttwの振幅の標準偏差が挙げられる。第1振幅ばらつき評価値及び第2振幅ばらつき評価値は、実機試験により取得されたデータに基づき予め算出されている。
【0059】
ロス予備補正部146は、変動成分算出部141により算出された差の変動成分のうち第1振幅ばらつき評価値に対応する成分を縮小するようにロス算出値Pjを補正する。温度予備補正部147は、変動成分算出部141により算出された差の変動成分のうち第2振幅ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように温度検出値Ttを補正する。例えば制御回路100は、補正ゲイン算出部142と、ロスゲイン算出部144と、温度ゲイン算出部145とを更に有する。
【0060】
補正ゲイン算出部142は、差の変動成分に基づいて、差の変動成分を縮小するための補正ゲインG0を算出する。補正ゲイン算出部142は、第1推定値^Ttwの変動成分が第2推定値Ttwの変動成分よりも大きい場合には正の値となり、第1推定値^Ttwの変動成分が第2推定値Ttwの変動成分よりも小さい場合には負の値となるように補正ゲインG0を算出する。補正ゲイン算出部142による補正ゲインG0の算出処理については別途例示する。
【0061】
ロスゲイン算出部144は、第1振幅ばらつき評価値と、第2振幅ばらつき評価値と、補正ゲインG0とに基づいて、ロス算出値Pjを補正するためのロスゲインG1を算出する。例えばロスゲイン算出部144は、次式によりロスゲインG1を算出する。
G1=1-(K11/(K11+K121/2)・G0・・・(2)
K11:第1振幅ばらつき評価値
K12:第2振幅ばらつき評価値
【0062】
温度ゲイン算出部145は、第1振幅ばらつき評価値と、第2振幅ばらつき評価値と、補正ゲインG0とに基づいて、温度検出値Ttを補正するための温度ゲインG2を算出する。例えば温度ゲイン算出部145は、次式により温度ゲインG2を算出する。
G2=1+(K12/(K11+K121/2)・G0・・・(3)
【0063】
ロス予備補正部146は、ロス算出値PjにロスゲインG1を乗算することでロス算出値Pjを補正する。温度ゲイン算出部145は、温度検出値Ttに温度ゲインG2を乗算することで温度検出値Ttを補正する。
【0064】
上述したように、補正ゲインG0は、第1推定値^Ttwの変動成分が第2推定値Ttwの変動成分よりも大きい場合には正の値となり、第1推定値^Ttwの変動成分が第2推定値Ttwの変動成分よりも小さい場合には負の値となる。このため、第1推定値^Ttwの変動成分が第2推定値Ttwの変動成分よりも大きい場合には、ロスゲインG1は1よりも小さい値となり、温度ゲインG2は1よりも大きい値となる。ロス算出値Pjに対するロスゲインG1の乗算によって第1推定値^Ttwの変動成分は第2推定値Ttwの変動成分に向かって縮小される。温度検出値Ttに対する温度ゲインG2の乗算によって第2推定値Ttwの変動成分は第1推定値^Ttwの変動成分に向かって拡大される。これにより、上記差の変動成分が縮小される。
【0065】
第1推定値^Ttwの変動成分が第2推定値Ttwの変動成分よりも小さい場合には、ロスゲインG1は1よりも大きい値となり、温度ゲインG2は1よりも小さい値となる。ロス算出値Pjに対するロスゲインG1の乗算によって第1推定値^Ttwの変動成分は第2推定値Ttwの変動成分に向かって拡大される。温度検出値Ttに対する温度ゲインG2の乗算によって第2推定値Ttwの変動成分は第1推定値^Ttwの変動成分に向かって縮小される。これにより、上記差の変動成分が縮小される。
【0066】
ロス算出値Pjに対するロスゲインG1の乗算による、第1推定値^Ttwの変動成分の縮小率又は拡大率は、第1振幅ばらつき評価値K11の大きさに応じて定まる。温度検出値Ttに対する温度ゲインG2の乗算による第2推定値Ttwの変動成分の拡大率又は縮小率は、第2振幅ばらつき評価値K12の大きさに応じて定まる。このため、ロス算出値Pjに対するロスゲインG1の乗算によって、ロス予備補正部146は、差の変動成分のうち第1振幅ばらつき評価値K11に対応する成分を縮小するようにロス算出値Pjを補正することとなる。温度検出値Ttに対する温度ゲインG2の乗算によって、温度予備補正部147は、差の変動成分のうち第2振幅ばらつき評価値K12に対応する成分を縮小するように温度検出値Ttを補正することとなる。
【0067】
ロス予備補正部146によりロス算出値Pjを補正し、温度予備補正部147により温度検出値Ttを補正した後、制御回路100は、差の変動成分が所定の閾値を下回るまで、変動成分算出部141による差の変動成分の算出と、ロス予備補正部146によるロス算出値Pjの補正及び温度予備補正部147による温度検出値Ttの補正とを繰り返すように構成されていてもよい。この場合、差の変動成分が上記閾値を下回った後のロス算出値Pjに基づき第1推定部123が算出する第1推定値^Ttwが、上記ゲイン補正後の第1推定値^Ttwとなる。また、差の変動成分が上記閾値を下回った後の温度検出値Ttに基づき第2推定部124が算出する第2推定値Ttwが、上記ゲイン補正後の第2推定値Ttwとなる。
【0068】
制御回路100は、環境温度推定部148を更に有してもよい。環境温度推定部148は、ロス予備補正部146により補正されたロス算出値Pjと、温度予備補正部147により補正された温度検出値Ttとに基づいて、周辺環境温度を推定する。例えば環境温度推定部148は、ゲイン補正後の第1推定値^Ttwと、温度検出値Ttとの差に基づいて、周辺環境温度^Twを推定する。第2推定部124は、温度予備補正部147により補正された温度検出値Ttと、環境温度推定部148により推定された周辺環境温度^Twとに基づいて、上記ゲイン補正後の第2推定値Ttwを算出する。
【0069】
図6は、変動成分算出部141による差の変動成分の算出処理と、補正ゲイン算出部142による補正ゲインG0の算出処理とを示すブロック線図である。変動成分算出部141は、加え合わせ点171において、第1推定値^Ttwと、温度検出値Ttとの偏差を算出し、当該偏差にハイパス型のフィルタリングを表す伝達関数172を乗算して上記差の変動成分を算出する。
【0070】
補正ゲイン算出部142は、ハイパス型のフィルタリングを表す伝達関数173を第1推定値^Ttwに乗算して第1推定値^Ttwの変動成分を算出し、かけ合わせ点174において、差の変動成分に第1推定値^Ttwを乗算する。これにより、第1推定値^Ttwが第2推定値Ttwよりも大きい場合には正の値となり、第1推定値^Ttwが第2推定値Ttwよりも小さい場合には負の値となる仮補正ゲインが算出される。補正ゲイン算出部142は、比例・積分を表す伝達関数175を上記仮補正ゲインに算出して補正ゲインG0を算出する。環境温度推定部148は、加え合わせ点171において変動成分算出部141が算出した偏差に基づいて上記周辺環境温度^Twを算出する。
【0071】
以上、制御回路100の機能上の構成を例示したが、各機能ブロックは制御回路100の構成要素であるため、各機能ブロックが実行する処理内容は、制御回路100が実行する処理内容に相当する。
【0072】
図7は、制御回路100のハードウェア構成を例示する模式図である。図7に示すように、制御回路100は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、スイッチング制御回路195とを含む。ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、スイッチ31の端子間に印加された電圧と、スイッチ31に流れた電流と、スイッチ31のオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチ31における電力ロスを算出することと、センサ位置P27の温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果を補正することと、電力ロスの算出結果に基づいてセンサ位置P27の温度の検出結果を補正することと、補正された電力ロスの算出結果と、補正されたセンサ位置P27の温度の検出結果とに基づいて、スイッチ位置P31の温度を推定することと、を含む温度推定方法を制御回路100に実行させるためのプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した各機能ブロックを制御回路100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0073】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御回路100の各機能ブロックを構成する。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に基づいて、電流センサ14、電圧センサ15、温度センサ27及びスイッチ31との間で情報の入出力を行う。スイッチング制御回路195は、プロセッサ191からの指令に従って、スイッチングモジュール20に、スイッチ31のオン・オフを切り替えるための駆動信号を出力する。
【0074】
なお、制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0075】
〔電力変換手順〕
続いて、電力変換方法の一例として、制御回路100が実行する電力変換回路10の制御手順を例示する。この手順は、スイッチ31の端子間に印加された電圧と、スイッチ31に流れた電流と、スイッチ31のオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチ31における電力ロスを算出することと、センサ位置P27の温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果を補正することと、電力ロスの算出結果に基づいてセンサ位置P27の温度の検出結果を補正することと、補正された電力ロスの算出結果と、補正されたセンサ位置P27の温度の検出結果とに基づいて、スイッチ位置P31の温度を推定することと、を含む温度推定方法を含む。以下、制御手順を詳細に例示する。
【0076】
図8に示すように、制御回路100は、まずステップS01,S02,S03,S04,S05を実行する。ステップS01では、電流指令生成部111が、トルク指令T*に基づいてd軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*を算出する。ステップS02では、電流情報取得部115が、電流センサ14による検出結果を取得し、d軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。ステップS03では、電圧指令生成部112が、d軸電流指令Id*とd軸電流Idとの偏差を縮小し、q軸電流指令Iq*とq軸電流Iqとの偏差を縮小するように、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*、d軸電流Id、及びq軸電流Iqに基づいてd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を算出する。
【0077】
ステップS04では、温度推定部116が、スイッチ位置P31の温度を推定する。ステップS04の具体的手順については後述する。ステップS05では、スイッチ位置P31の温度が所定の閾値を超えているか否かを出力抑制部117が確認する。
【0078】
ステップS05においてスイッチ位置P31の温度が閾値を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS06を実行する。ステップS06では、出力抑制部117が、PWM制御部114により駆動電力を抑制させるための処理を行う。例えば出力抑制部117は、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を縮小させる。
【0079】
次に、制御回路100は、ステップS07を実行する。ステップS05においてスイッチ位置P31の温度が閾値を超えていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS06を実行することなくステップS07を実行する。ステップS07では、座標変換部113が、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*に対し、dq座標系からαβ座標系への座標変換と、2相から3相への変換とを施してU相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*及びW相電圧指令Vw*を算出する。ステップS08では、PWM制御部114が、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、及びW相電圧指令Vw*に従った駆動電圧をモータ91に印加するように、スイッチングモジュールの複数のスイッチ31のオン・オフを切り替える。その後、制御回路100は処理をステップS01に戻す。以後、上述した制御手順が繰り返される。
【0080】
図9は、ステップS04における温度推定手順を例示するフローチャートである。図9に示すように、制御回路100は、ステップS11,S12,S13,S14,S15,S16,S17を順に実行する。ステップS11では、ロス算出部121が、電圧センサ15により検出された直流母線電圧Vpnを取得する。ステップS12では、ロス算出部121が、スイッチ31のオン・オフタイミングに関する情報をPWM制御部114から取得する。ステップS13では、ロス算出部121が、ステップS11で取得された直流母線電圧Vpnと、ステップS02で取得されたU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwと、ステップS12で取得されたスイッチ31のオン・オフタイミングとに基づいて、ロス算出値Pjを算出する。ステップS14では、温度取得部122が、温度センサ27による温度検出値Ttを取得する。
【0081】
ステップS15では、ロス予備補正部146がロス算出値Pjの予備補正を行い、温度予備補正部147が温度検出値Ttの予備補正を行う。ステップS15の具体的な内容については後述する。ステップS16では、ロス補正部133がロス算出値Pjの補正を行い、温度補正部134が温度検出値Ttの補正を行う。ステップS16の具体的な内容については後述する。ステップS17では、温度推定部116が、ロス補正部133により補正されたロス算出値Pjと、温度補正部134により補正された温度検出値Ttとに基づいてスイッチ位置P31の温度を推定する。以上で温度推定手順が完了する。
【0082】
図10は、ステップS15における予備補正手順を例示するフローチャートである。図10に示すように、制御回路100は、まずステップS21,S22,S23を実行する。ステップS21では、第1推定部123が、ロス算出部121により算出されたロス算出値Pjに基づいて、第1推定値^Ttwを算出する。ステップS22では、変動成分算出部141が、ステップS21で算出された第1推定値^Ttwと、ステップS14で取得された温度検出値Ttとに基づいて、上記差の変動成分を算出する。ステップS23では、差の変動成分が所定の閾値を下回っているか否かを補正ゲイン算出部142が確認する。
【0083】
ステップS23において差の変動成分が閾値を下回っていないと判定した場合、制御回路100はステップS24,S25,S26,S27,S28を実行する。ステップS24では、補正ゲイン算出部142が、ステップS22で算出された差の変動成分に基づいて、差の変動成分を縮小するための補正ゲインG0を算出する。ステップS25では、ロスゲイン算出部144が、第1振幅ばらつき評価値と、第2振幅ばらつき評価値と、補正ゲインG0とに基づいて、ロス算出値Pjを補正するためのロスゲインG1を算出する。ステップS26では、温度ゲイン算出部145が、第1振幅ばらつき評価値と、第2振幅ばらつき評価値と、補正ゲインG0とに基づいて、温度検出値Ttを補正するための温度ゲインG2を算出する。
【0084】
ステップS27では、ロス予備補正部146が、ロス算出値PjにロスゲインG1を乗算することでロス算出値Pjを補正する。ステップS28では、温度予備補正部147が、温度検出値Ttに温度ゲインG2を乗算することで温度検出値Ttを補正する。その後、制御回路100は処理をステップS21に戻す。以後、ステップS23において差の変動成分が所定の閾値を下回ったと判定されるまでは、ロス算出値Pj及び温度検出値Ttの予備補正が繰り返される。ステップS23において差の変動成分が閾値を下回ったと判定した場合、ロス算出値Pj及び温度検出値Ttの予備補正が完了する。
【0085】
図11は、ステップS16における補正手順を例示するフローチャートである。
制御回路100は、ステップS31,S32,S33,S34,S35,S36,S37を順に実行する。ステップS31では、環境温度推定部148が、ロス予備補正部146により補正されたロス算出値Pjと、温度予備補正部147により補正された温度検出値Ttとに基づいて、周辺環境温度^Twを推定する。ステップS32では、第2推定部124が、温度予備補正部147により補正された温度検出値Ttと、環境温度推定部148により推定された周辺環境温度^Twとに基づいて第2推定値Ttwを算出する。ステップS33では、目標値算出部125が、ステップS21で算出された第1推定値^Ttwと、ステップS32で算出された第2推定値Ttwとに基づいて温度目標値Trefを算出する。
【0086】
ステップS34では、ロス補正係数算出部131が、第1推定値^Ttwを温度目標値Trefに収束させるようにロス補正係数Kcpを算出する。ステップS34の具体的な内容については後述する。ステップS35では、温度補正係数算出部132が、第2推定値Ttwを温度目標値Trefに収束させるように温度補正係数Kctを算出する。ステップS35の具体的な内容については後述する。ステップS36では、ロス補正部133が、ロス算出値Pjにロス補正係数Kcpを乗算することでロス算出値Pjを補正する。ステップS37では、温度補正部134が、温度検出値Ttに温度補正係数Kctを乗算することで温度検出値Ttを補正する。以上でロス算出値Pj及び温度検出値Ttの補正手順が完了する。
【0087】
図12は、ステップS34におけるロス補正係数の算出手順を例示するフローチャートである。制御回路100は、まずステップS41,S42を実行する。ステップS41では、ロス補正係数算出部131が、温度目標値Trefと第1推定値^Ttwとの偏差を算出する。ステップS42では、温度目標値Trefと第1推定値^Ttwとの偏差が所定の閾値を下回っているか否かを、ロス補正係数算出部131が確認する。
【0088】
ステップS42において温度目標値Trefと第1推定値^Ttwとの偏差が閾値を下回っていないと判定した場合、制御回路100はステップS43,S44を実行する。ステップS43では、ロス補正係数算出部131が、温度目標値Trefと第1推定値^Ttwとの偏差に比例・積分を施して補正率を算出し、当該補正率と1とを加え合わせてロス補正係数Kcpを算出する。ステップS44では、ロス補正係数算出部131が、ロス補正係数Kcpを第1推定値^Ttwに乗算することで第1推定値^Ttwを補正する。その後、制御回路100は処理をステップS41に戻す。以後、温度目標値Trefと第1推定値^Ttwとの偏差が閾値を下回るまで、ロス補正係数Kcpの算出と第1推定値^Ttwの補正とが繰り返される。ステップS42において温度目標値Trefと第1推定値^Ttwとの偏差が所定の閾値を下回っていると判定した場合、ロス補正係数Kcpの算出が完了する。
【0089】
図13は、ステップS35における温度補正係数の算出手順を例示するフローチャートである。制御回路100は、まずステップS51,S52を実行する。ステップS51では、温度補正係数算出部132が、温度目標値Trefと第2推定値Ttwとの偏差を算出する。ステップS52では、温度目標値Trefと第2推定値Ttwとの偏差が所定の閾値を下回っているか否かを、温度補正係数算出部132が確認する。
【0090】
ステップS52において温度目標値Trefと第2推定値Ttwとの偏差が閾値を下回っていないと判定した場合、制御回路100はステップS53,S54を実行する。ステップS53では、温度補正係数算出部132が、温度目標値Trefと第2推定値Ttwとの偏差に比例・積分を施して補正率を算出し、当該補正率と1とを加え合わせて温度補正係数Kctを算出する。ステップS54では、温度補正係数算出部132が、温度補正係数Kctを第2推定値Ttwに乗算することで第2推定値Ttwを補正する。その後、制御回路100は処理をステップS51に戻す。以後、温度目標値Trefと第2推定値Ttwとの偏差が閾値を下回るまで、温度補正係数Kctの算出と第2推定値Ttwの補正とが繰り返される。ステップS52において温度目標値Trefと第2推定値Ttwとの偏差が所定の閾値を下回っていると判定した場合、温度補正係数Kctの算出が完了する。
【0091】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置1は、センサ位置P27の温度を検出する温度センサ27と、センサ位置P27から離れたスイッチ位置P31において正極ライン16P、負極ライン16Nと出力ライン17U,17V,17Wとの間のオン・オフを切り替えるスイッチ31と、を有する電力変換回路10と、スイッチ31の端子間に印加された電圧と、スイッチ31に流れた電流と、スイッチ31のオン・オフタイミングとに基づいて、スイッチ31における電力ロスを算出するロス算出部121と、センサ位置P27の温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果を補正するロス補正部133と、電力ロスの算出結果に基づいて温度の検出結果を補正する温度補正部134と、補正された電力ロスの算出結果と、補正された温度の検出結果とに基づいて、スイッチ位置P31の温度を推定する温度推定部116と、を備える。
【0092】
温度の検出結果と、電力ロスの算出結果とに基づくスイッチ位置P31の温度推定においては、温度の検出誤差と、電力ロスの算出誤差との両方が生じ得る。これに対し、本電力変換装置1によれば、温度の検出結果に基づいて電力ロスの算出結果が補正され、電力ロスの算出結果に基づいて温度の検出結果が補正され、補正された電力ロスの算出結果と、補正された温度の検出結果とに基づいてスイッチ位置P31の温度が推定される。センサ位置P27の温度と、スイッチ31における電力ロスとは相関するので、電力ロスの算出結果に基づくことで温度の検出結果を適切に補正し、温度の検出結果に基づくことで電力ロスの算出結果を適切に補正することが可能である。従って、電力変換回路10のスイッチ31の温度をより高い精度で推定するのに有効である。なお、スイッチ位置P31は、スイッチ31における発熱が温度センサ27の検出結果に影響を及ぼす距離でセンサ位置P27から離れていてもよい。ロス算出部121は、正極ライン16P、負極ライン16Nの電圧及び出力ライン17U,17V,17Wの電流を、スイッチ31の端子間電圧及びスイッチ31に流れる電流に換算してもよい。
【0093】
電力変換装置1は、電力ロスの算出結果に基づいて、所定の推定対象の第1推定値を算出する第1推定部123と、温度の検出結果に基づいて、推定対象の第2推定値を算出する第2推定部124と、を更に備え、ロス補正部133は、第1推定値を第2推定値に近付けるように電力ロスの算出結果を補正し、温度補正部134は、第2推定値を第1推定値に近付けるように温度の検出結果を補正してもよい。この場合、同じ推定対象に対し、電力ロスの算出結果に基づき第1推定値を算出し、温度の検出結果に基づき第2推定値を算出し、これらを比較することで、電力ロスの算出結果及び温度の検出結果を容易に補正することができる。
【0094】
電力変換装置1は、所定条件下における第1推定値のばらつきを表す第1ばらつき評価値と、所定条件下における第2推定値のばらつきを表す第2ばらつき評価値とを記憶するばらつき記憶部126を更に備え、ロス補正部133は、第1推定値と第2推定値との差のうち第1ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように電力ロスの算出結果を補正し、温度補正部134は、第1推定値と第2推定値との差のうち第2ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように温度の検出結果を補正してもよい。この場合、第1推定値のばらつきと、第2推定値のばらつきとに基づくことで、ロス補正部133による電力ロスの算出結果の補正と、温度補正部134による温度の検出結果の補正とをより適切に組み合わせ、スイッチ位置P31の温度の推定精度を更に向上させることができる。
【0095】
推定対象は、センサ位置P27の温度と周辺環境温度との温度差であってもよい。この場合、第1推定値及び第2推定値を容易に算出することができる。
【0096】
電力変換装置1は、第1推定値の変動成分を第2推定値の変動成分に近付けるように電力ロスの算出結果を補正するロス予備補正部146と、第2推定値の変動成分を第1推定値の変動成分に近付けるように温度の検出結果を補正する温度予備補正部147と、を更に備え、第1推定部123は、ロス予備補正部146により補正された電力ロスの算出結果に基づいて第1推定値を算出し、第2推定部124は、温度予備補正部147により補正された温度の検出結果に基づいて第2推定値を算出してもよい。この場合、ロス予備補正部146及び温度予備補正部147により、主としてスイッチ位置P31の温度推定結果のゲイン成分が補正され、ロス補正部133及び温度補正部134により、主としてスイッチ位置P31の温度推定結果の定常成分が補正される。このように、変動成分と定常成分とを個別に補正することで、スイッチ位置P31の温度の推定精度を更に向上させることができる。
【0097】
電力変換装置1は、所定条件下における第1推定値の振幅のばらつきを表す第1振幅ばらつき評価値と、所定条件下における第2推定値の変動成分のばらつきを表す第2振幅ばらつき評価値とを記憶する振幅ばらつき記憶部143を更に備え、ロス予備補正部146は、第1推定値の変動成分と第2推定値の変動成分との差のうち第1振幅ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように電力ロスの算出結果を補正し、温度予備補正部147は、第1推定値の変動成分と第2推定値の変動成分との差のうち第2振幅ばらつき評価値に対応する成分を縮小するように温度の検出結果を補正してもよい。この場合、第1推定値の振幅のばらつきと、第2推定値の振幅のばらつきとに基づくことで、ロス予備補正部146による電力ロスの算出結果の補正と、温度予備補正部147による温度の検出結果の補正とをより適切に組み合わせ、スイッチ位置P31の温度の推定精度を更に向上させることができる。
【0098】
電力変換装置1は、ロス予備補正部146により補正された電力ロスの算出結果と、温度予備補正部147により補正された温度の検出結果とに基づいて、周辺環境温度を推定する環境温度推定部148を更に備え、第2推定部124は、温度予備補正部147により補正された温度の検出結果と、環境温度推定部148により推定された周辺環境温度とに基づいて第2推定値を算出してもよい。この場合、周辺環境温度を推定することで、装置構成を更に簡素化することができる。
【0099】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…電力変換装置、10…電力変換回路、16P…正極ライン(一次側ライン)、16N…負極ライン(一次側ライン)、17U,17V,17W…出力ライン(二次側ライン)、27…温度センサ、31…スイッチ、116…温度推定部、121…ロス算出部、123…第1推定部、124…第2推定部、126…ばらつき記憶部、133…ロス補正部、134…温度補正部、143…振幅ばらつき記憶部、146…ロス予備補正部、147…温度予備補正部、148…環境温度推定部、P27…センサ位置(第1位置)、P31…スイッチ位置(第2位置)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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