(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】有機性排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20231115BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20231115BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20231115BHJP
【FI】
C02F1/58 D
C02F1/52 G
C02F1/28 D
(21)【出願番号】P 2020148789
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】麻生 智香
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】二見 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森田 智之
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-226866(JP,A)
【文献】特開昭52-138353(JP,A)
【文献】特開昭56-126482(JP,A)
【文献】特開2016-215144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
C02F 1/52- 1/56
C02F 1/28
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目視で識別困難な色度原因物質を含む
し尿等処理施設における有機性排水から当該色度原因物質を除去する方法であって、
当該有機性排水をLC-OCDを用いる分析に供し、モル質量500g/mol以上20,000g/mol以下に分画されるフミン質画分のうち、色度原因物質として平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質を定量分析する工程と、
当該有機性排水に凝集剤を添加して、色度原因物質を除去する工程と、
を含み、
当該色度原因物質を除去する工程において、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、凝集剤添加量又はpHを調整することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記色度原因物質を除去する工程は、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、凝集処理後の活性炭処理を制御することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記活性炭処理の制御は、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、活性炭処理をバイパスする量を増減することを含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記色度原因物質を除去する工程は、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、さらに活性炭を交換することを含む請求項2又は3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水の処理方法に関し、特に、下水やし尿など目視で色度原因物質を識別することが困難な有機性排水から色度原因物質を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排水に含まれる色度原因物質は、色度そのものを指標として処理条件を調整することが一般的である。
【0003】
有機性排水から有機物と有機性の色度原因物質を除去するには、(1)凝集分離及びオゾン酸化の併用、(2)凝集分離及び活性炭吸着の併用、又は(3)凝集処理、オゾン酸化及び活性炭吸着の併用が優れていることは知られている。しかし、凝集分離に用いる凝集剤の添加量を増加すると凝集分離汚泥の量が増大し、排水処理施設全体の処分量が増えランニングコストが増大する。活性炭吸着に用いる活性炭は有機物に対する吸着容量が小さく、大容量の吸着塔が必要になり、また活性炭の使用量または交換頻度が増えランニングコストが増大する。また、オゾン酸化では有機物の除去能が低く、オゾン注入量が増大し、ランニングコストが増大する。(3)の凝集処理、オゾン酸化及び活性炭吸着の併用では、オゾン酸化による有機物の分解によりその後の活性炭吸着能をむしろ低下させる場合がある。特開昭60-25587号公報には、分子量1,000以上の有機物の総量の検出値に基づきオゾン注入率を調整する(3)の凝集処理、オゾン酸化及び活性炭吸着の併用が有用であることが開示されている。
【0004】
一方、特開2015-226866号公報には、純水製造に用いるイオン交換樹脂の有機物による汚染を低減するため、イオン交換樹脂への供給水中のフルボ酸を主成分とした溶存腐食物質をLC-OCDと三次元蛍光分光分析との併用で分析し、有機物を除去する方法が開示されている。しかし、供給水の色度除去についての概念はなく、大量の有機物中に有機及び無機の色度原因物質が混在する有機性排水中の有機性色度原因物質の除去処理の指標に用いる例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭60-25587号公報
【文献】特開2015-226866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最適な排水処理方法の策定にはより具体的な色度原因物質の把握が重要である。有機性排水中の色度原因物質は種々様々であり、また処理対象によって異なり、各排水処理工程において有機性排水の濁度、色度及び色調などの外観が大きく変化するため、色度そのものを指標とする従来の方法では精度良く薬品使用量を調整することは困難である。特開昭60-25587号公報には、分子量1,000以上の有機物の総量の検出値に基づくオゾン注入率の制御が有用であるが、逆に分子量1,000以下の有機物に対しては過剰のオゾン酸化は却って活性炭吸着能を低下させることが開示されており、分子量1,000以下の有機物に対する色度原因物質除去方法の改善は開示されていない。
【0007】
本発明者らは、種々のし尿等処理施設における色度原因物質を調査し、主に平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質であることを知見した。本発明は、ランニングコストを増大させることなく、分子量1,000以下、特に平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下の色度原因物質を効率的に除去する有機性排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有機性排水中に含まれる平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下の有機性の色度原因物質を定量分析した結果に基づいて凝集剤の添加量を調整することで、ランニングコストを増大させることなく、効率的に有機性の色度原因物質を除去できること、及び平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下の有機性の色度原因物質の定量分析はLC-OCD(サイズ排除クロマトグラフ-有機炭素検出)を用いて行うことができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、目視で識別困難な色度原因物質を含む有機性排水から当該色度原因物質を除去する方法が提供される。本発明の方法は、当該有機性排水をLC-OCDを用いる分析に供し、モル質量500g/mol以上20,000g/mol以下に分画されるフミン質画分のうち、色度原因物質として平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質を定量分析する工程と、当該有機性排水に凝集剤を添加して、色度原因物質を除去する工程と、を含み、当該色度原因物質を除去する工程において、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、凝集剤添加量又はpHを調整することを特徴とする。
【0010】
前記色度原因物質を除去する工程は、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、凝集処理後の活性炭処理を制御することを含むことが好ましい。
【0011】
前記活性炭処理の制御は、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、活性炭処理をバイパスする量を増減することを含むことが好ましい。
【0012】
前記色度原因物質を除去する工程は、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、さらに活性炭を交換することを含むことが好ましい。
【0013】
LC-OCDは、サイズ排除カラムを備える液体クロマトグラフ有機炭素計であり、試料中の溶存有機物を、サイズ排除カラムを備える液体クロマトグラフによって下記(1)~(5)のモル質量画分に分画した後、各画分を有機炭素計で計測し有機体炭素として定量する。
(1)Biopolymers:バイオポリマー、モル質量20,000g/mol以上の画分
(2)Humic Substances:フミン質、モル質量500~20,000g/molの画分
(3)Building Blocks:ビルディングブロック(基礎的要素)、モル質量300~500g/molの画分
(4)LMW Acids:低分子有機酸、モル質量350g/mol以下の有機酸の画分
(5)LMW Neutrals:低分子中性物質、モル質量350g/mol以下の有機酸以外の画分
【0014】
し尿の着色成分として、胆汁成分であるビリルビン(モル質量584g/mol)、その酸化物であるステルコビリン(モル質量594g/mol)、ウロビリン(モル質量590g/mol)が知られている。これらの着色成分は、比較的清澄な水中では目視で識別できる場合もあるが、有機性排水は汚濁が激しく、含まれる色度原因物質も多種類であるため、これらの着色成分を目視で識別することは困難である。また、排水処理工程において処理の進行と共に排水中の残留物は変動し、残留する濁質などの共存成分によって各処理工程の前後で排水の外観が変化するため、色度原因物質を正確に識別することは困難である。詳細は実施例において後述するが、し尿処理施設における各工程水を分析したところ、工程水のS-色度とS-TOC(総有機性炭素量)の間に強い相関は見られなかったが、モル質量500~20,000g/molの画分の有機物濃度とS-色度との間には強い相関が見られた。色度と強い相関が見られたこの画分の平均モル質量は、し尿の着色成分のモル質量とほぼ一致していたことから、LC-OCDにより分画したモル質量500~20,000g/molのフミン質画分の平均モル質量が400~700g/molの範囲である場合には、し尿の着色成分すなわち色度原因物質の濃度とみなすことができることがわかった。
【0015】
本発明における定量分析工程は、まず、移動相としてリン酸緩衝液(pH6.58)を用いるサイズ排除カラムに有機性排水を通して、モル質量500~20,000g/molのフミン質画分を分画する。分画したフミン質画分のうち、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度を計測する。なお、LC-OCDによる定量分析では、通常分析装置に組み込まれているプログラムにより、平均モル質量及びその濃度は自動的に算出される。
【0016】
定量分析工程は、少なくとも有機性排水を凝集処理する前に行う。有機性排水の処理方法が後述する活性炭吸着処理を併用する場合には、凝集処理の前に加えて、凝集処理後活性炭吸着処理前又は凝集処理後活性炭吸着処理後に定量分析工程を行うことが好ましい。この場合、より正確な色度原因物質の濃度を把握することができるため、凝集剤の添加量、活性炭吸着の要否をより適正化することができる。
【0017】
本発明における色度原因物質除去工程は、凝集処理工程を含み、色度原因物質の定量分析結果に基づき、凝集剤の添加量を決定する。たとえば、色度原因物質の濃度が高い場合には、凝集剤の添加量を増加させる。また、他の処理に影響を与えない範囲で、凝集pHを下げることも有効である。逆に、色度原因物質の濃度が低い場合には、凝集剤の添加量を減少させる。また、他の処理に影響を与えない範囲で、凝集pHを上げてもよい。
【0018】
色度原因物質除去工程は、色度原因物質の定量分析結果に基づき、さらに活性炭吸着処理工程を含むこともできる。この場合、活性炭吸着処理工程の要否は、色度原因物質の定量分析結果により判断する。たとえば、色度原因物質の濃度が高い場合には、凝集剤の添加量を増加させることに加えて、活性炭吸着を行なうことが有効である。活性炭吸着は、有機性排水を活性炭吸着塔に通水することで行うことができる。色度原因物質の定量分析結果に基づいて活性炭吸着処理が必要である場合には活性炭吸着塔への通水経路に設けられている切り換え弁を開放するなどして流通させ、不要である場合には活性炭吸着塔への通水経路に設けられている切り換え弁を閉鎖するなど、すなわち活性炭吸着処理のバイパス経路を設けることで容易に調節することができる。
【0019】
また、活性炭吸着処理を併用する場合には、有機性排水中の色度原因物質の定量分析結果に基づき、活性炭の交換頻度又は交換時期を調節してもよい。さらに、凝集処理及び活性炭吸着処理後の処理水をLC-OCD分析に供し、処理水中の色度原因物質の濃度を計測してもよい。この場合、活性炭の交換頻度または交換時期をより正確に決定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、目視で識別困難な色度原因物質を含む有機性排水における有機性の色度原因物質を定量分析することによって、より正確且つ迅速な色度原因物質の除去条件(凝集剤添加量、凝集処理最適pH、活性炭処理の要否、活性炭交換頻度など)を調整することができる。このため、凝集剤や活性炭の使用量を適正化することができ、ランニングコストを増大させることなく、適切な有機性排水の色度原因物質除去が可能となる。
【0021】
本発明においては、従来の処理水の色度や処理水中有機物の分析などによる処理後の測定によるバックフォワード制御とは異なり、有機性排水処理工程の上流側における汚濁が顕著な有機性排水中の有機性の色度原因物質を測定して、色度原因物質の除去処理を行うため、正確なフィードフォワード制御が可能となる。
【0022】
さらに、本発明における色度原因物質の定量分析をLC-OCDで行うことによって、除去対象の有機性の色度原因物質ではないFeやMnなどの無機イオンによる着色の影響を排除できるため、除去対象の色度原因物質に対する凝集剤の適切量を正確に特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の代表的な有機性排水の基本処理フロー。
【
図2】本発明の好ましい実施態様の有機性排水の基本処理フロー。
【
図3】本発明の別の実施態様の有機性排水の基本処理フロー。
【
図4】実施例におけるし尿処理施設Aの有機性排水の概略処理フロー。
【
図5】し尿処理施設Aにおける5月採取のサンプルのLC-OCD分析結果を示すグラフ。
【
図6】し尿処理施設Aにおける8月採取のサンプルのLC-OCD分析結果を示すグラフ。
【
図7】し尿処理施設Bにおける8月採取のサンプルのLC-OCD分析結果を示すグラフ。
【
図8】し尿処理施設Cにおける8月採取のサンプルのLC-OCD分析結果を示すグラフ。
【
図9】し尿処理施設A~Cにおいて採取したサンプルのLC-OCD分析によるフミン質画分(平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下)とS-色度(溶解性色度)との相関を示すグラフ。
【
図10】し尿処理施設A~Cにおいて採取したサンプルのS-TOCとS-色度(溶解性色度)との相関を示すグラフ。
【好ましい実施形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
本発明の有機性排水の処理方法は、有機性排水をLC-OCD分析に供し、モル質量500g/mol以上20,000g/mol以下に分画されるフミン質画分のうち、色度原因物質として平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質を定量分析する工程と、
当該有機性排水に凝集剤を添加して、色度原因物質を除去する工程と、
を含み、当該色度原因物質を除去する工程において、平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質の濃度に基づいて、凝集剤添加量を調整することを特徴とする。
【0025】
図1は、本発明の代表的な有機性排水の基本処理フローを示す。
まず、凝集処理の前に有機性排水をサンプリングして、LC-OCDによる色度原因物質の定量分析に供する。次いで、色度原因物質として平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質を定量分析した結果に基づき、凝集剤の添加量及びpHの調節などの凝集処理条件を設定する。凝集処理により、溶存有機物は凝集フロックを形成する。次いで、沈殿槽にて凝集フロックが沈殿して除去された上澄み液は処理水として放流される。
【0026】
図2は、凝集処理後に活性炭吸着を併用する場合の有機性排水の基本処理フローを示す。
まず、凝集処理の前に有機性排水をサンプリングして、LC-OCDによる色度原因物質の定量分析に供する。次いで、色度原因物質として平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質を定量分析した結果に基づき、凝集剤の添加量及びpHの調節などの凝集処理条件を設定する。凝集処理により、溶存有機物は凝集フロックを形成する。次いで、沈殿槽にて凝集フロックが沈殿して除去された上澄み液を活性炭吸着塔に送り、活性炭処理に供する。LC-OCDによる色度原因物質の定量分析の結果、色度原因物質が少ない場合には、活性炭吸着塔をバイパスして処理水として放流してもよい。たとえば、色度原因物質の濃度が高い場合にはバイパス量を減らして活性炭吸着塔に送る量を多くし、色度原因物質の濃度が低い場合にはバイパス量を増やして活性炭吸着塔に送る量を減らすことができる。また、色度原因物質の定量分析を定期的に行い、色度原因物質の濃度を経時的に蓄積することによって、活性炭に吸着される色度原因物質の量を算出し、活性炭の交換時期を判断することができる。
【0027】
図2には、凝集処理前にLC-OCDによる色度原因物質の定量分析を行う処理フローを示したが、活性炭処理の直前又は直後にLC-OCDによる色度原因物質の定量分析を行うことが好ましい。この場合、活性炭吸着塔における活性炭の色度原因物質吸着処理が適切に行われたか否かを判断することができ、活性炭の吸着能が劣化して破過する前に活性炭を交換することができる。
【0028】
図3には、凝集処理の前に生物処理を設けた処理フローを示す。生物処理は、有機物や窒素分を除去する。たとえば、有機物は活性汚泥法により除去され、窒素分は硝化脱窒素法により除去される。生物処理を凝集処理の前に設けることで、有機性の色度原因物質の一部が活性汚泥法により除去されるので、凝集処理や活性炭吸着処理の負荷の低下に寄与することができる。
【0029】
まず、生物処理の前に有機性排水をサンプリングして、LC-OCDによる色度原因物質の定量分析に供する。次いで、色度原因物質として平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下のフミン質を定量分析した結果に基づき、生物処理の後の凝集処理における凝集剤の添加量及びpHの調節などの凝集処理条件を設定する。凝集処理により、溶存有機物は凝集フロックを形成する。次いで、沈殿槽にて凝集フロックが沈殿除去された上澄み液を活性炭吸着塔に送り、活性炭処理に供する。LC-OCDによる色度原因物質の定量分析の結果、色度原因物質が少ない場合には、活性炭吸着塔をバイパスして処理水として放流してもよい。たとえば、色度原因物質の濃度が高い場合にはバイパス量を減らして活性炭吸着塔に送る量を多くし、色度原因物質の濃度が低い場合にはバイパス量を増やして活性炭吸着塔に送る量を減らすことができる。また、色度原因物質の定量分析を定期的に行い、色度原因物質の濃度を経時的に蓄積することによって、活性炭に吸着される色度原因物質の量を算出し、活性炭の交換時期を判断することができる。
【0030】
図3には示していないが、生物処理の前に脱水処理を行い、脱水分離液をサンプリングして、LC-OCDによる色度原因物質の定量分析に供してもよい。
また、
図1~3には示していないが、一般的に行われている処理水の色度分析を併用して、色度成分除去効果を確認することにより、さらに精度の高い色度原因物質の除去処理を行うことができる。
【実施例】
【0031】
直接脱水型脱窒素方式の処理フロー(
図4はし尿処理施設Aの処理フローを示す。)を有するし尿処理施設A、B及びCの各工程にて採取したサンプルの水質検査とLC-OCD分析を行った。なお、し尿処理施設B及びCは、雑排水の流路など微細な点の相違はあるが、基本的な処理フローは
図4に示すものと同じである。
【0032】
図4に示すし尿処理フローを説明する。
し尿汚泥、浄化槽汚泥、及び余剰汚泥を含む有機性排水は破砕し尿として中継槽に貯蔵され、次いで凝集反応槽に送られ有機系調質剤の添加により凝集フロックを形成する。凝集フロックを含む有機性排水は脱水槽に送られ、無機系調質剤の添加後に脱水処理され、脱水汚泥と脱水分離液に分離される。脱水分離液は貯留槽に送られ、雑排水及び脱水分離液と一緒に貯留される。貯留後、有機性排水を含む貯留水は脱窒素槽に送られ、後段の沈殿槽からの余剰汚泥と一緒に、メタノール及びアルカリの添加により脱窒素処理された後、硝化槽に送られ硝化処理される。硝化処理後の有機性排水は脱窒素槽に循環されて、脱窒素処理と硝化処理が繰り返し行われる。その後、二次脱窒素槽に送られ、メタノールの添加による脱窒素処理と再曝気槽における曝気処理が行われる。脱窒素処理後の有機性排水は、混和槽に送られ、無機系調質剤(ポリ鉄など)の添加により形成される汚泥凝集物は続く沈殿槽にて沈殿して、上澄み液が分離される。沈殿した汚泥は余剰汚泥として脱窒素槽に返送される。上澄み液は砂ろ過装置に送られ、固形分が除去された後の砂ろ過処理水は活性炭吸着装置に送られて活性炭吸着に供される。活性炭吸着装置からの活性炭処理水は接触槽に送られ、次亜塩素酸ナトリウムの添加により殺菌消毒された後、放流槽に貯留され、次いで放流される。砂ろ過装置の洗浄排水は貯留槽に雑排水として送られ、上述の処理に供される。
【0033】
各工程から採取したサンプルとして、中継槽から採取した破砕し尿、貯留槽から採取した脱水分離液、再曝気槽から採取した再曝気処理液、沈殿槽から採取した沈殿槽上澄み液、砂ろ過装置から排出される砂ろ過処理水、活性炭吸着装置から排出される活性炭処理水、及び放流槽から採取した放流水を用いた。
【0034】
一般分析項目の分析方法を表1に示す。
【0035】
【0036】
LC-OCDによる分析は以下の手順で行った。
各工程で採取したサンプルを孔径0.45μmPTFEメンブランフィターでろ過し、TOCが1~2mg/Lとなるように超純水(ミリQ水)で希釈して分析試料を調製し、LC-OCD装置のサイズ排除カラムに通水し、モル質量20,000g/mol以上、モル質量500~20,000g/mol、モル質量300~500g/mol、モル質量350g/mol以下の4つの画分に分画し、各画分の有機炭素濃度を測定した。移動相としてリン酸緩衝液(pH6.58)を用いた。LC-OCD分析装置は、DOC-Labor社のLC-OCD Model 8を用いた。
【0037】
サイズ排除カラムによる分画後の各画分の分析試料は薄膜反応器(グランツェル薄膜反応器 DOC-Labor社)内で酸性化液(リン酸、pH1.5)と窒素ガスパージにより無機炭素が除去された後、紫外線ランプ(DOCOXランプ、DOC-Lavor社)により酸化され、CO2としてNDIR(非分散形赤外線吸収法)検出器で検出される。
【0038】
得られた分析結果を専用ソフトウェア(ChromCALC, DOC-Labor社)にて解析する。具体的には、クロマトグラムの形状をもとにピークを分割し、各ピークの面積から濃度が計算される。フミン質については、ピークの位置(検出時間)から平均モル質量が計算される。
【0039】
各し尿処理施設における各工程で採取したサンプルの分析結果を表2~5に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
S-色度(溶解性色度)は孔径1μmのGF/Bフィルターを用いてろ過したサンプルの分析結果である。一方、LC-OCDは孔径0.45μmのPTFEフィルターを用いてろ過したサンプルの分析結果である。予め、孔径0.45μmのPTFEフィルターを用いてろ過したサンプルと孔径1μmのGF/Bフィルターを用いてろ過したサンプルのS-色度に有意な差がないことを確認した。
【0045】
表2~5に示すように、し尿処理施設A~Cの工程水中のフミン質画分の平均モル質量は467~670g/molの範囲に含まれていた。このモル質量範囲に含まれる色度原因物質は、胆汁成分であるビリルビン(584g/mol)およびその酸化物であるステルコビリン(594g/mol)、ウロビリン(590g/mol)である。
【0046】
各し尿処理施設におけるLC-OCD分析結果を
図5~8に示す。
図5~8のいずれにおいても、すべての工程においてモル質量500~20,000g/molのフミン質画分が存在していることがわかる。
【0047】
図9に、各工程水で採取したサンプル中のモル質量500~20,000g/molのフミン質画分(平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下)の濃度とS-色度(溶解性色度)との相関を示す。サンプルの色度とTOCおよびFe、各画分の有機物濃度との関係を調べた結果、多くの場合に色度処理の指標とされるS-TOCとS-色度との間には強い相関は見られなかった(
図10)。また、バイオポリマー画分及びビルディングブロック画分は高濃度域では色度との相間が見られるが、低濃度域ではこれらの画分とS-色度との間には強い相間が見られなかった。一方で、モル質量500~20,000g/molの画分のうち平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下の有機物濃度とS-色度との間には低濃度域乃至高濃度域の全般にわたり強い相関関係が見られた(
図9)。したがって、LC-OCDによる平均モル質量400g/mol以上700g/mol以下の有機物(フミン質)濃度は色度の代替指標として有効であり、定量分析結果に基づき、有機性排水中の色度原因物質の濃度を推定して、凝集剤及びpHの調節を行うことで色度原因物質の適切な除去処理を行うことができることが確認できた。