(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】動弁部構造
(51)【国際特許分類】
F01L 1/245 20060101AFI20231115BHJP
F01L 1/18 20060101ALI20231115BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20231115BHJP
F01M 9/10 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
F01L1/245 D
F01L1/18 J
F01L1/245 B
F01M1/06 H
F01M9/10 Z
(21)【出願番号】P 2020217110
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】磯島 宏明
(72)【発明者】
【氏名】川崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】梅田 裕三
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-082003(JP,U)
【文献】実開昭64-034408(JP,U)
【文献】実開昭59-116508(JP,U)
【文献】実開昭63-102917(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0271923(US,A1)
【文献】特開平06-010640(JP,A)
【文献】実開昭63-087205(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00~ 1/32
F01M 1/06
F01M 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッカーアームに形成された穴部にラッシュアジャスタが内嵌され、前記ロッカーアームの軸支孔と前記穴部とを連通するオイル供給孔が前記ロッカーアームに形成され、前記穴部の穴底側壁を貫通する空気抜き孔が設けられ、
前記空気抜き孔は、前記穴部の軸心方向及び前記オイル供給孔の軸心方向の双方に対して交差する方向に伸びる軸心を持つ異方向孔に形成され、
前記空気抜き孔は、ロッカーアームの揺動軸心の向きに沿う方向に向く横向き孔に形成されている動弁部構造。
【請求項2】
前記オイル供給孔は、前記ロッカーアームにおける前記穴部が形成されている一端部からの後加工による貫通孔を用いて形成されており、前記貫通孔における前記一端部の外部開口と前記穴部とに亘る外端孔部が栓により閉塞されるとともに、
前記空気抜き孔は、前記外端孔部における前記栓よりオイル供給孔側の部分に開口される状態に形成されている請求項1に記載の動弁部構造。
【請求項3】
前記ロッカーアームを収容する動弁室に、前記空気抜き孔からの噴出流体を受け止め可能な受壁が設けられている請求項1又は2に記載の動弁部構造。
【請求項4】
前記受壁は、シリンダヘッドに組付けられたヘッドカバーに内部形成されるリブ壁、又は前記ヘッドカバーの内側に取付けられる板金壁により構成されている請求項3に記載の動弁部構造。
【請求項5】
前記受壁は、前記空気抜き孔の軸心に交差する方向に拡がる壁面を有している請求項3又は4に記載の動弁部構造。
【請求項6】
前記受壁が、隣り合う前記ロッカーアームどうしの間に位置する状態で設けられるとともに、前記受壁は、いずれの前記ロッカーアームの空気抜き孔にも対向する状態に構成されている請求項3~5の何れか一項に記載の動弁部構造。
【請求項7】
ロッカーアームに形成された穴部にラッシュアジャスタが内嵌され、前記ロッカーアームの軸支孔と前記穴部とを連通するオイル供給孔が前記ロッカーアームに形成され、前記穴部の穴底側壁を貫通する空気抜き孔が設けられ、
前記空気抜き孔は、前記穴部の軸心方向及び前記オイル供給孔の軸心方向の双方に対して交差する方向に伸びる軸心を持つ異方向孔に形成され、
前記ロッカーアームを収容する動弁室に、前記空気抜き孔からの噴出流体を受け止め可能な受壁が設けられ、
前記受壁が、隣り合う前記ロッカーアームどうしの間に位置する状態で設けられるとともに、前記受壁は、いずれの前記ロッカーアームの空気抜き孔にも対向する状態に構成されている動弁部構造。
【請求項8】
前記受壁は、当該受壁に沿って流れ落ちるオイルが前記ロッカーアームの一端部側の下方に向かうように、上下向きの縦壁面を有している請求項3~7の何れか一項に記載の動弁部構造。
【請求項9】
前記ラッシュアジャスタにおける前記穴部から外部露出されている側の端部に、プッシュロッドが当接する構造とされている請求項1~8の何れか一項に記載の動弁部構造。
【請求項10】
前記空気抜き孔の断面積は、前記オイル供給孔の断面積よりも小さい
請求項1~9の何れか一項に記載の動弁部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッカーアームにラッシュアジャスタが内嵌される構造を有する動弁部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイルの油圧でバルブクリアランスを自動で調整する装置であるラッシュアジャスタ(油圧ラッシュアジャスタ:HLA)は、ロッカーアームやその支持部など、動弁機構のどこかに設けられている。例えば、特許文献1にて開示される産業用エンジンのように、ラッシュアジャスタがタペットに設けられた構造の動弁部構造がよく知られている。
【0003】
また、特許文献2において開示されるように、ロッカーアームにラッシュアジャスタを装備する構造も一般的に行われており、ラッシュアジャスタを動弁機構のどこに設けるかは、各種の条件によりエンジンの設計時に決められる。
【0004】
そこで、特許文献3で開示される動弁機構において、ラッシュアジャスタをロッカーアームのプッシュロッド側部位に設ける動弁部構造を採るエンジンが企画された。油圧式のラッシュアジャスタではエア抜きさせる必要があるため、例えば、特許文献4の第4図に示されるように、ロッカーアームのラッシュアジャスタ収容穴の天井壁にエア抜き孔が形成された構造のものが試作された。
【0005】
ところが、その試作エンジンを起動させてみると、ロッカーアームの前述したエア抜き孔から予想以上にエンジンオイルが噴出することが知見された。噴出されたエンジンオイルは、ロッカーアームやプッシュロッドなどの揺動部材に当たって動弁室内(ヘッドカバー内)にて大量飛散し、ブローバイガスと共にヘッドカバー外に出てしまう不都合(オイルキャリーオーバー)が生じる不利がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-116888号公報
【文献】特許第3222486号公報
【文献】特開2019-218884号公報
【文献】実開昭63-110610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ラッシュアジャスタをロッカーアームに収容する構成を採りながら、ラッシュアジャスタ収容穴のエア抜き孔からのオイル飛散を抑制できるようにして、オイルキャリーオーバーの不都合が改善される動弁部構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1,7に共通する発明特定事項)
ロッカーアームに形成された穴部にラッシュアジャスタが内嵌され、前記ロッカーアームの軸支孔と前記穴部とを連通するオイル供給孔が前記ロッカーアームに形成され、前記穴部の穴底側壁を貫通する空気抜き孔が設けられ、
前記空気抜き孔は、前記穴部の軸心方向及び前記オイル供給孔の軸心方向の双方に対して交差する方向に伸びる軸心を持つ異方向孔に形成されている。
(請求項1の特徴的な発明特定事項)
前記空気抜き孔は、ロッカーアームの揺動軸心の向きに沿う方向に向く横向き孔に形成されている動弁部構造。
(請求項7の特徴的な発明特定事項)
前記ロッカーアームを収容する動弁室に、前記空気抜き孔からの噴出流体を受け止め可能な受壁が設けられ、
前記受壁が、隣り合う前記ロッカーアームどうしの間に位置する状態で設けられるとともに、前記受壁は、いずれの前記ロッカーアームの空気抜き孔にも対向する状態に構成されている動弁部構造。
【0009】
空気抜き孔の断面積は、オイル供給孔の断面積よりも小さいと好都合である。また、オイル供給孔は、ロッカーアームにおける穴部が形成されている一端部からの後加工による貫通孔を用いて形成されており、貫通孔における一端部の外部開口と穴部とに亘る外端孔部が栓により閉塞されるとともに、空気抜き孔は、外端孔部における栓よりオイル供給孔側の部分に開口される状態に形成されていればより好都合である。
【0010】
本発明に関して、上述した構成(手段)以外の特徴構成や手段ついては、請求項3~6,8,9を参照のこと。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空気抜き孔は、穴部の軸心方向及びオイル供給孔の軸心方向の双方に対して交差する方向に向いているので、空気抜き孔が上方に向く場合(従来技術)に比べて、オイル飛散の強さ及び範囲が抑えられて素早く下方に落ち易くなる。従って、ロッカーアームやプッシュロッドなどの揺動部材に当たって動弁室内にて大量飛散し難くなるから、ブローバイガスと共にヘッドカバーから吸気通路の方に向かって出てしまうキャリーオーバーが抑制されるようになる。
【0012】
その結果、ラッシュアジャスタをロッカーアームに収容する構成を採りながら、ラッシュアジャスタ収容穴のエア抜き孔からのオイル飛散を抑制できるようにして、オイルキャリーオーバーの不都合が改善される動弁部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】吸気側のロッカーアームを示し、(A)は側面図、(B)は平面図
【
図2】吸気側のロッカーアームを示し、(A)は
図1(B)のZ-Z線で切った断面図、(B)は
図1(A)のY-Y線で切った断面図
【
図3】排気側のロッカーアームを示し、(A)は平面図、(B)は
図3(A)のX-X線で切った断面図
【
図4】(A)は吸気側のロッカーアームを後方斜め上から見た斜視図、(B)は排気側のロッカーアームを後方斜め上から見た斜視図
【
図6】シリンダヘッド回りの構造を示す要部の前から見た断面図
【
図7】(A)前2気筒分の動弁装置を示す一部切欠きの平面図、(B)前2気筒分のロッカーアームとヘッドカバーとの関係を示す要部の左側から見た縦断面図
【
図8】エンジンヘッド構造を示す要部の左前方から見た一部切欠きの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明によるエンジンヘッド部構造の実施の形態を、トラクタなどの農機や建機などに搭載される産業用ガソリン・ガスエンジンに適用された場合について、図面を参照しながら説明する。なお、冷却ファン3のある側を前、フライホイールハウジング4のある側を後、吸気マニホルド5のある側を右、排気マニホルド6のある側を左とする。
【0015】
図5に直列4気筒の産業用ガソリン・ガスエンジン(以下、「エンジン)と略称する)Eの平面図が示され、1はシリンダヘッド、2はシリンダヘッド1の上に組付けられるヘッドカバー、3は冷却ファン、4はフライホイールハウジング、5は吸気マニホルドである。6は排気マニホルド、7はオルタネータ、8はウォータフランジ、9は前後向き配置されるデリバリパイプ(高圧燃料の供給パイプ)、12は圧力レギュレータである。
【0016】
吸気マニホルド5は、前後に並ぶ4つの枝管部5aとそれら4つの枝管部5aのそれぞれの基端に連通するマニホルド本体部5Aとを有している。シリンダヘッド1の上面1cに載せて組付けられるヘッドカバー2における前後中間部の上方突出部2aと、吸気マニホルド5のマニホルド本体部5Aとは、ブローバイガス通路であるブローバイ管13により連通接続されている。
【0017】
シリンダヘッド1は前後に長い形状であって、コイル(イグニッションコイル)10a一体型のプラグキャップ10が前後に4箇所並んで設けられている。ヘッドカバー2は、それら4つのプラグキャップ10(及び点火プラグ)を避けた形状の右側壁を有して前後に長い無底箱状のものに形成されている。
【0018】
各プラグキャップ10の前後間及び最前列のプラグキャップ10の前側の4箇所にはインジェクタ11が配置されている。そして、各インジェクタ11に連通接続されるデリバリパイプ9が、各プラグキャップ10の右横に横臥配置されている。各コイル10aは、ブラケットを介するなどにより、ヘッドカバー2にボルト止め固定されている。
【0019】
図6において、19は、インジェクタ11を内嵌支持するホルダ、18は、ホルダ19をシリンダヘッド1にテーパネジtにより嵌合螺着するインジェクタ装着用孔、5Bは、デリバリパイプ9をボルト止めで取り付けるための上向きボス、33は、シリンダヘッド1をシリンダブロック32に組付けるボルトである。また、Pはインジェクタ11(インジェクタ装着用孔18)の軸心、wはインジェクタ11による燃料の噴射経路である。
【0020】
図6に示されるように、シリンダヘッド1の右側面1aに、吸気マニホルド5の各枝管部5aがガスケット(符記省略)を介してボルト止めなどにより連結されている。その連結状態では、枝管部5aの内部流路であるエア通路5bと、シリンダヘッドの吸気ポート(吸気通路)14とが連通されており、吸気ポート14の燃焼室側の弁開口である吸気バルブ孔14aを開閉させる吸気バルブ15が配置されている。
【0021】
吸気バルブ15は、吸気バルブ孔14aの開閉が可能な弁座15aと、シリンダヘッド1にスライド移動可能に支持される弁軸15bと、ロッカーアーム16で押し駆動される弁頂部15cとを有している。ロッカーアーム16と、ロッカーアーム16を押し駆動するプッシュロッド17、及び吸気バルブ15などにより、ヘッドカバー2内の動弁室30(後述)に収容される動弁機構Dが構成されている。
【0022】
図6~
図8に示されるように、動弁機構Dは、クランク軸(図示省略)の回転によって往復上下移動されるプッシュロッド17が、ロッカーアーム支軸20により、その
揺動軸心Rで天秤揺動可能に支持されるロッカーアーム16を突き上げ駆動し、ロッカーアーム16が吸気バルブ15をコイル状の吸気弁バネ15d(
図8参照)の弾性力に抗して押下げる、という一般的な構造の機構である。
【0023】
説明は割愛するが、排気バルブ25、排気バルブ用のロッカーアーム26、及び排気バルブ用のプッシュロッド27を有する排気側の動弁機構D(
図7、
図8を参照)も、前述の動弁機構(吸気側の動弁機構)Dと同様の構成である。各図面においては、排気側の動弁機構Dにおける各符号は、25,26,27,25dを除き、基本的に吸気側の動弁機構Dと同じ機能の部位に同じ符号を付し、その説明はされたものとする。
【0024】
図1、
図2及び
図6に示されるように、吸気側のロッカーアーム16は、ロッカーアーム支軸20を内嵌するボス状の軸支部16Cと、吸気バルブ15を押し駆動する部分である弁押し部16Bと、プッシュロッド側の端部である被駆動部16Dとを有し、揺動軸心R回りに天秤揺動する部品である。ロッカーアーム16には、軸支孔(ロッカーアーム支軸20が内嵌される孔)23に開口するほぼ上下向きのオイル噴き上げ孔16bが貫通形成されている。
【0025】
また、
図1(A)に示されるように、ロッカーアーム支軸20には、その軸方向(揺動軸心Rの方向)に延びる中心オイル路20Aと、各ロッカーアーム16,26に対応する位置にて中心オイル路20Aを通って径方向に貫通される複数の径方向孔20aとが形成されている。各径方向孔20aと各オイル噴き上げ孔16bとも、ロッカーアーム支軸20の軸心方向の位置が合致されている。
【0026】
ロッカーアーム16の一端側である被駆動部16Dには、ラッシュアジャスタ21を嵌入する下向き穴である穴部16Aが形成されている。軸心Qを有する穴部16Aには、油圧式のラッシュアジャスタ21及びシム34が軸心Qの方向の出し入れ操作により内嵌収容されている。つまり、ロッカーアーム16は、ラッシュアジャスタ21及びシム34を介してプッシュロッド17で押し駆動される。
【0027】
ラッシュアジャスタ21は、穴部16Aに内嵌されるアジャスタ本体21A、及びプッシュロッド17の上端摺動部17Aに摺接される当接部(「穴部から外部露出されている側の端部」の一例)21Bを備えている。アジャスタ本体21Aが穴部16Aに内蔵された組付け状態において、ラッシュアジャスタ21と穴底壁16a穴周壁16dと囲まれ、かつ、シム34を除いた空間部は、オイル供給孔28(後述)及び空気抜き孔24(後述)に連通される油室22である。
【0028】
図1、
図2及び
図4(A)に示されるように、ロッカーアーム16には、前述した噴き上げ孔16bの他に、軸支孔23と穴部16Aとを連通するオイル供給孔28も形成されている。オイル供給孔28は、ロッカーアーム16の揺動軸心Rに対して角度αで傾けられた油軸心pを有して、軸支孔23に形成された部分内周溝23Aと油室22とを連通する断面円形の直線油路である。角度αは、例えば75°±0.5~2°(73°≦α≦77°又は74.5°≦α≦75.5°)に設定される。なお、ロッカーアーム支軸20の径方向孔20aとロッカーアーム16の部分内周溝23Aとは、揺動軸心Rの方向での位置が合致されており、回転位置によっては連通する関係に構成されている。
【0029】
また、穴部16Aの穴底壁(穴底側壁の一例)16aには、これを斜めに貫通する空気抜き孔24が設けられている。空気抜き孔24は、穴部16Aの軸心Qの方向及びオイル供給孔28の油軸心pの方向の双方に対して交差する方向に伸びる軸心eを持つ異方向孔に形成されている。空気抜き孔24は、ロッカーアーム16の揺動軸心Rに沿った方向に向いており、ロッカーアーム16の長手方向に対しては交差する方向に向く横向き孔に形成されている。
【0030】
空気抜き孔24は、吸気バルブ15用のロッカーアーム16では、
図2(B)及び
図4(A)に示されるように、揺動軸心Rの軸線方向を左右として弁押し部16Bを前とした場合は左横で上方(エンジンEを基準とすれば前で上方)に向く孔である。空気抜き孔24は、その軸心eが、穴部16Aの軸心Qに対して角度θ(例:45度)で傾く斜め孔である。
なお、排気バルブ用のロッカーアーム26では、
図3、及び
図4(B)に示されるように、空気抜き孔24は、揺動軸心Rの軸線方向を左右として弁押し部16Bを前とした場合は右横で上方(エンジンEを基準とすれば後で上方)に向いて開口する孔である。
【0031】
オイル供給孔28は、被駆動部(穴部16Aが形成されている一端部)16Dの穴底壁16aから上方突出する隆起壁40からの後加工(ドリリングなど)による貫通孔kを用いて形成されている。貫通孔kにおける被駆動部16D側の外部開口28aと穴部16Aとに亘る外端孔部28Aが、隆起壁40に位置する栓(ボール栓)29により閉塞されており、空気抜き孔24は、外端孔部28Aにおける栓29よりオイル供給孔側(軸支孔23側)の部分に開口される状態に形成されている。
【0032】
つまり、貫通孔kは、部分内周溝23Aと穴部16Aとを連通するオイル供給孔28と、穴部16Aと外部開口28aとに亘る外端孔部28Aとでなる。また、空気抜き孔24の断面積は、オイル供給孔28の断面積よりも小さく設定されている。例えば、空気抜き孔24の断面積は、オイル供給孔28の断面積の2%~5%、好ましくは2.5%~3%程度の小さなものに設定されており、オイルの噴出はできるだけ抑えつつ空気は流通可能な小孔とされている。
【0033】
図6~
図8に示されるように、ヘッドカバー2は、互いに前後に長い左側壁2Lと右側壁2R、前側壁2F、後側壁2B(
図5を参照)、及び上壁2Aとを有する無底箱状の部品であり、シリンダヘッド1の上にボルト止めなどにより組付けられている。上壁2Aの内側で左に寄った位置から、ヘッドカバー2の内部空間Sを左右に仕切る仕切り壁2bが垂下形成されるとともに、その前後に長い仕切り壁2bの底面に当接される状態で、内部空間Sを上下に仕切る隔壁31が設けられている。
【0034】
例えば、板金材でなる隔壁31の上方及び仕切り壁2bの右方となる空間部分はブローバイガス通路部35に形成され、隔壁31の下方及び仕切り壁2bの左方でかつ、シリンダヘッド1で囲まれた空間部分が動弁室30に形成されている。なお、ブローバイガス通路部35には、オイル捕捉用のフィルタ(図示省略)が装備されており、そのフィルタ通過後のブローバイガスは、上方突出部2a及びそこに配置された調圧弁36を通ってブローバイ管13に流れることが可能に構成されている。なお、
図6の38はオイルドレーンパイプである。
【0035】
図6~
図8に示されるように、左側壁2Lの上部と仕切り壁2bとに亘って左右に延びる複数のリブ壁37が形成されている。これらリブ壁37は、最前端の吸気バルブ用のロッカーアーム16の前側、前後に隣合う排気バルブ用のロッカーアーム26と吸気バルブ用のロッカーアーム16との間、及び最後端の排気バルブ用のロッカーアーム26の後側のそれぞれに対応して形成されている。各リブ壁37は、ロッカーアーム16,26と前後方向で干渉しない位置にあり、それらリブ壁37の下端は、ロッカーアーム16,26の上部に相当する位置まで下方延出されている。
【0036】
図6、
図7(B)に示されるように、隔壁31には、その後部を下方に短い長さで折り曲げてなる規制壁部31Aが形成されている。規制壁部31Aの下端位置は、前後方向視でロッカーアーム16,26の上端部と干渉する高さ位置であるため、干渉を防ぐための切欠き31aが、各ロッカーアーム16,26に対応した位置における
規制壁部31Aに設けられている。
【0037】
以上のような動弁室30の構成により、ロッカーアーム16,26の空気抜き孔24からオイル(エンジンオイル)が噴出すると、それら噴出されたオイルはロッカーアーム16,26に対する左右の横方向(前方又は後方)で斜め上方に飛び、いずれかのリブ壁37に当接して受け止められるようになる。受け止められたオイルは、リブ壁37の前後両側の壁面である縦壁面39に沿って流れ落ち、シリンダヘッド1のプッシュロッド17配置用のプッシュロッド孔1dや、ブローバイガス縦通路1eに流れていくようになる。
【0038】
さて、空気抜き孔24から出て飛散されるオイルは、リブ壁37、仕切り壁2b、左側壁2L、上壁2A、及び規制壁部31Aのそれぞれの壁面(符記省略)で受け止められ、かつ、下方に流下するように案内される作用も発揮される。従って、リブ壁37、仕切り壁2b、左側壁2L、上壁2A、及び規制壁部31Aは受壁cとして機能することが可能に設定されている。また、各ロッカーアーム16,26の噴き上げ孔16bから上向きに噴出されたオイルは、隔壁31の下面(又は規制壁部31Aの右側面)で受け止められ、動弁機構Dの各摺動部に飛散供給されるようになる。
【0039】
ところで、動弁室30の上部は、即ち、前後で隣り合うリブ壁37,37と、仕切り壁2bと、左側壁2Lと、上壁2Aとの5壁で囲まれた無底箱状の動弁小室30a(
図6を参照)に構成されている。つまり、
図7(B)及び
図8に示されるように、ヘッドカバー2の内部には、各ロッカーアーム16,26に対応した複数の動弁小室30aが前後一列に並んで配置される構成になっている。
【0040】
以上のように、前記ロッカーアーム16を収容する動弁室30に、前記空気抜き孔24からの噴出流体を受け止め可能な受壁cが設けられている。受壁cは、シリンダヘッド1に組付けられるヘッドカバー2に内部形成されるリブ壁37や、ヘッドカバー2の内側に取付けられる板金壁である隔壁31などにより構成されている。受壁cは、空気抜き孔24の軸心eに交差する方向に拡がる壁面39を有している。
【0041】
受壁cが、隣り合うロッカーアーム16,26どうしの間に位置する状態で設けられるとともに、受壁cは、いずれのロッカーアーム16,26の空気抜き孔24にも対向する状態に構成されている。リブ壁37(受壁c)は、当該受壁cに沿って流れ落ちるオイルaがロッカーアーム16の被駆動部(一端部)16D側の下方に向かうように〔
図7(B)を参照〕、上下向きの縦壁面39を有している。
【0042】
空気抜き孔24の断面積を、オイル供給孔28の断面積より大きく減じてあるので、空気抜き孔24からオイルが噴出したとしても、オイル供給孔28と同じ断面積であった従来の構造に比べて、エア出入りは可能としながら単位時間当たりのオイル流量は激減されるようになる。従って、空気抜き孔24からの意図しないオイル大量噴出が抑制され、ブローバイガスと共にヘッドカバーから流出してしまう不都合(オイルキャリーオーバー)が抑制される利点がある。
【0043】
図7(B)に矢印で示されるように、吸気側及び排気側の各ロッカーアーム16,26の空気抜き孔24から出るオイルaは、各動弁小室30aにその下方から斜め上方に噴出されるようになるから、下方しか開口の無い動弁小室30aにおける前後左右及び上の各受壁c(37,2L,2b及び31A,2A)の壁面に当たることでオイルミストからオイルaが捕捉され、かつ、下方に落とされるようになる。従って、動弁小室30aと仕切り壁2bで仕切られた右横の向こう側に形成されているブローバイガス通路部35に、オイル(オイルミスト)aが非常に及び難いという作用効果がある。
【0044】
また、ロッカーアーム16,26は、噴き上げ孔16bと空気抜き孔24との2箇所からオイルを動弁室30に噴出することになるので、次のような作用効果もある。即ち、ガソリンエンジンは、ディーゼルエンジンに比べて排気温度が高く、シリンダヘッドの排気ポート付近に位置するヘッドカバーやそれとのガスケットの熱害対策が必要になる場合がある。熱害対策としては、シリンダヘッドの嵩上げ(ヘッドカバーとの合せ面の嵩上げ)が考えられるが、この手段では、加工、組立、設備の各点でディーゼルエンジンとの共用が困難という問題が生じる。
【0045】
本発明による動弁部構造では、前述のとおり、各ロッカーアーム16,26の噴き上げ孔16b及び空気抜き孔24からオイルが噴出するので、結果的に、排気側の動弁機構Dにも十分なオイルが供給されて、十分な冷却作用が発揮されるようになる。従って、ディーゼルエンジンとの共用を考慮した形状及び大きさのシリンダヘッドを用いながら、ヘッドカバー(ガスケット)の温度が低減され、信頼性を確保することが可能になる。
【0046】
〔別実施形態〕
空気抜き孔24の向きや径の大きさなどの諸元は、動弁機構Dや動弁室30の大きさや形状、或いはエンジンの設定回転数などの各種条件に鑑みて、種々に変更設定することは可能である。
【符号の説明】
【0047】
16 ロッカーアーム(吸気側)
16A 穴部
16D 一端部(被駆動部)
16a 穴底側壁(穴底壁16a、穴周壁16d)
17 プッシュロッド
21 ラッシュアジャスタ
21B 端部
23 軸支孔
24 空気抜き孔
26 ロッカーアーム(排気側)
28 オイル供給孔
28A 外端孔部
28a 外部開口
29 栓
30 動弁室
31 板金壁(隔壁)
31A 規制壁部
37 リブ壁
39 壁面(縦壁面)
Q 軸心(穴部16Aの軸心)
c 受壁
e 軸心(空気抜き孔24の軸心)
k 貫通孔
p 軸心(オイル供給孔28の軸心)