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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20231115BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20231115BHJP
【FI】
C08J9/28 102
C08J9/28 CEP
C08J7/04 Z CEP
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020541173
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034040
(87)【国際公開番号】W WO2020050149
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018164861
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大高 翔
(72)【発明者】
【氏名】上村 和恵
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 高志
(72)【発明者】
【氏名】宮田 壮
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-253137(JP,A)
【文献】特開2017-036461(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111016(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/054899(WO,A1)
【文献】特開2016-196534(JP,A)
【文献】特表2017-535641(JP,A)
【文献】特表2017-533321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08J 7/04
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーを含む膜と、該膜から構成された複数の閉塞空間とを備える構造体であって、前記構造体の断面における前記複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均が、1μm~60μmであり、前記構造体はシート形状を有し、前記構造体の厚さ方向の断面において、前記閉塞空間の前記構造体の厚さ方向の最大長さをa、前記閉塞空間の前記構造体の平面方向の最大長さをbとするとき、前記複数の閉塞空間のb/aの平均が1.5より大きく10以下である、構造体。
【請求項2】
前記複数の閉塞空間のうち隣接する一組の閉塞空間は少なくとも一つの前記膜を共有している、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーを含む膜の平均厚さが、10nm~2000nmである、請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記構造体の嵩密度が、0.001~1.4g/cmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
前記構造体の厚さが0.5~300μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項6】
前記構造体の厚さ方向の断面において、前記複数の閉塞空間のb/aの平均が2より大きい、請求項1~5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバーが植物由来のセルロースナノファイバーである、請求項1~6のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
前記セルロースナノファイバー以外の多糖類の含有量が、前記セルロースナノファイバー100質量部に対して10質量部未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項9】
前記セルロースナノファイバーの直径(太さ)の平均が、1~1000nmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項10】
前記セルロースナノファイバーの繊維長の平均が、0.01~10μmである、請求項1~9のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の構造体が、支持体上に設けられている、支持体付き構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(CNF)を様々な用途に用いることが試みられており、その一つとして、CNFからなる多孔質体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。CNFの多孔質体の製造方法としては、CNFを均一に分散させた水スラリーを、低温で凍結乾燥する工程を含む方法が広く知られている。凍結乾燥によって得られる多孔質体は、いわゆる連続気泡構造を有しており、吸着剤、断熱材、吸音材等の用途が想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-215872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CNFの利用を促進し、その用途をさらに拡大するためには、従来の製造方法では得られなかった新たな構造を有する、CNFを含む構造体が求められている。例えば、構造体の内部に流体を保持させておき、必要になった場合に構造体の外側に流体を取り出す用途に適する構造体が求められている。このような用途に適する構造体には、流体を安定して保持できるような強度を有するとともに、できるだけ多くの流体を保持できる構造を備えていることが求められる。
【0005】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む膜とこの膜で構成された複数の閉塞空間とを備え、空間の存在割合が大きく、かつ、強度の高い構造を備える構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、セルロースナノファイバーを含む膜から構成された複数の閉塞空間を備え、当該複数の閉塞空間の大きさが小さい構造体とすることで、構造体に存在する空間の割合が大きく、しかも強度の高い構造にできることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供するものである。
[1]セルロースナノファイバーを含む膜と、該膜から構成された複数の閉塞空間とを備える構造体であって、前記構造体の断面における前記複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均が、1μm~60μmである、構造体。
[2]前記複数の閉塞空間のうち隣接する一組の閉塞空間は少なくとも一つの前記膜を共有している上記[1]に記載の構造体。
[3]前記セルロースナノファイバーを含む膜の平均厚さが、10nm~2000nmである、上記[1]又は[2]に記載の構造体。
[4]前記構造体の嵩密度が、0.001~1.4g/cmである、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の構造体。
[5]前記構造体はシート形状を有する、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の構造体。
[6]前記構造体の厚さが0.5~300μmである、上記[5]に記載の構造体。
[7]前記構造体の厚さ方向の断面において、前記閉塞空間の前記構造体の厚さ方向の最大長さをa、前記閉塞空間の前記構造体の平面方向の最大長さをbとするとき、前記複数の閉塞空間のb/aの平均が1より大きい、上記[5]又は[6]に記載の構造体。
[8]前記セルロースナノファイバーが植物由来のセルロースナノファイバーである、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の構造体。
[9]前記セルロースナノファイバー以外の多糖類の含有量が、前記セルロースナノファイバー100質量部に対して10質量部未満である、上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の構造体。
[10]前記セルロースナノファイバーの直径(太さ)の平均が、1~1000nmである、上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の構造体。
[11]前記セルロースナノファイバーの繊維長の平均が、0.01~10μmである、上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の構造体。
[12]上記[1]~[11]のいずれか一つに記載の構造体が、支持体上に設けられている、支持体付き構造体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セルロースナノファイバーを含む膜とこの膜で構成された複数の閉塞空間とを備え、空間の存在割合が大きく、かつ、強度の高い構造を備える構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の構造体の一実施態様であるシート状構造体の構成を示す模式図である。図1(A)は、シート状構造体の厚さ方向の部分断面図であり、図1(B)は、図1(A)の一部の拡大図であり、図1(C)は、閉塞空間の大きさを説明する図である。
図2】組成物が支持体上に塗布された様子を示す模式的な側面図である。
図3】実施例6で作製したシート状構造体の厚さ方向の断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<構造体の構成>
本発明の実施形態に係る構造体は、セルロースナノファイバー(CNF)を含む膜と、該膜から構成された複数の閉塞空間とを備える構造体であって、前記構造体の断面における前記複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均が、1μm~60μmである。最大フェレ径とその平均については後で詳述する。
本明細書において、「CNFを含む膜から構成された閉塞空間」とは、上方、下方、側方等の全方位がCNFを含む膜によって囲まれた、閉じた空間を意味する。なお、後述するように、CNFを含む膜は緻密な膜であるが微細な空隙を有している。したがって、CNFを含む膜によって囲まれた空間が、上記微細空隙を超える大きさの開口に通じていなければ、「CNFを含む膜から構成された閉塞空間」に該当する。
上記構造体の形状は特に制限がなく、例えば、成形型に後述する組成物を入れて乾燥させる等の方法により、任意の形状とすることができる。本発明の構造体の好ましい一態様は、シート状構造体である。シート状構造体は、後述する組成物を、支持体に塗布して乾燥することにより容易に大量に製造でき、しかも幅広い用途に利用することができる。以下、シート状構造体を例にして、図を用いて具体的に本発明の実施形態に係る構造体を説明する。なお、以下の説明で用いる図1及び図2は模式図であり、理解を容易にするため誇張して図示されている。閉塞空間の数や大きさ、構造体の厚み等も模式的に示されており、これらは図面によって限定されるものではない。
【0010】
図1(A)は、本発明の構造体の一実施態様であるシート状構造体の厚さ方向の模式的な部分断面図である。図1(A)に示すように、支持体40上に設けられた、CNFを含む膜35で構成される複数の閉塞空間33を有する層31がシート状構造体を構成する。そして、シート状構造体である層31と支持体40とで支持体付きのシート状構造体50が構成されている。なお、後述するように、支持体40はなくても構わない。支持体40がない場合は、単体のシート状構造体31となる。
後述する製造方法によって形成されるCNFを含む膜35は、複数のCNFが並んだり絡み合ったりすることで形成される網目状もしくは繊維状の緻密な膜であると考えられる。したがって、例えば、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50を、CNFを含む膜35で囲まれた閉塞空間33内に流体を保持する製品に適用することができる。このような製品(以下、「流体保持用製品」ということがある)は、必要な場合に圧力を加えて構造体を開裂して流体を外部へ供給することができる。
また、CNFを含む膜35は、CNFの緻密な膜であるため、膜を厚くしなくても一定の強度を有しており、流体を内部に保持することができる閉塞空間を構成することができる。したがって、構造体内部に、例えばバインダー成分等の、CNFを含む膜以外の要素が必ずしも必要ではなくなり、構造体における空間の存在割合を高くすることができる。
さらに、CNFを含む膜は多数の微小な空隙を有しており、気体や液体などの流体を少しずつ透過させ得る。したがって、例えば、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50は、閉塞空間33内に流体を保持させておき、CNFを含む膜35を通して外部に流体を徐々に放出する製品にも適用することができる。以下、膜を介して外部に流体を徐々に放出する性質を徐放性という。
なお、従来の凍結乾燥を用いた製造方法は工程が複雑であることに加えて、得られる多孔質体がいわゆる連続気泡構造を有している。このような連続気泡構造を有する多孔質体は、流体を保持するのに適しておらず、上記の流体保持用製品や徐放性を有する製品への適用が難しい。
【0011】
図1(B)は、図1(A)の一点鎖線で囲まれた部分の拡大図である。図1(B)に示すように、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50においては、隣り合う一組の閉塞空間33a、33bの間で、CNFを含む膜35aが共有されている。本発明の構造体の好ましい一態様においては、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50のように、複数の閉塞空間のうち隣り合う一組の閉塞空間が少なくとも一つの膜を共有する。
なお、CNFを含む膜の断面において、CNFを含む膜に沿うように形成された境界が観察されることがある。本実施形態のシート状構造体は、CNFを含む膜がこのような境界を含むものであっても構わない。上記境界は、シート状構造体になる前のCNFの存在状態の違いが反映されたものと推測されるが、この境界の有無はシート状構造体の特性に特に影響を与えない。
【0012】
[閉塞空間の最大フェレ径]
上記閉塞空間は様々な形状をとり得るため、本明細書においては、閉塞空間の大きさを最大フェレ径で表す(閉塞空間の大きさにはCNFを含む膜の厚みは含まれない)。本発明の実施形態に係る構造体においては、上記複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均が1μm~60μmである。複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均の下限は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上、特に好ましくは20μm以上である。複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均の上限は、好ましくは55μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは45μm以下、よりさらに好ましくは40μm以下、特に好ましくは35μm以下である。
ここで、ある図形の「最大フェレ径」とは、2本の平行線で挟まれた当該図形の最大距離を意味する。本明細書においては、CNFを含む膜から構成された複数の閉塞空間を備える構造体を切断したときの切断面において、閉塞空間に対応する図形を特定し、この図形について2本の平行線で挟まれた最大距離を測定することで閉塞空間の最大フェレ径を算出する。
閉塞空間の最大フェレ径を算出するための切断面は、最大フェレ径の平均を算出できるように、できるだけ多くの閉塞空間が含まれるように適宜選べばよく、例えば、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50では、図1(A)に示すように、その厚さ方向の断面において、閉塞空間の最大フェレ径を算出する。より具体的な例を挙げると、図1(A)の破線で囲まれた領域に存在している、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50の平面に対して傾いた方向に最大の開口幅を有する閉塞空間33の場合、図1(C)に示すように、閉塞空間33の最大フェレ径dfはその最大開口幅に一致する。
本明細書において、「複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均」は、構造体の任意の切断面における、複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均値である。本明細書においては、構造体の上記断面において、任意の36個の閉塞空間を選んで各々の最大フェレ径を測定し、それらの平均値を「複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均」とする。
【0013】
本発明の実施形態に係る構造体は、当該構造体の断面における複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均が上述した範囲にあり、閉塞空間の大きさが小さい。このため、CNFを含む膜が構造体の内部に多数存在することとなり、構造体の強度を高められる。したがって、加圧等に対する形状維持性に優れた構造体を得やすくなる。また、構造体の強度が高くなる結果、構造体を上記の流体保持用製品や徐放性を有する製品に適用する場合などにおいて、閉塞空間内に流体を長く保持することに対しても有利に働く。さらに、閉塞空間の大きさが小さいため、多くの閉塞空間内において個別に流体を保持することができ、流体の保持性を高められるとともに、徐放性能を向上させる(より長い時間をかけて流体を放出させる)ことができる。
さらに、図1(A)、(B)に示すように、複数の閉塞空間が膜を共有することにより、構造体の強度が増すので、バインダー成分を添加することなく自己保持性を有する膜(自立膜)を作製することができる。この自立膜はバインダー成分が必ずしも必要ではなくなり、例えば、内部空間を有する複数のカプセルをバインダーで結合したものに比べると、流体を保持する空間を大きくすることができる。
【0014】
構造体における閉塞空間の大きさは、例えば、後述する組成物中の、CNFを含む外殻を備える粒子の大きさを変えることによって調整することができる。これによって、閉塞空間の最大フェレ径を調整し、複数の閉塞空間の最大フェレ径の平均を上述した数値範囲内にすることができる。
【0015】
[閉塞空間の形状]
上記閉塞空間の形状は任意であるが、後述する製造方法を用いて構造体を製造すると、その製造方法に由来して、上述したように隣り合う一組の閉塞空間同士がCNFを含む膜を共有する構造をとりやすくなるため、各閉塞空間は、複数の平坦な膜で囲まれた多面体形状を有している。したがって、各閉塞空間に対して、図1に示すような多角形状を示すような切断面を少なくとも一つ形成することができる。
また、本発明の構造体の好ましい一態様においては、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50のように、その厚さ方向の断面において、図1(C)に示すように、構造体の閉塞空間の厚さ方向の最大長さ(換言すれば、CNFを含む膜の上記閉塞空間側の面の最下方位置から最上方位置までの距離)をa、構造体の閉塞空間の平面方向の最大長さ(換言すれば、CNFを含む膜の上記閉塞空間側の面の、平面方向における一端から他端までの距離)をbとするとき、複数の閉塞空間のb/aの平均が好ましくは1より大きく、より好ましくは1.5より大きく、さらに好ましくは2より大きい。複数の閉塞空間のb/aの平均が1より大きいと、総じて閉塞空間が構造体の平面方向に延びた形状となるため、構造体を厚くすることなく、多数の閉塞空間を設けることができる。また、後述する工程(2-3)における乾燥時に、CNFを含む膜の自重によって平面方向に延びた閉塞空間が形成されやすくなるため、構造体の製造も容易である。複数の閉塞空間のb/aの平均は、製造容易性及び構造体の強度維持等の観点から、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下、特に好ましくは5以下である。本明細書においては、構造体の上記断面において、任意の36個の閉塞空間を選んで各々のa及びbを測定してb/aを算出し、それらの平均値を「複数の閉塞空間のb/aの平均」とする。
【0016】
[CNFを含む膜の平均厚さ]
CNFを含む膜の平均厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは75nm以上であり、また、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1750nm以下、さらに好ましくは1500nm以下、よりさらに好ましくは1250nm以下である。CNFを含む膜の平均厚さを2000nm以下とすることで、構造体を流体保持用製品に適用したときに、圧力を加えて構造体を開裂し流体を外部へ供給しやすくなる。また、構造体を徐放性を有する製品に適用したときに、閉塞空間内の流体を徐放させやすくなる。また、膜の平均厚さを10nm以上とすることで、構造体全体の強度を高くすることができ、閉塞空間内に流体を長く保持させやすくなる。
CNFを含む膜の平均厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて各構造体の断面を観察し、得られた拡大画像から36個の閉塞空間を任意に選択し、選択された閉塞空間に対応する多角形を構成する任意の辺を一つ特定し、その辺の略中央の厚さdm(図1(C)に2つの三角マークと引き出し線で示す)を測定し、それらの平均値を算出することにより求められる。
CNFを含む膜の厚さdmは、例えば、CNFの直径(太さ)や繊維長を異ならせることで調整できる。CNFの直径(太さ)を大きくしたり、CNFの繊維長を短くしたりすることで、CNFを含む膜を厚くすることができる。逆に、CNFの直径(太さ)を小さくしたり、CNFの繊維長を長くしたりすることで、CNFを含む膜を薄くすることができる。
【0017】
[構造体の嵩密度]
構造体の嵩密度は、好ましくは0.001g/cm以上、より好ましくは0.005g/cm以上、さらに好ましくは0.0075g/cm以上、さらに好ましくは0.01g/cm以上であり、また、好ましくは1.40g/cm以下、より好ましくは1.20g/cm以下、さらに好ましくは0.920g/cm以下、さらに好ましくは0.800g/cm以下、さらに好ましくは0.600g/cm以下、さらに好ましくは0.500g/cm以下である。嵩密度が0.001g/cm以上であれば構造体に必要最低限の強度を与えることができ、例えば、ロール状に巻いてもつぶれない程度の強度を与えることができる。また、嵩密度が1.40g/cm以下であれば、多くの流体を閉塞空間内に保持しやすくなる。
本明細書において、構造体の嵩密度は、構造体の質量を、閉塞空間を含む構造体全体の体積で除すことにより算出される。図1のように、支持体上にCNFを含む層が形成されている場合は、予め支持体の厚さと質量を測定しておき、これを減じてから算出すればよい。
構造体の嵩密度は、例えば、組成物におけるCNFを含む外殻を備える粒子の直径を変化させることで調整することができる。つまり、組成物におけるCNFを含む外殻を備える粒子の直径が大きくなると嵩密度は小さくなり、CNFを含む外殻を備える粒子の直径が小さくなると、嵩密度は大きくなる。組成物におけるCNFを含む外殻を備える粒子の直径は、有機溶剤の種類と配合比率を変えたり、撹拌条件を変えたりすることで調整することができる。
【0018】
[構造体の厚さ]
構造体がシート状や帯状である場合、支持体を除いた構造体の厚さL(図1(A)参照)は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは3.5μm以上、さらに好ましくは5.0μm以上、特に好ましくは7.5μm以上であり、また、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下、よりさらに好ましくは75μm以下、特に好ましくは50μm以下である。構造体の厚さが300μm以下であれば、乾燥時間が長くなったり、乾燥不良が発生したりするのを回避し、結果として、閉塞空間の形状や大きさにおけるばらつきを抑え、かつ、構造体が変質する等の問題を防ぎやすい。また、構造体の厚さが0.5μm以上であれば、構造体の強度が不足したり、閉塞空間内に保持できる流体が少なくなったりするのを防止しやすい。
構造体がシート状や帯状である場合、構造体の面積や長手方向の大きさに特に制限はなく、製造設備を用意できる範囲で任意の大きさとすることができる。なお、構造体がシート状や帯状以外の形状、例えば、塊状の形状を有する場合も、上述したのと同様の観点から、構造体の最大径を、好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは1cm以上、さらに好ましくは2.5cm以上、特に好ましくは5cm以上とし、また、好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは1m以下、よりさらに好ましくは50cm以下、特に好ましくは10cm以下とする。
【0019】
[セルロースナノファイバー(CNF)、及び、その他の成分]
構造体を構成するCNFの材質や形状等は、後述する組成物に配合されるCNFで説明するものがそのまま当てはまる。また、構造体に含有し得る、CNF以外の多糖類やその他の成分(徐放を目的として閉塞空間内に存在させる有機溶媒等の成分を除く)についても、後述する組成物に配合される成分がそのまま当てはまる。したがって、ここではこれらについての詳しい説明を省略する。
なお、後述する製造方法によって上記構造体を作製すると、界面活性剤などの分散剤を用いずとも、CNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物を生成することができ、この組成物を用いることで、構造体におけるCNF含有率を高くすることができる。したがって、本実施形態の構造体を、上述した流体保持用製品や徐放性を有する製品に適用した場合に、外部へ放出される流体に、不要な成分が混入するのを防止することができる。構造体の界面活性剤の含有量は、CNF100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、さらに好ましくは0.1質量部未満、さらに好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0.001質量部未満、最も好ましくは0質量部である。
また、上記構造体において、CNF以外の多糖類を含有してもよいが、上述した流体保持用製品や徐放性を有する製品において、外部へ放出される流体に不要な成分が混入するのを防止する観点から、その含有量は、CNFの全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、さらに好ましくは0.1質量部未満、よりさらに好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0質量部である。
構造体における界面活性剤の含有量の測定方法としては、界面活性剤を溶媒により抽出し、高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)や核磁気共鳴装置(NMR)等で化学組成の同定と定量を行う方法が挙げられる。また、同定の手段として、エネルギー分散型X線分析(EDX)や赤外分光法(IR)を用いることもできる。EDXの場合は、直接組成物を観測し、分析を行っても良い。多糖類も界面活性剤と同様の手順で同定及び定量することができる。
【0020】
[支持体]
本発明の一態様においては、支持体付きのシート状構造体50のように、構造体が支持体を備えている。支持体を設ける場合、構造体と支持体とを一体のものとしてもよいし、構造体を形成した後に支持体から構造体を分離してもよい。つまり剥離材等の、一時的に使用する保持体上にシート状構造体を形成してもよい。
前者の場合は、好ましくは、支持体の、前記組成物が塗布される面に易接着処理を施しておく。易接着処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等を用いることができる。また、例えば、アクリル樹脂、エステル樹脂、ウレタン樹脂などを用いて易接着層を設けることもできる。後者の場合は、組成物を塗布する面に剥離層が形成されたものを用いてもよいし、支持体全体が、構造体を剥離しやすい材料から構成されているものを用いてもよい。
支持体は、シート状構造体の用途に応じて適宜選択され、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、グラシン紙等の紙基材;これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙;アルミニウム箔や銅箔や鉄箔等の金属箔;不織布等の多孔質材料:ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂等の1種以上の樹脂を含む樹脂フィルム又はシート;等が挙げられる。
支持体は、単層フィルム又はシートであってもよく、2層以上の積層体である複層フィルム又はシートであってもよい。
また、樹脂フィルム又はシートは、未延伸でもよいし、縦又は横等の一軸方向あるいは二軸方向に延伸されていてもよい。
さらに、樹脂フィルム又はシートは、上述の樹脂のほかに、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、着色剤等が含有されていてもよい。
支持体の厚さは、シート状構造体の用途に応じて適宜選択されるが、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、また、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
【0021】
<構造体の製造方法>
CNFを含む膜から構成される複数の閉塞空間を有する構造体は、一態様として下記工程(1)~(2)を有する製造方法によって製造することができる。
・工程(1):CNFの水分散液に有機溶剤を添加して組成物を調製する工程。
・工程(2):前記組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥して、シート状構造体とする工程。
【0022】
以下、工程(1)を「組成物を準備する工程」、工程(2)を「構造体を得る工程」ということがある。工程(2)は、以下説明するように、支持体の一方の面に組成物を供給する工程(工程(2-1))、組成物を支持体に塗布する工程(工程(2-2))、支持体上に塗布された組成物を乾燥する工程(工程(2-3))を含む。
【0023】
図2は、製造工程中の一過程を示しており、組成物が支持体上に塗布された様子を示す模式図である。工程(1)で調製された組成物は、CNFを含む外殻を備える粒子を含んでおり、工程(2-1)~工程(2-2)において、この組成物が支持体上に塗布された時点では、図2に示すように、組成物30が、CNFを含む外殻を備える粒子32と、水を主体とする媒質34とを含んでいる。また、粒子32は、有機溶剤を主体とする液体もしくは空気、又はこれら両者を内部に含んでいる。この後、工程(2-3)において、水及び有機溶剤が乾燥により除去されて、図1(A)に示すように、CNFを含む膜による閉塞空間が多数形成された層(すなわち、シート状構造体)31が支持体40上に形成される。
なお、シート状構造体31や支持体付きのシート状構造体50を上述した流体保持用製品や徐放性を有する製品へ適用する場合、シート状構造体を特定の液体に浸漬して閉塞空間内に上記液体を封入したり、シート状構造体を特定の気体雰囲気下において特定種類の気体を閉塞空間内に封入したりすることができる。また、シート状構造体の製造工程中において、これらの流体が閉塞空間に含まれるようにしてもよい。例えば、工程(2-3)における乾燥後も閉塞空間33内に残るように、予め特定種類の有機溶剤(例えば、乾燥温度よりも高い沸点を有する有機溶剤)を組成物中に配合しておいてもよい。また、組成物の調製を特定種類の気体が満たされた雰囲気下で行うことで、閉塞空間内に流体を封入するようにしてもよい。
【0024】
[工程(1):組成物を準備する工程]
工程(1)においては、水分散液を撹拌しながら、有機溶剤を少量ずつ水分散液に供給することが好ましい。
水中にCNFが均一に分散された状態で、さらに有機溶剤が添加され、この有機溶剤も均一に分散されることにより、界面活性剤などの分散剤を用いなくても、水と有機溶剤の界面にCNFが集まってCNFを含む外殻を備える粒子が形成される。組成物においてCNFを含む外殻を備える粒子が形成される過程は、これに限られるものではないが、一つには以下のようなメカニズムによるものと推測される。つまり、CNFは両親媒性を有する不溶材料であるため、乳化に用いられた水と有機溶剤との界面に存在することで、エネルギー的に安定な状態を作り出す。加えて、CNFは不溶性であり、造膜性があることから、界面への局在化の結果、不可逆的独立相を形成する。こうして、組成物中で、CNFを含む外殻を備える粒子が形成されるものと考えられる。
均一分散したCNFを含む水分散液に有機溶剤が添加された際に、CNFが界面に局在化して生成される粒子は比較的安定性が高いと考えられる。このため、生成されたカプセル同士の結合による大径カプセルへの変化は発生しにくく、上記有機溶剤が添加された水分散液を十分に撹拌することにより、小径でしかも均一な粒子になると考えられる。また、撹拌によって空気が水分散液に巻き込まれ、先に生成した安定な複数の粒子に囲まれて固定されることにより、この空気も安定して保持されることも考えられる(この固定された空気も乾燥後に気泡となると考えられる)。結果的に、組成物全体において、過度な刺激を与えたり、意図的に一定又はそれ以上の圧力を加えたりしない限り、数ヶ月以上消失せず安定して存在する粒子になると考えられる。
【0025】
工程(1)においては、CNFを含む外殻を備える粒子が形成されずに、有機溶剤が水と相分離してしまうことを防止する観点から、水分散液の全量100質量部に対して、10秒毎の有機溶剤の添加量が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上、特に好ましくは5質量部以上、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、特に好ましくは7質量部以下となるように有機溶剤を添加する。有機溶剤を連続的に供給してもよいし、有機溶剤を断続的に供給してもよい。いずれにしても、水分散液に限られた量の有機溶剤を添加しながら撹拌することで、有機溶剤が水分散液に均一に分散され、結果として、CNFを含む外殻を備える粒子を良好に生成することができる。
【0026】
工程(1)においては、ホモディスパー、ミキサー、パドル翼等の撹拌翼を取り付けた撹拌装置を用いて、水分散液を撹拌しながら、有機溶剤を添加することが好ましい。撹拌翼を水分散液に接触させて撹拌することにより、CNFを含む外殻を備える粒子を効率よく生成することができる。
【0027】
水分散液を撹拌する際の撹拌速度(回転数)は、CNFの凝集を抑え、形成される粒子の形状及び大きさのばらつきを小さくする観点から、好ましくは500rpm以上、より好ましくは1000rpm以上、さらに好ましくは1500rpm以上、よりさらに好ましくは2000rpm以上であり、また、好ましくは5000rpm以下、より好ましくは4500rpm以下、さらに好ましくは4000rpm以下、よりさらに好ましくは3500rpm以下、特に好ましくは3000rpm以下である。
【0028】
撹拌時間は、CNFを含む外殻を備える粒子の形状や大きさを均一にする観点から、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、さらに好ましくは10分以上とする。また、撹拌時間の上限は、製造時間が長くなり過ぎるのを防止し、CNFを含む外殻を備える粒子の形状や大きさがばらつくのを回避する観点から、好ましくは180分以下、より好ましくは120分以下、さらに好ましくは60分以下、よりさらに好ましくは40分以下、特に好ましくは20分以下である。なお、撹拌時間とは、有機溶剤(C)の添加から撹拌を終了するまでの時間を指す。有機溶剤(C)を十分に分散させるとともに粒子の形成を促進させるため、必要量の有機溶剤(C)の添加終了後も、有機溶剤(C)添加開始からの上記時間が経過するまで撹拌を継続することが望ましい。
【0029】
また、水分散液の温度は、CNFの凝集を抑え、形成される粒子の形状及び大きさのばらつきを小さくする観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上であり、また、添加した有機溶剤の揮発を抑制する観点から、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは35℃以下である。
【0030】
工程(1)は、好ましくは80kPa以上、より好ましくは90kPa以上、さらに好ましくは95kPa以上で行い、また、好ましくは120kPa以下、より好ましくは110kPa以下、さらに好ましくは105kPa以下で行い、特に好ましくは大気圧下で行う。大気圧に近い条件で組成物を調製することにより、短時間で組成物を調製することができ、製造設備も簡素なものにすることができる。また、工程(1)は、空気又は不活性ガスの雰囲気中で行えばよい。空気雰囲気中であれば、製造設備を簡素にすることができ、不活性ガス雰囲気中であれば、組成物の失活等を抑制しやすくなる。なお、シート状構造体を、上述した流体を徐放する製品に適用する場合、特定種類の気体の雰囲気下で組成物を調製して、生成される粒子内にこの気体が封入されるようにしてもよい。
これらの、温度条件、圧力条件、及び、雰囲気条件は、後述する工程(2-1)、工程(2-2)についても当てはまる。
【0031】
[工程(1)で得られる組成物、及び、組成物の構成材料]
工程(1)によって調製される組成物は、CNF(A)、水(B)、及び、有機溶剤(C)を配合してなるものであって、CNF(A)を含む外殻を備える粒子を含有する。以下、CNF(A)、水(B)、及び、有機溶剤(C)をまとめて「成分(A)~(C)」と称することがある。
上記組成物において、有機溶剤(C)の少なくとも一部は、当該粒子に取り込まれた状態であり、具体的には、前記粒子に内包されている状態、及び、前記粒子の外殻を形成しているCNF(A)に吸着されている状態の少なくとも一方であることが好ましい。
ここで、「有機溶剤(C)が前記粒子に内包されている状態」とは、当該粒子が、CNF(A)を含む外殻から中空粒子を形成し、当該中空粒子の中空部分に有機溶剤(C)が取り込まれた状態を意味する。この際、中空粒子を構成する外殻によって、有機溶剤(C)は、中空粒子の外側から隔てられた状態となっている。
なお、本発明の一態様の組成物において、前記粒子は、有機溶剤(C)を内包しつつ、かつ、当該粒子の外殻を構成するCNF(A)が、有機溶剤(C)を吸着している状態であってもよい。本明細書において、「CNF(A)によって構成される外殻が有機溶剤(C)を吸着する」とは、CNF(A)によって構成される外殻の網目構造内に有機溶剤(C)が存在することを意味する。
【0032】
本発明の一態様の組成物において、前記粒子に取り込まれない有機溶剤(C)が存在していてもよい。
【0033】
(組成物中のCNFを含む外殻を備える粒子の平均粒子径)
構造体の閉塞空間の最大フェレ径の平均が上述した数値範囲になるようにするためには、組成物における、CNFを含む外殻を備える粒子の平均粒子径を適切な範囲に設定することが好ましい。
本発明の一態様の組成物に含まれる、前記粒子の平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは7μm以上、よりさらに好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、また、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下、よりさらに好ましくは35μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
前記粒子の平均粒子径が1μm以上であれば、粒子同士の凝集を抑制しやすくなり、また、構造体の閉塞空間が小さくなりすぎるのを防止しやすくなる。
また、前記粒子の平均粒子径が60μm以下であれば、粒子の浮上を抑制しやすくなる。
【0034】
また、本発明の一態様の組成物に含まれる、前記粒子の平均粒子径に対する標準偏差は、上述した流体を構造体内に保持させておき、必要な場合に構造体の開裂によって流体を外部に供給する用途において、流体の放出量を安定させる観点から、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは15μm以下、よりさらに好ましくは12μm以下であり、また、通常1μm以上である。
なお、本明細書において、前記粒子の平均粒子径、及び平均粒子径に対する標準偏差は、対象となる組成物を、デジタル顕微鏡を用いて倍率500~1000倍にて観察した際に取得した画像から算出することができる。
つまり、当該画像に写し出された前記粒子のうち、任意に選択した36個の粒子の粒径(外径)の平均値を上記の「平均粒子径」とすることができる。また、36個の各粒子の粒径の値から、「平均粒子径に対する標準偏差」も算出することができる。上記標準偏差は母集団の標準偏差であり、上記計算においては、36個の粒径の値の全てを対象として標準偏差を算出する。
【0035】
本発明の一態様に用いる組成物の23℃、回転数50rpmにおける粘度は、容器からの取り出しの容易性、撹拌の容易性、及び、沈降の抑制性等の観点から、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上、さらに好ましくは1200mPa・s以上であり、また、好ましくは20000mPa・s以下、より好ましくは15000mPa・s以下、さらに好ましくは12000mPa・s以下である。
なお、後述する工程(2-2)において、組成物を支持体に良好に塗布できるようにするために、組成物を支持体に塗布する際の温度において、組成物の粘度が上記数値範囲となるように材料を選択することが好ましい。
【0036】
また、本発明の一態様で用いる組成物の23℃でのTI値(回転数5rpmにおける粘度/回転数50rpmにおける粘度)は、貯蔵安定性、容器中に保存するときの沈降の抑制性、及び、容器からの取り出し容易性等の観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、よりさらに好ましくは4以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、よりさらに好ましくは8以下である。
また、本明細書において、組成物の粘度は、JIS Z 8803:2011に準拠して、B型粘度計を用いて測定した値を意味する。
【0037】
本発明の一態様で用いる組成物のpHは、形成される粒子が安定し、組成物中で分散状態を維持し易いという観点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、さらに好ましくは8以下である。
【0038】
本発明の一態様で用いる組成物は、上記成分(A)~(C)以外の成分を含有してもよい。
ただし、本発明の一態様の組成物において、CNF(A)、水(B)及び有機溶剤(C)の合計含有量は、前記組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下である。
【0039】
本発明の一態様で用いる組成物の有効成分濃度は、前記組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、よりさらに好ましくは1.5質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、よりさらに好ましくは10質量%以下である。
なお、本明細書において、「有効成分」とは、組成物に含まれる成分のうち、水(B)及び有機溶剤(C)を除いた成分を指す。
【0040】
CNF(A)を含む外殻を備え、有機溶剤(C)を取り込んだ粒子は、配合するCNF(A)の配合量、CNF(A)と有機溶剤(C)との配合量比、及び有機溶剤(C)の種類等を適宜調製することで、形成させ得る。
【0041】
なお、本発明の一態様で用いる組成物においては、後述のとおり、CNF(A)を水(B)に分散させた水分散液に、有機溶剤(C)を配合することで、前記粒子を形成するように組成物を調製している。より好ましい態様においては、CNF(A)を水(B)に分散させた水分散液に、非水溶系溶媒である有機溶剤(C)を配合することで、前記粒子を形成するように組成物を調製する。さらに好ましい態様においては、CNF(A)を水(B)に分散させた水分散液に、ハンセン溶解度パラメータの距離Raが5.80MPa1/2以下となる有機溶剤(C)を配合することで、前記粒子を形成するように組成物を調製する。
また、上記以外にも、CNF(A)の形状(直径、繊維長、アスペクト比)、水(B)及び有機溶剤(C)の配合量、水(B)と有機溶剤(C)との配合量比等を適宜設定することによっても、前記粒子を形成し易くなるように組成物を調製することができる。
【0042】
(セルロースナノファイバー(CNF)(A))
本発明の一態様で用いるCNF(A)の原料としては、例えば、木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ;クラフトパルプ又はサルファイトパルプを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース;粉末セルロースを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末;コウゾ、雁皮、三椏等の靭皮繊維パルプ;コットンパルプ、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料;等のセルロース系原料が挙げられる。植物由来のCNFは、結晶化度が高く直鎖構造を有しアスペクト比が大きいため、外殻の強度を高くでき、しかも入手しやすい。
【0043】
なお、これらの原料中に、リグニンが多く残留してしまうと、当該原料の酸化反応を阻害する恐れがあるため、これらの原料に対して、リグニンの除去を施した、セルロース系原料が好ましい。
また、上述のセルロース系原料を高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散装置、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザー等で微細化したものを使用することもできる。
【0044】
また、これらのセルロース系原料は、化学修飾及び/又は物理修飾して機能性を高めたものであってもよい。ここで、化学修飾としては、アセチル化、カルボキシ化、カルボキシナトリウム化、エステル化、シアノエチル化、アセタール化、エーテル化、アリール化、アルキル化、アクリロイル化、イソシアネート化等によって官能基を付加させること、及び、シリケートやチタネート等の無機物を化学反応やゾルゲル法等によって複合化や被覆化させること等が挙げられる。
また、物理修飾としては、金属やセラミック原料を、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、無電解メッキや電解メッキ等のメッキ法等によって表面被覆させることが挙げられる。
なお、これらの変性処理は、セルロース系原料を解繊時もしくは解繊する前後のいずれに行ってもよい。
【0045】
上述のセルロース系原料は、解繊してナノファイバー化することで、CNFとすることができる。
具体的な方法としては、セルロース系原料が水等の分散媒に分散している分散液を調製した後、セルロース系原料にせん断力を印加することで、CNFを含む分散液とする方法が挙げられる。
セルロース系原料にせん断力を印加する方法としては、水等の分散媒にセルロース系原料を添加した後、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置を用いて調製する方法が好ましい。
この際、分散液にかかる圧力は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上である。
このような高圧下で、セルロース系原料に強力なせん断力を印加する観点から、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0046】
本発明の一態様で用いるCNFの直径(太さ)の平均は、前記粒子を形成し易くするとともに、形成された粒子の膜強度を向上させる観点から、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.5nm以上、さらに好ましくは2.0nm以上、よりさらに好ましくは2.5nm以上であり、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下、よりさらに好ましくは100nm以下である。
【0047】
本発明の一態様で用いるCNFの繊維長の平均は、前記粒子を形成し易くするとともに、形成された粒子の膜強度を向上させる観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上、よりさらに好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは7.0μm以下、さらに好ましくは5.0μm以下、よりさらに好ましくは2.5μm以下である。
【0048】
本発明の一態様で用いるCNF(A)の平均アスペクト比は、前記粒子を形成し易くするとともに、形成された粒子の膜強度を向上させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であり、また、好ましくは10000以下であり、より好ましくは5000以下であり、さらに好ましくは3000以下、よりさらに好ましくは1000以下、特に好ましくは500以下である。
【0049】
なお、「アスペクト比」とは、対象であるCNFの太さに対する長さの割合〔長さ/太さ〕であり、CNFの「長さ」とは、当該CNFの最も離れた2点間の距離を指す。
また、対象となるCNFの一部分が、他のCNFと接触して「長さ」の認定が難しい場合には、対象のCNFのうち、太さの測定が可能な部分のみの長さを測定し、当該部分のアスペクト比が上記範囲であればよい。
CNF(A)の直径(太さ)及び繊維長は、透過型電子顕微鏡を用いて測定することができる。また、CNF(A)の直径(太さ)の平均及び繊維長の平均は、任意に選択した複数のCNFの直径(太さ)及び繊維長を測定し、それぞれの平均値を算出することで得られる。CNF(A)の平均アスペクト比は、こうして得られた直径(太さ)の平均と繊維長の平均とを用いて算出することができる。CNF(A)の直径(太さ)、繊維長、これらの平均値、及び、平均アスペクト比は具体的には実施例に示す方法で算出することができる。
【0050】
なお、本実施形態の製造方法では、組成物を調製する際に、CNFに対して過度のストレスが加わらないため、配合前のCNFの繊維径や繊維長は、シート状構造体においてもほぼそのまま維持される。したがって、上述したCNFの繊維径、繊維長、アスペクト比についての数値範囲は、組成物を調製する前のCNF、組成物調製後のCNF、及び、後述する組成物を用いて作製された構造体におけるCNFのいずれについてもそのまま当てはまる。
【0051】
(組成物中のCNFの含有量)
本発明の一態様で用いる組成物において、CNF(A)の配合量は、当該組成物の全量(100質量%)に対して、前記粒子を形成し易くするとともに、形成された粒子の膜強度を向上させる観点から、好ましくは0.7質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、よりさらに好ましくは1.2質量%以上であり、また、前記粒子を形成し易くするように、組成物の粘度を適切に調製する観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下、よりさらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0052】
(水(B))
本発明の一態様で用いる組成物において、水(B)は、そのほとんどが、前記粒子が備える外殻に吸着されているか、又は、前記粒子の外側に存在している。
ただし、水(B)の一部が、前記粒子の内部で有機溶剤(C)とともに内包されていてもよい。
【0053】
本発明の一態様で用いる組成物において、適度な粘度を有する組成物に調製するとともに、前記粒子を形成し易くする観点から、水(B)の配合量は、当該組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、よりさらに好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98.7質量%以下、さらに好ましくは98.5質量%以下である。
【0054】
本発明の一態様で用いる組成物において、適度な粘度を有する組成物に調製するとともに、前記粒子を形成し易くする観点から、CNF(A)100質量部に対する、水(B)の配合割合は、好ましくは500質量部以上、より好ましくは1000質量部以上、さらに好ましくは2000質量部以上、よりさらに好ましくは3000質量部以上であり、また、好ましくは20000質量部以下、より好ましくは15000質量部以下、さらに好ましくは10000質量部以下である。
【0055】
(水分散液)
CNF及び水を含む水分散液は、上述したように、セルロース系原料を水に分散させた後、セルロース系原料にせん断力を印加することで得られる分散液をそのまま水分散液として用いることができる。CNFの水分散液として市販されているものを用いることもできる。
水分散液のpHは、水分散液中でCNF(A)の凝集を抑え、形成される粒子の形状及び大きさのばらつきを小さくする観点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、さらに好ましくは8以下である。
【0056】
(有機溶剤(C))
有機溶剤(C)としては、水と混ぜた際に水に対して独立した相を形成し、かつ、水に添加して撹拌することで一時的に乳化状態をとり得るという観点から、非水溶系溶媒を用いることが好ましい。非水溶系溶媒を用いることで、界面活性剤等の分散剤を用いることなく、CNFを含む外殻を備える粒子を生成させることができる。
【0057】
有機溶剤(C)は、より好ましくは、下記式(1)で表される、25℃における、ハンセン溶解度パラメータの距離Raが5.80MPa1/2以下である。
【数1】

(前記式中、δDは、前記有機溶剤のハンセン溶解度パラメータの分散成分、
δPは、前記有機溶剤のハンセン溶解度パラメータの極性成分、
δHは、前記有機溶剤のハンセン溶解度パラメータの水素結合成分を示す。)
【0058】
ハンセン溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、ハンセン(Hansen)が、δD(分散成分)、δP(極性成分)、δH(水素結合成分)の3成分に分割し、3次元空間に示したものである。
なお、δD、δP、及びδHの値は、有機溶剤ごとに固有の値であって、特定の計算から算出された値である。
より具体的には、ハンセン溶解度パラメータの定義および計算方法は、「Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(Charles M. Hansen著、CRCプレス、2007年)」に記載されたとおりである。
また、本明細書において、δD、δP、及びδHの値は、計算ソフト「Hansen Solubility Parameters in Practice (HSPiP) Version4.1.03」(Steven Abbott,Charles M. Hansen,Hiroshi Yamamoto著)に含まれる、データベースの値を用いた。
【0059】
本発明者らは、配合する有機溶剤(C)の種類によって、前記粒子の形成されやすさに違いがあることに着目した。
そして、それぞれの有機溶剤のハンセン溶解度パラメータを3次元空間にプロットしたところ、当該3次元空間内において、前記粒子が形成される場合に用いた有機溶剤は、ある領域に密集して分布していることがわかった。
そこで、前記粒子が形成された有機溶剤のプロットが全て内側に含まれ、前記粒子が形成されなかった有機溶剤のプロットが外側にくるような、最大の球(相互作用球)を作図したところ、当該球の半径は「5.80MPa1/2」となった。
式(1)から算出される距離Raは、ハンセン溶解度パラメータの3次元空間における、対象となる有機溶剤のプロットと、当該球の中心との距離を意味する。つまり、距離Raが、当該球の半径である「5.80MPa1/2」以下であれば、対象となる有機溶剤のプロットは、当該球の内側に位置しており、前記粒子を形成しやすい溶剤であると判断し得る。
【0060】
後述の実施例及び比較例で用いた、代表的な有機溶剤のδD、δP、及びδHの値、並びに、上記式(1)から算出される距離Ra(いずれも単位は「MPa1/2」)を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、距離Raが5.80MPa1/2以下の有機溶剤(C)は、ヘプタン、n-ヘキサデカン、メチルエチルケトン、n-ドデカンである。後述の実施例に示すとおり、これらの有機溶剤を用いた場合には、前記粒子が形成しやすいとの結果が得られた。
この結果に鑑みれば、表1に示す有機溶剤以外であっても、距離Raが5.80MPa1/2以下となる有機溶剤(C)であれば、前記粒子が形成しやすくなると推測される。
なお、表1に示された以外の有機溶剤のδD、δP、及びδHの値は、その有機溶剤の分子構造等から算出することができ、もしくは、表1に示すようなδD、δP、及びδHの値が各種文献等により既知である有機溶剤との溶解性についての実験を行うことでも算出可能である。
【0063】
有機溶剤(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用した混合溶剤としてもよい。
有機溶剤(C)が混合溶剤の場合、混合溶剤の混合比(体積比)から、加重平均のハンセン溶解度パラメータの3成分(δD、δP、δH)の値を求め、上記式(1)から算出した距離Raが5.80MPa1/2以下となることが好ましい。
そのため、単体では距離Raが5.80MPa1/2超となる有機溶剤であっても、距離Raが5.80MPa1/2以下の他の有機溶剤と、適切な体積比で混合し、距離Raを5.80MPa1/2以下となるように調製した混合溶剤とすることで、前記粒子の形成しやすい有機溶剤(C)とすることも可能である。
つまり、単体では距離Raが5.80MPa1/2超となる有機溶剤を取り込んだ粒子を含む組成物を得たい場合には、上記のような混合溶媒を用いることで、調製しやすくなると考えられる。
【0064】
なお、距離Raが5.80MPa1/2以下となる有機溶剤(C)を用いることで、他の有機溶剤を用いる場合に比べて、前記粒子は形成しやすいものと考えられるが、粒子が形成し得るか否かは、さらに、CNF(A)、水(B)及び有機溶剤(C)の配合量や、CNF(A)の形状、及び修飾基の選択によっても変化する。
そのため、距離Raが5.80MPa1/2以下となる有機溶剤(C)を用いるとともに、本明細書の各成分の項目に記載の事項を適宜考慮して、より容易に前記粒子を形成できるように調製することが好ましい。
【0065】
本発明の一態様で用いる有機溶剤(C)は、炭素数20未満の有機溶剤(C1)を含むことが好ましい。
炭素数20未満の有機溶剤(C1)は、CNF(A)に取り込まれ易く、前記粒子が形成され易い。
つまり、炭素数が大きい有機溶剤は、有機溶剤の分子同士が集まり易く、また、粘度が高いため、真球に近い粒子の形成が行われ難くなる。その結果、このような有機溶剤は、セルロースナノファイバー(A)に取り込まれずに、前記粒子の外側に残存する割合が多くなると考えられる。
【0066】
上記観点から、有機溶剤(C)中の有機溶剤(C1)の配合割合は、有機溶剤(C)の全量(100質量%)基準で、好ましくは20質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、よりさらに好ましくは70質量%以上である。
【0067】
本発明の一態様で用いる組成物において、前記粒子を形成し易くする観点から、有機溶剤(C)の配合量は、当該組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、よりさらに好ましくは0.8質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、よりさらに好ましくは42質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは38質量%以下である。
【0068】
(組成物中の有機溶剤の含有量)
本発明の一態様で用いる組成物において、前記粒子を形成し易くする観点から、CNF(A)100質量部に対する、有機溶剤(C)の配合割合は、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、よりさらに好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは75質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上であり、また、好ましくは6000質量部以下、より好ましくは4500質量部以下、さらに好ましくは4000質量部以下、よりさらに好ましくは3500質量部以下である。
【0069】
(水と有機溶剤の割合)
本発明の一態様で用いる組成物において、前記粒子を形成し易くする観点から、水(B)と有機溶剤(C)との配合量比〔(B)/(C)〕は、質量比で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.0以上、よりさらに好ましくは1.5以上であり、また、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは500以下、よりさらに好ましくは300以下、特に好ましくは100以下である。
【0070】
(他の成分)
本発明の一態様で用いる組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)~(C)以外の他の成分を含有してもよい。
このような他の成分としては、前記組成物の用途に応じて適宜選択されるが、例えば、着色剤、酸化防止剤、pH調整剤、甘味料等が挙げられる。
【0071】
本発明の一態様で用いる組成物において、界面活性剤を含有してもよい。
ただし、界面活性剤を含む組成物を人体に触れる用途に使用する場合、特に、敏感肌の使用者にとって、当該界面活性剤は浸透剤及び刺激的な刺激物ともなる。また、界面活性剤を含む組成物は、当該組成物の物性の安定性に影響を与える懸念もある。さらに、保持体を、上述した流体保持用製品や流体を徐放する製品に適用する場合、構造体の開裂によって放出される流体や膜を通じて放出される流体に界面活性剤が混入する恐れや、界面活性剤が構造体の物性の安定性に影響を与え、流体の保持性が損なわれたりするおそれがある。
そのため、本発明一態様の組成物において、界面活性剤の含有量は少ないほど好ましい。
上記観点から、本発明の一態様で用いる組成物において、界面活性剤の含有量は、CNF(A)の全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、さらに好ましくは0.1質量部未満、よりさらに好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0.001質量部未満、最も好ましくは0質量部である。組成物における界面活性剤の含有量をこのように調整することで、構造体における界面活性剤の含有量を上述した範囲内とすることができる。
【0072】
また、本発明の一態様で用いる組成物において、CNF(A)以外の多糖類を含有してもよいが、前記粒子の熱的安定性を向上させること、及び、前記粒子を形成し易くする観点から、当該多糖類の含有量は少ないほど好ましい。
上記観点から、本発明の一態様で用いる組成物において、CNF(A)以外の多糖類の含有量は、CNF(A)の全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、さらに好ましくは0.1質量部未満、よりさらに好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0質量部である。組成物における、CNF(A)以外の多糖類の含有量をこのように調整することで、構造体における、CNF(A)以外の多糖類の含有量を上述した範囲内とすることができる。
【0073】
[工程(2)]
工程(2)においては、組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥してシート状構造体とする。工程(2)においては、工程(1)で調製した組成物中の、CNFを含む外殻を備える粒子に過度なストレスがかかるのを回避する観点から、好ましくは、まず組成物を支持体上に供給し(工程(2-1))、次に支持体上の組成物を均一に押し広げて塗布する(工程(2-2))。
(工程(2-1):支持体の一方の面に組成物を供給する工程)
工程(2-1)においては、例えば、組成物の入った容器を傾けて組成物を自重で容器から支持体へと徐々に移動させることにより、CNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物を支持体上に供給する。また、ポンプ等を用いて上記組成物を支持体上に供給しても良い。
工程(2-1)における、温度条件、圧力条件、及び、雰囲気条件は、工程(1)で説明したのと同様に設定すればよい。
【0074】
(工程(2-2):組成物を支持体に塗布する工程(工程(2-2)))
工程(2-2)においては、工程(2-1)で支持体上に供給された組成物を、塗布装置を用いて支持体上に塗布する。一態様においては、アプリケーターを支持体の平面に沿う方向に沿って、支持体に対して相対移動させ、組成物を支持体に塗布する(工程(2-2))。
ここで、塗膜を形成する際のコーティングギャップは、CNFを含む膜で構成される閉塞空間を良好な形状で十分な数だけ形成するとともに、乾燥に時間を要したり比較的高温での加熱が必要になったりする結果、塗布後の組成物における一部の粒子が、壊れたり消失したりするのを防止する観点から、好ましくは30μm以上、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは150μm以上、よりさらに好ましくは200μm以上であり、また、好ましくは1250μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは750μm以下、よりさらに好ましくは500μm以下とする。
【0075】
組成物の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、エアーナイフコート法、ディップコート法等が挙げられる。中でも、ナイフコート法、グラビアコート法が好ましい。
工程(2-2)においては、組成物中の、CNFを含む外殻を備える粒子が塗布によって壊れることを回避する観点から、上記粒子の直径よりも大きいギャップを形成し得る治具を用いることが好ましい。この場合、治具が形成するギャップを、CNFを含む外殻を備える粒子の直径の、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは7.5倍以上、さらにより好ましくは9倍以上であり、好ましくは62.5倍以下、より好ましくは50倍以下、さらに好ましくは37.5倍以下、さらにより好ましくは25倍以下とする。
【0076】
工程(2-2)においては、有機溶剤の揮発を防止する観点から、組成物の温度が、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは35℃以下となる環境下で塗布を行う。また、組成物の粘性が高くなりすぎて塗布層が均一に形成できなくなったり、CNFを含む外殻を備える粒子が損傷したりするのを防ぐ観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上となる環境下で塗布を行う。
工程(2-2)における、圧力条件、及び、雰囲気条件は、工程(1)で説明したのと同様に設定すればよい。
【0077】
なお、ダイコーターのような塗布装置を用いて、組成物を支持体に供給すると同時に塗布を行う(つまり、工程(2-1)と工程(2-2)を同時に行う)ことも可能であるが、この場合は、組成物中の、CNFを含む外殻を備える粒子に過度なストレスが加わらないように、射出条件等を調整することが好ましい。
【0078】
(工程(2-3):支持体上に塗布された組成物を乾燥する工程)
工程(2-3)においては、支持体上に塗布された組成物の層を加熱等により乾燥することにより、CNFを含む膜で構成された複数の閉塞空間を備える層を形成する。具体的には、支持体上に塗布された組成物の層を、ヒーター等によって乾燥し、粒子の内部に取り込まれているものも含めて、組成物から水や有機溶剤を蒸発させることにより、CNFを含む膜で構成された複数の閉塞空間を備える層を形成する。
工程(2-3)においてCNFを含む膜で構成される閉塞空間が形成される機構は、必ずしもこれに限られるものではないが、次のように推測される。つまり、組成物の層から水と有機溶剤が揮発する過程において、隣接する粒子同士で粒子の一部が固着したり、一部の粒子がより安定な位置へ移動したりして、粒子間の隙間が徐々になくなり、その一方、有機溶剤と水との界面に集まったCNFが安定に存在するため、CNFを含む膜が破壊されることなく、最終的に密な閉塞空間が形成されるものと推測される。
【0079】
工程(2-3)においては、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110℃以上であり、また、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは130℃以下で乾燥を行う。90℃以上で乾燥することにより、水と有機溶剤が速やかに除去され、良好な形状の閉塞空間を形成しやすくなる。150℃以下で乾燥することにより、閉塞空間の形状や大きさが不均一になったり、支持体が変形したりするのを防止しやすくなる。
工程(2-3)における、圧力条件、及び、雰囲気条件は、工程(1)で説明したのと同様に設定すればよい。
【0080】
工程(2-3)においては、水と有機溶剤が除去されずに残存して、閉塞空間の形状が崩れるのを防止する観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、さらに好ましくは1分以上、よりさらに好ましくは5分以上、よりさらに好ましくは10分以上、また、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは30分以下の時間をかけて乾燥する。
【実施例
【0081】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の製造例及び実施例における物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0082】
<CNFの直径(太さ)の平均、長さの平均、平均アスペクト比>
透過型電子顕微鏡(カールツァイス社製、製品名「LEO912」)を用いて、任意に選択した10本のCNFの直径(太さ)及び長さを測定し、10本の平均値を、対象となるCNFの「直径(太さ)の平均」及び「長さの平均」とした。また、「長さの平均/直径(太さ)の平均」を平均アスペクト比とした。
<水分散液、組成物のpH>
23℃、相対湿度50%の環境下、コンパクトpHメータ(株式会社堀場アドバンスドテクノ製、製品名「LAQUAtwin pH-22B」)を用いて、pH4.01標準液とpH6.86標準液の2点校正を行った後、平面センサ全体を覆うように試料を滴下して測定した。
【0083】
(実施例1)
1.組成物1の調製
組成物1の調製に際し、下記の市販品のCNFを含む水分散液(1)を使用した。
・水分散液(1)製品名「BiNFi-s AMa10002」、株式会社スギノマシン製。直径(太さ)の平均=76.8nm、長さの平均=1.4μm、平均アスペクト比=18.2である、機械処理型のCNFを2質量%含む水分散液。
水分散液(1)は、CNF100質量部に対して、水を4900質量部含有するものであり、水分散液(1)のpH=7.0であった。
水分散液(1)5000.0質量部(CNF100.0質量部)を容器に投入し、超高速マルチ攪拌システム(プライミクス社製、製品名「ラボ・リューション(登録商標)」、撹拌羽:ホモディスパー(同社製、羽の直径35mm))を用いて、23℃の水分散液を、回転数3000rpmで撹拌した。撹拌開始後、n-ドデカンを、水分散液の全量100質量部に対して、10秒毎に5質量部の速さで添加した。上記水分散液5000.0質量部(CNF100.0質量部)に対して、n-ドデカンが100質量部となるまでn-ドデカンの添加を続け、撹拌開始から10分経過後に撹拌を終了し、CNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物1を調製した。
【0084】
2.シート状構造体1の作製
組成物1を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)、品番「A4100」、厚さ:50μm)の易接着層面に静かに載置し、アプリケーター(コーティングギャップ:254μm(10mil))を用いて組成物1を上記フィルムに塗布した。さらに、120℃で10分間加熱して乾燥することにより、シート状構造体1を作製した。
組成物1の調製から塗布までの工程は、全て、空気雰囲気中で、大気圧下、23℃の条件で行った。この後、120℃で10分間加熱して乾燥することにより、シート状構造体1を作製した。
【0085】
(実施例2~5)
n-ドデカンの総添加量を、それぞれ、500質量部、1000質量部、2000質量部、3000質量部に変えた以外は、実施例1と同じ手順でCNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物2~5を調製した。そして、それぞれ、組成物1に代えて組成物2~5を用いた以外は実施例1と同じ手順でシート状構造体2~5を作製した。
【0086】
(実施例6)
アプリケーターのコーティングギャップを762μm(30mil)に変更した以外は実施例5と同じ手順で、組成物1を上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの易接着層面に塗布した。さらに、乾燥時間を20分に変更した以外は実施例5と同じ手順で、シート状構造体6を作製した。
【0087】
(実施例7~9)
n-ドデカン100質量部に代えて、それぞれ、メチルエチルケトン(MEK)100質量部、ヘプタン100質量部、n-ヘキサデカン100質量部を用いた以外は、実施例1と同様の手順でCNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物7~9を調製した。そして、それぞれ、組成物1に代えて組成物7~9を用いた以外は、実施例1と同じ手順でシート状構造体7~9を作製した。
【0088】
(実施例10)
n-ドデカンの添加総量を10質量部に変えた以外は、実施例1と同様の手順でCNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物10を調製した。そして、組成物1に代えて組成物10を用いた以外は、実施例1と同じ手順でシート状構造体10を作製した。
【0089】
(実施例11)
1.組成物11の調製
組成物11の調製に際し、下記の市販品のCNFを含む水分散液(2)を使用した。
・水分散液(2):製品名「TEMPO酸化CNF」、日本製紙株式会社製。直径(太さ)の平均=3.8nm、長さの平均=0.7μm、平均アスペクト比=184である、化学処理型のセルロースナノファイバーを1質量%含む水分散液。
水分散液(2)は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、水を9900質量部含有するものであり、水分散液(2)のpH=7.0であった。
水分散液(2)5000.0質量部(CNF100.0質量部)を容器に投入し、超高速マルチ攪拌システム(プライミクス社製、製品名「ラボ・リューション(登録商標)」、撹拌羽:ホモディスパー(同社製、羽の直径35mm))を用いて、23℃の水分散液を、回転数3000rpmで撹拌した。撹拌開始後、n-ドデカンを10秒毎に5質量部の速さで添加した。上記水分散液5000.0質量部(CNF100.0質量部)に対して、n-ドデカンが100質量部となるまでn-ドデカンの添加を続け、撹拌開始から10分経過後に撹拌を終了し、CNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物11を調製した。
【0090】
2.シート状構造体11の作製
組成物11を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)、品番「A4100」、厚:さ50μm)の易接着層面に静かに載置し、アプリケーター(コーティングギャップ:254μm(10mil))を用いて組成物10を上記フィルムに塗布し、さらに、120℃で10分間加熱して乾燥することにより、シート状構造体11を作製した。
組成物11の調製から塗布までの工程は、全て、空気雰囲気中で、大気圧下、23℃の条件で行った。この後、120℃で10分間加熱して乾燥することにより、シート状構造体11を作製した。
【0091】
(実施例12)
n-ドデカンの総添加量を3000質量部に変えた以外は、実施例11と同じ手順でCNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物12を調製した。そして、組成物11に代えて組成物12を用いた以外は実施例11と同じ手順でシート状構造体12を作製した。
【0092】
(実施例13)
n-ドデカン100質量部に代えて、n-ヘキサデカン200質量部を用いた以外は、実施例11と同様の手順でCNFを含む外殻を備える粒子を含む組成物13を調製した。そして、組成物11に代えて組成物13を用いた以外は、実施例11と同じ手順でシート状構造体13を作製した。
【0093】
(比較例1)
n-ドデカン100質量部を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の手順で組成物C1を調製した。撹拌時間は実施例1と同様に10分間とした。そして、組成物1に代えて、組成物C1を用いた以外は実施例1と同様の手順でシート状構造体C1を作製した。
【0094】
(比較例2~5)
n-ドデカン100質量部に代えて、それぞれ、ヘキサン100質量部、ジメチルスルホキシド(DMSO)100質量部、アニリン100質量部、エタノール100質量部を用いた以外は、実施例1と同様の手順で組成物C2~C5を調製した。そして、それぞれ、組成物1に代えて、組成物C2~C5を用いた以外は、実施例1と同様の手順でシート状構造体C2~C5を作製した。
実施例及び比較例で調製した組成物の各成分等を表2にまとめた。
【0095】
【表2】
【0096】
組成物1~13、C1~C5、及び、シート状構造体1~13、C1~C5について、以下の手順で測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0097】
<閉塞空間の有無>
各シート状構造体を厚さ方向に切断した。そして、各々の切断面を、SEMによって観察し、中空の閉塞空間が形成されているか否かを確認した。図3に、シート状構造体6の厚さ方向の断面のSEM画像の一例を示す。
【0098】
<CNFを含む膜の平均厚さ>
走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製S-4700型)を用いて各シート状構造体の上記切断面を観察し、得られた拡大画像から36個の閉塞空間を任意に選択し、それぞれを構成する任意の辺を一つ特定し、その辺の略中央の厚さを測定した。それらの平均値を算出することにより、複数の閉塞空間の、CNFを含む膜の厚さの平均とした。
【0099】
<構造体の閉塞空間の最大フェレ径とその平均>
各シート状構造体の上記切断面をSEM観察し、得られたSEM画像から36個の閉塞空間を任意に選択し、それぞれの最大フェレ径を測定し、それらの平均値を算出することにより、最大フェレ径の平均とした。
<b/a>
各シート状構造体の上記切断面をSEM観察し、得られたSEM画像から36個の閉塞空間を任意に選択し、各々について、構造体の厚さ方向の最大長さaと、構造体の平面方向の最大長さbとを測定してb/aの値を求め、それらの平均値を算出することにより、b/aの値とした。
【0100】
<構造体の厚さと嵩密度>
以下の手順で、支持体付きのシート状構造体の質量と厚さを測定した。そして、これらを用いて、支持体無しのシート状構造体の嵩密度を算出した。
質量:支持体付きのシート状構造体を100mm×100mmの大きさに切断した後、質量を測定し、既知である支持体の質量を減じることで、支持体無しのシート状構造体の質量を算出した。
厚さ:定圧膜厚計を用いて、支持体を含むシート状構造体全体の厚さを測定し、既知である基材の厚さを減じることで、支持体無しのシート状構造体の厚さ(図1(A)の符号Lに相当)を算出した。
【0101】
<耐圧性>
各シート状構造体の表面に、半径1.5cm、質量145gの円柱状の金属製の重りを載せ(1MPaに相当)、1分間静置した後、重りの形状が各シート状構造体に転写しているか否かを確認することにより、耐圧性を評価した。上記手順を実行しても、シート状構造体の表面に重りの形状が転写しなかった場合、耐圧性が良好であると判断し、評価「A」とした。上記手順によってシート状構造体の表面に重りの形状が転写した場合、耐圧性に劣ると判断し、評価「F」とした。
【0102】
【表3】
【0103】
表3から明らかなように、実施例1~13においては、界面活性剤等の分散剤を用いることなく、組成物中にCNFを含む外殻を備える粒子を生じさせることができた。また、実施例1~13においては、組成物を支持体に塗布し乾燥することで、CNFを含む膜から構成される多数の閉塞空間を備え、自己保持性を有するシート状構造体を得ることができた。図3は、実施例6で作製されたシート状構造体1の厚さ方向の断面のSEM画像である。シート状構造体1~13の全てが、図3のSEM画像に示された閉塞空間と同様に、隣り合う一組の閉塞空間がCNFを含む膜を共有する構造を有していることを確認した。実施例1~13のシート状構造体においては、閉塞空間の最大フェレ径の平均が、1~60μmの範囲にあり、小径の閉塞空間を形成することができた。また、シート状構造体1~13は、耐圧性の評価でいずれも重りの形状の転写は観察されず、高い耐圧性を有しており、ロール状に巻いてもつぶれない程度の強度を有していることが判った。
【0104】
実施例1~5、9から明らかなように、有機溶剤の使用量を調整することで、閉塞空間の最大フェレ径の平均、CNFを含む膜の厚さ、構造体の厚さ、b/aの値、及び、構造体の嵩密度を変化させ得ることが判る。また、シート状構造体におけるCNFを含む膜の厚さが小さくなるほど、シート状構造体は厚くなり、かつ、シート状構造体の嵩密度は小さくなることが判る。組成物に含まれる、CNFを含む外殻を備える粒子の大きさが比較的小さい場合、カプセルの内部空間の容積当たりの、カプセル外殻の厚さの影響が、大径カプセルにおけるそれよりも大きいため、カプセル外殻の膜厚が様々であることによって、粒子内の空間の大きさもより大きく変化し、最終的に得られる構造体における、閉塞空間の最大フェレ径の平均、CNFを含む膜の厚さ、b/aの値に影響を与えるものと推測される。このことは、カプセルが比較的小径であるが故に、カプセルの外殻の厚さを調整することによって、構造体になったときの空間率をある程度制御し得る可能性を示唆している。
また、実施例1及び実施例7~9から明らかなように、有機溶剤の種類を変更することによっても、組成物に含まれる、CNFを含む外殻を備える粒子の大きさを変化させ得ることが判る。
【0105】
さらに、実施例5、6から明らかなように、組成物を塗布する際にアプリケーターのギャップを変更して塗布された組成物の厚みを変えることで、閉塞空間の最大フェレ径の平均、及び、CNFを含む膜の厚さをほとんど変えることなく、構造体の厚さを大きく変えられることが判る。
さらに、実施例11~13から明らかなように、CNFの種類を変更した場合でも、上述したのと同様の傾向を示すことが判る(つまり、有機溶媒の種類や添加量を変えることによって、閉塞空間の最大フェレ径の平均、CNFを含む膜の厚さ、構造体の厚さ、b/aの値、及び、構造体の嵩密度を変化させ得る)。
一方、比較例1~5では、組成物中に、CNFを含む外殻を備える粒子を生成することができず、結果として、構造体にCNFを含む膜から構成される閉塞空間を生じさせることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の製造方法によって得られるシート状構造体は、CNFを含む膜から構成される閉塞空間を複数備え、複数の閉塞空間の大きさが小さい構造体とすることができる。したがって、例えば、閉塞空間の内部に流体を保持させておき、必要になった場合に圧力を加えて構造体の一部を開裂し流体を外部へ供給する構造体や、閉塞空間内に保持した流体を徐々に放出し得る徐放性の構造体として使用することができる。また、断熱材、吸着材、吸音材、絶縁材料、フレキシブルプリント配線基板用の基材、包装材料等として使用できる。さらに、構造体を指で強く押したときに閉塞空間が圧縮破壊されて、構造体表面に指紋を含む押圧痕が残るので、痕跡記録材として使用することもできる。
【符号の説明】
【0107】
30:組成物
31:複数の閉塞空間を有する層(シート状構造体)
32:CNFを含む外殻を備える粒子
33、33a、33b:閉塞空間
34:水を主体とする媒質
35:CNFを含む膜
35a:隣り合う一組の閉塞空間で共有される膜
40:支持体
40a:塗布面
50:支持体付きのシート状構造体
a:閉塞空間の構造体の厚さ方向の最大長さ
b:閉塞空間の構造体の平面方向の最大長さ
df:閉塞空間の最大フェレ径
dm:CNFを含む膜の厚さ
L:複数の閉塞空間を有する層の厚さ
図1
図2
図3