IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キッツの特許一覧

<>
  • 特許-極低温用グローブ弁 図1
  • 特許-極低温用グローブ弁 図2
  • 特許-極低温用グローブ弁 図3
  • 特許-極低温用グローブ弁 図4
  • 特許-極低温用グローブ弁 図5
  • 特許-極低温用グローブ弁 図6
  • 特許-極低温用グローブ弁 図7
  • 特許-極低温用グローブ弁 図8
  • 特許-極低温用グローブ弁 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】極低温用グローブ弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 1/32 20060101AFI20231115BHJP
   F16K 1/48 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
F16K1/32 C
F16K1/48 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020554978
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043014
(87)【国際公開番号】W WO2020091037
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018206409
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】細川 充
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 哲弥
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-018637(JP,U)
【文献】特開2012-092923(JP,A)
【文献】特開2005-121160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/00 - 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボデーにロングネック構造の軸筒部を延設した極低温用グローブ弁であって、長尺状のステムの下端部に設けた挿入部に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体の上部に設けた取付部を挿入し、前記挿入部と前記取付部には、前記ステムの長さ方向と交叉する方向に貫通孔を形成し、この貫通孔に固定部材を挿通させて前記取付部と前記ステムの下端部とを取り付け、前記固定部材と前記貫通孔との間に隙間を設け、前記樹脂製弁体が熱収縮した際に、前記隙間に対して前記樹脂製弁体が可動可能なクリアランスを維持させ、極低温条件下でも前記樹脂製弁体が前記ステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けたことを特徴とする極低温用グローブ弁。
【請求項2】
ボデーにロングネック構造の軸筒部を延設した極低温用グローブ弁であって、長尺状のステムの下端部に設けた取付部に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体の上部に設けた挿入部を挿入し、前記取付部と前記挿入部には、前記ステムの長さ方向と交叉する方向に貫通孔を形成し、この貫通孔に固定部材を挿通させて前記挿入部と前記ステムの下端部とを取り付け、前記固定部材と前記貫通孔との間に隙間を設け、前記樹脂製弁体が熱収縮した際に、前記隙間に対して前記樹脂製弁体が可動可能なクリアランスを維持させ、極低温条件下でも前記樹脂製弁体が前記ステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けたことを特徴とする極低温用グローブ弁。
【請求項3】
ボデーにロングネック構造の軸筒部を延設した極低温用グローブ弁であって、長尺状のステムの下端部に設けた取付溝に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体の上部に設けた係合部を係合させ、前記樹脂製弁体と前記ステムの下端部とを所定の隙間を介して取り付け、前記樹脂製弁体は、弁体表面側となる略ディスク状の鍔部と、この鍔部の上部に設けられた前記係合部とを有し、この係合部の外径は、前記鍔部の外径よりも小さく設けられ、前記樹脂製弁体が熱収縮した際に、前記隙間に対して前記樹脂製弁体が可動可能なクリアランスを維持させ、極低温条件下でも前記樹脂製弁体が前記ステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けたことを特徴とする極低温用グローブ弁。
【請求項4】
前記ボデーに設けた弁座シール面の角度よりも前記樹脂製弁体の弁体シール面の角度が小さくなるようにした請求項1乃至3の何れか1項に記載の極低温用グローブ弁。
【請求項5】
極低温条件下の前記貫通孔と前記固定部材との間の前記クリアランスの縦幅は、前記樹脂製弁体のシール径に対し、0.5%以上とした請求項1又は2に記載の極低温用グローブ弁。
【請求項6】
前記軸筒部の上端にグランド部を設け、このグランド部側に極低温流体が流入しないように前記軸筒部の上部をベローズ構造とすると共に、前記グランド部から大気圧を超える圧力の前記極低温流体が漏れ出る程度のグランド封止構造とした請求項1乃至5の何れか1項に記載の極低温用グローブ弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温用グローブ弁に関し、特に、液化水素用として好適な極低温用グローブ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、石油化学産業、石油精製産業、各種の化学工業などの低温工業の分野を中心として、例えば沸点が-40~-100℃程度の範囲にある液化アンモニア、プロパン、エタン、エチレン、或は、クリーンなエネルギー源として石油を補完する-163℃の液化天然ガス(LNG)、さらには宇宙開発機器産業における-183℃の液化酸素や-195.8℃の液化窒素など、各種の低温~極低温流体の移送や貯蔵などの場面で、グローブ、ボール、ゲート、バタフライといった各種のタイプの弁の低温流体制御用バルブが用いられているが、とりわけ(単座式)グローブ弁は、弁閉時の弁座リーク量が極めて小さく、特に手動ハンドルを備えたタイプは、このようなバルブの中で最も多用されてきている。このような低温用バルブでは、低温流体の使用に伴う各種の課題に対応するため、ボデーやボンネット、パッキンなどのバルブ部品素材の選定水準や製造工程に対しても、常温で流体を制御するバルブと比較した場合、極めて高度な品質が要求されることが通常である。
【0003】
特に近年、京都議定書の発効など、二酸化炭素排出量の世界的な規制に伴い、クリーン燃料として水素の需要も高まりつつある。水素は、原理的には、燃焼させた際に二酸化炭素を生じる天然ガスなどと異なり、水を生じるのみであるから、クリーンなエネルギー源として理想的である一方で、分子量が極めて小さいため、沸点は-252.8℃にも達するので、例えば、極低温下と常温下との間の材質特性が著しく変化する点や、水素ガスは鋼材中に容易に吸収されて鋼材の強度を低下させる水素脆化を引き起こす点など、水素流体を扱うバルブにおいても、水素特有の課題が知られている。
【0004】
従来から、液化水素まで使用流体とし得る極低温用グローブ弁としては、特許文献1~4が知られている。これらのバルブは、何れも、低温流体に接する流路と常温下に設けられる操作ハンドル(操作部)との距離が大きく離れた遮熱構造が採られており、特に同文献2~4は、バルブの内外を真空断熱して液体の気化(ボイルオフ)を防ぐための真空ジャケットが備えられ、液化水素用として考慮された極低温用グローブ弁を開示している。
【0005】
特許文献1は、温度低下に起因した樹脂製弁体収縮の影響を受けないようにする点を課題としており、同文献の樹脂製弁体は、環状樹脂製のソフトパッキンが環状の弁座にフラットに着座するフラットシール構造であって、このソフトパッキンは、弁閉時にも1次側流路に曝されるシート押えとナットとで固定されて着脱自在に取り付けられている。また、極低温における全閉状態においては、ソフトパッキンがステムで最下位置まで下降した状態で、さらに所定の隙間の分だけ下降した状態となり、この状態ではシール圧補正バネが樹脂製弁体を弾発して全閉状態のシール圧が保たれると記載されている。
【0006】
より具体的には、この隙間に関しては、樹脂製弁体は弁棒の先端外周に温度低下による軸方向最大収縮代よりも大きな軸方向相対移動が許容される状態に装着され、この収縮代より大きな隙間として弁押さえと有底円筒部との間に設けられていると記載されている。なお、具体的な全閉動作としては、弁押さえと径方向膨出部とが接しており隙間が生じていない範囲(パッキンが弁座に触れていない範囲)においては、樹脂製弁体は弁押さえ(回り止め部材)を介して弁棒先端外周と一体に回動し、パッキンが弁座に当たった後は、弁棒先端外周は弁押さえの内周に固着しておらず嵌っているので、弁棒がさらに下降して弁押さえが径方向膨出部から離れて隙間が生じるものと解される。
【0007】
特許文献2は、ステム下端面の中心位置には軸方向にオネジ部が突設されており、このオネジ部に環状の樹脂製パッキンがパッキン押さえを嵌め込んでナットで着脱自在に固定されている。同文献2では、弁閉時においてパッキンと弁座との間に生じる通常の漏れ空間と、パッキンとパッキン押さえ、及び樹脂製弁体との間に生じる裏漏れ空間と、の2つのルートに対し、超低温ではパッキンの収縮によりナットによる締付力はほとんど失われるから、全閉時における2つの漏れルートに対するシール力は、ほぼ弁棒がパッキンを締め付ける押圧力のみに起因して生じることになるので、この押圧力が2つの漏れ空間の双方に均等に作用するようにすることで、力の偏りを解消し、特に裏漏れ空間を介した漏れを防止する点に着目した上で、2つの漏れ空間の当接面積を略等しくするため、パッキンの上面に周溝を刻設して両者の面積を調整(より具体的にはパッキンの上面の当接面積を減少させる)するようにしているものと解される。
【0008】
また、特許文献3、4では、少なくとも、弁閉時に1次側流路に曝される弁体表面は、樹脂製で一体的に形成されていることで隙間が生じない樹脂製弁体が開示されている。特許文献3は、略コーン形状の樹脂製弁体(バルブディスク)は、スタッド部を介して、ステム下部のディスクリテーナに同心状に結合しており、弁閉時にはテーパ状の弁体シール面がテーパ状の弁座シール面に密着できるように構成されている。なお、この樹脂製弁体のスタッド結合は、樹脂製弁体の軸心方向に交差する横方向にスプリングピン、ロールピン、ドエルピンなどのピンを固定して補強する点も述べられている。
【0009】
より具体的には、同文献3によれば、これらのピンとしてステンレス製のものを用いる一方で、バルブディスクとしてフッ素樹脂(KEL-F)製のものを用いることにより、極低温下においては、フッ素樹脂製の弁体はステンレス製のピンよりも収縮率がかなり大きいことから、樹脂製弁体がピンより大きく収縮することによりピンに大きな力を及ぼし、これにより樹脂製弁体のタイトフィットがもたらされると記載されている。
【0010】
特許文献4も、上記のような同文献3と同様に、略球形状の樹脂製弁体(パッキン)は一体的に形成されており、弁閉時においては、シール面を含む弁体表面側には隙間が生じることがない樹脂製弁体が用いられており、この樹脂製弁体は、ステム下面中央に同心状に形成された雌螺条に対し、上面中央に同心状に形成された雄螺条を螺着すると共に、ステムの雌螺条のさらに下方に設けられた周突縁を、樹脂製弁体の雄螺条の下方側周に設けられた周段部に向けてカシメ固定することで、螺着とカシメの両方の手段によって樹脂製弁体がステムに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-172754号公報
【文献】実開昭55-18638号公報
【文献】米国特許登録第6302374号公報
【文献】実開昭55-18637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1は、少なくとも極低温流体に常に曝されることになる樹脂製弁体部位の構成だけに限定しても、シール圧補正バネ(複数の皿バネ)や、ばね押さえのほか、ナット、シート押えなど、必要となる部品が多くなるため、少なくとも生産性が悪いと共に、極低温下では、これら多数の特性の異なる部品同士が、それぞれ別個に変性し合って動作不良や寿命低下など、不測の不具合や故障を起こすおそれもあり、弁としての使用性やメンテナンス性も悪いと言える。極低温用バルブの構成部品としては、できるだけ少ない部品で簡素に構成されることが望ましい。また、上記のように、弁閉時には弁体表面には隙間(シート押えやナットと、ソフトパッキンや樹脂製弁体との間など)が生じ得る構造なので、この隙間から裏漏れなどが生じるおそれもある。
【0013】
さらに、極低温下においては、上記のようにソフトパッキンの熱収縮代を許容する隙間を、シール圧補正バネによる弾発力で補っているので、熱収縮状態のソフトパッキンはさらに圧縮されることになる。このように弁閉の毎にソフトパッキンが圧縮され続けることにより、極低温下で凍結により可撓性がほぼ失われた状態で、樹脂製弁体のソフトパッキンが収納溝内に固着してしまうおそれがある。
【0014】
ここで、特許文献1~4などの多くの従来技術に見られるように、極低温用グローブ弁は通常、長尺ステムのロングネックであって、ステムはステムを雄ネジ側としたネジ締結を介して回転しながら昇降する構造が採られるので、ネジ昇降する毎に高精度にステム軸芯を同軸上に維持することが困難な構造となっている。このため、ステム軸心が弁座軸心と正確に一致せず、僅かでもずれた状態で着座する現象も起こり易い。特に極低温用グローブ弁の場合は、長尺ステムの操作側の一端が常温下、樹脂製弁体側の他端が極低温下という状況に長期間曝されるから、極端な温度差に伴う素材変性の影響も相俟って、このようなステム軸心のズレは生じやすい。極低温用グローブ弁構造は、長尺ステム、ネジ締結、温度差など、いくつもの要因からステム軸心のズレが生じやすい構造と言える。しかも極低温用グローブ弁には高いシール性能が要求されることも通常であるから、たとえズレが僅かであっても、以下のような無視できない問題を生じる。
【0015】
特許文献1において、上記のようにソフトパッキンが固着した状態となった場合は、樹脂製弁体は略固体塊となってステムに一体的に同化した状態となるので、ステム軸心が弁座軸心に対し傾いた状態となった場合、このステムの傾きは、そのまま弁体軸心の傾きとなり、略固体塊となった樹脂製弁体は、軸心の傾きが修正されることなく、傾斜状態のまま弁座に着座せざるを得ない。極低温下においては、樹脂製弁体の可撓性がほぼ失われているので、弾性の発揮によりズレを自己修正してシール性を保つ能力を失っているからである。
【0016】
よって、弁体シール面と弁座シール面との高いシール性を保証する適合性は失われたまま回復することがなく、バルブのシール性が失われることになる。特に、樹脂製弁体の熱収縮に伴って樹脂製弁体の常温下形状に対して変形硬化したままステムに固着状態となっている場合は尚更である。弁座軸心に対する弁体軸心のズレは、上記のようにステム軸心のズレに起因するほか、樹脂製弁体の形状変化にも起因するからである。とりわけ同文献1は、平面状の面接触によるフラットシール構造だから、パッキンの平面性が僅かでも損なわれれば、バルブのシール性へ大きな悪影響を及ぼす。
【0017】
特許文献2でも、先ず、弁閉時において樹脂製弁体表面には隙間が生じるように構成されており、この隙間からのパッキンを介した裏漏れが同文献の課題とされているから、裏漏れが不可避な弁体構造であって、簡素な構造が採られているものの、十分なシール性を要するバルブ構造としては不十分と言わざるを得ない。また、パッキン内の中空領域にパッキンを固定する部材(オネジ)が挿通されてナットで固定されているので、パッキンの熱収縮やバルブの開閉に伴ってパッキンが圧縮される結果、樹脂製弁体が上記のように略固体塊としてステムに固着してしまうおそれがある点は上記同文献1と同様である。
【0018】
特許文献3、4の樹脂製弁体は、上記のような弁体裏側に流体が回り込んで裏漏れを生じる隙間を有さないが、何れも樹脂製弁体内部がステムに対して固定されておらず、樹脂製弁体外周面をステムに螺合や嵌合、カシメによって固定しているだけなので、樹脂製弁体の確実な固定性が担保されていない。特に上記のようにステム軸心が弁座軸心に対して傾いた状態でバルブの開閉が長期間繰り返されれば、樹脂製弁体の固定強度が損なわれ易く、場合によっては樹脂製弁体が脱落してしまうおそれもある。しかも、極低温下においては、樹脂製弁体は熱収縮すると共に、樹脂製弁体の方が、固定先となる金属製のステムより熱収縮代が大きいから、弁体固定部である弁体外周面が大きく収縮することにより、樹脂製弁体の固定強度がさらに損なわれる。
【0019】
また、同文献3、4においても、上記のようにステム軸心の傾きは生じやすく、ステムが傾いたまま着座した場合には、樹脂製弁体は傾きを修整してシール性を補う機能を全く有していないから、傾いたまま弁閉することにより、上記同文献1、2同様に、バルブの高シール性を維持することが困難な構造である。
【0020】
なお、同文献3においては、樹脂製弁体内部を挿通させる横ピンによる弁体固定の補強と共に、素材収縮率の差により、低温条件下においては樹脂製弁体がピンにタイトフィットする点が述べられているが、実際このように固着した場合は、上記のように樹脂製弁体は略固体塊となってステムに固着状態となるのであって、上記のようにステム軸心が傾いた状態の着座に全く対応できず、高シール性が維持できない。また、このような課題を開示又は示唆し、或は解決した先行技術は存在せず、この課題は極低温用グローブ弁に特有な喫緊の課題というほかない。
【0021】
そこで、本発明は上記問題点を解決するために開発されたものであり、その目的とするところは、簡易構造でありながら、極低温流体に対して、多くの開閉回数を経ても高いシール性と安全性が失われることがなく、しかもメンテナンスも容易な極低温用グローブ弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、ボデーにロングネック構造の軸筒部を延設した極低温用グローブ弁であって、長尺状のステムの下端部に設けた挿入部に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体の上部に設けた取付部を挿入し、挿入部と取付部には、ステムの長さ方向と交叉する方向に貫通孔を形成し、この貫通孔に固定部材を挿通させて取付部とステムの下端部とを取り付け、固定部材と貫通孔との間に隙間を設け、樹脂製弁体が熱収縮した際に、隙間に対して樹脂製弁体が可動可能なクリアランスを維持させ、極低温条件下でも樹脂製弁体がステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けた極低温用グローブ弁である。
【0023】
請求項2に係る発明は、ボデーにロングネック構造の軸筒部を延設した極低温用グローブ弁であって、長尺状のステムの下端部に設けた取付部に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体の上部に設けた挿入部を挿入し、取付部と前記挿入部には、ステムの長さ方向と交叉する方向に貫通孔を形成し、この貫通孔に固定部材を挿通させて挿入部とステムの下端部とを取り付け、固定部材と貫通孔との間に隙間を設け、樹脂製弁体が熱収縮した際に、隙間に対して樹脂製弁体が可動可能なクリアランスを維持させ、極低温条件下でも樹脂製弁体が前記ステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けた極低温用グローブ弁である。
【0024】
請求項3に係る発明は、ボデーにロングネック構造の軸筒部を延設した極低温用グローブ弁であって、長尺状のステムの下端部に設けた取付溝に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体の上部に設けた係合部を係合させ、樹脂製弁体とステムの下端部とを所定の隙間を介して取り付け、樹脂製弁体は、弁体表面側となる略ディスク状の鍔部と、この鍔部の上部に設けられた係合部とを有し、この係合部の外径は、鍔部の外径よりも小さく設けられ、樹脂製弁体が熱収縮した際に、隙間に対して樹脂製弁体が可動可能なクリアランスを維持させ、極低温条件下でも樹脂製弁体がステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けた極低温用グローブ弁である。
【0025】
請求項4に係る発明は、ボデーに設けた弁座シール面の角度よりも樹脂製弁体の弁体シール面の角度が小さくなるようにした極低温用グローブ弁である。
【0026】
請求項5に係る発明は、極低温条件下の貫通孔と固定部材との間のクリアランスの縦幅は、樹脂製弁体のシール径に対し、0.5%以上とした極低温用グローブ弁である。
【0027】
請求項6に係る発明は、軸筒部の上端にグランド部を設け、このグランド部側に極低温流体が流入しないように軸筒部の上部をベローズ構造とすると共に、グランド部から大気圧を超える圧力の極低温流体が漏れ出る程度のグランド封止構造とした極低温用グローブ弁である。
【発明の効果】
【0029】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の発明によると、ボデーにロングネック構造の軸筒部を延設した極低温用グローブ弁であって、長尺状のステムの下端部に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体を、極低温条件下でもこの樹脂製弁体がステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けたので、極低温条件下においても樹脂製弁体は完全にステムに固着状態とならずステムに対して微動作が可能となる。
【0030】
このため、ステム軸心や弁座軸心とのずれや、樹脂製弁体の変形硬化などにより、弁体軸心が弁座軸心に対して傾いて当接しても、この弁体をステムを介して弁座へ向けてさらに押し付けるだけで、テーパ面同士の樹脂製弁体と弁座が自然に調芯することにより、弁体シール面が弁座シール面に正しい姿勢で着座する調芯効果を得ることができる。よって、ステムの傾きや樹脂製弁体などの熱収縮に起因したシール面同士のズレを防ぐことができ、極低温条件下においても、バルブの高シール性を長期間良好に保つことができると共に、メンテナンスの手間を省くことも可能となる。さらに、調芯効果の発揮により、弁座シール面から受ける反力も偏ることなく分散されるから、硬化した樹脂製弁体に応力集中が生じ難く、よって、樹脂製弁体の損傷や割れなどによる劣化も起こり難い。
【0031】
請求項1又は2に記載の発明によると、ステム下端部と樹脂製弁体上部には、ステムの長さ方向と交叉する方向に貫通孔を形成し、この貫通孔に固定部材を挿通させてステムと樹脂製弁体とを固着しているから、樹脂製弁体をステム下端部に容易に取り付けることができると共に、固定部材が1次側流路に面する弁体表面側に露出することがなく、よって、弁閉時に裏漏れを生じ得る隙間が弁体表面側に形成されることが無い。
【0032】
請求項3に係る発明によると、係合部の外径を鍔部の外径よりも小さく設けていることで、鍔部側を3次元的に大きく動作させることができ、極低温下においても、樹脂製弁体は完全にステムに固着状態となることなく、ステムに対して微動作可能となる。
また、例えばボルトなど、樹脂製弁体をステムに取り付けるための別部材が不要なので、部品点数が少なく極低温用弁の構成として好適であると共に、弁の耐久性やメンテナンス性にも好適である。


【0033】
請求項に係る発明によると、弁体シール面と弁座シール面とのテーパ角度が異なっているから、異なるテーパ角度同士の着座により、シール面を線接触状に確保でき、よって、高いシール面圧を発揮させることができる。
【0034】
請求項に記載の発明によると、極低温条件下の貫通孔と固定部材との間の隙間は、樹脂製弁体のシール径に対して0.5%以上としているから、弁体に調心効果が作用する際に必要となる3次元的な微動作のための自由度を適切に確保することができる。
【0035】
請求項に記載の発明によると、軸筒部の上端にグランド部を設け、このグランド部側に極低温流体が流入しないように軸筒部の上部をベローズ構造とすると共に、グランド部からは、大気圧を超える圧力の極低温流体が漏れ出る程度のグランド封止構造としているから、ステムの昇降に追随するベローズ構造によって弁開閉を繰り返してもグランド部側への極低温流体の流入が確実にシールされると共に、このベローズ構造のシール性能に問題が生じてグランド部側へ極低温流体が流入してしまった場合には、グランド部から極低温流体が適切に漏れ出ることにより、外部の検出装置などによって、この漏出を直ちに検出可能となる。このため、ベローズ構造の問題を直ちに認識可能となり、例えば、ベローズ構造を介した極低温流体のグランド部側への漏出・滞留が認識されないまま放置されてしまうことによるグランド部の破損などを事前に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本例の極低温用グローブ弁の弁閉状態を示した正面縦断面図である。
図2図1の側面図の一部を拡大し弁の開状態を示した一部拡大断面図である。
図3】本例におけるステムと樹脂製弁体との取付構造を示しており、図1の樹脂製弁体部分(常温条件下)を拡大した一部拡大断面図である。
図4図3におけるA-A線の部分断面図である。
図5図3に示した常温条件下の樹脂製弁体に対して、極低温条件下において熱収縮した状態の樹脂製弁体を示した断面図である。
図6図5において、ステム軸心が傾いて着座した状態を示した断面図である。
図7図6に示した状態に続いて、樹脂製弁体が弁座に対して調芯効果を発揮して正しい姿勢で着座した状態を示した断面図である。
図8】(a)は、本発明におけるステムと樹脂製弁体との取付構造の他例構造の部分拡大断面図であり、(b)は、取付構造のさらに他の別例構造の部分拡大断面図である。
図9図1の極低温用グローブ弁のステム昇降機構の他の構成例を説明する一部拡大図面である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の実施形態(本例)を図面を参照して詳細に説明する。図1は、本例の極低温用グローブ弁の縦断面図であり、図2は、図1におけるボデー1部分を、側面から見た断面図を拡大した部分拡大断面図である。なお、図1は弁閉状態を、図2は弁開状態を示している。
【0038】
図1、2において、ボデー1は、略鉛直方向にボデー1側からハンドル17側へ延設された軸筒部2と、その下部の流路が内部に形成されたボデー部3から成り、流路は、1次側流路4と、2次側流路5とが、傾斜して刻設されている。軸筒部2とボデー部3とは溶接部を介して接合されており、軸筒部2と、その上端のフランジ部6とも溶接部を介して接合されている。
【0039】
本例では、極低温の液化水素を使用流体とするため、水素脆化などを防止するため、ボデー部3や軸筒部2など、流体と接し得る部材は、すべて削り出し製品が用いられている。なお、本願においては、極低温とは、少なくとも液化天然ガス(LNG)の沸点-163℃以下を意味し、本例においては、液化水素(-253℃程度の極低温流体)の温度に適用される。
【0040】
図1、2において、点線で示した真空ジャケット7は、ボデー1との間の空間を真空に保つことができるジャケットであり、この真空ジャケット7による真空絶縁によって流路内の流体の放熱を遮断し、流体の極低温を効果的に保つことができる。本例では、フランジ部6下端外周を閉塞して軸筒部2からボデー部3にかけてボデー1を包囲しており、図示していない横方向に接合される配管をさらに包囲している。真空ジャケット7の素材や形状などの具体的な構成は、実施に応じて任意に選択可能である。
【0041】
図1、2において、ボンネット8は、上部にグランド部9を有し、下端にフランジ部10を有しており、このフランジ部10は、軸筒部2のフランジ部6とボルト、ナットを用いて固定され、ボデー1上部にフランジ部6、10同士が重ねられた状態で固着される。また、グランド部9の内周面には、上下にそれぞれメネジ部11、12が設けられると共に、複数個(3個)の軸装シール用のグランドパッキン13が、縦に積層されている。
【0042】
なお、本例の極低温用グローブ弁は、軸筒部2の上下端部が溶接接合され、1次側流路4、2次側流路5に接合される図示していない横方向の配管も、それぞれボデー部3に溶接によって接合され、さらに、内部の極低温流体を外部と完全に遮断するため、基本的に全ての接合部が溶接接合されて構成されるので、ボデー1内部を外部へ開放するには、通常はこのボンネット8のフランジ部10を取り外すことによってのみ可能となり、よって、弁内のメンテナンスも、このボンネット8の着脱によって行われる。
【0043】
図1、2において、長尺状に形成されたステムの構造は、実施に応じて任意に選択可能であるが、本例のステムは、ハンドルステム14と、上ステム15と、下ステム16と、から成る3本の分割構造となっている。ハンドルステム14は、上端に手動用のハンドル17がナット固定されており、下部にはオネジ部18が設けられており、このオネジ部18は、ボンネット8のメネジ部12と螺合しており、後述のようにこの螺合の回転に伴って、ステムが昇降動可能となっている。なお、本例は手動弁の一例であるが、別途アクチュエータを備えてステムの昇降を自動制御可能に構成するなど、手動弁に限定されることなく、実施に応じて弁の駆動機構も任意に選択可能である。
【0044】
図1において、パッキン押さえ19は、外周のオネジ部をボンネット8のメネジ部11にねじ込むことにより、パッキン押さえ19の下端部で積層したグランドパッキン13を締め付け固定し、この締付によって弁の軸封を行っている。よって、本例のステムは、この軸封構造と、オネジ部18とメネジ部12との螺着によって軸着している。
【0045】
グランドパッキン13としては、特に限定はない。ここで、後述のベローズ20に関し、このベローズ20のシール性能に何らかの問題が生じて水素ガスが流路側からグランド部9側へベローズ20を介して漏出した場合(この場合、本例の構造ではベローズ20の外周側から内周側への漏出となる)、水素ガスは、温度上昇に伴う気化によって体積が約600倍にまで膨張する性質があるので、グランドパッキン13が水素ガスを完全に密封してしまうと、ベローズ20とグランド部9との間の領域に漏出して急膨張した水素ガスが密封されることになる。この場合、ベローズに生じた問題(水素ガスの漏出状態)を外部から即座に認識する手段が無いため、水素ガスが内部に密封された状態となり、場合によってはグランド部9から急激に水素ガスが噴出してしまう可能性がある。
【0046】
そこで、本例では、グランド部9が、内部から大気圧を超える水素ガスの圧力が加わった場合に、水素ガスが漏れ出る構成が採られていることにより、グランド部9内への水素ガスの密封を防いで外部に漏出可能とし、この水素ガスの漏出があった場合は、グランド部9外側近傍に適宜設けられた図示していない水素検知装置によって即座に水素ガスを検知可能に構成しているので、少なくともベローズ20の破損に関しては安全な対策が施されている。換言すると、本例の構造は、グランド部9から大気圧を超える極低温ガスが漏れ出る程度のグランド封止構造であり、また、外部からの固形の異物の侵入を防止できる程度の封止構造である。
【0047】
このようなグランド部9は、例えば、グランドパッキン13の種類や数、パッキン押さえ19の締結力等を適宜調整することにより構成することができる。より具体的には例えば、大気圧を超える水素ガスが作用した場合、グランドパッキン13とパッキン押さえ19と間の隙間、或は、グランドパッキン13の変形により生じる隙間を介して、水素ガスが漏れ出るようにすることができる。
【0048】
図1において、上ステム15は、上端の上鍔部15aが、ハンドルステム14下端の係合部14aと、滑り嵌め状態で結合している。具体的には、中実円盤状の上鍔部15aが、中空円盤状の係合部14a内に係合しており、この係合には、ガスケットなどの別部材を用いず、グリスなどの塗布により滑り性を確保している。例えば、係合部14a(ハンドルステム14)は銅製であり、上鍔部15a(上ステム15)はステンレス製である。この係合構造により、係合部14aが回転しても回転摩擦が上鍔部15aには伝わらないので、係合部14aの回転昇降に伴い、昇降動作のみが上鍔部15aに伝えられる。また、上ステム15の下端にも、中実円盤状の下鍔部15bが設けられており、下ステム16上端の中空円盤状の係合部16bと係合し、この係合構造によって、上ステム15の昇降動が下ステム16に伝えられる。
【0049】
下ステム16は、長尺略円柱形状に設けられており、その外径は、軸筒部2の内径より僅かに小さいが、下部に設けられている案内部27によって、下ステム16外周が軸筒部2内径に案内されながら円滑に昇降動可能に設けられている。また、下ステム16の下端部には、後述するように、ステムと樹脂製弁体との間の所定の取付構造(挿入部16aと取付部21c)を介して樹脂製弁体21が固着されている。
【0050】
図1において、軸筒部2の上端に設けられたグランド部9側に極低温流体が流入しないように、軸筒部2の上部をベローズ構造としており、本例のベローズ20は、上端取付部20aがボンネット8のフランジ部10と軸筒部2のフランジ部6との間に挟み込まれて固定されるとともに、下端部20bが上ステム15下端部に溶接により固定されている。この構成により、ベローズ20は、上端部20aが固定側、下端部20bが可動側となって上ステム15の昇降動に伴って同心状に伸縮可能となっている。
【0051】
また、この構成により、ベローズ20は、下端部20bを区画の境界として、上ステム15の下端以外の部位及びハンドルステム14側と、上ステム15下端及び下ステム16側と、を区画するように、ステムを部分的に密封シールしている。この場合、ステム下部側は流体に接し得る領域であるが、ステム上部側はベローズ20の密封区画により流体がシールされるので、流体が接することが無いと共に、軸筒部2内においてボデー1内外を密封区画する流体シール機能を有している。
【0052】
常温下における、図1は樹脂製弁体21が弁閉状態であり、図2は樹脂製弁体21が弁開状態であり、本例の極低温用グローブ弁の開閉動作は、通常のグローブ弁の開閉動作と同様である。すなわち、図2の弁開状態において、ハンドル17を回動させると、ボンネット8のメネジ部12をハンドルステム14のオネジ部18が螺進降下していく。ハンドルステム14下端の係合部14aは、回転力を伝えることなく下降力のみを上ステム15上端の上鍔部15aへ伝え、上ステム15下端の下鍔部15bは、下ステム16上端の係合部16bへ、この下降力を伝えて、下ステム16下端部に固着された樹脂製弁体21を弁座シール面22へ着座させることができる。樹脂製弁体21を上昇させる場合は、この逆の動作(ハンドル17の逆回転)となる。また、このようにステムが昇降動する間、ステムは、案内部27など、適宜の案内構造を介して調芯案内される。
【0053】
以下に示すように、本発明では、ボデー1にロングネック構造の軸筒部2を延設し、長尺状のステムの下端部に、縮径テーパ状の円錐面を有する樹脂製弁体21を、極低温条件下でも、この樹脂製弁体21がステムに対して3次元的な動作が可能となるように取り付けている。具体的には、樹脂製弁体21とステム下端部とは、所定の取付構造を介して取付けられており、図3は、本例の取付構造を示し、図8(a)は、他例構造の取付構造を示し、図8(b)は、別例構造の取付構造を示している。
【0054】
図3、4は、常温下における、本例の樹脂製弁体21の取付構造を示している。樹脂製弁体21は、本例では、PEEK材(ポリエーテルエーテルケトン)により全体が一体的に形成されており、優れた機械的強度と化学的安定性、さらに耐極低温性も発揮できる。また、樹脂製弁体21の熱収縮率は、固定側部材となるステムより大きく設けられていると共に、着座する弁座シール面22の硬度より小さい硬度に設けられている。なお、PEEK材以外から成る樹脂製弁体も、実施に応じて適宜に選択可能である。
【0055】
ここで、熱収縮率とは、温度低下に伴う部材の尺(長さや体積)の減少率を意味しており、熱収縮率が大きいとは、少なくとも使用流体の温度における線膨張係数(K-1)が大きいことを意味する。概ね、線膨張係数は、樹脂材料(プラスチック)が金属に対して1ケタ程度大きく、セラミックスに比べると2ケタ程度大きい。本例では、樹脂製弁体21をPEEK材で形成している一方で、その固定側部材となるステムとしてステンレスの削り出し製品を用いているから、本例においては、樹脂製弁体21の熱収縮率は、ステムの材質(固定側部材)に対して十分に大きく確保されている。
【0056】
また、樹脂製弁体21の硬度は、着座する弁座シール面22の材質硬度より小さく設けられている。ここで、硬度とは、主に金属素材と樹脂素材とを共通して比較計測することに適した例えばビッカース硬度やロックウェル硬度を意味する。後述のように、弁座シール面22の構成は、任意に選択可能であるが、少なくとも樹脂製弁体21の弁体シール面21aの硬度を、これが着座する弁座シール面22の硬度より小さくすることにより、例えば長期間多数回のバルブ開閉を経た後であっても、着座の衝突による劣化や損傷を、ほぼ樹脂製弁体21側に生じするようにすることができ、特に着座に異物噛み込みがあった場合、メンテナンスコストの大きい弁座シール面22の損傷を回避することが可能となる。
【0057】
本例の極低温用グローブ弁は、上記のように、流路内はほぼ完全に溶接接合されることで密封され、特に弁口部分に対しては、通常はボンネット8の着脱によってのみアプローチできるが、ボンネット8を外しても長尺小径の軸筒部2を経なければならないから、直接的なメンテナンスが難しい構造となっており、特に硬度が略等しいメタルタッチとした場合は弁座側が損傷し易くなるので、弁座シール面22の損傷をなるべく回避することが好ましく、上記のように硬度に有意な差を設けて弁座シール面22に損傷が生じ難く構成することにより、直接的なコンタクトが困難な弁口部位のメンテナンスの頻度を低減している。樹脂製弁体21に損傷があった場合のメンテナンス作業は、通常は単にステムを引き抜いて新たな樹脂製弁体21に交換するなどした後、ステムを戻して再び固定すれば済むので、メンテナンス作業が容易となる。
【0058】
図3、4において、本例の樹脂製弁体21は、全体が一体的に形成されており、特に、少なくとも下端面側の全面である弁体表面部21Aには別部材同士の間に生じる隙間を有しておらず、面一状に設けられている。この弁体表面部21Aは、後述の樹脂製弁体21の調芯効果を適切に得るために、樹脂製弁体21をステム下端部に取り付けた場合に、少なくともステム軸心と同軸状に軸対称な形状となることが必要である。また、円錐面(弁体シール面)21aの一部には、同心状に環状の弁体シール面21aが形成され、この弁体シール面21aは、弁の開閉動作に伴い、弁座シール面22と当接して密着・離間する。
【0059】
本例の樹脂製弁体21は、略ディスク状の鍔部21bと、この鍔部21bの上部に略円柱状の取付部21cと、を有しており、鍔部21bは、外周面に縮径テーパ状の円錐面21aを有し、フラットでないテーパ又はコニカルディスクであり、この円錐面(弁体シール面)21aの一部に環状の弁体シール面21aが同心状に形成される。取付部21cの外径は、鍔部21bの外径より小さく、ステム下端部に設けられている挿入部16aの内径と略同径であり、この挿入部16aと取付部21cとは、少なくとも互いに適合した形状として設けられ、常温下においては、互いに適切に嵌め合せることができる。なお、円錐面21aは、完全なコーン形状としての円錐面に限らず、例えば僅かに内方又は外方に湾曲させた曲面として形成してもよい。
【0060】
図3、4において、本例の弁座シール面22は、ボデー部3の1次側流路4の開口部に一体的に設けられており、拡径テーパ状の弁座シール面22となっている。弁座シール面22は、この例の他にも、図示していないが例えば、テーパ状でなく断面直角状の角部、或は、本例のようにボデー部3に一体的に設けるほか、別部材であるシールリングを環状の装着溝に固着させるなど、実施に応じてその構成は任意に選択可能である。
【0061】
図4において、本例の弁体シール面21aのテーパ角度αを、弁座シール面22のテーパ角度βよりも小さい鋭角として設定しており、具体的には、角度αとβとの差θを約1度に設定している。このように角度差を設定することにより、弁体シール面21aと弁座シール面22とはほぼ線接触状となり、特に極低温下では樹脂製弁体21が硬化して可撓性がほぼないため、高いシール面圧を確保できる。このように円錐面21aの一部に形成される線接触状の弁体シール面21a(シール部)の位置は、多数回の弁の開閉を経ても、後述の本発明の調芯効果により、大きな位置ずれを生じることなく、ほぼ同じ位置に維持することが可能となる。
【0062】
図3、4において、取付部21cには、本例における固定部材である1本のボルト24を挿通できる中空状の貫通孔23が設けられ、この貫通孔23内の一部には、後述する樹脂製弁体21が極低温条件下で熱収縮した状態であっても、適切な容積のクリアランス26(図5~7)を残存させることができる程度の容積・形状を備えた隙間25が確保されている。なお、固定部材としては、本例におけるボルト以外にも、例えばピン構造など、実施に応じて適宜選択可能である。
【0063】
本例においては、ボルト24のヘッドが、ステム16の下端部に形成された貫通孔の拡径部16dにちょうど収まる形で支持され、かつ雄ネジ部24aが雌ネジ部16cに螺着されているので、ステムに対してぐらつき等を生じることがなく樹脂製弁体21を確実に取り付けることができると共に、例えば後述のようにステムの傾きが生じた場合等においても、極低温条件下でクリアランス26を確保することができるので、本発明の調芯効果も確実に発揮することができる。
【0064】
同図において、ステム下端部の挿入部16aには、貫通孔16c、16dが同図横方向へ一直線状に開けられており、この貫通孔16c、16dの位置・形状は、樹脂製弁体21の取付部21cを挿入部16aへ嵌合させた状態で、ボルト24を貫通孔23と共通に挿通できる位置・形状となっている。一方側の貫通孔16dにはボルト24のヘッド(六角穴付き)が収まり、他方側にはボルト24の雄ネジ部24aと螺着する雌ネジ部16cが形成されており、ボルト24の固着の際にはヘッドの六角穴に六角レンチをネジ込んで固着させることができる。
【0065】
この雄ネジ部24aの長さは、特に制限されない。例えば、樹脂製弁体21を固着するために必要最小限に設定し、具体的には雌ネジ部16cの長さと略等しく設定して、樹脂製弁体21の固着状態において少なくとも雄ネジ部24a外周面が貫通孔23内周面に面することがないようにすれば、後述する本願の調芯効果が発揮された際に、微動作する樹脂製弁体21(貫通孔23内周面)が雄ネジ部24aのねじ山に当たること、が避けられる。ただし、樹脂製弁体21が雄ネジ部24aのねじ山に当たっても問題が無ければ、雄ネジ部24aの外周面が貫通孔23内周面に面するようにしても良い。この雄ネジ部24aが貫通孔23内に露出しないように構成するのと同様に、本願発明では、固定部材と貫通孔との間には、微動作する樹脂製弁体(貫通孔)が当たっても損傷し難いように構成されていれば好適である。
【0066】
本例の貫通孔23の容積は、ボルト24が占有する略円柱状のスペースと、隙間25が占有するスペースを合わせた容積となっており、具体的には、図4に示すように、貫通孔23全体としての断面形状は、略大円形状乃至楕円状となっている。図4において、隙間25は、このような断面形状の貫通孔23の容積から、断面小円状のボルト24の容積を差し引いたスペースであり、ボルト24の上部側が貫通孔23に当接しており、ボルト24の下部側が隙間25に面している。図3において、この隙間25の縦幅C=約0.2mm程度であり、この縦幅Cの大きさは、樹脂製弁体21のシール径(弁体シール面21aの径)に対して、少なくとも0.5%以上に確保すると、後述の樹脂製弁体21の調芯効果を十分に発揮できるので好適である。なお、同図に示したボルト24の径Rは約3mmとなっている。
【0067】
隙間25の縦幅Cは、弁のシール径を基準として設定することが好ましい。後述の本発明の調芯効果は、樹脂製弁体21がどの程度可動できるかどうかにより変化する。隙間25の縦幅Cが小さいと、その分樹脂製弁体21が動くことができる範囲も小さくなるので、この縦幅Cをシール径に対して十分に確保することにより、調芯効果を最大限発揮させることが可能となる。縦幅Cの範囲は、より好ましくはシール径に対して5~15%の範囲であり、さらに好ましくは5~10%の範囲である。縦幅Cが大きすぎると、樹脂製弁体21の可動範囲が大きくなり過ぎ、弁座シール面22への着座位置にズレが生じるおそれがある。また、シール径は、グローブ弁の呼び径にほぼ一致する。隙間25の縦幅Cの範囲を、前記のように設定した場合において、優れた調芯効果が得られる弁の呼び径の範囲は、1/2~3インチの範囲であり、より好ましくは、1/2~2インチの範囲である。
【0068】
本例の貫通孔23とその内部の隙間25は、上記の位置・形状として確保されているが、これらは、実施に応じて任意に選択可能である。例えば、樹脂製弁体21の材質・形状やステムとの固着構造などの各特性に応じて、常温条件における隙間として別の中空形状・位置に確保することもできるし、或は、クリアランスの位置を固定部材との間でなく、樹脂製弁体内部に中空部を適宜の位置・形状に設けるようにしてもよい。何れにせよ、後述する極低温条件下における樹脂製弁体21の調芯効果に必要となる微動作を許容するためのクリアランス26を、適切に樹脂製弁体内部又は外周側に確保できるように設けられる。
【0069】
続いて、図5~7にかけて、極低温条件下の樹脂製弁体21が弁座シール面22に着座する際の弁閉作用を説明する。図5は、図3、4に示した常温条件下の樹脂製弁体21の形態から極低温条件下で熱収縮した状態の樹脂製弁体21を、模式的に示したものである。同図の一点鎖線は、図3、4のように常温条件下で熱収縮する前の樹脂製弁体21の形状を模式的に示している。図6は、図5に示した極低温下において、ステムの軸心が、弁座シール面22の軸心に対して僅かに傾斜した状態となった場合を模式的に示している。図7は、本発明において樹脂製弁体にもたらされる調芯効果の一例を模式的に示したものである。
【0070】
図5において、本例の樹脂製弁体21に生じる、樹脂部材としての熱収縮は、樹脂製弁体21が概ね単一素材で一体形成された塊状を呈しており、低温化は液化水素により極低温まで急冷される状況を考慮すれば、収縮のばらつきに起因した反りや変形などは生じず、概ね、均一で等方的な収縮が生じるものと考えられる。この場合は、樹脂製弁体21は、同図に示したように、概ね、所定の収縮率にて相似的に収縮することになる。よって、極低温条件下においては、樹脂製弁体21の外形は同図に実線で示したような形状として、本例ではぼほ可撓性を喪失した状態で硬化し、液化水素に曝される使用中は、ほぼ変形することなく、この形状のままステム下端部に取り付けられた状態として維持される。
【0071】
図5において、図3、4に示した隙間25を、上記のように設定しているから、この隙間25が熱収縮した後も、固定部材であるボルト24と貫通孔23との間には、クリアランス26が残存することになる。このクリアランス26の縦幅C’は、約0.1mmであり、隙間25の縦幅は約50%収縮したことになる。
【0072】
ここで、樹脂製弁体21が熱収縮する際には、樹脂製弁体21の内部に向けて樹脂製弁体21の各部分が略一定の収縮率で略等方的に収縮するから、図3、4に示した隙間25を充填するように容積が収縮すると共に、隙間25の容積が存在する分だけ、このような中空部分(貫通孔23)を有さず収縮する余裕が無い完全な中実体の場合に比較して、樹脂製弁体21の収縮容積をより大きくすることができる。
【0073】
特に、樹脂製弁体21外周面側の収縮代を大きく確保することができるから、図5に示すように、以下に述べるクリアランス26のほかにも、取付部21c外周と挿入部16a内周との間のクリアランス26aや、鍔部21bの裏面とステムの下端面との間のクリアランス26b、或は、円形状の取付部21c端面と挿入部16a底面との間のクリアランス26cも確保することができる。
【0074】
そして、このクリアランス26や、クリアランス26a~クリアランス26cが確保されることにより、極低温条件下において、樹脂製弁体21はボルト24で確実にステム下端部に対して固定された状態でありながら、樹脂製弁体21の外周近傍には、樹脂製弁体21軸心がステム軸心に対して微傾斜したり、樹脂製弁体21がステムに対して軸心方向に微動作したり、樹脂製弁体21がステムに対して微回転(捩れ)する、などの3次元的な動作が可能となる僅かなスペースが確保されることになる。
【0075】
逆に言えば、先述のように、従来技術においては、樹脂製弁体とその固定側部材との間に熱収縮の結果として生じるギャップに関しては知られているものの、このギャップは、何らかの手段を介して埋めるように補おうとする技術思想しか存在せず、況してや、極低温下において生じるギャップを利用しようとする技術思想は皆無である。このため、極低温条件下において、上記のようなクリアランス26、或は、クリアランス26a~クリアランス26cを確保することはできず、よって、以下に述べる本発明における樹脂製弁体の調芯効果を発揮することは極めて困難又は不可能である。
【0076】
一方、図6は、樹脂製弁体21軸心Yが、弁座シール面22軸心Xに対して角度φだけ傾斜した状態を模式的に示しており、同図の場合は、軸心Yはステム軸心と一致しているので、ステム軸心が傾いた状態を示している。このようなステム軸心の傾斜は、特にロングネック構造のグローブ弁では、生じやすいと言える。
【0077】
具体的には、このような傾斜の原因として、先ず、ステムにおける芯ズレが挙げられる。ステムはロングネック構造により径に対してかなり長尺に設けられるから、例えば製品個体において正確に芯出しができていない製品が生じ得る。また、本例のように、複数製品を連結させた多物品で構成される場合は、連結部分で部品同士の芯ズレも生じやすい。また、常温と極低温の間で、極端な温度差のサイクルに曝されると共に、弁の使用時においてもステムの上下で極端な温度差の状況下に設けられるから、この極端な温度差によって部分的な素材変性の偏りから何らかの変形も生じ得る。
【0078】
さらに、図1に示すように、ステムはハンドルステム14のオネジ部18とボンネット8のメネジ部12との螺合によって昇降するから、このネジ結合の調心が十分でない場合にも、軸心X、Y同士のズレが生じ得る。しかも、本例の極低温用グローブ弁の場合は、例えば年間の開閉回数として2000~2500回程度が想定され、数年以上の長期使用も想定されているので、このような多数回、長期間の使用の場合、図6に示すような軸心X、Yの傾斜は、ステム(特に係合部14a、16b)と樹脂製弁体21(特に貫通孔23)や、弁座シール面22、或は、ネジ結合(オネジ部18、メネジ部12)や案内部27など、ステムの軸心を同軸上に保つために関連する各部位の劣化(機械的損傷や温度差による変性)と相俟って、さらに生じやすいと言える。
【0079】
また、樹脂製弁体21軸心Yの弁座シール面22軸心Xに対する傾斜状態は、上記のようなステム軸心の傾斜以外によっても生じ得る。例えば、樹脂製弁体21の熱収縮に偏りが生じる事により樹脂製弁体21が偏った形状として収縮硬化し、常温条件下で有していた形状の対称性が失われることも考えられる。これに伴って、弁体シール面21aの形状対称性も喪失し得るので、この場合は、弁座シール面22との適合性も失われてしまう。さらに、図示していないが、弁座シール面として別部材のシールリングを用いている場合、このシールリングが変形すれば、やはり弁のシール性が損なわれる。
【0080】
何れにせよ、少なくとも弁体表面部21Aが軸対称形状である樹脂製弁体21軸心Yと、軸対称な環状の弁座シール面22軸心Xとが傾斜したまま着座すれば、シール面の適合性が損なわれるので、弁のシール性を保つことができなくなる。
【0081】
これに対し、図7は、本発明における樹脂製弁体21の調芯効果を模式的に示している。なお、図7の軸心Zは下ステム16の軸心を示しており、図6においては軸心Yと軸心Zとが一致し、図7においては軸心Xと軸心Yとが一致しており、それぞれ一方の軸心のみを図示している。
【0082】
上記の調芯効果は、通常、次のように作用する。先ず、図6のように、弁座シール面22軸心Xに対して樹脂製弁体21軸心Y(下ステム16軸心Z)が傾斜状態のまま、弁体シール面21aが弁座シール面22に向けて接近して当接する。このため、同図のように樹脂製弁体21は傾いて着座している。次いで、ステムがさらに下降することにより、この傾いた樹脂製弁体21がさらに上からステムによって押し下げられることで、弁体表面部21Aが弁座シール面22に向けて押し込まれることになる。
【0083】
このように押し込まれる際に、樹脂製弁体21には、上記したように、クリアランス26、クリアランス26a~クリアランス26cを利用した3次元的な微動作が可能となっている。このため、樹脂製弁体21には、自然に以下のような調芯効果が作用することになる。
【0084】
図6に示した樹脂製弁体21の円錐部の外周面は、弁座シール面22とずれて着座しているので、これらが当接している領域は、部分的(環状領域の一部)に偏った位置で当接している。このため、同図の樹脂製弁体21は不安定な状態であって、その軸心Yには未だ回転自由度が残存している。この状態で、ステム下端部の下降によって、樹脂製弁体21は、上から下へ向けて押し下げられることになる。この押し下げ方向は、傾き角度φは、生じるとしても僅かな角度なので、概ね軸心X方向に沿って押し下げられる。
【0085】
これに対し、樹脂製弁体21が最も安定した状態は、弁体シール面21aと弁座シール面22とが全周的かつ均一的に当接することによって、樹脂製弁体21が弁座シール面22から受ける反力の合力が軸心X方向に略一致している状態であり、この最も安定した状態は通常、テーパ面同士が適合することによって、本来の正しい着座姿勢で着座した状態に一致すると共に、軸心Yにはもはや回転自由度が残っていない。
【0086】
図6において、このような不安定な姿勢の樹脂製弁体21に対し、概ね軸心Y方向の外力が作用した場合、原理的には、樹脂製弁体21は、自ら不安定さを埋めるように微動作しつつ、最も安定した状態を目指して動作することになるが、この最も安定した状態に向かうための動作に必要となる自由度は、上記のように、クリアランス26a~クリアランス26cが維持されることによって、確保されている。
【0087】
したがって、図7に示すように、ステム下端部の押し下げによって樹脂製弁体21は、これらのクリアランス26a~クリアランス26cを利用した3次元的な微動作を経て、軸心Yを軸心Xに一致させるように、自ら着座姿勢を正すことが可能となる。本発明においては、上述した実施形態の他、多くの実施形態において、このような調芯効果を得ることができる。例えば樹脂製弁体21や弁座シール面22の具体的な形状や、隙間の容積、樹脂製弁体21とステムとの間の摩擦力、或は弁座シール面22と弁体シール面21aとの間の摩擦力、ステムによる押圧力、軸心X、Yの傾きφの大きさなど、様々な条件を考慮し、好適な調芯効果が得られるように調整することが可能である。
【0088】
図8(a)は、上述の本例の取付構造において樹脂製弁体21とステム下端部との間の凹凸係合を逆にした構造である。すなわち、ステム31の下端部に設けた取付部31aに樹脂製弁体30の上部に設けた挿入部30aを挿入し、この取付部31aと挿入部30aには、ステム31の長さ方向と交叉する方向に貫通孔34を形成し、この貫通孔34に固定部材(ボルト32)を挿通させて挿入部30aとステム31の下端部とを取り付け、固定部材(ボルト32)と貫通孔34との間に隙間33を設け、樹脂製弁体30が熱収縮した際に、隙間33に対して樹脂製弁体が可動可能なクリアランスを維持させている。
【0089】
具体的には、図8(a)において、ステム31の下端部には、略円柱状の取付部31aが同心状に突設されており、この取付部31aは、常温条件において、樹脂製弁体30の中央に形成された挿入部30aと形状が適合している。また、取付部31aには、貫通孔34が設けられており、この貫通孔34に挿通するボルト32の外径に対し、貫通孔34の内径は大きく形成されており、貫通孔34にボルト32を挿通させた状態で、所定代の隙間33が確保可能となっている。また、取付部31aに挿入部30aを嵌合させた状態で、樹脂製弁体30(挿入部30aの外径肉厚)内には、貫通孔34に挿通させた状態のボルト32のヘッドを固定できる貫通孔30bと、ボルト32の雄ネジ部32aと螺合する雌ネジ部30cが設けられている。
【0090】
図8(a)は、樹脂製弁体30が極低温条件下において熱収縮した状態を示しており、この状態においては、上述した本例の図5と同様に、ステム31と樹脂製弁体30との間にクリアランスが形成されている。具体的には、図8(a)において、樹脂製弁体30の同図上端面とステム31の取付部31a外周側の端面との間のクリアランス35aや、挿入部30a底面と取付部31a下端面との間のクリアランス35b、さらに挿入部30a内周面と取付部31a外周面との間のクリアランス35cが形成されている。
【0091】
このように樹脂製弁体30の周囲にクリアランス35a~35cが確保されており、ボルト32と貫通孔34との間にも隙間33が確保されているから、樹脂製弁体30はステム31に対して完全に固着状態となっておらず、上述の本例のように、3次元的な微動作が可能となっている。この微動作可能にステム31に取り付けられた状態であれば、上述した本発明の調芯効果を発揮することができる。
【0092】
図8(b)は、本発明の樹脂製弁体とステムとの間の取付構造において、さらに他の別例構造を示したものである。すなわち、ステム41の下端部に設けた取付溝41aに樹脂製弁体40の上部に設けた係合部40aを係合させ、樹脂製弁体40とステム41の下端部とを所定の隙間を介して取り付け、樹脂製弁体40が熱収縮した際に、この隙間に対して樹脂製弁体40が可動可能なクリアランスを維持させている。
【0093】
具体的には、図8(b)において、樹脂製弁体40の上部には、断面略T字状の係合部40aが形成されており、この係合部40aは、幅広の係合部40aより狭い幅狭部40bを介して弁体表面側となる鍔部40cと一体形成されている。係合部40aは、常温条件で、ステム41下端部に設けられ係合部40a及び幅狭部40bの形状と適合した取付溝41aと、係合可能となっている。

【0094】
図8(b)も、樹脂製弁体40が極低温条件下において熱収縮した状態を示している。この別例構造においては、幅の大きい係合部40aが幅の狭い幅狭部40bでステム41の取付溝41aに対して確実に取り付けられている一方で、樹脂製弁体40の熱収縮代は、僅かな幅の縮小しか生じないので、樹脂製弁体40は極低温条件下において熱収縮してもステム41から外れることなく確実に取付状態が維持される。
【0095】
この状態で、樹脂製弁体40とステム41との間には、クリアランスが確保される。具体的には、図8(b)において、鍔部40cの裏面とステム41の下端面との間のクリアランス42aや、幅狭部40b外周面と取付溝41aとの間のクリアランス42b、さらに係合部40aの上面と取付溝41aの底面との間のクリアランス42cが確保されている。
【0096】
このように樹脂製弁体40の周囲にクリアランス42a~42cが確保されているから、樹脂製弁体40はステム41に対して完全に固着状態となっておらず、上述の本例のように、3次元的な微動作が可能となっている。この微動作可能にステム41に取り付けられた状態であれば、上述した本発明の調芯効果を発揮することができる。
【0097】
上述した実施形態の構造を有する極低温用グローブ弁について、ヘリウムガスを用いた漏れ試験を行った。試験用の極低温グローブ弁として、クラス150、呼び径1インチのステンレス製グローブ弁を用いた。漏れ試験として、極低温用グローブ弁に-253℃の液化水素を封入して冷却し、その状態で所定回数の開閉動作を行い、冷却された極低温用グローブ弁から液化水素を抜いた後、全閉状態とした極低温用グローブ弁の一次側に速やかにヘリウムガスを供給し、二次側からのヘリウムガスの漏れを水上置換法で確認する試験を行った。この際、ヘリウムガスの圧力は、日本のTTO指針に基づき、2.1MPaとした。
【0098】
この漏れ試験は、一日目にバルブ開閉0回時、1000回時及び2000回時までの試験を、二日目にバルブ開閉3000回時及び4000回時までの試験を、3日目にバルブ開閉5000回時までの試験を行った。また、各日の試験開始時には、液化水素にて冷却する前の状態で漏れ試験を行った。また、一日目と二日目の全試験の終了時には、試験用の極低温用グローブ弁に常温の水素ガスを供給することで極低温から常温に昇温した後にも、漏れ試験を行った。
【0099】
いずれの漏れ試験においても、弁座からのヘリウムガスの漏れは確認されず、本発明に係る極低温用グローブ弁は、液化水素のような極低温流体を扱う条件でも高いシール性を発揮できることが確認された。しかも、常温-極低温-常温といった温度サイクルにさらされても、高いシール性を維持できることも確認された。なお、最終的な開閉動作5000回というのは、試験用の極低温ベローズ弁に用いたベローズ(上記実施形態のベローズ20に該当)の耐久回数5000回に相当する。このことから、本実施形態の極低温用グローブ弁の弁座のシール性は、ベローズ部分での封止性と同等レベルの耐久性を発揮し得ることも判明した。
【0100】
次に、ハンドルを回動によりステムを昇降させる機構の他の構成例を図面により説明する。図9は、図1の極低温用グローブ弁のステムを昇降させる機構の他の構成例を示した一部拡大図面である。なお、図9の極低温用グローブ弁で図1の極低温用グローブ弁と共通する部分については同一の符号を使用し、説明を省略する。
【0101】
図1の極低温用グローブ弁では、ハンドルステム14の下部に設けた台形ネジのオネジ部18とボンネット8の内周面に形成した台形ネジのメネジ部12を螺合させ、ハンドルステム14の上部に取付けたハンドル17を回動させることによりステムの昇降が可能となるように構成されている。このようにボンネット8の内周面に台形ネジのメネジ部12を形成する場合、図1からも解るように段差があるため、メネジ部12の形成はいわゆるドン突き加工となって刃物による切削加工が行いにくい。
【0102】
図9に示す他の構成例では、メネジ部12の加工を容易にするため、ボンネット8とハンドルステム14との間に銅製のスリーブ45を介在させている。スリーブ45の外周には、ボンネット8の内周面に形成した三角ネジのメネジ部46と螺合する三角ネジのオネジ部47を形成し、内周面にはハンドルステム14の台形ネジのオネジ部48と螺合する台形ネジのメネジ部49を形成している。
【0103】
スリーブ45のオネジ部47をボンネット8の内周面のメネジ部46に螺着、締付けることによりスリーブ45をボンネット8に固定することができ、この状態でスリーブ45のメネジ部49とハンドルステム14のオネジ部48と螺合させることにより、ハンドルステム14の上部に取付けたハンドル17の回動によりステムの昇降が可能となる。
【0104】
上述した様に、スリーブ45は銅製でステンレス鋼よりも柔らかいため、スリーブ45の内周面に台形のメネジ部を形成する方がステンレス鋼製のボンネット8の内周面に形成するよりも簡単であり、また、メネジ部49の形成時に刃物を突き抜けられるので、刃物による切削加工が容易である。
【0105】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更ができるものである。
【符号の説明】
【0106】
1 ボデー
2 軸筒部(ボデー)
3 ボデー部(ボデー)
9 グランド部
13 グランドパッキン(グランド封止構造)
14 ハンドルステム(ステム)
15 上ステム(ステム)
16 下ステム(ステム)
16a 挿入部
16c 16d 貫通孔
20 ベローズ(ベローズ構造)
20a 上端部
20b 下端部
21 30 40 樹脂製弁体
21a 円錐面(弁体シール面)
21b 鍔部(樹脂製弁体)
21c 取付部(樹脂製弁体)
22 弁座シール面
23 貫通孔
24 ボルト(固定部材)
25 隙間
26 クリアランス
26a 26b 26c クリアランス
31 41 ステム
30a 挿入部
31a 取付部
33 隙間
34 貫通孔
35a 35b 35c クリアランス
40a 係合部
41a 取付溝
42a 42b 42c クリアランス
45 スリーブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9