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特許7385618電動モータ用の制御装置及びそれを備えるロボット、並びに電動モータの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】電動モータ用の制御装置及びそれを備えるロボット、並びに電動モータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 3/22 20060101AFI20231115BHJP
   B25J 9/12 20060101ALI20231115BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
H02P3/22 B
B25J9/12
H02P27/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021081058
(22)【出願日】2021-05-12
(62)【分割の表示】P 2019055982の分割
【原出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2021121170
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹 治彦
(72)【発明者】
【氏名】住友 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】富永 翔太
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-218476(JP,A)
【文献】特開2018-133896(JP,A)
【文献】特開平06-233572(JP,A)
【文献】特開昭61-062375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 3/00- 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの関節軸に搭載された電動モータの動作を制御するための制御装置であって、
直流電力を交流電力に変換するように構成され、変換した前記交流電力を前記電動モータへと出力するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御するための第1制御回路と、を備え、
前記第1制御回路は、
前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記電動モータをサーボ制御するために必要な所定の電圧値以上であることが検出されたとき、前記インバータ回路によって前記電動モータをサーボ制御し
前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき、前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、前記電動モータにダイナミックブレーキを作用させ、前記ダイナミックブレーキを作用させる際に、前記インバータ回路内で前記短絡回路を形成する状態と形成しない状態とを交互に切り替え、前記ダイナミックブレーキによる制動の大きさを調整し、且つ、
前記インバータ回路に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたとき又は前記異常が予測されるとき、前記電動モータを減速停止させるためのサーボ制御を開始することを特徴とする、電動モータ用の制御装置。
【請求項2】
ロボットの関節軸に搭載された電動モータの動作を制御するための制御装置であって、
直流電力を交流電力に変換するように構成され、変換した前記交流電力を前記電動モータへと出力するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御するための第1制御回路と、を備え、
前記第1制御回路は、
前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記電動モータをサーボ制御するために必要な所定の電圧値以上であることが検出されたとき、前記インバータ回路によって前記電動モータをサーボ制御し、
前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき、前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、前記電動モータにダイナミックブレーキを作用させ、前記ダイナミックブレーキを作用させる際に、前記インバータ回路内で前記短絡回路を形成する状態と形成しない状態とを交互に切り替え、前記ダイナミックブレーキによる制動の大きさを調整し、
前記電動モータは、前記ダイナミックブレーキに加えて無励磁作動型電磁ブレーキによっても制動され、
前記無励磁作動型電磁ブレーキの動作を制御するための第2制御回路をさらに備え、
前記第2制御回路は、前記インバータ回路に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたとき又は前記異常が予測されるとき、前記無励磁作動型電磁ブレーキによって前記電動モータを制動するための制御を開始する、電動モータ用の制御装置。
【請求項3】
電源から供給される電力の態様を変換するように構成され、変換した前記電力を前記インバータ回路へと出力するための変換回路と、
前記電源の出力端子間の電圧値、又は前記変換回路の入力端子間の電圧値を検出し、検出した前記電圧値を前記第2制御回路へと出力するための第2電圧検出回路と、をさらに備え、
前記第2制御回路は、前記第2電圧検出回路で検出された前記電圧値が所定の正常な範囲外になったことに基づき、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、前記無励磁作動型電磁ブレーキによって前記電動モータを制動するための制御を開始する、請求項2に記載の電動モータ用の制御装置。
【請求項4】
前記電源は交流電源であり、
前記変換回路は、前記交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換するように構成されたコンバータ回路を含む、請求項3に記載の電動モータ用の制御装置。
【請求項5】
前記変換回路と前記インバータ回路との間で、前記変換回路及び前記インバータ回路に対して並列に接続されるコンデンサをさらに備える、請求項3又は4に記載の電動モータ用の制御装置。
【請求項6】
前記電動モータは、三相交流モータとして構成され、
前記インバータ回路は、三つの相を有する三相インバータとして構成され、
前記第1制御回路は、前記インバータ回路内で三つの上アームから成る第1群、及び三つの下アームから成る第2群のうちいずれか一方の群の三つのアーム全てをONにし、いずれか他方の群の三つのアーム全てをOFFにすることで、前記三相交流モータの三つの相全てを短絡させるか、又は、前記いずれか一方の群の二つのアームをONにし、前記二つのアームとは異なる相に属する前記いずれか他方の群の一つのアームをON又はOFFにし、残り三つのアーム全てをOFFにすることで、前記三相交流モータの二つの相を短絡させて前記短絡回路を形成する、請求項1乃至5のいずれかに記載の電動モータ用の制御装置。
【請求項7】
前記第1制御回路は、前記インバータ回路内で三つの上アームをOFFにし、三つの下アームをONにすることで、前記三相交流モータの三つの相全てを短絡させて前記短絡回路を形成する、請求項6に記載の電動モータ用の制御装置。
【請求項8】
前記第1制御回路は、前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたときに加えて、前記第1制御回路が電源から電力を供給されて作動し始める初期状態においても前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、前記電動モータにダイナミックブレーキを作用させる、請求項1乃至7のいずれかに記載の電動モータ用の制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の電動モータ用の制御装置と、
前記電動モータ用の制御装置によって動作を制御される前記電動モータと、
前記電動モータによって駆動する前記関節軸を有するロボットアームと、を備えることを特徴とする、ロボット。
【請求項10】
前記ロボットアームが重力の影響を受けることで前記電動モータの回転軸が回転し得るように構成される、請求項9に記載のロボット。
【請求項11】
ロボットの関節軸に搭載された電動モータの動作を制御するための制御方法であって、
直流電力を交流電力に変換するように構成され、変換した前記交流電力を前記電動モータへと出力するためのインバータ回路が予め準備されており、
前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記電動モータをサーボ制御するために必要な所定の電圧値以上であることが検出されたとき、前記インバータ回路によって前記電動モータをサーボ制御する第1ステップと、
前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき、前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、前記電動モータにダイナミックブレーキを作用させる第2ステップと、
前記ダイナミックブレーキを作用させる際に、前記インバータ回路内で前記短絡回路を形成する状態と形成しない状態とを交互に切り替え、前記ダイナミックブレーキによる制動の大きさを調整するステップと、
前記インバータ回路に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたとき又は前記異常が予測されるとき、前記電動モータを減速停止させるためのサーボ制御を開始するステップと、
を備えることを特徴とする、電動モータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータ用の制御装置及びそれを備えるロボット、並びに電動モータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロボットの関節軸に搭載された電動モータの動作を制御するための制御装置が知られている。このような電動モータ用の制御装置が、例えば、特許文献1の停電落下防止制御装置で提案されている。
【0003】
特許文献1には、重力の影響で回転し得る重力軸を備えた機械において、前記重力軸が停電時に落下してしまうことを防止するための制御装置が記載されている。特許文献1には、停電が発生したとき、コンデンサに蓄えられた静電エネルギーを用いて電動モータに減速制御がなされることで、前記電動モータの回転速度を急速に遅くすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-263973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の停電落下防止制御装置は、インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が電動モータをサーボ制御するために必要な所定の電圧値よりも小さくなったとき、前記インバータ回路を用いて電動モータを制動することができない。これにより、同停電落下防止制御装置は、電動モータを確実に制動できない場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、ロボットの関節軸に搭載された電動モータを確実に制動することが可能な、電動モータ用の制御装置及びそれを備えるロボット、並びに電動モータの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、ロボットの関節 軸に搭載された電動モータの動作を制御するための制御装置であって、直流電力を交流電力に変換するように構成され、変換した前記交流電力を前記電動モータへと出力するためのインバータ回路と、前記インバータ回路を制御するための第1制御回路と、を備え、前記第1制御回路は、電気的な異常が検出されたとき、前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、前記電動モータにダイナミックブレーキを作用させ、前記ダイナ ミックブレーキを作用させる際に、前記インバータ回路内で前記短絡回路を形成する状態 と形成しない状態とを交互に切り替え、前記ダイナミックブレーキによる制動の大きさを 調整することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき、前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、電動モータにダイナミックブレーキを作用させる。その結果、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、ロボットの 関節軸に搭載された電動モータを確実に制動することが可能となる。また、上記構成によ れば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、ダイナミックブレーキによる制動力の大 きさを調節することが可能となる。
【0009】
前記第1制御回路は、前記インバータ回路に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知したとき、前記電動モータを減速停止させるためのサーボ制御を開始してもよい。
【0010】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、インバータ回路に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知されてから、インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されるまで、ロボットの関節軸に搭載された電動モータを減速停止させるためのサーボ制御を行うことが可能となる。その結果、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、前記電動モータをいっそう確実に制動することができる。また、前記電動モータを急停止させることがないので、前記電動モータの劣化や損傷を抑制することが可能となる。
【0011】
前記電動モータは、前記ダイナミックブレーキに加えて無励磁作動型電磁ブレーキによっても制動され、前記無励磁作動型電磁ブレーキの動作を制御するための第2制御回路をさらに備え、前記第2制御回路は、前記インバータ回路に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知したとき、前記無励磁作動型電磁ブレーキによって前記電動モータを制動するための制御を開始してもよい。
【0012】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、ロボットの関節軸に搭載 された電動モータに対してダイナミックブレーキを作用させることに加えて、無励磁作動型電磁ブレーキによって前記電動モータを制動することができる。その結果、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、前記電動モータをいっそう確実に制動することが可能となる。
【0013】
例えば、電源から供給される電力の態様を変換するように構成され、変換した前記電力を前記インバータ回路へと出力するための変換回路と、前記電源の出力端子間の電圧値、又は前記変換回路の入力端子間の電圧値を検出し、検出した前記電圧値を前記第2制御回路へと出力するための第2電圧検出回路と、をさらに備え、前記第2制御回路は、前記第2電圧検出回路で検出された前記電圧値が所定の正常な範囲外になったことに基づき、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、前記無励磁作動型電磁ブレーキによって前記電動モータを制動するための制御を開始してもよい。
【0014】
前記電源は交流電源であり、前記変換回路は、前記交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換するように構成されたコンバータ回路を含んでもよい。
【0015】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、交流電源から交流電力を供給されることが可能となる。
【0016】
前記変換回路と前記インバータ回路との間で、前記変換回路及び前記インバータ回路に対して並列に接続されるコンデンサをさらに備えてもよい。
【0017】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、コンデンサに蓄えられた静電エネルギーを用いて、電動モータを減速停止させるためのサーボ制御を行うことが可能となる。
【0018】
例えば、前記電動モータは、三相交流モータとして構成され、前記インバータ回路は、三つの相を有する三相インバータとして構成され、前記第1制御回路は、前記インバータ回路内で三つの上アームから成る第1群、及び三つの下アームから成る第2群のうちいずれか一方の群の三つのアーム全てをONにし、いずれか他方の群の三つのアーム全てをOFFにすることで、前記三相交流モータの三つの相全てを短絡させるか、又は、前記いずれか一方の群の二つのアームをONにし、前記二つのアームとは異なる相に属する前記いずれか他方の群の一つのアームをON又はOFFにし、残り三つのアーム全てをOFFにすることで、前記三相交流モータの二つの相を短絡させて前記短絡回路を形成してもよい。
【0019】
前記第1制御回路は、前記インバータ回路内で三つの上アームをOFFにし、三つの下アームをONにすることで、前記三相交流モータの三つの相全てを短絡させて前記短絡回路を形成してもよい。
【0020】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、三相交流モータの三つの相のうち二つの相を短絡させて短絡回路を形成する場合と比較して、ロボットの関節軸に 搭載された電動モータをいっそう確実に制動することが可能となる。
【0024】
前記第1制御回路は、前記インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたときに加えて、前記第1制御回路が電源から電力を供給されて作動し始める初期状態においても前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、前記電動モータにダイナミックブレーキを作用させてもよい。
【0025】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータ用の制御装置は、第1制御回路が電源から電力を供給されて作動し始めるとき、ロボットの関節軸に搭載された電動モータの回転軸が回転してしまうことを抑制することが可能となる。
【0026】
前記課題を解決するために、本発明に係るロボットは、上記いずれかの電動モータ用の制御装置と、前記電動モータ用の制御装置によって動作を制御される前記電動モータと、前記電動モータによって駆動する前記関節軸を有するロボットアームと、を備えることを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、本発明に係るロボットは、上記いずれかの電動モータ用の制御装置を備えるので、ロボットの関節軸に搭載された電動モータを確実に制動することが可能となる。
【0028】
記ロボットアームが重力の影響を受けることで前記電動モータの回転軸が回転し得るように構成されてもよい。
【0029】
上記構成によれば、本発明に係るロボットは、ロボットアームが重力の影響を受けることで電動モータの回転軸を中心として落下方向に回動してしまうことを抑制することが可能となる。
【0030】
前記課題を解決するために、本発明に係る電動モータの制御方法は、ロボットの関節軸 に搭載された電動モータの動作を制御するための制御方法であって、直流電力を交流電力に変換するように構成され、変換した前記交流電力を前記電動モータへと出力するためのインバータ回路が予め準備されており、電気的な異常が検出されたとき、前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、前記電動モータにダイナミックブレーキを作用させるステップと、前記ダイナミックブレーキを作用させる際に、前記インバータ回路 内で前記短絡回路を形成する状態と形成しない状態とを交互に切り替え、前記ダイナミッ クブレーキによる制動の大きさを調整するステップと、を備えることを特徴とする。
【0031】
上記構成によれば、本発明に係る電動モータの制御方法は、インバータ回路の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき、前記インバータ回路内で短絡回路を形成することによって、電動モータにダイナミックブレーキを作用させる。その結果、本発明に係る電動モータの制御方法は、ロボットの関節 軸に搭載された電動モータを確実に制動することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ロボットの関節軸に搭載された電動モータを確実に制動することが可能な、電動モータ用の制御装置及びそれを備えるロボット、並びに電動モータの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態に係るロボットの全体構成を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置を示す回路図である。
図3】本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置が第1態様の制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置が第2態様の制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置が第3態様の制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置が備える第1制御回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置が備える第2制御回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置が備える第3制御回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
図9】従来からある電動モータ用の制御装置が制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係る電動モータ用の制御装置及びそれを備えるロボット、並びに電動モータの制御方法について、添付図面に基づき説明する。なお、本実施形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下では、全ての図を通じて、同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0035】
(ロボット10)
図1は、本実施形態に係るロボットの全体構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態に係るロボット10は、基台11と、当該基台11にその基端部が連結されるロボットアーム20と、当該ロボットアーム20の先端に取り付けられる図示しないエンドエフェクタと、ロボットアーム20及び前記エンドエフェクタの動作を制御するためのロボット制御装置40と、を備える。
【0036】
(ロボットアーム20)
図1に示すように、ロボットアーム20は、6つの関節軸JT1~JT6と、これらの関節軸によって順次連結される6つのリンク30a~30eと、を有する垂直多関節型のロボットアームである。関節軸JT1~JT6には、それぞれ、後述する電動モータ32が設けられる。
【0037】
関節軸JT1、リンク30a、関節軸JT2、リンク30b、関節軸JT3、及びリンク30cから成るリンク及び関節軸の連結体によって、第1アーム部21が構成される。具体的には、関節軸JT1は、基台11とリンク30aの基端部とを鉛直方向に延びる軸回りに回転可能に連結する。関節軸JT2は、リンク30aの先端部とリンク30bの基端部とを水平方向に延びる軸回りに回転可能に連結する。関節軸JT3は、リンク30bの先端部とリンク30cの基端部とを水平方向に延びる軸回りに回転可能に連結する。
【0038】
関節軸JT4、リンク30d、関節軸JT5、リンク30e、及び関節軸JT6から成るリンク及び関節軸の連結体によって、第2アーム部22が構成される。具体的には、関節軸JT4は、リンク30cの先端部とリンク30dの基端部とをリンク30cの長手方向に延びる軸回りに回転可能に連結する。関節軸JT5は、リンク30dの先端部とリンク30eの基端部とをリンク30dの長手方向と直交する方向に延びる軸回りに回転可能に連結する。関節軸JT6は、リンク30eの先端部とエンドエフェクタの基端部とを捻れ回転可能に連結する。
【0039】
(電動モータ32)
本実施形態において、電動モータ32は、関節軸JT1~JT6それぞれを駆動するために、当該関節軸JT1~JT6それぞれに設けられる。なお、以下において、特に必要な場合を除き、六つのうち一つの電動モータ32(本実施形態では、特に、関節軸JT3に設けられる電動モータ32)についてのみ説明し、その他の同様となる説明は繰り返さない。
【0040】
本実施形態において、電動モータ32は、三相交流モータとして構成される。電動モータ32は、後述するインバータ回路60によるダイナミックブレーキに加えて、無励磁作動型電磁ブレーキ36(図2参照)によっても制動される。ここで、無励磁作動型電磁ブレーキ36とは、図示しないコイルを有し、当該コイルが励磁状態のとき電動モータ32を制動し(すなわち、ブレーキを作用させ)、当該コイルが励磁状態のとき電動モータ32を制動しない(すなわち、ブレーキを作用させない)よう構成される。
【0041】
(ロボット制御装置40)
ロボット制御装置40ついて、具体的な構成は特に限定されないが、例えば、公知のプロセッサ(CPU等)が記憶部(メモリ等)に格納されたプログラムに従って動作することにより実現される構成であってもよい。なお、図1に示すように、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、ロボット制御装置40の一部として構成される。
【0042】
(電動モータ用の制御装置50)
本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50(以下、単に「制御装置50」と称することがある)は、ロボットアーム20が重力(外力)の影響を受けることで回転し得る回転軸33を有する電動モータ32の動作を制御するために設けられる。なお、以下において、特に必要な場合を除き、制御装置50が関節軸JT3に設けられる電動モータ32の動作を制御する場合についてのみ説明し、その他の同様となる説明は繰り返さない。
【0043】
(ダイナミックブレーキを作用させるために必要な構成)
図2は、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置を示す回路図である。図2に示すように、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、直流電力を交流電力に変換するように構成され、変換した交流電力を電動モータ32へと出力するためのインバータ回路60と、インバータ回路60を制御するための第1制御回路92と、インバータ回路60の電力供給用の入力端子間の電圧値Vを検出し、当該電圧値Vを第1制御回路92へと出力するための第1電圧検出回路76と、を備える。
【0044】
インバータ回路60は、三相インバータとして構成される。これにより、インバータ回路60は、変換した交流電力を三相交流モータである電動モータ32へと出力することが可能となる。インバータ回路60は、アームとして六つのIGBT62a~62f(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を有する。
【0045】
ここで、本実施形態では、インバータ回路60の各スイッチング素子(すなわち、六つのIGBT62a~62f)をアームと称し、インバータ回路60の上下一組のアームを相と称することがある。ここでは、IGBT62a、62dがU相に属し、IGBT62b、62eがV相に属し、IGBT62a、62dがW相に属する。インバータ回路60は、三相インバータとして構成されるので、六つのアーム及び三つの相を有する。
【0046】
インバータ回路60は、六つのIGBT62a~62fそれぞれに対して並列に接続される還流ダイオード64a~64fをさらに有する。還流ダイオード64a~64fは、それぞれ、カソードがアノードよりも電位の高い側に配置される。
【0047】
第1制御回路92、並びに後述する第2制御回路94及び第3制御回路96(以下、これら三つを纏めて「制御回路90」と称することがある)は、交流電源110に第2変換回路74を介して電気的に接続される。ここで、第2変換回路74は、交流電源110から供給される交流電力の態様を適切に変換して制御回路90へと出力するために設けられる。
【0048】
第1制御回路92は、ロボット10に設けられる第1センサ120aからロボット10の状態(すなわち、電動モータ32を有する装置の状態)を示す第1状態データを取得し、かつ、ロボット10に設けられる第2センサ120bからロボット10によって作業されるワークWの状態を示す第2状態データを取得する。
【0049】
ここで、電動モータ32の回転軸33には、当該回転軸33の回転位置を検出するためのエンコーダ34が取り付けられる。そして、第1制御回路92は、エンコーダ34で検出された回転軸33の回転位置に基づき、電動モータ32をサーボ制御することができる。
【0050】
第1制御回路92は、インバータ回路60の電力供給用の入力端子間の電圧値Vが電動モータ32をサーボ制御するために必要な所定の電圧値以上であることが検出されたとき、インバータ回路60によって電動モータ32をサーボ制御する。一方、第1制御回路92は、インバータ回路60の電力供給用の入力端子間の電圧値Vが前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき、インバータ回路60内で短絡回路を形成することによって、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させる。
【0051】
第1制御回路92は、インバータ回路60内で三つの上アームをOFFにし、三つの下アームをONにすることで(すなわち、IGBT62a~62cをOFFにし、IGBT62d~62fをONにすることで)、電動モータ32の三つの相全てを短絡させて前記短絡回路を形成することが可能である。
【0052】
(減速停止させるためのサーボ制御に必要な構成)
本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、交流電源110から供給される交流電力の態様(電源から供給される電力の態様)を変換するように構成され、変換した交流電力をインバータ回路60へと出力するための第1変換回路72(変換回路)と、第1変換回路72とインバータ回路60との間で、第1変換回路72及びインバータ回路60に対して並列に接続されるコンデンサ70と、をさらに備える。
【0053】
第1変換回路72は、交流電源110から供給される交流電力を直流電力に変換するように構成されたコンバータ回路73を含む。なお、例えば、第1変換回路72は、交流電源110から供給される交流電力を昇圧し、昇圧した交流電力をインバータ回路60へと出力するための昇圧回路をさらに有してもよい。
【0054】
そして、第1制御回路92は、第1センサ120aから取得した第1状態データ、及び第2センサ120bから取得した第2状態データのうち少なくともいずれかに基づき、インバータ回路60に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を開始する。
【0055】
なお、前記異常の要因としては、上記の他にも様々なものが考えられる。第1制御回路92は、例えば、非常停止スイッチが押下されたこと、ブレーカにより交流電源110からの電力供給が遮断されたこと、及びコンバータ回路73が緊急停止されたこと等に基づき、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、ロボット10を非常停止させるために、電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を開始してもよい。
【0056】
或いは、第1制御回路92は、ティーチペンダントに設けられるイネーブルスイッチが押されたこと、安全柵又はライトカーテン内への侵入を検出したこと、及びセンサによりロボット10に外力が加えられたこと等に基づき、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、ロボット10を保護停止させるために、電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を開始してもよい。
【0057】
(無励磁作動型電磁ブレーキ36を作用させるための構成)
本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32に取り付けられる無励磁作動型電磁ブレーキ36の動作を制御するための第2制御回路94と、第1変換回路72の入力端子間の電圧値V(図示せず)を検出し、当該電圧値Vを第2制御回路94へと出力するための第2電圧検出回路78と、をさらに備える。
【0058】
第2制御回路94は、第2電圧検出回路78で検出された電圧値V(同前)が所定の正常な範囲外になったことに基づき、インバータ回路60に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、無励磁作動型電磁ブレーキ36によって電動モータ32を制動するための制御を開始する。
【0059】
インバータ回路60に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されること又は前記異常が予測されることについては、上記した説明した通り、様々な要因が考えられるが、ここでは同様となる説明を繰り返さない。
【0060】
(スイッチ回路80を制御するための構成)
本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、交流電源110からインバータ回路60に対して交流電力を供給するか否かを切り替えるためのスイッチ回路80と、ロボット10(換言すれば、電動モータ32を有する装置)の状態を示す第1状態データ、及び当該ロボット10によって作業されるワークWの状態を示す第2状態データのうち少なくともいずれかに基づき、スイッチ回路80を制御するための第3制御回路96と、をさらに備える。
【0061】
スイッチ回路80は、三つのスイッチ82a~82cと、励磁状態のとき三つのスイッチ82a~82cそれぞれをONにし、非励磁状態のとき三つのスイッチ82a~82cそれぞれをOFFにするためのコイル84と、を有する。
【0062】
第3制御回路96は、スイッチ回路80のコイル84に電気的に接続され、当該コイル84の励磁状態と非励磁状態とを切り替えることで、スイッチ回路80のONとOFFを切り替えることが可能である。そして、第3制御回路96は、第1センサ120aから取得する第1状態データ、及び第2センサ120bから取得する第2状態データのうち少なくともいずれかに基づき、異常が検出されたこと又は異常が予測されることを検知して、スイッチ回路80をOFFにし、交流電源110から第1変換回路72に対して供給される交流電力を遮断する。
【0063】
(効果)
本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、インバータ回路60の電力供給用の入力端子間の電圧値Vが電動モータ32をサーボ制御するために必要な所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき、インバータ回路60内で短絡回路を形成することによって、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させる。その結果、電動モータ用の制御装置50は、回転軸33が重力(外力)の影響で回転し得る電動モータ32を確実に制動することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32をサーボ制御するためのインバータ回路60内で短絡回路を形成することで、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させるための専用回路(例えば、リレー回路等)を別個に設ける必要がない。これにより、回路構成を簡単にすることができる。
【0065】
ここで、前記専用回路を別個に設けた場合、例えば、前記専用回路がロボット10に異常が生じた緊急時にのみ使用されることになる。このような場合、前記専用回路が故障していても、ロボット10の通常運転時にはその故障に気付くことが困難であり、放置してしまう可能性が高い。そして、このような場合、緊急時になってダイナミックブレーキが作動せずに、大きな事故を引き起こしてしまう可能性がある。
【0066】
一方、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32をサーボ制御するためのインバータ回路60を用いてダイナミックブレーキを作用させるため、当該インバータ回路60が故障していた場合、ロボット10の通常運転時にその故障に気付くことができる。したがって、インバータ回路60が故障していることに気付いたときに、当該インバータ回路60を修理しておくことで、緊急時になってダイナミックブレーキが作動しないことを未然に防止することが可能となる。
【0067】
ここで、主に図3及び図9に基づき、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50によって奏する効果をより詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置が第1態様の制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。また、図9は、従来からある電動モータ用の制御装置が制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。なお、従来からある電動モータ用の制御装置50´(図示せず)が備える構成要素のうち、上記実施形態に係る電動モータ用の制御装置50に対応する構成要素については、同制御装置50の説明で用いた参照番号の後に「´」を付して表記し、ここでは同様となる説明及び図示は繰り返さない。
【0068】
例えば、図9に示すように、従来からある電動モータ用の制御装置50´は、時間tでロボット10´の状態を示す第1状態データ、及びワークW´の状態を示す第2状態データのうち少なくともいずれかに基づいて異常を検知すると、電動モータ32´を減速停止させるためのサーボ制御を開始する。
【0069】
また、従来からある電動モータ用の制御装置50´は、上記のように時間tで異常を検知すると、スイッチ回路80´をOFFにするための制御を開始する。ここで、スイッチ回路80´をOFFにするための制御を開始してから、実際にスイッチ回路80´がOFFされるまで、t-tのタイムラグが生じる。このタイムラグは、コイル84´を励磁状態にすること、及び励磁状態にされたコイル84´によってスイッチ82a´~82c´がOFFされることに若干の時間を要するためである。
【0070】
そして、実際にスイッチ回路80´がOFFされて交流電源110´からインバータ回路60´に対して供給される交流電力が遮断されると、第2制御回路94´は、第2電圧検出回路78´で検出される電圧値Vが所定の正常な範囲外になったことに基づき、インバータ回路60´に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、無励磁作動型電磁ブレーキ36´によって電動モータ32´を制動するための制御を開始する。
【0071】
ここで、無励磁作動型電磁ブレーキ36´によって電動モータ32´を制動するための制御を開始してから、実際に無励磁作動型電磁ブレーキ36´が作動されるまで、t-tのタイムラグが生じる。このタイムラグは、例えば、無励磁作動型電磁ブレーキ36´に設けられるコイル(図示せず)を非励磁状態に切り替えようとするとき、当該コイルに逆起電力が生じ、当該コイルに対して並列に接続された還流ダイオード(同前)を経由して還流電流が流れてしまうこと等に起因する。
【0072】
なお、例えば、スイッチ回路80´をOFFにするための制御を開始してから、実際に無励磁作動型電磁ブレーキ36´が作動されるまで(すなわち、時間tから時間tまで)、200ms程度の時間を要する。
【0073】
また、従来からある電動モータ用の制御装置50´は、時間tで前記第1及び前記第2状態データのうち少なくともいずれかに基づいて異常を検知すると、上記のようにスイッチ回路80´をOFFにするための制御を開始することに加えて、電動モータ32´を減速停止させるためのサーボ制御を開始する。
【0074】
従来からある電動モータ用の制御装置50´は、上記のように交流電源110´からインバータ回路60´に対して供給される交流電力が遮断されたあとも(時間tのあとも)、例えばコンデンサ70´に蓄えられた静電エネルギーを用いて、暫くの間(t-tの間)は電動モータ32´を減速停止させるためのサーボ制御を行うことが可能である。
【0075】
しかし、電動モータ32´をサーボ制御するには、一般に、第1変換回路72´から電動モータ32´までの間で比較的大きい電力を必要とする。そして、インバータ回路60´の入力端子間の電圧値V´が電動モータ32´をサーボ制御するために必要な所定の電圧値よりも小さくなる時間t以降において、前記減速停止させるためのサーボ制御を行うことができなくなる。
【0076】
したがって、例えば図9に示すように、従来からある電動モータ用の制御装置50´は、電動モータ32´を減速停止させるためのサーボ制御を行うことができなくなる時間tが、実際に無励磁作動型電磁ブレーキ36´が作動される時間tよりも早い場合、時間tから時間tまでの間において、無励磁作動型電磁ブレーキ36´を制動することができなくなる。
【0077】
これにより、時間tから時間tまでの間において、例えばロボットアーム20´の関節軸JT3´よりも先端側の部分が重力の影響を受けることで、先端側の部分が関節軸JT3´に設けられる電動モータ32´の回転軸33´を中心として落下方向に回動してしまう。これにより、例えば、当該先端側の部分がワークW´に衝突してしまう等の問題が生じる可能性があった。
【0078】
一方、図3に示すように、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、時間tから時間tまでの間において、インバータ回路60内で短絡回路を形成することによって、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させる。これにより、電動モータ用の制御装置50は、時間tから時間tまでの間において、例えばロボットアーム20の関節軸JT3よりも先端側の部分が関節軸JT3に設けられる電動モータ32の回転軸33を中心として落下方向に回動してしまうことを抑制することが可能となる。その結果、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、回転軸33が重力(外力)の影響で回転し得る電動モータ32を確実に制動することが可能となる。
【0079】
さらに、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、第1センサ120aから取得した第1状態データ、及び第2センサ120bから取得した第2状態データのうち少なくともいずれかに基づき、インバータ回路60に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知した時間tから、インバータ回路60の電力供給用の入力端子間の電圧値Vが電動モータをサーボ制御するために必要な所定の電圧値よりも小さくなったことが検出される時間tまで(すなわち、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させる時間tまで)、電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を行う。これにより、電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32をいっそう確実に制動することができる。また、電動モータ32を急停止させることがないので、電動モータ32の劣化や損傷を抑制することが可能となる。
【0080】
本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32に対してダイナミックブレーキを作用させることに加えて、無励磁作動型電磁ブレーキ36によって電動モータ32を制動することができる。具体的には、時間tから時間tまでの間は電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を行い、時間t以降はダイナミックブレーキを作用させ、且つ、時間t以降は無励磁作動型電磁ブレーキ36を作用させるので、電動モータ32をいっそう確実に制動することが可能となる。その結果、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32をいっそう確実に制動することが可能となる。
【0081】
また、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、第1変換回路72(変換回路)が交流電力を直流電力に変換するように構成されたコンバータ回路73を有するので、交流電源110から交流電力を供給されることが可能となる。
【0082】
さらに、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、第1変換回路72及びインバータ回路60に対して並列に接続されるコンデンサ70を備えるので、時間tから時間tまでの間において、コンデンサ70に蓄えられた静電エネルギーを用いて、電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を行うことが可能となる。
【0083】
また、本実施形態では、インバータ回路60内で三つの上アームをOFFにし、三つの下アームをONにすることで、電動モータ32(三相交流モータ)の三つの相全てを短絡させることによって、時間tから時間tまでの間において、例えば二つの相を短絡させて短絡回路を形成する場合と比較して、ロボットアーム20の関節軸JT3よりも先端側の部分が、滑らかにゆっくりと落下方向に回動する。これにより、電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32をいっそう確実に制動することが可能となる。
【0084】
図4は、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置が第2態様の制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。図4に示すように、本実施形態では、第1制御回路92が、ダイナミックブレーキを作用させる際に、インバータ回路60内で短絡回路を形成する状態と形成しない状態とをパルス状に切り替え可能である。これにより、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置50は、ダイナミックブレーキによる制動力の大きさを調節することが可能となる。
【0085】
図5は、本実施形態に係る電動モータ用の制御装置が第3態様の制御を実行したときの概略的なタイムチャートである。図5に示すように、本実施形態では、第1制御回路92は、インバータ回路60の電力供給用の入力端子間の電圧値が前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたときに加えて、当該第1制御回路92が交流電源110から交流電力を供給されて作動し始める初期状態(図5において時間t)においてもインバータ回路60内で短絡回路を形成することによって、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させることが可能である。
【0086】
これにより、交流電源110から交流電力を供給されてロボット10が作動し始めたとき、無励磁作動型電磁ブレーキ36のコイルが無励磁状態から励磁状態に切り替わり、当該無励磁作動型電磁ブレーキ36が作動しなくなったとき(図5において時間t0-2以降)、ロボットアーム20が落下方向に回動してしまうことを抑制することが可能となる。
【0087】
さらに、ロボット10がロボットアーム20の動作を制御するためにガスバランサ(図示せず)を備えている場合で、当該ガスバランサ内に十分な量のガスが充填されていない場合であっても、ロボットアーム20が落下方向に回動してしまうことを抑制することが可能となる。
【0088】
なお、交流電源110から交流電力を供給されてロボット10が作動し始めたときに限定されず、ロボット10が作動している際中であっても、上記したように、無励磁作動型電磁ブレーキ36が正常に作動しない場合、それを各種センサにより検出して電動モータ用の制御装置50に送信することで、同様の方法で電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させることで、ロボットアーム20が落下方向に回動してしまうことを抑制することが可能となる。
【0089】
(電動モータの制御方法)
つづいて、本発明の実施形態に係る電動モータの制御方法の一例について説明する。なお、ここでは、上記実施形態に係る電動モータ用の制御装置50を備えるロボット10が予め準備されており、そのあとで、本発明の実施形態に係る電動モータの制御方法が、上記で説明した電動モータ用の制御装置50を用いて行われる場合について、主に図4~6に基づき説明する。
【0090】
まず、図6に基づき、本実施形態に係る電動モータの制御方法のうち、上記実施形態で説明した第1制御回路92によって実行されるステップについて述べる。図6は、上記実施形態に係る電動モータ用の制御装置が備える第1制御回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0091】
第1制御回路92は、インバータ回路60に対して直流電力を供給することができない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知したか否かを判定する(図6においてステップS1-1)。
【0092】
そして、第1制御回路92は、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知したとき(図6のステップS1-1で「YES」)、電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を開始する(図6においてステップS1-2)。
【0093】
一方、第1制御回路92は、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知したとき(図6のステップS1-1で「NO」)、第1電圧検出回路76で検出された電圧値Vが電動モータをサーボ制御するために必要な所定の電圧値以上であることが検出されたか否かを判定する(図6においてステップS1-3)。
【0094】
そして、第1制御回路92は、前記電圧値Vが前記所定の電圧値以上であることが検出されたとき(図6のステップS1-3で「YES」)、インバータ回路60によって電動モータ32をサーボ制御する(図6においてステップS1-4(第1ステップ))。
【0095】
一方、第1制御回路92は、前記電圧値Vが前記所定の電圧値よりも小さくなったことが検出されたとき(図6のステップS1-3で「NO」)、インバータ回路60内で短絡回路を形成することによって、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させる(図6においてステップS1-5(第2ステップ))。
【0096】
次に、図7に基づき、本実施形態に係る電動モータの制御方法のうち、上記実施形態で説明した第2制御回路94によって実行されるステップについて述べる。図7は、上記実施形態に係る電動モータ用の制御装置が備える第2制御回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0097】
第2制御回路94は、インバータ回路60に対して直流電力を供給することができない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知したか否かを判定する(図7においてステップS2-1)。
【0098】
そして、第2制御回路94は、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知したとき(図7のステップS2-1で「YES」)、無励磁作動型電磁ブレーキ36によって電動モータ32を制動するための制御を開始する(図7においてステップS2-2)。
【0099】
一方、第2制御回路94は、前記異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることが検知されなかったとき(図7のステップS2-1で「NO」)、ステップS2-1に戻って処理を繰り返す。
【0100】
最後に、図8に基づき、本実施形態に係る電動モータの制御方法のうち、上記実施形態で説明した第3制御回路96によって実行されるステップについて述べる。図8は、上記実施形態に係る電動モータ用の制御装置が備える第3制御回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0101】
まず、第3制御回路96は、前記第1及び前記第2状態データのうち少なくともいずれかに基づき異常が生じたか否かを判定する(図8においてステップS3-1)。
【0102】
そして、第3制御回路96は、前記第1及び前記第2状態データのうち少なくともいずれかに基づき異常を検知したとき(図8のステップS3-1で「YES」)、交流電源110から第1変換回路72に対して交流電力を供給するか否かを切り替えるためのスイッチ回路80をOFFにする(図8においてステップS3-2)。
【0103】
一方、第3制御回路96は、前記第1及び前記第2状態データのうち少なくともいずれかに基づき異常を検知しなかったとき(図8のステップS3-1で「NO」)、ステップS3-1に戻って処理を繰り返す。
【0104】
なお、図6に基づき説明した第1制御回路92によって実行されるステップ、図7に基づき説明した第2制御回路94によって実行されるステップ、及び図8に基づき説明した第3制御回路96によって実行されるステップは、それぞれ、互いに並行して行われることが好ましい。
【0105】
(変形例)
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【0106】
上記実施形態では、ロボットアーム20が重力の影響を受けることで電動モータ32の回転軸33が回転し得るように構成される場合を説明した。しかし、この場合に限定されず、ロボットアーム20が重力以外の外力(例えば、作業者の人力等)を受けることで電動モータ32の回転軸33が回転し得るように構成されてもよい。
【0107】
上記実施形態では、電動モータ用の制御装置50が、ロボット10の関節軸JT1~JT6それぞれを駆動するための電動モータ32の動作を制御するために設けられる場合を説明した。しかし、この場合に限定されず、電動モータ用の制御装置50は、ロボット10以外の装置(例えば、作業現場で用いられるドリルを駆動するための駆動装置等)内において、回転軸が外力の影響で回転し得る電動モータの動作を制御するために設けられてもよい。
【0108】
上記実施形態では、インバータ回路60がアームとしてIGBT62a~62f(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を有する場合について説明した。しかし、この場合に限定されず、インバータ回路60がアームとしてFET(Field Effect Transistor、電
界効果トランジスタ)を有してもよいし、他のトランジスタを有してもよいし、又は、その他のスイッチング素子を有してもよい。
【0109】
上記実施形態では、第1制御回路92は、インバータ回路60内でIGBT62a~62c(三つの上アーム)をOFFにし、IGBT62d~62f(三つの下アーム)をONにしすることで、電動モータ32(三相交流モータ)の三つの相全てを短絡させて短絡回路を形成する場合を説明した。しかし、この場合に限定されず、第1制御回路92は、インバータ回路60内でIGBT62a~62cをONにし、IGBT62d~62fをOFFにすることで、電動モータ32の三つの相全てを短絡させて短絡回路を形成してもよい。
【0110】
ひいては、第1制御回路92は、インバータ回路60内でIGBT62a~62c(三つの上アーム)から成る第1群、及びIGBT62d~62f(三つの下アーム)から成る第2群のうちいずれか一方の群の三つのアーム全てをONにし、いずれか他方の群の三つのアーム全てをOFFにすることで、電動モータ30(三相交流モータ)の三つの相全てを短絡させてもよい。
【0111】
これにより、例えば、電動モータ32(三相交流モータ)の二つの相を短絡させて前記短絡回路を形成する場合と比較して、ロボットアーム20の関節軸JT3よりも先端側の部分が、滑らかにゆっくりと落下方向に回動する。その結果、電動モータ用の制御装置50は、電動モータ32をいっそう確実に制動することが可能となる。
【0112】
或いは、第1制御回路92は、例えば、インバータ回路60内でIGBT62a、62b、62fをONにし、IGBT62c、62d、62eをOFFにすることで、電動モータ32(三相交流モータ)の三つの相全てを短絡させて短絡回路を形成してもよい。
【0113】
ひいては、第1制御回路92は、インバータ回路60内でIGBT62a~62c(三つの上アーム)から成る第1群、及びIGBT62d~62f(三つの下アーム)から成る第2群のうちいずれか一方の群の二つのIGBTをONにし、前記二つのIGBTとは異なる相に属する前記いずれか他方の群の一つのIGBTをON又はOFFにし、残り三つのIGBT全てをOFFにすることで、電動モータ32(三相交流モータ)の二つの相を短絡させて前記短絡回路を形成してもよい。
【0114】
上記実施形態では、電動モータ用の制御装置50が交流電源110から交流電力を供給される場合を説明した。しかし、この場合に限定されず、電動モータ用の制御装置50が直流電源から直流電力を供給されてもよい。このような場合、第1変換回路72がコンバータ回路73を有しなくてもよいし、或いは、第1変換回路72自体を設けなくてもよい。
【0115】
上記実施形態では、電動モータ用の制御装置50が、三相交流モータである電動モータ32の動作を制御する場合について説明した。しかし、この場合に限定されず、電動モータ用の制御装置50は、単相交流モータの動作を制御してもよいし、又は、その他の電動モータの動作を制御してもよい。なお、このような場合、インバータ回路60及びその他の構成が、電動モータの構成に適合するように変更される必要がある。
【0116】
上記実施形態では、電動モータ用の制御装置50が、ロボット制御装置40の一部として構成される場合について説明した。しかし、この場合に限定されず、電動モータ用の制御装置50は、ロボット制御装置40とは別個に設けられてもよい。
【0117】
上記実施形態では、スイッチ回路80がリレー回路として構成される場合を説明した。しかし、このような場合に限定されず、スイッチ回路80は、ダイオード、FET、IGBT、又はその他のスイッチング素子として構成されてもよい。
【0118】
上記実施形態では、ロボット10が、自らの状態を示す第1状態データを取得するための第1センサ120aと、ロボット10によって作業されるワークWの状態を示す第2状態データを取得するための第2センサ120bと、を備える場合について説明した。しかし、このような場合に限定されず、ロボット10が、第1センサ120a及び第2センサ120bのいずれかを備えてもよい。このような場合、電動モータ用の制御装置50は、前記第1状態データ及び前記第2状態データのいずれかに基づき、異常が生じたか否かを判定してもよい。
【0119】
また、ロボット10が、第1センサ120a及び第2センサ120bの両方を備えなくてもよい。このような場合、電動モータ用の制御装置50は、例えば、上記で説明したロボット10を非常停止又は保護停止させる要因によって、上記したように、電動モータ32にダイナミックブレーキを作用させたり、電動モータ32を減速停止させるためのサーボ制御を開始したり、電動モータ32に無励磁作動型電磁ブレーキ36を作用させたりしてもよい。
【0120】
上記実施形態では、第2電圧検出回路78が、第1変換回路72(変換回路)の入力端子間の電圧値Vを検出し、検出した電圧値Vを第2制御回路94へと出力する場合について説明した。しかし、この場合に限定されず、第2電圧検出回路78は、交流電源110の出力端子間の電圧値を検出し、検出した当該電圧値を第2制御回路94へと出力してもよい。そして、第2制御回路94は、当該電圧値が所定の正常な範囲外になったことに基づき、インバータ回路60に対して直流電力を正常に供給し得ない異常が検出されたこと又は前記異常が予測されることを検知して、無励磁作動型電磁ブレーキ36によって電動モータ32を制動するための制御を開始してもよい。
【0121】
なお、上記実施形態では、電動モータ用の制御装置50が図2の回路構成を備える場合について説明した。しかし、この場合に限定されず、例えば、作業者が触れる可能性のある又は作業者が触れることを前提とした構成要素(例えば、ティーチペンダント等)に制御回路90の一部を設ける場合、絶縁系の変換回路を設けて当該絶縁系の変換回路で電力の態様を変換してから前記構成要素へと電力を供給してもよい。これにより、作業者の安全を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0122】
10 ロボット
11 基台
20 ロボットアーム
30 リンク
32 電動モータ
33 回転軸
34 エンコーダ
36 無励磁作動型電磁ブレーキ
40 ロボット制御装置
50 電動モータ用の制御装置
60 インバータ回路
62 IGBT
64 還流ダイオード
70 コンデンサ
72 第1変換回路
73 コンバータ回路
74 第2変換回路
80 スイッチ回路
82 スイッチ
84 コイル
90 制御回路
92 第1制御回路
94 第2制御回路
96 第3制御回路
110 交流電源
120a 第1センサ
120b 第2センサ
JT 関節軸
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9