(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】溶融金属の温度を測定するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20231115BHJP
【FI】
G01J5/00 101D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021102769
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2021-06-21
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598083577
【氏名又は名称】ヘレーウス エレクトロ-ナイト インターナシヨナル エヌ ヴイ
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Electro-Nite International N.V.
【住所又は居所原語表記】Centrum Zuid 1105, B-3530 Houthalen,Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グイード・ネイェンス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアーン・ラドレ
(72)【発明者】
【氏名】マーク・インデヘルベルゲ
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ステーヴェンス
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-309932(JP,A)
【文献】特開平08-082553(JP,A)
【文献】特開2016-138883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0280278(US,A1)
【文献】特開平08-075553(JP,A)
【文献】特開平09-159534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00-5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属浴の温度を測定するための装置であって、
光コアードワイヤーと、
前記光コアードワイヤーが少なくとも部分的に内側に配置され、4mmから8mmの範囲の外径を有するとともに、0.2mmから0.5mmの範囲の壁厚を有するチューブと、
互いに間隔を置いて前記チューブ内に配置された3つ以上の分離要素を含むとともに、前記3つ以上の分離要素のうちの2つの間に少なくとも1つの区画を形成する、複数の分離要素と
を備え、
前記光コアードワイヤーと前記チューブとの間のスペースは、
―ガス、ガス混合物、又は
―低密度材料、特に低密度有機材料を含む充填材料
で満たされており、
溶融金属に前記装置が供給されている時、前記光コアードワイヤー及び前記チューブは
一体的に動くことができ、
前記分離要素は、前記光コアードワイヤーと前記チューブとの間に配置されているとともに、前記光コアードワイヤー又は前記チューブのいずれかに取り付けられている、
装置。
【請求項2】
前記チューブは、室温RTで30W/mKを超える熱伝導率を有する材料を含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記チューブの壁厚と熱伝導率との積は、0.015W/Kを超える、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記充填材料は、綿、羊毛、麻、籾殻及び/又は亜麻を含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記チューブは、鉄及び/又は合金化鋼種を含む材料のグループのうちの少なくとも1つの材料又は合金を含む、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記分離要素は、炉のエントリーポイントから溶融金属浴の高さまでの距離より小さな距離で互いに間隔を置いて前記チューブ内に配置されている、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記分離要素は、前記装置の長さにわたって換気経路を形成するように配置されている、
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記分離要素は、炉のエントリーポイントから溶融金属浴の高さまでの距離より大きな距離で互いに間隔を置いて前記チューブ内に配置されている、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記分離要素は、前記光コアードワイヤーと前記チューブの内部との間にシールを提供するために、気密に前記チューブ内に配置されている、
請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記分離要素は、2mから5mの範囲の距離で、好ましくは3mから4mの範囲の距離で互いに間隔を置いて前記チューブ内に配置されている、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記分離要素は、シリコーン、好ましくは二成分シリコーン材料、又はゴム材料、レザー材料、コルク材料、及び/又は金属材料を含む、
請求項1から10までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記装置は、0.8g/cm
3から4g/cm
3の範囲、特に1g/cm
3から3g/cm
3の範囲の密度を備えている、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の装置と、
溶融金属浴内に前記装置の先端を供給するための供給手段と
を備える、システム。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の装置、又は請求項13に記載のシステムを用いて、溶融金属浴の温度を測定するための方法であって、
前記溶融金属に向けられた先端で前記温度を測定するための前記装置を、10g/sから50g/sの範囲の供給速度で、前記溶融金属浴内に供給すること、及び
前記溶融金属の前記温度を測定すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属浴の温度を測定するための装置であって、光コアードワイヤー及びチューブを含む装置に関する。本発明は、溶融金属浴の温度を測定するための対応する装置を使用するシステム及び方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
金属製造プロセス中に冶金容器内の溶融金属浴の温度を測定するために利用可能ないくつかの手段及び方法がある。溶融金属浴、特に電気アーク炉(electric arc furnace)(EAF)の溶融環境における鉄又は鋼の温度を測定するためのこれらの手段の1つは、金属チューブに囲まれた光ファイバーを溶融金属に浸漬することを含む。金属チューブで囲まれた光ファイバーは、光コアードワイヤーとも呼ばれる。光ファイバーは、熱放射を受け取ることができるとともに、溶融金属から検出器(例えばパイロメータ等)に熱放射を運ぶことができる。適切な計器使用は、溶融金属浴の温度を決定するための検出器に関連付けることができる。
【0003】
溶融金属浴の温度を測定するために、光コアードワイヤーを溶融金属浴内に供給することができる。溶融金属浴では、所定の時間間隔にわたる連続的な温度測定のために本質的に一定の速度で光コアードワイヤーが消費される。光コアードワイヤーの先端は、冶金容器に浸される。その先端は、溶融金属浴内に向かう途中で最初に高温雰囲気に遭遇し、次にスラグ層、その次に溶融金属浴に遭遇する。温度測定が終了すると、光コアードワイヤーの先端を溶融金属浴から部分的に引き戻され得る。引き戻された光コアードワイヤーの先端は、次の温度測定のための新しい先端となる。
【0004】
下記の特許文献1は、光コアードワイヤーを使用して溶融金属浴の温度を測定するための方法及び装置を例示的に説明している。
【0005】
従来技術で知られている装置の多くは、一般に、チューブ内に配置された光ファイバーを使用して構築されている。光ワイヤーと金属チューブとの間のギャップは、一般に、浸漬中の溶融金属浴の熱から光ワイヤーを保護するために充填材料で満たされている。光コアードワイヤー及びチューブは、溶融金属浴内の同じ位置に、同じ又は異なる速度で溶融金属浴内に供給され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
残念ながら、この構造では、適用範囲全体にわたって信頼できる測定が常に得られるとは限らない。ここで、適用範囲という用語は、溶融金属浴の温度測定が行われる温度範囲を指すために使用され得る。具体的には、低い温度範囲での温度測定と高いスラグ温度との組み合わせにより、出力データに大きな変動が生じる可能性がある。例えば、通常の鋼種の温度範囲は1520~1700℃である。但し、それに応じて測定される温度の大部分は、通常1550~1620℃である。
【0008】
従って、溶融金属中の装置の消費を最小限に抑えながら、適用範囲全体にわたってより正確な温度測定値を取得できる装置及び方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、溶融金属浴の温度を測定するための装置であって、
光コアードワイヤーが少なくとも部分的に内側に配置され、4mmから8mmの範囲の外径を有するとともに、0.2mmから0.5mmの範囲の壁厚を有するチューブと、
互いに間隔を置いてチューブ内に配置された3つ以上の分離要素を含むとともに、3つ以上の分離要素のうちの2つの間に少なくとも1つの区画を形成する、複数の分離要素と
を備える、装置を提供する。
【0010】
ここで、「光コアードワイヤー」という用語は、ケーシング、特に金属チューブに含まれ得る光ファイバーを指すために使用され得る。ケーシングは、光ファイバーを完全に取り囲むことができるか、又はケーシングが光ファイバーを完全に取り囲んでいないように少なくとも部分的に開放されていることができる。また、ケーシングは、溶融金属に適用するための物質(agent)で少なくとも部分的に満たすことができる。また、光ファイバーはケーシングなしで使用され得る。
【0011】
装置のチューブは、金属チューブであって、その金属チューブの中でその金属チューブの長さに沿って光コアードワイヤーが延びる金属チューブであり得る。例えば、光コアードワイヤーは、金属チューブの中心に配置することができ、金属チューブの方向に延びることができる。
【0012】
本発明によれば、チューブは、
・4mmから8mmの範囲の外径、及び
・0.2mmから0.5mmの範囲の壁厚
を有する。
【0013】
チューブの壁厚は、好ましくは0.3mmから0.4mmの範囲である。また、溶融金属浴でのテストでは、温度測定の精度は、温度測定中に溶融金属浴に入る冷たい材料の質量に関連していることが示されている。単位時間あたりのこの質量は、供給速度と装置のジオメトリに依存する場合がある。
【0014】
また、装置は、チューブ内に配置された3つ以上の分離要素を含むとともに、3つ以上の分離要素のうちの2つの間に少なくとも1つの区画を形成する、複数の分離要素を含む。
【0015】
ここで、「区画」という用語は、チューブ内の異なる分離要素間の体積に関連する。
【0016】
ここで、「分離要素」という用語は、チューブ内の体積を細分化するチューブ内に配置された部品に関連する。
【0017】
分離要素は、開口部を含むチューブ内に配置された円板状の要素であって、その円板状の要素を通って光コアードワイヤーが延在し、少なくとも部分的に光コアードワイヤーを支持することができる円板状の要素として実現することができる。開口部は、好ましくは、チューブの中心で光コアードワイヤーを支持するために要素の中央にある。しかしながら、種々の例では、分離要素は異なる形状を有することもできる。例えば、分離要素は、立方体状、円筒形状、円錐形状、三角形状、球形状、ピラミッド形状、台形形状、及び/又は多角形状の形状を有することができる。一例では、装置は、チューブ内に配置された少なくとも5つの分離要素を含む複数の分離要素を含む。
【0018】
分離要素は、光コアードワイヤー又はチューブのいずれかに取り付けることができ、有利には、すなわち、光コアードワイヤーとチューブとの間のそれらの配置により、チューブと光コアードワイヤーとの間の摩擦を最小限に抑え、従って応力を回避することができる。さらに、溶融金属に装置が供給されている時、光コアードワイヤーとチューブは共に動くことができる。従って、溶融金属浴内に供給されるとき、光コアードワイヤー及びチューブの相対的な動きを最小限に抑えるか、又は回避することさえできる。
【0019】
光コアードワイヤー及びチューブの速度及び位置は、本質的に同じであり得る。
【0020】
有利には、分離要素を使用して少なくとも任意の2つの分離要素の間に区画を生成することにより、溶融金属のチューブへの侵入を効率的に防ぐことができる。
【0021】
有利には、上記のような装置を使用することにより、チューブは、制御された方法で浸漬端から溶融する。これは、より正確な温度測定につながる。実際の温度測定は、溶融金属浴でチューブが溶けている間に行われ得る。
【0022】
上記のような装置を使用することにより、チューブは、溶融金属浴内に入る前に有利に溶融しない。また、チューブは側面から溶けず、チューブ内部への溶融金属の浸透を最小限に抑えることができる。これらは、温度測定に悪影響を及ぼす。
【0023】
例えば、区画に含まれるガスは、装置が溶融金属浴内に挿入されたときの温度上昇により膨張する。一例では、鋼の侵入を防ぐために必要な圧力上昇は、溶融金属浴への目標浸漬深さでの静圧の簡単な計算によって計算することができる。
【0024】
それにもかかわらず、溶融金属浴の温度の急激な上昇は、これらの区画に約6バール程度の圧力上昇を発生させる場合がある。このような圧力は、溶融プロセスが始まる前にチューブの側壁に亀裂を引き起こす可能性がある。
【0025】
さらに、上記で定義したように、チューブの外径及び壁厚を減らすことによって単位長さあたりの質量を最小化することは、より正確な温度測定値の取得に寄与することが示されている。また、曲がったり浮いたりせずに溶融金属浴に入るには、最小直径が有利である。
【0026】
一例では、チューブは、室温(RT)で30W/mKを超える熱伝導率を有する材料を含む。
【0027】
ここで、室温RTという用語は、約20℃の温度、特に16℃から25℃の範囲の温度を指すために使用することができる。
【0028】
一例では、光コアードワイヤーとチューブとの間のスペースは、
-ガス、ガス混合物、又は
-低密度材料、特に低密度有機材料を含む充填材料
で満たされている。
【0029】
スペースは、例えば、空気又は不活性ガスで満たすことができる。低出力値につながる溶融金属のチューブへの侵入を最小限に抑えるために、光コアードワイヤーとチューブとの間のスペース空間に少なくとも部分的に充填材料が有利に配置され得る。
【0030】
ここで、「低密度」という用語は、2g/cm3未満、好ましくは1g/cm3未満の密度を有する材料を指すために使用され得る。
【0031】
一例では、充填材料は、綿、羊毛、麻、籾殻及び/又は亜麻を含む。灰分が10%未満の他の低密度充填材料も適している。
【0032】
灰分は、材料が完全に燃焼した後に残っている材料の不燃性成分を表すことができる。
【0033】
一例では、チューブは、鉄及び/又は合金化鋼種を含む材料のグループのうちの少なくとも1つの材料又は合金を含む。
【0034】
有利には、上記の材料は、室温で30W/mKを超える熱伝導率を有する。
【0035】
一例では、チューブの熱伝導率と壁厚との積は、0.015W/Kを超える。
【0036】
薄い壁と組み合わせた高い熱伝導率が有利な場合がある。壁厚(mm)と熱伝導率との積は、有利には、0.015W/Kより高くなり得る。一例では、厚さ0.3mmの外壁は、熱伝導率が>50W/mKの材料を必要とする。
【0037】
有利には、チューブの材料の熱伝導率が高いほど、チューブの加熱中の温度分布がより均一になる。対照的に、不均一な温度分布は、チューブの側壁の制御されていない爆破につながり、溶融金属の望ましくない侵入をもたらす可能性がある。
【0038】
典型的な炉では、エントリーポイントと溶融金属浴の間の距離は1~2mの範囲である。
【0039】
一例では、分離要素は、炉のエントリーポイントから溶融金属浴の高さまでの距離よりも小さな距離で互いに間隔を置いてチューブ内に配置されている。この例では、分離要素は、装置の長さにわたって換気経路を形成するように配置され得る。
【0040】
一例では、分離要素は、シリコーン、好ましくは二成分シリコーン材料、ゴム材料、レザー材料、コルク材料、及び/又は金属材料を含む。
【0041】
突然の圧力上昇の悪影響に打ち勝つために、小さな区画が選択され得る。これは、測定中に少なくとも1つの区画が炉に供給されることを意味する。この区画内のガスは膨張し、熱膨張により圧力が上昇する。有利には、換気経路は、チューブの側壁からの鋼及びスラグの侵入を防ぐ。装置の浸漬中に、膨張するガスが装置の浸漬端から部分的に排出され得る。
【0042】
別の例では、分離要素は、炉のエントリーポイントから溶融金属浴の高さまでの距離よりも大きな距離で互いに間隔を置いてチューブ内に配置されている。
【0043】
この場合、次の区画は部分的に炉内及び炉外に配置される。有利には、これは、区画の全長にわたってガスの加熱を防ぎ、従って、区画で得られる最大圧力を低下させて、突然の圧力上昇の悪影響に打ち勝つことができる。また、前述の例では、チューブ内に分離要素を気密に配置して、光コアードワイヤーとチューブの内側との間にシールを提供することができる。
【0044】
別の例では、分離要素は、2mから5mの範囲の距離で、好ましくは3mから4mの距離で、互いに間隔を置いてチューブ内に配置されている。
【0045】
ほとんどの冶金プロセスでは、溶融金属浴は、溶融金属浴よりも低密度のスラグ層で覆われている。例えば、製鋼プロセスでは、溶鋼の密度は約7g/cm3であり、スラグカバーの密度は約2g/cm3である。この密度は、転炉、電気アーク及び取鍋炉の処理段階中に、CO/CO2気泡によって引き起こされるスラグの発泡により、さらに低下する場合がある。装置の密度が金属溶融浴よりも高い場合、装置は底に沈む傾向にあり、密度が低いと浮く傾向にある。
【0046】
一例では、装置は、0.8g/cm3から4g/cm3の範囲、特に1g/cm3から3g/cm3の範囲の密度を備えている。
【0047】
装置の浸漬中の浮き上がりのリスクを防ぐために、0.8g/cm3から4g/cm3の範囲、特に1g/cm3から3g/cm3の範囲の材料密度が有利である。
【0048】
電気アーク炉プロセスは、スラグの密度範囲が非常に広くなる。崩壊フェーズでの推定スラグ厚さは約30cmであり、スラグ厚さは発泡中に炉の屋根まで上昇する場合がある。従って、このプロセスで使用される装置は、正確な温度測定値を取得できるように、この範囲で適用可能である必要がある。
【0049】
本発明は、本明細書に記載の装置と、溶融金属浴内に装置の先端を供給するための供給手段とを備えるシステムにも関する。システムはまた、装置のためのエントリーポイントを有するとともに、溶融金属浴及びスラグカバーを保持する炉もさらに備えていてよい。
【0050】
本発明はさらに、本明細書に記載の装置又はシステムを使用して、溶融金属浴の温度を測定するための方法であって、
溶融金属に向けられた先端で温度を測定するための前記装置を、10g/sから50g/sの範囲の供給速度で、溶融金属浴内に供給すること、及び
溶融金属の温度を測定すること
を含む、方法に関する。
【0051】
50g/sの供給速度が最大と見なされる場合がある。高温の用途では、溶融金属浴で十分な深さに達するためにこの速度を適用する必要がある。低温の用途では、この値は低くてよい。すべての製鋼用途で、最小の浸漬深さを得るために、最低10g/sが要求される。
【0052】
例えば、電気アーク炉の用途では、約30g/sの供給速度で最も正確な測定値が取得され得る。取鍋炉の用途では約20g/sの供給速度で、取鍋の用途では約16g/sの供給速度で、最も正確な測定値が取得され得る。
【0053】
すでに上述したように、温度測定の精度は、温度測定中に溶融金属浴に入る冷たい材料の質量に関連していることが分る。単位時間あたりのこの質量は、供給速度及び装置のジオメトリに依存する場合がある。
【0054】
有利には、上述の方法で定義された供給速度で上述の装置を供給することにより、より正確な温度測定値が取得され得る。
【0055】
一例では、光コアードワイヤー及びチューブは、同じ速度で共に溶融金属浴内に供給される。
【0056】
以下に、2つの有利な例を説明する。
【0057】
第1の例では、正確な温度測定値を取得するために必要とされる供給速度が検証された。光コアードワイヤーと、6mmの外径及び0.3mmの壁厚を有する低炭素鋼チューブとを備えるとともに、約1.6g/cm3の密度を有する装置が、800mm/sの速度で、300mmの深さまで、溶融金属浴内に供給され得る。約1.6g/cm3の密度は、44.1g/mの質量に対応する。この速度では、全適用範囲にわたって測定が正確になる。有利には、選択された構成は、溶融金属内に留まり、溶融金属-スラグ界面の方向に向かって浮く。
【0058】
以下のパラメータ例は、第1の例に関して取得された。
時間=300mm/800mm/s=0.375s
質量=44.1g/m×0.3m=13.2g
質量/時間=13.2g/0.375s=35.2g/s
【0059】
第2の例では、正確な温度測定値を取得するための最大供給速度が求められた。7mmの外径及び0.4mmの壁厚を有する低炭素鋼チューブで、約2.2g/cm3(68.6g/mに対応)の密度を有する装置が、728mm/sの最大速度で、400mmの深さまで、溶融金属浴内に供給され得る。この速度までは、全適用範囲にわたって測定の信頼性が高くなる。選択された構成は、溶融金属内に留まり、溶融金属-スラグ界面の方向に向かって浮く。
【0060】
以下のパラメータ例は、第2の例に関して取得された。
質量=68.6g/m×0.4m=27.4g
時間=27.4g/50g/s=0.54s
速度=400mm/0.54s=728mm/s
【0061】
続いて、本発明の基礎となっているアイディアを、図に示されている実施形態に関してより詳細に説明するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による、溶融金属浴の温度を測定するためのシステムの概略図を示す。
【
図2】
図2は、溶融金属の温度を測定する前、測定中及び測定後の、装置の先端の浸漬を示す位置-時間グラフの概略図を示す。
【
図3】
図3の(a)及び(b)は、本発明の第1及び第2実施形態による装置の概略図を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態による区画の気密性を検証するためのシステムの概略図を示す。
【
図5】
図5の(a)~(c)は、第1実施形態による装置を溶融金属浴内に浸漬することの概略図を示す。
【
図6】
図6の(a)~(c)は、本発明の実施形態による分離要素の異なる構成の概略図を示す。
【
図7】
図7の(a)~(c)は、本発明の実施形態による装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図1は、本発明の一実施形態による、溶融金属浴15の温度を測定するためのシステムの概略図を示す。
【0064】
図1に示されているように、システムは装置1を備えている。装置1は、少なくとも部分的にコイル9上に配置されているとともに、測定を行うために少なくとも部分的にコイル9から巻き戻される。装置1の第1端部は、パイロメータ11に接続されている。パイロメータ11は、次に、装置1で得られたデータを処理するためにコンピュータシステム(図示せず)に接続され得る。
図1に示されているように、装置1は、供給機13によりガイドチューブ17を通して容器内に供給される。容器は、エントリーポイント19を有するとともに、溶融金属浴15を含む。
コイル9からエントリーポイント19まで延びる装置1の一部の温度は低いと見なすことができ、これは、室温から100℃までの範囲の温度であり得る。溶融金属浴15の方にエントリーポイント19を通過すると、最初に1700℃以上の高温雰囲気に遭遇し、次にスラグ層16が続き、その次に溶融金属浴15が続く。容器へのエントリーポイント19には、装置1への金属及びスラグの侵入を防ぐために、ブローランス(
図1には示されていない)が装備され得る。
溶融金属浴15内に沈められた装置1の先端は溶融し、この溶融段階の間に温度測定値を得ることができる。溶融金属浴15内の装置1の先端によってカバーされる距離は、L
MMによって示される。測定値が取得された後、高温雰囲気に位置するとともにスラグ層16まで延びる装置1の部分は、コイル9の方に送り戻されることができ、次の測定のために再利用されることができる。容器内の装置1の先端によってカバーされる距離は、
図1においてL
MEASで示されている。
図1には、スラグ層-大気界面(Slag Layer - Atmosphere Interface)(SAI)及び溶融金属-スラグ層界面(Molten Metal - Slag Layer Interface)(MSI)も示されている。
【0065】
図2は、溶融金属の温度を測定する前、測定中及び測定後の、装置の先端の浸漬を示す位置-時間グラフの概略図を示す。本説明のために、
図2の位置-時間グラフは、装置の先端が測定中に溶けないと仮定された簡略化されたケースを示す。
図1に示されるエントリーポイントは、容器のエントリーポイントであり、測定の基準点と見なされる。
図2には、容器内のカバーされる距離L
MEASが、溶融金属内の先端によってカバーされる距離L
MM、及び1回の温度測定を実行するために通常消費される装置の長さL
Cをとともに示されている。シーケンスは、容器のエントリーポイントに配置された装置の新しい先端で終了する。送り方向距離及び溶融金属浴15に浸漬された装置の長さL
MMは、溶融金属浴中の長さとともに減少されて、戻り距離が得られる。
【0066】
図3の(a)及び(b)は、測定シーケンス中の、本発明の第1及び第2実施形態による装置1,1’の概略図を示す。
図3の(a)及び(b)は、エントリーポイント19から溶融金属浴15内に供給された装置の一部を示している。
【0067】
両方の実施形態において、装置1,1’は、チューブ5,5’内に配置された3つ以上の分離要素7a,7a’,7b,7b’,7n’を含む。これらは、分離要素7a,7a’,7b,7b’,7n’のうちの2つの間に少なくとも1つの区画を形成する。
【0068】
図3の(a)は、大きな区画を備えた構成を有する第1実施形態による装置1を示している。
第1実施形態による構成では、分離要素7a,7bは、エントリーポイント19から溶融金属-スラグ層界面MSIまでの距離よりも大きな距離で互いに間隔を置いて、光コアードワイヤー3の周りのチューブ5内に配置されている。図示されている構成では、区画の長さは、閉じた区画がその全長にわたって容器内に配置されないように選択されている。
エントリーポイント19にブローランス(図示せず)が装備されている場合、容器内の小さな部分は低温であると見なすことができる。
図3の(a)に示されているように、区画は、2つの分離要素7a,7bの間に形成され、第1分離要素7aは低温領域にあり、反対側の第2分離要素7bは高温領域にある。
【0069】
図3の(b)は、小さな区画を備えた構成を有する第2実施形態による装置1’を示している。
ここで、分離要素7a’,7b’,7n’は、炉のエントリーポイント19から溶融金属-スラグ層界面MSIまでの距離よりも小さな距離で互いに間隔を置いて、チューブ5’内に配置されている。
図3の(b)に示される実施形態では、分離要素7a’,7b’,7n’は、浸漬端からコイル(
図3の(b)には示されていない)の方向への換気経路を形成するために、少なくとも部分的にガス透過性である。
【0070】
図4は、
図3の(a)及び(b)に示される装置1,1’のチューブ5,5’内に配置された分離要素7a,7b,7a’,7n’によって形成された区画の気密性を検証するためのシステムの概略図を示す。
【0071】
図示されている気密性を検証するためのシステムは、圧力調整器21、流量計23、バルブ25及び圧力計27を備えている。テストのために、図示されている装置1,1’のいずれかがシステムに接続され得る。しかしながら、当業者は、区画の気密性を検証するために利用可能な代替手段があることも知っているであろう。
【0072】
正確な測定値を得るために、少なくとも、大きな区画を備えた構成を有する装置1の区画は気密であるべきである。区画の「気密性」は、個々の分離要素7a,7a’,7n’の気密性をテストして、0.8バールの逆圧を示すことによってテストできる。
経験則として、区画の長さが長いほど、この圧力は高くなるはずであると言える。高温ゾーンの長さの2倍までのチャンバーの長さは、0.9バールを超える逆圧で良好な結果を示すことが示されている。
有機化合物を有する分離要素は、高温ゾーンでガスの発生を引き起こすことができる。これらの分離要素は、測定シーケンス中に燃焼し、換気経路を作成することができる。
システムに接続されているものとして
図4に示されている装置1’は、20個の分離要素を含む装置1’のテストに基づいて、0.2~0.8バールの逆圧を示す場合がある。
図4において装置1’の隣に示されている装置1は、単一の分離要素を含む装置1のテストに基づいて、>0.9バールの逆圧を示す場合がある。
【0073】
一例として、
図4に示すシステムを使用して気密性を検証する方法は、手順1-4で以下に説明される:
1.バルブ25を閉じた状態で、圧力調整器21を1バールの過圧に設定し、
2.バルブ25を開き、流量計23を5L/minに設定し、
3.試験品1,1’をシステムに接続し、そして
4.圧力計27の圧力を測定する。
【0074】
図5の(a)~(c)は、第1実施形態による装置1の概略図を示す。特に、
図5の(a)~(c)は、エントリーポイント19から溶融金属浴15内に供給される装置1の一部を示している。図では、左側から右側に向かって、装置1を溶融金属浴15に浸漬する3つの段階が例示的に示されている。
【0075】
図5の(a)では、分離要素7bが高温雰囲気に配置されていることが示されている。装置1の先端への金属及びスラグの侵入は、分離要素7bによって防ぐことができる。先端が溶融金属浴15に換気することができるとともに、次の区画が部分的に低温ゾーンに配置されているので、チューブ5内の高圧を防ぐことができる。
測定シーケンスの後、溶融金属浴15内のコアードワイヤーの一部が溶融され、次の測定シーケンスで、装置1の新しい先端が
図5の(b)に示されるように配置される。この場合も、金属及びスラグの侵入は分離要素7bによって回避され、区画が部分的に低温領域に配置されるため、次の区画の過圧が低減される。
図5の(b)に示されているシーケンスが終了した後、
図5の(c)に示されているように新しい先端が配置される。この測定シーケンスの間、分離要素7bは溶融金属浴15に入り、区画内の内圧が高くなりすぎる前にチューブ5が溶融する。
図5の(c)に示されているシーケンスが終了した後、次の測定は再び
図5の(a)に示されているシーケンスに類似する。
【0076】
図6の(a)~(c)は、本発明の実施形態による分離要素7,7’,7’’の異なる構成の概略図を示す。当業者は、本明細書で説明する例では、チューブ内で異なる構成を共に使用できることを知っているであろう。
【0077】
図6の(a)には、ガス透過性であり、光コアードワイヤー(
図6の(a)には示されていない)用の中央開口部の周りに配置された換気経路8を有する分離要素7が示されている。図示されている構成は、供給シーケンス中の装置の曲げ及び直線化中の光コアードワイヤーの相対的な動きを可能にする。
【0078】
図6の(b)には、ガス透過性であり、分離要素7’の表面に配置された換気経路8’を有する分離要素7’が示されている。ここで、分離要素7’は、チューブの内側に取り付けられた時に装置のチューブと接触する。
【0079】
図6の(c)には、ガス透過性であり、ガス透過性である材料を選択することによって換気経路8’’が作成された分離要素7’’が示されている。
【0080】
図7の(a)~(c)は、本発明の実施形態による装置1,1’,1’’の概略図を示す。各図の矢印は、溶融金属浴(
図7の(a)~(c)には示されていない)への装置1,1’,1’'の浸漬方向を示している。
【0081】
図7の(a)は、チューブ5と光コアードワイヤー3との間の空間に配置された充填材料4を有する装置1を示している。充填材料4は、綿等の低密度の材料であり得る。
【0082】
図7の(b)は、装置1’を示し、それにより、光コアードワイヤー3’の外径に配置された開口によって換気経路8’が作成されている。
【0083】
図7の(c)は、気密シールを提供することができる分離要素7a’’,7b’’と、分離要素7a’’,7b’’の間に配置された追加の分離要素7c’’,7d’’とを有する装置1’’を示す。分離要素7c’’,7d’’は、チューブ5’’と直接接触していない。
【符号の説明】
【0084】
1,1’,1’’ 装置
3,3’,3’’ 光コアードワイヤー
4 充填材料
5,5’,5’’ チューブ
7-7’’,7a-7n’’ 分離要素
8,8’,8’’ 換気経路
9 コイル
11 パイロメータ
13 供給機
15,15’ 溶融金属浴
16,16’ スラグ層
17 ガイドチューブ
19 エントリーポイント
21 圧力調整器
23 流量計
25 バルブ
27 圧力計
SAI スラグ層-大気界面
MSI 溶融金属-スラグ層界面
LMEAS 測定距離
LMM 溶融金属内の距離
LC 溶融金属内で消費される装置の距離