(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】樹脂組成物、それを含む樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231115BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20231115BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20231115BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20231115BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/08
C08K9/06
C08K7/00
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2021552467
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2020039104
(87)【国際公開番号】W WO2021075551
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019190985
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 信平
(72)【発明者】
【氏名】杉生 大輔
(72)【発明者】
【氏名】劉 洋
(72)【発明者】
【氏名】札場 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】黒井 秀一
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-223735(JP,A)
【文献】特開昭59-102938(JP,A)
【文献】特開2002-256151(JP,A)
【文献】特開2018-027640(JP,A)
【文献】特開2016-010957(JP,A)
【文献】特開昭62-104870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形体の製造に用いられる樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、アルミニウムフレーク粒子とを含有し、
前記アルミニウムフレーク粒子
は、平均粒径
が2μm以上150μm以下
、かつ、平均厚みが0.01μm以上10μm以下であり、
前記アルミニウムフレーク粒子の表面の少なくとも一部にカップリング剤が付着され、このカップリング剤により、前記の熱可塑性樹脂とアルミニウムフレーク粒子との密着性が高められた、樹脂組成物。
【請求項2】
前記カップリング剤は、シランカップリング剤である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記カップリング剤は、アミノ系シランカップリング剤である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記カップリング剤は、前記アルミニウムフレーク粒子100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下含まれる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記アルミニウムフレーク粒子は、前記表面に前記カップリング剤が付着した状態で、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上230質量部以下含まれる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリスチレンおよびポリエチレンからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む、樹脂成形体。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上高い温度に内壁表面が維持された金型へ射出注入する工程と、
前記金型内の前記樹脂組成物を冷却することにより樹脂成形体を得る工程とを含む、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、それを含む樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形体においては、金型内で溶融樹脂が合流する部分と対応する位置に、溶接線とも呼ばれるウエルドラインが形成される場合がある。このウエルドラインは、上記射出成形体において外観不良を引き起こし、かつ構造上の欠陥となる場合がある。ウエルドラインの形成を防止する手段としては、金型温度を上記射出成形体の原料となる樹脂のガラス転移温度以上に加熱することにより射出成形を実行するヒートアンドクール法が公知である。
【0003】
一方、上記射出成形体の製造に用いられる樹脂組成物としては、上記射出成形体に高級感を付与したり、他の射出成形体との差別化を図ったりすることなどを目的とし、アルミニウム顔料などが配合された樹脂組成物を用いることが公知である。しかしながら、上記樹脂組成物を原料とし、上記ヒートアンドクール法を用いた射出成形を実行することにより射出成形体を得た場合、ウエルドラインの形成は防止されるものの、上記アルミニウム顔料が金型内で溶融樹脂の表面に偏在することによって金型に付着し、もって金型が汚染されることが知られている。これに対し、特開2016-010957号公報(特許文献1)および特開2014-185328号公報(特許文献2)は、アルミニウム顔料を構成するアルミニウムフレーク粒子を樹脂で被覆することにより、上述した金型汚染を抑制することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-010957号公報
【文献】特開2014-185328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが上記特許文献1および特許文献2に開示された技術に対し、金型汚染を抑制するための更なる改良が求められている。なぜなら上記特許文献1および特許文献2に開示された技術では、高温の金型内においてアルミニウムフレーク粒子を被覆している樹脂が溶融する可能性があり、上記樹脂が上記アルミニウムフレーク粒子の周囲で溶融している溶融樹脂と混合することにより、アルミニウムフレーク粒子が溶融樹脂の表面に偏在することを抑制することが不十分となると推定されるからである。したがって、ヒートアンドクール法を利用することによってウエルドラインの形成を防止した射出成形において、原料としてアルミニウム顔料などが配合された樹脂組成物を用いた場合に金型汚染を抑制する技術は未だ実現されておらず、その開発が切望されている。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明は、金型汚染を抑制することができる樹脂組成物、それを含む樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本発明を完成させた。具体的には、詳細なメカニズムは不明ながら、この種の樹脂組成物に配合される無数の添加物の中でカップリング剤が、金型汚染を抑制することに対して有効に作用することを知見した。この知見に基づき、ヒートアンドクール法を利用した射出成形を、熱可塑性樹脂と、表面の少なくとも一部にカップリング剤を付着させたアルミニウムフレーク粒子とを含む樹脂組成物を用いて実行した場合、金型汚染を抑制できることを想到し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりの特徴を有する。
本発明に係る樹脂組成物は、射出成形体の製造に用いられる樹脂組成物であって、上記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、アルミニウムフレーク粒子とを含有し、上記アルミニウムフレーク粒子は、その表面の少なくとも一部にカップリング剤が付着している。
【0009】
上記カップリング剤は、シランカップリング剤であることが好ましい。
上記カップリング剤は、アミノ系シランカップリング剤であることがより好ましい。
【0010】
上記カップリング剤は、上記アルミニウムフレーク粒子100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下含まれることが好ましい。
【0011】
上記アルミニウムフレーク粒子は、上記表面に上記カップリング剤が付着した状態で、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上230質量部以下含まれることが好ましい。
【0012】
上記熱可塑性樹脂は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリスチレンおよびポリエチレンからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る樹脂成形体は、上記樹脂組成物を含む。
本発明に係る樹脂成形体の製造方法は、上記樹脂組成物を準備する工程と、上記樹脂組成物を、上記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上高い温度に内壁表面が維持された金型へ射出注入する工程と、上記金型内の上記樹脂組成物を冷却することにより樹脂成形体を得る工程とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金型汚染を抑制することができる樹脂組成物、それを含む樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)について、さらに詳細に説明する。本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0016】
〔樹脂組成物〕
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形体の製造に用いられる樹脂組成物である。上記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、アルミニウムフレーク粒子とを含有する。上記アルミニウムフレーク粒子は、その表面の少なくとも一部にカップリング剤が付着している。このような特徴を有する樹脂組成物は、ヒートアンドクール法を利用した射出成形を実行した場合に、金型汚染を抑制することができる。以下、本実施形態に係る樹脂組成物の各特徴について説明する。
【0017】
上記樹脂組成物は、上述のように射出成形体の製造に用いられる樹脂組成物である。「射出成形体」とは、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物に対し、従来公知の射出成形法が適用されることによって得られる成形体をいう。具体的には、上記樹脂組成物を従来公知の射出成形機に備えられたシリンダ内で加熱流動化した後、金型に射出し、かつ金型内で冷却することにより得られる成形体をいう。さらに本明細書において「樹脂成形体」とは、本実施形態に係る樹脂組成物に対し、射出成形法が適用されることによって得られる射出成形体を意味する。
【0018】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述のように熱可塑性樹脂と、アルミニウムフレーク粒子とを含有する。本明細書において「熱可塑性樹脂」とは、加熱によって軟化することにより、上述した射出成形法に用いることができる樹脂を意味する。したがって加熱によって軟化し、上述した射出成形法に用いることができる樹脂であれば、一般に「熱硬化性樹脂」の概念に含まれる樹脂であっても、本明細書において「熱可塑性樹脂」として扱うものとする。
【0019】
上記樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂は、たとえばアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート樹脂(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン樹脂(AES樹脂)などのゴム強化樹脂;ポリスチレン(PS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体などのスチレン系(共)重合体;ポリエチレン(PE樹脂)、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリ塩化ビニル、エチレン-塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデンなどの塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの(メタ)アクリル酸エステルを1種以上用いた(共)重合体などの(メタ)アクリル系樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどのケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;フェノキシ樹脂;感光性樹脂;生分解性プラスチックなどを挙げることができる。
【0020】
上述した各種の熱可塑性樹脂については、上記樹脂組成物に単独で含有されてもよく、2種以上が混合されることにより含有されてもよい。ここで本明細書において「(メタ)アクリル」の用語は、アクリルおよびメタクリルの少なくともいずれか一方を意味するものとする。「(メタ)アクリロ」の用語についても、アクリロおよびメタクリロの少なくともいずれか一方を意味するものとする。
【0021】
上記熱可塑性樹脂は、ABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂およびPE樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。これにより、上記樹脂組成物から所望の形状を有する樹脂成形体を歩留まり良く成形することができ、もって上記樹脂成形体を各種の用途に適用することができる。
【0022】
上記熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、2000~7000000であることが好ましく、2000~1000000であることがより好ましい。さらに上記熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が280℃以下である熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、ガラス転移温度が150℃以下である熱可塑性樹脂を用いることがより好ましい。上記熱可塑性樹脂が上述した重量平均分子量およびガラス転移温度の少なくとも一方を有する場合も、上記樹脂組成物から所望の形状を有する樹脂成形体を歩留まり良く成形することができ、もって上記樹脂成形体を各種の用途に適用することができる。
【0023】
<アルミニウムフレーク粒子>
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述のように熱可塑性樹脂と、アルミニウムフレーク粒子とを含有する。上記アルミニウムフレーク粒子は、その表面の少なくとも一部にカップリング剤が付着している。本明細書において「アルミニウムフレーク粒子」とは、アルミニウムを含有し、扁平なフレーク形状を有する粒子をいう。すなわちアルミニウムフレーク粒子は、アルミニウムからなるフレーク状の粒子であってもよく、アルミニウム合金からなるフレーク状の粒子であってもよく、金属(銅、ニッケル、鉄、錫またはこれらの合金など)の基材または非金属(アルミナ、チタニアなどのセラミックス粒子、ガラスまたはマイカなど)の基材にアルミニウムが蒸着されることにより得られるフレーク状の粒子であってもよい。これらのアルミニウムフレーク粒子は、従来公知の方法により得ることができる。アルミニウムフレーク粒子の表面は、上記樹脂組成物において所望の表面光沢性、白度および光輝性を発揮する観点から、平滑であることが好ましい。
【0024】
上記樹脂組成物において上記アルミニウムフレーク粒子は、その表面に後述するカップリング剤が付着した状態で、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上230質量部以下含まれることが好ましい。上記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対してアルミニウムフレーク粒子が上述した範囲の含有量で含まれる場合、金型汚染をより十分に抑制することができる。ここで上記樹脂組成物が後述するようなマスターバッチの形態として調製されない場合、上記樹脂組成物において上記アルミニウムフレーク粒子は、その表面に後述するカップリング剤が付着した状態で、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上50質量部以下含まれることが好ましい。
【0025】
上記樹脂組成物が後述するようなマスターバッチの形態として調製されない場合において、アルミニウムフレーク粒子の含有量が0.5質量部未満であるとき、上記樹脂組成物において所望の表面光沢性が得られない傾向がある。またアルミニウムフレーク粒子の含有量が50質量部を超えるとき、熱可塑性樹脂中のアルミニウムフレーク粒子の分散性が悪化することにより、上記樹脂組成物から得られる樹脂成形体において十分な強度が得られない傾向がある。本発明の効果をより十分に奏する観点から、上記樹脂組成物が後述するようなマスターバッチの形態として調製されない場合においてアルミニウムフレーク粒子は、その表面にカップリング剤が付着した状態で、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上25質量部以下含まれることがより好ましい。
【0026】
一方、上記樹脂組成物は、後述するようなマスターバッチの形態として調製される場合がある。この場合において上記アルミニウムフレーク粒子の含有量は、その表面に後述するカップリング剤が付着した状態で、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し5質量部以上230質量部以下であることが好ましい。
【0027】
アルミニウムフレーク粒子は、平均粒径(D50)が2~150μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましい。アルミニウムフレーク粒子は、平均厚み(t)が0.01~10μmであることが好ましく、0.08~1.6μmであることがより好ましい。さらにアルミニウムフレーク粒子は、平均アスペクト比が5~2500であることが好ましく、10~150であることがより好ましい。
【0028】
ここで「平均アスペクト比」とは、アルミニウムフレーク粒子の平均粒径(D50)と平均厚み(t)との比を意味し、具体的には、アルミニウムフレーク粒子の平均粒径(D50)(単位はμm)/アルミニウムフレーク粒子の平均厚み(t)(単位はμm)の式から求めることができる。
【0029】
アルミニウムフレーク粒子の平均粒径(D50)および平均厚み(t)は、樹脂組成物を測定対象物とする場合、および上記樹脂組成物に対して射出成形法を適用することにより得た樹脂成形体を測定対象物とする場合において、それぞれ以下の測定方法により求めることができる。
【0030】
アルミニウムフレーク粒子の平均粒径(D50)および平均厚み(t)は、樹脂組成物を測定対象物とする場合、以下の方法により求めることができる。すなわち樹脂組成物のペレットを走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することによりアルミニウムフレーク粒子の粒径を50個以上測定し、もって上記50個以上の粒径に基づいて上記アルミニウムフレーク粒子の平均粒径を算出する。ペレットによるアルミニウムフレーク粒子の粒径の観察が困難な場合、上記ペレットの表面を研磨することによって平らな面を形成し、あるいは熱プレス機を用いて上記ペレットをフィルム状とし、これらを対象としてSEMによって上記アルミニウムフレーク粒子の平均粒径を算出することができる。アルミニウムフレーク粒子の平均厚みについても、平均粒径の測定と同じようにSEMを用いてアルミニウムフレーク粒子を50個以上測定することによって算出することができる。ペレットによるアルミニウムフレーク粒子の厚みの観察が困難な場合も、平均粒径の測定と同じように上記ペレットの表面を研磨し、あるいはフィルム状とし、これらを対象としてSEMによって上記アルミニウムフレーク粒子の平均厚みを算出することができる。
【0031】
アルミニウムフレーク粒子の平均粒径(D50)および平均厚み(t)は、樹脂成形体を測定対象物とする場合、樹脂組成物を測定対象物としたアルミニウムフレーク粒子の平均粒径および平均厚みの算出方法と同じとすることができる。樹脂成形体のままで測定が困難な場合、樹脂成形体の表面を切削して平らな断面を形成した上で、この断面をSEMにより観察することにより上記の平均粒径および平均厚みを求めることができる。
【0032】
(カップリング剤)
上記アルミニウムフレーク粒子は、その表面の少なくとも一部にカップリング剤が付着している。カップリング剤とは、無機化合物と化学結合する反応基、および有機化合物と化学結合する反応基を一分子中に有することにより、上記無機化合物と上記有機化合物とを自身を介して結合させる作用を有する化合物をいう。これによりアルミニウムフレーク粒子と熱可塑性樹脂との密着性を高めることができ、もって上記樹脂組成物が射出成形に用いられた場合、金型内でアルミニウムフレーク粒子が溶融した熱可塑性樹脂の表面に偏在することを抑制することができる。
【0033】
ここでアルミニウムフレーク粒子の表面にカップリング剤が「付着」するとは、カップリング剤の上述した無機化合物と化学結合する反応基により、上記アルミニウムフレーク粒子の表面に、カップリング剤が化学結合によって結合することを意味する。
【0034】
上記カップリング剤は、シランカップリング剤であることが好ましい。たとえばシランカップリング剤としては、RA-Si(ORB)3、またはRA-SiRB(ORB)2(RA:炭素数2~18のアルキル基、アリール基またはアルケニル基、RB:炭素数1~3のアルキル基)の化学式で表されるシランカップリング剤を用いることが好ましい。さらに、RAは官能基を有することが好ましい。RAが有する官能基としては、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、スルフィド基、ビニル基、(メタ)アクリロキシ基、メルカプト基、ケチミノ基、グリシジル基、フェニル基、イミダゾール基、イソシアネート基などを例示することができる。上記カップリング剤は、アミノ系シランカップリング剤であることがより好ましい。
【0035】
具体的なシランカップリング剤の例としては、たとえばγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、テトライソシアネートシラン、モノメチルトリイソシアネートシランなどを挙げることができる。
【0036】
さらに上記カップリング剤としては、チタン(チタネート)系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などを用いることも可能である。具体的なチタネート系カップリング剤としては、たとえばイソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ-トリデシル)ホスファイトチタネートなどを挙げることができる。具体的なジルコニア系カップリング剤としては、たとえばテトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシステアレート、酢酸ジルコニルなどを挙げることができる。具体的なアルミニウム系カップリング剤としては、たとえばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、ジルコアルミネート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどを挙げることができる。
【0037】
上記カップリング剤は、上記アルミニウムフレーク粒子100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下含まれることが好ましい。上記カップリング剤は、上記アルミニウムフレーク粒子100質量部に対し、0.15~3質量部含まれることがより好ましく、0.2~2質量部含まれることがさらに好ましい。上記カップリング剤の含有量が上記範囲であることにより、アルミニウムフレーク粒子と熱可塑性樹脂との密着性をより向上させることができる。
【0038】
上記カップリング剤の含有量は、上記アルミニウムフレーク粒子100質量部に対して0.1質量部未満である場合、アルミニウムフレーク粒子と熱可塑性樹脂との密着性が不足する傾向がある。上記カップリング剤の含有量は、上記アルミニウムフレーク粒子100質量部に対して10質量部を超える場合、アルミニウムフレーク粒子が凝集しやすくなる傾向がある。
【0039】
アルミニウムフレーク粒子の表面に上記カップリング剤を付着させる方法は、本発明の効果に悪影響を与えない限り、特に限定されることなく従来公知の方法を用いることができる。たとえば、カップリング剤とアルミニウムフレーク粒子とを従来公知の混練機、ミキサーまたは攪拌機を用いて混練することにより、アルミニウムフレーク粒子の表面に上記カップリング剤を付着させることができる。この場合において、有機溶剤を適宜添加することもできる。上記有機溶剤としては、たとえばエタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン、MEK、メタノール、ヘキサン、ブタノール、アセトン、エチレングリコール、メチルセロソルブおよびブチルセロソルブからなる群より選択される1種を単独で用いることができる。上述した有機溶剤からなる群より選択される2種以上を混合した混合溶剤を用いることも可能である。
【0040】
さらにカップリング剤とアルミニウムフレーク粒子とを従来公知の混練機などを用いて混練する場合、必要に応じて脱イオン水を添加することが好ましい。これによりアルミニウムフレーク粒子の表面にカップリング剤を付着させ易くすることができる。脱イオン水の添加量は、アルミニウムフレーク粒子100質量部に対し、0.03~3質量部とすることができる。アルミニウムフレーク表面へのカップリング剤の付着反応を促進させる目的で、カップリング剤とアルミニウムフレーク粒子とが収容された上記混練機のシリンダ内の温度を20~80℃に加温したり、上記混練機を用いることにより得られたカップリング剤とアルミニウムフレーク粒子とを含む混練物の温度を20~80℃に加温したりすることができる。
【0041】
(脂肪酸などの有機化合物)
上記アルミニウムフレーク粒子は、その表面にオレイン酸、ステアリン酸などの脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコールおよびエステル化合物からなる群より選択される1種以上の有機化合物が付着していてもよい。これらの有機化合物は、アルミニウムフレーク粒子表面の不必要な酸化を抑制することより、表面光沢性を改善することができる。上記有機化合物は、アルミニウムフレーク粒子をアルミニウム粉末から磨砕することにより得る場合に磨砕助剤として添加される場合がある。上記有機化合物の含有量は、アルミニウムフレーク粒子100質量部に対し2質量部未満であることが好ましい。
【0042】
上記アルミニウムフレーク粒子の表面に上記脂肪酸などの有機化合物が付着している場合、上記アルミニウムフレーク粒子の表面においてカップリング剤と上記有機化合物とは、化学平衡によって上記有機化合物とカップリング剤とが混合または共存した層として存すると推定される。
【0043】
(その他の添加剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果に悪影響を与えない限り、目的に応じて次のような添加剤をさらに含有することができる。添加剤としては、たとえば、マイカ、着色顔料、蓄光顔料、着色染料、蛍光染料などの着色剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤、防汚剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、蛍光増白剤、光拡散剤、結晶核剤、流動改質剤、衝撃改質剤、顔料分散剤などを挙げることができる。
【0044】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態に係る樹脂組成物は、従来公知の方法により製造することができる。たとえば次の製造方法により上記樹脂組成物を得ることができる。すなわち、まず上述したように混練機などを用いてカップリング剤とアルミニウムフレーク粒子とを混練することにより、上記カップリング剤が表面に付着したアルミニウムフレーク粒子(以下、「カップリング剤付着アルミニウムフレーク粒子」とも記す)を準備する。次いで、上記カップリング剤付着アルミニウムフレーク粒子と上述した熱可塑性樹脂とを、バンバリーミキサー、一軸のベント付押出機、二軸のベント付押出機、ニーダー、ロールおよびフィーダールーダーからなる群より選ばれるいずれかの溶融混練機を用いて溶融混練することにより、上記樹脂組成物を得ることができる。溶融混練時の温度は、熱可塑性樹脂として用いた樹脂のガラス転移温度に基づいて適宜選択すればよく、たとえば100~300℃とすることができる。
【0045】
ここで上述の製造方法により得られる樹脂組成物は、後述する樹脂成形体においてアルミニウムフレーク粒子のより良い分散性を得ることを目的として、所定量のアルミニウムフレーク粒子を熱可塑性樹脂に充填したマスターバッチの形態として調製することが可能である。この場合において樹脂組成物中の上記アルミニウムフレーク粒子の含有量は、その表面にカップリング剤が付着した状態で、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し5質量部以上230質量部以下であることが好ましい。
【0046】
〔樹脂成形体〕
本実施形態に係る樹脂成形体は、上記樹脂組成物を含む。これにより金型を汚染することなく、光輝性を有する各種の形状の樹脂成形体を提供することが可能となる。上記樹脂成形体は、ウエルドラインの形成も抑制される。上記樹脂成形体は、光輝性を有する樹脂成形体として、たとえばノートパソコン、携帯電話などの電子機器の筐体、掃除機、扇風機、電話機、プリンターなどの家庭用電気機械器具、事務機器の筐体、自動車の内外装部品、雑貨、住宅用設備などの用途に好適である。上記樹脂成形体は、最終製品に限らず、製品中の部品としても適用することができる。このため上述した用途に限られず、広範な用途に適用することができる。
【0047】
〔樹脂成形体の製造方法〕
本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、上記樹脂組成物を準備する工程(第1工程)と、上記樹脂組成物を、上記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上高い温度に内壁表面が維持された金型へ射出注入する工程(第2工程)と、上記金型内の上記樹脂組成物を冷却することにより樹脂成形体を得る工程(第3工程)とを含む。このような特徴を有する樹脂成形体の製造方法により、金型を汚染することなく、光輝性を有し、かつウエルドラインの形成も抑制された各種の形状の樹脂成形体を得ることが可能となる。以下、第1工程~第3工程の各工程について説明する。
【0048】
<第1工程>
第1工程は、樹脂組成物を準備する工程である。本工程では、具体的には上述した樹脂組成物の製造方法を実行することにより、上記樹脂組成物を準備することができる。
【0049】
<第2工程>
第2工程は、上記樹脂組成物を、上記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上高い温度に内壁表面が維持された金型へ射出注入する工程である。本工程では、具体的には、従来公知のヒートアンドクール法に従って、まず射出成形用の金型を準備し、当該金型における内壁表面の温度を、従来公知の金型温度調節手段を用いて熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上高い温度に加熱する。次いで、上記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂を、従来公知の射出成形機のシリンダ内などで加熱することにより溶融する。最後に上記の温度に内壁表面が維持された金型へ、溶融した熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を射出注入する。
【0050】
これにより、本製造方法により得られる樹脂成形体においてウエルドラインの形成を防止することができる。さらにアルミニウムフレーク粒子と熱可塑性樹脂との密着性がカップリング剤により向上しているため、金型内でアルミニウムフレーク粒子が溶融した熱可塑性樹脂の表面に偏在することも抑制される。
【0051】
ここで上記金型の内壁表面の温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも上述のように70℃以上高い温度であることが好ましく、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも80℃を超える高い温度、たとえば90℃以上高い温度であることがさらに好ましい。上記金型の内壁表面の温度の上限については、熱可塑性樹脂の成形温度と同等とすればよい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度については、示差熱分析法(DTA:Differential thermal analysis)を用いることにより測定することができる。
【0052】
<第3工程>
第3工程は、上記金型内の上記樹脂組成物を冷却することにより樹脂成形体を得る工程である。本工程では、具体的には、従来公知のヒートアンドクール法に従って、金型内に射出注入された樹脂組成物を冷却する。その後、金型を型割りすることにより樹脂成形体を得ることができる。上記樹脂成形体は、ヒートアンドクール法を利用して製造されているため、ウエルドラインの形成を防止することができる。さらにアルミニウムフレーク粒子と熱可塑性樹脂との密着性がカップリング剤により向上しているため、金型内でアルミニウムフレーク粒子が溶融した熱可塑性樹脂の表面に偏在することが抑制され、もって分割した金型が、アルミニウムフレーク粒子によって汚染されることを抑制することができる。上記樹脂成形体は、アルミニウムフレーク粒子の溶融樹脂の表面に偏在することが抑制されるため、上記樹脂成形体の表面において高い平滑性を得ることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
〔樹脂組成物(マスターバッチ)の製造〕
実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の樹脂組成物を、次の方法を用いることにより製造した。
【0055】
<実施例1>
平均粒径(d50)が21μm、平均厚み(t)が0.5μmであるアルミニウムフレーク粒子を含み、ペースト状に調製されたアルミニウムペースト(商品名(品番):「5422NS」、東洋アルミニウム株式会社製、固形分500g)をミネラルスピリット2Lに分散して分散液を得た。この分散液をろ過洗浄することによってアルミニウムフレーク粒子を得た。次いで、上記アルミニウムフレーク粒子と、3gの脱イオン水および3gのγ‐アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名(品番):「KBE-903」、信越化学工業株式会社製)を60gのイソプロピルアルコールに溶かした処理溶液とを、市販のニーダーミキサーに投入した。さらに、これらを上記ニーダーミキサーにおいて1時間混練することにより、固形分が55質量%であるカップリング剤付着アルミニウムフレーク粒子分散体を得た。
【0056】
上記カップリング剤付着アルミニウムフレーク粒子分散体730g(固形分400g)と、1600gのアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂、商品名(品番):「GA‐501」、日本エイアンドエル株式会社製、ガラス転移温度:90℃)とを混合機を用いて混合することにより混合物を得た。この混合物を押出機(商品名:「ZSK型2軸押出機」、コペリオン株式会社製)を用い、シリンダ内の温度を190℃~220℃として混練造粒し、ペレット状に成形された樹脂組成物(マスターバッチ)を製造した。この樹脂組成物は、アルミニウムフレーク粒子の含有量が、表面にカップリング剤が付着した状態において熱可塑性樹脂100質量部に対して25質量部であった。
【0057】
<実施例2>
上記処理溶液に含まれる脱イオン水を1gとし、かつγ‐アミノプロピルトリエトキシシランを1gとしたこと以外、実施例1と同じ樹脂組成物の製造方法を実行することにより樹脂組成物(マスターバッチ)を製造した。
【0058】
<実施例3>
上記処理溶液に含まれる脱イオン水を25gとし、かつγ‐アミノプロピルトリエトキシシランを25gとしたこと以外、実施例1と同じ樹脂組成物の製造方法を実行することにより樹脂組成物(マスターバッチ)を製造した。
【0059】
<比較例1>
上記アルミニウムペースト(商品名(品番):「5422NS」、東洋アルミニウム株式会社製、固形分500g)をミネラルスピリットに分散した分散液に含まれるアルミニウムフレーク粒子に対し、上述したカップリング剤を含む処理溶液を用いて混練することなく、上記分散液から固形分が55質量%であるアルミニウムフレーク粒子分散体を調製した。次いで上記アルミニウムフレーク粒子分散体(固形分400g)と、実施例1と同じABS樹脂とを混合することにより混合物を得、かつ上記混合物を実施例1と同じ押出機を用い、実施例1と同じ条件で混練造粒することにより、ペレット状に成形された樹脂組成物(マスターバッチ)を製造した。
【0060】
<比較例2>
平均粒径(d50)が21μm、平均厚み(t)が0.5μmであるアルミニウムフレーク粒子を含み、上記アルミニウムフレーク粒子の表面がアクリル系樹脂で被覆された樹脂コートアルミニウムペースト(商品名(品番):「FZ5422」、東洋アルミニウム株式会社製)を準備した。次いでこの樹脂コートアルミニウムペースト(固形分400g)と、実施例1と同じABS樹脂とを混合することにより混合物を得、かつ上記混合物を実施例1と同じ押出機を用い、実施例1と同じ条件で混練造粒することにより、ペレット状に成形された樹脂組成物(マスターバッチ)を製造した。
【0061】
〔樹脂成形体の製造〕
次に、以下の各工程を実施することにより、実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の樹脂組成物から、これに対応する実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の樹脂成形体をそれぞれ製造した。
【0062】
まず上記樹脂組成物(マスターバッチ)42gと、上記ABS樹脂800gとをベント付き直径20mmの2軸押出機(商品名:「ZSK型2軸押出機」、コペリオン株式会社製)に投入し、これらをシリンダ内の温度を220℃として溶融混合し押出すことにより、アルミニウムフレーク粒子の含有量が1質量%である成形用樹脂組成物を準備した(第1工程)。次いで、上記成形用樹脂組成物を射出成形機(商品名:「FNX220III」、日精樹脂工業株式会社製)を用い、幅120mm×長さ150mm×厚さ5mmの矩形形状であって複数の貫通孔を有するプレート成形用金型に射出注入した(第2工程)。
【0063】
上記第2工程においては、上記射出成形機に備わるシリンダ内の温度を240℃に設定した。一方、内壁表面の温度を80℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃および200℃に加熱したプレート成形用金型をそれぞれ準備し、射出成形機から各プレート成形用金型へ、上記成形用樹脂組成物を射出注入した。
【0064】
さらに市販の低温オイル温調機および水冷温調機を用い、各プレート成形用金型の内壁表面の温度を30℃とすることにより上記金型内の上記成形用樹脂組成物を冷却し、次いで各プレート成形用金型ごとに型割りすることによって樹脂成形体を製造した(第3工程)。すなわち第3工程を実行することにより、内壁表面の温度を80℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃および200℃に加熱したプレート成形用金型を用いて成形されたそれぞれの樹脂成形体(合計10個)を製造した。
【0065】
ここで上記プレート成形用金型は、複数の貫通孔を有することから金型内で溶融樹脂が合流する部分が発生する。このためヒートアンドクール法を利用せず、金型の内壁温度をABS樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上に加熱することなく射出成形した場合、樹脂成形体における金型内で溶融樹脂が合流する部分に対応する箇所にウエルドラインが形成される場合がある。
【0066】
〔樹脂成形体の評価〕
<目視によるウエルドライン形成の確認>
実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の各樹脂成形体の表面にウエルドラインが形成されているか否かを目視により観察した。その結果、ABS樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上となる160℃以上に内壁表面の温度が加熱されたプレート成形用金型を用いて得られた実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の各樹脂成形体の表面において、いずれもウエルドラインが観察されなかった。一方、150℃以下に内壁表面の温度が加熱されたプレート成形用金型を用いて得られた実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の各樹脂成形体の表面においては、いずれもウエルドラインが観察された。
【0067】
<金型汚染の確認>
実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の各樹脂成形体の表面に、長さ80mm×幅24mmの透明粘着テープ(商品名:「セロテープ(登録商標)」、ニチバン株式会社製)を貼付け、指先でテープをこすることにより、上記透明粘着テープを実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の各樹脂成形体の表面にそれぞれ密着させた後、上記表面から上記透明粘着テープを180度で剥離されるように引き剥がした。次いで、上記樹脂成形体の表面から引き剥がした上記透明粘着テープを黒色の台紙に貼付け、デジタルマイクロスコープ(商品名:「VHX-6000」、株式会社キーエンス製)を用いて500倍の倍率により、上記透明粘着テープに付着しているアルミニウムフレーク粒子の数を求めた。評価は1視野(400μm×600μm)で行い、以下の基準に基づいてランク付けした。結果を表1に示す。ここで上記透明粘着テープに付着しているアルミニウムフレーク粒子の数は、金型内で溶融樹脂の表面に偏在することにより金型汚染を引き起こす原因となるアルミニウムフレーク粒子の数と正の相関を示すことが推定される。このため、上記透明粘着テープに付着しているアルミニウムフレーク粒子の数を求め、以下の基準に基づいてランク付けすることにより、実施例1~実施例3および比較例1~比較例2の各樹脂組成物が、ヒートアンドクール法を利用した射出成形を実行した場合に金型汚染を抑制することができるか否かを評価することが可能となる。
【0068】
A:アルミニウムフレーク粒子の数が3個以下であって、金型汚染をより十分に抑制できると推定される。
B:アルミニウムフレーク粒子の数が4~10個であって、金型汚染を抑制できると推定される。
C:アルミニウムフレーク粒子の数が11個以上であって、金型汚染の抑制が不十分となると推定される。
【0069】
【0070】
〔考察〕
以上から、実施例1~実施例3の樹脂組成物およびそれを含む樹脂成形体は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上に加熱された金型を用いて射出成形を実行した場合、従来(比較例1および2)の樹脂成形体と同等にウエルドラインの形成を防止することができる。さらに表1によれば、実施例1~実施例3の樹脂組成物およびそれを含む樹脂成形体は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも70℃以上に加熱された金型を用いて射出成形を実行した場合、比較例1および比較例2に比してアルミニウムフレーク粒子が溶融樹脂の表面に偏在することを抑制することができ、もって金型汚染を抑制できることが理解される。
【0071】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0072】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。