(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】動弁装置
(51)【国際特許分類】
F01M 9/10 20060101AFI20231115BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20231115BHJP
F01L 1/245 20060101ALI20231115BHJP
F01L 1/053 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
F01M9/10 A
F01M1/06 F
F01M1/06 E
F01M1/06 K
F01M1/06 H
F01L1/245 D
F01L1/053
(21)【出願番号】P 2022013410
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮太
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-197773(JP,A)
【文献】特開2019-044682(JP,A)
【文献】特開2016-044571(JP,A)
【文献】特開平04-124417(JP,A)
【文献】特開平10-317933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 9/10
F01M 1/06
F01L 1/245
F01L 1/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された吸気用カム軸及び排気用カム軸が、軸方向に離れた複数のカムキャップによってシリンダヘッドに回転自在に保持されて、前記吸気用カム軸の軸受部と排気用カム軸の軸受部とから成る軸受部の対が軸方向に隔てて複数対存在しており、
前記シリンダヘッド又はカム軸に、前記吸気用カム軸に沿って延びる吸気側オイル通路と、前記排気用カム軸に沿って延びる排気側オイル通路とが形成されて
、前記両オイル通路に常に送油されている動弁装置であって、
前記吸気用カム軸の軸受部には吸気側オイル通路から給油されて前記排気用カム軸の軸受部には排気側オイル通路から給油される
2方向潤滑部と、一方のオイル通路から両方の軸受部に給油される
ように横長連通路を備えた1方向潤滑部とが、前記両カムの軸方向に分かれて配置されており、前記複数対の潤滑部のうち一部の対の潤滑部は前記2方向潤滑部によって潤滑されて、他の対の潤滑部は前記1方向潤滑部によって潤滑されている、
動弁装置。
【請求項2】
前記吸気側オイル通路及び排気側オイル通路は前記シリンダヘッドに形成されており、前記吸気側オイル通路と排気側オイル通路とが、それぞれラッシュアジャスタ給油通路を兼ねている、
請求項1に記載した動弁装置。
【請求項3】
前記各カム軸のカムロブを潤滑するオイルシャワー通路又は第1補機の摺動部を潤滑するオイルジェット噴出口を備えており、前記1方向潤滑部における横長連通路又は排気側潤滑部と前記オイルシャワー通路とが接続されているか、又は、前記1方向潤滑部における1つの排気側潤滑部と前記オイルジェット噴出口とが接続されており、
更に、前記吸気側オイル通路及び排気側オイル通路のうち前記2方向潤滑部のみが接続されたオイル通路に、第2補機の潤滑のための補助潤滑通路を接続している、
請求項1又は2に記載した動弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エンジンの動弁装置に関するもので、給油構造に特徴を有している。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのようなエンジン(内燃機関)は、吸気弁を開閉する吸気用カム軸と排気弁を開閉する排気用カム軸とを備えており、両カム軸は、軸方向に離れた複数の箇所がカムキャップによってシリンダヘッドの軸受部に回転自在に保持されている。そして、吸気用カム軸及び排気用カム軸の軸受部はオイルによって潤滑されており、潤滑方式には様々な方式が採用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、シリンダヘッドの吸気側と排気側とに、カム軸と平行な潤滑用オイル通路及びラッシュアジャスタ用オイル通路を個別に形成し、カム軸の潤滑とラッシュアジャスタの駆動とを別々のオイル通路で行うことが開示されている。また、特許文献1では、油圧式の可変バルブタイミング装置を備えており、吸気用カム軸の制御と排気用カム軸の制御とが別々のオイル通路によって行われている。
【0004】
他方、特許文献2には、吸気側と排気側の各カム軸にカム軸受け潤滑用のオイル通路を内蔵したタイプにおいて、シリンダブロックのメインギャラリの後端部に設けた油路からシリンダヘッドの後端部に設けた油路を経由して両カム軸のオイル通路に送油すると共に、排気用カム軸に、オイルポンプやブレーキブースター用負圧ポンプのような補機を駆動する後ろ向きの延長部を設けて、延長部の潤滑を排気用カム軸に内蔵したオイル通路のオイルで行うことが開示されている。従って、特許文献2でも、吸気側の潤滑と排気側の潤滑とが別系統になっている。
【0005】
この特許文献2では、バルブのリフト制御及び開閉タイミング制御も油圧で行っており、吸気用バルブ及び排気用バルブのリフト制御及び開閉タイミング制御は、シリンダブロックのメインギャラリの前端部に設けた油路を利用して個別に行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-124417号公報
【文献】特開2016-44571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、吸気側と排気側とで潤滑系統及びラッシュアジャスタ駆動を別系統に構成すると、構造が複雑化するという問題がある。また、吸気側の送油系統と排気側の送油系統とで使用する油量(圧力)が同じである場合はよいが、例えば、いずれか一方の系統からカムシャワー用オイル通路を分岐させたり、特許文献2のように一方の送油系統に補機駆動部の潤滑部が付加されたりして、吸気側の系統と排気側の系統とで使用する油量(圧力)が相違すると、一方の系統でオイル不足に陥るおそれがある。
【0008】
特許文献1の問題点の1つについては、吸気側と排気側とで油圧式ラッシュアジャスタの縦長通路とカム軸用オイル通路とを共通化することによって対処できる。しかし、ラッシュアジャスタ用オイル通路とカム軸潤滑用オイル通路とを共通化しても、2つの系統でのオイル使用量に差がある場合の圧力差は解消できないため、油量が多い系統に必要な圧力が維持されるように配慮せねばならず、すると、オイルポンプの負担が大きくなると共に、高圧側の経路での圧損が増大してメカロスが増大するという問題が生じる。
【0009】
特許文献2では、吸気用バルブ及び排気用バルブのリフト制御及び開閉タイミング制御用油路とカム軸受け潤滑の油路を分離して、シリンダブロックのメインギャラリ後端から潤滑油路を立ち上げているため、クランク軸の軸受け部の潤滑やピストンへのオイルジェット噴射により、オイルポンプの吐出油圧からの油圧低下が避けられず、カム軸の潤滑と補機駆動部の潤滑とに必要な油圧を確保しようとすると、特許文献1と同様にオイルポンプの負担が大きくなり圧損が増大してメカロスが増大するという問題が生じる。
【0010】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、構造をできるだけ簡単化しつつ各部位への送油量を均一化できる技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の動弁装置は、
「平行に配置された吸気用カム軸及び排気用カム軸が、軸方向に離れた複数のカムキャップによってシリンダヘッドに回転自在に保持されて、前記吸気用カム軸の軸受部と排気用カム軸の軸受部とから成る軸受部の対が軸方向に隔てて複数対存在しており、
前記シリンダヘッド又はカム軸に、前記吸気用カム軸に沿って延びる吸気側オイル通路と、前記排気用カム軸に沿って延びる排気側オイル通路とが形成されて、前記両オイル通路に常に送油されている」
という基本構成になっている。
【0012】
そして、上記基本構成において、
「前記吸気用カム軸の軸受部には吸気側オイル通路から給油されて前記排気用カム軸の軸受部には排気側オイル通路から給油される2方向潤滑部と、一方のオイル通路から両方の軸受部に給油されるように横長連通路を備えた1方向潤滑部とが、前記両カムの軸方向に分かれて配置されており、前記複数対の潤滑部のうち一部の対の潤滑部は前記2方向潤滑部によって潤滑されて、他の対の潤滑部は前記1方向潤滑部によって潤滑されている」
という特徴を有している。
【0013】
本願発明において、吸気側オイル通路又は排気側オイル通路から、補機の潤滑用オイル通路やカムシャワー用オイル通路のような付加的オイル通路を分岐できる。また、油圧式可変バルブタイミング装置(VVT)を設けることも可能であるが、この場合は、吸気側オイル通路又は排気側オイル通路は、VVT用の油路よりも上流側から分岐させるのが好ましい。
【0014】
本願発明は、様々に具体化できる。その例として請求項2では、
「前記吸気側オイル通路及び排気側オイル通路は前記シリンダヘッドに形成されており、前記吸気側オイル通路と排気側オイル通路とが、それぞれラッシュアジャスタ給油通路を兼ねている」
という構成を採用した。
請求項3の発明は上記した付加的オイル通路の例であり、請求項1又は2において、
「前記各カム軸のカムロブを潤滑するオイルシャワー通路又は第1補機の摺動部を潤滑するオイルジェット噴出口を備えており、前記1方向潤滑部における横長連通路又は排気側潤滑部と前記オイルシャワー通路とが接続されているか、又は、前記1方向潤滑部における1つの排気側潤滑部と前記オイルジェット噴出口とが接続されており、
更に、前記吸気側オイル通路及び排気側オイル通路のうち前記2方向潤滑部のみが接続されたオイル通路に、第2補機の潤滑のための補助潤滑通路を接続している」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明では、カム軸の軸方向に並んでいる複数対の軸受部が、1方向潤滑部と2方向潤滑部とで構成されているため、吸気側オイル通路の圧力と排気側オイル通路の圧力とがほぼ同じになるように調節できる。
【0016】
すなわち、吸気用カム軸と吸気側オイル通路とにはメインギャラリから同じ圧力でオイルが送られるが、一部の軸受部の対に対して、オイルの使用量が少ない(或いはオイルの圧力が高い)オイル通路から送油することにより、吸気側オイル通路と排気側オイル通路との圧力を均一化できる。
【0017】
シリンダボアが鉛直線に対して傾斜したエンジンの場合は、吸気用カム軸と排気側オイル通路との高さが相違することによって圧力差が生じることもあるが、この場合も、一部の軸受部の対について、上に位置したオイル通路から下に位置した軸受部にオイルを供給することにより、吸気側オイル通路と排気側オイル通路との圧力差を均一化できる。いずれにしても、本願発明では、オイルポンプの能力を増大させることなく、吸気側オイル通路と排気側オイル通路との圧力を均衡させて必要な箇所に的確に送油できる。
【0018】
請求項2の構成では、カム軸の潤滑とラッシュアジャスタの駆動とが共通したオイル通路で行われるため、それだけ構造を簡単化できる。なお、吸気弁と排気弁とのうち一方のみをラッシュアジャスタで制御する場合は、吸気側オイル通路と排気側オイル通路との間に圧力差が生じるが、この場合も、1方向潤滑部と2方向潤滑部とによって吸気側オイル通路と排気側オイル通路との圧力差を均衡させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】シリンダヘッドを平面方向から見た図である。
【
図3】
図1及び
図2のIII-III 視方向から見た要部の断面図である(1方向潤滑
部の箇所の縦断正面図である。)。
【
図4】
図1及び
図2の IV-IV視方向から見た要部の断面図である(2方向潤滑
部の箇所の縦断正面図である。)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1).構造の説明
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用の4気筒エンジンに適用している。
【0021】
以下では方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線(カム軸線)の方向、上下方向はシリンダボアの軸線方向、左右方向はクランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向として定義している。本実施形態のエンジンは、多少はスラントしているとしても基本的には縦型であるので、上下方向は鉛直方向と同じになる。
【0022】
エンジンの基本的な構成は従来と同様であり、クランク軸が回転自在に保持されたシリンダブロック(図示せず)、その上面に固定されたシリンダヘッド1、シリンダヘッド1の上面にボルトで固定されたヘッドカバー2を備えている(
図3,4参照)。
【0023】
図3,4に明示するように、本実施形態のシリンダヘッド1は上部分3と下部分4との積層構造になっており、上部分3に設けた複数の軸受部5に、吸気用カム軸6及び排気用カム軸7が、共通したメインカムキャップ8を介して回転自在に保持されている。従って、軸受部5とメインカムキャップ8とによってカム軸6,7が回転自在に保持されており、シリンダヘッド1における上部分3の内部では、第2~第5の4対のメイン軸受部及びメインカムキャップ8が前後方向に並んでいる。
【0024】
敢えて述べるまでもないが、カム軸6,7には、バルブを開閉するカムロブ(図示せず)が各気筒に対応して一対ずつ形成されている。メインカムキャップ8は、カム軸6,7を挟んだ左右両側においてボルト9によってシリンダヘッド1の上部分3に固定されている(左右両端のボルト9は、シリンダヘッド1の上部分3と下部分4との締結も兼ねている。)。
【0025】
図1では、カム軸6,7やメインカムキャップ8を省略した状態でシリンダヘッド1の内部を部分的に表示している。
図1は、大まかには平面図に近いが、排気側に少し傾いた方向から見ている。シリンダヘッド1の上部分3は、側壁10と前壁11と後ろ壁12とを有して上向きに開口した形態になっている。かつ、内部には、軸受部5を設けた中仕切り壁13(
図3,4参照)が形成されている。
【0026】
図1には表示していないが、シリンダブロック及びシリンダヘッド1は、前からフロントカバー(図示せず)で覆われており、フロントカバーで隠れた箇所にタイミングチェーンが配置されている。両カム軸6,7の前端部にはシリンダヘッド1よりも前方に突出しており、この突出部に、VVT装置(図示せず)を設けている。
【0027】
図1に部分的に示すように、シリンダヘッド1の上部分3には、4つのイグニッションホール14が形成されており、イグニッションホール14を挟んだ前後両側に、一対ずつのカムロブに対応して、左右一対ずつのロッカーアーム15が配置されている。なお、
図1において、イグニッションホール14は排気側に少しずれた状態に描いているが、実際には、イグニッションホール14はシリンダヘッド1の長手中心線上に並んでいる。
【0028】
詳細は省略するが、ロッカーアーム15は回動軸心がないフリータイプであり、シリンダヘッド1の内側に位置した一端部は弁軸(図示せず)に上から当接しており、弁軸は、
図1に一部だけを表示したばね受け16を介してばね17によって上向きに付勢されている。
【0029】
そして、ロッカーアーム15の他端(外端)は、シリンダヘッド1の上部分3に内蔵した油圧式ラッシュアジャスタ(図示せず)で支持されている。なお、吸気弁用のロッカーアーム15をラッシュアジャスタで支持して、排気弁用のロッカーアーム15を固定式サポートで支持すること(或いはその逆)も可能である。
図1において示す符号18は、ラッシュアジャスタ装着穴である。
図1に示す符号19は、バルブ保持穴である。
【0030】
図1に模式的に示すように、本実施形態では、シリンダヘッド1の排気用カム軸7の後端部を後ろ向きに延長し、この延長部7aを補助軸受部及び補助カムキャップ8aで回転自在に保持している。そして、排気用カム軸の延長部7aにより、筒内直噴用燃料ポンプ20aとブレーキブースターアシスト用真空ポンプ20bとが駆動されている。
【0031】
そこで、排気用カム軸7の延長部7aは、補助軸受部及び補助カムキャップ8aで回転自在に保持されている。燃料ポンプ20aと真空ポンプ20bとは補機の一例であり、請求項との関係では、燃料ポンプ20aは第1補機に該当して真空ポンプ20bは第2補機に該当する。真空ポンプ20bはシリンダヘッド1を構成する上部分3の後端部に固定されており、燃料ポンプ20aは、後端のメインカムキャップ8と補助カムキャップ8aとに連続した張り出し8bに固定されている。
【0032】
真空ポンプ20bは、カップリングを介して排気用カム軸7の延長部7aに連結されているが、ギア類で連動させてもよい。他方、燃料ポンプ20aは、排気用カム軸7の延長部7aに設けたカムで駆動される。
【0033】
図2では、潤滑等のオイルの流路を模式的に表示している。本実施形態では、オイルポンプから圧送されたオイルは、シリンダブロック(図示せず)のメインギャラリから分岐してシリンダヘッド1の下部分4を経由して、シリンダヘッド1の下部分4のうち前端部(前壁11の箇所)でかつ左右中途部に設
けた縦長通路21に送油されており、縦長通路21から、VVT用オイル通路22と、前後長手の吸気用オイル通路23及び排気用オイル通路24とに送油されている。
【0034】
縦長通路21は、シリンダヘッド1の下部分4のうち前端部(前壁11の箇所)の上面に開口している。そして、シリンダヘッド1を構成する下部分4における前壁11の上面に(上下部材3,4の合わせ面に)、縦長通路21に連通した前向き通路21aと、前向き通路21aから左右に分岐した中継通路27とが形成されて、中継通路27の両端が、下部分4に設けた縦長の連絡通路26,28を介して吸気側オイル通路23及び排気側オイル通路24に連通している。吸気側オイル通路23と排気側オイル通路24は、ラッシュアジャスタ用装着穴18に連通している。
【0035】
図2では、排気側のラッシュアジャスタ用穴18のみを表示しているが、実際には、吸気側にも、吸気側オイル通路23と連通したラッシュアジャスタ用装着穴18が形成されている。
【0036】
従って、吸気側オイル通路23と排気側オイル通路24とには、VVT用オイル通路22よりも上流側において縦長通路21からオイルが圧送される。なお、シリンダヘッド1における上部分3の前壁11の上面には、VVT制御用油路を含みカム軸6,7の前端部を支持する半円形状の上軸受部ジャーナルが形成された第1のメインカムキャップ8が締結されている。
【0037】
吸気側オイル通路23及び排気側オイル通路25からは、第2以降の各メインカムキャップ8に対応して吸気側は4本のメイン上向き通路29,排気側は4本のメイン上向き通路30と1つの補助上向き通路39とが形成されている。上向き通路29,30,39はシリンダヘッド1の上部分3と下部分4とに跨がって形成されている。
【0038】
また、
図3,4に示すように、第2以降の各メインカムキャップ8には、吸気用カム軸6を上から囲う半円状の吸気側潤滑通路31と、排気用カム軸7を上から囲う半円状の排気側潤滑通路32とが、それぞれ溝として形成されている。
【0039】
そして、吸気側潤滑通路31は、その全部が吸気側上向き通路29とバッファ部33aを介して連通しているのに対して、排気側潤滑通路32は、前から3番目と4番目の箇所では排気側上向き通路30とバッファ部33bを介して連通して、前から2番目と5番目の排気側潤滑通路32は、排気側上向き通路30(排気側オイル通路24とは連通せずに、
図3に明示するように、横長連通路34を介して吸気側潤滑通路31(吸気側オイル通路23)に連通している。横長連通路34は、2本のボルト9の周囲を巻いて通っている。
【0040】
従って、本実施形態では、第2メインカムキャップ8の箇所と第5メインカムキャップ8の箇所との軸受部が1方向潤滑部になって、第3メインカムキャップ8の箇所と第4メインカムキャップ8の箇所の軸受部は2方向潤滑部になっている。
【0041】
横長連通路34はメインカムキャップ8の下面に溝として形成されているが、仕切り壁13の上面に溝として形成することも可能である。或いは、メインカムキャップ8の下面と仕切り壁13の上面との両方に溝として形成することも可能である。つまり、メインカムキャップ8と仕切り壁13との合わせ面に形成することができる。また、吸気側潤滑通路31及び排気側潤滑通路32は、仕切り壁13の軸受部5に形成したり、メインカムキャップ8と軸受部5との両方に形成したりすることも可能である。
【0042】
図3,4に示すように、ヘッドカバー2の内部にはバッフルプレート35が固定されており、バッフルプレート35で塞がれた空間でブローバイガスや新気のオイルセパレータ室を形成しているが、バッフルプレート35を利用して、
図2に模式的に示すオイルシャワー通路36を形成している(例えば、バッフルプレート35の上面または下面にオイルシャワー通路36を形成する別ピース部品を溶着すれば良い。)。
【0043】
オイルシャワー通路36は、吸気用カム軸6の上方に配置された前後長手の第1部分36aと、排気用カム軸7の上方に配置された前後長手の第2部分36bと、これらの前寄り部位を繋ぐ左右長手の第3部分(連通部)36cとで平面視H字状に構成されており、第3部分36cに、例えば、第2メインカムキャップ8の箇所の排気側潤滑通路32から縦長連通路37を介してオイルが送られる。
【0044】
なお、
図3,4では、縦長連通路37は排気側潤滑通路32に連通させているが、
図2では、横長連通路34から分岐させている。いずれも採用可能である。敢えて述べるまでもないが、オイルシャワー通路36の第1部分36aと第2部分36bには、各カムロブにオイルを噴出させる吐出穴が空いている。
【0045】
既述のとおり、本実施形態では、筒内直噴用燃料ポンプ20aの駆動カムとポンプ駆動カム軸の増設軸受部(補助カムキャップ8a)、及び真空ポンプ20を備えているが、
図2に示すように、ポンプ駆動カム軸の増設軸受部潤滑のために増設した軸受部用の補助潤滑通路38と真空ポンプ20bの内部潤滑のための真空ポンプ用潤滑通路38bを設け、補助潤滑通路38に、排気側オイル通路24に設けた後ろ向き突出部24aから補助上向き通路39を介して送油している。増設された補助潤滑通路38には、真空ポンプ用潤滑通路38a,38bが接続されている。
【0046】
また、筒内直噴用燃料ポンプリフタ20cと駆動カムとの摺動面や、リフタガイド20dとの摺動面の潤滑の目的で、第5メインカムキャップ8の排気側潤滑通路32(又は/及びは補助潤滑通路38)に、摺動面に向いたオイルジェット噴出口32aが設けられる。
【0047】
(2).まとめ
以上の構成において、排気側オイル通路24には、増設軸受部用の補助潤滑通路38へのオイル供給や、真空ポンプ用潤滑通路38a,38bへのオイル供給、筒内直噴用燃料ポンプリフタ20cと駆動カムとの摺動面やリフタガイド20dとの摺動面の潤滑のためのオイルジェットのためのオイル供給が要求されているため、吸気側オイル通路23に比べて圧力は低下する傾向にある。
【0048】
他方、吸気側オイル通路23はオイルシャワー通路36が連通しているが、オイルシャワー36はカム室内の2本のカムシャフトの軸受けから漏れるオイルが遠心力で飛ばされた飛沫による潤滑効果もあるため、オイルの流出量はさほどでない。このため、吸気側オイル通路23と排気側オイル通路24とを全体として比べると、排気側オイル通路24の末端圧力が吸気側オイル通路23よりも低くなっている。
【0049】
従って、カム軸6,7の全ての潤滑部について、吸気側潤滑通路31には吸気側オイル通路23からオイルを供給して、排気側潤滑通路32には排気側オイル通路24からオイルを供給するという2方向潤滑部を採用すると、排気側潤滑通路32及び真空ポンプ用潤滑通路38bに対するオイルの供給量が低下するおそれがある。さりとて、オイルポンプの容量を増大させると、吸気側オイル通路23の圧力が過剰になるおそれがある。
【0050】
これに対して本実施形態のように、前から3番と4番との軸受部にだけ2方向潤滑部を採用して、2番と5番の軸受部については排気側潤滑通路32に対して吸気側オイル通路23からオイルを供給する1方向潤滑部を採用すると、オイルポンプの容量を増大させることなく、各潤滑通路31,32,38へのオイル供給量を適切な量に保持できる。従って、コストアップや補機駆動損失増加による燃費悪化を招くことなく軸受部等へのオイル供給を適切化できる。
【0051】
実施形態のようにVVT用オイル通路22を有する場合、VVT用オイル通路22よりも上流側において吸気側オイル通路23と排気側オイル通路24とを縦長通路21から分岐させると、必要な圧力(油量)を確保する上で更に有利である。
【0052】
この場合、複数の軸受部のうちのどの部位に対して1方向潤滑部と2方向潤滑部とを割り振るかは、吸気側オイル通路23と排気側オイル通路24との圧力差を考慮して適宜設定できる。従って、4気筒エンジンの場合であると、1つの軸受部のみを1方向潤滑部又は2方向潤滑部にすることも可能である。
【0053】
実施形態のように、吸気側オイル通路23及び排気側オイル通路24を潤滑用とラッシュアジャスタ駆動用とに兼用すると、それだけ構造を簡単化できてコスト抑制に貢献できる。吸気側と排気側との片方だけにラッシュアジャスタを設けることも行われているが、この場合も、吸気側オイル通路23と排気側オイル通路24とのオイルの消費量の違い(圧力の違い)を考慮して、1方向潤滑部と2方向潤滑部との割り振りを設定したらよい。
【0054】
本実施形態の場合、1方向潤滑部を採用している2番と5番の軸受部の箇所では、排気側オイル通路24から立ち上がった上向き通路30は不要である。従って、実施形態では、2番と5番の排気側上向き通路30はダミーになっているが、ダミーの上向き通路30を設けると、軽量化して燃費の改善に貢献できる。また、上向き通路29,30を全ての軸受部の箇所に設けておいて、使用することを選択できるようにしておくと、設計の自由性を向上できる。
【0055】
すなわち、全ての軸受部の箇所に上向き通路29,30を形成しておくと、補機の有無や補機の数の相違、オイルシャワー通路36の有無などの仕様の違いに簡単に対応できるため、複数の仕様のエンジンについてシリンダヘッド1を共用できる利点がある。全ての軸受部の箇所に上向き通路29,30とバッファ部33a,33bとを形成しておいて、使用しない上向き通路29,30についてはその上端部をプラグで塞ぐということも可能である。この場合は、仕様が異なるエンジンにおいてシリンダヘッド1を共用することが更に容易になる。
【0056】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、吸気側オイル通路及び排気側オイル通路はカム軸に内蔵することも可能である。この場合は、一対の軸受部の箇所で、一方のカム軸のジャーナルに向かう連通穴を空けずに横長連通路を付加することにより、1方向潤滑部を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明は、エンジンの動弁装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 シリンダヘッド
2 ヘッドカバー
3 シリンダヘッドの上部分
4 シリンダヘッドの下部分
5 軸受部
6 吸気用カム軸
7 排気用カム軸
8 メインカムキャップ
8a 補助カムキャップ
9 ボルト
18 ラッシュアジャスタ装着穴
20a 補機の一例として直噴用燃料ポンプ(第1補機)
20b 補機の一例としての真空ポンプ(第2補機)
21 動弁系潤滑油路とVVT用油路とに送油する縦長通路
22 VVT用オイル通路
23 吸気側オイル通路
24 排気側オイル通路
29,30 上向き通路
31 吸気側潤滑通路
32 排気側潤滑通路
34 1方向潤滑部を構成する横長連通路
35 バッフルプレート
36 オイルシャワー通路
38 増設軸受部用の補助潤滑通路
38a,38b 真空ポンプ用潤滑通路