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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】チェーン装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 19/02 20060101AFI20231115BHJP
   F16G 13/20 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
F16H19/02 B
F16G13/20
F16H19/02 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022073760
(22)【出願日】2022-04-27
(65)【公開番号】P2023162996
(43)【公開日】2023-11-09
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】船木 峻介
(72)【発明者】
【氏名】町田 友唯
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-105505(JP,A)
【文献】特開2015-124056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/02
F16G 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含むスプロケットと、
樹脂を含む複数のチェーン要素が連結されてなるチェーンと、を備え、
前記チェーン要素は、可撓性を有するベース部と当該ベース部の両端に位置する連結部とを有し、
前記スプロケットの樹脂と前記チェーン要素の樹脂とは、その種類が異なり、
前記スプロケットの樹脂のガラス転移温度は45℃以上であるチェーン装置。
【請求項2】
前記スプロケット及び/又は前記チェーン要素は、フィラー及び/又は熱伝導性繊維を0体積%以上45体積%以下含む、請求項1に記載のチェーン装置。
【請求項3】
前記スプロケット及び/又は前記チェーン要素は、フィラーを含み、
前記フィラーの材質として、グラファイト、シリカ、ガラス、窒化ホウ素、層状ケイ酸塩、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、アルミナ、窒化アルミニウム、マイカ、酸化チタン、及びモンモリナイトからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載のチェーン装置。
【請求項4】
前記スプロケット及び/又は前記チェーン要素は、熱伝導性繊維を含み、
前記熱伝導性繊維の材質として、炭素繊維、ガラス繊維、アルミニウム繊維、及びセラミックス繊維からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載のチェーン装置。
【請求項5】
前記チェーンを一対有し、
一対の前記チェーンが移動するときに、互いの前記連結部同士が噛み合って一体化する、請求項1又は2に記載のチェーン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンとスプロケットとを備えるチェーン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
部品同士の摺動により駆動される装置の摺動部においては、摩擦により熱が発生するので放熱する必要がある。特許文献1には、ラジアル玉軸受の外輪の外周に成形したプーリ部の樹脂材料に、強化材と共に、熱伝導材を10%以上40%以下の範囲内で添加した樹脂プーリの発明が開示されている。この樹脂プーリによれば、鋼材からなるラジアル玉軸受で発生した熱による温度上昇をプーリ部からの放熱によって低減でき、シール及びグリースが劣化して潤滑不良を起こすことが低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-200917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スプロケットと、可撓性を有するベース部、及びベース部の両端部にそれぞれ位置する連結部を有するチェーン要素が複数連結されてなるチェーンと、を備えるチェーン装置が知られている。このチェーン装置は金属製である場合、重量が大きくなり、金属同士が摺動するために潤滑油の使用が必須となる。金属製の部品の接触により騒音が生じるという問題もある。このチェーン装置を例えば食品を加工する装置として用いる場合、潤滑油を使用すると潤滑油が食品に付着する虞もある。そのため、スプロケット及びチェーン要素ともに樹脂製にするチェーン装置も開発されている。樹脂製の場合、樹脂は自己潤滑性を有するので潤滑油が不使用になるとともに、使用時に低騒音となるという利点がある。
【0005】
一方、樹脂製のチェーン装置は、潤滑油を使用しないので、スプロケットとチェーン要素との摺動部における発熱量が大きく、弾性率低下によりフリクションロスが大きいという問題がある。発熱量がさらに大きくなると、樹脂の溶融に至るという問題もある。特許文献1の樹脂プーリの場合、ラジアル玉軸受は鋼製であるが、当該チェーン装置の場合、摺動するスプロケット及びチェーン要素のいずれもが樹脂製であるので、放熱性は良くない。
【0006】
本発明の一態様は、チェーン及びスプロケットの摺動発熱を抑制し、かつ発熱によるフリクションロスを低減できるチェーン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るチェーン装置は、樹脂を含むスプロケットと、樹脂を含む複数のチェーン要素が連結されてなるチェーンと、を備え、前記チェーン要素は、可撓性を有するベース部と当該ベース部の両端に位置する連結部とを有し、前記スプロケットの樹脂と前記チェーン要素の樹脂とは、その種類が異なり、前記スプロケットの樹脂のガラス転移温度は45℃以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様のチェーン装置によれば、チェーン及びスプロケットの摺動発熱を抑制し、かつ発熱によるフリクションロスを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1に係るチェーン装置を示す一部切欠斜視図である。
図2】チェーン要素を一方向から見た場合の斜視図である。
図3】チェーン要素を他方向から見た場合の斜視図である。
図4】本発明の実施形態2に係るチェーン装置を示す一部切欠正面図である。
図5】チェーン要素を一方向から見た場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔本発明の技術的思想〕
上述したように、チェーン装置のスプロケット及びチェーン要素のいずれもが同種の樹脂で構成され、潤滑油を使用しない場合、摺動部での発熱量が多くなり摺動面の温度が高くなる。本発明者等は、スプロケット及びチェーン要素が同種の材料からなる場合、互いの摺動面が凝着し、摩擦係数が高くなって発熱量が大きくなることを見出した。摺動面の温度は80℃になることもある。そして、フリクションロスが大きく、摩耗量も多い。同種かつ潤滑油不使用により鳴きが発生することもある。
【0011】
本発明者等は、スプロケット及びチェーン要素それぞれの樹脂を異種にすることにした。これにより、摺動面の凝着は低減し、摩擦係数が低くなって発熱量が低減する。スプロケットは、チェーン要素の数と比較して歯数が少なく、摺動回数が大きいので、より良好な熱伝導性を要する。本発明者等は、スプロケット及びチェーン要素それぞれの樹脂を異種にすることに加えて、スプロケット側の樹脂としてガラス転移温度が45℃以上であるものを用いることにより、発生した摺動発熱によるフリクションロスが抑制されることを見出した。さらに、本発明者等は、フィラー及び/又は熱伝導性繊維を添加することにより、スプロケット及び/又はチェーン要素の熱伝導性がさらに向上することを見出した。
【0012】
本発明の一態様に係るチェーン装置によれば、潤滑油を使用せず、軽量化及び低騒音化を図った樹脂製のチェーン装置において、スプロケット及びチェーン要素は良好な摺動性を有する。スプロケット及びチェーン要素の成形性及び強度も良好である。発熱量を抑制することによりフリクションロスが小さくなり、摩耗量も低減する。鳴きも発生し難い。
【0013】
〔実施形態1〕
<チェーン装置>
以下、本発明の一例である実施形態1のチェーン装置100について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、チェーン装置100は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0014】
図1は、チェーン装置100を示す斜視図である。図1におけるX軸方向を左右方向とし、Y軸方向を前後方向とし、Z軸方向を上下方向とする。図1において、X軸正方向を右方向、Y軸正方向を前方向、Z軸正方向を上方向とする。
【0015】
図1に示すように、チェーン装置100は、長手方向に沿って進退移動可能なチェーンの一例である噛合チェーン2と、進退移動する噛合チェーン2を出入可能に収容する収容部3と、を備えている。噛合チェーン2は、互いに噛合可能な第1チェーン4及び第2チェーン5を有している。第1チェーン4及び第2チェーン5はそれぞれ、直列に並ぶ複数のチェーン要素1を有し、直列方向で隣り合うチェーン要素1同士が連結されている。第1チェーン4及び第2チェーン5の、図1における上方向の先端部には、例えば昇降動作する天板及び開閉動作する扉等の機能性部材を支持した状態で噛合チェーン2と共に進退移動する可動体6が取り付けられている。
【0016】
噛合チェーン2は、第1チェーン4及び第2チェーン5が進行方向にそれぞれ移動するときに相互に噛み合って直線状に一体化する。噛合チェーン2は、第1チェーン4と第2チェーン5とが相互に噛み合っている噛合状態から進行方向とは反対の退行方向にそれぞれ移動するときに噛合状態から解除される。噛合チェーン2は、第1チェーン4と第2チェーン5が退行方向に移動した場合に、所定長さの部分が収容部3内に収容される。噛合チェーン2は、第1チェーン4と第2チェーン5が進行方向に移動した場合に、所定長さの部分が収容部3の上面から突出する。
【0017】
収容部3は、左右方向に長い矩形状の前板部31と、前板部31から所定の間隔を隔てて配置された後板部32と、を有する。前板部31と後板部32の内側面には、噛合状態から分岐した第1チェーン4及び第2チェーン5を案内する一対の湾曲した案内溝33が左右に分かれるように設けられている。
【0018】
<スプロケット>
収容部3内の後板部32の上部における左右方向の略中央部には、例えばモーター等から回転動力を付与されることで、回転軸をY軸に平行にした状態で正逆両方向に回転駆動されるスプロケット7が設けられている。スプロケット7は、第1チェーン4と第2チェーン5とが互いに噛合して直線状となる部分に対して第2チェーン5が位置する側から歯先が噛み合うように配置されている。スプロケット7の回転駆動に伴い、噛合チェーン2が昇降することにより、可動体6が昇降するように構成されている。
【0019】
<チェーン要素>
図2は、チェーン要素1を一方向から見た場合の斜視図である。図3は、チェーン要素1を他方向から見た場合の斜視図である。図2及び図3において、第1連結部12が位置する側を上側という。図2及び図3に示すように、チェーン要素1は、所定長さの板状をなし、可撓性を有するベース部11と、ベース部11の長手方向の上端側に位置する第1連結部12と、ベース部11の長手方向の下端側に位置する第2連結部13と、を備えている。
【0020】
チェーン要素1において、ベース部11の厚みは、案内溝33の幅(図1における案内溝33のZ軸方向の高さ)よりも少し薄い。ベース部11は、チェーン要素1が収容部3内を移動する際、側面が案内溝33に摺動する。ベース部11は、案内溝33の曲線部分に摺動して移動する際に、案内溝33の曲線に沿って撓む。ベース部11は、所定の間隔を隔てて平行に配置されている第1ベース部11aと第2ベース部11bとからなる。
【0021】
第1連結部12は、第1側板部12a、第2側板部12b、第1下板部12e、第2下板部12f、切欠き部12g、及び溝部12iを有する。第1側板部12aは、第1ベース部11aの上部に設けられ、第2側板部12bは、第2ベース部11bの上部に設けられている。第1側板部12aの下部において直角に第1下板部12eが連なり、第2側板部12bの下部において直角に第2下板部12fが連なり、第1下板部12eと第2下板部12fとの対向する側面同士が接合されている。これにより、第1ベース部11aと第2ベース部11bとが上部で連結される。第1側板部12aは、上から下に向かって3つの段差が形成された第1段差部12cを有する。第2側板部12bは、上から下に向かって3つの段差が形成された第2段差部12dを有する。第1下板部12e及び第2下板部12fの下部には、端部が切り欠かれた切欠き部12gが形成されている。第1側板部12a、第2側板部12b、第1下板部12e、及び第2下板部12fにより、溝部12iが形成されている。
【0022】
第2連結部13は、第1側板部13a、第2側板部13b、第1上板部13e、第2上板部13f、第1下板部13g、第2下板部13h、係止部13i、及び孔13jを有する。第1側板部13aは、第1ベース部11aの下部に設けられ、第2側板部13bは、第2ベース部11bの下部に設けられている。第1側板部13aの上部において直角に第1上板部13eが連なり、第1側板部13aの下部において直角に第1下板部13gが連なる。第2側板部13bの上部において直角に第2上板部13fが連なり、第2側板部13bの下部において直角に第2下板部13hが連なる。第1下板部13gと第2下板部13hとの対向する側面同士が接合されている状態で、第1上板部13eと第2上板部13fとの対向する側面同士が接合されている。これにより、第1ベース部11aと第2ベース部11bとが下部で連結される。第1側板部13aは、上から下に向かって3つの段差が形成された第1段差部13cを有する。第2側板部13bは、上から下に向かって3つの段差が形成された第2段差部13dを有する。第1側板部13a、第2側板部13b、第1上板部13e、第2上板部13f、第1下板部13g、及び第2下板部13hにより、孔13jが形成されている。第1下板部13g及び第2下板部13hの上部の端部には、切欠き部12gに係止される、係止部13iが形成されている。
【0023】
<チェーン部材>
図1に示すように、第2チェーン5においては、上下方向に並ぶ、上側のチェーン要素1の第2連結部13と下側のチェーン要素1の第1連結部12とが連結されている。即ち、第2連結部13の第1段差部13cと第1連結部12の第1段差部12cとが嵌合し、第2連結部13の第2段差部13dと第1連結部12の第2段差部12dとが嵌合している。このとき、切欠き部12gに係止部13iが係止されて、抜けとめされる。第1チェーン4においても、第2チェーン5と同様に、上下方向に並ぶ、上側のチェーン要素1の第2連結部13と下側のチェーン要素1の第1連結部12とが連結されている。
【0024】
図1に示すように、スプロケット7の回転に伴い、チェーン要素1のベース部11が収容部3内で湾曲状をなす案内溝33にガイドされて進退する。第1チェーン4の連結された第1連結部12及び第2連結部13と、第2チェーン5の連結された第1連結部12及び第2連結部13とが噛合して直線状をなし、噛合チェーン2を構成する。スプロケット7は、第1連結部12の溝部12iと第2連結部13の孔13jとにより形成される孔に歯先が噛合する。
【0025】
<スプロケット及びチェーン要素の材質>
実施形態1において、チェーン要素1は、基材として樹脂を含む(以下、基材として含まれる樹脂を基材樹脂という)。即ち、基材樹脂は、基材樹脂にフィラー及び/又は熱伝導性繊維を添加してなる樹脂組成物中に50体積%以上含まれる樹脂成分をいう。基材樹脂は、樹脂組成物中に55体積%以上含まれることが好ましい。ベース部11と第1連結部12と第2連結部13とは、基材樹脂を用いて一体成形される。基材樹脂は、ベース部11が、厚み方向に曲げ応力が発生したときに、曲げ応力が働く方向に撓んで変形できるような可撓性を有する。基材樹脂としては、耐摩耗性及び自己潤滑性に優れるエンジニアリング・プラスチックが好ましい。一般に、エンジニアリング・プラスチックは、耐熱性が摂氏100度以上、強度が50MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上等の物性を有する。チェーン要素1の基材樹脂としては、例えばポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド66(PA66)等の結晶性を有する樹脂が挙げられる。
【0026】
スプロケット7は基材樹脂を含む。スプロケット7の基材樹脂と、チェーン要素1の基材樹脂とは、その種類が異なる。種類が異なるとは、基材樹脂の繰り返し単位の分子構造が異なることを意味する。例えば、オキシメチレンを繰り返し単位として有するPOMと、繰り返し単位にアミド結合を有するポリアミドとは、種類が異なる。スプロケット7の基材樹脂のガラス転移温度は45℃以上である。スプロケット7の基材樹脂としては、例えば、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)等のポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、結晶性又は非晶性のスーパーエンジニアリング・プラスチック等が挙げられる。
【0027】
スプロケット7の基材樹脂と、チェーン要素1の基材樹脂と種類が異なることで、上述したように、摺動面における凝着が低減し、発熱量が低減する。しかも、スプロケット7の基材樹脂のガラス転移温度が45℃以上であるので、熱伝導性が良好である。この場合、後述するチェーン試験において、チェーン装置を30分稼動し、停止した場合の1分後の摺動面の温度は45℃以下であり、摺動面の放熱性が良好である。チェーン要素1及びスプロケット7の成形性及び強度も良好である。なお、後述する実施例のスプロケット7の基材樹脂としてはガラス転移温度が50℃以上のものを挙げているが、実施例及び比較例に基づいて、スプロケット7のガラス転移温度の下限は45℃にしている。
【0028】
スプロケット7及び/又はチェーン要素1は、フィラー及び/又は熱伝導性繊維を0体積%以上45体積%以下含むことが好ましい。即ち、スプロケット7及び/又はチェーン要素1は、フィラー及び熱伝導性繊維のうちの少なくとも一つを含んでもよく、フィラー及び熱伝導性繊維のいずれも含まなくてもよい(0体積%の場合)。「0体積%以上45体積%以下」とは、スプロケット7及びチェーン要素1それぞれについて、基材樹脂に添加した、フィラーの体積と熱伝導性繊維の体積との合計の体積の、フィラー、熱伝導性繊維、及び基材樹脂からなる樹脂組成物の総体積に対する割合が、「0体積%以上45体積%以下」であることを意味する。熱伝導性及び強度がより向上するという観点から、基材樹脂に対し、フィラー及び熱伝導性繊維の中では、フィラーを添加することが好ましい。熱伝導性がより要求されるという観点から、スプロケット7及びチェーン要素1の中では、スプロケット7の基材樹脂に対し、フィラー及び/又は熱伝導性繊維を添加することが好ましい。
【0029】
スプロケット7及びチェーン要素1の基材樹脂に、フィラーとして、グラファイト、シリカ、ガラス、窒化ホウ素、層状ケイ酸塩、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、アルミナ、窒化アルミニウム、マイカ、酸化チタン、及びモンモリナイトからなる群から選択される1種以上を添加することができる。スプロケット7及び/又はチェーン要素1の基材樹脂に、熱伝導性繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、アルミニウム繊維、及びセラミックス繊維からなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0030】
スプロケット7及びチェーン要素1それぞれのフィラー及び熱伝導性繊維の添加総量が45体積%を超える場合、スプロケット7及びチェーン要素1の成形性が悪く、強度が低くなる、即ち、粘り強さがなくなり、脆くなることが確認されている。フィラー及び/又は熱伝導性繊維の添加総量が0体積%以上45体積%以下である場合、スプロケット7及びチェーン要素1は、熱伝導性、成形性、及び強度をバランス良く有する。添加総量が30体積%未満である場合、成形性がより良好になる。添加総量が5体積%以下である場合、熱伝導パスが形成され難く、強度もあまり向上しない。添加総量が10体積%以上である場合、強度がより良好になる。以上より、スプロケット7及びチェーン要素1それぞれの前記添加総量は、10体積%以上45体積%以下であることがより好ましく、10体積%以上25体積%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
<効果>
実施形態1のチェーン装置100によれば、潤滑油を使用せず、軽量化及び低騒音化を図った樹脂製のチェーン装置において、スプロケット7及びチェーン要素1は良好な熱伝導性を有し、スプロケット7とチェーン要素1との摺動部で良好に放熱される。即ち、スプロケット7及びチェーン要素1は良好な摺動性を有する。スプロケット7及びチェーン要素1の成形性及び強度も良好である。スプロケット7とチェーン要素1との摺動部において、摺動発熱が抑制されているので、発熱量を抑制することによりフリクションロスが小さくなり、摩耗量も低減する。鳴きも発生し難い。チェーン要素1のベース部11と収容部3の案内溝33との摺動部においても、発熱が低減している。
【0032】
〔実施形態2〕
図4は、実施形態2のチェーン装置101を示す一部切欠正面図である。実施形態2に係るチェーン装置101は、チェーン9と、スプロケット7と、収容部3と、可動体6と、を備える。図4中、図1と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。図4におけるX軸方向を左右方向とし、Y軸方向を前後方向とし、Z軸方向を上下方向とする。図4において、X軸正方向を右方向、Y軸正方向を前方向、Z軸正方向を上方向とする。チェーン9は、直列に配置される複数のチェーン要素8を有し、直列方向で隣り合うチェーン要素8同士が連結されている。実施形態2においては、実施形態1と異なり、1本のチェーン9で構成されている。
【0033】
図5は、チェーン要素8を一方向から見た場合の斜視図である。図5において、第1連結部82が位置する側を上側という。図5に示すように、実施形態1のチェーン要素8は、所定長さの板状のベース部81と、ベース部81における長手方向(上下方向)の上端側に位置する第1連結部82と、下端側に位置する第2連結部83と、を備えている。第1連結部82は、箱状をなす。第2連結部83は、ベース部81の幅方向に沿って延び、端面はL字状をなす。
【0034】
第1連結部82は、上板部82a、下板部82b、第1側板部82c、第2側板部82d、突出部82f、凹部82g、及び孔82eを有する。上板部82a、及び下板部82bは、第1連結部82の上側、及び下側に位置する。第2側板部82dはベース部81側に位置し、第1側板部82cは、第2側板部82dと反対側に位置する。第2側板部82dの上下方向の略中央部に、第2側板部82dの幅方向に延びる突出部82fが設けられている。突出部82fの下面は、ベース部81の上面に当接する。第2側板部82dの、突出部82fの上側には、第2連結部83と同一の形状を有し、第2連結部83が嵌合される凹部82gが設けられている。孔82eは、第1側板部82cに、孔82eの開口部が位置する状態で、ベース部81に交叉する方向に延びる。
【0035】
図4に示すように、チェーン9においては、上下方向に並ぶ、上側のチェーン要素8の第2連結部83と下側のチェーン要素8の第1連結部82とが連結されている。即ち、凸条の第2連結部83が第1連結部82の凹部82gに嵌合されることにより、上側のチェーン要素8の第2連結部83に、下側のチェーン要素8の第1連結部82が連結される。
【0036】
図4に示すように、スプロケット7の回転に伴い、チェーン要素8のベース部81が収容部3内で湾曲状をなす案内溝33にガイドされて進退する。チェーン9の連結されたチェーン要素8の第1連結部82及び第2連結部83は直線状をなす。スプロケット7は、第1連結部82の孔82eに歯先が噛合する。
【0037】
実施形態2において、チェーン要素8は基材樹脂を含む。チェーン要素8の基材樹脂としては、例えばPOM、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド66(PA66)等の結晶性を有する樹脂等が挙げられる。スプロケット7は基材樹脂を含む。スプロケット7の基材樹脂とチェーン要素8の基材樹脂とは、その種類が異なる。スプロケット7の基材樹脂としては、例えば、PA6、PA66、PA9T等のポリアミド、PPS、PEEK等が挙げられる。
【0038】
スプロケット7及びチェーン要素8はそれぞれ、フィラー及び/又は熱伝導性繊維を0体積%以上45体積%以下含むことが好ましい。スプロケット7及びチェーン要素8それぞれの添加総量は、10体積%以上45体積%以下であることがより好ましく、10体積%以上25体積%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
フィラーとして、グラファイト、シリカ、ガラス、窒化ホウ素、層状ケイ酸塩、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、アルミナ、窒化アルミニウム、マイカ、酸化チタン、及びモンモリナイトからなる群から選択される1種以上が挙げられる。繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、アルミニウム繊維、及びセラミックス繊維からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0040】
実施形態2のチェーン装置101によれば、潤滑油を使用せず、軽量化を図ったチェーン装置において、良好な熱伝導性を有し、スプロケット7とチェーン要素8との摺動部で良好に放熱される。即ち、スプロケット7及びチェーン要素8は良好な摺動性を有する。スプロケット7及びチェーン要素8の成形性及び強度も良好である。スプロケット7とチェーン要素8との摺動部において、発熱量を抑制することによりフリクションロスが小さくなり、摩耗量も低減する。鳴きも発生し難い。チェーン要素8のベース部81と収容部3の案内溝33との摺動部においても、発熱が低減している。
【実施例
【0041】
以下、本発明の実施例及び比較例につき具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<チェーン装置の作製>
[実施例1]
下記の表1のように、マトリックス樹脂としてガラス転移温度が-50℃であるPOMを用い、マトリックス樹脂にフィラー及び熱伝導性繊維は添加せず、チェーン要素1を作製した。マトリックス樹脂とは、樹脂組成物中に50体積%以上含まれる樹脂成分をいう。上述の基材樹脂と同義である。マトリックス樹脂としてガラス転移温度が50℃であるPA6を用い、マトリックス樹脂に、フィラーとしてグラファイトを10体積%添加し、熱伝導性繊維として炭素繊維を10体積%添加して樹脂組成物を調製し、スプロケット7を作製した。チェーン要素1及びスプロケット7を用いて、実施例1のチェーン装置100を作製した。表1には、チェーン及びスプロケットそれぞれのマトリックス樹脂に対するフィラー及び/又は熱伝導性繊維の添加総量の体積%も記載している。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例2~10]
上記表1のマトリクス樹脂、フィラー、及び熱伝導性繊維を有するチェーン要素1、並びに表1のマトリクス樹脂、フィラー、及び熱伝導性繊維を有するスプロケット7を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~10のチェーン装置100を作製した。
【0045】
[比較例1]
マトリックス樹脂としてガラス転移温度が-50℃であるPOMを用いてチェーン要素を作製し、マトリックス樹脂としてガラス転移温度が-50℃であるPOMを用いてスプロケットを作製したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のチェーン装置を作製した。
【0046】
[比較例2]
マトリックス樹脂としてガラス転移温度が0℃であるPPを用いてチェーン要素を作製し、マトリックス樹脂としてガラス転移温度が-50℃であるPOMを用いてスプロケットを作製したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のチェーン装置を作製した。
【0047】
[比較例3]
マトリックス樹脂としてガラス転移温度が50℃であるPA66を用いてチェーン要素を作製し、マトリックス樹脂としてガラス転移温度が50℃であるPA66を用いてスプロケットを作製した。実施例1と同様にして比較例3のチェーン装置を作製した。
【0048】
<評価>
実施例1~10、及び比較例1~3のスプロケット及びチェーン要素の成形性及び強度を評価した。実施例1~10、及び比較例1~3のチェーン装置の摺動部の熱伝導性を評価した。評価結果を上記表1に示す。
【0049】
[成形性]
実施例1~10、及び比較例1~3のスプロケット及びチェーン要素の材料を射出成形機に投入し、射出成形機に取り付けられた金型へ注入したときに、金型に未充填部分があるか否かを確認した。成形性の評価基準は以下の通りである。(△以上が合格)
◎ 100ショット注入を行い、未充填が1ショット以下
○ 100ショット注入を行い、未充填が2~3ショット以下
△ 100ショット注入を行い、未充填が4~5ショット以下
× 100ショット注入を行い、未充填が6ショット以上
【0050】
[熱伝導性]
実施例1~10、及び比較例1~3のチェーン装置を下記の条件で30分稼働して停止させ、停止1分後、サーモグラフィーにより、スプロケットとチェーン要素との摺動面の温度を測定した。この温度の測定位置を図1において、矢印Aで示す。チェーン装置の稼動条件及び熱伝導性の評価基準は、以下の通りである。
【0051】
チェーン装置の稼動条件
・スプロケットの回転数:~130rpm
・スプロケットの歯数:9
・負荷:100N
【0052】
熱伝導性の評価基準(△以上が合格)
◎ 25℃以下
○ 30℃以下
△ 45℃以下
× 46℃以上
【0053】
[強度]
実施例1~10、及び比較例1~4のスプロケット及びチェーン要素の強度(23℃雰囲気での曲げ試験による最大応力)を測定した。曲げ試験は、JIS K 7171(曲げ試験方法)に準拠して行った。強度の評価基準は以下の通りである。(△以上が合格)
◎ 150MPa以上
○ 100MPa以上
△ 80MPa以上
× 60MPa以下
【0054】
[まとめ]
スプロケットとチェーン要素とが同種のマトリックス樹脂を含む比較例1及び3のチェーン装置は、熱伝導性が悪い。上述したように、マトリックス樹脂が同種であると摺動面が凝着し、摩擦係数が高くなって発熱するが、熱伝導性が悪いため、放熱できず、摺動面の温度が46℃以上である。スプロケットとチェーン要素とがそれぞれ異なるマトリックス樹脂を含む実施例1~10のチェーン装置は、熱伝導性試験における摺動面の温度が45℃以下であり、熱伝導性が良好である。
【0055】
スプロケットとチェーン要素とが異なるマトリックス樹脂を含むが、スプロケットのマトリックス樹脂のガラス転移温度が-50℃である比較例2の場合、熱伝導性が悪い。実施例1~10のスプロケット7のマトリックス樹脂のガラス転移温度は50℃以上である。以上のように、スプロケット7の樹脂とチェーン要素1の樹脂とで種類が異なり、スプロケット7の樹脂のガラス転移温度は45℃以上である場合、熱伝導性が良好である。上述したように、実施例のスプロケットのマトリックス樹脂としてはガラス転移温度が50℃以上のものを挙げているが、実施例及び比較例に基づくスプロケットのガラス転移温度の下限を45℃にしている。
【0056】
比較例3のように、スプロケット及びチェーン要素のいずれのマトリックス樹脂のガラス転移温度が45℃以上であっても、マトリックス樹脂が同種である場合、上述の理由から熱伝導性が悪い。
【0057】
フィラー及び熱伝導性繊維の添加総量が45体積%以下である実施例1~10の場合、成形性及び強度は良好である。
【0058】
実施例1と実施例2との比較により、チェーン要素1のマトリックス樹脂にフィラーを添加することにより、熱伝導性及び強度が向上する。
【0059】
実施例3と実施例4との比較により、チェーン要素1のマトリックス樹脂にフィラーを添加することにより、成形性、熱伝導性、及び強度をバランス良く有することが分かる。
【0060】
スプロケット7の添加総量が45体積%である実施例3及び7は、成形性は△(合格)であり、熱伝導性及び強度は良好である。スプロケットの7又はチェーン要素1の添加総量が30体積%未満である実施例の場合、成形性がより良好になる。実施例5、6、9の比較により、添加総量が10体積%以上である場合、強度がより良好になる。以上より、スプロケット及びチェーン要素それぞれの添加総量は0体積%以上45体積%以下であることが好ましく、10体積%以上45体積%以下であることがより好ましく、10体積%以25体積%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
以上のように、本発明の実施例に係るチェーン装置100は、スプロケット7及びチェーン要素1の成形性及び強度が良好であり、チェーン装置100の摺動部における熱伝導性(放熱性)が良好であることが確認された。即ち、実施例に係るチェーン装置100は摺動性が良好であり、発熱によるフリクションロスが低減されることが確認された。
【0062】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本発明に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【0063】
本発明に係るチェーン装置は、上述のチェーン装置100及び101に限定されない。本発明の構成は、樹脂を含むスプロケットと、樹脂を含む複数のチェーン要素が連結されてなるチェーンと、を備え、チェーン要素は、可撓性を有するベース部とベース部の両端に位置する連結部とを有するいずれのチェーン装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1、8 チェーン要素
11、81 ベース部
12、82 第1連結部
13、83 第2連結部
2 噛合チェーン
3 収容部
4 第1チェーン
5 第2チェーン
6 可動体
7 スプロケット
9 チェーン
100、101 チェーン装置
図1
図2
図3
図4
図5