(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】制振装置、制振ダンパの取り付け方法、及び制振方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20231115BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20231115BHJP
F16F 3/10 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
F16F15/04 B
F16F15/02 C
F16F3/10 H
(21)【出願番号】P 2022521820
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2021016743
(87)【国際公開番号】W WO2021230069
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2020084043
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直也
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-068461(JP,A)
【文献】特開平05-302643(JP,A)
【文献】特開2009-035864(JP,A)
【文献】特開2015-175405(JP,A)
【文献】特開2004-028124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/04
F16F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点のうち、相対的に振幅が小さい位置に固定されたアームと、
前記目標点のうち、相対的に振幅が大きい位置を押えるように前記アームに設けられた振動吸収材と、
を備える制振装置。
【請求項2】
前記アームを固定する前記目標点は、振幅の節の位置である、
請求項
1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記振動吸収材で押える前記目標点は、振幅の腹の位置である、
請求項
1又は2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記アームが固定されて前記振動吸収材が押し付けられる二つの前記目標点は、前記特定の固有振動数と異なる別の二種類の固有振動数における固有モードでの振幅が互いに逆位相となる位置に定められている、
請求項
1ないし3のいずれか一に記載の制振装置。
【請求項5】
前記振動吸収材の位置に、振動を低減する質量体を備える、
請求項1ないし4のいずれか一に記載の制振装置。
【請求項6】
前記特定の固有振動数は、低減しようとする空気伝播音の原因としてつきとめられた固有振動数である、
請求項1ないし5のいずれか一に記載の制振装置。
【請求項7】
特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点を見つけ出し、
前記目標点のうち、相対的に振幅が小さい位置にアームを固定し、
前記目標点のうち、相対的に振幅が大きい位置に前記アームに設けた振動吸収材を押しつける、
制振ダンパの取り付け方法。
【請求項8】
前記特定の固有振動数は、低減しようとする空気伝播音の原因としてつきとめられた固有振動数である、
請求項7に記載の制振ダンパの取り付け方法。
【請求項9】
対象物に振動が発生したとき、特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点のうち、相対的に振幅が小さい位置に固定されたアームが前記対象物の振動に追従し、
前記対象物の振動に前記アームが追従している間、前記目標点のうち、相対的に振幅が大きい位置を前記アームに設けられた振動吸収材が押える、
制振方法。
【請求項10】
前記特定の固有振動数は、低減しようとする空気伝播音の原因としてつきとめられた固有振動数である、
請求項9に記載の制振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、制振装置、制振ダンパの取り付け方法、及び制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の機械類は、動作することによって振動を生ずる。自動車を例に挙げると、自動車にはエンジン、モータ類、コンプレッサ、ギヤボックスなどといった振動源が数多く設けられている。これらの各部は動作中に振動し、放射音を発生させる。昨今は自動車の電動化が日々進展し、これまで以上に静粛性が求められるようになってきていることからも、なんらかの対策が求められる。
【0003】
各部の振動を原因とする騒音は、二種類に大別される。一つは、部品の振動がその支持側に伝わって励起される騒音である。もう一つは、部品の振動が空気を伝播して発生する空気伝播音である。
【0004】
特許文献1、2は、エンジンマウントに設けられる防振装置を開示している。これらの防振装置は、部品の振動がその支持側に伝わることを抑制し、振動が支持側に伝わって励起される騒音を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-270587号公報
【文献】特開2019-060454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
部品の振動がその支持側に伝わって励起される騒音に対しては、例えば特許文献1、2に開示されているような防振装置によって対策が可能である。その一方でこの種の防振装置は空気伝播音を低減しない。
【0007】
空気伝播音については、振動源を遮蔽する手法での騒音対策がとられるのが一般的である。例えば振動源を遮蔽板や遮音材などで覆うという対策である。ところが振動源をなにかで覆うという構造は大きな設置スペースを必要とするし、構造物そのものに高額な部品コストがかかってしまう。こうしたスペース上の制約やコストなどの問題を考慮すると、手軽に採用できる対応策であるとはいえない。
【0008】
そこで大きな占有スペースを必要とすることなく、簡易な構成で空気伝播音を低減できるようにすることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
制振装置の一態様は、特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点のうち、相対的に振幅が小さい位置に固定されたアームと、前記目標点のうち、相対的に振幅が大きい位置を押えるように前記アームに設けられた振動吸収材とを備える。
【0011】
制振ダンパの取り付け方法の一態様は、特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点を見つけ出し、前記目標点のうち、相対的に振幅が小さい位置にアームを固定し、前記目標点のうち、相対的に振幅が大きい位置に前記アームに設けた振動吸収材を押しつける。
【0012】
制振方法の一態様は、対象物に振動が発生したとき、特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点のうち、相対的に振幅が小さい位置に固定されたアームが前記対象物の振動に追従し、前記対象物の振動に前記アームが追従している間、前記目標点のうち、相対的に振幅が大きい位置を前記アームに設けられた振動吸収材が押える。
【発明の効果】
【0013】
大きな占有スペースを必要とすることなく、簡易な構成で空気伝播音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】対象物に取り付けた制振ダンパの実施の一形態を示す斜視図。
【
図2】制振ダンパなし、制振ダンパあり(質量体なし)、及び制振ダンパあり(質量体あり)の三態様での対象物の振動レベルを比較して示すグラフ。
【
図3】対象物に取り付けた制振ダンパの別の実施の一形態を示す斜視図。
【
図4】対象物の振動モードと対応づけて、対象物に取り付けた制振ダンパのさらに別の実施の一形態を示す斜視図。
【
図5】対象物に発生する振動の振幅を採取するための実験装置を示す模式図。
【
図6】(A)は対象物に発生した振動の周波数応答関数、(B)はそのときの放射音の周波数応答関数を示すグラフ。
【
図7】対象物に発生した振動の周波数応答関数を示すグラフ。
【
図8】(A)は105Hz、(B)は139Hz、(C)は280Hz、(D)は291Hz、(E)は361Hz、そして(F)は675Hzでの対象物の振動モードを示す模式図。
【
図9】制振ダンパの効果を検証するための試作品の一例(質量体なし)を示す模式図。
【
図10】(A)は制振ダンパなし、(B)は制振ダンパあり(質量体なし)での対象物に発生した振動の周波数応答関数を示すグラフ。
【
図11】(A)は291Hz、(B)は675Hzでの対象物の振動モードを示す模式図。
【
図12】制振ダンパの効果を検証するための試作品の別の一例(質量体つき)を示す模式図。
【
図13】(A)は制振ダンパなし、(B)は制振ダンパあり(質量体あり)での対象物に発生した振動の周波数応答関数を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
制振ダンパ、制振装置、制振方法、及び制振ダンパの取り付け方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図4、
図8(A)~(F)、及び
図11(A)(B)は、制振対象となる対象物Oに生ずる振動モード、つまり振動の形態及び状態を模式的に示している。これらの各図中、無彩色の濃淡は振動の振幅の大きさを表現している。図中、薄い灰色と濃い灰色と黒色との三種類の無彩色、あるいは薄い灰色と濃い灰色との二種類の無彩色のみによって振幅を表現しているが、これは便宜上の表現にすぎない。実際には濃淡の間の領域は、徐々に濃淡を変化させるはずである。つまり振動の振幅は、上記の各図に無彩色の濃淡で表現されているように段階的に変化するわけではなく、変化の度合いが急峻であるか緩やかであるかは別として、滑らかな変化をみせる。
【0017】
つぎの項目に沿って説明する。
[実施の一形態]
(1)全体の構成
(2)目標点
(3)制振ダンパの取り付け方法
(4)制振方法
[別の実施の形態]
[さらに別の実施の形態]
【0018】
[実施の一形態]
制振対象となる対象物Oは、例えば自動車のエンジン、モータ類、コンプレッサ、ギヤボックスなどである。制振ダンパ1は、対象物Oに取り付けられる。対象物Oに制振ダンパ1が取り付けられると、制振装置2が構成される。制振ダンパ1及び制振装置2は、対象物Oに生ずる振動が空気を伝播して発生する空気伝播音を軽減する。
【0019】
(1)全体の構成
図1に示すように、対象物Oにはアーム11が固定され、アーム11の自由端12側に設けられた振動吸収材31が対象物Oの一部を押さえている。
【0020】
アーム11は、細い矩形形状の部材である。自由端12の反対側に固定端13を備え、自由端12と固定端13との間に屈曲した屈曲部14を有している。一例として、アーム11は金属や樹脂などを材料として製作され、ばね性を与えられている。
【0021】
対象物Oに対するアーム11の固定は、例えば固定ネジ21のねじ止めによって行なわれる。固定ネジ21は、アーム11の固定端13に設けられた通し孔(図示せず)に通され、対象物Oに設けられたねじ孔(図示せず)にねじ込まれる。アーム11は、固定ネジ21の締め込みによって対象物Oに締結される。
【0022】
振動吸収材31は、例えばゴムを材料とする弾性を有する円筒状の部材である。アーム11の自由端12には、例えば接着や溶着などの手法によって固定されている。
【0023】
(2)目標点
対象物O中、アーム11が固定されている位置、及び振動吸収材31が押しつけられている位置は、目標点Pである。これらの目標点Pは、対象物O上に存在する固有モードでの振幅が異なる位置である。
【0024】
アーム11が固定されている位置は、振動吸収材31が押しつけられている位置よりも振動の振幅が小さい位置である。つまりアーム11の固定端13は、振動の振幅が相対的に小さい目標点Pに固定され、振動吸収材31は、振動の振幅が比較的大きい目標点Pを押さえつけるように位置づけられている。説明の便宜上、アーム11が固定される目標点Pを目標点Pfと呼び、振動吸収材31を押しつける目標点Pを目標点Ppと呼ぶ。
【0025】
前述したとおり、二種類の目標点Pf,Ppは、対象物O上に存在する固有モードでの振幅が異なる二つの目標点Pである。このときの固有モードは、特定の固有振動数における固有モードである。この点について、
図7を参照しながら説明する。
【0026】
図7に示すグラフは、対象物Oに振動が生じたときの周波数応答関数(加振力と応答加速度との比)を示している。
【0027】
より詳しくは、対象物Oの複数の位置、例えば等間隔で縦横に平行に配列した複数本の仮想線によって生ずるセルの交点のそれぞれを測定点として、これらの測定点に生ずる振動を加速度センサ101で計測する(
図5参照)。振動は、例えばインパルスハンマ102によって対象物Oを殴打することによって生じさせる。このときの加速度センサ101の出力に基づいて計算した周波数応答関数を示すのが
図7のグラフである。横軸には周波数、縦軸には振動の周波数応答関数がとられる。
【0028】
別の実施の形態として、
図7に示すようなグラフは、フーリエスペクトルとして得ることも可能である。そのためには加速度センサ101の出力を予め決められた時間分、例えば10秒間分採取する。これによって加速度センサ101の出力の時間軸波形が得られる。そこでFFT(高速フーリエ変換)によって時間軸波形を周波数スペクトルに変換する。こうして得られた個々の測定点での周波数スペクトルを重ね合わせれば、
図7に示すようなグラフが得られる。
【0029】
図7を参照すると、105Hz、139Hz、280Hz、291Hz、361Hz、そして675Hzの辺りにピーク波形が現れているのを見て取ることができる。その他の周波数、例えば500Hzと600Hzとの間の領域、700Hzと800Hzとの間の領域などにもピーク波形が生じているが、本説明では捨象する。
【0030】
図8(A)~(F)は、ピーク波形が現れる上記周波数での対象物Oの振動モードを示している。例えば
図8(A)に示す105Hzに着目すると、対象物Oの上下領域に現れた大きな振幅は、中央領域に向かうにつれて減少し、減少した振幅は中央領域で増大していることがわかる。中央領域に生ずる振動の振幅は、上下領域に生ずる振動の振幅よりは小さい。
【0031】
図8(A)~(F)中に表記した+-は、インパルスハンマ102の殴打によって対象物Oに生ずる振動モードを示している。同図中、+は手前側に振幅が生ずることを、-は奥側に振幅が生ずることをそれぞれ表わしている。
【0032】
図8(A)~(F)から一目瞭然であるように、白色の領域は振動の節(ノード)、濃い灰色の領域は振動の腹(アンチノード)になる。
【0033】
一例として、アーム11の固定端13を固定する目標点Pfは振動の節の位置、振動吸収材31を押しつける目標点Ppは振動の腹の位置に定められる。もちろん二つの目標点Pf,Ppの位置は、必ずしも振動の節と腹とに限定されるわけではなく、振動の振幅が相対的に小さい位置を目標点Pf、振動の振幅が比較的大きい位置を目標点Ppに定めればよい。
【0034】
(3)制振ダンパの取り付け方法
対象物Oに対する制振ダンパ1の取り付け方法は、目標点探索工程、固定工程、位置合わせ工程という三つの工程によって実行される。
【0035】
目標点探索工程は、対象物O上に存在する特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点Pを見つけ出す工程である。
【0036】
このときの特定の固有振動数は、例えば
図7に例示されるようなピーク波形が現れる周波数である。
図7からも明らかなように、固有振動数は一つとは限らずに複数存在する。どの固有振動数を特定の固有振動数として選択するかは、低減しようとする空気伝播音との対応関係から定めればよい。つまり低減しようとする空気伝播音の原因となる固有振動数をつきとめ、この固有振動数を特定の固有振動数として選択する。
【0037】
特定の固有振動数を決定したならば、この固有振動数での対象物Oの振動モードを解析し、振動の振幅が異なる二以上の目標点Pを定める。例えば
図7中、特定の固有振動数として291Hzを選択したものと仮定する。この周波数での対象物Oの振動モードは、
図8(D)に示すとおりである。
図8(D)を参照すると、振動の振幅が異なる二以上の目標点Pを随所に発見することができる。
【0038】
例えば
図8(D)中、対象物Oの左上角と右下角、それに右下角のやや上方の位置に振動の腹(アンチノード)が現れる。そこでこれらの振動の腹の位置と腹以外の位置とを振動の振幅が異なる二以上の目標点Pとして選出することが可能である。
【0039】
固定工程は、見つけ出した目標点Pのうち、相対的に振幅が小さい位置、例えば振動の節(ノード)を目標点Pfとして定め、この目標点Pfにアーム11を固定する工程である。
【0040】
例えば
図8(D)中、白色の領域は振動の節となる。また薄い灰色の領域は、振動の腹となる濃い灰色の領域よりも振幅が小さい。そこで白色の領域か薄い灰色の領域かのいずれかを目標点Pfと定め、この目標点Pfにアーム11を固定すればよい。
【0041】
位置合わせ工程は、見つけ出した目標点Pのうち、相対的に振幅が大きい位置、例えば振動の腹(アンチノード)を目標点Ppとして定め、この目標点Ppにアーム11に設けた振動吸収材31を押しつける工程である。
【0042】
例えば
図8(D)中、濃い灰色の領域は振動の腹となる。そこで濃い灰色の領域を目標点Ppと定め、この目標点Ppにアーム11に設けた振動吸収材31を押しつけるようにすればよい。目標点Ppに対する振動吸収材31の押しつけは、アーム11に対する振動吸収材31の固定位置が適切に定まっているという前提のもと、アーム11の取り付け角度を適宜設定することによって容易に実現可能である。
【0043】
(4)制振方法
対象物Oの制振方法は、追従工程と押しつけ工程の二つの工程によって実行される。
【0044】
追従工程は、対象物Oに振動が発生したとき、対象物O上に存在する固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点Pのうち、相対的に振幅が小さい位置(目標点Pf)に固定されたアーム11が対象物Oの振動に追従する工程である。
【0045】
対象物Oの振動へのアーム11の追従は、固定ネジ21による固定位置を含むアーム11の全体において発生する。アーム11が振動の節に固定されている場合、この位置には振幅が生じないので、この部分の追従は、変位が生じない対象物Oとアーム11とが一体になっていることを意味している。これに対して振動の節以外の部分では、アーム11は振動吸収材31を介して対象物Oの振動に追従する。
【0046】
押しつけ工程は、対象物Oの振動にアーム11が追従している間、目標点Pのうち、相対的に振幅が大きい位置(目標点Pp)をアーム11に設けられた振動吸収材31が押える工程である。
【0047】
図2中、制振ダンパ1が取り付けられていない対象物Oに生ずる振動の振幅を実線で示し、制振ダンパ1が取り付けられた対象物Oに生ずる振動の振幅を点線で示している。押しつけ工程が実行されると、対象物Oに生ずる振動の振幅が小さくなる。
図7ないし
図11(A)(B)を参照しながら、詳しく説明する。
【0048】
制振ダンパの取り付け方法において、例えば280Hzを特定の固有振動数と定めたと仮定する(
図7参照)。目的点探索工程では、280Hzの固有モードでの振幅が異なる二以上の目標点Pを見つけ出す。
【0049】
図8(C)に示すように、280Hzの振動モードでは、対象物Oの右下角やや上方の位置に振動の節が現れ(白色の領域)、右下角に振幅領域が現れる(薄い灰色の領域)。そこで
図9に示すように、対象物Oの右下角のやや上方を目標点Pf、右下角を目標点Ppと定め、制振ダンパ1を対象物Oに取り付ける。
【0050】
図10(A)(B)は、対象物Oに生ずる振動の加振力と応答加速度との比である周波数応答関数を示すグラフである。
図10(A)は、制振ダンパ1が取り付けられていない対象物O、
図10(B)は、制振ダンパ1が取り付けられた対象物Oの周波数応答関数をそれぞれ示している。
図10(A)と(B)とを比較すると、制振ダンパ1がないときには280Hzと291Hzとに現れていたピーク波形(
図10(A)参照)が、制振ダンパ1を設けることで、
図10(B)に示すような波形になったことがわかる。変化は波形のみならず、
図10(A)と(B)とを比較すると、振幅も低減している。
【0051】
以上の結果から、対象物Oに生ずる振動の振幅が小さくなることがわかる。
【0052】
しかも
図10(B)に示すように、675Hzで対象物Oに発生する振動の振幅も減少している。これは上記目標点探索工程において、アーム11が固定される目標点Pfと振動吸収材31が押し付けられる目標点Ppとを、特定の固有振動数である280Hzとは異なる別の二つの周波数との間で逆位相となる位置に定めたことによって生じている。別の二つの周波数は、291Hzと675Hzとである。
【0053】
図11(A)(B)を参照されたい。
図11(A)は、291Hzで対象物Oに生ずる振動モードである。これに対して
図11(B)は、675Hzで対象物Oに生ずる振動モードである。制振ダンパ1の振動吸収材31で押さえる目標点Ppの位置に着目すると、291Hzでの振動モードでは、目標点Pfは-で目標点Ppは+である(
図11(A)参照)。675Hzでの振動モードでは、目標点Pfは+で目標点Ppは-である(
図11(B)参照)。つまり291Hzと675Hzとの振動モードを比較すると、二つの目標点Pf,Ppは互いに逆位相の位置に定められていることがわかる。
【0054】
675Hzの周波数で対象物Oに発生する振動の振幅が減少しているのは、上記逆位相の関係性からであると推定される。
【0055】
本実施の形態によれば、押しつけ工程の実行によって対象物Oに生ずる振動の振幅が小さくなる。このため対象物Oの振動が空気を伝播して発生する空気伝播音も減少する。しかも
図1からも明らかなように、制振ダンパ1は小型で構造も簡単である。したがって大きな占有スペースを必要とすることなく、空気伝播音を簡易に低減することができる。
【0056】
[別の実施の形態]
別の実施の形態を
図3に基づいて説明する。
図1に示した実施の一形態と同一部分は同一符号で示し、説明も省略する。
【0057】
本実施の形態の制振ダンパ1は、アーム11の自由端12側の表面に、質量体41を固定している。質量体41を固定しているのは、振動吸収材31と反対側の面である。
【0058】
質量体41は、固有振動数の振動を吸振し、対象物Oの振動を低減する。
【0059】
図2中、一点鎖線で示すのは、制振ダンパ1に質量体41を固定したときの対象物Oに生ずる振動の振幅である。質量体41なしの制振ダンパ1を対象物Oに取り付けたときよりも(点線参照)、さらに対象物Oに生ずる振動の振幅が小さくなることがわかる。したがって対象物Oの振動が空気を伝播して発生する空気伝播音がより一層減少する。
【0060】
[さらに別の実施の形態]
さらに別の実施の形態を
図4に基づいて説明する。
図3に示した別の実施の形態と同一部分は同一符号で示し、説明も省略する。
【0061】
本実施の形態の制振装置2は、
図4中の下方に例示する対象物Oの振動モードに適合させるように、二箇所の目標点Pfと三箇所の目標点Ppとを定め、これらの目標点Pに一つの制振ダンパ1を取り付けている。
【0062】
制振ダンパ1は、90度屈曲してL字形状をなすアーム11を備え、このアーム11の二つの端部を対象物Oに固定している。これらの固定位置は、目標点Pfである。このとき目標点Pfにはスペーサ51を介在させ、アーム11と対象物Oとの間に隙間を確保している。隙間は、対象物Oに対面するアーム11の下面に固定する振動吸収材31を配置するための空間である。振動吸収材31は、アーム11の屈曲位置と二辺の中央位置との三箇所に固定されている。これらの位置は、目標点Ppである。振動吸収材31の裏面側にあたるアーム11の表面側には、質量体41が固定されている。
【0063】
本実施の形態のように、目標点Pfは二つ以上であってもよく、目標点Ppは三つ以上であってもよい。本実施の形態の制振ダンパ1は、これらの目標点Pfに固定され、目標点Ppを振動吸収材31で押さえることができる。
【実施例】
【0064】
制振ダンパ、制振装置、制振ダンパの取り付け方法、及び制振方法の実施の形態を創作した発明者は、その効果を確認するために実験を行なった。
【0065】
(1)実験装置
図5に示すように、実験装置は、平板形状のSPHC鋼板を対象物Oに見立て、等間隔で縦横に平行に配列した複数本の仮想線によって生ずるセルの交点のそれぞれを測定点として、これらの測定点に生ずる振動を加速度センサ101によって計測し得るように構成した。
【0066】
このとき測定点のそれぞれに加速度センサ101を配置するのではなく、対象物Oの中央部分に配置した一つの加速度センサ101によって、すべての測定点に生ずる振動を計測できるように計画した。そのための構成として、すべての測定点に点状のマーキングMを施した。マーキングMの位置をインパルスハンマ102で殴打したときに対象物Oに生ずる振動を加速度センサ101で採取することで、すべての測定点に生ずる振動と等価の振動のデータを得る試みである。
【0067】
実験装置はさらに、加速度センサ101の真上にマイク103を設置し、インパルスハンマ102で対象物Oを殴打したときの音響を採取できるようにしている。
【0068】
(2)振動と音響
【0069】
図6(A)に示すグラフは、対象物Oに振動が生じたときの周波数応答関数を示している。
図6(A)のグラフを得るには、測定点として対象物Oに付与したマーキングMの位置をインパルスハンマ102で殴打する。このときの加速度センサ101の出力に基づいて周波数応答関数を計算する。すべてのマーキングMの位置を殴打したときの周波数応答関数を重ね合わせることで、
図6(A)に示すグラフが得られる。
【0070】
図6(B)に示すグラフは、対象物Oに振動が生じたときの周波数応答関数を示している。
図6(B)のグラフを得るには、測定点として対象物Oに付与したマーキングMの位置をインパルスハンマ102で殴打する。このときマイク103から拾った音響信号に基づいて周波数応答関数を計算する。すべてのマーキングMの位置を殴打したときの周波数応答関数を重ね合わせることで、
図6(B)に示すグラフが得られる。
【0071】
図6(A)と(B)とを比較すると、加速度センサ101の出力から得た加速度とマイク103の出力から得た音響との間で、ピーク周波数が一致していることがわかる。このことは対象物Oに振動が発生したとき、この振動が空気を伝播して空気伝播音が発生することを示しており、
図6(A)(B)のグラフは、対象物Oの生じた振動とこれに基づく空気伝播音とが対応していることを証明している。したがって
図6(A)(B)に示される実験結果は、振動を減衰させることで空気伝播音の低減を図り得る一つの証拠となる。
【0072】
(3)振動低減効果の確認
図7は、
図6(A)に示すグラフ中で、ピーク波形が現れている105Hz、139Hz、280Hz、291Hz、361Hz、そして675Hzを文字で表記したグラフである。
図8(A)~(F)は、ピーク波形が現れる上記周波数、つまり固有振動数での対象物Oの振動モードを示す模式図である。
図8(A)~(F)に示す模式図を参照することで、ピーク波形が現れている個々の固有振動数ごとに、振動の振幅の形状と大きさが一目瞭然である。
【0073】
そこで発明者は、特定の固有振動数における固有モードでの振幅が異なる対象物O上の二以上の目標点Pを定め、
図9に示すように、その位置に制振ダンパ1を取り付けた試作品を製作した。制振ダンパ1の取り付けは、相対的に振幅が小さい位置(目標点Pf)にアーム11を固定し、相対的に振幅が大きい位置を押えるように振動吸収材31を位置づけて行なった。
【0074】
こうして制振ダンパ1を取り付けた対象物Oに対して、マーキングMの位置を再度インパルスハンマ102で殴打し、
図6(A)と同様のグラフを作成した。その結果が
図10(B)に示すグラフである。
図10(A)に示すグラフは、
図10(B)との比較のために示す
図6(A)と同じグラフである。
【0075】
その結果発明者は、制振ダンパ1がないときには280Hzと291Hzとに現れていたピーク波形(
図10(A)参照)の振幅が、制振ダンパ1を設けることで低減していることも確認した。
【0076】
以上の実験結果から、対象物Oに制振ダンパ1を取り付けることで、対象物Oに生ずる振動の振幅が小さくなることが証明された。これによって空気伝播音の低減も図り得ることが立証された。
【0077】
また発明者は、
図11(A)(B)に示すように、アーム11が固定される目標点Pfと振動吸収材31が押し付けられる目標点Ppとを、二つの周波数(291Hzと675Hz)との間で逆位相となる位置に定めたことによっても、対象物Oに生ずる振動の振幅が小さくなることを確認した。
図10(B)に示すように、振動の振幅が減少しているのは、675Hzの周波数である。
【0078】
さらに発明者は、
図12に示すように、制振ダンパ1に質量体41を設けた試作品を作成し、
図9に示す試作品(質量体なし)のときと同様の実験を繰り返した。その結果
図13(A)(B)に示すように、さらなる振動低減効果を確認した。
【0079】
図13(A)に示すグラフは、制振ダンパ1なしの構成での実験結果、
図13(B)に示すグラフは、
図12に示す試作品を用いた実験結果をそれぞれ示しており、いずれも139Hz付近における各測定点(マーキングM)の周波数応答関数を示している。
【0080】
図13(A)に示す制振ダンパ1なしの構成では、105Hzと139Hzとに二つのピーク波形が現れている。これに対して
図13(B)の制振ダンパ1及び質量体41ともにありの試作品では、139Hzのピーク波形は二つに分割され(120Hzと150Hzとの)、しかもその振幅が小さくなっている。
【0081】
以上の実験結果から、対象物Oに質量体41つきの制振ダンパ1を取り付けることで、特定の周波数領域において、対象物Oに生ずる振動の振幅がさらに小さくなることが証明された。これによって空気伝播音の低減もさらに図り得ることが立証された。
【符号の説明】
【0082】
1 制振ダンパ
2 制振装置
11 アーム
12 自由端
13 固定端
14 屈曲部
21 固定ネジ
31 振動吸収材
41 質量体
51 スペーサ
P 目標点
Pf 目標点
Pp 目標点
O 対象物
M マーキング
101 加速度センサ
102 インパルスハンマ
103 マイク