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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】エアバッグ用当て布
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20231115BHJP
   B60R 21/232 20110101ALI20231115BHJP
   D03D 1/02 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B60R21/235
B60R21/232
D03D1/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022531878
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2021022882
(87)【国際公開番号】W WO2021256510
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020103692
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】壁谷 拓海
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-240789(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042728(WO,A1)
【文献】特開2001-277970(JP,A)
【文献】特開2008-25089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/02
B60R 21/232
B60R 21/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグの本体布に付帯するエアバッグ用当て布であって、
前記エアバック用当て布は織物であり、
前記織物が以下の式:
=E/(T×F)×1000
=E/(T×F)×1000
{式中、Eは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)におけるブロック及び刃物の運動エネルギー(J)であり、Tは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における経糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、Fは、織物を構成する経糸繊度(dtex)であり、Tは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における緯糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、そしてFは、織物を構成する緯糸繊度(dtex)である。}で表される動的引裂特性PおよびPのうち少なくとも1つが0.8以上である、エアバッグ用当て布。
【請求項2】
前記エアバッグ用当て布のTとTの比が、T及びTのうち小さいほうを大きいほうで除算したとき、0.94以下である、請求項1に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項3】
前記エアバッグ用当て布が以下の式:
CF=(D×√F
CF=(D×√F
{式中、Dは、2.54cmあたりの経糸本数(経糸密度)であり、Fは、織物を構成する経糸繊度(dtex)であり、Dは、2.54cmあたりの緯糸本数(緯糸密度)であり、Fは、織物を構成する緯糸繊度(dtex)である。}で表される経カバーファクターCFと緯カバーファクターCFの比が、CF及びCFのうち小さいほうを大きいほうで除算したとき、0.30以上0.80以下である、請求項1または2に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項4】
前記エアバッグ用当て布の経カバーファクターCFと緯カバーファクターCFとの和が1500以上2200以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項5】
前記エアバッグ用当て布を構成する経糸と緯糸の総繊度が、ともに210dtex以上550dtex以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項6】
前記エアバッグ用当て布の滑脱抵抗が経緯ともに10N以上400N以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項7】
前記エアバッグ用当て布の目付が220g/m以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項8】
前記エアバッグ用当て布の引裂強度の経緯比が、経糸方向及び緯糸方向のうち小さいほうを大きいほうで除算したとき、0.94以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項9】
前記エアバッグ用当て布の経及び/または緯方向の引裂強度が100N以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項10】
前記エアバッグ用当て布の経及び/または緯方向の剛軟度が10N以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項11】
前記エアバッグ用当て布の経及び/または緯方向の引張伸度が10%以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布が、エアバッグ本体布の少なくとも一部を覆うように付帯させた、エアバッグ。
【請求項13】
前記エアバッグ用当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの小さいほうがエアバッグの展開方向に対して平行となるように付帯させた、請求項12に記載のエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車等の乗り物用の安全装置の一つであるエアバッグの本体布に付帯する当て布に関し、特にカーテンエアバッグの本体布に付帯することが好適な当て布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の乗り物の乗員への安全性向上の観点から、車載エアバッグの搭載率が向上している。一般的な自動車用エアバッグは、衝突を検知するセンサー、ガス発生機(インフレータ)、クッションなどから構成される。センサーが衝突を検知すると、インフレータが作動し、発生するガスによってクッションが瞬時に膨張(展開)することで、乗員を衝撃から守ることができる。
【0003】
このような自動車用エアバッグとしては、運転席や助手席の前面部に装着され、主に乗り物の正面衝突による衝撃から乗員を保護するドライバーエアバッグやパッセンジャーエアバッグの他、主に乗り物の側面衝突による衝撃から乗員を保護するサイドエアバッグや、乗員の脚部を保護するニーエアバッグ等、衝突の種類や乗員の位置に応じた様々なエアバッグが開発されている。
【0004】
主に側面衝突による衝撃から乗員を保護するカーテンエアバッグは、例えば自動車のルーフレールに沿ってフロントピラー側からリアピラー側までの領域に収納され、衝突感知時にサイドガラスに沿うようにカーテン状に膨張展開するように設計されている。カーテンエアバッグでは、展開時に乗員頭部とガラスの間に瞬間的に入り込んで頭部を守る必要があるが、衝突による一次的な衝撃(ファーストインパクト)だけでなく、車体の側転(ロールオーバー)による衝撃を抑制したり乗員の車外放出を防止するために、クッションの内圧が大きく低下しないことや、サイドガラスを覆うような保護範囲をもつクッション形状及び展開挙動等が求められてきている。
【0005】
このようなカーテンエアバッグは、収納時には例えばロール状又は蛇腹状に折りたたまれた後、基布やテープによって固定される。上記のような要求特性を満たしつつ、車内空間を広く保つために、カーテンエアバッグには優れた収納性(コンパクト性)がきわめて重要となる。
【0006】
カーテンエアバッグの展開時には、エアバッグが一方向に速い速度で展開していく際に、サイドガラスや車体内外の障害物等とクッション面が干渉し、エアバッグ本体布の表面に一方向への引裂きモードの切創が生じてしまうという課題がある。この切創が生じると、クッションの内圧保持性能が低下し、エアバッグの反力特性が著しく低下することで、エアバッグに求められる衝撃吸収性能が損なわれる可能性がある。
【0007】
特許文献1(韓国特許第10-0792423号公報)には、カーテンエアバッグのクッションの外側にプロテクターをつけることで、保護クッションの展開の時ドアガラス破片や、車体やトリムの鋭い破片が直接保護クッションに触れないようにしてクッションを保護し、側面衝突の時の乗員の頭を保護する機能を有するカーテンエアバッグを得る方法が記載されている。しかしながら、この方法はカーテンエアバッグの本体布とプロテクターの両方を車体に固定することが必要であるため、エアバッグ全体の収納性が悪化し、エアバッグの製造及び車体への取り付け時の効率が悪化するといった課題がある。
【0008】
特許文献2(特表2004-522003号公報)には、カーテンエアバッグにおける使用に適合させた布であって、少なくとも1つの被覆物、フィルム、布または層を外側表面に配することで、優れた耐摩耗性、耐破壊性およびそれらの組み合わせを有する布を得る方法が記載されている。しかし、カーテンエアバッグの展開時の、エアバッグが一方向に速い速度で展開していく際に生じる切創において最も重要な、動的な引裂きモードについては検討されていない。また、ポリウレタンエラストマー等の被覆物やフィルムをエアバッグ本体布表面に配する方法では、クッション本体布の硬さが増大することにより、収納性や展開速度の低下を招くことがある。また、クッション本体布に近接して布層を配する態様が示されているが、布層についての物性や構造については検討されていない。
【0009】
特許文献3(特開2006-62590号公報)には、クッション面に被覆材を施し、JIS L-1096(8.16.2 B法)に記載の定速伸長形破裂試験機を用いて測定した押し刃による貫通強さが5N以上となるように設計することで、エアバッグを切創から保護し、損傷、破損することなく乗員の衝撃を吸収することができる方法が記載されている。この方法の態様の一つでは、芳香族ポリアミド等の高強度繊維で構成された織物をエアバッグ本体基布に縫い合わせることで、押し刃による貫通強さを高めるとしている。しかしながら、JIS L-1096(8.16.2 B法)に記載の定速伸長形破裂試験機を用いて測定した押し刃による損傷モードは、比較的低速度の突刺モードであり、カーテンエアバッグの展開時の、エアバッグが一方向に速い速度で展開していく際に生じる切創において最も重要な、動的な引裂きモードについては検討されていない。また、耐切創性材料を塗布する方法では、クッション本体布の硬さが増大することにより、収納性の悪化を招くことがある。いずれの態様についても、耐切創性とカーテンエアバッグの収納性の両立について記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】韓国特許第10-0792423号公報
【文献】特表2004-522003号公報
【文献】特開2006-62590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、上述のような従来技術の問題点に鑑み、収納性に優れ、且つエアバッグ展開時の耐切創性にも優れた、エアバッグ用当て布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[13]に列記する。
[1]
エアバッグの本体布に付帯するエアバッグ用当て布であって、
上記エアバック用当て布は織物であり、
上記織物が以下の式:
=E/(T×F)×1000
=E/(T×F)×1000
{式中、Eは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)におけるブロック及び刃物の運動エネルギー(J)であり、Tは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における経糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、Fは、織物を構成する経糸繊度(dtex)であり、Tは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における緯糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、そしてFは、織物を構成する緯糸繊度(dtex)である。}で表される動的引裂特性PおよびPのうち少なくとも1つが0.8以上である、エアバッグ用当て布。
[2]
上記エアバッグ用当て布のTとTの比が、T及びTのうち小さいほうを大きいほうで除算したとき、0.94以下である、項目1に記載のエアバッグ用当て布。
[3]
上記エアバッグ用当て布が以下の式:
CF=(D×√F
CF=(D×√F
{式中、Dは、2.54cmあたりの経糸本数(経糸密度)であり、Fは、織物を構成する経糸繊度(dtex)であり、Dは、2.54cmあたりの緯糸本数(緯糸密度)であり、Fは、織物を構成する緯糸繊度(dtex)である。}で表される経カバーファクターCFと緯カバーファクターCFの比が、CF及びCFのうち小さいほうを大きいほうで除算したとき、0.30以上0.80以下である、項目1または2に記載のエアバッグ用当て布。
[4]
上記エアバッグ用当て布の経カバーファクターCFと緯カバーファクターCFとの和が1500以上2200以下である、項目1~3のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[5]
上記エアバッグ用当て布を構成する経糸と緯糸の総繊度が、ともに210dtex以上550dtex以下である、項目1~4のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[6]
上記エアバッグ用当て布の滑脱抵抗が経緯ともに10N以上400N以下である、項目1~5のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[7]
上記エアバッグ用当て布の目付が220g/m以下である、項目1~6のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[8]
上記エアバッグ用当て布の引裂強度の経緯比が、経糸方向及び緯糸方向のうち小さいほうを大きいほうで除算したとき、0.94以下である、項目1~7のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[9]
上記エアバッグ用当て布の経及び/または緯方向の引裂強度が100N以上である、項目1~8のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[10]
上記エアバッグ用当て布の経及び/または緯方向の剛軟度が10N以下である、項目1~9のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[11]
上記エアバッグ用当て布の経及び/または緯方向の引張伸度が10%以上である、項目1~10のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布。
[12]
項目1~11のいずれか一項に記載のエアバッグ用当て布が、エアバッグ本体布の少なくとも一部を覆うように付帯させた、エアバッグ。
[13]
上記エアバッグ用当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの小さいほうがエアバッグの展開方向に対して平行となるように付帯させた、項目12に記載のエアバッグ。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、収納性に優れ、且つエアバッグ展開時の耐切創性にも優れた、エアバッグ用当て布が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、当て布付きカーテンエアバッグ(カーテンエアバッグモジュール)の模式図である。
図2図2は、ガラス切創展開時内圧試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
本願明細書において、当て布とは、エアバッグの本体布に付帯する織物のことをいう。ここで本体布とは、インフレータから発生したガス等によって膨張する袋状の構成物であり、2枚あるいはそれ以上の布帛を組み合わせたものや、OPWと呼ばれる袋状の織物によって構成されたもの等を用いることができる。エアバッグの本体布に付帯するとは、エアバッグ本体布に直接あるいは間接的に接続される、あるいはエアバッグ本体布とともに収納される状態をいう。
【0017】
本開示のエアバッグ用当て布において、エアバッグ用織物を構成する経糸および緯糸の素材は、経済的な面からエアバッグ本体布と同一の素材が好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、高強度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、塩化ビニル系および塩化ビニリデン系繊維、ポリテトラフルオロエチレン系を含むフッ素系繊維、ポリサルフォン繊維、ポリフニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルケトン系繊維(PEEK)繊維、ポリアルキルケトン繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、高強力レーヨンを含むセルロース系繊維、アクリル系繊維、炭素繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維(Sic)繊維、アルミナ繊維などが単独あるいは組合せで用いられる。強伸度や経済的な面から合成繊維が好ましく、ポリアミド繊維やポリエステル繊維が好ましい。
【0018】
当て布を構成する経糸と緯糸は、ともに総繊度が100dtex以上750dtex以下であることが好ましく、より好ましくは150dtex以上550dtex以下、さらに好ましくは180dtex以上550dtex以下、よりさらに好ましくは210dtex以上550dtex以下、特に好ましくは210dtex以上370dtex以下である。経糸と緯糸に異なる総繊度の繊維を用いてもよい。総繊度を100dtex以上とすることで、展開及び膨張時の強力に耐えることができる。他方、総繊度を750dtex以下とすることで、織物が柔軟になり、収納性が向上し、高速展開も可能となる。
【0019】
経糸および緯糸の単糸断面の形状には特に限定はなく、円形をはじめ、三角、六角、扁平等の異型断面糸等のいずれでもよいが、強度や伸度を最大限に発揮させる点からは円断面が好ましい。
【0020】
当て布の重量(目付)は220g/m以下であることが好ましく、200g/m以下がより好ましく、180g/m以下がさらに好ましい。目付を220g/m以下とすることで、エアバッグが軽量になり、収納性も向上させることができる。当て布の目付の下限については限定されないが、50g/m以上としてよい。
【0021】
当て布の厚みは0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下がより好ましく、0.2mm以下がさらに好ましい。当て布の厚みを0.3mm以下とすることで、エアバッグの収納性を向上させることができる。当て布の厚みは耐切創性の観点からは0.1mm以上が好ましく、0.15mm以上がさらに好ましい。
【0022】
当て布は、経カバーファクターCFと緯カバーファクターCFの和CFが1500以上2200以下であることが好ましい。CFとCFは、以下の式:
CF=(D×√F
CF=(D×√F
{式中、Dは、2.54cmあたりの経糸本数(経糸密度)であり、Fは、織物を構成する経糸繊度(dtex)であり、Dは、2.54cmあたりの緯糸本数(緯糸密度)であり、Fは、織物を構成する緯糸繊度(dtex)である。}で表される。CF及びCFの和CFを2200以下とすることで、エアバッグ展開時の耐切創性に優れ、且つ収納性に優れたエアバッグを得ることができる。一方、CFを1500以上とすることで、組織をある程度密にすることができ、カッティングや縫製を行う際に組織がずれて不均一になるのを防ぐことができる。また、エアバッグの展開時に当て布に張力がかかった際に、当て布とエアバッグ本体との接続部に力がかかり、織物構造の滑脱により当て布とエアバッグ本体との接続が破壊されてしまうのを防ぐことができる。CFは、より好ましくは1600以上1950以下、さらに好ましくは1800以上1900以下である。
【0023】
当て布は、経緯カバーファクターCFとCFの比(経緯比)が0.80以下であることが好ましい。ただし、カバーファクターの経緯比は、CFとCFのうち小さいほうを大きいほうで除算することにより算出する。経緯カバーファクターCFとCFの比が0.80以下であるためには、CFとCFのうち一方が他方と比較して小さくなるように設計することが必要である。CFとCFのうち、どちらが小さくてもよいが、基布の寸法安定性の観点からはCFのほうが小さくなるように設計することが好ましい。緯糸密度を小さくすることで、経糸と緯糸のクリンプ率の差を低下させ、経緯の寸法変化の差を小さくすることができる。経緯カバーファクターCFとCFの比が0.80以下である当て布をエアバッグ本体布に付帯させることで、エアバッグ展開時の耐切創性に優れ、且つ収納性に優れたエアバッグを得ることができる。
【0024】
カーテンエアバッグの展開時には、サイドガラスや車体内外の障害物等とクッション面が干渉し、カーテンエアバッグの展開方向(すなわち鉛直方向)に切創を生じやすい。カーテン状のエアバッグ本体布に当て布を接続し、展開時の耐切創性に優れたカーテンエアバッグを得る場合、切創方向に垂直な方向のカバーファクターを増加させることにより、切創の単位長さ当たりの繊維の存在量を増加させ、繊維の破断によるエネルギー吸収を増加させることができる。また、切創方向に平行な方向のカバーファクターを減少させることにより、切創方向に垂直な方向の繊維のヤーンシフトが起こりやすくなり、切創方向に垂直な方向の繊維一本あたりの破断時のエネルギー吸収を増加させることができる。さらに、切創方向に垂直な方向のカバーファクターに対して、切創方向に平行な方向のカバーファクターを小さくすることにより、切創のエネルギーを切創方向に対して垂直な方向に散逸させ、耐切創性を向上させることができる。また、CFとCFの比を小さくすることで、繊維のヤーンシフトが起こりやすくなり、剛軟度が低下し、エアバッグの収納性を高めることができる。カーテンエアバッグは、収納時には一般的にロール状又は蛇腹状に折りたたまれるが、この時には切創方向に平行な方向の糸条に対して曲げ変形を与えることになる。切創方向に平行な方向のカバーファクターを減少させることにより、曲げ変形に対する抵抗力を減らすことができ、収納性が向上するため好ましい。経緯カバーファクターCFとCFの比は、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.70以下である。一方、取り扱い性の観点から、経緯カバーファクターCFとCFの比は0.30以上が好ましく、0.50以上がより好ましく、0,60以上がさらに好ましい。当て布の経緯カバーファクターCFとCFのうち、大きいほうの絶対値の範囲としては、上記効果を発揮するためには、900以上1300以下とすることが好ましく、950以上1250以下がより好ましく、1000以上1200以下がさらに好ましい。一方で、当て布の経緯カバーファクターCFとCFのうち、小さいほうの絶対値の範囲としては、上記効果を発揮するためには、300以上1200以下が好ましく、400以上1100以下がより好ましく、500以上1000以下がさらに好ましい。
【0025】
カーテン状のエアバッグ本体布に当て布を付帯させる場合、当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの小さいほうがエアバッグの展開方向に対して平行となるように付帯させることが、耐切創性を高めるために好ましい。当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの小さいほうがエアバッグの展開方向に対して平行となるように配することで、前述のエネルギー吸収効率を高めることができる。一方で、当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの大きいほうがエアバッグの展開方向に対して平行となるように付帯させることで、当て布に切創が発生した際に切創部近傍で当て布が波打ち、本体布との間にすき間を発生させることで、本体布を切創から守ることができる場合もある。また、当て布の目を展開方向に対してバイアス方向となるように配することもできる。当て布がエアバッグ本体布に付帯された状態において、エアバッグ本体布との接続の有無や接続の方法は特に限定されるものではなく、例えばエアバッグ本体布と当て布を縫製したり、紐や短冊状の素材で接続したり、エアバッグ本体布の展開の挙動によって押し出されるようにエアバッグ本体布とともに収納してもよい。重要なことは、エアバッグの展開時にエアバッグ本体布と車体内外の障害物等とが干渉するタイミングにおいて、エアバッグ本体布と障害物等の間に当て布が存在するように設計することである。そうすることで、障害物等によるエアバッグ本体布への切創の危害性を減少させる機能を発揮することができる。また、当て布の形状も特に限定されるものではなく、エアバッグ本体布への耐切創性の効果や収納性を考慮して設計するとよい。
【0026】
当て布は、カーテン状のエアバッグ本体布に接続する際、当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの小さいほうがエアバッグの展開方向に対して平行となるように付帯させることで、収納性に優れたカーテンエアバッグとすることができる。カーテンエアバッグを巻き付ける、または折り曲げる際に変形の加わる鉛直方向のカバーファクターを下げることで曲げ変形に対する抵抗力を減らすことができるからである。
【0027】
当て布は、以下に説明する動的引裂特性PおよびPのうち少なくとも一つが0.8以上であることに特徴がある。PおよびPのうち大きい方が0.8以上であり、小さい方は0.8以下であってもよい。PおよびPのうち少なくとも一つの値は0.85以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。また、PおよびPの上限は特に限定されないが、エアバッグ用当て布に適した柔軟かつ入手可能な素材から製造するうえでは20以下となる。
【0028】
動的引裂特性Pの値は、JIS T 8050に記載の材料の突刺及び動的引裂に対する抵抗性試験の結果から算出される。具体的には、以下の式:
=E/(T×F)×1000
=E/(T×F)×1000
{式中、Eは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)におけるブロック及び刃物の運動エネルギー(J)であり、Txは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における経糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、Fxは、該当て布を構成する経糸繊度(dtex)であり、Tyは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における緯糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、そしてFyは、該当て布を構成する緯糸繊度(dtex)である。}で表される。
【0029】
とTは、それぞれ、JIS T 8050に記載の動的引裂試験における、経糸方向と緯糸方向の引裂長の平均値(mm)である。但し、刃物保持ブロックと刃物の質量は1000gのものを使用し、ブロックを5回連続して落下させたときの平均速度から算出したブロックと刃物の運動エネルギーが6.6J~7.0Jとなるように調整する。すなわち、JIS T 8050に記載の性能水準レベル3の性能を評価する試験条件とする。また、経糸方向と緯糸方向の引裂長の測定においては、最低3個の試験片で各方向の試験を行い、各方向における平均引裂長を計算する。Eは、平均速度から算出したブロックと刃物の運動エネルギー(J)であり、6.6J~7.0Jの範囲の値をとる。
【0030】
動的引裂試験では、試験片に孔をあけることができる引裂用刃物を試験片に落下させ、試験片に鈍い引裂傷をもたらす。その際、試験片には一方向への動的な突刺モードや引裂モードが与えられる。これらの損傷モードは、カーテンエアバッグの展開時に、サイドガラスや車体内外の障害物等とクッション面が干渉した際に生じる切創のモードに近似している。
【0031】
動的引裂試験における損傷モードはカーテンエアバッグ展開時の切創モードに近似していることから、当て布を構成する繊度F及び/またはFが小さく、引裂長T及び/またはTが小さく、動的引裂特性Pの値が高いことで、収納性に優れながらも、展開時のカーテンエアバッグがサイドガラスや車体内外の障害物等と干渉した場合にも、切創によるクッションの内圧保持性能の低下を防ぎ、エアバッグに求められる衝撃吸収性能を保つことができる当て布を得ることができる。
【0032】
当て布のTまたはTの値は40mm以下であることが好ましく、30mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましい。TまたはTの値を40mm以下とすることで、エアバッグ展開時のガラス片による耐切創性を高めることができる。TおよびTの下限は特に限定されないが、エアバッグ用当て布に適した柔軟かつ入手可能な素材から製造するうえでは5mm以上としてよい。
【0033】
当て布のTとTの比(ただし、TとTのうち小さいほうを大きいほうで除算する。)は、耐切創性の観点から、0.94以下であることが好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。TとTの比を0.94以下とすることで、すなわち当て布の動的動的引裂試験における、経糸方向と緯糸方向の引裂長に異方性を持たせることにより、切創のエネルギーを方向に散逸させ、耐切創性を向上させることができる。TとTの比の下限については限定されないが、0.2以上としてよい。
【0034】
当て布の経及び/または緯方向の引裂強度は100N以上であることが好ましく、150N以上がより好ましく、200N以上がさらに好ましい。経及び/または緯方向の引裂強度の値を100N以上とすることで、エアバッグ展開時のガラス片による耐切創性を高めることができる。引裂強度の上限については限定されないが、エアバッグ用当て布に適した柔軟かつ入手可能な素材から製造するうえでは1000N以下としてよい。
【0035】
当て布の引裂強度の経緯比(ただし、経緯のうち小さいほうを大きいほうで除算する。)は0.94以下であることが好ましく、0.9以下がより好ましく、0.87以下がさらに好ましい。引裂強度の経緯比を0.94以下とすることで、当て布の経糸方向と緯糸方向の引裂強度が異方性を持ち、切創のエネルギーを引裂強度のより低い方向に散逸させ、切創方向への耐切創性を向上させることができる。引裂強度の経緯比の下限については限定されないが、0.2以上としてよい。
【0036】
当て布の経及び/または緯方向の剛軟度は10N以下であることが好ましく、経及び緯方向の剛軟度がともに10N以下であることがより好ましく、経及び緯方向の剛軟度がともに8N以下であることがさらに好ましい。剛軟度を10N以下とすることで、エアバッグの収納性を向上させることができる。剛軟度の下限については限定されないが、通常入手可能な素材から製造するうえでは1N以上となる。
【0037】
当て布の滑脱抵抗は経緯ともに10N以上400N以下であることが好ましい。滑脱抵抗を10N以上とすることで、エアバッグの展開時に当て布に張力がかかった際に、当て布とエアバッグ本体との接続部に力がかかり、織物構造の滑脱により当て布とエアバッグ本体との接続が破壊されてしまうのを防ぐことができる。当て布の滑脱抵抗は、カバーファクターを増加させることや、繊維に付着した油分を取り除くことで増加させることができる。他方、滑脱抵抗を400N以下とすることで、繊維のヤーンシフトが起こりやすくなり、切創のエネルギーを散逸させ、耐切創性を向上させることができる。当て布とエアバッグ本体との接続安定性と耐切創性を両立するために、例えば製織した当て布を水洗浄することで、繊維に付着した油分を適度に取り除くことができる。当て布の滑脱抵抗は経緯ともに30N以上300N以下がより好ましい。
【0038】
当て布の経及び/または緯方向の引張伸度は10%以上であることが好ましい。引張伸度を10%以上とすることで、エアバッグの展開時に付帯された当て布によってエアバッグ本体基布の伸長が阻害され、エアバッグの展開挙動が不安定になること、及び/又は展開速度が低下することを防ぐことができる。また、エアバッグの展開時に当て布に張力がかかりにくく、織物構造の滑脱により当て布とエアバッグ本体との接続が破壊されにくくなる。引張伸度はより好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。耐切創性の観点からは、引張伸度は100%以下が好ましい。
【0039】
当て布の生産には、例えば、エアジェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルーム、多相織機等の織機を用いることができるが、これらに限定されるものではない。製織時にはリングテンプルや全面テンプルを用いることができる。当て布の織構造は特に限定されるものではなく、平織、2/2斜子織、3/3斜子織、2/1斜子織、綾織、リップストップなどを用いることができ、それらを複合させてもよい。また、当て布の両面または片面に、エラストマーや熱可塑性樹脂をコーティングしたり、フィルムやその他被覆材をラミネーションしてもよい。耐切創性を向上させるために、当て布を複数枚重ねて使用したり、他の布帛と組み合わせてもよい。
【実施例
【0040】
次に、実施例、比較例によって本開示の実施形態を具体的に説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。尚、用いた測定方法、評価方法等は以下のとおりであった。
【0041】
(1)繊度
JIS L 1096:2010附属書Hに記載の生地から取り出した糸の見掛繊度の測定方法(A法)に準拠して測定した。但し、糸を真っすぐに張った長さの測定時の荷重は9.3mN/texとし、経糸、緯糸それぞれ連続する20本の糸を測定しその平均値を記載した。
【0042】
(2)目付、密度、厚み
目付:100mm×100mmの試料を5枚採取し、JIS L 1096:2010記載の標準状態における単位面積当たりの質量の測定方法B法(ISO法)に従って測定した。各試料の目付を測定し、その平均値を求めた。
密度:JIS L 1096:2010記載の織物の密度A法に準拠し、2.54cm四方のサンプルを5箇所採取し、各サンプルについて光学顕微鏡で構成する糸の本数を数え、その平均値を算出した。
厚み:100mm×100mmの試料を5枚採取し、JIS L 1096:2010記載の厚さB法に従って測定した。加える圧力は1kPaとし、プレッサフットには径が10.5mmのものを用いた。各試料の厚みを測定し、その平均値を求めた。
ただし、上記目付、密度及び厚みの測定において試験片の寸法が不足する場合は、可能な限り広範囲のサンプルを採取し測定してよいものとする。
【0043】
(3)カバーファクター
それぞれ以下の式を用いて計算した。
経:CF=(D×√F
緯:CF=(D×√F
経緯比:CF/CF、CF/CFのうち小さいほう
経緯計:CF+CF
{式中、Dは、2.54cmあたりの経糸本数(経糸密度)であり、Fは、織物を構成する経糸繊度(dtex)であり、Dは、2.54cmあたりの緯糸本数(緯糸密度)であり、Fは、織物を構成する緯糸繊度(dtex)である。}
【0044】
(4)引張伸度、引裂強度
JIS L 1096:2010記載の下記の方法に従って測定した。引裂強度については、経緯のうち小さいほうを大きいほうで除算し、経緯比を算出した。
引張伸度:引張強さ及び伸び率A法(ストリップ法)における伸び率
引裂強度:引裂強さA法(シングルタング法)
【0045】
(5)剛軟度
ASTM D4032―08(2016)記載の方法に従って測定した。
【0046】
(6)滑脱抵抗
ASTM D6479記載の方法に従って測定した。
【0047】
(7)動的引裂き長さT、T
JIS T 8050:2005に記載の材料の突刺及び動的引裂に対する抵抗性試験に準拠して測定した。刃物保持ブロックと刃物の質量は1000gのものを使用し、ブロックを5回連続して落下させたときの平均速度から算出したブロックと刃物の運動エネルギーは、6.6~7.0Jとなるように調整し、このときの値を運動エネルギーE(J)として記録した。二重袋織組織の膨張部が試験片の中心(刃物の突刺および引裂部)となるようにはさみでカットし、樹脂塗布面が外側にくるように試験片装着ブロックに固定した。試験は経糸方向と緯糸方向について、それぞれ、最低3個の試験片で行い、各方向における平均引裂長をT、Tとして算出した。また、経緯のうち小さいほうを大きいほうで除算し、経緯比の値とした。
【0048】
(8)動的引裂特性P、P
=E/(T×F)×1000
=E/(T×F)×1000
{式中、Eは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)におけるブロック及び刃物の運動エネルギー(J)であり、Tは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における経糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、Fは、織物を構成する経糸繊度(dtex)であり、Tは、JIS T 8050に記載の動的引裂試験(性能水準レベル3)における緯糸方向の引裂長の平均値(mm)であり、そしてFは、織物を構成する緯糸繊度(dtex)である。}
【0049】
(9)収納性(ロール径)
図1に示す形状の当て布(8)付きサイドカーテンエアバッグ(1)を以下の手順で作製した。総繊度235dtex、原糸強度8.5cN/dtex、熱水寸法変化率8.0%のナイロン66繊維を経糸と緯糸に用い、電子ジャガード装置とレピアルームを用いて図1に示す形状で容量24Lのカーテンエアバッグ本体布を製織した。次に、この生地の両面に液状シリコーン組成物を80g/mコーティングし、乾燥機内で180℃、1分間熱処理した。袋をとじる接結部の織組織は、袋織り、2/2斜子(4本)、袋織り(4本風通を含む)、3/3斜子(6本)、そして袋織りの順に変化している。二重織部の織組織は平織であり、袋の接結部の外側で膨張しない部分は袋織の二重織を1%ほど部分接結した。図1に示すように、当て布がエアバッグの鉛直方向の長さ600mm、水平方向の長さ1000mmで示す部分の片面を覆うように、当て布を上下の縫製部(9)で縫製することによりエアバッグ本体布に固定した。得られた当て布付きカーテンエアバッグを鉛直方向にロール状に巻き付け、テープで固定した。このときのロールの5箇所の周長を巻き尺で測定し、その平均値を円周率で割ることでロール径を算出した。ロール径が22mm未満の場合をA、22mm以上25mm未満の場合をB、25mm以上28mm未満の場合をC、28mm以上の場合をDとして評価した。
【0050】
(10)ガラス切創 展開時内圧
図1に示す形状の当て布(8)付きサイドカーテンエアバッグ(1)を鉛直方向にロール状に巻き付け、テープで固定した。インフレータ取付部(3)に2.0molのハイブリッドインフレータを取り付け、カーテンエアバッグモジュールとした。このモジュールを用いて、インパクター試験を行った。すなわち、図2に模式的に示すように、エアバッグモジュールの展開に合わせて、インパクターヘッド(11)と呼ばれる物体を以下の条件で衝突させることにより、実車での衝突挙動を模擬した。インパクターヘッドには4.5kgのものを使用し、ヘッドスピードは24km/hrとした。インパクトタイミングは、インフレータ作動後30ミリ秒後となるようにし、インパクトポイントは、エアバッグ展開時の図1の+印の部分(7:保護エリア中心部位)とした。モジュール位置に対してインパクターヘッドと逆側には、エアバッグの展開に沿うようにボード(14)を設置し、インパクトポイントの部分にはガラスの破片を模した治具として、ツボサン株式会社製の鬼目ヤスリ(13)(平タイプ、目粗さ10cuts/cm、長さ250mm×幅25mm×厚み6mm)を鉛直方向に取り付けた。ヤスリの位置はインパクトポイントにヤスリの中心がくるようにし、クッション接触面に鬼目側がくるように向け、ヤスリの盤面(谷部)とボードの面が同一平面上になるように固定した。展開時の内圧の測定は、エアバッグ展開時の図1の+印の部分とした。通常の手順でインパクター試験を実施し、展開後1000ミリ秒経過後のクッションの内圧が、30kPa以上の場合をA、25kPa以上30kPa未満の場合をB、15kPa以上25kPa未満の場合をC、15kPa未満の場合をDとした。
【0051】
(11)縫製部滑脱
(10)の試験実施後、当て布とエアバッグ本体布の縫製部の滑脱の度合いを3段階で評価した。ダメージが見られなかった場合をB、当て布の組織が緩み、部分的に滑脱が起こっている場合をC、当て布がエアバッグ本体布から外れてしまっている部分がある場合をDとした。
【0052】
(12)総合点
(9)~(11)の結果においてAを3点、Bを2点、Cを1点、Dを0点として、各項目の点数の積を総合点として表した。
【0053】
[実施例1]
原糸強度8.5cN/dtex、熱水寸法変化率8.0%のナイロン66繊維を経糸と緯糸に用い、経糸密度に対して緯入れ本数を少なくし、ウォータージェットルームを用いて平織の織物を製織した。次に、この生地を80℃の温水で洗浄し、シリンダーロールで乾燥させた。この織物を構成する繊維の総繊度は205dtexである。実施例1にて得られた織物の経/緯密度、および織物特性を表1に示す。
【0054】
[実施例2~4、比較例1]
原糸強度8.5cN/dtex、熱水寸法変化率8.0%のナイロン66繊維を経糸と緯糸に用い、経糸密度に対して緯入れ本数を少なくし、ウォータージェットルームを用いて平織の織物を製織した。次に、この生地を80℃の温水で洗浄し、シリンダーロールで乾燥させた。この織物を構成する繊維の総繊度は235dtexである。実施例2~4、比較例1にて得られた織物の経/緯密度、および織物特性を表1に示す。
【0055】
[実施例5、6、比較例2、4、5]
原糸強度8.5cN/dtex、熱水寸法変化率8.0%のナイロン66繊維を経糸と緯糸に用い、経糸密度に対して緯入れ本数を少なくし、ウォータージェットルームを用いて平織の織物を製織した。次に、この生地を80℃の温水で洗浄し、シリンダーロールで乾燥させた。この織物を構成する繊維の総繊度は470dtexである。実施例5、6、及び比較例2、4、5にて得られた織物の経/緯密度、および織物特性を表1に示す。
【0056】
[比較例3]
原糸強度8.5cN/dtex、熱水寸法変化率8.0%のナイロン66繊維を経糸と緯糸に用い、経糸密度に対して緯入れ本数を同等となるようにし、ウォータージェットルームを用いて平織の織物を製織した。次に、この生地を80℃の温水で洗浄し、シリンダーロールで乾燥させた。この織物を構成する繊維の総繊度は700dtexである。得られた織物の経/緯密度、および織物特性を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
[実施例7]
実施例1で得た織物をカーテンエアバッグ本体布の作製の項で得られたカーテンエアバッグ本体布の片面に、図1に示す位置に1400dtexの縫い糸を用いて45針/10cmの運針数で1列の本縫いで縫製し、当て布とした。この時、当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの小さいほう(緯方向)がエアバッグの展開方向に対して平行となるように取り付けた。この当て布付きカーテンエアバッグに、図1の符号4に示すようにインナーチューブを挿入し、展開ガスをリア端のガス供給口からフロント膨張部とリア膨張部へ誘導するようにした。インナーチューブはポリアミド6・6繊維700dtex/105fによる経緯41×41本/2.54cmの平織り布で、25g/mのシリコーンコーティング布を用いた。この布をガス供給口が装入できるような口径で筒状にバイアス縫製した。縫製は1400dtexの縫い糸で、45針/10cmの運針数で1列の本縫いでおこなった。インナーチューブの先端は開口であり、さらに、縫製部を上側として、リア膨張部のガス供給の切り欠き口を下側に向けて設けた。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性に非常に優れ、展開時の耐切創性は普通であり、縫製部の滑脱もなかった。
【0059】
[実施例8]
実施例2で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性に非常に優れ、展開時の耐切創性は普通であり、縫製部の滑脱もなかった。
【0060】
[実施例9]
実施例3で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性に非常に優れ、展開時の耐切創性が良好であり、縫製部の滑脱もなかった。
【0061】
[実施例10]
実施例4で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性に非常に優れ、展開時の耐切創性が良好であり、縫製部の滑脱もなかった。
【0062】
[実施例11]
実施例5で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性に優れ、展開時の耐切創性が非常に良好であり、縫製部の滑脱もなかった。
【0063】
[実施例12]
実施例6で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、当て布の組織が緩み、部分的に滑脱が起こったものの、収納性に優れ、展開時の耐切創性が非常に良好であった。
【0064】
[比較例6]
比較例1で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性に優れ、縫製部の滑脱はなかったものの、展開時の耐切創性が悪かった。
【0065】
[比較例7]
比較例2で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、展開時の耐切創性は普通で、縫製部の滑脱はなかったものの、収納性が悪かった。
【0066】
[比較例8]
比較例3で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、展開時の耐切創性が非常に良好で、縫製部の滑脱はなかったものの、収納性が悪かった。
【0067】
[比較例9]
比較例4で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、縫製部の滑脱はなかったものの、収納性も展開時の耐切創性も普通であった。
【0068】
[比較例10]
比較例5で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性に優れているが、展開時は普通であり、縫製部の滑脱が発生した。
【0069】
[実施例11]
実施例5で得た織物を用いて、実施例7と同様の方法にてカーテンエアバッグの評価を行った。ただし、当て布をエアバッグ本体布に取り付ける際、当て布の経方向と緯方向のうちカバーファクターの大きいほう(たて方向)がエアバッグの展開方向に対して平行となるように取り付けた。得られたカーテンエアバッグの特性は表2に示す通りであり、収納性や、展開時の耐切創性は普通であり、縫製部の滑脱もなかった。
【0070】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示のエアバッグ用当て布を、エアバッグの本体布に付帯することにより、収納性に優れ、且つエアバッグ展開時の耐切創性にも優れたエアバッグを提供することができる。特に、人体を側面から保護するカーテンエアバッグに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 サイドカーテンエアバッグ
2 シーム部(袋境界部)
3 インフレータ取付部
4 インナーチューブ
5 開口部
6 接合部
7 保護エリアの中心部
8 当て布
9 当て布とエアバッグ本体布の縫製部
11 インパクターヘッド
12 サイドカーテンエアバッグ取付け部
13 ヤスリ
14 ボード
図1
図2