IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電池株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-鉛蓄電池用集電板、鉛蓄電池 図1
  • 特許-鉛蓄電池用集電板、鉛蓄電池 図2
  • 特許-鉛蓄電池用集電板、鉛蓄電池 図3
  • 特許-鉛蓄電池用集電板、鉛蓄電池 図4
  • 特許-鉛蓄電池用集電板、鉛蓄電池 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用集電板、鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/74 20060101AFI20231115BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20231115BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
H01M4/74 D
H01M10/06 Z
H01M4/14 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022555731
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2022033957
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 蒼右
(72)【発明者】
【氏名】小野 祐太朗
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-064736(JP,A)
【文献】特開2021-103630(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056417(WO,A1)
【文献】特開2014-207087(JP,A)
【文献】米国特許第4279977(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/73-4/74
H01M 4/14
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠骨の内側に複数本の内骨が形成されている格子状部と、前記枠骨の外側に連続する耳部と、を備えた鉛蓄電池用集電板であって、
圧延基板を厚さ方向に打ち抜き加工することで形成され、
前記内骨は、当該内骨の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が当該内骨の幅方向における中央部と両方の端部とで異なり、前記中央部の前記縞が前記両方の端部の前記縞に連続する層状の圧延組織を有し、
前記両方の端部の前記縞は、前記厚さ方向の一方から他方に湾曲しながら前記中央部に向かう湾曲線であり、
前記幅方向における前記端部の中央位置で前記内骨の前記厚さ方向の六等分線L1~L5と交差する前記湾曲線W1~W5の前記六等分線L1~L5との交点P1~P5における接線T1~T5と、前記六等分線L1~L5と、がなす角度θ1~θ5の平均値が、20°以上60°以下である鉛蓄電池用集電板。
【請求項2】
前記角度θ1~θ5の平均値が30°以上50°以下である請求項1記載の鉛蓄電池用集電板。
【請求項3】
厚さが0.7mm以上1.2mm以下であり、
前記中央部の前記縞の間隔の平均値が5μm以上35μm以下である請求項1記載の鉛蓄電池用集電板。
【請求項4】
厚さが0.7mm以上1.2mm以下であり、
前記中央部の前記縞の間隔の平均値が5μm以上20μm以下である請求項1記載の鉛蓄電池用集電板。
【請求項5】
交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を備え、
前記正極板は、正極活物質を含む正極合剤と、前記正極合剤が保持された格子状部を含む正極集電板と、を有し、
前記負極板は、負極活物質を含む負極合剤と、前記負極合剤が保持された格子状部を含む負極集電板と、を有し、
前記正極集電板および前記負極集電板の少なくともいずれかは請求項1~4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用集電板である鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用集電板およびこれを備えた鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な液式鉛蓄電池は、セル室を有する電槽と、セル室に収納された極板群と、セル室に注入された電解液と、電槽に固定されて前記セル室の上方を塞ぐ蓋と、を備えている。極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
【0003】
正極板は、正極活物質を含む正極合剤と、正極合剤が保持された格子状部を含む正極集電板とを有する。負極板は、負極活物質を含む負極合剤と、負極合剤が保持された格子状部を含む負極集電板とを有する。積層体は、正極板および負極板の板面を電槽の上下方向に沿わせて電槽内に配置されている。
正極集電板および負極集電板(鉛蓄電池用集電板)は、枠骨の内側に複数本の内骨が形成されている格子状部と、枠骨の外側に連続する耳部と、を有し、枠骨の外側であって耳部が連続する側とは反対側に連続する脚部を有する場合もある。
【0004】
鉛蓄電池用集電板としては、圧延基板を厚さ方向に打ち抜き加工することで形成された集電板があり、この集電板の内骨は層状の圧延組織を有する。層状の圧延組織を有する集電板では、内骨の外周に露出している結晶層の界面から電解液中の硫酸が浸透することが、格子状部の腐食要因の一つになっている。腐食が進行すると、格子状部の変形や格子状部表面の剥離を引き起こし、格子状部と活物質との密着性が損なわれ、活物質が格子状部から脱落し、鉛蓄電池が短寿命化する可能性がある。
【0005】
特許文献1には、鉛蓄電池用集電板の腐食による変形を抑制することが可能な技術として、繊維状の金属組織を有する格子状部の内骨において、金属組織が内骨の外周面に沿った面方向に延びる第一の外周部の長さを、金属組織が内骨の厚さ方向に延びる第二の外周部の長さよりも長く形成することが開示されている。また、この集電板を得るために、圧延基板に対して打ち抜き工程を行って得られた中間集電板に対して変形加工を行うことが記載されている。
【0006】
鉛蓄電池としては、液式鉛蓄電池以外に制御弁式鉛蓄電池が挙げられる。制御弁式鉛蓄電池は、電解液と積層体を備えた密閉構造を有し、積層体は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる。電解液は、セパレータであるガラス繊維マットに染み込ませるか、ゲル化により非流動化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-64736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の図5に、格子状部の内骨の延伸方向に垂直な断面を撮影した画像が示されているが、これを見ると、繊維状の圧延組織の層間距離が、内骨の中心から外周面に向けて狭くなっている。圧延組織の層間距離が狭くなると導電率が上がるため、内骨の外周面の腐食速度が速くなって、内骨の外周面が剥離し易くなる恐れがある。
本発明の課題は、層状の圧延組織を有する鉛蓄電池用集電板の腐食による内骨外周面の剥離を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の鉛蓄電池用集電板は、下記の構成(a)~(c)を有している。
(a)枠骨の内側に複数本の内骨が形成されている格子状部と、前記枠骨の外側に連続する耳部と、を備えた鉛蓄電池用集電板であって、圧延基板を厚さ方向に打ち抜き加工することで形成されている。
(b)前記内骨は、当該内骨の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が当該内骨の幅方向(圧延基板の厚さ方向と内骨の延伸方向の両方に垂直な方向)における中央部と両方の端部とで異なり、前記中央部の前記縞が前記両方の端部の前記縞に連続する層状の圧延組織を有する。
(c)前記両方の端部の前記縞は、前記厚さ方向の一方から他方に湾曲しながら前記中央部に向かう湾曲線である。前記幅方向における前記端部の中央位置で前記内骨の前記厚さ方向の六等分線L1~L5と交差する前記湾曲線W1~W5の前記六等分線L1~L5との交点P1~P5における接線T1~T5と、前記六等分線L1~L5と、がなす角度θ1~θ5の平均値が、20°以上60°以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鉛蓄電池用集電板は、層状の圧延組織を有する鉛蓄電池用集電板であって、鉛蓄電池の正極集電板および負極集電板の少なくともいずれかとして使用した場合に、腐食による内骨外周面の剥離が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の鉛蓄電池用集電板を示す正面図である。
図2】実施形態の鉛蓄電池用集電板を構成する内骨が有する層状の圧延組織の、横内骨の延伸方向に垂直な断面における縞の状態を示す図であって、図1のA-A断面に対応する部分の顕微鏡画像を含む説明図である。
図3】実施形態の鉛蓄電池用集電板を構成する内骨が有する層状の圧延組織の、縦内骨の延伸方向に垂直な断面における縞の状態を示す図であって、図1のB-B断面に対応する部分の顕微鏡画像を含む説明図である。
図4】縞の状態について説明するための図であって、幅方向(圧延基板の厚さ方向と内骨の延伸方向の両方に垂直な方向)における一方の端部と中央部の一部を示す模式図である。
図5】実施形態の鉛蓄電池用集電板を構成する内骨が有する層状の圧延組織の、縦内骨の延伸方向に垂直な断面における縞の状態を示す図であって、例えば図3のA部分に対応する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0013】
〔全体構成の説明〕
この実施形態の液式鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一つの極板群が収納され、電解液が注入されている。各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
【0014】
正極板は、正極集電板と正極合剤(正極活物質を含む合剤)で構成され、正極集電板は、長方形の格子状部と、格子状部から上側に突出する耳部とを有し、格子状部に正極合剤が保持されている。正極集電板については後に詳述する。負極板は、負極集電板と負極合剤(負極活物質を含む合剤)で構成され、負極集電板は、長方形の格子状部と、格子状部から上側に突出する耳部とを有し、格子状部に負極合剤が保持されている。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。この負極板が入った袋状セパレータと正極板とが交互に積層されて、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、負極板ではなく、正極板が袋状セパレータ内に収納されていても良い。
【0015】
また、各極板群は、積層体の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱を有する。正極ストラップおよび負極ストラップは、正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結している。セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップには、正極極柱および負極極柱がそれぞれ小片部を介して形成され、外部端子となる正極極柱および負極極柱と接続している。
【0016】
〔正極集電板について〕
図1に示すように、正極集電板1は、長方形の格子状部10と、格子状部10の上方から突出する耳部20を備えている。
格子状部10は、長方形の四辺をなす枠骨と、枠骨に接続されて枠骨より内側に存在する複数本の内骨と、を有する。枠骨は、格子状部10の上部に位置し、格子状部10の厚さ方向(Y方向)と電槽の上下方向に沿わせる縦方向(Z方向)とに垂直な方向である横方向(X方向)に延びる上枠骨11と、格子状部10の下部に位置し横方向に延びる下枠骨12と、縦方向に延びる一対の縦枠骨13,14と、を有する。複数本の内骨は、上枠骨11の各位置から下枠骨12側に向かう複数本の縦内骨15と、一対の縦枠骨13,14を接続する複数本の横内骨16と、を有する。
なお、格子状部10の全ての開口部17に正極合剤が充填され、格子状部10の表裏面の全面に正極合剤からなる層が存在している。つまり、格子状部10に正極合剤が保持されている。
【0017】
正極集電板1は、圧延基板を厚さ方向に打ち抜き加工することで形成されており、縦内骨15および横内骨16は層状の圧延組織を有する。縦内骨15および横内骨16が有する層状の圧延組織は、縦内骨15および横内骨16の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が、縦内骨15および横内骨16の幅方向(圧延基板の厚さ方向と各内骨の延伸方向の両方に垂直な方向)における中央部と両方の端部とで異なる。中央部の縞は、両方の端部の縞に連続する。両方の端部の縞は、厚さ方向の一方(打ち抜き加工の終点側)から他方(打ち抜き加工の始点側)に湾曲しながら、中央部に向かう湾曲線である。
【0018】
図2には、図1のA-A断面に対応する部分の顕微鏡画像が示されている。つまり、横内骨16の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が示されている。この画像から、この縞の状態が、横内骨16の幅方向(横内骨16の延伸方向Xと圧延基板の厚さ方向Yの両方に垂直な方向、圧延方向)Zにおける中央部161と両方の端部162とで異なり、中央部161の縞が両方の端部162の縞に連続していることが分かる。
また、両方の端部162の縞は、厚さ方向Yの一方(図2の上方:打ち抜き加工の終点側)から他方(図2の下方:打ち抜き加工の始点側)に湾曲しながら中央部161に向かう湾曲線であることが分かる。
【0019】
図3には、図1のB-B断面に対応する部分の顕微鏡画像が示されている。つまり、縦内骨15の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が示されている。この画像から、この縞の状態が、縦内骨15の幅方向(縦内骨15の延伸方向Zと圧延基板の厚さ方向Yの両方に垂直な方向)Xにおける中央部151と両方の端部152とで異なり、中央部151の縞が両方の端部152の縞に連続していることが分かる。
また、両方の端部152の縞は、厚さ方向Yの一方(図3の上方:打ち抜き加工の終点側)から他方(図3の下方:打ち抜き加工の始点側)に湾曲しながら中央部151に向かう湾曲線であることが分かる。
【0020】
なお、横内骨16のおよび縦内骨15の延伸方向に垂直な断面の形状は、図2および図3に示すように、打ち抜き加工の終点側(上方)の方が始点側(下方)より幅方向寸法が長い略台形となっている。この幅方向寸法の差は、打ち抜き速度が遅いほど大きくなる傾向がある。また、端部152,162の範囲は、幅方向の寸法が各端部の幅方向輪郭線の近似直線から幅方向全体の寸法の1/5となる位置までの領域と定義する。図2および図3に、中央部151,161と両方の端部152,162との境界線BLを記載している。
【0021】
図4は、図2および図3の顕微鏡画像を模式的に示した図である。図4においては、厚さ方向Yに多数存在する全ての縞ではなく一部の縞が示されている。具体的に、図4には、縦内骨15および横内骨16の端部152,162の幅方向(縦内骨15ではX方向、横内骨16ではZ方向)の中央位置(中心線Lc)で、厚さ方向Yにおける六等分線L1~L5を通る縞と、その間の縞が主に示されている。
これらの縞のうち、中心線Lc上で六等分線L1~L5を通る縞に含まれる湾曲線をW1~W5で示す。また、湾曲線W1~W5と六等分線L1~L5とがそれぞれ交差する点をP1~P5で示す。また、湾曲線W1~W5の接線T1~T5と六等分線L1~L5とがなす角度をθ1~θ5とする。そして、実施形態の正極集電板1では、角度θ1~θ5の平均値が20°以上60°以下になっている。
また、正極集電板1の厚さ(Y方向の寸法)は0.7mm以上1.2mm以下であり、中央部151,161における縞の間隔の平均値は5μm以上35μm以下になっている。
【0022】
〔正極集電板1の製造方法〕
正極集電板1は、圧延基板を厚さ方向に打ち抜き加工することで形成されている。
より具体的に、正極集電板1を製造する方法では、スラブ鋳造工程、圧延工程、打ち抜き工程をこの順に行う。
スラブ鋳造工程は、鉛、又は鉛合金からスラブを鋳造する工程である。このスラブ鋳造工程では、鉛(Pb)、又は、鉛と各種金属を混ぜ合わせた鉛合金のブロックを素材として用意して、その素材を加熱、溶融した後、相対する2つの金属ロール間に流し込む。相対する2つの金属ロールは回転しており、その金属ロールによって冷却された溶湯はスラブとなって金属ロール間から連続的に押し出される。
【0023】
スラブの素材が鉛合金である場合、カルシウム(Ca)、及びスズ(Sn)の他、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、バリウム(Ba)等の金属が鉛と混合される。混合される金属の選択、及び質量比は、耐食性、機械的強度、及び正極活物質の保持性能等を考慮して決定される。
スラブの素材は特に限定されるものではないが、Pb-Ca-Sn系合金が好ましく、例えばCaが0.02~1.0質量%、Snが0.3~1.7質量%、Alが0.005~0.04質量%、Agが0.001~0.005質量%、及び残部がPbと不可避の不純物からなる鉛合金から形成されている。
【0024】
Ca、Sn、Al、Agの成分元素を特定の範囲で添加すると、得られる鉛合金の耐食性と機械的強度の双方を向上させることが可能になる。Caの添加は正極集電板1の機械的強度を向上させる。Caの含有量が0.02質量%未満ではその効果が少なく、1.0質量%を超えると耐食性が低下する恐れがある。Snの添加は鉛合金スラブ鋳造時の溶湯の湯流れ性を向上させるとともに、正極集電板1の機械的強度を向上させる。Snの含有量が0.3質量%未満ではその効果が少なく、1.7質量%を超えると耐食性が低下する恐れがある。
【0025】
Alの添加は鉛合金スラブ鋳造時の溶湯の酸化によるCaの損失を防止し、正極集電板1の機械的強度を向上させる。Alの含有量が0.005質量%未満ではその効果が少なく、0.04質量%を超えるとAlがドロスとして析出し易くなる。Agの添加は機械的強度を向上し、特に高温での耐クリープ特性を高める。Agの含有量が0.001質量%未満ではその効果が少なく、0.005質量%を超えると含有量の増加に伴う効果の増大を期待できず、製造コストの観点から0.005質量%以下であることが好ましい。
【0026】
圧延工程は、上記スラブを圧延して鉛を主成分とする圧延シート(以下、「鉛圧延シート」と記すこともある。)を製造する工程である。この圧延工程では、上下一対の圧延ロール間を通してスラブを圧延する。
打ち抜き工程は、鉛圧延シートを厚さ方向に打ち抜いて正極集電板を得る工程である。打ち抜き工程では、正極集電板の形状となるように、プレス成型機を用いて鉛圧延シートを厚さ方向に打ち抜く。これにより、「各内骨(縦内骨および横内骨)の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が、各内骨の幅方向における中央部と両方の端部とで異なり、中央部の縞は両方の端部の縞に連続し、両方の端部の縞は、厚さ方向の一方から他方に湾曲しながら中央部に向かう湾曲線である圧延組織」が得られる。
【0027】
鉛圧延シートを打ち抜く速度が遅いほど、各内骨の幅方向における両方の端部は、厚さ方向の一方(打ち抜き加工の終点側)から他方(打ち抜き加工の始点側)に湾曲するように延びやすく、角度θ1~θ5が大きくなる傾向にある。例えば、打ち抜き速度を150spm以上270spm以下にすることで、角度θ1~θ5の平均値を20°以上60°以下に調整することができる。
内骨の延伸方向に垂直な断面における層状の圧延組織は、圧延工程において、鉛合金からなるスラブ中の結晶粒子が押し延ばされることで形成されるため、内骨の「中央部の縞の間隔」は、圧延工程におけるスラブの圧下率(圧延の加工度合い)が大きいほど小さくなる。
【0028】
よって、使用するスラブの厚さと、圧延工程におけるスラブの圧下率を適宜選定することにより、厚さが0.7mm以上1.2mm以下で、内骨の「中央部の縞の間隔」の平均値が5μm以上35μm以下である集電板を得ることができる。
なお、圧下率は、圧延前後の材料の板厚をそれぞれh1,h2とするとき、(h1-h2)/h1で算出され、百分率で表すことが多い。
【0029】
〔作用、効果〕
圧延組織を有する集電板の格子状部が腐食する原因の一つに、打ち抜き加工で生じた切断面に露出する結晶層界面から電解液中の硫酸が浸透することが挙げられる。
実施形態の正極集電板1は、縦内骨15および横内骨16が有する層状の圧延組織において、両方の端部152,162の縞が上記湾曲線であり、角度θ1~θ5の平均値が20°以上60°以下になっていることにより、打ち抜き加工で生じた切断面に露出する結晶層界面の間隔が適度に狭くなるとともに、結晶層界面から硫酸が浸透する経路が適度に長くなる。その結果、結晶層界面から硫酸が浸透しにくくなるため、格子状部10の腐食が抑制されて、内骨外周面の腐食による剥離が抑制される。
【0030】
角度θ1~θ5の平均値が20°未満であると、打ち抜き加工で生じた切断面に露出する結晶層界面の間隔が広くなり過ぎるとともに、結晶層界面から硫酸が浸透する経路が短くなる。その結果、結晶層界面から硫酸が浸透し易くなるため、格子状部の腐食(内骨外周面の腐食による剥離)を抑制する効果が不十分になる。
角度θ1~θ5の平均値が60°を超えると、結晶層界面から硫酸が浸透する経路は長くなるが、打ち抜き加工で生じた切断面に露出する結晶層界面の間隔が狭くなり過ぎることで導電率が上がる。その結果、切断面からの腐食速度が速くなるため、端部からの結晶層の剥離が生じやすくなる。
【0031】
そして、実施形態の液式鉛蓄電池によれば、正極集電板1の内骨外周面の腐食による剥離が抑制されることで、格子状部10と正極活物質との密着性が良好になって正極活物質の脱落が抑制されるため、「縦内骨15および横内骨16が有する層状の圧延組織において、両方の端部152,162の縞が上記湾曲線であり、角度θ1~θ5の平均値が20°以上60°以下になっていること」を満たさない正極集電板を備えた液式鉛蓄電池よりも寿命が長くなる。
一方、アイドリングストップ車両の液式鉛蓄電池は、燃費向上のために満充電状態にならないよう充電制御が行われ、さらに間欠的な充電が行われることにより部分充電状態で運用され、深い放電深度で使用される。このような重負荷環境下で液式鉛蓄電池を使用すると、合剤と集電板の格子状部との密着性が失われ易く、早期寿命の要因となる。
【0032】
また、最近の自動車はドライブレコーダーによる監視や、無線で自動車のソフトウェアを更新するいわゆる“OTA(Over the Air)”など停車中にもバッテリー電源を使用する機会が増えており、これからの電池には重負荷耐久性の高い電池設計が一層必要となる。
そして、本発明者等が液式鉛蓄電池の重負荷寿命を検討する中で、圧延基板を打ち抜き加工することで形成される集電板の縦内骨15および横内骨16が有する層状の圧延組織において、中央部151、161における縞の間隔が、重負荷寿命と相関していることが新たに分かった。
【0033】
具体的には、正極集電板1の厚さが0.70mm以上1.2mm以下の場合、内骨の延伸方向に垂直な断面において、中央部151、161における縞の間隔の平均値が5μm以上35μm以下(好ましくは20μm以下)となるように制御すれば、正極合剤と集電板との界面に良好な腐食層が形成され、正極合剤と集電板の格子状部との密着性が改善されて、正極合剤の剥離・脱落を抑制できることが分かった。
中央部151、161における縞の間隔が大き過ぎると、粒界腐食が生じて、正極合剤と集電板との界面が不均一に腐食するため、正極合剤と集電板の格子状部との密着性が低下する。正極集電板1の厚さが0.70mm以上1.2mm以下の場合、中央部151、161における縞の間隔の平均値を35μm以下(好ましくは20μm以下)とすることで、正極合剤と集電板との界面の腐食状態が改善され(腐食の不均一性が抑制され)て、正極合剤と集電板の格子状部との密着性を確保することができる。
【0034】
なお、中央部151、161における縞の間隔の平均値は小さいほど好ましいが、厚さが0.70mm以上1.2mm以下の正極集電板において、実際に制御可能な上記縞の間隔の下限値は5μmである。
また、正極集電板の厚さを0.70mm以上1.2mm以下とした理由は、以下の観点からである。正極集電板は、厚さが薄くなるほど強度が低下し、腐食やグロースにより変形し易くなって、電池寿命を短くする要因となる。一方、正極集電板の厚さの上限値は積層体の厚さの規格等により設定され、正極集電板を無制限に厚くすることはできない。また、正極集電板の厚さを厚くし過ぎることは、車両用鉛蓄電池の燃費向上の設計思想に反する。
【0035】
〔その他〕
上記実施形態の液式鉛蓄電池では、正極集電板1のみを、「格子状部をなす各内骨(縦内骨および横内骨)の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が、各内骨の幅方向における中央部と両方の端部とで異なり、中央部の縞は両方の端部の縞に連続し、両方の端部の縞は、厚さ方向の一方から他方に湾曲しながら中央部に向かう湾曲線であり、角度θ1~θ5の平均値が20°以上60°以下である圧延組織」を有し、且つ「集電板の厚さが0.7mm以上1.2mm以下で、中央部における縞間隔の平均値が5μm以上35μm以下である圧延組織」を有する構成としているが、負極集電板として、このような構成を備えたものを使用してもよい。
また、正極集電板および負極集電板には、極板群の積層体を電槽内に収納した際に電槽の鞍部に当接させるための脚部が、下枠骨から下に延びるように設けてあってもよい。
【0036】
なお、上記実施形態では、液式鉛蓄電池の極板群の積層体を構成する正極集電板を「格子状部をなす各内骨(縦内骨および横内骨)の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が、各内骨の幅方向における中央部と両方の端部とで異なり、中央部の縞は両方の端部の縞に連続し、両方の端部の縞は、厚さ方向の一方から他方に湾曲しながら中央部に向かう湾曲線であり、角度θ1~θ5の平均値が20°以上60°以下である圧延組織」を有するもの、または「集電板の厚さ方向の寸法が0.7mm以上1.2mm以下であり、中央部の縞の間隔の平均値が5μm以上35μm以下である圧延組織」を有するものとしているが、制御弁式鉛蓄電池の積層体を構成する正極集電板および負極集電板の少なくともいずれかを上記圧延組織を有するものとしてもよい。
【0037】
制御弁式鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池と同じ構成の積層体を備えている鉛蓄電池であるが、電解液をセパレータ(ガラスマット)に染み込ませたり、電解液をゲル化させたりすることにより、電解液が非流動化されているとともに、密閉構造となっていて、ガスを放出させる制御弁を有している点で、液式鉛蓄電池とは異なる。このような制御弁式鉛蓄電池においても、層状の圧延組織を有する鉛蓄電池用集電板を用いた場合には、集電板の腐食による内骨外周面の剥離を抑制することが求められており、正極集電板および負極集電板の少なくともいずれかを上記圧延組織を有するものとすることで、液式鉛蓄電池の場合と同様の効果が得られる。
【実施例
【0038】
〔第一実施例〕
[試験電池の作製]
サンプルNo.1~No.7の液式鉛蓄電池として、実施形態の液式鉛蓄電池と同じ構造を有するB19サイズの液式鉛蓄電池を作製した。
【0039】
〔No.1〕
<化成前の正極板および負極板の作製>
≪正極集電板の製造≫
スラブ鋳造工程、圧延工程、打ち抜き工程をこの順に行って正極集電板を製造した。
先ず、以下の方法でスラブ鋳造工程を行った。
Caが0.06質量%、Snが1.6質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金のブロックを用意し、加熱により溶融して溶湯を得た。この溶湯を相対する2つの金属ロール間に流し込み、金属ロールによって溶湯を冷却することで、厚さ14mmのスラブを得た。
次に、得られた鉛合金スラブを、上下一対の圧延ロール間に通すことで、圧下率92.1%で圧延工程を行い、幅263mm×厚さ1.1mmの圧延シートを得た。
次に、得られた圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度300spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦129mm、幅105mm、厚さ1.1mmの正極集電板を得た。
【0040】
≪その他≫
鉛合金からなる負極集電板を、一般的な材料を用い連続鋳造方式により作製した。
正極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した正極活物質を含む合剤(正極合剤)のペーストを充填し、熟成乾燥させて、化成前の正極板(正極充填板)を得た。また、負極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した負極活物質を含む合剤(負極合剤)のペーストを充填し、熟成乾燥させて、化成前の負極板(負極充填板)を得た。
セパレータとしては、多孔性ポリエチレン製の袋状セパレータで、外側に所定間隔で縦リブが形成されているものを用意して、負極充填板を袋状セパレータに収納した。この負極充填板入り袋状セパレータと正極充填板とを交互に積層することで、正極充填板4枚および負極充填板5枚有する積層体を得た。また、これと同じ積層体を6個作製した。
【0041】
次に、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用いて、得られた六個の積層体の正極充填板および負極充填板に、それぞれストラップ、中間極柱、端子極柱を形成することで、六個の極板群を得た。次に、得られた六個の極板群を、ポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ入れた。
その後、通常の方法で、隣接するセル室間の中間極柱の抵抗溶接、電槽と蓋の熱溶着を行った。次に、比重が1.250である希硫酸からなる電解液を蓋の各注液孔から各セル室内へ注入した。次に、注液孔を塞いで未化成の液式鉛蓄電池を組み立てた後、通常の方法で電槽化成を行うことで、正極充填板および負極充填板を正極板および負極板にした。
以上のようにして、No.1の液式鉛蓄電池を二体得た。
【0042】
〔No.2〕
正極集電板の製造の際に、打ち抜き工程で打ち抜き速度を270spmとした以外は、No.1と同じ方法で正極集電板を得て、これを用いて正極充填板を作製した。この正極充填板を用いた以外はNo.1と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.2の液式鉛蓄電池とした。
〔No.3〕
正極集電板の製造の際に、打ち抜き工程で打ち抜き速度を240spmとした以外は、No.1と同じ方法で正極集電板を得て、これを用いて正極充填板を作製した。この正極充填板を用いた以外はNo.1と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.3の液式鉛蓄電池とした。
【0043】
〔No.4〕
正極集電板の製造の際に、打ち抜き工程で打ち抜き速度を210spmとした以外は、No.1と同じ方法で正極集電板を得て、これを用いて正極充填板を作製した。この正極充填板を用いた以外はNo.1と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.4の液式鉛蓄電池とした。
〔No.5〕
正極集電板の製造の際に、打ち抜き工程で打ち抜き速度を180spmとした以外は、No.1と同じ方法で正極集電板を得て、これを用いて正極充填板を作製した。この正極充填板を用いた以外はNo.1と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.5の液式鉛蓄電池とした。
【0044】
〔No.6〕
正極集電板の製造の際に、打ち抜き工程で打ち抜き速度を150spmとした以外は、No.1と同じ方法で正極集電板を得て、これを用いて正極充填板を作製した。この正極充填板を用いた以外はNo.1と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.6の液式鉛蓄電池とした。
〔No.7〕
正極集電板の製造の際に、打ち抜き工程で打ち抜き速度を120spmとした以外は、No.1と同じ方法で正極集電板を得て、これを用いて正極充填板を作製した。この正極充填板を用いた以外はNo.1と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.7の液式鉛蓄電池とした。
【0045】
<角度θ1~θ5の測定>
得られたNo.1~No.7の各二体の液式鉛蓄電池のうちの一体(満充電状態)を解体して、正極集電板の角度θ1~θ5を測定した。
具体的には、先ず、正極端子極柱を有する極板群が収納されたセル室(一番目のセル室)の二つ隣のセル室(三番目のセル室)から極板群を取り出して分解し、四番目のセル室に最も近い位置に配置されていた正極板を取り出した。次に、この正極板の格子状部に保持されている正極合剤を取り除いて正極集電板のみとし、この正極集電板を洗浄した。
【0046】
次に、洗浄された正極集電板をエポキシ樹脂で包埋した後、バンドソーを用いて切断することにより、耳部に最も近い横内骨の断面(図1のA-A断面)を露出させ、この露出面を5種類の紙やすりで(番手が150、400、800、1000、1500の順に)研磨した。次に、バフ研磨した後に化学研磨することで平滑な鏡面状態にした。これにより、露出面が鏡面化された各測定試料を得た。
次に、各測定試料の鏡面化された露出面を電子顕微鏡で観察して、正極集電板の角度θ1~θ5を測定し、その平均値を算出した。その結果を表1に示す。
【0047】
[評価試験]
得られたNo.1~No.7の各二体の液式鉛蓄電池の残りの一体は、解体せずに、これを用いて以下の寿命試験を実施した。
先ず、「JIS D 5301:2019」で規定されている軽負荷寿命試験を75℃の条件で実施した。
具体的には、各液式鉛蓄電池を75℃の水槽中に静置して、放電(放電電流25.0±0.1Aで240±1秒)と充電(14.80V±0.03Vで600±1秒)を繰り返し、以下の方法で寿命判定を行った。
【0048】
上記放電および充電を480回繰り返す毎に、各液式鉛蓄電池に対して定格コールドクランキング電流で30秒間連続放電を行い、30秒目電圧を測定する。次に、30秒目電圧の測定値が7.2V以下となった時点で、上記放電および充電の繰り返しを終了する。そして、繰り返し数(サイクル数)と30秒目電圧測定値との関係を示すグラフから「30秒目電圧が7.2Vになるサイクル数」を求めて、そのサイクル数を寿命とする。なお、上記放電および充電の繰り返しは、セル室内の液体の水位が電槽に表示されている水位下限線より下がった時点で、精製水を補給しながら行った。
【0049】
また、寿命試験後に試験電池を解体し、一番目のセル室と三番目のセル室の積層体から取り出した全ての正極板について、角度θ1~θ5測定の際と同じ方法で、正極合剤の除去および洗浄を行って洗浄された正極集電板を得た。得られた各正極集電板の耳部を切り落として格子状部のみとして、その質量(寿命試験後の格子状部の質量M)を測定した。各正極集電板について、この質量Mと格子状部の設計質量M0とを用い「(M0-M)÷M0×100」により質量減少率(%)を算出した後、各正極集電板の質量減少率(内骨外周面の腐食による剥離で格子状部の質量が減少した割合)の平均値を「腐食率」として算出した。
【0050】
さらに、腐食率の平均値(%)を各鉛蓄電池の寿命(サイクル数)で除算することで、正極集電板の腐食率「腐食率(%)/サイクル数」を算出した。
これらの試験結果を正極集電板の構成とともに表2に示す。なお、「腐食率(%)/サイクル数」が小さいほど、正極集電板の腐食抑制(内骨外周面の腐食による剥離抑制)の観点から好ましく、0.0095以下の場合を「〇」、0.0095以上の場合を「×」、0.0090以下の場合を「◎」と判定した。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から以下のことが分かる。
No.1~No.7の液式鉛蓄電池は全て、正極集電板の内骨が「各内骨(縦内骨および横内骨)の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が、各内骨の幅方向における中央部と両方の端部とで異なり、中央部の縞は両方の端部の縞に連続し、両方の端部の縞は、厚さ方向の一方から他方に湾曲しながら、端部から中央部に向かう湾曲線である圧延組織」を有するものであるが、角度θ1~θ5の平均値が20°以上60°以下であるNo.2~No.6の液式鉛蓄電池では、角度θ1~θ5の平均値が10°であるNo.1および70°であるNo.7の液式鉛蓄電池と比較して、正極集電板の腐食が効果的に抑制されていた。
また、No.2~No.6の液式鉛蓄電池のうち、角度θ1~θ5の平均値が30°以上70°以下であるNo.3~No.5の液式鉛蓄電池は、正極集電板の腐食抑制効果が特に高いものであった。
【0053】
〔第二実施例〕
[試験電池の作製]
サンプルNo.8~No.16の液式鉛蓄電池として、実施形態の液式鉛蓄電池と同じ構造を有するB24サイズの液式鉛蓄電池を作製した。
【0054】
〔No.8〕
<化成前の正極板および負極板の作製>
≪正極集電板の製造≫
スラブ鋳造工程、圧延工程、打ち抜き工程をこの順に行って正極集電板を製造した。
先ず、以下の方法でスラブ鋳造工程を行った。
Caが0.06質量%、Snが1.6質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金のブロックを用意し、加熱により溶融して溶湯を得た。この溶湯を相対する2つの金属ロール間に流し込み、金属ロールによって溶湯を冷却することで、冷却することで、厚さ4mmの鉛合金スラブを得た。
【0055】
次に、得られた鉛合金スラブを、上下一対の圧延ロール間に通すことで、圧下率70.0%で圧延工程を行い、幅280mm×厚さ1.2mmの圧延シートを得た。
次に、得られた圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ1.2mmの正極集電板を得た。
【0056】
≪その他≫
鉛合金からなる負極集電板を、一般的な材料を用い連続鋳造方式により作製した。
正極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した正極活物質を含む合剤(正極合剤)のペーストを充填し、熟成乾燥させて、化成前の正極板(正極充填板)を得た。また、負極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した負極活物質を含む合剤(負極合剤)のペーストを充填し、熟成乾燥させて、化成前の負極板(負極充填板)を得た。
セパレータとしては、多孔性ポリエチレン製の袋状セパレータで、外側に所定間隔で縦リブが形成されているものを用意して、負極充填板を袋状セパレータに収納した。この負極充填板入り袋状セパレータと正極充填板とを交互に積層することで、正極充填板8枚および負極充填板8枚有する積層体を得た。また、これと同じ積層体を6個作製した。
【0057】
次に、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用いて、得られた六個の積層体の正極充填板および負極充填板に、それぞれストラップ、中間極柱、端子極柱を形成することで、六個の極板群を得た。次に、得られた六個の極板群を、ポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ入れた。
その後、通常の方法で、隣接するセル室間の中間極柱の抵抗溶接、電槽と蓋の熱溶着を行った。次に、比重が1.250である希硫酸からなる電解液を蓋の各注液孔から各セル室内へ注入した。次に、注液孔を塞いで未化成の液式鉛蓄電池を組み立てた後、通常の方法で電槽化成を行うことで、正極充填板および負極充填板を正極板および負極板にした。
以上のようにして、No.8の液式鉛蓄電池を二体得た。
【0058】
[No.9]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.9の液式鉛蓄電池とした。
正極集電板の作製時の圧延工程における圧下率を75.0%とし、厚さ1.0mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ1.0mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0059】
[No.10]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.10の液式鉛蓄電池とした。
正極集電板の作製時の圧延工程における圧下率を82.5%とし、厚さ0.7mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ0.7mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0060】
[No.11]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.11の液式鉛蓄電池とした。
スラブ鋳造工程において、No.8と同じ組成で厚さ10mmの鉛合金スラブを製造した。このスラブを圧下率88.0%で圧延し、厚さ1.2mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ1.2mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0061】
[No.12]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.12の液式鉛蓄電池とした。
スラブ鋳造工程において、No.8と同じ組成で厚さ10mmの鉛合金スラブを製造した。このスラブを圧下率90.0%で圧延し、厚さ1.0mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ1.0mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0062】
[No.13]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.13の液式鉛蓄電池とした。
スラブ鋳造工程において、No.8と同じ組成で厚さ14mmの鉛合金スラブを製造した。このスラブを圧下率92.1%で圧延し、厚さ1.1mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ1.1mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0063】
[No.14]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.14の液式鉛蓄電池とした。
スラブ鋳造工程において、No.8と同じ組成で厚さ25mmの鉛合金スラブを製造した。このスラブを圧下率95.2%で圧延し、厚さ1.2mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ1.2mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0064】
[No.15]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.15の液式鉛蓄電池とした。
スラブ鋳造工程において、No.8と同じ組成で厚さ25mmの鉛合金スラブを製造した。このスラブを圧下率96.8%で圧延し、厚さ0.8mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ0.8mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0065】
[No.16]
以下の点以外はNo.8と同じ方法で液式鉛蓄電池を二体作製し、No.16の液式鉛蓄電池とした。
スラブ鋳造工程において、No.8と同じ組成で厚さ25mmの鉛合金スラブを製造した。このスラブを圧下率97.2%で圧延し、厚さ0.7mmの圧延シートを得た。この圧延シートをプレス成型機にかけて、打ち抜き速度210spmで厚さ方向に打ち抜くことにより、縦113mm、幅105mm、厚さ0.7mmの正極集電板を得た。この正極集電板を用いて正極充填板を作製した。
【0066】
<中央部における縞間隔の平均値の測定>
No.8~No.16の各正極集電板について、図3のA部分における圧延組織の縞間隔の平均値を測定した。
具体的には、正極集電板をエポキシ樹脂で包埋した後、バンドソーを用いて切断することにより、耳部に最も近い横内骨の断面を露出させ、この露出面を5種類の紙やすりで(番手が150、400、800、1000、1500の順に)研磨した。次に、バフ研磨した後に化学研磨することで平滑な鏡面状態にした。これにより、露出面が鏡面化された各測定試料を得た。
次に、各測定試料の鏡面化された露出面のうち、横内骨の延伸方向に垂直な断面における縞の中央部の中心付近(湾曲の影響が少ない部分、図3のA部分)を、電子顕微鏡により倍率1500倍で観察して、縞の間隔を任意の20箇所で測定し、その平均値を算出した。その結果を表2に示す。なお、図5はNo.14の電子顕微鏡写真であり、この例では、図5に示す20箇所で縞の間隔を測定した。
【0067】
<角度θ1~θ5の測定>
第一実施例と同じ方法で、No.8~No.16の液式鉛蓄電池を構成する正極集電板の角度θ1~θ5を測定し、その平均値を算出した。その結果を表2に示す。
<試験および評価>
No.8~No.16の液式鉛蓄電池について、「JIS D 5301 9.5(b)」に記載の重負荷寿命試験に準拠した方法で、正極合剤の耐久性を評価した。
具体的には、満充電の鉛蓄電池に対し、先ず、周囲温度40℃の環境で、放電深度40%まで1時間で放電した後、5時間で放電容量の125%となるまで充電するサイクルを24サイクル繰り返した。次に、25サイクル目の放電を、判定放電として、終止電圧である1.75Vに達するまで行い、その後5時間で放電容量の140%となるまで充電をした。
【0068】
25サイクル経過後、鉛蓄電池を取り出し、25サイクルで減水した量と同じ量の精製水を補給した。この充放電サイクル試験を、25サイクル目の放電時の容量が鉛蓄電池の5時間率容量の50%未満となるまで行い、それまでのサイクル数を、寿命を示す値として、表2に記載した。
なお、重負荷寿命が200サイクル以上であれば長寿命であり、250サイクル以上であればより長寿命と判定できる。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、No.8~No.16の液式鉛蓄電池は全て、正極集電板の内骨が「各内骨(縦内骨および横内骨)の延伸方向に垂直な断面における縞の状態が、各内骨の幅方向における中央部と両方の端部とで異なり、中央部の縞は両方の端部の縞に連続し、両方の端部の縞は、厚さ方向の一方から他方に湾曲しながら、端部から中央部に向かう湾曲線である圧延組織」を有するものであり、角度θ1~θ5の平均値は40°であった。
また、No.8~No.16の液式鉛蓄電池を構成する正極集電板の厚さは、全て0.7mm以上1.2mm以下の範囲内にある。
【0071】
そして、表2から分かるように、No.8~No.16の液式鉛蓄電池のうち、正極集電板の中央部における縞間隔の平均値が5.2μm以上35μm以下であるNo.10~No.16の液式鉛蓄電池では、重負荷寿命が200サイクル以上であるのに対して、正極集電板の中央部における縞間隔の平均値が35μmを超えるNo.8、No.9の液式鉛蓄電池では、重負荷寿命が200サイクル未満であった。
また、No.8~No.16の液式鉛蓄電池のうち、正極集電板の中央部における縞間隔の平均値が20μm以下であるNo.10~No.16の液式鉛蓄電池は、重負荷寿命が250サイクル以上と特に高いものであった。
【符号の説明】
【0072】
1 正極集電板
10 正極集電板の格子状部
11 上枠骨
12 下枠骨
13 縦枠骨
14 縦枠骨
15 縦内骨
151 縦内骨の中央部
152 縦内骨の端部
16 横内骨
161 横内骨の中央部
162 横内骨の端部
17 開口部
20 正極集電板の耳部
A 横内骨の延伸方向に垂直な断面における縞の中央部の中心付近
BL 中央部と端部との境界線
Lc 幅方向の中心線
L1~L5 六等分線
W1~W5 湾曲線
T1~T5 湾曲線の接線
【要約】
層状の圧延組織を有する鉛蓄電池用集電板の腐食による内骨外周面の剥離を抑制する。集電板の内骨(15)は、延伸方向に垂直な断面における縞の状態が幅方向における中央部(151)と両方の端部(152)とで異なり、中央部の縞が両方の端部の縞に連続する層状の圧延組織を有し、両方の端部の縞は、厚さ方向Yの一方から他方に湾曲しながら中央部(151)に向かう湾曲線である。幅方向における端部(152)の中央位置で内骨(15)の厚さ方向の六等分線(L1~L5)と交差する湾曲線(W1~W5)の、六等分線(L1~L5)との交点(P1~P5)における接線(T1~T5)と、六等分線(L1~L5)と、がなす角度(θ1~θ5)の平均値が、20°以上60°以下である。
図1
図2
図3
図4
図5