(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-14
(45)【発行日】2023-11-22
(54)【発明の名称】車両制御システム、外界認識装置、および、車両制御方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20231115BHJP
B60W 30/08 20120101ALI20231115BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20231115BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20231115BHJP
B60W 50/00 20060101ALI20231115BHJP
G01S 13/86 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/08
B60W40/02
B60W60/00
B60W50/00
G01S13/86
(21)【出願番号】P 2022572911
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033485
(87)【国際公開番号】W WO2022145093
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020218815
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 純也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 隆
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026438(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0106844(KR,A)
【文献】特開2018-036796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60W 30/08
B60W 40/02
B60W 60/00
B60W 50/00
G01S 13/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲の物標を検知する外界認識装置と、
該外界認識装置から供給された統合情報に基づいて車載制御対象を制御する精度優先制御部と、
前記外界認識装置から供給された速報情報に基づいて車載制御対象を制御する応答優先制御部と、
を具備する車両制御システムであって、
前記外界認識装置は、
前記物標を検知し第一検知情報を出力する第一方式センサと、
前記物標を検知し第二検知情報を出力する、前記第一方式センサより検知情報の出力に要する遅延時間の大きい第二方式センサと、
前記第一検知情報および前記第二検知情報に基づいて前記統合情報および前記速報情報を生成するセンサフュージョン処理部と、
前記速報情報に基づいて前記応答優先制御部の起動指令を生成するコントローラと、
を具備
し、
前記外界認識装置は、更に分布情報生成部と検知情報選択部を有しており、
前記センサフュージョン処理部は、前記第一検知情報または前記第二検知情報を前記統合情報と同一のサンプリング時刻となるようにリサンプリングした同期後情報を生成し、
前記分布情報生成部は、前記統合情報と前記同期後情報の相関関係を求めるための分布情報を生成し、
前記コントローラは、前記分布情報に基づいて、前記統合情報と前記同期後情報の相関関係を求め、
前記検知情報選択部は、
前記相関関係が大きい場合は、前記速報情報を前記応答優先制御部に供給し、
前記相関関係が小さい場合は、前記統合情報を前記応答優先制御部に供給することを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記センサフュージョン処理部は、
同一時刻の前記第一検知情報と前記第二検知情報を出力する時刻同期処理部を有しており、
該時刻同期処理部の処理前の前記第一検知情報または前記第二検知情報を出力することで前記速報情報を生成するとともに、
前記時刻同期処理部の処理後の前記第一検知情報と前記第二検知情報を統合することで前記統合情報を生成することを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記センサフュージョン処理部は、
同一時刻の前記第一検知情報と前記第二検知情報を出力する時刻同期処理部を有しており、
該時刻同期処理部の処理後の前記第一検知情報または前記第二検知情報を出力することで前記速報情報を生成するとともに、
前記時刻同期処理部の処理後の前記第一検知情報と前記第二検知情報を統合することで前記統合情報を生成することを特徴とする車両制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記外界認識装置は、
複数の前記第一方式センサと複数の前記第二方式センサを有しており、
前記センサフュージョン処理部は、
複数の前記第一方式センサが出力した複数の前記第一検知情報を統合する第一方式内統合処理部と、
複数の前記第二方式センサが出力した複数の前記第二検知情報を統合する第二方式内統合処理部と、
前記第一方式内統合処理部と前記第二方式内統合処理部の出力を統合する方式間統合処理部と、
を更に具備することを特徴とする車両制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車両制御システムにおいて、
前記センサフュージョン処理部は、
前記第一方式内統合処理部または前記第二方式内統合処理部の出力を前記速報情報とするとともに、
前記第一方式内統合処理部と前記第二方式内統合処理部の出力を統合することで前記統合情報を生成することを特徴とする車両制御システム。
【請求項6】
請求項
1に記載の車両制御システムにおいて、
前記外界認識装置は、更に速報情報補正部を有しており、
前記分布情報生成部は、前記統合情報と前記同期後情報の回帰直線を求め、
前記速報情報補正部は、前記回帰直線の特性に基づき前記速報情報を補正した補正速報情報を生成して前記検知情報選択部に供給することを特徴とする車両制御システム。
【請求項7】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記コントローラは、前記統合情報に基づいて前
記応答優先制御部の停止指令を生成することを特徴とする車両制御システム。
【請求項8】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記第一方式センサはミリ波レーダであり、
前記第二方式センサは車載カメラであることを特徴とする車両制御システム。
【請求項9】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記応答優先制御部は、前記速報情報に基づき、第一制御処理を実行し、
前記精度優先制御部は、前記統合情報に基づき、前記第一制御処理とは異なる第二制御処理を実行することを特徴とする外界認識装置。
【請求項10】
車両の周囲の物標を検知する外界認識装置と、該外界認識装置から供給された統合情報に基づいて車載制御対象を制御する精度優先制御部と、前記外界認識装置から供給された速報情報に基づいて車載制御対象を制御する応答優先制御部と、を具備する車両における車両制御方法であって、
第一方式センサで前記物標を検知し第一検知情報を出力するステップと、
前記第一方式センサより検知情報の出力に要する遅延時間の大きい第二方式センサで前記物標を検知し第二検知情報を出力するステップと、
前記第一検知情報または前記第二検知情報を個々に出力して前記速報情報を生成するステップと、
前記第一検知情報と前記第二検知情報を統合して前記統合情報を生成するステップと、
前記速報情報に基づいて前記応答優先制御部の起動指令を生成するステップと、
前記速報情報に基づいて前記車載制御対象を制御するステップと、
を具備
しており、
前記統合情報を生成するステップでは、前記第一検知情報または前記第二検知情報を前記統合情報と同一のサンプリング時刻となるようにリサンプリングした同期後情報を生成し、前記統合情報と前記同期後情報の相関関係を求めるための分布情報を生成し、
前記起動指令を生成するステップでは、前記分布情報に基づいて、前記統合情報と前記同期後情報の相関関係を求め、前記相関関係が大きい場合は、前記速報情報を前記応答優先制御部に供給し、前記相関関係が小さい場合は、前記統合情報を前記応答優先制御部に供給することを特徴とする車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載され、自車周辺に存在する物体や人物などの位置や動きを検知し、運転者や自車システムに対して危険を回避するための情報や信号を供給する、車両制御システム、外界認識装置および車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車向けの様々な運転支援システムが開発されている。運転支援システムは、大別すると、快適性・利便性向上システムと安全システムに分類できる。快適性・利便性向上システムは、継続的で比較的単調な運転操作における運転者の負担を軽減することを狙いとしており、アダプティブクルーズコントロール(ACC)などが典型的な例である。一方の安全システムは、危機的な走行状況において運転者をサポートし、事故を回避することや、事故の影響を軽減することを目的としている。また、運転支援システムがサポートする状況が拡大する中で、車両の周囲の監視範囲(距離や視野角、対象物)を拡大するために、より多数の外界センサを搭載する動向がある。
【0003】
これに対し、複数のセンサデバイスの出力を統合して物体をより高精度に認識する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。このような技術は、センサフュージョンと称されている。一般に、センサフュージョンによって物体が認識された場合、デバイス単体の出力に基づいて物体が認識された場合に比して、認識の信頼度が高いと言えるが、信頼度が高いことの反面、センサデバイス単体の出力に基づいて物体を認識する場合に比して処理の完了が遅くなるという問題がある。
【0004】
特許文献1では、この点を考慮し、より迅速に速報的なセンサフュージョン結果を得ることができるようにすることを課題としている。例えば、同文献の要約書の解決手段欄では、車両に搭載され、物体を認識するための第1デバイスの出力に基づいて、少なくとも、処理Aを行って物体情報を出力し、処理Aに比して工数の多い処理Bを行って物体情報を出力する第1処理部と、第1デバイスと同方向を検知範囲とするように車両に取り付けられた第2デバイスの出力に基づいて、少なくとも、処理Cを行って物体情報を出力し、処理Cに比して工数の多い処理Dを行って物体情報を出力する第2処理部と、処理Aの結果として得られる物体情報と、処理Cの結果として得られる物体情報とに基づいて物体を認識する第1統合認識部と、処理Bの結果として得られる物体情報と、処理Dの結果として得られる物体情報とに基づいて物体を認識する第2統合認識部と、を備える物体認識装置が開示されている。
【0005】
一方で、センサフュージョンを行うときに参照する各センサデバイスについて、物体から位置を検出するのに要する時間がセンサデバイス間で同一とは限らない。例えば、電磁波センサと画像センサの検知結果を統合するときに、電磁波センサにより物体の位置を検出するのに要する時間が画像センサにより物体の位置を検出するのに要する時間よりも短いと、画像センサにより検出した第2位置が電磁波センサにより検出した第1位置よりも過去の時刻での物体の位置となる場合がある。このような第1位置と第2位置とを用いて物体の位置情報を算出することによる誤差を低減することができる物体検出装置、及び物体検出方法が特許文献2に開示されている。
【0006】
例えば、特許文献2の要約書の解決手段欄には、ECUは、第1位置と第2位置とに基づいて、物体の同一判定を行う物体判定部と、物体判定部により物体が同一と判定された場合に、電磁波センサが物体を検出するのに要する第1時間と、画像センサが物体を検出するのに要する第2時間との時間差に基づいて、第1位置と第2位置とが同じ時刻で検出された物体の位置となるよう第1位置及び第2位置のいずれかを補正する補正部と、第1位置及び補正後の第2位置、又は第2位置及び補正後の第1位置を用いて物体の位置情報を算出する算出部と、を備える、との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-24562号公報
【文献】特開2018-97688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、センサフュージョンを用いると、デバイス単体の出力に基づいて物体を認識する場合に比して認識の信頼度は高まるが、処理の完了が遅くなる。この処理が遅くなる要因として、特許文献2で開示された、タイミング差を補正する処理がある。
【0009】
センサフュージョンの入力とする複数のセンサデバイスの間にタイミング差があると、同一物体に対して位置を検出する時刻の違いによりセンサフュージョンの結果に誤差が生じる。これ対して特許文献2で開示された装置のように、センサデバイスごとの位置の検出結果を同じ時刻で検出された物体の位置となるように補正(以下、時刻同期と表記)する場合、センサフュージョン結果は、個々のセンサデバイスのうち最も結果を出力するまでの時間が大きいセンサデバイスよりも、さらに検知結果が得られるタイミングが遅くなる問題がある。
【0010】
特許文献1では、各センサデバイスでは認識結果の生成までの工数が異なる2つの処理部を設けるとともに、第1統合認識部と第2統合認識部の2つの統合認識部を設ける。この構成で、第1統合認識部には各センサデバイスからの認識結果のうちの工数が大きい方、第2統合認識部には工数が小さい方を割り当てることで、前者の認識結果に対して後者から速報的な認識結果が得られるとする。しかし、この構成では各センサデバイス間のタイミングが一致しないことが想定される。
【0011】
この影響による誤差を軽減するための手段として、特許文献2で開示されたようなセンサデバイス間のタイミング差を補正する時刻同期処理を適用すると、時刻同期によって生じる検知結果の出力までの遅延時間は残留する問題がある。
【0012】
一方で、後段のセンサデバイスおよびセンサフュージョンからの物体認識結果を参照して処理を行う運転支援システムに目を向けると、実行する機能によって、認識の信頼度や処理の完了までの時間への要求は一様ではない。快適性・利便性向上システムについては、安定性を確保するために、認識の信頼度と処理の完了までの時間のうち、認識の信頼度が重視される。逆に、安全システムは事故の回避などのように緊急性の大きな状況に対応するために早い応答が必要となるため、処理の完了までの時間が重視される。特に、安全システムに対しては、センサフュージョンの適用により遅延時間増加することが、弊害となり得る。
【0013】
本発明はでは上記事情を鑑み、複数の異なる運転支援機能に対して、それぞれに適合した認識結果の信頼度および生成処理の完了までの時間を有する認識結果を供給できる、車両制御システム、外界認識装置および車両制御方法を提供することを主たる目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の車両制御システムは、車両の周囲の物標を検知する外界認識装置と、該外界認識装置から供給された統合情報に基づいて車載制御対象を制御する精度優先制御部と、前記外界認識装置から供給された速報情報に基づいて車載制御対象を制御する応答優先制御部と、を具備する車両制御システムであって、前記外界認識装置は、前記物標を検知し第一検知情報を出力する第一方式センサと、前記物標を検知し第二検知情報を出力する、前記第一方式センサより検知情報の出力に要する遅延時間の大きい第二方式センサと、前記第一検知情報および前記第二検知情報に基づいて前記統合情報および前記速報情報を生成するセンサフュージョン処理部と、前記速報情報に基づいて前記応答優先制御部の起動指令を生成するコントローラと、を具備するものとした。
【0015】
また、本発明の車両制御方法は、車両の周囲の物標を検知する外界認識装置と、該外界認識装置から供給された統合情報に基づいて車載制御対象を制御する精度優先制御部と、前記外界認識装置から供給された速報情報に基づいて車載制御対象を制御する応答優先制御部と、を具備する車両における車両制御方法であって、第一方式センサで前記物標を検知し第一検知情報を出力するステップと、前記第一方式センサより検知情報の出力に要する遅延時間の大きい第二方式センサで前記物標を検知し第二検知情報を出力するステップと、前記第一検知情報または前記第二検知情報を個々に出力して前記速報情報を生成するステップと、前記第一検知情報と前記第二検知情報を統合して前記統合情報を生成するステップと、前記速報情報に基づいて前記応答優先制御部の起動指令を生成するステップと、前記速報情報に基づいて前記車載制御対象を制御するステップと、を具備するものとした。
【発明の効果】
【0016】
認識結果の生成にかかる時間による遅延量と認識結果の精度との間の優先度の異なる各々の車両制御機能に対して、より適切な検出結果を提供できるようにし、車両の安全性や利便性、快適性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】
図2のセンサフュージョン処理部の第一構成例
【
図4】
図2のセンサフュージョン処理部の第二構成例
【
図5】
図2のセンサフュージョン処理部の第三構成例
【
図8】
図7のセンサフュージョン処理部の第一の構成例
【
図9】
図7のセンサフュージョン処理部の第二の構成例
【
図10】
図7のセンサフュージョン処理部の第三の構成例
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の外界認識装置の3つの実施例について説明する。各図において同一の番号を割り当てた対象は、同一の構成要素を表すものとし、重複説明を省略する。なお、いずれの実施例も運転支援システムへの適用を例として説明するが、自動運転システムへ適用することも可能であり、同様の効果が得られる。
【実施例1】
【0019】
まず、
図1から
図6を用いて、本発明の実施例1に係る外界認識装置10を説明する。
【0020】
図1は、本実施例の外界認識装置10を搭載した車両100における、各外界センサの視野範囲Vを例示する平面図である。この車両100には、周囲の他車両、歩行者、自転車、障害物など(以下、まとめて物標と表記)を検知し、それらの相対位置、相対速度、幅等の情報(以下、まとめて検知情報と表記)を測定するセンサデバイスとして、左前に外界センサA
1を、右前に外界センサA
2を、フロントウィンドウ内面上部に外界センサBを設けている。
【0021】
外界センサA1、A2は、主に、交差点進入時等に左右から接近する車両との衝突を防止するために用いる、同方式のセンサデバイスであり、例えば、車両100の左前方の広い視野範囲VA1と、右前方の広い視野範囲VA2をカバーできるミリ波レーダである。
【0022】
また、外界センサBは、主に、進行方向遠方の歩行者や障害物(ダンボールなどの落下物)および、周辺の標識、信号機、路面にマークされた白線などの検知するために用いる、外界センサA1、A2とは異なる方式のセンサデバイスであり、例えば、車両100の前方の視野範囲VB内の物体種別や位置情報を検出可能な車載カメラ(ステレオカメラ、単眼カメラ)である。なお、外界センサBは、外界センサA1、A2に比べ、検知情報の出力に要する時間が長いものとする。
【0023】
図2は、車両100に搭載した外界認識装置10の概略構成と、外界認識装置10の出力の利用方法を説明するための図である。ここに示すように、外界認識装置10は、上記した外界センサA
1、A
2、Bに加え、センサフュージョン処理部1とコントローラ2を備えている。また、外界認識装置10の出力側には、精度優先制御部20と応答優先制御部30が設けられており、両処理部は、外界認識装置10の出力に基づいて、制御対象40を制御する。以下、各部を順次説明する。
【0024】
<制御対象40>
制御対象40は、車両100に搭載したデバイスやシステムであり、外界認識装置10の出力に基づいて運転支援や自動運転を実行する際の制御対象物である。たとえば、運転支援の内容が、危険や異常を運転者に警報するアラート機能であれば、液晶表示器やスピーカーなどが制御対象40であり、衝突回避のための減速停止機能であれば、ブレーキシステムが制御対象40である。また、運転支援が、走行中の車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止機能であれば、ステアリングシステムが制御対象40である。
【0025】
<精度優先制御部20>
精度優先制御部20は、各外界センサの検知情報への反応が多少遅延しても処理結果に与える影響が小さい制御処理を実行する処理部である。たとえば、先行車との車間距離を略一定に保ちながら追従走行するアダプティブクルーズコントロール(ACC)や、走行中に車線を逸脱することを防ぐ車線逸脱防止支援などに代表される、継続的で比較的単調な、快適性・利便性向上のための制御を実行とする、快適性・利便性向上システムが該当する。なお、精度優先制御部20は、具体的には、ECU(Electronic Control Unit)により実現されるものである。
【0026】
<応答優先制御部30>
応答優先制御部30は、各外界センサの検知情報への反応が遅延すると処理結果に与える影響が大きい制御処理を実行する処理部である。たとえば、歩行者が路上に飛び出すなど、危機的な走行状況下において運転者をサポートし、事故回避や事故影響の軽減のための制御を実行する、安全システムが該当する。なお、応答優先制御部30は、具体的には、ECU(Electronic Control Unit)により実現されるものである。
【0027】
<外界認識装置10>
上記したように、
図2の外界認識装置10は、2種3個の外界センサA
1、A
2、Bに加え、センサフュージョン処理部1、コントローラ2を備えている。
【0028】
センサフュージョン処理部1は、第一の機能として、各外界センサが取得した、同一物標に関する複数の検知情報Ia1、Ia2、Ibを統合して、単一の統合情報Iiを生成し、精度優先制御部20とコントローラ2へ供給する。また、センサフュージョン処理部1は、第二の機能として、各外界センサが取得した、同一物標に関する複数の検知情報Ia1、Ia2、Ibを個々に速報情報Ifとして、応答優先制御部30とコントローラ2に供給する。
【0029】
コントローラ2は、入力された統合情報Iiと速報情報Ifに基づいて、応答優先制御部30の起動、停止、初期化や、信号・データの流れの切り替えなどを適宜行う。コントローラ2での処理の詳細は、
図6を用いて後述する。
【0030】
<センサフュージョン処理部1の第一構成例>
図3は、センサフュージョン処理部1の第一構成例を表している。ここに例示するセンサフュージョン処理部1は、3個の外界センサA
1、A
2、Bに対応し、3個の時刻同期処理部11(11A
1、11A
2、11B)と、それらの出力を統合する統合処理部12を備えている。
【0031】
上記したように、外界センサA1、A2と外界センサBでは検知方式が異なるため、各検知情報の出力に要する時間(遅延時間)も異なる。従って、センサフュージョン処理部1に同時入力された同一物標に関する検知情報であっても、外界センサA1、A2の検知情報Ia1、Ia2と、外界センサBの検知情報Ibでは、物標の検知時刻が異なっており、各検知情報が示す同一物標の相対位置や相対速度などは一致しない。
【0032】
このため、まず、時刻同期処理部11A1、11A2、11Bでは、外界センサA1、A2、Bから得られる異なる検知時刻の検知情報Ia1、Ia2、Ibのデータ列から、同一の時刻における検知対象のデータ列の値をリサンプリングする処理(以下、時刻同期処理と表記)を行う。このときのリサンプリング後の時刻は、後段の統合処理部12の処理タイミングと同一になるように定めると、統合処理部12の処理を行いやすい。たとえば、目標とする時刻の前後の処理前のデータから内挿することで時刻同期処理を実施する。以降では、時刻同期処理により得たデータを同期後情報Isと表記する。
【0033】
次に、統合処理部12では、時刻同期処理部11A1、11A2、11Bのそれぞれの同期後情報Isから互いに同一時刻の検知情報を表すものを選択し、これに基づき、同一の検知対象物に対するデータをグルーピングするとともに、グループごとに統合情報Iiを求める。この処理には、αβフィルタやカルマンフィルタなどが適用可能であり、一般に前段の検知情報や同期後情報Isよりも信頼性の高い検知結果が得られる。統合処理部12における1ステップの処理を行うためには、そのステップで処理対象とする時刻について、統合するすべてのセンサからの同期後情報Isが得られている必要がある。このため、統合情報Iiは、時刻同期処理部11A1、11A2、11Bのうち、最も遅延量が大きいもの以上の遅延量が与えられる。このように、統合情報Iiは、統合前の個々の検知情報Ia1、Ia2、Ibよりも信頼性が高いが、統合前のいずれの検知情報よりも大きな遅延量を有する。従って、統合情報Iiは、遅延が処理結果に与える影響の小さい精度優先制御部20での利用に適した情報となる。
【0034】
また、
図3のセンサフュージョン処理部1では、時刻同期処理部11A
1、11A
2、11Bの前段の検知情報Ia
1、Ia
2、Ibを個々にそのまま速報情報Ifとして出力している。この構成では、速報情報Ifは統合情報Iiよりも、各時刻同期処理部で行う内挿処理と、統合処理部12の処理で統合処理対象のうち最も遅延量が大きいものに律速されて加わる遅延量の分だけ早いタイミングで結果を得られる。従って、速報情報Ifは、統合情報Iiに比べ、遅延が処理結果に与える影響の大きい応答優先制御部30での利用に適した情報となる。
【0035】
<センサフュージョン処理部1の第二構成例>
図4はセンサフュージョン処理部1の第二構成例を表している。
図3では、時刻同期処理部11の処理前の検知情報を速報情報Ifとして出力したが、
図4のセンサフュージョン処理部1では、時刻同期処理部11の処理後の同期後情報Isを速報情報Ifとして出力する。この場合、速報情報Ifは、統合情報Iiよりも、統合処理部12の処理で統合処理対象のうち最も遅延量が大きいものに律速されて加わる遅延量の分だけ早いタイミングで結果を得られるので、
図4においても、速報情報Ifは、統合情報Iiに比べ、遅延による影響が大きい応答優先制御部30での利用に適した情報となる。
【0036】
<センサフュージョン処理部1の第三構成例>
図5はセンサフュージョン処理部1の第三構成例を表している。
図2では、2種3個の外界センサA
1、A
2、Bを利用した外界認識装置10を例示したが、外界認識装置10で利用する外界センサの種数数や、各外界センサの個数はこの例に限定されない。
【0037】
例えば、
図5に示すように、A方式の外界センサ(例えば、ミリ波レーダ)をX個、B方式の外界センサ(例えば、車載カメラ)をY個、C方式の外界センサ(例えば、LiDAR)をZ個備える場合は、これらの外界センサの検知情報から、速報情報Ifと統合情報Iiを生成できるセンサフュージョン処理部1の構成とすれば良い。
【0038】
上記したように、検知情報を生成するために要する処理時間はセンサ方式に依存するが、方式が同一であり処理時間が同等のものを統合すれば、統合に伴う遅延量が小さい中間的な統合情報Ii
A~Ii
Cを方式毎に求めることができ、その中間的な統合情報Ii
A~Ii
Cを速報情報Ifとして出力することができる。また、中間的な統合情報Ii
A~Ii
Cをさらに統合することで、最終的な統合情報Iiを得ることができる。従って、
図5に例示する構成では、中間的な統合処理によって検知精度を改善しつつ、最終的な統合処理を行うことで加わる遅延量を比較的小さく抑えた速報情報Iiを得ることができるようにしている。以下、
図5の構成を詳細に説明する。
【0039】
図5において、外界センサA
1~A
Xは何れもA方式のセンサであり、各センサで検知情報の生成に要する時間は略同等である。これら外界センサA
1~A
Xに対しては、センサ方式内時刻同期部13A
1~13A
Xと、センサ方式内統合処理部14Aが設けられている。センサ方式内時刻同期部13A
1~13A
Xは、外界センサA
1~A
Xからの検知情報に対して時刻同期処理を施し、同一時刻に対応する同期後情報Isを生成する。センサ方式内統合処理部14Aでは、これらの同期後情報Isを統合し、外界センサA
1~A
Xに対する統合情報(以下、A方式統合情報Ii
Aと表記)を生成する。
【0040】
同様に、B方式の外界センサB1~BYに対しては、センサ方式内時刻同期部13B1~13BYとセンサ方式内統合処理部14Bが設けられており、C方式の外界センサC1~CZに対しては、センサ方式内時刻同期部13C1~13CZとセンサ方式内統合処理部14Cが設けられている。そして、センサ方式内統合処理部14BでB方式統合情報IiBを生成し、センサ方式内統合処理部14CでC方式統合情報IiCを生成する。
【0041】
図5のセンサフュージョン処理部1では、このようにして得られた、A方式統合情報Ii
A、B方式統合情報Ii
B、C方式統合情報Ii
Cを個々に速報情報Ifとして出力する。この速報情報Ifは、センサ方式内の中間的な統合処理によって信頼性が向上している。さらに、遅延量が同等の検知情報同士を統合していることから、統合にデータのサンプリング時刻を揃えるための遅延の増加量を、異なる方式のセンサ間での統合と比較して小さくできる。従って、
図5の速報情報Ifは、応答優先制御部30で利用することを想定して生成された速報性を優先した情報でありながら、信頼性の改善も図られている。
【0042】
また、センサ方式間時刻同期部15A、15B、15Cは、それぞれ、A方式統合検知情報Ii
A、B方式統合検知情報Ii
B、C方式統合検知情報Ii
Cに対して時刻同期処理を施し、同一の時刻に対する検知情報にリサンプリングする。これらをセンサ方式間統合処理部16で統合し、方式A、B、Cの各方式間を統合した最終的な統合情報Iiを得る。以上のように、
図5に示したセンサフュージョン処理部1の第三構成例では、中間的な統合処理によって検知精度を改善しつつ、遅延量を小さく抑えた速報情報Ifを得ることができる。
【0043】
<応答優先制御部の起動と停止の処理フロー>
図6は、コントローラ2による応答優先制御部30の起動と停止の処理フローの一例である。ここでは、精度優先制御部20が常時起動しているのに対し、応答優先制御部30は、直近に危険が生じるおそれが大きいと判断される場合にのみ起動するものとする。また、応答優先制御部30の起動遅延を低減するために、応答優先制御部30の起動の要否の判断には速報情報Ifを参照するものとする。
【0044】
まず、ステップS1では、コントローラ2は、センサフュージョン処理部1から入力された速報情報Ifに基づいて、各外界センサで検知した物標(他車両、歩行者、自転車、障害物など)が自車に衝突する可能性があるかを判断する。たとえば、自車の周囲に対象物の幅を加えた領域に対して、対象物の相対位置から相対移動方向で進行した場合の軌跡が重なればYesと判断できる。誤差を見込む場合は、重ならなくとも、衝突するとみなす角度範囲と相対移動方向との角度差が一定の範囲内に収まっていれば衝突する可能性がある(Yes)と扱ってもよい。そして、衝突可能性があればステップS2に進み、衝突可能性がなければステップS1に戻る。
【0045】
次に、ステップS2では、コントローラ2は、衝突可能性のある物標の相対位置、相対速度に基づいて、相対距離の移動にかかる時間を演算し、基準とする時間以下の場合にYesとする。そして、衝突までの時間が基準時間より短い場合はステップS3に進み、衝突までの時間が基準時間より長い場合はステップS1に戻る。
【0046】
ステップS3では、コントローラ2は、応答優先制御部30に起動指令を送信し、応答優先制御部30を起動する。これにより、応答優先制御部30は、必要に応じて、液晶表示器やスピーカーを介して運転者に衝突可能性を警報したり、ブレーキシステムを操作して自車を停止させたりすることができる。
【0047】
ステップS4では、コントローラ2は、センサフュージョン処理部1から入力された統合情報Iiに基づいて、衝突可能性が解消したかを判断する。そして、衝突可能性が解消すればステップS5に進み、衝突可能性が解消しなければステップS4に戻る。なお、このステップでは、ステップS1と同様の方法を利用して、検知した物標が自車に衝突する可能性を判断するが、ステップS1、S2での判断に比べて即応性は必要ないため、遅延の少ない速報情報Ifではなく、より精度の高い統合情報Iiを利用する。
【0048】
ステップS5では、コントローラ2は、応答優先制御部30に停止指令を送信し、応答優先制御部30を停止する。そして、ステップS1に戻る。これにより、自車の周囲の物標との衝突可能性がある期間だけ、応答優先制御部30を起動しておくことができる。
【0049】
以上で説明した実施例1の外界認識装置によれば、遅延の小さい速報情報に基づいて危険の有無を判断し、危険がある場合は、遅延の小さい速報情報に基づいて応答優先制御部(安全システムなど)を制御する。一方、危険がない場合は、精度の高い統合情報に基づいて精度優先制御部(快適性・利便性向上システムなど)を制御する。このように、緊急性の高い制御処理では、遅延量の小さい速報情報を参照させるとともに、精度優先の制御処理に対しては精度の高い統合情報を参照させることで、車両の安全性と利便性・快適性を両立させることができる。
【実施例2】
【0050】
次に、
図7から
図11を用いて、本発明の実施例2に係る外界認識装置10Aを説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0051】
実施例1の外界認識装置10Aでは、
図2に示すように、速報情報Ifを応答優先制御部30に出力し、応答優先制御部30では遅延量の小さい速報情報Ifに基づいて制御対象40を制御した。しかしながら、速報情報Ifは統合情報Iiと比較して信頼性が低いため、悪条件下では遅延量が大きいことを勘案しても、統合情報Iiを応答優先制御部30で用いるほうが妥当な場合がある。
【0052】
そこで、本実施例の外界認識装置10Aでは、速報情報Ifの統計情報を求めておき、速報情報Ifの信頼性が十分に高い場合には、実施例1と同様に、速報情報Ifを参照して応答優先制御部30での処理を実行させる一方、速報情報Ifの信頼性が十分ではない場合には、統合情報Iiを参照して応答優先制御部30での処理を実行させるようにする。これにより、速報情報Ifの信頼性が高い環境下では実施例1と同様の効果を得るとともに、速報情報Ifの信頼性が不十分な環境下では速報情報Ifの参照による弊害を回避することができる。以下では、実施例1との差分を中心に、本実施例の外界認識装置10Aについて説明する。
【0053】
図7は、本実施例の外界認識装置10Aの概略構成である。
図2等に示した実施例1の外界認識装置10との相違は、センサフュージョン処理部1をセンサフュージョン処理部1Aに置換し、コントローラ2をコントローラ2Aに置換し、さらに、分布情報生成部3、検知情報選択部4を追加した点である。
【0054】
センサフュージョン処理部1Aは、実施例1のセンサフュージョン処理部1と同様に、統合情報Iiと速報情報Ifを出力するだけでなく、同期後情報Isも出力するものである。同期後情報Isは、信頼性は速報情報Ifと同等であり、サンプリング時刻は統合情報Iiと同一の検知情報である。同期後情報Isを生成するための構成は後述する。
【0055】
分布情報生成部3は、速報情報Ifの信頼性を判断するために、統合情報Iiと同期後情報Isの検知成分要素(たとえば、相対距離、相対角度、相対速度など)ごとの分布情報Idを求める。ここでの分布情報Idとは、たとえば相関係数、共分散、平均、分散や、それらを求めるための中間的な処理値を表す。
【0056】
コントローラ2Aは、実施例1のコントローラ2と同等の処理に加え、分布情報Idを参照して応答優先制御部30に与える検知情報を選択し、その選択結果に応じた選択信号Icを出力する。本実施例では、同期後情報Isと統合情報Iiとの相関係数を求め、値が十分に大きい場合に信頼性が十分として扱う。
【0057】
検知情報選択部4は、コントローラ2Aからの選択信号Icに従って、センサフュージョン処理部1Aから入力された、速報情報Ifか統合情報Iiのいずれかを応答優先制御部30に供給する。なお、検知情報選択部4には、センサフュージョン処理部1Aが生成した全ての統合情報Iiを入力する必要は無く、ある程度間引いた統合情報Iiを入力しても良い。
【0058】
<センサフュージョン処理部1Aの第一構成例>
図8は本実施例のセンサフュージョン処理部1Aの第一構成例を表す。実施例1のセンサフュージョン処理部1の第一構成例(
図3)では、時刻同期処理部11の処理前の検知情報を速報情報Ifとして出力したが、
図8のセンサフュージョン処理部1Aでは、さらに、時刻同期処理部11の処理後の検知情報を同期後情報Isとして出力する。このようにして得た同期後情報Isは、信頼性は速報情報Ifと同等であり、サンプリング時刻は統合情報Iiと同一の検知情報である。
【0059】
<センサフュージョン処理部1Aの第二構成例>
図9は本実施例のセンサフュージョン処理部1Aの第二構成例を表す。実施例1のセンサフュージョン処理部1の第二構成例(
図4)では、時刻同期処理部11の処理後の検知情報を速報情報Ifとして出力したが、
図9のセンサフュージョン処理部1Aでは、さらに、時刻同期処理部11の処理後の検知情報を同期後情報Isとしても出力する。このようにして得た同期後情報Isは、速報情報Ifと同等であり、サンプリング時刻は統合情報Iiと同一の検知情報である。
【0060】
<センサフュージョン処理部1Aの第三構成例>
図10は本実施例のセンサフュージョン処理部1Aの第三構成例を表す。実施例1のセンサフュージョン処理部1の第三構成例(
図5)では、センサ方式内統合処理部14A、14B、14Cの処理後の検知情報を速報情報Ifとして出力したが、
図10のセンサフュージョン処理部1Aでは、さらに、センサ方式間時刻同期部15A、15B、15Cの処理後の検知情報を同期後情報Isとして出力する。このようにして得た同期後情報Isは、信頼性は速報情報Ifと同等であり、サンプリング時刻は統合情報Iiと同一の検知情報である。
【0061】
<分布情報生成部3>
図11は、分布情報生成部3の構成例である。ここに示す分布情報生成部3は、自車を中心とする小領域ごとに、統合情報Iiと同期後情報Isの相関係数を求めるための分布情報Id(中間処理値)を求めるものである。この図では、簡単のため、距離と角度の2要素の組み合わせた小領域毎に相関関係を求める分布情報生成部3を例示しているが、距離と角度と速度の3要素の組み合わせ毎に、相関関係を求めても良く、その場合は、後述する分類部や算出ユニットを要素の組み合わせの数に応じて増やせば良い。
【0062】
なお、速報情報Ifと統合情報Iiは検知情報のサンプリング時刻が異なり、相関係数を評価する対象として速報情報Ifは不適当であるため、
図11の分布情報生成部3では、サンプリング時刻が統合情報Iiと同一である同期後情報Isを用いて相関関係を評価する。この際、統計情報である相関係数を求める処理は応答性を重視しないため、遅延を含む同期後情報Isを用いても何ら問題はない。
【0063】
図11に示すように、分布情報生成部3は、角度領域分類部31、距離領域分類部32、統計情報算出ユニット33を有している。角度領域分類部31は、信頼性が高く検知範囲の広い統合情報Iiの角度情報に基づいて、統合情報Iiと同期後情報Isを区分し、分配先を選択する。距離領域分類部32は角度領域分類部31から分配された統合情報Iiと同期後情報Isを同様にさらに統合情報Iiの距離の大きさで区分し、分配先を選択する。統計情報算出ユニット33は、角度領域分類部31と距離領域分類部32により角度方向および距離で区分した小領域ごとに分布情報Idもしくは分布情報Idを求めるための中間処理値を求める。ここでは、相関係数を求めるための中間処理値を求める。以下、統計情報算出ユニット33の詳細を説明する。
【0064】
小領域毎に用意された統計情報算出ユニット33は、相関係数を求めるための中間処理値を算出するブロックとして、以下の算出部を有する。
【0065】
E[R1]算出部33aは、検知情報Iiにおける、自車から物標までの距離検出値である距離情報R1の平均値E[R1]を算出する。E[R2]算出部33bは、同期後情報Isにおける、自車から物標までの距離検出値である距離情報R2の平均値E[R2]を算出する。E[R1
2]算出部33cは、距離情報R1の二乗の平均値E[R1
2]を算出する。E[R1・R2]算出部33dは、距離情報R1と距離情報R2の積の平均値E[R1・R2]を算出する。
【0066】
また、E[θ1]算出部33eは、統合情報Iiにおける、自車進行方向に対する物標の相対角度検知値である角度情報θ1の平均値E[θ1]を算出する。E[θ2]算出部33fは、同期後情報Isにおける、自車進行方向に対する物標の相対角度検知値である角度情報θ2の平均値E[θ2]を算出する。E[θ1
2]算出部33gは、角度情報θ1の二乗の平均値E[θ1
2]を算出する。E[θ1・θ2]算出部33hは、角度情報θ1と角度情報θ2の積の平均値E[θ1・θ2]を算出する。
【0067】
このようにして、
図11の分布情報生成部3は、小領域毎にE[R
1]算出部33aからE[θ
1・θ
2]算出部33hで算出した各値を分布情報Idとして出力する
<コントローラ2A>
コントローラ2Aは、分布情報生成部3から入力される分布情報Idを用いて、距離情報と角度情報に関する同期後情報Isと統合情報Iiの相関係数を求める。相関関係を算出する数式は、式1および式2で記述され、式中の各要素にE[R
1]算出部33aからE[θ
1・θ
2]算出部33hで求めた各値を代入することで、相関関係を算出することができる。
【0068】
【0069】
【数2】
一般に、相関係数が大きいほど対象とする2値の相関が強いので、同期後情報Isと統合情報Iiの相関係数が大きければ、同期後情報Isと同等の信頼性を有する速報情報Ifについても信頼性が高いことになる。
【0070】
従って、算出した相関係数の大きさが十分である場合には、コントローラ2Aは、信頼性が高いと確認された速報情報Ifを選択する選択信号Icを生成する。一方、算出した相関係数の大きさが十分ではない場合には、コントローラ2Aは、統合情報Iiを選択する選択信号Icを生成する。そして、検知情報選択部4は、選択信号Icに従って選択した、速報情報Ifまたは統合情報Iiを応答優先制御部30に与える。
【0071】
以上に説明した本実施例の外界認識装置10Aによれば、遅延量が大きいことを勘案しても統合情報Iiを応答優先制御部30で用いたほうが妥当な場合には、統合情報Iiに基づいて応答優先制御部30での処理を実行させるので、悪条件下で速報情報Ifを参照することによる弊害を回避することができる。
【実施例3】
【0072】
次に、
図12を用いて、本発明の実施例3に係る外界認識装置10Bを説明する。なお、上記の実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0073】
図7に示す実施例2の外界認識装置10Aでは、センサフュージョン処理部1Aが出力した速報情報Ifをそのまま後段の処理で利用したが、本実施例の外界認識装置10Bでは、センサフュージョン処理部1Aが出力した速報情報Ifを補正し、信頼性を統合情報Iiに近づけてから後段の処理で利用するようにする。以下では、実施例2との差分を中心に、本実施例の外界認識装置10Bについて説明する。
【0074】
図12は、本実施例の外界認識装置10Bの概略構成である。
図7に示した実施例2の外界認識装置10Aとの相違は、コントローラ2Aをコントローラ2Bに置換し、さらに、速報情報補正部5を追加した点である。
【0075】
本実施例のコントローラ2Bと実施例2のコントローラ2Aの差異は、大別すると次の2点である。ひとつは、コントローラ2Bは、後述するパラメータPを求め、速報情報補正部5へ与える点である。もうひとつは、コントローラ2Bでは、応答優先制御部30の起動タイミングを、速報情報Ifではなく補正速報情報If’に基づいて判断する点である。
【0076】
速報情報補正部5は、コントローラ2BからのパラメータPを利用して、速報情報Ifを補正した信頼性の高い補正速報情報If’を生成する。分布情報生成部3で求める各距離、角度範囲ごとの統合情報Iiに対する同期後情報Isの分布情報からは、たとえば各領域の統合情報Iiと同期後情報Isとの最小二乗法による回帰直線を求めることができる。同期後情報Isと速報情報Ifとは、サンプリング時刻は異なるが感度誤差に関する特性は同様であるから、この回帰直線の特性を速報情報Ifに反映させれば、感度のずれに起因する誤差を補正できる。
【0077】
式3は、速報情報Ifの距離情報と角度情報を補正するための式の地位例を表している。この式に示すように、パラメータP(具体的には、AR、Aθ、BR、Bθ)と、分布情報生成部3が出力する分布情報Id(具体的には、E[R1]、E[R2]等)を用いることで、速報情報Ifから補正速報情報If’を生成できる。
【0078】
【数3】
なお、式3中のA
R、A
θ、B
R、B
θの各値は、コントローラ2Bが速報情報補正部5に与えたパラメータPであり、式4から式7により算出することができる。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【数7】
以上に示した本実施例の外界認識装置10Bによれば、速報情報Ifの信頼性を高めた補正速報情報If’を生成し、これを後段の処理に利用することができるので、速報情報Ifをそのまま利用する実施例2と比較して、応答優先制御部30の起動タイミングや、応答優先制御部30での処理内容の信頼性を更に改善することができる。
【0083】
以上で説明した外界認識装置の実施例によれば、実施例1の構成により、緊急性の高い機能では、遅延量の小さい位置検知手段による検知結果を優先的に参照させるとともに、精度優先の制御処理に対しては統合結果を参照させることで、車両の安全性や利便性、快適性を高めることができる効果が得られる。
【0084】
実施例2の構成により、実施例1の効果に加えて、速報情報Ifの統計情報を求め、信頼性が十分に高いと判断する場合には速報情報Ifを参照するとともに、信頼性が十分ではないと判断する場合には、統合情報Iiに切り替えられるようにする。これにより、速報情報Ifの信頼性が十分に得られる通常時には実施例1と同様の効果を得るとともに、実施例1において速報情報Ifを参照することによる弊害を回避できる効果が得られる。
【0085】
実施例3の構成により、実施例2の効果に加えて、速報情報Ifをより信頼性の高い統合情報Iiに近づける補正処理が可能となり、速報情報Ifの信頼性が改善できる効果が得られる。
【0086】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形形態が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、IIカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0087】
100…車両、10、10A、10B…外界認識装置、A、B、C…外界センサ、1、1A…センサフュージョン処理部、11…時刻同期処理部、12…統合処理部、13…センサ方式内時刻同期部、14…センサ方式内統合処理部、15…センサ方式間時刻同期部、16…センサ方式間統合処理部、2、2A、2B…コントローラ、3…分布情報生成部、31…角度領域分類部、32…距離領域分類部、33…統計情報算出ユニット、33a…E[R1]算出部、33b…E[R2]算出部、33c…E[R1
2]算出部、33d…E[R1・R2]算出部、33e…E[θ1]算出部、33f…E[θ2]算出部、33g…E[θ1
2]算出部、33h…E[θ1・θ2]算出部、4…検知情報選択部、5…速報情報補正部、20…精度優先制御部、30…応答優先制御部、40 制御対象