(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】パームオイル工場排出液(POME)をつかった従属栄養性微細藻類の培養方法及びDHA製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20231116BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20231116BHJP
C12P 7/6434 20220101ALI20231116BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/12 B
C12P7/64
C12P7/6434
(21)【出願番号】P 2020003760
(22)【出願日】2020-01-14
(62)【分割の表示】P 2019571086の分割
【原出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018145453
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523389464
【氏名又は名称】カルティメックス モビオール(シンガポール)プライベート リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】多田 清志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 順子
(72)【発明者】
【氏名】中島 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ゴータマ
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-012842(JP,A)
【文献】国際公開第2017/012933(WO,A1)
【文献】特開2017-205045(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112574(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02546352(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0123246(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0089901(US,A1)
【文献】特開2016-152798(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0201007(US,A1)
【文献】特開2019-041681(JP,A)
【文献】CHEAH, W. Y. et al.,Enhancing biomass and lipid productions of microalgae in palm oil mill effluent using carbon and nut,Energy Conversion and Management,2018年03月23日,Vol.164,P.188-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/12
C12P 7/64
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ω―3多価不飽和脂肪酸の生産方法であって、
前記方法は、POMEを含む培地を使用して従属栄養性微細藻類を培養することを含み、
前記従属栄養性微細藻類は、ω-3多価不飽和脂肪酸を産生する藻類であ
り、ヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、パリエティキトリウム属(Parietichytrium)、又はウルケニア属(Ulkenia)に属する生物、あるいはオブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属に属する藻類の株である、前記方法。
【請求項2】
ω―3多価不飽和脂肪酸高含有組成物の生産方法であって、
前記方法は、POMEを含む培地を使用して従属栄養性微細藻類を培養することを含み、
前記従属栄養性微細藻類は、ω-3多価不飽和脂肪酸を産生する藻類であ
り、ヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、パリエティキトリウム属(Parietichytrium)、又はウルケニア属(Ulkenia)に属する生物、あるいはオブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属に属する藻類の株である、前記方法。
【請求項3】
従属栄養性微細藻類の培養方法であって、
前記方法は、ω―3多価不飽和脂肪酸を得るために、POMEを含む培地を使用して従属栄養性微細藻類を培養することを含み、
前記従属栄養性微細藻類は、ω-3多価不飽和脂肪酸を産生する藻類であ
り、ヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、パリエティキトリウム属(Parietichytrium)、又はウルケニア属(Ulkenia)に属する生物、あるいはオブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属に属する藻類の株である、前記方法。
【請求項4】
従属栄養性微細藻類の培養方法であって、
前記方法は、ω―3多価不飽和脂肪酸高含有組成物を得るために、POMEを含む培地を使用して従属栄養性微細藻類を培養することを含み、
前記従属栄養性微細藻類は、ω-3多価不飽和脂肪酸を産生する藻類であ
り、ヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、パリエティキトリウム属(Parietichytrium)、又はウルケニア属(Ulkenia)に属する生物、あるいはオブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属に属する藻類の株である、前記方法。
【請求項5】
POMEを含む培地を使用する従属栄養性微細藻類の培養方法であって、
該培養方法で培養された従属栄養性微細藻類の藻類生産性、脂質生産性、DHA生産性の少なくとも一つはPOME濃度に依存し、
前記従属栄養性微細藻類は、ω-3多価不飽和脂肪酸を産生する藻類であ
り、ヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、パリエティキトリウム属(Parietichytrium)、又はウルケニア属(Ulkenia)に属する生物、あるいはオブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属に属する藻類の株である、前記方法。
【請求項6】
ω―3多価不飽和脂肪酸は、DHAである、請求項3~5のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項7】
前記ヤブレツボカビ類が、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)に属する種である、請求項
6に記載の培養方法。
【請求項8】
前記オーランチオキトリウム属の藻類がオーランチオキトリウム リマシナム(Aurantiochytrium limacinum)に属する培養株である、請求項
7に記載の培養方法。
【請求項9】
前記オーランチオキトリウム属の藻類がオーランチオキトリウム マングローベイ(Aurantiochytrium mangrovei)に属する培養株である、請求項
7に記載の培養方法。
【請求項10】
前記オーランチオキトリウム リマシナムの培養株が4W-1b株、オーランチオキトリウム リマシナムSR-21株、又はオーランチオキトリウム リマシナムNIES3737株から選択されるいずれかの株である、請求項
8に記載の培養方法。
【請求項11】
前記オーランチオキトリウム マングローベイの培養株がオーランチオキトリウム マングローベイ18W-13a株である、請求項
9に記載の培養方法。
【請求項12】
POMEは遠心分離及び/又はろ過により清澄される、請求項3~
11のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項13】
前記培地は、糖成分を更に含む、請求項3~
12のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項14】
前記糖成分はグルコース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、シュクロース、ラクトース、オリゴ糖、及びグリセロール等の糖アルコールから選択される1又は複数の糖類である、請求項
13に記載の培養方法。
【請求項15】
前記糖成分の添加量は、合計として10~30g/培地Lである、請求項
13又は
14に記載の培養方法。
【請求項16】
前記培地は、ミネラル成分を更に含む、請求項3~
15のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項17】
前記ミネラル成分は、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム、又は硫酸銅、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛等の硫酸塩;リン酸カリウム等のリン酸塩、又は炭酸カルシウム等の炭酸塩;塩化コバルト、塩化マンガン、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩化物;アルカリ金属酸化物;モリブデン酸ナトリウム及び亜セレン酸ナトリウム等の亜セレン酸塩及びモリブデン酸塩;臭化カリウム又はヨウ化カリウム等のハロゲン化物;天然海水塩類;並びに人工海水塩類から選択される単一又は複数の塩類である、請求項
16に記載の培養方法。
【請求項18】
前記ミネラル成分の添加量は、合計として5~35g/培地Lである、請求項
16又は
17に記載の培養方法。
【請求項19】
請求項3~
18のいずれか1項に記載の培養方法で培養した従属栄養性微細藻類を回収すること、当該回収された藻類からDHAを抽出することを含む、DHA製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パームオイル工場排出液(Palm Oil Mill Effluent: POME)を培地として使用する従属栄養性微細藻類の培養方法とDHA製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
インドネシアやマレーシア等、油椰子(オイルパーム)果実から抽出するパームオイル製造が基幹産業となっている国では、パームオイル工場排液(以下POMEと称す)が大きな環境・経済問題となっている。例えば、インドネシアでは、パームオイル製造工場から、約455,000t/日のPOMEがラグーンに放流され酸化池処理→嫌気性処理→好気性処理されている。この過程で、発酵ガスによる悪臭や害虫・害獣被害、水質汚濁等を引き起こし、嫌気処理により発生するメタンガスは大気へ放出されている状況である。メタンの地球温暖化係数は二酸化炭素に比べて21倍と非常に大きく、地球温暖化に悪影響を及ぼしている。このようにPOMEは、温暖化物質の放出と水質汚濁をひきおこし、地球温暖化や生活環境悪化や野生生物への悪影響等広範でかつ深刻な環境問題を引き起こしている。例えば、パームオイル生産産業は、インドネシア、マレーシア等の基幹産業となっていることから、POMEの環境問題の解決は、インドネシアやマレーシア等パームオイル産業が盛んな国家社会の持続的発展のために重大な課題となっている。
【0003】
POMEの環境問題解決法として、上述のように嫌気状態でメタンガスが発生することから、これらを回収し、バイオガス発電を行う方法が知られている(特許文献1、2)。しかし、バイオガス発電量がそれ程高くないことから、採算性が悪く、ほとんどが事業として成立しない。その為、現地では依然としてPOMEの新たな利用方法へのニーズが高い。
【0004】
従来から、微細藻類を増殖させ、微細藻類の細胞内に燃料、飼料、健康食品などの原料となる脂質、又は、タンパク質やビタミン等の有価物を生産・貯蔵させ、貯蔵した有価物を利用して燃料や食品等に利用することが行われている。特にω-3多価不飽和脂肪酸等高付加価値有価物の産生・貯蔵については、即産業化可能成分として注目されている。
【0005】
この微細藻類の増殖は、下水・産業排水の浄化といった排水処理(特許文献3)や二酸化炭素の吸収・利用を目的とした排ガス処理など(特許文献4)にも利用されている。しかし、微細藻類が効率的に増殖しないと細胞内における有価物の貯蔵量が必ずしも十分なものとならないため、前記有価物の有効利用が困難になるおそれを有する。クロレラ等微細藻類はPOMEを利用して増殖することが報告されている(非特許文献1-5)が、藻体バイオマス生産性や脂質生産性が低く、POME利用効率が悪いことから、微細藻類からの高付加価値有価物の生産法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再公表2017-026370号公報
【文献】特許第6049937号公報
【文献】特開平05-301097号公報
【文献】特開2010-022331号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】HABIB et. al. “Growth and Nutritional Values of Moinamicrura Fed on Chlorella vulgaris Grown in Digested Palm Oil Mill Effluent”, Asian Fisheries Science, 16, 107-119, 2003
【文献】Putri et. al. “Investigation of Microalgae for High Lipid Content using Palm Oil Mill Effluent (Pome) as Carbon Source”, 2011 International Conference on Environment and Industrial Innovation, IPCBEE,12, 85-89, 2011
【文献】Nwuche et. al. “Use of Palm Oil Mill Effluent as Medium for Cultivation of Chlorella sorokiniana”, British Biotechnoloty Journal, 4(3): 305-316, 2014
【文献】Nur et. al. “Enhancement of Chlorella vulgaris Biomass Cultivated in POME Medium as Biofuel Feedstock under Mixotrophic Conditions”, Journal of Engineering and Technology Sciences, 47(5), 487-497, 2015
【文献】Cheah et. al. “Enhancing biomass and lipid productions of microalgae in palm oil mill effluent using carbon and nutrient supplementation”, Energy Conversion and Management, 164, 188-197, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点等に鑑み、パームオイル製造工程から排出されるPOMEを用いて微細藻類を効率的に増殖させることができる培養方法と微細藻類から高付加価値有価物を効率的に生産する方法を提供することを課題とする。
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、POMEを用い、必要に応じて糖などの有機炭素源およびミネラル成分を与えて又は与えずにDHA(ドコサヘキサエン酸)といったω-3多価不飽和脂肪酸を産生する従属栄養性微細藻類を培養することで、これらの従属栄養性微細藻類が効率良く増殖されるとともにDHAが高濃度で生産されることを見出して本発明を完成させるにいたった。
【0010】
即ち、上記課題を解決するための本発明に係る従属栄養性微細藻類の培養方法は、パームオイル製造過程でパーム果実からオイルをしぼりだした搾り汁を成分とするPOMEを用いて、高付加価値成分を産生する微細藻類を従属栄養培養することを特徴としている。
【0011】
本発明に係る当該微細藻類の培養方法においてはパーム果実を圧搾してパームオイル製造後に生じる搾りかす汁を成分とするPOMEを供給することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本願は、以下の発明を提供する。
(1)POMEを含む培地を使用する、従属栄養性微細藻類の培養方法。
(2)前記従属栄養性微細藻類がω―3多価不飽和脂肪酸を産生する藻類である、(1)に記載の培養方法。
(3)ω―3多価不飽和脂肪酸は、DHAである、(2)に記載の培養方法。
(4)前記藻類が、ヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)に属する藻類の株である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の培養方法。
(5)前記ヤブレツボカビ類が、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)に属する種である(4)に記載の培養方法。
(6)前記オーランチオキトリウム属の藻類がオーランチオキトリウム リマシナム(Aurantiochytrium limacinum)に属する培養株である(5)に記載の培養方法。
(7)前記オーランチオキトリウム属の藻類がオーランチオキトリウム マングローベイ(Aurantiochytrium mangrovei)に属する培養株である(5)に記載の培養方法。
(8)前記オーランチオキトリウム リマシナムの培養株が4W-1b株、オーランチオキトリウム リマシナムSR-21株、又はオーランチオキトリウム リマシナムNIES3737株から選択されるいずれかの株である(6)に記載の培養方法。
(9)前記オーランチオキトリウム マングローベイの培養株がオーランチオキトリウム マングローベイ18W-13a株である、(7)に記載の培養方法。
(10)POMEは遠心分離及び/又はろ過により清澄される、(1)~(9)のいずれか1項に記載の培養方法。
(11)前記培地は、糖成分を更に含む、(1)~(10)のいずれか1項に記載の培養方法。
(12)前記糖成分はグルコース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、シュクロース、ラクトース、オリゴ糖、及びグリセロール等の糖アルコール、等から選択される1又は複数の糖類である、(11)に記載の培養方法。
(13)前記糖成分の添加量は、合計として10~30g/培地Lである、(11)又は(12)に記載の培養方法。
(14)前記培地は、ミネラル成分を更に含む、(1)~(13)のいずれか1項に記載の培養方法。
(15)前記ミネラル成分は、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム、又は硫酸銅、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛等の硫酸塩;リン酸カリウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩;塩化コバルト、塩化マンガン、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩化物;アルカリ金属酸化物;モリブデン酸ナトリウム及び亜セレン酸ナトリウム等の亜セレン酸塩及びモリブデン酸塩;臭化カリウム又はヨウ化カリウム等のハロゲン化物;天然海水塩類;並びに人工海水塩類から選択される単一又は複数の塩類である、(14)に記載の培養方法。
(16)前記ミネラル成分の添加量は、合計として5~35g/培地Lである(14)又は(15)に記載の培養方法。
(17)(1)~(16)のいずれか1項に記載の培養方法で培養した従属栄養性微細藻類を回収すること、当該回収された藻類からDHAを抽出することを含む、DHA製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、POMEの有効利用が図れるとともに、従属栄養性微細藻類の培養を効率的に行い、有価物としてDHAを製造することができる。
【0014】
驚くべきことに、POMEを添加した培地を使用すると、これまでの微細藻類ではみられない早い増殖速度でオーランチオキトリウム リマシナム4W-1b株等のDHA産生藻類を良好に増殖させ、高濃度のDHA生産を達成した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、POME上清液の添加率が10~50%となるように調整した人工海水塩類の添加培地を用いた場合のオーランチオキトリウム リマシナム4W-1b株の藻体濃度の経時変化を示す(OD660)。
【
図2】
図2は、POME上清液の添加率が10~50%となるように調整した人工海水塩類の添加培地を用いた場合のオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の総脂質(左図)およびDHA(右図)の生産を示す。
【
図3】
図3は、POME上清液(100%)およびPOME上清液の添加率が10~75%となるように調整した希釈液にグルコースと人工海水塩類を添加した培地を用いた場合のオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の藻体濃度の経時変化を示す(OD660)。
【
図4】
図4は、POME上清液(100%)およびPOME上清液の添加率が10~75%となるように調整した希釈液にグルコースと人工海水塩類を添加した培地を用いた場合のPOME上清液の添加率とオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の増殖量の相関関係を示す。
【
図5】
図5は、POME上清液(100%)およびPOME上清液の添加率が10~75%となるように調整した希釈液にグルコースと人工海水塩類を添加した培地を用いた場合のオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の総脂質およびDHAの生産を示す。
【
図6】
図6は、POME上清液(100%)にグルコース、及び0.00%、0.38%、0.75%、1.50%、3.00%(重量%)のレッドシー塩を添加した培地を用いた場合のオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の藻体濃度の経時的変化(OD660)およびDHA濃度を示す。
【
図7】
図7は、POME上清液(100%)にグルコースと人工海水塩類を添加した培地を用いた場合のオーランチオキトリウム属の各種株の総脂質およびDHAの生産を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般に、パームオイルの製造工程は、パーム果房(Fresh Fruit Bunch:FFB)の不活化のためのスチーム処理、パーム果実とパーム空房(Empty Fruit Bunch:EFB)の分離、パーム果実からの果実部(メソカ)と種部の分離という前処理工程を経る。果実部からのクルードパームオイル抽出、分離精製へと進み、純度の高いパームオイルが製造される。本発明におけるPOMEとは、このパ-ムオイルの製造過程において生じる、使用済みスチーム水、オイル絞り汁と未回収オイルの混合排出液、及び/又は、上記の混合液を遠心分離により未回収オイルを除去または回収した排出液(温度が70-90℃)、および、それらが冷却後に酸化池処理→嫌気性処理→好気性処理を経て、放流される排液をいう。POMEは、原材料に由来する、糖質、有機酸、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質及びミネラル等を豊富に含有する。本発明の藻類の培養に使用するPOMEは、酸化池処理、嫌気性処理、又は好気性処理を行う前のものであっても処理後のものであってもよい。ある実施形態では、これら酸化池処理、嫌気性処理、及び好気性処理を行う前のPOMEを使用することが好ましい。
【0017】
POMEは、原材料由来の様々な固形物を含有する。DHA産生藻類の培養に際して、POMEは固形物を含有していてもいなくてもよく、限定されない。POME中の固形物を除去する場合には、遠心分離や濾過等、公知の手段により除去し得られた清澄なPOMEを培地に使用してもよい。
【0018】
本発明において、POMEは、濾過滅菌、オートクレーブ滅菌、煮沸滅菌、及び放射線滅菌等、公知の手段で滅菌されるが、次亜塩素酸ソーダ、オゾン処理等、公知の手段で殺菌されてもよい。
【0019】
本発明において、当該従属栄養性微細藻類の培地におけるPOMEの含有量は限定されないものの、例えば、1%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、75%、100%(容量%)の濃度で前記培養液中に含有されてもよい。
【0020】
本発明において、POMEを含む培地に様々な添加物を添加することにより、当該培地が、DHA産生藻類の培養に適した組成となるように調整されてもよい。当該添加物として、糖類、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ミネラル(天然海水、人工海水等も含む)が挙げられる。ある実施形態では、糖類及び/又はミネラルを添加することが好ましい場合がある。ある実施形態では、ミネラルを添加しないことが好ましい場合がある。ミネラルを添加しないと装置の金属腐食を防止できる、培養後の排水処理や放流が容易になる、培地コストを低く抑えるという利点がある。更に、必要であれば適当な酸又は塩基を加えることにより適宜pHを調整できる。培地の好適なpHは培養するDHA産生藻類の種類に依存し、例えば、pH6~pH7に調整してもよい。
【0021】
ミネラル成分としては、限定されないが、化学的に定義された無機塩、例えばアルカリ及びアルカリ土類金属塩、並びに他の金属の塩であってよい。このような無機塩として、例えば、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム、又は硫酸銅、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛等の硫酸塩;リン酸カリウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩;塩化コバルト、塩化マンガン、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩化物;アルカリ金属酸化物;モリブデン酸ナトリウム及び亜セレン酸ナトリウム等の亜セレン酸塩及びモリブデン酸塩;臭化カリウム又はヨウ化カリウム等のハロゲン化物;天然海水塩類;並びにRed Sea Salt(レッドシー塩)といった人工海水塩類;から選択される単一又は複数の塩類が挙げられる。前記塩類は、合計で0.01~5.0、5~40、5~35、10~30、又は10~25‰(g/培地L)の量で添加されてもよい。例えば、ある実施形態では、前記塩類は、合計で16.7‰(16.7g/培地L)の量で添加される。
【0022】
ある実施形態では、追加的なミネラル成分、例えば、塩化物等の塩類を培地に添加しない。かかる実施形態では、培地はPOME等に元々含まれていた以外に追加的なミネラル成分を含まない。POMEを用いる本願発明の培地にミネラル成分を添加せずヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)等のDHA産生藻類を培養するとDHA生産性が増加することがある。POME等に元々含まれていた以外に追加的なミネラル成分を含まない培地の場合、かかる培地におけるミネラルの濃度は、例えば、NaCl量換算で合計6.0‰、5.0‰、4.0‰、3.0‰、2.0‰、1.0‰(g/培地L)未満、Cl量換算で合計3.0‰、2.0‰、1.0‰(g/培地L)未満であり得る。
【0023】
ある実施形態では、POMEとともに糖類を培養液に含有させることで、該従属栄養性微細藻類の増殖が促進される場合がある。糖類は、従属栄養性微細藻類の炭素源となるものであるが、POME原液に微細藻類が利用可能な糖類が十分に含有されていない場合や、該従属栄養性微細藻類の増殖を促進したい場合には、何等かの形で微細藻類が利用可能な糖類を培養液に添加してもよい。
【0024】
糖類としては、限定されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、シュクロース、ラクトース、オリゴ糖、及びグリセロール等の糖アルコール、等から選択される1又は複数の糖類が挙げられる。前記糖類は、合計で5~40、10~30、15~25(g/培地L)の量で添加されてもよい。例えば、ある実施形態では、前記糖類は、合計で20‰(20g/培地L)の量で添加される。
【0025】
本発明で使用する微細藻類としては、特にDHA等ω-3多価不飽和脂肪酸を産生する藻類(以下DHA等産生藻類と称す)であってもよい。DHA等産生藻類としては、ヤブレツボカビ類(Thraustochytriales)に属する生物であるオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、パリエティキトリウム属(Parietichytrium)、又はウルケニア属(Ulkenia)に属する生物、あるいはオブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属に属する生物などが挙げられる。
前記オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属する生物としては、例えば、オーランチオキトリウム リマシナム(Aurantiochytrium limacinum)、オーランチオキトリウム マングローベイ(Aurantiochytrium mangrovei)などが挙げられる。
前記シゾキトリウム(Schizochytorium)属に属する生物としては、例えば、Schizochytrium aggregatumなどが挙げられる。例えば、Schizochytrium sp. Maku-1等の株が使用できる。
前記スラウストキトリウム(Thraustochytrium)属に属する生物としては、例えば、Thraustochytrium aureum、Thraustochytrium pachydermum、Thraustochytrium aggregatumなどが挙げられる。
前記パリエティキトリウム(Parietichytrium)属に属する生物としては、例えば、Parietichytrium sarkarianumなどが挙げられる。例えば、Parietichytrium sp. 6F-10b等の株が使用できる。
前記ウルケニア属(Ulkenia)属に属する生物としては、例えば、Ulkenia visurgensis、又は、Ulkenia profundaなどが挙げられる。例えば、Ulkenia sp. Yonez6-9等の株が使用できる。
前記オブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属に属する生物としては、例えば、Oblongichytrium multirudimentale、Oblongichytrium minutumなどが挙げられる。例えば、Oblongichytrium sp. H9等の株が使用できる。
特に好ましいのはオーランチオキトリウム属の藻類であり、例えば、オーランチオキトリウム リマシナム4W-1b株、オーランチオキトリウム リマシナムSR-21株、及びオーランチオキトリウム リマシナムNIES3737株などのオーランチオキトリウム リマシナムの株、並びにオーランチオキトリウム マングローベイ18W-13a株などのオーランチオキトリウム マングローベイの株等が使用できる。
【0026】
本発明におけるDHA等産生藻類の培養は、当該藻類を上記のように調整されたPOMEを含む培地に播種し、定法にしたがって培養することにより行われる。培養条件は培養するDHA等産生藻類の種類に依存し、温度は5~40℃、好ましくは10~35℃、特に好ましいのは20~25℃、より好ましくは25℃±1℃にて、通常1~10日間、好ましくは3~7日間、例えば4~5日間培養を行い、通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養で行うことができる。
【0027】
本発明に使用するDHA等産生藻類は、適当な細胞培養手段を有する培養装置で培養してよい。「細胞培養手段」とは、細胞を培養するためのあらゆる機能を有する手段を意味し、例えば、培養槽であり、当該培養槽は、攪拌装置、振動装置、温度制御装置、pH調節装置、濁度測定装置、光制御装置、O2、CO2等の特定気体濃度測定装置及び圧力測定装置から選択される1又は複数の装置を有してもよい。当該培養槽は濃縮・分離槽と同一の槽であっても、濃縮・分離槽とは別の槽であってもよい。濃縮・分離槽と別の槽である場合、適切な手段、例えば流路等により連結されていてもよい。
【0028】
本発明はさらに、POMEを含む培地を使用し上記培養方法で培養したDHA産生藻類を回収し、当該回収されたDHA等産生藻類からDHAを抽出する、DHA製造方法を提供する。本発明のDHA製造方法は、POMEを含む培地を使用してDHA等産生藻類を培養することにより、当該DHA等産生藻類にDHAを産生させることを特徴とする。
【0029】
本発明のDHA等産生藻類が産生するDHAは、当業者に既知の方法で抽出及び分析することができる。例えば、上記の通りDHA産生藻類を培養して増殖させ、得られた培養液からDHA産生藻類を回収する場合は、遠心分離又は濾過等既存の方法で回収することができる。回収したDHA産生藻類のペレットを、凍結乾燥又は加温による乾燥等により乾燥させた藻体、または、DHA産生藻類培養を濃縮したのち乾燥していない湿潤の藻体をDHAの抽出ステップに用いてもよい。
【0030】
得られた乾燥藻体、又は湿潤藻体から、DHAを抽出できる。抽出方法は、特に限定されず、有機溶媒抽出や圧搾、超臨界抽出等既知の方法で行うことができる。有機溶媒抽出法に用いられる有機溶媒としては、例えばヘキサン、アセトン、クロロホルム、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル等が挙げられ、単体で用いてもよく、又は極性溶媒と無極性溶媒といった2液以上の混合液を用いることもできる。抽出前に藻体を破砕してもよく、以下に限定されないが、アルカリや酸による化学的破砕、ホモジナイザーや超音波、ビーズミル等の機械的破砕、酵素による生物的破砕等、既知の方法で行ってもよい。上記抽出後に、得られた抽出液を、当業者に既知の方法で濃縮・精製してもよく、例えば、シリカゲルや酸性白土を用いたカラムクロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ、液液分配、尿素付加法等を既知の方法を用いて、濃縮・精製してもよい。
【0031】
前記DHA等産生藻類は、その乾燥重量当たり、少なくとも5%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%(重量%)のDHAを含有することがある。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:POME上清液の添加率が10~50%となるように調整した人工海水塩類の添加培地におけるオーランチオキトリウム リマシナム4W-1b株の増殖、総脂質とDHAの生産
(種藻)
下記培地にて、筑波大学から提供されたヤブレツボカビ類に属するオーランチオキトリウム リマシナム4W-1b株をGTY培地(1/2希釈海水1Lにグルコース20g、酵母エキス5g、トリプトン10g含有)で4日間培養し、種藻とした。
【0033】
2018年4月にインドネシアのリアウ州にある工場から提供された高温のPOMEを速やかに冷蔵庫で冷却して3日間保存したのち、5000rpm、15分で遠心分離後、上清液(以下POME上清液と称す)を得た。POME上清液の添加率が10%、25%、50%(容量%)となるように16.7g/Lのレッドシー塩(人工海水塩類)を含む培地を作成した。
【0034】
上記各培地を、500ml容積の三角フラスコに200ml注ぎ、オートクレーブで120℃、20分間滅菌した。培地冷却後にオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の種藻を滅菌海水で洗浄したのち、培地に播種した。フラスコの口をシリコ栓で封じ、25℃で往復振盪培養した(100ストローク/分)。
【0035】
培養中の培養液1mlを所定のタイムポイントで回収し、紫外可視吸光度計により660nmの光学濁度を計測することで、増殖曲線を得た。培養は、全ての培養で増殖がプラトーに達するまで、最長で48時間実施された。培養終了後の培養液を50~100mL回収し、高速冷却遠心分離機で3900rpm、15分遠心分離した。その後、上清を捨て、ペレットを蒸留水で洗浄し、再度遠心分離を行った。その後、試料を-80℃で凍結し、これらを凍結乾燥機で乾燥させることで、乾燥藻体を得た。乾燥藻体重量を微量天秤により計量し、培養液1L当たりの藻体量を算出した。
【0036】
上記藻類培養液10mLから遠心分離により回収した藻体ペレットを超音波破砕し、クロロホルム/メタノール(体積比2:1)混合溶液20mLを添加後、よく混合した。さらに、0.9%塩化ナトリウム水溶液4mLを加えてよく混合し、遠心分離後、クロロホルム層をろ紙でろ過しながら回収した。当該濾液を濃縮乾固して、脂質量を測定した。当該脂質に内部標準物質としてトリコメサンメチルエステルを0.2mg加え、0.5M NaOHメタノール溶液0.5mLを添加し、100℃、9分間でけん化反応を行った後、14%三フッ化ホウ素メタノール溶液0.7mLを加え、100℃、7分間でメチルエステル化反応を行った。当該試料に飽和食塩水3mLとヘキサン3mLを加えてよく混合し、遠心分離後、ヘキサン層をGC(ガスクロマトグラフィー)分析によりDHA含有量を測定した。
【0037】
以上の結果を
図1、
図2に示す。
図1は、POME上清液の添加率10%、25%、及び、50%系列の培地で培養したオーランチオキトリウム リマシナム4W-1bの藻体濃度の経時変化を示す(OD660)。すべての添加率培地で当該株は増殖しており、POME濃度(添加率)が高いほど当該株の増殖が高くなった。
図2は培養48時間後の総脂質とDHAの生産量を示す。すべての添加率培地で脂質およびDHAが産生され、POME濃度(添加率)が高いほど、当該株の脂質およびDHAの生産量が高くなった。
【0038】
表1に実施例1の各添加率培地において当該株を48時間増殖させた後の増殖量(g/L)、藻体生産性(mg/L/日)、脂質含有量(%)、総脂質量(mg/L)、脂質生産性(mg/L/日)、DHA含有量(%)、DHA生産量(mg/L)、およびDHA生産性(mg/L/日)をまとめた表を示す。生産性は、48時間増殖後の藻体量、総脂質量、およびDHA量をそれぞれ1日当たりに換算した値である。脂質含有量及びDHA含有量は、それぞれ藻体量に対する割合を示す(重量%)。
【表1】
【0039】
POME濃度(添加率)が高いほど、藻体増殖量・生産性、総脂質およびDHAの生産量・生産性が高くなり、特に藻体生産性と脂質生産性はそれぞれ1760mg/L/日および395mg/L/日と高くなっていた。
【0040】
表2にPOMEを用いて他の微細藻類を培養した従来技術と本願発明との藻体増殖量・生産性および総脂質生産量・生産性についての比較を示す。
【表2】
【0041】
表2より、従来技術の微細藻類の藻体生産性は2.9~1,040(mg/L/日)であるのに対し、本願発明の藻体生産性は50%POME、グルコース無添加の培地を使用した場合でも1,760(mg/L/日)であり、1.7倍~600倍もの高い値を示した。また、従来技術の微細藻類の総脂質生産性は0.63(mg/L/日)~100.9(mg/L/日)であるのに対し、本願発明においてオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1bを用いた場合の藻体生産性は50%POME、グルコース無添加の培地を使用した場合でも3.9倍~626倍もの高い値を示した。下記に示すように、100%POMEを使用し、20g/Lのグルコース添加した培地を使用した場合これらの効果はさらに顕著になった。さらに、従来技術の微細藻類はいずれも飽和脂肪酸もしくは一価の不飽和脂肪酸を主成分とした脂質を蓄積するものであり、ここから有価物であるDHAなどのω-3多価不飽和脂肪酸を得ることは困難である。
【0042】
実施例2:POME上清液(100%)およびPOME上清液の添加率が10~75%となるように調整した希釈液にグルコースと人工海水塩類を添加した培地とした場合のオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の増殖、総脂質とDHAの生産
実施例1と同じPOMEと種藻を使い、同様の方法で得たPOME上清液(100%)に20g/Lのグルコースと16.7g/Lのレッドシー塩をを添加して100%POME培地を作成した。また、POME上清液の添加率が10%、25%、50%、75%(容量%)となるように蒸留水で希釈し、16.7g/Lのレッドシー塩と20g/Lのグルコースを含むように調整した培地も作成した。これらを、POMEの添加系列とした。そして、上記実施例1について行ったのと同様に、ODでオーランチオキトリウム リマシナム4W-1bの増殖を評価するとともに、藻体の乾燥重量を測定して培養液1L当たりの藻体量を算出し、総脂質とDHA量を測定した。
【0043】
以上の結果を
図3、
図4、
図5に示す。
図3は作成したPOMEの添加系列を培地とした場合の、当該藻類株の藻体濃度の経時変化を示す(OD660)。グルコース無添加条件でおこなった実施例1のPOME添加率10%,25%、50%と比較して、実施例2のグルコースを添加したPOME10%、25%及び50%の添加系列の各々において、当該株はあきらかに高い増殖を示した。さらに実施例1と同様にPOME濃度(添加率)が高いほど、増殖は高くなり、100%POME含有培地で最も高い増殖を示した。
図4にPOME添加率と増殖量の関係を示した。添加率(x)と増殖量(y)の関係は、y=4.2308x+1.64(R
2=0.9579)の直線的比例関係にあることがわかった。
図5は培養48時間後の総脂質とDHAの生産量を示す。実施例1と同様にすべての添加率培地で脂質およびDHAが産生され、POMEの添加率が高いほど、脂質およびDHAの生産量が高くなり、100%POME含有培地で最も高い生産を示した。
【0044】
表3に実施例2の各添加率培地において当該株を48時間増殖させた後の増殖量(g/L)、藻体生産性(mg/L/日)、脂質含有量(%)、総脂質量(mg/L)、脂質生産性(mg/L/日)、DHA含有量(%)、DHA生産量(mg/L)、およびDHA生産性(mg/L/日)をまとめた表を示す。各数値の求め方および単位は表1と同様である。
【表3】
【0045】
グルコース無添加条件でおこなった実施例1と比較して、実施例2のグルコースを添加したPOME10%、25%及び50%の添加系列の各々において、当該株はあきらかに高い増殖を示した。表3に示すように、表1のグルコース無添加系の50%添加系列と比較して、グルコース添加での50%添加系列では藻体生産性は2,815mg/L/日と2倍、総脂質生産性は1,110mg/L/日と2.8倍、DHA生産性は228.5mg/L/日と7.7倍も高かった。また、表3に示すように、100%POMEでのグルコース添加での当該株の藻体生産性は4,150mg/L/日、脂質生産性は1,675mg/L/日と、従来技術の他の微細藻類の藻体生産性や総脂質生産性と比較すると、それぞれ4倍~1430倍および16.6倍~2660倍の高い値を示した。
【0046】
実施例3:POME上清液(100%)にグルコースおよび各濃度の人工海水塩類を添加した培地におけるオーランチオキトリウム リマシナム 4W-1b株の増殖の経時変化およびDHA濃度
実施例1、2と同じPOMEと種藻を使い、同様の方法で得たPOME上清液(100%)に20g/Lのグルコース、及び0.00%、0.38%、0.75%、1.50%、3.00%(重量%)のレッドシー塩を添加した。
【0047】
実施例1、2と同様に、培地を滅菌し冷却後、同じ培養条件(500mL容三角フラスコ(培地仕込み量200mL)、25℃、往復振盪培養(100ストローク/分))で培養し、ODでオーランチオキトリウム リマシナム4W-1bの増殖を評価するとともに、藻体の乾燥重量を測定して培養液1L当たりの藻体量を算出し、DHA濃度を測定した。
【0048】
結果を
図6に示す。
図6は藻体濃度(OD660)の経時的変化および、48時間増殖させた後のDHA濃度を示す。藻体濃度は添加ミネラル成分の濃度にあまり影響されなかったが、DHAの濃度は添加ミネラル成分濃度が低い(0.00%、0.38%、0.75%添加)ほうが、高い(1.50%、3.00%添加)場合に比べて高い傾向にあった。つまり、添加したミネラル成分の濃度が低いほうがDHA生産量(mg/L)が優れていることがわかる。
【0049】
なお、ミネラル成分およびグルコースを添加する前のPOME上清液(100%)の塩濃度を測定したところ、Cl(塩化物イオン)換算で2230(mg/L)であった。これは、12.5重量%の海水に相当し、NaCl換算で約0.375重量%に相当する。つまり、ミネラル成分を追加しなくてもPOMEに元々含まれていたミネラル成分のみで増殖に十分であり、DHA生産量についてはより好ましいことがわかる。
【0050】
実施例4:オーランチオキトリウム属の各種株を用いた培養試験
インドネシアの北スマトラ州にある工場から提供されたPOMEを用いた以外は実施例1~3と同様の方法で得たPOME上清液(100%)に20g/Lのグルコースと16.7g/Lのレッドシー塩を添加して100%POME培地を作成し、滅菌および冷却を行った。以下の表4に示すオーランチオキトリウム属の各種株を用いて実施例1~3と同様の培養条件(500mL容三角フラスコ(培地仕込み量200mL)、25℃、往復振盪培養(100ストローク/分))で培養し、ODで各種株の増殖を評価するとともに、藻体の乾燥重量を測定して培養液1L当たりの藻体量を算出し、総脂質とDHA濃度を測定した。
【表4】
【0051】
結果を
図7および表5に示す。
図7はオーランチオキトリウム属の各種株の総脂質量(mg/L)とDHA濃度(mg/L)を示す。表5は、実施例4において各種株を一定時間増殖させた後の増殖量(g/L)、藻体生産性(mg/L/日)、脂質含有量(%)、総脂質量(mg/L)、脂質生産性(mg/L/日)、DHA含有量(%)、DHA生産量(mg/L)、およびDHA生産性(mg/L/日)をまとめた表である。各値の定義は表1と同じである。これらの結果より、オーランチオキトリウム属の藻類は、本発明の培地を用いると、非常に優れた藻体増殖量・生産性、総脂質およびDHAの生産量・生産性を示すことが分かる。
【表5】
【0052】
実施例5:他のDHA産生藻類の各種株を用いた培養試験
以下の表6に示すようなヤブレツボカビ類およびその他のDHA産生藻類の各種株を用いる以外は実施例4と同一の条件で培養を行い、藻体、総脂質、およびDHAの生産性を測定した。
【表6】
【0053】
結果を表7に示す。表7は、実施例5において各種株を増殖させた後の藻体生産性(mg/L/日)、脂質生産性(mg/L/日)、およびDHA生産性(mg/L/日)をまとめた表である。各値の定義は、表1と同じである。なお、培養時間が各株により異なるため生産性のみを記載した。これらの結果より、ヤブレツボカビ類をはじめとするDHA産生藻類は総じて、本発明の培地を用いると、非常に優れた藻体生産性、総脂質およびDHAの生産性を示すことが分かる。
【表7】