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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ガラス物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/037 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
C03B23/037
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019179408
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054675
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】中島 一嘉
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-203857(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111625(WO,A1)
【文献】特開2012-188162(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104177(WO,A1)
【文献】特公昭47-036933(JP,B1)
【文献】特開2008-135337(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119826(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向中央部に第一薄肉部を有するとともに、幅方向端面を含む幅方向両端部のそれぞれに、前記第一薄肉部よりも厚みの大きい第一厚肉部を有するガラス母材を準備する準備工程と、
リドロー法を用いて前記ガラス母材を加熱炉内で加熱して軟化させながら延伸し、幅方向中央部に厚みが10μm以下の第二薄肉部を有するとともに、幅方向端面を含む幅方向両端部のそれぞれに、前記第二薄肉部よりも厚みの大きい第二厚肉部を有するガラスリボンを成形する成形工程と、
前記ガラスリボンからガラス物品を得る物品形成工程とを備え
前記成形工程では、軟化した前記ガラス母材を延伸するために、前記加熱炉の外側下方で前記ガラスリボンを下方に引っ張る延伸ローラを設け、前記延伸ローラが、前記ガラスリボンの前記第二厚肉部のみに接触することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス母材は、厚み方向の両表面において、前記第一厚肉部が前記第一薄肉部よりも突出している請求項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記第一薄肉部が、前記ガラス母材を研削又はエッチングすることにより形成される請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記物品形成工程では、前記ガラスリボンをロール状に巻き取る請求項1~のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程では、前記ガラス母材を支持する支持部を設け、前記支持部が、前記ガラス母材の前記第一厚肉部のみに接触する請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス母材の最大厚み)/(前記ガラス母材の最小厚み)が、1.1~25である請求項1~のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
(前記ガラス母材の全幅)/(前記ガラス母材の最大厚み)が、25~4000である請求項1~のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記第一薄肉部が、一定の厚みを有する薄肉平面部からなり、
前記第一厚肉部が、前記薄肉平面部よりも厚みの大きい一定の厚みを有する厚肉平面部からなり、
それぞれの前記第一厚肉部の幅)/(前記第一薄肉部の幅)が、0.02~40000である請求項1~のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ用のガラス基板には、大型化と薄板化が推進されていることから、その成形方法としては、オーバーフローダウンドロー法が広く採用されている。
【0003】
一方、小型デバイスに使用されるガラス板では、小型化と同時に、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板よりもさらなる薄板化が要求される場合がある。このような分野では、ガラス板の成形方法として、リドロー法が採用される場合もある(例えば特許文献1)。リドロー法は、ガラス母材を再度加熱しながら延伸し、非常に薄い長尺なガラスリボンを成形する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-44742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リドロー法を用いて小型化及び薄板化されたガラス板は、デバイスの製造過程におけるハンドリング性が悪くなるという問題がある。
【0006】
つまり、ガラス板の非常に薄い薄肉部に支持部(例えばロボットや作業者の手指)を接触させると、容易に破損するおそれがある。また、ガラス板の薄肉部に支持部との接触により汚れが付着すると、洗浄によって除去するのが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、薄肉部を有するガラス物品のハンドリング性を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために創案された本発明に係るガラス物品の製造方法は、幅方向の異なる位置に、第一薄肉部と第一厚肉部とを有するガラス母材を準備する準備工程と、リドロー法を用いてガラス母材を加熱しながら下方へ延伸し、幅方向の異なる位置に、第二薄肉部と第二厚肉部とを有するガラスリボンを成形する成形工程と、ガラスリボンからガラス物品を得る物品形成工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、ガラス母材に予め第一薄肉部と第一厚肉部とが形成されるため、リドロー法を用いて成形されたガラスリボンに第二薄肉部と第二厚肉部とが確実に形成される。このガラスリボンからガラス物品(例えばガラス板やガラスロールなど)を得れば、ガラス物品においても、第二薄肉部と第二厚肉部とが形成された状態となる。したがって、第二薄肉部よりも厚みの大きな第二厚肉部を支持してガラス物品を取り扱うことができるため、ガラス物品のハンドリング性が良好になる。
【0010】
上記の構成において、ガラス母材は、幅方向中央部に第一薄肉部を有し、幅方向両端部に第一厚肉部を有することが好ましい。
【0011】
このようにすれば、ガラスリボンから得られるガラス物品においても、幅方向中央部に第二薄肉部が形成されると共に、幅方向両端部に第二厚肉部が形成される。つまり、二つの第二厚肉部の間に第二薄肉部が挟まれた形状になるため、第二薄肉部に他部材がより接触しにくく、ガラス物品のハンドリング性がより良好になる。
【0012】
上記の構成において、ガラス母材は、厚み方向の両表面において、第一厚肉部が第一薄肉部よりも突出していることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、ガラスリボンから得られるガラス物品においても、厚み方向の両表面において、第二厚肉部が第二薄肉部よりも突出するため、第二薄肉部に他部材がより接触しにくく、ガラス物品のハンドリング性がより良好になる。
【0014】
上記の構成において、第一薄肉部が、ガラス母材を研削又はエッチングすることにより形成されることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、ガラス母材に簡単かつ確実に第一厚肉部よりも薄い第一薄肉部を形成することができる。また、ガラス母材の第一薄肉部の加工精度や表面品位が向上するため、ガラスリボンやガラス物品における第二薄肉部の品質が安定するという利点もある。
【0016】
上記の構成において、物品形成工程では、ガラスリボンをロール状に巻き取ってもよい。
【0017】
このようにすれば、ガラス物品として、ガラスリボンをロール状に巻き取ったガラスロールが形成される。
【0018】
上記の構成において、成形工程では、ガラス母材を延伸するためにガラスリボンと接触する延伸ローラを設け、延伸ローラが、ガラスリボンの第二厚肉部のみに接触することが好ましい。
【0019】
このようにすれば、延伸ローラが、ガラスリボンの第二薄肉部と非接触となるため、ガラスリボンやガラス物品の第二薄肉部に傷が形成されたり汚れが付着したりしにくくなる。
【0020】
上記の構成において、成形工程では、ガラス母材を支持する支持部を設け、支持部が、ガラス母材の第一厚肉部のみに接触することが好ましい。
【0021】
このようにすれば、支持部が、ガラス母材の第一薄肉部と非接触となるため、ガラス母材の第一薄肉部に傷が形成されたり汚れが付着したりしにくくなる。つまり、ガラス母材から得られるガラスリボンやガラス部品の第二薄肉部に傷が形成されたり汚れが付着したりしにくくなる。
【0022】
上記の構成において、(第一厚肉部の厚み)/(第一薄肉部の厚み)が、1.1~25であることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、寸法精度の優れたガラス物品を安定して得ることができる。
【0024】
上記の構成において、(ガラス母材の全幅)/(第一厚肉部の厚み)が、25~4000であることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、寸法精度の優れたガラス物品を安定して得ることができる。
【0026】
上記の構成において、(第一厚肉部の幅)/(第一薄肉部の幅)が、0.02~40000であることが好ましい。
【0027】
このようにすれば、寸法精度の優れたガラス物品を安定して得ることができる。
【0028】
上記の課題を解決するために創案された本発明に係るガラス物品は、幅方向の異なる位置に、薄肉部と厚肉部とを有し、厚肉部の厚みが、薄肉部の厚みの1.1倍以上であり、薄肉部および厚肉部の表面が火造り面からなることを特徴とする。
【0029】
このようにすれば、薄肉部よりも厚みの大きな厚肉部を支持してガラス部品を取り扱うことができるため、ガラス物品のハンドリング性が良好になる。また、薄肉部および厚肉部の表面が火造り面であれば、破損の原因となる欠陥(例えばマイクロクラック)が形成されにくくなることに加え、火造り面となる過程で表面に形成される角部が丸みを帯びる。そのため、ガラス物品の強度が向上する。
【0030】
上記の構成において、薄肉部が幅方向中央部に形成されると共に、厚肉部が幅方向両端部に形成され、薄肉部の表面は平坦面および/または凹曲面により構成されていることが好ましい。
【0031】
このようにすれば、薄肉部の幅方向両側には厚肉部が形成されるため、薄肉部に他部材がより接触しにくく、ガラス物品のハンドリング性がより良好になる。また、薄肉部の表面が平坦面および/または凹曲面に構成されるため、薄肉部の強度も確保しやすくなる。
【0032】
上記の構成において、厚み方向の両表面において、厚肉部が薄肉部よりも突出していることが好ましい。
【0033】
このようにすれば、薄肉部に他部材がより接触しにくく、ガラス物品のハンドリング性がより良好になる。
【0034】
上記の構成において、(ガラス物品の全幅)/(厚肉部の厚み)が、1.1~25であることが好ましい。
【0035】
上記の構成において、(厚肉部の幅)/(薄肉部の幅)が、0.02~40000であることが好ましい。
【0036】
上記の構成において、薄肉部の厚みが、10μm以下であり、ガラス物品の全幅(ガラス物品の最大幅)が0.5~40mmであることが好ましい。
【0037】
上記の構成において、ガラス物品は、厚肉部と薄肉部とを有するガラスリボンをロール状に巻き取ったガラスロールであってもよい。
【0038】
ガラスロールの場合、半径方向に対向するガラスリボンの間に保護シートが介在しており、保護シートが、ガラスリボンの厚み方向の少なくとも一方の表面において、厚肉部のみと接触することが好ましい。
【0039】
このようにすれば、保護シートが、ガラスリボンの厚み方向の少なくとも一方の表面において、薄肉部と非接触となるため、保護シートとの接触により、薄肉部に傷が形成されたり汚れが付着したりするのを抑制できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、薄肉部を有するガラス物品のハンドリング性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】第一実施形態に係るガラス物品の製造方法を示す側面図である。
図2図1のガラス母材を示す斜視図である。
図3図1のガラス母材を示す断面図である。
図4図1のガラスリボンを示す断面図である。
図5図1のA-A断面図である。
図6図1のB-B断面図である。
図7図1のC-C断面図である。
図8】第二実施形態に係るガラス物品の製造方法を示す側面図である。
図9】ガラス母材の変形例を示す断面図である。
図10】ガラス母材の変形例を示す断面図である。
図11】ガラス母材の変形例を示す断面図である。
図12】ガラス母材の変形例を示す断面図である。
図13】ガラス母材の変形例を示す断面図である。
図14】ガラス母材の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、図中のXYZは直交座標系である。X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0043】
(第一実施形態)
図1図3に示すように、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法は、ガラス母材1を準備する準備工程(図2及び図3を参照)と、リドロー法を用いてガラス母材1を加熱しながら下方へ延伸し、ガラスリボン2を成形する成形工程(図1を参照)と、ガラスリボン2からガラス物品としてのガラスロール3を得る物品形成工程(図1を参照)とを備えている。
【0044】
図2及び図3に示すように、準備工程では、幅方向(Y方向)の異なる位置に、第一薄肉部1aと、第一厚肉部1bとを有するガラス母材1を準備する。
【0045】
詳細には、ガラス母材1は、幅方向中央部に第一薄肉部1aを有すると共に、幅方向両端部に第一厚肉部1bを有する。本実施形態では、第一薄肉部1a及び第一厚肉部1bのそれぞれは、厚みが一定となる平面部を有する。
【0046】
さらに、ガラス母材1は、厚み方向(X方向)の両表面において、第一厚肉部1bが第一薄肉部1aよりも突出している。換言すれば、ガラス母材1は、厚み方向の両表面において、第一薄肉部1aに対応する位置に凹部1cが形成されている。
【0047】
なお、本実施形態では、ガラス母材1のXY平面における断面は、厚み方向の中心を通る厚み方向中心線P及び幅方向の中心を通る幅方向中心線Qのそれぞれに対して線対称である。もちろん、ガラス母材1の断面形状は、このような対称性を有する場合に限定されない。
【0048】
第一薄肉部1a(凹部1c)は、例えば、直方体をなすガラス母材1を研削又はエッチングすることにより形成される。特にエッチングの場合には、フォトリソグラフィ等により、第一薄肉部1a(凹部1c)が形成される前の直方体をなすガラス母材1の主表面にマスクを生成し、ウェットエッチング又はドライエッチングにより所望の第一薄肉部1aを得る方法を採用することが好ましい。第一薄肉部1aが形成される前の直方体をなすガラス母材1は、例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法、リドロー法などのダウンドロー法や、フロート法などにより成形できる。ガラス母材1としては、例えば無アルカリガラス(例えば日本電気硝子株式会社製のType-D)が利用できる。なお、ガラス母材1の第一薄肉部1aの形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば型成形などの他の方法を利用してもよい。
【0049】
図1に示すように、成形工程では、ガラス母材1の上端部を支持部4で支持すると共に、支持部4を下降させながらガラス母材1を加熱炉5の内部に供給する。加熱炉5の内部では、ガラス母材1が、ヒータ5aによって加熱されて軟化する。加熱炉5の下方には、軟化したガラス母材1に連続するガラスリボン2の両表面と接触する一対の延伸ローラ6が設けられている。この一対の延伸ローラ6によってガラスリボン2を下方に引っ張ることで、軟化したガラス母材1が延伸される。これにより、ガラス母材1から厚みが薄いガラスリボン2が成形される。
【0050】
図4に示すように、ガラスリボン2は、ガラス母材1の第一薄肉部1aに対応した第二薄肉部2aと、ガラス母材1の第一厚肉部1bに対応した第二厚肉部2bとを有する。つまり、ガラスリボン2は、幅方向中央部に第二薄肉部2aを有し、幅方向両端部に第二厚肉部2bを有する。図示例では、第二薄肉部2bの表面は、幅方向に沿って延びる平坦面から構成されているが、例えば、第二薄肉部2bの表面は、凹曲面から構成されていてもよいし、平坦面および凹曲面から構成されていてもよい。さらに、ガラスリボン2は、厚み方向の両表面において、第二厚肉部2bが第二薄肉部2aよりも突出している。換言すれば、ガラスリボン2は、厚み方向の両表面において、第二薄肉部2aに対応する位置に凹部2cが形成されている。ガラス母材1は、ガラスリボン2の第二薄肉部2aの厚みt6が、例えば1~50μm(好ましくは1~30μm)になるように延伸される。
【0051】
図5に示すように、支持部4は、支持面が平坦面であり、ガラス母材1のうちの第一厚肉部1bのみと接触し、第一薄肉部1aとは非接触となっている。また、図6に示すように、一対の延伸ローラ6は、径が一定の棒状のローラであり、ガラスリボン2のうちの第二厚肉部2bのみと接触し、第二薄肉部2aとは非接触となっている。したがって、ガラス母材1の第一薄肉部1aやガラスリボン2の第二薄肉部2aに、傷が形成されたり汚れが付着したりするのを抑制できる。なお、支持部4及び/又は延伸ローラ6は、薄肉部1a,2aと接触してもよい。
【0052】
図3に示すように、(ガラス母材1の第一厚肉部1bの厚みt3)/(ガラス母材1の第一薄肉部1aの厚みt2)は、1.1~25であることが好ましく、1.5~12.5であることがより好ましく、2~12.5であることがさらに好ましく、2~5であることが最も好ましい。
【0053】
(ガラス母材1の全幅w1)/(ガラス母材1の第一厚肉部1bの厚みt3)は、25~4000であることが好ましく、500~3000であることがより好ましい。
【0054】
(ガラス母材1の第一厚肉部1bの幅w3)/(ガラス母材1の第一薄肉部1aの幅w2)は、0.02~40000であることが好ましい。
【0055】
図4に示すように、(ガラスリボン2の第二厚肉部2bの厚みt6)/(ガラスリボン2の第二薄肉部2aの厚みt5)は、1.1以上であることが好ましく、1.5~12.5であることがより好ましく、2~12.5であることがさらに好ましく、2~5であることが最も好ましい。
【0056】
(ガラスリボン2の全幅w4)/(ガラスリボン2の第二厚肉部2bの厚みt6)は、1.1~25であることが好ましく、1.5~12.5であることがより好ましく、2~5であることが最も好ましい。
【0057】
(ガラスリボン2の第二厚肉部2bの幅w6)/(ガラスリボン2の第二薄肉部2aの幅w5)は、0.02~40000であることが好ましい。
【0058】
ガラスリボン2の第二薄肉部2aの厚みt6は、10μm以下であることが好ましく、ガラスリボン2の全幅(ガラス物品の最大幅)w4は、0.5~40mmであることが好ましい。
【0059】
ガラスリボン2は、表面が火造り面により形成される。つまり、第二薄肉部2a及び第二厚肉部2bの表面は、火造り面により形成される。ここで、火造り面とは、ガラスが溶融した後に、ローラなどの他部材と接触することなく固化した未研磨面を意味する。火造り面であれば、破損の原因となる欠陥(例えばマイクロクラック)が形成されにくくなることに加え、表面に形成される角部も溶融過程で丸みを帯び、面取りされたような状態となる。したがって、火造り面であれば、ガラスリボン2の強度(特に曲げ強度)が向上する。
【0060】
図1に示すように、物品形成工程では、ガラスリボン2を巻芯としての巻取ローラ7の周りにロール状に巻き取って、ガラス物品としてのガラスロール3を形成する。本実施形態では、巻取ローラ7の近傍に、保護シートロール8が配置されている。保護シートロール8から巻き出された保護シート9は、ガラスリボン2に重ねられ、ガラスリボン2と共に巻取ローラ7の周りに巻き取られる。つまり、図7に示すように、ガラスロール3の半径方向において、ガラスリボン2と保護シート9とが交互に積層される。なお、ガラスリボン2の傷や汚れを抑制する観点からは、ガラスロール3の最内層及び最外層は、保護シート9で形成されることが好ましい。
【0061】
ガラスリボン2は、幅方向中央部に第二薄肉部2aを有すると共に、幅方向両端部に第二厚肉部2bを有し、かつ、厚み方向の両表面において、第二薄肉部2aに対応する位置に凹部2cが形成されている。そのため、ガラスリボン2の厚み方向の両表面において、保護シート9がガラスリボン2の第二厚肉部2bのみと接触し、第二薄肉部2aとは非接触となっている。したがって、保護シート9との接触により、ガラスリボン2の第二薄肉部2aの厚み方向の両表面に傷が形成されたり汚れが付着したりするのを抑制できる。なお、保護シート9は第二薄肉部2aと接触してもよい。例えば、ガラスリボン2の厚み方向の一方の表面のみで、第二薄肉部2aに対応する位置に凹部2cが形成されている場合には、ガラスリボン2の厚み方向の他方の表面(凹部2cが形成されていない側の表面)では、保護シート9が第二薄肉部2aと接触する。
【0062】
ガラスロール3に含まれるガラスリボン2は、所定長さに切断されてガラス板とされ、デバイスに組み込まれる。ガラスリボン2又はガラス板は、ガラス母材1に準じた形状の第二薄肉部2aと第二厚肉部2bとを有するため、デバイスの製造工程において、第二薄肉部2aよりも厚みの大きな第二厚肉部2bを支持して、ガラスリボン2又はガラス板を取り扱うことができる。したがって、ガラスリボン2又はガラス板のハンドリング性が良好になる。なお、第二厚肉部2bは、デバイスの製造工程に含まれる所定の工程を経た後に切断除去し、第二薄肉部2aのみをデバイスに組み込んでもよい。あるいは、第二厚肉部2bは、デバイスの製造工程で切断除去せずに、第二薄肉部2aと共にデバイスに組み込んでもよい。第二厚肉部2bは、例えば曲げ応力を付与することで、簡単に折り割って除去することができる。
【0063】
ガラスロール3に含まれるガラスリボン2が適用されるデバイスとしては、例えば、ダイヤフラム装置、バイオフィルタ、ナノポアセンサ、プレパラート、その他試料容器、試料カバーなどが挙げられる。
【0064】
ダイヤフラム装置は、ダイヤフラムの変形を利用して流体を制御するデバイスであり、ダイヤフラムとして、ガラスリボン2を切断して得られるガラス板が利用される。ダイヤフラム装置の典型例としては、ダイヤフラムによって流路の開閉を行うダイヤフラムバルブや、流体を圧送するダイヤフラムポンプなどが挙げられる。
【0065】
バイオフィルタ及びナノポアセンサは、検査対象物の中からDNAやタンパク質などの特定の微細物を選択的に抽出するためのデバイスである。バイオフィルタは、検査対象物(例えば血液)の中から特定の微細物(例えば癌由来のエクソソーム)を選択的に抽出するフィルタ部を備え、フィルタ部として、ガラスリボン2を切断して得られるガラス板が利用される。ナノポアセンサは、このフィルタ部に加え、選択的に抽出した微細物を検出(又は、検出及び分析)するセンサをさらに備える。フィルタ部として利用されるガラス板には、微細孔が形成される。ガラス板の微細孔は、バイオフィルタの場合は、例えば直径が1~50μmの円形開口部とされ、ナノポアセンサの場合は、例えば直径が100~1000nmの円形開口部とされる。微細孔は、ガラスリボン2の状態で形成してもよいし、ガラスリボン2を切断して得られるガラス板の状態で形成してもよい。微細孔の加工方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ドリル等による機械加工、レーザ加工、超音波加工、FIB(イオンビーム)加工などが利用できる。微細孔がナノメートルサイズの場合には、FIB加工を利用することが好ましい。
【0066】
(第二実施形態)
図8に示すように、第二実施形態に係るガラス物品の製造方法が、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法と相違する点は、延伸ローラ6が、ガラス母材1に連続するガラスリボン2の一方の表面側のみに配置されている点である。
【0067】
つまり、一本の延伸ローラ6の外周面の周方向の一部領域にガラスリボン2が巻き掛けられ、ガラスリボン2の姿勢が縦姿勢(例えば鉛直姿勢)から横姿勢(例えば水平姿勢)に変更される。このような姿勢変換の過程で、一本の延伸ローラ6によってガラスリボン2を下方に引っ張ることで、加熱炉5の内部で軟化したガラス母材1が延伸される。これにより、ガラス母材1から厚みの薄いガラスリボン2が成形される。
【0068】
なお、延伸ローラ6の抱き角αは、90度以上であることが好ましく、90~225度であることがより好ましい。
【0069】
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。
【0070】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0071】
上記の実施形態では、ガラス物品がガラスロール3である場合を例示したが、ガラス物品は、延伸ローラ6の下流側でガラスリボン2を所定長さで切断したガラス板であってもよい。ガラス物品がガラス板の場合も、上記の実施形態で例示した同様の製造工程が適用できる。
【0072】
上記の実施形態では、ガラス母材1及びガラスリボン2(あるいはガラス物品)において、幅方向中央部に薄肉部1a,2aを有すると共に、幅方向両端部に厚肉部1b,2bを有し、かつ、厚み方向の両表面において、互いに対称となる位置で、厚肉部1b,2bが薄肉部1a,2aよりも突出している場合を説明したが、ガラス母材1及びガラスリボン2の形状はこれに限定されない。つまり、ガラス母材1の第一厚肉部1bや第一薄肉部1aの位置及び大きさを変更することで、ガラス母材1の形状に準じた種々の形状のガラスリボン2(あるいはガラス物品)を形成することができる。以下に、ガラス母材1及びガラスリボン2の変形例を例示する。
【0073】
図9に示すように、ガラス母材1は、幅方向中央部に第一薄肉部1aを有すると共に、幅方向両端部に第一厚肉部1bを有し、かつ、厚み方向の両表面において、互いに異なる位置で、第一厚肉部1bが第一薄肉部1aよりも突出していてもよい。換言すれば、凹部1cの幅方向位置が、厚み方向の両表面で僅かに異なっていてもよい。ただし、ガラス母材1の断面形状が、厚み方向の中心を通る厚み方向中心線や幅方向の中心を通る幅方向中心線に対して線対称でない場合には、成形過程で、ガラスリボン2に反りが生じるおそれがある。したがって、ガラス母材1の断面形状は、厚み方向の中心を通る厚み方向中心線と幅方向の中心を通る幅方向中心線のうちの少なくとも一方の中心線に対して線対称であることが好ましい。
【0074】
図10に示すように、ガラス母材1は、幅方向一端部のみに第一厚肉部1bを有し、幅方向残部に第一薄肉部1aを有し、かつ、厚み方向の両表面において、互いに対称となる位置で、第一厚肉部1bが第一薄肉部1aよりも突出していてもよい。
【0075】
図11に示すように、ガラス母材1は、幅方向中央部に第一厚肉部1bを有すると共に、幅方向両端部に第一薄肉部1aを有し、かつ、厚み方向の両表面において、互いに対称となる位置で、第一厚肉部1bが第一薄肉部1aよりも突出していてもよい。
【0076】
図12に示すように、ガラス母材1は、幅方向中央部に第一薄肉部1aを有すると共に、幅方向両端部に第一厚肉部1bを有し、かつ、厚み方向の一方の表面のみにおいて、第一厚肉部1bが第一薄肉部1aよりも突出していてもよい。換言すれば、凹部1cが、ガラス母材1の厚み方向の一方の表面のみに形成されていてもよい。
【0077】
図13に示すように、ガラス母材1は、幅方向一端部のみに第一厚肉部1bを有すると共に、幅方向残部に第一薄肉部1aを有し、かつ、厚み方向の一方の表面のみにおいて、第一厚肉部1bが第一薄肉部1aよりも突出していてもよい。
【0078】
図14に示すように、ガラス母材1は、幅方向中央部に第一厚肉部1bを有すると共に、幅方向両端部に第一薄肉部1aを有し、かつ、厚み方向の一方の表面のみにおいて、第一厚肉部1bが第一薄肉部1aよりも突出していてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 ガラス母材
1a 第一薄肉部
1b 第一厚肉部
1c 凹部
2 ガラスリボン
2a 第二薄肉部
2b 第二厚肉部
2c 凹部
3 ガラスロール
4 支持部
5 加熱炉
6 延伸ローラ
7 巻取ローラ
8 保護シートロール
9 保護シート
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